何か脱出物する話

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102創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 01:41:55 ID:BlOY3Zm5

すべての情報を練り上げた結果、俺は道具に頼ることとした。
自身の身体や力技だけでは、どうしようもないという結論に至ったからだ。
すぐさま狭い個室内を見回し、同時に所持品を探ってみる。

室内で使えそうな物は……トイレットペーパーくらいか。
俺の所持品では……身に着けている上体部の服と、靴、靴下。
あとは上着の胸ポケットに入れておいた、割と値の張る携帯電話のみ。

有効そうな物は実質的に、携帯電話ただ一つしかないじゃないか。

それらを確かめた俺は、次に女子トイレ内の構造を思い浮かべてみた。
俺が入っているのは女子トイレ最奥の個室だ。
開きっ放しとなっている窓は、この個室を出てすぐ左手の位置にある。
とはいえ個室扉の陰に隠れて力任せに脱出、なんてことは不可能だ。扉は内開きだからである。
個室間の天井部には俺が超えられるだけのスペースがあり、下には潜行不可な20cm程度の隙間がある。
他に特筆すべき点といえば……。
個室トイレの扉は、デフォルト状態で閉まっているということくらいか。
つまりOPENの文字を確かめない限りは、中に人が入っているかどうかは不明という造りになっている。
本当の所は俺が知る由もないが、一つだけ扉が閉まってたりすれば必要以上に使用中であることが目立ってしまうから、
という点に配慮した造りとなっているのだと思われる。
俺はかつて、女性は用を足す際、排泄音をかき消す為に水を流し続ける生き物なのだと耳にしたことがあった。
それが一般的なのかどうかまでは知らないし、面と向かって女性に訊ねるのも変な話なので確証は持っていないが、
極度の照れ性な人物を想定してみれば、この説の有効性と真実味も増してくるというものだ。

って、そんなことはどうでもいいんだった!
103創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 01:44:11 ID:BlOY3Zm5
焦るな。
落ち着くんだ、俺よ。

こういうのはどうだろう。
上のスペースを活用し、あの壁を越えた時のように死角を利用して……。
いや、それでは明らかに不審な物音を立ててしまうか。
どう考えたって使えない。
じゃあ……。

様々な案が浮かんでは同じ分量だけの欠陥が見つかり、あっという間に否定の海へと沈んでいく。
やがて幾度も繰り返す思考の渦のなかに、諦めという文字すらも含まれはじめた頃。

俺は、ある画期的な方法を編み出す取っ掛かりを掴み掛けていた。
それは携帯電話の目覚ましタイマーをセットし、その音で陽動するという方法である。
タイマー音に如何にもな着信音を割り当てておけば、
コインなどよりは遥かに高い陽動効果が得られるに違いない。
けれども、この個室から音が鳴り響いていては何の意味もない。
従ってどこか別の場所に設置しなければならないことになる。

設置場所としてすぐに思い当たったのは、隣接している別の個室群の中である。

もし、別の個室にコレを置くことができれば。
もし、そこから着信音が鳴り響けば。
それを聴き取った大抵の人達は、いや、恐らく全ての人達が。
確実に気を取られることになるだろう。
俺だってOPEN状態の個室の中で携帯電話が鳴り響けば、なんだなんだと引きつけられてしまうに違いないからだ。
もし難聴の方々を相手にするなら話も別となるが、あの女性は会話できているのだからそれも有り得ない。
つまり、この方法は陽動として通用する。

延いては、『忘れものなのでは?』という思考へと発展し、手に取ろうと動くだろう。
ましてや相手は清掃員。
ある意味、忘れ物を確かめるのは職務上の義務とも言えるだろうし、
彼女の仕事経験が長いと仮定すれば、必ずや前例もあることだろう。
その一瞬の隙だ。
彼女が携帯電話を確かめるために、他の個室へと入った瞬間。
足を踏み入れ、俺が視野角から消えた瞬間。

疾風のように、窓を目掛けて吹き抜ければいい。

これだ。
これしかない。
他に方法がない以上、これで行くしか道はない。

避けられないリスクを憂慮し、嘆くのは。
全部、後回しだ。
104創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 01:48:01 ID:BlOY3Zm5
そうと決まれば残る課題はあと一つ。

どうやってその場所まで携帯電話を移動させるか。

これだけはどうしようもない。
投げれば不審な物音は確実。滑らせてもそれは同様。
そうなってしまえば陽動以前に怪しまれる。
一度でも安泰の道から足を踏み外せば奈落への転落は免れない。
加えて、有効な道具さえも失ってしまう、積み状態へと事態は化す。
ならばチャンスは又と無い。
最初で最後、唯一無二な起死回生の攻手。
それを活かさなければ。

ベストは無音だ。
音を立てずに物を移動させる方法。
或いは勘付かれない程度の物音しか立たない方法。
それでいて、なるたけ遠く離れた個室まで移動させなければならない。

何がある?
何が使える?

クッションのようなもの。
そして、転がせるもの。

そんな物がこんな場所に都合よく……。

違う、あるじゃないか。
そんな物が、この場所にはあるじゃないか。
これだ、これ。

トイレットペーパーだ。
105創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 01:52:08 ID:BlOY3Zm5
思い立ったところで貯水タンクの上から新品のロールを掴み取った。
その芯部分を覗いてみる。
使えそうだ。
ここに携帯電話を仕込めば音無く転がせる。
問題は携帯電話を差しこめるか否かであるが……。

俺は上着の胸ポケットから携帯電話を取り出した。
そしてロールの空洞部分とのサイズ差を比べてみる。

これは……いける。

光明を見出した。
流行りなどに乗せられ、日々小型化する携帯電話を買っておいたのは僥倖としか言えない。
いや、もしかするとこれも神の導きなのかもしれないが。
もちろん、サイズが足りなければ芯を抜いて穴を拡張するなどの対策を用意してはいたが。
それに掛かる時間を短縮できたというのは、どちらにせよありがたいことには変わりない。
ともかく、やや強引に押し込めば入りそうだ。

不意に、遠くから女性清掃員の笑い声が聴こえた。
会話は依然として継続中のようである。

さて、使える時間は限られている。
俺は迷いなく携帯電話をロール中心部へと押しこんだ。
そして重みが増したロールを個室内で転がしてみる。
ころりころりと慣性に従って転がっていく。
一瞥しただけではまっすぐな軌道を描いて転がっているようにも見えたが、
若干ながらも重心が傾いていたのを俺は見逃さなかった。
俺はもう一度ロールを手に取って、携帯電話の位置を調整し直してから転がす。
よし、一回目よりはマシになっている。
でも……まだだ。まだ完璧じゃない。

俺は何度も何度も神に祈り、時間の許す限り試行錯誤を続けた。

程無くして。
俺はようやく、納得のいく結果を得ることができたのだ。
あとは待とう。
現在会話中の女性清掃員。
彼女が一人きりになる、その時を。

火ぶたが切られる、その瞬間を。
106創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 01:55:07 ID:BlOY3Zm5

コツリと単調な足音が響いた。
次いで声。

「まだかいね? それとも何か、悪いものでも食べたんね?」

来た!
待ち構えていた俺は、即座に嚆矢を放つ態勢を整えた。

慎重にだ。
ミスは許されない。
音をたてず、且つ出来るだけ遠くの位置まで転がせ。

俺は自分自身へと言い聞かせる。
手にした純白のモノに、祈り、願い続ける。
ざわめく心拍と、震える腕の力加減を調整していく。

心境は複雑だ。
成功を強く願えど、もし失敗したらという闇は絶対的に払えない。
しかし一瞬だけでいい。
俺が投げるその瞬間だけは、雑念に振られず、最大限の力を発揮させてくれ。

願う。
言い聞かせる。
飽きるほどに心内で繰り返し、神経を恐怖へと順応させる。
余計な考えを、渦の彼方へと汲み捨て続ける。
かのようにすべての準備が整い、不安が確信に変わった瞬目を衝き。

俺は、ロールを転がした。
107創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 02:01:32 ID:BlOY3Zm5


SHIT 〜危機的状況からの脱出〜  (第三章 前篇)  終


次回 ”〜危機的状況からの脱出〜  (第三章 後篇)”

強敵『清掃員のおばちゃん』との戦いは次回へとつづく
馬鹿っぽいけど書くのが意外と面倒なこの話に、どうして俺は心ケツを注いでいるのだろうか
108創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 02:10:00 ID:0SaEvD7J
投下乙
最近の俺の毎日の楽しみなんだぜー

リアルタイムで支援できなくてごめんよぉ
109創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 02:13:13 ID:bIaKTJRv
毎度毎度盛り上げるなあ…
荒木に漫画化してほしいw
110創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 02:16:59 ID:0SaEvD7J
自分の携帯もトイレットペーパーの芯に入る事を確認

これで不測の事態にもばっちりだね☆
111創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 03:11:39 ID:myi78KR6
きてた!投下乙
まさかトイレットペーパーに入れるとはww
フルチンマンの発想すげえ
112創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 03:36:14 ID:kodBRuMH
清掃員の人から携帯を回収する際に襲い掛かるであろう、『なぜ女子トイレにあるのか』『なぜ私が持っていることを知っているのか』という2つの問いを突破する方法が俺にはまったく分からん。
これは続きが気になって仕方がないぞ。
俺の予想では、必要な犠牲として見捨てるんだが。
どんなケツ末が待っているのだろうか。

ってか早く寝ろって時間だなw
更新ガンバ。ノシ
113創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 11:18:27 ID:3EeRhIgv
問題は、後でどうやって携帯を回収するかってことだなw
114創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 18:04:31 ID:bLh1Czis
携帯はなくなると困るからな
115創る名無しに見る名無し:2009/01/31(土) 13:44:44 ID:A4InzBMi
もっかい最初から読んだけどやっぱりいいな
116創る名無しに見る名無し:2009/02/03(火) 15:05:38 ID:uIpnNl/r
今読んだがコレはいいな。
スレの最初は無人島だの豪華客船だの言ってたのに、
トイレ氏が"脱出もの"の概念を大きく広げてしまった。
117創る名無しに見る名無し:2009/02/03(火) 15:49:33 ID:sHNiIdzK
トイレ氏www
118創る名無しに見る名無し:2009/02/03(火) 18:39:58 ID:o/+4asZV
トイレ氏ってww
119創る名無しに見る名無し:2009/02/08(日) 19:55:55 ID:45WEgH6Q
更新期待sage
書くの大変だとは思うけど頑張ってほしいぜ
120 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2009/02/08(日) 19:57:46 ID:AF7fV2Ia
応援レス入れ
121創る名無しに見る名無し:2009/02/09(月) 00:30:00 ID:lH7y7vBf
トイレ氏を応援する意味で、
ニートからの脱出というテーマの話に着手したが
主人公にどんな負荷をかけても働く気を出せる兆しがないので筆を投げたw
テーマのハードルが高すぎた
122創る名無しに見る名無し:2009/03/09(月) 17:25:09 ID:+39KY8x2
トイレ氏来ないかなー
123創る名無しに見る名無し:2009/03/11(水) 20:22:45 ID:lbwX5nkq
俺も待ってる!
124創る名無しに見る名無し:2009/03/13(金) 12:40:53 ID:AfwZbM4U
じゃあ俺も!
125創る名無しに見る名無し:2009/03/20(金) 19:08:53 ID:WMAgnbcd
 __
(O)  )
| ̄ | 
|保 |
|守 |
|   |
 ^^^
126創る名無しに見る名無し:2009/04/09(木) 02:03:40 ID:OUidAoK/
ククク……いいのかい……?

        デス・ペインズ
こうも安易に  規制  から解き放ったりして……
127創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 22:57:28 ID:076Dr5en

     SHIT 〜危機的状況からの脱出〜  (第三章 後篇 一節) 


                『前回までのあらすじ』

  些細なことが発端となり、公衆トイレに閉じ込められてしまった主人公(男)
   彼は色々と思い悩んだ末に、女子トイレへと進入することを決意する
    で、色々あったせいで携帯電話入りトイレットペーパーを転がした
128創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 22:58:15 ID:076Dr5en
行け、行ってくれ!
俺はただそれだけを願い、自身の頬がタイル床で汚れるのも構わずに地へと這いつくばった。
すかさず、狭い視界に焦らされながらも、この手で送りだしたそれを見守りにかかる。

一縷の希望を乗せた純白の船は、絶望の海をゆらりゆらりと漕いで行く。
その船の造りはこの目で何度も確かめ、さらに重心調整を施したとはいえ、軌跡は至って不安定。
さながら、荒海を駆ける箱舟だ。
天が与え給うた全世界を揺るがす恐慌を乗り切る、頼り無い一隻の人工物。
しかし、未来へと繋がる確かな布石。
例えその見た目がトイレットペーパーという世俗味溢れるものであったとしても。
この終末的状況下におかれた俺にとっては、何物にも換え難い命綱なのである。

俺こそがノアだ。
名工手にして名船主、ノアなのだ。

ノアの箱舟。
古くは旧約聖書の中で語られ、昨今まで伝えられてきた神話。
それが今、この瞬間。

蘇ったのだ。
129創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 22:59:02 ID:076Dr5en
狙い通り、純白の船は最も離れたトイレ個室を目指して航行を続けおり、
俺はというと、自身のやってのけた大義によって歓喜に打ち震え、勝利のポーズを決めようと立ち上がった。
その直後だった。

「……ん?」

不意に、女性清掃員が声を漏らしたのだ。
そしてそれには明らかな不審の気が含まれていたことを、俺は聞き落とさなかった。

まさかとは思うが、トイレットペーパーが転がる際に発している音を聴き取ったとでもいうのだろうか。
いや、まさかな。
確かにトイレットペーパーは床を転がりはしたが、
その音は転がした張本人である俺にさえも聴き取れるか否かという瑣末な物であった。
そう、自覚できないほどに小さいながらも身の回りに絶えず溢れている環境音。それに容易く掻き消されてしまうほどにだ。
だったら、トイレットペーパーが転がっているという事実を知らない清掃員にとって、それを聴き取るのは至難。
どう考えても知覚できるはずがない。

だったらどうして、清掃員は声をあげたのだろうか?
何も無ければ声をあげる必要性などないはずなのに。

沁み出してくるような不安。
身体を掻き毟りたくなるような焦燥感。
そして、何かが起こったのだという予感。もとい、確信。

すぐさま、且つ再び。
俺は地に伏して、船の行方を探りにかかった。
すると――。
130創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 22:59:58 ID:076Dr5en
なっ!?

思わず口に出しそうになった吃驚を、慌てながらも唇を噛むことで強引に抑えこんだ。
状況は、想像を絶していた。
心胆を寒からしめる具合、とでも言えばいいのだろうか。

あの時点までは完璧なはずだった。
ゆらり、ゆらりと振られる小舟を目的地まで導く、俺の投球。操作。コース取り。
その点については、この上なく完璧だった。
しかし一点だけ。

力加減。

投げる瞬間、プレッシャーを跳ね除ける為に俺がとった自己暗示の手筈。
或いは、『陽動手段をより遠くへと送り、対象を少しだけでも自身から遠ざけなければ』という深層恐怖心。
加えて、俺が居る狭い個室内では遠くまで転がす練習が十分には行えず、
転がす場所までの距離を目測で図るにしても、床からの視点の低さと、僅か20cm程度の隙間からしか覗けなかったという点。
それら全ての要因が妙絶に重なりあい、そこに一滴の”偶然”が加味されたことによって生まれてしまったのだ。

この状況が。

きっと、あの瞬間の俺は力みすぎていたのだろう。
より遠くへという想いが箱舟へと伝わり、箱舟は俺の想いを受けて必死にも漕ぎ出していった。
タイル床の上をだ。
そうなのだ、タイル床の上を、なのだ。
網目模様に彩られ、緩やかにも凹凸としており、細かい線群が連なり、溝を造っているタイル床。
その地表を転がっていたからこそ、船はゆらりゆらりと振られていたのだ。
箱舟には積荷として携帯電話が差しこんであるといえど、その重量は高が知れている。
軽い物体は僅かの傾きや、僅かの障害物、衝撃の影響すらも大いに受けてしまう。

つまりは。

箱舟は、確かに新天地へと辿りついていた。
しかし功を焦るパイレーツのように勢いづき過ぎており、そのまま奥の壁へと激突してしまった。
激突した衝撃は反作用を生み、それを受けた船は当然ながらにも反対方向へと進もうとする。
その際、僅かの歪みを抱えていた箱舟は進路を狂わされ、あまつさえ荒波のようなタイル床に舵をとられて……。

結果、暴走することとなった。
船は勢いを殺し切れずにあらぬ方向へと進み行き、波に揉まれながらの難航を極め。
最終的にはトイレ個室出入り口扉、その真下あたりで止まってしまった。
扉の真下。
つまりは、個室と女子トイレ空間を隔てている壁の中間点。
そこにトイレットペーパーが転がりでたからこそ。それを女性清掃員が目にしたからこそ。
彼女は、先の一声をあげたのだろう。
トイレットペーパーの現在位置的に考えてみれば、彼女の視線の先には、チラリと純白が見えていることになる。
これらが何を意味し、これから何が起こるのかは、もはや考えるまでもなかった。

どうやら、暗礁に乗り上げちまったのかもしれない。
箱舟が?
違う、俺の人生が、だ。
131創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 23:00:57 ID:076Dr5en
コツリ、と床が鳴った。
女性清掃員が一歩目を踏み出したのだろう。
それによって出来ることならば信じたくはなかった悪い予感が、紛れもない現実のものとなり、
その代わりとして有り得ないと思いつつも抱いていた僥倖という名の期待感は、粉々に砕け散ってしまった。

恐らく、あの女性清掃員はこう考えている。
扉の下からチラリと見えているトイレットペーパー。
何故かは知らないが、そんな場所にそれがあるのは変えようのない事実。
ならば、隙間に手を差し入れ、それを手に取らなければ、と動く。
さらにその先は推測を重ねる訳であるが、貯水タンクの上にペーパー群が積み上げてあった事から察するに、
前回、それを並べたであろう彼女は落ちていたトイレットペーパーを元あった場所へと戻そうとするはず。

それが単なる変哲なき、トイレットペーパーであったとすれば、だ。

しかし俺が転がしたものには細工が施してある。
不自然にも携帯電話が差し込まれているのだ。
だったら彼女は、どう動くのだろうか。
少なくとも手に取ったトイレットペーパーの芯部分を見て、訝しむことだろう。
そうだ、誘導先のトイレ個室内には踏み入らず、その場で……要するに、女子トイレ内を見渡せる位置で思案するはずだ。
やがて、そうこうしているうちに携帯電話のタイマーが作動し、仕掛けておいた曲が流れだすこととなるのだろう。
そこから先となると……俺には予測不可能。全くの未知数だ。

しくじった。

あのような位置を意図的に狙い、トイレットペーパーを転がせるのであれば、
初めから細工を施さずに転がし、彼女に拾わせるべきであった。
だが、それを狙ってできるような力加減が俺に出来たかと問われれば、どうも怪しく思えたのは言うまでもない。
だからこそ、俺はそれをしなかったのだ。
なんてことだ。
最善を尽くしたはずの行動が、完全に裏目に出てしまうとは。

考えてもみれば。
初めから……そうだ、初めから。
身の程をわきまえて、負け犬のように不快感と一緒に、ズボンを穿き上げておけばよかったのだ。
そうしていれば、ああしていれば。
こうもまでも悉く、何度も何度も期待を裏切られ、絶望に打ちひしがれ、恐怖感に苛まれ。
苦悩することもなかったのに。
やること成すこと失敗せずに、徒労感によって疲弊してしまうこともなかったのに。

俺は。
俺は、もう――。

駄目なのかもしれない。
132創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 23:02:35 ID:076Dr5en
成す術も、打てる手立てをも失ってしまった俺は、ベッタリと地面に座り込み、
汚れの象徴ともいえるトイレ床の御慈悲を、人体でもっとも汚い部分を通して全身に浴びていた。
もうじき、俺自身もこの床のように汚れた存在となるのだろう。
物質的に、そして、社会的に。
お先、真っ暗だ。
僅か寸時前まで抱いていた輝かしい未来へのビジョンが、
焦げ茶かかっている淀んだ空気によって侵食され始めたのが、俺にはハッキリと見て取れた。

それに続いて、まるで尻子玉を抜かれたかのように動けなくなってしまった俺を宥めるように、
パッヘルベルのカノンが、女子トイレという限られた空間内を厳かに満たし始めた。
携帯電話のタイマーが作動したのだ。
かつて、未来への第一足を祝福するはずだったそれは、今ではもう、送葬曲にしか聴こえなかった。
繊細で優美な旋律が、下劣で剥き出しな俺という存在を、闇のなかへと誘う合図。
まさに終焉。
箱舟は沈み、世界は滅びるのだ。

パンドラは絶望の印。
箱舟もまた、それと同等。

神が下す試練は、いつの世も辛苦に塗れたものであることを。
そしてそれは、運に、いや、天に見放された人間が到底超えられるものではないことを。

俺はこの時、悟った。
133創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 23:04:38 ID:076Dr5en

SHIT 〜危機的状況からの脱出〜  (第三章 後篇 一節)  終


次回 ”〜危機的状況からの脱出〜  (第三章 後篇 二節)”


新たなる神話ともなりえるトイレの試練は次回へとつづく
暫くぶりに書いたので前回の予告や文体などと帳尻のズレが見え隠れしてはいますが、
物語が向かう先は同じく尻なので、なんら問題はないのです、たぶん
ついでに些末事ではありますが、当初の目論み通りに進めばおそらくは次回か、次々回で完ケツ予定となっております
季節が変わるほどにゆっくりしすぎたこのスレからの脱出も、ようやくにして…
134創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 23:06:23 ID:1Xy7x15S
おおおおおおおおおおおおお!トイレのやつ来た!これで勝つる!
135創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 23:09:51 ID:mT+HD9qL
帰ってきた!おお帰ってきた!トイレ氏が長き眠りから帰ってきた!
時間たってるのにこの緊迫感、すげぇ
フルチンマンの未来はこのままこげ茶時々黄色になってしまうのか
136創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 23:23:57 ID:1Xy7x15S
しかしなんというピンチな状況
果たして彼は脱出を果たすことができるのだろうか
137創る名無しに見る名無し:2009/04/25(土) 18:59:41 ID:jyazgxN+
                 ♪
              ♪ | //♪
               - 、        
             /(( ))
キタ━━━━━━━(   "/━━━━━━━━!!!!!!
             ー ' 

トイレ氏の文章 (゚∀゚)スキー!!
138創る名無しに見る名無し:2009/05/03(日) 20:38:46 ID:4D+GkXbu
続きまだかなぁドキドキ
139創る名無しに見る名無し:2009/08/08(土) 09:38:03 ID:DnqYRwhd
保守
140創る名無しに見る名無し:2009/08/08(土) 13:23:23 ID:k15s1Rel
ここも見てる人いるんだなぁ
141創る名無しに見る名無し:2009/08/08(土) 13:25:14 ID:HEq+yv3J
専ブラだと書き込みがあると思い出したり
142長門有希の逆襲の作者:2009/08/08(土) 13:46:46 ID:uZx1ZXs/
ちょっと俺のスレから転載する。
よろしく。
143長門有希の逆襲の作者:2009/08/08(土) 13:47:52 ID:uZx1ZXs/
長門有希の逆襲
1


気が付くとそこは桜の木下

「長門。お前が好きだ」「・・・・・・」
沈黙。
頬を赤らめながら俺は考えた。何故こんなことを言ったのか、を。大体長門に告白なんか考えた事もなかったぜ
「・・・・・・わかった」
は?
「わたしも」
え?長門?
お前そんなキャラだった?いやいやいやこんなことになっても結局夢おちなんだろ?相手にしないぜ。長門!きっとハルヒのくだらん願望なんだろう?そうなんだろう。頼むから首を縦に振ってくれ。そして教えてくれ!
待て。何で俺はこんなに焦っているんだ?
こんなの誤解だと言えばいい話なのに。俺の中で何かが邪魔している!
くそ!


「カットです」
相変わらず笑顔でムカツクぜ。
「古泉。こんなシーンどこで使うんだ?」
笑顔のまま首を振る古泉。そんな古泉の代弁で我等が団長涼宮ハルヒが超監督という腕章を堂々と見せつけて叫んだ。
「長門有希の逆襲の冒頭よ!クラスメートの通称バカキョンが帰ってきた宇宙人の有希に告白するというシーンよ!」
よくそんな長い文章を息一つせず言いきれるかが気になるのだが。
公園にまたもや季節外れの桜なんか咲かせやがって。俺は溜め息をつき、呟いた。
「何故俺がこんなことをせにゃならんのだ」



そして学園祭の映画
長門有希の逆襲
の撮影が始まるのである。
144長門有希の逆襲の作者:2009/08/08(土) 13:49:00 ID:uZx1ZXs/
ごめんなさい。ハルヒスレ行きます。本当にごめんなさい!!
145創る名無しに見る名無し:2009/08/08(土) 13:54:50 ID:HEq+yv3J
誤爆ですたかw
ハルヒ総合スレの存在を知らなかったお
覗いてこよう
146創る名無しに見る名無し:2009/10/02(金) 19:00:00 ID:MemIQtqX
保守
147創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 21:09:52 ID:uHqUCK0j
何か脱出しようか
148創る名無しに見る名無し:2009/10/28(水) 21:20:14 ID:atPUhKfp
貧困からの脱出
149創る名無しに見る名無し:2009/12/09(水) 00:43:06 ID:/IfQJu0c
te
150創る名無しに見る名無し:2009/12/27(日) 00:49:56 ID:qXQRdkqc
更新停止からの脱出は…まだか…!
カムバーック!
151名無しさん@そうだ選挙に行こう
保守