何か脱出物する話

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1名無しさん@お腹いっぱい。
怪物に襲われたり、沈没しそうな船から脱出する話
洋画とかでよくあるじゃん
ああいうの漫画とかアニメとかのキャラで出来ないかな
2名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 12:46:09 ID:QkFX4g3x
とりあえず襲われる豪華客船のコックはライバックだな
3名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 13:21:23 ID:LPShriJD
逃げ惑う様子が書きたいってこと?
4名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 14:29:02 ID:e/dMtvrA
船の不手際で救命ボートが人数分無いとか
自分だけ先に逃げるか、家族や仲間を探してから逃げるか、
あるいは自分は死ぬ覚悟で他人にボートを譲るか

最大の問題は船の構造をちゃんと把握してないと難しいことだな
5名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 16:56:42 ID:ICs0pALq
豪華客船じゃなくて戦艦や要塞だったらコックはあの人。
6名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 16:59:08 ID:hpnOUoQQ
船である必要あるの?
無人島脱出とかでもよくない?
7名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 17:06:51 ID:ICs0pALq
無人島物語ですねわかります
8名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 17:07:56 ID:iKsrnp4N
いやいやサバイバルキッズだな
9名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 17:08:41 ID:a55jdrro
15少年漂流記は?
10名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 17:20:42 ID:KakO8jK2
>>6
「船とか」って書こうかと思ったんだけど、それだととかとか言いすぎかなと思って
11名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 17:33:52 ID:IxbYJigF
映画のCUBEみたいなのも脱出ものか?
12名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 18:04:43 ID:HrFIsAcD
いばらの王か。
13名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 18:07:34 ID:iKsrnp4N
>>10
試しに何か書いてみてよ
14名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 20:13:34 ID:hxW1aFUP
エクソダス、するかい?
15名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 20:50:58 ID:fvyKSpdQ
ゾンビ+孤島から脱出。これしかない。
16名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 21:03:09 ID:vnH2/UiR
最強のロリコン・キャプリスの出番ですね!
17名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 22:21:49 ID:9tS1hkBT
>>4
おお、面白そうだな
混乱に乗じて船内で盗みを働く奴とか、嫌いな奴を貶めようとする奴とかも出そうだ
18名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 22:23:55 ID:qoLIOsI6
船とか無人島はちょっと難しそうだから
まずはトイレあたりを題材にしてみるか
19名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/01(水) 23:26:24 ID:QL5be2u0
ズラリと並ぶ1000個のトイレの個室……出口に続いているのは1つだけ
花子さんが入っているドアを開けると開けた人は便器に吸い込まれてしまう

こうですかわかり(ry
20名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/02(木) 10:37:53 ID:hgAFtRBJ
いや鍵が壊れて閉じ込められたトイレの窓に詰まる話だって
21名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 23:16:37 ID:f4RshCTA
暗闇から脱出するやつを書いたことがある

この手のSS書くときはちゃんとプロット書いてからの方がいい
即興で書いたら矛盾やら伏線の拾いこぼしやら……
22名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 23:21:09 ID:daNpUZ3J
安部公房の「砂の女」もこの系統か
23名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/08(水) 13:53:39 ID:7Ilg83YA
このスレって2次限定なの?
24名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/08(水) 22:49:51 ID:FBaZSuJq
好きに書けばいいんじゃない?
まだ何も決まってないし
今なら自由に流れ作れるよ
25名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/09(木) 01:27:17 ID:QPIoA+f/
巨大アリ地獄からの脱出
26in エレベーター:2008/10/09(木) 23:57:43 ID:i5O6TdnN
うちの大学には、よく動かなくなるオンボロなエレベーターがある。
ある日、遅刻しそうになった俺は、時間短縮のために普段乗らないそいつに乗ってしまった。

最上階で講義があるので、10階のボタンを押し、しばらく階を表すランプが動くのを見ていた。
1・・・
2・・・・
3・・・・・・
4・・・・・・・・
5・・・・・・・・・・
7・・・・・・・・・・・
「え? 7?」
4・・・・・
10・・・・・・・
2・・・・・・・・・・
8・・・・
「? え、故障?」
上昇しているのかも下降しているのかも分からない状態が続き、ついに止まってしまった。

パシュン。
その瞬間、照明も消えてしまった。
普通、こういう装置の照明とかは非常用電源につながっているはずなので、消えることなんて無いと思っていたが、一人暗闇の中におきざりにされてしまったのだった。

・・・しばらくすると、目が慣れてきた。
どうやら、扉の隙間からわずかな光が入ってきているようだ。
ふと隣を見ると、壁に蛍光塗料で何かが書かれていた。
  「 ぼたんで、さんけた の すうじ にゅうりょく
    ちゃんす は さんかい だけ」
そして、後ろの壁にも同じ蛍光塗料で何かが書かれていた。
  「 ふるいけや
     かわずとびこむ
         みずのおと」
誰かのいたずらか?
しかし、エレベーターの階数表示といい、照明といい、手がこみすぎている。
失敗したときのことを考えると何か恐ろしかったので、僕はしばらく熟考し、ボタンを押した。

(↓三回どうぞ)
27名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 00:00:00 ID:/I4Uq7WG
575
28名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 15:25:47 ID:7xyNI5lm
123(一茶だから)
29名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 21:28:58 ID:VSISTCSq
444
30inエレベータ:2008/10/10(金) 22:34:17 ID:vUKSRtTE
「5、7、5」
・・・反応が特に無い。
「1、2、3」
・・・・・・違うのだろうか?
「4、4、4」
・・・・・・・・・・・
しばらく待つと、目の前で扉がガガッと開きだした。
ああ、合っていたんだ。
ほっとするのもつかの間・・・・
開いたのは内扉だけで、そこには閉ざされた外扉が出ることを阻んでいた。
そして、いくつかのことが同時に起こった。
エレベーターを爆発音がつつみ、
天井から”バチン”というとても大きな音がして、
俺の体が宙に浮いた。

・・・目の前の開いたままの内扉によって、1階、また1階と通過するのが分かる・・・
・・・・・・これはカウントダウンなんだ・・・・
・・・何階から落ちたんだろう? いくつ階を通り過ぎただろう?

ふと見ると、いくつかのボタンが光っていた・・・
9・・・8・・・1・・・・? これは答え? それとも、失敗した俺へのメ
31名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 22:42:36 ID:VSISTCSq
バッドエンドっすか?
32名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 22:52:33 ID:vUKSRtTE
バッドエンドっすね・・・

スレの方向性がまだ定まってなかったので、とりあえず「ブラウザゲーの脱出ゲー」を元に書きましたが、
別に設問にする必要はないかなとは思ったりしました。
・・・スレチになるんだろうか?(クイズ板あたり行き?)
33名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 22:55:16 ID:cjTq33ri
age
34創る名無しに見る名無し:2009/01/11(日) 16:35:48 ID:dEq1vS0r
誰もいない
35創る名無しに見る名無し:2009/01/11(日) 16:38:57 ID:6jr8P7ko
みぃんな脱出してしまったのさ
36創る名無しに見る名無し:2009/01/11(日) 16:41:30 ID:fkBp39sC
まったく薄情な連中だ
37創る名無しに見る名無し:2009/01/11(日) 21:22:00 ID:sK+2RhTn
俺らになにも言わずに脱出するなんてな
38名無しさん@お腹いっぱい。:2009/01/15(木) 09:54:59 ID:JXJ31tpg
39創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 04:51:03 ID:B5EsPeg1
世間一般で言う詰みという状態。
その状態に、今の俺はおかれている。
四角に間切られた空間内にて、尻を丸出しての屈んだ態勢。
立ち込めている臭気。
脱出方法はただ一つ。

紙だ。

ケツを拭う為の紙。
それをどうにかして入手するしかないのだ。
生憎、俺はティッシュなどを常備する几帳面な人間性を持ち合せてはいなかった。
今さらそれを悔いた所で時すでに遅し。過ぎ去った過去はグラフィティ。
長年で培ってしまった悪癖を呪っても仕方がないのだ。
つまりは、何らかの手段を用いて事態の解ケツを図るしかない。
さて、どうするべきか。

混乱の最中におかれていた俺が初めに思い当たったのは、
第三者がこの公衆トイレを訪れ、その人物に紙を投げ入れてくれるよう頼み込むという策だった。
40創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 04:51:54 ID:B5EsPeg1
だが現実というものは斯くにも非情だ。
俺のケツが底冷えのくる隙間風に晒され、付着していた臭気の元が渇き始め、
あまつさえ無理な体勢で座り込んでいた為に足腰が震え始め……。
それほどの時間が経過したというのに、誰ひとりとして訪れてくれるものは居なかったのだ。
まさかとは思うが、俺はこのままずっとこの臭い個室で過ごすことになるんじゃ?

俺は呪った。
人生をだ。
こんなところで終わってしまうなんて。
こんな惨めな最期を迎えるなんて。
そんなこと、絶対に嫌だ。
認めたくない。
認めて、たまるか。

そういえば脱出ゲーム。
俺はそのジャンルに興味を抱き、一時期は夢中で読み漁っていたものだ。
それらの創作世界のなかではあらゆる形での危機的状況から起死回生の連続が連なっており、
あっと言わせるような展開や、息を呑むような演出に心躍らせていたわけであるが……。

対してこの状況。
トイレからの脱出ゲーム。
主人公は、ケツ丸出しの俺。
仮にこの物語を俺が書いた所で誰も読みたがらないだろうし、それ以前に読ませたくもない。
こんな色んな意味で汚い物語なんて、最悪にもほどがある。

けれどもどうしてだろう。
今までに俺が読んできたどの物語よりも、妙なスリルを感じてしまうのは。
41創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 04:52:49 ID:B5EsPeg1
足腰の疲労が限界に達し、体全体が地震にでも見舞われたかのように震え始めた頃。
俺は一つの妙案を打ち出すことに成功した。
人間、追い込まれれば潜在的な力が引き出され、想像以上の能力を発揮できるらしい。
これが火事場のクソ力というものなのだろうか。
いや、その辺の考察はあとでゆっくりとすることにしよう。
ともかく、俺が考えついた妙案とはこれだ。

左手で拭う。

意外なる盲点。
カルチャーショックという御国柄の壁。
そうだ、そうなのだ。
どこぞの国では左手で拭うことが常と化しているのだ。
ならば、俺が左手で拭った所でなんらおかしいことはない。
そう、ぐにゅりと左手で拭いとり、パンツとズボンを慎重に穿き上げ、
なんのことはない朗らかな笑顔を振りまきながら洗面台まで辿り着き、水で洗い流せばいいのだ。
例え扉を開けた瞬間に見知らぬ誰かと遭遇し、俺の左手についた異臭物を訊ねられても、
「ああ……今し方、ちょっとばかりカレーを零しましてね」
などといった上手い言い訳も用意してある。

完璧だ。
これならイケる。
42創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 04:54:18 ID:B5EsPeg1
イケ――る訳ないだろうが!
馬鹿かお前は!
そんなことで誤魔化せるのなら、世の中こんなに欺瞞で満ちてはいないんだよ!
クソッ、クソッ! ウンコマンめ!
って、それは俺だ!
ちくしょう、ちくしょう。
い、いかん。
落ち着け。心を落ち着けろ。
よし、こんな時は深呼吸だ。
吸って、吐いて、吸って……うわ、臭ぇ!
こんなんじゃ落ち着きようがないじゃないか!
時間が経てば経つほど、自家製メタンガスに限りなく近い何かによって、
俺の思考は混迷の一途を辿り、やがては命に係りかねない。

ならば。ならばだ。
打開策だ。
この状況でさえも採れるように手近で、そして覆せるほどに大胆な何か。
それを創りだせ。
俺の全てを懸けて。
俺の全てを捧げて。

高みへと、昇れ。
43創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 04:56:03 ID:B5EsPeg1



             終了条件

  誰からも視認されずに「トイレットペーパー」を入手



44創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 04:57:26 ID:B5EsPeg1

小目標 『パンツ、ズボンを汚さずに脱ぐ』


「せぇいやぁ!」

俺は腹を決めると、感覚を失い掛けていた両脚に鞭を打って立ち上がった。
姿勢が変わり一気に血流が巡り始めたことで、じんとした痺れに両脚を擽られたが、
それがどうにも心地よかった。

これは闘志だ。
目的を達成するという、人間の純粋なる向上心から生れでる滾るような感情。
それが全身から迸っているのが実感できる。
さっきまでは俺の下品な所からも迸っていたが、今は高貴な意味で噴出しているのだ。

ふむ、では慎重に……まずは片足を抜いて……よし。
次はもう片方を……ぐわっ、靴が邪魔だ……こなくそっ……ふう。

オーケイ、小目標達成だ。
これで俺の下半身は生まれたままの姿に靴とソックスを足しただけ、となったわけだ。

さてと。
お次はどうしようか。
45創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 05:00:19 ID:B5EsPeg1

小目標 『隣接する個室への到達』


やはりこれしかないだろう。
この事態を終ケツさせるには、紙があるべき場所へと向かわねばなるまい。
しかし危険なのは、このタイミングにて誰かと鉢合わせるという、最も忌むべき邂逅だ。
俺の下半身で揺れている物を見られては、あらゆる全うな理由を述べた所で言い訳などできるはずもない。
「こういうファッションが欧米辺りでは流行っているらしくて」
などと最先端すぎる自分をアピールした所で、通報は免れない。
そもそも元となっているネタ自体が古いのだから。

故に、ミスは許されない。

その絶対的なる危機的状況が、俺に超感覚を齎したのだろう。
極限まで研ぎ澄まされた感覚器官によって、俺は幻覚を視たのだ。
正確に言えば、近場に存在する他者の意識。他者の視点。他者の聴覚。
これに相乗りすることが可能になったような気がしてきたのだ。

どこかで耳にしたことがある。
超能力とは、鍛え抜かれた感覚によって得ることができる超感覚なのだと。
或いは、本当は誰しもが持っているのに、誰しもが自覚できないでいる未知なる感覚。第六感。
それが窮地に立たされた今となって発現したのだ。

実にありがたい。

俺は心底から湧きあがってくる歓喜を抑えることが出来ず、一人でに含み笑ってしまった。
そしてやっぱり個室内は臭かったので噎せた。
46創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 05:03:24 ID:B5EsPeg1

SHIT 〜個室からの脱出〜

誰からも望まれなくとも次回へとつづく
47創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 05:06:45 ID:ZjrcUpnD
このスレ始まったな
48創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 07:34:17 ID:OhSDZgKQ
望むとも!
がっつりやっとくれ!
49創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 09:28:10 ID:cR/kASFS
唐突に何が始まってんだこれw
随所に言葉遊びが入ってきてるのも面白いな
50創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 10:02:40 ID:cBZFdArv
これは面白い!
51創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 22:29:51 ID:B5EsPeg1
漂う悪臭のせいだろうか。
自身が生み出した業によって呼吸を封じられてしまうというのは、因果律の証明ともなりえるのでは?
などと良く解りもしない単語をそれっぽく並べ立ててしまうのは。
さらには依然として頭が働いているようないないような、
もしくは全力で間違った方向へと邁進しているようないないような。
そんな迷いが俺の中に沸々と浮かび上がってくるのは。

だが、迷いは恐怖を招き、恐怖は躊躇へと繋がる。
数珠のように連なった負の要素が行き着く先は……奈落だ。

ならば断ち切れ。
今ここでだ。
俺の下半身が大っぴらなどという些細な問題は、
この扉が開き切る瞬間までに、ぜんぶ捨て去ってしまえ。
今現在、外に人の気配は感じられない。
これだけの時間が経過したというのに、このトイレを訪れる人間もいなかった。
思いのほか、ここらには人がいないのだ。
つまりこれは勝てる闘いなのだ。
それも大層に有利な賭け。
ポーカーに例えるならばフォーカード並に信頼のおける手札。

だったら、やれるだろう?
やれないはずがないだろう?

いいか……いくぜ、俺。
これからこの扉を開くぜ。
もし開き切った瞬間に有りもしない恐怖などで身体が硬直しようものなら、
それこそ終わりへと直結する特急列車に乗り込んだようなものだぜ?

嫌なら踏み出すことさ。
好ましくない結果を招きたくないのなら、
隣の個室目掛けて一心不乱に駆け出すことさ。

なんてことはない。
暫く前、腹痛に見舞われていた俺でさえ難なくやってのけれたことだ。
それを今度は局部丸出しで再演すればいいだけのこと。
ほら、至極簡単なことだろう?

俺は両眼を瞑った。
心を鎮め、逸る呼吸を整え、ズボンとパンツは貯水タンクの上へと畳み。
それからもう一度だけ外の気配を探り、外で物音が聴こえないことを確認した俺は――扉を開け放った。
52創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 22:33:05 ID:B5EsPeg1
狩りに全霊を捧げる豹。
その機敏さに勝るとも劣らない身の運びを以って、青タイルで彩られた開放的な空間へと躍り出る。
開放的といってもトイレ個室と比べてというだけであり、やはり陰気で臭いことには変わりない。
すぐさま室内を睨み見る。

誰もいない。

次に改めて室内状況を確認する。
俺が今まで居たのは公衆トイレ出入り口から最も近い場所にあった個室だ。
そう、あの時は慌てていたので奥まっていて落ち着ける個室を選ぶことは愚か、尻を拭うための紙。
それの有無を確認するという基本を見落としてしまうほどに、心身的余裕がなかったのだ。
いや、過去の事を悔いるのはやめよう。
現状で注意を向けなければならいのは、不意な来訪者に対してだ。
幸いにも公衆トイレ出入り口部分には、外からの視界を遮ってくれる高さ2メートル半程度の隔壁がある。
そのお陰で俺が立っている場所では、無関係な通行人等からの直接的な目視を避けることができるが。
さて。

個室は全部で4つ。
俺が入っていたものを除けば残り3つ。
文字通り、目的地は眼と鼻の先というもの。

俺は半ば勝利を確信しつつ、尚且つ急ぎ足で隣の個室を覗きこんだ。
すると真っ白に塗られ、優美にそよいでいる麗しのトイレットペーパーが……

無い!?
53創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 22:34:27 ID:B5EsPeg1
なんてこった。
いやしかし、個室はあと2つも残っている。
落ち込んでいる暇があるのならば、一秒でも早く歩み出すべきだ。

俺は即座に気を持ち直し、隣の個室を覗き込んだ。
だが。

「ここも……・だって……?」

悲痛なる呻きが無機質なタイル床を幾重にも跳ね、
まるでそれが笑い声に聞こえるほどの錯覚を引き起こし、
ついには圧迫感へと形を変えて俺へと靠れ掛かってきた。
二度あることは三度ある。
嫌な予感と共に、一時は引いていたはずの足の痺れまでもが疼きだし、
何倍にも化した見えない重力によって俺はその場に磔とされた。

しかしまだだ。
まだ望みは断たれちゃいない。
最後に残された個室。希望。
そう、パンドラの箱が残っているじゃないか。

立て。奮起だ。
諦めるな。

俺は勇気を振り絞って立ち上がった。
襲い来る正体不明のプレッシャーも、意地と希望の力で跳ね飛ばした。
自分へと問う形で、俺に闘うだけの意志があることも確認できた。

そして……恐る恐るながらも希望の箱を覗きこんだのだ。
54創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 22:37:36 ID:B5EsPeg1

「くっ……あっ……ぷうっ……」

直後、思わず意味を成せない音素の羅列が口とケツ穴から漏れてしまった。
俺に突き付けられたのは無情一色に染まった世界。
理想とは遥かに掛け離れた現実という名の事象。
天は我を見放した。俺は棄てられた。

この世に神など、いなかったのだ。

パンドラの箱。
希望がある故の絶望。
絶対に勝てるという高みからの転落という圧倒的挫折感。
それはあまりにも残酷なものだった。
俺の心がグラリと揺れ、モノはブラリと垂れた。
折れゆく心に伴うように、容赦なき闇色の感情は俺の肉体までもを支配し、
抗いようもなかった俺はその場へと突っ伏すほかなかった。

待っていたよと、タイル床が俺を優しく抱きとめてくれる。
局部に伝わってくる、ひやりとした感触がどうにも心地良い。
いっそ、このまま眠ってしまおうか。
何もかもを諦めてしまおうか。
そうやって自分の醜い部分を曝け出せれば、全部がぜんぶ楽になれるのかもしれない。
このままずっと……。
その時だった。

コツリ。

公衆トイレ入り口方面から、タイル床を踏みしめる音が聴こえたのは。
55創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 22:40:31 ID:B5EsPeg1
まるで、落雷にでも打たれたかのようだった。
まるで、俺の身体が俺自身のものではなくなったかのようだった。
俺の脳が動作命令を下すよりも早く、目の前のトイレ個室へと、
つまりは公衆トイレ最奥に位置する場所へと俺は身を隠していたのだ。

本能だと直感した。

危機的状況からの生還を願う原始的な感情。
人間本来の純粋なる欲望。
それが俺を衝き動かしたのだ。
さらには、きっちりと扉を閉め、鍵まで掛けるくらいに周到な手筈をも垣間見せている。
そうだったのか。

俺は、生を渇望していた。

いくら絶望に打ちひしがれ自嘲してみせたところで。
それらは所詮、薄っぺらい見せ掛けだけの感情にすぎない。
俺が地面に突っ伏してしまったのも、自身が勝手に「もう駄目だ」と思い込んでいたから故の錯覚だったのだ。
だってそうだろう、表層心理では諦観に苛まれながらも実際はこうやって身を隠しているのだから。
こうまでも冷静に、俺の頭は状況を分析しているのだから。
俺の本能は生き残る為に、前だけを向いていたのだから。

だからこそ、俺が本当の意味で諦めさえしなければ、いくらでも手の打ちようはあるはずに違いないのだ。
滾るような感情が、またしても俺の全身から噴き出し始めた。
56創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 22:41:21 ID:u3WtWXso
……ゴクリ
57創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 22:41:52 ID:cBZFdArv
58創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 22:43:03 ID:cBZFdArv
さるさん大丈夫かな
59創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 22:43:23 ID:B5EsPeg1

「うっ、臭っ!」

悪い、そういえばまだモノを流していなかったな。
それはさておき、声の感じからすると、どうやら入って来たのは若い男ということらしい。大方、学生だろうか。
まあ、男であるというのは男性用トイレなのだから当たり前なのではあるが。
むしろ男性用トイレへ女性が入ってくるほうがどうかしているとも言える。

「ふぅー……」

男が小を出し始めたようだ。
くそっ、下品な音をたてやがって。俺は下品な人間は嫌いなのに。
しかし愚痴ってもいられないか。今の俺にとって彼は、神に最も近しい存在なのだから。

ともなればここで俺が声を掛け、彼に紙を投げ入れて貰えれば……円満解決となるはず。
だがその場合、一つだけ懸念しなければならない点がある。
このトイレ内には紙が無いのだ。
かのような状況下で俺が彼に「紙をくれ」と頼んだところで、状況が好転する可能性は限りなく低い。
また、俺と同じく男性である彼がテッシュペーパーを常備しているかは極めて疑わしい。
そもそも「紙をくれ」と俺が言えば、彼はまず残り3つの個室を漁ることだろう。
ともなれば、先ほどまで俺がいた個室に残されている臭気のモトと、俺のズボン、そしてパンツ。
それらを目にした彼は、なんと思うのだろうか?

少なくとも、下半身丸出しである俺がなぜか現場とは離れた個室に篭っており、あまつさえ紙を要求してくる、
などという不可思議な事態に対して一種の不信感を抱く事になるのは間違いない。
むしろ勢い余って、ちょっとした都市伝説を創り上げてしまう可能性も否めないだろう。

ただ一つだけ確実なのは。俺が変態なのだと誤解されてしまうということだ。
それは直接的に視認されていなくとも、結果的には負けであることに何ら変わりないのではなかろうか。

俺は逡巡した。
頭を抱え、唸り、悩みに悩んだ末に……。
60創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 22:43:30 ID:cBZFdArv
61創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 22:44:38 ID:u3WtWXso
支援支援
62創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 22:45:03 ID:cBZFdArv
63創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 22:47:13 ID:B5EsPeg1
沈黙をとった。
息を顰め、気配を殺すことに徹した。

恐らく、彼が真っ当な判断力を携えているなれば、
わざわざ臭気漂う個室を覗き込むような真似はしない。
即ち、貯水タンクの上に置かれているズボン、パンツが発見される可能性も低いだろう。

なら、これでいいんだ。

俺は自身に強く言い聞かせる。
彼に頼らなくとも既に新たな手を考え付けているのだから。

そうこうしているうちに。
やがて男は、単調な足音を残して歩き去っていった。
その際に手を洗う水音がしなかった為、やはりあいつは非几帳面タイプだったのだと俺は何度も頷いた。
同時に自身の観察眼の高さに喜びを感じて静かにほくそ笑んだ。
そしてやっぱり臭かったので噎せた。

ようし。
ならばそろそろ、次なる手を打つとしようか。
俺は見落としていたのだ。失われた環、ミッシングリンクというものを。
その所為で無闇矢鱈と絶望し、解決へと至る道筋を自ら閉ざしてしまっていたのだ。
だが今の俺は違う。未だかつてないほどに冷静だ。
明鏡止水の心得で明確なビジョンを描きだすことができるほどにだ。

初心に返ってみれば、策を練る際に重要なのは、やりたいか、やりたくないかではなかった。
可能か、不可能かなのだ。
これはミステリにおいて動機を一切考慮せず、犯行が可能か不可能かで判断するのと意味合いは近い。

俺は思考を切り替え、バラバラと纏りのない心境を纏めにかかっていく。
先程浮かんだ、『男であるというのは男性用なのだから当たり前』という常識の壁。
それに阻まれ抜けおちていたピース。
今度はそれを逆手に取って、打ち破ってやればいいのさ。
盲点こそが、得てして活路となり得るのだから。
ここは公衆トイレ。
ということは、こちらと同じ造りになっている個室があと4つは残っているはずだろう?


小目標 『女子トイレへの到達』


迷いなんて、もはや完全に断ち切ってやったぜ。
これからの俺は、完全無ケツだ。
64創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 22:48:24 ID:u3WtWXso
凄い男だぜ……
65創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 22:48:59 ID:B5EsPeg1

SHIT 〜公衆トイレからの脱出〜  (第二章 前篇)  終


次回 ”〜公衆トイレからの脱出〜  (第二章 後篇)”

下品だと罵られようとも次回へとつづく
こんな汚い物語を支援してくださるとは流石に驚きが隠せません
66創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 22:51:02 ID:u3WtWXso
内容はあれなのに文章が綺麗にまとまってて読みやすい
下品さを微塵も感じさせない上品な言い回し
そして随所にちりばめられた言葉遊び

次回も期待してるぜ〜
67創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 22:52:03 ID:cBZFdArv
次は女子トイレ偏か…
とりあえずうんこ流そうぜw

>>65
いやいや面白かった!
もっと続きも読みたい
68創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 23:12:28 ID:kncE97fQ
笑えるのに、通して緊迫感の糸が途切れないのが凄いな
69創る名無しに見る名無し:2009/01/19(月) 01:26:53 ID:rOIlujG+
これは絵を想像すると駄目だなw
文面だけだと割と真面目なのに絵面が酷いw

いちおうageとこうか
70創る名無しに見る名無し:2009/01/19(月) 01:28:19 ID:SiZqlGYb
805 :名無し変更議論中@自治スレにて:2008/12/15(月) 17:48:38 ID:LTVYR0/R
キンコンの島で全台、上皿に1円玉が詰まってたことがあった。
10時くらいだったけど、どの台も3〜8回してあって、
何となく意味は分かった阿部寛

806 :名無し変更議論中@自治スレにて:2008/12/15(月) 17:52:29 ID:LTVYR0/R
スマン阿部寛は誤爆

807 :名無し変更議論中@自治スレにて:2008/12/15(月) 18:07:46 ID:6E0I+AX3
>>806
スレには全く関係ないがワロタ阿部寛

808 :名無し変更議論中@自治スレにて:2008/12/15(月) 21:51:13 ID:ZHtHq+KO
>>806
ワロタwww

809 :名無し変更議論中@自治スレにて:2008/12/15(月) 21:56:08 ID:nH/oqi2m
>>806
面白杉ww
でも、自分で自分の首締めてんなw
早く阿部寛よりも面白い話の続きを

811 :名無し変更議論中@自治スレにて:2008/12/15(月) 22:24:50 ID:LjhPTtsn
確変中におしっこしたくなってトイレ行ったら阿部寛

812 :名無し変更議論中@自治スレにて:2008/12/15(月) 22:28:23 ID:8QqXpTJi
笑い止まんねぇーじゃないかよ!阿部寛

813 :名無し変更議論中@自治スレにて:2008/12/15(月) 22:29:34 ID:QPaxYyLY
>>811
コーヒー噴いたじゃねぇかこの野郎wwwww
71創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 23:34:52 ID:4CK1Tkro
小目標 『女子トイレへの到達』

しん、と静まりかえり。
ピン、とほどよく張った空気で満たされている四角の空間。
ケツ意露わな俺は、最奥トイレ個室に籠ったまま女子トイレ進入へ向けての策を練っていた。

どうして俺が、こうにも頭を抱えなければならないのか?

実は、あの場所へ行くには避けては通れない高い壁があるのだ。
そう、文字通りに高い壁である。
先程までは俺の為に外からの視界を遮ってくれていた、公衆トイレ出入り口にある高さ2メートル半程度の壁。
しかし今度はそれが敵となり、俺の前へと立ちはだかっているのだ。
何故ならばその壁は、外界と男子トイレ内だけでなく、男子トイレと女子トイレ間の出入り口をも分断しているのだから。
それを端的に表すならば、いわゆる”T”の字形なのだ。
つまり、ここから女子トイレへ歩いて向かうには”壁の外側”を通らなければならないことになる。
だが、視界を遮っている壁の外側を歩くということは……視界を遮る為に用意されている壁の外側を通るということは……。

例えようがないほどに危険であることは、自明だ。

だったらどうすればいい?
それとも諦めて、このまま左手で俺が犯してしまった過ちの尻拭いをするか?
或いは拭わずにズボンを穿き上げ、不快感をこびり付けたまま自宅まで逃げ帰るか?

いや、既に答えは決まっていたな。

俺に迷いなどない。
ここまで来て手を引くなんて、それこそ糞の始末もできない負け犬だ。
乗り越えなくちゃいけないのさ。
この試練を。
不在の神が与えたもうたハードルを。

俺は、越えなくちゃならないのさ。
72創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 23:35:58 ID:4CK1Tkro
俺は頭をフル回転させ、使える手段を探りにかかる。
第一に思い当たったのは、トイレ内に一つだけ用意されている窓の存在だった。
これはトイレ最奥、つまり出入口とは対称となる位置に取り付けられている。
ともなれば、この経路はとても安全性に優れていることになる。
理由は次の通りだ。
現在、俺が潜んでいるこの公衆トイレは公園に付設したものであるが、
多くの来園者にとっては醜い存在であるトイレが素晴らしき景観を損ねてしまわないよう、
施設は遠慮よろしく公園端に建てられているのだ。
その為、出入り口側は人目に晒される危険性が高いが、
反対側の窓側には木々が植えられ、外部からの視界を遮る造りとなっているのだ。
そして窓。
男子トイレにこれがあるとなれば、女子トイレにも同型のものがあると見てまず間違いない。
とはいえそうも都合良く鍵が開いているとは考え難い。
以前俺がチラと耳にした話ではあるが、公衆トイレにはトイレに纏わる様々な逸話が飛び交っているのだ。
そのなかの一つには、公衆トイレでは覗きを働く暴漢が想像以上に多いという話も含まれていた。
ともなれば、普段からその淫欲の眼に晒されているであろう女性の方々は、当然ながらに自衛対策を施しているはずだ。
現に男子トレイ内の窓すらもキッカリと閉め切られていたのだし、
それらから推測すれば女子トイレの窓には鍵が掛かっており、延いては内部への侵入が不可能であることは歴然だとも踏める。

よって、窓を用いることは不可能。

しかし何かに活用できないだろうか。
表を通るのに比べれば裏を通るほうが遥かに安全なのだ。
だったらそれを見す見す逃すのは愚策というもの。
だが……。

いや、やはり女子トイレへ辿り着くには表側にあるあの壁を攻略するほかない。
仕方がないさ。不可能な方法を惜しがったところで進展など有り得ないのだから。
それを望んだところで、待っているのは袋小路。時間だけが過ぎ去る無為な一時。
誘惑に負け、二の足を踏み続ければやがて、より悪く、どうにもならない状況へと追い込まれるだけだ。

だったら、出来ることから始めなければ。
73創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 23:37:24 ID:4CK1Tkro
それから数分程度の後。
俺は突如として天啓にうたれた。閃いたのだ。
またしても俺は、常識という絶対的な罠に捕われていたらしい。
そうか。そうだったのか。
壁の外側を歩くのではなく、壁の上側を通ればいいだけのことだったのだ。
即ち、壁をよじ登るのだ。

それでもリスクは避けられない。
だが、壁の外側を通るのに比べれば遥かに低いリスクだ。
なにより、これ以外に手の打ちようはない。
選択の余地がないのだ。

ならば、やるしかない。

俺は意を決すると、闘志を燃え上がらせるべく準備運動を始めた。
屈伸し、ストレッチを行い、手足を振り、怪我への配慮を万全なものへと変えていく。
そうしながらも並列作業で、作戦内容と手筈を頭の中で何度も確かめる。

T字型の壁のお陰で、トイレ出入り口付近に立っただけでは外界から注いでくる視野角は狭い。
それを利用し、まずは俺が男子トイレ内から外の様子を窺う。
そして人気がなく、死角に入れていることを確認し次第、勢いをつけて素早く女子トイレ間の隔壁を登る。
言うまでも無く上に登れば目立ってしまうが、壁の高さを活かしてトイレ側ギリギリの位置を登れば、
よほど遠くの位置から見られない限りは角度の関係上、死角に入れるはずだ。
万が一、遠くから視認されたとて、そのような位置からの目視では俺のヤバイ部分までもは捉え切れないだろう。
視力に優れる児童等は脅威だが、幸いにも子供は背が低い。つまり、高さによる死角の餌食となってくれる。

さあどうだ。
いけるか?
或いは阻まれるか。
勝つか?
或いは敗れ去るか。

俺は越えてやるぜ。
どれだけ壁が高かろうとな。
74創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 23:40:49 ID:WKBLVoe5
投下来た、これで勝つる!!
75創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 23:41:19 ID:4CK1Tkro
息を止める。
続けざまに聞き耳を立て、トイレ内への侵入者がいないことを把握した。
次いで個室の鍵を開く。
カチャリと単調な音が、無音の男子トイレ内を跳ねた。
俺は個室から静かに抜けだし。

直後、即座に駆けた。
そのまま男子トイレ出入り口の壁に背を預け、外部をそっと窺う。

……どうやら、見える範囲に人はいないようだ。

次に高い壁を睨む。
思っていた以上に高い。
垂直飛びでは手が届くかどうかも怪しい線だ。
しかし、手が掛かりさえすれば登りきれる自信はある。

俺は状況を一通り見終えると、今度は歩数を数えながらトイレ最奥へと走った。
なるほど。ここからあそこまで六歩か。
ついでに窓の鍵も開けておこう。
あの壁があっては、ズボンやパンツを手にした状態ではとても張り合えない。
だから俺は、再度この場所へと戻ってこなければならないのだ。
なのでその際に備えてこの窓を開けておけば、帰りは女子トイレ内の窓から外へと飛び出し、
安全なルートを使ってこちらへと戻ることができる。
これはその為の布石なのだ。
俺の汚点を水に流すのも、すべてが完了するその時までとっておくことにしよう。
現状のように蟠りが残った状態で水に流そうとしても、変に引っ掛かって気が晴れないからな。
さらに言えば、コレがあることでこの個室へ他人が入ってくるという事態も防げるだろう。
すべてが終わった後で、勝利の鐘紐を引いて奏でられる爽やかな旋律に酔いしれればいいさ。

俺は大きく息を吸い込んだ。
荒れ狂うような心拍を落ち着かせる為にだ。
そして両眼で真っ直ぐに、越えるべき壁を見据えた。

これで前準備は整った。
六歩だ。
六歩の時点で跳び、壁を蹴ってその上に手を掛ければいい。
あとは素早くよじ登り、あちらの室内で戦利品を手に入れ、尻を拭い、そして――晴れて脱出だ。
76創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 23:42:15 ID:4CK1Tkro
陰鬱な室内を、一陣の風が吹き抜けた。
それは俺だ。
強い信念を力に変えて、一歩一歩を踏みしめるように地を蹴っていく。
限界まで加速していく。
そうやって勢いをつけ、六歩目を数えた瞬間。

跳んだ。

眼前に迫ったハードル。
それに負の感情すべてを叩き付けるようにして蹴り跳び、
高みへと辿り着くべく必死の想いで手を伸ばした。

届け、届いてくれ――。

僅差の勝負。
判定は、いとも明快。
届くか、届かないか。
端から見れば面白味など皆無に近いこの競技。
しかし、どちらの結果に終わってもおかしくはないほどに互角の一戦。

俺にとっては真剣勝負。

壁は、やはり高かった。
俺などちっぽけに見える程の威厳を孕んでおり、見下ろし、ずしりと構えていたからだ。
だが、俺は諦めなかった。
少しでも距離が稼げるようにと、体裁など捨て去り不格好に手を伸ばし続けた。
浮かび上がる負の感情を、強引に抑えこんだ。

そして……掴んだのだ。
掴み、もぎ取ったのだ。
勝利の女神を。
高みを。

俺の手はしっかりと、壁上を掴んでいたのだ。
77創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 23:42:51 ID:E0r6xhCk
やばいかっこよく見えてきたw
しかしその姿を想像するとやばいなw

ひとつ言わせてくれ…もう乾いてるだろ?
78創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 23:43:41 ID:4CK1Tkro
俺は壁にベッタリと張り付いた。
背後から視線が注がれていることを想像してしまうと、この上ない恐ろしさで、
すぐにでも男子トイレ内へと逃げ帰りたくなる。
もし、誰かからモロにモノを見られていたら……。
けれどもそれに気を取られていては時間を無駄にするだけだ。
俺は恐怖心を拭うため、代わりとして尻を拭うことだけを考え始めた。
続けざま、死角に入る為、できるだけトイレに近い位置までトラヴァースした。
それが済むと全身から漲る力を腕へと注ぎ込んで、一気に身体を引き上げに掛かる。
こうして。

俺を阻んでいた壁から頭を突き出したことで、見事な景観が拡がった。
代わり映えのない街並みの筈なのに、妙に情緒に溢れている。
茜色に焼けた空が塩梅の良い調味料として働き、本来以上の味を引きだしているせいなのだろうか。

しかしそれに見とれている暇なんてない。
ここも思っていた以上に死角となってはいなかったのだ。
ならば名残惜しいが、急がなくてはなるまい。
見える範囲に限られるが、女子トイレには人の影も気配も無いので、
誰かと相対してしまう可能性を考慮する必要はなさそうだ。

俺は姿勢を低くし、壁に色んな部分を擦り付けつつも必死に登っていく。
さながら不格好なハサミ跳び、或いは壁を這う蛇といった様相だろうか。
どちらにせよ醜いことには変わりない。
じりじりと引き伸ばされたような時間の中を、焦りと慎重さのバランスを保ちつつ進み。
身体の半分が新天地へと乗り入れ。

やっとの思いで。

壁の向こう側の地へと、降り立ったのだ。
俺は勝利したのだ。試練を越えたのだ。
沸き上がる心内での歓喜。
荒ぶっていた心拍も、今度は期待感によって高鳴り始めた。
けれども俺を支配していた感情の大部分は、そのように躍動感溢れるものではなかったらしい。
その証拠に、

「ぷぅ……」

安堵の溜息が、第二の口から漏れたからだ。
79創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 23:45:54 ID:4CK1Tkro
激戦を制した俺は、急激な安堵による脱力感に襲われていた。
軽い立ちくらみや動悸などを含んだ、よくあるアレだ。
とはいえこんな所でヘタりこんでいる場合ではない。
完全遂行。最後まで完璧にやりとおさなければ意味がない。
頭隠して尻隠さずでは駄目なのだ。
俺は油断するなと自身に言い聞かせ、隠密のように女子トイレ内へと忍びこんだ。
最初に目に飛び込んできたのは、ピンク色のタイルに彩られた日常的には見慣れない空間だった。
その後で、男性用小便器がないことに些かの違和感を抱いた。

まず無いとは思うが、陰に誰かが潜んでいたりしないだろうか。
俺は逃げる体制を整えてから念の為にと室内を見まわしてはみたが、皆目、人は見当たらなかった。
男子トイレと同じく4室用意されていたトイレ個室も、読み通りOPENとなっている。

なにはともあれ、今回こそは俺の完全勝利に違いない。

前回、辛くも経験させられた不在の神という恐怖。
圧倒的勝利からの挫折感。
あれを忘れることなど到底出来ないが、だからといって立ち止まっている訳にもいかない。
一歩、一歩。
沁み出してくる不安を抑えつつ、俺は手近な個室へと歩み寄り……。

「ふふん……」

ニヤリ、と笑みを浮かべた。
どうやら、ここには神がいらっしゃったようだ。
それもロール一個分だけではなく、貯水タンクの上にこれでもかと言わんばかりに三個。
まるで御神体のように収められていた。
機を得た俺は、意味も無く残りの個室も探りにかかった。
するとあるわあるわで、全室に鎮座なされていたのだ。

祝福だと思った。
そしてこれは、天からの賜りものなのだと悟った。
80創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 23:47:27 ID:4CK1Tkro
おっと、俺としたことだ勝利に酔ってしまうとは情けない。
まずは逃走経路の確保を優先しなければな。
俺は当初の手筈を思い出し、女子トイレの窓を開けた。
それから最奥トイレ個室へと進入し。
ついに、念願のトイレットペーパーを手にすることができたのだ。

その柔らかで、何もかも包みこんでしまうような質感。
清潔さを具現化したような純白。
肌理細かな滑り具合。

素晴らしい。
こんなものが世俗に塗れ、最も汚れているであろう場所に存在していたとは。
俺が今まで目にしてきた世界とは、一体なんだったのであろうか。
俺はありとあらゆる感慨に襲われ、ありとあらゆる感情の荒波に身を投じた。
間断なき情動にも駆られ、心底からの雄叫びをあげたいほどに神経も高ぶったが、
それは流石にはしたないと考えなおし、涙と共にぐっと堪えた。
かのようなものを一頻り味わい終わると、トイレットペーパーを真摯な気持ちで見つめてみる。

ごめんよ。これからお前を千切らなくてはならないんだ。
俺の汚点を拭えるのは、お前しかいないからな。
こんなにも勝手な俺を許してくれなどと欺瞞に満ちたことは言わない。
だけど俺は、お前のことを生涯忘れないと誓う。
俺は違うから。
用が済んだら掌を返し、汚物を見るような眼で流し捨てる連中とは違うから。
だから悲しまないでほしい。お前は俺のなかで生き続けるのだから。

さあ、今すぐ拭わなくては。
一刻も早く穢れを払い去り、綺麗な体へと戻らなくては。

胸一杯の感謝の印としてトイレットペーパーを撫で廻し。
俺は、それを千切り取った。
81創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 23:48:00 ID:WKBLVoe5
これは勝ったか!

>>77
実際大した時間は経ってないんじゃね?
82創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 23:48:34 ID:4CK1Tkro




             終了条件達成



83創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 23:49:47 ID:E0r6xhCk
変態だw
84創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 23:52:38 ID:WKBLVoe5
割り込んじまった
しかもすげーいいところで

スマン
85創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 23:53:10 ID:4CK1Tkro
鍵の掛かった女子トイレ個室にて。
俺は声を殺して笑っていた。
紙で山間部を拭う度に、自身が犯してきた過ちが絡め取られ、
渇きに餓えてはいるものの、健康的な茶色の筆となり、
真っ白なキャンパスを豪快に描きあげていたからだ。

そしてそれがどうにも愉しく、どうにも快感だった。

けれども、やはりと言うべきか。
あれほど自戒したというのに、俺はまたも油断していたらしい。
決定的なミスを犯していたのだ。
女子トイレを目指す前、男子トイレの個室内で考えていた、公衆トイレに纏わる様々な逸話。
そのなかの一つにこういう話があったことを失念していたのだ。

公衆トイレは汚れ易い。

これだけでは至極、真っ当な見解で、当たり前にも思える。
だがそうではない。重要なのは、トイレが汚れることじゃあない。
その先に生まれくる疑問だ。

そう、汚れ易い筈なのに、どうしてこうにも綺麗なのか?

答えは簡単だ。
いとも端的で、有り来たりなものなのだ。
それを仕事とする、清掃員の方々がいらっしゃるからである。

「誰か入っているのかい? ごめんねぇ、掃除するから早めに出てきて貰えんかねぇ?」

今現在、中年とおぼしき女性が扉をノックしている。
俺が身を隠している、個室扉をだ。
86創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 23:54:11 ID:YkL+Js+t
成功したのかw
しかし「第二の口」ってw
87創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 23:54:42 ID:Ym5KPWSz
これはwww
成功から奈落へw
88創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 23:54:51 ID:YkL+Js+t
うおおおおお!?
89創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 23:56:00 ID:WKBLVoe5
うわぁぁぁぁぁぁぁ!!
これは予想外です!!
90創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 23:56:02 ID:4CK1Tkro


              Stage.2


              終了条件

  誰からも視認されずに「男子トイレ個室」への到達



91創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 23:58:22 ID:4CK1Tkro
小目標 『清掃員の眼を盗み、女子トイレから脱出する』


俺は慌ててノックだけを返した。

非常に危険だ。
ここは女子トイレである。
つまり、清掃員を追いやる為に俺が”声”を用いたりすれば、
この中には男である俺が入っていることが発覚してしまう。
もし女子トイレ内に男が……。
それも下半身に粗末なものを遊ばせた状態で居ることが公けになれば。
変質者認定を受けてしまうのは免れない。
むしろ、暴漢と一方的に決めつけられ、社会的な檻の中へと投じられてしまう恐れもある。
仮に、裏声や声帯模写などという器用な真似が出来るのならまだ何とかなりそうでもあるが、
とっくに変声期など過ぎ去り、モノマネ芸人でもないこの俺が。
そんな芸当、果たして行えるのだろうか?

クソッ、絶体絶命じゃないか。

折角、尻からは拭きとったというのに、今度は状況がクソ以下になりやがった。
どうすればいい。
どうすれば、このクソったれな戦局を打ち破れる?

どうすれば……。
92創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 23:59:36 ID:E0r6xhCk
ステージ2があんのかw
93創る名無しに見る名無し:2009/01/21(水) 00:00:16 ID:PmXN/l0Y
粗末なものwww
94創る名無しに見る名無し:2009/01/21(水) 00:00:28 ID:4CK1Tkro


SHIT 〜公衆トイレからの脱出〜  (第二章 後編)  終


次回 ”〜危機的状況からの脱出〜  (第三章)”

尻が拭えても次回へとつづく
毎度ながらの支援感謝です
95創る名無しに見る名無し:2009/01/21(水) 00:02:23 ID:PmXN/l0Y
投下乙w
比喩表現が独特で読んでて気持ちがいいんだぜー
96創る名無しに見る名無し:2009/01/21(水) 02:46:24 ID:uh5z7CyS

せっかく紙を手に入れたのに…
この状況はまさに絶体絶命
用足しに来た人なら黙って待ってればそのうち去ってくれるだろうけど、掃除のおばちゃんじゃそうはいかないもんな
97創る名無しに見る名無し:2009/01/21(水) 18:59:51 ID:HUfZ/SCV
SIREN意識してる?
98創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 01:34:10 ID:BlOY3Zm5
「お早目にねぇ」

奈落へと誘う宣告が、陰鬱な室内を木霊した。
俺は微かな物音や呼吸音すらをも抑えるように努める。
なにぶん、こういう状況に陥るのは初めてのことなので、
何を取っ掛かりとして男であることが発覚してしまうかが不鮮明であり、
一般的には取るに足らない些細なミスすらも、
この場に措いては致命傷となってしまうのではという恐怖心に駆られたからだ。

どうすればいい。
俺は、どうすればいいんだ。

雑多な知識群が脳内を駆け巡り、様々な思い出がフラッシュバックするものの、
扉の前で待ち構えている相手を陽動しなければならない事態などは、今まで経験したことも予測したこともなかった。
故に有効手段が浮かばない。
光明が見出せない。

どん詰まりだ。
袋小路。
文字通り、四角の部屋には出口がないのだ。
だが諦めるな。
回生の一手は必ずあるはずだ。

俺が諦め投げ出さない限り、切り抜けるに足る手立ては存在しているに違いない。
99創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 01:35:24 ID:BlOY3Zm5
俺は極限まで意識を集約させ、頭を働かせることだけに力を注ぎこんだ。

扉の前にいる相手を動かすとした場合、普通ならばどうする?
もし俺が声を使えるのならば、いくらでも方法は思い当たる。
例えば、ここから一時的に去ってくれるよう誘導、或いは直球で頼めばいいだけだ。
仮にそれが不自然だったとしても、姿を見られる前に逃げ切れれば勝ちなのだから。

しかし、当の俺は声を使えない。
一体どうすれば……。

行き当たってしまった場合、同じ思考形態に捕われていては駄目な気がする。
前回も常識の壁という罠に堕ちていたのだ。
ならば今回はどこから考えるべきなんだ?
どこから……。
そうだ、まずは逆説的に考えてみよう。
俺は、声を使えない。
だったら、声に代わる手段は何かないのか?

声は音だ。
ともなれば必要なのは、音を出すに代わる手段となる。
何か、音を立てられるようなもの。
何か……そうか。

物を投げる、というのはどうだろうか?
100創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 01:37:34 ID:BlOY3Zm5
そういえばスパイ映画などにおいて、
コインを用いて注意を引き付けるシーンを目にしたことがあった。
あれはどうだろう。
この個室から外へ硬貨を……。

いや駄目だ。
どう考えても不自然すぎる。
上から投げれば目視される危険性を孕むし、下から転がせば投げた時点で音が出る。
即ち、俺がやったことがバレてしまう。
それでは陽動として成立しない。
そもそも、コインの落ちる音程度で誘導できるとは考え難い。

さらに厄介なのが、一度陽動に失敗すれば相手の警戒心をより強めてしまい、
次手を打つ際、飛躍的にその難度が上昇してしまうという点だ。

第一。
俺は財布を所持していないのだ。
何故ならば財布はズボンに入れるタチなので、現在もズボンのなか、
つまりは男子トイレ個室の貯水タンク上に置き去りとなっているのだから。
101創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 01:39:25 ID:BlOY3Zm5

「あのー、シノザキさん。ちょっと来てくれんね?」

新たな声が聴こえた。
男性だ。
語感からして、女性と同じ年の頃のように思えるが。

「どうしたん?」

女性(シノザキと言うのだろうか?)が返答しつつ、タイル床を踏む音をたてた。
音の方向から察するに、どうやらトイレ入口の方へと移動したらしい。
恐らく、先の男性が女子トイレに入ることを躊躇した為だろうか。
どちらにせよ女性に話掛けたということは、男は彼女の知り合いであることになる。

「へぇ……ああ……なの?」

女性が男性と何か言葉を交わしているらしいが、その内容までもは聴き取れない。
立ち位置が女子トイレ入口という開放的な場所なため、ここまで音が反射してこないのだろう。

だとしたら、この隙を衝けば窓から逃げられる可能性も……。
待て、焦るな。
入口に居るってことは、当然ながらこの場所も丸見えのはずだ。
そんな状態で俺が扉を開けば、どう考えたって視線を浴びるに決まっている。
それも二人分のだ。
が、運がよければ逃げられるかもしれない。
しかし逆に言い換えれば、運が悪ければ捕まってしまう。

運否天賦。
それでは駄目だ。
もっと確実な方法でなくては。
102創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 01:41:55 ID:BlOY3Zm5

すべての情報を練り上げた結果、俺は道具に頼ることとした。
自身の身体や力技だけでは、どうしようもないという結論に至ったからだ。
すぐさま狭い個室内を見回し、同時に所持品を探ってみる。

室内で使えそうな物は……トイレットペーパーくらいか。
俺の所持品では……身に着けている上体部の服と、靴、靴下。
あとは上着の胸ポケットに入れておいた、割と値の張る携帯電話のみ。

有効そうな物は実質的に、携帯電話ただ一つしかないじゃないか。

それらを確かめた俺は、次に女子トイレ内の構造を思い浮かべてみた。
俺が入っているのは女子トイレ最奥の個室だ。
開きっ放しとなっている窓は、この個室を出てすぐ左手の位置にある。
とはいえ個室扉の陰に隠れて力任せに脱出、なんてことは不可能だ。扉は内開きだからである。
個室間の天井部には俺が超えられるだけのスペースがあり、下には潜行不可な20cm程度の隙間がある。
他に特筆すべき点といえば……。
個室トイレの扉は、デフォルト状態で閉まっているということくらいか。
つまりOPENの文字を確かめない限りは、中に人が入っているかどうかは不明という造りになっている。
本当の所は俺が知る由もないが、一つだけ扉が閉まってたりすれば必要以上に使用中であることが目立ってしまうから、
という点に配慮した造りとなっているのだと思われる。
俺はかつて、女性は用を足す際、排泄音をかき消す為に水を流し続ける生き物なのだと耳にしたことがあった。
それが一般的なのかどうかまでは知らないし、面と向かって女性に訊ねるのも変な話なので確証は持っていないが、
極度の照れ性な人物を想定してみれば、この説の有効性と真実味も増してくるというものだ。

って、そんなことはどうでもいいんだった!
103創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 01:44:11 ID:BlOY3Zm5
焦るな。
落ち着くんだ、俺よ。

こういうのはどうだろう。
上のスペースを活用し、あの壁を越えた時のように死角を利用して……。
いや、それでは明らかに不審な物音を立ててしまうか。
どう考えたって使えない。
じゃあ……。

様々な案が浮かんでは同じ分量だけの欠陥が見つかり、あっという間に否定の海へと沈んでいく。
やがて幾度も繰り返す思考の渦のなかに、諦めという文字すらも含まれはじめた頃。

俺は、ある画期的な方法を編み出す取っ掛かりを掴み掛けていた。
それは携帯電話の目覚ましタイマーをセットし、その音で陽動するという方法である。
タイマー音に如何にもな着信音を割り当てておけば、
コインなどよりは遥かに高い陽動効果が得られるに違いない。
けれども、この個室から音が鳴り響いていては何の意味もない。
従ってどこか別の場所に設置しなければならないことになる。

設置場所としてすぐに思い当たったのは、隣接している別の個室群の中である。

もし、別の個室にコレを置くことができれば。
もし、そこから着信音が鳴り響けば。
それを聴き取った大抵の人達は、いや、恐らく全ての人達が。
確実に気を取られることになるだろう。
俺だってOPEN状態の個室の中で携帯電話が鳴り響けば、なんだなんだと引きつけられてしまうに違いないからだ。
もし難聴の方々を相手にするなら話も別となるが、あの女性は会話できているのだからそれも有り得ない。
つまり、この方法は陽動として通用する。

延いては、『忘れものなのでは?』という思考へと発展し、手に取ろうと動くだろう。
ましてや相手は清掃員。
ある意味、忘れ物を確かめるのは職務上の義務とも言えるだろうし、
彼女の仕事経験が長いと仮定すれば、必ずや前例もあることだろう。
その一瞬の隙だ。
彼女が携帯電話を確かめるために、他の個室へと入った瞬間。
足を踏み入れ、俺が視野角から消えた瞬間。

疾風のように、窓を目掛けて吹き抜ければいい。

これだ。
これしかない。
他に方法がない以上、これで行くしか道はない。

避けられないリスクを憂慮し、嘆くのは。
全部、後回しだ。
104創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 01:48:01 ID:BlOY3Zm5
そうと決まれば残る課題はあと一つ。

どうやってその場所まで携帯電話を移動させるか。

これだけはどうしようもない。
投げれば不審な物音は確実。滑らせてもそれは同様。
そうなってしまえば陽動以前に怪しまれる。
一度でも安泰の道から足を踏み外せば奈落への転落は免れない。
加えて、有効な道具さえも失ってしまう、積み状態へと事態は化す。
ならばチャンスは又と無い。
最初で最後、唯一無二な起死回生の攻手。
それを活かさなければ。

ベストは無音だ。
音を立てずに物を移動させる方法。
或いは勘付かれない程度の物音しか立たない方法。
それでいて、なるたけ遠く離れた個室まで移動させなければならない。

何がある?
何が使える?

クッションのようなもの。
そして、転がせるもの。

そんな物がこんな場所に都合よく……。

違う、あるじゃないか。
そんな物が、この場所にはあるじゃないか。
これだ、これ。

トイレットペーパーだ。
105創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 01:52:08 ID:BlOY3Zm5
思い立ったところで貯水タンクの上から新品のロールを掴み取った。
その芯部分を覗いてみる。
使えそうだ。
ここに携帯電話を仕込めば音無く転がせる。
問題は携帯電話を差しこめるか否かであるが……。

俺は上着の胸ポケットから携帯電話を取り出した。
そしてロールの空洞部分とのサイズ差を比べてみる。

これは……いける。

光明を見出した。
流行りなどに乗せられ、日々小型化する携帯電話を買っておいたのは僥倖としか言えない。
いや、もしかするとこれも神の導きなのかもしれないが。
もちろん、サイズが足りなければ芯を抜いて穴を拡張するなどの対策を用意してはいたが。
それに掛かる時間を短縮できたというのは、どちらにせよありがたいことには変わりない。
ともかく、やや強引に押し込めば入りそうだ。

不意に、遠くから女性清掃員の笑い声が聴こえた。
会話は依然として継続中のようである。

さて、使える時間は限られている。
俺は迷いなく携帯電話をロール中心部へと押しこんだ。
そして重みが増したロールを個室内で転がしてみる。
ころりころりと慣性に従って転がっていく。
一瞥しただけではまっすぐな軌道を描いて転がっているようにも見えたが、
若干ながらも重心が傾いていたのを俺は見逃さなかった。
俺はもう一度ロールを手に取って、携帯電話の位置を調整し直してから転がす。
よし、一回目よりはマシになっている。
でも……まだだ。まだ完璧じゃない。

俺は何度も何度も神に祈り、時間の許す限り試行錯誤を続けた。

程無くして。
俺はようやく、納得のいく結果を得ることができたのだ。
あとは待とう。
現在会話中の女性清掃員。
彼女が一人きりになる、その時を。

火ぶたが切られる、その瞬間を。
106創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 01:55:07 ID:BlOY3Zm5

コツリと単調な足音が響いた。
次いで声。

「まだかいね? それとも何か、悪いものでも食べたんね?」

来た!
待ち構えていた俺は、即座に嚆矢を放つ態勢を整えた。

慎重にだ。
ミスは許されない。
音をたてず、且つ出来るだけ遠くの位置まで転がせ。

俺は自分自身へと言い聞かせる。
手にした純白のモノに、祈り、願い続ける。
ざわめく心拍と、震える腕の力加減を調整していく。

心境は複雑だ。
成功を強く願えど、もし失敗したらという闇は絶対的に払えない。
しかし一瞬だけでいい。
俺が投げるその瞬間だけは、雑念に振られず、最大限の力を発揮させてくれ。

願う。
言い聞かせる。
飽きるほどに心内で繰り返し、神経を恐怖へと順応させる。
余計な考えを、渦の彼方へと汲み捨て続ける。
かのようにすべての準備が整い、不安が確信に変わった瞬目を衝き。

俺は、ロールを転がした。
107創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 02:01:32 ID:BlOY3Zm5


SHIT 〜危機的状況からの脱出〜  (第三章 前篇)  終


次回 ”〜危機的状況からの脱出〜  (第三章 後篇)”

強敵『清掃員のおばちゃん』との戦いは次回へとつづく
馬鹿っぽいけど書くのが意外と面倒なこの話に、どうして俺は心ケツを注いでいるのだろうか
108創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 02:10:00 ID:0SaEvD7J
投下乙
最近の俺の毎日の楽しみなんだぜー

リアルタイムで支援できなくてごめんよぉ
109創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 02:13:13 ID:bIaKTJRv
毎度毎度盛り上げるなあ…
荒木に漫画化してほしいw
110創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 02:16:59 ID:0SaEvD7J
自分の携帯もトイレットペーパーの芯に入る事を確認

これで不測の事態にもばっちりだね☆
111創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 03:11:39 ID:myi78KR6
きてた!投下乙
まさかトイレットペーパーに入れるとはww
フルチンマンの発想すげえ
112創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 03:36:14 ID:kodBRuMH
清掃員の人から携帯を回収する際に襲い掛かるであろう、『なぜ女子トイレにあるのか』『なぜ私が持っていることを知っているのか』という2つの問いを突破する方法が俺にはまったく分からん。
これは続きが気になって仕方がないぞ。
俺の予想では、必要な犠牲として見捨てるんだが。
どんなケツ末が待っているのだろうか。

ってか早く寝ろって時間だなw
更新ガンバ。ノシ
113創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 11:18:27 ID:3EeRhIgv
問題は、後でどうやって携帯を回収するかってことだなw
114創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 18:04:31 ID:bLh1Czis
携帯はなくなると困るからな
115創る名無しに見る名無し:2009/01/31(土) 13:44:44 ID:A4InzBMi
もっかい最初から読んだけどやっぱりいいな
116創る名無しに見る名無し:2009/02/03(火) 15:05:38 ID:uIpnNl/r
今読んだがコレはいいな。
スレの最初は無人島だの豪華客船だの言ってたのに、
トイレ氏が"脱出もの"の概念を大きく広げてしまった。
117創る名無しに見る名無し:2009/02/03(火) 15:49:33 ID:sHNiIdzK
トイレ氏www
118創る名無しに見る名無し:2009/02/03(火) 18:39:58 ID:o/+4asZV
トイレ氏ってww
119創る名無しに見る名無し:2009/02/08(日) 19:55:55 ID:45WEgH6Q
更新期待sage
書くの大変だとは思うけど頑張ってほしいぜ
120 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2009/02/08(日) 19:57:46 ID:AF7fV2Ia
応援レス入れ
121創る名無しに見る名無し:2009/02/09(月) 00:30:00 ID:lH7y7vBf
トイレ氏を応援する意味で、
ニートからの脱出というテーマの話に着手したが
主人公にどんな負荷をかけても働く気を出せる兆しがないので筆を投げたw
テーマのハードルが高すぎた
122創る名無しに見る名無し:2009/03/09(月) 17:25:09 ID:+39KY8x2
トイレ氏来ないかなー
123創る名無しに見る名無し:2009/03/11(水) 20:22:45 ID:lbwX5nkq
俺も待ってる!
124創る名無しに見る名無し:2009/03/13(金) 12:40:53 ID:AfwZbM4U
じゃあ俺も!
125創る名無しに見る名無し:2009/03/20(金) 19:08:53 ID:WMAgnbcd
 __
(O)  )
| ̄ | 
|保 |
|守 |
|   |
 ^^^
126創る名無しに見る名無し:2009/04/09(木) 02:03:40 ID:OUidAoK/
ククク……いいのかい……?

        デス・ペインズ
こうも安易に  規制  から解き放ったりして……
127創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 22:57:28 ID:076Dr5en

     SHIT 〜危機的状況からの脱出〜  (第三章 後篇 一節) 


                『前回までのあらすじ』

  些細なことが発端となり、公衆トイレに閉じ込められてしまった主人公(男)
   彼は色々と思い悩んだ末に、女子トイレへと進入することを決意する
    で、色々あったせいで携帯電話入りトイレットペーパーを転がした
128創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 22:58:15 ID:076Dr5en
行け、行ってくれ!
俺はただそれだけを願い、自身の頬がタイル床で汚れるのも構わずに地へと這いつくばった。
すかさず、狭い視界に焦らされながらも、この手で送りだしたそれを見守りにかかる。

一縷の希望を乗せた純白の船は、絶望の海をゆらりゆらりと漕いで行く。
その船の造りはこの目で何度も確かめ、さらに重心調整を施したとはいえ、軌跡は至って不安定。
さながら、荒海を駆ける箱舟だ。
天が与え給うた全世界を揺るがす恐慌を乗り切る、頼り無い一隻の人工物。
しかし、未来へと繋がる確かな布石。
例えその見た目がトイレットペーパーという世俗味溢れるものであったとしても。
この終末的状況下におかれた俺にとっては、何物にも換え難い命綱なのである。

俺こそがノアだ。
名工手にして名船主、ノアなのだ。

ノアの箱舟。
古くは旧約聖書の中で語られ、昨今まで伝えられてきた神話。
それが今、この瞬間。

蘇ったのだ。
129創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 22:59:02 ID:076Dr5en
狙い通り、純白の船は最も離れたトイレ個室を目指して航行を続けおり、
俺はというと、自身のやってのけた大義によって歓喜に打ち震え、勝利のポーズを決めようと立ち上がった。
その直後だった。

「……ん?」

不意に、女性清掃員が声を漏らしたのだ。
そしてそれには明らかな不審の気が含まれていたことを、俺は聞き落とさなかった。

まさかとは思うが、トイレットペーパーが転がる際に発している音を聴き取ったとでもいうのだろうか。
いや、まさかな。
確かにトイレットペーパーは床を転がりはしたが、
その音は転がした張本人である俺にさえも聴き取れるか否かという瑣末な物であった。
そう、自覚できないほどに小さいながらも身の回りに絶えず溢れている環境音。それに容易く掻き消されてしまうほどにだ。
だったら、トイレットペーパーが転がっているという事実を知らない清掃員にとって、それを聴き取るのは至難。
どう考えても知覚できるはずがない。

だったらどうして、清掃員は声をあげたのだろうか?
何も無ければ声をあげる必要性などないはずなのに。

沁み出してくるような不安。
身体を掻き毟りたくなるような焦燥感。
そして、何かが起こったのだという予感。もとい、確信。

すぐさま、且つ再び。
俺は地に伏して、船の行方を探りにかかった。
すると――。
130創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 22:59:58 ID:076Dr5en
なっ!?

思わず口に出しそうになった吃驚を、慌てながらも唇を噛むことで強引に抑えこんだ。
状況は、想像を絶していた。
心胆を寒からしめる具合、とでも言えばいいのだろうか。

あの時点までは完璧なはずだった。
ゆらり、ゆらりと振られる小舟を目的地まで導く、俺の投球。操作。コース取り。
その点については、この上なく完璧だった。
しかし一点だけ。

力加減。

投げる瞬間、プレッシャーを跳ね除ける為に俺がとった自己暗示の手筈。
或いは、『陽動手段をより遠くへと送り、対象を少しだけでも自身から遠ざけなければ』という深層恐怖心。
加えて、俺が居る狭い個室内では遠くまで転がす練習が十分には行えず、
転がす場所までの距離を目測で図るにしても、床からの視点の低さと、僅か20cm程度の隙間からしか覗けなかったという点。
それら全ての要因が妙絶に重なりあい、そこに一滴の”偶然”が加味されたことによって生まれてしまったのだ。

この状況が。

きっと、あの瞬間の俺は力みすぎていたのだろう。
より遠くへという想いが箱舟へと伝わり、箱舟は俺の想いを受けて必死にも漕ぎ出していった。
タイル床の上をだ。
そうなのだ、タイル床の上を、なのだ。
網目模様に彩られ、緩やかにも凹凸としており、細かい線群が連なり、溝を造っているタイル床。
その地表を転がっていたからこそ、船はゆらりゆらりと振られていたのだ。
箱舟には積荷として携帯電話が差しこんであるといえど、その重量は高が知れている。
軽い物体は僅かの傾きや、僅かの障害物、衝撃の影響すらも大いに受けてしまう。

つまりは。

箱舟は、確かに新天地へと辿りついていた。
しかし功を焦るパイレーツのように勢いづき過ぎており、そのまま奥の壁へと激突してしまった。
激突した衝撃は反作用を生み、それを受けた船は当然ながらにも反対方向へと進もうとする。
その際、僅かの歪みを抱えていた箱舟は進路を狂わされ、あまつさえ荒波のようなタイル床に舵をとられて……。

結果、暴走することとなった。
船は勢いを殺し切れずにあらぬ方向へと進み行き、波に揉まれながらの難航を極め。
最終的にはトイレ個室出入り口扉、その真下あたりで止まってしまった。
扉の真下。
つまりは、個室と女子トイレ空間を隔てている壁の中間点。
そこにトイレットペーパーが転がりでたからこそ。それを女性清掃員が目にしたからこそ。
彼女は、先の一声をあげたのだろう。
トイレットペーパーの現在位置的に考えてみれば、彼女の視線の先には、チラリと純白が見えていることになる。
これらが何を意味し、これから何が起こるのかは、もはや考えるまでもなかった。

どうやら、暗礁に乗り上げちまったのかもしれない。
箱舟が?
違う、俺の人生が、だ。
131創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 23:00:57 ID:076Dr5en
コツリ、と床が鳴った。
女性清掃員が一歩目を踏み出したのだろう。
それによって出来ることならば信じたくはなかった悪い予感が、紛れもない現実のものとなり、
その代わりとして有り得ないと思いつつも抱いていた僥倖という名の期待感は、粉々に砕け散ってしまった。

恐らく、あの女性清掃員はこう考えている。
扉の下からチラリと見えているトイレットペーパー。
何故かは知らないが、そんな場所にそれがあるのは変えようのない事実。
ならば、隙間に手を差し入れ、それを手に取らなければ、と動く。
さらにその先は推測を重ねる訳であるが、貯水タンクの上にペーパー群が積み上げてあった事から察するに、
前回、それを並べたであろう彼女は落ちていたトイレットペーパーを元あった場所へと戻そうとするはず。

それが単なる変哲なき、トイレットペーパーであったとすれば、だ。

しかし俺が転がしたものには細工が施してある。
不自然にも携帯電話が差し込まれているのだ。
だったら彼女は、どう動くのだろうか。
少なくとも手に取ったトイレットペーパーの芯部分を見て、訝しむことだろう。
そうだ、誘導先のトイレ個室内には踏み入らず、その場で……要するに、女子トイレ内を見渡せる位置で思案するはずだ。
やがて、そうこうしているうちに携帯電話のタイマーが作動し、仕掛けておいた曲が流れだすこととなるのだろう。
そこから先となると……俺には予測不可能。全くの未知数だ。

しくじった。

あのような位置を意図的に狙い、トイレットペーパーを転がせるのであれば、
初めから細工を施さずに転がし、彼女に拾わせるべきであった。
だが、それを狙ってできるような力加減が俺に出来たかと問われれば、どうも怪しく思えたのは言うまでもない。
だからこそ、俺はそれをしなかったのだ。
なんてことだ。
最善を尽くしたはずの行動が、完全に裏目に出てしまうとは。

考えてもみれば。
初めから……そうだ、初めから。
身の程をわきまえて、負け犬のように不快感と一緒に、ズボンを穿き上げておけばよかったのだ。
そうしていれば、ああしていれば。
こうもまでも悉く、何度も何度も期待を裏切られ、絶望に打ちひしがれ、恐怖感に苛まれ。
苦悩することもなかったのに。
やること成すこと失敗せずに、徒労感によって疲弊してしまうこともなかったのに。

俺は。
俺は、もう――。

駄目なのかもしれない。
132創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 23:02:35 ID:076Dr5en
成す術も、打てる手立てをも失ってしまった俺は、ベッタリと地面に座り込み、
汚れの象徴ともいえるトイレ床の御慈悲を、人体でもっとも汚い部分を通して全身に浴びていた。
もうじき、俺自身もこの床のように汚れた存在となるのだろう。
物質的に、そして、社会的に。
お先、真っ暗だ。
僅か寸時前まで抱いていた輝かしい未来へのビジョンが、
焦げ茶かかっている淀んだ空気によって侵食され始めたのが、俺にはハッキリと見て取れた。

それに続いて、まるで尻子玉を抜かれたかのように動けなくなってしまった俺を宥めるように、
パッヘルベルのカノンが、女子トイレという限られた空間内を厳かに満たし始めた。
携帯電話のタイマーが作動したのだ。
かつて、未来への第一足を祝福するはずだったそれは、今ではもう、送葬曲にしか聴こえなかった。
繊細で優美な旋律が、下劣で剥き出しな俺という存在を、闇のなかへと誘う合図。
まさに終焉。
箱舟は沈み、世界は滅びるのだ。

パンドラは絶望の印。
箱舟もまた、それと同等。

神が下す試練は、いつの世も辛苦に塗れたものであることを。
そしてそれは、運に、いや、天に見放された人間が到底超えられるものではないことを。

俺はこの時、悟った。
133創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 23:04:38 ID:076Dr5en

SHIT 〜危機的状況からの脱出〜  (第三章 後篇 一節)  終


次回 ”〜危機的状況からの脱出〜  (第三章 後篇 二節)”


新たなる神話ともなりえるトイレの試練は次回へとつづく
暫くぶりに書いたので前回の予告や文体などと帳尻のズレが見え隠れしてはいますが、
物語が向かう先は同じく尻なので、なんら問題はないのです、たぶん
ついでに些末事ではありますが、当初の目論み通りに進めばおそらくは次回か、次々回で完ケツ予定となっております
季節が変わるほどにゆっくりしすぎたこのスレからの脱出も、ようやくにして…
134創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 23:06:23 ID:1Xy7x15S
おおおおおおおおおおおおお!トイレのやつ来た!これで勝つる!
135創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 23:09:51 ID:mT+HD9qL
帰ってきた!おお帰ってきた!トイレ氏が長き眠りから帰ってきた!
時間たってるのにこの緊迫感、すげぇ
フルチンマンの未来はこのままこげ茶時々黄色になってしまうのか
136創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 23:23:57 ID:1Xy7x15S
しかしなんというピンチな状況
果たして彼は脱出を果たすことができるのだろうか
137創る名無しに見る名無し:2009/04/25(土) 18:59:41 ID:jyazgxN+
                 ♪
              ♪ | //♪
               - 、        
             /(( ))
キタ━━━━━━━(   "/━━━━━━━━!!!!!!
             ー ' 

トイレ氏の文章 (゚∀゚)スキー!!
138創る名無しに見る名無し:2009/05/03(日) 20:38:46 ID:4D+GkXbu
続きまだかなぁドキドキ
139創る名無しに見る名無し:2009/08/08(土) 09:38:03 ID:DnqYRwhd
保守
140創る名無しに見る名無し:2009/08/08(土) 13:23:23 ID:k15s1Rel
ここも見てる人いるんだなぁ
141創る名無しに見る名無し:2009/08/08(土) 13:25:14 ID:HEq+yv3J
専ブラだと書き込みがあると思い出したり
142長門有希の逆襲の作者:2009/08/08(土) 13:46:46 ID:uZx1ZXs/
ちょっと俺のスレから転載する。
よろしく。
143長門有希の逆襲の作者:2009/08/08(土) 13:47:52 ID:uZx1ZXs/
長門有希の逆襲
1


気が付くとそこは桜の木下

「長門。お前が好きだ」「・・・・・・」
沈黙。
頬を赤らめながら俺は考えた。何故こんなことを言ったのか、を。大体長門に告白なんか考えた事もなかったぜ
「・・・・・・わかった」
は?
「わたしも」
え?長門?
お前そんなキャラだった?いやいやいやこんなことになっても結局夢おちなんだろ?相手にしないぜ。長門!きっとハルヒのくだらん願望なんだろう?そうなんだろう。頼むから首を縦に振ってくれ。そして教えてくれ!
待て。何で俺はこんなに焦っているんだ?
こんなの誤解だと言えばいい話なのに。俺の中で何かが邪魔している!
くそ!


「カットです」
相変わらず笑顔でムカツクぜ。
「古泉。こんなシーンどこで使うんだ?」
笑顔のまま首を振る古泉。そんな古泉の代弁で我等が団長涼宮ハルヒが超監督という腕章を堂々と見せつけて叫んだ。
「長門有希の逆襲の冒頭よ!クラスメートの通称バカキョンが帰ってきた宇宙人の有希に告白するというシーンよ!」
よくそんな長い文章を息一つせず言いきれるかが気になるのだが。
公園にまたもや季節外れの桜なんか咲かせやがって。俺は溜め息をつき、呟いた。
「何故俺がこんなことをせにゃならんのだ」



そして学園祭の映画
長門有希の逆襲
の撮影が始まるのである。
144長門有希の逆襲の作者:2009/08/08(土) 13:49:00 ID:uZx1ZXs/
ごめんなさい。ハルヒスレ行きます。本当にごめんなさい!!
145創る名無しに見る名無し:2009/08/08(土) 13:54:50 ID:HEq+yv3J
誤爆ですたかw
ハルヒ総合スレの存在を知らなかったお
覗いてこよう
146創る名無しに見る名無し:2009/10/02(金) 19:00:00 ID:MemIQtqX
保守
147創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 21:09:52 ID:uHqUCK0j
何か脱出しようか
148創る名無しに見る名無し:2009/10/28(水) 21:20:14 ID:atPUhKfp
貧困からの脱出
149創る名無しに見る名無し:2009/12/09(水) 00:43:06 ID:/IfQJu0c
te
150創る名無しに見る名無し:2009/12/27(日) 00:49:56 ID:qXQRdkqc
更新停止からの脱出は…まだか…!
カムバーック!
151名無しさん@そうだ選挙に行こう
保守