じりじりぞわぞわくる…!
投下乙!
なんだこれ超かっこいい
世界観あんまりよくわからないけど続き期待してます。
>>128 動かせる→動かすor動かさせる
>>129 私設舞台
いや、ちょっと気になったので。
弐瓶勉っぽい感じですね。期待して続編待ってます。
「なんだ!?」
異様なものを感じて絶句する二人。
同時に顔を見合わせていた。
風の影響だというのなら、一体、どれほどのことがあったというのだ。
二人の不安を裏付けるように、その後再入電がくることはなかった。
仄暗い人口都市の片隅で、二人は今、決断を迫られていた。
「いつまでもこうしてはいられないな、当然ながら」
「選択肢は?」
「幾つもあるわけじゃあない。当初の予定通り、彼らの監視を続ける方針でいくべきだろう……ただ」
「ただ?」
「連絡がとれない状態で、どうするかだ」
霧一はいまだに連絡が取れない、手元のスティックを見やった。
「これではこちらから呼び出すことは出来ないと思っていい。しかしながら、指揮官なくして瓦解する軍のような真似も御免ではあるな…………!!?」
発電ユニットの向こうで物が落ちたような物音がして、彼は思わず腰を浮かせた。が、すぐに我に返った。
この女の方が落ち着いているじゃないか、情けない……。
立ち上がっていた彼は、ふと妙なことに気がついた。
信じがたいその事実を、霧一より先に露が口に出した。
「傾いている……?」
そう、床面、というより全てのものが傾斜していた。 この都市の構造くらいなら誰でも知っている。
簡単に傾くことなどは考えられない。
少々の地震などでは無論不可能なことであるし、この区域だけのトラブルだろうと考えた彼だったが、それはすぐに、端的事実に否定されることになる。
露の端末が示した島京の現在水平は、傍目にわかるほどはっきり傾いていたのだ。
地区によっては浸水が始まっている。
このとき、未だ島京湾は満潮を迎えてはいない。降り始めからの降水量、1000ml。
しかしながら水門が風によって破損したため、蟻の一穴が堤をやぶるがごとき状態にあったのだった。
このときなんと、島京の南側と北側では波高にして2m前後の差があった。
大時化という言葉では表せない規模である。
台風16号が、いよいよその片鱗を示し始めていた。
バイクの元に戻る二人。
そこで彼らは声に気づいた。近くの室から聞こえてくるらしい。
来た道には幾つもの区画のドアがあった。
唇の動きで会話をかわす。
(これでは上へ戻ることはできないな)
(でも、このまま……?)
(今のところは好都合だろう)
人声は途切れて聞こえてくる。
壁を一つ挟んでいることを考えると、鮮明に聞こえないのも無理はなかった。
どうやら、第7層を大陸棚から分離させるために、WP――例の巨大世界企業――が介入、人的な支援をしているということらしい。
聞こえている会話は、送り込まれた人員たちと計画者たちとのもののようだ。
「浮遊計画がこんなかたちで」
「ああ、しかし台風様々って」
「バカを言うな、こいつは」
いまひとつ会話の要旨はつかめないが、どうやらこの台風は、彼らにとっても桁外れに予想外なものらしい、と霧一は認識した。
支援
台風だから台風ネタを進める気になったんだなw
この規模を目の当たりにしていれば、それも無理からぬことではあった。
ここにいてこそ静かな島京ではあったが、上層部の破壊の程度はわからないわけだし、
それに六時間前の時点であれだけの轟音が都市を震わせていたのではないか。
まだ、台風は最後の、そして最大の力を人間たちに見せてはいない、というのに。
先ほどの通信からするに、オフィス機能は停止、通信環境は壊滅と見ていいだろう。
もっとも有線の通信環境なら利用できるかもしれないが、それもかなりの程度怪しいものだった。
そもそも有線で通信すること自体、この時代にはほとんどあり得ないのだから。
その時だった。
ひとつの足音が、こちらへ近づいてくる。
気づいている様子ではないが、油断はできない。
(霧一。これはどう……)
(やりすごして制圧しよう。一人のようだし)
(気づいているかしら)
(当然、気づいているかもな)
扉の右陰にはバイクと霧一。左陰には露。
入口に影が差し、侵入者の足が踏み込まれた。
瞬間。
露が内側から強烈な足払い、つんのめって泳ぐ体に霧一がタックル、後ろ手に倒して口を押さえる。
きっちり横向きに床へ頭を押さえつけると、同時に露がハンドガンをこめかみに擬した。
この間およそ、一秒。
ゆっくりと上体を起こさせる。
男は白衣を着ていた。
何が突きつけられているのかわかっているらしく、抵抗はしない。
(今君に押し当てているものが何か、わかるな)
目でうなずく男。
(よし、騒がなければ殺しはしない。質問に答えて貰おう)
(もし騒いだら……?)
目で問いかける男。
露は口を開くことなく静かに、銃床を握りしめると、渾身の力で男の頭を殴りつけた。
霧一が続ける。
(騒ぎたいのなら、騒げるかどうか試してみるといい。賢明ではないと俺は思うが)
ややあって。
隣室、発電ユニット室の一角に、三人の男女の姿がある。
会話は静かに始まった。
白衣の男はイシダと名乗る。
彼の言によれば、島京を離底させて従来の浮遊計画に準じた動きを取らせることが今回の計画の要旨であり、
WPはそれに乗じて多企業の連合自治委員会から抜け出し、この都市の覇権を握ろうとしているものらしかった。
複数の企業が一つの企業に変わっても問題はないだろう、ということらしい。
「電力が回復し次第、MR4Wドライブは起動できるのだが……」
「あのエンジンは完成していたのか! しかし、『だが』とはどういうことだ」
「なに、単純なことさ。この台風のために水中発破と離底ができない。浸水が進めば、
液体窒素で維持する高温超伝導エンジンは一度も稼働することなく沈黙する可能性だってある」
「それで、この都市をどこへ移動するつもりだったんだ」
「太平洋を横断するつもりだった、といえば大体わかるかな。今となっては実行できるものか怪しいものだが。
現在も、水中で技術者たちが発破に向かっているはずだが、風で土台そのものが揺れていると言ってきていた」
どうやら、計画は実行されつつあり、なおかつ水泡に帰す可能性が徐々に膨らんできているらしかった。
ここに及んで、霧一はひとまず安堵した。
最初の依頼はどうにか達成できそうなのを悟ったのだ。
さらに局面が進んでも余裕を持てるだけの主要な人物を人質とするという、良い札を引けたのかもしれない、と。
逆にイシダが疑問を抱いたのは、二人の素性であった。
「WPの部隊から、侵入者がいるかもしれないとは聞いたが、君たちは何をしているのだ」
「我々に、それを教えてやる必要性があるのかな?」
「…………」
「まあいい。要はWPの専横は捕捉されてたってことだ。」
「……それでこれからどうする」
「そちらにしても教える義務などないが……」
霧一は露を見やった。
「どちらにせよWPがこのまま主権を執れるとは思えないし、もう少し踏み込んだ話をしようか」
二人を目の前にして、霧一は語りはじめた。
本来、そうあるはずだった島京の姿を。
スレの要点になりそうだな
wktk
霧一が話し終えると、異様な静寂があたりを包んだ。
「俺は今回のことを、天が与えた契機だと考えている。もし第7層の『核』が、記されているとおり解放されるものならば、それは今を措いてない。
そうして新しい都市は、ここに生まれる。水底に縛りつけられていた幼生は羽化する、渓流の蜉蝣の如く」
彼は上を見上げた。暗い天井ではなく、星に満ちた天空がそこに広がっているかのような表情だった。
「俺は第7層へ向かい、核の封印を解こうと考えている。この期に及んで企業間のしがらみは考えない」
「ほう……」
「俺としては、そちらの様子がつかめたのが何よりの嬉しい誤算だったね。というわけで露」
「何かしら」
「イシダの見張りを頼みたい。こうなっては最初の依頼は果たされたようなものではあるし、武装した勢力と彼が接触さえしなければ阻害されることもない」
「…………」
口を開いたのは、露ではなくイシダの方だった。
「本当に行くのか。WPは……」
「WPは、なんだ?」
「さっきMR4Wドライブが完成していたといったろう? あれはナノマシンを利用する、高温超伝導のエンジンだ。知ってるな? ナノマシンが利用できるってことが何を意味するか」
「強化人間でも作ってるのか」
「もうちょっとましなものだ、戦闘用の……そうだな、元、人間というか、元、動物だな」
「ふむ……」
「提案だが」
「聞こうか、イシダ君」
「俺と彼女が同行する、というのはどうだ」
「二人してついてくる、というのか」
「足をひっぱることもなかろうし、そんな夢なら俺も乗ってみたいね、そういう夢が欲しくて俺は浮遊計画を復活させたんだ。
第一、浮遊計画とそいつは矛盾しないじゃないか」
「ふむ、第一段階で浮遊遊動型、第二段階でコア解放とでも言うつもりか」
「可能じゃないか」
ここは悩みどころではあった。第一、イシダの本心からの申し出かどうかわかったものではない。
その上、露のレベルを知っている霧一には、彼女が足を引っ張らないという確証は持てなかった。
作業服だけ見ると立派な工作員なのだが、へまをやらかさないとも限らない。
その上、移動手段が限られてくる。
いくらモンスターマシンとはいえ、彼のバイクには三人が乗るスペースはなかった……物理的に。
「申し出はありがたいんだがな、どうやって移動するつもりだ? 」
「エレベータを教えよう。大分スマートにたどりつけるはずだ。ただし、一層、15階ごとに乗り替えなくてはならない。」
短い間があって、イシダは付け加えた。
「ま、動けばの話だがな。恐らく動くだろうと思うがね」
リアル台風により投下が中断されたと独断で判断
投下乙! まってたよ
投下乙!
新キャラktkr
148 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/08(日) 02:10:27 ID:6aeUv1wb
第一層に立ってる高層ビルって上の方でつながってたりするんだろうか
隣のビルに行くのにいちいち地上まで降りるのはかなり面倒くさそうだけど
当然通廊とか吹き抜け廊下あると思ってて、そういう設定っぽく書いてみてはいる
>>149 やっぱりそうか
下に行く程貧乏人が多くなるイメージだっけ?
んー、豊かな都市ですよって設定なんで、スラムとかおおっぴらには書いてないや
まぁ誰かが書けばそれがデフォになるんじゃないかな
上の方のSSでもそういうのあったし
ありゃ、スラムメインの話書きかけてたんだけど、ひょっとしてマズかった?
んー、いいんじゃないかな?
みんなで作れるのががシェアードスレでしょー
恒星都市で海抜0m地帯ってのが出てるけど
それがいわゆるスラムに近いんじゃないかな、
狭山の活動範囲にはだれもいないみたいだけど。
これよりもう少し上なら普通に人いそうだよな。
高さ基準で考えると高層ビルの下の階に怖くて入れないなんてことになりそうで
だから同じ層の中でも高い天井で仕切られてるのかとも思ったけど
(上の層にも地面があってビルの途中に出入り口があるような)
そうすると下の層に日光はささないよな、とか。
そんなこんなで俺は世界観が把握しきれてなくて全然かけない
ものすごく未来的なんだけど、公園とか学校は普通に現代に通じるかんじでいいんだろうか
ぶっちゃけ恒星都市にしても
>>1の設定に近づけようとしてるとはいえかなり齟齬があるし、自分が感じた世界観、でいいんじゃないかな
「紡錘形をした偕老同穴のような」とか書いてるでしょw
複雑に絡み合った巨大ビル群みたいなのを想定してるけど…
スラムにしても↓くらいしか触れていないし、膨らむ幅はいっぱいあるんだよ!
>ここでも比喩的な意味で、海面下部分が影、海上部分が光となって相互に補完し合っていた。
>光と闇はせめぎ合う。一見無人のこの層で。
>そこは居住区最下層部の、外見からは想像もつかないが確かに存在する半スラム部とも違っていた。
>半スラム部は治安が若干悪いとはいえ、人間の住む場所なのだ。
>だが、ここはそうではない。地上一階分だけの、無機質な光沢を放つゴーストタウンだった。
>植物の姿すらちらほらとしかない。
書いてない部分は書いたもの勝ちだと思うんだなー、自分好みにできるっていうか…
他人の世界観が見たいからあまり設定は細かく縛ってしまわないようにしてるし、文章外で設定喋るのはあんまり好きじゃない
自分が思った島京、ってことになるよね、最終的には。
前出投下と著しいずれが出ない限り、で
>>156 すげえw
でも携帯厨だから細かいところはよく分からないw
比較用ゴジラw
島京パネェw
未来モノはあまり触れたことないからイメージわきにくいんだけど
この世界観は好きだからがんばってみるかー
緑に囲まれたエリアに設えられたベンチに寝転がり、女はふうと息を吐いた。
肘掛に首を預けると視界には緑に切り取られた薄青い空が広がり、
高い位置で無造作に結った黒髪がさらりと音を立てて毛先を地に着ける。
島京。技術と文明の粋であるこの街には、しかし野趣に富む緑地帯が点在していた。
当然都市計画に組み込まれ計画的に造園されたエリアでしかないが、
それでも無機質なビル群やそれらをかいくぐり空間を縦横に走る通路に比べれば
ずっと女の心を和ませ緊張をほぐすものだった。
目を閉じて僅かながらマイナスイオン濃度の高い空気を吸い込み、吐く。
寝転がったはずみにちらと覗いた腹部は程よく引き締まり呼吸に合わせてかすかに上下する。
投げ出された脚も腕も同様に引き締まり、彼女が何らかの手段で鍛えていることは容易に伺えた。
「随分とだらしないわね、グスク」
そう声をかけられたのは、あまりに長閑な空気に意識を手放しそうになった頃合いだった。
一瞬で覚醒した女──グスクは視線を巡らせて声の主を探す。
目の端に影を捉え身を起こすと、はたしてそこには見知った女が立っていた。
「……姿勢が? それともこの格好が?」
「両方よ」
聞き返すグスクに女は大仰に肩を竦める。
女はきっちりと化粧をし、スタイルを誇示する露出の高いスーツを着こなしているが、
対するグスクは薄汚れたシャツとスカート、長い髪を梳った様子もなく、
極めつけにノーメイクの頬には手で擦ったのだろう、油汚れが伸びている。
「二十歳過ぎのオンナの格好じゃないわね」
「……まだ二十歳。いいじゃないか、疲れてるんだ」
些細な鯖読みを訂正し、グスクは再びベンチに寝そべる。
歳といえばこの女はいくつだっただろうか。付き合い始めてしばらくになるが外見からは予想がつかない。
女は化けるとはよく聞くが彼女はまさしくそれで、時と場所と場合によって
まったく異なる雰囲気を身に着けていて、グスクを戸惑わせる。
「それで、何か用?」
「用がなきゃこんな浮浪者じみたオンナに声はかけないわ。手を貸してほしいって子がいるんだけれど」
「内容は?」
「人探し。と言っても、彼本人なんだけれど」
「……なにそれ」
「記憶がないらしいわ」
頭上から降ってくる声に、胸にたまった空気を盛大に吐き出す。
周辺に漂いだした女の香水の匂いも吹き飛べばいい、とグスクは考えた。
「断る。言っただろう、疲れてるんだ。厄介ごとは暫くパス」
ここ暫く請け負っていた仕事を遂行し契約を終了させたのはつい数時間前なのだ。
些細な、とはいえ同行者にはそれなりに気を使い、下手をすれば命すら落としかねない仕事。
暫くはこの開放感と温まった懐──実際はデジタル数字が増えただけの代物だとしても──を満喫していたい。
女は来たときと同じように大仰に肩を竦めたが、それはグスクには伝わらなかったようだ。
「……了解。いいわ、たまたま見かけただけだしね。他を紹介するわ。
アンタも暇に飽いたら連絡のひとつもちょうだいな」
「あんたの持ってくる話はいつも碌なモンじゃないからお断りだね、00」
「その代わり割りはいいでしょ」
「……あんたの年齢、教えてくれるなら考えておく」
「情報屋は対価に見合った情報しか提供しないもんよ」
悪戯めいた声音を残し、草を踏む音が遠ざかると同時に人工の香りも薄れていく。
グスクはしばし薄青い空を見やってから目を閉じた。
木々を通り抜ける風は僅かに冷たくなったが、まだ優しい。
もう暫し、人工の自然に癒されていても誰もとがめたりはしないだろう。
というわけで書いてみました。ぜんぜん島京らしさがないけど勘弁。
>>43の少し前ってイメージす。
情報屋さん貸してもらいました。イメージ違ったらコレも勘弁。
おー、投下ktkr
読み手を引き込む入り方でいいすねー
164 :
『恒星都市』 ◆LV2BMtMVK6 :2009/12/01(火) 02:53:14 ID:FtfZi7RX
エレベータは……動いた。
ただし、動き続けるという保証ができるかと問われたら、誰だって首を横に振るような様子ではあったが。
搭乗口周囲の埃の積もり具合からいって、少なくとも十年単位で利用されていないに違いない。
それは白くあたりを覆っていて、霧一の後ろには足跡が残った。
第一層の下部、比較的に海面に近いとあって、このあたりにはまだ異常な状態を思わせるような雰囲気はない。
さしあたって、できるだけ高い速度で降下することが目的だったが、あいにくと降下速度は変更できなかった。
「なんとかできないのか」
「いや、無理だね」
「無理ですね」
「そうか……」
「……それどころか、限度を超えた揺れ方をしたら止まる可能性すらある。台風のことは忘れちゃいるまい?」
「…………」
三人は、一部屋分ほどもあるエレベータの隅に固まっている。
沈黙の部屋は、小さな音を立てて海中深く ――そう、ここでは地下がすなわち海面下を意味するのだから―― へ沈んでいく。
石灰と金属の融合体に抱かれ、その胎内を下る彼らは、ほぼ無人の、無機質な巨像の中、いかにもちっぽけに感じられた。
二層、約30階分を下る。途中、第二層発電区画へ入る際にエレベータを乗り換えたが、周囲の様変わりの仕方に露などは目を見張ったものだった。
といって、無機的なところだけは変わっていないのだが。
超巨大都市を支える原子力発電所と、その六つの原子炉――常時、四つが稼働中である――を抱え込んだ、そのためだけにある区画である。
それは些かの間違いで島京1300万の生活を灰燼に帰せしめうる、巨大な心臓だった。
あいもかわらず、沈降速度は遅い。
誰も言葉を発さず、やきもきするような時間が流れた。
広いドアの向こうを、発電区画の景色が、その照明がぼんやりと尾を引いて流れていく。
人の姿は、どこにも見えなかった。
やがて、景色は明確に変化する。
発電区の入り組んだ回廊は視界から消え、代わりに変に生気のある、部屋の戸が並んだ場所へ入った。
化学工場のような雰囲気だが、それともはっきり違う生々しさが迫るものだった。
といって何か生物がいるわけでもなかったし、人影が見当たるでもなかったが。
深度にして海面下およそ150メートル、立ち並ぶ研究施設は、はっきりとした異質さを隠そうともしていなかった。
ここに来て人は悟るのだ、ここから下の部分が、ここまでの層とは全く違う目的のために作られたものだということを。
第4層三番研究区に入ってからややあって、エレベータはとうとう動くのをやめた。
不意に地球の重力の手に戻された三人はよろめき、ついで外へ出ようとして、止まるには早すぎることに気付いたのだった。
「台風……か?」
「さて……。他の理由だとしても、不思議ではないが……」
「同感だな」
このとき、巨大な衝撃が島京を揺さぶっていたのだが、エレベータで降下中の三人には、大きな揺れとしては感じ取られなかったのだった。
台風が人の築き上げたものを制した瞬間であり、人ならぬものの手に島京が膝を屈した瞬間であった。
島京、離底。
皮肉にも、WPの工作部隊たちが並々ならぬ努力を行おうとしていたことを、彼女はその強大すぎる右手で軽々と成し遂げたのである。
だが、3人は未だ、その事実を知る由もなかった。
「さっきひどく傾いたのが原因じゃないかしら」
「ああ、そうかもしれないが、さしあたってもう一回動かないのか、試してみるぞ」
「…………駄目だ。受け付けてくれない」
「しょうがないな。外に出よう。外には出られるのか」
どうやら、ひとまず大きな揺れはおさまったらしく、彼らは外へ出ることができた。
「B、59階か」
「第四層の終わりあたりですね」
「他にエレベータは?」
「沢山あるが、もしかしたら全部動かないかもしれないな」
「そうだとしても、下へ向かわなくてはならないんだ、行くぞ」
「待ってくれ、このあたりにまで詳しくはないんだが」
「………道案内できる範囲でいい」
全く状況を把握していなかった霧一の足を急がせたのは、ひょっとしたら感覚のレベルでの緊急感だったかもしれない。
しかし、次のエレベータに進もうとした彼らは足止めを食うことになってしまった。
ここは都市としての島京が成り立つ以前から、ある種の研究がなされていたのだが――生体兵器関連開発がこの第四層の研究所の目的だった――。
ここにきて、島京は、世界経済都市でもなければ、超巨大人口都市でもない、過去の姿をほんの少しながら晒すことになる。それは、最先端の研究施設であった遺構としての姿だった。
陽光が差すことなど絶対にないこのブロックで、そこかしこの戸が声高にバイオハザード警告を告げているのは、決して単なる伊達や酔狂ではないのだ――。
伸びねー!
まぁちょこっと。
待ってました! 乙です。
第四層の実態が垣間見えてきましたねぇ。
168 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/02(水) 09:45:38 ID:f3l5BO+0
これはこの先が楽しみですね。
てす
170 :
恒星都市 ◆LV2BMtMVK6 :2010/01/23(土) 21:55:19 ID:0ZNlVhLU
島京の海中部には4つの主要な地下エレベータがある。
このコンクリートの地下研究都市には8方位に主要な構造柱――といっても、並みの高層ビルより太い鉄筋の構造体だが――
があり、そのうちの4つはことのほか規模が大きい。
4つの主柱にはそれぞれに一基ずつエレベータが設けられていた。
安全と効率のため、一層ごとに乗り換える必要があるのは前述のとおりである。
次のエレベータまではまた、狭い通路を通り抜けていく必要がある。
3人は降り口で見た図のとおりに移動していた。
湿った空気の中を動いていく。
そこかしこに研究室の扉があり、幾重にも警告標識が掲げられている。
むろん見た目には無人の地区であり、他に人の気配はない。
天井に壁に、いくつもの大きな配管がうねって伸びている。
保温剤が巻かれたもの、灰色に塗装され、びっしりと結露した大きな鉄の管、
人の胴回りほども太さがあるケーブル……。
ところどころに見える赤い照明が、重く不気味に通路の様子を写しだしている。
辺りはお世辞にも明るいとは言えなかった。
一層目で入ってきたあの通路よりもLED照明の間隔が広く、光も弱い。
その気配に最初に気付いたのは霧一で、露もほぼ同時にそれを感じた。
一行の歩く気配が通路の壁の向こう側に染み透っていくにつれ、それはますます強くなる。
表立っては彼らのほかに動くものはなかったが、霧一はとうとう、足を止めざるを得なくなった。
「なあ」
二人が振り向く。
「何かがいるような気がするんだが」
今はかすかに響いていた足音も途絶え、音がなくなった通路、だが――。
「イシダ君、ここでは何を研究していたんだったかな」
「元、動物のことか。おそらくそれ、だが……」
イシダは途中で言葉を切り、霧一の背後、頭上を見た。
つられて視線を動かした露の目が驚愕に開く。
霧一も、二人の表情を不審に思いつつ、振り返ろうとした――。
「危ない!」
声より早く霧一を突き飛ばしたのはイシダで、もう少し遅ければ永久に手遅れになっていただろう。
同時に何か黒い、重みのある影が霧一をかすめて飛来し、湿っぽい床に音を立てて跳ねた。
霧一はそれがかすめ過ぎた襟に手をやろうとして、ちぎり取られているのを知った。
すぐに床の方を見たが、仕事に失敗した襲撃者はすでに配管の陰に戻った後だった。
「これが……ナノマシンのバイオハザードか?」
襟を示しながら口にする。
切れ口は鋭利な刃物でスライスしたとも見える鮮やかさだった。
少しずれていたなら頸動脈が同じ形にぱっくり口を開いていたに違いない。
「天井が鎌首をもたげるのは初めて見たわ」
作業服の水気を不快そうに振り払い、どことなく的外れな感想を口にしたのは露であり、イシダが言葉を次いだ。
「実物を見るのは初めてのことだが、ヤマビルのような、マムシのような……だが、ヒラメか何かのようにも見えたな。
当然ハイブリッド、いや、ナノマシン構築したキメラなのだろうが」
「人型みたいにも見えたけど」
「ああ。だが幼児並みに小さいし、そもそも人間は天井に貼りつかない。ましてや保護色になどならない。恐らく過去に捕食した動物の形をコピーしているのだろう」
「あんなものがうようよいたらことだな。また来ないとも限らない……露、どうした」
「あの、このあたりの壁とか天井、あれ……」
男たち二人は言われた通り辺りに注意を払い、危機的な状況を瞬時に悟った。
「あれ」の気配が、四方から押し包んでいた。あきらかにそれと見えるものもいる。
そこらの陰にも幾組もの目が見えるような気さえした。
絶体絶命という四字熟語がよぎり、同時に結論を出す。
……およそ100mほども走っただろうか。
緑色をした床は非常に足場が悪く、不健康な色の暗い通廊は走りやすいとは言えなかったが、
誰もあのおぞましい生き物の犠牲にならずにすんだ。
もっとも、走りだす間際にイシダの方も白衣の襟を持って行かれたが、それだけで済んだのだと言うべきだろう。
すんでのところで死地を脱した焦りの表情が、皆の顔に浮かんでいる。
「二度と御免だな」
霧一の言葉にも、もちろん誰も異論はなかった。
「まだいるだろう。油断はできない」
窮地を脱したとはいえ、現在進行形でひそかに狙われていないとは言えない。
三人は用心深く急ぎ足でエレベータへと向かった。
時折後ろから人の足音のような音が聞こえてきたが、この足音の反響の中それを気にする余裕は誰にもなかった。
さらに移動し、ようやくエレベータのところへ到着する。
霧一の指が祈るような気持ちでタッチパネルに触れる。
が、報われることはなく、緊急停止中の文字がむなしく明滅した。
思わずエレベータの扉にもたれてへたりこむ。
「非常階段、か……?」
非常階段は鉄筋構造の主柱内部に設けられている。
もちろんその名の示す通り非常用であり、移動速度も落ちる。
だが、霧一は復旧をエレベータの前でおとなしく待つつもりはなかった。
今ではそれほど急ぐつもりもなかったとはいえ、長く滞在するつもりで地下へ入ったのではない。
それにもちろん、食料もなかった。
「イシダ君、ナノマシンの集合体生物は食えるだろうか」
彼はその質問にあきらかに呆れたようだった。
気づけば白衣が汚れ、白とは言い難い色になっている。
「食えないだろう。そもそも殺せるものかどうか。向こうはこっちを食うことができるがな」
食料の調達の見通しは暗かった。そもそも人間が生活する場所ではないのだ。
最低限の休憩を取ったのち、霧一に続いて二人も腰を上げる。
階段の扉を目指さなくてはならないのだが。
「足音が聞こえる」
「気のせいじゃないな。しかも通ってきた通廊だ」
三人は非常階段へ通じる角へ身を潜めた。
やがて、ペタン、ペタンと姿を現したのは、人のような生物だった。
ぬめぬめとした光沢があり、あちこちに目が付いている。
(奴ら合体したのか……)
(あるいは、人間を組み替えたのかも知れない)
いずれにせよ、人型の怪物とはお近づきになるべきでなかった。
数に勝るとはいえ、戦闘用に開発されたナノマシンで組織を形作っているのだ、
その見た目から戦闘力は測れないものの、弱かろうはずがないと見て当然である。
通廊は一本道であったから追ってきたものの、どうやらエレベータ前のホールで彼らを見失ったのだろう、体中の目があちこちを見まわしている。
三人はしずかにそこを後にした。
非常階段の扉を抜けると、打ちっぱなしのコンクリートに覆われた、上下に伸びる吹き抜けに出る。
梁や鉄筋がかかる中、はるか上空に地上の明りがうっすらと見え、霧一は台風のことを思い出した。
今なお、海上は荒れ狂っているに違いない。
ともあれ、階段を下るときであった。
鉄製の錆びた段が、四方の壁に沿って螺旋状に下っている。
先は暗闇の中に消えており、かなりの高さを感じさせた。
非常階段の扉を施錠できなかったことに少し失望しつつも、一行は奈落の底へ足を踏み出した――。
今回ここまででー
戦闘シーン北!
謎クリーチャーヤバいよ気持ち悪いよ!
おおおおお投下乙!
面白くなってきたwww
178 :
「恒星都市」 ◆LV2BMtMVK6 :2010/01/29(金) 00:03:36 ID:D2C+Ti0o
さて、階段はいかにも長かった。
空気は重く冷たく、どこまでも続くコンクリートの内壁には、今にも押しつぶされそうな圧迫感があった。
階段の幅は狭く、鉄の錆びた手すりが壁に張り付くようにして下へ伸びている。
それに沿って鼠色の小さな影が三つ、黙々と進んでいく。
踊り場ごとに消火器が設置されていたが、霧一にはこの長大な階段のどこかに可燃物があるとは思えなかった。
好奇心から設置された日時を確認してみた彼は、それが43年も前に有効期限を終えていることを知り、少々唖然とした。
やはりここでもあの青白い照明が儚げに存在を主張していたが、中には長年の仕事に疲れて引退しているものもあり、
そんなところでは、三人は足下に出ている鉄筋に裾を取られて小さく毒づくのだった。
――階段は、長かった。階数にしてはおよそ三十階分に過ぎないのだが、一階分が優に8メートル分はあり、
いつまで経っても、どこまで降りても、全く終わる気配は感じられなかった。
いつしか彼らが入ってきたあたりは見えないほどに降りてきていたが、それでもこの階段がどこまで続いているものか、皆目見当もつかなかった。
非現実的なほど長く階段を降り続け、もはや機械的に降りているだけとなっていた霧一は、不意に、一人足りないことに気付いた。
足音が二人分に減っていた。
振り返ってみて、足りないのは作業服ではなく、白衣の方であることを知った彼は、無言のまま来た方へ登り始めた。
露も振り返った時に気付いたらしく、同じく無言で後に続いた。
一階半分――つまり、階段を登り、角の踊り場へ到着すると折れて、また壁に沿って階段を登る――これを六階分おこなって、二人は白衣を見つけた。
イシダは踊り場に倒れており、何かおぞましいものが足下に動いているのが見えた。
二人を認めてイシダは弱弱しく手を振ったが、それはこっちへ来るなと言うようにも見えた。
露の方は構わず駆け寄ると、左手で右手首を素早くホールドし、躊躇わず足下の生き物へ二発撃ちこんだ。
それは大きなネズミのような外見で、猿のような顔を持っていた。長い牙は光沢があって、血が付いている。
毛は生えておらず、両生類のもののような足がたくさん生えていた。
銃に脳天を撃ち抜かれた猿は怯んだようだったが、痛手を受けたというようなそぶりは見せず、手すりの外、暗闇の奈落へ落ちていった。
今回は周りに他の生物がいないのを確かめて、霧一がイシダの足を検める――までもなかった。
左足先はなくなっていた。
足首、及び太ももの内側の動脈を細いロープで圧迫し止血――ロープというのはやむを得なかったのだが。
心臓より高い位置に傷口を持ち上げるべきだと聞いて、壁に足先をもたせかけるイシダ。
むろん同行できるような状態ではない。
早急に処置を施す必要があった。
「医務室はあるかしら」
「生物をいじくってた地区だから医療機器くらいはありそうだが……この地区がいつまで活動してたかを考えるときついな」
「それもそうね」
「止血できてるとはいえ……。こうなってくるとエレベーターが使えなくなってるのはいかにも痛いな」
臍を噛む思いの霧一に露がかぶせる。
「使えたとしてもあの台風よ」
「そうだったな……畜生」
もちろんイシダを放置するわけにはいかない。
といって、ここで手をこまねくのは一層望ましくなかった。
「連れて行くか……」
「でも、どうやって?」
「少なくとも階段に置いて行くわけにはいかんだろう、また襲われる可能性もある」
二人はイシダを間にはさみ、わきの下へ肩を差し入れると、慎重に降り始めた。
二つ下の踊り場に、B180の文字を認めると、彼らはそこの扉から再び島京内部へと戻った。
イシダは口を開かない。危険な兆候だと言えた。
この階はそれまでよりも暖かかった。
エレベータはやはり動かなかったが、近くに小さな部屋があるのを見つけて、そこの椅子にイシダを寝かせた。
やはり手当できるようなものはなく、がっちり止血したまま、青ざめた顔のイシダを見守る。
締めこんだ布には血がにじみだしていたが、場所を考えれば仕方がない。
どれくらい失血したのか、今は考えたくもなかった。
「行くぞ」
「でも、どこに?」
それには答えず、霧一は先ほどの階段の空間へと足を進めた。
終わりが、近い。
ここまで
緊張感やばいな
凄く見やすいですね
毎度ながらお疲れ様です!
設定はページを分けるか微妙なところですが、
この状態が閲覧しやすいのでこのままの形がいいかなーと思うです