THE IDOLM@STER アイドルマスター

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「こんばんわー。やよいいるかー?」
「おー、響じゃないか」
「あ、セクハラプロデューサー久しぶりー。元気だった?」
「……人聞きが悪くてたまらないんだが」
 ある日の夜のこと。珍しく起伏のない一日で小鳥さんも定時で帰宅し、留守番状態の俺が
一人でいる事務所に現れたのはライバル事務所のトップアイドルだった。
「やよいなら伊織と二人でレッスンだよ。もうすぐ帰ってくるけど、時間平気か?」
「うん、今日はもう帰るだけだから。待っててもいい?」
「構わないよ。ただしスパイ行為は禁止だからな」
「ふっふっふ、自分を招き入れたときからすでに諜報戦は始まってるんさ。今日こそセクハラ
行為の証拠を掴んでやるからね」
「我々はスムースかつシークレットにセクハラを遂行するのだ。すなわちスリーSだな。
この技術力、きみに見抜けるかな?」
 後半のやりとりは彼女と、我々765のプロデューサー陣とのお約束みたいなものだった。
 響は黒井社長に『765プロダクションはプロデューサーたちがアイドルと言わず事務員と
言わずセクハラ行為を日常的に繰り広げる地獄のような芸能事務所だ』と吹き込まれている
のだが、ここ数ヶ月アイドルの面々や俺たちと直接関わるようになってから個人的には
認識を改めたようだ。ただ彼女としても敵対関係の事務所に友人宅のように入りびたるのは
気が引けるらしく、今のセリフを免罪符に使っているようである。
「まあそれはそれとしてちょうどいい、ちょっと給茶室まで付き合え」
「え……ふ、二人っきりで?」
「そこで警戒してどうする。それを言うならこの事務所がいま俺ときみしかいない」
「あっそか」
「セクハラし放題なんだぜ、うぇっへっへっへ」
「ぎゃー、出たー」
 実を言うと今朝がた専門店から材料が届いたところで、この娘が顔を出すのを手ぐすね
引いて待っていたのである。有無を言わせず簡易キッチンまで連れ込み、ボウルと泡立て器
を取り出した。
「なに始めるの?」
「いやな、ちょっと新作スイーツの実験台にしようかなと」
「……お菓子なんか作れるのか?」
「俺を誰だと思ってる」
「セクハラプロデューサー」
「ですよねー……って、いいから見てろ」
 まずはボウルに芋葛粉20g、小麦粉200gを入れ、300ccの水で溶く。続けて餅粉20gと
ベーキングパウダーを小さじ1、泡立て器を回す腕に力を込めた。
「響ってこっちに一人暮らしなんだよな。自炊してるのか?」
「そうだぞ」
「仕事も学校もあるだろうに、大変だな」
「あはは、外食多いけどね。帰りがけに貴音や美希とラーメン屋寄ったり」
 砂糖30g、黒糖50g、塩一つまみと順に加えながら話すうち、961プロではマンションを
一棟まるごと借り上げて社員寮扱いにしているのだと明らかになった。
「寮母さんみたいな人、いないのか?」
「ごはん頼んでもいいんだけど夜なんか時間めちゃくちゃだし、やっぱり慣れたもの食べ
たくってさー。地元から材料送ってもらって作ってたら、その方が気楽になっちゃった」
「まあ、東京でゴーヤはそうそう食えないか」
「でしょ?自分なら毎日でもオッケーだぞ」
「ミミガーとか好きなんだよ、俺」
「わかるけどおつまみかな、どっちかって言うと。あっでも、時間ある時ならソーキ丼とか
作るぞ」