デジモン関連二次創作

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1名無しさん@お腹いっぱい。
まだなかったようなので立てました。
漫画でもアニメでもゲームでも。


関連スレ
エロパロ板(18禁)
:デジモンシリーズ04
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1165673006/



とりあえず気が向いたら俺がふらっと使用する予定
2名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 08:40:17 ID:vmU8jGDU
GJです。
3名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 00:01:51 ID:Vm7vBDrR
やっべえ書きたくなってきた
何かスレのルールとかってあるのかしら
○○系ネタはNG、みたいなの
4名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 10:15:28 ID:19flxMQn
ないっすよー
だけど過激なエロ、グロは年齢制限あるエロパロ板の方で。
ちょっとした下ネタぐらいならありかしらん
5名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 10:01:38 ID:dJU+Av+3
age
6名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/26(金) 17:13:41 ID:wI5SSerD
とりあえず投下

C.O.D.W(コドゥー)
プロローグ『兄と弟』

「なぁ、もうひとつの世界って知ってるか?」
真夏の、蝉の声がやけに強く響き渡る部屋の中―――。
兄の何気ない一言は、僕を夢中にさせるには十分すぎるほどだった。
当時、僕は小学生だったが、学校も家も何もかもが嫌いで、唯一の楽しみといえば、時々兄がしてくれる不思議な話。
その不思議な話にだけは、僕はいつも目を輝かせ兄の虜になっていた。
「もうひとつの世界ってなに?どこにあるの?」
「創るんだよ、今から俺がね」
「兄ちゃんが創るの?」
「あぁそうだ。完成したときには、お前を一番に連れてってやるよ」
「ホントに?約束だよ、兄ちゃん!」
「あぁ、約束だ」
そうして僕と兄は、何度も何度も指切りをした。
兄が絶対にその約束を守ってくれるように、何度も何度も。

だが結局兄は、その約束を守ってくれなかった。
兄は僕の前から姿を消したのだ。
仕方ないから僕は、数少ない友達の一人とその話をした。
すぐに友達も話の虜になり、来る日も来る日も、僕らは「もうひとつの世界」に思いを馳せた。

それから何年の月日が経っただろうか。
いつの間にか世界は、出来上がっていた。
兄が創ったのだと、根拠もないのに僕はそう確信していた。
だが、話に付き合ってくれた友達はもういなくなっていた。
死んだのだ。
そして兄も、二度と僕の前に姿を現すことはなかった。

世界は、そこにあることを認識できるだけで、見ることも行くことも許されなかった。
僕は、一人でその世界へ行く術を探した。
中学生になって、高校生になって、大学生になって、社会人になった。
来る日も来る日も地道な研究を重ねた。
だが、どうしても見つからなかった。
僕はもう、大人になりすぎてしまったのだ。
7名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/26(金) 17:41:41 ID:wI5SSerD
C.O.D.W(コドゥー)
1.「刑事になった彼」

午後二時。
午前中から仕事ずくめだった彼は、デスクで遅い昼食を摂っていた。
ご飯の上で、海苔が歪なハートマークと自分の名前を描いている、いわゆる愛妻弁当。
結婚して、もうすぐ十年を迎えようという頃なのに、妻は未だに新婚気分であった。
といっても彼にはそれは苦痛じゃなく、むしろ仕事の中での唯一の安らぎであったが。
「通信だよ!繋いでいい?」
「・・・あぁ」
突然R⇔Dから通信を告げるパートナーの声が聞こえ、その安らぎは中断された。
巡回中である部下の顔が立体映像で映し出される。
表情から察するに、なにか事件が起こったようだ。
「事件か?」
立体映像の部下がその問いに頷き、続いて場所を早口で言う。
彼は弁当箱の蓋を閉め、すぐに地下の駐車場へと繋がるエレベーターへと駆け出した。

サイレンを鳴らしながら、パトカーは現場へと急行する。
車は電気で走るようになったが、未だに一部を除いて空を飛べるようにはならない。
そんなとき不意に彼の目に、歩道を歩く一人の少年の姿が映った。
肩には一匹のデジモンを乗せている。
彼は車を急停車させると、少年の元へ駆け寄った。
「君、デジモンはきちんとR⇔Dに仕舞わないとダメだぞ」
「・・あっ、ハイ!!すいませんでした!!!」
突然警察に話しかけられてびっくりしたのか、少年はかなり慌てながらパートナーであるデジモンをR⇔Dに仕舞った。
おそらく幼年期であろうそのデジモンの光り輝く黒い肌は今まで見たことがない。これもニューシードという奴だろう。
「いい子だ。次からはちゃんと気をつけるんだぞ」
「ハ、ハイ!!」
彼は少年に軽く笑いかけて、すぐにまた車へと飛び乗った。
まだパートナーを持ったばかりなのであろう。
見せびらかしたい少年の気持ちが、彼には何となく分かった。

3年前から施行されたデジタルモンスター法、通称DM法により、15歳未満の者はデジモンを所有することが出来ない。
そして15歳以上の者も、公共の場ではパートナーをR⇔Dに収納することが義務づけられている。
これは近年著しく増加傾向にあるデジモンを使った犯罪への対抗策としてとられた措置であった。
この法律に猛反対する団体も少なくない。
そもそも4年前までは、ほぼすべての人間にパートナーデジモンが存在していたのだ。
それを幼い子供からパートナーを取り上げてまでこんなことをする必要がない、と反DM法団体は主張する。
彼にとって、その主張に対する思いは複雑であった
『選ばれし子供たち』の一人であった自分にとって、幼い頃からパートナーがいることは当たり前であったし、それがどんなに大切な存在であるかは身をもって知っていた。
だが実際、このDM法が施行されたことで、犯罪数が激減したことも事実であった。
刑事という今の職からすれば、どちらかというとDM法には賛成の立場であるかもしれない。
反対団体のリーダーを務める、かつての同胞には悪いが。

しかし、デジモンによる犯罪は激減しても、それ以外の犯罪は何も変わらない。
一週間前から発生しだした「ネットウィルス殺人事件」。
今向かっている現場もそうだとすれば、これで12件目になる。
彼はスピードをあげて、現場へと向かった。
8名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/26(金) 17:43:07 ID:wI5SSerD
現場には既に何人かの部下が到着していた。
そのうちの一人に状況を説明させる。
「被害者は、西垣卓真、71歳です。死因は不明ですが状況から察するに、一連の事件と同じものかと思われます」
部下の説明を聞きながら、彼は問題の遺体を観察した。
被害者はパソコンの画面にもたれるようにして、椅子に座って死んでいた。
それはまさに、今までの「ネットウィルス殺人事件」の被害者と同様であった。
実はこの事件、これで12件目となるが、死因はよく分かっていない。
ただ被害者の殺害状況があまりに酷似しているために、半ば都市伝説的にこんなことが言われているのだ。
ネットウィルスがパソコンを伝って人間を殺した、と。。
正直、そんな馬鹿な話がある訳がなかった。
だが実際、こちらも死因が分かってないのだから世間にどう言われても仕方がないのだが。

何か手がかりが残されてはいないものかと、彼は次に被害者のパソコンを調べる。
すると、奇妙なテキストファイルが開かれたままになっているのを見つけた。
「刑事、これは・・・?」
部下から問われるが、彼にとってもそれは、何のことだか不明であった。
とにかく彼は、画面に映し出されたその文章を、自分のR⇔Dへとコピーした。
9名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 16:11:05 ID:xKgtldjA
おおオリジナルですかこういうのもお待ちしております
10名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 10:06:07 ID:JARRzw8x
即死阻止
11名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 12:14:44 ID:L1hw7x0a
C.O.D.W
2.「小説家になった彼」

「ただいまぁ!テイルモン」
玄関に息子の声が響いた。
どうやらご帰宅らしい。
「お帰り、光希(みつき)」
誰にでも冷たげなテイルモンも、息子にだけは懐いていた。
やはり彼女の血が、半分ばかり混じっているからだろうか。
最近いつも2人は、家では一緒に遊んでいる。
DM法が廃止されれば、外でも一緒に遊べるのだが、と彼は思った。

そのとき彼のR⇔Dが、けたたましい音と共に震えだした。
パートナーはデジタルワールドの警備のため留守なので、呼び出しの声がないのが少々物悲しい。
用件はどうやら、電話らしかった。
R⇔Dの応答ボタンを押すと、見慣れた人物の顔が映し出される。
「やぁ兄さん、久しぶり」
彼は昔から変わらない、どこか含みのある笑みで、久方ぶりに会う兄を歓迎した。
だが、
「タケル、悪いな、今日はのんきな話じゃないんだ」
「え?」
「実は今、デジタルワールドで大変な事態が起こっている。
 太一から、たった今連絡がはいったところだ。よく聞いてくれ―――」


兄の話は、一言でいえば悪い話だった。
それも、かなり重度の。
彼はクローゼットから上着を取り出すと、ソファーに座る息子へ歩み寄り、一枚の紙切れを渡した。
「光希、母さんが帰ってきたらこれを渡してくれ」
突然真剣な表情の父親を見て、光希はきょとんとしていた。
だが、その隣にいるテイルモンは、現在の状況を概ね把握したようだった。
「じゃあ、ちょっと行ってくるからな」
そう言って彼は息子の頭に手を置くと、パソコンの画面に向き直りR⇔Dをかざした。
瞬間画面から大量の光があふれ出し、彼の全身を飲み込んだ。

あとには、光希とテイルモンと、静かな静寂だけが残っていた。
「いいよなぁ、父さんはデジタルワールドに行けて。
 なぁテイルモン、またあの冒険の話をしてくれよ」
「冒険の話って・・・。タケルの小説を読んだだろう?」
「父さんの本だけじゃ、いまいち分かりづらいんだ。
 もっと俺は・・・そう、どんなデジモンがいるかとか、そういうことを知りたい!」
「・・・分かった、話してやろう」
「ホント!?さすがテイルモン!!」
「でもその為には、もうひとり解説者が必要だな・・・」
「解説者??」
「そうだ。ほら、帰ってきた・・・!」
そう言ってテイルモンは、玄関の扉を指差した。
するとその瞬間ドアが開いて、見慣れた人物が姿を現した。
母親のご帰宅だ。

「母さん!お帰り!!」 「おかえり、ヒカリ」

「ただいま、光希、テイルモン」

12名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 18:53:15 ID:GkPWm5Yv
投下乙。
13名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 22:05:01 ID:q8xCQp1L
保守。

なんか書きたいけど俺はどうしようもないチキンなんだ。
ガンガレ>>11
14名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/08(水) 01:03:12 ID:5oqKdwmQ
C.O.D.W
3.「良き母となった彼女」

「ただいまぁ〜〜。ハァ、もうクタクタ〜〜」
午後十一時。
疲れた様子で、太刀川ミミは自宅のドアを開けた。
今日の収録は、北海道で行われた。
彼女はTVに出始めの頃こそは料理家という肩書きであったが、いつしかそのキャラクターと演技力に注目され、最近では女優業をこなすことのほうが多くなってきていた。
西暦2034年現在―――、もう年齢は40をまわっていたが、それでも彼女の根強いファンは多い。
「おかえり!ママ!」
眠そうな顔をしながら、それでも元気一杯という表情をとりつくろって、幼い少女が駆けてきた。
「シズク、ちゃんとパパといい子にしてた?・・・ってパパは?」
リビングを見回すが、父親の姿は無い。
小学三年生の娘を置いて、一体どこに行ったというのか。
ミミがそう思った矢先、
「パパなら、研究であっちに行ったよ。事件があったんだって」
あっち、と言いながら一人娘のシズクは、机の上に置かれたパソコンを指差した。
それはすなわち、彼の向かった先が、デジタルワールドであるということを示している。
不意にミミの頭の中を、悪い予感がよぎった。
彼女はポケットの中からR⇔Dを取り出す。
「パルモン、リアライズ!!」
その声と共に、R⇔Dの中から観葉植物のようなデジモンが現れた。
「パルモン、ちょっとシズクの面倒を見ててくれる?
 私はちょっと、向こうの様子を見てくるわ」
そう言ってミミは、R⇔Dの先端をパソコンの画面に向けた。
が、愛しい娘の眠そうな顔を見て、ミミはその動作を取りやめた。
「どうしたの、ママ?行かないの?」
「・・・やめた。今日はもう寝よっか、シズク、明日も学校でしょ?そうしよっ!」
「・・・変なママ・・・」
シズクは不満そうな顔をしながら、それでも眠気には逆らえず、ミミに肩を抱かれてベッドに入った。

それから五分も経つと、静かな寝息をたてて、シズクは完全に寝てしまった。
ミミは長いため息をつくと、リビングへ戻りソファーに寄りかかったが、妙に落ち着かない。
「ミミ、光子郎のこと、心配?」
突然のパートナーからの問いかけに、少々慌てながらも、
「別に、いつものことよ」
と強がりながら、精一杯の余裕の表情をつくってみせた。
もう随分と長い付き合いになるパルモンには、何もかも分かってしまうはずなのに。
15名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/08(水) 01:20:01 ID:5oqKdwmQ
C.O.D.W
4.「始まる物語」

時刻は午後十時、山手線の車内で本を開いている一人の少年がいた。
彼はもう何時間も端の席に座り、その一冊の本を読み続けていた。
そして今長いため息をつき、彼はその本の最後のページを読み終えた。

本を閉じるのと、彼のバッグから奇妙な声が聞こえるのはほぼ同時であった。
「泰斗(たいと)、そろそろ帰らないと母さんが怒るぞ〜」
「大丈夫、今読み終わったから。てか、静かにしてないとまた・・・」
その先を言おうとして、泰斗は口を塞いだ。
周りの乗客たちの視線を感じたからだ。
DM法により、通常デジモンはR⇔Dに納めておくことが義務化されている。
三日前、一乗寺とかいう刑事にそれを注意されたばかりだというのに。

R⇔Dというのは、あらゆる電子機器の機能を詰め込んだ総合情報端末のことだ。
一昔前に携帯電話と呼ばれていた機器が出来たことのほとんどを受け継いでいる。
中にはデジモンを一匹入れることができ、デジモンを持つ15歳以上の日本人の全てが現在所有を義務付けられている。
デジモンの人格が端末内でもそのまま適用されることによって、複雑な動作も中のデジモンを呼び出すことで簡単に行うことができる。
R⇔Dは、デジモンにとってはケージであり人間にとっては非常に便利な機械であった。
泰斗は中のデジモンが窮屈ではないかと思い、どうしても自分のパートナーをR⇔Dに入れておく気になれない人間であった。
そのためいつもパートナーは、自分のショルダーバッグの中にいる。
それはそれで窮屈かもしれないが、少なくともR⇔Dの中よりはマシだと思うのだ。

車内にアナウンスが流れ電車の扉が開く。
丁度自分の降りる駅だった。
泰斗は乗客の視線に少し頬を赤らめながらも、慌ててドアを飛び出してホームに降り立った。
電車の音がだんだんと遠ざかっていくのを感じながら、改札へと歩き出していく。

泰斗はバッグから、自分のR⇔Dを取り出した。
R⇔Dは切符の役目も兼ねている。
そのとき、彼はあるものがバッグに入っていないことに気がついた。
先程まで読んでいた本。
衝動的に買ったベストセラー。
壮大な物語で、しかもそれはファンタジーでもなんでもなくすべてノンフィクション。
泰斗は、夢中で読み進めた電車内での記憶を反芻していた。
しまった。降りるのに夢中で電車の中に忘れてきたとは。

「あの、これ忘れていきましたよね?」
突然声がして、泰斗は現実に帰った。
振り返ってみると、同い年くらいの少年が、自分に本を差し出している。
置き忘れた本を拾ってくれたのだ。
お礼を言おうとして、泰斗は少年の顔を見た。
少し金髪がかった髪の、綺麗な顔立ちの少年だった。
それが同性から見てもあまりに綺麗だったので、一瞬時が止まったように思えた。
お礼を言おうとして、泰斗は口を開く。
だがそれより早く少年が声を発した。
「あれ?これ父さんの本だ!!」
「え?」
突然騒ぎ出す少年に、泰斗は素っ頓狂な声を出す。
「あ・・、いや、これ、俺の父さんが書いた本なんです」
「これって・・・この本?」
「そう、この『デジタルワールドの冒険』。
俺は石田光希、著者の石田岳の息子です」

静かな駅のホームに、少年の声はひときわ強く響いた。
16名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/08(水) 01:22:55 ID:5oqKdwmQ
頑張って連続投下してみました。
こんなカンジでいいんですかね?
よかったら感想とか待ってます。
ちなみにタケルとヒカリは結婚してないとゆうのが公式設定らしいですがそんなもんこの小説では無視でいきたいと思っております。
ではでは今後ともよろしくです。
17名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/16(木) 18:20:13 ID:X1NhCkJ8
投下からしばらく経ってしまったが、乙。
続きもwktkしています。

いいな、俺もなかなか面白い案があるんだけど、小説書くことができなくなってしまったから・・・。
C.O.D.W.に期待しています。
18名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/18(土) 14:16:00 ID:WVH+w+G/
C.O.D.W
5,「泰斗と光希」

2人は改札を出て、共に歩き出した。
どうやら家の方角は一緒らしい。
光希はどこか心地よさを感じる気持ちのいい少年だった。
泰斗は、確かめなくてはならないことを言葉にする。。
「ほんとに、息子なのか?」
「そう・・・だけど?」
「じゃぁ、タケルさんに会わせてくれよ!!
俺、この本を読んでスゲえデジタルワールドに興味を持ったんだ!!
もっともっとデジモンについて、いっぱい知りたいことがある!!」
「・・・残念だけど、それは無理だ」
一拍置いてから、光希はゆっくりと口を開いた。
「父さん、三日前から行方不明なんだ」
「行方不明?」
「そう、デジタルワールドの調査に行ったきり連絡が途絶えている。
でも、君がどうしてもデジモンについて知りたいっていうなら、母さんに聞いてみるといいよ」
「母さん?」
「そう、僕の母さんも、『選ばれし子供たち』の一人なんだ」
「はい!?」
泰斗は思わず声をあげた。
選ばれし子供たち―――というのは、数十年前にデジモンと共に、世界を危機から救った子供たちのことだ。
『デジタルワールドの冒険』の著者である石田タケル、
女優の泉ミミ、
世界ラーメンチェーン『V−NOODLE』 創始者の本宮大輔、
宇宙飛行士の石田ヤマトらがその一員であることは知っていた。
そうすると、今目の前にいるこの少年は、両方の親から選ばれし子供たちの血を受け継いだあまりに希少な子供ということになる。

「どうする?家までもうすぐそこなんだけど。来る?」
突然言われて、泰斗はハッとした。
そんなものもう答えは決まっている。
ここまで面白そうな話を聞かされて、黙ってるわけにはいかない。
「―――行く!!」
「オーケー、あ、そういえば君の名前は?」
「俺は堂島泰斗(どうじまたいと)。ヨロシクな!光希!」
「あぁ、ヨロシク!」
そう言って光希は、屈託のない笑みを見せた。
でもその中にどこか、父を気遣う心配の表情が隠れているのを、泰斗は見逃せなかった。

「行こうぜキバモン!」
声に合わせてバッグの中からひょっこりと小さな頭が覗く。
メタリックブラックの体の、恐らく幼年期。
小さな牙が逆に可愛らしかった。
「それ、キミのデジモン?」
光希が尋ねると、泰斗は自慢気な表情で頷く。
「いいなー、俺も早く欲しいなぁ、パートナー」
「光希はまだ15歳じゃないのか?」
泰斗が聞くと、光希は指で2の形をつくって、
「あと2週間」
とぼやいた。
その後も2人は他愛もない話をしつつ、光希の家へと向かった。

街頭が照らす路地。虫の声。星のない夜。
そんな道を2人で歩くのは、その日が最初で最後だった。

19名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/18(土) 14:36:00 ID:WVH+w+G/
C.O.D.W
6.「行方不明者4名」

―――2日前。
―――デジタルワールド。
太一、ヤマト、光子郎、タケル、そしてそのパートナー達は、朝から森の中を歩き続けていた。
緊急連絡を受けてからの彼らの動きは迅速だった。
光子郎の見解では、今回の調査の目的である『それ』はこの森を抜けたところにあるという。
そして日も暮れかけた夕方、4人とそのデジモンは、ある場所へと辿り着いた。
光子郎の読みは当たっていた。
『それ』は確かに、そこにあった。

「これが・・・?」
太一が目の前の『それ』に対して困惑の声をあげる。
その瞬間辺りに警告音が響き、『それ』の中から、何者かが現れた。
黒いローブを全身に纏っていたが、その容姿は人間のように見えた。
「やはり来たか、来訪者よ・・・」
挨拶代わりとでも言いたげに、紫色のレーザーがその者の手から光子郎に向けて放たれる。
「光子郎はん、危ない!!」
アトラーカブテリモンが光子郎の盾となり、その攻撃を浴びた。
レーザーは、硬いはずのアトラーカブテリモンの皮膚を貫く。
「ぐわぁ!!」
「アトラーカブテリモン、大丈夫ですか!?」
「アトラーカブテリモンの皮膚を打ち破るなんて・・・」
「お前は何者だ!?」
ヤマトの叫びに答えるように、その者は静かな声で言う。

「『クリエーター』」

「クリエーター?」
タケルがその名前を反芻する。
だが、考える間もなかった。
「タケル!!」
レーザーが今度は自分のほうへと飛んできた。
自分を庇ってレーザーを浴び、セラフィモンが倒れる。
「セラフィモン!!」
慌てて駆け寄るが、ぐったりとしてセラフィモンはパタモンへと退化してしまった。
タケルは苦しそうなパタモンを抱き上げて、周りの様子を確認する。
クリエーターと名乗る者に対抗できるデジモンは、いつの間にか一体もいなくなっていた。
同じように退化したテントモンも、ガブモンも、アグモンも、浴びたダメージに苦しそうな表情を浮かべている。
それを見て、クリエーターは笑った。
笑ったというよりもそれは、口元を歪ませたといった方が正しかった。
クリエーターは人間の姿をしていたが、どこか不自然さを帯びていた。
年齢不詳のぼやけた顔立ちであったが、それよりももっと不自然な部分――。
それは、あまりに完璧すぎることだった。
行動の一つ一つに無駄な所作がなにも感じられない。
全てが合理的な奇妙な感覚。
その点から言えば、彼はデータプログラム、
すなわち、人間よりもデジモンに近い存在に見えた。

「終わりにしようか」

不意に、思考するタケルの耳にそんな声が聞こえた。
不気味で静かなクリエーターの声が脳裏に響く。
瞬く間に、目の前には数十本のレーザーが迫ってきた。
終わりを覚悟した頭には、ヒカリや光希の顔が浮かんでくる。

そしてタケルは最後に、巨大な深紅の光を見た。

20名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 10:39:06 ID:+4qwBATZ
乙。続きがかなり気になる終わり方w
今更だけど、登場人物の設定とか紹介とかのまとめも投下してもらえるとかなり有難い。
21名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 11:22:20 ID:vqsLXZE3
ども、本当に読者がいるのかと不安に思ってしまうC.O.D.Wのうp主です。
携帯から失礼。
この小説、重要な世界観やらキャラクターやらを色んなとこで小出しにしていくカンジで書いてるので分かりづらいことが多々あるかも知れません。
一応02の冒険から32年後の世界が舞台となっております。
その他色々まとめていけたらそうしていこうと思います。
最近忙しくて全然アップできずすみません。
拙い小説ですがこのスレ覗いた方はC.O.D.W読んでやってくださると嬉しいです。
22名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ:2008/11/01(土) 12:02:44 ID:80lMEju0
このスレ見てるの、けっこう少数派だと思うけど俺は期待してるから、頑張れ。
23うp主:2008/11/02(日) 07:54:12 ID:p/Ao2lG3
ありがとうございます!!
ただもうホント最近忙しすぎて全然アップできそうになく……
では焼きそばつくってきますノシ
24名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ:2008/11/02(日) 14:43:54 ID:XlJugpSf
昔妹が毎回育てるとガルルモンになってたな
だから妹主人公にして相棒はガルルモンで二次創作するかな
25名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ:2008/11/03(月) 13:21:56 ID:pa6KdCSo
>>24
C.O.D.Wと平行してwktkしてます。
女性主人公のデジモンを待ち望んだ俺からしてみればかなり嬉しい。
26名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ:2008/11/03(月) 17:52:14 ID:HGNXjB1T
ども、C.O.D.Wうp主です。
とりあえず世界観の設定まとめてアップします。
ストーリーの更新はもうすこしかかりそうです。すみません。

西暦2034年
デジモンアドベンチャー02の冒険から32年後の世界。
02の最終回で子供たちの未来の姿が出てきましたが、あれから更に4年後です。

選ばれし子供たち
1999年と2002年に世界の危機を救った子供たちの総称。
今はそれぞれの生活をしている。
作中に現在登場している一乗寺賢、石田タケル(旧姓高石)、石田ヒカリ(旧姓八神)、泉ミミ(旧姓太刀川)、八神太一、石田ヤマト、泉光子郎らはそのメンバー。

堂島泰斗
石田光希
この物語の主人公。
2人とも中学3年生。
泰斗にはキバモンというパートナーデジモンがいる。
光希はタケルとヒカリの息子。

デジタルモンスター法
通称DM法。
15歳未満の者はデジモンを所有することを禁じられ、また、それ以上の者もデジモンを公的な場所でリアライズすることはできないという世界基準の法律。
この法律の反対団体のリーダーが選ばれし子供たちの一人らしいが・・・?

R⇔D
携帯電話やあらゆるメディア端末の機能をほぼ盛り込んでいる総合情報端末。
デジモンは通常、この中に入れておくことが義務付けられており、パートナーデジモンを持つ者はR⇔Dを持つことも義務づけられている。

リアライズ
R⇔D内のデジモンを現実空間へ実体化させること。
これを公的な場所でおこなうことはDM法により禁止されている。


やたらと広がった世界観なうえ、情報を小出しに散りばめていく書き方をしているので分かりづらいと思います。
自分としてはやはり隅から隅まで本編を読んで欲しいものですが、ちらっと何気なく読んでくれても全然構いません。
その中でまた要望などがあれば書き込んでください。
感想なども待っております。
ではでは。




27名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ:2008/11/03(月) 19:26:46 ID:sRydUICR
パラリラパラリラ  パラリラパラリラ  パラリラパラリラ
      ,-─‐‐-、
    ,-‐_|__CD___|--、
   ( (⌒l ´・▲・`l⌒))
    ヽニ'ゝ___∀_ 人::ノ  オラオラ ドアラ様のお通りだ!!!
      ( ⊃┳⊃
     ε(_)ヘ⌒ヽフ
     (   ( ・ω・)
≡≡≡ ◎―◎⊃⊃
28CAI:2008/11/03(月) 23:37:17 ID:guxi0aE1
ウィザーモン「ぐっ………中で出すぞテイルモン!」
テイルモン「やんっ………だめっ…あんんっ!!」
29名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ:2008/11/04(火) 18:37:19 ID:sZaBxsaR
>>26
乙。これで少し分かりやすくなった。
ストーリーの方も楽しみにしています。
30創る名無しに見る名無し:2008/11/16(日) 18:28:56 ID:36486jJt
保守
31創る名無しに見る名無し:2008/11/17(月) 03:09:05 ID:9lioKAL4
ギラティナvsオメガモンの究極対決はまだかね?(AA略
32創る名無しに見る名無し:2008/11/18(火) 19:58:58 ID:MODM53kT
まあなんていうか大輔カワイソス
33創る名無しに見る名無し:2008/11/20(木) 18:38:27 ID:Zc/MWTEc
うp主が暫く来ないから、自分もテイマーズのキャラ使って短編でも書いてみようかな。
34創る名無しに見る名無し:2008/11/24(月) 01:51:18 ID:rNxA7O3g
期待してる
35創る名無しに見る名無し:2008/11/24(月) 01:54:08 ID:BybjDEQf
>>33
ぜひやってみてくれ
36創る名無しに見る名無し:2008/11/24(月) 17:36:17 ID:/LiPZRd3
おk。啓人と樹莉のクリスマスの短編書いてみる。
暫し待っててくれ。クリスマスまでにはうpする。
37創る名無しに見る名無し:2008/11/26(水) 20:38:27 ID:Z9Pb5jtr
テイマは>>36が書いてくれるということで、風呂とセイバも書けばコンプリートだな
38創る名無しに見る名無し:2008/11/26(水) 21:32:57 ID:uXQIybZ1
風呂もセイバもカップリング難しいよな……
泉と誰かっていう選択肢しかない風呂か
イクトと知香っていう組み合わせしか思いつかなかったセイバか
39創る名無しに見る名無し:2008/11/27(木) 22:12:15 ID:tZgtro+z
カップリングじゃなくて、普通に冒険物でもいいと思う。
風呂の続編とか読んでみたい

あとは、他作品の登場人物の共演とかかな。
40創る名無しに見る名無し:2008/11/28(金) 10:58:20 ID:/8CCa9Rk
誰かどのシリーズのものでもない俺設定の小説書いてくれる人いないかな
41創る名無しに見る名無し:2008/11/28(金) 15:17:35 ID:lCPAlKoF
>>40
まずはその設定をうpしてみ
42創る名無しに見る名無し:2008/11/29(土) 20:11:27 ID:Pj+d7yMB
デジアド版ビーストウォーズリター(ry希望w
夫婦漫才コンビは光ミミでよろしく
43創る名無しに見る名無し:2008/12/01(月) 14:09:23 ID:9NbmlbNU
テイマのクリスマス小説、大方は完成した。
微調整を加えた後、クリスマスムードが高まってきた辺りでうpします。
44創る名無しに見る名無し:2008/12/01(月) 14:32:58 ID:GBMxDW76
待ってるよー
45創る名無しに見る名無し:2008/12/01(月) 15:13:10 ID:Fre1+rRF
俺設定か……色々考えたなあ
いじめられっ子とインプモンのペアとか
46創る名無しに見る名無し:2008/12/06(土) 12:02:58 ID:Pz7g8KPx
いろいろなサイト見てきたけど、
やはりデジモンの二次創作を作っている方の多くに共通しているのは、デジモンが人間と共に暮らしている世界を描いているというところだね。
ちゃんとデジモンに関する法律も考えてあるのが◎。
俺も今そんな世界観の妄想を一生懸命考えてます
47創る名無しに見る名無し:2008/12/07(日) 18:42:03 ID:ftNg6ynb
>>46
C.O.D.W.でもちゃんと法律考えてあるね。
やっぱり、デジモンと人間が共存できる世界ってのが望みなんだろうな。

啓人と樹莉の小説、短編にしてもテンポが速すぎて上手くまとめられそうにない。
あまり期待しないで待っててくれ。
48創る名無しに見る名無し:2008/12/11(木) 07:01:52 ID:GpB83EZq
デジアド02はタケル主役であってほしかったと思ってしまう
正しくは主役交代かな?カイザー編→大輔、以降タケル
あと、ヒカリはヒロイン。太一×空は続行……こんなのが見たい
ラスボスは編成してデーモンかズィードミレニアモンなんかどうだろう


まだ固まってないんだけど、セラフィモンより上だとヤハウェモンって名前のデジモンを想像してる
49創る名無しに見る名無し:2008/12/11(木) 18:50:30 ID:QNdy2+ip
「デジモンアドベンチャー」の主役はタケル
50創る名無しに見る名無し:2008/12/11(木) 21:38:32 ID:bEukL9W1
デジモンテイマーズ
〜Holy Night〜

ギルモンたちとの壮大な冒険が終わって、7年が経った。ギルモンたちが今どうしているのか、
デジタルワールドに送ったパケットメッセージはしっかり届いたのか、そんなことは、誰にも分からない。
 戦場と化した新宿も、すっかり復興された。通る度に覗いてしまうギルモンホームも、
誰だか分からない近所の子供たちの秘密基地となって、その役割を全うしている。僕たちの、
とても楽しかったあの日々を彼らに語り伝えるかのように・・・。

 僕は、3月に高校生活を終えた後、松田ベーカリーでお父さんとお母さんの手伝いをするつもりでいる。
ジェンはアメリカに留学して、デジタルワールドとリアルワールドの繋がりとか、デジモンたちについて
ドルフィンさんから教えてもらうんだって。留姫は・・・、僕には教えてくれないんだ。何であんたに教えないといけないのよ。ってね。
でも、僕もそれが留姫らしくていいと思ってる。
 博和も健太も遼さんも小春も、みんな元気。伸長が伸びてたり、髪型が変わってたりするけど、あの日々を話すときは、
みんな昔と同じ目になって、楽しそうに話すんだ。そして、加藤さんも・・・。

 加藤さんは僕と同じ高校に入学して、3年間、僕と同じクラスで過ごした。あんまり昔みたいに一緒にはいないけど、
それでも僕たちは周りからは仲が良いように言われてて、その・・・、付き合ってるなんていう噂は学年中に広まってる。
僕の家に、よく加藤さんは手伝いに来るからかな。僕は、小料理屋はいいの?って聞くんだけど、
「家にはもう一人、立派な跡継ぎがいるからいいの♪」
って言われる。僕も松田ベーカリーの立派な跡継ぎなんだけどな・・・。お父さんもお母さんも、加藤さんが来てくれてとても助かってるみたいだし、
僕も加藤さんが来てくれると、手伝ってるときも楽しい。だから、来てくれることは大歓迎なんだ。
 加藤さんが僕にはいない、妹みたいに思えてきた。
51創る名無しに見る名無し:2008/12/11(木) 21:39:51 ID:bEukL9W1
 今年もクリスマスがやってきた。そして、今日も加藤さんが手伝いに来た。家のパン屋では毎年、
クリスマスケーキも焼いていて、今日が一年で一番忙しくなる日だから、加藤さんも早起きして来てくれた。
僕が寒さから起きられずにベッドの中でうずくまってると、その声が聞こえた。
「啓人は今年のクリスマスも寝坊助なんですか、ワンッ!」
しまった、今日はクリスマスだった!一年で一番忙しい日、そして、一年で一番寝坊してはいけない日!
ごめんなさい、加藤さん!
「おかしな啓人くん。早く着替えて、下に来てね。私、先に行ってるから♪」
うん、分かった、すぐ行く!
良かった。もしかして、ここで着替えるところ見られるんじゃないかって思った。でも、今年もまた寝顔見られちゃった。
 着替えて部屋を出ると、もうパンが焼ける、香ばしい匂いがしてた。加藤さんも、お父さんもお母さんも、慌ただしく動いている。
遅くなってごめんなさい!
 そういうと、早速僕も加藤さんとケーキ作りに取りかかった。横で生クリームを作っている加藤さんは、いつになく楽しそうに見える。その顔を見てると、僕も楽しくなる。
52創る名無しに見る名無し:2008/12/11(木) 21:40:49 ID:bEukL9W1
 今年のクリスマスも、あっという間に終わってしまおうとしている。加藤さんは、閉店時間までいてくれた。
疲れているみたいだった。
「お疲れさん。樹莉ちゃんも、ありがとうね」
お父さんが言う。加藤さんは丁寧に頭を下げる。すると、お母さんが僕に何かが入っている袋を差し出してきた。
「啓人、樹莉ちゃんをお家まで送ってきてちょうだい。これ、樹莉ちゃんの家にお土産にね」
ああ、分かったよ。じゃ、行こうか、加藤さん。
「ありがとうございます、家のみんなも喜びます。おやすみなさい」
僕と加藤さんは、松田ベーカリーを出た。白い息が口から溢れ出る。雪が少しだけ降ってきたようだ。
 しばらくは、僕の後ろに加藤さんが付いてくるような形で歩いてた。二人とも、疲れからか、黙っている。
疲れた?
「うん、少しだけ」
そうだよね、今年は特にお客さんが多かったから。ありがとね、加藤さん。
加藤さんはただ頷き、また会話が途切れてしまった。いつの間にか、僕と加藤さんは、並んで歩いていた。
53創る名無しに見る名無し:2008/12/11(木) 21:42:39 ID:bEukL9W1
新宿西公園の横を通り過ぎようとしたとき、急に加藤さんが僕の手を掴んで公園の中へ引っ張っていった。
えっ?ちょっと、加藤さん、どこ行くの!?
「ついてきて」
僕を振り向かずに、加藤さんは言った。そんな加藤さんに圧倒されて、僕はそのままついていった。
僕と加藤さんの立ち位置は、いつの間にか最初と逆になっていた。
 加藤さんの足は、かつてのギルモンホームの前で止まった。そして、僕の手を離すと、子供たちが置いていったであろう、
木製の椅子に腰掛けた。僕を見ているのかと思って、少し恥ずかしくなったけど、本当は僕の後ろに広がっている新宿の夜景を眺めているようだった。
「啓人くんも、座って」
隣に置いてある椅子を勧めながら言う加藤さんは、どこかいつもの加藤さんとは違って見えた。幻想的というか・・・、まるで天使のようだった。
 僕が腰掛けると、二人で見る景色の美しさに驚いた。ギルモンたちと行ったキャンプで見た夜景と同じように、綺麗だった。
綺麗だね。
「本当、綺麗。クリスマスだからね。啓人くん、あそこ見て。サンタさんがそりに乗って、空を飛んでるよ」
2人とも、それが飛行機だということは分かっていたが、あえて口にしなかった。
 そのまま、永遠に時が過ぎるのかと思っていると、再び加藤さんが口を開いた。
「ギルモンちゃんたち、どうしてるかな」
きっと、元気にやってるよ。クルモンたちも一緒に、僕たちみたいにクリスマスを祝ってるかもよ。
「そうだね。元気だよね」
もしかしたら、レオモンともまた会ってるかも。
「・・・レオモン」
・・・、ごめん。加藤さんの気持ち考えないで。
加藤さんの顔を覗くと、目に涙が浮かんでいた。
でもさ、デジモンのアニメとかゲームだと、またデジタマに戻って、幼年期からやり直しになるじゃん。多分、レオモンもまた、デジタマから孵ってるよ。
「・・・そうだよね!」
うん、絶対そうだ。また加藤さんに会いに来てくれるよ、絶対。
 外には雪がちらつき始めていた。加藤さんが立ち上がったから、僕も立ち上がった。
「ねえ、啓人くん」
雪が降り注ぐ夜空を見上げる加藤さんの横顔は、デジタルワールドへ出発する朝と同じ輝きをしていた。
「いつになったら、私のこと、”樹莉”って呼んでくれるの?」
えっ・・・。
「待ってるからね、私!」
そういうと、加藤さんは僕の手から松田ベーカリーの袋を奪い取って、走り去っていった。僕は、ただその場に立ちすくんでいた。

雪が深々と降り注ぐ夜空に、流れ星が一つ、静かに流れた。
54創る名無しに見る名無し:2008/12/11(木) 21:45:08 ID:bEukL9W1
これで終わりです。
うpしながら読み返してみたけど、やっぱり唐突な展開と上手くまとめられていないストーリーが気になるorz
批評、感想などお待ちしています。
55創る名無しに見る名無し:2008/12/12(金) 01:39:38 ID:1iYCDSDq

続きが欲しくなる終わり方だぁ
56創る名無しに見る名無し:2008/12/12(金) 04:08:59 ID:op377nk+
C.O.D.Wの話、ネタにはしらないし、おもしろいから暇な時あったらうpしてほしい
テイマも途中で見るのやめちゃったけどみてみようかなって思った
57創る名無しに見る名無し:2008/12/12(金) 10:44:37 ID:ILqd+yCx
ロイヤルナイツで妄想してたら、なぜかことごとくメンバーが病んだ件について
58創る名無しに見る名無し:2008/12/12(金) 11:58:53 ID:r4LXx+8P
乙。面白かったよ。
また機会があったらうpしてくれ。
59創る名無しに見る名無し:2008/12/12(金) 19:10:13 ID:YnKZXZa9
ジュリが可愛いな〜
60創る名無しに見る名無し:2008/12/14(日) 02:05:54 ID:rD0DTckF
なんか、俺の駄文で楽しんでもらえて嬉しい。
読んでくれてありがとう。
本当は、樹莉と啓人でクリスマスプレゼント買いに行ったり、他のメンバーも登場させたりっていう
プランもあったんだけど、gdgdになってしまいそうで、この形になりました。

>>55>>58
続きも少し考えてみたんだけど、なかなか難しいんだな。
思いついたら書いてみます。
>>59
今回は、キャラの特徴とか話し方とかに注意して書いてみたんだけど、そこら辺は上手くできてた?
61創る名無しに見る名無し:2008/12/16(火) 23:22:57 ID:WkUTXdVY
>>60
留姫を主役にして、物語の続き希望
62保守:2008/12/21(日) 16:02:30 ID:kwWjHraU
<現在連載中の作品>
C.O.D.W

<企画中の作品>
デジモンテイマーズ〜Holy Night〜
妹とガルルモン
いじめられっ子とインプモン
63創る名無しに見る名無し:2008/12/27(土) 20:07:38 ID:j9VgBqWC
C.O.D.Wの続きが気になる。
うp主、まだ来てるなら書き込んでくれ。もし来てなかったら、俺が勝手に続き考えちゃうぞ
64創る名無しに見る名無し:2008/12/27(土) 20:47:09 ID:qVP80qwV
VIPでガルダモンとメタルグレイモンの
漫才みたいなSSがあったよ
65創る名無しに見る名無し:2008/12/29(月) 17:45:55 ID:lTPxpFGb
C.O.D.W
7.「誘拐」

―――それから3日後。
―――泰斗と光希が出会った、次の日の朝。
「パルモン、一体なにがあったの!!!?」
ミミの悲痛な声が、泉家中に響き渡った。
ゴミを出しに、ミミがほんの少し家を空けたときだった。
そのたった数分の間に、一人娘のシズクが家から消えてしまったのだ。
一緒に遊んでいたはずのパルモンは、目を潤ませながら、なにが起こったのかを話した。
「さらわれた・・・!!」
「え?」
「突然空間に穴が開いて、男の子がシズクを抱えて・・・。」
「男の子・・・!?」
「うん、人間の男の子だった。
でもその子がもう一度空間に穴を開けて、シズクを連れていっちゃって・・・!!・・・あたし追いかけたんだけど・・・。」
「そんな・・・」
あまりの衝撃に、ミミは言葉を失った。
相手がただの誘拐犯ならまだしも、子供で、しかも空間に穴を開ける?
倒れこむようにしてソファーに座り、ミミは状況を整理しようとした。
だが、そんなことなどできるはずもなかった。
一家の頼れる存在である光子郎も、未だにデジタルワールドから帰ってきていない。
夫である光子郎を含めて、太一、ヤマト、タケルら『選ばれし子供たち』の通信が3日前から途絶えているのだ。
夫もいない、娘さえも・・・。
どうしたらいいのか分からぬまま、ただ刻々と時間だけが過ぎていった。
そのとき―――。

部屋中に、馬鹿に明るいポップミュージックが響き渡った。
それは、ミミのR⇔Dが着信を告げる音だった。
誘拐犯、もしくはシズクからの連絡だろうか。
ミミは我先にと、それでも恐る恐る通話ボタンに指を伸ばす。
だが、相手は誘拐犯でもなければ、シズクでもなかった。
見慣れた人物の立体映像が、目の前に浮かび上がる。
「ゴメンねミミちゃん、急に電話しちゃって」
涙がこぼれそうになる。
思えばこの人には、昔から頼りっぱなしだった。
そして光子郎がいない今、ミミはもう今すぐにでも彼女にすがりついてしまいたかった。
思わず彼女の名前が口元からこぼれる。
「空さん・・・!!」

66うp主:2008/12/29(月) 17:48:16 ID:lTPxpFGb
ほんとにお待たせして申し訳ない・・・
やけにバタバタしてまして。
1月後半から一人暮らし始める予定なんでそしたらもっと自分の時間がとれそうです。
ではでは。
感想お待ちしております。
67創る名無しに見る名無し:2008/12/30(火) 00:04:33 ID:PmIOSIvd
いじめられっことインプモンを妄想したものだが、まさか拾われるとはおもわなんだ
まあ、時間が出来たらやれるだけやってみるよ

そしてC.Q.D.W.の人は乙
空さん頼むぜほんと
68厨二病:2009/01/02(金) 09:39:58 ID:vFzsPFqq
降りしきる雨の中、男は駆けずり回った。
雨なのか汗なのか分からないが大量の液体がどっと頭から滴り彼の視界をぼやかせる。飛び出してしまうのではないかと思うくらいにバクバクと心臓が高鳴り、肺を吐き出しそうな感じがするほどに荒々しく呼吸をしていた。
男は何かから逃げているようだった。追跡者の姿を確認しようとしてか、後ろを振り返るがその瞬間に雨で濡れた地面に足を取られ派手に転倒した。

くそっ、こんなハズじゃなかったのに!

男は心の中で毒づいた。計画は台無しだった。まさか奴等が居場所を嗅ぎ付けていたとは。もっと警戒しておくべきだったのだ。自分の研究しか頭に無い男はその事を初めて後悔した。
何度もこのまま投降してしまおうという誘惑に負けそうになった。このまま大人しく捕まれば、奴等は私を殺すような事はしないだろう。何故ならば組織の重要な手がかりとなる。それに、組織に脅され無理矢理研究させられていたとでも供述すれば少しは罪が軽くなるはずだ。
だが男の執念がそれを最後まで許さなかった。私には大切な使命があるのだ。

「待ってろ・・・私の可愛いダロニカ・・・」

一言だけ呟くと辺りを警戒しながら再び走り出した。どうやら上手く『まいた』ようだ。それを確信すると同時に男の体にどっとアドレナリンが駆け巡り、疲れ果てた体を突き動かした。

やがて男は人気の無い海辺へと辿り着いた。岩場から見渡す真夜中の海は不気味に黒く、静かに波打っており、まさに無限に広がる地獄の門のように見えた。
辺りを注意深く見回すと、ようやく目的の物を発見した。黒い液体から突き出す三角形の金属。必死に駆け寄ると待ち構えていた人影が手を伸ばし、彼を引っ張った。
男は彼に急かすように声をかけると、素早くバルブを回してハッチを開くとそこへ彼を捻じ込むようにした。そして最後に自分も飛び降りると、内側からバルブを回してキッチリとハッチを密閉した。

「よし、イスルモン潜水開始だ」

艦内で男が命令すると同時に三角形は水中へと没した。彼は座り込んで激しく息をつく。内部は蒸暑く、とても一息つけるような場所じゃなかったが無事に逃げおおせた事に大きな安堵を得た。
彼は減圧室を通り、大きな広間のような場所へと入っていった。そこには数人の人間と・・・数頭のデジモンが居た。その中で中央に陣取っていたリーダー格が彼を確認するなり歩み寄ってきた。

「ようこそダレン博士。無事で何よりです」
「どうなっておるのかね、奴等が襲撃してきたではないか・・・」

彼・・・『ダレン・グルーバー』は流暢な日本語で不満を吐き付けた。彼の両親は生粋の純血日本人では無いのだが、彼の生まれも育ちもこの国であった。
ストレスからか、ダレンは年齢よりも少し老けて見えた。かなり髪が薄くなっていてシミができた頭皮が露になっている部分もある。
リーダー格の人物はダレンの様子を見ながらニヤリと笑みを浮かべて言った。

「私の責任ではありませんよ。アナタが襲われたのはアナタ自身の注意力散漫が原因だ。違いますかね?」
「とんでもない!君の部下供が役立たずなのが悪いんだ!!何故奴等の存在に気が付かなかった!!・・・まあ良い・・・もう済んだ事だ・・・」

『それ、見た事か』とでも言いたげな口調に声を荒げる。もっと怒鳴りたかったが、体力を消耗している状態でコイツと口論する気力は無かった。
そんな事よりも一刻も早く確認しなければならない事がある。

「それで・・・ダロニカは無事か・・・?」
「ええご安心を。アナタの娘さんは傷一つ付いちゃいませんよ。コチラにどうぞ」
69厨二病:2009/01/02(金) 09:55:57 ID:vFzsPFqq
男達が乗り込んでいるのは潜水艦とサメを足したような姿をしたサイボーグ型デジモン、『イスルモン』だ。イスルモンは流線型の頭部で水を切り、悠然と暗黒に染まった海を進んでいた。
視界に広がるのは無限の闇だったが、鼻先の協力無比なセンサーがイスルモンの脳内に指令を送り込み障害物を難なく避けていた。

「おお・・・ダロニカ・・・また会えて良かった・・・」

ダレンが辿り着いたのはイスルモンの底部に用意された巨大な部屋であった。
部屋には彼の研究施設そのものを持ってきて取り付けたような感じで、SF映画なんかで出てきそうなカプセル状の物体が中央に陣取っていた。
そのカプセルに様々なコードが伸びており、幾つもの大型モニターに接続されていた。
ダレンはモニター一つ一つを確認する。全て正常だ。
カプセル事体はどうだ?丹念に調べてみたが何処にも破損は確認できない。

完璧だ。

ダレンは笑みを浮かべた。このカプセルこそ彼を突き動かした執念の根源となる物だった。私は歴史に残る偉大な発明をやってのけたのだ。再びアドレナリンが体中を巡る。
神の領域を侵す、偉大なる発明。究極の兵器。そしてなにより娘を救う事が出来たのだ。この上ない極上の興奮がダレンを包み込んだ。
世界中の科学者が・・・今まで私を異端扱いした連中が目を皿のようにして驚くに違いない。


この『夜の女神』を目にすれば。


ダレンが興奮に身を任せ打ち震えていると、突如として衝撃音が走った。それは、のぼせ上った頭を元に戻すには十分すぎるものだった。

「何だ!何が起こった!?」
「攻撃だぁ!!くそっ!Dフォースめ!!」

怒号が響き渡った。ダレンは慌てて梯子を上って、広間へと向かおうとした。

70厨二病:2009/01/02(金) 09:56:44 ID:vFzsPFqq
「目標確認。攻撃を開始する」

赤い鱗に覆われ、黄金の兜と稲妻状の角をもつそのデジモンは海蛇の如く体をくねらせ、素早くイスルモンを追跡していた。完全体のメガシードラモンだ。
メガシードラモンは角にエネルギーを充填した。バチバチっとスパークが走ると青白く発光し始めた。メガシードラモンはその光を前方を泳ぐイスルモンに向かって放った。

「サンダージャベリン!」

稲妻状の光線はイスルモンへと向かっていった。と、同時に凄まじい振動を感じ取った。どうやら命中したようだ。イスルモンの装甲が剥がれて水泡が噴出しているのが確認できる。
次の瞬間、イスルモンのヒレから何かが弾ける様にして飛び出した。それは追尾式の魚雷だった。まっすぐ全弾がメガシードラモンに向かってきたが、彼は決して慌てずに角で全て叩き斬ってしまった。
衝撃が走るがクロンデジゾイドの兜に覆われた頭部は傷一つつかなかった。

「しぶといヤツめ。ならばコレでどうだ?」

メガシードラモンはイスルモンの損傷部分をサンダージャベリンで狙い撃ち。再びイスルモンに命中して振動で海が震えた。とうとうイスルモンの装甲が限界を迎え、海中へと没していく。
それにつれて水圧がイスルモンの体を締め付ける。傷ついたサイボーグデジモンは強大な圧力になす術も無く、まるで握りつぶされる空き缶のごとくその体を崩壊させていった。

イスルモンの内部はパニック状態だった。あちこちから海水が噴出して、乗組員達を吹き飛ばした。あたりに響き渡る悲鳴。まさに地獄絵図だった。
ダレンは最初の衝撃で梯子から振り落とされて、最下部に落下していた。強か頭を打ちつけ意識が朦朧とした。だがすぐに置かれた状況を理解した。

「くそっ!ダロニカだけは・・・ダロニカっ!!」

ダレンはもはや最期を悟っていた。だが死ぬ前にダロニカだけでも救わなくてはならない。必死にカプセルのコントロールパネルへと駆け寄り、緊急のパスワードを入力した。一瞬にしてコードが切り離されてカプセルは溝を滑り落ちていった。
そうだ・・・これでいい・・・これで・・・。
次の瞬間に、ダレンの背後から恐ろしく冷たい海水が流れ込み彼を一瞬にして飲み込んでしまった。

「目標大破。沈没していきます」
『ご苦労だったわね。引き上げは後日に行うとしよう』

兜内部に直結した無線機にメガシードラモンに命令を下していた者の声が響いた。骨伝導によって水中でもハッキリとその声が聞こえた。

「了解。これより帰還します」

メガシードラモンの体ならば深海でも十分耐えられるが、戦闘でエネルギーを消費した状態だ。海底で回収作業をするならば万全の状態でないと完全体とはいえ非常に危険なのだ。先のイスルモンがいい例である。
命令に従い、メガシードラモンはそのまま浮上し基地を目指して泳ぎ始めた。

一方、イスルモンの体から射出されたカプセルは傷一つ付かずに暗黒の中へとゆっくりと没していった・・・。
71厨二病続き:2009/01/03(土) 07:22:43 ID:ysYITqkR
『・・・この戦闘による被害は判っておらず、現在も調査を・・・』
「行ってきまーす!」

夏休み目前と迫った7月のあるの休日。殆どBGM代わりのTVからの音声を遮るように少女の元気な声が響いた。
台所で朝食の準備をしていた母親・・・凛とした雰囲気を漂わせている・・・は優しい口調でそれに応えた。

「行ってらっしゃい。気をつけてね」

母の声が聞こえると同時に少女は玄関から飛び出して足早にアパートの階段を下りていった。
肩口辺りからツンっと元気に外ハネした茶髪、日焼けしてほのかに褐色の肌。薄い生地のジャージを着込んだ姿は運動神経の高さを窺わせている。
少女の名前は武之内空。かつて『選ばれし子供』の一人として人類とデジモン達の平和のために戦った、ある意味英雄とも言える人物。
もう夏であるが早朝とあってまだ少しだけ肌寒く、空はそれを振り払うようにペースを上げて走り出した。
走っていると、まだ寝ていてもおかしく無い時間だというのに小さな子供と幼年期デジモンが楽しそうに遊んでいる姿が見えた。

「ここ数年で本当に変わったわね・・・」

そんな事を思いながら空はいつものランニングコースを進んでいく。
変わったとは空自身の事も含むが、人間とデジモンの関係と言うのは本当に劇的に変化していた。
彼女が中学生だった頃、パートナーデジモンを持つのは選ばれし子供達だけであった。しかし、ベリアルヴァンデモンとの戦いの後から徐々にパートナーを持つ人物が増え始めている。
それは子供だけではなく及川がピピモンというパートナーを得たように大人も例外では無い。選ばれし子供達という概念が増加したわけではなく、デジタルワールドとデジモン達自身が人類との共存の道を選んだという事なのだろう。

やがて空は神社へと続く大きな階段へと辿り着いた。ココもいつものコース。
大きな階段を駆け上がるというのは脚力の十分な鍛錬となる。勿論、理由はそれだけでは無かった。
空は家柄からか、和風な雰囲気が漂う場所というのに心地よさと言うか安堵感を感じるのだ。
それにココには空にとって先輩であり大切な友人である人物が居るのである。

規則的な呼吸をしながら空は長い階段を登り終えた。
爽やかな夏の風が優しく流れる中、一人の巫女が社へ続く道をはわいている。
空が休みの日に早朝ランニングを行うのと同様に、巫女にとっても神社の掃除は日課となっている。

「おはようございます先輩」
72厨二病続き:2009/01/03(土) 08:04:48 ID:ysYITqkR
「あら、おはようございます」

長く伸ばした黒い髪の巫女は振り向いて挨拶した。
彼女の名前は『神楽 香奈子(かぐら かなこ)』。空の二つ年上の女性であり、元お台場中学校テニス部部長である。
この寺院の住職の娘というやや特殊な立場であり、空が本格的にレギュラーとなった中学二年生時には既に卒業していたのだが、面倒見の良い彼女はたびたびアドバイスをくれにやって来た。
そして何より、サッカーを引退し何をするか悩んでいた空をテニスの世界へと導いてくれた人物でもある。
当時は女性として成長し今までのように幼馴染と一緒にピッチに立てない事に自己嫌悪の感情まで持った空であったが、香奈子との出会いが新たな世界へ踏み出す第一歩となった。

「先輩、毎朝お疲れ様です」
「空ちゃんも。一生懸命頑張ってるようで何より。テニス紹介した甲斐があったってものよ」

空は脚を止めて一息つき、首にかけたタオルで汗を拭いた。香奈子の方も掃除を中断して空に笑いかけてる。
香奈子の両親は彼女が幼い頃に離婚しており、男手一人で育てられた。しかしそれが祟ってか住職である父は数年前から体調を崩し、現在は入院中である。
父は入院中でも寺院の事を気にかけていたがそれならば私が頑張ると奮起して、父が不在の間彼女・・・と彼女のパートナーがここを管理している。
結局、香奈子はテニスから離れる事となったのだが後悔はしていない。むしろ世話になった父に恩返しできる事は幸せですらある。

「あれ?今日は・・・お一人ですか?」
「んーん。サクヤモンなら寺院の中。お祈り中よ」

世話好きの彼女はデジモンの世話というのもかなり上手なようで、彼女のパートナーは少し前には成長期のレナモンだったが今では究極体のサクヤモンに進化できる程になっていた。
因みに、究極体というのは並大抵の事でなれるモノでは無い。第一、選ばれし子供達内であっても究極体に進化できる者は少ないのだ。空のピヨモンですら完全体のガルダモン止まり。
それを紋章の力も無しに自力で究極体まで育て上げたとなればかなりの偉業とも言える。
ただし彼女達はその力を戦いのためには使わない。レナモンがサクヤモンへと進化するのは祈りを捧げるこの時だけであった。

「ありゃ・・・じゃあ今日はちょっとペース速かったかな?」
「アハハ、そうね。何か考え事でもしてたんじゃない?」
「えっ!・・・あ、その・・・まあそんな所です」
「ふーん。で、早朝から太一君とヤマト君のどっちにするか結論でたの?」

空は真っ赤になって叫び始めた。別に全く図星ではなかったものの、いきなりこんな事聞かれれば焦るに決まっている。

「なっ!!べ、別にそんな事考えてたワケじゃありませんよーっ!!」
「コラコラ、お嬢さん。寺院ではお静かに」

突然真っ赤になる空に、分かりやすい子ねと香奈子はクスクスと小さく笑った。
73厨二病続き:2009/01/03(土) 08:37:41 ID:ysYITqkR
「もうっ、先輩ったら」
「クスクス・・・それじゃあ立ち話はお終い。ホラ、走った走った!頑張れスポーツ少女!」

からかう様に空の背中をトンっと押す。未だにトマトみたいに赤い空は階段へと向かって行く。
そして階段を下りる直前に振り向いて、別れの挨拶をした。

「それじゃ先輩、また会いましょうね」
「ええ。空ちゃんも帰り道、気をつけてね」

空は一段一段、丁寧とも言えるような調子で階段を下りていった。実は階段というのは上るよりも下りる方が神経に気を使うので余計に疲れたりするのである。
階段を下りていく途中に数人の人とすれ違った。空はすれ違うたびにおはようございますと挨拶を交わしていく。
空と同じようにランニングをしている人、寺院にお祈りに来る人やデジモンを連れた人も居る。究極体までデジモンを育て上げた香奈子にアドバイスでも貰いに行くのだろうか?
数分の後、空は階段を下り終えて歩道へと出てきた。ところがさあ帰ろうかというその背中を思いっきり叩かれた。

「きゃあっ!!?」

思わず悲鳴を上げるが大体予想はつく。こんな子供じみた事やるヤツは一人しか思い浮かばない。
振り向くとそこにはやっぱり予想通りのボサボサ頭の少年の姿。

「おっす!奇遇だな空、お前もランニングか?」
「太一あんたね、いきなり背中をぶっ叩くとかね・・・」
「悪りぃ悪りぃ。そんな怒んなって」
「あんたね、私だから良い様なものだけどね他の誰かとかの場合はどうするつもり。完璧な変質者よ」
「うへぇ。酷い言い草だなオイ」

あんまり悪びれる様子も無く笑う幼馴染の八神太一。まったくと溜息を付く空。
空も太一も成長して以前よりも変わった所もあるが、この関係は変わってはない。
今でも空と太一の関係は小学生のあの時のまま。頼もしい相棒同士だ。

ただ、二人ともどこかでそれに違和感を感じている部分があった。小さな頃から僅かに抱き続けている恋心は無いと言えば嘘となる。
だが空も太一もこの関係に関してはあと一歩というのが踏み出せずに居る。もう一人の相棒、石田ヤマトも含んだこの当たり前のように続けてきた関係が壊れてしまうのでは無いかという不安があるのだ。

「ま、良いわ。せっかく会ったんだし、久々に帰る?」

モヤモヤを振り払うように空が提案する。先ほど先輩にどっちにするのか等と言われたことが微妙に蘇ってきていた。
だが今すぐ答えを出す必要は無い。大体、三人の関係を壊してまでどちらか選ぶ必要も無い。と言うか今そんな事考える必要性がない。

「おっ、久々に競争でもするか?」

ニッと無邪気な子供のように笑う太一。つられて空も笑った。
74厨二病の中身:2009/01/03(土) 08:46:24 ID:ysYITqkR
遅くなりましたが初めまして。

考えている分だけ投下しましたー。
02の続き的なものでC.O.D.W と思い切り被ってしまいそうなので迷惑でしたら他所へ引っ越します。
因みにヤマト×空は無視して空さんはどちらとも以前と関係が変わっていないという事にしてます。
75創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 15:10:09 ID:ZHR/3Jf7
ナイス無視
76厨二病の続き:2009/01/03(土) 22:02:01 ID:ysYITqkR
鉛色に染まった空と海。
雨も風も強くこのままだと大荒れになるであろうと予想されている天候の中、一隻の作業船がワイヤーを下ろして波に任せて揺られている。
船に乗っているのは男女一組。二人とも船舶免許の持ち主であったが本業はこのような業務を行う職業ではなかった。
二人はいわゆる『マスコミ』という組織の人物であり、数日前に『Dフォース』とテロリストの戦闘が行われたという海域の取材(調査)に来ていた。

「おーい、なんか見つかった?どうぞ」
「ああ、大量のゴミやらが引っかかってくるぜ。どうぞ」
「そりゃ大変ね。きちんと邪魔な物は外しなさいよ。どうぞ」
「うるせー、テメエもいい加減に替わりやがれ。どうぞ」
「まだ交替して10分と経ってないでしょうが根性なし。どうぞ」

二人はいかにも気だるそうな口調で無線機越しで会話する。二人がこんな気分なのは荒れ気味の海での作業だという事以外にも理由があった。
Dフォースの総監である武之内とかいう女は大のマスコミ嫌い(彼女は彼らをマスゴミと呼ぶ)で有名であり、戦闘の後の調査にメディアの介入を一切拒否した。
彼女が取材を許すのは全ての調査を終えた言わば『食べかす』状態になってからと決まっていた。今回の事件も同じように数日間、Dフォースが海域を占領したも同然の調査を行い、やっとマスコミの取材を解禁したのだった。
そしてようやく取材となったのだが・・・相変わらず食べかす状態の海域で何かネタになるような物は回収できるはずも無い。

まあ、ココまでは別に良い。だが二人が納得いかないのはその後の上司の命令であった。
この国のマスコミというのは一員である彼らから見ても情報提供者としての体を成していないのは明らかであり、やる事といえばスポンサー様お偉い様への媚売りただ一つ。
それが転じて一部の外国だけを持ち上げ自国をいかに咎めるかという報道に終始する事となる場合が多数だ。たとえ国民の大きな反感を買おうとも。
上司の『ご主人様』に反抗的な態度を取るDフォースと与党はとにかく鬱陶しい存在であるらしく、連日奴等の揚足取りに躍起になることもあった。
とにかく鬱陶しいDフォースを解体に追い込むような情報が欲しくてたまらないらしい上司達は「何もない」と報告しても聞きやしなかった。

「何か見つけろ」「隠蔽してるに違いないから何かあるはずだ」「いいから叩ける物を持って来い」

とにかく「見つけろ」の一点張りでしかない。
まだ二人は若かったが薄々、勘付いていたが上司の爺様婆様どもは問題を解決する手段は怒鳴り散らす事しか知らない。
いや、むしろ解決するにはそれが最良の手段だと思っているのだろう。
二人は他の仲間達と渋々と作業を続けたが、ようやく終業だと思った矢先だった。今度は現場の上司様が『残業』を命じやがった。
手ぶらで帰るのは怖いからという魂胆は明らかで、勤務態度が悪かったとかで二人が残業を押し付けられた形となり現在に至る。

「全く・・・ふざけやがって・・・何で俺がこんな事・・・」

良い大学を出て死に物狂いで勉強して入社した結果がこれか。
自分の思い通りの番組を作るハズが、まさか『漁師さんごっこ』とはな!!
77厨二病の続き:2009/01/03(土) 22:30:39 ID:ysYITqkR
男はひたすら不満をぶちまけていたが、ワイヤーの動きが突然鈍くなったのを見逃さなかった。
どうやら何かデカイ物を引っ掛けたらしく明らかに巻き取るスピードが落ちていた。
男は少しだけ期待した。まあ、どうせ不法投棄でもされた洗濯機とか海藻を根元から引っこ抜いたとかそんな所だろうけど何か面白いモノならようやく仕事から解放される。

「おい、大物が掛かったらしい。どうぞ」
「了解。何か良いネタである事を祈ってるわ。どうぞ」
「まああまり期待しないこったな。どうぞ」

男はじっと事の成り行きを見守った。やがて絡みついた海藻類と供にワイヤーが姿を現す。
ああ、やっぱワカメちゃんかよと思った矢先に異様な物体が引き上げられてきた。
銀色に輝くソレは暗い中でも目立つほどだった。形はカプセル状で妙な存在感を放っていた。
始めは魚雷の不発でもしたヤツかと思ったが完璧なカプセル状でありスクリュー等は付いていない。

「よう。なんか面白いもんが上がってきたぜ。どうぞ」

男は嬉々として無線機に向かって話し掛けた。


二人を乗せた船はようやく帰路に着く事となった。
だが男の表情には明らかに怒りの色が浮かんでおり、同調するかの如く天候も大荒れとなり高波が船を揺らした。

「ちくしょう!この俺の手柄だったんだぞ、クソ!クソ!!」
「うるさいわよ。もう済んだ事は仕方が無いよ、諦めなさい」
「ふざけんじゃねー!何で俺の手柄が奴等の手柄のように扱われなきゃイカンのだ!」

例のカプセルを発見した男はようやく解放される喜びからか、そっくりそのまま上司に報告した。
すると上司の上司様のご命令だろう、今すぐ物を開けずに持って帰って来いと抜かしやがった。
帰れることは帰れるのだが、俺の発見した物を何故俺が一番最初に開けることができないのかと不満が募った。
冷静に考えて報告なんぞしなけりゃ良かった。このまま自分一人で物を開けて中身を撮影してどっかにタレコミでもするべきであった。
もはやこのまま持って帰っても「よくやった」などと上辺だけの褒め言葉を掛けられるだけなのは目に見えている。

「・・・決めた!もう命令なんか知った事か!!」
「ちょ、ちょっと何処に行くのよ?」
「今から中身を撮影するのさ。俺の見つけたお宝だ。誰にも横取りさせねえ!」
「何馬鹿な事言ってるのよ。第一、外は大荒れで危ないわ。もし物を落したりしたら・・・」
「うるせえってんだよ!!」

男はヒステリックに怒鳴り散らすと、その場を立って操縦席の離れた。
女は追いかけようと思い立ったけが今運転を止めるのはあまりに危険な行為だったため追いかける事はできなかった。

「ああんっ!もう!!何でどいつもこいつも自分勝手なのよ!!」
78厨二病の続き:2009/01/03(土) 22:54:01 ID:ysYITqkR
男は揺れる船上を慎重に進んでカプセルの元へと辿り着いた。
大粒の雨が殴りつけるように降り注ぎ、波が船に当たっては体にかかってくる。

「くそう・・・どうやって開ければ良いんだよ」

男はバールでガンガンとカプセルを殴打しまくったが傷一つ付きはしなかった。イライラを募らせる男だったが、丁度側面の中央部に錠のような物体を見つけた。
ガンとバールで殴りつけると、既に脆くなっていたのかその物体は鋭い音とともに外れて落下した。
改めてみるとそれは錠ではなくカバーだったようで、外れた場所の真下からスイッチと思わしき物が露になった。
ごくり・・・と唾を飲み込んだ男は興奮を押えながらスイッチを押してみた。プシュッと空気が抜けるような音がすると同時にカプセルの蓋が少し持ち上がった。
そして出来た隙間から粘着質のある液体が滴り始めた。さあ、いよいよだと男は思い隙間にバールを捻じ込むと梃の原理で蓋をこじ開けた。

「さあ・・・お宝ちゃん・・・俺に姿を見せてくれ・・・」

男はかつて無い興奮を覚えながら中身を覗き込んだ。瞳に飛び込んできたものは・・・なんと人間であった。しかも女。
女は景色のせいか浸っている液体のせいか、灰色の生気の無い色をしていて瞳は閉じられていた。
鼻の頭から頬にかけては『そばかす』のような点々が確認できた。両手は安らかに眠るように胸の前で合わされていた。

「おいおい・・・冗談だろ・・・棺桶を引き上げちまったってのか??」

呆然と立ち尽くす男。もっと何か凄まじいもの・・・テロリストの資金源とか新開発した兵器とか考えていたのだが、まさか水死体とは。
ガックリと肩を落すが、女の手の中から妖しげな光が放たれるのを目撃した。

「何だ?何か持っているのか??」

男はそれを手にとって確認しようと手を伸ばした。
しかし次の瞬間。何か強い衝撃と熱いものが迸る感覚が伝わってきた。訳の判らないまま男の意識はそこで途絶えてしまった。
79厨二病の続き:2009/01/03(土) 23:11:36 ID:ysYITqkR
彼女の体はエネルギーを欲していた。だから頭で考えるより先に目の前のモノに掴みかかり無我夢中で貪り喰った。
吐き気を催すまで食べ尽くした後に感じたのは恐怖であった。自分が何者で何でこんな所に居るのか何でこんな事をしたのか一向に判らなかった。
断片的な記憶はあるが考えると煙のようにふっと掻き消えてしまう。彼女が頼れるのは生物としての本能だけであった。
本能が『飛び降りろ』と命令してくるが体が思うように動かない。恐る恐る、カプセルに手をかけて身を乗り出すと下を見つめてみる。

下界に広がるのはドス黒い海であったが、彼女にはなにか大きな生き物に見えたらしい。
今にもこの訳の判らない生き物が自分に襲い掛かり丸呑みにしてしまうのではないかと思い込んでいた。
カプセルに逃げ帰ろうとするが、次の瞬間に大きな波が発生して彼女の体は一瞬宙に待った。
悲鳴を上げてカプセルにしがみ付いたが、結局はカプセルを道連れにする形で船から落下した。

彼女が落下するとかなり大きな音が発生したが、大荒れの海原に掻き消されてしまった。
突然冷たい海水に浸かって混乱する彼女。必死にカプセルにしがみ付き、本能的に首に刻まれた五本の筋を開閉させて呼吸を始めた。
辺りは真っ暗であったが何故か脳内に情報が伝わり、どんな風になっているかが手にとるように理解できた。

カプセルはそのまま海底に落ちてきた。底に溜まったヘドロが舞い上がり、辺りを一層濁らせた。
付近で泳いでいた魚達は少しだけパニックになり散り散りになってその隊列を乱した。
彼女は訳が判らないままどうにかしなければと考えていたが、特に行く当ても無いので再びカプセルの中へと戻っていった。


「ちょっと聞いてるの?いい加減に戻ってきなさい!!」

相方の帰りがやけに遅いので無線機で怒鳴り散らす女。だが男からの返事は無かった。
それもそのはず、男は既に船には居ないのだから。残っていたのは僅かな血漿とぬめった粘液と、男の持っていたカメラだけだった。
80創る名無しに見る名無し:2009/01/10(土) 18:34:51 ID:QO0dF100
保守

>>68-79
81創る名無しに見る名無し:2009/01/12(月) 12:05:02 ID:QWUSzb5H
保守
82創る名無しに見る名無し:2009/01/15(木) 19:01:18 ID:nZdopDg2
>>50-53の作者に希望
話の続きで、啓人とルキもやってみてくれ
ジュリとがクリスマスだったから、ルキは正月か卒業式で
83厨二病のつづき:2009/01/16(金) 21:52:24 ID:c6PaT8+3
窓を殴りつけるような雨の音が響く中、石田ヤマトは頬杖をついてTVに見入っていた。
机の上にはコンビニ弁当が袋に二つ分、重ねて入ったまま放置されており一切手がつけられてない。
彼の父は俗にいう『テレビマン』というやつで帰宅はいつも不定期、または帰って来ない事も多々あった。
今まではその間一人ぼっちであったのだが今はパートナーのガブモンが一緒である。今日は事前に父から宿直になるとの連絡があったためガブモンと夕食を買いに出かけた。
元々、幼少のころから自分と父のために夕食を作っていたが別に料理そのものが好きだという事ではない。今日は親父はいないからコンビニ弁当でいいかと軽装で出かけたのだが、これが間違いだった。

買い物を終え、さあ帰ろうかという時になっていきなりの大雨が襲いかかってきたのだ。
全身ずぶぬれでガブモンは大切な毛皮が水分を含んで落ち込んでしまうし散々な目にあった。二人は帰るなり風呂へと直行して雨と汗まみれの体を洗い流し、ようやく落ち着いた。
だが風呂に入ったせいかちょっと休憩している間にガブモンは眠りこけてしまった。今も椅子に座ったまま、机に顎を乗せてスヤスヤと寝息を立てている。
一方でヤマトの方も野球中継を観ている間に夕食をとるのが億劫になってしまっていた。

ヤマトには特に贔屓のチームがあるわけではない。ただ単に、野球という競技が好きで試合を見ているのが好きなのだ。
この中継が終わったら、もう晩飯は抜きにして早めに寝ちまおうかと考え始めていた矢先にインターホンが鳴った。続いてドンドンという扉をノックする音が響いた。

「親父、帰ってきたのかな・・・?」

正直、出向くのは非常に面倒くさかったが本当に父だったら大変だ。居留守を使うわけにもいかずヤマトはTVの電源を入れたまま玄関へと向かった。
84厨二病のつづき:2009/01/16(金) 23:05:18 ID:c6PaT8+3
「イスルモン・・・完全体。サイボーグ型。ウィルス種。大型の潜水艦とも言うべき存在であり内部に他の生物を収納可能。強力な推進力を持ち探知センサーと追尾式魚雷を装備・・・」

外ハネした茶髪に鋭い目つきをしたその女は椅子に深々と腰掛けながら、パソコンの画面に表示されている文字列を声に出して読んでいた。
途中まで読んだところで少々イラついた様子でスイッチを押してディスクを取り出した。
女は取り出したディスクを手に持ちながら、それを持って報告に来た者にじろりと一瞥を加えながら言った。

「報告御苦労。だがこんなデータは正直、そこまで大事な物ではない。私が一番知りたいのは連中の正体についてだ。それに関する調査はどうなった?」
「はっ・・・。幹部会議の結果に基づきイスルモンとの戦闘海域をDフォース隊員を動員し調査を実行致しま・・・」
「そんなのは分かっている。結果を聞かせろ。連中の正体に関する手がかりは得られたのか得られなかったのかだ」
「ま、誠に遺憾ながら・・・メガシードラモンが撃破したデジモンがイスルモンである事、乗組員は全員死亡した思われる点だけ・・・です。」
「あれだけ独占調査をやらせてこの結果か?笑い話にもならねえわ」

女は悪寒が走るような鋭く冷たい視線で部下を睨みつけた。そして乱暴にディスクを机に放り投げると強い口調で続ける。

「良い話をしてやる。とある国の話さ・・・その国は全世界に嘘をついて核兵器の開発と発射実験をやっていた。それが全世界にバレるやいなや開き直って撃つぞ撃つぞと喚き散らし始めた。
そして嘘吐きの分際で、撃たれなくなけりゃ金をよこせ食い物をよこせと言い始めた。我が国のマスゴミはそれを『瀬戸際外交』だと称して報道した。だが実際はどうだ?どうなったと思う?
その国は結局、多くの援助を受ける事になった。マスゴミ共は瀬戸際だ何だとほざいているが、私からすりゃあ連中の外交能力は我が国の何百倍も上だと思うわ。
我が国は土下座を繰り返した揚句にATM替わりにされる位しかできてねえしな。嘘吐き国家にも自国民を誘拐されてるというのにまともな解決手段どころか経済制裁を止めろとか言いだすやつまでいる始末だ・・・」

女は一呼吸置いて続けた

「私の言いたい事もう分かるだろ?」

部下は冷や汗を流しながらゆっくりと頷いた。傍から見れば頷くというか項垂れた様にも見える。


「馬鹿に下手な力を持たせるのは危険極まりない行為だという事さ。恐らく、こんな潜水艦並のデジモンや武器を所持している連中なら規模の大きな組織だろう。
野放しにしておけば今に武器を振り回しながら金をよこせと喚き散らし始めるハズだ。
そうなれば我が国の頭のおかしい売国奴どもがキャンキャン鳴き始めるんだ。Dフォースなんか役に立たない解体しろ!ってな。
そして連中に税金払って土下座するように世論を誘導しやがるんだ。分かったな?私達はアホが騒ぎ出す前に連中を根絶やしにする方法を探し出さにゃならんのだ」
「はっ・・・はい・・・!」
「よろしい。もうこの海域の件についてはお終いだ。だが、今言ったことは忘れるなよ?連中の一部はまだ我が国の何処かに潜んでいる。必ず見つけ出せ!」

85厨二病のつづき:2009/01/18(日) 07:16:34 ID:3rDGfhda
ヤマトが扉を開けると、そこに立っていたのは見慣れた少女の姿だった。

「こんばんわヤマト。遅くにごめんね」
「どうしたんだ空?」
「これ、借りてたノート。すっかり返すタイミングを見失って・・・」

空は少しだけ恥ずかしそうにしながら頬を掻いた。
彼女が返しに来たのは今日学校で貸した物だ。今日中に返すからという事で貸し出したのだが、空はテニス部に委員会だったりで忙しくヤマト自身もバンドの練習で顔を合わす機会がなかった。
だから明日、会った時に返してもらえば良いと思っていたのだが・・・。

「別に明日でも良かったんだけど・・・」
「でも今日中って約束したじゃない」
「まあ・・・そうだけど・・・。とにかくありがとう。雨の中大変だったろ、ちょっと雨宿りしていけよ」
「え?でも・・・迷惑かけるわけには・・・」
「このまま帰して風邪をひかれる方が困るんだよ」

実際、空の靴下は雨で濡れており片口にも大きな染みができていた。
彼女の体力は並の男よりもあるのは重々承知していたが間違いなく風邪をひく。
結局、空はヤマトの説得に応じて家に上がりこむことにした。
普通に考えれば非常に危険な行為かもしれないがデジタルワールドであんな冒険した仲だ。
今更そんな事を気にかけるような関係では無かった。

「お邪魔しまーす」
「?・・・あっ、空だー!こんばんわ!!」

突然の訪問者にガブモンの目はすっかり覚めた様子。嬉しそうに笑みを浮かべながら挨拶をした。

「ふふ、こんばんわガブモン。ちょっと雨宿りさせてもらうわね・・・ん??」

ガブモンの隣に腰かけようと椅子を引いた瞬間だった。空は机の上に無造作に置かれた物に気がついた。
ガサガサと音をたてて中身を取り出してそれを見たあとに少し怒ったような口調で言った。

「ちょっと・・・ヤマト!!」
「んっ??何だ・・・どうかしたのか空・・・?」

空の濡れていた靴下を靴を少しでも乾かせればと物干し竿に吊るしに行っていたヤマトが声に反応して戻ってきた。
彼の眼に飛び込んできたのは腰に手をあてた『姐さん』ポーズで机に出されたコンビニ弁当を指さしていた。
86厨二病のつづき:2009/01/18(日) 07:38:40 ID:3rDGfhda
「えっ?何って・・・コンビニの・・・」
「まさかアンタ、毎食毎食これじゃないでしょうね・・・」

図星を突かれてギクリと震えるヤマト。
確かに365日全部というワケじゃないのだが、ここ最近は父親があまり帰ってこないため殆んど毎日コンビニ弁当で済ませていたのだった。

「あ・・・その・・・そう・・・です・・・ハイ・・・」
「ダメよそんなの!コンビニ弁当って何が入ってるか分かんないのよ!何でコンビニの野菜があんなシャキシャキしてると思ってんの?あれはシャキシャキする薬を入れてあるからで・・・」

ガミガミくどくどと説教を始める空。こうなると彼女を止めるのは難しい。
武之内さんの説教は長くて怖いと学校内でも恐れられるほどだった。言うまでもなくヤマトと太一は何度も餌食になったことがある。

「大体ね、ヤマト一人だったら勝手にしなさい!って言う所だけどね、今はガブモンも居るのよ!!ガブモンにもコンビニ弁当ばかりとか・・・」

結構痛いところを突かれて、しゅんと俯くヤマト。傍から見ると校長に呼び出された不良学生のようだった。
だがパートナーの危機を察したのかガブモンがフォローを入れる。

「そんなに怒んないで空・・・俺、弁当でも別にいいし、ヤマトも毎日作るの大変だし・・・」
「〜〜〜っ・・・分かったわ・・・」

さすがに小動物のような視線でお願いされたのでは空も敵わなかった。
ただし最後までしたわけでは無さそうだ。

「もったいないから今日はもうそれを食べなさい。だけど、それだけって事にはいかないわよ。ヤマト、エプロン貸しなさい」
「えっ?エプロンって・・・」
「冷蔵庫に少しくらいは有るんでしょ?私が何か作ってあげるわ」
「そ、そんな良いよ空!そこまでしてもらわなくても・・・」
「ダメったらダメ!!!」
「は・・・はい・・・」
87厨二病のつづき:2009/01/18(日) 08:20:19 ID:3rDGfhda
結局、断るわけにもいかずヤマトは空に料理を作ってもらう事にした。
冷蔵庫に十分すぎるほどの食材が残っていた事に半ば呆れながらも、空は手早く調理を始めた。
台所からは良い匂いが漂ってきており、ガブモンが嬉しそうに小さな尻尾を上下に振っていた。

「ヤマト〜、すっごい良い匂いがするよー!」
「ああ。そうだな」

少しぶっきら棒に答えるヤマト。彼の視線は微妙に虚ろでボーっと一点を眺めている。
その視線の先にあるのは料理をしている空の後姿だった。

今思えば・・・これって最大のチャンスだよな・・・。

ヤマトは心の中で呟いた。確かに今、思いを伝えるなら又とないチャンスが訪れていた。
料理を作ってくれる空の後姿を見て将来本当にこうならないかなとも思っていた。
だけど告白するのが怖くもあった。
受け入れられなかったらどうしようとかは勿論だった。だがそれよりも怖いのは空や太一を傷つけてしまうのではという事だ。

今ここで言うだけならば簡単だった。だけど空は三人の関係を壊したくないと思っているかもしれない。
ここで自分が思いを伝えることはそれを踏みにじる事になる。空を深く傷つける事になる。

「どうしたのヤマト?ボーっとしちゃって」

声をかけられてヤマトはビクンと肩を震わせた。
いつの間にやら空は料理を終えてテーブルへと持ってきた所だった。

「わあ、美味しそうー!」
「遠慮しないで食べてねガブモン。つーか元々この家の食材だしね」
「・・・そ、空っ・・・!」
「ん?何、ヤマト??」
「そ、そのう・・・」

ヤマトは動揺したのを隠そうとしているのか頬を赤らめ恥ずかしそうな表情を浮かべていた。
空は思わずその表情をみて可愛いなと思って同じように少しだけ動揺する。

「あ、あ、ありがと・・・な・・・」
「御礼言うのにそんな照れなくても良いじゃない。友達でしょ?」
「あ、ああ。そうだな・・・」

『友達でしょ?』との一言でヤマトは確信した。
やはり空は今までの三人の関係を壊したくはないのだ。小学生のあの時の関係のまま何も変わらずに仲間として居たいのだろう。
だったら下手に告白する事は彼女を傷つける事となる。ここは潔く諦めるしかないだろう。

最も、完全に諦めるつもりは無い。
空の気持ちが変わった時・・・・その時はきっと・・・。
88厨二病のつづき:2009/01/18(日) 08:52:00 ID:3rDGfhda
男は巨大なガラス張りの部屋から下界を眺めていた。
視線の先は都市の光とその道路を行きかう車のライトによって幻想的な美しさを放っていた。
男が居るのは都市の中でも一際大きく巨大に聳え立つビルの一室だった。彼はここから街並みを見下ろすのが大好きだった。
この光は全て自分の手にある。それを実感できるからだ。市長とか県知事という役職ではないが、実質この街の支配をしているのは自分だった。

しかしながら愚民という連中は本当に浅はかだ。自然を残せだのなんだのほざいて道路建設の邪魔するアホ野郎は何処でも湧き出てくる。
どうせ出来たらてめえらも我が物顔で利用する癖に何をほざいてやがんだ。
近年になってから科学技術を敵視するような連中が増え始めていると男は思っていた。
ふん、てめえらの生活では科学技術を使って無いのかよ?自分は環境を汚してないと?馬鹿言うんじゃねえ。
てめえらも毎日エネルギーを使い放題して環境をせっせと壊してやがるだろうが。

この街にこの世界に、この美しい光を与えたのは誰だと思っている。この俺だ。
邪魔されるいわれはない。むしろ感謝されるべき存在なのだ。
だが今日、機嫌が悪いのはそんな愚民共のせいだけでは無い。もっと腹の立つニュースが男の耳に飛び込んでいた。

「七号機が沈没しただと?」
「ええ。おそらく乗組員は全滅。積荷も海の底ね・・・」

男に答えたのはダークグリーンの体色をした芋虫だった。その体には毒々しい紫色の稲妻模様があり鋭い毒針が尻尾に生えていた。
グロテスクな見た目に反して声は透き通るように綺麗な女の声だった。

「つまりダレン・グルーバー博士も『夜の女神』も海の藻屑ね」
「ふん・・・グルーバーはどうせ始末するつもりだったさ。だが『夜の女神』は何としても・・・くそっ忌々しいDフォースめ!」

男は握り拳を作りドンっと机に叩きつけた。
怒りはそれで収まらず拳は握り締められたままプルプルと震えている。

「貴様は気付いていないんだろうが・・・どこまで俺の邪魔するつもりだ彩ちゃん・・・」
「ふふっ、敵となってもその呼び方なのね。向こうも未だにそんな呼び方してそうね」

そう言いながら芋虫はちょこちょこと男の体を這い上がってきた。
そして首に行き着くとマフラーのように男の首に巻きついた。

「で・・・どうするの?日本に行くの?」
「ああ。だが大きく事を動かす前にエージェント達を動かしておけ。場合によっちゃそのまま戦闘開始となるかもしれん」
「OK。だけど・・・修ちゃん。出掛けるなら久々に・・・」
「ふん。分かってるさドクネモン。ちゃんと御馳走食わせてやるさ」
89創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 21:19:28 ID:kraFDF8X
>>83-88乙。
投下量が凄いなw時間あるときにゆっくり読ませてもらう。

>>82
要望ありがとう。少し考えてみたんだけど、やっぱりgdgdになりそうだ。
ごめん、書く気になれたら書いてみる。
90厨二病のつづき:2009/01/22(木) 22:34:52 ID:CZpwvL++
この辺りの海というものはお世辞にも綺麗と呼べるものではない。文明の発展はその汚れをこの広大な青く深い世界へと垂れ流し続けているからだ。今やこの海の底はヘドロが蓄積され、一種の問題となっているほどだった。
例えば、海へと垂れ流された汚染物質を取り込んだ生き物をさらに大きな魚が食うことにより汚染物質を体内に溜め込み、さらにそれらを食う魚へと連鎖していく。
そしてとうとう人間が・・・特にこの国の人間は魚が好きだからその汚染された連中を食うことになるわけだ。
最も、今はまだ毎食それを食い続けるとかしなければ大丈夫なようだが、放っておけば将来魚は一切食えなくなる事態に発展するかもしれない。

そんな海の中を河西洋二(かわにし ようじ)はパートナーデジモンのルカモンと寄り添う様にしながら、船上から張られたロープを手繰りながら進んでいた。
彼らの目的は人探しであった。先日、この辺りでTV局の男性職員一名が行方不明となっておりどうやら作業船から海へと落ちたらしいとの事だった。
当日の天気は荒れており波も高く、そんな事故が起こる要因は十分すぎるほどだ。他にも何か荷物を積んでいたらしいが・・・それも落としたので探し出してほしいとの捜索要請が出された。

全く、事故って当然だぜ。と洋二は思っていた。
海というのは想像を絶するほど危険な場所なのだ。TV局の素人が大荒れの中、たった二人で貧弱な船で作業させるのだからいくら免許持ってようが無事に帰る方が難しい。
同乗していた女が精神的にショックを受けつつも無事に帰ってきたのは奇跡に近い。

洋二はかなり実践を積んだ潜水士だった。まだベテランと呼べるような年齢じゃないが実力は既にその位置に来ていると言っても差支えなかった。今回もパートナーと二人きりでの捜索を任されていた。
潜水作業時はバディ(二人一組)などで行動するのがセオリーであるが、パートナーデジモンを持ち、かつ技術の優れたものはデジモン一体だけを連れての行動を許可されていた。

『洋二、あっちの方に何か妙な反応がある』

ルカモンが特殊な超音波を使って話しかけてくる。
水中での意思疎通は基本的に身振り手振り。いわゆるボディランゲージというヤツだったがイルカのデータを持つルカモンは特殊音波によって水中でもパートナーに意思を伝えることができる。
ただし人間である洋二にはそんな能力はないわけで、こちらが何か伝えるときはボディランゲージだ。
ただ、それだけでもパートナー同士なら容易に意思疎通ができる。

91厨二病のつづき:2009/01/22(木) 22:36:11 ID:CZpwvL++
『妙な反応?』
『人間じゃない・・・デジモンに似た感じかな・・・。だけどデジモンでも無い』
『気になるな。もしや男の落した例の積荷じゃないのか』
『有り得るね。物体がクロンデジゾイド合金だったりしたらデジモンと似た反応が出ても可笑しくはないよ』
『よし、そっちに行ってみるか。ただ本当に積み荷だったら男の死体が一緒にあるかもしれん』
『OK。心の準備をしておこう』

反応があった所までは船から伸ばしたロープから手を放さないと行けないようだった。視界の良くない海ではまさに命綱といえるが、ルカモンが一緒なら問題はない。
超音波をレーダーにして元の場所へと帰るのは容易である。

洋二は先頭を行くルカモンの斜め後ろから置いて行かれないように泳ぎ続けた。ルカモンはスピードに気を使いながら、レーダーを集中させて反応があった場所へと進んでいく。
洋二は進みながら妙な事に気づいた。

『・・・魚が一匹も見当たらない・・・』

確かにお世辞にも綺麗な海ではないが魚と遭遇しないとは妙な話であった。
大体、さっきまでは普通に魚が周りを泳いでいたし小さめのサメにだって遭遇した。ところが進むにつれて一切生物の姿がない。
あるとすれば自分とルカモンだけだ。

『見て洋二。見つけた。予想通りクロンデジゾイド製の何かみたいだ』

考えを巡らせていた洋二はハッとなって前方を見てみた。底の方に何か光って見えるものがあった。確かに普通、海では見ないような代物だった。

『何だろう・・・ちょっと調べてみる』

得体の知れないものにパートナーを近づかせる訳にはいかないとルカモンは先頭をきって泳ぎ始めた。洋二はまってくれよとすぐに後を追いかけようとするが、次の瞬間だった。

何かが、ルカモンの脇腹へと猛然と突っ込んできた。

92厨二病のつづき:2009/01/22(木) 22:37:42 ID:CZpwvL++
彼女はカプセルの中で怯えながらも考えを巡らせてようやく自分の事について思い出し始めていた。
最も、自分が何者なのかという事は全く分からなかったが少なくとも生きるために必要な行動と自分に備えられた能力は思い出せていた。

視覚、触覚、聴覚、嗅覚、味覚。生物に備えられた五感である。しかし海で生活する生物の中にはもう一つ、第六感ともいうべきものが存在している。それは彼女も同様であった。

『ロレンチーニ瓶』と呼ばれる器官がある。
17世紀にイタリアの解剖学者であるステファノ・ロレンチーニが発見したためこう呼ばれている。
これはサメ、エイ類にのみ確認されるもので頭部に存在している。サメの鼻先や口の周りにはよく見ると小さな穴があり中にはゼリー状の物質が詰まっている。
生物は筋肉を動かすことにより微弱な電流が流れ、そこに磁気が発生する。ロレンチーニ瓶はこの磁気を感知する事ができるのだ。故にサメは砂の中に隠れた小魚も易々と見つけ出して餌食にする事ができる。
しかしせいぜいその探知範囲は数cmと言われている。だが、彼女に備え付けられていたのはロレンチーニ瓶をさらに強力に進化させた索敵器官であり凄まじい範囲で生物を感知可能であった。

彼女は手始めに小さなサイズの生物を捕まえては食いつくした。やがてより大きな獲物が欲しくなったので、カプセルから少し離れた場所へと泳いで行ってエネルギーを得た。
それを無我夢中で繰り返すうちに、すっかり周りに生物はいなくなっていた。どうやら考えなしに食べてしまった結果、逃げられてしまったようだ。

さらに遠くへと出ればまだまだ食べ物は沢山ある。六感がそれを伝えてくるのだが・・・彼女には未だそこまで泳いでいく自信がなかった。安全なカプセルの中は捨てがたいため、あまり遠くには行きたくなかった。
もっと何か居ないかと岩の間やらを探し回ったのだがろくな獲物は見つからなかった。
彼女はどうしようかと悩んでいたのだが、やがて何か二つの反応を捕らえた。両者とも今まで食ってきたものと違う反応で戸惑ったが、それはこちらに向かってきている。
彼女はじっと岩の陰からその反応を見つめていた。どうやら自分には気づいていない様子。だけど、自分にとって安住の地であるカプセルに向かっているみたいだ。

彼女はそれに気づいた瞬間、猛然と泳ぎだし一番カプセルに近い方へと突進した。ぎゅっと握り拳を作ると手の甲から刃が飛び出す。それを突き出し、目の前の生物の脇腹へと突き刺した。

93厨二病のつづき:2009/01/22(木) 22:39:15 ID:CZpwvL++
全く突然の出来事に洋二は混乱していた。
何か。何か分からないけど、すごいスピードで何かがルカモンへと突っ込んできた。次の瞬間にルカモンから煙がもわっと立ち上がった。

あれは・・・血だ。何かがルカモンに襲いかかって・・・食ってやがる。ルカモンの体を食ってやがる!!

ルカモンはというと必死にそれをふりほど浮こうとしながらもがいている。そして音波で洋二に対してしきりに弱々しく『逃げて』と言っていた。
恐怖に駆られ洋二は暫く動けなかったが、やがて猛然と反対方向へと泳ぎ始めた。手を滅茶苦茶に振り回してとにかく突き進んだ。ロープだ、ロープを掴まないと・・・!ロープを掴んで今すぐ船に上がらないと!


彼女は血の臭いを一杯に嗅いで興奮状態にあった。敵はまだ生きているようだ。下手したら逃げられるかもしれないが興奮状態の彼女は無我夢中で敵の体に噛み付いてその肉を貪り食っていった。
ところが食っている間に何かが脳内へと思い浮かんできた。
強烈な電撃のように響き渡ったそれは『デジモン』という言葉。

そうだ・・・デジモン。こいつはデジモン。じゃあ・・・あっちは?

『人間』

人間・・・デジモン・・・人間・・・と・・・デジモン・・・。
彼女はぎょろりと目の前から遠ざかっていく反応を睨みつけた。そうだ、あっちは人間。
その言葉が脳裏に浮かんだ途端に、彼女は水を蹴って猛然と人間へと突進を始めた。
94厨二病のつづき:2009/01/22(木) 22:40:16 ID:CZpwvL++
洋二は何か背後から気配を感じた。思わず泳ぐのを止めてそちらを振り向いた。
ルカモンを殺害した奴がこっちへと泳いできている。信じられないことに・・・そいつは人間の女のようだった。そばかすの付いた女だ。
だがその瞳は黒一色で生気が全く感じられない無気味なもので人形のように無表情だった。しかし次の瞬間、ぎょろりと白目を剥き歯茎を剥き出しにして凄まじい形相となった。
びっしりと生えた歯は一本一本がナイフのように鋭利でまさに鬼か悪魔のごとき表情をしている。

洋二は足から携帯用ナイフを抜いて身構えた。あのスピードで来られたら逃げることはできない。ナイフで切りつけて追い返すか・・・怯んだ隙に逃げるしかない。

しかし次の瞬間、女の手の甲から自分のものより遥かに長く鋭利な刃が生えてきた。洋二は頭めがけてナイフを振り降ろそうとしたが、その前に彼女の刃が洋二の身体を切り裂いた。


獲物を仕留めた彼女は取りあえずカプセルの側へと持っていき、二つとも食ってエネルギーを蓄えた。しかし食い終わっても先ほどの興奮が抑えられることは無かった。
もっともっと、敵を仕留めなければ。
彼女はきちんと理解してはいなかったが、彼女の脳内にはこの二つの生物を殺すというプログラムが組み込まれていた。彼女は辺りを見回しもっと敵がいないかと探し始めた。
感覚器官がまた幾つかの反応を手に入れたが、その反応がする場所よりももっと遠くの場所に、比べ物にならない程の多くの反応を見つけた。

彼女はその場所を目指して猛然と泳ぎ始めた。
以前悩んでいた事は既に忘れ去られていた。
95創る名無しに見る名無し:2009/01/31(土) 14:48:51 ID:CuUYkKmX
ほす
96創る名無しに見る名無し:2009/02/03(火) 02:16:45 ID:pI1uITji
デジモンのキャラを使って仮面ライダークウガをやるみたいなのを書いたんだけど
このスレ的には大丈夫かな?
97創る名無しに見る名無し:2009/02/03(火) 12:45:52 ID:BUE/pOA5
>>96
何はともあれうpしてみよう!
9896:2009/02/05(木) 00:48:56 ID:jTNMgXHu
かなり超設定になるんで予め書いときます。
苦手な人はよければスルーおねです。


◎クウガ=ゼロ(エクスブイモン) 古代の青き竜の戦士。
勇気・誠実・希望・純真の四つの鎧を身にまとい邪悪を滅するという。

◎八神太一 25歳.世界を旅する冒険家。笑顔とサムズアップがトレードマーク。
がさつで向こう見ずな正確だが実際は強い意志と深い優しさを内に秘めている。
◎一乗寺 賢 23歳。長野県警警備課に所属する生え抜き刑事で、ゼロの正体を知る人物の一人。
太一とは対照的に堅く、めったに笑わない性格、たまに笑みをこぼすと周りから驚かれる。
◎竹之内空 24歳。城南大学の大学院生(修士課程)。考古学研究室で古代文字の研究をしており、
リント文字の解読に当たる。 コーヒーはブラック派。ポレポレを手伝うこともある。
◎石田ヤマト 25歳。太一、空とは同じ大学で何度か面識があった。
大学では登山サークルに所属していたが、ある日猛吹雪にあい、
自分を残し、弟タケルを含む仲間が全員行方不明になってしまう。
そのことに責を感じ、大学もやめて現在はひっそりと生活している。
◎八神ヒカリ 22歳。太一の妹であり、わかば保育園で保育士をしている。
決して自分を裏切らなかった兄を心から信頼している。
◎城戸丈 26歳。関東医大病院に勤める司法解剖専門医師で、
一乗寺の友人、「世界でたった一人の太一の掛かりつけ」を自認する。
医師としての立場から、理不尽な形で人間の命を奪う敵に激しい憎悪と嫌悪感を示す。
光子郎、ミミとは高校時代からの友人だった。
◎井ノ上京 28歳。科学警察研究所の責任者。
未確認生命体の研究および対未確認生命体用装備の開発を行う。
職務には熱心だが、そのために離婚された過去がある。
◎ゲンナイさん 年齢不詳。喫茶ポレポレのマスター、通称おやっさん。太一の父は古くからの友人である。
◎石田 裕明 53歳。警視庁警備部長で、未確認生命体合同捜査本部の設置に伴い本部長を兼ねる。
バツイチ。息子のタケルを登山事故で失い、もう一人の息子も現在は行方が知れなくなっている。
◎火田伊織 37歳。警視庁捜査一課の刑事。一児の父。
◎ズ・ゴオマ・グ 未確認生命体第3号(B群2号)、コウモリ種怪人。
人間を襲って血を吸う。人間体は及川 姿はデビモン
◎ラ・バルバ・デ/バラのタトゥの女 未確認生命体B群第1号、バラ種怪人。
ゲゲルの進行を取り仕切る美女。
石田ヤマトの学生時代の友人で登山の際行方不明になった太刀川ミミと瓜二つ。怪人体はロゼモン
◎ゴ・ガドル・バ カブトムシ種怪人。 ゴ族の中でもかなりの力を持つ雄。 石田ヤマトの友人であった泉光子郎の瓜二つ。
優れた戦闘能力だけでなく権謀術数に優れた頭脳も併せ持つ。怪人体は言うまでもなくカブテリモン。
◎ン・ダグバ・ゼバ 未確認生命体第0号(B群第13号)。「キュグキョブン ジャリ(究極の闇)をもたらす者」
登山の際行方不明になった石田ヤマトの弟 タケルに瓜二つである。
9996:2009/02/05(木) 15:46:09 ID:jTNMgXHu
うーん、いまいちかな考えなおしますネ
100創る名無しに見る名無し:2009/02/05(木) 16:35:36 ID:ZQSnPvPA
むしろ仮面ライダー剣みたいなのはやれそう。
101創る名無しに見る名無し:2009/02/05(木) 17:20:49 ID:Dko8QbNL
>>99
俺は読んでみたいし保守にもなるから書いちゃいなよ!
102創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 19:45:11 ID:BSjdUv3l
初代からテイマーズまでのクロスオーバーモノ書いてみました。
長編なんてやるもんじゃないけどこのスレ見てたら熱くなったんで
良かったら俺もお邪魔させてください。

103第一話 浪漫飛行:2009/02/06(金) 19:47:09 ID:BSjdUv3l

あの夏の日、私は二人の男の子と冒険の旅に出ました。

ピヨの鳥籠だけでも、生まれた京都に返してあげたかったからです。

もう戻らないあの日を、私は今も鮮明に覚えています。


104第一話 浪漫飛行:2009/02/06(金) 19:48:18 ID:BSjdUv3l


私と母は仲が悪い。
私が華道の家本に生まれながら、
見事なお転婆娘に育ってしまった事が原因だろう。

今でもケンカは絶えない、
お母さんは相変わらず私をわかっていないんだから。

でも、私は本当は母が好きだ。


私が小学校五年生の頃、母と大喧嘩した。
原因は些細な事だったと思う。
確かサッカークラブを辞めろとか言う話だったかな。
お母さんは私をわかってくれないって、家を飛び出した。

私は荷物と空の鳥籠を持って京都のお婆ちゃんの家に出掛けたのだ。
105第一話 浪漫飛行:2009/02/06(金) 19:49:21 ID:BSjdUv3l
「母さんはいつもそう、私には何も言ってくれない!」
私は激高した。
ペットの鳥は逃げただなんてお母さんは言ってたけど……本当は死んじゃってたなんて……。
「わたし、それなら、お墓を自分で作ってあげたかった、ちゃんとお別れしたかった!」
近所のおばさんが私に漏らすまで、私は何も知らなかったのだ。
「サッカーの事だってそう、お母さんは私の話なんて何も聞いてくれない!」
「空、落ち着きなさい、いい?」
「知らないから、お母さんなんて!!」



そして、私は家を飛び出した。

「空、何してんだ?」
「泣いてるのか?」
「へー、空でも泣くんだ」
「……太一の馬鹿ッ!」
私が泣き顔で公園にいるところを、仲が良かった二人の男子に見つかってしまった。
少し恥ずかしかったけれど……二人は私の話を親身になって聞いてくれた。
一人は八神太一、同じサッカークラブのチームメイト。
もう一人は、石田ヤマト君、タイプは違ったけど、なぜか仲が良かった。
そして、太一とヤマト君は親友同士だった。
「これからどーすんだよ?」
太一が言った。
「京都のおばあちゃんの所へ行く」
「行ったって捕まるだけだぜ?」
少し呆れ顔でヤマト君が言った。
「でも……わたし、ピヨの鳥籠だけでも、おばあちゃんに返してあげたい」
そう、死んだ小鳥は京都のおばあちゃんから貰ったものだった。
それは半分、家出の口実だったけれど、そのときは、なぜかそうしたくて仕方が無かった。
106第一話 浪漫飛行:2009/02/06(金) 19:49:58 ID:BSjdUv3l
「……俺さ、ついてってやるよ」
「え!?」
太一の意外な一言に、私は驚いてしまった。
「お前一人じゃ大変だろ、俺も行ってやる」
「でも」
「そうだな、空一人じゃ不安だ、俺も行くよ」
ヤマト君まで、そんなことを行った。
「でも、いいの、二人とも、親は?」
「俺んちはしばらく帰ってこないからかまわない」
ヤマト君が言った。
彼の父親はテレビ局に勤めていて、家を空けることが多いという。
「俺は……実は俺も母さんとケンカしてさ」
太一がへへっと笑っていった。
意外だった、太一のお母さんはうちのお母さんと違って優しいから……。
「そうと決まったら準備だ準備!」
「そうだな、お昼前には出かけよう!」
「ちょ、ちょっと」
「冒険だ、ぼーけーん!」
「夏休みだしな」
「家出なのに……いいのかな?」

こうして、二人の男の子との冒険が始まったのだった。
107第一話 浪漫飛行:2009/02/06(金) 19:50:20 ID:BSjdUv3l

幾度も、この日夢を見る。

あの夏の日、小学校五年生の夏休み。



あれから数年がたち、私も今は中学生だ。
サッカーはあの後辞めて、今はテニス部。

お母さんとは停戦中……かな?

私たちの冒険は意外にも京都駅まで続いたのだ。
お金が無いので、無賃乗車の連続だった。
子供にしたって随分と悪いことを平気でしたものである。

あえなく京都駅で捕まった私は、母にすさまじいビンタを貰った。
でも、そのときは既に母への怒りは失せていたのだっけ。

結局、私も母の事は何一つ知らなかったから。

あの後母とわかりあえたのは、二人の男の子のおかげ。
太一と、ヤマト。


108第一話 浪漫飛行:2009/02/06(金) 19:51:36 ID:BSjdUv3l
旅は滅茶苦茶だった。
そのときホテルに泊まるだなんて知恵も何も無かった私達。
小学生だとバレると補導される恐れがあったので、
田舎の駅で降りて(お金が無いから鈍行で行った)、一夜を越した。
どこかもわからない海で、三人でコンビニでお菓子を買って。

「言いたくなかったんだよ、多分」
砂浜のテトラポットの影に寝袋をしいて眠る太一を横に、ヤマト君が言った。
「空が泣くとこ、見たくなかったんだよ」
「でも、嘘はついてほしくなかった、ちゃんと言ってほしかった」
私は、そう言った。
それを聞いてヤマト君はクスリ、と静かに微笑んでから、
「コイツ、太一さ、本当は親とケンカなんかしてないんだぜ」
「え?」
「正直に言うだけが優しさじゃないよ、いいか悪いかは別だけど」
「太一……」
「心配なんだよ、きっと。 サッカーの事も、多分、話せばわかるよ」

ヤマト君は、バッグからハーモニカを取り出して、そっと吹き始めた。
私はその音を聞きながら眠りに落ちた。

このときからだ。


私がヤマト君に恋をしたのは。
109第一話 浪漫飛行:2009/02/06(金) 19:52:55 ID:BSjdUv3l
あの夏の日、私は二人の男の子と冒険の旅に出ました。

ピヨの鳥籠だけでも、生まれた京都に返してあげたかったからです。

もう戻らないあの日を、私は今も鮮明に覚えています。

それが私、竹之内空の最高の思い出だから。
110第一話 浪漫飛行:2009/02/06(金) 19:54:21 ID:BSjdUv3l
いつもと同じ朝が来て、私は走って学校へ向かう。


途中、八神太一と偶然出会う。
しかし、お互い、何もしゃべらない。

何とか学校に間に合う。
教室の私の席の斜め前、石田ヤマトの席。

ヤマト君は既に席についている。
挨拶も交わさず、やはり、何もしゃべらない。

時は流れたのだ。
がんじがらめに絡まってしまったまま。

だから、あの日は本当に戻ってこない。
111創る名無しに見る名無し:2009/02/08(日) 11:23:01 ID:Qn4aUrV5
まさかの空主人公ものか
112第一話 浪漫飛行:2009/02/08(日) 22:24:21 ID:g8KxV8aG

八神太一は多忙な中学生であった。
サッカー部でヘトヘトになって帰ってくると、
パソコンに向かってネットゲームに興じる。
そして朝は全速力で学校に向かい、
宿題を仕上げ、授業中眠る。


成績は散々であるが、それなりに充実した毎日を送っている。


「空……」
太一は中学のパソコンルームの窓からぼんやりと空を眺め、呟いた。
「残念でしたね、雨降っちゃって」
一年後輩の光子郎が話し掛けてきた。
光子郎は太一の言葉を違う意味に受け取ったようで、太一は照れ隠しに笑った。

雨が降った為に今日はサッカー部は屋内練習だ。
光子郎は太一が暇を持て余してると思ったのだろう。
「でも、太一さん、休むように言われてるんでしょう?」
と光子郎は言った。

ここ二、三日、太一はサッカーのしすぎで腰を痛めていた。
中学生に有りがちなオーバーワークが原因だ。
「朝も怒られちまったよ、走って学校に来るなって、
 寝坊したらサッカー部の為に遅刻しろだと」
「期待されてるじゃないですか」
光子郎は笑った。


パソコンルームには太一と光子郎しかいなかった。
そこは光子郎一人だけの部活、パソコン部の活動場所であった。
太一は暇な放課後を過ごす際はここに来ている。
この後輩には縁があって付き合っているのだが、
面白い話をするので、太一は彼を気に入っていた。
光子郎もまた、太一のように自分とは違う、行動力のあるタイプに興味を持っているようだった。


太一はパソコンのデスクに腰掛け、メールソフトを起動する。

「太一さん、メールするんですか?」
意外そうに光子郎は言った。

「まあな」
太一はメールを開くと中を確認した。
差し出し人はAGU。
「今夜9時に」

「……そういえば太一さん、デジタルワールドやってるんですよね?」
光子郎が聞いてきた。
デジタルワールドとはデジモンを育てて遊ぶネットRPGだ。

「ああ、結構やり込んでるぜ」
「こんど狩り行きません?」
「おう、メールしてくれ」太一は言った。
113第一話 浪漫飛行:2009/02/08(日) 22:24:49 ID:g8KxV8aG
とかく、女は噂が好きである。
って有名な文豪が書いたらしいけど、
女が好きなのは噂だけじゃない。
ある意味噂だけど……。
怪談も大好きである。

雨で部活が休みになった為、
皆は放課後すぐに帰らず、教室でだべっていた。

「ネットやっててー、意識不明になったりー」
「へんな影が画面に出てきたりー」

私は……好きだなあ、とか思っちゃう。
こういう話、あまり興味がないのだ。
「ね、空は、どう思う?」「え、うーん、ちょっと会ってみたいかなぁ」
「えー?」

でも、それはちょっと本音だった。
私の父は民族学を研究していて、小さい頃からお化けの話を山ほど聞かされてきた。
そのせいか、お化けがあまり恐くない。
むしろ会ってみたいとすら思うのだ。

「エグイのだったら嫌じゃーん」
「なんかー、新聞にも載ったんだよ、若者の間で流行ってる都市伝説って」
「狼みたいなのやー、恐竜みたいなのがー……」

「……ヤマト君?」
ふと、机の横を見ると、ヤマト君が立っていた。
あわてて私は目を反らす。
「ヤマト君、こういう話好き?」
「……いや、なんでもない」
ヤマト君はそれだけいうと、すぐに行ってしまった。
「ヤマト君てさ、超カッコ良くね?」
「ねー! フランス人とのクォーターらしいよねー」
キャーとクラスメートが騒ぐ。
……そっか、ヤマト君、人気なんだ。
114第一話 浪漫飛行:2009/02/08(日) 22:26:22 ID:g8KxV8aG
「段々話がデカくなってきてるな」
石田ヤマトはポツリ、と呟いた。
ヤマトは胸元から携帯を取り出す。
ヤマトの父は家を留守にする事が多い為、ヤマトに与えていた。
「先輩、今日練習はちょっと……スンマセン、スタジオ代、次は持ちますから、
 いいっすよ、そんなん、中坊だからって新聞配達やってますから」
ヤマトは笑った。
「はい? 違いますよ、そういうの、まだ興味ないんで」
電話の相手は去年卒業した先輩だ。
ヤマトと一緒にロックバンドをやっている。
「はい、次の土曜の練習は必ず。 島村のBスタですね、わかりました」
ヤマトは携帯を切った。


ヤマトは先ほど届いた携帯のメールを開いた。

「今夜9時」

差出人はGABとあった。
115第一話 浪漫飛行:2009/02/08(日) 22:28:10 ID:g8KxV8aG
人の心が、ソレを育てる。

感情の波がデータに変わる。

人の思い描いたイメージが、
人がデータに込めた願いが、
ソレの形を決定づける。


生と死の螺旋プログラム。 それを組み込み進化する術を得たソレ。


初めは卵から、
やがて幼生へ、
そして雛へ、


人の心の波間に、空に、羽ばたく時を夢見て。
ソレは静かに胎動する。


やがて孵化すると、
ソレは自分の主を探し始めた。
ネットの広大な空を静かに慎重に。


やがて一通のメールを見つけた。
そこに込められた願い。
ささやかな愛情。


心は進化の糧。
進化の力を得た雛は、
小さな羽根で大きく羽ばたいた。
116第一話 浪漫飛行:2009/02/08(日) 22:29:05 ID:g8KxV8aG
毎晩、自分の部屋のパソコンでメールチェックをする。
とは言っても、父とのメールのやり取りが殆どだが。
母とまたケンカした、とこの間メールで送ったら、
「また、家出なんかして母さんを困らせるんじゃないぞ」
父さんから返事が来た。

「お父さんの所、行っちゃおうかな」
と、私はさらに返事を送る。


母さんとは私は今、仲が悪いわけじゃないのだ。
ただ、私が変わりつつあるのだ。
それに戸惑っているだけ。
私も母も。



家出をしたとき、母さんはすぐに私を連れ戻すかと思ったら、
お祖母ちゃんの家へ一緒に行ってくれた。

例え何も言わずとも、私にはちゃんと聞こえていた、「ごめんね」という母さんの声。
私の「ごめんね」もあの時母に届いていたのだろう、そう信じている。

「言うだけが優しさじゃない」
私は口に出して言ってみた。
そのとおりだよ、ヤマト君。

何も言わなくても、本当はきっと母さんも私の事わかってくれてる。

でもまたケンカはしてしまうのだ、多分。
117第一話 浪漫飛行:2009/02/08(日) 22:30:02 ID:g8KxV8aG
空は、メールチェックをした後、ベッドに就いた。

空は気がついていなかった。

落としたはずのパソコンの電源が点いている事に、
そして、「画面の中」から何かが自分を見つめている事に。
118創る名無しに見る名無し:2009/02/09(月) 01:17:55 ID:ecR+i1w+
モンスター出るのか・・・。
キャラものかと思った。
119創る名無しに見る名無し:2009/02/10(火) 21:06:05 ID:I2fxGsBz
ヤマト島村楽器で練習してんのかw
120創る名無しに見る名無し:2009/02/12(木) 21:54:36 ID:vTBnJN1X
ほす
121創る名無しに見る名無し:2009/02/15(日) 08:19:35 ID:1w3n5OZI
保守
122創る名無しに見る名無し:2009/02/17(火) 17:26:51 ID:0BVdkdnU
久しぶりにゼヴォ見てるんだが、オメガモンとデュークモンに惚れるわ
マグナモンは萌えキャラだけど
123創る名無しに見る名無し:2009/02/17(火) 23:28:27 ID:UvotBuVe
ゼヴォのデュークはかっこいいよな、
つーか大抵デュークは登場すればかっこいいけど。風呂を除いて。
124創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 07:07:29 ID:JMWZvR0C
逆にカオスデュークモンでクレイジー全開なデュークモンも見てみたい
誰か書かないか
野沢さんならヤンデレも出来るよなきっと
125創る名無しに見る名無し:2009/02/21(土) 11:24:54 ID:jBF6yn3+
126創る名無しに見る名無し:2009/02/23(月) 13:39:59 ID:JyI9SHfs
>>124
前考えたな〜。デュークモンvsカオスデュークモン
ここで啓人と樹莉の短編書いた者だけど、やっぱり挫折したw
俺には戦いとか、冒険の物語は書けないみたいだorz
127創る名無しに見る名無し:2009/02/26(木) 19:24:12 ID:yHSTbGx5
ほしゆ
128創る名無しに見る名無し:2009/03/03(火) 12:47:57 ID:alR50V/t
クウガ書かねえの?
129創る名無しに見る名無し:2009/03/05(木) 16:07:58 ID:KWegCfJl
か、書かせていただきます。
130デジモンでクウガ:2009/03/11(水) 21:17:25 ID:tSZluMpE
古に猛き竜の戦士あり。
幾重の鎧を身に纏い、
邪悪なる者を封印せり。

邪悪なる者ダグバ、己が魂を封ず。
眠りにつき、再び蘇らんとする。

竜の戦士ゼロ、己が力を封ず。
眠りにつき、再び蘇らんために。

131デジモンでクウガ:2009/03/11(水) 21:18:58 ID:tSZluMpE
episode 1 「復活」

長野県 九郎ヶ岳遺跡、
大学から派遣された学者や学生、助手たちが何かを慎重に調べている。
全長二メートル程――それは棺のようであった。

「すごいわ……」
「教授、準備が整いました」
「わかった」
助手の一人がビデオカメラを構えた。
教授が電灯を消すように指示する。
全員が赤外線ゴーグルをつけ終わると、
研究員が電灯を消し始めた。
「よし、開けるぞ……」
その場にいた全員が息を呑んだ。
好奇心、知識欲。
学者としての至福の瞬間を味わう中、
野口教授は、数年前に「消えた」自分の愛弟子のことを何故か思い出していた。
(泉君が、光子郎君がいればな……)
しかし、そんな追憶も、徐々に開きつつある棺への興味にかき消されていった。

棺が開いた、中にあったのは――ミイラだ。
質素な服装に包まれて、腰には太いベルトのような装飾品が、
胸元には竜のような生き物をかたどった装飾品が身に着けてあった。
「こんなものが日本に出るとはな」
「世界のどの墳墓とも違う埋葬形態ですね!」
助手が興奮気味に言った。
しかし、助手が棺の蓋に何か書いてあるのを見つけた、古代文字だ。
この文明独自のものであったが、現在、他の古代民族が使っていた象形文字との比較検証が行われ、解読が進められている。
「……先生、これって勝手に触ったら呪うとか、書いてないですよね?」
学生が苦笑して言った。
「もう触ちゃったよ、下らない事言ってないで作業を続けて」
野口教授は笑いながら言った。
132デジモンでクウガ:2009/03/11(水) 21:19:48 ID:tSZluMpE

――新東京国際空港4:05 PM
「俺はさ、辛い時こそ笑顔でいられる男ってカッコいいと思うぜ」
青年が、微笑を浮かべながら、少年に語りかけている。
年のころは二十代前半から中半、背は典型的な日本人といったところか。
特徴的な逆毛頭をしていて、首からはゴーグルがぶら下げてある。
「ずっと前にネパールって国のアンガプルナって山で遭難したことがあってさ」
少年の目を覗き込んで青年が言う。
「死ぬかもしれなくて、怖くて泣き出したくて
 けどさ、そのとき一緒だった現地の案内人の男の子が俺と同じくらいの年なのに、
 大丈夫だよって笑顔だったんだ、なんかカッコいいなって思った、勇気だよな」
――少年は、わんわん泣き出していた。
「……でもまぁ、パパやママとはぐれたら心細いよな」
青年は、ポケットからジャグリングボールを取り出した。
「よっよっよっよっよ……」
笑顔で少年を見ながら巧みなお手玉を披露する。
「よっよっよっよっよ……」
――泣いていた少年も、いつしかそのお手玉に見入っていた。
「ヘヘ!」
青年は親指だけを突き立てた。
サムズアップだ。
少年も笑顔で返した。

「トーマ!」
そこへ、少年の両親であろう夫婦が、声を上げて走りよってきた。
「だめじゃないか! 一人で行っちゃ!」
「ごめんなさ〜い」
少年は、両親に飛びついた。
「良かったな」
青年は、もう一度笑顔で少年にサムズアップをした。

「さて、俺も行くか!」
青年、八神太一はバイクに乗り込むとヘルメットをかぶり、
そしてゴーグルをはめ、アクセルを回した。
133デジモンでクウガ:2009/03/11(水) 21:21:14 ID:tSZluMpE
――城南大学大学院、考古学研究室
若い女性がPCで作業しながら電話を受けている。
竹之内空、ここの大学院の院生である。
「もしもし、大門君? 今忙しいから後にしてくれないかな?
 ……無いよ進展なんて、今九郎ヶ岳遺跡の古代文字の解析のために
 いろんな文字を調査してるところ!」
友人のしつこい質問に空は多少うんざりしていた。
「あのね、棺の文面なんて、誰のお墓でどんな埋蔵品や遺品を埋めたかの目録がほとんどなの
 呪いなんて書いてあるわけ無いじゃない」
空は半ば呆れて言った。

――その時である、空は気がついていなかったが、
彼女の背後にある窓がひっそりと……『外』から開けられた。

――影は、そこからゆっくりと侵入してきた。
134デジモンでクウガ:2009/03/11(水) 21:22:48 ID:tSZluMpE
「あなたも学者の卵なら自分で調査しなさい、じゃあね」
空が電話を切ると同時に、背後から影の手が伸びた。

バッ!!

「……太一!」
「あ……バレてた?」
空は振り返ると、太一の頭を小突いた。
「久しぶりなのに言いたかないけど、窓から入ってこないで」
「だってここの窓が俺に登ってくれって言ってるんだよ」
空はため息をついた。
「叱られるのあたし達なんだから……」
「ごめんごめん、空」
太一は笑いながら言った。
二人はこの大学で同じ学部で学んだ同窓生であった。
「で、今度はどこに行って来たの?」
「インドネシア」
「やれやれ、ほーんと世界中飛び回るのね、落ち着きが無いんだから……コーヒー飲む?」
「いや、いいよ例の九郎ヶ岳遺跡すぐ向かうから」
「……ほんと、落ち着き無いわね」
空は自分の分のコーヒーだけ煎れると、一口軽くすすった。
PCの画面に目をやる、そろそろ先ほど入力した古代文字が
データベースの検索によって、ある程度解読されるはずだ。

「さてと、どんな呪いがかけてあるのかしら……え!?」
空が目を見張った。
「うん、何々? どうした?」
太一もPCの画面に目をやった。

「死、警告……」

九郎ヶ岳遺跡の文字に並べられた幾つもの古代文字、
その全てが死、警告、災いといった内容を示していた。
空は、引きつった笑みを浮かべている。
「一応、調査隊の人たちに教えておこうかな、ほら、話の種に……」
空は受話器に手を伸ばした。
135デジモンでクウガ:2009/03/11(水) 21:23:41 ID:tSZluMpE
――九郎ヶ岳遺跡
「もしもし! もしもし! 警察ですか!? 九郎ヶ岳遺跡の発掘現場です!」
研究員が必死に受話器に叫んでいる。
「たすけ……うわあああああ」
瞬間、巨大な影が研究員を襲った。
落ちていたビデオカメラのみがそれを眺めていた。

――城南大学
「竹之内さん!た……!」
「もしもし!? 何、今の声!!」
電話が切れる。
「どうしよう、何が起きてるの!?」
空が狼狽する。
「俺、行って確かめて電話する!」
すぐさま太一はバイクに乗りこみ、長野を目指した。


中央高速道 3:07AM
土砂降りの雨の中を、太一のバイクが疾走していた。
その時である、九郎ヶ岳遺跡の方向に、激しい閃光が発した。
「あれは…?」
太一はアクセルを吹かし、先を急いだ。
136デジモンでクウガ:2009/03/11(水) 21:25:07 ID:tSZluMpE

夜の闇の中を、不気味な影が動いていた。
「ラヂパジダ……ババギドビド、グムンベン」
不気味な影はゆっくりと歩きながら必死に何かを探していた。
「ボボザ」
影は、ゆっくりと地面を掻き出した。
――人の顔が出てきた、若い、18歳くらいの美しい顔をした少年である。
死体のように見えるが、全く腐敗はしていない。

影は、微笑む。
「ジョリガゲセ……」
そして、手を高く上げ、地面にかざした。

影の手から凄まじい稲光が発せられた。

稲光が、大地を貫いた。

やがて、稲光が吸い込まれた大地から、幾つもの人の手が突き出てきた。
さながら、黄泉の亡者たちが地上に舞い戻ってきたかのようだった。

影はそれを見届けると、先ほど掘り返した少年の体に手をかざした。
影は、腰にベルトのような装飾品を身に着けていた。
それがゆっくりと光の粒になって溶け、少年の体へと吸い込まれていく。
やがて、影自身もまた、死んだように横たわる少年の体へと吸い込まれていった。

やがて、少年は目を開ける。
そこには幾つもの同じような影が存在していた。
137C.O.D.Wうp主:2009/03/13(金) 19:24:43 ID:f5/3WvQo
おひさしぶりですー。
全然更新しなくて申し訳ないです。
最近忙しくて、、、でもまた続きを暇なときに書いていきます。
話の大筋は考えてあるので、できたら完結させたいです。
こんな気まぐれですが付き合ってくださるとうれしいです。

C.O.D.Wってなに?って人のために・・・↓

プロローグ >>6
第一話 >>7->>8
第二話 >>11
第三話 >>14
第四話 >>15
第五話 >>18
第六話 >>19
六話までの設定まとめ >>26
第七話 >>65
138創る名無しに見る名無し:2009/03/13(金) 20:29:05 ID:BvbIeDaJ
待ってるよ〜
139厨二病で保守:2009/03/17(火) 21:43:44 ID:SD+2mMCy
夜も更けてきた頃、香奈子はゆっくりと布団から出て台所へと向かった。
冷蔵庫の扉に手をかけるとゆっくりとそれを開ける。扉が開いた瞬間に、中の明かりがパッと点灯しひんやりした煙が這い出てきた。
香奈子は中から麦茶の入った容器を取り出して、コップに注ぐと一気に飲み干した。
よく冷えた麦茶は体の芯からひんやりと彼女の体の中を駆け巡る。

飲み終えたコップを流しに置いた後、彼女は畳の上に置かれた卓袱台に突っ伏してため息をついた。

ここ最近、あまりよく眠れない日が続いていた。父の体調が悪化し、退院が延びてしまったのが気になって仕方がなかった。
見舞いに行ったときは元気そうに振舞っていたが、明らかに顔色が悪くて何処か急に老けてしまったような印象さえ受けたのだ。
医者は大丈夫だとは言っていたのだが・・・それでも不安な気持ちは完全に晴れることはなかった。

「どうした香奈子。眠れないのか?」

背後から呼ばれて香奈子は突っ伏していた上半身をあげて声の方へと振り向いた。
黄色い体毛のパートナーデジモンは表情もどこか心配そうだった。

「大丈夫よレナモン。なんともない・・・」
「とても大丈夫そうには見えない顔よ。やっぱり心配なのね、父上の事・・・」
「・・・うん・・・」
「先生に治るとは言われたんでしょう?だから余計な心配はしないで良い。香奈子は父上の事を信じて待ってあげればいいのよ。
もし香奈子の方に何かあればそれこそ父上は余計に体調が悪くなると思うわ」

レナモンは言いながら香奈子の方へと寄ってきて、そっと優しく彼女の体に手をまわした。
香奈子もまるで母親に甘えるようにしながらレナモンに体を預けた。
そのまま胸のあたりの白い毛皮に顔を埋めると、ゆっくりと目を閉じた。

レナモンは頬擦りしながら顔を埋める彼女の背中をゆっくりとあやす様にして撫でる。
やがてパートナーの胸の中で安心しきったのか、安らかな寝息が小さく聞こえ始めた。
140厨二病で保守:2009/03/17(火) 21:46:19 ID:SD+2mMCy
夏の夜は更けようとしている。
しかし、これからが本当の『お楽しみ』の人物も居る。
海辺にはまだ幾つかの若者のグループがたむろして宴を続けていた。音楽に合わせて思い思いの相手と踊っていたり、はたまた各自食材を持ち寄って料理を作ったり・・・。
もちろんそうなれば、自然と酒の入ったお祭り騒ぎへと発展していく。そして最後には酔った勢いで何かしでかしてしまい、警察のお世話になる。
その様子はTVに報道されたりして、すっかり都市における夏の風物詩と化していた。

そんな中、一組の男女が先ほどまで一緒に行動していたグループから抜け出した。仲間はすっかりアルコールのせいで出来上がっており二人が抜けたことなど気にも留めていないようだった。
女の手を引きながら男が向かったのは海の方角。目的地にたどり着くと、そこには予め用意しておいたとっておきの玩具・・・少し大きなゴムボートがあった。

「おい、何だよ。早く来いよ」

男はボートに乗り込むと女を手招きした。だが女はあまり乗り気ではなさそうな表情を見せた。
無理もない、せっかく好きなだけ酒を飲めるチャンスだったというのに何故か二人っきりでボートに乗るはめになったのだから。たぶん彼は最初からこのつもりで準備していたのだろう。
じゃないとゴムボートなんてすぐ用意できる代物ではない。

「ねえ、やっぱ戻ろうよ・・・暗いしひっくり返ったら危ないわよ」
「いいから。大丈夫だって!はやく来い。誰か来ちまったら台無しだろ?」

どうしても譲る気は無いようだ。仕方ない、怒らせると何されるかわからないし素直に言うとおりにした方が良さそう。
女は慎重にゴムボートの中へと足を延ばした。二人が乗ると、微妙にボートが揺れて小さな波紋が夜の海に消えていった。

「よし、この辺まで来れば・・・」

男はボートを沖合に漕いで、陸地から少し離れたところで止めた。あとは波に任せるままお楽しみの時間だ。

「誰にも邪魔されないぜ」

男はそう言うと、突然女へと抱きついてキスをした。女は両手で男の身体を押しのけようと抵抗する。唇が離れると女は文句を垂れた。

「ちょっと、いきなり何なのよ・・・」
「良いじゃねえか、何のために海に出たと思ってんだよ。誰にも邪魔されずに楽しもうぜ?」
「あっ、ちょっ・・・と!」

男は女の腹に指をすっと這わせた。水着の上から撫でられる感触に思わずビクッと震えた。
そんな様子を見て男は妖しげな笑みを浮かべた。

「へへっ、嫌がってる割には・・・なんか嬉しそうじゃねえか」
「っ・・・もう・・・そんなんじゃ・・・!?」

女はもう一震えした。今度は触られたわけでも何か刺激を与えられたわけではない。
何かまったく異質な物を感じ取ったのだ。
座っているボートが何か下から持ち上げられたかのような感覚が伝わってきた。
一度持ち上がったかと思うと、続いてゆっくりと下降する感覚が続いた。それが何なのか最初は訳が分からなかったが、辺りを見回すと水面に波紋が広がっていた。
波紋はちょうどVの字を逆にしたような形で水面が割れるように伸びていて、数メートル先にその先端あるようだ。
やがて波紋は消えたが何か異質な感じは治まらなかった。

「なんだよ?どうしたんだ??」
「何か居るよ・・・」
「居る?」
「今、何か通ったのよ!ボートの下を!!」
「馬鹿言え、こんな夜に泳いでるやつなんか居やしねえって」
「本当だってば!!」

女は明らかに怯えたような表情を浮かべて言った。
今にも泣き出しそうな口調であり、このままじゃあお楽しみってワケにはいかないみたいだ。男は面倒臭い事になったなとため息をついて辺りを見回す。

「やれやれ心配性だな。ほら、何も居やしないって。俺たち二人きりだけだって」
141厨二病で保守:2009/03/18(水) 22:54:47 ID:T95vAR3x
走路に一機の飛行機が着陸した。ジャンボジェットより一回りくらい小さく、お偉いさんが乗るプライベートジェットといったところだ。
機体は黒い塗装が施され『Night Ruler』と白いペイントで文字が描かれている。
階段が用意され、機体の扉が開くと中から一人の男が護衛と思わしき数人の人物に囲まれるようにして現れた。その首にダークグリーンのマフラーをしているように見えたが、その物体はアクセサリーの類ではなく彼のパートナーデジモン。

「長旅お疲れ様です。黒神会長」

黒神(くろがみ)と呼ばれたその男が地面に降り立つと、既にその場で待機していた女が声をかけ、深々とお辞儀した。
そして女の側には黒い体に同じく漆黒の翼、真っ赤な複眼と鋭い鉤爪を備えたデジモンがいる。

「出迎えご苦労、金村・・・デビドラモン」

黒神はその女、金村有里(かねむら ゆり)に声をかけ、もう顔をあげても良いぞと指で合図した。
金村が顔をあげるとその眼を見据えながら尋ねる。

「で・・・『夜の女神』の手がかりは掴めぬままか?」
「いえ。断片的ですが・・・すでに幾つか・・・。TV局の人間が例の海域の付近で行方不明になっているとの事です。さらにその調査に向かった潜水士とパートナーが一組行方不明になっています。
 そして、最初に行方不明になった男と行動を共にしていた女が居るのですが、こちらの身柄は既に拘束しております」
「ふん・・・勝手に動き出したか。どうせバカなTV局の奴が偶然引き上げて蓋を開けちまったって所だろうな」

やれやれとため息をつく。
TV局の方は適当な金を与えてやればいい。金のために国を売るような連中だ。二人くらいの命なんざ簡単に売り渡すだろうよ。
潜水士の方を誤魔化すのは難しいだろうな。まあ、夜の女神の生存が確認されただけでも良しとするべきか。

「で、マスコミどもには下手なこと漏らしてないだろうな?」
「はい。勿論そちらの口封じも既に・・・」
「よろしい・・・その女には後で会うとするか」
「ねえ、ねえ、修ちゃん」
「あん?」

黒神の首に巻きついていたパートナーが急かす様にして声をかけてきた。

「ご飯は?ご飯は??早く食べたいよ」
「くくく・・・全くお前は食い意地が張ってやがる。レディがはしたないぞ?」
「良いじゃないのよ。美容のためには栄養取らなきゃダメなんだから!」
「やれやれ、金村。俺のパートナーは食事にしたいらしい。『御馳走』はちゃんと用意してあるんだろうな?」
「勿論でございます。私とデビドラモンで極上の食材を入手してきました」

それを聞くとデビドラモンは赤い四つの眼をニッと細めながら低い声で言った。

「活きのいい食材をご用意させていただきました。きっとドクネモン様も満足していただけるかと・・・」
「あら、それは楽しみね!!」
「良し、それじゃまずは食事にするか。長旅の疲れを癒す意味を兼てな」

黒神達はNRとロゴが刻まれたリムジンに乗り込んだ。
車は夜の闇へと吸い込まれるようにその場から走り去った。そしてそのすぐ上空を、デビドラモンが漆黒の翼で羽ばたき護衛するようにして飛んでいく。
142厨二病で保守:2009/03/19(木) 09:47:48 ID:XYIcgUbz
「覗き見なんかしてる奴はいねえって」

男がそう言った瞬間、突如として二人の視界がひっくり返った。
何が起きたか訳が分からず女は頭から派手に水中に落ちてしまう。夜の海はぞっとするほど冷たくて彼女はパニックになった。
でたらめに手足を振り回してなんとか空気のある場所へいこうとする。

「ぶはっ!!」

なんとか頭が水上へと脱出すると女は大口を開けて空気を吸い込んだ。その際、波で揺られた海水が口の中に入ってくる。
しょっぱい味が口いっぱいに広がり、女はゲホゲホと咳きこんで唾を一緒に吐き捨てながら辺りを見回した。

ゴムボートは無残な姿となり、ズタズタに切り刻まれてゆらゆらと海面で揺れていた。
そして一緒に乗っていた彼の姿が見当たらなかった。

「ねえ・・・どこに居るの?・・・ねえっってば!!」

とてつもない不安に駆られながら女は辺りを見回した。だが一向に男からの返事は無かった。だが、次の瞬間に女の数メートル手前の水が盛り上がった。
水中から露わになったのは男の姿ではなく、灰色の三角形をした物体であった。
女はこの光景を映画で見たことがある。

「さ、サメ・・・!?」

女が呟いたその瞬間にサメは水を切り、凄まじい勢いでこちらに突っ込んでくる。
ホラー映画にあったワンシーンがいま自分の身に起きている。その結果がどうなるか彼女は知っていた。
彼女は恐怖のあまり逃げることもできず、ただただ助けを求めて叫んだ。

「た、助けて・・・いやっ・・・いやあああああっ!!!」
143厨二病で保守:2009/03/19(木) 10:29:28 ID:XYIcgUbz
ひたすら泳ぎ続けて彼女の頭は混乱していた。
興奮を抑えるため、脳内に響き渡る使命を果たすため、感覚器官がとらえた反応の多く出る場所目指してがむしゃらに泳ぎ続けた。
途中で疲れた時はその辺の小さな魚を捕まえて食べた。それを繰り返すうちに少しずつだが記憶がよみがえってくる。
発音はできないけど、頭の中でこの魚はなんという種類か、あの生物はこういう生き物だと名前をつけその性質を頭で整理できるようになった。

だが目的地に辿り着いたときには既に『デジモン』『人間』の反応は消え去っていた。おかしい・・・さっきまで一杯いたのに?何で?

おそるおそる彼女は水面へと頭を出して、黒い眼で辺りを観察してみた。それが『スパイホップ』・・・ホオジロザメが獲物を狩る際に位置を確認するためにする行動だと彼女はまだ理解していないのだが、本能的にそれを実行に移したのだ。

獲物はいる。そんなに離れてない場所に。だけど私の手の届かない場所にいるみたい。

暫く水中に漂っていた彼女だが、ようやくおぼろげながら答えが浮かんできた。

あいつ等は私がいる世界と違う世界に住んでいるんだ。そうに違いない、だって最初に仕留めた人間は慌ててどこかへ逃げようとしたもの。
きっと、あそこが人間たちの住みかなんだ。私のいる世界では長く生きていけないに違いない。

彼女はまた自分のいる世界へと人間たちが現れるまで待とうと、隠れる場所がないか泳いで探し始めた。しばらくすると、何やら索敵器官が反応を捉えた。
どうやら誰かがこちらの世界へとやってきたようだ。獲物を仕留めるチャンスだと反応がする方へと泳ぎ始めた。

やがて彼女の前に目視できる距離にそれが現れた。何やらずんぐりした奴で、人間ともデジモンとも違う反応だ。だけど、ごく微弱だがその物体から人間の反応が伝わってきた。

あれは確か・・・人間が私の世界に来る時に使う道具じゃないかな?
あっ、そうそう・・・ボート・・・って名前だった気がする。
じゃあ下から攻撃してひっくり返そう。そしたら人間がこっちの世界に落ちてくる。

彼女はゆっくりとボートの下を泳ぎ始めた。そして攻撃に最適な場所をじっくりと定めようとする。
彼女がとった行動はホオジロザメのそれと似ていた。ホオジロザメは十分なスペースがあれば獲物であるアシカの真下からミサイルのように突っ込む。
そしてイルカのように大ジャンプする勢いで噛みつき、獲物に裂傷を負わせて仕留めるのだ。

だが彼女が実行に移そうとした際に異変を感じ取った。
獲物の反応が少し変わったのだ。こちらに完全には気づいてないようだが・・・警戒し防御の構えに入ったような・・・。
ぐずぐずしてたら逃げられてしまう!彼女は絶好のポジション確保の目的を捨て去り、刃を手の甲から伸ばしてボートへと突進を開始した


作戦はどうやら成功したようでボートをひっくり返すことができた。思ったとおり、上からは人間が二体落ちてきた。
慌てずにまずは退路を断つため刃でボートを何度も何度も斬り付けてやった。これでもう逃げられない。

まずは一番強そうなのから。人数は少ないし先に仕留めるに越したことはないよね。

勝負は彼女が意外に思うほどあっけなく幕を閉じて一体目を軽く仕留めた。
舞い上がる血が彼女の鼻腔にたっぷりと広がり興奮と快感が呼び寄せられた。彼女は一口だけ齧り付いたがすぐにもう一体に逃げられるワケにはいかないと、残りの弱っちい個体にも攻撃をしかけた。

大成功。私の勝利だ。これでパパも喜んでくれるはず。
・・・パパ・・・??パパって・・・誰だったかな・・・??

パパ・・・パパ・・・。助けて・・・パパ・・・

脳内に激しい電流が走った。彼女は頭を抱えて呻き声をあげた。声はゴボゴボと大きな水泡となって水面へと上がって弾けて消えていく。
彼女は恐怖に駆られてがむしゃらに泳ぎ始めた。
144厨二病で保守:2009/03/19(木) 22:13:35 ID:XYIcgUbz
「ホークモン!!今がチャンスよ!!」
「任せてください京さん!!」

熱い夏の日差しの中、丸いメガネと長く綺麗な髪の毛が特徴的な女の子・・・井之上京とパートナーであるホークモンの声が響いた。
ホークモンの翼がボールを叩き、強烈なスパイクが敵陣営に迫りくる。

世間ではすっかり夏休み。選ばれし子供たちとパートナーデジモン一行は全員そろっての海水浴へと来ていた。
まだ夏休み初日に近く、目がくらむようなほど混雑していなかったがやはり海に遊びに来る人は多いようで、それなりの人がパートナーデジモンを連れ海へと繰り出していた。
子供たちはパラソルの中で一休みするグールプと、少し場所探しに苦労したもののビーチバレーで遊ぶグループに自然とわかれていた。単なる遊びであるが、この後の海の家での焼きそばを賭けた試合とあってかなり緊迫した勝負となっている。
その様子を丈や光子郎はのんびり眺めていた。ただゴマモンは、はしゃぎたい様子で丈そっちのけでバレーに興じている。

「大輔、ここは俺に任せて!!」

ホークモンの強烈なスパイクの前にブイモンが立ちふさがった。
そして思いきり腕を振り回し始めると・・・。

「ブンブンパーンチ!!」

そのままパンチでボールを殴り返した。
だが彼の思惑と裏腹に、ボールはあらぬ方向へと飛んで行ってしまった。どうやら力みすぎてしまったみたいだ・・・。

「おいおいブイモン〜・・・何やってんだよ〜・・・」
「ご、ゴメン・・・大輔・・・」

ボールは海の方へと飛んで行って水面にバチャンと落下した。
周りには泳いでいる人がいたが、軽いボールが水に落ちたぐらいではほとんど気にかけてない様子。

「あちゃ〜・・・しょうがないなぁ、オイラが取りに行ってあげるよ」

ここは泳ぎの得意な自分の番だとゴマモンが名乗り出た。ゴマモンは日陰でリラックス中の丈に向って叫んだ。突然呼ばれて丈は少し慌てている。

「丈〜、早くボール取りにいくぞ!」
「え?え・・・ぼ、僕も行くのかいゴマモン・・・」
「当たり前だろっ!オイラが迷子になったらどうするんだよ。はやくはやく!」
145厨二病で保守:2009/03/20(金) 22:17:28 ID:xXxWJM3k
海水浴場から離れた岩場が多い場所。そこで相沢裕子(あいざわ ゆうこ)は白と黒の塗装がされた中型船舶に乗り込み、無線で指示を出しながら辺りの捜索をしていた。

「そっちは見つかったかしら?そう・・・うん・・・分かった、引き続きお願いね」

彼女は警察の人間であった。そんな彼女が何の捜索をしているかというと昨日から行方不明になっている男女の捜索である。
昨夜も頭の悪い若者達が遅くまで酒盛りして遊び呆けていたらしく、その内に二人がいなくなってしまったという。酒に酔っていた仲間たちは気づかなかったそうで、どうせ裕子は二人で駆け落ちしてホテルでヨロシクやってんだろうがと思っていたのだが・・・。
何やら現場の足跡と酔いがさめた男の証言によると、ゴムボートを行方不明になった片割れの男が用意していたとかで男の方はゴムボートで二人きりになるチャンスを窺っていたという。

それで家族にも連絡するとまだ帰ってないという情報が入ってきて、裕子は酔ったバカップルがボートで遊びに出て転覆でもやらかしたんじゃねえかと思い始めるようになった。
予感的中とはまさにこの事であり、先ほどゴムボートの残骸を発見した所だった。

間違いないわね。酔った頭のままボートに乗って海に落ちたに違いない。いわば海上で飲酒運転したようなモンだ。
だが気になる点が一つあった。ボートが切り刻まれていた点だ。
昨夜は特に海が荒れた様子はないからこんな事が起こる確率は限りなく低いはずだ。考えられる可能性は・・・デジモンがやった・・・というのが一番高い。
それでも決めつけるには早計だ。裕子は知っている。デジモンがやった事となればこの事件はDフォースの管轄となる。それはなるべく避けたかった。

裕子はDフォースの連中が大嫌いだった。

裕子はデジモンの事が好きだ。
小さな子供でも教師にふざけた態度をとったり暴力行為に及ぶような子が近代化とともに増加していた。裕子はそんな事件が起きて調査するたびに胸が痛んだものだった。

だがこの不思議な生物が現れてからというものの、子供たちの素行は良くなってきた感じがする。実際に少年犯罪は減少傾向にあった。裕子にとってはデジモンという生物は子供たちを精神的に成長させ、未来を育む存在である。

少年犯罪は減ったものの、また別の犯罪が・・・デジモンを使った犯罪が増えているというのも事実である。だが多くは欲望にまみれた大人の犯行である。
その事件抑制のためあの組織は作られたが・・・いかんせんやりすぎだ。奴らのやっていることは恐怖政治のごとき暴力にものを言わせた物なのだから。
だから徹底的に調べて完全な確証を得るまで奴らに知らせるわけにはいかないのだ。

「・・・っ?あれは・・・?」

裕子の眼の中に何かが飛び込んできた。
岩場に波が打ちつけられて激しく水面が上下している場所。そこに何か大きな物体が浮かんでいるのが確認できた。裕子は船をそちらに向かわせて物体が何なのかの確認に向かった。
146厨二病で保守:2009/03/20(金) 22:20:33 ID:xXxWJM3k
監視塔の天辺で石塚靖也(いしづか せいや)は首から掛けた双眼鏡を覗きながら監視を続けていた。パートナーのギザモンは大きなタライに水を張りその中に浸かって水風呂状態。

「くそっ・・・こんな事なら捜索に参加すりゃあ良かったぜ」

靖也は毒づいた。当初、彼ら警察の仕事は二分類された。一つは行方不明者捜索、もしくは彼が今やっている海水浴客の監視だ。
海水浴監視任務など普通はライフセーバーの仕事だ。だが、人手が足りないかもとの事でここの署員が駆り出されるらしい。
言うまでもなく行方不明者捜索なんざ面倒くさくて参加したくなかった・・・というのが本音ではある。だから当初から監視任務の方を希望してそれが通った形で現在にいたる。

だがそっちで良いよと、あの相沢さんが自分の要求をあっさり聞き入れてくれたという時点でろくでもない事になるのは目に見えていたのかもしれない。

監視というのは恐ろしく退屈であり、恐ろしく面倒臭い仕事だった。
海水浴場に女の水着姿を撮影しようとする変態が(まあ、俺も女の水着を双眼鏡で眺めたりしてたんだが)いないかとか溺れてる客はいないかと塔の上から監視するのが主な仕事。
だが強い日差しにパラソル一個という装備はあまりにも貧弱だった。焼け死ぬのではないかという日差しの中、座り心地最低な椅子に座りながら辺りを監視し続ける。

苦行だ。ハッキリ言って。何度も何度も双眼鏡を覗いたり覗かなかったりを繰り返すと気持ちが悪くなってくるし、何か少しでも上空にいるせいか息苦しい気がするし、腰は痛いし・・・。
相棒のギザモンはすっかりいつもの元気が無くなったようで水風呂に浸かったまま微動だにしない。

「こんな仕事は・・・もうこりごりだ。来年からは絶対参加しねえっ!!」

靖也が毒づいて双眼鏡をのぞいた。
すると・・・本当に偶然だった。偶然にもその中にその光景が飛び込んできた。

「えっ・・・?ウソだろ・・・おい!」

靖也の目に飛び込んだのは、巨大な水しぶきが上がる所だった。距離は砂浜からあまり離れていない距離で、空気を入れて浮かぶボートがひっくり返されるのが双眼鏡なしでも確認できた。
そしてその近くに現れたのは灰色の三角形・・・どう見てもあれは・・・背鰭だ。

「サメだーっ!!サメが出たぞーーっ!!サメだああああっ!!!」

誰かが叫んだ。靖也は慌てて首に掛けられたホイッスルを吹いた。
そして監視塔から飛び降りると拡声器をひん掴み、大声で叫ぶ。

「全員海から出るんだ!!早くしろっ!サメが出たぞ!!」
「靖也!!」

相棒はすでに水風呂状態から覚醒し、蛙のような足を使って勢いよく飛び出すところだった。靖也は水着のポケットからデジヴァイス・・・D−3を取り出した。

「行くぞギザモン!!」
147厨二病で保守:2009/03/20(金) 22:28:17 ID:xXxWJM3k
誰かの叫び声を聞いて丈はギクリとした。恐ろしいことがハッキリとその耳に飛び込んできた。

「さ、サメだって・・・!?」

辺りの客はサメという単語を聞いて既にパニックになっていた。
ゴマモンもビックリしたように飛び上ると、すぐにパートナーを呼んだ。

「丈!丈!!あそこっ!誰か襲われてる!!」

ハッとしてその方向を見る。今いる場所よりさらに深い場所から水しぶきが上がっていた。
そしてその水面下からは・・・赤い色が混じって噴き出してた。

「助けなきゃ・・・ゴマモン!!」

丈はデジヴァイスを取り出す。用心のためにと今日も肌身離さず持ち歩いていたのだが、それが幸運だった。
他の多くの人々がもつD−3とは違う、水色の球体をしたデジヴァイスから輝きが放たれた。

「ゴマモン進化!イッカクモン!!」

ゴマモンが成熟期に進化したのとほぼ同時に、今度はD−3の輝きが放たれた。
そして蛙に鰭が生えたようなデジモンが海へ飛び込んできてその姿が変貌した。

「ギザモン進化!ダークティラノモン!!」

黒い巨体の恐竜型デジモンはたくましい巨大な腕を灰色の背びれに振り下ろした。
手ごたえはあったが、同時に鋭い痛みがダークティラノモンに走った。
だが怯むことなく、サメと思わしきそいつから襲われている人間を奪い取り手に乗せて持ち上げる。
少し離れた場所にいたイッカクモンは素早く泳いできて護衛するようにダークティラノモンの側で身構えた。

「くそっ・・・ひでえ怪我だ・・・」

手に乗せて分かったが、襲われていたのは小学生くらいの少年だった。
かなり酷い裂傷を負っていて鮮血があふれ出してきた。少年は衰弱して青ざめた表情のままゼイゼイと息をついている。

「はやく病院に運んでやらねえと・・・」

ダークティラノモンは辺りを見回した。
海水浴客はパニックになっていて・・・身動きがとりずらい海中では思い通りに体が動かずかなり混雑して、大騒動になっていた。
このままじゃ海岸に行くのも時間がかかるし・・・下手すりゃ水中で将棋倒しみたいな二次被害が出てしまう。
148厨二病で保守:2009/03/20(金) 22:30:20 ID:xXxWJM3k
「くっそ・・・迂闊に叫ぶんじゃなかった・・・!」

腰の辺りまで水につかっていた靖也は自分の行動を後悔した。

あまりに急に事が起きて慌ててしまった・・・畜生、サメ一匹でこの騒ぎかよ!!
・・・落ち着け・・・キレてる場合か、何か考えねえと。
ディスカバリーチャンネルで言ってたな、サメは激しい音とかに反応して襲うとかなんとか・・・やべえ!!

海水浴場は今や騒音だらけじゃねえか!避難中の連中に襲いかかるかもしれねえ。
いや、待てよ・・・さっき俺のダークティラノモンを助けにデジモンが現れたよな?
・・・って事は・・・。

「皆さん、聞いてください!!」

靖也は振り返って拡声器で叫んだ。

「パートナーがいる方はご協力願います!デジモンを進化させて沖の方に取り残されている人を助けるのを手伝ってください!!」


靖也の叫びは海岸じゅうに響いた。
砂浜にいた選ばれし子供たちはパートナーの顔を見合せてお互いに「うん」と頷く。
すぐさま子供たちはデジヴァイスを構えて、パートナーを成熟期へと進化させた。

デジモン達はそれぞれの力を活かして、救出を開始した。
アンキロモンやガルルモンらは沖合に泳いでいくと、巨大な浮島のようにして逃げ遅れた人やボートから転げ落ちて溺れかけた子供たちを乗せてやる。
バードラモンやアクィラモンら、飛行能力を持つ物は上空から人達を引き上げて助け出す。

協力したのは選ばれし子供たちのデジモンだけでは無かった。
多くの人々とパートナーデジモンたちが団結して逃げ遅れた人々を救い出していった。
149厨二病で保守:2009/03/20(金) 22:33:25 ID:xXxWJM3k
彼女は、あの恐怖の後にどうにか落ち着きを取り戻して岩の間に隠れて眠りについた。
目が覚めると、大分落ち着きを取り戻したようで彼女はもう恐怖を感じる事は無かった。
その代り、猛烈に腹が減ったのと同時にまたもや多くの反応が彼女の索敵器官に刺激を与えてきた。

どうやら・・・あの時に感じたような多くの感覚と同じ。大量の人間がこっちの世界へとやって来ているようだ。彼女は索敵器官を頼りに人間の反応のする方向へと泳いで行った。

暫く泳いで目的地に到着したのだが・・・。やっかいな事になった。
数が多すぎる。これじゃあ、多勢に無勢だよ。でもお腹空いたな・・・。

彼女の体はエネルギーを欲していた。だけど、以前のように考えなしに目の前のものに掴みかかるような真似はしない。きちんと考えて行動する術を手に入れたのだ。
数があまりに多いから・・・今度は一番近くて一番弱いのを狙えば良い。そして仕留めて素早くこっちの世界に引きずり込んでしまえばそれでいい。

彼女はじっと底の方で待ち構えた。そして手頃な獲物を見つけた。
この間の奴と同じようなボートに乗ってるけどより簡単に仕留められるだろう。判断した彼女は歯を剥き出しにして素早く獲物に突進した。


作戦は上手くいった。ところが彼女は自分の弱点に気付いていなかった。
掴みかかった獲物が抵抗してきた。こんな弱いやつが抵抗したところでどうにもならないよと思っていたが、獲物の肘が彼女の『そばかす』に叩きつけられた瞬間に彼女の頭は混乱してしまった。

サメに襲われたら鼻面を殴れというが、あれは感覚器官のロレンチーニ瓶が封じられることで一時的に混乱するからだと言われているが定かではない。
しかしながら、索敵器官の機能に頼りっぱなしだった彼女が混乱してしまったのは確かだった。

彼女が怯んで攻めあぐねた隙にデジモンの反応が新たに加わった。
150厨二病で保守:2009/03/20(金) 22:35:16 ID:xXxWJM3k
新たに加わったデジモンは二体。
だけど両方小さくて弱々しい。気にしなくても大丈夫。
ところが次の瞬間にまばゆい光が発生した。別の世界からの反応だけどその光は彼女の索敵器官をさらに眩ませて混乱させた。

それと同時にまたもや頭に電流が走り攻撃を中断させた。
また何か頭に思い浮かんだ・・・だけど考える暇もなく、今度はその小さなデジモンの反応が遥かに巨大で力強い反応に変化した。

彼女があっけにとられていると、上から何かを叩きつけられてしまった。
もろに受けて彼女は怯んだ。必死に噛みついて反撃したが食い込んだ歯が根元からボキリと折れてしまった。
たまらず彼女は獲物を放して、一目散に沖合へと泳いでその場から離脱した。ズキズキ痛む頬を押さえて大きな反応をぎょろりと見つめる。

距離をとってみたらさらに同じ反応が放たれるのを確認した。これも同じく小さな弱々しいデジモンが大きく力強いデジモンへと反応が変わっていくのが分かった。

『デジヴァイス』『進化』

彼女の頭の中に新たな単語が浮かんできた。そうだ、あればデジヴァイスで進化したんだ。だから反応が変わったんだ。
そう言えば・・・私も・・・私にもデジヴァイスが・・・。

思い出した瞬間、彼女は獲物を仕留めるのを諦めた。その気になれば隙をついて狩りを続けることができるけどそれよりも大切なことを思い出したのだ。

デジヴァイスで進化するのだ。もっともっと・・・強くなるために!!!
彼女は猛然と、沖合に向かって泳ぎ始めた。
151厨二病で保守:2009/03/20(金) 22:37:23 ID:xXxWJM3k
「よし・・・とりあえずコレで止血するしかねえ・・・」

ダークティラノモンの腕に巻き付けられた拘束具を利用して、負傷した少年の止血を行った。だがかなりの量の出血で、状態はいまだ危うい状況だった。
通報から数分もしない内に救急車が到着して少年を病院に運ぶ。少年の両親は泣きじゃくってパニック状態だったが救急隊員に宥められて救急車へと付き添っていった。
他にも軽い負傷をした人たちもいて、そちらもじきに病院へと運ばれる事だろう。

靖也はとりあえずほっとした。少年の命は未だに危うい所なので不謹慎ではあるが・・・。
彼は協力してくれた人たちに感謝の意を述べた。

「ご協力感謝いたします」

靖也は丁寧にお辞儀した。すると目の前の子供が心配そうに言った。
おかっぱ頭で真面目そうな子だ。

「あの子・・・助かるでしょうか・・・?」
「・・・病院とあの子自身の頑張りが重要になるだろうな・・・」

靖也はどう答えていいか分からなかったので、取り敢えず個人的に雰囲気を壊さない受け答えをしてみる。

「・・・君たちは怪我はないか??」
「はい。大丈夫です。僕もアルマジモンも・・・皆も無事です」
「そうか・・・。じゃあ、俺達は仕事に戻るよ。まだやらなければならない事があるんでな」

靖也はダークティラノモンを連れて無線機を探しに行った。慌てて飛び出したからほったらかしになっていたのだ。
この騒ぎだからとっくの前に気が付いているだろうけど、一応相沢さんに報告しておかねえと。

「おい、ダークティラノモン。もう戻ってもいいぞ?」

ドスドスと後ろからついて来ている相棒に声をかける。まだ進化したままで何やら自分の手を弄っている。

「靖也・・・見ろよこれ」
「ああん?」

靖也は監視塔に放り出された無線機を拾い上げながらパートナーの方を見る。
その手からは鮮血が滴り落ちていた。
152厨二病で保守:2009/03/20(金) 22:39:53 ID:xXxWJM3k
「おい、怪我したのか!?」
「ああ・・・見てみろよコレ」

グチュッと鈍い音が響くとダークティラノモンは手に突き刺さったそれを引っこ抜いた。
真っ赤に染まったそれは綺麗な二等辺三角形の物体で、日の光に反射して鋭く輝いていた。

「こりゃあ・・・サメの歯じゃないか?」

近くでまじまじと見つめてみると淵には細かいギザギザが生えていて鋸のようになっているそれは、TVなんかで見たことある形だ。
古代のサメ、メガロドンって奴の歯の化石にそっくりだ。だから靖也はサメの歯だと判断したらしい。さっきのサメをぶん殴ったときに突き刺さった代物だろう。
だがダークティラノモンはそう思っていない様子。

「サメの歯だと?冗談よせよ、ただのサメが拘束具で固めた恐竜型デジモンの腕を傷つけるかよ」

ダークティラノモンは歯を地面に放り投げた。ボスっと音がしたあと砂にめり込んで煙が舞った。

「うわっ!?な、何だよ・・・意外と重たいのな・・・」
「歯がこんな重たいわけないだろうが」
「何だと?」

靖也は砂浜にめり込んだ歯に触れてみる。恐ろしく重量感があって・・・それにこれは・・・金属のような・・・。

「おい。何の冗談だよこりゃあ」

靖也はダークティラノモンの顔を見据えて言った。

「クロンデジゾイドの歯が生えたサメなんざ聞いたことねえぞ」

次の瞬間、無線機から声が聞こえた。しまった。相沢さんに連絡してなかった・・・。
無線機からはその上司の声が響いてきた。

「石塚君、すぐにこっちに来て頂戴」
「相沢さん、こっちも大変なんだ訳の分らんサメが現れて・・・」
「こっちも似たようなモンだよ。死体が上がった。行方不明の二人よ」
153創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 04:28:59 ID:yB+hAIvw
クウガ期待
154創る名無しに見る名無し:2009/04/15(水) 20:58:21 ID:HAlnV2wS
今まであんまり無かった、デジモンで青春みたいなのを思いついた。
企画段階だから没になるかもしれないけど、近々制作します。
155創る名無しに見る名無し:2009/04/21(火) 19:05:02 ID:wMeZ9M4L
たとえレスがつかなくても書くのをためらわないで
どんな作品でもみんな待ってる
156厨二病が保守:2009/04/23(木) 18:45:33 ID:XeTRDdjH
こんな重要な物を置き忘れていたなんて。
彼女は沖合に進みながら心の中で呟いた。さっき打撃を受けた頬が痛んだがすぐに歯茎の奥から新しい歯が生成され抜けてしまった場所を埋めた。
両足で水中を蹴り、尻尾でバランスを調整しながらあの場所へとひたすら泳ぎ続ける。あのカプセルの中、あの揺り籠の中に置き忘れてきた大切なものがあるのだ。
もっとも、完全にはまだ思い出せてないけど少しずつ蘇ってくる記憶と本能がそれを手に入れなければならないと指令を送り続けていた。

暫く泳ぎ続けた後にようやくあのカプセルを発見した。脳内にアドレナリンが溢れて興奮が彼女を包んだ。
カプセルの中に手を突っ込んで中身を弄ってみる。
すると、指に固い感触が伝わってきた。ぎゅっとそれを中から掴みだす。

彼女の手の中に収まるそれは液晶画面のついた小さな機械・・・そう、デジヴァイス。
ただしそれは多くの人々が持っているD−3とも、一部の子供たちが持っている旧型のデジヴァイスとも違う異質な形をしている。

デジヴァイス。私だけの・・・デジヴァイス・・・

ようやく大切な物を手に入れた彼女だったがすぐさま危機を感じた。
何か物凄い勢いで背後から向かってくる。脚に力を入れて海底のヘドロを蹴っ飛ばして飛び上がる。
ぶわっと煙が水中に舞うと次の瞬間には彼女がいた所に大きな黒くて丸い物体が突っ込んできた。

水中に漂いながら彼女は眼を凝らして辺りを見回す。元々、透明度が悪いうえにヘドロが舞って視界の悪さに拍車を掛けていた。ならばと索敵器官を発動させて敵の感知を開始する。
索敵器官が捕らえたのは・・・五体の大きな反応・・・大きなデジモンの反応だ。

彼女を取り囲んだ五体のデジモンは彼女よりも遥かに巨体の持ち主でまるで小さな潜水艦のようだった。
海に溶け込むような青い体色と兜のように巨大な頭部はいかにも頑丈そうで眼に当たる器官は退化してしまってその名残すら残していない。
水棲哺乳類型デジモンの『ホエーモン』だ。

ホエーモンは大きな尾鰭を上下に振ってゆっくりと彼女の周りを取り囲むようにして泳ぎ始めた。
157厨二病が保守:2009/04/23(木) 18:48:18 ID:XeTRDdjH
本来ならばデジモンはデジタルワールドにしか生息していない。だが近年、パートナーデジモンを持つ人間が増えると同時にパートナーを持たない・・・言うなれば『野生』のデジモンもほんの少しだけ発生している。
どうやらデジタルワールドから偶発的にリアルワールドへのゲートが開いた際に迷い込む、又は自分からゲートを通ってリアルワールドにやってくる者もいるらしい。
とは言うものの、ごく稀に現れるデジモンはこのホエーモン達のように人目の付かない場所でひっそりと暮らしているのが殆どだ。だが今は全く事情が違っていた。

ホエーモン達は感じ取っていた。目の前にいる奴はいずれ自分たちはおろか、人間達の生活基盤を破壊するあまりに危険な存在であると。
野放しにしておけば自分達がいずれ襲われるか・・・人間達が襲われて、その皺寄せが自分達に降りかかってくるに違いない。
ならばココで叩き潰す。まだ明らかに自分達よりも力が弱い今は絶好のチャンスだ。

彼女は取り囲むように泳ぐホエーモン達に警戒しながらその場に漂う。ぐっと力を込めて手の甲から刃を伸ばした。さあ、いつでも来い。叩き斬ってやる。
今までとは違う、さっきデジヴァイスを掴んだ時と体内エネルギーを使って歯を生成させた時に・・・自らの武器の使い方も思い出し始めていた。

五体のホエーモンも警戒をしながらゆっくり泳ぎ続ける。動きは遅いが動きにくい水中で巨体を動かすそのパワーは想像を絶するものがあるのだろう。
すると次の瞬間に三体が激しく尾鰭を動かしたかと思うと、一気に下降し始めた。

下から攻撃する気?いや、違う!これはフェイクだ。

彼女が思ったように背後から一番大きな個体が突っ込んできた。ホエーモンは元来、成熟期なのだが一部には完全体に進化する個体も存在する。
この大きな個体も『ホエーモン完全体』であり、群れを率いるリーダー的存在だ。
本能的にそれに気付いていた彼女は、この個体に最初から注意を払っていたようでこの攻撃を回避できたのもその恩恵であるといえる。

だがホエーモンもそれを承知していたようだ。
完全体の大きな体に身を隠して忍び寄ってきた残りの一体が彼女に突進する。
成熟期といえどホエーモンのパワーはかなりの物。まともに突進されればひとたまりもない。ホエーモンの攻撃はかなり連携の取れたものであり、一連の動作が流れるように展開していた。
完全体の攻撃を回避した彼女だが、その巨体によって発生した水流に気を取られた一瞬の内にもう一体の攻撃が迫っていた。もはや回避する術は無い。
だが回避する術がないなら攻撃すればいい。彼女は刃に体内エネルギーを溜め込んだ。
一瞬にして彼女の刃は淡いレモン色に発光し始めた。

『ネガプリオンサーベル』

彼女は腕を突き出して、レモン色のビームサーベルをホエーモンの頭部に突き刺した。
正確には突き刺したというよりも向こうが勝手に突っ込んできたような形で、ホエーモンは自らのパワーで致命傷を負った。
チャンスとみた彼女はエネルギーを送り込み刃のデータを変換して武器の形を変化させた。
今度は細かい刃が無数に並んだ鋸状の形で、薄茶色に発光している。

『プリスティオソー』

突き刺さった刃を一気に引きぬく。鋸状に変化したそれは内部からホエーモンの頭部を切り裂いて肉を剥ぎ取っていった。
ホエーモンは血を噴き出しながら体を痙攣させ、くるくると海底へと没していった。
158厨二病が保守:2009/04/23(木) 18:52:08 ID:XeTRDdjH
仲間を殺された怒りか、海底にホエーモン完全体の甲高い声が響き渡った。
彼女は油断せずに完全体の方を警戒しながら身構える。以前の人間とデジモンの攻防で油断すると怪我をするということ理解していた。

だが今度はその警戒心が強すぎたのがアダとなった。
彼女は小さな変化を直ぐ側に感じ取った。小さくても油断できないと刃を背後に振るう。
だが刃は虚しく水中に発生した泡を切っただけだった。

下降したホエーモン三体は噴気孔から息を吐いて泡を作り出していた。三体が回りながら泡を発生させる事により、下から湧き上がるように泡の壁が完成して既に彼女を閉じ込めようとしていた。
彼女の強烈な索敵器官と必要以上の警戒心は僅かに泡に含まれていたホエーモンのデータに反応して攻撃を加えてしまったというわけだ。

しまったと彼女は思った。この隙に攻撃を加えてくるに違いない。
やはりホエーモン完全体は彼女の攻撃が空振りしたのを見逃していなかった。
凄まじいスピードで尾鰭を動かして、彼女に向って突進する。
彼女はなんとか身をかわして直撃は避けたものの、水流に巻き込まれてバランスを崩しその場でもみくちゃにされてしまう。

そして体勢を整える前に三体のホエーモンが彼女に向って上昇し始めていた。
次の瞬間、鈍い痛みと感触が彼女の体に走った。ホエーモンの固い兜のような頭部が猛スピードで彼女の体に激突したのだ。
苦しみに悶える彼女にさらに容赦なくもう一体が突進してくる。尻尾を使ってなんとか回避しようとするがホエーモンもそれを読んでいた。
そのままならば回避されてしまうと判断したホエーモンは大口を開けて攻撃範囲を広げるとそのまま彼女に喰らい付いた。
彼女の皮膚を鋭い歯が突き刺す。強烈な痛みに耐えながら彼女は再び刃にエネルギーを送り込んだ。
今度は赤く発行するスレッジハンマーへと姿を変えた。

『スフィマハンマー』

ホエーモンの兜の上から思い切り叩きつける。重々しい一撃は丈夫な兜ごとホエーモンの側頭部を叩き潰してしまった。
さらに一体仕留めた彼女だが、自らも深手を負ってしまった。

「『ジェットアロー』!!」

今度は彼女ではなくホエーモンの技が炸裂した。上昇していたもう一体が噴気孔から水流を発射する。
なす術も無く彼女はジェットアローをまともに受けてしまい、さらなる大ダメージを負った。
そしてジェットアローの勢いで吹き飛ばされた彼女に追い打ちが仕掛けられる。

一連の攻防の隙にホエーモン完全体は既に必殺技の準備を始めていた。
先ほど彼が突進したのは殆ど牽制であり本当の狙いは必殺技を決めることだったのだ。
完全体は渦を作るようにして時計回りに猛スピードで泳いでいる。そして同時に発生させた渦の中にエネルギーを溜めていった。

「『タイダルウェーブ』!!」

ホエーモン完全体の攻撃エネルギーを含んだ強大な渦が作り出されて彼女に襲いかかった。
既に彼女は渦のど真ん中に取り残されていて、その体は無茶苦茶に渦の中で振り回された。
渦の中で動くこともできない敵は防御することも回避する事もできずに、ただ攻撃を喰らい続ける。これがホエーモン完全体の必殺技タイダルウェーブである。
159厨二病が保守:2009/04/23(木) 18:55:45 ID:XeTRDdjH
やがて渦が治まると、ボロボロに傷ついた彼女が力なく漂いゆっくりと海底へと没していく。
もはや抵抗する力も残されていないようだがホエーモンはさらなるダメ押しの一発をくれてやる。
完全体はトドメとばかりに彼女に突進して海底へと一気に下降する。そのまま勢いよく海底へと叩きつけた。
彼女の体はヘドロの中に沈んでいった。


体中が痛くて意識が朦朧とし始めていた。このままでは自分は死んでしまうのだろう。

「パパ・・・パパ・・・」

朦朧とする中、脳裏に蘇ってきた者に自然と語りかけていた。と、次の瞬間に彼女を光が包み込んだ。
それは先ほど手に入れた彼女のデジヴァイスから放たれたものだった。
光に包まれた瞬間、彼女の眼がくわっと見開かれて濁った瞳がぎょろりと動いた。

そうだ、まだ大丈夫。まだ死なない。私も進化すればいい。
あの時のデジモンみたいに進化して強くなるのだ。さっき手に入れたあのデジヴァイスで。


私だけのデジヴァイス・・・『D−ゴッデス』を使えば進化できる!!


彼女は光に手を伸ばした。
彼女のデジヴァイス・・・D−ゴッデスの液晶画面には文字が記されていた。


『Goddess of night』と


ホエーモン達は勝利を確信していた。払った犠牲は少なくないが敵を葬り去った手ごたえを感じていた。
三体は彼女が沈んだ場所の上を確認するかのように旋回している。三体はそれぞれ敵の気配を探したが、何処からも奴の気配を感じ取ることは無かった。

倒したようだな・・・。
ホエーモン完全体はそう判断すると、残った二体の仲間を連れて人目の付かない場所へと再び泳ぎだそうとしていた。
ところが次の瞬間、ヘドロの中から新しい巨大な気配を感じ取った。
そんな馬鹿なと慌てて三体は振り返った。
すると先ほど敵が沈んだヘドロの中から巨大な影が現れて猛烈な勢いで突進してきた。

『ネガプリオンソード』

最初にホエーモンを仕留めたのと同じ技・・・だが、今度はさっきより遥かに巨大なレモン色の刃で数も三本に増えていた。
ホエーモン達は逃げる暇も反撃する暇もなく、あっという間に刺し貫かれた。
160創る名無しに見る名無し:2009/05/15(金) 18:47:01 ID:LTjEVCJh
過疎ってるけど、アイディア浮かんだんで書けたらうpします。
161創る名無しに見る名無し:2009/05/19(火) 00:44:55 ID:NOzR+qhC
保守
162創る名無しに見る名無し:2009/05/23(土) 14:15:46 ID:qizWNOg6
ここのプラスαとアイラブユーってのがうまいよ。よんでみるといいよ

ttp://jbbs.livedoor.jp/anime/4385/
163創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 07:57:13 ID:+/kxqEOy
>>162
こんな所あったんだ。知らなかった。
時間あるときに読みたいと思います。
164厨二病が保守:2009/05/25(月) 22:14:07 ID:BbzLZNS+
例の「サメ」の襲撃事件から数日後。
靖也はパートナーを抱えて疲れ切った様子で部屋から出てきた。
例の「サメ」の目撃者である彼は警察の人間だというのに、まるで犯罪者のごとく事件の内容を洗い浚い話すハメになったのだ。

たかがサメ一匹の襲撃事件に大袈裟すぎんだよと思いつつも、先日の潜水士とパートナー行方不明事件とカップル行方不明・・・これはすでに死亡事件となっているが・・・の犯人もそのサメだろうとの可能性が高くなっていた。
夏は海水浴客を入れるための稼ぎ時。そんなときにリアルジョーズが現れたとなると大変な損害となる。
映画ではここでお偉いさんが現れて「ビーチの収益が減るから内緒にしろ」とか言ってくるが、さすがに隠蔽は不可能な話。
何処となく権力の気配を感じるが、警察は連日このサメ事件の解決に精力を傾けている。

今日も重要な目撃者としてこの間話した様な内容をまた繰り返す。全く、一番楽だからって俺にばかり聞くんじゃねえっつーの。解決する気が有るのやら無いのやら・・・。
だが彼の憂鬱はこの搾り尽くされたレモンみたいな頭のまま、相沢さんと食事をするハメになった事も原因の一つだ。

「ああ・・・全く・・・相沢さんの事だから絶対何か食わされるんだろうな・・・」
「おれ、もう疲れたから靖也がやってくれよな」
「なんだとー!?お前も付き合うに決まってるだろうがギザモン」

憂鬱でとうとうパートナーと口喧嘩を始めてしまう。
またもや同じ話をするというのも嫌であったが、それ以上に彼の気持ちを落ち込ませるのはこれから昼食を食うという最悪のイベントである。

少年はなんとか一命を取り留めていたが大怪我を負い・・・一生、まともな生活は送れない体になる可能性もある。そして何よりあのカップルの凄惨な死体だ。
あの日、少年を病院に送った直後に相沢さんの連絡を受けて捜索現場へと足を運んだが・・・その時の映像が未だに脳内に張り付いたままだ。

二人の死体・・・と思わしきものは徹底的に切り刻まれており、眼球やら柔らかい部分がそっくりそのまま無くなっていて、鋭利な刃物で掻っ捌かれたような腹からは内臓が引っ張り出されて貪り食い尽されていた。
死体というのは警察の彼にとって見慣れたものであるが・・・ここまでグロテスクで凄惨な死体は見た事が無かった。しかも水を吸って異形の形になっており強烈な腐敗臭まで漂っていた。
靖也もギザモンも我慢ならずに盛大に吐瀉物をまき散らした。
さらには一番の目撃者でもある彼はその後も、引き上げられた死体の検査にも立ち会わされるわ死体の写真を毎日のように見せつけられるわで・・・。

「っぷ・・・思い出しただけでゲロ吐きそう・・・」
「バカヤロウ、ギザモン。ゲロなんて単語を吐くな・・・」
「てめえも吐くだのヌかすんじゃねえ靖也・・・」

靖也は相沢が待ち受ける部屋の前までつくとため息をつき、顔色が悪いままゆっくりとドアをノックした。
165創る名無しに見る名無し:2009/06/18(木) 17:05:59 ID:kFuPpvvX
166創る名無しに見る名無し:2009/06/30(火) 12:41:46 ID:ZCnPfZG9
hoshu
167創る名無しに見る名無し:2009/07/20(月) 00:03:15 ID:9nuGiiZO
来月あたりに投下しようと思います。
よろしく。
168創る名無しに見る名無し:2009/07/20(月) 00:48:44 ID:hJ2qzaMA
新作?それとも続き?
とにかくwktk
169創る名無しに見る名無し:2009/07/20(月) 01:52:33 ID:ybTj58Wi
新作というか、初投稿です。
文章力ないんで表現とかはあんま期待しないでください。
170お台場メモリアル〜8/1計画〜10th Anniversary:2009/08/01(土) 14:15:12 ID:VvIcNTg2
 \\ はじまりはあの夏の日 紋章が君を呼ぶ  かけがえないパートナー 進化の輝き //
   \\       勇気を受け継いだ 子供達は  デジタルワールドを疾る        //
    \\ 一枚の青いカード 信じあうむずかしさ  ひとつになる心が世界を救った //
      \\ 果てないフロンティア 見つめながら  伝説をまとった スピリット //
       _ _∩.     _ _∩.     _ _∩.     _ _∩.     _ _∩.     _ _∩.  
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171創る名無しに見る名無し:2009/08/05(水) 11:59:36 ID:DFUDio+q
こんなスレがあったのか……
どの作品も続き楽しみなんだぜ!!
172厨二病が保守:2009/08/08(土) 22:56:04 ID:zAs7tN81
「ああ、やっと来たのね石塚君。はやく食べないと冷めちゃうよ?」

部屋に入ると相沢はそれが当然というような態度でハンバーガーショップの紙袋を押し出してきた。
彼女は袋に手を突っ込むと、次々と中身を取り出し始める。

「えーと、石塚君はテリヤキでしょ・・・それから・・・ホラ!ギザモンの大好きなフィッシュバーガーよ!」
「えっ・・・ちょ・・・あの・・・」
「あー・・・相沢さん・・・そのー・・・言いにくいんですが」

いきなり断ると怖いので、靖也は一呼吸置いてからおそるおそる続けた。

「ちょいと今、食欲がないもので・・・申し訳ありませんが・・・」
「えー?せっかく買ってきてあげたのに。顔色悪いわね、そんな時こそいっぱい食べて栄養補給を怠ってはいけないのよ!!」
「す、すみません」
「いざって時にギザモンがお腹空いて進化できないとかじゃ困るんだからね。ダークティラノモンは私たちにとって拳銃なんかよりも大事なんだから」
「ご、ゴメンナサイ・・・」

しゅんと俯くギザモンを見てか、相沢はそれ以上強く言おうとしなかった。
さすがにギザモンに対しては石塚ほど厳しく接することに抵抗があるようだった。

「ま。いいわ・・・無理して食べる方が体に悪い時もあるからね。でも私の話はちゃんと聞くのよ分かった??」

言い終わると、相沢は自分のぶんのバーガーを包装から取り出してパクつき始めた。
ビッグショーバーガーなるその物体はゆうに普通のハンバーガーの倍はありそうな大きさである。
脂ぎっしりの肉が二枚も挟まれてるそれを、平然と平らげていく。靖也は少々呆れ気味に呟いた。

「相沢さん・・・そんなにお腹空いてたんですか・・・」
「当たり前よ、朝も早くから遺体の調査に歯の調査結果に・・・とにかく忙しかったのよ」
「へ??い、遺体って・・・」
「例のサメの被害者のに決まってるでしょう?」

信じられないといった様子で靖也は彼女を見据えた。
マジかよこの人。あの死体を見た後にこんなモンを平然と食えるのか。どんな神経してんだよ・・・。
173厨二病が保守:2009/08/08(土) 22:59:21 ID:zAs7tN81
「で、あなたの手に入れた例のサメの歯の分析結果がついに来たわよ」

靖也が呆れてる事を知ってか知らずか、相沢は書類を茶封筒から取り出し始めた。
それは例の「サメ」の歯の鑑定結果である。
あの日、ダークティラノモンの腕に突き刺さっていたクロンデジゾイド製と思われるサメの歯は重要な証拠としてデジモンの専門家である「武之内春彦(たけのうち はるひこ)」の下で詳しく分析が進められることとなった。

武之内教授は人文学が専攻だったのだが、娘・・・どうやら最初にデジモンと交流を持ったといわれている・・・の影響をうけてデジモン及びデジタルワールドの研究に熱心に取り組んでいた。
そして今では、デジモンに関しては随一の専門家と言っていいほどである。警察としても多少変り種な人物だという認識はあったものの、その堅実な分析には確かな信頼を寄せていた。

「とりあえず詳しくは見てほしんだけど・・・簡単にいえばやはりクロンデジゾイドで間違いないって。まあココでデジモンに一番詳しいのは石塚君なんだからちゃんと読んでよね。」

靖也は書類を受け取ってそれに簡単に目を通し始める。

「それで・・・どうするんです?クロンデジゾイド製って事はこいつの持ち主はたぶんデジモンですよ。って事は」
「そうね。Dフォースのお仕事になるって事」
「・・・・・・あの軍隊モドキに仕事を明け渡すことになるんですか?冗談じゃない!!」
「しょうがないでしょう。デジモンの事件のことはDフォースの管轄と決まってるからね。実際、対抗できるのがダークティラノモンしかうちには居ない訳だし」
「・・・ですが・・・奴らだったら海岸で戦争を始めかねませんよ」
「私だってあんな、くそ野郎どもに任せるなんて嫌よ。だけど、こうなった以上はもうどうしようもできないわよ。警察としてわね。だから石塚君とこうして話す必要があるってことよ」

なぜわざわざ、自分をこんな部屋に呼び出して二人きりで話そうなどと言ってきたか。
それが理解できていなかった靖也だったがこの言葉を聞いてなんとなく理由が分かってきた。

「なるほどね・・・つまり、俺に独自調査しておけって事ですか」
「そ。たぶん、そろそろDフォースの管轄になるって事でここでの調査は打ち切り。今までの報告もすべて奴らに渡すことになる」

オレンジジュースのLサイズ容器にストローを挿しながら相沢は続けた。

「私もあくまで『個人的趣味』でこの事件を追う事にするわ。だけど私だけじゃ限界がある。だから石塚君とギザモンの助けが必要なの。協力してくれるかしら?」
「勿論です。俺たちもあの連中に任せっきりにするのは癪ですから」
174厨二病がネタを使い回す:2009/08/10(月) 23:17:49 ID:CKJiqXHr
外は雨だった。
天気予報によれば、夜にかけて大荒れになる可能性もあるとの事で多くの人間をブルーな気分にさせた。

だが多くの人々とは違い武之内空の心は喜びに満ち溢れていた。
何せ今日は久々に一家が勢揃いするという武之内家にとって一大イベントとも言っていい日なのだから。空は普通の家庭と比べて少々特殊な環境で生まれ育った。
母である淑子はそれなりの歴史を持つ華道の家元であり、父の春彦は京都で大学教授をやっている。

父は民俗学の教授であったのだが、大学で教鞭を振うよりもフィールドワークに出て活動する方が多くて常に家を空けている状態だった。
空は女手一人で育てられたと言っても良いくらいだが、彼女自身は父を恨んだりした事は無い。
むしろ空にとっては唯一甘えられる存在であり父の事をとても誇りに思っていた。

春彦はその後、デジモンの存在が認知され始めると自らの研究対象をデジモンへと移行させた。彼にとってはこの生物は娘を成長させてくれた恩があり、何より知的好奇心を大いに刺激された。
今では国内でも有名なデジモン研究家の一人である。
だが今でもフィールドワークに大学で講義と、民俗学専攻の時と変わらない慌しい日々を送っている。
今日は偶然にも、東京にて講演があり休みも取れたために一家で食事を取ろうという事になった。

「お父さん!!」

待ち合わせ場所で父を発見するなり、歓声を上げながら抱きついた。

「久しぶりだね空。また大きくなったね」
「うん!」
「お帰りなさいあなた。元気そうで何よりです」
「只今、淑子」

いつもの様に凛とした態度を崩さずに淑子が歩み寄った。だが内心、嬉しくてたまらないはずだ。夫を見るなり表情が少し綻んで優しい笑みを浮かべた。
春彦は続いて、ちょこちょこと歩み寄ってきた影に視線を移した。武之内家にとっては新たな家族である。

「こんばんわ。ピヨモン」
「ぴよっ!空のお父さんこんばんわ」

空のパートナーデジモンは小さな体でお辞儀した。その様子が可愛らしくてその頭を撫でてやる。
デジモンは彼の研究対象ではあるのだが、彼女だけは特別だ。なんだか娘がもう一人出来たみたいに感じられた。

「さあ、そろそろ行きましょう。予約の時間はもうすぐですからね」

一家は淑子を先頭にして、飲食店街へと向かっていった。
175厨二病がネタを使い回す:2009/08/10(月) 23:22:23 ID:CKJiqXHr
一家全員が揃って食事なんて何時頃だっただろうか・・・もう一年はやってないハズだ。武之内一家は高級な雰囲気漂う和風レストランで食事を取っていた。
春彦は当初からちょっとした罪悪感に包まれていた。食事の席についても少々、後ろめたそうにしていたがまた成長した娘や妻に合うのが嬉しかったらしくすっかり笑顔が戻っている。

「学校はどうなんだい?空、ちゃんと楽しくすごしているか」
「私もピヨモンみたいなパートナーデジモンが早く欲しいな」

父はいつも以上に話が弾んでいた。講演会で聞くような丁寧な口調とはまた違う、穏やかで楽しげな口調。
空も淑子もピヨモンも自然と楽しげな口調で答えている。一家全員がまさに幸な表情を浮かべていて、料亭内のどの席よりも盛り上がっていた。

ところが、そんな一家の元へ、予想だにしてなかった来客が現れた。

「んふっ・・・誰かと思えば・・・姉さん達だったとわね」

淑子を含め、全員が驚いて声のした方向へと振り返った。
そこに立っていたのは淑子と同じく鋭い目つきの女性。だが淑子が凛とした雰囲気をかもし出しているのと違い、どこか刺々しく冷たい雰囲気を漂わせていた。
髪の毛は空と同じように茶髪で外ハネしたクセ毛も共通していた。

「彩女・・・」
「彩女叔母さん・・・」

空と母は驚いたように呟いた。彼女達だけでなく春彦もかなり驚いている様子。
何せ一家自体勢ぞろいするのが珍しい武之内家。それに親族が加わるとはかなりの珍現象であった。

しかもこの 『武之内彩女(たけのうち あやめ)』 が三人の前に姿を現すのは数年ぶりの事でもあった。
正確にいえば・・・何度かTVで見ているのだが対面するのは本当に久しぶりである。

「こんな所で会うとは奇遇ねえ・・・しかも一家勢ぞろいとはね」

少々嫌味な口調で喋り始める彩女。
正直な所、空はこの叔母の事を嫌っていた。嫌っているというかそれは軽蔑の眼差しも混ざっているかもしれない。
何れにせよ、空は叔母に対し良い感情を持ってはいない。

「一体、ここで何をしているの彩女。全く連絡をよこさないで・・・」
「せっかく妹に会ったのに『久しぶり』の言葉もないのアンタ?連絡だぁ?そんなモンしなくてもTVで顔を見た事くらいあるでしょ」

かなり横柄な受け答えであり、淑子は怒りを募らせた。
それを知ってか知らずか余計に嫌味な口調で彩女は続けた。

「何してるかですって?ンなもん飯を食いにきた以外に何があるって言うの??高級料亭に華道のお稽古なんざに来るわけ無いんだからさあ!!
で、店に入ったら珍獣どもが勢ぞろいしてんだから。びっくりしたってーの」

大袈裟に両手を広げておどけてみせる。
一応は叔母であり多少は我慢してたがさすがの空にも怒りが込みあがってきた。

「アンタ達もココに来るの時間かかったでしょ?私達もよ、全く。渋滞しててホントにムカついたよ。なんか近くで『恐竜博』だかなんかやってるんだって。
全く、迷惑だったわ。道路にクソガキの多いこと多いこと!それに加えて休日にしか運転しないようなド下手糞が車を運転してるから・・・。
あーあ、全く!掘り出された骨なんざ眺めて何が楽しいのやら・・・ねえ、義兄さん?」

目を細め春彦をじろりと見つめる彩女。
淑子は我慢の限界にきて大声で彩女を怒鳴りつけようとするがそれを遮って空が先に怒鳴り声をあげた。
176厨二病がネタを使い回す:2009/08/10(月) 23:25:23 ID:CKJiqXHr
目を細め春彦をじろりと見つめる彩女。
淑子は我慢の限界にきて大声で彩女を怒鳴りつけようとするがそれを遮って空が先に怒鳴り声をあげた。

「一体なんなのよ!言いたい事があるんならハッキリと言えばいいじゃないの!」

突然怒号をあげた空に春彦も彩女も面食らった様子。だが彩女はすぐさま小ばかにしたような笑みを浮かべた。

「くっくっくっ・・・あーーーはははははははっ!空、せっかくお父さんにあったのに情けない姿を見せちゃダメだよ」
「なっ・・・この・・・!」
「良いから大人しくしてなションベン臭い小娘が。アンタが幾ら凄んだ所で・・・」
「おい、その辺にしておけ彩女」

彩女を制したのは側に居たもう一つの小さな影だった。
それは落ち着いた感じの低い声で、どこか威嚇するかのような重々しさもある口調だ。

「こんな所で目立ってどうするというのだ」

辺りを見回すと他の客が何事かとザワついてこちらを見ている。中には彩女の姿をみて「あの人って・・・」と呟く人も居た。
彩女はチッと舌打ちした。

彩女は射抜くかのような鋭い視線と強烈な威圧感で周りの客を睨みつけた。
軍人特有の力強いオーラと相俟って周囲の人間、そして所々に姿が見えるデジモン達は思わず「何も見てませんよ」と言うかのごとく、視線を自分達の食事の方へと戻した。
腰抜けどもが、とでも思っているのか彩女はフンっと吐き捨てた。
パートナーが周囲を威圧する一方で彩女の側に居たデジモンが武之内一家に対して口を開いた。

「お食事の邪魔してすまなかったな。俺のパートナー、渋滞に巻き込まれたせいで機嫌が悪いみてえなんだ」

彩女のパートナーは空にとって初対面となるが・・・一応見た事がある姿をしている。
TVで叔母とともに映っているのを見た事があるのに加え、なにより自分のパートナーと同族・・・つまりはピヨモンであるからだ。

だが彩女のピヨモンは空のピヨモンとは似ていない点もあった。
彩女のパートナーは羽毛が燃え上がるような真紅に染まっており、普通のピヨモンのピンクの羽毛とはかなり違って見える。
どうやら属性の違いらしく、普通のピヨモン(ピンク羽毛)はワクチン種で赤い羽毛はウィルス種のピヨモンなのだ。
そして、似ていないのはそれだけではない・・・。

「おっと、そう言えばはじめましてだったな。ま、紹介する必要もないだろうが・・・彩女のパートナーのピヨモンだ。よろしく・・・」
「うっ・・・うん・・・」

彩女のピヨモンの自己紹介にちょっと戸惑い気味に返事を返す空のピヨモン。
空は叔母のパートナーを見て思わず胸が締め付けられそうになって、少し眉をひそめてしまった。

彼が空のピヨモンと似ても似つかない最大の原因は・・・その身体に刻まれた無数の傷だった。
177厨二病がネタを使い回す:2009/08/10(月) 23:30:10 ID:CKJiqXHr
彩女のピヨモンの右腕は関節部分から微妙に歪な形に曲っている。複雑骨折が治癒した痕だ。
嘴にも目立つ傷があり、側面から見ると欠けてしまっている部分もある。まるで本来あるハズのない牙が生えているようにも見えた。
左頬にかけては噛み切られたように大きな傷がついており、左目は白く濁っており恐らく白内障を患っているのだろう。

普通ならデジモンの持つ驚異的な生命力で並大抵の傷なら完璧に回復する。
選ばれし子供達のパートナーなどあれほどの冒険と戦いを繰り返したのにも関わらず、一生ものの傷痕など残っていない。
しかし彩女のピヨモンには・・・明らかに無茶な事をやってきたというのが一目で分かるほどの傷痕が生々しく刻まれている・・・。

「ふん・・・俺の顔はそんな醜いかい?」

ドキリとして一瞬だけ震える空。どうやら相手は自分の僅かな表情の変化を見逃さなかったらしい。

「い、いえそんな事が言いたいわけじゃ無いのよ・・・私は・・・」
「気にするな。醜いと思われようが痛々しいと思われようが構わんさ」
「おい、もう良いだろう?とっとと行こうぜピヨモン」

苛付いたような口調で彩女が割り込んできた。

「んっ・・・悪いな彩女。じゃ、俺達はこの辺で失礼するよ」
「それじゃあ、ごゆっくりねぇ。」

彩女とパートナーは自分達の予約している席へと向かって行った。
178創る名無しに見る名無し:2009/08/11(火) 05:11:44 ID:/dhn4Up6
続き楽しみなんだぜ!
179厨二病がネタを使い回す:2009/08/11(火) 19:32:21 ID:yoeNHMz9
武之内彩女は軍人であり、しかも特殊組織『Dフォース』の総司令官というかなり重要な地位にいる人物である。

『Dフォース』とはデジタルワールドが認知され、多くの人々にパートナーデジモンが存在するようになってから編成された軍事組織である。
パートナーデジモンを得たのは、かつてベリアルヴァンデモンと選ばれし子供達の決戦を見守った子供達だけではない。及川が最期の最期でピピモンと出会った様に、多くの大人たちにもパートナーデジモンが誕生したのだ。
だがデジモン達の力は間違った使い方をすれば凶悪な兵器にもなりかねない。実際にデジモンの能力を使って凶悪な犯罪に手を染める者も増加傾向にあった。
事態を重く見た政府は自衛軍の中から、さらには協力的なデジモン達からも精鋭を抜擢しデジモン犯罪に対する抑制組織を作り出したのだ。

当初は別の人物が総官となったが、一行に犯罪は減らずにあっという間に解任となった。
その後に彩女は元々の地位と実力を買われて総官へと任命された。
だが、彼女が指揮者となり部隊を指揮するようになってからはデジモン犯罪は減少したものの、Dフォースに対して批難の声があがるようにもなった。

Dフォースは決して容赦しない、暴力的な方法で犯罪を取り締まるようになっていった。それは人間に対してもデジモンに対してもである。
とあるデジモン犯罪組織が暗躍していた時だった。Dフォースはなんとか捕縛に成功した構成員とそのパートナーに対して凄まじい拷問を加えたのだ。
その成果もあり犯罪組織は根こそぎ潰されたがその非人道的なやり方には批難が集った。

批難の声はそれだけでは無い。彩女はデジモンを生物実験してその戦闘データを抽出し、強力な兵器を開発させたのだ。
確かに新兵器開発は犯罪デジモンに対するには通常の武器では歯が立たない事もあり、ある種必然の事だったかもしれない。
だが開発の過程でDフォースはかなりの数のデジモン・・・どうやら犯罪者のパートナー達らしい・・・を生物実験したようで非人道的だと批難を浴びた。
一方で別の批難もあった。強力な兵器を開発して再び戦争を起こすつもりなのかと、国内及び周辺国から上がっていた。

「我が国の右翼化をこれ以上推し進めるつもりなのか」
「日本は過去の行いを反省せず、また戦争を始めるつもりなのか」
「そんなものを開発すれば日本の戦争被害にあったアジア諸国の人々を傷付ける!即刻止めるべき」

だが反論の声・・・Dフォースに対する擁護の声も上がった。
それはネット社会において多くなっている左翼や隣国への不信感や嫌悪感からもきている部分もある。

「こっそり核兵器開発してた連中が言うな」
「隣国の核兵器や人民虐殺は一切批難しないくせに」
「お前等のやってる捏造報道は日本国民を傷付ける。即刻に止めるべき」

Dフォースは国内や特定の国に対して様々な波紋を呼びお偉いさんは頭を抱えることになったのだが、彩女の指揮するこの組織は確実にデジモン犯罪を減らしており批難されつつも解体する事はできなかった。
180厨二病がネタを使い回す:2009/08/11(火) 19:44:35 ID:yoeNHMz9
ならばとマスコミは声高々にやれ憲法違反だ、アジア諸国の人々がどうだ、戦争体験したお年よりを取材してネタにして反対反対と報道し、ネットの声はちっぽけな愛国心と差別意識が充満していると垂れ流した。

ならばとマスコミ不信の広がるネットではマスコミがネガティブに報道すればするほど、実際に犯罪が減っている、隣はいつでも攻め入る準備ができている。ならばこっちが兵器開発して何が悪いというのだと声が余計にあがった。

こうなったらもうイタチゴッコの様相を見せてくる。
マスコミと左翼勢力は、Dフォースを蹴落とすため幾度と『ネガティブキャンペーン』を行った。

『Dフォースは戦争を容認する非人道的な組織!』『我が国の未来を守れ!』『Dフォースを解体しなければ子供達が戦争に駆り出される!』

だが現実にマスコミや左翼勢力の行ってきた卑劣な行為はネットが発達し、様々な情報を得られるようになった国民に知れ渡り、余計に若年層からの怒りを買うことになり・・・。
まさに憎しみと怒りの連鎖反応で、終わりの見えない罵倒合戦が続くことになった。

だが実際に犯罪を減らしている実績や若年層の支持もあってか・・・そして特定周辺国の暴虐も知れ渡ったためなのか。
結局今でもDフォースは批判と同等レベルの支持をも集めて堂々と存在している。

もっとも、空が叔母を嫌っているのは別に戦争を正当化しているとかそんな事はあまり関係していなかった。

第一にデジモンを完璧に道具扱いしているようにしか見えない。
いくら犯罪者のパートナーだからといって拷問にかけて生物実験にかけて最終的には処分してしまうなど、いったいどちらが犯罪者なのかと疑いたくなるような行為だった。
特にデジモンとの付き合いが長い、多くの時間をパートナーとして過ごしてきた選ばれし子供達は、空に気を使って口には出さないが誰もが彩女の事を嫌っている。

そしてマスコミのネガティブキャンペーンによる報道は結果として叔母とパートナーをTVに頻繁に映し出す事になったのだが、空は傷だらけのパートナーを見せびらかす彼女の態度を何より嫌っていた。
叔母は何かと傷だらけのパートナーを自分の力の誇示のように使っていたのだ。
傷だらけの顔は確かに歴戦の勇士にふさわしい表情であった。彼女のピヨモンはたちまちの内に人気者となった。
だが・・・それは同時にパートナーの傷を名誉の如く見せつけているに等しい。全く馬鹿げた愚かな発想。
パートナーが一生ものの傷を負うなんて普通なら考えられないのに、いったい何が誇らしいというのか彩女はTVに出演する際に必ず自分のピヨモンを自慢げに見せびらかしていた。

「私はね、お前等マスコミ連中のチャリティ番組とか反吐が出るほど嫌いなんだよ。
障害者を見せ物にして視聴率を稼ぎ、チャリティチャリティ、エコエコとほざきながら金を得るのは自分達」
「私達を批難する奴に限って隣国の核兵器にゃ何も批難しねえ。
我が国の武力は汚い武力で連中の武力は綺麗な武力ってか?ダブルスタンダートは大嫌いなんだよ」
「お前等マスゴミはね、この世で最も正義から遠い所に居るんだよ」

以前に叔母が生インタビューで語った言葉である。
その言葉には空自身も納得せざるを得ない部分は確かにあった。
だが、デジモンを、挙句に自分のパートナーを利用している自分はどうなのだ?
デジモン達を傷つける生物実験を行い武器を開発し、傷だらけのパートナーを見せびらかす自分の事は棚に上げて、核兵器作っていた周辺国や障害者をダシに使うマスコミを批難する。

それ、貴女の嫌いなダブルスタンダートでしょう?

正義から程遠いのは貴女も同じでしょう?
181創る名無しに見る名無し:2009/08/28(金) 20:28:24 ID:U6Kf55co
wktk
182名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 19:30:53 ID:gzt+5CtH
ストーリーや設定だけで力尽きてしまった・・・
文才ないし誰か書いて・・・
183保守モン:2009/08/31(月) 15:38:00 ID:UgwGuQm/
題:デジタルモンスター -VARIA-

001 ふたつの日常

地響きと木々がへし折られる音が絡まりあう。
それにかき消される小さな足音がふたつ。
ふたつの足音と共に荒い息が途切れ、大きな深呼吸が二つ。

「いくぞ!コドラモン」
「おう!」

少年がデジヴァイスをコドラモンへかざす。

コドラモン 進化―――

―――ダイノモン!!

「プロミネンス・シュート!」

ダイノモンから吐き出される大きな火球がJモジャモンを焼き消した。
消え行くJモジャモンの体は光となり、それが集いデジタマへ還った。

「やったぜ辰真(たつま)」
「ああ!」

辰真は思った。
最近は進化無しに生き残ることは難しい、と。
成長期に属されているらしいコドラモンよりも上のランク、成熟期のデジモン相手にはどうしても力不足だ。
この象形文字で書かれたような(コドラモン曰くデジモン語)小型の機械、デジヴァイスを通してコドラモンを成熟期へ進化させなければ対等にやりあえない。

「辰真、おれ腹へったぞ〜〜〜〜〜メシは〜〜〜〜〜〜?」
「もう夕暮れか。まだ一昨日獲ったデジミートが・・・あった!」

コドラモンの火の息で焚き木を燃やし、骨付き肉を手にとる。

「ほら、ちゃんと手ェ合わせて」
「はいはい」
「「いただきまーす!」」

ふたりが声を重ねていっせいにかぶりつく。
肉から飛び出す肉汁が頬に飛び散る。
熱いと思いながらもかぶりついた肉を噛み千切る。
今日はJモジャモンに追われる半日を過ごしていたため、とてもおなかがすいている。

(ここに母さんがいたら野菜も食べろーってうるさいだろうな)
(最近野菜とか食べてない…な)

デジタルな夜空に映える星を眺めがならあてのない旅への不安を感じる辰真。
それでも今はおなか満たすためにとにかく肉を食らった。

初投稿です。
よろしこ。
184厨二病がネタを使い回す:2009/09/05(土) 22:25:59 ID:EloQ8qZW
叔母への不満を心の中で呟いていた空だったが、途中でハッとなって我に帰った。
立ち上がって仁王立ちになり思い切り怒鳴った直後だというのをすっかり忘れていた。

「あっ、ご、ご、ごめんなさい!!」

顔を紅潮させて慌てて頭を下げる空。その様子を見て春彦は思わず笑みをこぼす。
やっぱり成長していても正義感が強いところは変わらないし、直後に気付いて謝るところもまた彼女らしい。

「もう、空ったら・・・他の客さんがビックリしてるじゃないの」
「うっ・・・その・・・ゴメン・・・お母さん・・・」
「はははっ!まあ、良いじゃないか。それが空の良い所でもあるんだから」
「ごめんなさいね、あなた。妹がとんだ無礼を・・・」

淑子はまるで自分のことのように彩女の無礼な行いを謝罪した。
そんな所もやはり結婚当初から変わらない。結局、珍客の乱入はあったものの春彦の顔から笑顔が消える事は無かった。

「良いんだよ。お前が気にすることじゃないさ・・・」

私は家族が居てくれるだけで有り余るほど幸せだよ、と付け加えようとした直後だった。
それは一家の幸せなひと時を無残に踏み潰すには十分すぎる出来事であった。


ドオオオオオオオオオオオオォォォォォッッン!!!


凄まじい轟音が響き渡った。店の中の人間やデジモン達は一斉に何事かと顔を上げた。
勿論それは彩女達も同じだった。さすがの二人も動揺を隠せないようだった。
そして休み間も無く、続いて猛烈な揺れが襲ってきた。
辺りで悲鳴が上がり慌てふためく人々。天上から吊るされた電灯が意思を持ったかのように激しく動き始め、テーブルに置かれた料理が次々と床へと落ちていく。
皿が無残に割れ鋭い音が料亭に響き渡った。厨房はさらなる惨状であり、棚に置かれた食器類、調理器具が雨あられと調理人の頭上に降り注いだ。
出来上がった料理を運ぼうとしていた女性が揺れに脚をとられて転倒した。その眼前に巨大な出刃包丁が頭をかすめて落下してきて床に突き刺さる。

春彦は「地震だ!」と思った。しかも尋常じゃない揺れ方だ、何かが爆発したような音もした。
今に天上が音を立てて崩れてくると思った。春彦は呆然としていた空の腕を乱暴に引っ掴むと、引きずり出すようにして出口へと直行した。
慌てた様子で「空!」「あなた!」とピヨモンと淑子の声が響くと、彼女達もその後を追って出口へと向かった。
同じ事を思ったのは一家だけではなかったようで、竦みあがっている者もいれば、下敷きにされてしまうと思った人間やデジモンが同じように出口から或は窓から無理矢理外へと脱出した。
185厨二病がネタを使い回す:2009/09/05(土) 22:29:56 ID:EloQ8qZW
彩女達は真っ先にテーブルの下へと避難した。
脱出できるような場所も無く、とにかく落下物から頭部を守ろうという考えだったのだ。
やがて揺れが収まると彩女達はテーブルから這い出てきた。辺りを見回すと、多くの竦みあがった人間とデジモン達がぶるぶる震えていた。
中には小さな子供や幼年期デジモンのすすり泣く声も聞こえた。
続いてその声を掻き消すかのようにドーン、ドーンと激しい音が再び聞こえ始めた。
料亭内で竦みあがった者からさらに悲鳴が上がる。

「ビビってる暇があんならテーブルの下に隠れて頭を守ってろ!!」

ピヨモンの低い声が怒号のように響き渡った。彩女は既に何事が起きたか調べるために大急ぎで出口へと向かっている。
パートナーは翼で一羽ばたきして浮き上がり、すぐさまその後を追った。

「ちきしょう!一体なんだって言うのよ!!人さまの食事を邪魔しやがって!!」

毒づきながら外へと出ると、やはり異様な光景が広がっていた。
すでに辺りは暗くなってきているが夜空が立ち上がった火炎と煙で鮮やかに染まっている。それはなんとも不気味な美しさであった。
どうやら爆発が起きたのは料亭からかなり近い場所であるらしい。
武之内一家の他、多くの人やデジモン達が外へと避難してきたらしく、あちこちで黒煙の上がる方角を指差しては悲鳴を上げた。

「くそっ!退きやがれ野次馬どもめっ!!」

何があったか調べなくては・・・だがこう人が多くては二進も三進も行かない。
彩女は怒鳴り散らしながら爆発現場へと向かおうとした。
ところが、数十秒走ったところで「あっ」と驚いたようにして急停止した。

ドーン!ドーン!!

再び轟音が辺りに響き渡った。逃げ出したり、けたたましい悲鳴をあげる者も居て一体は大混乱となっている。
持ち前の責任感か・・・それとも選ばれし子供として戦ってきた経験からか、空は両親の声を振り切ってピヨモンと供に彩女達の後を追った。
何かが起こっている。何かは分からない。分からないが、間違いなく自分とパートナーの力が必要な事態だと判断したのだ。
空はスカートのポケットからデジヴァイスを取り出した。

「ピヨモン、もしかしたら進化が必要かもしれないわ・・・」
「大丈夫!まかせといて空!」

ピヨモンが頼もしく宣言してみせた。
だが、続いて響いた音で彩女と同様に思わず足を止めた。

ドオオオオオオンッ!!

もう一度力強く響いた音はその場の全員を凍りつかせる。
何故ならばかなり近い距離で轟音が響き渡ったからだ。
続いてズーン、ズーンと重々しい音が響く。その後にガシャン、バキンと何かが壊れる音も聞こえてきた。
新たな爆発が建物を壊したのか・・・または余震が響いて建物を揺らしているのか・・・。

「地震じゃねえぞ彩女」

彩女のピヨモンは本能でそれを感じ取ったのか驚いているパートナーに伝えた。
確かに様子がおかしい。ズーンという音は規則正しく響き渡っている。
変化しているのはその音の大きさである。段々と近くなっているのだ。

「何か・・・歩いているのか!?」

次の瞬間、右の曲がり角の建物の間からぬっと巨大なトレーラーが姿を現した。トレーラーは宙吊りになっておりズタボロにされた車体や部品がガシャガシャと地面に落下している。
その中心部には灰色の物体が上下から挟み込むようにしており、巨大な車体を軽々と持ち上げていた。
一瞬何か分からなかったが直ぐに彩女は理解した。

あれは手だ。巨大な手がトレーラーを掴み上げているのだ。
186厨二病がネタを使い回す:2009/09/05(土) 22:32:26 ID:EloQ8qZW
やがて頭部の一部分だけであったがそいつの姿が見えた。そいつの頭は流線型のシャープな形をしていて、よく見ると口の中にナイフのような鋭い歯がビッシリと並んでいる。
少し緑がかかった灰色の皮膚はぬめったような無気味な質感を放っているように見えた。
そいつが一歩を踏み出す。と、同時にあのズーンという音が再び響き渡った。
やはり轟音はこいつの足音だったらしい。まだ頭部の一部しか見えて無いが、相当巨大な相手だと言う事は間違いない。

彩女は自らのデジヴァイスを取り出してピヨモンを進化させようとした。
だがそれはすぐさまに撤回せざるを得なくなってしまう。

「皆、逃げろおおおーーーーっ!!」

彩女はデジヴァイスの発動を止めると、後ろを振り返り絶叫を上げた。
もはや進化なぞしてる暇はなかった。巨大なそいつはトレーラーを放り投げたのだ。
何tもの重量がある大型トレーラーは軽々と宙を舞い、彩女や空を含む群集の方へと迫ってきた。

「っ・・・くそっ!!」

このまま道の真ん中で突っ立っていては下敷きと、彩女は左側面の建物の中へ避難しようとした。
だがその時、丁度向かい側に完全に怯え切った女性を発見した。彼女はブルブルと恐怖に打ち震えており完璧に金縛り状態に陥っていた。
彩女は毒づきながらも女性へと突進。そのまま強烈なタックルをかまして女性もろとも建物の入り口付近にドッと倒れこんだ。
ボキリと鈍い音が響き、その感触から女性のアバラ骨が折れてしまったのが彩女自身にも伝わった。
そして直後に、さっきまで女性が居たところにトレーラーが轟音と供に落下してきた。

落下したトレーラーは衝撃でひしゃげ、部品を辺りに撒き散らしながらバウンド。もう一度宙を舞い地面へと激突すると今度は火花を散らしながら道路の上を滑っていく。
迫り来るトレーラーに恐怖した空だったが頭で危険だと判断する前に勝手に体が動いていた。ピヨモンを抱き締めると彼女を庇うようにして横っ飛びでトレーラーを回避した。
冷たく硬いコンクリートに強か左腕を打ちつけ、鋭い痛みが走ったがそれよりも両親が心配で転倒したまま「お父さん!お母さん!!」と叫んだ。
だが叫びは轟音で虚しく掻き消されてしまった。空は必死に両親の無事を祈った。

横滑りしたトレーラーはやがて曲がり角の建物に激突して炎上。燃え盛る車体から隣接する建物に次々に炎が燃え移っていく。
彩女の耳には人々の悲鳴がまばらに聞こえていた。だが、すぐに轟音へと掻き消される。

ズーン・・・ズーン!!

奴の歩く音だ・・・こっちに向かって来やがる!!
187厨二病がネタを使い回す:2009/09/05(土) 22:35:34 ID:EloQ8qZW
「グルゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

闇の底から響き渡るような不気味な咆哮が轟いた。憎しみを吐き出すかのような凄まじい怒号だった。
そいつは足音を響かせながら自らトレーラーを放り投げた方へと向かってくる。
彩女のピヨモンは歴戦の勇士としての経験、そして戦闘生物としての本能から相手が途方も無い強敵だと既に察知していた。
パートナーが白濁した目で一瞥すると彩女は心情を察知したようで、泣きじゃくる女性の口を掌で塞いだ。そして人差し指を口の前に持ってきて黙るように指示した。
一方で、自らもなるべく身体を低くしてその場に縮こまった。

ズーン!!

一層大きな音が響くと、巨大な足が降って来た。グシャっとコンクリートが抉れて破片が飛び散る。
足はぬめった灰緑色の皮膚で覆われて力強い三本の指には鋭い鉤爪が生えていた。
さらに衝撃が響くと、先ほどの怒号が響き渡りそいつの頭部がチラチラと見え隠れした。どうやら辺りの建物に無差別に頭部を叩きつけているようだ。

「ギュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

再び咆哮。それだけで周りの空気がビリビリと振動し世界その物が打ち震えるようだった。
彩女はチラリと顔を上げてそいつの姿を確認した。

そいつは異様に長い腕を持っていて、丁度ゴリラが腕をついて歩くのに似ていた。
だが体毛は無く、ぬめった皮膚に爬虫類を思わせるような逆関節の脚をもっていてかなり無気味な姿だ。
尻尾の先には三日月型の鰭が付いて背中からも三角形が突出している。
流線型の魚雷のごとき頭部には金属的な輝きを放つ鋭い歯がビッシリ並んでいて、目玉は生気が感じられないドス黒い色をして恐ろしいほどに無表情に見えた。
大きさはかなりのモノで、そいつの頭は軽く10メートルは上空に存在している。

「な・・・なんだこいつ・・・サメに手足が生えてんのか・・・?」

鬼か悪魔か・・・巨大なサメは憎悪に狂ったようにビッシリと裂けた口から歯を剥き出して咆哮した。
だがよく見ると五本の鰓が盛んに収縮を繰り返していた。かなり荒い呼吸だ。
怒り狂っているせいもあるのだろうが、巨大な生物は何かに苦しんでいるように見えた。

こいつ・・・まさか連日の襲撃事件の犯人か!?

サメが人を襲うことなんか年に数回あるかないかで、ミツバチに刺されてしまう方が危うい程なのだ。
クロンデジゾイドの歯が検出されたとか言われる以前から、襲撃事件はデジモンの仕業だろうと予想していたがまさかこんな巨大な奴だったとは・・・。

いや、待て。
でかすぎるぞコイツ。報告よりも明らかにでかい。
子供どころか大人が丸のみサイズじゃないか。
まさか、進化でもしやがったのか??
188厨二病の中身:2009/09/05(土) 22:41:41 ID:EloQ8qZW
>>182設定だけでも投下してみては?】
【それだけで二次創作にはなるし、それを元に書いてくれる人がいるかもしれません】
>>183正統派冒険もので面白そうです!】
【続き、楽しみにしてます】
189ジャギえもん:2009/09/23(水) 23:06:03 ID:uQNdewVz
共に生きる」コンサートイベント 9月21日月曜日(祝日)

音楽やダンスを通じて共に生きていく大切さをテーマにした
コンサートイベントを9月21日に開催いたします!
そこで関西を拠点としニコニコ動画を中心に活動している
私達mixiコミュイヨク×稲妻デジモン応援団もバンドを組んで出演します!

当日は地元メディアも撮影に来る予定ですのでメンバーも気合入ってます!
20分前後の短い時間ではありますが
デジソン+アニソンパワーを会場で感じてもらえれば最高です〜!
詳細は下の通りです〜


イヨク×稲妻デジモン応援団 出演メンバー

★MC ジャギえもん AYU‐ICH JOY かずゃ ナダレ
イヨク×稲妻デジモン応援団バンド組
★ヴォーカル担当 セブン ゆい  ★ギター ポンコツLV.23  
★ベース担当 あき@小四喜字一色 ★ドラム担当 木陰 ★キーボード担当 カッキー
★歌う曲の作品名
デジモンより2曲
ドラゴンボールZより1曲
時をかける少女より1曲

★その他出演メンバー
チェロ奏者 大阪音楽大学名誉教授 竹内良治先生
              ピアノ伴奏  竹内須恵子先生
ブラインドサッカー全日本代表監督 風祭喜一監督 と選手の皆さん
車椅子ダンサー 奈佐誠司氏とダンスチームのみなさん
さをりひろばによるパフォーマンス 
ギターマンドリン演奏 いろえんぴつ

1.9月21日(月祝)

開場12時30分/開始1時

2.場所   兵庫県宝塚市 川西アステ ぴぃぷぅ広場 

最寄り駅 阪急川西能勢口駅より徒歩2分  

JR川西池田徒歩3分

川西アステHP
http://www.astekawanishi.com/

3.料金 無料
4.参加方法 会場にお越しいただくだけでOKです
5.後援   川西市ライオンズクラブ   川西市   川西市教育委員会 
      川西市社会福祉協議会 
6.人数制限 特にありませんが人数が多い場合はボランティアの方の指示で
2階のスペースでのご鑑賞になる可能性がございます。
なお100席イスを用意しておりますがそれ以降の方はスタンディングとなります。
ご了承ください。

「共に生きる」詳細ページ
http://www.jttk.zaq.ne.jp/babkd104/U5.htm

イヨク×稲妻デジモン応援団mixiコミュ
http://mixi.jp/view_community.pl?id=3809961
190創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 16:43:43 ID:9UEgH1N0
主人公は闇の紋章を持つ選ばれた子供達の一人
パートナーデジモンはインプモン

かつての選ばれし子供達の活躍でデジタルワールドに平和が訪れる事になったが闇属性のデジモン達が弱体化しデジタルワールドのバランスが崩れる事になる

主人公は崩れたバランスを元に戻すために冒険する事となる

闇の紋章は闇属性のデジモンを強化し光属性のデジモンを弱体化する力を持つ

そのため野心を持つ闇属性のデジモンからは強化のためにデジタルワールドの治安を守る光属性のデジモンからは危険視され両デジモン達に狙われる

的な妄想をした
191創る名無しに見る名無し:2009/10/16(金) 00:34:55 ID:utFXB8qh
>>190
面白そう!!
紋章は、「暗黒の紋章」がいいと思う。暗黒のデジメンタルがあるくらいだから、暗黒の紋章が
あってもおかしくないだろうしな
192創る名無しに見る名無し:2009/10/17(土) 13:07:41 ID:w4sxBE3u
>>191
誰かが書いてくれるのを待つよw
193>>190の妄想を勝手に膨らませた:2009/10/23(金) 00:46:21 ID:bltNF0Q0


「ちくしょう…、やられてたまるか……。」

激しく打ちのめされた後頭部がズキズキと痛む。
遠のく意識の中最後の抵抗を試みるも、もはや立ち上がることも敵わない。
「デジタルワールドの秩序の為だ。せめて、ひと思いに楽になれ。」
眼前に立つ、”デジタルワールドの秩序”を謳う聖なるデジモンが呟く。
背中の6枚の翼は神々しく輝き、薄暗い森の中で自らの存在を強く主張する。
そして彼の持つ聖なる杖は激しく光を放ち、そのエネルギーは右手に集約される。
「これまでか…!」
インプモンが抵抗を諦め、エンジェモンが必殺技を放つのとそれは同時だった。

「狐葉楔!」

もうひとつの声が響くと同時に、小さな葉がさながら銃弾のように炸裂する。
自らの必殺技に集中していたエンジェモンは不意をつかれそれをくらい、思わずひるみ膝をつく。
その隙をつき、一体のデジモンが地面に倒れ伏していたインプモンをさっと掬いあげ、抱きかかえた。
「レナ…モン…?」
失われていく意識の中で、インプモンは白く温かい胸毛と黄色い身体を見た。
それは見覚えのある、かつて共に戦ったこともあるデジモン。
だがそのデジモンは何も言わなかった。
ただインプモンを抱きかかえ、飛ぶように走り、彼を安全なところへ。それだけを考えていた。
速度はすさまじくとも、抱かれているインプモンはまるで揺り籠に乗せられているような、優しさを感じた。
そして、インプモンは意識を失った…。


194創る名無しに見る名無し:2009/10/23(金) 00:47:51 ID:bltNF0Q0
なんつーか、予告編的な。
がんばって書いてみようか、俺。
195創る名無しに見る名無し:2009/10/25(日) 04:45:37 ID:AI/FCoc1
中学の頃オリジナル書いてたなー
久々に書きたくなった
196創る名無しに見る名無し:2009/11/07(土) 00:24:03 ID:C09J5INV
こんな暗い光ミミが読みたい。

デジタルワールドの研究をしていた泉光子郎はついにデジタルワールドと現実世界を往来を可能にする
人工デジタルゲートを完成させ、太刀川ミミと大学の卒業旅行をしていた。
しかし、デジタルワールドを第二の「新大陸」と考える人間達の手により光子郎達は襲撃され、
光子郎はミミとパルモンを救出するも戦闘型バイオデジモンの実験体としてテントモンと合成され
人間としての生体機能を完全に失ってしまう。

改造後はデジタルワールドを新大陸化の尖兵グランディスクワガーモンとして邪魔なデジモン達の排除に成果を挙げるが、
仲間達との戦闘により自我を取り戻したことにより、もう人間には戻れないことを悟り苦悩しながらも、
かつての仲間達とも袂を分かち、一人孤独な戦いを開始するのであった。

「光子郎君!!あんな組織に一人で立ち向かうなんて無理よ!!」
「彼らは僕が倒します。僕らの理想のために。」
197創る名無しに見る名無し:2009/11/08(日) 04:26:08 ID:tkp4W2kj
>>193
本編期待

>>196
変身ダークヒーロー的な感じだなw
198創る名無しに見る名無し:2009/11/17(火) 19:17:14 ID:h+oI8Rtd
保守
199創る名無しに見る名無し:2009/11/26(木) 23:54:08 ID:lgb98rv1
tess
200創る名無しに見る名無し:2009/11/28(土) 21:51:15 ID:BHDjCgA0
アダルティでハードボイルドなデジモン みたいな話を書きたかったが
俺の文章力ではどう頑張っても不可能だった

誰か頑張って書いてくれ
201創る名無しに見る名無し:2009/12/05(土) 23:03:15 ID:jR6a+4nA
保守
202196の予告編:2010/02/06(土) 00:21:16 ID:DNgzWLh5
私の目の前には、私の発言のせいか言葉を失っている青年達がいた。

「嘘だろ・・・光子郎・・・・。」
何度名乗ってもわからないのか?人類という種は進化するのがことさら遅いらしい。
「光子郎君・・・・。」
先ほどからこの女は私を見てなぜか泣いている。命乞いのつもりか?そんなことしてもいまさら無駄なのだが。
「私は戦闘用バイオデジモン・・・グランディスクワガーモン。選ばれし子供たち、お前たちを排除する。」

私と彼らの戦闘は常に私が先手を取っていた。なぜかは知らないが私には彼らの作戦パターンが面白いように手に取れるのだ。
にも拘らず、最後の一手をしくじって常に彼らに撤退のチャンスを与えてしまう。
「いちいち素直なんです。貴方方の戦い方は。」
「しまった!!」
彼らのエースデジモンかつ最重要排除対象の一体オメガモンの背後に痛恨の一撃を決め、自分の勝ちを確信して最後の一手を打とうした瞬間であった。
「フラウ・カノン!!」
妖精型デジモンから放たれた一筋の光線が私の視界は光に包んだ・・・・・。

僕は目の前の光景理解できなかった。僕はもうこの世には存在していないはずだ。あれだけの銃弾を体に受けて生きている可能性はゼロだ。
しかし、現実に自分の目の前には力なく倒れているオメガモンとフラウ・カノンを構えているリリモンの姿がある。
「僕は・・・。」
「光子郎!!目を覚ましたのね!!!」
フラウ・カノンを外し、自分に手を差し伸べてきたリリモンに手を伸ばそうとした瞬間、僕は自分の身に起こった全てを悟った。
僕はデジモンになってしまったということ、そしてもう二度と人間には戻れないことを・・・。
203厨二病が久しぶりに保守:2010/02/22(月) 23:01:04 ID:j/w1/F83
「野郎・・・一体何者なんだ・・・!」

奴の足音は次第に遠のいていった。彩女は女性に「すぐに助けが来るから大人しく待ってろ」と言い残すと意を決して立ち上がり、敵の後を追い始めた。
彩女達は必死に後を追ったものの、奴は動きが予想以上に素早いのか巨大ゆえに歩幅が有り得ないほどデカイのか・・・既に曲がり角を左折しており見えているのは逞しく強靭な尻尾だけだった。

「くっそ!こんだけ私のシマを荒らして逃げられると思うなよ!!」

彩女はデジヴァイスを構えた。
液晶画面のゲージがぐんぐんと伸びて、それが頂点に達すると禍々しくて邪悪な輝きが放たれた。

一方、空はピヨモンを抱いたまま、必死に両親の無事と巨大な敵が自分達に気付かずに何処かへ行ってしまうのを祈った。
その祈りは天に通じたのか敵の足音は徐々に遠ざかっていった。
良かった・・・と溜息を付く空だったが、その眼前を二つの影が通り過ぎた。

「彩女叔母さん・・・何をしているの!!?」

空はぎょっとして立ち上がった。叔母とパートナーが何を考えたかあの巨大な怪物の後を追いかけているではないか!
いくら嫌っているとはいえ、いくら叔母が軍人だといえ無茶にも程がある。
空は慌てた様子で叔母を止めようと後を追いかけた。

「さあ、クソ野郎覚悟しな!!」

彩女のデジヴァイスの光がピヨモンの全身を包み込む。
禍々しい輝きはやがて黒い炎となってピヨモンの身体を変貌させていった。

「ピヨモン進化!! セーバードラモン!!!」

邪悪な黒い炎に包まれた怪鳥デジモンが現れて、漆黒の翼で飛び上がった。
物凄いスピードで巨大なサメデジモンを追跡していく。先ほどとは明らかに飛行速度が違い、あっさりとサメとの距離を詰めていった。

「グルルルルル・・・ギィアアアアアッ!!!」

背後からの気配を察したのか。
巨大サメデジモンは異様に長い腕を振り上げて、三本の指に生えた巨大な鉤爪で攻撃してきた。

『ネガプリオンソード』

鉤爪がレモン色に輝き三本のビームソードとなった。
凄まじいスピードで斬り付けられたセーバードラモンだったが、彼もスピードなら負けない。

「『マッハシャドウ』!」

翼で力強く羽ばたくと、黒い残像が残るほどの猛スピードでサメデジモンの攻撃を回避した。
サメデジモンの攻撃は外れてセーバードラモンの背後にあった建物の上部を切断した。セーバードラモンは降り注ぐ破片も回避して反撃を試みる。

「『ブラックセーバー』」

そのまま猛スピードで黒い弾丸となったセーバードラモンがサメデジモンに突進した。
サメデジモンは鋭い歯で噛みつこうとするが、漆黒の翼から放たれた凄まじい衝撃波でカウンター気味にダメージを受けてしまった。

「グギイイイイイイッ!ギュアアアアアアア」

鼻面にブラックセーバーを受けたサメデジモンに激痛が走った。そして均衡を失ったのかヨロヨロとしながら建物に向って転倒した。
ガラガラと建物は倒壊してサメデジモンは瓦礫と煙の中へと消えていった。
204厨二病が久しぶりに保守:2010/02/22(月) 23:03:56 ID:j/w1/F83
「セーバードラモン、『ナイトロアー』で焼き尽くしてしまえ!!!」

彩女がとどめを刺す様に命令する。
セーバードラモンも必殺技を放とうと攻撃態勢に入るが、それをよく似た姿のデジモンが妨害した。

「ピヨモン進化―――っ バードラモン!!」
「何!?ぐっ・・・!!」

真っ赤に燃える体に包まれたバードラモンがセーバードラモンに突っ込んで来て体勢を崩した。
その様子を見て彩女は激怒した。後ろを振り帰ると凄まじい声を上げる。

「空!!貴様、何のつもりだふざけるな!!!」
「止めて叔母さん!人がたくさんいるのが見えないの!?」

セーバードラモンの放つ衝撃波、サメデジモンの大暴れのおかげで辺り一面は大惨事となっている。
建物は崩れ、そして突然の襲撃で避難など出来るはずがない多くの人々とデジモン達が戦いに巻き込まれていたのだ。
叔母のデジモンの実力は相当なものだろうから、このまま大暴れさせたらさらに被害が拡大してしまうのは間違いなかった。

「邪魔をするんじゃねええよこの馬鹿が!」

彩女は鋭いパンチを空のみぞおちにくれてやった。
空は並大抵の少女よりかは逞しいのだが、軍人のパンチに耐えられるワケがない。そのまま呻き声をあげて地面にへたり込んでしまう。
セーバードラモンも巨大な足でバードラモンに蹴りを入れようとした。
それを必死にバードラモンは回避する。

「止めなさい!あなた達Dフォースの使命は人々を守ることでしょう!!」
「・・・だからやっている。邪魔をしているのはお前たちだろう」
「皆まだ避難できていないのよ!今すべきことは敵を倒すことじゃなく、皆を逃がすことでしょう!?」
「訳の分らん事をほざくな貴様。奴を野放しにしろってのか?被害が出ようとトドメを刺すのが最優先だ」

空中で対立する二体の巨鳥。
だが二体が言い争っている隙にサメデジモンはゆっくりと動き始め、逃亡のための準備を始めていた。

「・・・!貴様・・・逃がさんぞ!!」

気配の変化に気づいたセーバードラモンはバードラモンを無視して攻撃を加えようとする。
だが、それよりも早くサメデジモンは両腕を大きく広げてエネルギーを溜めていった。腕は象牙色に輝きを放ち、大きな団扇のように広がった。

『スクアティナリフレクション』

サメデジモンは両腕を思い切り地面に叩きつけた。物凄い音と衝撃が辺り一面に響き渡ったと思うと、サメデジモンはもうもうと上がる土煙りの中へと消えていった。
煙と衝撃に怯んだ彩女達が慌ててサメデジモンが居た場所へと駆けつけるが、既にそこに敵の姿は無く、巨大な穴だけがぽっかりと大口を開けていた。
どうやら先ほどの衝撃で穴を掘り、逃げ去ってしまったようだ。

「野郎・・・この私をここまでコケにしいておいてタダで済むと思うなよ・・・」

大きな穴を睨みつけながら彩女は悔しそうに呟いた。
205創る名無しに見る名無し:2010/05/16(日) 10:23:13 ID:IMWTM/re
保守
206創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 23:57:02 ID:X4HtYfwK
保守
207創る名無しに見る名無し:2010/05/30(日) 13:01:12 ID:/AxeA6gp
保守
208創る名無しに見る名無し:2010/06/01(火) 08:34:09 ID:24UdnXOS
保守
209創る名無しに見る名無し:2010/06/03(木) 11:36:16 ID:FmLlBr8Q
保守
210創る名無しに見る名無し:2010/06/03(木) 11:53:13 ID:t4FheFqi
保守いらないよ
落ちないから
211創る名無しに見る名無し:2010/06/12(土) 22:44:42 ID:qSu0kjRq
なんか気持ちだけでも保守したくなる
212創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 11:45:05 ID:bdaWhyZa
そういうのは保守じゃなくて空ageと言う
レスするなら、なんか意味あること書いてけ
213創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 22:03:02 ID:tFxnzwnt
空age を「そらあげ」と読んじゃった俺はもう末期症状。
空さん大好きだ><
214創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 21:52:12 ID:tRgAW7mN
何か作品を投下しようと思ったけど
文章力ないのでどうも踏みきれない
215創る名無しに見る名無し
>>214 わかるわぁ 文章力ないけど投稿したいけどどうも踏み切れないそのジレンマ