和風な創作スレ

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157破魔巫女銀杏 3-2 ◆Omi/gSp4qg :2008/12/12(金) 20:25:37 ID:J/tInIHZ
 日が沈み、空が濃い紺に覆われる。
 身を清めた銀杏は改めて巫女装束に身を包み、腰に短刀を差し、背に矢を背負い、弓を肩
にかけて、鳥居の下を歩いて商店街に向かった。
 商店街入り口のゲートで、飯島が待っていた。

「ああ、どうも。じゃ、行きましょうか」

 銀杏は黙ってうなずいた。二人は並んで夜の商店街を歩いた。街頭が等間隔に光る。
 商店街には街路樹が立って、落ち葉を落としている。道の隅に葉が吹きだまっていた。

「掃除しろといってるんですがね、お恥ずかしい」

 飯島がこう言うと、銀杏はおかしなものを見るような目をした。

「あんたは目が悪いのか」
「は? いえ、普通ですが」
「そうか」

 銀杏は何事もないように、また歩いた。飯島は首を傾げ、ついていく。
 二人はしばらく歩いたが、変わったところはなかった。閉まったシャッターの前に、銀
杏と飯島は並んだ。

「今日は出ないかも知れませんねえ」

 飯島はすまなそうに言った。
 銀杏は空を見上げた。
 何だろう、と飯島もつられて見上げた。
 夜空に丸い月が浮かんでいる。

「何かいるんですか」
 飯島が不思議そうにきくと、銀杏はまた言った。
「あんたは目が悪いのか」
「え……、いえ」
「そうか」

 この女はさっきから自分を馬鹿にしているんだろうか、それとも自分には見えない何か
が見えるのか、いずれにせよ飯島はいぶかしみ、早く銀杏と別れたくなった。

「今日はもう……」

 飯島が言い掛けたとき、弦楽器の音が風に運ばれてきた。

「出たか」

 銀杏は白い袖をひるがえし、音源に向かって歩いた。
 恐れつつも、飯島は銀杏のあとをついていった。
 商店街の中ほど、クリーニング屋の前で、何者かが動いていた。
 近づくと、琵琶を抱えて鳴らす老人が確認できた。
158破魔巫女銀杏 3-3 ◆Omi/gSp4qg :2008/12/12(金) 20:27:30 ID:J/tInIHZ
 ぼんやりと発光する、頭を丸めた老人は、目を閉じ弦をばちで弾く。
 琵琶はときにゆるやかに、ときに激しく掻き鳴らされる。音色は波打つようで強くなり
弱くなり、高く低くなって何かを訴えるかのようだ。
「お、お化けだ、お願いします」

 怯えた飯島は、銀杏の後ろに隠れた。
 銀杏は目を閉じ、黙っていた。
 琵琶の奏でる音楽ははかなげに、力強く夜空に響く。
 琵琶法師の近くに生える一本の頼りないもみじが、紅い葉を落としている。

「あ、あの、榊さん」
「しゃべるな」

 銀杏に厳しく命令され、飯島は口を結んだ。
 ばちは素早く動いて弦を弾き、変幻自在の音を産み出す。
 銀杏は刀の柄に手をかけ、目を閉じて動かなかった。
 琵琶のきかせる曲はさらに強く激しくなり、かと思うとせつなく哀しげになる。
 飯島はさっさと退治してくれないか、と思うが、銀杏の気配はただならぬもので、声をか
けられなかった。

 曲の調子がゆっくりしたものへと変わっていく。銀杏は目を開き、瞳の奥に稲妻を閃か
せた。
 紅い下駄が歩道を蹴り、緋の袴がはためく。白い衣は白鳥のはばたきにも似た。
 血にも似た真っ赤なもみじが風に舞い飛ぶ、桜吹雪のように。
 琵琶の音色は空へと駆け上がる龍を思わせ、一気に拍子を早くしていく。
 震える弦が紡ぎ出す響きは情熱的で、それでいて今にも壊れてしまうような、死すべき
運命ある者が持つ美を感じさせる。

 銀杏の刀が水平に飛んだ。
159破魔巫女銀杏 3-4 ◆Omi/gSp4qg :2008/12/12(金) 20:29:17 ID:J/tInIHZ
 琵琶の音楽は消え、突然に静寂がやってきた。
 弦の切れた琵琶が地面に落ちた。
 琵琶法師の姿はどこにもなかった。
 銀杏は短刀をさやにおさめた。

「終わったんですか」
 飯島は恐る恐るきいた。

「ああ」
 短く答えると、銀杏は琵琶を拾った。

「本体は琵琶だった。時間がたって化けた琵琶だ。法師の姿は琵琶の記憶、映像みたいなも
のだ。弦は琵琶の命だからね。これを切ればしまいさ」
「そうでしたか……。まあ、何にせよよかった、これでうるさくて迷惑せずにすみます」

 飯島が安堵して言うと、銀杏は目に敵意のようなものを見せた。

「いい加減にしろ、おまえは耳が悪いのか」
「は?」
「おまえは色づいた葉を見てもゴミにしか見えないのか。あんなに綺麗な月も、おまえには
見えないのか」

 飯島は口を開けたまま、ただ立っていた。

「あの琵琶。あれはよかった。毎晩でも聞きたかった」
 銀杏は目を閉じ、琵琶の音に魂も震わされたというように、深くため息をついた。
「おまえにはうるさいだけなんだろうな。おまえは雪を見ても寒いとしか思わないんだろう。
海を見ても暑いとしか思わないんだろう。虫の鳴くのを聞いてもうるさいとしか思わない
んだろう。かわいそうな奴だ」

 銀杏は髪を揺らし、飯島に背を向けた。

「金はいらない。二度とそのつまらないツラを見せるな」

 銀杏の後ろ姿を、飯島は見つめた。つやのある黒い髪、白い衣、緋の袴。
 赤や黄の葉が風に舞う。漆黒の空にはまぶしいほどに輝く月。

 ああ、我が国の秋はなんと美しい……、と飯島は心を打たれて、深々と頭を下げた。
160 ◆Omi/gSp4qg :2008/12/12(金) 20:31:42 ID:J/tInIHZ
終わり 若干季節を過ぎてしまった
人がいたとは……いたほうがいいんだけどさ
161 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2008/12/12(金) 20:33:49 ID:MfJm7PMy
投下乙〜
今夜は図らずも満月だね
俗物をそれと悟らせず描くのがいいなー
162創る名無しに見る名無し:2008/12/14(日) 04:50:49 ID:rldzxPl3
ど〜も>>114だす。
前回よりも、好きかも知れん…続きを期待する。
163 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2008/12/17(水) 21:46:50 ID:qI2fP5Hw
和風意識すると古臭くなってしまう俺
164創る名無しに見る名無し:2008/12/17(水) 21:57:08 ID:eb+xEO56
古語かっつりになっちゃう感じ?
165 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2008/12/17(水) 22:04:49 ID:qI2fP5Hw
いや大正の京都っぽくなるw
166創る名無しに見る名無し:2008/12/17(水) 22:09:07 ID:eb+xEO56
大正の京都w
ピンポイント過ぎてよくわからんw
167創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 21:39:52 ID:OcAq9DrY
保守?
168創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 02:20:25 ID:J/NgqInV
若がくのいちに絡めとられるSSきぼん
169創る名無しに見る名無し:2009/02/26(木) 23:50:17 ID:SUT2g5V2
誰もいないな
設定だけでもいいのかな
170創る名無しに見る名無し:2009/02/27(金) 20:28:37 ID:eRh0f2sl
いいんでないかい
171創る名無しに見る名無し:2009/02/27(金) 23:38:12 ID:6whF7Bf3
じゃあ君が聞いてくれ
伝奇物のゲーム用に話を考えてみた

主人公は高校生の男子
山の中で負傷した鬼女と遭遇する
鬼女はその場で気絶して動かなくなったが
不思議と恐怖を感じなかった主人公は逃げ出さずに鬼女を匿い手当てしてやった
礼を言い消え去る鬼女
そして帰り道主人公は陰陽師と剣士を名乗る二人の女と出会った
二人は鬼女を捜していたが主人公は何も語らず白を切った…

次の日学校に登校すると今まで交流がなかった超美人の女子が
なぜかとても親しく話しかけてくれるようになった
バレバレだと思うがこいつは鬼女の正体で妖術を操り主人公のために色んなことをしてくれる
172創る名無しに見る名無し:2009/02/28(土) 13:33:16 ID:vSBfJNDM
鬼女の恩返し、というわけですな
173創る名無しに見る名無し:2009/02/28(土) 13:36:06 ID:WDcNK+jk
読売新聞を鬼女総動員して追い詰めるんですね、わかります
174創る名無しに見る名無し:2009/03/01(日) 19:26:28 ID:0OZl8zbZ
鬼女違いですね、わかります
175創る名無しに見る名無し:2009/03/03(火) 21:21:23 ID:BUTAyNhu
>>171
鈴鹿御前とか渡辺綱とかの伝説をモチーフにしてもいいかもね
ありものを無理矢理和風にしてみたら何かできるかも知れん
オズの魔法使いとかをパラレル日本にしたり
176171:2009/03/10(火) 20:19:15 ID:jbkzEA8p
長いことアクセス規制に巻き込まれて書き込めませんでした。
レスありがとうございます。
とりあえず掴みはOKですかね。?
続きも考えてはいますが何パターンか作ってあるのでどうしようか考え中です。
モデルになった伝説もないこともないですよ↓

http://lovestube.com/up/src/up6554.jpg

オズの魔法使いのパロディ…大洲(おおず)の国の陰陽師とか?w

異世界大洲の国に飛ばされた主人公
式紙と鵺と鎧武者を引き連れ大洲の陰陽師を捜す旅を始める…みたいなw
177 ◆Omi/gSp4qg :2009/03/14(土) 09:58:34 ID:kuhQTczi
ちょっと書いてみた
178大州の国の大陰陽師1 ◆Omi/gSp4qg :2009/03/14(土) 10:00:49 ID:kuhQTczi
「脳みそをよこせぇ、おまえの脳みそを」
 くぐもった声が闇に響く。悲鳴を上げて、旅人と思われる男は逃げていった。
 わら束で作られた、人間の偽物のような何者かは、乾燥した音を立ててあとを追おうと
する。

「人間を襲うなとあれほどいったじゃないか」
 女の声が制止した。提灯を下げる女は町の娘といった装いで、照らされる顔はまだ幼い。

「の、脳みそがほしい」
 わら束がうめくと、少女は提灯を突き出した。
「ひ、火はやめてくれ、おらあいっぺんに燃えてしまう」
 わら屑を地に落とし、人形はあとずさった。

「おまえは脅かすくらいしか芸がないんだから、いっちょ前に人様から何か奪おうなんざ
考えるんじゃないよ」
「めんぼくない」
 人型のわら束は、頭らしい部分を下げた。女は短くため息をつく。
 符をヨリシロに、えらい術師が昔作った式神がこのわら束でできた人形だ。
 その術師はすでに死に、この式神だけがさまよっていた。そこを女が拾ったわけだ。

「の、脳みそがあれば、おらも人間並になれるんだ」「だから、そのために……」
 女が言い掛けたとき、ぎゃあという悲鳴が闇をつん裂いた。
「あっちもはじめやがった。おい、止めに行くよ」

 女のわらじが地面をこする。このわらじは西の巫女がはいていた、いわくつきのわらじだ。
 あとから式神が、わらの体を揺すって歩く。

「心臓をよこせ、おまえの心臓を……」
 鎧武者が、気を失った旅商人に錆びた刀を突き付けている。

「おやめ、鎧武者」
 女とわら束が二人がかりで鎧武者を押さえ付けた。
 一見、鎧武者は恐ろしげに見えるが、中身は空なので意外に軽い。
「ううむ、心の臓さえあれば、拙者の妻も逃げなんだものを」
 何も入ってない兜がうつむいてみせる。
 昔は人間だったのだが、自分が死んだことも気付かずに戦ううち、肉体をなくしなお鎧を
まとって戦いを重ね、ついには空洞の鎧になってしまったのがこの鎧武者だ。
179大州の国の大陰陽師2 ◆Omi/gSp4qg :2009/03/14(土) 10:02:04 ID:kuhQTczi
「だから、こうして旅をして、あたしたちゃあ碧玉の都をさがしているんだろう」
 ここ大州の国、中心にあるという碧玉の都、そこに住む大陰陽師はどんな願いでもかなえる
という。

「人を襲うのはもうやめて、旅を続けよう」
 女がいうと式神、鎧武者はうなずいて、歩きだした。
 提灯に照らされる夜道を行くと、だんだんに霧が濃くなった。
 霧の奥から、何かの鳴き声がきかれる。

「なんだろうねえ」
 提灯を前に女が近づいてみると、茂みの向こうで黒い影が葉を散らしていた。
「おお、恐ろしや、恐ろしや」

「なんだあれは」
 女は小声で連れ二人にきく。
 鎧武者が、洞穴を吹き抜ける風のような声を出した。
「さあ。獣か何かのようだが、何か怯えておるようだ。哀れな」
 助けようとし、鎧武者は茂みをかき分けた。
「おい、何を怯えておる」
 闇に浮かぶのは、猿のような顔、熊の体に虎の足、蛇の尾という何とも恐ろしげな怪物
だった。
「恐ろしや、何かがわしから離れぬのだ。こちらをねろうておる。恐ろしや」

 式神が気付き、わらの腕を向けた。
「おい、おまえ。おまえが恐れておるのは、霧に映ったおまえの影ではないか」
 おお、と獣は猿の目を見開く。
「さようであったか。ああ、恐かった」
 つぎはぎの怪物は安堵して身をふるった。

「なんだ、そんななりして情けない」
 女は呆れて腰に手をやった。
「恥ずかしい、わしはいつもこうなのだ。どうしたら恐怖しない丈夫な肝を持てようか」
 獣は恥じ入って小さくなる。同情した鎧武者が教えてやった。

「それならな、碧玉の都へ行けばよい」
 碧玉の都にいる大陰陽師なら、どんな願いもかなえよう。
 こうきくと怪物は頭を地につけた。
「どうか頼む、わしの臆病を治すため、碧玉の都へ連れていってはくれまいか」

「しょうがないねえ」
 迷惑な気もしたが、他の二人に比べれば多少、生気があるだけましか、とも女は思う。
「おまえはなんと呼べばいいんだ? 猿か熊か」
「わしは鵺と呼ばれておる」
「じゃあ、行こうか、鵺」

 女は故郷に帰るため、他の連中は求める物を得るため、大州の国にて碧玉の都をめざす旅は続く。
180 ◆Omi/gSp4qg :2009/03/14(土) 10:03:32 ID:kuhQTczi
女の名前が思いつかんかった
続くと書いておいて続きはない
181創る名無しに見る名無し:2009/03/14(土) 18:14:14 ID:BWG6nGfX
大州と書いておずと読むのですね、わかります
182創る名無しに見る名無し:2009/03/16(月) 03:50:30 ID:BP+CUwnA
和風オズの魔法使いかw
これはいいなw
183創る名無しに見る名無し:2009/03/19(木) 12:01:22 ID:/F70cmTv
蟲師的な雰囲気を目指して、薬草を扱う青年の話を書いたことがある。
青年一人だと華がないので、青年の家に居候する少女を付け足してみた。
青年は無口な感じだったので、少女は躁病気味にしてみた。
更に少女はとある病で体が成長しないという設定も作った。
で、蟲師的に、毎回薬草関係で困ってる人たちと会って、彼らの色々な人生の局面に立ち会うって感じの話にした。

気付いたらそれなんてブラックジャ(ry
本当にありが(ry
184創る名無しに見る名無し:2009/04/03(金) 13:00:36 ID:O/MWZBOD
age
185創る名無しに見る名無し:2009/04/25(土) 19:55:18 ID:8xszEGjO
>>183
だめじゃんww

途中でピノコ出てきたしw
186創る名無しに見る名無し:2009/04/25(土) 19:58:32 ID:8xszEGjO
蟲師って、蟲に関わった人達の中に、主人公がおまけ的に登場するって感じだと思う。
187 ◆91wbDksrrE :2009/05/28(木) 16:10:31 ID:ecVRIpfW
「一度怪異に魅入られた者は、そこから抜け出そうと、再び魅入られる事が
 多くなると聞きます」
「では、これもまた怪異の仕業である、と?」
「そう考えるほかなかろうかと。私にわけがわからぬのですから」
 当代一の良医と称された男にそう言われてしまえば、確かにそう考える
以外ないと、父親にも思えた。
 娘は熱を持っていた。時折くしゃみをし、それだけならば風邪(ふうじゃ)による
病かと思えたが、それにしては瞳の腫れが尋常ではない。その、まるでうさぎの
ように赤く染まった瞳からは、涙をとめどなく流し、拭いても拭いてもきりがない
ありさまであった。また、鼻からは、涙と同じと思える程の水が零れ落ち、こちら
も拭いてもきりがなく、元来の美貌が見る影もない。
「このような病、私の知識にはございませぬ」
 故に、物の怪に憑かれているのではないか、と医者は言った。
 水を因果とする物の怪に憑かれた結果、目鼻から溢れんばかりの水を垂れ
流す羽目に陥っているのではないか、と。
「確かに、娘は水妖に誑かされた事がございます。その水妖は、打ち倒され、
 ほうほうの体で山へと逃げ帰ったのですが……」
「ならば、その意趣を返しに、今憑いているのではありませぬか」
「……そうやもしれませぬ」
 結局、医者は陰陽の道に通じる者への紹介を書状にしたため、屋敷を後にした。
188 ◆91wbDksrrE :2009/05/28(木) 16:10:42 ID:ecVRIpfW
 その晩のことである。
「紫姫(ゆかりひめ)、紫姫」
 自らの名を呼ぶ声を聞き、眠っていた娘はその目を開いた。
 昼間よりも熱は下がり、涙や鼻も収まっている事にホッと胸を撫で下ろしながら、
彼女は声の元を探し、首を巡らせた。
「こっちだよ、ゆかり姫。おいらだよ、おいら」
 見れば、開け放たれた縁側の戸から、一匹の河童が顔を覗かせていた。
「あなた様は……」
 その河童に、彼女は見覚えがあった。数年前のことだが、屋敷に押し込め
られて生き、友と呼べる存在を持たなかった彼女を、たまたま山から降りていた
とある河童が見かけ、哀れみ、自らの住む山へと連れ出した事があった。
 その時の河童が、今また彼女の目の前に姿を現していた。
「その折は、どうもお世話に……」
「礼なんかいいって。おいらも楽しかったんだから」
「でも、あの時は何も言えず終いで……」
 結局、数日間を河童と共に過ごしただけで、彼女は発見され、無理やりに
屋敷へと連れ戻される事となり、その際に河童とは別れたきりだったのだ。
「構やしないってば。それよりも、今日は、何か紫姫が困ってるって聞いてさ」
 きょろきょろと、辺りを見回す河童。辺りに人の気配がないのと確認すると、
ぺったんぺったんと足音をさせながら、彼女の床へと近づいてくる。
「涙と鼻水が止まらないんだって?」
「……えぇ。そうなのです。でも、どこでそれを……?」
「おいらたちにゃおいらたちの情報網ってのがあるのさ」
「はぁ……」
 河童は、にこりと笑うと、手にしていた袋を差し出した。
「これ、紫蘇の葉だ。毎日これ食べたら、きっと治るから」
「え……治るとは……涙と、鼻の水が、ですか?」
「そう。時々、おいら達の里でもいるんだよ。何か、花の粉が原因らしい。でも、
 これずっと食べてたら、いつの間にか治っちまうんだ」
「花の粉、ですか……」
「杉の木の花が出す粉が、風邪の病を酷くしたような病気を起こすんだ」
 そういえば、先日河童のいる山とは違う山に、父の物見遊山につれられて
行った事を思い出した。杉の木がたくさん生えた、立派な山だったが……。
「なるほどねぇ。多分、そこでいっぱい花の粉を吸っちゃったんだろうな」
 河童は、得心いったとばかりに頷いた。
「……これを、食べればよろしいのですか?」
 手渡された紫蘇の葉を目の前にかざしながら、彼女は不思議そうに首を傾げた。
「そうそう。白飯に刻んだの混ぜて、ちょっと塩ふって食べたら美味いぜ!」
「まあ、それはおいしそうですね」
 その時だった。
「おい、紫。誰かいるのか?」
 二人の会話を聞きつけたか、足音が近づいてくる。
「やばっ!? んじゃ、おいら帰るから!」
 慌てて、河童は部屋を後にしようとした。だが、彼女はその背に声をかける。
「……また、会えますか?」
 答える言葉はなかったが、河童は振り返ることなく、手をあげる事で答えとした。

 結局、紫姫の体調は、それから程なくして快方に至った。
 その快方に至る切欠となった紫の葉を、一体彼女がどこから手に入れたのか。
彼女自身は、その事を父に問われても、笑って首を横に振るばかりだった。
 その後、その時彼女が好んで食べた、紫蘇の葉を刻んであえたご飯は、彼女の
名にちなんで「紫(ゆかり)ご飯」と呼ばれるようになった。
 そして、河童と彼女がその後どうなったかは――誰も知らない――。
189 ◆91wbDksrrE :2009/05/28(木) 16:11:59 ID:ecVRIpfW
ここまで投下です。

何か思いついたのでざっと書いてみました。
作中で言われてる事は色々とフィクションです。
実在の紫蘇、紫ご飯、日本中世史とは関係ありませんので、
ご注意ください。
190創る名無しに見る名無し:2009/05/30(土) 06:31:32 ID:/TWGW0jJ
読んだよー
和風のいい雰囲気やね
怪奇物かと思ったらおいwて感じだな
意表つかれたわ
191創る名無しに見る名無し:2009/06/20(土) 06:16:22 ID:mBx3HNUw
質問なんですが和装束のキャラが豊富な作家さんって誰がいます?自分の絵の参考にしたいので。
自分としてはるろうに剣心とかが無難かなと思うんですが、他にいい作家さん知ってたら教えて欲しいです。
192創る名無しに見る名無し:2009/06/20(土) 11:55:57 ID:Z6XI1EgV
人に訊くより自分で調べた方がやる気も出るし、納得のいく資料が見つかるよ。
193創る名無しに見る名無し:2009/06/20(土) 18:31:48 ID:ZcXFuR7q
めぼしいもん見っけるために他人のオススメをリサーチすんのは「自分で探す」内に入るだろう。
俺はオススメ思い浮かばんけど。
194創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 05:34:24 ID:FsXM5nah
結界師とかバガボンドとか?
195創る名無しに見る名無し:2009/07/12(日) 20:23:07 ID:liw0Ii2A
作家じゃないといけないの?
漫画家で和服をきちんと描けてる人なんて皆無に等しいし
実物を研究するのが基本だと思うよ

というわけで俺の好きな写真集を一つ
ttp://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4473031918/nougakunofuti-22/ref=nosim/

大きい本屋で立ち読みしてみ
196創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 12:57:50 ID:1IiQxu0U
虫が鳴いていた
秋の夜風に乗り枯れ尾花が揺れる
都の界隈

朧月が微弱に照らす界隈は誰一人歩かず静寂に包まれるのみ
そこに蠢く巨大な黒い影が一つ
ムシャムシャというくぐもった音を響かせるそれは、都に置いて民から畏れられる異形の存在であった
「其処までだ怪物」
砂利を踏みしめる音と共に一人の若者が現れる
青みがかった黒い髪を短く切った彼は口を真一文字に結び怪物に対峙する
彼の女郎のように美しい唇と同じように真一文字に備えられた腰元の刀
その柄を右手がぎりぎりと握りしめる
すると、骸を貪る下劣な音が止む。
淀んだ黄色い瞳が月光に反射し
巨大な狗の形をした其れは吠恍をあげる
今宵は生者に肉にありつこう

そうとでも言わんばかりに垂れ流される涎
その臭気が男の鼻腔を刺激する

「わかっているわね悠仁」
すると、男の背から少女が一人、影のように姿を現す
艶めくほどの輝きを備えた黒い髪が夜風に揺れる
白い着物を着た少女に生の温もりは感じられなかった
「貴方の刀で鬼神に致命傷を与えられない」
「わかってる。鬼神は姫神でしか倒せない」
「それならいいわ」
少女は男の前に立つと手を翳す
空間に現れる刀
少女は其れを手に取ると再度吠恍をあげる黒い巨大な狗の鬼神目掛けて駆け出した
197創る名無しに見る名無し:2009/10/11(日) 23:14:21 ID:mTyr9+WS
何これすげえおもしろいんだけど
198創る名無しに見る名無し:2009/10/14(水) 20:21:57 ID:2GHn4qXl
いいねえ夢想灯籠を連想した
しかし世間は空前の和風バトル漫画ブームだというのに
このスレの過疎っぷりは泣ける
俺も大好きなジャンルなんだけどなあ
199創る名無しに見る名無し:2009/10/16(金) 04:10:57 ID:wvDg0Ad9
思いつきで書いてみた姫神だが
平安的なふいんき好きだから設定勉強してみるわ
200創る名無しに見る名無し:2009/10/19(月) 21:19:30 ID:pKkej9Lf
もっとやれっていうかやってください
201創る名無しに見る名無し:2009/10/23(金) 00:10:56 ID:MPK1Nhvu
【和物】和のファッション パート5 【和柄】
http://dubai.2ch.net/test/read.cgi/fashion/1249931725/
参考になる
202創る名無しに見る名無し:2009/11/08(日) 02:42:18 ID:6aeUv1wb
>>196
伝奇ってやつですな
続きが気になる
203創る名無しに見る名無し:2009/12/11(金) 20:17:16 ID:/0tfMtEd
質問何ですが、
ここのスレって何レスくらい使用可能でしょうか・・・?
204創る名無しに見る名無し:2009/12/11(金) 21:13:22 ID:EzEX35Tk
796レス、もしくは414KBだね
205創る名無しに見る名無し:2010/03/19(金) 14:50:46 ID:GqX5AR+D
良スレ
206創る名無しに見る名無し
懐かしい