見通しの良い一本道に園の姿は無く、ただ『逆さ地蔵』だけが秋の高見山を眺めていた。
思わず柚季は手にしたプリクラに目を落とす。
フレームの中で、園は仲睦まじく柚季に寄り添い、すました笑顔で柚季を見つめていた。
END
追加設定
市立浜中学校
市内の中学校。生徒の素行不良が問題化している。 通称『浜中』
『逆さ地蔵』
高杜台の手前にある古い地蔵。工事による移転後、勝手に向きを変えるという怪現象を起こした。
「…ま、あの辺、遺跡も多いしね。その、開発開発じゃ、地蔵さんも、そっぽを向く、と。」
国会後の首相談話
『めいぷる』
高杜モールにあるファンシーショップ
投下終了
>>625 乙でした。
…まさかこっちのスレでジョン・スミスの名を見るとはww
伝奇物書いてみたので投下します。
序章『うたごえ』
がたがたと音を立て、列車がトンネルの中を走っている。深夜に近い時間帯のため、乗客は少ない。
ボックス席が並ぶその車両にある人影は、たった二つだけだった。
「素敵な月夜ですね。素敵過ぎて、血が疼きそうです」
窓際に座るスーツ姿の男が眼鏡を掛け直し、乗降口に背を預ける和服の女に話しかける。
闇色の髪を結い上げたその女はしかし、目を閉ざしたままで答えない。
「狸寝入りは止めてくださいよ? これでも寂しがりでしてね。
お相手をしてを頂けないと寂しくて死んでしまいます」
端正な顔を歪めておどける男を、女は鋭い目を薄く開けて一瞥する。
「ならば、もっと興味深い話をしてもらいたいな」
月明かりを照り返す妖刀のような視線を向けられても、男は態度を崩さない。
飄々とした様子で肩を竦めると、含み笑いを一層深くした。
「そうですねぇ。では、不老不死の霊薬についてお話しましょうか。
僕らが盛り上がれる、数少ないお話だと思いますし」
女の眉が、ぴくりと持ち上がる。一瞬の挙動だったが、男は見逃さない。満足げに頷きながら、続ける。
「一口で無病息災、二口で永遠の若さを得て、三口で死すら超越する、奇跡の薬。
医学の範疇では語れない、魔法の塊」
「我々が向かう先にそれがあるという噂は聞いている。
だからこそ、私は貴方などと行動を共にしているのだ。
もっと具体的に話して貰いたい。回りくどい男は嫌いだ」
女は、不愉快そうに男を睨みつける。それでも、男は面白そうにくつくつと嗤う。
「不思議なお薬とは、一体どんなものだと思われますか? 薬草でしょうか? 液状でしょうか?
もしかしたらカプセルに詰め込まれた、高度な科学技術の結晶かもしれませんね?」
「回りくどい男は嫌いと言ったはずだがな」
腕を組む女から、苛立ちが立ち昇る。それでも男の話に耳を傾けているのは、彼女が求めて止まないもの――不老不死の霊薬の情報を、男が握っているせいだ。
「美しい女性から嫌われるのは本意ではありませんし、早速答えの発表としますか。
実は、先ほど挙げた例はすべて外れです。正答は――」
列車が、トンネルを抜ける。開けた窓の外に、夜空を映した真っ暗な海が広がった。
気味の悪い黒の海を一瞥し、男は大仰に言い放つ。
「――人魚の肉、ですよ」
◆
穏やかな潮騒が暗い浜辺を震わせる。浜辺を吹き抜ける風は湿っぽく、潮の香りを孕んでいた。
両手を広げてその風を浴びる、一人の少女がいた。
ポニーテールにまとめた黒髪がなびき、スカートがはためく。
九月に入っても、まだ残暑は厳しく昼間は暑い。だが、日が落ちた浜辺は気温が低く、夏服では肌寒さを感じる。
だというのに、高杜高校の制服を着た彼女――白山瑞希は、冷たい海風を全身で受け止めていた。
瑞希は、夜の海が好きだった。
真っ黒で先が見えない海は、何処までも広がっていそうな気がするからだ。
打ち寄せる波に身を委ねれば、何処か知らない場所へ、何があるか分からない場所へ連れ去ってくれそうに思える。
昼間の海とは違って、黒々として先が見えない不気味さがむしろ、かえって興味の対象となる。
決して、現状の生活に不満があるわけではない。高校生になってアルバイトも許されるようになったし、去年とは出来ることが増えたのは事実だ。
だが、高杜学園中等部から、同学園の高等部に上がっただけということもあり、生活にそれほど大きな変化はなかった。
代わり映えのしない日常は、ずっと続いている。その現実に瑞希は、退屈を覚えていた。
波音に耳を傾けながら、思う。
――真っ黒な海の向こうに、あたしたちの知らない何かがあったら素敵なのに。
子供じみた夢想を抱く。しかし、そんなことはあり得ないと断じられるくらいには、彼女は大人だった。
寄せては返す、海の鳴き声。まるで唄のようにも聞こえる、優しい潮騒。それに浸りたくなって、耳を澄ます。
そして、気付く。
――違う。唄のような、じゃない。
波音と合わせて、透き通った唄声そのものが響いていた。
瑞希は、目を閉ざす。
余分な感覚を遮断し、聴覚だけに意識を集中させる。風鳴りを掻き分け、波音と一体化した声を掬いあげるために。
海の唄声だと言われても疑えないほどに静かな声音は、美しく透明感がある。
童謡に似た民族的な旋律は、初めて聴く音楽だった。外国語で綴られた歌詞なのか、何を言っているのか分からない。
だというのに。
その旋律に込められた想いが、胸に沁みこんでくる。乾いた砂に水が浸透するように、唄が胸を満たしていく。
切なさや、哀愁や、郷愁で作られた唄だと、すぐに分かった。
瑞希の足が、自然に動く。覚束ない足取りで、彼女は唄声の聞こえる方へ歩いていく。
酷く綺麗で、儚さを感じさせる唄声へと、近づいていく。
砂を踏む足が頼りなく思える。何故か強く胸が締め付けられて、涙が溢れそうだった。
濡れそうになる視界の先、ごつごつした岩に囲まれた磯が見える。
瑞希の歩みが、止まった。
大きな岩に腰掛けて素足を磯に浸す少女に、瑞希の視線は釘付けになっていた。
少し青みがかったストレートロングの黒髪、病的なほどに真っ白い肌、強風が吹けば簡単に手折れそうなくらいに細い身体。
青白い月光に照らされた彼女は神秘的で、別世界の住人だと言われても違和感のない雰囲気を醸し出していた。
純白のワンピースに身を包んだ少女は、真っ直ぐに海を見て唄っている。
潮騒と同調し、共に唄っている。
その神秘的な光景に、瑞希は息を呑んだ。波に攫われたわけでもないのに、自分の知らない世界へ迷い込んだような錯覚に捉われる。
呆然と立ち尽くし、それでも聴覚だけは鋭敏さを保とうと努める。優しく寂しい唄を、一フレーズたりとも聞き逃したくはなかった。
だけどその願いは、いともあっさりと妨害されてしまう。
遠くから列車の音が響いたとき、透明な唄声が止まったからだ。
瞬間、一気に現実感が戻ってくる。足裏で、砂の感触がしっかりと感じられる。
迷い込んだ世界は、欠片一つ残さずに消失していた。
それでも、あの感覚が夢でも幻でもないと瑞希は確信している。
なぜなら今も、あの神秘的な少女は、岩に腰を下ろしているのだ。
その横顔が、動く。
澄み切った瞳が、ゆっくりと、瑞希へと向けられた。
――続く。
短いですが以上です。
631 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 16:32:30 ID:NgzCJW2d
乙です、人魚伝説来ましたね
海からの呼び声、血肉を交わす契り、
高杜と海を分断するようにそびえる高見山。
死ねずに彷徨う高杜の住人、ホラーですな。
皆さん投下乙です。
>>『杜を駆けて』
小学生の仄かな恋心に『園』ちゃんの存在がエッセンスとなっていて気持ち良く爽やかになれました。
こちらのじじょうなのですが遠い昔を思い出してしまい、恥ずかしくなってしまいました。
投下乙です。GJでした。
>>海の向こう側
足元から這い上がって来るように戦々恐々としてしまいました。
一文一文に詰め込まれた情報量が程良くて、作品にのめり込んでしまいました。
描写がややくどいような印象を受けましたが、繊細な感じで気持ち良く読めました。
投下乙です。GJでした。
重ね重ね職人の皆さんGJです。
次回の投下をお待ちしております。
平和な高杜に次々と黒い気配が…!
続きを期待しています
ところで学園ってのは、体育祭とか文化祭は全校合同でやるんだろうか?
やはり各等科ごとに別れるのかな?そこら辺がよくわからん
すげー!最近見ないうちに色んな作品が投下されてる!
世界観が目に見えて広がるのってヤッパ良いなぁ。
って訳で遅くなりましたが更新です
6話
慧に腕を引っ張られながら、隆也は懐かしの我が家に帰ってきた。1年以来に訪れた家に、何一つ変わった様子は無い。
リビングもキッチンも、ベッドルームも、誠二の為にセッティングした2階の子供部屋も……。
「ホントに代わり映えしないでしょー。誠二にも言って誠心誠意を込めて、キレイにしてるんだから」
部屋を巡る隆也に、慧はウインクをしてそう言った。隆也は無性に嬉しいが、表情には出さず
「……そうか。ありがとな」
とだけ返した。慧は隆也の言葉に、小さく疑問符を浮かべたが、すぐに打ち消した。
大体見て回り、隆也はリビングの大きなソファーに座った。慧は鼻歌を刻みながら、スーパーの袋を持ってリビングの向こうのキッチンへと向かう。
視線だけで慧を見送った隆也は、ふっと気が抜け、思わず溜息が出る。無論肉体的な疲れから来る溜息であるが。
そう言えば1年前は、ここで誠二と慧と何を話していたんだろうな。天井の電球を眺めながら、ぼんやりと隆也は考える。
今後の生活の事か、また会えたら何処に行こうか、誠二に一人でも頑張れるようにと活を入れたか……。
どうにも思い出せない。確か結構重要な事だった気がするのだが……無意識に右手で頭を掻く。
さっきの高杜モールの時もそうだったが、何か輪郭がはっきりとしない記憶が浮かんでは、タバコの煙のように消えていく。
それが年を取ったせいであると、隆也はどうも思えない。思い出すきっかけさえあればいいのだが。
「あ、そうだ。隆也君さ、誠二を迎えに行ってよ。もうそろそろ帰ってくる頃だからさ」
キッチンから顔を出した慧が、ぼうっとしていた隆也にそう言った。
一息ついたは良いが、特にすることも無いな。そう思い、慧の言葉に隆也は頷くと腰を上げた。
確か高杜学園から家までそう遠くは無い。充分歩いていける距離だな、ともう一度ガイドブックを読み直し、隆也は再度了承する。
玄関でエプロンを身に纏った慧が、家を出ようとする隆也を引き止めた。何か伝えたい事があるらしい
「今日の夕食はステーキだって伝えてね。それと……」
慧はそこで言葉を区切ると、口元をにやりと歪ませ、悪戯っ気のある笑顔を浮かべた
「彼女にもよろしくって」
高杜学園までの道のりはそれほど辛くは無かった。高見山や高杜モールへの強制ウォーキングに比べては、だが。
久々に訪れたとは言え、学園の大きさに隆也は目を見張った。流石に小中高、及び大学の教育課程まで兼ねている事はある。
前に読んだ入学パンフレットで全校生徒の数がとんでもなかった気がするが、明確な人数は思い出せない。
さっきからホントに……隆也は自分の記憶力の無さに絶望した。と言っても特にどうこうする訳でも無いが。
ぞろぞろと、校門からランドセルを背負った初等部の生徒達が出てくる。隆也は遠目から、誠二の姿を確認しようとする。
頭の中では、どう会話を切り出そうかと言う事で悩んでいた。慧の時は自然に切り出せたものの、誠二とは1年前にどんな話をしていたのか思い出せないのだ。
懐に忍んだ、お土産と称した高見神社名物の団子を持つ。微妙に掌に汗をかく。
しかしなかなか、誠二の姿が見えない。もうそろそろ生徒達の姿がまばらになってきたが……。
その時、見覚えのある髪型が、隆也の目に付いた。自分によく似た、地味な短髪。
他の生徒達に比べて、妙に陰りがある地味な存在感に、隆也は人目で気づく。流石に親子ではある。
……迷ってはいかんか。父親らしく、できるだけ威厳を保って話し掛けよう。
隆也はそう決断し、誠二の元へと足を進めた……が、ふっと足を止める
誠二が自分より1、2cm背の高いベリーショートの髪型の少女と楽しそう……ではないが、何か会話している。
誠二は俯いては微笑み、たまに視線を泳がしてみたりと、落ち着きがない。少女は終始、屈託のない笑顔で話し続けている。
と、その少女が誠二から数歩離れると、振り向いて手を振り、隆也の横を元気に走って通り過ぎた。
誠二と隆也の視線が合う。時間が止まったかのような沈黙が流れ、隆也がついに口火を切る
「よ・・…・よう、元気だったか」
隆也のどこかぎこちない言葉に、誠二は視線を軽く宙に向けると、隆也に戻して、言った
「うん……そこそこ。・・・・・・久しぶり」
続
投下終了です
短くて申し訳ない
>>団子と嘘と子狐
投下乙です。
>>団子と嘘と子キツネ
投下乙です。
>>団子と嘘と子キツネ
投下乙でした。GJです
解りやすい説明が良いと思います。
少々物足りませんが、それが次回への期待を膨らませてくれました。
>>635 ウワーいい所で…
こういう年長組の話も、どんどん増えてほしい。GJでした!!
『県立高杜南工業高校』。通称『南工』。
市内で最も偏差値が低く、最もクレイジーでファンタスティックなヤンキーが集うイカした学校。
花も桜の咲き乱れる南工の春はサバイバルだ。
市内から頭は悪いが腕に自慢のあるバカタレどもが集まって新入生となり、弱肉強食のバトルが繰り広げられる。
誰が天辺を取るのか、誰が一番強いのか、誰が学年をシメるのか。
一年坊主が主役のこのイベントは、誰が名付けたか一年戦争と呼ばれる。
舞散る桜を血で染めて新一年の最強を決める一年戦争は、もはや春の風物詩、季語として南工に定着しているのである。
◆
「おう、木桐よぅ……テメーみてーなチンコロが俺に勝てるとでも思ってんのか?」
「ああ!? 誰に向かって口聞いてんだコノヤロウ!? 一中シメてただけでデカイ顔すんじゃねーゾ!? コラァ!!」
一年B組で一触即発の剣呑な雰囲気になっているのは中学時代に高杜一中をシメていた斎藤留蔵、通称トメと、
北中を根城に北地区一帯で覇を唱えていた木桐宣史だ。
他の野郎どもは二人の実力者が同じクラスであった自分を恨みながら、回りで囃し立て、或いは固唾を飲んで二人のやり取りを見守っている。
「よし、俺は木桐に五百円だ!」
「ボケッ!斉藤はマジ強えゾ!? 俺は斉藤に千円!」
「あいよー、金賭ける奴がいるなら俺が胴を張るぜ!?」
ケンカを見るどころかそれを商売にするヤツまでいる。
「ギャラリーに人気があるなぁ、斎藤ちゃんよぅ。どうした、お利口ちゃんのお前だったら俺に賭けるよな?」
木桐は嘲笑う。
「ハァ? テメー脳味噌腐ってんだろ? 学校よりも病院行った方がいいぜ、ボクゥ!?」
先手必勝とトメは椅子の足を握りしめて振りかぶる。狙うは木桐のドタマである。
「クソがっ! 道具に頼ってんじゃねーゾ!?」
木桐は隙だらけのトメの顔面に気合いの入った拳を叩き込んだ。
「ニ゛ゴグブッ!」
並んだ机をひっくり返しながらトメは壁迄ぶっ飛ぶ。
「道具に使わなきゃ勝てね―テメーは終わってんだよ、あぁ!?」
更に壁にめり込めと言わんばかりにワンツーをボディに叩き込み、前のめりになったトメの後頭部に肘を打ち込む。
「ドァガァ!?」
トドメに床に沈んだトメに更に蹴りをぶち込むと、木桐は満足そうに笑い、ギャラリーに宣言した。
「B組のアタマァ……俺で文句ねーな?」
狂乱とも言うべき暴れっぷりに、ギャラリーは沈黙する。が、一人だけ納得できねーヤツがいた。
「……オマエ゛ッ! ゼッデー……ゴロズ!!」
トメはムックリと幽鬼のように起き上がる。その迫力は、真夜中にジェイソンに出会った時のような恐怖を感じさせた。
血だらけになりながら、焦点が定まらない目を血張らせて木桐にガンを飛ばず。
「出た! トメの殴られれば殴られるほど強くなるSMだッ!」
ギャラリーの一人が奇声を上げる。
木桐は血ダルマに沈めた相手のタフさに呆れながら不敵に笑う。
殺人フルコースメニューを食らわせて立ち上がった奴はそう数えるほどいない。
這い上がってくる恐怖。そして、強い奴と戦える歓喜が沸き起こってくる。
が、トメのマッハの左拳一撃で意識を刈り取られた。
唸りを立てて風すらも巻き込む左フックをコメカミに食らい、燃料の切れたロボットみたいにブッ倒れた。
ワンパンチ。技巧の欠片もない純粋な力任せの一撃。その圧倒的な力の渦に呑まれて木桐は完全に沈黙、沈んだ。
白目を向き、ピクピクと痙攣する木桐に、トメは学ランを脱いで被せる。
「俺がぁ、一等強ぇ。文句がある奴ぁ、前ぃに出ろぃ」
――戦慄。圧倒的な恐怖の木桐の前に、もはや誰にも不満はない。
B組の天辺、斎藤留蔵の誕生である。
が、誰一人喜ぶものはいない。
こうまで力を見せつけられると、やんちゃなバカタレどもには絶望にも似た恐怖しか存在しない。
B組の面々はこれから始まる長い一年間は平和に過ごせないと、ヤンキー独自の嗅覚で悟ったのだ。
「俺がぁ、一等強ぇ。誰にも文句は言わせねー」
鬼気迫るトメのがなり声がB組の教室を渇いた響きで制圧した。
――続く。
設定
『県立高杜南工業高校』
市の南部にある市内一偏差値が低い高校。血の気が多く気性が激しい生徒揃いで有名。
【斎藤留蔵(さいとうとめぞう)】
通称狂犬トメ。ドレッドヘアで左耳が半分千切れている。
マッハの左フックが得意技
【木桐宣史(きどうのりふみ)】
通称カミソリ木桐。アフロヘアで強面。相当の切れ者。
投下乙。
誰か早急に熱血武闘派教師を。
あとスポコン物があるとほとんどのジャンルが出揃うね
踏み台昇降部とか立位体前屈部とか
>>641-643 続き…どーしたよ、一年坊…!?
期待してんぞ!?
__,,,,.. --_─_一_-_-、-、、,,,,__
,r'´-_-_‐_‐_‐_‐_-_-、`-、ミ`ヽ ヾ`ヽ、
/,r',.-_‐_‐_‐_‐_-_-、ヾ ヽ ヽ丶、`ヾ 、ヽ
/(.'´_-_‐_‐_‐_-_-、ヾヽヾ ))) ), )) ) )),)))ヘ
l(i,i'´⌒ヾトヽ、ヾ ヾ ヾ ))_,ィ,'イ」〃川 jノjノjノ}
!iゝ⌒))}!ヾヘヽ ),ィ_'イ」〃'″ フ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;l
ヾ、ニ,,.ノノ〃ィ":::::::::::::: /;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;!
 ̄`i7 ´ :::;:::、:::. 〈;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;!
〈‐─一''''バ `'''ー─‐ ヾ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;l
}、_,.-。-、 :::: ,.-。‐-、_, ヾ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;!
!` ̄ ̄´ノ ` ̄ ̄´ 丁j`l;;;;;;;;;;l
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l 'r二ニヽ 八;;;;;;;;;;;;;〈
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ヽ / ゙!゙!゙!゙!゙!゙!
ヽ、 ∠____゙!゙!゙!゙!゙!゙!
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647 :
テンプレ案:2008/09/24(水) 21:32:32 ID:v5oMYh+4
>>647 乙です。
ばっちりじゃないでしょうか。
お、もう次スレ?
650 :
普通の日常:2008/09/25(木) 19:05:02 ID:lL0urUWi
投下します、妖怪風味はいります
651 :
普通の日常:2008/09/25(木) 19:05:50 ID:lL0urUWi
中央市街にある古風なたたずまいが立ち並ぶ住宅街、早朝より『疋田新陰流 小金井道場』からは、
床板を踏み締め、竹刀がかちあう軽快な音が鳴り響いた、道場内では大柄な男と二回りほど小さな少女が
正眼に構えたままにらみ合い、互いに相手の出方をうかがっている。
「ほら、どうした桜、にらめっこじゃ敵は倒せないぞ?」
「リャッー!!」
「おっと?」
隙をみて繰り出したはずの渾身の突きを男は悠々と避ける。
少女が持った竹刀に自らの竹刀に絡ませ、勢いよく跳ね上げると、弾かれた少女の竹刀が宙を舞った。
試合続行不可能となった少女はむくれた顔を見せると、開始位置に戻り一礼したのちに、兄に食ってかかる。
「豊お兄様、今の負け方では合点がいきません
もう一手お手合わせ願います!」
「おいおい、もう三戦目だぞ、と、とりあえずメシにしよう」
「むぅ……」
「はは、そうむくれるなって……お、守!? 帰ったか?」
道場へ戻った弟が目に入ると、助け舟とばかりにぼりぼりと頭を掻きながら守のそばへと近付く。
三人は離れの道場から母家へと向かうと、居間のちゃぶ台で食卓を囲み、割烹着を羽織った桜がご飯をおひつに移すと
いそいそと食事の準備を始める。
「で、どうだった守、首尾の方は?」
「あと少しというところで取り逃がしました、くだんの松田さんが突然現れたもので……」
「素人の不意打ちでやられるほど、ヤワでもないだろう?」
「それが……いきなり銃を向けられたものですから」
その言葉を聞いた豊と桜が呆気に取られた表情を見せると、守は苦笑いして答えた。
並べられた配膳に手を合わせると皆で食事を始める、兄の豊は楊枝でたくあんをぷすりと突き刺し
ひょいひょいと口の中に投げ込みながら、弟の守に向かい言葉を続ける。
「銃か、まぁ相性が悪かったな、俺が手伝うか?」
「僕は藤木さんの捜索を引き続き行うつもりです、
松田さんは底の見えない人ですが、完全な悪人と言うわけではないと思いますし」
「敵を信じるなんて、ちぃ兄様は相変わらず呑気ね」
「うぅ、ごめん……」
「学園長には俺の方から報告しておくか、道場の門下生にも声をかけて行方を追わせよう
最近は何かと物騒だし、周りも探りを入れてきているようだからな」
手早く食事を済ませた守は、よろけながらも自分の部屋へと戻ると
そのまま引いてあった布団の上へと倒れこむ、睡魔に意識を引き剥がされると、そのままぐったりと眠りについた。
652 :
普通の日常:2008/09/25(木) 19:06:46 ID:lL0urUWi
瞼の裏に焼きつく光で少女は眠りから目覚める、昨夜起きた出来事を半ばほど思い出すと腹をさすると、
まだ若干痛みを感じた、周囲を見渡すと窓からは朝日が差し込こみ、どうやらどこかのアパートの一室のいるようだ。
ふと隣の部屋から人の気配を察知し、そろそろと足を向けると、五郎がパスタを口にかきこみながら資料を読んでいた。
「やぁ、おはよっさん」
「あんた、なぜここに? というかここはどこなの?」
「家主が亡くなって空き家になってるアパートだよ、隠れ家として使わせてもらってる
まぁ、簡単に言うと住居侵入罪及び不法占拠だな」
「あの男は?」
「君をさらって逃げる時にまいたよ、あぁ、たらこパトゥテァはいかがかな?」
こじんまりとしたテーブルの上にカセットコンロが置かれ、ぐつぐつとパスタが煮えている。
藤木はあからさまに不振がる表情を隠さずその場に座ると、五郎に話しかける。
「これであんたに助けてもらうのは二度目って訳ね、何が目的なの?」
「藤木志鶴 高杜高等部三年 成績優秀にて素行良好……だが
高杜学園の担任教諭一人と関係を持ち、ついには妊娠、打ち明けた教諭に勧められ堕胎、
その後、不仲となり別離……自分を捨てた男に対し復讐を計画する」
「……!? なんのつもり!!」
「この資料に書いてあるのを読んだだけだよ、ともかく殺害を計画する際に身につけた、その能力。
俺が知りたいのはその能力の出所、それに加え君に能力を与えた人物の目的、この二点だ
あの教諭も職を退いて公的な裁きを受けたことだし、君の復讐心も気が済んだだろ?」
五郎の顔を睨みつけていた志鶴の体から燐粉が吹き上がると、五郎の周囲を漂い始める、
しかし、しばらく思い直すような仕草を浮かべ、燐粉を消散させると五郎に対して交換条件を持ちかける。
「私にこの能力が備わったのは、彼女に出会ってからよ」
「彼女? その辺を飛ばされるとわからないんだが?」
「名前は知らないのよ、まだまともに喋れないほど小さな子供なの、
当然、私にこんな能力をくれた理由もわからない……これで満足?」
「その子に会えるかな?」
「いいわよあわせてあげる、その代わり交換条件、この隠れ家を私に頂戴、
どうせ、ここ以外の場所にもあちこち入り込んでるんでしょ?」
「まぁ、いいけど、犯罪はよくないと思うよ?」
五郎の発言を嘲るように一笑すると、志鶴の案内でアパートを抜け出し二人は電車に乗り込む、
周囲の奇異の目をかいくぐりながらも二人は高杜の郊外、高見山の山道付近を登り始める。
「まさかとはおもうけど、ハイキングに来たわけじゃないよね?」
「すぐそこよ、ほら、あそこに見えてきた」
志鶴が別荘のようにも見える古びた邸宅を指さすと、きょろきょろと回りを見渡しながら誰かを探している、
五郎がミネラルウォーターに口をつけ飲みながら、玄関口を覗き込むと、小さな足音がパタパタと聞こえてきた。
不意に1・2歳児くらいの女の子がひょこりとドア越しに顔を出すと五郎と目が合い、慌てて姿を隠す。
志鶴は五郎を押しのけ、玄関から中に入ると姿を見せない子供に優しく語り掛けた。
653 :
普通の日常:2008/09/25(木) 19:07:30 ID:lL0urUWi
「大丈夫よ凛ちゃん、ママのお友達だから」
「まま?」
少女が再び顔を出し、志鶴の姿を見つけるとぱぁっと笑顔を浮かべ志鶴の脚にしがみつく、
困惑した表情を浮かべる五郎を他所に、抱っこをしながらなにやら話し込んでいる。
「わんわきた」
「わんわんきたの? 仲良くしてあげた?」
「うん!」
(こりゃ、話をするどころじゃないな……)
五郎は軽く溜め息をつくと、子供の姿を観察する、白い肌が淡く発光するように浮かび上がり
生気のない目で志鶴の目を見据えている、傍からみれば志鶴が憑かれているように見えなくも無いが、邪念のようなものは感じられない。
玄関先の部屋の一つを覗き込むと、部屋の中は意外に整頓され床にはぬいぐるみが散らばっていた。
「いかがかしら名探偵さん? 何か手がかりは見つかった?」
「しばらく探索させてもらうよ」
「まんま……」
「はいはい、おっぱいね」
様子をみていた五郎を志鶴がぎろりと睨みつけて追い払うと、五郎は鼻をすりながら二階への階段を登る、
恐らくは両親の寝室だろうと思われる部屋をしばらく探索し、隣にある書斎に辿りつくと、
指で埃を払いながらタイトルをなぞり題名の無い本の一冊を手に取った。
「日記帳か? 日付はあるが年号が書かれてないな……」
ぱらぱらと指でめくり、最後の日付から数日を読み返してみる、
無精者なのか思い出したように日付を飛ばしながら書かれており、メモ帳代わりに日記を書いていたようだ。
654 :
普通の日常:2008/09/25(木) 19:08:18 ID:lL0urUWi
十月二十七日(晴れ)
妻の容態思わしくなく、養生の為に高見山の山荘へと移り住み、はや二年、
次第に症状は快方へと向かい、笑顔で話す彼女の姿が見られるようになった。
娘が元気よく走るようになった、いずれ三人で海を見にゆこうと思う、
晴れが続けば空気が澄んで、きっと煙突岩も望めることだろう。
十一月四日(雨)
街医者の定期健診によると、冬場で体調を崩さぬよう、抜かりなく注意するようにとのこと、
書斎の場所を移し、妻の寝室の脇の倉庫へと移し変える。
私がどたばたと慌しく動く様子を見て娘が目を白黒させていた。
以前遊びにいった、海辺にて凛に友達が出来たようだ、姿は見せぬがいるという友達に、
私にもこんな時期があったと思い起こし、適当に相槌を打つ。
神社の境内にて参拝、妻の容態の回復を願い家路に向かう。
高見神社には御神体というものがあると伝え聞くがそれはどのようなものであるのか、
ご利益があるのであれば、ぜひ一度拝見してみたいものだ。
六月十二日(曇り)
妻が亡くなり半年が過ぎようとしている、母の死を理解できぬのか、
娘が母のことを尋ねるたびに胸が痛む。
六月十五日(雨)
娘が友達を連れてくるという。
六月十六日(雨)
書斎に閉じこもり筆を取る、外にはまだ何者かの気配を感じる。
きっと私は頭がおかしくなってしまった、その容貌はどのようなものだったか、
さながら海に打ち上げられた水死体のような白い肌、生脈を感じさせない蝋のような手足。
瞳孔が開ききった黒が浮かび上がる両の眼、人の形からぐにゃりと潰れ、体から白い膿を噴き出しながら。
人であった何者かの体から黒い何かが這い出してくるのだ。
願うならば、今日限りの悪夢であって欲しい。
六月十七日(雨)
妻が戻ってきた。
――――――――
655 :
普通の日常:2008/09/25(木) 19:10:02 ID:lL0urUWi
これ以降の日記は途絶えていた、それ以降は完全にメモ帳となったらしく『a-07』『b-15』といった
アルファベット数字の組み合わせや、その時に読んだ参考文献と思しき文章が並んでいる。
「似たような数字を書いたファイルがあるな……」
日記の最後に書かれたファイルナンバー『a-33』を手に取ると、彼の最後の研究に目を通す、
『高見山の合戦』 『高見山地下空洞』 『高見山金鉱』 『紫阿童子の伝承』 『人魚伝承』 『高杜の退魔師』
高杜学園のタブロイド新聞部に見せれば、目の色を変えて飛びつくような、研究結果が山積みである。
唐突に横から志鶴が顔を出すと、五郎に語りかける。
「どう、進展しそう?」
「あぁ、ここの家主さんは大したもんだよ……少しオカルトじみてるけどね
手始めに『高杜の退魔師』辺りから手を付けてみるかな、住所目録もあるみたいだし」
「退魔師の連中なら知ってるわよ、この子を祓おうとしてるんだもの」
凛が志鶴の足元からひょっこりと顔を出すと、五郎は先ほど読んだ日記の内容を思い起こす、
てれてれとこちらの顔色をうかがう、この少女がいきなり化け物になるとも思えない。
五郎が鼻の横に手を添え、わにわにと指を動かし、おどけた顔をして見せると、凛はくすくすと笑いながら笑顔を返した。
「一般的な知識で言うなら、高見神社の大鳥居は外界と神域を繋ぐ門、
いわば霊の通り道とも言えるわな、その高杜市と神社の間を塞ぐように学園が建てられている」
「だからこんな事態が起こるっていうの? やっぱり学園の連中が悪いんじゃない
余計な場所にあんな馬鹿でかい学園建てたから祟られてるんだわ、きっと!」
「まぁまぁ奥様、怒るとシワが増えますわよ?」
「誰が奥様よッ!?」
「あらら、こっちの祟りの方が怖そうだ、んじゃまぁ有名所っぽい
『退魔師』さん宅にアポなしで突撃取材でもしてみるかな……」
656 :
普通の日常:2008/09/25(木) 19:10:51 ID:lL0urUWi
三人は列車に揺られ高杜市の郊外へと足を運ぶ、五郎は頬杖をつきうなだれるように頭を抱えながら
深く溜め息をつくと、横で凛が座席の上に膝をつき、目を輝かせながら窓の外を眺めている。
それをみた志鶴が凛の脚をつつき注意する。
「こら、凛、お行儀悪いわよ」
「やぁもん!」
「んじゃ、あっちの席に移ろうか、座りながら外も見れるし……
というか何で君ら、ナチュラルについてくるんですか?」
「このままコソコソ隠れて生きていくつもりなんて毛頭無いのよ、
この子だって自由にさせてあげたいし、年齢的に幼稚園に通わせてあげたいもの
連中に掛け合って直接交渉するのよ」
学生二人に幼児一人、女は着替えを詰めたバッグを脇に抱え、子供と二人で窓の外を眺めている、
五郎は乗り合わせた隣席の中年達がひそかに話す内容をそれとなく聞き流しながら、早く着くよう心から願う。
「年取らないんですけどね、その子」
「仮にこの子が人間以外の何かだとしても、私には関係ないわ……」
「――そうか、そうだったな」
その何気ない一言で五郎は彼女のことを思い出そうとする、もやがかかったように焦点が合わない古ぼけた記憶の中でも、
彼女と交わした言葉と記憶はいまだに脳裏にこびりついて離れなかった、高杜の暗部でうねる不可思議な怪異。
これらの現象を巻き起こした原因を究明することで、彼女への供養としたい、そして出来ることならば……
五郎は電車の中から流れる景色を眺めながら、目的地への到着を待った。
657 :
普通の日常:2008/09/25(木) 19:11:37 ID:lL0urUWi
目的地に到着しバスに乗り換えると、五郎は凛を背におぶりながら、険しい山道の中を登っていく、
すでに若干日が沈み始め、西の空は赤く染まっていた。
「ちょっと松田、まだ着かないの?」
「もう少し先だよ、こんな山奥じゃ既に取り壊されてて、骨折り損になりそうだけど、
もしいなかったら、この近くの民宿に一泊だぁね」
「くぅ……くぅ……」
「あら、凛、寝ちゃってる……」
汗を拭いつつ、五郎が坂の上を見上げると、道の前から一人の男性が歩きながら近付いてくる、
五郎は軽く会釈すると、男は礼を返し後ろにいる凛の顔を覗き込み、唐突に話し始めた。
「この子は見覚えあるなぁ、外に出しちゃったのかい?
この辺りは色々と危険だから、子供が無闇に近づくといけないよ」
「あなたが退魔師の……」
「はい、私が正法院 将之です、立ち話もなんですので、私の家に寄っていかれますか?」
「えぇ、助かります、今からお伺いする予定でしたから」
勝手に話を進める五郎においてきぼりにされた志鶴はむくれた顔を見せると、五郎のふくらはぎにげしげしと軽く蹴りを入れた。
四人は山道の終点となる階段を登り、簡素な造りの鳥居を潜ると、わらぶきの民家に辿りつく。
軒先では五郎と同学年と思われる筋肉質の少年が薪割りをしており、将之の姿を見つけると作業を中断し、言葉を投げる。
「あれ? 師匠、用事はもういいんスか?」
「えぇ、もう済みましたよ……あっと、この子は私の弟子の田亀義明君です
田亀君、この二人にお茶とお子さんにはお水を出してあげてくれないか?」
(眉毛太ッ!!)
(眉毛が太いわ……!!)
「こちらです……ってどうかしました?」
658 :
普通の日常:2008/09/25(木) 19:12:26 ID:lL0urUWi
眉毛の太い義明に案内され居間へと通される、寝ぼけまなこの凛に志鶴が水を飲ませる横で、
将之はゆっくりとその場に座り、眼鏡の位置を直すと、五郎の質問を待った。
「して、この私に如何様なご用件で?」
「えぇ、それは……」
「私達をつけ狙うのを止めて欲しいんです、今すぐに!」
五郎の横から割り込むように、志鶴が願い出ると将之は目を丸くして驚くと、
こほんと小さく咳払いをし、志鶴の要求に受け答えた。
「その子に関しては我々はそのままにしておくという、方針を打ち出しています、
しかしそれはあくまで高見山のふもとから出なければの話でして……」
「出ると何か不味いことでもあるのかしら?」
「今、我々が通ってきた場所に鳥居がありましたね?
鳥居とは神域を守ると同時に結界を担う役割を持っています、しかし、その子のような死と生の中間を彷徨う人々は、
一度結界の外へ出れば、雑霊・悪霊の類の影響を受けやすくなるのです」
「つまり……高杜の一部結界、高見神社や高見山の結界の外に出た場合、この子も妖の類になるということですか?」
五郎の言葉を聞いた志鶴は、大きな目を見開きぽかんと口を開けている凛と顔を見合わせると、
将之から庇うようにその小さな体を抱きしめた、将之は若干焦った表情をみせ、手を左右に振りながら、
五郎の言葉を否定するように言葉を付け加えた。
「いえいえ、確かにそうなれば我々退魔師の仕事になりますが、
早々起こることではありません、無闇に外に連れ出さなければご心配は無用です、
その子は見た目実体を保ったままの状態のようですし、危険は少ないですよ」
「あぁ、やっぱり連れ出すのは不味かったんですねぇ……だそうですよ、藤木さん」
「松田だって止めなかったじゃない、そんなこと知ってたら、私だって連れ出さなかったわ!」
「師匠どうします? もう夜も遅いようですけど……」
話し込んでいる横で義明が将之に耳打ちすると、将之はしばらく考えた後に、三人に泊まっていくよう呼びかけた。
客室に布団を二つ敷かれ、志鶴は五郎を睨みつけながらずりずりと布団を引き離すと、凛を腕に抱きかかえながら眠りにつく。
部屋の明かりが落ち、五郎が布団の中で目を閉じると横から志鶴が話しかけてきた。
「松田、今日は色々と……その、助かったわ」
「――そりゃどうも」
五郎はまどろみの中で夢を見る、自らの体が朽ち、頭や腹が生々しく裂け、臓腑が周囲に飛び散り、妖が自らの体の内から這い出してくる夢を……
誰もが悲鳴をあげるような悪夢を見ながらも、五郎はえも言われぬような心地よさと安心感を抱き、眠り続けた。
659 :
普通の日常:2008/09/25(木) 19:14:34 ID:lL0urUWi
一応、最後まで書き終わってますが、容量が厳しいので投下終了です。
GJ!!
格調高く忍び寄る恐怖。早く続き読みたいです。
スレ立て乙!
うっかりしてた。
寮に帰り、ドアを開けて中に入った瞬間、御上は冷蔵庫が空っぽだった事を思い出した。
朝は覚えていたのに学園にいる間にすっかり忘れてしまっていたのだ。
財布の中身を確認するとあまり手持ちがない。
買い物の前に銀行に行かなければならない。
頭の中で予定を考えながら制服を脱いでハンガーにかけ、私服に着替える。
向かったのは高杜モールにあるスーパー。
惣菜などが安いのでこちらに来てからは重宝している。
米二キロとレトルト各種、カップ麺を数個に二リットルの飲料水と冷凍食品、あとお菓子も少々。
もっと買いたかったが、一人では限界がある。
両手に買い物袋を下げて高杜モールから出た御上はその直後、腹部に突然の圧迫を受けた。
不意の衝撃に視線を落とすと、すぐにその原因が判明した。
何という事はない。
子供がぶつかってきたのだ。
小学校低学年か中学年くらいの少女で、長い髪に華奢な手足、人形のように整った顔立ちは可憐で愛くるしい。
ぶつかった時のダメージから結構な勢いで走っていたと思われるが、不思議と少女の息は切れていなかった。
その少女は驚いたように目を瞬かせ、御上に何度も頭を下げる。
人通りの多い往来で子供にそんな事をされてはばつが悪い。
「ごめんなさい」
「あ、いや、別に怒ってないし」
宥めようとする御上だが、少女は相変わらず謝るばかり。
彼等の背後で買い物帰りの主婦がひそひそと会話を始める。
その空気に耐えられなくなった御上は、少女を抱えるようにしてその場から退却する。
後で人から聞いた話だが、その日、高杜モール周辺に女児誘拐犯が出没したらしい。
物騒な話だ。
逃げ出した御上はモール近くの公園にあるベンチに座る。
夕日が沈み始める時間なので遊んでいる子供の数も少ない。
ビニール袋の中を漁って買ったばかりのスナック菓子をさっそく開封する。
少女は最初、初対面の相手の出した物に警戒したのか、なかなか手を付けようしなかったが、暫くすると少しずつだが、手に取って食べるようになる。
「美味しいか」
「……うん」
「そりゃ良かった。勝手に連れてきちゃったが、どっかに行く予定とかあった?」
少女は無言で首を横に振る。
良かったと内心で安堵した御上は、肝心な事を忘れている事に気付いた。
「そういえば、名前聞いてなかったな。俺は御上、御上錬冶」
少女はまたしてもだんまりだったが、肩から下げていたポショットから一枚の名刺を取り出した。
迷子になった時の為に親が持たせていたのだろうか。
その名刺には大きな字で「雨都みか」と書かれその上に小さく「あまさと みか」と書かれていた。
「へえ、みかちゃんか。よろしくな」
「……うん」
それから二人は色々な事を話した。
とは言っても、御上が一方的に話し続け、みかがそれに相槌を打つという形だったが。
665 :
早明浦観測会 ◆ghfcFjWOoc :2008/09/27(土) 23:47:27 ID:572OYTap
「ロリコン」
突然の声に誰だよ、と振り向くと、公園の入り口から一人の女がこっちを見ていた。
高杜学園高等部の女子の制服、肩口で切り揃えられた黒髪。
左手で鞄を持ち、右手で日傘を差している。
同級生の九条恭華だ。
日傘って何処のお嬢様だよ、と思うが実際に恭華はいいとこの令嬢だったりする。
「可哀想なまきちゃん。まさかあなたが幼女趣味だったなんて」
失礼な事を言いながら隣に座る。
「部活の帰りか?」
「ええ」
人の買い物袋の中からペットボトルを取り出して当然のように飲み始める。
「腕の立つ弁護士を紹介してあげるし、慰謝料が払えないならといちで貸してあげる」
こいつの中では自分は完全に性犯罪者扱いだ。
「俺はペドじゃない」
「さあ、お姉さんと一緒に帰りましょう」
御上の言葉を恭華は無視。
鞄の取っ手を手首にかけ、日傘を持ち替えて空いた手を差し出すが、みかは顔を伏せて無反応。
しばらくそうしていたが、手を掴まれる事はない。
気まずいのを誤魔化す為か、恭華はスナック菓子に手を伸ばす。
「これガーリック味? 私は嫌いなんだけど」
「知るか。いや、知ってるけど」
勝手に飲み食いされた挙句に文句を言われたのでは堪ったものではない。
一度手に取ったものを戻すのは抵抗があるらしく、恭華は渋々と言った表情で口に放り込む。
666 :
早明浦観測会 ◆ghfcFjWOoc :2008/09/27(土) 23:48:44 ID:572OYTap
「飲み物、スポーツドリンク以外にないの?」
「ない。欲しかったら自分で買え」
「じゃあ、いいわ」
「お前、飲み食いした分は金払え」
「そうだ。記念に写真撮りましょう」
自然に聞き流して鞄の中から携帯を取り出してこちらに向ける。
対象は自分ではなく、みかだろう。
本人の了承を聞かぬまま、携帯はパシャリと音を鳴らす。
「聞いてなかったけど、名前は? 私は九条恭華」
尋ねるが、みかはもじもじするだけでなかなか答えようとしない。
人見知りでもするのだろうか。
仕方ないので代わりに御上が答える。
「雨都みか」
「あまさとみか……どんな字?」
「空から降る雨に京都の都にみかは平仮名だ」
「ふーん」
呟きながら親指を素早く動かして携帯に文字を打っていく。
「そんなの記録してどうするつもりだよ」
「別に深い意味はないけど」
記録が終わったのか、携帯を鞄に仕舞って再び日傘を持ち替え、こちらを向いたまま後ずさりする。
「じゃあね、みかちゃん。また会えるといいわね」
鞄を持った手をぶんぶん振りながら公園から出ていく。
慌ただしい女だと御上は嘆息する。
昔からあの行動力には振り回されっぱなしだ。
まあ、あれで意外と体が弱く、貧血で倒れる事もしばしばあったが。
「……あの人、怖い」
「はは。取って食ったりはしないさ。っと、こんな時間かそろそろ帰んないとな」
公園内の時計を見ると意外に時間が経っていた。
それだけ熱中していたという事か。
667 :
早明浦観測会 ◆ghfcFjWOoc :2008/09/27(土) 23:50:04 ID:572OYTap
「送っていくよ」
こんな時間まで付き合わせた以上はそれが最低限の礼儀だ。
しかし、そんな御上の思いとは裏腹にみかは首を横に振る。
「大丈夫。一人で帰れる」
「まだ小さいだろ」
「近いから」
「だとしても暗くなってきてる」
「暗くてもちゃんと見える」
そんな問答が一頻り続いたが、遂にみかは根負けし、御上が送って行く事を承諾した。
みかの家は南部の住宅街にある一軒家だった。
なかなか立派な家だと感心しながら表札に雨都とあるのを確認。
玄関の前には植木鉢が並び、ドアには手製のネームプレートがかかっており、そこには「香々斗、瀬尾、みか」と書かれていた。
「……」
家の前に来た時から気になっていたが、もう暗いのに、家に電気が点いていない。
「二人とも居ない」
悲しげにみかが説明する。
共働きか。
まだ小さい子供がいるのにどうかとは思うが、人様の家の事情にまで首を突っ込む訳にはいかない。
みかは鍵を開けてとぼとぼと家の中に入っていく。
「なあ、みかちゃん。また、今度一緒に遊ぼう」
振り向いた時の彼女の表情が今でも記憶に残っている。
冷凍食品は自然解凍されていたが些細な問題である。
以上です
丁度いい具合に埋められてよかった
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