シェアード・ワールドを作ってみよう

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1名無しさん@お腹いっぱい。
このスレはシェアード・ワールドを作ってみようというスレです。
シェアード・ワールドとは、共通した世界観で創作する亊です。
皆で色々考えて創作してみましょう。
2名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 09:17:25 ID:uLtgTM3D
期待age
3名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 09:26:00 ID:Ah2jh6Sc
ファンタジー系がいいな
4名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 09:35:06 ID:TI4sspDr
スチームパンク!スチームパンク!
ファンタジーと近代とSFが入り交じる危うい感じで!
5名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 09:36:03 ID:13HtgM0X
スチームパンクもいい
6名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:07:41 ID:p6VAKBMI
スチームパンクなら剣も銃も魔法も使えるから、夢が広がるなぁ。
7名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:11:01 ID:wht41YpL
スチームパンクって言葉は知ってたけど、詳細を知らないからwikiってみた。

「スチームパンク作品の世界においては、一般的には動力源として
(内燃機関と比較した際に小型化がより困難な外燃機関である)蒸気機関が普及しており、
よりコンパクトな内燃機関や大出力の電動機などが発展・普及した現実の技術史を参考にしながらも、
これら制約の大きな動力をどのように発展させ、またそれらによって成立する社会を描く」

サイバーパンク→蒸気=スチーム→スチームパンクってことなのね。

ファンタジーは何をもってファンタジーにする?魔法?異種族人?


要望はどんどん出していくといいと思うよ。
8名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:18:32 ID:pJCUWo0c
サイバーパンクはどっちかというとハイテクが行き着くところまで行っちゃった世界って感じがするね。
スチームパンクはアナログというかアナクロな感じが強いけど、そこがいいよね。
機械とか無駄にでかかったり、科学万能ではない雰囲気があったりとか。

何でもアリにしちゃうと暴走しちゃうから、ある程度制約はあったほうがいいだろう。
例えば、魔法も科学も普通に混在している世界にするか、あってもどっちかに偏ってる世界にするかは、
書き手の趣味やら知識に左右される。
9名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:18:39 ID:wht41YpL
シェアードワールドってさ、世界観を作って、それを共有して創作の足がかりにしようって感じだよね。
その世界観が気に入ればいいけれど、出来ればいろんな人に使って(見て)もらいたいし、
自分自身一つの世界観でいろんなジャンルのことが出来ればいいなーって思ってるんだわ。
歴史を全部頭からずーっと考えれば、それって可能じゃね?って思った。

地球なら、ビッグバンから生命誕生、恐竜時代に人類進化、
日本の歴史に移って旧石器、縄文弥生。
古墳、飛鳥、奈良、平安、鎌倉、室町(南北朝)、
戦国、安土桃山、江戸、大正、昭和、平成。

さらに未来に行って近未来、遠未来、宇宙etcetc
時間軸をずらせば、また別の世界観を作ることも可能だよな。

魔法だって滅びたり蘇ったり(失われた魔法の力を取り戻すシナリオもありだな)
文明改革が起きて銃が使えるようにもなるし、銃は使いたくないけど魔法は使いたい、とか
銃使いたいけど魔法いらね、って人にも対応できる。


長々書いたけど、つまりどういうことかって言えば、
時間軸を固定しないで、歴史の流れをくんだ、本当の世界(シェアードワールド)を作ろうぜ。
っていう話。

既出だったらすぐ死ぬ。

限度改行数60なんだな。
10名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:18:47 ID:T0Z1l4by
目指すならスチームパンクとかよりも各世界のごった煮が有効だろう

「ブロードソードにファイア、ESPからエクスカリバー・正宗・ゾクのはちまきにMP5やら波動砲」が
許された初代ゲームボーイの名作魔界塔士SaGaのようなカオスな終末混合世界こそ必要とされる

下手にスチームパンクに文明上限レベルが固定されるとSFでやりたい奴が必ず文句たれるぞ
11名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:19:34 ID:OIJ2AMzX
スチームパンクなら世界観にかなりの融通がきくから良いかもね。
12名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:19:34 ID:wht41YpL
長々書いてる間何回も更新したのに更新ボタン押してる間に書き込みがwwwwwwwwwwwwwww
13名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:21:22 ID:T0Z1l4by
リミッターを噛ませる予定調和的なことはやめよーや
枷を最初から付けといたら面白くなくなるし
調整なんて創ってる最中でも出来る
そんなことも出来ない奴は書くな
とスゲエ暴言を吐いてみる
14名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:21:26 ID:pJCUWo0c
なるほど、必要なのは歴史と地理の知識か。
ざっと簡単な歴史年表みたいなのが出来るといいんだな。
15名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:23:19 ID:T0Z1l4by
>>9
それが無難だろ
まずは基本世界を固定、それから各人が好きなように展開していく
辻褄合わせやまとめるのは後からでも出来るしな
16名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:24:34 ID:wht41YpL
>>14
ちょうど3日前くらいに思いついて、中学生の弟から歴史の教科書分捕って読んでた。
今になって読むとすげー頭に入るな。

俺個人的なあれだけど、世界観詰める時のものすごい細かいところ(学校で例えるなら校舎にトイレがいくつあって便器が
いくつあって扉はスライドか押し開きか、階段はどことどこに何段あって)を考えるのが死ぬほど好きなんだが。
そこで実際に暮らしている姿を想像しながら隙間を埋めてく作業って楽しいよな?
17名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:25:19 ID:T0Z1l4by
>>14
無難なのが、2008年現在の地球世界を軸として始める展開だろうな
これなら異変を設定するもよし、歴史の影の暗闘を語るもよしな感じに出来る
18名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:29:11 ID:wht41YpL
も一つ。

物語には波乱がつきものだけど、世界だけならそうでもないよな。
いやまぁ大小物語ってのはどこにでもあるけど、それってまずその土地、時代で生きているっていう
ある程度のサイズの「平和」というか、「日常」が下敷きになっていてこそ出来上がるもんだよな。
頭の中で最初から起承転結のある物語を空想しながら、それに適した世界観を作っていくのもいいかもしれないけど、
俺は何の方向性も定まってないただの「世界」を作ってみたいなあ、と。

作ってみたいっつーかそれしか作れないんですけどね!フヒヒ!
ちなみにTRPG畑出身の人っているかな。
19名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:29:57 ID:pJCUWo0c
>>16-17
歴史っつっても架空世界の歴史だし、地理は舞台が地球かそれ以外かでも変わってくるが……。
まずスチームパンクで行くかどうかでも変わってくる。
その辺は固定した方がいいかな。

で、スチームパンク以外で行きたい奴は、主人公を異端というか変わり者的な奴にする事で、
その世界に参加できるという抜け道は、あるにはあるし。
制約が厳しいけど。
20名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:30:19 ID:xYCzN9Y/
電脳世界でいいんじゃね
好きな場面書き放題
21名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:32:14 ID:OIJ2AMzX
>>18
あいよー。TRPGにハマってた時があるよ。
22名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:32:19 ID:T0Z1l4by
>>18
TRPGなんぞ三十路代のオタク分野をかじった事ある奴の基礎知識レベルだろ
むしろトールキンを読破して言語や世界の重要性を知ってるかどうか聞くべきじゃないか

23名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:33:31 ID:nHCq6JWz
他の人が何かの拍子に話の中に出した過去の話を膨らまして、
その時期の話を埋めていくことも可能なわけか。

そして最終的には一つの歴史の流れができている、って感じか
24名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:34:32 ID:wht41YpL
スチームパンク化するのには過程があるだろうしな。
外燃機関が著しく発達していく以前の歴史を考えれば融通利くし、
その文化が世界全体に瞬く間に伝搬するわけでもないしな。

>>21-22
うはwwwwwww流石だ創発wwwwww若造でサーセンwwwww
TRPGのルールブックにあるワールドガイドを読むのが好きです。
25名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:35:15 ID:T0Z1l4by
>>19
スチームパンクはね、使いたいSF技術が全部制約されるから嫌なんだよ
抜け道では別次元とか魔法の一部にして使えばいいんだけどさ
飽くまでレギュレーション噛ますのは極力無しにして世界を繋ぐのがいいんでないかい?
26名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:37:07 ID:T0Z1l4by
>>23
年表の隙間を想像力で埋める作業は楽しいぞw(旧シャ○板)
27名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:39:01 ID:OIJ2AMzX
ファンタジーを書きたいなら中世、スチームパンクを書きたいなら近世、SFを書きたいなら未来と時間軸をずらせば良いんじゃないかな。
28名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:39:28 ID:pJCUWo0c
>>25
そうだな。どっちかというとスチームパンクって馴染みのある分野とも思えないし、
アレをカッコイイと思える人間は限られるだろうな。
ま、世界というか地域で格差があるって感じでも良いと思うけど。
ある程度生活レベルというか文明レベルの軸ってのは、世界観を共有するなら必要だと思うからさ。
別次元とかにするとまたややこしいから。
29名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:39:59 ID:nHCq6JWz
トールキンはもう設定オタクに近いだろww
言語を設定するだけならともかく本当に単語と文法まで作ってしまうってw

後は詳しい地理、出てくる様々な種族の歴史、神話の創設までやってたよな?
30名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:41:11 ID:T0Z1l4by
まあ議論はともかく誰かがなんか書かないとお話にならないのがシェアードワールドの基本
全く別の世界を書いてて後から繋げるってことも書き手の腕次第でいくらでも可能だからね

だから書きたいネタがあって準備が出来てる奴はさっさと書いてしまうのがお得とも言えるw
31名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:41:18 ID:wht41YpL
今ふと思ったんだけど。

IF軍記ものってあるじゃん?
もし太平洋戦争で日本がアメリカに勝っていたら、とか。
関ヶ原合戦で小早川秀秋が徳川陣に寝返らなかったら、とか。
あれって実際の歴史をもとにしてるからIFだけど、時代設定が現代だったらIFでも何でもなくなるよね。
既に正史がそこに存在してるからIFになるわけで。

んで、IF軍記が普通に読み物としていけるんだから、このシェアードワールドも「正史」を作ってさ、
この世界観使いたいけど、これがこうだったらなあ、って言うのをIFものとして書けばいいんでないか?



>>29
俺もトールキン目指すわ。
32名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:42:05 ID:wht41YpL
>>30
ID真赤にして長文書きなぐってる俺は物語が書けない。
世界観だけ考えて、そこで暮らしてる日常を妄想してにやにやするんです。
だからシェアードワールドが好き。
33名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:43:09 ID:pJCUWo0c
大きく歴史が変わるような出来事なんかを設定するって手もあるけどね。
例えば謎の異物が宇宙から落ちてきて、そこの地域だけ異形の人種がいるとか。
基本今の地球と同じ様な発想とレベルの文明で進んでるけど、
どっかだけ鎖国してていまだに蒸気機関とか。

これは同じ時間軸で色々やりたいならって話なので、念の為。
34名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:45:58 ID:T0Z1l4by
>>32
お話で無くてもいい
とりあえず「こんな世界があるんだぜベイブ!」的な提案だけでもいいんだ

例えるなら旧約聖書の「光あれ!」だ

今はまだ混沌としたビッグバン前の状態wなんでもいいから指針が必要なんだよw
スチームパンク反対だけどな!w
35名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:48:46 ID:OIJ2AMzX
皆はどんな物を書きたいor妄想してる?

自分はスチームパンクをベースにで宇宙を目指す少年ってのを書いてみたい。
36名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:50:22 ID:wht41YpL
>>34
じゃあ先週書いてたtxt放り込むよ!途中だけどな。
シェアードワールドとか何も考えずに書いた奴だから、お前らみんなで自分のやりたい世界観にこねくり回せばいいと思うよ。
あと隙間だらけだから色々突っ込んでね。
////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

・複数存在するエルフの部族
・エルフの部族それぞれとある程度の距離を持って、中立の立場を示す人間
・エルフの部族同士は、各々の持つ理念の違いから衝突が絶えなかった
・昨今人間の隆盛によって、エルフと人間との共存、未来への共生を考える必要が出てくる

大陸の70%以上が不毛な砂漠地帯。
エルフ達先住民はその中で生きていく術を見つけ、淘汰され生き残ってきた。
他の地からやってきた人間たちは、技術力を使って自分たちの生き易い環境を整え、また先住民であるエルフ達への技術提供も惜しまなかった。
しかし人種の違いもあって、おそらく今後お互いの歩幅を合わせて生きてゆくことは難しいであろうと考えた当時の人間の代表たちは、
エルフへの定期的な技術提供や開発支援に尽力することを約束する代わり、人間社会とエルフ社会の隔絶を提案し、エルフ側もそれに同意した。

それから1世紀以上が過ぎて、人間が拡大させた領土の中に、エルフの部族それぞれの領地が存在している。
砂漠のほとんどは舗装され、衣食住も人工的に賄える程度にまで発達してきた。
とあるエルフの部族は、人間たちの技術を惜しみなく学び活かし、人間と同じように文化を発展させてきた。
また別のエルフの部族は、その技術をすべてかたくなに拒み、古き昔から伝わる生活の術を守ってきた。
別の部族では、技術提供は受けるものの、それらを自分たちの生き易い形へと応用し、また狩猟のための武器開発に力を注いだ。
37名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:51:41 ID:T0Z1l4by
>>35
とりあえずなんでもやれるぞ
強いて言うなら各分野のごった煮をやりたい
38名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:55:50 ID:TI4sspDr
スチームパンクベースで怪奇事件を解決する探偵ものが書きたいなあ
戦前戦後あたりの少年少女読み物なノリの痛快活劇な感じで
39名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:56:05 ID:T0Z1l4by
>>36
のっけからエルフか
う〜む、先ず何が言いたいかと言うとな

・エルフはトールキン準拠なのかそれともオリジナルなのか

を詰める必要が出て来るわけだ

既存作品から援用するときと最初からでっち上げる場合の苦労は段違いだからな
40名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:57:42 ID:T0Z1l4by
>>39の続き
言うなれば「何故その種族はエルフと呼ばれるのか」から詰めないと「エルフ」として成立しねーよ、ってこった
41名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:58:44 ID:pJCUWo0c
>>38 はっはっは!(汗

それなんて蒸気た(ry
42名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:59:28 ID:wht41YpL
>>39-40
とりあえずトールキン準拠のエルフが具体的にどういう内容なのかわからないことを詫びておく。
すまんこ。

つまるところこれはエルフである必要性がないわけだ。
何か何となくでエルフが出てきただけで。
これ文中のエルフをドワーフに入れ替えても何の違和感もなく成立するしな。
43名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 10:59:48 ID:T0Z1l4by
>>41
鳴滝、とか言ってやるといいなw
44名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:00:52 ID:nHCq6JWz
そこまで最初から設定つめる必要はないだろ
面白そうな話をごっちゃにしてくと、必然的に成り立ちやその種族の特徴を書く人が出てくるから
まずは自由でいいんじゃ?
45名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:02:32 ID:T0Z1l4by
>>42
つまり異種族の呼称なわけだな
それなら設定使うやつが適当に理由でっち挙げても構わんわけだ 

それを確認したかった

何せエルフには、何かとこだわりのある人間が多くてね(嘆息苦笑)
46名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:02:33 ID:0wpU+VpL
とりあえず帝国用意しときゃいいんじゃね?
賢帝でも暴君でも、それなりにサマになるしな

今から言ってもしょうがないんだが、スチームパンクが制限あるっつー話だが
魔法にしたってあまりトバしすぎると「筋が通らない」って言い出す人間が出てくると思うが
その辺は魔法の方がファジー度合いが大きいってことか?
47名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:04:27 ID:T0Z1l4by
>>44
ただの確認作業さ
エルフの成り立ちを知ってる奴いたならそれだけで「世界観固定かよ!」と
騒ぎ出すファンタジー畑の人間がいるくらいだからなw
48名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:04:57 ID:wht41YpL
>>45
>異種族の呼称
それだ。

あと一応そのエルフと協定結んだ1世紀後(現在)の人間の都市部の説明とか
物理的な食い物が存在しねぇ中での食料調達方法(正直これが痛すぎて黒歴史になりかけている)
はtxtに書いてあるんだけど、いっとく?
49名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:05:02 ID:pJCUWo0c
頭突合せていろいろ言っていてもしょうがないから、とりあえず同じ時間軸でどうするかってのを決めよう。
歴史的な流れよりも、まず「今どんな世界か」ってところでさ。
同じ時間軸で色々出来る世界。 同じ惑星上でね。
宇宙まで行って他の惑星に進出とかいうレベルになると、これはいくらなんでも違いすぎるからさ。
未来の話になるでしょ。
50名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:06:52 ID:T0Z1l4by
>>46
そうなんだ
魔法は想像の産物なのでレギュレーションを噛ましにくい
サジ加減を間違えると簡単に無敵にも出来て危機感も薄れる
まあある程度馴れた書き手なら使いすぎると世界や人間が壊れる設定にして制限かけるから無問題
51名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:07:50 ID:0wpU+VpL
「エルフ」という呼称にこだわらなければ
適当に見た目から「とがり耳」と呼ばれている、とか
現実のアイヌやエスキモーみたいに、その種族の言葉で「人間」を意味する○○、とかが妥当じゃね

前者は出くわしたばかりの時期、後者はある程度接触が重ねられた時期って設定でやるのが安定かな
52名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:08:31 ID:T0Z1l4by
>>48
発言して発表しないことには誰にもシェアされないのがシェアードワールドだぞ〜、と言っとく
53名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:09:10 ID:wht41YpL
>>51
全速力でカンガルー思い出した。
前者がいいな。
54名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:09:39 ID:T0Z1l4by
>>49
そうでもないw色々ネタはあるw
55名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:11:12 ID:wht41YpL
「やあ、御仁。ここが『エムリスバール』、街の中央部だよ。
 まだ主要な交路以外は砂漠にまみれたこの土地だけど、綺麗なものだろう?
私たち人間の文化と、エルフ達が築いてきた土地があってこそ出来た街だ。そして私たちは今もなお彼らへの感謝の気持ちを忘れたことはないよ。
……まあ、そうは言っても、向こうさん方はそう思ってくれていないようだけれどね。
知ってるだろう?昨今の荷車の件。ちまたじゃエルフに襲われたって大騒ぎさ。
お偉いさん方は、人間とエルフ同士、顔突き合わせて何やら会議をしているらしいけどね。私たちは怖くてろくに外にも出られないさ。
そんな中でもやってくる人間がいるんだから、わからないもん……っと、御仁もだったね。悪い悪い。
さ、こっからは歩いておくれ。何、頑丈な石路が街の到る所まで伸びているから、皮靴を砂まみれにしてしまうようなことはないよ。
でも信じられるかい、その昔エルフ達は獣の肉を食べていたんだそうだよ……実は未だにそれを守っている部族もあるとか。
ここだけの話だよ?人間の持ち込んだ文化を認めた部族と、認めていない部族とが、この街を隔てて睨み合っているらしい。
いや、確かな情報ではない、ただの噂話だ。だが荷車襲撃の件もあるし、あながちホラ話でもないだろうと、あたしはにらんでいるね。
まったく、条約があるんだから、エルフ同士でドンパチやるのは構わないけど、ここにまで持ち込まないでもらいたいもんだよ。
そういえば御仁、飯はまだだろう?良い飯屋があるんだ。あたしの知り合いがやっているところなんだけどね、あんまり宣伝もしていないから、
ゆっくりしたいなら持ってこいだよ。宿屋も兼ねているから心配もない。お墨付きだ。
昔はこんな砂漠じゃ生きていけないような、七面倒な食事だったそうじゃないか。文明の進歩っつーのは、いつの世も大事だね。
今じゃごらんよ、そこかしこにあがる煙はすべてあたしたちの食べるものを一から作っている。必要なのは海水と、研究施設から生産される原料物だけ。
かくして爺さまたちが持ち込んできたこの技術で、人間もエルフも一つの文化の中で共生することが出来るようになった、めでたしめでたし。

さあ着いたよ御仁、右手に見えまするが当社一押しの宿飯屋「カーノルクスの帳」だ。
もし観光の予定がおありでしたらいつでもご連絡のほどを。音一瞬を駆けてお迎えにあがりますゆえ。
へい、毎度ありがとうございました!」

////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
エムリスバールは、やや歪んだ平行四辺形に近い形の街の、中央部を示す地名です。
大通りにはまず長屋の民家が立ち並び、それに交差するように伸びた幾本もの交路(すべて石畳で整備されています)には、
それぞれ露店が賑わっていたり、研究施設の生産所が軒を連ねています。
エムリスバールに存在する生産所だけで、街の8割近くの原料物をまかなっています。
原料物は食事だけでなく、衣料、生活調度品を始めとしたすべての物質の根源を伴っています。
原料物には子細にすると、約80〜200近くの種類が存在し、それを選び組み合わせたり、
加工の際、必要な工程を踏むことによって、それぞれ別の形に完成していきます。なお原料物だけでは口にすることはできず、
原料物から調度品への加工は専門的な技術が必要となり、通常の調理以上の難易度になります。
56名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:11:20 ID:pJCUWo0c
>>50
魔法にしても、発動方法とかで制限と言うか、
ある程度「それを使うまでのプロセス」みたいなのは決めといた方が良いんじゃないかな?
というか、魔法が主流の世界なら、魔法使えない奴も魔法の恩恵に与れなけりゃ、
これは文明とは言えないしね。
要は「その世界のテクノロジー」が科学か魔法かって話なんだが。
57名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:13:08 ID:wht41YpL
魔法(魔力)が使えるようになった設定って、既存のものでどんなのがある?
神の力とか、元々使える世界なんですよとか、自然の恵みとか色々あるけど、
正直どれもピンとこないので新しいのを考えたいわけですよ大佐。
58名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:15:20 ID:T0Z1l4by
>>56
それは魔法を「やっちまった(書いた)人間の勝ち」にした方がいい
正直、制限を噛ますのなら後でも出来る

他人と世界を共有する前提で書くんだからあまり無茶はしないだろうと言う希望的観測を述べて置くw
59名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:15:30 ID:0wpU+VpL
俺が考えたのは第六感の異常発達かね
思念が見えて、イデア論的な意味でのモノの本質に第六感で干渉できるっていう

それを利用して便器を使った魔法を考えたが、ネタパーツばかりで器たる世界観ができない
60名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:17:17 ID:wht41YpL
あと宗教系の概念もさっぱりわからんちんともとっちめちん。
61名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:17:43 ID:T0Z1l4by
>>57
魔法の捉え方、解釈にもよるんだ
漠然としたものから体系だったものまでね

それは書いた奴の頭の中をかち割ってみなければ覗けない

そう言うものがある、的な扱いで書いていけばいいんでないかい
62名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:18:37 ID:Ah2jh6Sc
エルフじゃなくてもいいけど亜人は欲しい
猫耳とかリザードマンとかもありだよね
63名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:19:10 ID:T0Z1l4by
>>59
お隣の中華帝国では紀元前に便器見せて敵を威嚇して魔法だとする時代があったんだよ
「穢れ」の拡大解釈でね
64名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:19:14 ID:0wpU+VpL
スチームパンク派劣勢だな
いや、判断早いか
俺としては世界二本立てとけばいいんじゃねえかと思ってるんだが
65名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:20:09 ID:wht41YpL
知らん単語ばかり出てきて勉強になるます^q^
ところでこのスレが勢いトップな件について。
66名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:20:09 ID:T0Z1l4by
>>62
どんどん出せw
今はアイデア出したモンの勝ちな状態だw
67名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:20:46 ID:pJCUWo0c
>>58
今はまだ設定作ってる段階だからね。
何が何でも制限をつけようって話じゃなくてさ、
今の内に洗い出せる問題を洗い出しておこうと思って、ワザとイチャモンつける様に言ってるw

>>59
スクライドみたいに「隕石が墜ちて、その周辺だけ魔法が発達した」とか?
魔法で便利な反面モンスターも出ると。
68名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:21:15 ID:OIJ2AMzX
もっとライトに考えた方が良いんでない?
ガチガチに設定を固めないで緩くした方が参加者も増えると思うんだ。
69名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:22:13 ID:T0Z1l4by
>>64
いや、俺は原則やれねぇなぁと言ってるだけでやってもいっこうに構わんのよw
世界観を繋げる理屈や方法は幾らでもあるしなw
むしろ俺は慣れてるw
70名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:25:53 ID:T0Z1l4by
>>67>>68
最初に誰かが>>55のように展開しなければ議論も何もあったモンじゃないからなw
まずは主軸の、お話ありきだよw 事象→物語→世界 これが展開されなきゃワールドが拡大しない
71名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:26:02 ID:Ah2jh6Sc
むしろ魔法は種族や国家で系統が違ってもいいんじゃね
72名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:26:16 ID:GGT6L1Sa
並列世界とか多次元宇宙とかそんな感じの設定作って異なる価値観の衝突とかもやってみたいな
73名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:27:47 ID:wht41YpL
俺一人オナニー大会してるみたいですげー恥ずかしいな。
お前らも何か出してくれ。
74名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:28:11 ID:0wpU+VpL
>>63
そういやそうらしいな
そういう理屈付けがあると魔法も面白いと思うんだ
一応俺の便器ネタは、モノの存在理由を拡大解釈して、モノの生涯と引き換えに爆発的な力を引き出す魔法でね
魔剣クラスなら空間を「切る」、使い込まれたハサミなら以後の干渉を「切る(遮断する)」とかな

で、穢れを貯め込むところに着目して、公衆便所にこの魔法をかけてネガティブな魔法を吸い込む効果を考えてみたんだ
貯め込み過ぎると破裂する(便槽ごと)


>>67
その辺の所はまだ固めてないんだが、イデア界からの影響が強い設定
魔物はイデアと現実の歪みの存在だから、どんなに整った外見でも本能的にキモイと感じる
75名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:28:27 ID:TI4sspDr
実際のところ、誰かが一本起承転結ついた話を書いて
その話の世界観を他の作者が「物語」で広げるってやり方じゃないと
設定だけ決めようにも何も始まらないとは思うんだよね
76名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:28:41 ID:T0Z1l4by
とまあ少し御託をならべすぎたので黙るわw
俺の立場は
「最初に好きにやってイレモノのカタチが出てきた時に詰めてく」派ね

Let it beでいこー!
77名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:29:15 ID:wht41YpL
よし、ちょっと書いてくる。
78名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:30:25 ID:Ah2jh6Sc
>>75
たしかにな
79名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:33:49 ID:pJCUWo0c
ん! おれもちょっとガチガチな事言い過ぎたな。
しばらくは様子を見る事にするよ。

なんだかんだいってもカギは「共有」だからね。
80 ◆UfPI417KJM :2008/09/01(月) 11:34:22 ID:T0Z1l4by
あ、あと書くとき固定ハンドルネーム(orトリップ)付けといたほうがいいな
あと世界観や各種議論の時にも別固定ハンドルネーム(orトリップ)も必要だろう

俺は以降コレで書きこむからウザいと思ったら専用ブラウザの機能で「あぼーん」してくれ

81 ◆acote/ib76 :2008/09/01(月) 11:36:25 ID:wht41YpL
むしろお前らがガタガタ喋りまくってスレ伸ばしまくった方が情報増えてうれしい俺はどうすればいいんだwwwwwwwwww
82名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:40:10 ID:Ah2jh6Sc
じゃあ妄想するかw
携帯からはつらいけど頑張ってついていくわ
83 ◆WHlzsY9UDw :2008/09/01(月) 11:47:12 ID:pJCUWo0c
まあ他のスレにも手ぇ出してたりするんで、
なかなか設定段階から先まで付き合うってのが不透明だったりはするんだが……。
一応トリだけ出しておく事にするよ。
色々書いちゃったからな。
84名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 11:48:20 ID:TI4sspDr
あと忘れてほしくないのは、設定のために物語があるのではなく、
物語のために設定があるということ。
物語が魅力的であるならば、多少設定に矛盾が生じようと気にしない寛容さが望ましい。
出来れば、沿革だけ把握していれば誰でも気軽に参入できるくらい緩い方がいいかな。

ガチガチに決めて回すのは、書いてお金がもらえるでもない創作では少し息苦しい。
門は広い方がスレの寿命も延びるはず。
85 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/01(月) 12:10:39 ID:p6VAKBMI
勝手に書いてみた。

 ゴチャゴチャ、がやがやとうるさい酒場で、一人の大きな外套に身を包んだ

男が端っこの席で瓶に入った蒸留酒をストレートで乾しながら、楽しそうに酒

場の中を眺めている。
 不思議と彼の周りには人がいない。ただ一人で小さめのテーブルを占有し、

固くなった干し肉をかじる。
 しかし、端から見れば本当に奇妙である。場末の酒場、しかも今日は一週間

の仕事が終わった週末の夜だ。誰も彼もが騒ぎながら些細な喧嘩や大袈裟な話

に花を咲かせているというのに、この男だけは周囲の喧騒から解き放たれてい

るかのように静かに一人の酒を楽しんでいた。
 顔を僅かに赤らめているものの、酔っている様子はない。だが、彼のテーブ

ルに置かれている六本の瓶は全て空。しかもその全てが蒸留酒であり、一人で

この量を飲めば普通はぶっ倒れる。酒に強い者でも、流石にこの量を飲めば泥

酔するだろう。
 にもかかわらず、彼はグラスに残った最後の一杯を名残惜しそうに見てから

、一気に飲み乾す。
 立ち上がり、ゆっくりと男は酒場から出て行く。そのときも何故か男は誰と

もぶつかることなく、歩いていく。数多くいる酔っ払いの動きを先読みでもし

ているかのように、極めてスムーズに。
 男が酒場から出て一つ伸びをしようとしたとき、ドン、と何かが男にぶつか

ってきた。
 何事かと男が見下ろすと、そこには一人の少女が倒れていた。
 年の頃十四、五ほどか。少なくとも、この日この時間に治安の悪いこの近辺

にいて良いような年齢ではない。着ている衣服はそこそこ上等なものだが泥ま

みれで、足や手にも擦り傷が幾つかついている。
 顔も悪くはない。この辺りでは珍しい濃いブラウンの髪もあって、街中では

同年代の少年達の目を引くことだろう。
 どうも走っている途中に男にぶつかったため、転んでしまったのだろう。非

難がましい目で見上げてくる少女だが、ザリという誰かの靴音と共にその顔が

歪む。
「あんちゃん、その女を渡しな」
 少女を追ってきたと思しきガラの悪い男が、ナイフをちらちらと見せながら

脅すように言う。
 しかし、大きな外套に身を包んだ男は気にせずに、少女に手を差し出しなが

らにやりと笑う。
86 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/01(月) 12:12:14 ID:p6VAKBMI
>>85の続き

「それは金次第だな。お前ら、幾ら出す?」
「何言ってやがる。死にたくなけりゃ、邪魔すんじゃねぇよ」
「二百! こいつらから逃がしてくれたら、二百出す!」
 嘲笑すら浮かべながらナイフを構えるガラの悪い男と、すぐさま金額を提示

した少女。
 大きな外套に身を包んだ男が、手を貸すのがどちらかなど火を見るよりも明

らかなことだろう。
 ぱっと少女の手を取り恐ろしく鮮やかに少女を担ぎ上げ、笑う。
「交渉成立。じゃあな」
「え、ちょっ」
「風よ、我に一時の翼を」
 ガラの悪い男が一瞬呆気に取られた隙に、大きな外套に身を包んだ男は軽く

跳ぶ。
 軽く。そう、本当に軽く。
 そのはずなのに、大きな外套に身を包んだ男は翼でもあるかのように数ヤー

ドも跳びあがり、手近な建物の上に着地した。
 驚きのあまり声も出ないガラの悪い男を尻目に、ピョンピョンと建物の屋根

を伝って逃げていく。
 大きな外套に身を包んだ男に担がれている少女も、今起きている出来事に理

解が及んでいないのか目を白黒させている。
 先ほどまで居た通りから随分と離れた街外れ。そこまで移動すると、大きな

外套に身を包んだ男は少女を地面に下ろす。
 そして、少女に向けて手を出してニコリと笑う。
「さ、出せ。出さなきゃ、とんぼ返りしてあの男に突き出してやる」
「わ、分かってるよ。それより、あなたは何者なのさ」
 笑顔で脅しを掛けられた少女は、随分と膨らんだ財布を出しながら男を見上

げる。
 そんな少女を見ながら、ふ、と笑い、大きな外套に身を包んだ男は顎を撫で

つけながら口を開く。
「ジョン・スミス。何でも屋さ」
87名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 12:12:41 ID:MFteZhAx
支援
88 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/01(月) 12:14:56 ID:p6VAKBMI
あ、これで終わりです。
なんか改行が変なのは、メモ帳からコピペしたときのミスみたいです
89 ◆acote/ib76 :2008/09/01(月) 12:16:13 ID:wht41YpL
あー何か読んだらみなぎってきた。
90名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 12:22:42 ID:MFteZhAx
このスレを企画室として、うまく行きそうだったらのれん分けをするのはどーだろう。
例えば職人Aは北斗の拳やりたいのに、スレではムーミンみたいな世界が展開されてて( 'A`)ウボァ
みたいなコトをなくす為に
とらたぬだけどさ。1つ目が軌道に乗ったら考えてみない?
91名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 12:24:43 ID:Ah2jh6Sc
おーいいねいいね
92 ◆WHlzsY9UDw :2008/09/01(月) 12:27:51 ID:pJCUWo0c
>>90
それはこの板でって事?
あんまり増殖しすぎると、他の事やってる住人さんもいるからさ。
二つ三つと増えるようなら、別のサイト作るとか、掲示板借りるとか、
そういう事も考えないといけないね。
まあまだ先の話だけど。
93 ◆UfPI417KJM :2008/09/01(月) 12:31:13 ID:l6fF0PBR
チョーッとまったなのよねそれ>>90
いいことのように思うけれども百害あって一利なしなのそれ
結局セクト化と細分化が進んで元のシェア世界自体が死んじまうから

世界の広がりを断つとそこで内輪の箱庭イジリで終わるんだ
果ての無い世界こそ正義だよ
94 ◆rTnJeRmLss :2008/09/01(月) 12:33:42 ID:OIJ2AMzX
 ――始まりは一冊の本。
 宇宙旅行という荒唐無稽な夢は路地裏の悪ガキどもを魅了した。
 悪ガキどもは宇宙を夢見て、学び、育ち、老いて、バトンを次代へと託した。
 そんな亊が何世代にも渡って続いて、そろそろ俺に出番が回って来そうだ。

 ――○○歴××年。
 いつの間にやら神様は衰退してヒューマン、エルフ、その他諸々の亜人種たちが大手を振って歩いている
 世界は1つじゃなくて、幾つもの国々に別れている。
 大国は競うように発展して、小国はそれに追い付こうと背伸びをしている。
 兎と亀の追いかけっこだ。

 俺の住んでいる街は蒸気の煙で燻っていて、歯車の軋む音が子守唄の様に轟いている。
 遠くの国では新しい動力が生まれたとかなんとか新聞に書いてあった。
 何だかキナ臭い話も聞かないわけでもない。
 神様だって復権を狙ったりとか忙しいみたいだ。

 兎に角。
 ――俺の夢は宇宙。
 行けるかどうかは解らないけど、夢を見る亊が出来るくらいに世界は広い筈だ。
 例え宇宙に行けなくても誰かにバトンを渡すくらいの事はやってやる。

 そんな訳で俺の物語は始まる。

――To be continued on the next time.


 適当に書いてみた。
95 ◆acote/ib76 :2008/09/01(月) 12:37:44 ID:wht41YpL
ぼうっと見上げた視線の先で、人が「飛んで」行ったのを見た。
遠くに輝く月と、はためいた外套とが、優雅に舞う何かのようで、いつまでも彼の目に焼き付いていた。

/

「いらっしゃい、今日は遅かったじゃないか」
 すっかり腐りかけの床板をみしみしと鳴らして、カウンターに肘を置いて一息、人の良さそうな声が飛んできた。
「すぐそこで変なものを見てね、ちょっと疲れているのかもしれない」
 人が飛んでいたんだ。とっても綺麗に。

情景を目に浮かべ直すような、ゆったりとした表情と言葉尻。
それはすぐに、お互いの含みの違う笑いでかき消えていった。
大分お疲れだな、と言い放った後、声の主はカウンターの奥から、いつものようにそっと蒸留酒の酒瓶を差し出してくれる。

 この酒場の喧噪にひたるのは、彼の週末の日課なのだ。妻には仕事と偽って、賑わいの中に身を置いている。
ゆっくりと酒瓶に口をつけては、あふれんばかりの人の賑わいを見回していって。
ふと、入口から一番遠い奥まった席。力比べに拳を振り上げる男達の後ろに空いた小さなテーブル席に目が留まった。
「マスター、あそこ、どこかの物置にでもなっているのかい?」
 彼がそう口走ってしまうのは当然だったのかもしれない。三人座れば肩も触れ合うほどのサイズのテーブルには、
まるで彫刻のように、六本もの酒瓶が並んでいたのだから。

「うん?ああ……変なやつがいたんだよ、ついさっき、お前さんと入れ違いでさ」
 彼はマスターの声に驚いた。こんなにも大馬鹿の揃う界隈で、長年店を構えている人間が、変だと形容したのだから。
よほど奇天烈極まりないのであろう。目が奇数個だったり、腕が奇数本だったり。
あまりに奇天烈過ぎた己の想像に、少しだけ瞳に輝きをもった。
「じゃあ、すぐ近くにいるかな?」
 立ち上がろうとする彼の肩越しに、マスターはもしかしたら、と笑った。
「お前さんが見た飛んでる奴ってのが、あいつなのかもしれねえな」

 そうかもしれない。
挨拶代わりに銅貨を一枚投げやって、彼は飄々と出口に向かう。
空を見上げていれば、もう一度会えるかもしれない、そんな考えを巡らせながら。

/////////////////////////////////////////////////////////////////////////
>>85-86に寄せる。
96 ◆UfPI417KJM :2008/09/01(月) 12:41:52 ID:l6fF0PBR
何か現代人をそのまんま出したくなる衝動と欲求が高まってきたのでしばらく頭冷やしてくる
世界観に合わせて書くのが醍醐味でもあるのにな、悪い癖だわ てなわけで暫く中座する
97名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 12:44:07 ID:MFteZhAx
>>93
やっぱ人が分散するのいくないか。
念のためだけど、世界観を共有した別スレ、じゃなくて
別のシェアワールドを立ち上げる、ってイミだよ。
ワイルドカードと蓬莱学園くらいに方向性の全然違う。

てか、今言うことじゃなかったね。何水差してんだオレは。
98 ◆rTnJeRmLss :2008/09/01(月) 12:44:44 ID:OIJ2AMzX
>>96
現代を書けば良いじゃない?
世界は一つだけど果てしなく、時間軸は無限にあるんだから。
99名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 12:46:05 ID:MFteZhAx
あ、アホなカキコして忘れてた
◆zsXM3RzXC6 ◆rTnJeRmLss 両氏GJ!
100名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 12:47:52 ID:l6fF0PBR
いや、そうじゃないんだよ
世界に傍観者・旅人の一人としての現代人をぶち込みたくなったんだw
101名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 12:49:53 ID:Ah2jh6Sc
細かいところから決めてもきりないからまずその世界のシンボルとなる他とは違う根幹の部分をつくるべきじゃね

なんか変わった魔法がある世界とか太陽が2つあるとかなんでもいいから

ちなみに俺は昔おんなじようなシェアワールド談義に参加したことあるけど、
その時のは空に巨大な信楽焼の狸が浮いてる世界だったぞw
102名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 12:50:38 ID:+G9BZvJp
ロボゲ板から最近やってきました。
シェアード・ワールドとは
@一つの世界観、もしくは時間軸を共有する中様々な人が紡ぐ物語である
A自然書き手さんたちのキャラが交流することもあり、そういったからみで世界はさらに広がっていく。
B書けば書くほど、さまざまな設定が生まれ、世界は広がっていく
Cぶっちゃけ、みんなで作るネットゲみたいなもの?

こんな認識でいいんだろうか? TRPGとかやったことも読んだこともないけど……参加にルールとかある?
103名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 12:50:53 ID:OIJ2AMzX
>>95
GJ!読みやすい文章が良い!

>>100
時の行者を現代人がやる感じ?
104 ◆WHlzsY9UDw :2008/09/01(月) 12:54:01 ID:pJCUWo0c
>>101
ああ、そりゃいい。
ある意味世界の象徴であり、住人がそれをどう思っているかでキャラの周囲も変わってくるからね。
そして何より、その共通の何かを盛り込めば、話は違っても描写的には共通だと認識させやすい。

これは巨大な舞台のオブジェだな。
105 ◆UfPI417KJM :2008/09/01(月) 12:57:41 ID:l6fF0PBR
>>103
いきなりワケ解らずに放り込まれる人間にするか、ある程度ワケ知りの経験ある人間にするかにもよるがね

現代人挿入をやるとその世界の描写が近現代風に描写出来るのはいいがかなり固定化される危険があるので
実はやらないほうがいい

だからちと頭を捻って普通の、通常での参入手段を考えて見る
106 ◆UfPI417KJM :2008/09/01(月) 12:59:48 ID:l6fF0PBR
今のところの世界は

・異種族混交
・砂漠地帯の町
・蒸気機関の街
・砂漠の町には何らかの技術的プラントがある

ことだな
107名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 13:01:30 ID:OIJ2AMzX
>>101
確かにシンボルとか象徴を決めるのは良いかもね。だけど信楽焼の狸は勘弁w

>>102
参加ルールなんてのはない。
108 ◆acote/ib76 :2008/09/01(月) 13:04:15 ID:wht41YpL
「空も跳べねえ奴が、何が宇宙だって?」




まだ頭から離れない、その台詞が通るたびに、足元をスパナで叩いた。

カーン、カーン、カーン。

俺が生まれた頃にはとっくに錆びついて、今ではただの、高く美しくそびえるオブジェ。
色んな奴が秘密基地と称してはここにやってきて、好き放題に荒して回ってる。
だけどここのすべてを知っているのは俺だけだ。
複雑に入り組んだ階段と通路。まるでトラップハウスのような仕掛けの数々。
遠目に見ればまるでゴミの塔のようなこの薄汚れたオブジェのてっぺんで、スパナを振り回した。

カーン、カーン、カーン。

あいつはきっと、今頃泣きながらお母さんにでも泣きついてるんだろう。
真横に倒れたでかい歯車の上に立ちあがって、空を仰ぐ。
方々からやってきた煙という煙が、青かったはずの空を隠していく。
手を伸ばせば届きそうな煙。
ジャンプしたら、突き抜けられそうな煙。
低く屈んで、目をとじて。一、二、三。
俺は他人に見せられないような無様さで、歯車の上に脇腹から着地した。

「空も跳べねえ奴が、何が宇宙だって?出来損ない!」

カーン、カーン、カーン。

あいつらは、俺を嘲う。
ある奴は暴力的な言葉で、ある奴は同情の言葉で、ある奴は視線だけを向けて。
みんながみんな、高く跳ぶ。自分の身の丈よりもはるかに高く跳んでいく。
俺は跳べなかった。教室に行くには非常階段を使わなければならないし、この塔だって一番下から梯子を使わなければ登れない。
あいつらは俺を振り返って、見下して、嘲う。


でも。

でも、俺は知っている。
空を跳ぶことが出来なくても、空を飛ぶことは出来るんだって。
宇宙を飛ぶことが出来るんだって。
もうスパナを叩きつけるのはやめた。にわかに赤く染まり始めた空の遠く遠く。
きっと遠くの国の機械だろう。俺は懸命に立ち尽くして、煙の隙間から視界でそれを追い続けた。

飛んでやる。

////////////////////////////////////////////////
>>94に寄せる。
109 ◆acote/ib76 :2008/09/01(月) 13:06:44 ID:wht41YpL
人の垂れ流した世界観を補完するように妄想するのは楽しいな。
もっとくれ。
110名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 13:12:01 ID:OIJ2AMzX
>>109
化石燃料が枯渇してたり太陽光発電システムがあったり人が遺伝子調整されてたり?
111 ◆acote/ib76 :2008/09/01(月) 13:14:43 ID:wht41YpL
>>110
やっぱ簡単でもSSになってた方がやりやすいなぁ。
>>75の言ってる通りの感触。
112名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 13:24:20 ID:fxCtIed0
じゃあ、しばらくたった後に世界観をインフレさせるのは任されたぜ
ってのは、冗談として、週一で世界の危機がってのは無いようにしないとな
113名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 13:27:58 ID:cP2sK+kz
今はイメージを膨らます段階だから1、2レスの短い断片でも良いと思うけど、世界観が固まってくるにつれて中・長編も投下されるようになるんだろか
後発の人が追いにくいだろうからまとめサイトなりwikiなりが必要になりそうだな
114名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 13:28:47 ID:0wpU+VpL
>>107
やっぱ信楽焼じゃアレだよな



村を飛び出してから、4日間経った。
2日目に飛び込んだ森は、まだ切れ間が見れない。
野の草のせいで絞るように痛んでいた腹が、ようやく元の調子に戻った。
持ち出してきた食料など、初日のうちになくなってしまっていた。
腹痛で茫洋とした意識のまま歩いていたせいか、今どのあたりにいるのか見当もつかない。
地図で見た予定通りに進んでいれば、東へまっすぐ行けば他の街に近いはずである。
今の場所どころか方角さえわからない状態であった。

こういう時は、やることはひとつである。
よし、と小さく気合いを入れて、近くの一抱えほどの木の幹にとりついた。
腹痛が癒えていてよかった。ゆっくりとではあったが、着実に木に登っていく。
茂る枝葉を掻き分けながら太いものに足をかけ、さらに上へ。
運よく背の高い木であったらしい。葉の隙間から日の光が差し込む一枝を横によけると、目の前に世界が広がった。
目の高さに広がる緑の海、その途切れた先に茶色の地肌を見せる山脈。
こちらの方向ではない。別の枝に手をかけ、北を探した。

あった。
雲と靄と、空の青にけむる遥か北の空。
地平線の彼方に、薬屋の店先に置いてあるでっかいカエルの置物が、親しみやすくもどこか空々しい笑顔をのぞかせている。
あれは、この世界のどこからでも北に見ることができる。
旅人や病み人がそうするように、両手をこすり合わせながらありがたやありがたやと口の中で念じて、木を降りた。
115 ◆WHlzsY9UDw :2008/09/01(月) 13:30:15 ID:pJCUWo0c
カエル〜〜〜〜〜!!wwwww
116 ◆rTnJeRmLss :2008/09/01(月) 13:47:56 ID:OIJ2AMzX
 科学の発展は素晴らしい。一言で言うとVIVA!科学。
 人はとうとう自分に似た物を作り出す亊に成功した。

 銀に輝く茶筒みたいな円筒形のボディー、蛇腹みたいな細い手足、ピカピカ光る目に時々煙を吹き出す口。
 それが機械人形ロボ太くん。
 空を飛べないけど二足歩行、涙脆いヘタレだけどロジカルな考え方しか出来ない人口知能。
 二進法が大好きで二進法の信仰者。
 科学が作り出したロボットのあけぼの。 ああ、科学って本当に素晴らしい。

「佐藤博士、自分はもっとカッコ良くなりたいです」
 ロボ太くんはいきなり無理難題を突きつけてくる。自分の外見にコンプレックスを持つなんてロボットのくせに生意気だ。
「あー、ダメダメ。偉い人が予算くれないから無理だよ。カッコ良くしてあげたいけど先立つ物がないから絶対無理」
 ロボ太くんは目をピカピカ点滅させて煙をふく。ぴーっががーと駆動音をならせて憤慨している。
「予算予算って、佐藤博士はお金の亡者ですね」
「だって私はしがないサラリーマンだもん。女だけどね」
「貴女は研究者じゃないんですか?」
「え、サラリーマンだよ。ちゃんと給料貰ってるし」
  大変だ。ロボ太くんは反抗期だ。ここでビシッと躾ないと後で人類は苦労するだろう。
 ロジカルに私の人間性を否定するロボ太くんは口が上手い。下手に反論したらとことん論破されるだろう。
 やりたくないけど仕方ない。
「ロボ太くんは私の亊を悪く言うけどさ、そんな私に作られたロボ太くんって私以下の最低の存在だよね。」

 わーにん、わーにん、ぴーっががー、ぴーっ。
 思考回路がショートしたのか、目をチカチカ点滅させて黙々口からと煙をだしてロボ太くんはフリーズした。
 創造主に逆らうとは笑止千万無礼至極。 
 人はまだまだロボットより強し。

 お空に浮かぶ青いお月さまはまんまるだ。

 そんな訳で話はひとまず終わります。

――To be continued on the next time.
117名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 13:49:04 ID:OIJ2AMzX
カエルだったのか。
皆弾けてるなぁ
118 ◆acote/ib76 :2008/09/01(月) 13:50:52 ID:wht41YpL
「はい、スタート」
 両掌を叩く音が、部屋に響いた。
私はベッドに腰掛けて、対する問題児は、正面で正座をして、音と共に頭を床にこすりつける。
「お代官様!後生です、後生ですからどうかこの店だけは!」
「違うでしょうがほれ」
「はい、課題手伝って下さいお願いします」
 心底素直に出てきた言葉を聞いて、思わず溜息が出た。
外は蝉が相変わらずうるさい。もっと言えば今、土下座から顔をあげてニコニコと愛想笑いをしている女もうるさい。
「何で夏休みの間にすませなかったの。今どき小学生でもないんだから、一か月丸々遊び呆けていたわけじゃないでしょ」
 愛想笑いを絶やさないその面差しを睨む。その当人は、頭をかきながら、苦笑いして、それでも意気揚揚と課題のノートを広げ始めた。
「いやほんと、時空がすっ飛んだとしか思えないって。ほんの数日前は七月だったのに」
「あんたの頭がすっ飛んでんのよ。ペンは?」
 あー、などと気の抜けた声で、部屋の中を探り始める。色々と頓着のない奴だと、うんざりする。
「少しは整理整頓しなさいよ……それでも女の子のつもり?」
 このまま待っていても、ペンは見つかりそうにもないので、片付けついでにと立ち上がる。
正直座る場所なんてベッドくらいしかない。つまさきで紙やらゴミやらを蹴散らして進むだけだ。
「昨日使ったんだけどなー」
「何に?」
「ペン回しの練習」
「ばか」

 つと、北側に据えられた嵌め殺しの窓、いつもと違う何かを見た気がして、わずかなカーテンの隙間を指で開く。
「あ、ケロさん」
「え、うそうそほんと?どこどこ」
 クローゼットの奥深く(そんなところに何があるのか……)でもがいていた声は、嬉々としてとんでくる。
いつもは煙に覆われて、空の青ささえ霞むような陽気だったけれど。
「あー、今日晴れるって言ってたね、そう言えば」
「今日は久々に、マスクしなくても外に出られそうね」
「じゃあ折角の散歩日和だし」
「だめー」

 即答を返すと、それも理解の上だったようで、口でぶうぶうと鳴きながら、ペン探しに戻って行った。
再び窓の外に視線をやる。久方ぶりに目の当たりにした置物は、相も変わらず悠々と空を飛んでいる。
「ケロさん、どうかお願いします」
 この子がどうか、私がぶっ倒れる前に独り立ちできますように。
//////////////////////////////////////////////////////
>>114に寄せる。正直意味不明。
119 ◆meXrLVezBU :2008/09/01(月) 13:56:33 ID:wPyU3DfL
1/2

 見渡す限りの草原を一陣の風が走り、僕の頬を優しく撫でる。
 長かった馬車の道のりもそろそろ終わり。あの坂を越えると駅はもうすぐだ。
 街へ行ってしまえば当分は見ることのない景色。遥か向こうに見える地平線も、
赤土混じりの道も、そうそうに思い出となってしまうだろう。
「いやねえ、ゴーダったら感傷的になっているの?あなたったらさっきから窓の外を
見てばっかりじゃないの。そんなんじゃ街では浮いてしまう事間違いないわ」
 不意にクリスチーヌが声を掛けてきた。クリスチーヌは僕の幼なじみで、これから僕は
彼女と一緒に街の寄宿学校に入る事になっているのだ。
「感傷的?誰がだよ。僕はどっかの誰かさんのぴーちくぱーちく煩い声にうんざり
していただけだい。」
 クリスチーヌは僕の声に一瞬キョトンとするものの、小鳥が囀るかのように笑い始めた。
「あら、お喋りは女の子の特権よ?今からなれておかないと街で苦労するのはゴーダ
じゃない。いつの日かあんたは私に感謝するに決まっているわ。女の子のお喋りに
着いて来れないようじゃ立派な紳士になれないわよ……っと」
 石に乗り上げてしまったのだろうか、馬車が大きく揺れた。舌を噛んでしまったのだろう、クリスチーヌは大人しくなった。

 これから僕達が行く街は蒸気機関という奴が発達しているところだ。僕は詳しくは
解らないのだけれど、それは万能な機械らしい。具体的に何が凄いかは知らないけれど
蒸気機関がなければ今の僕達は存在していなかったらしい。らしいらしいと続いて
しまうのは僕の蒸気機関に対する興味の無さが原因だ。だって、身近ではないんだから。

 と、なんやかんやで駅に着いた。僕の荷物は旅行かばんと肩掛けかばんだけだけれど
クリスチーヌの荷物は僕の倍以上だ。ただカートになっているので、持ち運びは大して
不便じゃない。
 僕とクリスチーヌは御者に御礼をすると、駅へと入ろうとした……入れなかった。 今まで聞いたことのない轟音にびっくりしてしまったのだ。まるで地獄のそこから
響いて来るようで、小さく悲鳴をあげてしまった。
 立ちすくんでいる僕らに駅員さんが声を掛けてきた。今のは最新の蒸気機関車の音らしい。
 僕はクリスチーヌの顔を見て笑ってしまった。いくらお姉さんぶっていても、やっぱり
僕とおんなじじゃないか。
120 ◆meXrLVezBU :2008/09/01(月) 14:01:27 ID:wPyU3DfL
2/2

僕とクリスチーヌは肩を並べてプラットホームへむかった。
もうすぐ、僕を街へと誘う列車がやって来る。




書いていたら字数制限に引っ掛かったよ携帯だからorz

世界の果ての田舎から蒸気機関の街へと向かう少年の一人称で書いてみたけど、
皆上手いなあ。俺は駄文しか書けないよ……
ちょっと逝ってくる
121 ◆acote/ib76 :2008/09/01(月) 14:05:41 ID:yNkDcDha
>>119-120
その文体好きだなあ俺
122 ◆acote/ib76 :2008/09/01(月) 14:08:57 ID:yNkDcDha
そして居候にPCを明け渡した俺は携帯で傍観。
123名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 14:11:23 ID:OIJ2AMzX
>>119-120
ほのぼのとしてて良いですな。赤毛のアンみたいな感じ。
取りあえず
ゴーダ クリスチーヌ
剛田クリスチーヌでふいたw
124名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 14:36:19 ID:yNkDcDha
止まってるなあ。

このまま過疎るかな?
125名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 14:39:24 ID:OIJ2AMzX
20分やそこらで過疎とか言うなよw
126名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 14:42:23 ID:yNkDcDha
さっきまで勢いすごかったから反動で。



慣れない携帯で粘着粘着。
127 ◆xgKL605PPo :2008/09/01(月) 14:59:51 ID:QvX0Asb1
隠した長い耳がバレない様に、私はニット帽を深くかぶった
この世界では容姿が普通ではない者は排他される。故に私……
否、私の種族は幾度も人間たちと対抗してきた。それも数十年、いや、数百年
人々がごった返す不潔な繁華街を抜け、広々とした地平線――と青々とした山脈

嬉しい事に人間はここにはいないようだ。私は被っていたニット帽をはずえす
ピョコンと、ウサギのようなもう一つの耳が姿を現した。鬱々としていた感情も晴れる
伝承に聞いた、この世界の北側ならどこにでも見れる謎の置物――
長老の伝承が確かならば、その置物、「KAERU」はどんな万病でさえ拝めば治してくれるらしい

私が兄弟達の居た移動式テントを抜け、その「KAERU」を崇める旅に出た理由はそれだ
――と考えに耽っている内に、私の目の前、数千メートル先に妙な造形物が見えた
私の種族は人間に比べて非常に眼が良い……が、幾らなんでも遠すぎるか。ぼんやりとわかる事は一つ

その造形物は、緑色の物体だと言うことだ

/////////////////////////////////////////////////////////////////////////
>>114に捧ぐ
ぶっちゃけ世界観とか決めてなかったけど書いちゃったら仕方ないね
128名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 15:02:56 ID:cDRxKN05
カエル関連増えてきたなw
129 ◆Wramvk0D7M :2008/09/01(月) 15:04:11 ID:MFteZhAx
「ねえ、父さん、《船》だよ!」
 一仕事終え、お気に入りのブレンドをふかしていた私の元に、息子が息を切らせて飛び込んできた。
「ねえ、ねえったら」
 息子は盛んに私の腕を引っ張り、彼の感じている興奮を余すところなく私に伝えてきた。
「そう急かすな。
 ……そういえば、君はまだ6歳だったね」
 前にこの村を《船》が通過したのは4年前。その当時2歳だった彼は《船》を私のひざの上で見たものだが、やはり覚えてはいなかったようだ。
 私は立ち上がり、明り取りの窓を開けた。書物に光を当てたくはないが、少しの間のことだ。
 最初に見えたのは、昼下がりの濃い青の空を見上げ、ぶつぶつと何事かを呟いている妻だった。その向こうには、ただだだっ広い草原。
「ほら、父さん。あそこ!」
 手をかけた窓枠と私の間に潜り込んできた息子が指で示した先、地平線のやや上あたりに、昼の月のような不自然さでそれは浮かんでいる。
 それが、実際になんなのかは解らない。
 解っていることは、ただ、「それ」が遠目には船のように見えること。そして、「それ」がとてつもなく巨大なこと。
 そのくらいだ。
「それ」は小憎らしいくらいに悠々と、この小さな村を、このちっぽけな私の家を4日もかけて通り過ぎる。
 せめて上になにがあるのか、「それ」は何で出来ているか。そういったものの痕跡でも落としてゆく可愛げでもあればいいのに。
「ねえ父さん、あれって、なんなんだろうね」
 この国の住人なら、誰もが幼少期に持つ疑問だ。「あれ」は何なのか。
「さあ、なんなんだろうな」
 そして、長ずるにつれ、考えなくなっていく疑問でもある。「あれ」は「あれ」だ、と。
 4日間も日陰が続くことにぶつぶつと文句を言っている私の妻のように。
「父さんも知らない?」
「知るもんか。偉い学者や魔法使いが束になってかかって今まで解ってないんだ。父さんに解るわけがない」
「そっか」
 気がつくとパイプの火はすっかり消えてしまっていた。私が窓枠にパイプを打ちつけて灰を庭に捨てた音を合図に、息子は私の仕事場から出て行った。
 少しでも近くで見ていたいのだろう。
 あの遠さではこの村の上空まではたっぷり半日はかかるが、その前に門限が来る。
 今回の到来では、「舳先」を息子が見ることは敵わなさそうだ。「舳先」は彼が眠っている間に、この家の上を通り過ぎてしまうだろう。
 窓の外の地平線を目掛けて、息子が走っている姿が、私の目に入った。
 遠くには、近所の他の子供も走っているのが見える。
 大人は一人も走っていない。

 この国の住人なら、誰もが幼少期に持つ疑問だ。「あれ」は何なのか。
 そして、長ずるにつれ、考えなくなっていく疑問でもある。「あれ」は「あれ」だ、と。

 少数の例外を除いて。

 私は書き物机に戻り、書きかけの図面に再度向かう。
 私に大学で機械学を学ばせたのも、片田舎の学校の教師になってなお休日のたびにこんな図面を引いているのも。
 全てはその疑問のせいなのだ。
 《船》とは何なのか。
 解らないのなら、実際に見に行ってやればいい。空を飛んで。



続かない。
「名物」を設定しようと思ったら先に超絶インパクトの「名物」かかれて涙目
まあせっかくかいたので供養と思って投下させてちょ
しっかし、ケロさんいいなあw
130名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 15:09:32 ID:cDRxKN05
人が飛ぶ世界とか<<船>>とか空関連なんかいいなぁ
131名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 15:09:43 ID:jiPaBu23
#文章書くの初めてだし、勝手にこんな設定にして良いのか知らないけど…


ご先祖様は考えなしに石炭を燃やし、石油を燃やし、栄華を極めた。
そしてその恩恵と引き換えに私たちは色々な物を失った。
その返済はたった一瞬だった。

当時の歴史資料は殆ど失われている。
ただ、そんな中でも有る程度の物は受け継がれて学校教育の教材に組み込まれている。
けれどもその教科書は前時代の技術自慢と当時の政治家の大英断(笑)を賛美する事しか教えてくれない。
燃えちまえ、こんなもの。

モノローグ終わり。私は目を開けてちょっと面倒な事になっているのを改めて認識しなおす。
これは間違いなくお役人が適当にお役所仕事をしているからに決まっている。
でなきゃ何故私のようなうら若き乙女が危険因子なる物騒な名札を張られねばならんのだ。
そう思い色々な恨み辛みを視線に載せて睨み付けるも、
目の前に立つひ弱そうな警察官は以外と動じない。ちくしょう。

「んで、えー、クリスさんですよね?」
警察官が問いかけてくる。つか、愛称で呼ぶな。
「んーじゃあクリスティナさん。あなたこんな時間にこんな場所で何やってたんですか?」
「大地の精霊様と交信していました」
「はいはい、大地の精霊と交信…っと。」
そういって見かけどおりの細く綺麗な字で彼のメモ帳に私の発言が記録されていく。
いや、ちょっと待て。
「ちょっと、あんた何信じちゃってるんですか。嘘に決まってるでしょ嘘に」
「え?嘘なんですか?」
何だよその反応。
「当たり前じゃない。何よ大地の精霊って。そんなもんと交信してるなんて、私ただの電波じゃない」
「見た目どおりですよー」
私は他人の目にそんな印象で映ってたのか。

少なくないショックを受けつつ頭を回転させる。
とりあえず自分のやっていた事を赤裸々に語るわけにはいかない。
”外”に出るのは重罪だ。向こう30年ぐらいは塀の向こうで暮らす羽目になる。
「いえいえそんな事は有りませんよ。冗談ですってば。
 私はただ少しばかりあそこの倉庫に忍び込んで少しばかりの小麦を頂戴しようかと考えていただけで」
「裁判するまでもなく有罪ですねえ」
しまった、これも罪だったのか。
「ま、いいや。未遂だし今日は見逃しといてあげるから帰って良いですよ。次は無いからね」
これで5回目になるそんなセリフを聞いた途端私は勢い良く立ち上がる。

「ありがとジャック!いやー、恩に着るよ。この恩は3日掛けないと返せないね!!」
「はいはい、今まで3日どころか1時間も恩を返そうとしてくれた事なんか無いでしょ。
 でもいいや。さっさと帰りな。同僚に見つかると少し面倒だからさ」
「あいよ。それじゃさらば」
そういって窓枠に手を掛け、私は飛び降りて逃げていった。
「全く……まだ星が見たいなんて言ってるのか、あいつ……」
飛び降りる瞬間にそんなぼやきが聞こえた気がするが特に気にしない。
早くも私の頭の中は次の挑戦をいつにするかで一杯だった。
132名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 15:10:35 ID:fxCtIed0
空賊とか好きだなあ
133名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 15:13:58 ID:cDRxKN05
ラピュタみたいに空に土地があってもいいよな
134名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 15:21:26 ID:BihWVjPt
なんか面白そうなことやってんな
135名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 15:35:12 ID:OIJ2AMzX
世界観が広がってくなぁ
136 ◆U4jQgFN8e. :2008/09/01(月) 16:23:38 ID:jjYdak/l
(1/4)

 長い長いプラットホームに、それは轟音を上げてゆっくりと入ってきた。
 まるで、いびつなバケモノのようだった。

 聞いたところによると、全長200メートル。高さは平均10メートル、高いところでは20
メートル。そして先頭車両に動力部があり、そのすぐうしろにスタッフルーム、食堂、一
等客室、二等客室、食堂、三等客室、スタッフルーム、四等客室……とあるとのことだっ
た。

 外側から見ると、黒々とした車体の様々な部分から、途切れ途切れに蒸気が噴き出され
ている。ある部分からは微弱に、ある部分からは強烈に。一見、どこから車体に近づいて
よいのかわからない。いつどこから高熱の蒸気が吹き付けてくるのか、しばらく観察して
いないと把握できないのだ。

 突然、車体の表面の何箇所かが開きはじめた。出入り口が出現したのだ。
 その瞬間まで、そこに出入り口があるなどとはまったくわからなかった。多種多様な金
属板が貼り付けられたその外面は、ちょっと見た感じ、どこでも開きそうな気もするし、
逆にどこにも入り口などないようにも見えた。

 乗降客はさほど多くなかった。
 彼らをしばらく眺めたあと、衣類等のつまった麻袋を抱え、俺は最後尾の車両に乗り込
んだ。

 俺はこの機関車に乗って、東へと向かうのだ。
137 ◆U4jQgFN8e. :2008/09/01(月) 16:25:14 ID:jjYdak/l
(2/4)

 ……ここには、あらゆる経済状況の人々が乗っている。
 金を持っているものは丁重に案内され、まるで貴族の部屋のような客室に通される。
 そこそこ金を持っているものは、そこそこの対応で、そこそこの部屋に通される。
 金のないものは、追い立てられるように、穴倉のような狭い空間へと連れて行かれ、そ
こに身を横たえるのだ。
 そして俺には金がなかった。

 車体の後部に行くほど、部屋数は多い。そして最後尾ともなると、人間がなんとかひと
り潜り込めるくらいのスペースが何百も並ぶ。そこにはむき出しの金属があるだけで、い
かなる飾りつけもない。そしてところどころ、木切れが打ち付けてあったりする。通路も
申し訳程度のものしかなく、いたるところに謎のパイプがむき出しになっており、まるで
動力部に迷い込んでしまったのではないかと錯覚してしまうほどらしい。

 そして、さらにランクの劣る客室がある。車体の外の追加スペースだ。棺のような箱が
一つ一つ、合計何百も、手当たり次第に車体の表面にボルトで取り付けられている。一体
なぜ秩序だった取り付け方をしなかったのか、まったく理解に苦しむ。

 そしてその中のひとつが、俺の部屋なのだった。
138 ◆U4jQgFN8e. :2008/09/01(月) 16:26:28 ID:jjYdak/l
(3/4)

 俺が車両に足を踏み入れてすぐ、狭い通路の脇の、薄暗い闇の中から汚れた顔の男が現
れた。
「番号は?」彼は言った。
 俺はそこで初めて、彼が案内係なのだと気づいた。低ランクの車両ゆえか、彼の身だし
なみには客に気を使う様子は一切感じられなかった。街の浮浪者でも雇ったのだろうか。
「18-076」俺は答えた。
 彼は無言で窓の外を指差した。

 車体の窓から身を乗り出し、上を見ると、車両の表面にハシゴ状の取っ手がいくつも上
に向かって等間隔に並んでいた。俺はそこから外面を伝ってのぼり、機関車の屋根にたど
り着いた。10数メートルの高さだ。そこからは街を遠くまで眺めることができた。半年間
滞在したこの街での日々が、断片的に思い出された。逆方向を見ると、そこには荒野が果
てしなく広がっていた。砂交じりの風が吹き付けてきた。

 改めて足元に目をやる。まるでここは棺が容赦なく捨てられた粗大ゴミ置き場のようだ。
俺は箱から箱へ、滑らないように軽快にわたった。そのほとんどに人が丸まっておさまっ
ているはずなのだが、おれは気にせずその上を飛び移った。中の者にとってはうるさくて
しょうがないだろう、しかしこちらとしても仕方がないのだ。早く自分の箱を見つけない
と、機関車が出発してしまう(この街では車両点検すら行われず、異様に滞在時間が短い
のだ)。見つけられない場合、猛スピードの中、まともに風を浴びながら、車体の外にへ
ばりつくことになる。
139 ◆U4jQgFN8e. :2008/09/01(月) 16:27:31 ID:jjYdak/l
(4/5) (失礼、もうひとつ追加します)

 しばらくして、表面に適当な字で「18-076」と書きなぐってある箱を見つけた。
 俺はもう一度番号を確認した。確かにここだ。
 一見したところゴミ山の上に箱が乗っかっているだけにしか見えないので、本当に固定
されているのかどうか、箱を揺さぶって確かめてみた。確かに固定されている。しかし固
定部分が緩んでいるのか、数ミリぶん、箱がガタガタと動くのがわかった。これくらいな
ら心配はいらないだろう。

 俺は取っ手を掴み、金属のフタを開けた。フタは薄く、簡単に持ち上がった。
 俺は中に身を滑り込ませた。
 狭い。自分の体が精一杯で、荷物が入らない。
 これでは、荷物を外に置くしかない。幸いにも凹凸ばかりの車体なので、そのあたりに
麻袋をほうっておけば必ずどこかに引っかかるため、転げ落ちてゆく心配はなさそうだっ
た。俺は外に這いずり出て、毛布だけを取り出し、麻袋をその辺に転がした。毛布を体に
巻きつけ、改めて箱の中に入った。
 フタを閉めるために手をかけたとき、わずか60cmほど向こうにある箱のフタが開き、垢
だらけの中年の顔がぬっと現れた。すぐに顔は隠れ、金属音を残して、そのフタは閉めら
れた。

 そのとき、汽笛が鳴った。
 出発するのだ。
 機関車が巨大な鉄の体を揺らし、動き出すのが感じられた。
 俺はフタを閉めた。箱には隙間があり、完全な暗闇にはならなかった。

 先ほどの男の無表情な顔が俺の脳裏にこびりついていた。彼は一体どのような人生を送
ってきたのだろう、と俺は考えた。しかし、それを彼に聞こうとは思えない。彼の顔を見
るに、すでに感情も言葉も忘れているのではないだろうか、とすら思えた。
140 ◆U4jQgFN8e. :2008/09/01(月) 16:28:47 ID:jjYdak/l
(5/5)

 昔のことを思い出した。
 俺はかつて一度、この機関車に乗ったことがある。
 まだ俺が幸福な少年だった頃。あのときはまだ6歳か7歳だった。俺たち家族は三等客室
に通された。
 三等! それがいまや十八等の身分だ。
 おぼろげな記憶のなかで思い出すに、この機関車もかつてはもう少しマシな体をしてい
た。しかし俺が転落の人生を送る間にも、こいつは走り続け、そして度重なる突貫工事の
末、ますますその容貌はいびつなバケモノじみたものに変化していったのだ。

 そして俺はこのバケモノにしがみつくハエのようなものでしかなかった。

 機関車は速度を少しずつ増した。箱の隙間から、風が入り込んできた。夜にはかなり冷
え込むだろう。
 揺れは増し、俺は体を壁に何度も打ちつけた。毛布に包まって衝撃が緩和されていると
はいえ、不快であることに変わりはなかった。
 次の駅まで七日間、これに耐えなければいけない。

 何事もなく、目的地につけるだろうか? ……「棺のような」という形容がピッタリの
この箱だが、その例えはほぼ正解に近い。機関車が駅に着いた際、乗務員がこれらの箱を
開けてみると、中で人が死んでいるのが珍しくないということだ。たまたま頭を打ち付け
たためだったり、衰弱のためだったり、何者かに刺されたためだったりと、理由は案外い
ろいろとある。

 その間、先頭近くの車両では、裕福な連中が優雅に過ごしているのだ。

 俺は貧乏を呪った。
141名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 16:28:55 ID:cDRxKN05
支援
142 ◆U4jQgFN8e. :2008/09/01(月) 16:30:05 ID:jjYdak/l
以上です。
なんにも起こらないうえに、地味で長いだけの話になってしまいました。
143名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 16:31:27 ID:MFteZhAx
>>142
やべえカッコええよGJだよGJ!
地味じゃなくて渋いよ!
144名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 16:31:51 ID:j3tNCgyQ
すげーわくわくするwww
みんな力あるなあ
145119:2008/09/01(月) 16:58:10 ID:wPyU3DfL
>>119の続き

 機関車の乗り心地は悪路の馬車よりは悪くないって程度で、ガタンゴトンとかなり
揺れる。僕達が乗っているのは三等客席だから椅子は固いくて狭いのでお尻が痛くて
仕方がない。窓の景色はびっくりするような速さで前から後ろへと流れて行く。景色を
見て楽しもうにもそんな事は出来やしない。

 クリスチーヌは先程から窓を鏡替わりにして帽子の角度をひたすら調整している。
 本人いわく桜色の絹のリボンがお気に入りらしいが、僕にはそれにどんな価値が
あるのか解らない。ましてやオーガンジーで縁取りなんて言われても困るのだ。
 まあ、クリスチーヌは見た目は悪くない。艶やかなブルネットの髪は風に当たると
サラサラと靡くし、象牙色の肌は陶磁器のように滑らかだ。瞳は黒真珠を思わせる
輝きを放っているし、クリスチーヌは街で沢山の信奉者に囲まれる事だろう。
 それに引き換え僕はと言うと色素の薄い髪にオオイヌノフグリみたいな瞳の色だ。
肌なんか毎日父さんの畑仕事を手伝っていたせいで真っ赤に焼けてしまっている。
 でも、そんなのは関係ない。この機関車が行き着く先には新しい毎日が待っているのだ。「ちょっと出掛けてくる」
 すくっと立ち上がると、僕は脇に抱えていたかばんの中からタッフィーの入った缶を
取り出し、クリスチーヌにぽいっと投げ渡した。
タッフィーをあげるから荷物を見ていてとクリスチーヌに伝えると、彼女は呆れた顔を
しながらもタッフィーを一粒口に入れ、再び窓に映る自分に向かって百面相を始めた。

 機関車なんて滅多に乗れる代物じゃない。三等客席のチケットでは行ける所は限られて
いるけれど、とにかく冒険だ。僕はとりあえず四等客席へと向かった。
 四等客席は一番安価だけれども様々な人が乗っていると言う。地方から街へと出稼ぎに
行く人、何かの訳ありの人、船乗りの人は四等客席の雰囲気を好んでいるとも聞いた
事がある。果たしてどんな人々が乗っているのだろうか。
 母さんは四等客席は危ないからと僕に行かないように言っていたけれど、それはそれ。
 胸一杯に膨らむ好奇心と小指の先っちょ程の不安。僕は大きく深呼吸をし、力強く
四等客席への扉を開けた。
146 ◆UfPI417KJM :2008/09/01(月) 17:06:38 ID:VjEy4bki
  
 砂の中には「なにか」がいる。砂の中、確かにそれらは目覚めをただ、待っていた。あるものは砂の中で動きを停め、
またあるものは彫像と化しながら。人の姿を模したもの。でも、中はがらんどうな【人形】たち。それがいつの時代から
在るのかなんて誰も気にしない。そこに在るものは在るのだと、旅人たちは別段、気にも留めずにただ通り過ぎていた。
 ある物は蹲(うずくま)り、ある物はガッシリと力比べをするように組み合い、またある物は長い棒を膝立ちで構えたまま
動かない。時折、空を飛ぶ鳥が羽を休めに止まる。その場にに流れるものは風と砂と時だけ。そう、この瞬間までは。

 「……寂しく、無いの? 」

 少女が、膝立ちして棒を正面に突き出した【人形】に話しかけたのは気まぐれに過ぎなかったのだろう。【人形】の肩に
白い小鳥が停まり、頬の当たりを嘴(くちばし)でつついて注意を引いているように見えただけのことだ。【人形】には目も
鼻も口も無い。あるのは兜についているような目庇と丸い2つの目のような覗き窓、ちょうど口のあたりに付いている、
蛇腹のような形をした、長い管だけ。別段、答えなどは期待してもいなかった。それが、【声】を放つまでは。

 『――命令だからだ。ここで向こうを狙って構えていろ、そう受領した』
 「いつ?」
 『自我に目覚めてより129082946583937265937回目の払暁、03:00に。威嚇せよ。…そう言われた』
 「他の人達は…喋れないの?」
 『――眠っているだけだ。我は歩哨。センチネル。見張るもの』
 「じゃあわたしが、もう自由にしていいよ、ってあなたに言ったら? みんなに、おきろー! って言ったら?」
 『……そんな事を試した人間など全く居ない。我には予測不能だ』
 「じゃあ試して――」

 少女は深呼吸して、その場をのた打ち回った。無理も無い。熱砂の中で、暖められ過ぎた空気を直接吸い込んだのだ。
鼻粘膜や気管、肺を火傷しても仕方の無い、とても軽率な行為だった。少女は暫くして痛みが治まったのか、転げ回る
のをやめると、鼻と口とを厚い布で覆い、荒い息の中、そっと【人形】の、右の耳元の部分に囁いた。

 「――もう自由にしていいよ、【センチネル】?――いっしょに行こ」

 いっしょに行こう。つい口に出してしまったのも、少女のただの気まぐれに過ぎなかった。本気などでは無かったろう。
――しかし。

 『I am copy. 』

 【人形】は肩に少女を乗せ、ゆっくりと立ち上がっていた。降り積もった細かい砂が、日光の中、輝き、零れ落ちていく。
人間の大人とされる身長よりもかなり高めの上背を持つ【人形】は、危うく落ちそうになる少女を苦も無く片手で抑えた。
その腕の色は、手に持った長い棒と同じ、夜を切り取った色。全身が、夜の色。瞠目する少女に、【人形】は首を向け、
丸い双つの窓、『目』に少女の顔を写した。黒一色のそれが、紅く妖しく光った。

 『さあ、何処へ行く?』

 少女は辺りを改めて見直した。首の取れた【人形】の仲間達の残骸が転がっていた。骸骨も何も無い、【人形】たちの
場所。子供達だけの、大人の通過儀礼としての度胸試しの試験場だった砂丘。もう、用は無い。無事に街に帰れば、
少女は大人として認められるのだ。日没までに戻らなければ、盗賊に襲われる危険も出て来る。

 「街へ、帰るの」
 『街?』
 「う〜んと…まっすぐ!」
 『I am copy. 揺れる。気をつけろ』

 長い棒を左脇に抱え、右手で少女を保持したまま、【人形】、【センチネル】は砂を蹴り、幾星霜もの間、全く自ら稼動する
ことが無かった両脚を使い、力強く走り出した。――――少女の、指差す方へ。
147 ◆UfPI417KJM :2008/09/01(月) 17:10:34 ID:VjEy4bki
>>145
被った! すまない! …ついボンバーキングのED思い出したんだよぅ! 書きたかったんだよぉ! …んじゃ
148名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 17:12:28 ID:0wpU+VpL
つながった話だと思って読んでたwwwwwwwww
149名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 17:14:03 ID:j3tNCgyQ
よう俺
150名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 17:15:31 ID:cDRxKN05
普通によんでしまったw
151名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 17:26:58 ID:jjYdak/l
交じり合って、シェアード・ワールドらしいではないですかw

>>143
ありがとうございますー。これからも頑張ります。
152名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 17:52:48 ID:gScJGDtZ
シェアード・ワールドで、舞台が完全に現代で、オリキャラの設定を考えたりして
みんなで一つの青春物語みたいなのをやってみたいんだが、賛同者居る?

なんかそれぞれの書き手によってはドロドロしたりしそうで面白そうなんだが……。
ただスレ乱立みたいになるかも知れないし、遠慮なく叩いてくれ。
すぐ諦めるんで。
153名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 17:57:30 ID:OIJ2AMzX
>>152
そっちのが書きやすいかも知れない。
154名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 17:57:55 ID:cMYl3CGb
>>152
俺もどちらかというと現実に近い世界間のほうが書き易いかな
という訳で一応賛同はしてみる
155名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 17:59:03 ID:+G9BZvJp
>>152
賛成してみる
156名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 18:02:00 ID:j3tNCgyQ
LRが改正されるまでは思いついたらどんどんスレ立てて良いんじゃね
改正されて削除されるぞーってなったらそのときにどうするかまた考えれば良いし
157名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 18:06:19 ID:gScJGDtZ
じゃあ試しに立ててみるわ。
158名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 18:06:20 ID:+G9BZvJp
男は度胸、なんでもやってみるもんさってことか
159名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 18:12:21 ID:gScJGDtZ
立ててみた。

【シェアード・ワールドで青春物語】
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220260279/
160名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 18:49:45 ID:0zN+3idZ
「見たまえマイルズ君!景色が凄い速さで遠ざかっていくぞ!」
「はいはい、そうですね」
僕と博士は、機関車に乗って砂漠の街へとむかっていた。
僕が機関車に乗るのはこれが初めてではない。
帝都へ来る時も利用したし、主要都市郡にも幹線が延びている。
しかし帝都生まれの博士は、外に出た事がなかったようだ。
帝都から離れるにつれ、窓の外から見える景色に興奮する。
その姿はまるで子供のようだ。
まったく、どちらが弟子かわかりはしない。
僕は溜め息をつきながら、博士の言葉に相槌をうっていた。
「先生、僕達は遊びで行く訳じゃないんですよ?」
「わかってるよマイルズ君、新しく発掘された遺物の調査だろう?
もちろん忘れたわけではないさ」
窓の外を眺める視線を逸らさずに博士は答える。
まったく、本当にわかっているのやら……。
僕も外を眺める事にした。
といって、帝都周辺とは違って線路の周りは、
一面の砂漠と巻き上げられる砂埃しか目に入らなかった。
日差しが照りつける、無機質な黄色い世界。
特に何の感慨も浮かばなかったが、博士はいたって上機嫌だ。
……。
……?
……おや?
砂埃のむこう、視界の先に何かが見えたような気がした。
目を細めてみるが、その何かは確認できなかった。
……気のせいか。
僕がそう思った時、車内に警報が響き渡った。
車内食や就寝の時間を知らせる時とはちがう、切羽詰った音。
訝しがる車内の空気を、誰かの叫びが一掃する。
「カエルだーーーーーー!!!」
161名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 19:35:16 ID:j3tNCgyQ
ついに飛び出してやった。
これでもう口うるさい両親と村の爺さん婆さんからはオサラバだ。
複座型のプロペラ機の中で私は小さく呟いた。
「ああ…町があんなに小さいよ。怒られないかな、お姉ちゃん」
後部座席でいつまでも子供のような弟が不安そうに声に出す。
怒られるに決まってるじゃないか。
頭ではそう思ったものの、言わないでおくことにした。
もし戻ろうなんて言われたら今までの努力が全て水の泡だし、
断って機体の中で喧嘩など始めたら大変なことになる。

「大丈夫よ、きっと。あそこには何か特別なものが有るに違いないんだから!
 それさえ見つけて帰ればきっと誰も何も言わないわ」

そう、私たちが目指すのは丘の向こう、果てしなく遠くで、空に向かい一直線にそびえるあの緑の塔だ。
あれの存在を不思議がる少女も、近付いてやろうとする少年も居たが、
大人達は何がなんでも彼ら彼女らを阻止し続けた。
小さな頃から負けん気の強かった私はいつかあそこに行ってみようという野望を胸の中で燃やし続け、
小さな頃から頭の良かった弟はいつかあれの正体を知ってやろうと探究心を心の中で燃やし続けた。

それから月日は経ち、私達がもう大人と呼ばれても差し支えの無い年になった頃、
私は近所の大きな都市で郵便屋に就職して操縦を学び、弟は職に就き十分な資金を貯めていた。
そしてこの度ついに10年来の計画を実行した…という寸法だ。

「それにしてもお姉ちゃん、あれって何なんだろうね?」
「馬鹿ね、それを今から確かめに行くんじゃない」
そんな会話を機内で何度繰り返しただろうか?
飛び始めて2時間が経ったと私の腹時計が告げた頃、突然緑色の塔が大きくなってきた。

「ほら、もうすぐ着くみたいよ」
「本当だ。随分一気に近付いた気がするね」
「ええ、本当。まるで塔が私達に近付いてきたみt……あれ?」
「お姉ちゃん、あの塔本当にこっちに向かってきてない?」
「偶然ね、私にもそう思えるわ……それどころか黒い穴が出てきたわよ……?」
「出てきたわよ…じゃないよ!早く回避回避、このままじゃぶつかっちゃうよ!!」
弟の切羽詰まった声でぼんやりしていた頭が元の世界に引き戻される。
あわてて操縦桿を握るが、
「あれ、操縦桿が動かないわよ。ちょっと、弟、そっち触っちゃ駄目って言ったでしょ」
「触って無いよ!ってあっ…あっ……」
「もう駄目だああああああああああああああああ」
私達の機体は塔に開いた大きな穴目掛けて突っ込んで行き、同時に私達二人の意識は途切れていった。
162 ◆Tt7VpJAYxU :2008/09/01(月) 19:43:07 ID:0wpU+VpL
 今年も、長耳族の移動集落は何の問題もなく領境付近を通過した。
 彼らを市街に受け入れてはどうか、とアルゴンは幾度も考えたが、思考の結果はいずれも否であった。
 人間世界の西南の果てである、パクス皇帝属州は、それゆえ人間勢力の外からの防衛を義務付けられている。
 にも関わらず、機械や魔術といった特殊かつ有用な技術は、パクス地方に入ってきていない。
 大した産業もなく、物資を必要とする最前線であるにも関わらず豊かではない土地柄、人の流れで入ってくるのは期待できないのである。
 よって領内が不穏になる要素を、受け入れている余裕はなかった。
 とはいえ、技術や人間の流入が少ない時点で、パクス皇帝属州も人間世界の外として扱われているのではないかという疎外感もあった。
 頭を振って、思考を止めた。
 こんな土地に交易品を持って訪れる者は、おおむねが人類霊長主義者である。彼らの不興を買えば、属州領の維持は困難になろう。
 長耳族を蔑むのは、彼らが神代の古文書に「奉仕種族」と明確に規定されているからである、というのが、人類霊長主義の連中の言い草である。
 人間は神の子なのだから、その地位は神に次ぎ、他のすべての上に立つのだそうだが、一神教の古文書など信じるに値しない。
 その言い草のために、長耳族のような、友好的ではないにしろ敵対する必要もない種族を、どれくらい「防衛」しただろうか。
 アルゴンが学んだ、総督家の軍学には「敵を味方にすることこそが最良の戦術である」と記されている。

 かつては、パクス地方は帝国有数の一大軍事基地であったという。
 国中の精鋭と一流の人材、最新の物資が集められ、帝国領の防衛だけではなく、国境を脅かす者があれば先制して出撃する役さえ請け負っていた。
 パクスを経ずして将と名乗るなかれとさえ言われたことがあった。
 現在残っているのは、優秀な総督の血筋と、勇猛で知られる兵、そして平和を意味する「パクス」の名。
 せめて機械や魔術が技術として確立するまで、帝国の支援が持てば、今のこの状況も違っただろう。
 今では、帝都劇場の修繕にかける予算の方が、パクスへの軍費支出よりも高額であるという。
「総督」
 執務机で仮眠をとっていたアルゴンを、官僚の声が起こした。
「長耳族が戻ってきたか?」
 季節的に、長耳族の移動が済めば、しばらく不穏な動きをする種族はいないはずである。
 彼らが、何らかの要求のために、時折取って返してくることがあるのは度々あることだった。
 場合によっては、兵を出すことになる。流浪の民となった長耳族は、信じられぬほど弱い。
 アルゴンは、時折一方的な虐殺に終わることもある長耳族との折衝を厭っていた。
「帝都のアウルム財閥から、使いの方が」
 言いかけて、アルゴンの俯いていた姿勢が仮眠であったと気づいたのか、官僚が口ごもる。
「……あの、日を改めていただくよう申し伝えて」
「いや、構わないよ。すぐにお出迎えしよう」
 念のため疲労が顔に出ていないかどうか確かめて、アルゴンは執務室を出た。


///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

試験投下

クエストを発注するNPCのイメージで作ってみた。
もしくはドラクエの終盤なんかにあるような、魔王の城に近くて周りの敵も強くて、
さびれてるくせに最強クラスの武器を売ってる村。

続き予定。
163 ◆Wramvk0D7M :2008/09/01(月) 20:07:23 ID:MFteZhAx
せっかくだし空にこだわってみっか。
「空賊」「ケロさん」「空を<跳ぶ>種族(>>108)」「ウサミミの種族(>>127)」を使って。

(1/3)
 ぺてぺてぺてぺて
 シスタ級雲上艇・カトルフィッシュ号は、今日もゴキゲンにへっぽこな音をたてて空を泳いでいる。
 雲上、とは名ばっかり。カトルフィッシュ嬢ちゃんの出力と大小26基のプロペラでは、せいぜいがとこ高度800mが精一杯。
 事実、嬢ちゃんの頭上には、幾重にもわたって雲がたなびいている。
 でもカトルフィッシュの嬢ちゃんはそんなコト気にせず、ゴキゲンに黒と白の機関煙を吐き出して、ぺてぺて、陽気に空を滑っている。
『ホラ、アタシの来た道をごらん。アタシの吐いた煙が筋になって、雲になってるだろ? だからアタシは<雲上艇>なのさ』
 とでも言いたげに。
 さて、そんなカトルフィッシュの甲板では、今日も今日とて
「ジョッシュ! ビリー! グスタフ!! いったいいつまで寝てんだい! とっとと起きないと飛びエイのエサにするよッ!!」
 とまあ、怒号が響くのだった。
 怒号の主は年のころ23、4の、空賊らしくよく空焼けした女性。
 彼女は程よくくびれた腰に手を当てて、船室からもそもそと出てきた野郎3人を見下ろ…いや、見上げた。
「お早うございます」
「何時だとおもってんの?」
「ああ、遅ようございます」
 野郎の一人が悪びれもせず言った。発言したのはグスタフなのだが、ぶっちゃけこの三人はみんな似たような顔をしていて、
というかどーでもいい存在なのでこれから先はてきとーに扱う。
「グスタフちゃ〜ん? そんっなに地面とキスしたいの〜?」
「キャプテンとなら、喜んで」
 ん? キャプテン?
 自分より頭一つ以上背の高いグスタフにのしかかられて「んん〜〜」と唇を奪われそうになっているこのちんちくりんが?
「処刑、執行!」
「アイアイ! キャプテン・レイチェル!」
 そう。寸刻前まで大男に掴みかかられてじたばた暴れていたこのちんちくりんが、何を隠そうこの船の船長、空賊レイチェルその人である。
「ね、君たち、冗談だよね?」
「許せ」
「船長命令だ」
「ちょ、待て、やめ!!!!」
 ビリーとジョッシュに両足を引っ掴まれて甲板の外でぶらんぶらん揺すられているグスタフを見て、レイチェルは満足そうにうなずくと、
「あと1、2分そーやったら、舳先にでも括り付けときな!」
 にんまり、そう言い放った。
「ブッサイクな女神像だな、おい」
 ジョッシュがロスに言う。
「厄を呼ぶんじゃないか? こんなの飾っといたら」
 ビリーがジョッシュに言う。
「たーすーけーてーー! もーうーしーまーせーんんーーー!」
 叫ぶグスタフ。
 そんな何事もない、カトルフィッシュの朝の光景。

 異変が起こったのは、昼をほんの少し過ぎた頃だった。
「船長」
 ふわり、と、やることも特にないので一人で先にお弁当を食べていたレイチェルの横に、痩身の男が音もなく降り立った。
「なーにー? ロイ」
 ロイと呼ばれた黄色い瞳のその男は、す、と、行く手を指差し、
「あっち。船影」
 カトルフィッシュ嬢のゴキゲンに奏でるプロペラ音に、かき消されるかかき消されないか程度の音量で言った。
「ふーん。悪いけどごはん食べてからにしてー」
 訂正。かき消される程度の音量で。
「あ、だから、船長。あっち、船影」

 結局。ロイがレイチェルに事を伝えるのに5分もの時間を費やし、
「船長ー! 2時の方向に艦影あり! 艦種、アズル級! 武装、しています!」
 その頃には別の目のいい誰かが、急を告げてしまったのであった。
164 ◆Wramvk0D7M :2008/09/01(月) 20:09:33 ID:MFteZhAx
(2/3)
「アズル級…武装商船か。たんまりもってそうじゃない」
 にんまり、レイチェルは笑ってそう言った。
 ただし。
「船長、目、金貨」
 ロイのその呟きは、プロペラ音にかき消されたか、誰の耳にも入ることなく虚空に消えたのだった。
「いーいー野郎どもー。相手は重武装で鈍足のアズル級だから、マトモに当たってもこっちに勝ち目はない。
んだからなんとかして相手の砲弾かいくぐって、後方上空から斬り込みをかけるよー!」
「ウヒョー! ムチャばっか言ってこの」
 作戦とも到底いえないレイチェルの発言に操舵士のカレンが興奮して、舵輪をぐるりんと一回転させた。カトルフィッシュの船体がぐらつく。
 彼女はノっている。
「んだども、オラたち16人しかいないのに、どーみても百人以上いるあの船切り込んで勝てる気がしねえだよ」
 ウサギの耳を持った気弱そうな青年が、純朴そうな口調で言う。さっき敵船の襲来を報告したのは彼である。
 ウサ耳族の彼はこの船ではロイについで目がいいのだ。耳なら一番。
「なーにー? ピーター、怖気づいてるのぉー? 耳垂れてるぞおー、うりうり」
「あの、船長、オラの名前、ピーターじゃねえだよ」
「いいの! うさぎっつったらピーターって相場が決まってんの!」
「ひでえ」
 長い耳を悄然と肩まで垂れ下げて、ピーターはため息をついた。
「よーし、機関全速! じゃんじゃん焚くんだよ!」
 それを尻目に、揚々とレイチェルが号令を下す。
 カトルフィッシュの排気筒から、それに応えるように景気良く黒煙が噴出する。
 接敵!
 轟音一閃、敵アズル級の砲門から、真っ赤に焼けた砲弾がカトルフィッシュを目掛けて飛び出す。
「よーし、こっちも景気づけに一発…」
「こっちからじゃ届かねえだよ!」
 颯爽と手を振り上げたレイチェルを制して、ピーターが怒鳴る。怒っているのではない。最大戦速で唸りを上げているカトルフィッシュのプロペラに
負けじと声を張っているだけなのだ。
 轟音、轟音、また轟音。
 金持ちの強みか、アズル級は雨あられと、真っ赤に焼けた砲弾をこれでもかホレこれでもかと撃ち込んでくる。
 悲しいかな、貧乏三流空賊であるレイチェルさん一味には、応射する射程もなかった。
 新式の性能のいい大砲を配備するお金などない。
 というか、正直高い砲弾を撃つのも気が引ける台所事情なのである。
「みんな! 振り落とされんじゃないよ!」
「うひゃひゃひゃ! うひゃうひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
 レイチェルの指令を待つまでもなく、めいめいは自分の得物を片手に、もう片手で舷側やらプロペラの支柱やらを掴んでいる。
「左40度! 右25度! アップトリム10度……あーもうめんどくさいカレン好きにやんなさい!」
「うひゃうひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
 上、下、上。左、右、左。
 カレンの高笑いとともに、ひらりひらりと砲弾の雨を、黒煙の尾を引きながらカトルフィッシュは華麗にかいくぐり、
「おケツ取ったっ! アップトリム5度!」
アズル級から見て8時の方向に交差せんとしている。
 位置は上。上を取った。
「あ、船長」
 眼前に迫り来るアズル級の威容に目もくれず、あさっての方角を見ながらのんきな声でジョッシュが言った。
「右舷。あれあれ」
「なーにーよ」
「ほら、右舷に、ケロさんが見えてる」
 場違いなその声に少々苛立ちつつもレイチェルがジョッシュの指し示した方向を見やると。
 雲の切れ間から、薬屋の店先に置いてあるよーなでっかいカエルの置物が、親しみやすくもどこか空々しい笑顔をのぞかせている。
165 ◆Wramvk0D7M :2008/09/01(月) 20:10:54 ID:MFteZhAx
(3/3)
「らっき!」
 空賊たちのジンクスとして、右舷に「ケロさん」を見ながら戦えば負けない、というものがある。
 根拠の如何は別として。
「よーし! これで勝った!」
 士気は大いに高揚したのである。
「カレン、あたしたちが切り込んだら、急速回頭しておケツにきっついのぶちかましてやるのよ!」
「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
 舷側から下を覗き込んだレイチェルの視界の端に、アズル級の甲板の板が飛び込んでくる。
「減速ー! よーし、野郎ども! 吶喊!!」
「お先」
 レイチェルの号令一閃、先ず飛び込んだのはロイ。彼は<空を跳ぶもの>。平地を歩くように高低を越える彼らにとって、4、5mほどの
高さなど人間が階段一段上がるほどの労もない。
「がん・ほ〜!」
 負けじと、レイチェルも舷側から戦場へと、身を躍らせたのであった。

 ぺてぺてぺぼへっ ぺてぺぼへっぺて
 数刻後。
 さっきまでの上機嫌はどこへやら。カトルフィッシュ嬢ちゃんは排気筒から時折抗議の意をしめすように
不規則な黒煙を定期的に吐き出している。
 航跡もふらふらと定まりなく、蛇のように波打った情けない有様。
 その理由は。
「まーーーーけーーーーーたーーーーーーー!」
 まあ、この一言につきる。
 哀れ、カトルフィッシュは敗走の際に一発いいのを貰ってしまい、
 ぺぼへっぺてぺて ぺぺぺてぼへっ
 ご覧のとおりの不機嫌である。
「いーセンいってたのにー…。そー言えば何人死んだ?」
「一人も死んでやせん」
「……そ。運が太いわね」
 同時に、全身絆創膏や包帯だらけの船長もまた不機嫌であった。
「ね、なんで? なんで負けたの?」
 聞かずもがな。
 誰も答えない。それはそうだ。船長殿の采配が間違っていた、などとは口が裂けてもいえない。
「何よばかーっ! うすらにたにた笑いやがって! ぜんぜん御利益ないじゃないの!」
 黙っている船員達ではなく、カトルフィッシュの行く手、北の空に向かってレイチェルは叫んだ。
 夕焼けの空、雲の切れ間から、薬屋の店先に置いてあるよーなでっかいカエルの置物が、親しみやすくも
どこか空々しい笑顔を、茜色に染まって今はちょっと神々しい雰囲気さえ漂わせた笑顔を浮かべている。
「ね、なんで? なんで負けたの?」
 船員たちに向き直り、レイチェルはもう一度同じ問いを発した。
 船員たちはしばし互いの顔を見合わせると、
「「「あそこ」」」
「なあに」
 船員たちが一斉に指差した先。船の舳先には。
「「「グスタフがあそこでサボってるから、人手が足りなくて負けましたーーー」」」
 この期に及んでもなお舳先に括りつけられたままのグスタフの後ろ姿があった。
「そか。じゃ罰として明日の朝まであいつあそこに括っときましょ」

 やがて日も暮れ、厨房から晩餐の匂いが漂ってきている。
 グスタフは縛り付けられたまま顔を上げる。
 涙にゆがんだ視界の遥か遠くで、でっかいカエルが相も変わらず空々しい笑顔を浮かべていた。
166 ◆Wramvk0D7M :2008/09/01(月) 20:12:41 ID:MFteZhAx
つーことでへっぽこ空賊レイチェルさんの話でした
「既出のフレーバーを盛り込む」をテーマに話を作ってみました。
真面目なストーリーが多いので、あえてバカっぽく。

…バカがバカっぽい文章書くと救いようのないバカになるね。
みんな上手いよなー……orz
167119 ◆meXrLVezBU :2008/09/01(月) 21:03:44 ID:wPyU3DfL
>>145の続き

「お客様、これより先は四等客席となります。立ち入りはご遠慮くださいませ」
 不意に後ろから声が聞こえて、僕は金縛りにあったかのように動けなくなってしまった。
そんな僕を押し退けるようにして、声の持ち主は四等客席への扉を閉めた。
「困るんですよねえ、こういう事は。円滑な運行の妨げになるんですよ。全くもう」
 深い紺の詰め襟に金モールをゆらゆらと揺らし、染み一つない真っ白な手袋で帽子の
鍔を押さえる。首にぶら下げた切符を切る鋏は車種の証だけれど、何かがおかしい。
だって、僕よりも背が低いし声変わりもしていない――子供が車掌?
「ええと、すみません。初めて機関車に乗ったので車内を冒険したかったんです」
「そうだったのですか。お客様位の年齢だと好奇心旺盛な方が多いですからね。気持ちは
解ります。ですが、規則は規則ですからね」
 そう言い切ると車掌さんは僕に敬礼をしてきた。僕はなんだかおかしくて吹き出し
そうになってしまった。さっきまでは四等客席に興味があったけれど、今は車掌さんだ。
ちょっと質問をしてみよう。
「車掌さんは見たところお若いようだけど、お幾つなんですか?」
 僕の急な質問に車掌さんはちょっとびっくりしたようだけれど、笑顔で僕を見上げて来た。
「自分の歳ですか?数えで16歳ですよ。だからまだまだ新米なんです。お客様は?」
「僕は満年齢で13歳で、この春から寄宿学校――アカデミーに入学するんです」

 僕の通う事になる寄宿学校は通称「アカデミー」と呼ばれている。アカデミーとは
錬金術の学校で世界の様々な知識が集結していると言われている。錬金術っていうのは
かつては無から金を作るための学問だったけれど、今は世界の理を紐解く為の学問の総称だ。
 最初の一年間で自然科学の基礎を学び、その後はそれぞれの分野へと別れて行く。
医学に科学に化学に金錬成学、古い文献を学びたいなら古代文字を習得しなければ
ならないし、才能のある人は魔法学を学ぶ事だって出来るのだ。
「それは凄いですね。頑張って下さいね。では良い旅を!」
 車掌さんは再び僕に敬礼をし、業務へと戻って行った。さあ、僕も自分の席に戻ろう。
168119 ◆meXrLVezBU :2008/09/01(月) 21:08:53 ID:wPyU3DfL
皆さん本当に上手いなあ。
自分の駄文が邪魔になっていないか心配だorz
169名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 21:37:07 ID:OIJ2AMzX
>>167
GJ!なんか穏やかでのんびりとした雰囲気が良さげです。
170 ◆txzp9/O3.w :2008/09/01(月) 22:54:56 ID:sWegQLTU
>>129リスペクト!

///////////////////////////////////////////////

「今年も来たぁ」
 と間抜けな声を同居人が出すので、俺は今日何回目か分からないため息をついた。
「来たって、《あれ》がか」
「そう、お城よ」
 同居人は頷いた。実に機嫌の良さそうな声色が、この暑いのも加わって、逆に不愉快極まりない。
「城だあ?一般的には船だって言われてるだろ」
「俺にとってはお城なの!あんた夢がないね」
 空飛ぶお城よ!かっこいい!と同居人は宣う。俺は付き合っていられんと首を振り、
しかしすることもないので同居人の隣に立って外を見る。
 じっくりじっくり近づいてくる大きな影。空に浮かぶ、あまりにも大きすぎて意味の分からない物体。
 もしあれが城だとしたら、乗っているのは巨人だろう。そのくらい大きい。
 俺は正直、もう見飽きた、と思っている。

「あの物体が丸いのか平べったいのか、それすら分からんのに」
 なんでそうも城だ!とはしゃぐことができるのか、いい加減いい年なのに。
 同居人ははん、と鼻で笑うと俺のほっぺたをつねった。
 夢なんか見てないと殴りかかると華麗に交わされる。
「あれを見ろ。よーく見ろ。じーっと見るんだ」
「…は?」
 俺は言われるがまま目を凝らし、例の《あれ》を注視する。
 特に目を引くものは何もないように思われる。
「表面だよ。あんまり近づくと逆に見えないんだ。…すっごい、機械っぽいだろ?」
「…さあ…俺にはどっちかっていうと土の塊の方が近いように思われる…」
 黒っぽい、以外に情報はほとんど無い。こうして数年に一度やってくるくせに、誰も正体を知らない。
 数日間曇りと同じ効果を与えて去っていく。
「馬鹿だな!あれはきっと動く巨大要塞なんだよ!きっと滅亡文明の残りものなんだ」
「はー、何だそれ。おまえ最近そういう本でも読んだのか」
 同居人の突飛な発想に俺は肩を落とす。脳天気もここまで来るとあっぱれだ。

 その昔この世界には高度な文明があったとか、よくある神話だ。
 本気で研究してる人間も居るらしいが、少なくとも“今のところ”庶民の俺たちには関係がない。
「おう、読んだ。そして俺は悟った!俺たちはこんなところでくすぶっているわけにはいかん!俺は行く!」
「…どこへ?」
「あの城の、上だ!きっと見たこともない世界があるんだ」
 同居人は目をきらきら輝かせている。確かに潮時かも。こんなつまらない日常もうごめんだ。
 一生に一度、冒険したっていいじゃないか。

 そう思った俺は、珍しくも同居人に同意し、しけた仕事としけたこの部屋を引き払う準備を始めたのだった。
171 ◆acote/ib76 :2008/09/02(火) 00:30:16 ID:ra40vNaB
<chillaura>14:50就寝、今沖田</chillaura>

ケロさんの名が定着しててワロタwwwwwwwwwwwwwww
172 ◆G.Jo4hrQXg :2008/09/02(火) 00:38:35 ID:JcG72vlO
なんだか面白そうなことやってるなあ
参加してみようかな
173 ◆acote/ib76 :2008/09/02(火) 01:13:04 ID:ra40vNaB
http://vsolge.dojin.com/sw/

暇だったので。
174名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 01:15:59 ID:aoD0Kz2e
>>173
すげぇwwGJ!
175名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 01:20:59 ID:2MOEJ7XZ
乙乙

それで、コテトリ付けて無いと載せて貰えませんか><
176 ◆acote/ib76 :2008/09/02(火) 01:23:35 ID:ra40vNaB
>>175
分別しにくいでござるよ。
「名無し」ってことで他の人ともまとめてになっていいなら、やっとくぜ。
リアルタイム工事中だから404の場所あっても勘弁な。
177名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 01:25:05 ID:p3CxSkpT
>>173
おお、ありがとう!
178名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 01:27:57 ID:evSZIt25
余計なお世話かもしれんが、そのまとめ形式だと管理人である貴方に多大な負担をかけてしまうことにならんかね?
大勢で編集できるwiki形式も悪くないと思うんだけど
179 ◆acote/ib76 :2008/09/02(火) 01:29:52 ID:ra40vNaB
>>178
俺もそう思う。
ただ単に俺がwiki慣れてなくてhtmlタグ打った方が早いからやってるだけで。
トップにも書いてある通り「俺が」見る用のスペースだし、
スレでちゃんと機能させるようなら、別にwiki作った方がいいと思うのぜ。
180名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 01:41:30 ID:2MOEJ7XZ
>>176
ああそっか、◆acote/ib76にとってあんまり需要がないならそこまでしなくても……って俺一人で勝手に名無しの総意みたいにするのはあれだけど。
労力も掛かるでしょうし、どうせだからwiki立ち上げてきましょうか
181名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 01:42:26 ID:2MOEJ7XZ
ってリロードしてなかった\(^p^)/
話題読めてなかった上におまけに呼び捨てにしちゃってますね、すいませんすいません
182 ◆acote/ib76 :2008/09/02(火) 01:45:09 ID:ra40vNaB
俺別に自分勝手にやってるだけだから変に態度変えなくていいしwwwwwww
そんなんでスレ消費してる間にもっと色々投下しようぜ。
183名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 01:52:16 ID:2MOEJ7XZ
文体がころころ変わって気持ち悪いのは素です><

つか、このスレの趣旨よく読めて無いんですけど、ここまでの流れが延々と続く感じなのか、
それともここまでで上げたのを一人一人完成させていくのか、どっちなんでしょう。後者ですよね?
184名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 01:55:55 ID:evSZIt25
んー、多分後者じゃないかな?
今はどんどんイメージを膨らます段階だからこんな風に短いので繋いでいってるけど、ある程度世界観が固まってきたらちょっと長めのを書く書き手も出てきそうな……
185名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 01:57:40 ID:2MOEJ7XZ
dですdです
そっか、まだ準備段階ですよね。そうですよね。(そうじゃ無い人ももちろん居るんだろうけど)
186 ◆UfPI417KJM :2008/09/02(火) 01:59:26 ID:T2RxYrov
>>183
始めてなんだね
それでは答えようか

Aが書いた登場人物・設定をBが利用して書いてもいいしその逆もまたOK
つまりはリンクさせてひとつの作品世界としていくのが目的なのだ

個々で完結させていくなんてシェア=共有の主旨に反するわけだ

だからこれまでの物語で使えそうな奴を物色して自分の作品に使っても
全く問題が無い、むしろパ○リ推奨なわけだ

○クリあってケミストリーを起こし新しいものを作り出す

それがシェアードワールドの醍醐味でもある
だが他人のキャラに喋らせるとか登場させるときは細心の注意を払うこと
合わないことをさせると元の作者からこんなんじゃねーよと文句付けられたりする

まあ楽しければそれでいい 節度を守ってキミもコテトリ付けて参加しよう!
187名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 02:01:10 ID:2MOEJ7XZ
>>186
詳しくthx、心に留めて置きます><
つか、全然理解できて無かったわ……
188 ◆acote/ib76 :2008/09/02(火) 02:02:42 ID:ra40vNaB
正直これって分類しようがなかったな。
htmlページ作りながらどんどんカオスになっていくのがわかるぜ。
189 ◆UfPI417KJM :2008/09/02(火) 02:03:54 ID:T2RxYrov
ちなみに>>146で私が利用させていただいたのは

・砂漠
・人間がいる
・街がある
・遺蹟や遺物はオーバーテクノロジーっぽい

と言う設定を使わせていただいた

もっとスレのレスが進み遠慮が無くなれば露骨に人名とかキャラとか借りる状態になると確信するw
190 ◆UfPI417KJM :2008/09/02(火) 02:09:18 ID:T2RxYrov
>>188
そう、マトメは地獄の道だ
設定されたものを追っかけるだけでも骨が折れる

・鉄道が砂漠にある
・人間側文明では蒸気機関が主機関な国家がある
・多種族が生きる世界である
・学問を追及できる高等遊民が生み出せるほど裕福である国家もある

等々、詰められてる段階なのだw ガンバレ!
191名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 02:09:34 ID:IV6L0NCv
「今はどの辺りにいるのかな?」
「ここだ。」
そう言って彼は地図の一点を指さす。なるほど、砂漠のど真ん中か。
「もう少ししたら町があるはずだ。」
彼は僕の思考を読んだように教えてくれた。
町があるということは、僕の仕事があるということになる。
やれやれ、僕達の代になったら急に仕事が増えたように感じる。
僕は最下階に行くと、機械の操作を始めた。
その町はすぐにやって来た。
正確には、僕達が向かっているのだけれども。
僕はその町の観測を始めた、前回来た時と、何が変わっているか、調べるのだ。

「何故僕達はこんなことをするのだろうね。」
「それが俺達の仕事だからだ、同志。」
僕は仕事が終わったら彼にいつもと同じ質問をして、彼はいつも同じ答えを返す。
彼は今、観測結果の分析に入るところだ。
僕は懐から煙草を二本取り出し、片方を彼に渡し片方を自分でくわえる。
そして口の中で呪文を唱えると、煙草に火が点いた。
今回は丁度良くできた。いつもは火が弱くて点かないか、強くて鼻先を焦がしてしまう。
本当ならばマッチを使いたいが、支給が絶えて久しい。
彼の方は強すぎたらしく、髭が少し焦げている。
「どうしてマッチが使えないのだろうね。」
彼はすぐさま答える。
「それが上の意向らしい。」
上、つまりこの国の権力者は、もっと国民に魔法を使わせたいらしい。
物資節約の為だとか。
まあしばらく着陸してないからね、この飛行船は。資料では一千年前だったかな。


この国は飛行船の上、いや違う、飛行船こそがこの国なのだ。
文明が進み、魔法を使う空の人々は、今日も<上>の命令に従い、働いている。
そして、この巨大な船に地上の人々は今日もあれこれ話し、そして自分の仕事に勤しむ。
192名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 02:10:14 ID:evSZIt25
>>186
多分>>183が聞きたかったのは、今のように他人のレスに繋げていく形で進めるのか、それとも世界観は共通しつつも完結した一つの話を一人の書き手が書くようになるのか……ってことだったんじゃないかなと推測
俺は後者だと思ってたけど
それとあまり関係ないかもしれないけど、作品投下時以外にもトリ付けるってのはあまりオススメ出来ないわ
初見さんには排他的に見えるし嫌馴れ合い派が噛みついてくるのが今からでも予想できる
193名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 02:13:52 ID:ra40vNaB
設定にしろストーリーにしろ、投下の際のみコテトリ使う。
でいいのかな。
194 ◆UfPI417KJM :2008/09/02(火) 02:22:37 ID:0evR71Dx
>>192
ん? 原則自由だよ やりたいようにやればいい
世界観さえ共通させることが唯一のルールであり正義

コテつけて喋ってるのは喋ってる人間が解る方がいいだろ、
ってスタイルで今はやってるからなぁ

みんな共有に馴れてきたら外すつもりでいるよ
195名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 02:26:20 ID:fxSW8J/m
まぁエスカレートするとコテ雑化して馴れ合い閉鎖的になっちゃうだろうから
そこは空気読むってことで


今まで出てる世界観では空の世界が好みだなー
砂漠の世界と地域や時間が違うだけで同じ世界ってことにもできそうだ
196名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 03:46:04 ID:ra40vNaB
http://vsolge.dojin.com/sw/main.html
多分今まで投下されてる分は全部保管出来たと思う。
各ネタごとのまとめページはまたあとで。

……あ、異種族忘れてた。
197名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 03:48:33 ID:fxSW8J/m
おつかれ
すっげー!ちょっと読んでくるっ!
198名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 05:00:01 ID:ra40vNaB
定期age
199名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 06:58:59 ID:mYp1SQog
>>196
乙でーす!
スレの流れでみるのと、こうしてまとめられたもの見るのではまた違った発見がありますよね。

…で、細かい指摘で申し訳ないんですけど、《船》のリンク先が「レイチェル」になってました。
不具合(?)報告させていただきます。

じゃ、オレもちょっくら読んできまーす
200 ◆acote/ib76 :2008/09/02(火) 07:06:02 ID:ra40vNaB
>>199
直したと思う!指摘ありがとう。
201名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 11:44:23 ID:tNEPamzv
昨日に比べると静かだな
そろそろ中長編を書き始めた人が増えてきたのかな
202名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 11:50:14 ID:/+ycOCte
好き勝手個々人がかってにオナニー小説を書き散らすだけの状況じゃ厳しいね

確固とした設定とテーマをしっかり決めて、それで書きださないと
203名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 12:09:28 ID:tNEPamzv
確かに、今の段階じゃどれもスケッチ止まりで
世界観を共有とかって話じゃないからねえ
やっぱ軸になる話がひとつはないと、シェアも難しいな

逆に言うと、今それなりにしっかりした話を出せれば
以後その話が基準世界になるってことな
ある種狙い目だね
204名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 12:16:14 ID:viun+4iy
俺は空の世界が好きだな

空に何か浮いてていつかそれにたどり着くことを目指してる発明家の話とか
空賊にあこがれる少年の話とか
飛行術つかった空中ダンスをやってる踊り子とか

いろいろ妄想が出てくる
205名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 12:28:27 ID:ra40vNaB
雰囲気からの推論だけど、設定だけをぽんぽん出すより、ストーリーに昇華しないと共有され辛いというか、
人によって違う解釈になったりするよね。
かといって誰か一人が柱のしっかりした設定のストーリーを書けばいいのかと言えば、
2chの性質考えると、それもそれで排斥批判のレスが出てきそうな気もするし。
今みたいにSSを、いろんな方面から少しずつ書いていけば、良い設定も自然淘汰されて残っていくんじゃないかね。
時間かかるけど。
206名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 12:34:39 ID:8WInYsVA
とりあえず>>202がどんな案を持って来たのか聞きたい
俺は今までいた場所の「一人で引っ張るなら自サイト作ってそこでやってろハゲ」の空気をそのまま持ってきてるから
こういうのはどうやればいいのかよくわからん
今の手探りの段階が一番おもしろいと思ってるし、現状不満ないから改善案が出てこないんだ
207名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 12:34:47 ID:nckOY9rF
今北用に、100レスごとくらいに
スレ内容のまとめとか書いてもらえると嬉しい

とりあえず誰か、ここまでに決まったまとめ内容とか教えておくれ
208名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 12:37:41 ID:/+ycOCte
>>206
>>204の言うように、「空」とかそういう共有できるテーマを置いた方がいいんじゃないかな?

ある者は魔王を倒しにでかけ、ある者は財宝を求め大海原にでかけ、ある者は山に芝刈りに・・・
ではまとまりが無いにもほどがある

過去に投下されたストーリーは尊重する形で、ここらでもう一つ、全体を俯瞰してみた方がいいんじゃないかな?
209名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 12:38:06 ID:fxSW8J/m
俺が知ってるシェアワールドやってるスレは
最初にスレ立てた1が書いたSSに、その同じ世界観で違う場所でのSS書いたやつがいて
最初はいた1がいなくなってもどんどん発展していってた
210名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 12:42:16 ID:7n2t15E0
>>208
それで言うなら、現状「空」と「砂漠の機械文明」でまとまりつつあるから
もう少し推移を見守ってもいいんじゃない?

ん。オレは他人の出したフレーバーアイテムを使いつつ、自分でもフレーバーアイテムを
提示するスタイルをもう少し続けるよ
211名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 12:43:35 ID:fxSW8J/m
空と砂漠の機械文明は地域が違うってだけで同じ世界の中に納められそう
212名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 12:48:08 ID:evSZIt25
>>208
そういうごちゃまぜ感がシェアードワールドの楽しさじゃね?
同じ世界観で同じテーマでって、似たような話になっちゃうじゃん
世界には政治家もいれば冒険家もいて、ただのサラリーマンもいればホームレスになった人もいて……
色んな視点から色んな話が出来て、でもそれが全部繋がった世界の話なんだぜってのが面白いんだと思う
213名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 12:52:48 ID:f6DC9k4S
そうだな
リレーじゃなくてシェアワールドなんだから

書き手によって全然違う立場の違うキャラが出てきて当たり前だと思う
214名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 12:53:48 ID:8WInYsVA
>>208
なるほど、背骨は必要だよな

でもまあ俺も、騎士団総出でガーゴイル狩りしてる別の地方で、
羊育てつつ平気でドラゴンキルしてる農家のおっちゃんがいるカオスが面白いと思ってるから
ある程度は野放しにしておいてほしい
もちろん流れは読んで、大きな脱線はしないように気をつけるよ

今はみんな流れ読みはできるから、そういう屋台骨を明文化するのは
ゴネるガキが目立ってきてからでいいんじゃないかな
215名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 12:54:06 ID:/+ycOCte
まあ、2ちゃんだからな

ワイルドカードにおけるマーティン・ポジションがいないんだからこんなもんか
216名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 12:55:26 ID:7n2t15E0
とりあえずシェア感を出す手っ取り早い方法として、共有キャラを作ってみるってのは?
例えば何でも屋ジョン・スミスとか。
何でも屋って職業ならどこにいてもおかしくないし、ある程度空と地面が隔絶されている事情にも通じてそう、とかいう。

…禁じ手っぽい気もしてきたが
217名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 13:04:07 ID:fxSW8J/m
今のところ「空」の世界の特徴はこんなものか?

・空を跳べる種族(魔法?そんなに高くは跳べない?)
・空を飛ぶ船
・空賊
・空にでっかいケロさん
・ウサ耳の種族など亜人がいる?
・船がなんなのかわからない地域の人がいる
218名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 13:12:46 ID:f6DC9k4S
スチームパンクっぽく飛行船つくってる地域と
そこまで技術が発展してないファンタジーっぽい地域があるってことかな
219名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 13:23:13 ID:ra40vNaB
>>217を参考に簡単にまとめてみたよー。

「空/宇宙」のまとめ
(※現時点で出されている設定を箇条書きしているだけなので、確定ではない)
(※時間軸は自由に。全て現在系で記しているが、過去のものとして扱ってもOK)



・人は言葉を唱えて高く跳びあがる術を持つ。(魔法要素?)>>85-86/>>95/>>108
・空高くを周回している「何か」がある。
 ├飛空挺説、空飛ぶ城説、旧時代の遺物説など。>>129/>>170
 └(※何か=ケロさんとして扱う作品もある。)>>114/>>118/>>127/>>160?
・空を根城にする空族が存在する。>>163-165
・人間以外の異種族が生活している。>>127
・スチームパンク的文明あり。(スチームパンク世界観との絡みも要検討)
・巨大な飛行船そのものが「国」として成立している国家がある。>>191
220名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 13:36:42 ID:fxSW8J/m
空高くを飛ぶ「何か」に住んでるのが巨大な飛行船の国だったりして
221名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 15:42:48 ID:Hxk4BLoj
とりあえず今どこまでまとまってるんだ?
222名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 15:49:14 ID:E8QfZqBZ
最初の方に年表作るかって話あったよな

例えば、「FF13」が共通の神話をもとに、各スタッフが自由にそれを解釈して作品を作り、
3本で一つの世界として成立するという新しい手法を取って制作されてるんだが、
そんな感じで神話があると世界を作りやすいんじゃなかろうか?
223名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 16:50:42 ID:jpQTy1an
済まない、試しにシェアードワールド世界のおおよその設定を考えてみたんだが、
どうだろうか。

惑星「ネラース」(仮)設定
※なおこれ以降、特に断りがない限り現実世界の地球と同じ単位や用語などを用いて解説する。
特殊用語が出てくる際は、追って注釈をつけるので参照のこと。
※以下の文章では、以降シェアードワールドのを「ネラース」と仮称し説明を行う。
これはあくまで仮称なので、正式名称が決定次第そちらの名称に読み替えること。

惑星ネラースは、惑星としては標準的な、いわゆる地球型の惑星である。
その大気組成や重力、そして物理法則などは地球とほぼ同じである。
ただし地球との相違点として、惑星の直径が地球のそれに比べ大きいという点が挙げられる。
(具体的にどれほど大きいかは、必要に応じて設定すること。ただしそう極端に大きくはなっていない)

何故ネラースは地球に比べて大きな直径を持つのに、重力は地球と同じくほぼ1Gであるかと言えば、
ネラースはその地殻に一部空洞が出来ており、これが惑星直径にしては比較的弱い重力の原因となっている。
また、ネラースの地殻は地球の地殻に比べ分厚く出来ている。
(なお、地殻に空洞があると何故重力が弱くなるのか、という説明は少し長くなる&専門的になるので割愛。
物理の知識のある人間にヒントだけ言っておくと、ニュートンの万有引力の法則、から導き出される帰結である。
更に厳密な議論を行えば、惑星ネラースは直径が地球に比べ大きく、
よって潮汐力が大きいという要素も考慮する必要がある)

ネラースの地殻が、このような歪んだ構造をしている理由は、
ネラースの現代よりおよそ百万年ほど前、ネラースにおいて文化を築いていた知的生命体が、
惑星内部のマントル層から地熱を汲み上げ、文明を支えるエネルギーとしていたためである。
この地熱汲み上げと同時にネラースの古代文明人はマントル層を冷却し、
そしてそこから貴重な鉱石資源を掘り出し、その鉱床跡地は更に居住スペースとして使われていた。
当時何らかの理由でネラースの惑星表面は、古代文明人の居住に適さない環境になっていたため、と考えられる。

何らかの理由で古代文明人は滅び去り、百万年後の未来では、彼らの末裔がネラース表面に息づいている。
古代文明人の姿から、生息環境により様々な進化を遂げた彼らの末裔は、
エルフ、ドワーフ、ハーフリング(ホビット)、獣人族、妖精族のような、様々な姿に変わっている。
特にその中でも人間と呼ばれる知的種族は、最も古代文明人の形質に近い、いわば生きた化石ともされている。



ちょっと壮大過ぎる設定かも知れんが、試しにこれを叩き台にしてみてくれ。
ちなみに、「ネラース」の名前の由来は簡単。
「2ちゃんねらー」の作る「地球(アース)」だから、それをくっつけて「ネラース」だw
224名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 16:52:49 ID:jpQTy1an
ネラースの物理法則

ネラースにおける物理法則は、前述の通り地球世界のそれとほとんど変わりはない。
ただしその例外はマナ――すなわち、ネラース上で言うところの魔法の根源となる、フリーエネルギーの存在である。
ネラースを構成する要素は、
究極的には地球世界と同じく、陽子・中性子・電子やクォークのような素粒子まで還元が可能だが、
このマナというフリーエネルギーがここに作用すると、物質は魔法的な要素を帯び始める。
すなわち、マナの存在が濃くなってゆくにつれ、物質の根源は素粒子やクォークではなく、
地・水・風・火の四大を初めとした、魔法元素としての性質を帯びてゆく。
(無論魔法元素はこれら四つのみならず、光・闇・雷・氷・毒など、様々な属性が存在する)

ネラースでは、様々な自然現象を解釈し説明付けるための学問体系は大別して二つあり、
それぞれが「科学」と「魔法学」と呼ばれる。
これらはある現象を観察した時、そこに働くメカニズムをそれぞれのやり方で説明付けることとなる。

例えば炭が燃えるという現象は、科学的には炭素分子と酸素原子の化合による発熱反応、と解釈できる。
一方これに対し、魔法学ではこの現象を、炭の中の地属性元素と空気中の風属性元素との霊的な結合により、
火属性元素が生成された、と説明付ける。

ネラースにおいては、この二つの学問体系に優劣があるわけではなく、
どちらもネラースにおける法則を正しく説明し、予見できる。
ただし、どちらの法則を適用するのがより適切かは、周囲の状況によって決定される。
具体的には、マナが濃厚or飽和している地帯で起きる現象の説明には魔法学が有効で、
逆にマナが希薄or皆無な地帯で起きる現象の説明には、科学が有効である。
マナの濃度が中間程度であれば、これら二つの学問体系の有効度は同じくらいで、
むしろこれらの学問体系を併用し考察すれば、より精度の高い現象の考察が可能となる。

追記として、惑星ネラース上ではマナの濃度は一様ではない。
ある地方ではマナが濃厚であったりするし、逆にマナが希薄である地方も無論存在する。
またマナの濃淡は気象と同じく、ある程度の傾向をもって変動するため、
この変動を予知できれば、生活上に有用な情報を手に入れることが出来る。
(魔法研究が盛んな国家では、気象予報ならぬ「霊象予報」というサービスがある……かも知れない)



ちなみにこれが、ネラース(仮)世界で魔法と科学が共存している理由の説明。
要するに、その地域のマナの濃淡で、ある国がスチームパンクになるか
魔法の国になるかが決まるってわけ。
225名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 16:55:57 ID:jpQTy1an
それから、

>>106
>>189
>>219

あたりに出ていた設定を上手いことつぎはぎして、一個国の設定を考えてみた。
もしかしたら先のSSで国の名前が出ていたかも知れないんで、そうだったら
同じく名前は読み替えてくれ。



サピエンティア皇国
惑星ネラースの低緯度地方に存在する国家。
低緯度高圧帯という気象条件のせいで、国土面積の六割は砂漠という不毛な立地条件にあるが、
これを克服したのがサピエンティア皇国の打ち出した、国家を挙げての科学研究の推進策である。
この国策ゆえに、現在サピエンティア皇国の全土には鉄道網が整備され、
「蒸気機関車」と呼ばれる交通機関が国家内を行き来している。

サピエンティア皇国は、ネラースの中でも極めてマナが希薄な地方であり、
よって魔法学の発達はほとんどなかったが、これを背景として特殊な国家体制が敷かれている。
すなわちそれは、個々人の科学技術に対する知識や経験量に依拠した、カースト制度である。

科学についての知識を持たない最下層の労働者階級は、灼熱の砂漠に存在する鉱脈から鉱石や化石燃料を採掘し、
それを蒸気機関車で国家のあちこちに存在する工場に運ぶ、という鉱山夫の役割に徹し、
国家のインフラストラクチャーを形成するという役割を担っている。

比較的気象の穏やかな国家の北部や、砂漠のオアシスに住まう技術者層は、
労働者階級からもたらされた資源から、様々な生産物を生み出しているが、
彼らもまたこのカースト制度から逃れることは出来ない。
より高等な技術を理解し、上質な発明品を作れる者はより上層の階級に食い込みうるが、
大抵の技術者は支配層にまで登り詰める事は出来ず、一生技術者層にとどまることを余儀なくされる。

この国家の性質上、無論支配層を占める人間は、全員が全員とも政治家にして優秀な発明家である。
彼らは自らの発明や技術を独占し、下層に対し教えることを厳禁しているため、
彼らの住まう上層階級の居住区域は、蒸気機関車を越える高性能な発明品で溢れかえっているが、
それらが下層の人間の手に届くことはまずない。

なおこの国は比較的ネラースの赤道に近いため、宇宙開発の拠点として、優れた立地条件にある。
「宇宙船」や「マスドライバー」などという不可思議な言葉が、時おり上層階級の噂話から
漏れ聞こえてくるが、その真意を知る者は国家の中でもごく一部、となっている。
226名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 16:58:41 ID:jpQTy1an
>>223-225
以上。

オナニー設定乙とでもレスを付けてくれ。それじゃあノシ
227名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 17:11:16 ID:tNEPamzv
個人的にはマナの濃淡設定は好きくないのう
単に技術進歩の方向性に地域差があっただけって方が融通ききそーだし
228名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 17:25:12 ID:8WInYsVA
>>162のつづきかいてたのきえた(^q^)


せっかくだからなんか合わせた方がいいか?
機械も魔道もないガチムチ武闘派集団なんだけど、何か「はじっこ」を決めた方がいいと思って>>162なんだが
229名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 18:40:44 ID:GqA6TnWt
寿命の長いエルフが技術を独占して、下層市民がそれ以外の種族ってだけじゃん
230名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 18:57:34 ID:xTXWW7F6
設定に懲りすぎな感じがしないでもない。
231名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 19:12:28 ID:9YTKgqIo
とりあえず一ヶ月くらいはみんなテキトーにバーっと書いて、
頃合を見計らって設定の矛盾を解消する後付設定や
隙間を埋める設定を作ればいいんじゃね
232 ◆KFkrWlFr7E :2008/09/02(火) 19:53:29 ID:kWWza1vM
「よう」
カエルの置物の横を通り抜け、目の前の扉を開け気楽な挨拶を掛ける。

「いらっしゃい」
相手は満面の笑みを浮かべた一人の少女。
黒髪を後ろで軽く束ねただけ。目の色も黒く、エプロンをしてカウンターに立つ姿は
親のお手伝いをしている少女のようにも見える。

しかし、この少女はこの薬屋の立派な店主なのだった。

「今日は何の薬が御入り用かな? 頭痛? 吐き気止め? それとも胃薬かな?」
笑みのままその少女は言葉を続ける。

「あー。いや、今日は『アリス』の方に用事があるんだ」

「はいはい、『アリス』ね、それじゃ、どの魔法薬が必要になるの?」
表情を変えることなく言う少女がそこにいた。

魔法薬
そう言われる薬が存在する。
一瞬のうちに傷が治る薬、衝撃を与えると爆発を起こす薬、本来人間が出すことのできない力を発揮する薬。
このような『まるで魔法のような効果を持つ薬』を総称して魔法薬と呼んでいる。
この薬の存在を知る者は少ない。
なぜならば、この薬を作ることができるものは『長命種』と呼ばれるとても珍しい種族のみだからだ。
『長命種』はヒューマン種と同じ姿形をしているため、見かけでは判断がつかない。
ただし、14歳ごろの姿になった後はそこから成長することがなく、無限ともいえる命を持つに至った種族である。
『長命種』は本来一つのところに留まることは少ない。
理由として、一つは、いつまでも同じ姿をしている存在は周りにとってひどく不自然であること。
また、さまざまな奇跡を起こす魔法薬の魅力は大きく、
過去魔法薬うぃ知る強欲な人間に捕まり、不幸な目に会った長命種が多いかららしい。

そしてこの少女、アリス=ティリアスも昔は旅から旅の暮らしだったらしい。
今もふらりとここから離れ旅をすることがある。
しかし、この少女は今、この薬屋を拠点としている。旅をしてもここに必ず帰ってくる。

「ああ、治癒の薬が欲しい」
「また危ない所にいくんだね。気をつけなさいね。オルカ君はいっつも危ないことばかりするんだから」
アリスの表情は笑みのまま、しかし若干心配そうな気配を漂わせている。

「大丈夫だ。アリスとの約束は忘れないさ」
「忘れたら承知しないからね」

彼女、アリスとの約束。俺が8歳ごろにした一つの約束

『僕は絶対アリスのところに帰るから』
『なら、私はオルカ君が帰って来なくなるまでここにいるね』
233 ◆KFkrWlFr7E :2008/09/02(火) 19:54:51 ID:kWWza1vM
それからアリスは町はずれの小さな家を薬屋として使っている。
あの頃の、俺にとっては他愛もない約束をアリスが守った結果だった。
20年が経った今の俺が、あの頃の俺に会ったら即効殴り倒してやりたいぐらいだ。
その約束のせいで、アリスは常に危険と隣り合わせの定住生活を送っているのだから。

「どうしたの? 考え込んじゃって? はい、これどうぞ」
「いや、なんでもない。ああ、ありがとう。それじゃ、これでいくよ」
「ちゃんと帰ってくるんだぞ」

そう言ってアリスは俺の額を突つく。いつまでも子供扱いは正直止めて欲しい。
しかし、それを口に出すことはない。相手の年齢がいくつかなんて俺には想像もつかないのだから。
俺はそう思いつつ背を向ける。

「じゃ、行ってくる」
「いってらっしゃい」

結局、いつもの挨拶を残して俺は歩き出した。
そう、このときの俺は、今の生活がいつまでも続くとをどこかで信じていた。



―――――――――――――
いつ、どこに出てきてもおかしくないNPCとして設定してみた。書いたこと以上の設定考えてないけど。
色々禁じ手っぽくても気にしない。
234名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 21:14:14 ID:yzpLZyMB
スチームパンクは人気がないのかなあ。
235名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 21:20:45 ID:Gol9SXGK
>>234
最近スチームパンク自体に馴染みがある奴少ないからな。
それにあれは、カッコ良くするのがなかなか苦労する。
あの古臭さが魅力なんだがなあ。
236名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 21:24:00 ID:p3CxSkpT
スチームパンクはなんとなく魅力的なんだけど
考えてみたら実際に俺が触れた作品は「スチームボーイ」だけだ……
237名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 21:26:57 ID:Gol9SXGK
「サクラ大戦」もスチームパンクだぞ。
238名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 21:32:15 ID:yzpLZyMB
>>235>>236

レスdクス
もうちょっと続けてみるよ。

で、質問いいかな?
自分は投下したSSの中で錬金術の学校があるって
勝手に設定しちゃったんだけど大丈夫かな?
ダメだったら方向修正して書き直そうと思うんで、意見をお願いします。
239名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 21:34:36 ID:yzpLZyMB
うおお、ちんたら書いてたらリロード忘れてたorz
>>237もれすありがd
240 ◆UfPI417KJM :2008/09/02(火) 21:35:59 ID:khcq050w
>>238
その設定を気に入った人間がいつか使うと思うので問題なし
整合性はあとからいくらでも取れる

錬金術も科学も化学も神学も混沌としてた時代も実際にある

繰り返すがまったく問題はない
241名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 21:46:53 ID:xTXWW7F6
スチームパンクは面白い!筈なんだけどなぁ。
242名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 21:53:28 ID:p3CxSkpT
スチームパンクを語ろう
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/sf/1197818992/

テンプレにある小説をいくつか読んで
浸ってみようと思います。
海底二万マイルもスチームパンクだったのか……

サクラ大戦はやってみたいなとは思ってました。
今ならサターン込みで3000円くらいかしら。
243 ◆UfPI417KJM :2008/09/02(火) 21:54:12 ID:khcq050w
>>241
いかにあの重厚長大なものものしさ、機械らしさを出すかに掛かっている
軽い文体だとすぐに流してしまって機械描写がとても追いつかなくなる

想像する映像とそれを想起させる文章のマッチングを考えないとまず無理
ゆっくりとデカいものが蒸気を吹き上げながら動いていく様を魅力的に描くこと
それと機構が動き出すまでの蒸気を充填させるプロセスと人間の行動描写との
かかわりは命でありキモだ

鬱大好きな私としては

ヒロイン格が高圧高温蒸気をモロにあびて顔の皮膚がズル剥け

と言う描写をしたくなる
244名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 21:55:18 ID:2MOEJ7XZ
>ヒロイン格が高圧高温蒸気をモロにあびて顔の皮膚がズル剥け
ひいぃぃぃぃぃぃぃぃ
245 ◆UfPI417KJM :2008/09/02(火) 22:00:57 ID:khcq050w
>>244
人間と機械とが密接に関わっていても技術的にはまだ未成熟な段階なのだ、
と言う事を描写するとそう言う描写は効果的だ

スチームパンクを成功させるには
自然現象から力を取り出す制御技術としての蒸気機関の魅力と人間の努力を描け!

246名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 22:04:39 ID:xTXWW7F6
ヤッターマンはスチームパンクじゃないよな?
247名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 22:05:06 ID:8WInYsVA
たった今


スチームパンクと サイバーパンクを 混同していたことに気がついた
248 ◆UfPI417KJM :2008/09/02(火) 22:10:53 ID:khcq050w
>>247
サイバーパンクは逆に行き過ぎた科学と人間との融合を描くと効果的である
当の本人は違和感を全く抱いていないが下顎だけが機械仕掛けになっていて
何でも噛み砕いてチキンは骨も残らないとかやるといい

メカメカしさとおどろおどろしさと日常茶飯事と退廃がキモだ

まあお勉強の他に知識収拾の癖をつけとかないと面白いものは書けないので注意

嘘を嘘と見抜くには基礎的知識と教養を身に付けることが最も重要であり必要だ

それはヒマがある若いときにしておくべきことである 寝る間も惜しんでやってもいいことだ

で説教くさくなったのでしばらく黙る
249名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 22:31:31 ID:xTXWW7F6
物を書くのに必要なのは嘘を上手くつく亊だと言ってみよう。
百パーセントの真実よりもそれっぽい嘘の方が面白かったり。
250 ◆UfPI417KJM :2008/09/02(火) 22:40:06 ID:khcq050w
嘘をつくにもボロが出ない、整合性のあるように見える嘘をつくのが大事ってことさw
それっぽい嘘と言うがどうやってそれを真実らしく見せるために肉付け・裏づけするかが大切なんだよw

ニワトリに良いタマゴを産ませるには良い餌と良い環境が必要だ 
ならば良い餌や良い環境はどうつくる、と言った段階なのさ

あらゆる情報を集め自らの中で咀嚼し消化し、ネタとして昇華させる癖をつけようと言っているのさw

251名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 22:44:36 ID:xTXWW7F6
>>250
了解。
ところで知的なお兄さんに聞きたいんだけど、スチームパンクで宇宙を目指すってのは荒唐無稽かなあ。
252名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 22:46:34 ID:iPej2Vl1
>251
それってすでにH.G.ウェルズがやってなかったか
大砲で月に行くやつ
253 ◆UfPI417KJM :2008/09/02(火) 22:48:30 ID:khcq050w
>>251
ジュール・ヴェルヌの作品ではね、デカイ大砲で月まで打ち上げた
高圧蒸気を噴き出させて行こうなんてまだ理性的だとは思わないのかい
254名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 22:48:37 ID:ih1n1IFP
いけそう
255名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 22:49:11 ID:8WInYsVA
南斗人間砲弾ですねわかります
256名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 22:49:15 ID:JcG72vlO
そもそも架空の物を語るという行為自体が、嘘を吐くという行為なのだから、物書きは上手い嘘のつき方を日々研究すべきだと思う
自分が吐いた嘘を自分で暴くプロセスなんかミステリーそのものだし、バレない嘘を作る過程なんかそのまま物語を考える過程だし……
257 ◆UfPI417KJM :2008/09/02(火) 22:49:32 ID:khcq050w
うわ恥ずかしいぜ! ウェルズとヴェルヌを混同とは! 死にたいくらいだ!
258 ◆UfPI417KJM :2008/09/02(火) 22:50:50 ID:khcq050w
>>256
だから嘘のネタの収拾は必須なのさと言う事だよ
259名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 22:51:42 ID:xTXWW7F6
ヴェルヌは愛読書。
自分はそんな小説を読んで宇宙を目指す悪ガキの話を書きたいのさ。
260名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 22:51:52 ID:Gol9SXGK
ああ、「月世界旅行」ね。
ドイツで撮影された映画では、お月さんにでっかい砲弾が刺さってたな(涙
261名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 23:13:45 ID:9YTKgqIo
勢いがありゃテキトーな嘘でも読者はだまされてくれるもんだよ
つか、読者ってのは気持ちよく騙されたいもんだから、
綿密に考証された設定だろうが行き当たりバッタリのトンチキ設定だろうが面白けりゃどうとでもならあ

ま、面白くするのが一番の苦労といえばそうなんだけど
262名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 23:32:51 ID:lCB17T0V
もう作者が消しちゃったけど、『ロングアイランドアイスティーの味を覚えているか?』って
ネット小説の世界観がすげー面白かった。作者はその世界観をシェアードワールド化する
企画も行ってたよ。
263 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/02(火) 23:40:11 ID:vx5SH12+
流れをぶった切って投下。

 大地を疾走する鉄の塊、蒸気機関車。
 その四等客席の隅に座り、車内を楽しそうに見ている大きな外套に身を包んだ男、ジョン・スミス。
 大抵の人は窓の外を見たり、知り合いや行きずりの人との会話を楽しんでいる。だが、ジョン・スミスは
誰とも喋ることなく人々の様子を見ているだけだ。
 人が笑い、怒り、泣き、色々な表情を見せるのをただ一人、楽しそうに見ている。
 そんな時だった。そこそこ大きな音を立てて、三等客室へと続く扉が開く。
 開けたのは少年。健康的に焼けた肌に、色素の薄い髪、青い目。
 見た目の年と、この機関車の行き先から察するに寄宿学校にでも入学するのかもしれない。
 すぐに若い車掌に扉は閉められてしまったが、ジョン・スミスはなんとも言えない感慨を抱いた。
 まだどう育つかも分からない木の芽を見た気分が近いだろうか。
 未だどんな花も咲かせていない才能などジョン・スミスは幾度も見てきたが、それでも胸は躍る。
彼がどんな風に育つのか。どのような影響をこの世界に与えるのか。
 もちろん、何も起こさないかもしれない。もしかしたら何者かに手折られてしまうかも知れない。
世界を変える大発明でもするかもしれない。
 どれほど時を重ね、どれだけ若者達を見ても。
 ジョン・スミスは新鮮な感動を覚えるのだ。
「これだから、この季節の機関車での旅はやめられない」
 満足そうに呟いたジョン・スミスの声は、乗客の話し声にに紛れて消えていった。

なんとなく>>167氏の作品と関連させてみる。
264名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 23:45:05 ID:ra40vNaB
今かえって北産業
265名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 00:01:20 ID:vqDmbZ6c
>>264お帰り

・設定厨登場
・嘘を嘘と(ry
・ジョン・スミス再登場
266名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 00:26:34 ID:1rzrGyNb
作家かくあるべし論は初心者スレとかでやってほしいもんだなぁ
267名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 03:27:25 ID:ElssccJ6
静かな夜の定期age
268名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 06:51:59 ID:8iEkhDSw
>>223
>>224
>>225

正直、これは酷いとしか言いようがないが
2ちゃんねらの作る世界だから名称は「ネラース」というのはグッドセンス

シェアードワールドの世界名は、これでいいんじゃね?
・・・他は、勘弁だけどw
269 ◆acote/ib76 :2008/09/03(水) 08:23:14 ID:ElssccJ6
>>268
ジアースっぽい。アルファベット表記はNeLarthか?
そんなことより、おはようございますの定期age。

//////////////////////////////////////////////////////
「あーつーいー」
 目にも眩しい真っ赤な長袖シャツ。
「五分くらい大人しく待てないの?」
 スラッと伸びた真白なデニムジーンズ。
あまりにも広すぎる砂漠のど真ん中に、二人の衣装は映える。
ただぽつねんと、金属製の東屋(あずまや)の下。うだるような熱気のただ中に、その人影はあった。
二人ともまだ年端のいかない娘であろう、一人はジーンズに負けない程の輝かしい白い髪の毛を、首筋辺りで切り揃えてある。
もう一人は対照的な漆黒色で、肩甲骨をゆうに超える長さだ。
一辺が三、四メートルほどの日陰の空間。四辺にそって据えられたベンチと、それに取り囲まれるように、中央にテーブルが置かれている。
質素なものだ。
白髪の娘はテーブルに額をこすりつけるようにうなだれている。
「もー下にかえろーよー」
 黒髪の娘は呆れ返った表情で、差し出された頭頂部を引っ叩いた。
白髪の娘の「耳」が揺れる。
「あんたね、誰のおかげでわざわざ連絡船に乗るはめになったわけ?」
 黒髪の娘の「耳」が揺れる。
二人の頭部からは、それぞれに毛皮に覆われた白く長い耳が、ツンとそびえていたのだ。
「ねー時間過ぎてない?職務怠慢で訴えようよー」
「船ってのはそういうもんなの。どんだけ航路広いと思ってんのよ。……そら、来たわよ」
 声をひそめて耳をすます。言葉通りに耳を欹(そばだ)てて。
ゆっくりと近づいてくる音は、空高くから、既に轟音であると分かる物々しさを湛えていた。
「宇宙に出るの、初めてなんだ。ねねねね、何か気をつけることってある?」
 先程とは打って変わって、白髪は気力に満ち満ちた表情で黒髪に問う。それを横目に見ては、わずか遠くに見えた船影を捉えながらつぶやく。
「大人しくしてること」
「はーい」
 素直に元気いっぱい。左手を高く掲げて良いお返事。
絶対何かやらかす、黒髪は宇宙でも、頭を痛める覚悟を決めた。
ずんずんと船影はこちらに向かってくる。それが発していると思しき音は、辺り一帯を埋め尽くすような虐大さに達していた。
二人はどちらともなしに、懐から小さなキャップを取り出すと、耳を抑えつけるように頭からかぶった。
「これしててもうるさい!」
「何ー?!」
 言葉を交わすことも不可能なレベルの音は、まだ近づいてくる。
やがて詳細を確認出来るほどの距離になれば、二人は大きく目を開いた。
その大きさもさることながら、遠くからやってきた「連絡船」は、あまりに無骨だった。
縦横無尽に張り巡らされた、ハリボテのような金属片板の修復跡。
おそらく輝かしいメッキ色であっただろう船体は、毒々しい機械的な黒い光沢を放っている。
まるでこの星をうがつ弾丸のような、そんな形にも見えた。



数分後、二人は自分達の都市から文字通り足を離して、
空を挟んだ大気圏の向こう、果てのない宇宙へと飛び立って行った。
////////////////////////////////////////////////////////////
【スチームパンク(砂漠)+空(宇宙)+跳、飛(魔法)+異種族(うさ耳)】×現代っぽさ
全部まとめてみたけどいかがじゃろうか。
一服したらまとめ更新作業しまs。
270 ◆acote/ib76 :2008/09/03(水) 08:34:28 ID:ElssccJ6
>>269の上一行を見なかったことにしてほしいと切実に願う。


>>223の下三行を今読んだ。あばばばばばばばばばwwwwwwwwwwwwww
271 ◆acote/ib76 :2008/09/03(水) 09:42:17 ID:ElssccJ6
**ここまで まとめた**
http://vsolge.dojin.com/sw/

http://vsolge.dojin.com/sw/thread.html
スレの流れを(俺が)把握出来るように、「今北産業用ページ」を作ってみた。
基本スレ内レスを抜粋コピペ。水色がまとめ。

じゃNEETはパチンコしに行ってきますね^^ω
age
272名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 10:04:18 ID:Mc3YWap6
スレに張り付いているのにいまいち流れの理解できないおいらには大変役に立ちました

ところで、各作品に感想つけられるようになったりしないかな
時間が経っても感想もらえれば、職人もやる気が出ると思うんだよね
273名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 10:11:53 ID:ElssccJ6
>>272
スレで直接レス安価つけて感想書いた方がダイレクトで嬉しい。
次スレになって前スレのあれに感想書きたいってなったら、その時にでも考えようかな。
でもそういう感想や意見もシェアードワールドを作る動きの一環だから、ここで書いても問題はないと思うし、
何より書きこめる場所が複数に分散すると色々と面倒が多くなるので、しばらくは様子見。

一番の理由は俺がめんどくさいからってことだけどね!
274名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 10:14:55 ID:I20ogEbJ
感想は分けるべきだね

正直、読みづらくてしゃーない
275名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 10:18:27 ID:kcnOG5FR
どうもスチームパンクがやりたくてたむろしてる人が多いようだな
邪龍討伐隊みたいなことをやりたかったが、ちと世界観が噛み合わなくなってきたようだ
そっちに乗ろうにも、まだよくわからん
帝都物語の学天則みたいな感じでいいのか?
276名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 10:31:06 ID:LUBK2I47
>>275
いや、邪龍討伐なんも問題ないと思うが?
>>275が中世ファンタジー風のssを書けば、それがそのままスチームパンク世界観の直接の過去になるんだから。
277名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 10:34:13 ID:I20ogEbJ
まあ、糞ほど廃墟なんだし他にもシェアードスレを立ててもいいじゃない
278名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 10:38:24 ID:I0Kiukir
実質板内4位の勢い値のこのスレが廃墟なら、他の立場は……
279名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 10:39:04 ID:ZlZG8uCV
もう原始時代、太古時代、古代中世、近代、現代、近未来、遠未来で
それぞれシェアードスレ立てて別個に発展させて、
やがてこれらを一貫する歴史を築けば面白かっこいいんじゃないかな
280 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/03(水) 12:01:21 ID:K10HRbi1
空気を読めなくて悪いんだけど、お金とか魔法とかを勝手に出しちゃっても良いんでしょうか?
281名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 12:07:39 ID:guzPf0hk
いいんじゃない?
282名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 12:08:36 ID:LUBK2I47
>>280
もち、おk
てか文中でオレも「魔法使い」て言葉使ったし。
そもそもジョン・スミス最初に魔法ぽいの使ったじゃんw
283 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/03(水) 12:27:15 ID:K10HRbi1
>>280
>>281
レス、サンクス
最初に使ったのはどうとでも取れる表現にしてあったので、不安になりまして。
では、作業に戻ります。
284名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 12:37:11 ID:GMoS1I3B
ストーリー上では、曖昧にするよりはっきり明確に示した方がいいな。
設定として拾おうとした時に、魔法なのかそうじゃないのかが分からないと活かせなくなる。
285 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/03(水) 12:51:19 ID:K10HRbi1
>>284
やっぱりそうですか。
では、これからは明確に示していこうと思います。
286名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 13:32:52 ID:HtZ3rRgq
スチームパンクで邪龍討伐したっていいじゃない
287名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 13:34:50 ID:kcnOG5FR
正直、対龍用無反動砲までは考えたことがある
288名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 13:48:13 ID:JMa4DHJ4
>247
蒸気で演算する計算機の仮想空間に入るってのはダメか
289名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 14:36:27 ID:ZlZG8uCV
俺の知ってるスチームパンク作品は「蒸気王」という名の何かが確実に出てくる
基本的にみんな巨大ロボット
これってなんか共通の元ネタがあんのかな、多分あるんだろうけどよく知らん

ま、とにかくスチームパンク世界には蒸気駆動の巨大ロボットが共通幻想としてあったらいいかな、トカ
290名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 14:42:23 ID:HtZ3rRgq
スチームパンク世界にIQ1300の宇宙人がやってきたっていいじゃない、トカ
291名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 18:01:55 ID:l+CRpLCv
>>289
唐沢なをき?
292名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 18:07:07 ID:VqakE+ZO
科學大魔號?
293名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 18:37:51 ID:ElssccJ6
ただいまage
294119 ◆meXrLVezBU :2008/09/03(水) 20:08:01 ID:bcS4tOAG
すみません。お願いがあるのですが宜しいですか?

機関車が途中で止まる駅
蒸気機関が発達している街

これらの名前を考えて下さらないでしょうか?
自分はネーミングセンスが著しく欠如しているので
しっくりくる名前が思い付かないのです。

不躾なお願いだと思うのですみません。
スレ汚し失礼致しました。
295名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 20:33:26 ID:MRBWBjI7
・機関車が途中で止まる駅
マルエッソ・ステーション

・蒸気機関が発達している街
ゴールドバーグ・シティ
296名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/03(水) 21:17:09 ID:dG6kW/nW
マルエツでハンバーグか。
腹減ってきたな
297 ◆Wramvk0D7M :2008/09/03(水) 22:37:12 ID:n6oypJc0
>>289
じゃあ巨大ロボット出そう。人型じゃないけど。


夜の砂漠に、男が一人、伏している。
頭から足首までを覆う色あせた闇色の外套をまとい、白い息を吐きながら。
男の目に当てがわれているいるものは、双眼鏡。
銀色の金具部分が、冷たく月光を撒き散らしている。
レンズの先にあるのは、蒼く静まり返ったオアシスの街。
ぎいい
錆付いた軋む音をたてて、男の傍らの砂が盛り上がる。
さああ
砂の流れる音がして、黒光りする鉄の扉が現れる。
扉の下には、月光をも通さぬ闇の穴。
「戦隊長。機関に火が入りました。行けます」
闇から、草色の軍帽を目深にかぶった男が、ひょいと頭だけを出し、言った。
「そうか」
戦隊長と呼ばれた男は無造作に言う。
双眼鏡からは目を離さずに。
「いい月だとは思わんか?」
<戦隊長>は言う。
「……事を起こすには、少々明る過ぎると、自分は思いますが」
軍帽の男は少しだけ逡巡を見せて言う。
<戦隊長>の唇はほんの少しだけ笑みの形を作る。
「時間です」
軍帽が言い、闇の中へと姿を消す。
<戦隊長>も、ゆっくりと起き上がり、外套に付いた砂を払うと、闇の中へ姿を消した。

「発進」

さああ
さああ
さああ
月光を浴びて皓く沈む砂の海に、ありうるはずのない波の音が響く。
さああ
零れ落ちる砂が、月光を受けて蒼白く煌く。
さああ
それは立ち上がった。
総てが仄青く輝く中、照らされる事を拒むように黒々とした闇が。
煌く砂煙をまとい、少しずつ、少しずつ闇は、夜空へと屹立してゆく。
屹立が止まる。
砂塵が元の、砂漠という状態に還るのを見守るような間を空けて闇は
ぎいい
一本、足を延ばした。
ぎいい
二本。
三本。
一つ一つ、赤子を抱くような慎重さで、足が砂を踏みしめてゆく。
八本。
総ての足を延ばし終えた闇は
――――蜘蛛の形をしていた。
298 ◆Wramvk0D7M :2008/09/03(水) 22:38:00 ID:n6oypJc0
蜘蛛の形をした闇が僅かに身を屈める。
しゅうう
歪に節くれだったのそこかしこから、銀色の蒸気が噴き出した。
それは幾重にも幾重にも棚引いて。
幾層にも絡まりあって。
月の光を受けて輝き。
朝露に濡れて輝く蜘蛛の網のようであった。
網は絡まりあい、もつれ合いながら、眼前の街へと流れていった。
と。
ごうん――――ぎいい
蜘蛛が、一歩を踏み出した。重い唸りと軋みをあげて。
ごうん――――ぎいい
奇怪なリズムに乗せて、錆びた声で歌うように。
ごうん――――ぎいい
禍々しい歌を歌いながら、ゆっくりと、ゆっくりと、眠る街へと。


ごうん――――ぎいい
街の住人達の中で、最初にその音を耳にしたのは、情事を済ませたばかりの若い恋人たちであった。
ごうん――――ぎいい
少しずつ、少しずつ近づいて来るその音を耳にした二人は、一つの毛布を羽織りあい、寄り添いながら窓辺へ向かう。
見えたものは、見慣れた街並みと、城壁。そしてその向こうにどこまでも広がる砂。
ごうん――――ぎいい
その中に。
二人は顔を見合わせて、互いが見たものを確かめ合った。
ごうん――――ぎいい
闇。
月影に照らされる事を拒んだような、黒く、巨きな何かが、少しずつ近づいて来る。
ごうん――――ぎいい
城壁が、踏み潰される。
二人は知らず、きつく互いを抱きあう。
ごうん――――ぎいい
闇の足が、街の中に踏み下ろされた振動が、二人にも伝わってくる。
ごうん――――ぎいい
足の先にあるもの。太く長い足とは不釣合いな大きさの、扁平な方形をした、体。
ごうん――――ぎいい
「蜘蛛……?」
ごうん――――ぎいい
窓のすぐ外。市も開かれる大通りに、足が踏み下ろされる。
凄まじい振動が二人を襲う。
二人は見た。5抱えも6抱えもある、乱雑に絡み合った鉄管とチューブの塊を。鉄板と鉄骨を無造作に留めるボルトを。
本物の蜘蛛のそれの様に見える刺――何本も何本も突き出た管――を。
二人は互いに縋りあい、床にへたり込んだ。
眼が合う。
扁平な蜘蛛の体に2つ、鋭い条光が灯り、射るようにこちらを照らしている。
禍つ蜘蛛が、見ている。
そう認識したとき、二人の視界は突如として朱く染まり、
――――そしてそこで、二人の意識は途切れた。
299 ◆Wramvk0D7M :2008/09/03(水) 22:38:49 ID:n6oypJc0
「焼き尽くせ」
<戦隊長>が言った。
<軍帽>は、手元にある1番から8番と番号の振られたレバーを、順に倒していく。
<軍帽>がレバーを倒すたび、足の「刺」から、紅い炎が噴き出すのが、顔の脇の丸い覗き窓から見える。
「そうだ」
言いながら、<戦隊長>も手元の同じ様に1番から8番と番号の振られたレバーを順に倒していく。
<戦隊長>の前にある計器の針が、振り切れては戻り、振り切れては戻る。
足が上がり、別の足が降ろされる。
そのたびに、足の関節の蒸気シリンダから銀色の煙が棚引く。
そのたびに、建物が、瓦礫に変わってゆく。
「焼き尽くせ」
もう一度、<戦隊長>が言った。
<軍帽>がレバーを倒す。
倒壊を免れた民家の窓から、路地裏から、人の形をした松明が転がり落ち、のたうち回る。煮えたぎった水瓶に飛び込む。
「見たまえ」
ふと、<戦隊長>が<軍帽>に語りかけた。
「月の出ている、出ていないなど、最早関係ないだろう?」
<軍帽>の傍らの窓からは、噴きあがる黒煙に遮られて何も見えない。
「左様でありますな」
<戦隊長>は満足げに頷くと、傍らの伝声管を手繰り寄せる。
「機関室。石炭の残量は」
「80%。まだまだたっぷりあります。圧はいかがです?」
「良好だ」
伝声管から聞こえてきたくぐもった声に<戦隊長>は再び満足げに頷く。
そしてまたレバーを倒し、上げ、倒し、上げ。
蜘蛛の足が、上がり、下がり、上がり、下がる。
そのたびに、建物が崩れ、逃げ惑う人々が圧し潰される。
そんな地上の喧騒も、<軍帽>のいる操縦室には届かない。
「これでは、カノン砲を使うまでもありませんなあ」
ほんの僅かな不満を口調に覗かせて、<軍帽>が言った。
「不満かね」
前を向いたまま、<戦隊長>が問う。
「試射はしておきたいと存じますが。……雲上艇への切り札であることは認識しております」
「その認識で良い。《上》と直接事を構えるまで、温存せねばならぬ」
蜘蛛の足を操りながら、<戦隊長>は呟く。
「焼き尽くせ。真赤に真赤に真赤に真赤に真赤に真赤に真赤に真赤に真赤に真赤に」
節を付けて、唄うように<戦隊長>が言った。
<戦隊長>の唇はほんの少しだけ笑みの形を作っている。
<軍帽>は<戦隊長>の表情に、言いようのない安堵を感じた。
「空を手にするまで」
<軍帽>は、知らず、口にしていた。
/////////////////////////////////////////////////////////////////////////
使用フレーバー:「砂漠」「スチーム」「空に憧れる」
新規フレーバー:「蒸気機関ロボ」

なんかごめんなさい。蜘蛛ロボのスチーム感出せなかったです。
変な人出してごめんなさい。
あと亀だけど>>170、便乗ありがとうございます。うれしかったどす。
300119 ◆meXrLVezBU :2008/09/03(水) 23:48:41 ID:bcS4tOAG
>>167の続き

「あら、お早いお帰りねえ。タッフィー一粒舐め切る前に帰って来ちゃった」
 僕が戻って来るや否や、クリスチーヌはクスクスと笑った。実を言うと、僕は彼女の
笑い方が余り好きではない。口元を手で隠して笑う姿は気取っているように見えて、
何だか滑稽に思えるのだ。彼女は口元を隠して笑うのが淑女の嗜みだというけれどは、
実際のところはどうなんだろう?

 機関車の旅は、まだまだ続く。座りっぱなしでお尻が痛くなって来た頃、先程の
車掌さんがやって来た。
「切符を拝見いたします」
 首から下げた切符を切る鋏をリズミカルに鳴らし、にっこりと笑顔で微笑んでいる。
 僕は肩掛けかばんから、クリスチーヌはポシェットから切符を取り出した。
「お二人ともゴールドバーグ迄ですね。到着は18時の予定となっております。なお、
マルエッソにて下りの機関車との待ち合わせの為、30分程停車をいたします。では
素晴らしい旅を!」
 車掌さんは手慣れた手つきで切符をチェックし、敬礼をして次の客へと歩いて行った。
「若い車掌だったわね。私達と対して変わらないんじゃないかしら?」
 いそいそと切符をしまいながら、クリスチーヌはそう口にした。
「うん、さっきちょっと話をしたんだけど、数えで16歳だって言ってたよ」
「あら、そうなんだ。小さいのに大変ねえ。でも、その歳で車掌でしょ?凄いわねえ」
 クリスチーヌはうんうんとうなづきながら、再び窓ガラスを鏡替わりにし始めた。「ねえ、クリスチーヌ。さっきからずーっとそうやっているけれど、飽きるって事は
ないの?僕だったら退屈しちゃって仕方ないよ」
 僕は深々と溜め息混じりに呟いた。どんなに鏡を見たって所詮は自分だ。結局のところは
何も変わらない筈だ。だが彼女は真剣に鏡と睨めっこしては帽子やら、首に巻いた
スカーフやらを弄っている。
「ゴーダの顔じゃそう思うかも知れないわね。でも私は飽きないのよ。誰それの鼻が
低かったら歴史は変わっていたって言葉があるけれど、私の場合は帽子の角度やスカーフの
結び目の位置なのよ。まあ、ゴーダには関係のない話よね」
 僕は彼女に見られないように小さく肩を竦めた。僕にとっては本当にどうでもいい話だ。
301119 ◆meXrLVezBU :2008/09/03(水) 23:52:12 ID:bcS4tOAG
投下終了です。余り上手く書けて無いなあorz
もっと頑張らなきゃダメですね。

>>295
名前を考えて頂き本当にありがとうございました。
302名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/04(木) 00:20:41 ID:bNLcGmTD
しつもんしつもん
ここって大体どのくらいの分量まで投下して良いんですかー?
色んな人が色んなものを投下する訳だからあんまり長ったらしいのもアレだよね?
303名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/04(木) 03:23:58 ID:9N9Qvya6
長くても支援するよー
他の人の迷惑になりそうだと思うんだったら
txtをどこかにうpしてここにはURLだけ貼るとか
深夜に投下するとかちょい工夫すればいいんじゃないかな
投下待ってるよん
304名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/04(木) 17:26:08 ID:cWWM2xZp
誰も来ないage
3051/2 ◆txzp9/O3.w :2008/09/04(木) 19:14:52 ID:z3/81tPN
 魔法使いの王様がいる、という噂を耳にした。

 いてもたってもいられなくなった私はその噂の出所を突き止めた。最近この町にやってきた怪しい絨毯売りの老婆。
 私は早速老婆が店を開いている路地まで足を運び、客のいなくなった頃合いを見計らって声を掛ける。
「婆さん、あの噂ってホントなのか? 魔法使いの、王様がいるっていう…」
 老婆はじろじろ私のことを見て、胡散臭そうに「そうさね」と呟いた。
 商品には目もくれず話しかけてきた私のことを、かなり疑っているらしい。
「けど、あんたそんなこと聞いてどうするね」
「私、魔法使いになりたいんだ。そんな国が本当にあるんなら、そこへ行って魔法修行がしたい」
 私の目はきっとキラキラ輝いていたに違いない。
 老婆は訝しむように首を傾げたが、私の熱意に圧されたのか、噂の詳細を話してくれた。

「しっかしまあ、こんな機械だらけの国に生まれて、魔法使いになりたいとね。変わったお人よのう」
 老婆の疑問も当然だろう。私は素直に頷く。
 この国はとても機械文明が発展していて、正直できないことはないくらいだ。
 ボタン一つで火がつくし、夜になったって自動で明かりが灯る。暗闇の恐怖なんて、都市にいる限り味わうことはない。
 魔法なんて不便なだけだと、この国じゃ随分と昔に廃れてなくなってしまった。今じゃ図書館にあるかびた臭い本くらいしか情報源がない。
 確実に言えることは、この国にはもう魔法の使い手はいないということだけだ。

 でも、だからこそ、私はロマンを感じる。しかし残念なことに、賛同を得られたことは今のところ、ない。
「ところで婆さん、魔法を見たことは?」
「あるよあるとも。さっき言ったろう、わたしゃ魔法使いの王様を見たことがあるんだよ、その国にだって行ったことあるんだからねぇ」
 老婆はほれ、と尻の後ろから赤っぽい絨毯を引っ張り出してきた。思わず受け取ってしまったが、特に何の変哲もない絨毯のように見える。
 私が首を傾げると、老婆はほれ、ともう一枚手渡した。今度は黄色っぽい。どちらも異国の刺繍がされている綺麗なものだ。
「その二枚の絨毯はねえ、その国で買ったのじゃ」
「…へえー…」
 私は改めて絨毯を眺める。よく目にする幾何学模様とは違って、確かに魔法っぽいかもしれない。
 草模様なのか蔦模様なのか、とにかくなにかがうじゃうじゃ編み込まれていて、それでいてうるさくない、なかなかいい構図だ。
「それからな、これは秘密なんじゃが、おまえさん魔法使いになりたいなんて言うておるからの…」
 おいでおいでと老婆が手を動かす。一瞬私は躊躇ったが、魔法というキーワードに釣られて耳を貸してしまった。老婆は囁く。
「実はの、これは魔法の絨毯なんじゃ」
 私は身体を起こした。老婆の表情を確認して、今のが冗談でないことを確かめる。
「…はあ?」
「まあ慌てなさんな。これはの、魔法で編まれたものなんじゃ。機械なんかが編んだものと一緒にしちゃ困りますぞ。
その証拠に、ほれ、この辺が…」
 編み目が歪になっているでしょう、と老婆は指差す。
 私は目を凝らす。確かに編み目は歪になっていた。しかし、歪な方が価値が上がるなんていつ考えてもおかしな話だ。
「でも、それだけなら、ただ単に人の手で編んだと言えなくもないと思うが」
「慌てなさんなと言っておろうに!」
 老婆は不機嫌そうに鼻を鳴らした。彼女は見なさいほれ、と商品を威勢良く叩く。舞う埃に私は少しばかり咽せた。
「これはね、ちいっとばかしだがね、魔法そのものも編み込んであるんだよ。空を飛ぶ魔法をねえ」
「そ、空飛ぶ魔法だあ!?」
「しぃっ、声が大きい! …いいかい、秘密と言ったろう。わたしゃこれを、こっそり持ち出してきたんだからね」
 老婆は実に真剣に、私の目をまっすぐ見ながらそう言った。

 私はこの老婆を信じてみることにした。何より、ほんのちょっとだけれど空飛ぶ魔法が編み込んである、というところに心惹かれる。
 指一本分くらいしか浮かばないよ、期待すると損するよ、という老婆の言葉が逆に私の購買欲を煽った。
 買う、と言った途端老婆は吹っ掛けてきたが、値切りに値切って半額程度にして貰った。
 それでもかなり懐が痛んだが、私はほくほくと絨毯二枚を家に持って帰った。早速床に敷く。
 機械だらけのこの小さな家に似合っているとは言い難いが、私は随分な充足感を得ていた。
3062/2 ◆txzp9/O3.w :2008/09/04(木) 19:16:13 ID:z3/81tPN
「さて、と…」
 絨毯の上に乗り、ドキドキしながら老婆に教わったとおりの呪文を唱えてみた。
 一分間待った。何も起きない。読み方が悪かったのかと思って、節を付けたり、早口で言ってみたり、
ちょっと訛って読んでみたり、かなりゆっくり読んでみたりした。
 やっぱり、何も起きない。

 騙された!

 思わず下唇を噛み締めていた。かあっと頭に血が上るのがよく分かる。
 一番最初から、あの老婆は怪しいと思っていたのに、すっかり言いくるめられて乗ってしまった。
 こんなに高い絨毯まで買わされて、全く馬鹿みたいだ!
 夢と経験を買った?それにしても高すぎる!
 きっともう老婆は逃げているだろうが、もしかするとまだあの場所で、次のカモに手を出しているかもしれない。
 警備隊に突き出すことはできなくても、せめて文句の一つくらい言ってやりたい。
 それ以上のことを考える前に私は走り出していた。老婆のいた、あの路地へ。

「こら、ババア!」
 私は路地に駆け込むなりそう叫んだ。
 意外や意外…老婆はまだそこでちゃんと商売していた。度胸のある奴。太々しいとも言う。
「よくも騙してくれたな! 人の熱意を逆手にとって、あんな絨毯返してや…」
 私の言葉を遮って、すっくと老婆が立ち上がる。場違いにも私は、意外と背中丸まってないんだなとか考えていた。
 悪びれもせずくっくっと笑っている老婆に逆に感心してしまったのかも知れない。
「いや、楽しませてもらったよ、実に」
 老婆はそう言って飛んだ。

 いや、跳んだ!

 私が大きく口を開けている前で、跳び上がり、一回転し、着地した。遅れて、ふわりと色とりどりの布が着地する。
 口が塞がらない。ずっと見ていたのに、着地した人物は老婆ではなかったのだ。
「人をババア呼ばわりとは全く酷い」
「あ…れ…??」
「あとな、」
 美しい異国の布を纏った青年は笑った。髪の色も、目の色も、この国の人とは違う。肌の色はちょっと似ている。
 私は驚きやらなにやらで口を開く暇がなかった。
「こっそり遊びに来てたんだ。このことは内密に頼む」
 しぃ、と青年は口の前に指を持ってくる。私が目を丸くしたままがくがく頷くと、青年は満足そうに微笑んだ。

 くるり、と青年の指が中空で円を描く。その軌跡が青白く光り、やがて円盤のように回り出した。
 光の環は徐々に大きくなり、青年をすっぽり包み込んでしまう。

 ――魔法だ!

 心臓がこれでもかと言わんばかりに大きな音を出している。初めて見る魔法は、古くさい本から想像していたものより
ずっと素敵だった。なんということだろう、私の夢見たものが目の前に!
「君、もし良かったらここからずーっと南、砂漠を二つ越えた国へ来るといい。歓迎するよ」
「行く、行きます、絶対行く、今からお金貯めて、絶対行く!」

 私の声が聞こえたのか聞こえなかったのか、彼はふっと笑うと輪の中から消えた。
 ゆらっと青い光が揺れて、次の瞬間には彼のいた痕跡そのものがこの場から消える。
 私は思わず、何も無くなった空間に手を差し伸べる。当然のことながら、この手は何も掴めなかった。

 私はその後、世界地図を買ってきて机に広げた。現在地を指差し確認、それから南へ指を走らせる。
 よかった。今度は騙されなかったと胸を撫で下ろす。
 砂漠を二つ越えた所には、かなり小さい、聞いたこともない国の名前が書かれていた。
 それからもう一つ。お財布の中には、いつの間にか絨毯代が戻ってきていた。旅費にしろ、ということかもしれない。

//////////////

雷に怯えながら投下
魔法っぽいのやってみた
307 ◆oGMlvLo9IQ :2008/09/04(木) 20:35:49 ID:EKPnZWjD
 窓から身を乗り出して、空を見る。
 今日も、真っ黒な空に無数の小さな光が瞬いていた。
 光の数を、わたしは毎晩眠くなるまで数えている。毎日欠かさず続けているのに、数え終わる気がしない。
 終わりが見えない、日課。だけど、わたしはそれが好きだった。
 万物に存在する、抗い難い宿命である終焉に捉われないように思えたから。
 大人たちが言うように、死者が空に昇って星になるのなら、この数え切れない星々は、死んだ人の数ということになる。
 いつものように、その数を数える。
 星になってしまう人々は、どんな想いを抱いて天に浮かんでいるのだろうと考えながら。
 星になってしまう人々の家族は、友達は、恋人は、どんな想いを抱いて天を見上げるのだろうと考えながら。
 天を指差し、心の中で数字を足していく。
 一つずつ、一つずつ。階段を昇るように。
 このまま終わらなければいい。朝なんて来ないで、ずっと数えていられたらいい。

 そしたら、妹が星になる日なんて、来ないのに。
 
 今日のお昼にも、入院している妹のお見舞いに行ってきた。
 大丈夫だよ、と。
 元気になれるよ、と。
 そう言って、一生懸命に笑う妹の顔が、頭から離れない。
 もう十年以上あの子の姉をやっているのだ。無理して気丈に振舞っていることくらい分かる。
 お医者さんも言ってた。
 多分助けられない、って。
 とても辛そうで、悲しそうで、悔しそうだった。
 わたしも、同じだ。
 妹の病気が発覚してから、優しくて真摯な先生に頼りっぱなしだったから。
 妹に生きていてほしい。星になってほしくない。
 だから、わたしも何とかしたい。妹が生きられるための、力になりたい。
 
 気が付けば、夜空が滲んでいた。
 雲なんて出ていないのに。雨なんて降っていないのに。
 濡れた視界の向こうに、何かが見えた。
 星でも、雲でも、鳥でも、月でもない。
 もっと大きいそれは、<<船>>だった。
 星の海に悠然と浮かぶ、巨大な<<船>>。
 ゆっくりと航行していくそれを見て、思い出す。
 大人たちは、こうも言っていた。
 あれは、死者を夜空へと運んでいく<<船>>だ、と。
 
 もし、それが事実なら。
 <<船>>の乗組員にお願いをすれば、妹は星にならずに済むのだろうか。
 無理の欠片もない元気な笑顔を、また向けてくれるだろうか。

 考え始めたら、もう止まってはいられなかった。
 一刻も早く、あの船を追いたい衝動が生まれる。でも、もう機関車が動いている時間じゃない。
 走ってでも追いかけたいが、ちょっと無理がある。もう<<船>>は、西の山脈の上空に差し掛かっていたから。
 明日になったら、朝一で出発しよう。
 お父さんとお母さんに話をして、妹にも挨拶をして。
 そして、機関車に飛び乗ろう。
 わたしが妹のためにできることは、これくらいしか思いつかないから。

 日課を早めに切り上げ、お財布と貯金箱を確認する。
 西の山脈の向こうにある都市まで、お金はどれくらい必要だったか思い出しながら。

//////////////////

昨日このスレ見つけて、空に浮かぶ船を機軸に思うまま書きなぐってみたが、こんな感じでもいいんでしょうか?
船をこういう解釈で見ている地域もあるということで考えてみました。
308 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/04(木) 21:44:58 ID:3lRGG1s9
>>305,306
>>307
GJ


さて、相談なんですが、どこかtxtを上げる良いロダを知ってる方はいませんか?
少々長いのと、内容的に不安なんです。
309 ◆acote/ib76 :2008/09/04(木) 23:36:32 ID:2IdkMDTj
txtなら容量食わないし、設置考えてみようかな。<ろだ

定期age。
310 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/05(金) 01:04:11 ID:0rWOFJ2J
311名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/05(金) 04:15:57 ID:cWR+c9Gs
機械文明が発達して魔法なんて…って思ってる地域もあれば
機械技術の<<船>>を超常現象の一種だと思ってる地域もある
いいねいいねー

大きな矛盾がでないよう話し合いつつそれぞれが自分の話を連載していくとか楽しそう
そのうち地図つくってみたりとかしてw

>>310
面白かったよー
そうか、ジョン・スミスは猫の言葉がわかるんだ、いかにも魔法使いって感じ
猫を襲った変な生き物がいったいなんなのか気になる気になる
312名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/05(金) 14:47:20 ID:csjy1Mvm
ところで、天空に信楽焼きの狸が浮かんでいる話は、どこに行った?
313 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/05(金) 16:57:15 ID:0rWOFJ2J
>>312
>>114氏の作品を見ていただくと分かりますが、カエルになったようです。
314名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/05(金) 17:13:27 ID:fINcWaEp
>>312 それはたしか違う話だ。
例として書き込まれただけだよ。
カエルはその影響を受けている。
315名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/05(金) 18:00:54 ID:cWR+c9Gs
その例を出したのは俺だw
確かその世界観でSSも投下されてた気がするけど
数年前のことだから覚えてないな
316 ◆HE69LCK/Q6 :2008/09/05(金) 19:32:19 ID:X9iuCWob
シェアワールドとは面白そうな企画が。以下、空気読まず投下。

(1/3)
 政府の元老院や錬金術アカデミーなど、名の通った機関が拠点を構える帝都。
 そんな表世界の代表格と言えるような都にも、陽の光の当らない領域は存在する。
 メインストリートから一本道を外れた裏通り。
 横流しされた蒸気機械のパーツを扱うジャンク屋が、多数軒を列ねる怪しい区画。

 誰が呼んだか、魔女窯通り。

 そんな魔女窯通りの中でも、一際異彩を放つ一画に、蒸気工房『サンジェルマン』は存在する。
「デルタ君! デ〜ル〜タ君!」
「なんでしょう、ドクター・ノース」 
 所狭しと置かれた機械の吹き上げる蒸気に包まれた工房で、二人の男女が言葉を交わす。
 白衣を着込んだ痩躯の男が、蒸気を吹き上げる機械を前に、突き出たゼンマイを両手で固定する。
「ちょいとこいつのゼンマイを巻いてみてくれたまえ」
「畏まりました、博士」
 白衣の男に促されるまま、古式ゆかしいエプロンドレス姿の侍従がゼンマイを回す。

 キリキリキリ……ぷっつん。

「あ」
「ん、どうしたね、デルタ君?」
 ゼンマイの弦が切れた。機械から吹き上げる蒸気が勢いを増す。
 ささっと侍従が机の下に身を隠すと同時、巻き起こった小さな爆発が白衣の男を包み込んだ。

「かあぁぁぁ!! 何たる大失敗っ!!」
 男は顔を真っ赤にして地団駄をふむ。比喩などではなく、その頭から蒸気が音を立てて噴き出した。
 額を覆うゴーグルのような外部記憶端末で、冷却用のファンが激しく回転を強める。
 男の脇に立つエプロンドレスの侍従が、無表情のまま慰めの言葉を掛ける。
「ああ、博士。落ち着いて下さい」
「くっ、だがね、デルタ君。我が輩は今度こそ、この自動人形が稼働すると確信していたのだよ!」
 自動人形。それは人を模して作られた機械の一種。
 内蔵された蒸気機関と、無数の歯車によって構成される鋼鉄の身体をもって人に仕える存在だ。
 古代はオカルト的な魔法技術の力を用いた、生身の身体をもったホムンクルス型が主流だったとも言う。
 彼はそんな古代文明レベルの自動人形を作り出すことを目標に、日夜試行錯誤に明け暮れる錬金術師であった。
「ドクター・ノース、失敗は成功の第一歩とも申しますわ」
「む」
「故にドクターが成功に至るまで、あと数万回の失敗が必要と思えば、この程度、些細なことですわ」
「我が輩の成功までにそんな遠い道のりがっ!?」
「そうですが、何か?」
 あっさりと返された。
「ううぅ……やはり、人間と見紛うばかりだった、古代文明レベルの自動人形作成までの道のりは遠い」
「ああ、博士。そんなに落ち込まないで下さい」
「誰のせいだ!」
 生暖かい視線をこちらに向ける侍従に対して男が叫び返した、そのときだ。
317名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/05(金) 19:33:08 ID:OyhWRynz
>>300
一番堅実に進んでるシリーズだね。ほのぼの感がホント好き!

>>305-306
魔法の実在が疑われるほど廃れた地域or時代か。いろいろ出て来たなー
>>310読んだあとだと老婆=青年がジョン・スミスに見えるw

>>307
いらっしゃいー。ゆっくりしていってね! (AAry
健気だ! 健気だよ! この娘の旅はもっと見たいな

>>310
ジョン・スミスシリーズ続編キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
これで内容が不安なんて言われたらオレはどーすりゃいいんだorz
面白かったー。ジョンいいなー。ロジャーも気になる
…スミス、ロジャー、迷い猫でTHEビッグオー思い出したのは内緒だ
カラス野郎よりジョンのが紳士だけどNE!

長文で感想スマソ
とにかく、皆GJ!! 
318 ◆HE69LCK/Q6 :2008/09/05(金) 19:34:29 ID:X9iuCWob
(2/3)
 ガコン、と工房の玄関口の方で、歯車が回転する音が響いた。
 流れるベルトコンベアに乗って、投函された手紙が、工房まで運ばれてくる。
「あら、博士。仕事の依頼のようですわ」
「む? もうそんな時期か」
「仲介者は……あらあら、ジョン・スミス様ですね」
「……やつ経由の依頼はあまり受けたくないというのが本音なのだが」
「お金は稼げるときに稼いでおくのが肝要かと思われますわ」
「うっ、言うな。デルタ君」
 ドクター・ノースは常軌を逸した奇人として、その名とアルケミストの腕前だけは広く知られた存在だ。
 しかし、壮絶な喧嘩別れの末、帝都のアカデミーを出奔した在野の研究者でもある。
 学会においては半ば以上その存在を無視され、常に研究資金不足で喘いでいた。
「んんっ……まあいい。それでどんな依頼だね、デルタ君?」
「カトルフィッシュ号に搭載された、近代式蒸気機関の整備ですわ」
「む、カトルフィッシュ号……ああ、例の女空賊が保有する雲上艇だったか」
 かつて文明の大崩壊を経験した人類にとって、いまだ空は生活圏から遠く離れた領域だ。
 まがいなりにも帝都周辺の文明圏は、飛行船を製造する技術をいまだ保持している。
 されど、古代文明全盛期に建造されたレベルの飛行船を作り出す技術は失われて久しい。
 辺境では、完全に造船技術が喪失し、空を飛ぶ船の存在がおとぎ話の一種として語られているような地域も珍しくない。
「ふむん。しかし、空賊の依頼か」
「お気に召しませんか?」
「やつら、一言目には空中都市を発見して一山当てるときたものだからな」
 古代文明全盛期。これでもかと言わんばかりに打ち上げられた、多種多様な空中都市ユニット。
 それらの都市群は、もはや現代では作り出せなくなった多数の遺物を満載したまま、今も空を漂っている。
 これに目をつけ、一山当てようと空に乗り出した者たちが、広く空賊と呼ばれる人種である。
 もちろん、賊とつくあって誰もが無法者揃い。商船が彼らに襲われることもしばしばだった。
「そのような無粋な裏稼業に手を出さねば研究資金の収集もままならんとは。嘆かわしい限りだよ、デルタ君」
 額を押さえる雇い主に向かって、侍従デルタは無表情のまま相槌を打つ。
「仕方ありませんわ。なにせ博士は甲斐性皆無のお人ですから」
「……。あーそのだな、デルタ君。正直過ぎるのも考えものだぞ」
「正直は美徳と聞いておりますわ」
「それも時と場合によると言っているのだよ!!」
「……ええ、ええ。そうですね」
「何故にそこで生暖かい視線を我が輩に寄越すかな!?」
「他意はありませんわ」
 漫談を繰り広げる一方で、侍従デルタは着々と仕事に向かうための準備を整えていく。
319 ◆HE69LCK/Q6 :2008/09/05(金) 19:37:19 ID:X9iuCWob
(3/3)
「おそらく整備の依頼が来たのも、空中監獄都市『バッキンガム』発見の報を受けてのものでしょうね」
「ん、ああ、それがあったな」
 最近、古代文明が打ち上げた新たな空中都市が、エルフ達の治める南部の砂漠地帯上空で発見されたと話題になっている。
 軍は北部に流れた『蒸気乱雲』を警戒して動けないため、調査に赴くことは難しい。
 一方で、帝都の存在する地域では、常に空を覆い隠す『蒸気乱雲』が薄くなる季節でもある。
 この時期は『上』から街に襲来する、蒸気機関の化け物どもの休眠期に当たった。
 そのため、邪魔する者は何処にもいないと、空賊達は都市の探索に向けた準備に沸き立っている。
 もちろん、『上』が静かといっても、空中都市に配備された化け物どもがいなくなる訳でもない。
「命の危険も省みずに空へ向かおうというのだから、空賊どもの意地汚さには呆れ返るな」
「ええ。博士にまで蔑まれるなんて、本当に笑えませんわ」
「……デルタ君」
「何でしょうか、ドクター・ノース?」
 小首を傾げる侍従デルタに、ドクター・ノースはこめかみを押さえながら問い掛ける。
「君、ひょっとして私のこと嫌いだったりするのかい?」
「まさか、まさか。そのようなこと……」
「なぜに目を逸らす!?」
「とてもとても口には出せませんわ」
「その上、否定はしないと来たか!?」
 工房の隅に置かれたネジ巻き式の大時計が、蒸気を吹き上げながら、正午を告げる鐘の音を打ち鳴らす。
「あら。そろそろ依頼主の指定した時間ですわ、ドクター・ノース」
「む。そ、そうか。仕方ない。今日のところは不問に処すとしよう、デルタ君」
「寛大な処置に感謝致しますわ、ドクター・ノース」
 肝心の部分を誤魔化されたような気がしないでもなかったが、それもいつものことと割り切る。
「それでは行くしよう、デルタ君」
「何処までもお供しますわ、ドクター・ノース」
 こうして、二人は駅へ向かうべく、魔女窯通りに居を構える蒸気工房『サンジェルマン』を後にした。

/////////////////////////////////////////////////////////////////////////
使った世界観:「飛行船」「空賊」「空に憧れる」「スチーム」「錬金術師」
追加の世界観:「自動人形」「空中都市」「蒸気工房『サンジェルマン』」

名の通った奇人博士と、古代文明の空中都市探索はシェアワールドの浪漫。
何となく、登場人物に名前と職業があると、シェアし易いなぁと思いました。
320名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/05(金) 19:40:55 ID:OyhWRynz
>>319
GJ!! シェアの嵐だね! いよいよらしくなってきた!

…………最悪の被り方してホントごめんなさい。気を悪くしないでまた書いてくださいね!
ほいでは処分されてきまーす

保健所| λ.........
321319:2008/09/05(金) 19:59:41 ID:X9iuCWob
>>320
いえいえ、こっちこそ感想ありがとうございます!
今後も機会を見つけて、世界観を広げて行きたいですね。
322名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/05(金) 20:16:44 ID:9/21tcXe
>>310
面白かったです。
これからジョン・スミスは
いろんな書き手さんによって何十ものミッションをやらされそう。

>>316
いままでの設定を見事に融合してありますね、GJ!
古代文明の自動人形、いいですね。
>>146さんのストーリーにて発掘されたセンチネルの行方も気になりますな。
323119 ◆meXrLVezBU :2008/09/05(金) 23:04:39 ID:CqoKDcSh
1/2

 何もする事がなくなってうつらうつらと船を漕ぎはじめそうになった頃、汽笛の音が
辺りに鳴り響いた。びっくりして窓の外を見てみると、景色の流れが段々とゆっくりに
なっているように思えた。雲の形がゆっくりと変わって行くのにちょっぴり似ている。
「あんたを見ていると退屈しないわ。リアクションが面白いって言うか、子供っぽいって
言うかさ。……なんであんたはアカデミー進学しようと思ったの?」
 クリスチーヌはぷぷっと吹き出したかと思ったら、真面目な面をしてまじまじと僕の
顔を覗きこんできた。瞳が爛々と輝いていて、何だか怖い。
「なんでって言われてもねえ。強いて言えば知的好奇心かな」
「やあだ、ゴーダの口から知的好奇心なんて出て来るとは思わなかったわ。笑いが
止まらなくなっちゃうでないの」
 クリスチーヌはいつもの口元に手を当てる気障ったらしい笑い方でなく、顔をくしゃくしゃに
して大きな奇声を発しながら拳をぷるぷると震わせる、彼女曰く下品な笑い方をした。
「クリスチーヌの理由は簡単だよね。都会に行きたいってだけなんだから。んでもって
男にちやほやされて、面白おかしく遊びほうけて、金持ちと結婚して有閑婦人を気取りたいだけだろ」
「違うわよ、ゴーダ。私はそんな尻軽な女じゃないわ。私は男にちやほやされるんじゃ
なくて、私の信奉者に囲まれて私に相応しい扱いを受けるの。面白おかしく遊び
ほうけたりもしないわ。自分の知らなかった世界を色々と体験して視野を広げるのよ。
それに金持ちって何?私に釣り合うのは成り上がりの小金持ちじゃなくて、由緒正しい
家柄で土地のある貴族ね。確かに有閑婦人には憧れるけれども、どう見たって私は
職業婦人って柄じゃ無いわ。あくせく働いて小銭を稼ぐよりもソファーに横たわって
綺麗な物を愛でている方が似合うんだもの。あんたもそう思ってるでしょ。返事は
いらないわ。これは宇宙の法則世界の基本ですからね」
 何と言えば良いのだろう。開いた口が塞がらないって言うのはきっとこんな時に使うの
だろう。僕にはクリスチーヌの言っている事が世迷い言に思えて仕方がなかった。
 けれどクリスチーヌもきっと僕がアカデミーを目指した本当の理由を知れば今の僕と
同じ心境に陥るだろう。僕と彼女の価値観は余りにも違いすぎるのだ。
324119 ◆meXrLVezBU :2008/09/05(金) 23:08:34 ID:CqoKDcSh
2/2

 友達や先生にはアカデミーで医術系の錬金術を学び、ゆくゆくは田舎に戻って診療所を
開くと行っておいたけれど、実は違う。僕は船乗りになって空を翔けたいのだ。森を越え
野原を越え雲を乗り越えどこまでも、遥か遠くへ行ってみたいと思う事は最高の世迷い言
かも知れない。けれど僕は知ってしまった。
 小さな頃に読んだ絵本。それは非常に古いもので、ボロボロに擦り切れていて表紙や
挿絵は色褪せていたけれど、僕の心の奥底に色鮮やかにに染み付いている。
 果てしなく高い所から僕等を見下ろしている太陽。その太陽を掴もうとした男の話や
金を錬成しようとして宙に浮く石を作ってしまった魔女の話。そして蒸気機関。万能の
技術を駆使して作られた飛空挺の話を読んだ夜は興奮し過ぎて眠れなかった位だ。
 僕は絶対に空を飛んでみせるんだ。

「ちょっと、ゴーダ。人の話を聞いてるの?私がせっかく私の夢を話しているんだから
しっかり聞きなさいな。それとも私の夢のスケールの大きさにびっくりしたのかしら?
だったら仕方ないわねえ――じゃなくて、マルエッソに着くわよ。私はここにいるから
あんたは出掛けてくれば?荷物みててあげるわ」
「え、いいの?」
 クリスチーヌを見返すと彼女は満天の笑みを浮かべながら右手の手の平を上に向けて
僕へと差し出した。こう言う時は黒い瞳が羨ましくなる。黒真珠の輝きにも似た不思議な
妖しさはオオイヌノフグリには出せやしない。
「構わないわよ?ゼリービーンズを箱ごとくれたらね。あんたってばお出かけの時には
必ずタッフィーとゼリービーンズを持っているでしょ。さあ、出しなさい。」
 ちぇっ、ちゃっかりしてら。僕は舌打ちをしながらも鞄からゼリービーンズの箱を
取り出しクリスチーヌに渡した。惜しい気もするけれど、まあいいや。
 機関車が止まりドアが開いた。僕は一目散に駆け出した。
 ゴールドバーグへの中継点であり、様々な文化の入り交じる街――マルエッソ。
 僅かな時間の中でどんな出会いが僕を待っているんだろう?
325119 ◆meXrLVezBU :2008/09/05(金) 23:11:51 ID:CqoKDcSh
投下終了です。
書きたい事に筆力が追いつかなくていっぱいいっぱいですが規則、もう少し続きます。

どうやったら文章が上手くなるんだろう?
教えてエロい人orz
326名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/05(金) 23:20:08 ID:i7XU5ruV
>>325
そんなんこっちが知りたいわw
327名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/05(金) 23:22:36 ID:cWR+c9Gs
だなwとりあえず書いていくしかない
そのうち慣れてうまくなっていくはず!
328名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/05(金) 23:26:02 ID:9/21tcXe
いい文章だと思うよ
329第37番鉄道警備隊 1 ◆sbrD/79/kI :2008/09/05(金) 23:56:30 ID:gRCjz1nS
 いつの時代にも、人の営みを脅かす者は存在する。
 未開の地に住む狼の集団や、流れ者の熊などから、神代にいたという天を覆う巨鳥や、山を巻く蛇まで、多彩な脅威がいた。
 かつては、そういうものを剣や槍で打ち倒すという信じられない人種が存在したという。
 神も悪魔も英雄も、今の時代にはすっかりなりを潜めてしまったが、人の営みを脅かす者はまだいる。

 鉄道は、主に貨車の積荷や、駅の物資集積所が襲われるだけで、鉄道そのものが対象となることは少ない。
 食を積んだら四ツ足に、客を積んだら二本足、というのが鉄道乗りの口伝えである。
 食糧のような即物的なものは、知性の低い獣が狙ってくる。そして、乗客の財産を狙ってくるのは、知性ある人型種族であるということである。
 とはいえ高速で移動する鉄の塊である列車を襲撃してくる者は皆無に等しい。
 大抵の場合は中継駅か、機械トラブルで停車せざるを得なかったところに仕掛けてくる。
 砂漠の真ん中で機関が停止してしまった場合は、ほぼ確実に何らかの襲撃者を迎え、決して少なくない被害を受け入れなければならない。

 決して少なくない被害は受け入れねばならなくとも、襲撃者が思うまま暴れることを防ぐ目的で設置されたのが、主線に併設された予備線路であり、
 その途上に点在する、2,3両程度の単車両列車を止めた小さな停留駅。
 今度の騒動は、砂漠の真ん中のオアシスに、置き忘れられたように建っている駅から始まる。
 見た目こそ砂と陽に焼かれ、古びているが、帝都の叡智を結集して設置された、チェス盤上の妙手であった。
 小列車は分厚く作られており、正面には大きな鉄の衝角が突き出している。
 側面は、操縦席以外の車室部分は細く作られ、車室両脇が柵とタラップで外に出られるようになっている。
 壁面に嵌め込まれた勇ましい土竜のレリーフは、列車の管轄地区を示すものである。
 土竜に添うように浮き彫りにされた37の数字は、すなわちこの列車がゴールドバーグ西方地区管轄鉄道警備隊、第37番小隊所属であることを示していた。


 砂漠の早朝、まだ気温も上がりきらない頃、予備線路にトンネルのように作られた車庫の中の小列車で、遠慮のない足音が響きわたる。
 車室外にぴったりと身を寄せて、扉すらついていない出入り口の向こうをうかがう少女が一人。
 血色のいいペイルオレンジの皮膚に、明るいブラウンの頭髪を三つ編みにして背に流した人間族で、レリーフと同じ模様を刺繍された隊服を、
 肩口と膝からちぎって肌を露出させている。
 腰のベルトに、刀身が長方形をした板のような肉厚の片手剣を突っ込み、両手でボウガンを携えた。
 口の中で小さく数字を呟く。
「3ッ!」
 車室に飛び込むと同時に油断なく視線を巡らせ、壁際のロッカー以外なにもない狭い車室に、誰もいないことを確認する。
「次は……」
 操縦室か、反対側の車室外。一瞬の迷いの後、操縦室に振り向いた眼前に、青銀色の槍が突きつけられていた。
「相変わらず、ノロい」
「……ちぇ」
 彼女の目の前にいたのは、青白い皮膚のところどころを黒い羽毛に包まれた、同じぐらいの年恰好の少女がもう一人。
 隊服ではなく、裸体を包む羽毛の上から、隊章入りのベストを羽織っているのみである。彼女の背にある一対の翼を縛らないためであり、
 羽毛を纏う黒翼族に布製の衣服はかえって邪魔になるということもあった。
「また飛んで足音消してたわね。汚いぞカラス」
「相手が何をやってくるか、予測してませんでしたって言い訳をするのか? お前の愚痴を聞いてくれるのはレテ川のカロンぐらいだぞ」
 神経を逆撫でするような笑い声を残して、黒翼族の少女は槍を引いた。見せつけるように、わざわざ翼と一緒に肩をすくめる。
「ガラティーン、あんたね」
 その時、操縦室の扉が開いた。
330第37番鉄道警備隊 2 ◆sbrD/79/kI :2008/09/05(金) 23:58:13 ID:gRCjz1nS
「あのー……」
 頭を出したのは、見た目こそ人間族と変わらないものの、天を指して自己主張する大きな長い耳。
 真っ白い体毛と赤い目という、純血の特徴を備えた長耳族の少年が、恐る恐るといった風で操縦室から顔を出している。
「チェイニーさん、ガラティーンさん、車両のメンテナンス中なんで、車内戦闘の訓練はまた後にしてもらえると……」
「そんなもんやりながらでもできるでしょ!」
 チェイニーは表情も腹立たしげに怒鳴りつける。身をすくめた少年がガラティーンに目を向けると、彼女はふふん、と笑った。
「……でも、今週の横断鉄道が近づいてますから、準備しておいてくださいね」
「ご苦労、ピョートル。仕事熱心だな」
「……はい」
 渋々といった風情で、ピョートルが操縦室の扉を閉める。
「さあ、訓練にならない訓練はもうやめだ。ピョートルが言ったとおり、横断鉄道で出動がかかったら大変だからな。まったく今日も無駄な時間を過ごしたよ」
 言い残して、ガラティーンはチェイニーを見もせずに車庫を後にする。
 車室内に残されたチェイニーは、しばらく彼女の出ていった方向を睨みつけていた。
「ふん!」
 憤りに任せて壁を蹴りつけ、チェイニーも停留駅の駅舎へ歩いていく。
 車両内に、ピョートルが機械をいじる音だけが小さく響いている。



 車両整備は、思ったよりも手間取った。
 油まみれのまま駅舎の小隊長室に現れたピョートルを出迎えたのは、チェイニーと、小柄な彼の肩口ほどまである大きな灰色狼であった。
 狼が、いつもの睨みつけるような表情で唸る。
「規定時刻1分21秒前だ、ピョートル」
「は、はい。申し訳ありません」
 反射的に謝りながら、車両整備を手伝ってくれなかった薄情なチェイニーを睨みつけまいと下を向く。
 長耳族では誇りであるはずの白毛が、炭塵と機械油で黒く汚れてしまっていた。
 目の前で狼が、鋭い視線でこちらをじっと見ている。
 時間には間に合っているが、緊急時であろうと5分前に行動準備を終えているのが鉄道警備隊の規則である。
 最低でも3分前に間に合っていないということで、すでに叱責に値しているのだった。
「ピョートル」
「はい!」
「ガラティーンはどうした」
 また、遅刻であるらしい。
「さっき、僕より先に……」
「隊長、ガラティーン到着いたしました」
 開け放しの入口から、悪びれもせず黒いシルエットが入ってきた。
「41秒遅刻だ。理由は」
「小用を足していました」
 聞き終わると、狼は返事もせずに尾でガラティーンを打った。元々体格の良い方ではない黒翼族の少女が、放り投げられるように床に叩きつけられる。
 狼はそれきり彼女に一瞥も投げず、横並びの三人の少し前に立って背筋を伸ばした。
 ガラティーンが立ち上がって整列する。
「たった今出動命令が入った。これより作戦概要を説明する」
 狼が言う。
 通常ならば、朝に小隊長室で行われるのは点呼と予定確認ぐらいのものである。
 大抵はこの後、訓練や車両補修、駅舎の修繕などで過ごしているが、こうした通知や出動命令が出ることもある。
 緊張で身を硬くしたピョートルを、狼の眼光が素通りする。
「明後日通過予定だった横断鉄道に、強盗団が乗車していた。昨夜車両内で蜂起し、乗務員が応戦中だ。
これより急行し、強盗団を鎮圧する。なお敵の武装は銃とハチェット」
「隊長」
 狼の目がチェイニーに向く。
「横断鉄道の規模はどのくらいですか?」
「先頭と最後尾に動力車。客室車10両に食堂車3両、貨物車5両の合計20両。強盗団は客室車を半ばまで制圧したが、動力車までは届いていない。依然走行中だ」
「隊長、被害状況は?」
 今度はガラティーン。
「乗員乗客ともに死傷者が出ている」
 他には、と三人を睨みつける。
 質問も報告すべきことも特にない。
「2時間後に戦闘準備を終えて車両へ集合。以上、解散」
331第37番鉄道警備隊 3 ◆sbrD/79/kI :2008/09/05(金) 23:59:34 ID:gRCjz1nS
 ゴールドバーグ西方地区管轄鉄道警備隊小隊長。長たらしい肩書だが、要は人柱たちを押し込めておくための要石である。
 鉄道警備隊は、数人に戦闘用列車を配備した小隊を一単位として、その小隊を各地に撒くことで鉄道での犯罪に即応している。
 彼らが派遣されるのは、砂漠地帯や山麓、市街地でも治安レベルの低い過酷な地域である。
 そうした場所には有能な人材を送らねばならないのだが、都市部で要職を占めている人間族は、自分たちの優秀な者を送ろうと考えない。
 第37番小隊の構成員が御覧の通りであるのは、異種族であれば人間族の人的損害がないためであった。
 つまり、派遣された時点で、消耗しても問題のない人材であるとされたも同然なのだ。隊長級であっても、それは変わらない。
 要石自身も人柱であることを気づいている者は、少ない。賢狼イルは、その少ない方の一人である。

 賢狼という種族名は、公式には認められていない。
 狼はあくまで狼であり、知的種族ではなく生物分類の一種に過ぎないというのである。
 狼たちの中で、どういうわけか知的種族に匹敵する知能を身に着け、二足歩行に適した体格への変貌能力を保有した者を、
 彼らの自称をとって便宜的に賢狼と呼んでいる。
 それゆえ人間族主体の都市社会の中で、法的にはイルはあくまでただの狼なのである。
 たとえ遊び半分で殺されたとしても、最も重くて愛玩動物に対する器物損壊罪しか適応されない立場で、ここまでのし上がるのには並大抵の努力ではなかった。
 賢狼の同族は、無益なことをする奴だと蔑むだろう。
 車両の車室外で背筋を伸ばしていると、ガラティーンが来た。
 彼女は遅刻に限らず細かい服務規程違反の常習犯で、毎度のように罰を受けているが、気を引き締めなければならない場面はわきまえている。
 携えて来たのは身の丈ほどの鋼銀槍。他に、準備するような装備はない。
 ピョートルは、とうに操縦室に詰めている。
 列車が動くようにするには、かなり前から蒸気機関に火を入れていなければならないのである。
「車内待機」
「了解」
 一声唸って、ガラティーンを車室内へ入らせた。
 5分前ぎりぎりになって、チェイニーが姿を現す。
「規定時刻5分11秒前」
「はい」
 相変わらず袖と膝下をむき出しにした隊服に、背嚢。腰の板剣と片手用ボウガンはいつもの通りである。
「武装は」
「特には用意していませんが」
「乗車」
「了解」
 チェイニーも車両に載せる。四足の状態で、車室に歩み寄って操縦席に声をかける。
「ピョートル、状況報告」
「いつでもいけます」
「時刻繰り上げ。発車」
「了解です」
 機関が蒸気を吹き上げ、モーターが車輪を動かす硬い震動が体を伝わってくる。
 車室内は、小隊員を詰めてある。戦闘要員であるチェイニーとガラティーンは、作戦予定エリア到達までは待機である。
 イルは車室の外へ出て、列車の後尾に座り込んだ。
 車体側面に嵌め込まれたレリーフに、37の数字をお供に居座る勇ましい土竜。鉄道警備隊第37番小隊の証。
 一両の小さな蒸気機関車に乗り込んだ4人が、全構成員である。

//////////////////////////////////////////////////////

とりあえずここまで。荒事をやろうと思って始めたので、荒事をやるまでやりたい。
332名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/06(土) 00:02:26 ID:VyokBVGS
投下乙!
これから荒事がはじまるのか…wktk
333トリップディスクロージャ:2008/09/06(土) 00:10:20 ID:5Cvl7R1f
◆KFkrWlFr7E
#itaita

◆UfPI417KJM
#01089213

◆Wramvk0D7M
#hebehebe

◆HE69LCK/Q6
#サンジェ

第37番鉄道警備隊 ◆sbrD/79/kI
#none
334名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/06(土) 00:14:19 ID:0YS3TCto
鉄道警備小隊GJ!
物資輸送や交通関連はまだまだ鉄道が主流と感じられて熱い。
この世界の政府はけっこう黒そうですなw
335名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/06(土) 01:14:21 ID:unsvZQuU
魔法に頼らずに飛行機を飛ばす。
皆がそれを聞いた時、嘲笑した。
しかしどうだろう、今では国中が驚嘆しそれを見ている。
大きなエンジンは唸る時を今か今かと待ち続け、小さな翼はいつ風を切るかと催促し、
円筒の胴体は静かに飛翔する時に備え、円錐形の機首は星が良く見えるように上を向いている。
そう思えるほど良く出来ているこいつは、私の最高傑作だ。
もちろん、他の者にも手伝ってもらった。それほどこいつは大きい。
初めに作った奴は、私の背丈位の大きさだったが、形を改良してより大きな者を作り、打ち上げる。
それを繰り返していくうちに、なんと正式に国家プロジェクトになってしまった。
それほど奴らは衝撃的な存在だったということだろう。
そしてついに、あの空の向こうにまでたどり着けるはずのこいつが完成した。
打ち上げは明後日の予定だ。それまでこいつは、そばの柱に支えられている。
なんだか、夫婦のようだ。
そういえば、こいつらに全てを注いできたおかげで、結婚どころか性交渉までしていない。
しかし、私は魔法を使える。
どうやら、一度もヤった事の無い者は魔法が使えなくなる、という噂は嘘らしい。
ははは、噂なんてそんなものか。
私はなんだか陽気になり、歌を辺りに鳴り響かせる魔法を唱える。
この歌は私の最も好きな歌で、開発の時も唱えて。
あれ、何も聞こえないな。
いや魔法が使えなくなったわけではないぞ!
どうやら、地域のマナがかなり薄くなっているらしい。これは異常事態だ。
それに、なんだか、息が、苦しい。
336名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/06(土) 01:16:50 ID:unsvZQuU
そこで彼の思考は途切れた。
この国の酸素が、全て二酸化炭素に変わったためだった。

その様子を、飛行船は遠くから観察している。
「どうして、こんなことをするんだろうね。」
その様子を観測する仕事の若い男が、ひげのふさふさな男に尋ねた。
「どうやら上は、この飛行船の平和の為、と思っているらしい。」
若い男には理由出来なかった。どうして平和の為に人を殺し、国を滅びす必要がある。
その気持ちを読んだ様に、ひげの男はすぐに彼の疑問に答える。
「この飛行船を脅かすような技術を持つ国は、全て滅ぼす。そうすれば、俺達は安全だ。」
要するに、敵対できる者がいなければ飛行船の安全は確実、そういうことになる。
若い男は胸が痛み、それでも機械のレンズを覗く。
そこには酸素を炭化させる魔法により、苦しみ死んでいく人々が画面中に映っている。
ふと、その中に家の窓ガラスから外を涙を流しながら見る少年が視界に入った。
その家は、閉めきっているのだろう。少年は悲痛な面持ちで窓を叩いていた。
普通ならば、この魔法下でそんな元気は出ないが、密閉された空間には魔法の効果は及ばない。
彼はこの様な人物を見つけた場合、報告する仕事があったが、彼はサボタージュを選んだ。
報告したらどのようになるか、そんなことはわかりきっている。
何せ、可能性で一つの国を滅ぼすのが「上」だ。
「生き残る可能性くらい、与えたっていいじゃないか。上がこんなに非情だったとは。」
彼は、初めて「上」に憎悪を覚えた。


飛行船が去って行った後、豊かであったこの国は、木々は枯れ、虫の音も聞こえなかった。
だがどんな過酷な状況でも、生き残る生物はいる。
雑草は僅かな酸素をかき集め、光合成により新たな酸素を生み出す。
それに頼り、生き残る小動物はまた新たに生命のサイクルを築く。
また外部から生き物が訪れ、この地域の生態系は生まれ変わった。

そして飛行機、俗に言うロケットは錆が浮かびながらも、健在だった。
誰かが柱と共に収容したので、飛行船の目を逃れる事が出来た。
そして時はたち、またこの地域に国ができた。
ロケットと柱は、周りの収容施設が崩れて剥き出しになってもなお、健在だった。
彼らは待ち続けている。
ロケットのエンジンが唸りをあげ、翼が風を切り、胴体が飛翔し、機首が星を見るその時を。



>>108
337名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/06(土) 01:21:27 ID:VyokBVGS
すげぇつながった!
338名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/06(土) 04:43:26 ID:wXktU01c
http://sw.dojin.com/
ドメイン取ったぞー(^o^)ノ サブドメインだけどな。
といふわけで移転。>>336までの投下作品、今北産業分をまとめた。

トップページの「現在投下されている全作品」、及び「今北産業」からドゾ。
ネタ別投下一覧は現在工事中な感じなので、404が出ても泣かない。

土曜日age
339名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/06(土) 08:41:04 ID:3eQCu454
>>335-336
しんみりきた…

>>338
毎度のことながら乙
340名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/06(土) 11:50:25 ID:XQdc6ZZr
>>338
乙!
341名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/06(土) 20:04:12 ID:8drSNkop
なんかキノっぽい感じになってきたなー
あんな書き方シェアワールドに向いてそうだ
342名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 10:18:02 ID:B4EuR4WD
人少ない? みんな書いてるからかな。
ttp://www6.uploader.jp/dl/sousaku/sousaku_uljp00004.zip.html
俺用メモ、必要なら使って下さい。
多分、抜けやミスが多いと思うけどね。
343名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 11:04:57 ID:oyOGWZNq
>>342
わほー! うぽつ!! 便利だじょ!?

>みんな書いてるからかな。
オレはもう、書いてると言うより丸めた原稿用紙に押しつぶされてる作家状態だぜ…
344名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 11:08:39 ID:UKjFahXG
>>342
なんじゃこりゃ!?すげー
345名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 14:49:39 ID:admPzZ6K
すみません。質問があります。
帝都とゴールドバーグ・シティは同じものですか?
346名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 17:07:40 ID:k27srvWH
>>223〜225
惑星ネラース(仮)はなかなかいいね
古代人が月型衛星を建設して地表部を居住可能にした‥とか
魔法を使える生き物にはマナで素粒子に干渉する為の部位が脳中枢にある‥とか
マナの発見と古代文明の終焉…とか
妄想が膨らんでくな
347名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 17:11:36 ID:BpdkKSZj
さあ早く妄想をSSにする作業に戻るんだ
348名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 17:39:07 ID:k27srvWH
>>347
でもスチームパンクもいいなーって思うとどっち書こうか迷うんだよな
349名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 17:51:26 ID:BpdkKSZj
スチームパンクな国が魔法やらマナやらを発見して古代文明を始めたことにするとか
いろいろやりようはあるよ
350名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 17:55:53 ID:rPHhlErt
そういやスチームパンクの古代文明についてはまだ手つかずなんだっけ

・科学や錬金術が今より発展していた
・大規模な空中文明が存在した
・自動人形や飛行船など、現在では衰退したテクノロジーも多い

現状で明らかになってるのはこんな感じだっけ?
351名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 18:12:44 ID:BpdkKSZj
そんな感じだね
352ある空賊達の会話 ◆IkHZ4B7YCI :2008/09/07(日) 18:42:31 ID:BWTnpwRb
(1/2)
 文明の大崩壊を迎えて以来、訪れる者が途絶えて久しい、数ある空中都市の一つ。
 数千年の時を経て訪れた、無人の都市を探索する空賊たちの立てる無粋な靴音が響く。

「なぁ、ゾルゲ。知ってるか?」
「あん? 何がだよ。チェイニー」
「古代文明が滅んだ理由」
「へっ、そんなもの知ってるインテリ層が空賊なんてヤクザな稼業に首突っ込む訳がねぇだろ」
 問い掛けに、ゾルゲと呼ばれた男は馬鹿にしたようにヘラヘラと笑う。
 この返答にも、チェイニーは気を悪くするでもなく、まあ聞けと話を続ける。
「空から定期的にやってきて、街を襲う化け物どもがいるだろ? 一説には、奴らの暴走が原因とか言われてる」
「ほぅー。いまも軍が手こずってる蒸気機関の化け物どもが理由ねぇ」
「奴らにはかなり高度な魔法技術も使われてるって話だからな。あと、奴らの根城は『蒸気乱雲』の中にあるって噂だぞ」
「へぇー。あのレーダーも通らない、大陸中をさまよってるデッカイ雲の中にねぇ」
「ああ。『蒸気乱雲』の中には、国がすっぽりおさまるぐらいデカイ飛行船が隠れてるって話だ。あの雲も船の蒸気が出したものらしいぞ」
「ほぅー。国がすっぽりと来たもんだ」
「前に軍の連中に聞いた話だが、あそこを政府は慣例的に『上』って呼んでるらしい」
「……へぇー。『上』、ねぇ。そもそも何だって化け物どもは地上を襲うんだ?」
「奴らが造られたのも古代文明全盛期のことだからな。詳しい理由はわからん」
 ただ、文明の大崩壊以来、『上』の人間はほぼ死に絶えたと聞いたことがある。
「ほぅー。なら化け物どもは、もう誰の命令もないのに、今も地上を襲ってるってことか」
「さてな。実は僅かな生き残りが居て今も命令を下しているとも、当時の暴走がいまだ続いているとも、いろいろな理由が考えられるだろうな」
「へぇー。まあ、何にしろ、その『上』の連中も厄介なもんを残してくれたもんだぜ」
「そうだな。だが、おかげでオレ達のような遺跡荒らしが働く余地が生じている」
「はっ、違いねぇ。軍や政府は化け物どもとエルフ連中の相手で、北へ南へ大忙しだもんな」
「いつか古代文明崩壊に関する真実を知りたいものだな」
 そこで、二人の会話は一端途切れた。
 しばしの沈黙が続いた後で、不意に、気の抜けた相槌を繰り返していたゾルゲが口を開く。
353ある空賊達の会話 ◆IkHZ4B7YCI :2008/09/07(日) 18:43:29 ID:BWTnpwRb
(2/2)
「そーいやチェイニー、お前さんは元学者志望だったか」
「ん、ああ。そうだな」
「なるほどねぇ。空賊になったのもフィールドワークの一環か? よく勉強してるもんだ。感心するぜ」
「はは。そう大したものじゃない。所詮は独学だからな」
 照れたように頭を掻くチェイニーに、そう謙遜するもんじゃないと、ゾルゲは否定を返す。
「まあアレだ。一方的に聞いてばかりってのも気分が悪い。今度は俺の知ってることを教えてやるよ」
「ん、なんだ、ゾルゲ? お前も何か知っているのか?」
「ああ、知ってるぜ」
 あんまり大したことじゃないがな。そう前置きとすると、ゾルゲは口を開く。
「なんでも帝都の政府は、『蒸気乱雲』の中にある勢力と、取引を交わしたことがあるらしいぜ」
「取引?」
「ああ。かつて起こった文明大崩壊は、お前さんの言う『上』の連中にもそうとう堪えたんだろうな」
 文明の大崩壊による人口の激減。徐々に枯渇して行く船の物資。資源発掘の見込めない空という拠点。
「文明大崩壊から間もなくして、僅かに生き残った『上』の連中が、当時の帝都政府に取引を申し出た」
 帝都が『上』に対して継続的な物資の提供を行うこと。
 これまで『上』の特殊機関が果たしてきた、ある役割を代行すること。
「この二つの行為と引き換えに、『上』の多種多様な技術を提供するって取引だ」
「……物資の支援と技術提供はわかるが、ある役割の代行?」
「ああ、そうだぜ」
 たとえば、それは『上』と帝都以外で育ちすぎた文明圏の間引き。
 たとえば、それは『上』について探ろうとする人間の処理を行うこと。
「そう、例えば──こんな風にな」
「あ」

 パン。

 乾いた銃声が響いた。
 残されたのは、無人の都市に、死体が一つ

/////////////////////////////////////////////////////////////////////////
元◆HE69LCK/Q6ですが、トリップ変えますたと一応報告。
>>335を読んで、感動のあまり衝動的に書いた。
実際に『上』が今どうなってるかは、他の作者さん次第ということで。
何となく、スチームパンクな国は、魔法も科学も錬金術の一分野として扱ってるイメージがある。
354名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 19:04:20 ID:M/YaI9lU
>>352-353
投下乙。
前半のゾルゲの受け答え方のテンプレっぷりが後半で効いてる。こえー。





ところで
http://sw.dojin.com/cgi/html/
こんなものを作ってみた。暇なやつ、特に筆者のみんなは協力頼む。

名無し用の単語登録におけるユーザーIDと修正キー↓
ID:sw
パス:tukutte


あとバグとかの報告もよろしく頼むぜ!
355名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 19:11:49 ID:FzTCajY5
すまん、ここは何を書けばいいか、いまいちわからんのだが
356名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 19:16:57 ID:M/YaI9lU
>>355
スレ内で出てきた単語とか、>>342みたいにまとめる必要のある単語をここにまとめておけたらいいなと思って作ったんだ。
使い方は右上の[登録]から。
IDと修正キーを入れて(1)単語を登録する。でどうぞ。
357名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 19:59:31 ID:sCUhtPjp
項目クリックすると左のフレームに表示されるのは俺だけだろうか。
358名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 20:49:23 ID:BWTnpwRb
>>354
辞典作成、乙です。

>>357
実際見に行ってみたけど、そんなことはなかったぜ。
359名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 21:26:21 ID:fv8VR8OW
>>357
俺もだ
なんか説明一式全部左側に出る
360名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 21:36:56 ID:BWTnpwRb
あれ、火狐だと大丈夫だったんだが、IEに切り換えたら同じ症状が出た。
361名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 21:39:40 ID:fv8VR8OW
ほんとだ、火狐だと大丈夫っぽい
なんでだろ
362名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 21:43:14 ID:M/YaI9lU
CGIの引用元がだいぶ前にFAQ閉鎖しちゃってるしなぁ。
誰かCGI詳しい人ヘルプ。
363名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 21:52:59 ID:wuhpI24l
IE6 と Opera で見たけど、
両方正常だったよ。
364名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 21:56:30 ID:fv8VR8OW
ということは、IE7だとアウトなのかな
365名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 23:41:05 ID:M/YaI9lU
ちなみに単語の登録は承認式なので、俺が定期的に許可おろします。
今中途半端なところで止まってるんで、気づいた人からどんどん保管したってください。


HPは実家と自宅で更新作業別々にやってたら、間違えて古いファイルを上書きしてしまったので、今日はお休み('A`)
定期age
366名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 03:07:12 ID:yTU7i+1f
何も考えず投下
(1/3)
「すっかりハメられちまった…」
地下通路の闇の中を走る探偵は呟いた。ランタンの光が彼の顔に疲労と焦燥の影を刻んでいる。
もはや帝都に彼の居場所は無かった。今更帝都に戻ったところでやってもいない罪を問われ、
きつい拷問を受けたのちに死ぬまで牢に閉じ込められるばかりだ。
しかし、帝都にはもう何の未練も無いはずであるというのにこのお人好しな探偵は帝都を守るために奔走しているのである。
事を遡ると、あの一連の事件にケリを付け、しばしの休息を謳歌していた探偵のもとに
ジョンと名乗る男が現れた。ジョンから得た情報によって彼は帝都の危機を知った。
あの恐るべき野望を持つ男が死んでおらず、更には帝都の高官と結託して陰謀を進めているのだという。
このジョンと言う男自身も帝都の暗部が張った罠であったのかもしれない。その後すぐに探偵は命を狙われ、
無実の罪を着せられて犯罪者として逃亡するハメになってしまった。
 今現在彼が居るのは帝都政府が極秘裏に保持する飛行船の基地。厳しい監視の目をかいくぐり、ようやく中枢部へ辿り着く所だ。
ジョンから聞いた情報によればあの男は高官の支援によって巨大な兵器を製造してるようだ。
過去にも彼の驚くべき発明に苦しめられた探偵は心を引き締めた。
不意に、闇の先から複数の蒸気機関が出す音を耳に捉えた。進むほどに大きくなるのがわかる。
更に進むと、蒸気機関の数は複数どころではない事に気が付く。目の前に現れた重厚な扉を開けた探偵は目をみはった。
 鉄鋼の黒い躯体とその所々から突き出た排気塔の出す蒸気は広大なドックを埋め尽くし、全容は計り知れない。
扉を目掛けて吹き込んできた蒸気が探偵を襲った。探偵は先ほどの通路で拾った非常用の防熱マスクをかぶるが、蒸気に触れた皮膚が痛む。
探偵はランタンをぶん投げ、柵を飛び越え、鋼鉄の塊へと乗り移り、恐らく操縦室と思われる、中央の大きな円錐台型の部分のハッチを目指し走り出した。
その途端、蒸気機関は更に大きな唸りを上げて機体を振るわせた。探偵は思わずよろける。
ゴゴゴゴゴゴゴ…ギギギィ…
「動き始めた…?」
突如、探偵の顔に月光が射す。地下ドックの天井が開き始め、夜空が顔を覗かせた。
大きな満月の横に月光で黄緑に光るカエルが浮かんでいるのが見える。
空族などの間で幸運の象徴と言われているが、今夜は誰のためにその姿を現わしたのだろうか。
探偵は我に帰って再び操作室へ向かって走り出す。蒸気はいつしか外に逃げたようで、マスクもぶん投げ、更にピッチを早める。
操縦室へあともう少しと言うところである。
ガオン!!
体が宙を舞うほどの巨大な衝撃が探偵を襲った。
 帝都を滅ぼさんとする鋼鉄の悪魔が夜空に向かって立ち上がる!
探偵は機体の上を転がり、何度も失敗しながらやっと排気塔にしがみ付く事が出来た。
一息付いて周辺を見回すと、風景はまるで低空飛行の飛行船に乗っているかのごとき目線であった。
砂漠や、先ほど地下に入り込んだ入口が眼下に見える。視線を遠くへ移すと、丁度、きらめく帝都の夜明かりが見えた。
この蒸気機械は何のために帝都へ向かうのか…? 探偵の疑問はすぐに解決した。本体に隠れてちらちら見える屈強そうな八本の鋼鉄の足と共に時折、
いかにも口径の大きそうな砲門が見え隠れしている。他にも色々な兵器が隠されているのだろう。
突然、機体が大きく揺れる。探偵の居る位置からはよく見えないが、この蒸気機関、どうやら車輪やプロペラではなく、足でもって歩いているようだ。
探偵は機体の揺れのタイミングを測って再び走った。そして、今度こそはとハッチにすがりついた。
案の定、ロックされている。しかし、こんな事では動じないのが彼である。秘密の魔法薬をハッチの継ぎ目に垂らし、熔解させて打ち破る。
一張羅に少々薬がひっかかったのを気にしながら探偵は操作室と思しき円錐台に突入した。その間にも黒の悪魔は帝都へと近づいていく…。
367名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 03:09:27 ID:yTU7i+1f
(2/3)
 割と広い操縦室だ。目の前に居るのは仇敵であるカイゼル髭を生やした目の細い、ぴったりしたスーツの似合う青白い男。
その奥では機体を操縦するべく観測機や計算機や操縦桿と格闘している者達。更に奥の大きな窓からはさっきより大きく見える帝都があった。
「まったく、いつもいつも僕の邪魔をするんだな、君は…」
「おかげで帝都じゃ凶状持ちさ、全部お前の企みのせいだ。あの時大人しく死んでりゃ良かったんだよお前は」
「あの程度で僕を殺せたとでも? やっぱり君は甘いな」
「少なくともひと月くらいは大人しくしてると思ってたよ。本当に俺は甘いな」
カイゼル髭の男はにんまりと微笑み、指を鳴らした。頭上から五人の兵士が降り立ち、銃口を突きつけ探偵を囲む。
「考えてみればおかしい。…君がそう簡単に捕らわれる訳は無いんだ。よく調べろ」
「調べても無駄さ。お前にとってもう手遅れだ」
探偵は揃いの良い歯を見せびらかすかのように笑い顔を作り、コートをはだける。
そこにはびっしりと戦術用の魔法薬が小瓶に分けられ装着されていた。等級は全て最高純度。贔屓の工房から半ば強引に手に入れた物のようだ。
「!? き、君!! そんな事をしたら君まで死ぬだろ!?」
「俺は帝都でしか生きられない弱い男さ、居場所はあそこしかない。それがこの通り帝都に居れば死刑だ」
「まま、待て待て、早まるんじゃないぞ、僕だって君に死んで欲しくはない寂しくなるからねだからやめ、やめろおお!!」
瓶を一本手に取り、頭高く掲げる。カイゼル髭の男も、周りの兵士も操縦員も青ざめ、機体の振動すら不安感を煽った。
「この魔法薬、こんな小さな一瓶でも人家の一つ二つ飛ばすのはわけないぜ。さあ、肉の花火でも散らすとしようか…」
探偵は魔法薬を勢いよく床に叩き付けた。
しかし、散ったのは五人の兵士の血液と命だけであった。怯んだ兵士の一人から銃を奪い取った探偵は素早く五人を射殺。カイゼル髭の男に銃口を向ける。
「騙したな!! 本気で死ぬつもりだと思ったじゃないか!!」
探偵は偽の魔法薬が満載のコートを投げ捨て、改めてカイゼル髭の男を睨む。
「あんたも案外甘いなあ。ククク…」
カイゼル髭の男は一通り歯を軋らせると、叫んだ。
「ふっとばせぇ!!」
操縦員の一人が赤いレバーを最大限に引っ張る。
その直後、機体中の排気塔から一斉に蒸気が吹き上がり機体が大きく揺れる。歩行速度は倍以上に上がっていた。
探偵は思わずバランスを失い、銃の照準がずれる。カイゼル髭の男は走り出す。
「君はもう死ぬしかないな! 死ぬがいいさ!」
懐から抜き出したナイフを探偵の首もと目掛けて投げる。探偵は銃を発砲し弾丸でナイフを退けた。
流れ弾が操縦員に当たるのが見える。カイゼル髭の男は続けざまに幾つものナイフを投げ、銃弾から身を守る。
蒸気機関の轟音に負けない銃声が操縦室に十数発響き。操縦員は流れ弾で死ぬか逃げ出した。いつの間にか操縦室に居るのは二人だけとなっていた。
操縦室の大きな窓には帝都の西門が間近に迫っている。
368名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 03:11:16 ID:yTU7i+1f
(3/3)
しかし、この機体はバランス誤差を修正する者も出力調整をする者も操縦する者も既に居ない。
機関室の人間はもしかしたら蒸気で皮膚や肺を焼かれ死んでいるかもしれない。
今や動作に大きな矛盾と負荷が生じている為なのか、そこら中から金属が軋む音が響き、蒸気機関が爆発する音が次々と起こっていた。
カイゼル髭の男の企みはまたしても探偵によって挫かれたわけである。敗北を悟ったカイゼル髭の男は苦渋の表情で窓まで後ずさりする。
探偵はさらに数発銃撃を加えるが、無限に出てくるように思えるナイフがそれを防いだ。
「また逃げる積もりか!」
「ああ、そうだよ。僕は絶対に諦めない! 帝都を滅ぼしてやるんだ!!」
「今回は帝都の上層部がお前を支援したらしいな、本当の事を喋ってもらうぞ」
「ふふふ、一つ教えてやろう。これは奴らにとってクーデターなのさ」
「奴らにそんな事をする理由なんか無い」
「それが有るんだなぁ。君が真実を知れば間違いなく殺される。手を引いた方が利口だと思うぞ?」
「今更手を引くも何もあるかよ。絶対に俺は退かない」
「そうかね。まあ、遊び相手が居た方が張り合いも出るし、いっか! ハハハハハ! さらばだ!!」
カイゼル髭の男は嬉しそうな顔をして後ろ飛びで窓を破ると蒸気と炎の中に消えた。間違いなく逃げおおせてるだろう。探偵は確信していた。
「さて、俺も逃げなけりゃならんな…」
気付けば、探偵の周辺は炎の海となっていた。

「だんなぁー!! 起きてよ!!」
耳元で少女の甲高い声が響く。キンキンと脳を揺さぶる。こんな声を出せるのは我が助手以外にあるまいと探偵は確信した。
「何だ…? しばらくは仕事は取らないで休むって言っただろ…」
何とかあの鋼鉄の塊から逃げおおせたものの、帝都に戻る事も出来ない…と思いきや、何故か犯罪の濡れ衣は綺麗さっぱり取り払われ、
あの馬鹿でかい蒸気機械も厳しい緘口令が敷かれ、数日で迅速に撤去されてしまった。
これには探偵も己に窺い知れない大きな力の動きを感じた。
事務所兼自宅に戻った探偵は自分が正体不明の者どもに上手く誘導され、コマとして使われた事に憤っていたものの、休息を要求する体には抗えなかった。
そして今日は看板を一時しまって三日後の朝である。
「旦那! 猫さがしだよ、だんな!」
好奇心旺盛な助手の目は探偵の休息を許さなかった。探偵は新しく開いた穴が繕われたコートを羽織る。
「旦那、もう穴開けないでね? めんどくさいから」
生意気そうな顔をした助手の額を弾き、探偵は看板を入口に立てかけるのであった。
〜おわり〜
スチームパンクに二十面相と明智先生風味を加えて
>>297-299少しパクっちゃった妄想SS。駄文申し訳ない…けど今はじゃんじゃん書くべきだよね?ね?
369名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 07:40:36 ID:1t4CZUM/
投下乙!
ジョン・スミスあちこちに出てくるなw
370名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 08:42:23 ID:mQG0QGzb
スチーム・パンク&魔法薬&探偵怪盗かw
魔法文明と機械文明が交易してて
お互いの地域を船で回ってる交易商人の話とか考えられそう
371名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 13:51:32 ID:fzK2+QAO
辞典に>>163-165関連語句すべて追加。
次は>>119とそのシリーズの関連語句を埋めていく予定。

定期age。
372てのひらを太陽に ◆meXrLVezBU :2008/09/08(月) 21:31:01 ID:G/4i0FkZ
 マルエッソ――様々な文化が出会いと別れを繰り返した、異国情緒溢れる街。
 誰から聞いたか忘れてしまっていたし、異国情緒って奴がどんなのかは全く想像できなかったけれど、実際にマルエッソ・
ステーションに降り立ってみると、何となくそれが解ったような気がした。
 プラットフォームに降り立った人は、僕の田舎でも見掛けるような背広だったりとか
レースやらオーガンジーやフリルやらを多用したよそ行きの服の人が多かったけれど、
プラットフォームから機関車に乗り込んでいる人が着ている服は今まで僕が見たことも
ないような物だった。
 例えばさっき機関車から降りた時にすれ違った女の人は、全身に白い布を巻き付けて
ただ顔だけを覗かせていた。多分コルセットでウエストを絞ってもいなければ、ドロワーズやら
ペチコートも着けていない。けれど珍妙だと感じなかったのは彼女がしゃんと背筋を
伸ばして颯爽と歩いていたからだろう。さらさらと聞こえてきた衣擦れの音から察するに、
恐らくは絹で出来た物なのだろう。
 男性も頭にくるくると布を器用に巻いていて帽子を被っておらず、上着を羽織らず袖なし襟なしのシャツに薄手のベストを身に着けていた。
 極めつけはそういった格好をしている人達の肌の色が浅黒いって事だ。僕の日焼けして
赤くなった肌とは違い、どこと無くマロングラッセを彷彿させる深い色合いで、
思わず僕は沢山の人が行き交うプラットフォームでぼんやりと立ち止まってしまった。
「これが異国情緒って奴なのかな……」
 ひとりごちた言葉に、僕は遠くまで来たんだなあと感じた。田舎では見る事がなかった
光景に当てられてしまったのかも知れない。

 それより。
 30分て時間は長いようで案外短い。今この瞬間全てを有効活用しないともったいないったら
ありゃしない。僕は人の流れに合わせて歩き出した。僕は体が大きくないから流れの邪魔に
ならないようにってのが正解なんだけれど。
 と、何処からか不思議な香りが漂って来た。香ばしいとはちょっと違う。刺激的で
食欲を誘うような、空腹時に嗅いでしまうと後悔しそうな匂い。匂いの先に目をやると
そこには屋台みたいなものがあった。脇に車輪が付いていて、多分それは移動させる事が
出来るのだろう。屋台の横には「マルエッソ名物 ビーンズスープ」とあった。
 そういえば朝に軽目の食事を取っただけなんだよな。よし、ビーンズスープを食べてみよう!
373てのひらを太陽に ◆meXrLVezBU :2008/09/08(月) 21:34:03 ID:G/4i0FkZ
色々と忙しくてポツリポツリとしか投下出来なくて大変申し訳ありません。

そして>>371乙です! ありがとうです!
374名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 21:35:07 ID:fzK2+QAO
>>373
スーパー投下乙。あとでタイトル差し替えとくぜ。
定期投下があるのはいいことだ。
375第37番鉄道警備隊 4 ◆sbrD/79/kI :2008/09/08(月) 22:31:26 ID:0RG6dzw7
 車両が線路を走る震動が、単調に乗員を揺らす。
 防衛目的の横断列車が、通常通りの速度で運行していれば、あと2時間程度で合流する予定である。
 特にすることもない、退屈な時間だった。
 準備運動をしようにも、空のはずの車室内には、蒸気機関を温めている間にピョートルが運び込んでいた大型砲のおかげで、寝転ぶスペースぐらいしかない。
「銃だってさ、ピョートル」
 開け放しの操縦室の向こうへ、声をかける。
「帝都の銃士隊の制式採用銃ならともかく、強盗団程度が持ってくるような銃なら、十中八九『よそ見』でしょうね」
「『よそ見』?」
「うん、きちんと狙っても、弾が丸いから狙ったところには確実に飛んで行かないんですよ。
逆に狙ってない銃の方が危ないこともあってね。狙ってない方に飛ぶから『よそ見』」
「へえ」
 チェイニーがボウガンを使っている理由が、それである。俗称が付いているとまでは知らなかった。
「一応説明しておくと、そもそも銃って言うのが狙いをつけるのにはあんまり適してない構造をしてるんです。
鉄の筒に鉄のボールを通してるだけなんですからね。中で転がらないように、筒の口径と弾の直径を合わせてあるんですけど、そのせいで
弾が筒から離れた時にどこへ飛んでいくか見当がつかないっていう欠点があるんです。強い火薬をつめて、威力を上げれば上げるほどそういう傾向が……」
「へー」
 普段のピョートルに似合わぬ饒舌ぶりを発揮しているが、細かいことに興味のないチェイニーは、いち早く生返事になっている。
「それなのに帝都銃士隊は、10発撃ったら二人のうち一人が一発外しているかいないかっていう命中率なんです。
僕も銃を使いますけど、『よそ見』を直した銃で訓練したって、10発中9発なんてまず無理ですよ。そりゃ、帝都のエリートなんですから
僕の想定した訓練より厳しいかもしれませんけど、それでもあれは銃の仕組み自体に何か改造があるのかもしれません。
そもそも遺跡から出た古銃は、全部帝都が持って行ってしまいますし……」
 身体能力が小隊で一番劣るピョートルは、その遅れを取り返そうとしたのか、ただ単なる本人の趣味か、小隊の機械整備を一手に引き受けるほど機械に詳しい。
 運び込んだ大型砲も、あわよくば自分も参加しようという意思表示なのだろう。しかしこんなものを車両に撃ち込めば、査問会議どころか法廷だろう。
 当のピョートルは、車両の操縦桿を握っていることもあって、しばらく語りは止まりそうもない。
「とはいえ、そこらの白兵武器よりはよほど長い有効射程を持っていますから、威嚇には十分だと思います。ああでもチェイニーさんは気をつけてくださいね。
ガラティーンさんの槍がもっと長ければ、そんなに恐れるほどでもないんですけどね。チェイニーさんの刃物なんか、ぐっと近づかないといけませんから。
とは言っても、距離を取っていたら今度は狭い車内廊下で戦うんですから、壁での跳弾に気をつけないといけませんね。意外と面倒ですね。
でも、こっちが銃を主武装にするかと言われたら、ちょっとためらっちゃいますね。まあ僕みたいなのが遠くから威嚇攻撃に使うんだったら悪くはないですけど、
もし味方に当たっちゃったらって考えると、やっぱりあまり……あ、そうだ。チェイニーさんは何か火器は持ってきましたか?」
「ん? いや、客車なら、あんまり威力の高いのはないほうがいいかなって」
「そんなことないですって。それじゃ、僕の爆弾銃に予備がありますから、使ってください」
「別にいいって」
「いやいや、なくて困るものでもありませんし。暴発しないように改造もしてありますから。狙いもなるべくずれないようにしておきましたし」
「いらないよ」
「いいから使ってみてくださいよ」
 答えずに、チェイニーはガラティーンを探した。
 彼女の嫌味な口調には、普段から不快感を禁じ得ないのだが、機械操縦中のせいで異様に押しの強くなったピョートルをかわすには横槍に頼るほかにない。
 というのに、車室内にも、大型砲の向こう側にも、くり抜かれた窓から見える範囲にも、彼女はいなかった。
「また隊長に甘えに行ったのかな」
「チェイニーさん。そもそも爆弾銃って言うのはですね」
「あーもうわかったから!」

376第37番鉄道警備隊 5 ◆sbrD/79/kI :2008/09/08(月) 22:35:01 ID:0RG6dzw7

 小隊車両は、そこそこの機関を積んでいる割に、その動力の恩恵を受けるのが一両だけということもあって、普通の客車より速度が出る。
 外へ出て風に当たるには、日差しも肌を焼くようで、そして速さのせいで砂を含んだ強い風にあおられる形になってしまう。
 それなのに、イルは車室外の車両後部を定位置としていた。
「隊長」
 そっと歩み寄ってくるのは、ガラティーンである。
 以前までは追い返していたが、休息中にわざわざ寄ってくるのは彼女の性格に根ざした行動だと気がついてからは、イルは懲罰を止めた。
 イルの横に、両足を抱えてそっと座る。肌がイルの毛に触れそうなほど、近い。
 何も言わず、持っていたブラシでイルの毛をとかし始めた。
 初めこそ上官不敬で殴打していたが、あまりにめげないので、今は為すに任せている。
 他の隊員には嫌味な応対ばかりしていても、実のところガラティーンは、皆が思っているほど悪い人間ではない。
 黒翼族は、奸智と狡猾さの象徴である。
 帝都がまだ発展途上であった時は、帝都の人間族は彼らの集落と幾度となく交渉を持ち、その都度裏をかかれて良いように扱われてきたと史書は語っている。
 個人レベルで黒翼族に騙される者も後を絶たなかった。財産ならまだいい方で、場合によっては社会的に破滅する者もいたという。
 その恨みか、かつては帝都周辺にいたらしい黒翼族も、今では集落が辺境に追いやられ、帝国内にいる黒翼族は、
 何か問題を起こせば即座に警邏兵に取り囲まれ、状況の如何に関わらず、全責任をかぶせられるのが通例である。
 そんな国内派の黒翼族の子が、人との関わり方が巧くいかなくとも、仕方のないことであろう。
 集落生まれの黒翼族は、忌み嫌われた奸智と狡猾さでうまくすり抜けるのだろうが、彼女は親族から、他人に対する言動しか学べなかった。
 ブラシの段階が終わったのか、手で毛を撫でる感触が加わり、ふわりと首周りに何かが柔らかく抱きつくのを感じた。
 即座にすり抜け、尾で跳ね飛ばした。
「気が緩んでいる」
 はっとした顔に向け、放り投げるように言いつける。スキンシップを黙認することと、度を越すのはまた別の話である。
 離れて座ったガラティーンが、顔を伏せがちになるのもいつものことだった。
「隊長!」
 車室からチェイニーの声が聞こえる。
「前方に車両確認! まだ走行中のようです!」
「戦闘準備。目標車両に伴走。三点包囲で行く。車両乗務員と連絡を取れ」
「了解! ピョートル、伴走ー!」
 チェイニーの叫びのきっかり8秒後、小隊車両が速度を落とし始める。
「ガラティーン」
 呼ばれて、背を丸めている黒い翼が、やや俯き気味のまま、こちらに僅かに視線を寄せてくる。歩み寄ってその鼻先に尾を見舞った。
「返事」
「……は、はい」
 鼻血が出たらしいが、戦場を目の前に拗ねている兵は長生きしない。
「移乗準備」
「は、……了解」
 言いかけて慌てて答え方を直したのを聞きながら、イルは車両前方が見える位置に移動していった。


 信号旗で合流を予告し、相対速度を合わせて渡し板で渡る。
 いざとなれば飛び移るぐらいは訓練してあるが、このあたりは鉄道員の面目躍如であった。
 乗り移って、イルは迎撃で手が空かない者以外の乗務員をざっと見渡した。
 見ない顔ばかりである。
 小隊車両につきっきりのピョートルは、出てこないからともかく、黒翼族と狼を見てあからさまに不審な表情を浮かべる者も多い。
「あの……」
 代表者らしい乗務員が一人、進み出てきた。かなり若い部類に入る。おそらくは一回きりの箔付けに、不幸に見舞われたエリートだろう。
「責任者は、どなたで?」
「自分だ」
「お、狼が隊長?」
 騙されているんじゃないだろうな、と囁きが聞こえる。こちらを狼だと認識しているのに、狼の聴覚を甘く見ているらしい。
377第37番鉄道警備隊 6 ◆sbrD/79/kI :2008/09/08(月) 22:36:59 ID:0RG6dzw7
「ゴールドバーグ西方地区管轄鉄道警備隊、第37番小隊。自分は隊長のイルだ。現状を報告願いたい」
「では、身分証の提示をお願いします。本当に鉄道警備隊なら、帝都から交付された……」
「チェイニー」
「はい」
 乗員たちは、隊長ではなく人間族が身分証を提示したことに戸惑った視線を送り、その身分証が狼のもので間違いないことでまた混乱をきたしたらしい。
「何なんだ、あんたたち。本当に鉄道警備隊か?」
 拒絶に人一倍敏感なガラティーンの槍が弧を描きかけた時、隣の車両から大きく床を踏み鳴らす足音が接近してきた。
「若造このバカモン、お犬様になんて失礼なことを言ってんだ!」
 敬意を含むからこそ、逆に若者以上に失礼な発言をしながら、見たことのある顔が駆け寄ってきた。
「あれ、あのおっさんは」
 チェイニーがつぶやく。
 以前、機関が止まって立ち往生していた時と、強盗団に線路を爆破された時の2度、助けたことがある乗務員だ。
 この乗務員は声も大きければ体も大きく、同じく大柄なイルと並ぶとちょっとした魔物の群れのようである。
「小隊長どうもこの新米が失礼しましたァ! 現状、盗人どもは食堂車を起点に客車を占拠中ゥ、現在こっち側はあと3両まで切り込まれておりますゥ!」
 機関車の駆動音を通してすら、敵に丸聞こえになりかねないほどの大声が吹き付けてくる。
 若い乗務員は、突然身内から浴びせられた雷音に、あっけにとられるばかりである。
「御苦労。前回と同様の作戦で行く。こちらがチェイニー、自分が向こう。後詰めを頼む」
「了解いたしましたァ! お前たち、聞いたかァ!」
 戦闘準備の掛声も、やはり敵に聞こえているのではないかという危惧もあるが、ここまで来たからには気にしていても仕方がない。
 そもそも、鉄道警備隊の到着までぐずぐずしていた時点で、強盗団の活路は潰えたも同然である。
 こんな砂漠の真ん中で、砂漠渡り用の荷物ならともかく、奪った財貨を抱えて飛び出すのは自殺行為だ。
 彼らに残された道は、小隊を全滅させ、乗務員の抵抗を粉砕して横断列車の操縦を奪うことだけである。
 他の助けを借りずして、ゴールドバーグから来る鉄道警備隊の本隊から逃げ切るには、もうそれしかない。
 大柄の乗務員にせっつかれて駆け足で去っていく乗務員の中から、先程の若者を、ガラティーンが呼び止める。
「何の用だ」
「車体側面くらい見る習慣をつけておけ。車両乗務員は、目が命なんだろ?」
 土竜のレリーフを示してくすくす笑いながら、彼女は黒い翼をはためかせて小隊列車に飛び移った。
「なんだと、あのカラスめ……」
「チェイニー。こちらは任せる」
「了解」
 その場にチェイニーを残し、イルも小隊列車に移る。ピョートルが減速したため、車両は横断鉄道の後方へぐんぐん流れていく。


 横断列車の最後尾に一人で乗り移り、イルは小隊車両を列車側面に送り出した。
 準備が整ったところで、上空に飛行船の影がないか確かめる。
 空は、空挺師団に任せる他はない。
 イルは、後方車両にいた乗務員たちにも、先程と同様に自分が小隊長であることを納得させた上で、すべて自分の背後に下げた。
 武装はない。隊服もなく、彼の見た目は普通の大柄な灰色狼そのものである。
 軽く体をほぐし、筋肉に力を入れた。前足をより精密に、後ろ足をより頑強に。顎を引き、腹筋を締め、骨と筋肉を意志の力で組み替える。
 上体をゆっくりと持ち上げた。見た目こそ狼のままだが、二脚で立ち上がったプロポーションは、屈強な人間族そのものである。
 武器はいらない。鋭い爪牙と獣の剛腕が、知能と精密さを、理論に基づいた動作を得ればどうなるか。
 それが、獣でしかないイルが、主要警備部署の小隊長までのし上がった最大の理由である。
「突入」
 部下は皆別の場所にいたが、いつも通りイルは号令を囁いてから扉を蹴破った。
 ひしゃげた鉄扉が跳ね飛んで、廊下にいた2人をまとめて吹っ飛ばした。

////////////////////////////////////////////////////////////

・予定と大幅に方針がずれる。
・普通の行動でエロさをかもし出させるのは難しい。
・俺の手にかかると、どんどん迫害設定が追加されていくわけだが。
378名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 22:51:11 ID:A4CIOM3z
こちらはあなたの予定を知らない
無理にエロを入れなくても・・・
人種差別なんてどこにでもある
ということでどんどん続きを書いてください
379名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 22:59:59 ID:VqsthSiv
ゴーダと鉄道警備と蒸○探偵団キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
良作ラッシュだな今日はオイ
380名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 04:20:13 ID:iMhZ6X1B
--------------ここまで まとめた--------------

「てのひらを太陽に」の関連語句追加。登録漏れなどあったらツッコミ入れるなり登録するなりしてもらえれば。
このまま連載作品を優先して消化、追い付けるように頑張ります。

それと現時点での簡単な歴史の分岐点をまとめた項目も辞典に登録しておいた。
「歴史」の項目から確認してくだしあ。大したことは書いてないけど。

定期age
381 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/09(火) 10:26:24 ID:xAhJbXF6
ttp://www6.uploader.jp/dl/sousaku/sousaku_uljp00007.txt.html

やっぱり不安なのでtxtで投下。
382名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 11:20:17 ID:iMhZ6X1B
>>381
ハイパー投下乙。
ジョンスミスの台詞が大塚明夫の声で再生される件について。
383名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 13:39:15 ID:sjAyE/ex
ジョン・スミスなんでもできるな
幼女の命の恩人の座ゲットか
そして、やっぱり浮いてるカエルでどうしても吹くw
いやそこがメインじゃないのはわかってるんだがw
384名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/09(火) 19:42:56 ID:ca3KVYhr
>>383

天空の蛙を神と崇める、『お狸ぽんぽこ教』というのが出てきて、
御神体の信楽焼きの狸を高額の値段で売って、社会問題になるんでつよ。

そのうち・・・
385 ◆xyCklmNuH. :2008/09/09(火) 21:08:47 ID:SRcU5Dna
>>232の続きっぽく。一人剣と魔法の世界にいるようで浮いてる気もする。




日が暮れ始め、急激に気温が下がっていく。
砂漠の町でも蒸気機関車が通るような大きい街はともかくとして、
俺が住む、道も整備されずオアシスを拠点とするような小さな村へと移動を行うには、砂漠を歩く方法が一般的である。
その結果、砂漠の移動は夜になることが多くなる。
また、この村はほとんど外に知られていない村であり、極端に人の出入りも少ない。
まあ、それにはアリス以外は、という注釈がつくが。

その結果、実に何十年ぶりに来訪した(と言うより迷い込んだ)行商人を保護し、村に連れて来た。
そのとき行商人が見たと言ったものを確かめるため、俺はその場に向かっていた。

「ほんとにこんな所にあるのかね……」

その行商人が言うには、雲上艇なるものがこの付近に泊まっていたということらしい。
俺は雲上艇というものすら知らない田舎者だから理解するのに手間取った。
都会では蒸気機関車が整備され、雲上艇なるものが空を飛び、
錬金術といった学問が発達していると聞いた時には驚いたものだ。

魔法薬という言葉も行商人から出てきた。
なんでも錬金術の中でも、特に薬学を中心に高レベルで学んだ者に限られるが、魔法薬を作ることができるということだ。
それを聞いた時には思わず硬直してしまった。
もっとも魔法薬のことを知っている者の数は、そこまで多くないとも言っていたが。

俺がいかに井の中のケロちゃんだったかを思い知った気分だった。
正直俺の知識なんてアリスだよりだったからな……。
もしかしたらアリスは知っていて、俺にこのことを黙っていただけかも知れないし、
アリスが知らないほど、今の時代では魔法薬という物すらメジャーになっているのかもしれない。
もっとも、それについては判断すらつかないが、そんな知識がなくても暮せている以上問題などないのかもしれない。

そんなことをつらつらと考えながら、目的とする場に近づいていく。
あの小山を超えれば、見えるはずだ。
すでに夜になり、今夜は空に浮かぶカエルがはっきり見える。

そして、見た。

「あれが雲上艇か……」

羽のような形をした金属に風車のようなものが何枚も取り付けられた物体がそこにあった。
胴体部分と目されるところは意外にも小さい。そう多くの人間が乗ることはできないだろうと思う。
その外観だけを見てあれが本当に飛べるのかと聞かれたら、俺は飛べないと答えるだろう。

「ともかく、あの行商人が言っていたことは本当だったということか。……まずは調べてみないとな」

俺は呟きながら向かっていく。そして後少しでその物体に辿り着けるというところで突然声を掛けられた。
386 ◆xyCklmNuH. :2008/09/09(火) 21:11:52 ID:SRcU5Dna
「そこの君、この艇≪麗しきティア号≫になにか用かな?」
その声と共に、扉のような部分が開き、男が一人出てくる。
砂漠の移動に対応するためのマントを羽織り、テンガロンハットを被った姿。
金髪が少しのぞき、青い目が俺を捕えている。
間違いなく、この地方に人間ではなかった。

「この土地に何の用だ? なぜ隠れるような位置に置いている?」
警戒の声をわざと露わにしながら、告げる。
その声に反応したのか、男は両手を広げ無抵抗を示す。

「そう警戒するなよ。この辺じゃ、まだこの機械のことなんざ知られてないだろ?
わざわざ知らないものを見せつけるのは威嚇といっしょさ。
ここには……ま、珍しいものを収集しに来た、とだけ言っておこうか」

微妙にスカした声に苛立つものを感じながらも言うことだけは言っておくことにする。
傍らの剣はすぐにでも抜刀できるようにすることも忘れない。
「……その目的の物とはなんだ?」

俺の問いに、男はおどけた様に人さし指を額に当てる。
「んー。言ってもいいけど理解できないと思うぞ。
まず、俺の職業は錬金術師。で、錬金術に必要な材料を採りに来たというわけさ……わかるか?」

「ああ。分かる」
一応、頷いておく。あの行商人に詳細を聞いておいて正解だった。
とりあえず正規の職業に就いている者であると見当をつける。
ついでに聞いていることの意思表示のため剣の柄から手を離す。

「お、わかるのかい? それなら話が早いな。それで俺が今回集めていたのは、
まず、グレオグリの葉、これは水分を多く含んだ葉で治療の薬として役に立つ。
次にアルカントの根、これは毒を含んでいるが、精製すれば中々強い薬になる。
他にも色々採ってきたな。ここでしか採れないものも多いから、つい長期間滞在になっちまう」

「なるほどな」
俺は相槌を打ちながら考える。この男は薬の原料の採取に来たらしい。
ならば、村に危害を与えることはなさそうだ、と考える。しかし、

「ま、それでもほとんどは採れた。後は長命種の血を得られれば全部揃うな」

最後の単語には聞き捨てならない響きがあった。
387 ◆xyCklmNuH. :2008/09/09(火) 21:15:37 ID:SRcU5Dna
「長命種の血……だと?」

俺のことを話を聞く相手だと思ったのだろう。目の前の男はべらべらと喋り出す。
「ああ、そうなんだ。人間も自ら魔法薬を作るようになり、その品質は良品から粗悪品まで様々だ。
そうやって玉石混合の中にある、最高級と呼べる魔法薬、そのほとんどに長命種の血が使われているのさ。
昔、長命種のみが魔法薬を作れたことの理由もここにある。
魔法薬の材料として非常に便利でかつ必須ともいえる特性を、その血に持っていたからさ」

「その血をどこから手にいれる気だ?」
饒舌にしゃべる男の言葉を止める。
俺の言葉に険が混じるのを止められなかった。こいつは……
睨みつける俺に対し、ふと、目の前の男が首肯する。

「ああ。君はこの村にいる長命種のことを、アリス・ティリアスのことを知ってるのか。
てことは、君がオルカ・バーライトだな」

「なるほど……アリスを狙っていることはよく分かった」
俺は、一気に剣を抜刀する。友好関係を築く必要のない相手だということはよく分かった。
同時に男は右手をこちらへと向け手招きする。
いつの間にか空に浮かぶカエルは雲に隠れていた。

「む……いや、まあいいか。……来いよオルカ。噂の強さ、見せて貰うよ」
「ああ、分かった。そして後悔するがいい!」

アリスを害する奴は……俺の敵だ!







これで終わりです。
魔法薬関連の設定を修正してみたけどいいのだろうか?
388 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/10(水) 02:36:19 ID:jP0flbCj
今、>>385-387氏の作品を読んでやっと気付いたのですが、
この方が先に『アリス』という名を使っていらしたので、
混乱を防ぐためこちらは名前を変えさせていただきました。
アップする前に気付けず、申し訳ない。
こちらが修正版です。

ttp://www6.uploader.jp/dl/sousaku/sousaku_uljp00009.txt.html
389 ◆smPgD2p4Fg :2008/09/10(水) 03:38:54 ID:qDicJeUS
一つお話を作ったので投下させていただきます。
◆◆◆◆◆
1.
 当然ながら歴史書に書かれた出来事がすべて真実であるとは限らない。

 “些末事”として切り捨てられ、歴史の陰に消えていった事はあまりにも多い。

 しかし些末事にこそ、歴史の本質は潜んでいるものだ。

 これはネツェーユの地を踏み締め、空を駆けた、ある二人の真実の出会いの話であり、後世には残らないであろう“些末事”である。

◆◆◆◆◆

2.
 港の風は激しい。砂漠の砂風に加えて雲上艇が幾重もの方角へ飛び立つために、その逆風がやはり幾重もの方向から吹いてくるのだ。
砂気[すなけ]を帯びた風が頬に当たる。痛い。垂らした前髪もせわしなく流れる。まだ半時も立って居ないというのに、ずいぶん解[ほつ]れてしまった。
(……奴はまだ来ないのか)

 人と落ち合う約束をしていた。
 そろそろ到着してもいいはずなのだが、そいつは依然として姿を見せない。

 このカワヤ港は砂漠のど真ん中(というのは幾分、大袈裟か)にある中継港である。底面が正十角形の石造りの巨大な塔であるが、“巨大”が指しているのは高さではなく底面の面積の方だ。
その比から“塔”というより“平板”といった方が正しい。カワヤ港が『砂上のまな板』と称されるのはこのためだ。
 船を待つ間は平板……もとい、塔の中で太陽と砂風から身を守るのが普通だ。船が離着陸する屋上にも日除け風除けの小屋はあるが、長年の砂風に耐えきれずほとんどが倒壊してしまっている。
中継港であるためか、手入れをする気もないらしい。燃料の補給所らしき建物だけが姿を残していた。

(この次の船なのかもしれないな)
 私の一時を返せ、と恨み言を吐いてみたが、その声は風に乗って消えてしまった。恨みだけが私の中に戻った。何だか馬鹿馬鹿しい。
 塔の中で待とうときびすを返そうとしたその時だった。
「おいっ、離せッ。オレを汚ねえ手で触るんじゃねェ!」
390 ◆smPgD2p4Fg :2008/09/10(水) 03:40:09 ID:qDicJeUS
3.
 子供と二人の制服を纏った人物が揉み合っていた。
(密航者か)
 蒸気機関車は間口を随分広げたと聞くが、この雲上艇を利用できるのはまだ限られた裕福層の人間だけだった。密航者の数は蒸気機関車の比ではないという。「雲上艇一機見かけたら密航者が二人潜んでいると思え」なんて冗談も流れている程だ。
 それだけ雲上艇は重宝されているわけだが、皆が皆、移動手段として利用しているわけでもない。
『一生に一度は首を傾けることなく、空を見てみたい』
 そう思う者は多いようだ。特に夢を見がちな若年層程その傾向は強く、見かけた密航者が少年・少女だったというのはよくある話である。
(あれもそうなのだろう)
 だからあの光景も別段珍しい事ではなかった。にも関わらず私の目に止まったのは、きっとあの髪のせいだろう。
 鮮やかな萌黄色の髪が真っ白な肌によく栄えていた。身に纏った汚い襯衣[シャツ]とは対照的に、とても、よく栄えていた。
 私は彼らの方に向かって歩き始めた。
「おい、少年ッ」
 揉み合うように押さえつけていた二人の警邏の動きがぴた、と止まった。同時に少年の動きも止まった。三人は時が止まったようにそのままの状態で私が近づいてくるを待ってい。た
 私は三人の前に立った。
「あの、お客様――」
 先に太っちょの警邏が口を開いた。私が騒々しさに文句をつけようと思ったのだろう。私は手をあげ、次の言葉を制した。
「少年、君はこの船に乗りたいのか」
 両腕をそれぞれの警邏に抱えられた少年は無言のまま頷いた。
 そしてこう言ったのだ。
「――なあ大将。アンタ、オレと賭けをしないか」
「賭け?」
 右腕を持っていた小男の警邏は私が問い返すのと同時に、そのまま少年の腕を捻り上げた。
「痛ァ――ッ!?」
「おい、やめろ! ……私はこの少年に興味を持った。君たちは自分の持ち場になおれ」
「しかし……」
 小男はぼそぼそと何か喋ったが、聞き取れなかった。
「まだ子供だろう。許してやれ」
「で、ですが規則では……」
 またぼそぼそと何事かを連ねる。端々に聞き取れた言葉から、どうやら規則を読み上げているらしいことがわかる。見かねた太っちょが口を開いた。
「お客様。無賃乗船者の処遇に関しては弊社扱いとなっております。どうかここはお引き取りください」
 埒があかない。
「君たちにお引き取り願うのはどうすればいい」
「……いえ、私どもは自社の“ご恩”に報いるため、“奉公”させていただいているので」
「ああ……」
 私は相づちを打ちながら、左のポケットから四枚の金貨を取り出した。
「…………」
 太っちょと小男は顔を見合わせ、私の手からもぎ取るように金貨を取った。
「“奉公”とやら、頑張ってくれ」
 二人の警邏はきびすを返して階段を降りていった。取引成立である。
 その間、少年は何をするでもなく私の事をただじっと見つめていた。

=====
ひとまずここまでで。お目汚し失礼しました。
使用させていただいたネタは「砂漠」「雲上艇(船)」「空」あたりです。
391名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/10(水) 06:38:38 ID:iox6yljL
魔法薬の人、密航の人、どっちもGJ!
地方とか砂漠の話はまだまだ少ない感じだから、かなり期待が高まりますわ。
392名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/10(水) 09:58:28 ID:U8OYvREd
アリス、カプセル幼女、密航と続けて読ませていただきました。
みなさん乙です。
393てのひらを太陽に ◆meXrLVezBU :2008/09/10(水) 22:49:40 ID:nGaLn2Vb
 件のビーンズスープ屋はかなり繁盛しているようで、両手では数えられない位沢山の人で
賑わっていた。きっと機関車の長旅でお腹を空かせた人が沢山いるって事なんだろう。
 のぼりには一杯300ダガーとある。僕のお小遣いでも気軽に買えるのっていうのも
盛況の理由なのかも知れない。僕はすぐにお金を払えるように手提げ鞄から小銭入れを
取り出した。小銭入れは母さんがアカデミーへの進学祝で買ってくれたのだけれど、
僕は大層気にいっている。鞣した牛革素材は僕には大人っぽすぎると思うのだけれど、
アカデミーに入るんだからと母さんが奮発してくれたのだ。
 僕の宝物と言うべき小銭入れはぱんぱんに膨らんでいる。去年一年間で貯めたお小遣いの
一部が詰まっているのだ。大切に使わなきゃいけないのだけれど、ビーンズスープの
匂いは近くで嗅ぐと本当に刺激的でやばすぎるんだ。様々な香辛料の香りが、混ざり合って
僕のペコペコなお腹に攻撃を仕掛けてくる。
 それはさておきクリスチーヌの分はどうしよう?
 タッフィーやゼリービーンズを食べているのだから余りお腹は空いてないだろうし、
彼女の分を買う必要性は大して感じないのだけれど何だか嫌な予感がする。

 例えば。
「いやだ、ゴーダったら私の分は買ってきてくれなかったのね。あんたが気の利かない子だったって
私は初めて知ったわ。ねえ、ゴーダ。あなたはそれでは立派な紳士になれなくてよ。
紳士は淑女に優しく接しなければならないのよ。それなのにあんたったらなんたらかんたら〜」
 もしくは。
「あら、ゴーダったら美味しそうな物を持っているわね。私はあんたが気の利くような
子じゃないって解っているから全然気にはならないわ。でも、美味しそうな匂いねえ。
私にちょっと頂戴な。この私が頼んでいるんだもの、あんたが断れる訳無いわよねえ。
だって私は知っているわ。ゴーダはちょっと鈍感な所があるけれど、れっきとした紳士だわ。
紳士なら淑女を優しく扱うものよ。あんたは紳士で、私は淑女。ねえ、ゴーダ。私の言いたい事は判るわよねったらなんたらかんたら〜〜」

 つまり、クリスチーヌの分を買わなかった場合に待っているのは彼女のお喋りな訳だ。
しかも僕にはどう考えても有益になりそうには思えない、溜め息ばかりが増えそうな代物だ。
 僕はじっと小銭入れを見つめた。買うべきか、買わざるべきか。――それが問題だ。
394てのひらを太陽に ◆meXrLVezBU :2008/09/10(水) 22:56:34 ID:nGaLn2Vb
まとまった時間が取れないせいか、話が全然進まないorz

それと、自分は携帯からなので1レスで1024文字しか書けないよママン

と言う訳で投下終了です。
通貨の単位を勝手に設定しちゃいました。すみません。
395 ◆IkHZ4B7YCI :2008/09/11(木) 00:39:06 ID:akgc6b6n
久々にスレ見に来てようやく気付いたのですが、以前自分が衝動的に投下した小ネタ。
チェイニーという名前は、既に鉄道警備隊氏の主要人物に使われておりましたね。
うーわー何てこったい。投下したネタのオチがオチだけに、本当にすいませんでした!
ある空賊達の会話の彼は、ナナシや後輩その1とでもいいように心の中で読み替えといて下さい。
それでは、失礼しました。
396 ◆smPgD2p4Fg :2008/09/11(木) 01:17:34 ID:V5mrv/Gq
>>391-392
レスありがとうございます。そう言っていただけると今後の励みになります。

>>394
携帯からの投下、お疲れ様です。
通貨単位はケロにはなりませんでしたかw

>>395
せっかくですから新たな名前を与えてみてはいかがでしょう。
一括で置換すればいいだけですから、まとめの方の負担も少ないと思いますし。

=====
4.
「砂風が強い。とりあえずあの小屋まで行こう」
 私は前方に見える小屋を指さした。
「……あの板壁が三枚残ってる方かい?」
「ああ」
 私は少年の後ろから彼を追いかけるようにして歩いた。
「用心深ェな、大将」
 左前方を歩く少年の顔は見えない。
「逃げてみるか」
「止めておく」

 そうこうしてる内に小屋の前についた。小屋には申し訳程度に丸椅子が置かれていた。いずれも老朽化が酷く、風化しかけているものもあった。私が見定めた椅子も座った途端、足が折れてしまった。
「ちっ」
 仕方なく私は立つことにした。対する少年は座れる椅子を当てたらしい、足を組んで私を観察するように見つめていた。
「それで、賭けとは」
 私は再び問うた。彼は目をぱちくりとさせるとにやりと笑った。
「オレが勝ったら大将の切符を寄越せ」
「ほう」
 助けてやったというのに不貞不貞しい態度を取る。盗人猛々しいとはこういうことを言うのだろう。私は無表情を装って接っすることを続けた。
「君が負けたらどうする」
 元々気まぐれから生じた事態だ。切符の一枚や二枚、“ただ”で譲ってやってもよかったのだが、あえて聞いてみた。とは言え、船に密航するぐらいだ。対価になるような物を持っているとも思えなかった。
「オレが負けたらオレは大将の“ドレイ”になる」
 彼は組んだ足をほどき、その代わりのように今度は腕を組んだ。
「生憎、私は“歯車成金”でね。金には困っていない」
「……そうだな。知ってるサ。さっきのだってそうだもんな」
 警邏に賄賂を渡したことだろうか。
「金があれば奴隷も足りる。
 君は少年だ。労働力としての価値も低い。対価としては――」
「ふふ」
 少年は私の目を見つめて、悪戯っぽく、にやり、と笑った。
 私は一瞬、その瞳に吸い込まれる錯覚を覚えた。少年の瞳はとても深い紅[あか]をしていた。
 我を失っていたのはほんの瞬きの時間だけだったが、その間に少年の行動は終わっていた。
 少年は――
397 ◆smPgD2p4Fg :2008/09/11(木) 01:20:48 ID:V5mrv/Gq
5.
 少年は、身体をくねらせて纏った黒い襯衣をまくり上げた。
 そしてまた私の瞳をのぞき込んで「どうだい」と囁いた。その未発達な胸を精一杯誇示するかのようにこちらへ身体を突きだして。
「……失礼した。君は――」
 ――“少年”ではなかった。
「しかも純潔、何も知らない“蕾”なんだ。これから大将の“肥料”を仕込んでサ……そんでもって、大将好みの花を咲かせてみたくはないかい? それとも大将は“こっち”の趣味は無いかい?」
 そう言って微笑んだ。少年のような風貌の少女。しかしその顔から幼さは消え、妖艶な女としての顔だけがこちらを覗いていた。
「フ……なかなか面白いな、お嬢さん。私は好きだぞ? 君のような幼子は。
 いいだろう。その賭けをやろうじゃないか」
「流石、大将」
 少女は、襯衣をおろした。そういえば先ほどの腰の捻り方は色っぽかった、と関係ないことを思った。
「大将、さっきの男たちに渡した金貨、まだ持ってるかい?」
「コインで賭けるのか」
「そうだ。アンタが投げる。オレが当てる。シンプルでいいだろ?」
「いいだろう」
 ポケットから一枚、金貨を取り出した。先ほど警邏に与えたのと同じ、由緒正しきシューティ金貨である。
「投げる前に一つ決めておこう。この金貨の『皇帝』側を表、『浮遊城』側を裏とする。後でどちらが表裏かの議論はしたくないからな」
 少女はふん、と鼻を鳴らした。
「じゃあオレも二つ決めさせてくれ」
「二つ?」
「まず一つ」
 そう言って彼女はぴんと人差し指を立てた。
「アンタが投げた金貨をキャッチ出来なかったらオレの勝ち」
「それは手厳しい」
「前髪垂らしすぎなんじゃないかい?」
「そうかもしれんな。
 良い、認めよう。私の方が有利だ。それぐらいは譲る」
「オーケイ……じゃあもう一つ」
 彼女は続けて中指を立てた。
「反則した方は強制的に“負け”だ。反則[ファウル]なしの一回こっきりの勝負だ」
 いやに自分を追い込む少女である。負ければ私の慰み者だというのに。
「私は構わないが……反則の内容は?」
 懸案事項はそこだった。ルールを細かく定める時間は取りたくない。
「お互いの良心に任せる、でどうだい」
「明確ではないな。場合によっては揉めるかもしれんぞ」
「オレは人並みの良心は持ってンぜ。大将がオレの良心が気に食わないッて言うならまたオレを警邏に突き出せばいい」
「君が私の良心に納得がいかなかったらどうする」
「大将、若作りしてるけどもういい歳してンだろ? 大人は信用するってのがオレの処世術よ」
 ……失礼なガキだ。
「『大人は信用出来ない』が君たち[子供]の言い分だと思っていたが」
「オレは大人だ」
 私は思わず噴き出した。
「笑うなよ。歳を重ねるばかりが大人じゃねェ」
「ふふ、そうかもしれないな……では始めよう」
「“いかさま”はするンじゃねェぜ」
「反則などしないさ。ルールには従う」

 私は右手を丸め、親指と人差し指に跨ぐように金貨をのせた。
「いくぞ」
 親指が弾いた金貨が宙を舞った。
 私と少女の視線が、金貨を追いかけた。
 くるくると回る金貨はやがて頂点に達し、真下に落下を始める。

 集中しろ。

 私は少女の額の高さで、空を切るようにして腕をのばして金貨をキャッチした。同時に、重ねるようにして左手でその手を覆った。
「さあ……どっちだ」
=====
ここまで。既存のネタは「砂漠」でしょうか。ちょっと苦しいですが。
398名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 18:51:17 ID:MOhgauKZ
密航奴隷幼女の爆誕ですね、わかります。
399名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 21:24:52 ID:qKj5CbLL
てのひらを太陽に人、密航の人、乙でした。
おもしろかったです。
語彙がなくて中身の感想言えなくてごめん。
400名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 21:28:10 ID:YpJDQa3z
密航のお話、なにかタイトルはお付けにならないんですかい?
401名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 21:41:04 ID:MOhgauKZ
賭けが終わった後で話が動きそうだから、そんときタイトルも出るんじゃまいかと勝手に思ってた。
402 ◆p1FpJ5dSKk :2008/09/11(木) 23:09:23 ID:3ZsQY0Bd
とりあえずまとめサイト作ってみました。
http://sites.google.com/site/nelearthproject/
作品の整理に悪戦苦闘しています。
どのように整理すればいいのか、どなたか知恵をお貸しください。
共同編集者も募集しています。
403名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 12:17:07 ID:2Tn38k8q
>>402
見やすすぎワロタ
用語辞典以外はこっそり消しておこう・・・・・・^o^
404名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 12:23:17 ID:G8Vkvzqg
>>402
これはすごい
乙です
405 ◆UfPI417KJM :2008/09/12(金) 14:53:44 ID:Q2IxKZey

 「はやい、はやいよ【センチネル】ぅ! 」

 煙を吐き出し、砂漠を奔る蒸気機関車。日々の水が酒以上の値を付けるときもある砂漠の民にすれば、真水を浪費する
最も忌まわしい来訪者だ。文明の粋を尽くし、街の大人たちを駆り出して維持運営する軌道、レールの管理も厄介ごとだ。
砂嵐が発生したとき、掘り出すのはいつも骨が折れるのだと酒場で大人たちが嘆いていた。死人が何人も出る作業だとも。
街には、労働力としての人間が幾ら居ても足りない。――だから都会から【無法者】や【食い詰め者】や【逃亡者】が流れてくる。
レールに乗って、やってくる。砂漠の街に。大人は言う。あの蒸気機関車は夢と絶望を一杯に積んで街にやってくるのだと。
 子供達が畏れ、同時に憧憬の目の見る蒸気機関車と――この人形――【センチネル】は少女を肩に乗せて並走しているのだ。
互いの距離は離れているが、速さは同じに見える。むしろ【センチネル】が合わせて走っているように少女には思えた。

 『喋ると砂の粒子が口に入るし、振動で舌を噛む惧(おそ)れがある。閉じていると良い。――と、未だ名を聞いていないな?』
 「口を閉じてろって言ったくせに。ヘンだよ、センチネルは」
 『これ以上早く移動するには、必要なことだ。―――認証登録をせねばな』

 中に人間などいない。【センチネル】の仲間たちの残骸を見て少女は理解しているが、【センチネル】に感情があるように思えて
仕方が無い。機関車と並走しているのも、少女に、『へへん、おれはすごいんだぞー』と子供のように威張って見せているだけ
なのではないかと思ってしまう。…単に蒸気機関車のレールが街への最短距離を通っているだけだとしても、だ。

 「なに? それ? ニ、ンショウ、トーロ、ク?」
 『一旦停まる。覆面をして、衝撃に備えるといい』
 「うわっぷっ! 」

 【センチネル】が急停止し、巻き起こる砂煙に包まれてしまう。防砂眼鏡を未装着のままだった少女は、もろに被ってしまった。
風圧で外れていた覆面を引き戻すのに懸命で、目を堅く瞑(つむ)るしか出来なかった。センチネルの腕は少女を支えたままだ。
今は、その力強さが頼もしく、そして心地良かった。何も見えない中の、揺るがぬマイルストーン、道標。――そんな気が、した。

 『名を、我に伝えよ。――偽名でも仮名でも筆名でも構わない。既に網膜パターン・声紋・掌静脈・指紋パターン登録は終えた。
 あとは――』
 「降ろして、センチネル」
 『I am copy. 』

 少女の細い腰から、黒い腕が外れる。ポン、と軽やかに少女は砂地に降り、【センチネル】に向き直った。センチネルが片膝を
付き、少女の目線に合わせる。遠くから、蒸気機関車とレールが奏でるパーカッションが響いて来る。高貴な者に謁見する、
鎧武者。そんな、風景だった。

 「わたしは、エシィラ。あらためてよろしくね、【センチネル】!」
 『I am copy。E・CI・LA、copy。――認証完了。我はこれよりエシィラを搭乗者とする』
 「センチ――ネルっ!? 」

 【センチネル】が長い棒のようなものを背中に回し、空いた両手で突然、自らの頭を『持ち上げた』。その中身はやはり――無い。
頭を小脇に抱えた【センチネル】は、見る見るうちに胸鎧や腕、脚を開いていく。清潔で、柔らかそうな枕状の内部の素材が見える。

 『さあ、乗るがいいエシィラ。――遠慮は要らない。大き過ぎると言うなら我の方で合わせる。――それとも、怖いのか?』
 
 そのまま恐怖を覚えて逃げると言う選択肢は、【人形たちの丘】の度胸試しを終え、意識の上では大人になってしまった少女の
心には無かった。唇をぎゅっ、と引き結び、眦をきっ、と決しながら、エシィラは【センチネル】の『珍妙なる招待』を受け入れた。
406名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 14:56:57 ID:Q2IxKZey
どーもお久しぶりっす。トリはそのまま使っていきます。
何にせよ、気密服こと宇宙服いるだろってことで。

2m30cmぐらいをイメージ。なぜか個人携行火器つき。
407名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 15:00:12 ID:BJIHpK1s
センチネルキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
待ってました待ってました一番続きが読みたかった!

ぜえぜえ……オレ興奮しすぎ
408名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 21:13:00 ID:lIrjyimV
>>406
乙!
センチネルの話は続き気になってたから嬉しいぜ
少女とロボットの交流ってやっぱりロマンだなあ

ところで用語集に繋がらないのって俺だけ?
読んでるうちに書き手参加したくなって調べようとしたらなんか繋がらない
409名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 21:37:03 ID:fwgPTOKq
>>406
乙です!
やべぇ、自らの頭を持ち上げたセンチネル想像したら笑ってしまった。

>>408
こっちも繋がらなかった。サバ落ちかな?
410 ◆smPgD2p4Fg :2008/09/12(金) 23:12:37 ID:lxthahSC
6.
 少女は鋭い目つきでキャッチした金貨とそれを隠す私の両手を睨み付けた。吟味しているのか、それとも……。
「……ここでヒントをあげよう」
「ヒントォ?」
「金貨は表、つまり『皇帝』側の方が軽い。皺皺の爺様だからな。皺の刻みの分、金が盛られてない。すなわち、裏、『浮遊城』側の方が重いということになる」
 これは“はったり”だ。『浮遊城』の面とて煉瓦一つ一つが精巧に刻まれている。どちらが軽いかなどわからない。もちろん『皇帝』側の方が軽いかもしれないし、軽い方が偶然、下を向いて落ちることも充分にあり得る。
「…………」
 彼女は相づち一つも打たず、手を睨み付けたままでいた。だが心なしか、汗をかいてるように見えた。照りつける陽のためだろうか。案外、揺さぶりは私が思っているより効いているのかもしれなかった。
「参考になったかな? では君の選んだ答えを――」
「待て待て大将」
 少女は両手を左右に振って立ち上がった。
「大将の話、参考になったからサ。オレからも一つ、小話をさせてくれよ」
「小話?」
 この子が何を考えているのか、私には見当がつかなかった。
「アンタ、ネツェーユの『喪われた王家』の話は知ってるかい?」
 少女の話は随分と飛んだ。
「知っている。暴虐の限りを尽くした暗君の伝説だろう」
 喪われた王家の伝説はネツェーユ地方に昔から広く伝わる話である。
 その昔、ネツェーユ地方を支配していたという王族がいた。民(ひと)を人と思わぬ悪逆は国力の衰退と土地の荒廃を招いた。そしてある時、圧政を強いる国王の非道を嘆き、討ち倒しさんとする男が現れた。
王は倒され、男は新たな“皇”となり、ネツェーユの復興に尽力を注いだ……。
 その男の血筋が、現在のネツェーユ皇国の皇室だという。
「オレン生まれの地方ではちょいと違う伝説が残っててサ」
「ほう」
 伝説や神話には“ぶれ”が生じやすいと聞く。根元となる話が地方の伝説や神話、風俗や風習と混淆し、新たに物語の版(バージョン)を作るのである。
地方地方の版と根元となる物語の“差”は多々ある。先の伝説の例を挙げるなら打ち倒される“王”が“王女”である程度のものから、実は皇となる男は一方的な虐殺のもと地位を簒奪したのだというもの、等々。
後者のように元との差が大きくなるのは、大都市と地理的に距離をおく隔絶された地方ほどその傾向が顕著であるという。
もし地域間の親交があれば各々に伝わる伝説は比較され、差違が埋めらていき、自然と元の形に修正されていくからだ。
 少女が話を続けた。
「何、よくある話サ。暗君は本当は名君で、王を討ち倒した男――その皇室のご先祖だな――は悪徳大臣として暴虐を尽くしていた奴だった、ってなもンで」
 “後者”に分類される版である。彼女の故郷とは皇国から離れた地なのだろう。
「普通の伝説では最後に王と男は剣で一騎打ちしたッてェけどな、それも違う。オレン故郷では、最後に“コイツ”で決めたそうだぜ」
「……“コインで”、か?」
411支援ついでに……:2008/09/12(金) 23:17:09 ID:2Tn38k8q
-------ここから投下無関係レス-------
>>408-409
サーセンwwwwwwww用語集ごと消し去ってしまった。
現在復旧完了しているぜ。
あと>>357-359で出ていた症状が、実家のPCから確認出来たのだが、今の所解決せず。
生成してるhtmlに問題があるのは分かったんだけど、そこから先で躓いておる。しばらく待っていてくれ。


あと>>402に共同編集として参加。細かい修正とか投下の穴埋めとか、単純な作業のお手伝いしながら色々関わろうかなと。
んでそれに伴って適当な保管してた俺のところは消しておく予定。

------ここまで投下無関係レス--------
412些末事 ◆smPgD2p4Fg :2008/09/12(金) 23:18:03 ID:lxthahSC
(タイトル入れ忘れた……)
=====
 珍しい版である。少なくとも私は初めて聞く版であった。
「その大臣は王位を狙っていて、ある日、謀反を起こした。戦局は予め王国の騎士団を懐柔していた大臣側の圧倒的優勢だったらしい。
王は剣の扱いにも長けていたが、流石に騎士団長には勝てないからな。大臣の勝利は、もうその時点で決まってた。
 ――大臣は虫の息の王にコインの勝負を持ちかけた。『お前が勝てば、お前の家族だけは助けてやろう』ってな」
「どうせ勝っても殺す算段だったろうに。……本当ならまったくもって非道な奴だ」
「本当にな……へへっ」
 だが少女の目は笑っているようには見えなかった。
「大将が言うとおり、大臣が約束を守るなんて保証は無かった。だからって“いいえ”と言って家族を見殺しにすることなんか出来ない。
王様はその賭けにのらざるを得なかった」
「それで、王は勝ったのか?」
 少女はゆっくりと告げた。
「その王は“表”だと言った」
「……成る程。その伝説に因んで君も表を選ぶというのか」
「いいや。オレが選ぶのは、“表じゃない”」
 つまり“裏”ということか。
 いや、それならば……。
「ということは……その王家の家族は殺されたのか」
 彼女はああ、と小さく答え、それきり何かを語ろうとはしなかった。
「……さあ勝負だ。その手をどけてくれ、大将」
「いいだろう」
 『皇帝』の表と『浮遊城』の裏。結局、どちらが軽かったのか。私も、おそらく少女も知らなかったに違いない。
 伝説の王は家族の命を賭けて“表”を選び、負けたと少女は言った。そのジンクスに従って、彼女は表を選ばなかった。
無論、賭けているものの重さが違う。命と切符を比べるのは愚かしいことかもしれないが……。
 いや、この少女が賭けているのは己の人生であった。私の扱いいかんでは死より辛い結果が待っている。
 さあもういいだろう。
 私は覆った左手を静かに持ち上げた。
 表が出たのか、裏が出たのか。現れた金貨は――。
=====
振り仮名の括弧を()にしました。

>>400-401
ただつけ忘れてただけだっていう。
タイトルは『些末事』としておきます。早速、いれ忘れていますが。
413 ◆UfPI417KJM :2008/09/12(金) 23:21:04 ID:qU+Elrx8
 
 「ほぉやぁ〜〜〜〜きんもちいい〜〜〜〜〜〜っ!」
 『もう直(じき)に良い年頃の娘になると言うのに、何と言う蕩(とろ)けた顔をしているのだ、エシィラ』
 「だってぇ、涼しいんだもぉん。ふへぇ〜〜っ、こんなのはじめてだよぉ【センチネル】ぅ」
 『……まだ生命維持機能が生きていた僥倖に、、無茶な提案をした我も吃驚だ』

 意を決して【センチネル】の中に入り、頭を被せられた瞬間、内部の柔らかいものが一度ぴったりとエシィラの身体に
合わさり、すぐに緩くもなくきつくもない状態になる。そして、宙ぶらりんだった両足の下の空間も埋まる。内部は最初、
外気に晒された影響から暑かったのが、すぐに快適な温度に、気を抜けば眠ってしまいそうなほどに涼しくなっていた。
 
 『リンク成功。脳波形収拾完了。外部モニタリング情報を視野部位にライヴ送信開始。……異常は無いか、エシィラ』
 「うううん、きもち、いいのぉ……」
 『I am copy. ――異常は全く無いようだな――』
 
 視界はまるで自分の眼で直接に外を見ているかのように鮮明だった。いや、それ以上だった。砂煙で煙る、砂漠の街の
向こう側まで何故か見えているのだ。時折、理解出来ない文字がチロチロと動いていたり、数個の枠が砂漠の鳥や小動物に
合わさる。エシィラがそれに意識を向けると、拡大して映される。そして…【センチネル】の腕がいちいちそれに黒く長い棒の先を
向けるのだ。

 『…あれを撃ちたいのか、エシィラ』
 「撃つって? なに? 【センチネル】ぅ」
 『……違うのだな。ならば、良い。撃ちたい時はそう言うがいい。――この我とて無益な殺生は望まぬしな』
 
 心底、安堵した口調で話す【センチネル】に可笑しみを覚え、エシィラはくすっ、と笑ってしまう。知性の香りがする大人の男の
声は心地居い。たまに砂漠の街で会い、故郷がいかに素晴しいところか熱弁する若い男の学者の、堅い雰囲気とよく似ている。
おとうさん、と言う存在が居たら、こうなのかな? とエシィラは思ってしまう。何もかも解っていて、見守ってくれる。そんな――
 
 『では、動いてみるがいい』
 「――あ、うん。歩けば、いいの? 」
 『視床でのデータリンクは済んでいる。筋電位のサンプルデータが欲しい。摂れればすぐにでもチュートリアルを始めたい』
 「?? チュー、とリアル?」
 『……歩いてみてくれ。今はそれだけでいい』
 「よいしょ、っと……! あわわわわわわわわわわわわわわわ!」

 重厚そうな【センチネル】の外見から、思い切り右足を振り上げたエシィラは、視界が天を向いたことに驚いた。丁度、空中を
力一杯蹴り上げた格好になったのだ。蒼い空に緑色の枠が浮かび、意識をそれに向けると、【何か】が空に浮かんでいた。
街にいる学者が過去に本を広げ子供達相手に見せてくれた、【船】にそっくりな形をしていた。しばらく蹴り上げた格好のまま
固定されていることに、エシィラは気付く。
414 ◆UfPI417KJM :2008/09/12(金) 23:23:32 ID:qU+Elrx8

 『エシィラ、気負わなくとも良い。普通に歩いてくれ』
 「うん、ごめんね【センチネル】。――よい、しょっと。…普通に歩いてるみたいに軽いよ? 【センチネル】」

 軽やかに歩いたあと、視界の枠―― ターゲッティングマーカー ――にはまだあの【空を浮かぶ船】が大映しされていることに
エシィラは気付く。記号が目まぐるしく動き、五桁、六桁と増えていく。エシィラには距離が離れていくことだけは理解出来た。
枠が消えないことを不思議に思っていると、【センチネル】がやや口籠もった感じで、訴えて来た。

 『……我があの高度に到達するには、別途にバックパック、フライトユニットが必要だ。我の力不足で済まない、エシィラ』
 「ばっくばく? ふらいとゆにっと? 」 
 『…・…気を取り直し、チュートリアルを開始するぞ。我は汎用装甲服・百式。強襲突撃歩兵・偵察仕様の【センチネル】型だ。
 改めて今後ともよろしく、エシィラ』
 「よろしくね! 【センチネル】! 」
 『ははは、その調子だ。まずは百聞は一見に如かずとも言う。色々すっ飛ばして、ホヴァー移動を体験してみようの回、開始!』
 「? ひゃあっ!? 」

 これまで経験した事の無い、得体の知れない加速感がエシィラを襲う。視界が矢のように早く流れて行くことに驚くエシィラの
瞳は、速度感覚に慣れて行くに従い、感動に輝き始めていた。砂の上を歩かず、縦横無尽に高速移動出来る快感は、えっちら
おっちらこれまで歩いていたのが馬鹿らしく思えるくらいの隔絶したものだった。鳥よりも早く、砂漠を吹く疾風のように動ける。
自由に、砂の味もせず、容赦無く肌を叩く砂の痛みも感じることの無い、制限のない移動。エシィラは涌き上がる高揚感と好奇心を、
【センチネル】を高速で移動させることで思う存分満足させた。……時間を忘れて、危険な日没を迎えてしまうまでに。
415 ◆UfPI417KJM :2008/09/12(金) 23:27:11 ID:qU+Elrx8
ごめんなさいかぶっちゃいました。もうしません許してください。
荒事、戦闘シーン描写を始めるまで4レス掛けたのも許してください。それではおやすみなさい。
416名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/12(金) 23:34:38 ID:2yErBjo4
投下乙です。
センチネルに《船》からの襲撃フラグ立ってるような気がしてならないw
しかし、今後は投下前に一言あった方がいいのかな?
417 ◆p1FpJ5dSKk :2008/09/12(金) 23:44:29 ID:q89dA2aP
両氏とも乙です。
活気が出てきたな。

>>412
 題名を「些末事」に修正しました。
 表か裏か、一呼吸置いて焦らしてくれますね。

>>413
 いよいよ一波乱ありそうですね。次回が楽しみです。
418砂漠の村のアリス ◆xyCklmNuH. :2008/09/13(土) 07:33:26 ID:VzVEQueX
>>385の続き。題名付けました。後以前◆KFkrWlFr7Eでした。385からトリップ変更しています。




下は砂場。強く踏み込まず、滑るように一歩進む。
剣は腰の位置に置き、いつでも振り切れるように構える。

――男はその場から動かない。ただ腰から、一本の瓶を取り出す。

さらに二歩。男との相対距離は10歩ほど。

――男は瓶の蓋を開ける。

そのまま五歩進む。あれが魔法薬ならばこのタイミングで使うはず。

――使った。

男は瓶を投げる。瓶から液が放射線状に零れ、液体は一瞬にして網となった。

「捕縛用魔法薬かッ!」
「その通りだ」

強力な弾性と粘性を持つ特殊な糸が瞬時に作り出され、覆いかぶさるように向かってくる。

全ては一瞬の判断だ。
次の一歩は踏み抜く一歩。その衝撃は足もとの砂を弾き出す。
同時にマントとはずし前へ投げ、自身の体は右前へと方向転換。
大量の砂は糸へと絡みつき、捕縛用の網からただの糸へと変化する。
同時にマントが糸へぶつかり絡まり落ちる。

さらに一歩。今度は左前へと動く。すでに剣の届く位置だ。

一切の迷いを捨て振り切る――

火花が散る。金属同士が擦れた音。
男はいつの間にか両手に槍を持ち受け止める。
一気に力を込めるがお互い微動だにしない。
均衡という名の空白が生まれる。

「なるほど。確かに腕は立ちそうだな」
「おまえも頭脳労働が主だろうに。よく訓練を積んでいる」
「材料集めは立派な肉体労働さ。自分が気に入った素材を探すにはこれぐらい必要さ」

軽い金属音が響き、互いの武器が離れる。
後方へ跳躍し、剣を水平に構える。しかし、男は槍から手を放し砂へを突き刺した。

「何の真似だ。降参か?」
突然の意味不明の行動に眉をひそめる。
その言葉に対し、男は両手を挙げることで答えた。

「いや、君が強いことはよく分かったから、もういいかと思ってね」
どうやら戦う気がないらしいが、それで引くほど甘くはない。この男がアリスに害する者である限りは。
構えを解かず、突撃を敢行するところで、男が言葉で行動を止めさせた。

「まずは謝っておこう。すまんな。誤解を利用して戦ったことは私も悪いと思っている」
「? 何が誤解だというのだ?」
419砂漠の村のアリス ◆xyCklmNuH. :2008/09/13(土) 07:36:26 ID:VzVEQueX
何か根本的な部分で勘違いをしているのだろうか。
その疑問を読んだかのように男は答えを示す。
「大方、私がアリスさんを誘拐、監禁しようとしてると誤解されているようだが」
「違うのか?」
「ああ、私はアリスさんの客と言うだけさ」
「……?」
「つまり私は特別にアリスさんの血を買っているだけなんだ。
私に誘拐する必要もメリットもはじめからないのだよ。
お得意様の一人である探偵が、こないだ在庫のほとんどを持って行ってしまってね。
急きょ必要量補充するためにはアリスさんを頼るしかなかったんだ」

「ただの客と店員の関係? それでは勘違いした俺が馬鹿みたいじゃないか」

「それについては私が説明しなかっただけで君が悪いわけじゃない。
誤解が起こる下地があるのもまた事実だし、これはしょうがないことさ。
ああ、まだ心配なら一緒に来るか? 代金は前払いでこれから商品を受け取りに行く予定なんだ」
男が嘘をついているようには見えなかった。とりあえず一緒にいけばなんとかなるだろう。
そう判断し、首肯する。

「いいだろ――おい!」

答えを返している途中突然の違和感を感じる。直観が警告を告げている。

「なんだ?」
「伏せろ!」
直観に従い、男の襟首をつかむと引きずり倒す。
直後、男が直前まで存在した空間を太い何かかが通り過ぎる。
砂塵が舞い上がり視界が悪くなる。今この男を倒さなければ男の上半身が泣き別れになっていただろう。

もうもうとした砂煙が晴れてくると、そこにいた生き物の全貌が見えてくる。
砂色、蛇腹状の太く長い体躯をくねりながら、意外とつぶらな複眼がこちらを見据える。
体長20メルーを超える芋虫状生物がそこにいた。

「こいつは……サンドワーム……だと?
本来、人間が住まないような辺境の地にしかいないはずだぞ!」

男が叫ぶように愚痴る。その気持ちには深く同意するが、言うことだけは言っておく。

「悪いがここは辺境と言ってもおかしくない土地だ。
ま、それでもここまで近くに現れることは無かったわけだが……いる以上はしょうがない。逃げるか?」
「なぜだ? 私としてはいい材料が手に入りそうでわくわくしているわけだが」
訂正、こいつは頭のネジがどっかに飛んでいるな。
溜息を一つ吐き、男を一瞥する。

「錬金術師は変人ばかりか!」
「いやいや、私は確かに変人だが、他の人間もそうとは思わんでくれたまえ」
「そこでいきなり正論を、まるで諭すように言うのは止めてくれ」
「はは、しかし現実問題逃げることは出来そうもないな」
「ああ、そうだな」
答えながら、ベルトに固定している魔法薬を取り出す。これは本気でやらなければならない。
男も同様に槍を準備し、魔法薬を取り出している。
槍からは微かに聞きなれない駆動音を聞きとるとこができる。何かギミックを内蔵しているようだ。
男に声をかけられる。

「それじゃ、行くか」
「しょうがない。協力する」
お互いを声を掛け合い、跳び出す――
420砂漠の村のアリス ◆xyCklmNuH. :2008/09/13(土) 07:38:14 ID:VzVEQueX
――寸前、何かが割れる音が聞こえた。

突如目の前に吹雪が発生した。この砂漠地帯では決してあり得ない現象。
たたらを踏み、堪えると同時、目の前の空間は白一色で塗りつぶされた。

「錬金術師、おまえ何かやったか?」
「いや、なにもやってない」

呆然と、ただ誰がこれを起こしたかを漠然と頭に浮かべながら状況を見守る。
10秒後、再び何の兆候もなく突然吹雪が止まった。
夜の砂漠に一体の氷の彫像が立っていた。

20メルーを超す巨体がわずか十秒でただの物と化した。
その光景に呆然としていると、氷の彫像の後ろから声が聞こえてくる。

「オルカ! バンディット! 二人とも大丈夫?」
走ってやってくる見知った少女を確認したとき、思わず氷の彫像を見上げ直した。
隣の男――バンディットという名らしい――も同じ心境なのだろう。
同じように氷の彫像を見上げている。

「体長20メルーの化け物が一瞬で氷漬けか……」
「攻性氷系魔法薬をベースに効果範囲制限及び、威力増大、恐らくは防御無効も同時に付与しているのか。
これは私にも作れないな。恐るべし、アリス特製魔法薬。齢を重ねているだけはある」

再び視線を少女に戻す。
あいかわらず走ってくる多く見積もっても14才程度にしか見えない少女。
この少女に結局助けられた形になってしまった。
なんとなく気恥ずかしくなり視線を背ける。
ちらりとバンディットを見るとやはり同じく視線を外している。

その男どもの様子は一種異様だったのだろう。アリスは一瞬たじろぎ、

「な、なに? どうしたの二人とも? 私、何か変なことした?」

しごく当然な疑問を挙げた。
421砂漠の村のアリス ◆xyCklmNuH. :2008/09/13(土) 07:41:19 ID:VzVEQueX
バンディット:>>366-368の探偵が贔屓にしている錬金術の工房の主人のつもりで書いてみた。名前勝手につけてよかったのかな?
       悪ければ後で修正します 

メルー:いわゆるメートルのこと。

サンドワーム:体長20メルー程の巨大な芋虫、砂漠の辺境に住み、普通の人間が見かけることはまずないと思われる。
実は草食。生き物は邪魔と思わない限り攻撃しない。今回は二人がうるさかったため、安眠妨害だコラーと出てきた。
そのまま永眠で合掌。

吹雪の魔法薬:エターナルフォースブリザード
相手は死ぬ。
……いや、ただの冗談ですよ。特に名前があるわけではありません。

既成ワード
「魔法薬」「砂漠」「蒸気機械」「ケロさん」等色々混ぜています。

新規ワード
「距離の単位:メルー」「巨大生物」を追加


今回はこれで終わり。
巨大生物を出したくてしょうがなかったから出してみた。
 なんだか設定要素が足りない気がしたので、帝国の歴史を投下します。
 資料と小説の中間形式にしてみたのですが、資料(設定)だけの投稿もOKですか?
-----


ヴィクトル・クワシュニン著「サマン史詳説」より

     1.共和制の腐敗

 サマン共和国は元老院による民主制の下で長く繁栄し、政治と文
化の中心になった。しかし共和暦300年頃になると派閥同士の対立が
深刻化し、議論は遅々として進まず政治は硬直した。元老院議員た
ちは私利私欲に走り、元老院内で賄賂が横行するようになった。
 政治の腐敗によって経済は混乱し、元老院議員と結びついた一部
の商人が贅沢な生活をおくる中、民衆は貧困にあえいだ。

     2.パクス内乱

 共和暦365年、サマン共和国の西南端パクス地方で内乱が起こった
(パクス内乱)。腐敗した元老院は決断力に乏しく、対応できずに
いる内に反乱軍の勢力は増した。最高議長ヒュートルは病気を理由に
引退し混乱は更に高まった。
 ヒュートルに代わり、元老院議員であったグラーニンが最高議長へ
就任した。内乱を抑える為に、最高議長に権力を集中させる臨時非
常大権を発動する動議を提出し、議員達に責任を押しつけられる形
で可決された。

     3.共和制から帝政へ

 グラーニンは自ら国軍を率いて内乱鎮圧の前線にたった。グラー
ニンは共和国領の半ばまで進出した反乱軍を打ち破り、後退させた。
共和暦365年8月8日、パクスの戦いで共和国軍は大勝し秩序を回
復した。
 グラーニンは首都ゴールドバーグへ英雄として凱旋し、非常大
権を維持したまま国政の改革にあたって腐敗した政治を一新した。
グラーニンの改革である。
 共和暦367年、政治手腕と指導力によって民衆の圧倒的な支持を
得ていたグラーニンは国民投票によって皇帝の位についた。暦を
帝国暦に改め、現在の帝都オーラムへ遷都した。元老院は諮問機
関として残された。
 その後も改革は続き、サマン帝国は黄金時代を迎えた。

     4.帝国の現在

 グラーニン皇帝こそは人を超えた英雄である。卓越した政治手腕
と指導力、君主としての徳を兼ね備えている。そして驚くべき長寿
であることからもそう思わざるを得ない。陛下の治世ははや150年に
及ぶのである。
 だが問題もある。この百年余り帝国は拡大の一途をたどったが、
その結果辺境まで十分な統治が及ばず、貧しい地方と豊かな地方の
文明の差が著しい。また辺境の異種族に対する偏見も根深く、彼ら
に臣民としての権利を与えるかが今後の課題となっている。
423名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 14:47:25 ID:3S2LhOzO
ゴールドバーグは帝都だったんだ。初めて知ったなあ。
てのひらでは蒸気機関の街ってあったから帝都とは違うと思ってた。
こういうのがシェアードワールドの醍醐味なのかな。
424名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 15:36:06 ID:K2I4Tbxn
ゴールドバーグは首都だったこともあるけど、現在の帝都ではないって感じかね。
アカデミーはどっちにもあるっぽいけど、大きな街には支部とかあるんじゃないか?
空飛ぶ船の国や蒸気探偵氏の作品から、帝国は『上』の傀儡国家ってイメージが強いけどw
425名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 18:32:12 ID:sWV2z7X9
>>422が歴史書の一節だと考えると、「上」に関する記述がないのは帝国側の隠蔽とも取れるな
「上」と帝国との結び付きに触れることは、今までの話を見る限りタブーみたいだし
426空の監獄都市 1 ◆IkHZ4B7YCI :2008/09/13(土) 21:19:50 ID:AwFNmZJc
世界が広がって行くのを見るのはやはり楽しい。そんな感じで、久々に投下。

(1/3)
 ボーグ級雲上母艦アービターの艦首から放たれた無数のアンカーが、雲海の向こうにそびえ立つ"何か"に打ち込まれる。
「よし! アンカー固定! 微速前進、着艦用意ー!」
『アンカー固定、微速前進、着艦用意!』
 命令復唱に続いて、船体から左右に突き出た主翼のプロペラが回転を強める。
 アンカーに固定されたまま船は前進を続け、数分後、その動きを止めた。
 着艦を見届けるや、艦橋に立つ海賊帽を被った強面の男が伝声管を掴み、艦内に向けて呼びかける。
「テメェら、わかってるだろうが突入班以外は艦内で待機! 何にしろ手つかずの空中都市だ。お宝の分け前、期待してろよ」
『うぉおぉっぉぉぉぉぉっっ!!』
 ニヤリと笑う空賊集団「アラカルト」頭目──キャプテン・ゲイルの宣言に、艦内の空賊達が上げる歓声が響き渡った。

「何と言うか、ノリが良いというか、空賊らしいと言うか」
「ゲイル様はいつにも増してテンションが高いようです、ドクター・ノース」
 そんな異常な興奮に包まれた艦内を、冷静に見据える二人の部外者の姿があった。
 一人は額にゴーグル状の記憶端末をつけた、白衣の男。
 もう一人は男の脇に控える、古式ゆかしいエプロンドレス姿の少女。
 二人は帝都において、ある意味名の知れた蒸気工房「サンジェルマン」を営む店主と従者のコンビである。
「おっと、すまねぇな、ノースのセンセイにデルタの嬢ちゃん」
 二人の様子に気付いてか、手下達に発破をかけていたゲイルが二人を振り返る。
「いや、まあ別にかまわんが、この後はどうする予定なのだ?」
「そう言ってもらえると助かるぜ。ま、とりあえず都市の入り口探すのが一番だ。二人とも俺に着いて来てくれや」
 海賊帽のつばを指で弾きながら答えるゲイルに、ノースは不可解な言葉を聞いたとでも言いたげに眉根を寄せる。
「なんだゲイル。艦長の癖に、貴様も出るつもりなのか?」
「へへっ、なにせ手つかずの空中都市だ。そんな上玉目の前にして黙ってられるかよ」
 艦橋に立つ他の面々の顔を伺ってみる。しかし、誰もが苦笑を浮かべるだけで、止めようとはしない。
「本当に好き勝手やってるのだなぁ」
「遺跡荒らし専門つっても、所詮俺らアラカルトも空賊だからな。欲望優先で動いても何らおかしくないだろうさ」
 がーっはっはっはっ! 艦橋に響く高笑い。恥ずべきことなど何もないと目の前の男は言い切った。
427空の監獄都市 1 ◆IkHZ4B7YCI :2008/09/13(土) 21:20:54 ID:AwFNmZJc
(2/3)
「何と言うか、もの凄い説得力だが」
「何かが間違ってるような気がいたしますわ」
 半眼で感想を述べる二人にも、ゲイルは笑うだけで、一向に堪えた様子は見えない。
「とりあえずトラップ解除とか都市のシステム分析は錬金術師頼みなんだ。よろしく頼むぜ、センセイ」
「誤魔化されたような気がしないでもないが、まあ、わかったよ。それにこの都市自体、興味深い研究対象であることに代わりはないからな」
 艦橋の外に視線を向ける。流れる白い雲。僅かに覗く青空。
 渦を巻く雲海の中心。巨大な立方体状の"何か"は存在した。
 天上へ突き立つようにして、虹色に輝くキューブの集合体。
 外周部をゆっくりと回転するリングが、不気味な低音を響かせながら、"何か"の威容を際立たせる。
 明らかに人工物でありながら、どのような材質で造られたものか、まるで理解できない
「空の監獄都市──バッキンガムか」

 古代文明全盛期。数多く打ち上げられた空中都市ユニットの一つ、監獄都市「バッキンガム」。
 呼び名の示す通り、古代文明全盛に建造された、囚人を収容する監獄都市である。
 かつてここに収容された人間は、元を正せば政府の要職に就いていた者達がほとんどだったらしい。
 用意された施設も、監獄という呼び名に反して、驚くほど充実したものだったと、数少ない当時の資料にも記されている。
 もはや時代が流れ、無人となった今も、収容された貴重な物資はいまだ手つかずのまま残されている。
 それら当時の遺物を手にするべく集まった空賊こそが、雲上母艦アービターを駆る空賊集団アラカルトの面々である。
 ドクター・ノース達二人は、この空中都市のトラップとシステム解析要員として、彼らに雇われていた。

 艦橋から外に出ると同時、強風が視界に吹きつける、空中都市の外周部。
 母艦から、立方体の側面でゆっくりと回転を続けるリング部分に打ち込まれたアンカーを伝い移動する。
「お頭! 進入可能な部分を見つけましたぜ!」
「おう、でかした!」
 ゲイルは海賊帽を片手で押さえながら、危うげなく部下の発見した地点へすいすいと移動する。
 向かう先は、都市外周部を回転するリングと、中心に存在する虹色のキューブとの接合点。
 キューブの側面に溶け込むようにして、巨大な扉のような切れ込みが縦横に走っていた。
 しかし、この扉をこじ開けようにも、鍵穴どころが、隙間一つ見当たらない。
「俺にはさっぱりなんだが、ノースのセンセイ、どんな感じだい?」
「ふむ、そうだな。とりあえず、デルタ君。No.12の魔法具『バンプキー』をこちらに頼むよ」
「畏まりました、ドクター・ノース」
 呼びかけに答え、侍従デルタが小脇に抱えた巨大なトランクから、一本の鍵を取り出す。
 受け取った鍵の側面をノースが撫でると同時、刻まれた術式が周囲のマナへ干渉を開始する。
428空の監獄都市 1 ◆IkHZ4B7YCI :2008/09/13(土) 21:23:40 ID:AwFNmZJc
(3/3)
 基本的に高い魔力を持たないヒト種が魔法を発動するためには、大きく分けて二つの方法が存在する。
 一つは、高密度の魔力が凝縮された、長命種の血液などといった触媒を加工して造られる魔法薬の使用。
 もう一つは、予め術式の刻まれた発動体を媒介にして、周囲のマナへ干渉する魔法具の使用だ。
 前者の魔法薬は誰でも簡単に使えるものの、発動するのはほとんどが一つの現象に特化した、一度きりの使い捨てとなる。
 対して、魔法具は複数回の使用に耐え、応用力にも優れるが、その分、術式の繊細な制御を使い手が担う必要があった。
 なお、ヒト種の中にも純粋な口述詠唱のみで魔法を発動できるような、化け物級の使い手は存在する。
 しかし、それこそ遭遇すること自体が稀な存在であり、やはり魔法薬と魔法具を使用するのが一般的な魔法の発動方法と言えた。

「ふむ……なるほどね。まあ、このタイプなら何とかなるか」
 手にした魔法具を一度回転させると、ノースはあっさりと鍵先を扉に向けて突き刺した。
 視界を埋めつくす燐光。無数の方陣が虚空に展開され、回転を繰り返す。
 爆発的な勢いで増殖する方陣は幾重にも重なり合いながら、扉を完全に覆い尽くす。
「ふむふむ、こう来て……こう。んで、仕上げにも一つ、こう捻るっと!」
 ガラスの砕け散るような音が響いた。ついで虚空に展開された方陣が一瞬で消え失せる。
 ゴクリと、状況を固唾を飲んで見守る空賊者たちの唾を飲む音が響く。
『おおぉぉおおおおぉぉ!!』
 沸き上がる歓声。ゆっくりと軋んだ音を立てながら、左右に押し開かれ行く扉が、目の前にあった。
「まあ、この程度、我が輩の手に掛かれば造作もないことだな」
「さすがです、ドクター・ノース」
 得意気に鼻先を撫でるノースに対して、珍しいことに侍従デルタもまた素直な称賛を口にする。
「ふぅ、助かったぜ、センセイ。やっぱり性格の奇矯さに反比例して、腕は確かだって言われるだけのことはあるよな」
「褒めてない! それ全然褒めてないぞ、ゲイル! というか、いったい誰の言葉だ?」
「ん、そりゃデルタの嬢ちゃんだけど?」
「デールーター君!!」
「ああ、博士。落ち着いて下さい」
 あっさりと明かされた犯人にドクター・ノースが叫ぶも、侍従は無表情のまま微塵も動じた様子を見せない。
「ははっ! ま、おふざけはこれぐらいにして、お次はいよいよ突入だ。ジーク隊は艦で待機。キース、ゾルゲ、サージェスの隊はセンセイ達と俺に続け」
『了解!』
「手つかずってことは防衛機構も生きてる可能性があるってことだ。テメェら、気合入れて臨めよぉっ!」
『うぉおぉっぉぉぉぉぉっっ!!』

 陽の光を受け、虹色に輝く巨大な立方体。古代文明全盛期より、天上の雲海を彷徨う監獄都市。
 長い停滞期間は終りを迎え、ついに招かれざる客達は、都市にその足を踏み入れた。

(次回につづくんじゃよ)
空賊ものの書き手が増えることを祈って、連載ものを投下。
魔法の設定とか密かに魔法薬氏のとシェアって拡大解釈してたりします。
やはり空中都市の探索は、空賊ものの浪漫。でもバルスとか言うの禁止!
429名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 21:33:55 ID:cI3Fllq/
来た!ドクターノースの新作来た!これで勝つる!
正直前回の話のあとからいつ次が来るのかと待ってたのぜ
内容もロマンに溢れててすごくいい……やっぱり空には夢があるなあ

ところで、アラカルトの一行の中に前にどっかで見た名前の人が混じってるのは気のせい……?
430 ◆p1FpJ5dSKk :2008/09/13(土) 21:43:53 ID:0v8CsnqS
感想ありがとうございます。
>>424,>>425
 その辺りの事は自由に考えて下さい。

>>426
 空はロマンがありますね。
 監獄都市ということは昔の警備ロボットとかがいるのですかね。次回が楽しみです。
431第37番鉄道警備隊 7 ◆sbrD/79/kI :2008/09/14(日) 00:53:10 ID:W0+NnG4e
 小隊が到着するまでの6時間程度、ハチェットと銃を相手に、乗務員たちは警棒でよく戦ったと言うべきだろう。
 まだ突撃する気力のある者は十分な数がいたが、負傷者や体力的に進ませるわけにはいかない者は相当数である。
 イルならそうした者たちをより分けるのだろうが、チェイニーは細かい判断は得意ではない。
 打って出るかどうかは自己判断に任せ、出ない者を客車の個室に放り込んで、チェイニーは板剣をベルトに突っ込んだまま、ボウガンを構えて先頭に立った。
 目標は、車列中央の食堂車。到着前に、向こうから来たイルと合流できるだろう。
 4両目からは四等客車になる。十程度の等級から成る横断列車は、三等までが個室車両で、敵の勢力下である4両目からは座席を並べた車内になっている。
 遮蔽物には事欠かず、座席間の廊下が狭いため複数に囲まれることがない。
 その代り、銃の精度によっては接近もできないまま終わる危険もあった。
 ボウガンに矢をつがえ、鉄扉に耳を当てて向こうの様子をうかがう。この扉を開けば、戦場である。
 気配なし。ひとつ大きく息を吸い込む。
「大人しくしなさーい!」
 叫ぶと共に、扉を蹴りつけた。
 足が鈍い痺れとともに、跳ね返される。
「あッ痛、何!?」
「バリケードじゃないですかねえ」
 後続の乗務員が言う。
「バリケード? あいつら籠城すんの? 何考えてんの」
「さあ。でもまあ、一休みじゃないですか」
 敵にも休息は必要であろう。
 問題は、急を要する状況なのはどちらか、ということである。
 それはそうと、このままでは制圧された車両を取り返すこともままならない。鉄道警備隊本隊の到着まで粘ればよいとは言え、イルからは進撃命令が出ている。
「……どうしよ」
「どうしましょうね」
 ともかく、扉が開かなければどうにもならない。
「窓から伝っていきます?」
「うーぬー」
 小隊車両と違って、横断列車には外の部分がない。車体側面を伝って窓へ進めば、そこでハチェットを食らうのが落ちであろう。
 だが、それが妥当なところだった。


 台車を立て掛けた扉を蹴りつける音を聞いて、強盗団の男は身を固くした。
 先程から補助線路に、一両だけの車両が走っている。鉄道警備隊の駐在小隊が到着したのは、疑いようのない状況だった。
 気ばかり焦る。
 ゴールドバーグ西方の砂漠地帯の駐在小隊は、精強で知られている。
 最初に奪える物を奪ったら、すぐに散らばってしまえば、都市に紛れ込むこともできた。
 都市内で各個撃破の目にあっても、そちらの方が逃げ伸びられる可能性はある。
 この状況になってしまえば、確かに乗客の荷物を根こそぎ奪い取ることはできても、自力での脱出は不可能になる。
 装備もなく砂漠に飛び出すのは、自殺行為そのものだ。
 ともあれ、扉向こうの敵はバリケードを破るのを一旦諦めたらしい。
 ならば考えられる可能性は、窓から伝って入ってくること。
 最も、そんな無謀な進撃はしてこないだろうが、備えはしておかなければならない。
 武器を手に、窓際に寄る。頭を出しすぎないよう注意を払いながら、未だ乗務員の立てこもる残り三両へ目を向ける。
 その頭に上から下へ、槍が通った。

432第37番鉄道警備隊 8 ◆sbrD/79/kI :2008/09/14(日) 00:55:00 ID:W0+NnG4e
 うかうかと頭を出した相手に槍を突き下ろして素早く引き抜き、定位置へ戻る。
 まず一人を葬った。槍を受けて倒れた強盗に、仲間らしき男が慌てた様子で駆け寄り、武器を構えながら窓の外に頭を出した。
 それ目がけて壁面を沿わせるように槍を薙ぐ。 
 倒れる音がまたひとつ。列車の後方へ、切り落とした塊が転がっていく。
 赤く染まった短槍の穂先を眺めながら、屋根の上のガラティーンは、憂鬱な息を吐いた。
 彼女の存在こそが三点包囲の三点目、屋根の上からのピンポイント攻撃である。
 地を這う生き物は、本質的に上下方向に弱い。
 黒翼族の身の軽さと空中制動能力を生かし、時には小隊車両から身を乗り出して、予想だにしていなかった方向から敵を衝くのが、彼女の役目である。
 列車の屋根が鋼銀の槍が貫ける材質であれば、車内の人間を直接狙うこともある。
「ガラティーン? いんの?」
 隣の車両から、チェイニーの声が聞こえてくる。彼女にしては気を使って声量を調節しているようだが、隣の敵が生きていれば十分聞かれただろう。
「何か用? 私は忙しい」
「ちょっと隣の敵をやっつけて、バリケード剥がしてほしいんだけど」
「作戦だけじゃなくて、一般常識のマニュアルも用意しろ。それに書いておけ『黒翼族は肉体労働が苦手だ』と」
「あんた隊長の時と態度が違うんじゃないの!? それぐらい出来るでしょ!」
「窓を伝って入ってくるんだな。敵は全滅させてある」
「あ、待ちなさいって!」
 人間族には、手すりなしで壁面を伝うのが非常に難しいことは知っている。
 だが、特に配慮することもなく、ガラティーンは食堂車へ向かった。
 安全であるはずの中央を攻めれば、敵は浮足立つ。


 小隊が白兵戦闘に出ている間、小隊車両はただ待っていればいいというものではない。
 防衛対象の列車にまとわりつくように走ることで、敵に揺さぶりをかけるのである。
 その点は、機械への執着が強いピョートルは最適だった。ただ、折角持ってきた爆弾銃も、使えないのが難点である。
 列車に爆発物の痕跡が残ると、管理局から苦情と処分が来るのだ。
 中ほどの車両の側面に来た時に、窓から敵が銃をこちらに向けているのが見えた。
 ピョートルは気にも留めない。車両自体は横並びになっているように見えるが、高速移動している列車である。発射された弾は後方へ流れていく。
 「よそ見」の銃で、後ろへ流れる分まで計算して当てることはほぼ不可能である。
 ピョートルは車両の相対速度を合わせて、わざと敵の横の位置を保った。
 案の定、数発の撃発音が聞こえてくるが、小隊車両の装甲板は音一つ鳴らさない。
 横目で見たところ、敵の装備は一般に出回っている先込め銃らしい。そうすると、ピョートルには見えないが、結構な人数がこちらに銃口を向けているのだろう。
 窓の下に消えた一人が、弾込めを終えたのか再び頭を出したとき、その目の前に黒い影が飛び降りた。
 列車の屋根から小隊車両の手すりに飛びついたガラティーンが、素早く敵の顔面を横一文字に斬り割って、再び屋根に消える。
 倒れた敵の方へ振り向いたもう一人の前に、同じように降りて一突き。
 窓際は危険だと悟った敵が後ずさった処へ、後ろ側の窓から滑り込んでいた彼女が丁寧に後頭部を断ち割っていく。
 生き残りが彼女を狙って撃った時には、床に槍を突き立てる勢いで天井に接するほどに飛び上っていた。
 中空でとんぼを切る動作で、鋼銀の槍が一回転する。最後の一人の頭を縦に割り、死体が倒れるより先に着地した。
 相変わらず、惚れ惚れするような迅さである。
 そして、一人でも座席の間に陣取っていたらと思うと、寒気のする無謀さだった。
433名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 00:56:26 ID:W0+NnG4e
「……ん」
 ふと、ピョートルは列車のものでない蒸気機関の音を聞いた気がして、操縦席から離れた。
 列車は、速度と前方の安全さえ保ってあれば、手を放していても問題はない。
 砂漠の広がる側の窓から頭を出し、憎らしいまでに高く広い空を見上げる。
「ガラティーンさん」
 車両にひらりと戻ってきた黒翼族に声をかける。
「どうした」
 疲れた様子もないのに、へたり込みそうな気だるい空気を纏ったガラティーンが、大儀そうに振り向く。
「あれを……」
 上空を指さす。
 機影。


 バリケードを剥がしてから、チェイニーは一気に突撃した。ガラティーンが攪乱しておいた敵を、次々とボウガンで床に伏せさせる。
 攻撃の基本は、勢いである。優勢時の追撃の激しさと、劣勢時の防御の粘りは、知能も体格も突出したところがない人間族が、
 帝国という有数の大勢力を築くに至った最大の要因である。
 ボウガンを装填するチェイニーに、敵が銃を向ける。矢を放り捨て、落ちていたハチェットを引っ掴んで投げつけた。
 あさっての方向に飛び出した銃弾が、チェイニーの顔の横の壁に跳ね返ってどこかへ消える。
 射手は斧を食い込ませた二の腕をぶら下げて、向こうの車両へ逃げていくところだった。
 連結部分に来た時に、渡し橋の上にかけられていた幌から槍が生えて、ちょうど下を通っていた射手の頭頂部を刺した。
「何、また嫌味言いに来たの?」
「緊急事態だ。隊長の所へ報告に行く。行きがけの駄賃だ」
「報告を聞こう」
 幌屋根からガラティーンが言い捨てようとした時、奥の車両からイルが姿を現した。
 両足で立ち上がっているため、体で廊下の大半を塞いでしまっている。頭は今にも車両の天井に付きそうである。
 ごく細い隙間からチェイニーが向こうを窺うと、真っ二つに折れた背もたれや、鉄造の扉にありありと残る打撃痕、
 床に座席に、窓枠に崩れ落ちて地獄のようなうめき声をあげている強盗たちの姿が見える。
 近隣の小隊の中で、凶悪犯の集団を意図して逮捕する余裕があるのはイルだけであるが、この光景を見る度に、チェイニーは思う。
 犯罪者にとっては、自分に競り負けて投降するのが一番だろう。
 獣の体は、筋肉の塊である。対巨獣用の武装でもなければ、鍛え抜いたイルの体には傷一つつかない。
 自分たちの武器が通じない怪物が、気が付いた時には目の前にいて、後の人生の半身不随を約束する一撃を見舞ってくるのだ。
 そして、力が強すぎて殺してしまうからという理由で気絶もさせてもらえず、警備隊の本隊に逮捕され医者を手配されるまで悶え苦しむ羽目になる。
 イルに逮捕された犯罪者は、二度と列車強盗をしなくなる。
 圧倒的な存在に地獄を見せられた記憶が蘇り、鉄道に近づくことさえできなくなるからである。
 ガラティーンなどは、最初から殺すつもりでかかっていくが、それでもイルに逮捕されるよりは、わけもわからないまま即死させられる方がましに思えた。
「隊長、先程ピョートルが飛空挺の機影を確認しました。一隻です」
「わかった。チェイニーは自分と小隊車両へ。ガラティーンは乗務員に制圧完了を伝令後、続け」
「了解」
 復唱もなく、即座に散る。戦場では、拙速が尊ばれる。
「隊長」
「なんだ」
 チェイニーは、小隊車両がこちらに位置を合わせてくるのを待つ間に、小山のような毛皮の塊に問いかける。
「空挺師団の援護じゃないんですか?」
「空挺師団が陸に介入してくるのは軍事行動の時のみ、必ず数隻で編隊を組んでくる」
「それじゃあ……」
「敵だ」
434名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 01:01:37 ID:W0+NnG4e
>>433のタイトル忘れ
第37番鉄道警備隊・9 です。

今日はここまで。


>>422を見て、スチームパンク主流に似合わなさそうだったのでフェードアウトさせるつもりだった
皇帝属州設定を生かしてもらっていて、いささか申し訳ない気分になりました。

当初は、帝国成立後に国境の安定のために異種族の生活圏に侵攻して攻め取った領地と設定しています。
新しく名前を付ける領土は、新しく取った国土ですので。
435名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 01:08:22 ID:OhJYltK7
人の設定を生かすのがシェアードワールドの面白さだと思うんだぜ
あと投下乙
436 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/14(日) 01:28:34 ID:T753SaTD
>>334
投下乙です。

こちらも投下させていただきます。
437名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 01:29:00 ID:W0+NnG4e
格ゲー板にも行ってる俺にはサマソ帝国に見えてなんか違う絵が脳裏に
438 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/14(日) 01:29:21 ID:T753SaTD
 そこは帝都から少し離れた未だ自然の残る広葉樹林。
 あまり人の手の加わっていないその場所に、一見の屋敷が建っている。
 案外有名な幽霊屋敷。記録ではもう何十年も誰も暮らしていないという。
 だが、その屋敷の庭は隅々まで手が行き届き、四季折々の花が咲き誇り木々
も綺麗に刈り揃えられているのだ。
 ちなみに、食材などが運び込まれるところは誰も見ていない。というより、
誰もその屋敷に人がいるところを確認していなかったりする。
 年に何人か肝試しのように忍び込むが、幾ら忍び込んでもいつの間にか外に
出てしまっているらしく中の確認も出来ていない。
 そして、わざわざ危険も無く、特に事件も起きていないのに調査をする役人
もいないので今まで謎のままだったのだ。
 だが、つい先日この屋敷に忍び込んだ者で怪我人が出てしまった。
 どうも何かで殴られたらしく、腕を骨折し一緒に忍び込んだ仲間に助けられ
て逃げ帰ったという話である。
 流石に役所も対処せざるを得ず、しかし自業自得であるのだしあまり人手を
割くのも好ましくないということで白羽の矢が立った人物が一人。
 それがジョン・スミス。
 魔法使いであるという触れ込みと、アカデミーからの依頼をこなしていると
いう事実から適役と判断されたのだ。
 報酬は、この屋敷。事件に魔法などが関連していた場合、魔法使いが管理し
ていたほうが都合が良いからという判断である。
 そんなわけで、ジョン・スミスは屋敷の入り口前に突っ立っているのだった。
「……見事な庭だ。本当に誰も住んでないのか?」
 あごを撫で、ジョン・スミスはうーんと唸る。
 どう見ても庭には人の手が加わっている。これで自然現象でした、なんてオチ
だったら本当に笑いものだ。
 なんにせよ、入らなければ調査のしようもない。
 ジョン・スミスはトン、とジャンプし三メルーほどの高さの塀を越える。
 魔法も使っていないのに、随分と高くジャンプできるものだ。誰も見ていな
いので遠慮もしていないということだろうか。
 塀の外からでは分からなかったことが、中からなら良く分かる。
 どうも人間ではない何者かがこの屋敷に住み着いているのは確からしい。
 異種族などでもないだろう。
 庭どころか屋敷の敷地中全てから大小さまざまな魔力が満ちているのだから。
「こりゃ、つまり……あ、やっぱりいた」
 頭を抱え、ジョン・スミスは屈み込んで草の根元を観察する。
 そこにいたのは大きいのは手の平ほど、小さいのはゴマ粒ほどの小さな美男
美女。
 ジョン・スミスはその中の一人を優しく持ち上げ、手のひらに乗せて話しか
けた。
「やぁ、ムリアンの誰か。君達がここの主かね?」
「違うよ。でも、貴方は私達が視えるんだね。初めてそんなヒトが来たよ」
「そうかい。では、ここを探検したいから、案内してくれるかね?」
「いいよ。でも、私は小さいから肩に乗せてくれると嬉しいな」
 小さな小さな少女を肩に乗せ、ジョン・スミスは一度跳ぶ。
 近くに他のムリアンがいるため、迂闊に動けなかったからだ。
 屋敷まで続く石畳で舗装された道まで跳んだジョン・スミスは、さて、と呟
いて歩き出す。
 適当に歩いていれば、肩に乗っている小さな妖精が行くべき道を指し示して
くれるだろう。
439 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/14(日) 01:30:37 ID:T753SaTD
 石畳の上を歩いていくと、楢の木が横手に見えた。その根元にはキノコの帽
子を被ったしわくちゃのオークマンがいて、ジョン・スミスに一礼してくる。
ジョン・スミスも会釈を返し、笑いかける。見た目のあまり良くない妖精だが
、対応さえ誤らなければ危険のない木の番人になってくれる。
 楢の木の奥のニワトコの木の根元には老婆が座り込んでいる。ニワトコ婆さ
んだ。この老婆も木の番をしてくれる。
 恐らく、彼らが木を刈り揃えているのだろう。
 と、軽く周りを見渡したとき、一瞬で空気が変わる。
 殺気。ジョン・スミスを殺すという意志をこれ以上無く伝えながら、上空か
ら幾つもの影が降ってきた。
 完全な不意打ち。通常なら決して避けることのかなわない、多数による剣の
攻撃。
 だが、甘い。殺気を出してしまっては、ジョン・スミスには通じない。
 地面すれすれまで体を低くし、弾丸のような速度で大地を駆けるジョン・ス
ミス。その身のこなしは、これまで裏社会を生き抜いてきた証だということか。
 ジョン・スミスは石畳に手足を付き、体に制動を掛けながら振り返った。
 そこにいたのは男女入り混じった剣持つ戦士にも似た妖精。幾人かは巨人の
ように大きい。
 これは、妖精達を護衛する守護の妖精。
「スプリガンか! なかなか楽しくなってきたな」
「そのムリアンを離せ、人間め! 貴様らが望むものなど、ここにはないわ!」
 会話をする気もないということか。
 ジョン・スミスが肩の上で目を回しているムリアンを逃がす間もなく、スプ
リガン達は剣を構えて襲い掛かってくる。
 人間と同じ位の大きさのスプリガンは左右に別れ、そして十メルーはあろう
かという巨人のように大きなスプリガンは真正面から剣を振り下ろす。
 必勝の連携。後ろに下がっても、巨人の持つ剣の射程からは逃れることは出
来ない。
 ならば。することは決まっている。
「風よ、我に一時の翼を!」
 叫び、ジョン・スミスは天高く飛びあがる。二十メルーも飛べば、剣の射程
からは完全に外れてしまう。
 いかにスプリガンといえど、これには応戦できない。
 空を駆け、ジョン・スミスは手に光の玉を作り出す。
 ここにいる妖精を傷つければ、確実に彼らはジョン・スミスを敵と見做すだ
ろう。
 それは避けなければならない。
 だから、ジョン・スミスはそれを投げつける。
「閃光よ!」
 凄まじい速度で投擲された光の玉は、大地に着弾する直前に恐ろしく強烈な
光を放つ。
 一瞬だけだが近くで炸裂した強烈極まりない閃光に、スプリガン達は体を守
るために無意識の内に地面に倒れこみ体を丸める。
 そんなスプリガン達の真ん中に降り立ち、ジョン・スミスは一つ溜め息をつ
いた。
「スプリガン達よ。俺はここを調査しに来ただけで、このムリアンには案内を
頼んだだけだ。勘違いで襲い掛かられては困る」
「ぐ、く……だが、なぜ今更になってそんなことをする」
「先日、ここに遊びに来たバカがいるだろう。そいつらが怪我したからだ」
「ふん、奴らはこの屋敷の庭を荒そうとした。だから力でお帰り願っただけだ!」
 根性があるのか、それとも他の理由か。精悍な顔つきをした男のスプリガン
が一人立ち上がり、ジョン・スミスを睨みつける。
 なるほど、遺跡や宝を守るスプリガンらしく、目に強い力がある。
 ジョン・スミスとしてもこのような目をする物は嫌いではない。
「良い目だ。だが、俺も一応全て見て回らなければならないのでな。ここは退
けん」
「ならば、オレと一騎打ちしろ! 貴様が勝ったら、調査させてやる」
「いいとも」
440 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/14(日) 01:32:42 ID:T753SaTD
 ジョン・スミスは苦笑する。簡単な調査だと思っていたら、まさかスプリガ
ンと一騎打ちをすることになるなんて考えてもいなかったのだ。
 もちろん、戦闘用の道具など持ってきていない。剣一本すら持っていないの
だ。
 一騎打ちの宣言と共に、先ほどまでジョン・スミスを囲んでいたスプリガン
達は一斉にどこかへ消えていった。恐らくはこの男に全てを委ねたということ
だろう。
 それほどまでに信頼されている腕前か。武器もないのでは、ジョン・スミス
といえど分が悪いかもしれない。
 とはいえ、もう一騎打ちを受けたのだ。情け無く逃げ出すのはもっての外。
 どうしたものか、とジョン・スミスがあごを撫でると、それを隙と見て取っ
たのかスプリガンが切りかかってくる。
 速い。それに避けにくい横切りだ。よく考えられている。
 しかし、ジョン・スミスは彼が想像しているよりも遥かに厄介な男だった。
 スプリガンの間合いを見極め、それよりもさらに内側に踏み込む。どんなに
良く切れる剣でも、根元で受ければあまり切れないものだ。ならば、その更に
内側まで踏み込めばどうなるかは分かりきっている。
 スプリガンの想定以上の速度で懐へ飛び込んだジョン・スミスは、左肘でス
プリガンの持つ剣の鍔元を打ち据え、右肩をスプリガンの鳩尾に触れさせる。
 剣を持つ手を痺れさせられ、さらに懐に入られすぎたのを嫌ったスプリガン
は思わず後ろへと跳ぼうとする。だが、それが間違い。
 強烈な踏み込みの音と共にスプリガンの鳩尾で、衝撃が爆発した。触れてい
るだけだったはずのジョン・スミスの、肩からの体当たり。
 後ろに重心が移っていく最中に思いっきり体当たりで突き飛ばされたために
転倒し、さらにスプリガンは鳩尾を貫いた衝撃に悶え苦しむ。
 そのスプリガンの近くに立ち、ジョン・スミスは片足を上げて全力で足を振
り下ろす。
 その直前。
「駄目ぇ!」
 ほとんど無意識に殺しに掛かっていたジョン・スミスだが、耳元で聞こえた
制止の声に我に返ったのかなんとか振り下ろした足をスプリガンの上からずら
すことに成功した。
 大きな音と共に石畳を踏み抜いたジョン・スミスは、自分のしそうになった
ことを思い出して頭を抱える。
「ありがとな。止めてくれて」
「あう、こわかったよぅ」
 ジョン・スミスは涙目になっているムリアンを撫でてやる。
 戦闘になったとたんに、意識が切り替わって彼女のことを忘れてしまってい
たのだ。
 げほげほと咳き込みながら剣を収め、スプリガンはゆっくりと立ち上がった。
「負けだ。好きに調査するが良い。ただし、ここを荒らすことは許さん」
 そう言ってよろよろと屋敷に入っていくスプリガン。それを見送り、ジョン
・スミスは大きく溜め息をつく。
 流石にスプリガンとの一騎打ちは神経をすり減らしたようだ。
 しかし、まだ調査が始まってほとんど時間が経っていない。
 なんとも疲れる仕事である。
441 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/14(日) 01:33:29 ID:T753SaTD
 さっさと終えるためにジョン・スミスは屋敷に入る。
 屋敷の中も、ずいぶんと綺麗に片付けられているようだ。
 パッと中を見た程度では汚れは見当たらない。誰が片付けているのか。
 掃除している誰かを探しながらジョン・スミスが廊下をうろついていると、
その人物はすぐに見つかった。
 いや、人間ではない。妖精だ。
 シルクのドレスを着た、美しい女性の妖精。
 シルク特有の衣擦れの音をさせ、せっせと廊下を掃除している。
「へぇ、シルキーがいるのか。ここは妖精の見本市みたいだ」
「あら、お客様ですの?」
 にこやかに笑い、シルキーが歩いて近付いてくる。
 箒を持ったままで、特に警戒感を示しているということもない。
 普通に客に対応するかのように。
「いや、俺はここを調査しに来たものだ。お構いなく」
「あらあら。そうですの。肩のムリアンのお嬢さんは案内かしら」
「そうだよー。案内してるの」
「じゃあ、頑張ってくださいね」
 元気なムリアンの返事に笑顔を返し、シルキーは再び掃除に戻る。
 しかし、本当に妖精の多い屋敷である。
 流石のジョン・スミスも、ここまで妖精が多い場所は初めてだ。
「ここは良いところかい、ムリアンの誰か」
「うん。ここは誰も来ないし、良いところだよ。いたずら好きの子は退屈がっ
てどこかへ行っちゃったけどね」
「そうか。分かった」
 一つ頷き、ジョン・スミスは溜め息混じりに一つを心に決める。
 もう、調査の必要もないだろう。





 報告書を提出された役人はぱらぱらとそれをめくり、一つ頷く。
「なるほど。中には数人の野盗がいたのか」
「はい。もう近付かないように徹底的に叩きのめしたから、もう大丈夫だろ」
「それも含めて、上に報告しておく。いや、君は有能だな。是非とも部下に欲
しいぐらいだ」
「はは、俺は所詮裏の人間。表の世界で働くのは眩しすぎる」
 肩を竦め、ジョン・スミスは笑う。
 役人はもう一度報告書を確認して判を押し、一揃えの書類をジョン・スミス
に差し出した。
 帝国の簡易印が押印された、何枚もの書類。それはあの屋敷の所有権をジョ
ン・スミスに委譲するとの旨が書かれた帝国からの証書である。
 物々しい印と、どうも見覚えのある物々しい称号がずらっと一番最後の紙に
並んでいる。
 皇帝グラーニンを筆頭とし、宰相だの、元老だの、色々と並ぶその名前を、
ジョン・スミスは冷たい目で眺める。ただの形式として名を連ねているだけだ
ろうが、それでもあまり気分のいいものではない。
「ああ、その仰々しい面子はこの屋敷が昔は由緒正しい貴族が住んでいたから
さ。儀礼的にだが、名前を載せないわけにもいかなくてね」
「そうか。皇帝陛下の名が載っているから驚いたよ」
「はは、そこら辺は全部私が書いたのだよ。流石にこんな事件で上の手を煩わ
せるのも不敬だろう」
「それもそうだ。まぁ、いい。じゃあな」
「また、助力を頼むこともあるだろう。そのときは頼むよ」
 役人の声に手を振り、ジョン・スミスは部屋から出る。
 大きく溜め息をついて、ジョン・スミスは歩き出す。
 外套の下にある古傷が、久しぶりに疼いた気がした。

442 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/14(日) 01:34:55 ID:T753SaTD
「さて、という訳でここは俺の物になったわけだが」
「……で、どうするつもりだ」
 屋敷の中、ジョン・スミスと一騎打ちしたスプリガンがジョン・スミスを睨
みつける。
 説明を受けても、それが受け入れられるものであるかは別のようだ。
 それを特に気にすること無く、ジョン・スミスは続ける。
「いや、特に何も。この紙切れ、くれてやるよ。俺には必要ない」
「は?」
 ジョン・スミスは役所で貰ってきた書類を、ひょいと机の上に投げ出す。
 本当に必要ないらしい。
 なぜそんなことをするのか理解が出来ないらしく、スプリガンは首を傾げて
書類を見た。
「なんでだ? 貴様なら、我々を排除することも簡単だろう」
「してどうする。俺はここをお前達にやると言ってるんだよ。今どき、こんな
に妖精が集まってるところも珍しい」
「……なんか裏があるんじゃないだろうな」
「ほとんどの人間に見えないお前達をどうしろと。まぁ、たまにここで休ませ
てくれればそれで良いんだ」
 疑ってかかるスプリガンに、ジョン・スミスは苦笑を返す。
 特に物へのこだわりを示さないジョン・スミスとしては、疑われるほうが心
外なのだ。
 受け取るべきか受け取らざるべきか、大いに悩むスプリガンをそっちのけに
してシルキーが紅茶を淹れて持ってきた。
 紅茶の葉は今日、権利書と共にジョン・スミスが持ってきたものだ。折角良
い茶器があり、騒がしい連中もいるのだからもったいないとでも思ったのだろ
う。
 カップを手に取り、ジョン・スミスは紅茶を飲む。スプリガンが決定を下す
までにもう少し時間がかかりそうだったからだ。
 が、裁定は思わぬところから下された。
「もう、駄目じゃない。好意はちゃんと受け取るものですよ?」
 唸るスプリガンの前から呆れたようにシルキーが書類を取り上げる。
 彼女は文字がちゃんと読めるらしく、書類をざっと確認し一つ頷く。
「はい、この書類をお受け取りしました。この地を管理させていただく栄誉を
賜り、感謝の念も尽きません」
「堅苦しいな。それとも、シルキーにはその言葉が必要なのか?」
「いいえ。ですが、ありがとうございます。みんなも喜ぶでしょう」
「そうか」
 呟き、ジョン・スミスは溜め息をつく。
 近年妖精達の目撃例が激減している。妖精達をごく普通に視ることの出来る
才能の持ち主が減ったことも関係しているが、それより妖精の住める場所が減
ってしまったことのほうが大きな原因だという。
 だが、ここはそんな最近の風潮に逆らうかのようにたくさんの妖精がいるの
だ。古きものを好むジョン・スミスにとって、非常に安らげる場所である。
 不機嫌な顔で睨んでくるスプリガンに苦笑を返し、ジョン・スミスはゆっく
りと紅茶を飲むのだった。
443 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/14(日) 01:36:38 ID:T753SaTD
ここまでです。
ムリアン、オークマン、ニワトコ婆さん、スプリガン、シルキーなどは
全て妖精の種類です。
彼らの名前ではありませんので、あしからず。
444名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 01:52:06 ID:PvF8Cn/a
投下乙!
北欧の妖精達だな

まさかこの世界にこんなに沢山の種類の妖精がいたとは
445名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 02:00:42 ID:5CXlpYsn
蒸気機関の発展で住む場所を失った妖精たちもいるんだろうな
魔法の存在すら信じてない人々もいるわけだし……そう考えると少し切ない

投下乙でした、設定が広がるなあ
446 ◆smPgD2p4Fg :2008/09/14(日) 02:05:49 ID:UmXYRZ+J
7.
 現れた金貨は、私の人差し指と中指の間で“両面を挟まれていた”。

 少女は何も言わず、黙りこくっている。どうした、と問うてやっと一言、
「……それ」
とだけ言った。
「見たらわかるだろう。これは“表”ではなく、“裏”でもない。だが反則でもない。フェアだ」
 にんまりと笑顔を作り、得意げに言ってやった。
「……最初に金貨の表裏を決めた」
「ああ」
 だが金貨の面の表裏を決めた“だけ”である。金貨の状態が“表”か“裏”かの二択だとは言っていない。
 少女が“表”を選ぼうが“裏”を選ぼうが、そんなのは大したことではなかった。

 “些末事”だったのだ。

「“表”か“裏”か、そのどちらかだと思ったこと……ひいてはルールを明確に定めなかった事が君の敗因だ。……大人げないと思うか?」
「とッても」
 少女は特に促音で目をぎゅっと閉じて言を強調し、感情の無い目で私を見据えた。
「だがこれは“私の良心には”何ら反してはいない。それとも私の良心に納得いかないか。
 ふん。世は納得のいかないことで溢れている。勉強になったかな?」
 しかし少女はその言葉に反応せず、否定も肯定もしないでじっと私を見つめたままでいた。
(少しショックが強かっただろうか)
 無理もない。まだ十にいくかもわからぬ少女だ。それが大人の後ろめたい奴隷になるなど……。なまじ大人の汚さを知らない分、恐怖は私たち(大人)が考えるよりずっと酷いものだろう。耐えられるものではない。
「まあ安心しろ。生憎、私は少女には興味がない。だが負けは負け。先ほどの警邏に突き出し――」

「何か勘違いしてないかい、大将?」
 少女が口を開いた。

「なに?」
 そしてはっきりとした口調で、

「勝負はオレの勝ちだ」

と言った。

「莫迦なことを言うな、見苦しい」
 所詮、子供は子供だったということか。いや、むしろ何かを期待してしまっていた私がの方が莫迦なのか。
「でたらめを言って逃れられると思うな」
「でたらめじゃねェよ。その金貨はバッチシ裏を向いてるじゃねェか」
 ふと、私は目を金貨に落とした。
 指に挟まれた金貨が私と向き合っているのは『皇帝』(表)面。つまり、正面に居る少女は、“確かに『浮遊城』(裏)面と向き合っていた”。
「成る程……金貨の落ちる“天”と“地”が我々の天地と同じだとは決めていなかったか」
「ルールを明確に定めなかった事が大将の敗因サ。それとも、アンタの良心はこれを認めないかい?」
 大声を挙げて私は笑い転げた。
「クックック……成る程成る程! ククッ……!
 ――君は事前に気づいていたのだな。私が如何にして金貨をキャッチするか」
 少女は頷き饒舌に話し始めた。
「アンタ、右手で弾いた金貨を右手に乗せた。そんで、それを左手で隠した。そりゃァおかしい。右手はトスのために丸めてたんだ。右手に金貨を乗せるには手を“パー”に開いて、金貨の落下予測位置に手を移動させて、って二手順かかる。左手なら移動させるだけでいいのによ。
 しかもオレの特別ルールのおかげでアンタは金貨は落とすわけにはいかなかったってのに。“特にアンタなら”そんな危ない真似するワケねェよな」
 私は右利きだ。このいかさま紛いのコイントスを成功させるのに左手では不安があったのだ。右手の二手順と天秤にかけたとき、私はより成功率が高いであろう右手での実行を選んだ。
「それにアンタ、キャッチしたコインの隠し方が不自然だったぜ。普通、投げたコインは手の甲に載せる。左右の手が垂直になるように手の甲だけ隠せばいい。手と手を平行に重ねて指まで隠す必要はねえンだよ」
 その不自然さを隠すための“はったり”だったのだが、これも無駄だったというわけだ。
「まあ疑うキッカケは『私の方が有利だ』ってアンタが漏らしたからだけどな。最初は賭けの対象のことかとも思ったが……あれはトスのとき、いかさまをする余地があるってェ意味での“有利”だったんだろ」
「いかさまはしていないだろう?」
「けっ、似たようなもんサ。指で挟むなんざ」
「クックック……! わかった、私の負けだよ。切符は譲ろう」
447 ◆smPgD2p4Fg :2008/09/14(日) 02:09:03 ID:UmXYRZ+J
8.
 ごお、と爆音が響いた。停泊していた雲上艇の動力部が作動し始めたのだ。
「ところで君は何をしに、どこまで行くつもりだ?」
「ちょっと“お勉強”をしに、ゴールドバーグまで」
「『山越え』をするつもりか? その五百カヴメルーの切符ではテゲムまでがせいぜいだが」
「テゲムに着いたらまた考えるサ」
「しかし何故サマンまで行く。教育機関(アカデミー)ならハイダスノゥとて――」

 そして、彼女ははっきりとこう言った。

「そりゃァ『仇』のもとで習うわけにはいかねェだろ――」

「……そうか」
 ならば、これ以上関わらずとも良いだろう。

「では気をつけてな」
 私が歩みを数歩進めたところで、
「――そういや、あの話のオチを話してなかったな!」
少女は船とは真逆の私の方へと駆け寄ってきた。
「……不要だ」
 しかし少女は無視して話を続ける。
「王は最後に“表”を選んだから、その家族は殺された。だが大臣は“裏”を出したワケじゃァない――」
「…………」
「――同じサ、大将。大臣はアンタと同じことをやったのサ」
 その声は妙に冷たく響いた。
「だがオチはこれじゃァない。後日談があンだよ。
 大臣が王位を剥奪して数日後、王とその家族の首を取った騎士団長は自害した。なぜだかわかるか?」
 私は答えなかった。わからなかったのではない。答えるのを拒否したのだ。
「団長の娘と王の息子は好き合っていたんだ。身分差の恋……『エルラトゥームに身を寄せて』の世界だ。
家族の命を握られていたのは王だけじゃなく、騎士団長もだったのサ。娘の愛する人をその手にかけてしまった父親は、
その罪の意識に耐えられなかったのか、許しを請うためなのか……死を選んだ」
 少女はそこで一旦、区切った。私の言葉を待っているのだとわかった。
「……そのあと、娘はどうなった」
「どうなったと思う」
「父と恋人の後を追い、自害した」
 沈黙。
 砂風が辺りを支配していた。耳にあたる砂粒が、かちかちと音を伝えていた。
「……アンタがそう思うならそれでいいサ、今は」
 どこか異国の言葉のように聞こえたのは彼女が抑揚をつけなかったせいだろう。
 感情を押し殺していたことがありありとわかった。

「……あとさ、覚えておいてくれねェか。オレン名前だ。ベンズ・トート」
「……私は」
「知ってるサ、“殿下”。
 ――また会おうぜ」
448些末事 ◆smPgD2p4Fg :2008/09/14(日) 02:11:38 ID:UmXYRZ+J

 振り向くと、彼女は船の搭乗口へ歩き出していた。
 私は彼女の背中を見送りながら、昔に聞いた伝説を思い出していた。

 恋人を喪い、父を喪った娘は、しかし二人の後は追わなかった。追えなかったのだ。
 彼女は王子の子を身籠もっていた。
『自分だけならいいかもしれない、しかしこれから生まれてくるお腹の子は、自分と恋人が確かに愛したあった証拠なのだ』――と、それは私の勝手な想像であるが。
 そのように彼女が思ったか否かは別として、彼女は生きる道を選んだ。そしてその子に自分の恨み辛みを聞かせた。
『いつかお前が父さんたちの仇をとっておくれ』――と、やはり想像であるが、これはほぼ間違いないと思う。
 その子が成せなかった仇は孫に継がれ、一族の恨みは綿々と受け継がれていった。
 生む子生む子が悲願を達成できぬまま時は流れ、いつしか伝説になり果て、その事を覚えている者はいなくなった。

(いや)
 事実はそうでなかった。誰もが忘れかけ、世間に伝わる伝説が歪められてもなお、その一族だけは忘れていなかった。
 そして一人の少女が現れた。
 その少女は先ほどまで私の前に立っていたのだ。

「……そんな所で突っ立ってると日射病になるぞ」
 声の主はどうやら隣の小屋に潜んでいたらしい。死角となる板壁からにゅっと正体を現した。
「……盗み聞きとは……。趣味が悪いぞ、ジョン・スミス」
 予定の時刻を大いに破った私の待ち人が立っていた。
=====
ようやく本編といった感じです。
少々、ジョン・スミス氏をお借りします。
449 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/14(日) 10:20:59 ID:T753SaTD
>>448
投下乙です。
ジョン・スミスなら使っていただいて結構です。
むしろどんどん使ってやってください。
450砂漠の村のアリス ◆xyCklmNuH. :2008/09/14(日) 18:09:54 ID:S9a2aqCb
>>418の続きです。





「あははははははははははははははっ」



夜の砂漠の村。その薬屋の住居部分に笑い声が響く。
ここが村はずれで良かった。どう考えても近所迷惑になる。
そんなことを思いながら、今だ腹を抱えて笑い続けている少女を見る。
ランプのやわらかな光が彼女を照らす。今度はテーブルに突っ伏して、時折ピクッと動いている。
たしかに誤解をして、勝手に喧嘩を吹っ掛けたのは俺だが、そんなに笑うことはないではないかと思う。
今の俺の顔はひどく憮然としているに違いない。

あの後巨大生物のいた場から俺、アリス、バンディットの3人でここまで帰って来た。
アリスに夕食を御馳走になり(アエイシとタヒーナ、後は肉料理をいくつか)、
そのままアリスの家でくつろいでいた。その時アリスは何気なく俺がいた理由を聞いて来たことが発端だった。
それに俺が答えようとしたとき、横からバンディットがあのやり取りを、一言一句、演技を入れてまで再現したのだ。
その結果がこのアリスの爆笑状態である。
余談ではあるが、アリスがあそこに来た理由は、時間になっても荷物を取りに来なかったからだそうだ。

この状態がいつまで続いたか、やっとアリスは笑いがおさまると目尻から涙をぬぐう。
そこまで笑われるとさすがに傷つく。アリスはさらに憮然とした俺の顔を見て気付いたのだろう。
慌てて言い訳を始めた。

「うん。ごめんね。ちょっと笑いすぎちゃった。余りに面白すぎて」
訂正、言い訳すらしていないな。

「ちょっと、か? 本当にちょっとか?」
いたずらっぽく笑うアリスに憮然としたままチクチクと問い返す。
その様子に今度はバンディットが噴き出す。
じろりと目を向けると、バンディットは目線を逸らして素材の整理を始めた。
その間にもアリスの謝罪が続く。

「ああ、ごめんごめん。だからそんなに怒らないでよー。お願いだからー。今度なにか奢るからね」
「はいはい。了解。了解」
「うわっ、すっごい投げやり。絶対怒ってるよ。どうしようバンディット君。オルカ君、物凄く怒ってるよ!」
「アリスさん。痴話喧嘩に私を巻き込まないでください」
「えーと。でも原因はバンディット君だし」
「ふむ、ならば一つ知恵を授けましょう。、こういうときは笑わずに、『私のために頑張ってくれたのね。私感動したわ!』
とか『ありがとう、私、オルカ君の事が……』とかそれっぽくポーズを決めて言えばいいのです。
男なんてこんなものでイチコロです。お勧めですよ」
「なるほどなるほど。オルカ君はそっち路線の方がいいのね。メモしておこう」
「おい。ちょっと待て。勝手に俺の性格を曲がった方向に解釈しないでくれ」
二人の言いがかりに、たまらず言い返すとアリスはこちらに向きなおる。
その笑顔は絶対何かを企んでるな。と思うが表情には出さない。
アリスはふと眼線を下に降ろし、口もとに右手をやる。
わずかに頬を赤くして言う。

「ごめん。私、今までオルカ君の気持ちに気付かなくって……」
「何をだ」
即断する。まったく、今の会話の後にそれでは説得力のかけらもない。
しばらくすると、アリスは肩を落としてバンディットに顔を向ける。
451砂漠の村のアリス ◆xyCklmNuH. :2008/09/14(日) 18:12:54 ID:S9a2aqCb
「……むー。バンディット君、うまくいかないよ」
「今は無理というものでしょう。まぁ、時間をおいてやってみなさい。
アリスさんがやればオルカなど一発で落とせるはずです」
「よし。今度試してみる」
言いながら小さくガッツポーズをするアリス。

「そういうことを本人がいる前で言うのはやめなさい」
はぁ、と溜息を吐き頭を掻く。アリスのこういう所は天然なのか計算なのか、いまだに分からない。


「ま、いいさ。勘違いしたのは確かに俺だ。営業妨害も甚だしいし」
「あらあら、でも嬉しいのは確かよ。あんな小さかった子がここまで成長して、私は嬉しいわ」
「俺はアリスの息子かよ……」
「えー。見た目は兄妹かもね?」
「寧ろ父親と娘でも通じるかと」
「……話が始まらないからそろそろ漫才終わらしていいか?」
「えー」という声は無視、聞きたかったことを聞くことにする。

「それで、バンディットはアリスの血を買いに来たってことでいいんだよな?」
「うん、そう。後はこの村だとなかなか手に入らないものを輸送してもらってる」
「そういうことだ。今回は新商品が多く比較的いろいろな物が手に入ったな」
「ほー。どんなもの?」
「香辛料や衣服類。保存のきく食糧とかさ」
「ああ、なるほど」
通りでアリスの家の食事はバリエーションが多いはずだ。
こうやって材料も外から仕入れていたとは知らなかった。

「ふっふっふ。オルカ君、いつ変だと思うかなあ、と思ってたのに全然気づかないんだもの」
「ふむ、戦闘以外では割と抜けているな」
「うるさいな」
これはなにか? いつの間にか俺がいじられ担当になってるのか?


「ま、オルカいじりはここまでにしてだ。ひとつアリスさんには知らせることがある」
急にバンディットの声が真面目に変わる。アリスと俺もその表情の変化に姿勢を改める。

「今、帝都はかなりきな臭い状態になっている。アリスさんは絶対近づかないように」
「そんなに危ない状態なの?」
「ああ、上層部の動きが慌ただしい。詳しくは知らないし、知らないようにしているが……
アリスのような種族は場合によっては危険にさらされる可能性がある」
「はぁ、軍拡路線でもしているのかしらね」
「機械技術、錬金術、その他それぞれにかけている金が半端じゃない。
それに何か人数を集めているな。こっちにも何度かアポイントが来た。もちろん一蹴してやったが」
「そんなことして大丈夫なの?」
一瞬心配そうな表情を見せるアリス。バンディットは手を振り大丈夫という意思表示を見せる。

「蹴ったぐらいで手を出したりはしないだろう。今、変に目立つのは得策じゃないからな。
俺がアポイントがあったことを黙ってる限り問題にはしないだろう」
「そっか……ならいいけど」

会話の内容に全くついていけない。村から出たことのない俺には外の話は未知の領域だ。
俺の表情に気付いたのだろう、アリスは慌てて手を振った。

「今の話、オルカ君には難しかったかな」
「全く知らない話だ。俺に話について来いと言うのは無理がある。
……それでも今、帝都が危険だということは分かった」
「それだけわかれば十分だ。
ここのような辺境が巻き込まれることはないだろうが、注意しておくことに越したことはない。
情報としてはそれくらいか」
バンディットはそう言うと、素材を詰め直し、席を立つ。
452砂漠の村のアリス ◆xyCklmNuH. :2008/09/14(日) 18:16:06 ID:S9a2aqCb
「バンディット君、もう行くの?」
「ああ、客をいつまでも待たすわけにはいかないからな。今夜のうちに発つさ」
「そっか、残念。……あ、そうだ。私またちょっとここを離れるから。しばらくいないと思ってね」

「「は?」」
二人の声が同時に重なる。おそらく思ったことは一緒だろう。
当然バンディットは疑うような声をだす。

「まさか帝都にいくのか?」
その声にアリスはパタパタと両手を横に振る。

「違うって、でもそろそろ外の情報を直接仕入れる必要があるかなって」
「ああ……なるほど。でも今のご時世一人は色々と危険だぞ。せめて護衛が必要だな」
「今までで、危険じゃなかったことなんてないし、護衛を頼める人なんていないわよ」
「ここにいるじゃないか」
そう言ってバンディットは俺を指さす。

「……確かに俺なら適任か」
「え、でもオルカ君はこっちの生活があるんじゃ」
なぜか慌てるアリス。バンディットはため息を吐くといった。

「オルカ、君はどう思う」
同じく溜息を吐くと、当然のように言うことにする。

「アリスの暴走を止めるには俺もついていった方がよさそうだ。
アリスが一人だと絶対帝都に行くからな」
それだけは断言できる。絶対自分から厄介事に首を突っ込むはずだ。
アリスはたじろいだように一瞬沈黙し、

「信用ないなぁ。それじゃしょうがない。オルカ君に護衛頼もうかな」
「ああ、任された」
そう言って俺は手を挙げた。





「んー。いい夜ね」
「旅立ちにはちょうどいい夜だ」

アリスは隣で伸びをしながら言い、俺は相槌を打つ。
バンディットが帰ってから一週間後、俺とアリスは村を出た。
荷物は手に持てる範囲の必需品。後は武器と金ぐらいだ。

「それで、まずはどこに行く?」
「ん、まずはここから近い所に行こうと思う」
「要するに行き当たりばったりか?」
「そうそう。どうせお金は一杯あるし、観光旅行のつもりでいけばいいのよ」
「そう言って事件に巻き込まれるのか?」
「ははは、そんなこと……ある……かな」
「あるのか!」
俺の突っ込みにアリスの目線が泳いでいる。しかし、ごまかすように手を天へと突き出した。

「いいじゃない細かい事は。それじゃ、しゅっぱーつ!」

俺たちはこの小さな村をでた。正直年甲斐もなく未知の世界に興奮を覚えていたのは秘密だ。
絶対アリスにからかわれるからな。

はてさて、俺たちの旅はどこへと向かうのだろうか。
453砂漠の村のアリス ◆xyCklmNuH. :2008/09/14(日) 18:18:57 ID:S9a2aqCb
・・・





アリスの日記

オギラの月 ○日

今日、村をでました。
今回の旅は珍しく同行者がいます。オルカ君です。まさか彼と旅できるなんて思わなかったな。
一人旅もいいけど、こうやって二人で旅するのもいいな、と思います。
今回の旅はかなり楽しい旅になりそう。
そういえば以前出会ったジョン君は、今はどうしてるかな。
たった数日間の同行だったけど、彼も随分と変わっていたな。いまどき珍しく直接魔法を使ってたし。
おっとっと、話がずれちゃった。

とにかく今回の旅の目的は今の世界がどう変化したか見ていくこと。
どの程度、今の世界が昔に近づいたか確認するつもり。
最近『空』の情報がなかったからどうしているかわからないし。
はぁ、あの話が『空』の動きだす予兆じゃなければいいけどな。
もしそうなったら……今度こそ止められるかなあ。







以上、今回で砂漠の村のアリスは終わりになります。
続きを書くかどうかは未定。どちらにしても題名ごと変えます。
最後に思わせぶりなこと書いて逃げ
454名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 18:34:16 ID:YzFb5cC5
>>453
スーパー投下乙。もうジョンスミスは引っ張りだこだな。
455名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 20:11:46 ID:OhJYltK7
今日も船は空を行く。目的地も無く、ただふらふらと。
そういえば、当たり前の事と思っていたけれど、どうやってこの飛行船は飛んでいるのだろう。
僕はその疑問を、目の前にいる彼に吐き出した。
「この飛行船は、何を動力にして飛んでいるんだろう?」
普段はあまり動かない、彼の白くふさふさなひげに覆われた口が、ゆっくりと僕の質問に答える。
「原子力だ。水素の核融合を起こし、それによって得られた熱で水を沸かし、タービンを動かす。」
「よくわからないけど、その先はわかるよ。」
「なら、大丈夫だ。核融合とやらは、俺もよくわからなかった。」
「なら、今はわかるんだね。」
僕には、一生理解出来そうにはないや。
僕が軽く溜め息をつくと、彼は僕を励ましてくれた。
「悲観するな。それこそ、何がきっかけになるかわからないぞ。」
ふと、またしても僕の内部で疑問が浮かぶ。
「シロは物知りだね。」
シロ。それが彼の名前だ。
初めて出会った時に、彼にひげとの関連性について尋ねると、生まれつきひげが生えている奴があるか
と言われた事があるが、容貌魁偉な彼の事だ。生まれながらにひげが生えていたに違いない。
「なんだ、藪から棒に。」
「いや、そう思っただけさ。この船の動力も教えて貰ったし、以前に国を滅ぼした目的も教えてもらった。」
本当に、奇妙過ぎる。
「そんな物知りが、何故船底で働いているのかって?」
僕の考えを彼は読める。そう思える位の洞察力だ。もしかしたら、そんな魔法があるのかも知れない。
僕はそんな魔法は勿論知らないが、彼のことだ、不思議は無い。
ちなみに、この船では底に近づくにつれ、立場が低くなる。
「答えは簡単だ。俺が罪を犯したからだよ。」
「どんな罪だい?」
「最初は脱走幇助だったが、何故か大規模騒動を起こしたとして減刑された。」
試しに僕が、事の顛末を話して欲しいと思いながら彼を見つめると、こんな返事だ。
「魔法を使っていると思っているのだろう。それは違う。お前が顔に出しすぎているだけだ。」
やはり彼は凄まじい。いや、負け惜しみでなく。
「さて、続きだな。」
僕が首肯すると、彼はポツリポツリと語り始めた。
ついでに、この国では脱走幇助は死刑で、大規模騒動は船底行きだ。
そしてさらに僕や彼が大規模騒動を起こしたら、収容所送りになって一生を木の数を数えて暮らす事になる。
456名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 20:12:57 ID:OhJYltK7
K機関。
地上への監視から、国内の諜報までを担当する機関である。
設立の経緯や構成員数は不明であるが、非番を出せるくらいには大規模となっている。
そしてその日、その男も非番だった。
彼の顎には、白いひげが生えている。いつもなら剃っているのだが、別に今日は見る者も無い。
おかげで顎が真っ白く見えてしまっている。
そしていつものように本を読んでいる時、突然の召集がかかった。
脱走者が出たので、至急指令部に出頭せよ。
彼はひげを剃らなかった事を悔やみ、すぐさま部屋を出て指令部に向かって駆けた。
この国は外に存在を知られたくないのか、脱走を決して許さない。
それでも脱走者が出るのは、この国が閉鎖的だからだろう。外に憧れる者は、無数にいる。
彼は駆けながら角を曲がると、人とぶつかってしまった。
脱走者が出たなら外出禁止令がでるはずだから、ぶつかった者はK機関員か若しくは。
彼にはその者を脱走者だと思えたが、つき出す気は出なかった。
彼女は年端もいかぬ少女だった。そんな者が脱走という事は、相当な事情があるはず。
ただ、一番彼に職務を棄てさせたのは、血まみれの彼女から向けられた眼だった。
怯えたような眼。生に執着しようとする眼。
「外に出たいのかい?」
彼の問いに、彼女は頷いた。
「それなら、付いてきなさい。」
彼はそう言って手を差しだすが、当然彼女はとろうとしない。
「お名前は?」
「クロ。貴方は。」
「シロだ。」
彼女が逃げようともせず、口をきいてくれた事に希望が持て、彼は彼女の僅かな表情の変化を見抜けた。
「白いひげだから、シロだというわけではないよ。君が黒い髪だから、クロではないようね。」
彼女は驚いたような表情をしたが、すぐに消し彼の手をとった。そうすると彼は微笑み、彼女と共に駆け出す。
それは明らかな偽善だった。
逃げられても生き残る保証は無いどころか、十日生存できるかも不安だ。
「上」は追っ手を出すだろうし、そもそも未知の世界に大した準備もなく乗り出すのだから。
それでも彼は駆ける。
「生き残る可能性くらい、与えたっていいじゃないか。」
その結果が例え、辛苦の果ての野垂れ死にであろうとも。
そして彼女は、血の滴る長く黒い髪をたなびかせ、彼の後を追った。
457名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 20:14:32 ID:OhJYltK7
脱走には、小型のグライダーを使わなければならない。それ以外に方法はない。自動だから、彼女でも十分扱える。
彼らはすぐ発着場にたどり着いたが、勿論そこには見張りがいる。
「ここでまっていて」
そう彼は言おうとしたが、そんな暇もなく彼女は見張りを昏倒させていた。
殺さなかったのは、先の彼の言葉を聴いていたからだろうか。
しかしながら、彼女の身体能力は異常すぎる。彼には、彼女が伝説の異端児達のように思えた。
常人は魔法を体外にしか使えないが、彼らは体内にしか使えないらしい。
最も、常人でもそれが出来る方法があるらしいが。
異端児達は、世の摂理に背く存在として知られている。なるほど、ならば彼女が逃げ出した理由も想像がつく。
その後はトントン拍子に事が進んだが、最後の最後に見つかって、シロが囮となった。
クロを逃げ延ばせたが、彼は捕らえられて裁判にかけられる。
判決はもちろん死刑だと思われたが、突然裁判官に伝言が来たとおもうと、彼は罪状が変えられ、船底送りになった。
「上」の思惑が絡んでいる事は確実だが、いったい彼を生かしておいて何の益があるかはわからない。
そして、そのまま彼は今に至る。



「それで、彼女の消息は?」
「わからない。死んでいるのかも、生きているのかも、だ。」
やはりこいつは鈍い。普通、察せるだろうに。
「生きているといいね、その娘。」
「もう少女では無いだろうがな。なにせ、十年は前の話だ。」
その時、給仕ロボットが部屋に入ってきた。ウォトカとウイスキーを手に持っている。
「ありがたい。丁度呑みたかったところだよ。シロはウォトカだよね。」
あいつはそう言ってウォトカのボトルを俺によこし、観測機械に座る。
地上を見ながらウイスキーを呑むのが、あいつの一番の楽しみらしい。
丁度という事は、俺の話はつまらなかったという事か。
ただ、あいつのレンズを覗く様がいつもとはいくらか違うのは、どういうことだろう。
まさかクロを探しているのか。いや、流石のあいつでもそんな。
「どう、なんだろうな。」
俺が給仕ロボットに呟くと、そいつは首を傾げ、部屋を出ていった。
なぜか、その時の奴のレンズの光は、何かを知っているように思わせた。



続きます
458名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 20:23:32 ID:YzFb5cC5
>>455-457
投下乙。

>「生き残る可能性くらい、与えたっていいじゃないか。」

ぞくっとした。これがシェアードワールドの醍醐味だな。
459てのひらを太陽に ◆meXrLVezBU :2008/09/14(日) 20:29:44 ID:NgEaQcue
短いですが、投下行きます。
460名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 20:31:15 ID:PvF8Cn/a
うはwどんどん投下くる
すげー
461てのひらを太陽に ◆meXrLVezBU :2008/09/14(日) 20:32:11 ID:NgEaQcue
1/

「へイ、いらっしゃイ」
 威勢があるに思わず顔を上げると、恰幅の良い小父さんが僕に笑い掛けてきた。鼻の下に
立派な髭を蓄えていて、歯が真っ白なのが印象的だ。微かに訛っているようで、
どことなく不思議な口調だった。
 いつの間にか僕の番になっていたようだ。どうしよう。クリスチーヌの分を買うか
どうかまだ決めてないよ。しどろもどろになってしまう。
 仕方ない。長ったらしいお喋りより精神の安寧を優先しよう。300ダガーの出費で
快適な蒸気機関車輪の旅が約束されるのなら安いものだ。
「すみません、ビーンズスープを二杯下さい。」
「はイよー。600ダガーになります」
 小父さんは手際よくビーンズスープを紙コップに注ぎはじめた。スープの色が赤いのは
トマトがベースになっているからだろうか。立ち上がる湯気からは香辛料と共にトマトの
匂いが漂って来た。一見するとミネストローネみたいだけれど、沢山の種類の豆がごろごろと入っていた。

 僕は小銭入れから100ダガー銅貨を六枚枚取り出し、一枚ずつ数えながらトレイに置いた。
「はイ、毎度ありー」
 僕はビーンズスープを受け取るとぺこりと頭を下げ、クリスチーヌの待つ席へと向かった。
 機関車の中に入ろうとすると、入口の所で車掌さんと目があった。
「ビーンズスープですか?マルエッソの名物ですから買い求めるお客さんが沢山いるんですよ。
ごみ箱は食堂車及び三等客席と四等客席の連結部分にありますのでそちらへどうぞ。
なおマルエッソにて搭乗の方が多いので三等客席においても相席になる可能性があります。
ご了承下さるようお願いします」
 車掌さんは言い慣れた風なはっきりした口調で僕に声を掛けてきた。僕と大して歳が
変わらないのにとてもしっかりしている。
 軽く会釈して機関車に乗り込むと、車掌さんの言葉通り人が増えていた。これまでの
道のりでは余り人がいなかったのになあ。僕は人の間をするすると通り抜けて席に戻った。
「只今、クリスチーヌ」
 僕が声を掛けると、クリスチーヌは玩具を見つけた子供のように目を輝かせていた
「あら、思っていたより遅かったわね。迷子になったんじゃないのかって心配していたわ。
ゴーダは方向音痴なところがあるんですものね。去年学校のピクニックで湖に行った時だって
一人で迷子になっていたじゃない。あの時のあんたの顔ったら! 本当に面白かったわ」
462てのひらを太陽に ◆meXrLVezBU :2008/09/14(日) 20:33:50 ID:NgEaQcue
2/

 僕はクリスチーヌのお喋りを聞き流してビーンズスープをクリスチーヌに差し出した。
「マルエッソ名物のビーンズスープだって。人が沢山いたから時間が掛かっちゃったんだよ。」
「んまあ、ゴーダ! あんたも気が利くようになったわねえ。紳士って言うにはまだまだ
勉強が足りないけれど、これは偉大なる第一歩よ。空から槍が降らない事を祈らなければ
ならないわ。槍が降って来たら、私は怖くて泣いてしまってよ。その時はあんたが責任取りなさいね」
 クリスチーヌがぺらぺら喋っていても舌を噛まないのは何故なんだろう。舌を噛まない
からこそクリスチーヌなのかも知れない。
 僕はそんな事を考えながら席に座った。ビーンズスープはまだまだ熱々で、添付されていた
木製のスプーンでひとさじ掬ってみると豆がほくほくしている。白いんげん豆に空豆、
ひよこ豆に大豆。その他にも玉ねぎのみじん切りやら鶏のささ身肉やらが入っている。
 マルエッソの人にとってはこれは珍しいものではないのだろうけれど、腹ぺこの僕に
とっては、腹ぺこじゃなくても充分にご馳走だ。
「いただきまーす!」
 僕とクリスチーヌは仲良く食べ始めた。
 まず口のの中にトマトの酸味が広がる。玉ねぎのコク、豆のほくほくした食感と甘味も
悪くない。ただ、それ以上に香辛料の辛さが自己主張してくる。スパイシー過ぎて舌が
ぴりぴりしてしまう。
 クリスチーヌを見遣ると、彼女ははふはふと食べている。
「ねえ、クリスチーヌ。ちょっと辛くない?」
 刺激的な辛さに思わずクリスチーヌに尋ねてみたけれど、彼女は平然としていた。
「辛いけれど美味しいわよ。ゴーダはお子様だから辛いのが苦手なのね。この味が判らないのは
とても可哀相ね。心底涙を禁じ得ないわ。欲を言えばパンと一緒に食べたいかもね。
焼きたてのトーストにバターを付けてビーンズスープの具を載せて食べても美味しそうだし、
パンの耳をスープに浸して食べるのも悪くないわ。」
「それじゃ母さんの作るシチューだよ。」
「お馬鹿さんねえ。地元の人にとってはそういうものかも知れないじゃない」
 僕はクリスチーヌの言葉に頷きながら、もうひとさじ口にした。確かに辛いけれど
、微かに感じる豆や玉ねぎのの甘さと絶妙に混じりあっていて、一口目よりも美味しく
感じられた。
463てのひらを太陽に ◆meXrLVezBU :2008/09/14(日) 20:35:11 ID:NgEaQcue
3/
「すいません、相席お願い出来るかな?二人なんだけど」
 ビーンズスープを食べるのに夢中になっていると、急に声を掛けられた。声の主に
目をやると、そこには僕よりも背の低い少年が立っていた。声変わりの真っ最中なのだろうか
ちょっと声が掠れていた。
「大丈夫ですよ。ねえ、クリスチーヌ?」
 クリスチーヌに話を降ると、彼女は僕には見せた事のないようなすました笑顔を浮かべて
いた。この笑顔が日頃の練習の成果なのだろう。
「ええ、私達は構いませんわよ。その替わりと言ってはなんですが、お喋りのお相手をお願い
できまして?折角の機関車での長旅なんですもの。こういう出会いを大切にしたいですわ。
ほら、ゴーダ。私の隣に座りなさいな。席を空けてあげなければこちらの方が座れないでないの」
僕は立ち上がりクリスチーヌの隣に座った。
「すみません。――と、おじさーん、こっちこっちー!」
 少年は嬉しそうに尻尾を立てて小父さんとやらのいる方に手を振った。金色の瞳は
キラキラとしていて、髭がぴーんと張っている。灰色の毛並みは光沢があり、気持ち
良さそうな手触りに思えた。着ている服は僕と同じような質素なシャツとベストとズボンで華奢な体つきだ。
「クリスチーヌ、僕は獣人さんを初めて見たよ。僕達の田舎とマルエッソは違うんだねえ」
 僕は彼に聞こえないように小さな声で囁いた。
「私も初めてよ。知識としては知っていたけれど、生で違うと迫力があるわね。見なさいな、
あの上品な瞳。ちょこんと立った耳も素敵だわ。私は猫好きで、彼は猫の獣人さんじゃない。
これは何かの運命ではないかしら?」
 僕達がひそかにお喋りをしていると、ライオンさんがのっそのそと現れた。ライオンに
してはひょろひょろとしているけれど、僕の父さんと較べると背が高くてがっちりとしている。
「はい、ごめんね。前をちょっと失礼しますよ」猫さんが窓側に、ライオンさんが通路側に座った。クリスチーヌは猫さんが自分の前に
座って喜んでいるようだった。だって、目の輝きが尋常じゃない。

「君達は何処から来たんだい?おいらはグラットンだよ。おじさんとはここで待ち合わせ
してたんだ」
 少年は髭をいじりながら僕達に尋ねてきた。
「私達はブロント・サンからゴールドバーグへ行くんですの。そうそう、お名前はなんて
おっしゃいますの?私はクリスチーヌで、こっちはゴーダですわ」
464てのひらを太陽に ◆meXrLVezBU :2008/09/14(日) 20:36:23 ID:NgEaQcue
4/4

「おいらはジャンバチスタで、おじさんは――」
「私の名前はスウィフト。以後お見知りおきを」
 スウィフトさんは背広のポケットから名刺を取り出した。僕とクリスチーヌはめいめいに
受け取ると名刺にを覗きこんだ。
『アカデミー 実用錬金術 教授 カイ・スウィフト』
「スウィフトさんはアカデミーの偉い人なんですねえ」
 僕の言葉にジャンバチスタくんはお腹を抱えて笑い出した。
「偉くなんてないよー。おじさんったらいつもよれよれの背広着ちゃってるんだぜ?」
スウィフトさんは余計な事は言うなと言わんばかりにジャンバチスタくんにげんこつを
落とした。クリスチーヌは心配そうに ハンカチを差し出したけれど、彼は大丈夫だからと断った。
「いやさ、気持ちは嬉しいんだけどさ、ハンカチに抜け毛がついちゃうと大変じゃん?
で、二人はゴールドバーグに何をしにいくんだい?」

「私達はアカデミーに入学するんですの。スウィフトさんの事は教授とお呼びした方がよろしいかしら?」
 クリスチーヌは小首を傾げて尋ねた。さっき練習していたポーズの一つだ。スウィフトさんは恥ずかしそうにかぶりを振った。
「いや、呼ばれ馴れてしないし、君達はまだ入学前だから、教授と呼ばなくていいそれより――」
 ちらりとジャンバチスタくんを横目で見ると、続きを言いはじめた。
「おいらもアカデミーに入るんだよ、奇遇だねえ。改めてよろしくな!」
 ジャンバチスタくんが手を差し出して来た。まずクリスチーヌが嬉しそうに握手した。
「こちらこそよろしく、ジャンバチスタくん」
 僕が握手をしようとすると、ジャンバチスタくんはひょいと手を引っ込めてしまった。
「ジャンバチスタでいいよ。くん付けで呼ばれるのは馴れてないし、好きじゃないんだ」
 彼はニヤリと笑うと改めて手を差し出して来た。
「よろしく、ジャンバチスタ」
「ああ、ゴーダ。」
 僕はジャンバチスタの手をぎゅっと握りしめた。彼の温もりと毛並みの良さが伝わってきた。
 ジャンバチスタも力一杯に僕の手を握って来た。

 彼とは仲のいい友達になれるような気がした。
465てのひらを太陽に ◆meXrLVezBU :2008/09/14(日) 20:40:17 ID:NgEaQcue
投下終了です。
ゴーダとクリスチーヌの乗っている機関車は一等客席と二等客席までが個室で、
三等客席はボックス席というイメージでお願いします。
ではでは失礼しました。
466名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 20:44:57 ID:YzFb5cC5
投下乙。
毎度ながら食い物の描写がたまらん。腹減ってきた。

まとめてくる。
467スーパースティション ◆Wramvk0D7M :2008/09/14(日) 20:47:02 ID:d6cwemXM
 朝。
 ゴールドバーグの貧民街の一角、騒ぎカササギ通りにある、古びた石造りの小さな建物。
 ごみの散乱する狭く薄暗い路地に面した、人一人がやっとくぐれるほどの小さな木戸の向こうで、かちり、と鍵の開く音がする。
 よたよたと中から歩み出てきたのは、腹回りにかなりの肉を蓄えた、大柄な中年の人間男性。
 男は外に出きったあと、眠い目を二、三度こすったあと、伸びをし、大きく息を吸い込んだ。
 清浄な朝の空気、というには少々この街の空気は穢い。
 が、生まれてこの方この街の空気しか知らない男は、それを肺いっぱいに溜め込んだあと、満足そうに大きく吐き出した。
 こおん こおん
 建ち並ぶ家々に反響して、どこから響いてくるとも知れぬ、早起きの町工場からの騒音が聞こえる。
 ここおん ここおん
 別の町工場が目を覚ましたのだろう。呼応するように、騒音が複数になる。
 一つが目を覚ますと、それに呼応するかのようにして次々と工場たちが目を覚ます。
 そうして、街は目覚め、辺りは喧騒に包まれるのだ。
 男が子供の時分には、この辺りはただ「カササギ通り」と呼ばれていた。
 男が長ずるにつれ、いつのまにか「騒ぎ」の二字が付け加えられていた。
 この通りは、街の近代化と共にあった。
 男はふん、と一つ身を震わせると、踵を返し、建物の中へと半身を踏み入れる。
 小さな明り取りの窓から得られる僅かな光に薄ぼんやりと照らされた建物の中には、干からびた木の根、瓶の中で液に浸された元が
何の動物の物だったのかも解らぬ骨、鉱石。
 もろもろの得体の知れない物たちが、部屋の壁面に設えられた天井まで届く大きな棚に所狭しと押し込められている。
 男の稼業は薬屋。
 この小さな店舗に詰め込まれたあまたの怪しげな物品たちを、人のさまざまな求めに応じて代価と共に引き渡す、そんな職業。
 健康、長寿、そんな健全な要求も。
 嫉妬、強欲、そんな不埒な要求も。
 代価さえ支払えば、できる限りそれを叶える手助けをする、そんな職業。
 男は傍らにぽつんと突っ立っていた置物を両手で掴むと、ずるずると後ずさって店外の路地へと引きずり出した。
 それは男の職業の証。看板の代わり。
 ふと、男は、建物に切り取られた狭い空を見やった。
 低く連なる家々の向こう、雲ひとつない北の空には、しかし、男の期待した物は姿を見せてはいない。
 男は一つ嘆息し、扉を音を発てて閉じ、建物の中へと消えた。
 工場の一切稼動しない祝祭日とストライキ中だけにしか、この街でそれを見ることは叶わない。
 鈍い響きを発てて工場が生み出す、濁った煤煙混じりの空気に遮られて。
 男のいなくなった、人っ子一人通らない朝の薄汚れた路地では。
 レプリカである小さなカエルの置物が、誰にともなくよそよそしい笑みを振りまくのみであった。

 カエル拝めば万病治る。
 そんな真実とも嘘とも解らぬ言い伝えにあやかって、この国の薬屋は店先にその姿を模った置物を置くのだ。

////////////////////////////////////////////////////////////
お久しぶりです。仕事が忙しくてサボってるうちについて行けなくなっちゃいましたw
久々の投下がこんな最後の2行で済むようなものですいません
まとめサイトも別なのができてたりしてビックリです。今まとめて読ませていただいてます。
それにしてもずいぶんと世界が広がりましたね。そのうち長編書きたいな。
468名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 21:08:52 ID:YzFb5cC5
>>467
うおおお投下乙!カエル関係が物凄い勢いでつながったな。
469名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 21:57:38 ID:d6cwemXM
(用語辞典の【メルー】の項目を見て)
1マイルは1メイルですね。わかります
470名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 22:41:39 ID:YzFb5cC5
用語辞典は現在75項目。
アリス、37鉄警の主要どころを保管。
依然として単語がmainウィンドウに表示されないバグは修正出来ず。
今後も作品保管と平行してスーパースローペースで進めていくよ。


用語辞典で少しでも敷居が低くなったらいいなーとは思うけど。
もうちょいガイドライン的なものが、もう少ししたら作れたらいいな。
471名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 22:46:10 ID:YzFb5cC5
>>469
(ry

ということで定期age。
472空転するサーキット ◆IkHZ4B7YCI :2008/09/15(月) 01:27:47 ID:zeD90mww
(1/2)
 帝都の行政を担う官庁が立ち並ぶ一画に、そのオフィスは存在した。
 建物の一階に受け付けの人間が二人存在するだけで、他の人間が出入りしている様子はまるで見えない。
 いったいどのような仕事をしているのか? 周辺のオフィスに通う者たちは誰もが首を傾げるという。

 しかし、裏の世界において、彼らの存在を知らぬ者はない。
 帝国の走狗。ネラース中の情報を統括する地上組織。
 帝都の冷徹な論理をひたすら一方的に押し進める一回路(サーキット)。
 ある程度の事情を知る者達からは皮肉を込めて、帝国における「K機関」と蔑称されることもある、
 特務情報局──通称「特務」の拠点がそこにあった。

 人の気配に欠けた「特務」のオフィス。
 最上階に位置する局長室に、数度のノック音が響いた。」
 部屋の主が反応するのを待たずに、扉はあっさりと開かれる。
「……ふん。ようやく報告に来たか」
「あー、遅れてすいません、オメガ局長」
「謝罪は意味をなさない。全ては結果だよ。結果で示せ、エージェント・イータ」
 冷徹な空気をまとう部屋の主は、書類の決済を続けながら、一方的に告げた。
 苛烈な叱責に、入室した男はボリボリと頭を掻きながら、投げやりに肩を竦めて見せる。
「わかってますよ。それが俺ら『特務』に求められてるものですからね」
「ふん。わかっているならばいい。今後は十分に気をつけろ」
 相手を一瞥した後で、部屋の主は苛立たしげに手元の書類に視線を戻す。
「しかし、それって西門で起きた例の件の隠蔽処理ですか? 局長も大変ですよねぇ」
「……『上』の反応を見る意味もあったからな。演習としては悪くない」
 書類を処理する手を止めないまま、部屋の主は続ける。
「それで、例の遺跡はどうだった?」
「ありゃダメですね。現場の連中を処理してから、しらみ潰しに探してみましたが、使えそうな遺物は一つもありませんでしたよ」
「……空振り、か」
 常に厳めしい表情で、太い眉を眉間に寄せる男の顔が、僅かに落胆で陰る。
473空転するサーキット ◆IkHZ4B7YCI :2008/09/15(月) 01:29:46 ID:zeD90mww
(2/2)
 「特務」の主な任務に、辺境の文明圏の情報収集と、「上」の情報に触れる機会のある人間の監視・誘導がある。
 一定の基準を越えた段階で、該当する文明圏の殲滅と、関わった人間の処理に向けて動き出すことになる。

 しかし、帝国が「特務」を設立した目的は、「上」に対抗できるだけの力を蓄えることにこそあった。
 通常任務と並行して行われる、「上」の技術力を凌駕する可能性を秘めた、古代文明の遺産収集と人材の確保。
 これら二つの任務は「特務」にとって、ともするとあらゆる任務に優先して処理されるべき事項と言えた。

「……エージェント・イータ。貴様は引き続き、例の空賊の下で潜伏を続けろ。詳細は追って指示を出す」
「へぇいへぇい。了解しました、人使いのあらい局長さん」
 投げやりな敬礼を返すと、エージェント・イータはさっさと退室すべく扉に手を掛ける。
 その背に向けて、オメガは最後の言葉を投げ掛ける。
「新たな遺跡発見の報は聞いている。……期待しているぞ、エージェント・イータ」
 呼びかけに相手は肩を竦めると、それ以上何を口にするでもなく、部屋を去った。

 一人部屋に残されたオメガは、書類を処理する手を止め、思考に沈む。

 過度に力をつけた文明圏の殲滅と、「上」の情報に迫ろうとする者たちの排除。
 これらの役割を代行すべく、特務情報局は「上」から高度な魔法技術・機械装備の提供を受けて、帝国創世記に設立された。
 だが、帝国側が「上」の要請をあっさりと受けて、特務を設立した理由はまた別にある。
 「上」に対抗できるだけの力を帝国が蓄えるまでの時間稼ぎ。特務設立理由はそれ以外の何ものでもない。

 思えば、そもそもこの機関は成り立ちからして、矛盾した存在なのだ。
 「上」から与えられた力をもって、かつて奴らの果たした役割を代行しつつ、その一方で、
 奴らに与えられた力をもって統治した世界に、「上」に対抗できるだけの力が育つことを求めている。
 まるで小間使いのように扱われる帝国は、「上」に対してあまりにも屈辱的な位置にあった。

 しかし、一時の感情に流されるような、軽はずみな行動はできない。
 帝国の存在を無用と判断すれば、奴らはあっさりとこの国を滅ぼすだろう。
 地上から資源を搾取するための窓口は、なにも帝国でなくともかまわないのだから。
 今でも、帝国に対する示威行の一環として、何の通達もなく、辺境の文明圏が「上」の力をもって滅ぼさることがあった。
「……『上』に対抗できるだけの力を、帝国が蓄えるまでの時間を稼ぐ。それが我ら特務の存在理由」
 そのために、手段を選んでいるような余裕などありはしない。
「たとえ帝都以外に生きる者達が、如何なる犠牲を強いられようとも、な」
 誰に聞かれることもない呟きが、虚空に消えた。
474 ◆IkHZ4B7YCI :2008/09/15(月) 01:30:53 ID:zeD90mww
 作品の垣根を超えて、手軽に使えるフリーのやられ役として、特務情報局ってものを追加してみました。
 構成員としては黒服の下位エージェントと、α〜Ωまでの符丁で呼ばれる上位エージェントがいる。
 下位構成員はぶっちゃけモブキャラを想定。雑魚として登場させて、どんどん退場させようw
 上位構成員になると、かなり手ごわい存在を想定。主役級とガチで戦ったり、ときに共闘したりするベジータ的存在。

 それぞれの書き手が、同じ組織に所属する敵役として、自由に特務のエージェントを追加して行ったら、
 シェアードワールド的に、より面白くなるんじゃなかろうかと思っております。
 合言葉は目指せ、第二のジョン・スミス! そんな感じで、お粗末さまでした。
475名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 01:33:10 ID:q7D0LFFw

しかしお手軽やられ役という説明のおかげで
下級構成員がイーイー言ってる例の集団で瞬着されてしまった
476名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 01:39:37 ID:zeD90mww
上位エージェントのイメージが一瞬で今週の怪人に固定されたww
477名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 02:17:24 ID:K/ofnu8L
乙ー!
ある作品で出てきた上位エージェントを他作品にシェアしたりすると面白そうだ
ΑからΩということは定員は24人か……今のうちにネタを考えとこうw
478名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 11:01:33 ID:FyxkbQx0
他の作者さんがレベル高くて気後れするけど、せっかくだから投下してみる
まだエピローグの段階だけど
479THE・Golden Spider ◆H.jmM7uYLQ :2008/09/15(月) 11:02:31 ID:FyxkbQx0
今回は私の自伝を買っていただき、本当に感謝している。正直自伝と言うと小恥ずかしいのだが、出版社の以降では致し方無い
なので、自伝と言いながらも物語性の高いエピソードの一節を、今回読者である貴方に読んでもらいたいと思い、筆を取った
今では政府様のお陰で平穏な暮らしを送っているが、逆に自由を制限されたのもまた事実なり
なので今回の印税で……と、コレはちょっとしたジョークだ、内輪向けのジョークだと、読者諸君は思って貰いたい

長くなったが、今回私が執筆するエピソードは、今思い返すとスリルと浪漫があるものの、とても危険でもし選択肢を間違っていたら間違いなく私は死んでいただろう
私が今、読者の方にこうしてエピソードを語れるのも、私を危機一髪から救ってくれた【あの男】の活躍に他ならない
もしまた、「あの男」に会えるなら、冒険を共に送った仲として語り合いたいものだ

さて、「あの男」と書いたが、確か彼の名は……
480THE・Golden Spider ◆H.jmM7uYLQ :2008/09/15(月) 11:03:36 ID:FyxkbQx0


今日も元気に、蒸気の煙が澄み切った青空に舞った。やはり今日も失敗らしい
自動人形が愉快な音を立てて、ガタガタとその場に崩れ落ちる。私の後方で、鉄板のフェイスガードを取った助手が言った
「今日も失敗してしまいましたね……何処が原因なのでしょうか」
「それが分かっていればこんな所で実験などしておらん」

地面に突っ伏し、もくもくと腹部の排気口から煙を噴出す自動人形に駆け出しながら、私は助手の皮肉ににこりともせず答えた
なぜこんな事をしているかと言うと、少し過去にさかのぼる。と言っても三年前だが
蒸気機関を利用したトロッコに手足が生えたロボット……ボッコロッツを学会に発表し政府に認められた私は、政府から二足歩行型のロボットを作れと頼まれた
その製作を引き受けてから早3年。未だにロボットが完成する気配が無い。いやいや、研究を怠けていたわけではない
問題が山積み過ぎるのだ。動かす為の石炭を積むには、どうしても形を大きくしなければいけない。だが、それだと重量が増して前に進めない

なので一から素材を作らず、鎧を加工して蒸気機関を搭載する方法を採用した。最初からとか言わないでくれ、真剣に悩んだんだから
こうして蒸気機関を搭載しながら自立だけはする人型ロボットが出来上がった。この時点で2年だ
そして1年間、私はこのデクの坊、及び蒸気機関搭載鎧型自動人形、略して自動人形を歩かせようと四苦八苦している
殆ど毎日、私は助手と共に、自宅兼研究所近くの空き野原で、この自動人形の歩行テストを行っている

ちなみに、今私の実験を手伝っているのは15代目の助手だ。何故だか雇う人雇う人皆、理由をこじつけて辞めてしまう
けっこう給料周りは良いと思うのだがな……流石に失踪者が5人も出たときはめまいがした。まぁ実験に取り掛かればすぐ治るのだが
今回雇っている助手……マキナ君は結構真面目な青年で、飲み込みが早いから助かっている。あまり表情を表に出さないのが困るが、些細な問題だ
実験に対して一所懸命なら、多少人格面に問題があろうともね。今日の所は日も暮れたので残念だが実験終了だ

「それじゃあマキナ君、その自動人形を片付けておいてくれ。私はちょっとボッコロッツを調整するから」
「分かりました」

マキナ君が自動人形のパーツを外している横で、私はボッコロッツを起動させる為、積まれている石炭をボッコロッツの後ろのタンク部分に放り込む
颯爽と乗り込み、傍らのハンドブレーキを倒す。ブロロロと激しい音を立てて、蒸気を噴出しボッコロッツが動き出す
この瞬間が、私には至福の時間である。目の前のハンドルを握り、右方左方に足を進ませる
一見するとぎこちなく動いているが、それこそが魅力なのだ。大地を踏みしめる感触、後ろの駆動音、ふ〜む、堪らん
481THE・Golden Spider ◆H.jmM7uYLQ :2008/09/15(月) 11:04:23 ID:FyxkbQx0
決して自分が開発したからここまで褒め称えるわけではない。メカとはこうあるべきである……とは、私の持論だ
無骨で決してスマートにならず、あくまで機能美を追及し、使用者にとって分かりやすく馴染みやすい存在……それが私が理想とするメカだ
おっと、また心酔して作業を忘れる所だった。腕部の調子を確かめなければ

ハンドルを回して、積まれている石炭の山に方向転換する。先ほど褒めちぎったものの、歩くのが遅いのは改善せねばならないかもしれん
ハンドルの左右を持ち、グッと横に引っ張る。分離した両ハンドルから、獲物を掴むマニュピレーターを開閉する為のボタンがぴょこんと出てきた
上下左右に動かすと、それはもう悩ましげな動作で動く。この時の駆動音も良いね。ボタンを押して適当な石炭を取っては戻しを繰り返す

足部、腕部、共に良好だ。動力部分もオーバーヒートせず、私の手足代わり……は幾らなんでもオーバーか
気ほどの自慢に付け加えておくと、メカの構造は至極シンプルな方が良い。修理はともかく、改修や分解が安易になるからね
と、マキナ君が駆け寄ってきた。自動人形を自宅に運んでくれたようだ、さすが私の助手

「お疲れ様! 今日は帰りたまえ。明日は・・・…」
「博士! 今すぐ逃げてください! 賊が……」

瞬間、マキナ君が地面にずっこけた……いや、違う。マキナ君の足を、金色の銃弾が冷酷に打ち抜いたのだ
私は間髪いれずボッコロッツから降りて、マキナ君に駆け寄った。マキナ君の右足から痛々しい流血の痕が見える
この様子では満足に動けまい。私はどうにか、マキナ君を背負おうと地面に伏せて肩を持とうとした

「今は動かない方が身の為ですよ、博士」
聞き覚えの無い女の声がして、私が顔を上げるといつの間にか軍服チックな服を着て、帽子を被った女が私とマキナ君を見下げていた
その帽子もまた軍のようだが……どこかで見覚えが歩きがしないでもない。周りを見るとまた驚いた
彼女と同じ様な軍服と帽子を身に纏った集団が、機関銃を構えて私達を囲んでいるのだ

「君達は、君たちは何なんだね! こんな事をして……」
マキナ君を支えながら、私はきっと、目の前の女に対して問う。ここで臆せば、多分最悪の結末になると思っていたからね
すると女は、帽子を取ると、マジシャンが手品を披露する前の礼をするように、腕を曲げてお辞儀をした

そして、顔を上げるとこう言ったのだ

「貴方がデビット・バルホック博士ですね。私達はエンダーズ。言うなれば……「上」を倒し、自由を掴みどる者
 先ほどの貴方の部下に対するご無礼、深くお詫びします。しかしもう時間がありません」

そこで一拍入れると、女は言葉を続けた

「貴方の頭脳が必要な時が来たのです。私達共に来てもらいますよ。Dr.バルホック」
482 ◆H.jmM7uYLQ :2008/09/15(月) 11:06:45 ID:FyxkbQx0
投下終了です。所々表現がおかしくすみませんоrz
巧みにあの男は様々な作品で活躍されてるあの人です
483名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 13:25:58 ID:jiWw63b0
投下乙。
いいなぁメカ、たまらんなメカ。
484名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 16:21:16 ID:D3P9IbH0
>>478
投下乙だけど、いきなりエピローグで良いのか?
485 ◆H.jmM7uYLQ :2008/09/15(月) 16:29:45 ID:FyxkbQx0
>>484
エピローグじゃなかったorzごめん、ピピローグだわw
序って書いてあるのにここで誤字とは面目ない
486名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 16:49:56 ID:q7D0LFFw
ピピロ……だと……?
487 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/15(月) 16:50:21 ID:aBgQQhm5
さて、短いですが投下します
488 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/15(月) 16:51:09 ID:aBgQQhm5
 自然の残る広葉樹林の中にある妖精達の集う屋敷で、ジョン・スミスはくつ
ろいでいた。
 いつものように大きな外套に身を包み、のんびりと紅茶を飲む。
 その後ろには何か楽しそうに、絹の衣を纏ったブラウンの髪の女性が控えて
いる。もしかしたら、誰かのために働くことが楽しいのかもしれない。
 そして、ジョン・スミスの座るふかふかのソファの前にあるテーブルには、
ムリアンが一人適当に踊っていたり。
「あー……ここは安らぐなぁ」
 大きく息をつき、ジョン・スミスは目を伏せる。
 少々トラブルに遭い、昨日砂漠を踏破したところなので疲れているのだろう。
 紅茶を飲み干すとゆっくりとソファの背に体重を預け、ジョン・スミスはも
う一度大きく息をついた。
「シルキーのお嬢さん。客間は開いてるかね?」
「はい。でも、客間で何をされるんですか?」
「寝るのさ。少々疲れた」
「でしたら、客間ではなく主人の寝室でお眠りください。今は、貴方がこの屋
敷の当主ですので」
「まぁ、そういうことなら」
 微笑むシルキーに促されるまま、ジョン・スミスは立ち上がる。その前に、
テーブルで踊っているムリアンを回収するのは忘れない。
 ジョン・スミスは寝室の場所を知らないので、シルキーをチラリと見やる。
するとシルキーはジョン・スミスの意図を読み取ったのか、一つ頷いて先導す
るように先に歩き出した。
 何が嬉しいのか笑顔で歩いていくシルキーをジョン・スミスがなんとなく眺
めていると、肩にしがみついているムリアンがニコリと笑う。
「シルキーはねー、新しいご主人様が出来て嬉しいんだよー。お屋敷でお手伝
いしたり、いたずらするのがお仕事だからねー」
「そうかい。喜んでもらえているなら、こちらも嬉しいものだ」
「ちなみにスプリガンもアレで喜んでるよ? お仕事にやりがいが出たーって」
「そ、そうだったのか。今日も切りかかられたんだが、ありゃ感謝の印か?」
「あれはいたずらだよ?」
「俺以外が来ない屋敷でよかったよ。見えない何かに切られて死んだ、なんて
帝国の査察官が来かねない」
 引きつった笑みを浮かべ、ジョン・スミスは嘆息した。妖精によってはいた
ずらのレベルが随分と違うようだ。
 なんとなく疲労の度合いが増した体を引きずり、シルキーの背中についてい
く。どうもシルキーは浮かれているようで、ジョン・スミス達の様子には気付
いていないようだ。
 すれ違ったブラウニーに挨拶をしながら、ジョン・スミス達は驚異的に広い
屋敷を歩く。
 由緒正しいという役人の言葉を証明するかのように、大きく調度品も質素で
はあるが極めて高価な品が多い。なぜ、そんなものが残っているのかは疑問だ
が。
 と、ジョン・スミスが歩きながら調度品を観察していると、シルキーがある
一つの扉の前で立ち止まった。
489 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/15(月) 16:52:48 ID:aBgQQhm5
「ここが、当主の寝室です。お入りください」
「ああ、そうさせてもらおう」
 シルキーがあけた扉の中に入り、ジョン・スミスは驚きに目を見開いた。
 ここを使う者など数十年はいなかったであろうに、綺麗に掃除され、色々な
ものが磨き上げられている。
 埃など、一つとして落ちていない。数年間継続してしっかりと掃除と管理を
していなければ、これほどの状態は考えられない。
「これは、凄い。手間ではなかったのかね?」
「いいえ。いつか新しい主人を迎えるときのために準備していただけです。前
の当主……ソフィア様のご意向でもありまして」
「ソフィア……ああ、あの女性侯爵か。美しい人だったな。老いても若き日の
眼光を失わない、女傑でもあったか。色々と世話になったものだ」
 古い記憶を辿るように、ジョン・スミスは遠い目をしてあごを撫でる。
 何を思い出しているのか。随分と穏やかな顔をして、うんうんと頷く。
 そして、最後に一つ大きく頷くと、ベッドまで歩いていきごろりと寝転ぶ。
「あの、お召し物を脱がれたほうが」
「これは脱げないのさ。それに、これは汚れたりはしていないよ」
「はぁ、どういうことでしょう」
「これは古い友なのさ。古い古い友が、その身を変えたのがこの外套でね」
 いとおしむように外套の表面を撫で、ジョン・スミスはポツリポツリと語り
始める。
「昔、北の方にある山脈に、一頭の古代龍が住んでいたことを知っているかね?」
「はい。でも、それは御伽噺の類では?」
「さぁね。俺は、その古代龍と友達だったのさ。いや、むしろ弟子かな。色々
と教わったもんだ」
 懐かしそうな目をしながら、ジョン・スミスはふかふかのベッドで飛び跳ね
ているムリアンをツンとつつく。ムリアンはつつかれたため顔からベッドに倒
れ込むが、逆にそれが面白かったらしく今度は自分で顔から飛び込む。
 ぴょんぴょんと跳ねて楽しんでいるムリアンを見て、ジョン・スミスは知ら
ず微笑んでいた。
「で、彼が死ぬときに、最後の力で自分の体を全てこれに変えたのさ。老いて
、そして死に際とは言え流石に古き龍だ。汚れはほっとけば消えるし、俺は今
までこの外套に傷が付いたところさえ見た事がない。何度これに命を助けられ
たかも分からんぐらいに救われてるしな」
「良い方だったのですね」
「ああ。まぁ、最後の話し相手兼遊び相手になった礼だとか言ってたか。何百
年も話し相手がいなくて寂しかったらしい」
 龍のクセにな、と苦笑し、ジョン・スミスは目を伏せる。
 よほど疲れているのか、目を開けていることも億劫なようだ。
 それを見て、シルキーは引き際を察する。これ以上話を続けるのは迷惑だと
思ったのだろう。
 一度礼をして、シルキーは出て行く。
 後に残ったのはもう深い眠りに落ちてしまったジョン・スミスと、そして釣
られて一緒に寝てしまったムリアンだけ。
 普段のように気を張りっ放しの浅い眠りではなく、今日だけは何の警戒も要
らない深い眠りのなかで休むジョン・スミスだった。
490名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 16:53:01 ID:EnpYOHZY
つプロローグ

自伝の形式と言うのが新鮮で、面白かったです。描写が丁寧で情景が目に浮かぶようでした。
GJ!
491 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/15(月) 16:55:52 ID:aBgQQhm5
投下終了です。
492名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 16:59:04 ID:D3P9IbH0
>>485
ちょwwwピピローグふいたwww
エピローグじゃないの?

あと、後書きの『巧みに〜』は『ちなみに〜』 だと思う。
つかぬことを聞くけど、『非凡の身』という誤字をしたことない?


>>491
投下乙です。
493 ◆H.jmM7uYLQ :2008/09/15(月) 17:02:54 ID:FyxkbQx0
>>490>>492
あープロローグだ……orz度々ごめんなさい&感想有難うございます
非凡の身という誤字をした事はないのですが、巧み〜ではなくて、ちなみに〜の方が文章として合ってますね
こちらも合わせてごめんなさい
494 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/15(月) 17:13:30 ID:aBgQQhm5
>>493
投下乙です。



忘れてましたが、>>488-489は単純にコートが無闇に頑丈だというだけです。
頑丈で汚れが勝手に落ちる、以外には特に能力などはないのであしからず。
495名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 17:32:20 ID:EnpYOHZY
うおお、リロードしわすれてたorz

>>491
ジョン・スミスの休日って感じで面白かったです。GJ!
496名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 22:32:17 ID:fu5K0Js9
なんとなく全話感想したくなった。SSじゃなくてごめんね。
作品数多くてまだ全話じゃないけど。基本3行で。
色々な意味でもう一回ごめんと言っておきます。

>>85-86
ジョンスミス初登場。
酒場の雰囲気がいいな。
助けられた少女の再登場ははたしてあるのか?!

>>94
すごい。宇宙すごい。悪がきを魅了するほどすごい。
異人種たくさん、国もたくさん。
蒸気の町で頑張れ悪がき!

>>95
人が飛ぶ、空を飛ぶ、あれはだれだ。だれだ、だれだー。
ジョン・スミスだー。
男ははたしてスミスに会えたのでしょうか。

>>108
カーン、カーン、カーン。物悲しい音が響いてます。
少年は跳ぶのではなく飛ぶ夢を見た。
彼の夢は実現するのでしょうか。

>>114
空にカエルが初登場。
オブジェとして非常に優秀です。びっくりです。
しかしこの拝んだ男は健康になったのでしょうか。

>>116
ロボットは男のろまん。いや、女性でしたか。
ロボ太くんは再登場があるのか。
むしろ生きているのか。心配です。

>>118
ああ、女性二人がなんてことを。
宿題はちゃんとやりましょう。本当に。
ケロちゃんにお願いしてもその願いは届くのでしょか。

>>119-120
ゴーダ君とクリスチーヌちゃん初登場。
この二人の話はのんびりしています。
何と言うか、その空気が好きな作品です。

>>127
耳長族初登場
この男性もはたして再登場するのでしょうか。
私が気付かないだけでどこかで登場しているのかもしれません。料理の材料とか

>>129
船が空を行く。あの船はなんだろう。
あれはただの自然現象か、それとも災厄をもたらす前兆か。
この父親ははたして大丈夫なのか。心配です。
497名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 22:35:12 ID:fu5K0Js9
>>131
電波少女が一人行く。
警察官は呆れて見逃した。
星が見れない”外”にでれない。彼女たちはどこの住人なのでしょうか。

>>136-140
スチームパンク! スチームパンク!
圧倒的な質感をもって蒸気機関車は走っていく。
この男性ははたして生きて辿り着けるのか。

>>145
ゴーダ君とクリスチーヌちゃん。あいかわらずマイペースです。
今頃、クリスチーヌが美少女設定であることに気付きました。
私の脳内では始めからハーマイオニーに変換されていたので無問題でした。

>>146
ゴー! ゴー! 僕らのロボット。センチネル!
ロボットは男のろまんです。
搭乗者が女の子だと倍率ドン入ります。

>>160
どうやら遺跡があるようです。
博士とマイルズ君は生きて遺跡から出られるのでしょうか。
ちょっとだけ心配です。

>>161
プロペラ機に乗って謎の塔に突っ込んだ。
ああ、二人の男女の安否はいかに。
子供心を忘れないのはいいことです。

>>162
領境付近には長耳族の集落がある。
しかしパクス皇帝属州はどこらへんに位置するのでしょうか
アルゴンさん。きっと胃薬常備しているのでしょうね。

>>163-165
空賊がやってきた!
このシェアにおいてかなり重要度を持つと思われる単語です。
今回の空賊はかなりのへっぽこ。でも他の空賊はどうなのでしょう。

>>167
ゴーダ少年の冒険開始!
終了。
16歳の車掌、就労年齢はどれくらいが普通なのだろうか

>>170
空飛ぶ城を追う二人
彼らの冒険に期待。
・・・していい?

>>191
ついに空飛ぶ物体の内部が現れた
この二人は何をするのか。
静かに不気味に動き出す。
498名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 22:36:50 ID:fu5K0Js9
>>232
魔法薬が登場。
カエルの置物は薬屋の看板で固定か?
後アリスとか長命種とかオルカとか?

>>263
ジョンさん再登場
いきなり機関車に乗っているなんて卑怯です。(何が?)
ひそかにゴーダ君褒められたようです。

>>269
いきなり宇宙へ!
この時代は現在主流の時代の過去か未来か。
もしくは全く別世界?

>>297-299
蜘蛛型巨大ロボ登場!
操るは渋い親父たち(脳内保管)
彼らは何を思い、戦うのか。

>>300
一転してほのぼの。ほのぼの(大事なことなので二回rya)
ああ、この二人の会話は和むなぁ
・・・あれ? こればっかりしか言ってない希ガス。

>>305-306
魔法使いのお婆さん
と、思ったら青年でした!
絨毯をただで買った青年の旅はどうなるのか?

>>307
船を追う少女。
彼女の行く先には色々な人との出会いが待っている。
旅の果てで彼女は船にのれるのか?

>>316-319
ドクター・ノース! ドクター・ノース!
私は君のような博士を待っていた!・・・あ、あとデルタさんもね。
古代文明レベルの自動人形はとんでもないレベルだったんだろうな。


体力の限界が来たのでとりあえずここまで。
続きは次の機会に。邪魔だったら辞めます。
499名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 00:57:53 ID:TXGNoh8K
感想乙。
邪魔じゃないと思うよ。感想もらって嬉しくない書き手さんはいないだろうし。
500 ◆H.jmM7uYLQ :2008/09/16(火) 07:43:56 ID:oHVTOZzc
ども、前回の続きを投下します
501THE・Golden Spider ◆H.jmM7uYLQ :2008/09/16(火) 07:46:07 ID:oHVTOZzc
1

「……一体私達を何処に連れて行くかなのかね、君たちは」
傍には右足に包帯を巻かれて、苦しそうに唸るマキナ君が横たわっている。周りには、銃を持った軍服の…・・・あの女の部下であろう兵隊達
そして正面には、じっと私達を見張る正体不明の軍服の女だ。猫の様に目が釣っている女の目力に、私は目を合わせられない

あの現場から私達が何処に連れて行かれたかというと、正直私達にも分からない
気づけば私達はこの虚無的な空間、というかだだっ広い格納庫の様な場所につれて来られていた。おまけに複数の見張りつきと来た
後頭部を探ると、ぽこっと瘤が出来ているのがわかる。どうやら目の前の猫目に、銃床で殴られたようだ
それにしても、ここまで非道な行いをしてまで私達を誘拐したい彼奴等の狙いはなんのだろうか。穏やかな願いではないだろう

一つ気づいた事は、私達、及び彼奴らは今、空を飛んでいるという事だ
何故そう言えるのかというと、私の耳に先ほどから度々、蒸気による凄ましい放出音が聞こえる。耳をつんざくようなこの音・・・・・・
これだけの音の大きさから察するに、膨大なエネルギーを食らう乗り物だと分かる。蒸気機関車と蒸気飛行船だ
だが周囲の様子から分かるように、間違ってもここは機関車の車内とは思えない。つまり私達が今いる場所は……蒸気飛行船の中というわけだ

それにもう一つ、一番気になる事は目の前のネコ目と、そのお仲間の素性だ。一見するとテロリストのようだが、どうも趣が違う
冷静になった頭で思い出したのだが、彼彼女らが着ている軍服はエルポネ軍の軍服であることだ
エルポネ軍の事を詳しく話せばこの自伝書のページ数を10倍増やさなければいけないので泣く泣く割愛するが、分かりやすく言えば私達の国を守っている軍隊だ
ほんとに簡素な説明で申し訳ないが、科学者以前に一介の一般人である私にはこれ以上の説明は出来ないのだ

と、言い訳はさて置き、正規軍の服装をしている彼彼女らは本当にただのテロリストなのだろうか
まさかと思うが、クーデターでも企んでいるのか? それにしても……本当に何故私が拉致されるのか
この時点で私は何も知らなかったのだ。まさかあんな理由でこんな大事に巻き込まれるとはね……
あ、この時点ではまだばらさないから安心してくれ。途中で分かってしまうかもしれないが、そこはま、ニヤニヤしてくれ

何時間経っただろうか、あるいはこの状況下のせいで時間が長く感じるのか、私はうつらうつらとしていた
その時だ、野太い男の怒声が
「おい! 基地に着いたぞ! さっさと起きろ!」
と耳元で聞こえた為、無理やり目を覚まされた。私がハッとすると、数人の兵隊達と猫目が私を見下げている
502THE・Golden Spider ◆H.jmM7uYLQ :2008/09/16(火) 07:47:05 ID:oHVTOZzc
「空の旅はいかがでしたか? と言っても外の景色は見れなかったでしょうけど」
猫目がそう言って嘲笑すると、兵隊達が下卑た笑いで続いた。さっと、二人の兵士が私の前に躍り出る
その内の一人が、呻いているマキナ君を起こして背負い、もう一人が私の肩を掴もうとした。拒否すれば無理やり立たされて歩かされるだろう

「・・・・・・触らないでくれ。自分で歩くよ」
触られる前に私は立ち上がった。猫目が一瞬驚いた表情をしたようだが、多分気のせいだ
「分かりました。では行きましょう。将軍がお待ちです」
猫目がそう言って私に背を向けると、どこかに歩き出した。いや、昇降口か。兵隊達もぞろぞろと猫目についていく
マキナ君を背負った兵士の後に続いて、私も飛行船のタラップを下って、例の目的地へと降り立った

基……地……? 私は目の前の光景に、目をこすってもう一度見てみる。私の目に狂いが……
信じられん。私の目前には、戦闘機や戦車が駐在している基地でも、兵隊達が銃を持ち門構えしている基地でもない
私の開発したボッコロッツが、辺りで工事に勤しんでいる。しかも乗っているのは私達を連れてきた兵隊達だ
兵士がボッコロッツに乗っている様子は……と、この不可思議な面白さを伝えるのは難しいので省略する

ともかく、私が連れてこられた基地は、基地というよりもまるで遺跡のようだった。それも未開拓の
巨大な屋根がドーム状になっており、所々支柱が剥き出しになっている。絡まっているツタがなんとも哀愁を誘う
何百年と経ったのか、老朽化した基地と呼ばれる建物は、壁面一帯が茶色く変色しており、今にも倒壊しそうだった
と、妙に鼻に突く潮の匂い……まさかと思い、私は振り向いて、背後で叫ぶ兵隊の制止を無視して、着艦している飛行船を突っ切る
何メートルほど走っただろうか。ふと目の前の景色に目を移す。やはり……な

私の予想通り、そこは広大な海が広がっており、私の数メートル先には断崖が待ち構えていた
ここは島だ。孤島なのかそれとも違うのかは今は分からない。けど明らかになった事はある
この島には何かある。そして、私の目の前にそびえ立つ、あの遺跡……かも知れない建物。あそこに、彼奴らの目的がある

「余計な事をすると命を落としますよ?」
銃を構える鈍い音が、私のすぐ背後で聞こえた。私がゆっくりと振り返ると、拳銃を構えた猫目が厳しい顔つきで立っていた
「いやいや申し訳ない……どうも職業柄、好奇心には勝てないもので」
両手を挙げて、私は抵抗する意思が無い事をジェスチャーで伝える。猫目は厳しい顔つきをしながらも、銃を腰のホルスターに閉まった

「今後は勝手なマネをしない様お願いします。それではついて来て下さい」
ぷいっと、猫目が振り向いてすたすたと歩き出した。なかなか良い……いかんいかん
私は煩悩を捨て、あくまで非力な科学者、もとい一般人として、すごすごと猫目の後を追う
つくづく、ここがテロリストどものアジトだとは思えん。さながら町の騒がしい工事現場、もとい建築現場のようだ

後ろに4人ほどの兵士が私の後ろに隊を作っている。今度ばかりは勝手な行動は出来なそうだ
私達が通るたびに、作業を止めて敬礼する兵士が妙に可笑しい。が、笑うと流石にまずいので無表情を装う
何処まで歩いたであろうか、建物に入った私達は、いつの間にか大広間に出てきた。その大広間に私を目をひん剥いた

まるで大聖堂の如き厳粛な雰囲気だ。真正面の聖母が描かれた巨大なスタンドガラスの迫力に心で笑う
しかし謎だ。この建物は教会なのか? にしても大きすぎるし、何故この島に教会が建っているのだろう。……もしやこの教会は
「それでは参りましょう。博士、その場から動かないでください」
猫目の声で、一端考え事を止める。何故か私の後ろにいた兵士達が、中央に集まっている

「デュハシア・パルティルラ」
猫目がそう唱えた瞬間、突如地面を揺さぶるような轟音が鳴り響いた。じ、地震か!? と思ったが違う
私は足元を見た。動いている……! 気づけば円形の不思議な模様が描かれた地面が下へと動いているのだ
「昇降機……なのか」

例の基地は驚くべき事に地下に存在するらしい。だがそれだけではない。その時の私はまだ知らなかった
本当の驚愕は、その基地の全貌にある事を
503 ◆H.jmM7uYLQ :2008/09/16(火) 07:50:44 ID:oHVTOZzc
投下終了です。ふーむ難しい
504名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 08:33:38 ID:uHfwsopX
投下乙
だけど何か思い入れがあるならいいけど、文末には。をつけよう
505 ◆p1FpJ5dSKk :2008/09/16(火) 11:27:12 ID:vOVa/PfJ
>>470
>依然として単語がmainウィンドウに表示されないバグは修正出来ず。
cgiではなく、htmlのテンプレートファイルにミスがあるようです。
索引テンプレート「tdtidx.htm」の46行目から

</HEAD>
<BODY CLASS="idx">
<BASE TARGET="main">

となっていますが<base>タグを<body>〜</body>内に書くのは間違いです。
以下のように修正してみて下さい。

<BASE TARGET="main">
</HEAD>
<BODY CLASS="idx">
506名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 11:37:14 ID:kypEzT5c
>>505
感謝感激。早速直したよ。自宅のPCでは以前から正しく表示されてたので、バグってた人はちょっと試してみてくれ。
507 ◆p1FpJ5dSKk :2008/09/16(火) 12:08:51 ID:vOVa/PfJ
今、IE7で確認したところ直っていません。ちょっと勘違いしていたようです。
サーバーに「tdolid.html」というファイルがあると思います。
その46行目に先ほどと同じ部分があると思いますので、それを修正してみて下さい。
508名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 12:27:12 ID:kypEzT5c
修正完了。たぶん直ってる。
509 ◆p1FpJ5dSKk :2008/09/16(火) 12:35:43 ID:vOVa/PfJ
 今IE7で見たところ全部直っています。流石ですね。
 至らないところがあって申し訳ない。
510名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 16:17:06 ID:kdjw7z6R
全然意味がわからない会話だ
こういうのテキパキできる人凄いな
511てのひらを太陽に ◆meXrLVezBU :2008/09/16(火) 19:55:48 ID:KAwKbo2K
投下行きます。
512てのひらを太陽に ◆meXrLVezBU :2008/09/16(火) 19:56:59 ID:KAwKbo2K
1/

 停まっていた機関車はゆっくりと動き出した。マルエッソには30分だけの滞在だった
けれど、ビーンズスープの味はきっと忘れる事はないだろう――と、僕はお喋りに夢中に
なっていてビーンズスープを食べ切ってない事に気がついた。さっきまでは熱々だったのに
今では温くなってしまっている。豆のほくほく感は薄れてしまったけれど、辛さが薄れて
いるような気がした。
「ゴーダはビーンズスープをそのままで食べれるんだ。おいらは無理だなー」
「あら、ジャンはビーンズスープをどう食べるんですの?興味ありますわ」
 クリスチーヌはジャンバチスタの事を馴れ馴れしくジャンなんて呼んでいる。彼は
満更でもないふうで、にこやかに言葉を紡ぎはじめた。
「出来立てのビーンズスープって熱いじゃん? おいらは猫舌だから熱いのは食べられ
ないんだよ。だからさ、牛乳で割ってやるのさ。辛さが和らいでまろやかになるからオススメだよ」
「そうなんですの。今度機会があったら試してみようかしら。ね、ゴーダ」
 僕はそうだねと同意し、ビーンズスープを流し込んだ。クリスチーヌからからの紙コップを
受け取り、三等客席と四等客席の間にあるごみ箱へ捨てに行くために席を離れた。
 クリスチーヌは人見知りをする事がなく、誰とも社交的に話が出来る。ジャンバチスタも
あのお喋りクリスチーヌに戸惑う事なく話を合わせている。僕はというと二人のように
上手く話す事が出来ない。田舎者だし、人生経験だって積んではいないし。
 こんなんでアカデミーで上手くやって行けるのだろうか?突拍子もなく不安になってしまう。
 ――そんなのごみ箱に捨ててしまえればいいのに。
 僕は力任せに紙コップをごみ箱に投げ捨てた。ちょっぴり胸が軽くなったような気がした。

 席に戻ると、相変わらずクリスチーヌはジャンバチスタに話し掛けていた。僕は所在
なさ気に二人に視線を走らせているスウィフトさんに話し掛ける事にした。旅は道連れ
世は情け。アカデミーの事やゴールドバーグの事を色々聞いてみよう。
「スウィフトさんの名刺にあった実用錬金術って言うのは具体的にどういう事を
研究しているんですか?」
「具体的に……かい?簡単に言ってしまうと日常生活に役立つ錬金術なんだかな……」
 スウィストさんは後頭部を無造作にがしがしと掻きむしった。
513てのひらを太陽に ◆meXrLVezBU :2008/09/16(火) 19:57:55 ID:KAwKbo2K
2/

「簡単な錬金術の説明をしようか。まずは素材を集める。安価な物は買い求めるが、
基本的には採取だな。森や山、湖や海、必要に応じては砂漠や火山に行ったりもする。
素材が見付からなければ何日もキャンプをする事になる――というよりも、キャンプをしながら素材を探すと言うのが正解だろう。
採取した素材は工房へと持ち帰り精製をする。素材はそのままでは錬金術の材料には
使えないのでな。そして、調合だ。調合したものを錬金釜に放り込み加工する。此処までは
大丈夫かい?」
 スウィストさんは僕の目を覗きこんでくる。深い茶色の瞳が爛々と輝いている。僕が
小さく頷くと、スウィストさんは言葉を続けた。
「実用錬金術は金錬成や学術錬金術のような研究とは違い、実践第一だ。技術を磨き
日常で使える錬金術を学ぶ。そんなところだな」
「日常で使える錬金術……ですか?」
「ああ。薬やら衣服やら武器やらなんでも造る。依頼があれば爆薬だって造ったりもする。」
 スウィストさんの言葉はちょっと難しくて判らないところもあったけれど、何となく
判ったような気がした。スウィストさんはそんな僕の顔を見て、僕の頭を撫でてきた。
 スウィストさんの大きくて温かくてごつごつとした手の感触は何だか優しかった。
「おいらは研究科になったらおじさんの下で学ぶんだ。おじさんはおいらの憧れなんだ!」
 ジャンバチスタが話に割り込んできた。人懐こい笑顔を浮かべている。

 アカデミーには予科・本科・研究科・専科がある。予科で一年間自然科学やら文献の
読み方を学び、本科で一年間基礎的な錬金術をみっちり勉強する。研究科からは専攻分野別に
研究を進めて行くんだ。研究科は人それぞれ違うけれど、大体四年。この時点で卒業する
人もいるし、研究科に残る人もいる。残る人の事を専科って言うんだ。
「そういうのって素敵だわねえ。憧れに向かって頑張るのってとってもロマンティックよ!
私、ジャンの事を応援せずにはいられなくてよ。だって余りにも素敵なんですもの!
私は予科本科で視野を広げてからどの研究をするのか決めようと思っていますわ」
 クリスチーヌは小鳥がさえずるようにいつもより高い声でジャンバチスタに話しかけた。
ジャンバチスタはクリスチーヌのハイテンションにびっくりしているようで、張り付いた笑顔を浮かべるもクリスチーヌの勢いに押されまくっていた。
514てのひらを太陽に ◆meXrLVezBU :2008/09/16(火) 19:58:54 ID:KAwKbo2K
3/

「そうそう、ゴーダとクリスチーヌは何を専攻するのか決めてあるのかい?」
「私は予科と本科で色々な事を学んで視野を広げてから決めようと思っていてよ。
でも、どうしましょう! ジャンの話を聞いていたら実用錬金術に興味を持ってしまったわ。
ジャン、あなたったら本当に罪な人ね! 私をこんなにも惑わせるんですもの」
 クリスチーヌは胸の前で手を組んだり、頬に手を添えたり、髪をかきあげたりと大忙しだ。
ジャンバチスタ相手に日頃の練習の成果を出しまくっている。
 当のジャンバチスタは困惑したかのように愛想笑いを浮かべ、ポケットから取り出した
ハンカチでおでこを拭いていた。
「ゴーダ君はどうなんだい?君は何の為にアカデミーに行くのかな?」
 スウィフトさんが話に入って来た。
「ええと、僕は、あの、その……」
 どうしようか。「空を飛ぶ研究をしたいから」って素直に言ってしまっていいもの
だろうか。そんな世迷い言を言ったら、折角友達になったジャンバチスタに笑われないだ
ろうか。けれど、友達には嘘は付きたくないよ……
 ぱしーん!
 口ごもってしまった僕を見兼ねたのか、スウィフトさんは僕の肩を勢いよく叩いた。
「時間はまだ沢山ある。ゆっくりと自分のペースで考えたまえ。だが、目標がないまま
周りに流されて、研究の為の研究をしてはいかんぞ。君はまだ若い。ジャンバチスタも
クリスチーヌちゃんもだ。自分の可能性を限定せずにアカデミー生活を楽しんでくれ!」
 スウィフトさんに肩を叩かれて痛かったけれど、優しい温かみを感じたような気がした。
僕が曖昧な笑みを浮かべて頷くと、スウィフトは嬉しそうにたてがみ(顎のしただからあごひげ?)を撫でていた。

「見ろよ、ゴーダ! あれがゴールドバーグだぜ!」
  ジャンバチスタの声に、僕とクリスチーヌは窓の外を見た。
 薄く霧がかかったその向こうに、沢山の大きくて黒い建物が見える。
 蒸気機関と錬金術の街――ゴールドバーグ。存在を蒸気に包んだミステリアスな街が
僕達を待っている。僕はそこで何が出来るんだろう? 何をするんだろう?
 ジャンバチスタが窓を開けた。ひんやりとした風が通り抜けて行く。
 僕はじっとゴールドバーグの街並みを見詰めていた。
515てのひらを太陽に ◆meXrLVezBU :2008/09/16(火) 20:03:55 ID:KAwKbo2K
投下終了です。

まとめサイトの方、辞典サイトの方いつもありがとうございます。
自分は携帯からなので、編集等が上手くできなくて、本当に申し訳ないです。
また、色々と感想をありがとうございます。
では失礼しました。
516名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 20:22:11 ID:kypEzT5c
投下乙。
ちなみに1ダガー(ビーンズスープ1杯300ダガー)って、円に換算するとどれくらいの価値って考えてる?

それと定期age
517名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 20:29:02 ID:KAwKbo2K
>>516
1ダガー=一円だったら判りやすいんじゃないかなあと思いながら書いてました。
ゴーダ達の食べたビーンズスープは屋台のものなので安かったんじゃないかなあ。

すみません。余り考えてませんでした。百ダガーが銅貨なのは言葉の響きからです。
ごめんなさい。
518名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 20:31:11 ID:kypEzT5c
>>517
いやいや、そういうのが聞きたかっただけだから、謝らないで。
頭の中でぼんやりでも決まってるものは全部出しておいた方が、後々それに乗る人も参考に出来るし。
続き楽しみにしてるぜ。
519名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 20:40:50 ID:mrHrZovR
まず豆スープの物価から設定しなおさないといけないと思うんだ
豆以上にいいもの食ってるところだと、豆を取り寄せるのに逆に費用がかかって高値になるし
520名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 20:58:15 ID:KAwKbo2K
>>519
やはり、きっちりと原価を計算してから値段を設定し直した方がいいでしょうか?
適当に値段を付けては駄目なのですね。失礼致しました。
521名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 21:02:36 ID:uC/qqDq5
>>519
マルエッソはもともと交易都市って設定だし、他の町よりも安価で手に入ってもいいんじゃない?
522名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 21:02:39 ID:mrHrZovR
>>520
いや、最終的には感覚で適当にってなるんだけどさ
豆が手に入りやすいとか、土地の生活水準とか、大雑把に捉えておくのがいいと思うんだ
何しろ銅貨って最小単位じゃない
かけそば一杯6銭って水準の方が似合ってると思うのよ
523名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 21:10:35 ID:69FfQ7V8
>>522
そりゃただ単にお前の趣味だろ? かけそば一杯6銭とか
そういう所にケチ付け出したらキリがねーよ
グダグダ抜かすなら豆スープ一杯300円から地域の経済、流通事情等逆算して設定してSSにして見せて

>>520
気にしちゃだめ
524523:2008/09/16(火) 21:14:26 ID:69FfQ7V8
ぬぬ。読み返したら滅茶苦茶カドのある書きかたになってる

ゴメン。送信前に読み直すべきだった

銅貨の価値が高すぎると思うんであれば、その下の鉄貨とか、もっと小さい単位を作ればいいのでない?
あんまりそういう卑金属製の貨幣って聞いたことないけど、ないこともなかったはず
525名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 22:09:40 ID:VZpLQxat
「銅貨」の下だったら「質の悪い銅貨」とかになるんじゃない?
526名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 22:26:42 ID:uyldT/gG
中央銀貨→銀貨→銅貨→鉄片(金属の片に印を押した物、粗悪品が多いので中央では取引不可、辺境のみ)

とかは?100揃って次の単位の1の価値相当って感じで
527名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 23:28:48 ID:w860GNDJ
大丈夫そうなので、全話感想続きます。


>>323-324
ゴーダ少年は空を駆け回る夢を持っている。
それはこの時代において夢物語か実現可能な目標なのか。
クリスチーヌ・・・のは夢で終わりそうだなぁ。

>>329-331
荒事沢山、異種族沢山。黒翼族、長耳族、灰色狼、人間族。
・・・あれ。最後のは異種族違うか。
第37番鉄道警備隊は今日も逝く。蒸気鉄道を守るため!

>>335-336
過去の話か今どこかで起こった話か、それともこれから起こる話か。
"上"は中々えげつない。はたしてこの"船"の存在がどう影響してくるのか。
結構気になります。

>>352-353
チェ、チェイニーーーーー!!
知りすぎるということは時に不幸を呼ぶものです。
ちなみに第37番鉄道警備隊のチェイニーとは関係なさそうです。・・・本人だったらどうしよう。

>>366-368
その知恵と体力と魔法薬を武器に戦う探偵登場!
カイゼル髭の男も大概人外な動きしています。
この二人の決着は着くのか。要注目です。

>>372
ついにタイトルが付きました。ゴーダ君はてのひらを太陽に・・・どうするつもりなんでしょうか。
マルエッソの町は欧風ではなく中東系っぽい感じみたいですね。
ここでは色々な人の出会いや別れがありそうです。

>>375-377
帝都の銃はずいぶんと高性能そうですな。結構技術に偏りがありそうです。
そして第37番鉄道警備隊は無事突入。
逃げて―! 強盗団さんたち 逃げてー!

>>381
ジョン・スミスは"ようじょ"の心をゲットした!
魔法はずいぶんと便利そう。
密かにオヤジがいい味出してます。

>>385-387
なぞの男、でた。
魔法薬もあちらこちらで使われ始めたようだ。
はたしてこれからどうなるか

>>389-390
雲上艇に密航者
ネツェーユの地とは何か? その少年と男の出会いは何ももたらすのか
期待が高まります。

>>393
腹へった。第一感想がこれというのも変ですが。
300ダガーのビーンズスープには夢と希望が詰まってる。
ついでにクリスチーヌのご機嫌も詰まってるようです。
528名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 23:31:04 ID:w860GNDJ
>>396-397
密航奴隷幼女の爆誕だと! 馬鹿な! ここは一般板だぞ!
冗談はここまでにして、金貨で賭けとは中々難しい。
はたして、出るのは裏表? 私はどっちに勝って欲しいのか・・・うむ、密航奴隷幼女か・・・

>>405>>413-414
センチネルが駆ける。少女を乗せて。
しかし蒸気機関車と同程度の速度で走るとは中々やりますセンチネル。
少女の顔が変になってないか、実は心配です。

>>410-412
ピリピリとした雰囲気が伝わってくるようです。
ネツェーユの『喪われた王家』、聞けば聞くほどひどい話。
そしてついにコインの覆いは持ち上げられる。

>>418-420
謎の男はバンディットだった。
ついでに巨大生物も登場・・・退場
バンディットと聞くと別スレのあの方を思い出してしまいます。

>>422
さぁ、歴史のお勉強の時間です。
先生、僕には理解できません!・・・ごめん、冗談です。
これである程度整理されたのかな?

>>426-428
ドクター・ノース再登場! この人、やはりすごい人だったんですねー
魔法薬に続き魔法具も登場。魔法関係の情報がだいぶ揃って来た感じです。
空賊もいいですね。この空賊はまともです。

>>431-433
第37番鉄道警備隊無双の始まりだ!
がんばれチェイニー。強いぞガラティーン!
そして現れた飛空挺。どうなる第37番鉄道警備隊

>>438-442
いやー。この世界妖精もいたんですね。
ジョン・スミスは一体全体何者なんだ?
謎が深まるばかりです。

>>446
コインは表でも裏でもありませんでした。
しかしそれを読んでいた少女も見事の一言です。
しかし、この少女訳ありっぽいですな。・・・ジョンさんなんで隠れてるんですか?

>>450-453
笑い過ぎである。何がそんなに面白かったのか
オルカが怒るのも当然でしょう。
しかしこのアリス、ノリノリである。

>>455-457
船にとらわれたシロ
クロは今、何を思っているのか。そもそも今、生きているのか。
話を聞いていた"僕"が鍵なのかもしれません。

>>461-464
腹減った。ああ腹減った。腹減った。ビーンズスープ作るかな・・・。
猫さんとライオンさんが登場。
異種族との交流は特に問題ない世界であることがよく分かります。
529名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 23:36:10 ID:w860GNDJ
>>467
やはりカエルの置物は薬屋の証でした。
しかしこのおやじ、渋すぎである。
こういうおやじは大好物です。

>>472-473
帝都の謎の組織登場。こういうギミックは使いやすそうです。
報告に来た男はチェイニーを殺した男なのか?
"上"と帝国の関係も複雑なようです。

>>479-481
自伝を書く男。登場。
ロボはいいねぇ。心が癒されます。
それにしてもマキナ君、可哀そうです。

>>488-489
ジョン・スミスの休日。
人外に好かれるのは彼の魅力のなせる技なのでしょうか。
彼の年齢が何歳か、そしてその彼を君呼ばわりするアリスは何歳か。気になります。

>>501-502
謎の組織があらわれた。かなり規模の大きい組織のようですな。
猫目の女? に博士は萌えているようです。
ここは、生きた遺跡といったところなのかな?

>>512-513
今回はアカデミーの基本的な説明でした。
他の人がこの辺を書くときの参考になると思います。
はたしてゴーダはこの先何を選ぶのでしょうか。



やっと追いついた。というわけで改めて皆様GJです。
以上で全話感想を終わります。
530名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 23:49:08 ID:kypEzT5c
>>529
全話感想乙。簡単な概要を知るのにも良いし、作者にも刺激になるな。
531空の監獄都市 2 ◆IkHZ4B7YCI :2008/09/17(水) 04:04:12 ID:bUEwlMWf
 カサカサっとマヨナカ投下。
(1/3)
           【2】

 樹木や草花の生い茂る広大な植物園が、目の前に広がっていた。

 頭上を仰ぐ。透明な天井越しに降り注ぐ陽の光は、まるで室内に居る事を感じさせない。
 足元を見る。室内を十字状に伸びる通路の上を、カニのような無数の機械が動き回っていた。
「ふむ。興味深い。これは自動人形の亜種かな?」
 ドクター・ノースは空中都市で真っ先に遭遇することになった、どこか愛嬌を感じさせる機械達を見下ろす。
 頭部から目玉のように伸びた二つの配管が植物に水を散布。両手の鋏を伸ばして、通路にはみ出した植物の葉を切り揃える。
 清掃も担当しているのか、僅かに振動する胴体の下が、切り落とされた葉や通路の埃を吸い込んでいるのが見えた。
 おそらく、この植物園の管理だけでなく、都市全体で清掃を任された機体なのだろう。
「ドクター・ノース。サンプルとして数体確保いたしましょうか?」
 足元をちょこまかと動き回るカニのような機械達をじーっと見据えていた侍従デルタが、無表情に小首を傾げた。
「うーん……いや、やはり今の段階では止めておこう。何事も慎重に挑むのが大事だからね」
「そうですか……畏まりましたわ」
 常に変わらぬ無表情に一瞬だけ、どこか残念そうな色が浮かんで消えた。

「扉は四つだったぜ」
 手下たちに周囲を警戒させながら、自らも植物園内の様子を探っていたゲイルがこちらに戻った。
「部屋の形は四角形ってのかね。四方の壁にそれぞれ一つの扉。俺たちが入ってきた扉は勝手に閉まって開かないと来たもんだ」
 都市内部に足を踏み入れると同時、重苦しい音を響かせながら、最初の扉は自動的に閉ざされた。
 堅く閉ざされた背後の扉を指して、ゲイルはノースに尋ねる。
「一応確認しておくが、センセイでもあれを開けるのは無理そうか?」
「む……なにぶん扉の構造状、一方向からしか開かないようになっていたからなぁ」
 炸裂の魔法薬か、信管付きの発破でも仕掛ければどうにかなりそうではある。しかし、まだそんな乱暴な方法を取る段階でもない。
「とりあえず内部を探索して、他に出入り口がないか探すことが先決だと思うね」
「ま、そいつもそうか」
 さして期待していなかったのか、これにあっさりとゲイルも同意する。
「ところでゲイル様。他の扉の様子はどうでした?」
「ああ。空中都市では良くあるタイプ、パネル操作で自動開閉する扉だったぜ」
 脇に置かれたバネルに触れる事で、対象の生体反応を読み込んで自動的に開く扉である。
 このブロックに存在する扉は、先程通ってきたものを抜かしても、まだ他に三つ存在する。
532空の監獄都市 2 ◆IkHZ4B7YCI :2008/09/17(水) 04:06:24 ID:bUEwlMWf
(2/3)
「とりあえずキースの隊はここに残して、ベースキャンプを張って貰うことになりそうだ」
 あまり分断したくないが、必要な措置だと思うんでな。ゲイルがきまり悪げに海賊帽を押さえ、小さく付け足した。
 とりあえず拠点を確保しておくのは探索時の基本だ。ゲイルの判断は何も間違ってはいない。
 そうすると言葉を濁したのは、他に理由があるということになる。
「ふむ。つまり、どの扉を選ぶのか、それが問題だといったところかな?」
「お、さすがセンセイ。話が早いぜ」
 人好きのする笑みを浮かべながら、ゲイルはそれぞれの扉を指先で示す。
「実際問題、特に違いってものがないからな。どの扉空けたもんか、かなり悩ましいぜ?」
 それぞれの扉は設置された場所以外に、これといった差異は見えない。
 どの扉を選ぶのが最良か判断しようにも、検討に使えるような材料が何一つとしてないのが現状だった。
「困りましたわね」
「そうなんだよなぁ。ちなみにセイセイの意見はどうだい?」
「ふむ……とりあえず、ゲイル。最初に選ぶ扉は、貴様が空賊のカンで決めてくれ」
「ん、そんなのでいいのかい、センセイ?」
 意外といった感じで首を捻るゲイルに、ノースは肩を竦めて見せる。
「手がかりが何もない以上、最初が手さぐり状態で始まるのは致しかたあるまい」
「ま、センセイがそれでいいなら、俺も言う事はないさ」

 キース隊をこの植物園に待機させると、ゲイルは残るゾルゲとサージェスの隊を引き連れ、一つの扉に向かう。
 ゲイルが選んだ扉は、最初に通った扉の正面方向にあるものだった。
「それじゃ開けるぜ、センセイ」
「いや、緊張するのはわかるが、別にいちいち我が輩に確認を取る必要はないぞ?」
「ははっ、そいつもそうだな」
 苦笑を浮かべると、ゲイルは一度頬を掻いた後で、扉の脇に設置されたパネルに手を触れる。
 ガコンと歯車の回転するような音が連続して響いた。同時に、室内を僅かな振動が襲う。
「お……開いたな」
 振動は三十秒程続いただろうか。思いのほかあっさりと開いた扉を前に、拍子抜けしたようにゲイルがつぶやく。
「ふむ。施設内の移動には、そこまで強固な防衛機構を設置していないのかもしれんな」
「へぇーそういうことか。でもさ、センセイ。ここって都市とは言っても、確か監獄だったよな?」
「む」
「そこまで簡単に移動できちまっていいのかね?」
 ゲイルが何の気もなく漏らした疑問に、ノースも僅かな引っ掛かりを覚える。
 確かに、監獄にしては、あまりに移動があっさりと行き過ぎたような気もする。
「失礼ながら、いまだここが囚人の拘留エリアではない、ということではないでしょうか?」
「お、そりゃそうか。確かに玄関口から檻の中ってのは有り得ねぇよな」
 こりゃ一本取られたぜ。侍従デルタの指摘を受けて、ゲイルは照れたように笑った。
 移動を開始する一同を尻目に、ノースは眉根を寄せる。彼女の指摘もまるで見当違いということはないだろう。 
 しかし、ドクター・ノースは魚の小骨が喉の奥に刺さったような、何とも言えぬ違和感が沸き上がるのを、どうしても消すことができなかった。
533空の監獄都市 2 ◆IkHZ4B7YCI :2008/09/17(水) 04:09:05 ID:bUEwlMWf
(3/3)

 扉を潜った先のブロックは、どこか事務室じみた空間が広がっていた。

 部屋を四つに区切る縦横に走る十字の通路と、通路から一段低い部分に並ぶ無数の机と椅子。
 机の一つ一つに照明器具と、何らかの情報端末と思しきものが設置されている。
 部屋の形状も先程の植物園と同じようなカクカクした四角形で、部屋を横切る十字通路の行き着く先に、
 それぞれ扉が設置されているのが見えた。

 先程と同じような造りでありながら、一転してどこか無機質な印象を見るものに与える。
 ノースの記憶が似たような場所として、アカデミーのライブラリーを第一候補に上げた。

「センセイ、やっぱりダメだったぜ」
 先程通った扉の脇で、設置されたパネルを部下に弄らせていたゲイルが、お手上げと両手を上げる。
「ふむ。やはり一度通過した扉は開かない、か」
 この都市を外から眺めた時の形状を思い出す。虹色の輝きを宿した、ダイヤのような立方体。
 あの大きさを見る限りでも、内部にはかなり広大な空間が存在することが推測できる。
 そんな場所で、一方向のみにしか移動を許されないとは、何とも底意地の悪い構造と言えた。
「ま、とりあえず難しいことはセンセイに任せて、俺らはお宝お宝と」
 手下の空賊達を引き連れ、ゲイル達が忙しなく周囲の探索を開始する。
「ほぉー。端末の方は一応まだ起動するみたいだな。持ち帰ったらどれくらいで売れるかね?」
「ゲイル様。そのタイプの端末は、ほとんどが都市機能に内部情報を依存しております。おそらく言い値で買い叩かれるのが落ちかと」
「あーやっぱりそうか」

 目ぼしいものはないかと頻りに周囲を動き回る一同を尻目に、ノースは一人考えに沈む。
 おそらく、この都市は外部から独立した形で運営される完全循環型ユニット。
 都市機能を管理する中枢ユニットも、かなり高度な能力を有したものが使用されているはず。
 あとは監獄という要素がどう絡むか次第だが、これまでの各ブロックの形状から見るに、
 都市の構造についてもある程度の予測はついた。しかし、確証を得るには、もう少しサンプルが欲しいところだ。
「ふむ……今は動くしかないか。ゲイル、とりあえずそろそろ次の扉に進むぞ」
「へ、もうかいセンセイ。しかし、そうポンポン動いちまっても大丈夫なのか?」
「そうそう変なことは起こらんよ。それにあと数ブロックほど進んだら、推測にも確証が持てそうなのでな」
「そーいうことか。ま、解析はセンセイに任せるって言ってあるからな」
 わかったぜ、センセイ。あっさり了承すると、ゲイルは次のブロックに進むための扉を選ぶ。
 選ばれたのは一つ前と同様、このプロックへ来るのに使った扉の正面方向にあるものだった。
 ゲイルの部下が扉の脇に設置されたパネルを操作。すると僅か数秒で、音もなく扉が開く。
「ん?」
「へ? いやどうしたよセンセイ? 急に変な声出して」
「む……あー、いや、とりあえず今は何でもないよ」
「変なセンセイだな。ま、とりあえず先へ進もうぜ」
 ゲイルの促しを受けて、一斉に移動が開始された。
 皆の後に続きながら、ドクター・ノースは終始無言。あっさりと開かれた扉に向けて、ひたすら訝しげな視線を送り続けるのだった。

(次回につづくんじゃよ)
どうにも動きのない平淡な回ですが、もう少しだけ地味な探索パートが続きます。
534名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 09:43:25 ID:7MFlAw9+
遅まきながら投下乙。
探索パートから次に切り替わる時が見せ場だなぁ。期待してるぜ。
535名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 22:59:38 ID:a/xS5Xuw
>>457の続き

広大な砂漠と雄大な森林の境に存在する山脈、その最も高い山の中腹に穿かれた洞穴の奥。
そこに二つの人影が揺れている。
「仕事だ。最近、砂漠方面で匪賊が活動を活発にしているので、これを捜索、撃滅せよ。」
片方がそう言うと、もう片方に文書を手渡す。
渡した方は、砂漠側の人々が着る服を着用した中年の男性。受け取った方は、なんとも奇妙な格好だった。
まずこの辺りではけして見ないような、黒い円筒形をした帽子。次に服装が上下真っ黒で、厚い生地が使われている。
砂漠と森林は共に熱い地域なので、これでは全く他の地域の人間だ。

その彼もしくは彼女は、受け取るやいなや歩きだし、すぐに姿が見えなくなる。
「ジョン・スミスの紹介であっても、儂に一言も声を発そうとせん者を雇わねばならんとは。
正規軍を動かすよりも百倍は楽とはいえ、やはりあのような輩とはもう会いたくないものだ。」
砂漠の、とある国の武官である男はこう吐き捨てて、部下達のいる洞穴近くに戻って行った。


艶やかなショートカットの黒髪が、砂を含む熱い風でなびいているが、
彼女の美少女といえる顔立ちは、そんな風などさっぱり気にしていない様に無表情だった。
彼女は伏せながら覗いていた双眼鏡をしまうと、羽織っている外套に付いているフードを被る。
そして立ち上がり、見ていた建物に向かって歩き出した。
帽子はかぶっていないが、外套の下には黒い服、洞穴の彼女だ。

この村の外れにある建物。そこがあいつらの隠れ家だ。

彼女が村人に教えてもらった情報の通りに、そこは匪賊の隠れ家であるらしい。
でもなければ、わざわざ人が辺りを哨戒しているはずがない。
たいてい辺境の村は匪賊を庇護しているのだが、彼女が村長の首に短刀を突き付けると、彼らは懇切丁寧に教えてくれた。
やはりそのような情報に、嘘は少ない。
何故村民が匪賊を匿うか、不思議に思われる方がいるとので説明すると、一つは同じ社会の弱者であるという同情のため。
もう一つは、穏健な頭目が彼らを襲わないように荒い頭目を説得し、村に分け前を渡すからだ。
なれば、村人に彼らを冷遇する理はない。
村人の庇護があれば、匪賊達の安全率はぐっと上がる。村人に彼らの居場所を通報されたら、
所詮匪賊が正規軍に敵うはずがない。そして拠点の無い匪賊は、定住出来ずにあっさり滅んでしまう。
そういうことで、彼らは互恵関係にある。
536名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 23:02:21 ID:a/xS5Xuw
脱字
いるとので→いると思うので
537名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 23:05:21 ID:a/xS5Xuw
さて、彼女は足場を確かにするため砂に埋もれた岩盤を見つけ、そこから跳んで建物との距離を詰める。
一足で三分の一は距離が縮み、五歩目で優に三百メルーは離れていた歩哨の背後に着地する。
もちろん、他の者にも見えないようにだ。
短刀で男の喉を掻き切ると、彼は声も出せずに喉を抑えて倒れ伏す。
先ほど見た限りでは、歩哨は後五名いたので、先に窓から手榴弾を投げ入れる。
これはパイナップル形ではなく、黒い布で火薬と石を纏めて導火線を伸ばした物だった。
すぐに爆発音、そして悲鳴が響き、驚いた建物の角の先にいる歩哨二人に近づき、喉を掻き切る。
その姿は、なんだか猫科の生物を思い起こされた。
今度は正面から切った者がいるため、彼女は白い肌にたっぷり返り血を浴びてしまう。
他の歩哨も、混乱を利用して同じ様に殺す。ナイフ戦闘の極意、それは躊躇わず急所を断つ事。
統率がとれてきたのか、扉から人が慎重に出て来る。
長耳族の彼は辺りを窺うと、扉の陰から現れた彼女に喉を突かれた。
それに備えてか、彼の後ろに小銃を構えた者が二名。片方は賢狼族だ。
彼らはすぐさま発砲したが、長耳族の彼が陰になり、扉も弾が貫通しなかった。
彼女は、自分の血で溺れている長耳族の彼を扉から片手で投げ入れ、それに驚いた匪徒達を尻目に、銃声を響かせる。
彼女の拳銃から飛び出た四つの弾により、ある者は頭蓋を、ある者は胸を砕かれ、床に倒れ伏した。
ただ賢狼族の彼は、頭を撃たれても当たり所が良かったのか倒れても銃を構えたが、
彼女に被弾箇所を踏まれて頭蓋が砕けたために死亡した。
その隙に、エルフらしき少年が剣を降り下ろすがあっさり避けされ、切り返すことも出来ずに頸を捻られ命を落とす。
この一連の動作と、血をたっぷり浴びた彼女の姿に、残りの者は手に持っていた武器を放り投げて降伏した。
残ったのは三人、皆少年だった。
「命だけは助けてくれ。」
一人がそう言うと、三人とも跪いく。
「この通りだ。」
彼らをそうさせるのは恐怖のためか、それとも。
後者だろうと彼女は判断し、左手の短刀で一人の脊椎を断ち、それに気付き懐に手を伸ばした二人を射殺した。
少年の一人と目が合い、まだ死にきっていない闘志に溢れる瞳が彼女を射竦めようとしたが、すぐにそれは消えた。
彼らは、彼女を騙しうちしようとしたのだ。
彼らの頭目が、そう教育していたのだろう。どの道、匪賊は吊るし首に処される運命だ。
538名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 23:10:40 ID:a/xS5Xuw
そして彼女はまだ瀕死の者の頸を捻り、頭目である賢狼族の男の首を取った後に、スコップを探した。
頭目を含め総勢二十名の死体を埋葬した後、彼女は首を丁重に布で包み、立ち去った。


「全くもってふざけておる。」
洞穴の時の武官が、目の前の書類を見て呻く。
「五日で三つの匪賊を潰滅させただと。ジョン・スミスだって、ここまで手際は良くないぞ。」
「しかし、奴は首を持ってきていますが。」
彼の部下がこう言うと、彼は首を横に振った。
「そういう事じゃあない。奴のあの体格を見たか。140チサンも無いのだぞ。
そんな奴が匪賊どもを楽に片付けたとあっては、儂らがまるで無能の様ではないか。」
特に彼は恰幅が良く、さらに若い頃は紅顔の騎士として世を沸かせていただけに、その様な事に敏感になっている。
「仕様がありません。しかし、正規軍を動かすのに多大な金が必要なのがわからない国民も、少ないでしょう。」
「確かに、そうではあるがな。」
そこで男は、ある事を思い付いく。
「奴に正兵となってもらえばよいのではないか?」
部下は首を横に振った。
「そんなことが出来るなら、ジョン・スミスはとっくに我が国の英雄となっています。」
「しかし、奴には一度も試した事は無い。」
そう言って男は椅子から立ち上がり、命令しだした。
「帝都の特務に連絡だ。奴に我が軍の一員となる様説得しろ、とな。」



更に続く
チサンはセンチメートルの事ですね
フランス語のサンチを並べ変えただけですが
539ラルとセイユ ◆9ydUXgSCGI :2008/09/17(水) 23:52:55 ID:HSPo80rc
皆に触発されて、ちょっと書いてみた。駄文だがよろしくです。
(1/4)

朝の柔らかな光が降り注ぎ始めると、木の葉の影が凹凸のある
木幹に映り込んで、美しい模様を描き出す。世界に二つと無いその
印象絵画は、風で木の葉が揺れる度に幾度と無く構図を変える。
そして風のざわめきが収まると共に、また元の姿へと戻っていく。

この場所で延々と繰り返されてきた、芸術的な朝の光景である。
ここは、大空に浮かぶ巨大な神樹【トゥルカム】の幹の上。神樹
に点在する古代遺跡目当ての空賊くらいしか訪れない、空の
辺境である。

普段通りであれば、日が高くなり小鳥達のささやかな合唱が
始まるに連れて、この朝の物静かな空気は徐々に和らいで
いくのだが、その日の静寂は、いつもとは全く異なる不協和音で
一気に破られる事となった。

穏やかな朝の情景には全く似つかわしくない、騒々しい音。
それは、ねちゃねちゃとした粘着質な音と、何かが木幹に突き
刺さるような鈍い音、そして興奮した動物の鳴き声らしきものが
混じり合った、非音楽的な三重奏だった。
540ラルとセイユ ◆9ydUXgSCGI :2008/09/17(水) 23:53:42 ID:HSPo80rc
(2/4)

その音量が次第に大きくなりつつある事から、音の発生源が
徐々に近づいて来ている事が推測できた。そして、騒がしい
三重奏が最大音量にまで高まった次の瞬間、美しい模様の
描かれた木幹の皮が弾け飛び、引き裂かれた木の葉と共に
宙を舞った。皮を剥がされた木幹からは、先程までの芸術的
な名残は跡形も無く消え去り、騒音の張本人達が付けた
爪跡だけが、生々しくそこに残っていた。

木幹を抉る程に鋭いその爪の攻撃を綿毛のような軽やかさで
避けながら、彼らと共に”不協の三重奏”の一翼を担っている
一匹の黒い貂(てん)が勢い良く悪態をついた。

「全く、コイツらにカエルなどという可愛らしい名前を付けたヤツ
はどこのどいつだ!空に浮かぶラブリーなアレを想像してたのに、
完全に怪物じゃないか!」

高速で動く口と同じくらい機敏に肢体を動かして、後方から迫り
来るカエル達の爪の間をすり抜ける。激しい攻撃を回避しながらも、
その黒貂は更に上を目指して木幹を登り続けた。
541ラルとセイユ ◆9ydUXgSCGI :2008/09/17(水) 23:54:29 ID:HSPo80rc
(3/4)

彼女(もしかすると”彼”かもしれないが、その女性的な声色から、
ここでは便宜上”彼女”とする)は一見何の変哲も無い黒貂の
姿をしているが、普通の貂と彼女との間に存在する決定的な違いは、
「普通の貂は人の言葉で悪態などつかない」という点だった。

カエル達は巨大で禍々しい姿をしており、その青錆色の足先に
付いた鋭い鉤爪や、赤くて長いヌルヌルの舌を振りかざし、数匹で
徒党を組んでこの黒貂を執拗に追いかけていた。

本来なら黒々と艶やかに輝いているであろうその毛並みは埃に
まみれ、背中に背負った風呂敷包みも数箇所に裂け目が出来ている。
どうやら彼女は、ここに来るまでの間も相当しつこく追い回されて
来たようだ。
542ラルとセイユ ◆9ydUXgSCGI :2008/09/17(水) 23:55:14 ID:HSPo80rc
(4/4)

追って来るカエル達の爪や牙によって、枝幹が出来損ないの
硝子細工のように容易く打ち砕かれていく。その砕かれた破片は、
遙か下方の雲の中へと消えて行った。爪と舌と木の残骸をかわしつつ、
彼女はカエル達の身体を踏み台にしてさらに上方へと飛び上がった。

飛び上がった先には、周りのものと比べると一際大きな枝があり、
その枝の根元には彼女が丁度入れる程の大きさの洞が開いていた。
彼女が何の躊躇も無くその洞に飛び込んだ事から察するに、そこに
その洞が開いていたのは単なる偶然ではなく、そこが彼女の
目的地であり、彼女はその洞を目指して此処まで登ってきた
のであろう。

ただ不思議な事に、枝幹を簡単に打ち砕く事の出来るカエル達が、
彼女がこの洞に入ったというだけで今まであれ程執拗に行っていた
攻撃を止め、この場から離散して行ってしまったのだ。少し穿つ
だけで十分に破壊できそうなこの洞にカエル達が手を出さなかった
理由はどうあれ、とりあえずの身の安全を確保できたこの黒貂は、
そのまま洞の中を奥へ奥へと這い進んでいった。
543ラルとセイユ ◆9ydUXgSCGI :2008/09/17(水) 23:56:27 ID:HSPo80rc
色々と設定をお借りしています。
今回の投稿分の5倍くらい書いてあるので、
徐々にUPできればと思っております。

よろしくお願いします。
544 ◆p1FpJ5dSKk :2008/09/18(木) 00:21:27 ID:FTzfPeTI
もしかすると知らない人がいるかもしれないので定期報告。
まとめサイト:http://sites.google.com/site/nelearthproject/
「ラルとセイユ」まで更新しました。

>>535
ジョン・スミスは大人気ですね。果たしてどうなるのか。特務にも期待です。

>>539
駄文だなんてとんでもない。好みの文体です。
しかも結構な量を書いていらっしゃるご様子。期待大です。
545 ◆9ydUXgSCGI :2008/09/18(木) 00:25:53 ID:IH0bYYds
>>544
まとめありがとうございます。
しかし、サイトの完成度素晴らしいっすね!
皆の作品がすごく読みやすい!
546 ◆H.jmM7uYLQ :2008/09/18(木) 00:56:07 ID:oBqUBgLf
続きが出来たので深夜ながら投下です
亀ですが>>504、今後は気をつけますоrz指摘どうもです
547THE・Golden Spider ◆H.jmM7uYLQ :2008/09/18(木) 00:57:47 ID:oBqUBgLf
2

変わった形の昇降機が、私達を乗せて地下へと鈍く重厚な音を立てて降りていく。周囲は真っ暗闇だ。
一帯何処に向かうのか・・・・・・この時の私は、恐怖よりも好奇心の方が優っている。後々、その地下にある「ある物」に出会い腰を抜かぬのだが。
「くれぐれもここから足を踏み外さないでください。転落しては元も子もありませんから」
猫目の言葉で、私は首をすくめた。科学者としては、この暗闇について探求したいが命あってのモノダネだ。素直に聞いておこう。

しばらく暗闇の中を降りていくと、猫目が私に、底が分厚い眼鏡、いや、ゴーグルを渡してきた。
「これから基地に降り立ちますが、その途中で激しい閃光があるので、私が指示をしたらそのゴーグルを掛けてください。掛けなかったら……」
猫目が言葉を区切った。口元が艶っぽいというかSっぽいといか。私は猫目に対して、半場怯える様な演技で聞いた。
「掛けなかったら、どうなるのかな?」

瞬間、足元というか、昇降機の端々が眩く光りだすのが見えた。もうそろそろ到着という訳……。
「全員ゴーグルを掛けろ! 目が焼けるぞ!」
猫目がそう叫んだ瞬間、周りの兵士達がズボンから、私が持っているのと同じ種のゴーグルを取り出し、目に掛けた。
私もそれに合わせて、慌ててゴーグルを目に掛ける。次第に周囲が真っ暗闇から眩い光に包まれていく。今まで経験した事の無い程の眩しさだ。
確かに裸眼だったら確実に目を焼かれているだろう。私は始めて猫目に感謝した。

だがゴーグルをつけていても、この眩しさは耐え難い。私は思わず目を細め、同時に両腕を目を塞ぐようにして曲げた。
それにしても何時までこの眩しさは続くのだろうか。まるで永遠に感じるような時間の中で、私は目を守り続けた。
その内……何分ぐらい経っただろうか。私の視界から眩しさが途絶えた。その代わり、腕の隙間から何かがちょこちょこ見える。
何だ? 疑問符を浮かべ、両腕を空けた私の目の前に、さきほどの輝きを凌駕する踊るべき光景が飛び込んできた。

全ての壁面一周、びっしりと象形文字が刻まれているのだ。それも上から下まで一切の空白も無くだ。
無論我々の居る位置から遠い上に、少しでも足を踏み外せばまっ逆さまなので解読などできるわけが無いが。そういう知識は無いしね。
私は今でもその時の興奮が忘れられない。と、同時に、今でもその時の象形文字を解読しようと、今でも研究している。
ん? どうしてその象形文字を調べられるのかって? ふふっ、実はその壁面の一欠けらを私は持っているのだよ。
どうやって手に入れたか、後々「あの男」の活躍と共に書いておこう。まぁ……ただ単に拾っただけだがね。

それにしても深い。あの眩しさからは解放されたが、次は延々と、この壁面のロングホールを下っていくだけのようだ。
周りの兵士達は私が逃げられない事が分かっている事と監視に飽きたのか、と、所持している銃を整備したり、会話の内容は分からんが談笑している。
ふと、猫目の行動が気になり、猫目の方に視線を向けた。もしや銃を構えて私を警戒しているかと思えば意外や意外。
どこから取り出したか、手のひらサイズの文庫本を片手で読んでいる。高級そうなカバーをしており、どんな本を読んでいるかは分からない。
548THE・Golden Spider ◆H.jmM7uYLQ :2008/09/18(木) 00:58:56 ID:oBqUBgLf
それにしても長い。自由に動く事も許されず、かつ喋る事も出来ない立ちっぱなしは非情に辛い。私のようなガマン弱い人間には。
時計があれば良いのだがな……生憎、腕時計は自宅に置き忘れたままだ。確かマキナ君が持っていたな……。
……あ! 私は思い出して、猫目にマキナ君の事を聞いてみた。兵士がいる手前、なるたけ波風を立てぬ言い方で。

「……所で、私の助手は大丈夫なのかね? 運んでくれたようだが」
兵士達が微妙に動いた気がした。猫目は文庫本をしまうと、私に顔を向けて。
「彼なら大丈夫です。前もって運んでおきましたから。何たって貴重な人材ですからね。無論貴方も」
猫目がそう言って微かに微笑んだ。彼女なりの優しさなのか、それとも皮肉なのかは、今となっては分からない。
この猫目……名前は明かす訳にはいかないが、私は完全に彼女に翻弄されてしまった。
もちろん色恋ではなくてね。そんな年でもあるまい。

「そろそろ着きますよ。準備しておいて下さい」
猫目が一転最初の頃のストイックな口調でそう言ったので準備をしておく。心の準備をね。
周囲を囲っている象形文字の壁面は途切れないが、じりじりと端に近寄って下を見ると、なるほど、地面が見えてきた。
殺風景な黄金色の地面だ。物と言える物は何も置かれていない。てっきりまた兵士が待ち構えているかと思えば、人もいない。

次第に目線が下がってきた。降りてきている事が実感する。その内、昇降機は着地音も出さずに地面に着地した。
「慌てずにゆっくりと降りてください、お気をつけて」
他の兵士達が素早く昇降機から降りるので慌てて降りようとした時、猫目がそう言った。少し恥ずかしい。
私が言われたとおり、ゆっくりと昇降機から降りて、最後に猫目が全員が降りた事を目で確認した後、自ら降りる。
全員が降りると、円盤型の大きな昇降機は、ゆっくりと上昇すると……一気に上へと加速して見えなくなってしまった。

改めてこの空間が以下に巨大で壮大なのかかが分かる。周囲を囲む壁面の壁はどこまでも伸びていて、天井など見えない。
恐らく、あの昇降機を使わなければこんな場所に来る事等出来ないのだろう。そしてつくづく思う。
これは明らかにオーバーテクノロジーだ。人為的にしても、今の時代でこれだけの建築物が作れるなどありえない。

ならば・・・・・・ならば、これを我が物としている彼奴らはいったい……。
ますますテロリストなどという組織の範疇ではなくなった事は確かだ。
その時だ、私の耳に、聞き覚えのある声が聞こえた。まさか……と思い、私は声の方へと振り向いた。

「ここまでの長旅、ご苦労様でした。バルホック博士」
「マ……マキナ君?」
549 ◆H.jmM7uYLQ :2008/09/18(木) 00:59:54 ID:oBqUBgLf
投下終了です
毎回小出しで申し訳ない
550名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 07:33:06 ID:oAZ3b65R
>>535
これは成長したクロ? 匪賊フルボッコ過ぎて涙目。
最後は特務入局フラグか、返り討ちフラグなのか気になるところ。

>>539
空の世界は不思議がいっぱい。しかしこのカエルこわっ!?

>>544
いつもまとめサイト運営乙であります!

>>547
博士あの男についていい加減引っ張り過ぎだぜと思ってしまた。
551名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 08:05:21 ID:FTzfPeTI
>>547
 投下乙です。そして「あの男」はいったいどんな人物なのか。まあ、分かっているんですが。むしろ気になるのは猫目です。何者なのか。
 マキナ君はえらくすましていますがこれはひょっとすると。
 
552ラルとセイユ ◆9ydUXgSCGI :2008/09/18(木) 21:54:56 ID:W9DKDmv5
本日もUPします。

(1/4)

洞の中を這い進んでいた黒貂は、長時間の匍匐前進の後に木幹の
中の大きな空間へと這い出た。そこは木の内部とは到底思えない
ほどに広大で、外の世界と見紛う程に明るいところだった。そしてそこ
に広がっている光景もまた、そこが木の中の世界であるという事を
忘れさせるのに足る、壮大なものであった。

誰がどのような目的でこのような場所にこのようなものを作った
のかは定かではないが、そこは巨大な大樹の中に作られ、多くの
人々が暮らしている、紛れも無い町だった。

人々が行き交う道路は木材で綺麗に整備され、その無駄の無い
敷設のされ方からは確かな計画性が感じられた。舗装された道路
の両側には木造建築の家屋が立ち並び、規則的に広がる屋根の
群れの遙か彼方には、神殿や王城のように見える巨大な建造物
までもが確認できた。

ここは、一見するだけではどれ程広大なのか把握する事すら
出来ないほどに、広く巨大な都市だ。恐らくは、木の内部に残され
ていた古代遺跡を再利用しているのだろう。ただ、彼女の進入方法
から察するに、通常は外界とは隔絶された場所である事が推測
できた。確かに、どこにも出入り口のようなものが見当たらない。
553ラルとセイユ ◆9ydUXgSCGI :2008/09/18(木) 21:55:43 ID:W9DKDmv5
(2/4)

これ程の光景が眼前に広がっているにも関わらず、彼女は自身の
身体と背中に背負った荷の両方の無事を確認すると、慣れた
足取りで雑踏の中へと消えていった。この光景に僅かばかりも
圧倒される事なく、その足取りは自然そのものであった。

「ラル遅いなあ。どうしたんだろう、迷子にでもなったのかな」

一人の少年がそう呟いた。どうやら誰かを待っているらしい。
そこは、神樹【トゥルカム】の中の都市【トゥルカミア】に立ち並ぶ
木造家屋の一つだった。その建物の小さな部屋の中で椅子に
腰掛けながら、彼は小さな窓から見える遠くの景色を眺めていた。

黒い頭髪に黒い眉、そして同じく黒い大きな瞳。それらが白い肌
の上で一層際立って見える。上品な白い衣服で身を包んではいるが、
そこから伸びた手足についている傷やアザから、彼の腕白ぶりを
容易に窺い知る事ができた。

「美味しいものでも食べてるのかな。早く戻って来ないかな」

今日だけでも幾度と無くついたであろうその溜め息を更に量産
しながら、未だ戻らないその誰かを待ちわびていた。退屈さを
正確に具現化した動作で、前髪をかき上げる。
554ラルとセイユ ◆9ydUXgSCGI :2008/09/18(木) 21:56:34 ID:W9DKDmv5
(3/4)

サラサラとした黒髪の下から白い額が現れ、そこに描かれた
奇妙な模様が露になった。小さな菱形のタトゥのように見える
その模様は、周囲を取り囲むように細かい文字が書き込まれており、
菱形の中央部分には周囲の模様よりも数段濃い色で鍵穴に似た
印が描かれている。

ここ【トゥルカミア】の人々は、都市のいたる所から伸びている
神樹【トゥルカム】の枝をこの額の印に接続することにより、
神樹から様々な情報を受け取る事が出来るのである。

かき上げた手と反対の方の手で、少年はその模様の縁をなぞる
ように額に触れた。そして、彼の指先が中央の印に触れそうに
なったその時、窓の上方の死角から女性のものと思しき声が
聞こえてきた。

「セイユ、お前に忠告する事が三つある」

セイユと呼ばれたその少年は、その声を聞くや否や窓から顔を
突き出し、声のした上の方向へ勢い良く振り返った。そこには、
一匹の黒い貂が立っていた。身体の埃はすっかり綺麗に毛づくろい
してあったが、背中に背負った風呂敷包みの裂け目はまだそのまま
だった。先程までカエル達と”不協の三重奏”を奏でていた、
あの黒貂である。
555ラルとセイユ ◆9ydUXgSCGI :2008/09/18(木) 21:57:53 ID:W9DKDmv5
(4/4)

「ラル、おかえりなさい!」

ラルと呼ばれたその黒貂は、セイユの呼びかけを全く無視して
自分の台詞を続けた。

「一つ、私は道に迷った事が無い。二つ、私はお前のように
食いしん坊では無い。そして最後に、私の名前は
”漆黒のラルポルト”だ。勝手に省略するな。以上だ」

そう言い終わると、彼女は窓から突き出たセイユの額にヒラリと
舞い降り、辺りの様子を警戒しつつ軽やかな身のこなしで部屋の
中に飛び込んだ。

「ラルってばいきなり顔踏まないでよ。帰ってくるの遅かったから
心配してたんだよ」

セイユも負けず劣らずラルポルトの台詞を無視して、先ほどまで
座っていた椅子に再び腰を下ろした。いちいち訂正していてはきりが
無いと悟ったのだろうか。彼女は表情に若干の不機嫌さが現れて
はいるものの、再び呼称について五月蝿く言う事はせず、背負って
いる荷物を無言で降ろした。素早く風呂敷を広げ、中の物を露にする。

風呂敷の上に、一振りのナイフと一体の人形が姿を現した。
556 ◆9ydUXgSCGI :2008/09/18(木) 22:02:42 ID:W9DKDmv5
また明日にもUPします。
よろしくお願いします。
557名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 22:55:14 ID:FTzfPeTI
>>556
投下乙です。
さてさて、風呂敷より取り出したりますはナイフと人形。
分かりました。ずばり、呪いですね。丑の刻参りですね。

設定をよく練られているのが分かります。新しい舞台の登場ですね。
こちらはファンタジー要素が強そうです。
558名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 22:56:14 ID:oAZ3b65R
投下乙です。
これは「上」とはまた別に存在する空のコロニーか?
額の紋様で情報やり取りとか、独自の生態系が発展してるっぽい描写が新鮮だなぁ。
559 ◆9ydUXgSCGI :2008/09/18(木) 23:27:14 ID:W9DKDmv5
>>556
どうもです。
呪いとは鋭いですね!若干かすってます!
この一人と一匹が色々旅をして、ネラースの
色んな地域を訪れるような展開にしたいと思っています。
確かにファンタジー要素強いです!
ファンタジー大好きなもので。

>>557
こちらもどうもです。
中途半端な位置に浮いてる大樹って感じで、ラピュタ的な
イメージです。この木に住んでる人は、木の実から生まれて
性別が男性のみ、木に人口を完全に制御されております。
560 ◆9ydUXgSCGI :2008/09/18(木) 23:34:04 ID:W9DKDmv5
ずれましたすみません!!!
>>556>>557
>>557>>558
です!せっかく読んでいただいて感想まで頂いたのに、申し訳ないです!

>>558
額の紋様のあたり、けっこうふわっとした設定しかないので、良いアイデアとか
色々いただければ嬉しいです!
561ラルとセイユ ◆9ydUXgSCGI :2008/09/18(木) 23:44:32 ID:W9DKDmv5
連投で申し訳ないですが、明日UPできなさそうなので
残りを今日UPさせていただきます。6連投です。よろしくお願いします。

(1/6)

ナイフは、セイユの広げた掌程の長さの刀身に、装飾性の無い
木製の黒い柄が付いていた。刀身を覆う皮製の鞘も特に変わった
ところは無く、それはごくありふれた一般的なナイフだった。しかし、
一緒に包まれていた人形の方はかなり奇妙な代物だった。

大きさはナイフの刀身程度しかない小さな人形だったが、良く見ると
非常に細かく作りこまれているのが分かる。手足の関節は言うに
及ばず、指の一本一本、目や口に至るまで、細部まで駆動する
ように作られていた。衣服を着せられているため詳細は不明だが、
その服の中に隠された胴体も、恐らく露出している部分と同じくらい
丁寧に作りこまれているのだろう。瞳や唇もしっかりと付けられ、
頭髪や眉毛まで生えている。

サマンの帝都にある魔女窯通りくらいでしかお目にかかれない
ような、奇妙な人形だった。まるで、今にも動き出しそうだ。もしか
したら小型の自動人形か何かだろうか。

「ねえねえ、これが例の人形?すごい、ちょっと触ってもいい?」

セイユは椅子から立ち上がると、その黒い瞳を好奇心という名の
光でキラキラと輝かせつつ人形に手を延ばした。すかさずラルポルト
がその手を引っかいて阻止する。
562ラルとセイユ ◆9ydUXgSCGI :2008/09/18(木) 23:45:19 ID:W9DKDmv5
(2/6)

「駄目だ。我々にはそんな事をしている時間は無い」

ここへ来る途中入念な毛づくろいを済ませてきた自分の事は
棚上げして、いつものように冷たくセイユをあしらうと、彼女はナイフ
と人形の前に座って彼を見上げた。瞳からはただならぬ威圧感を
放っている。引っかかれた手を舐めながら、セイユも大人しく椅子
に座り直した。

「もう一度聞くが、本当にいいんだな?」

ラルポルトの口から放たれた台詞で、部屋の空気が一変した。
今までとはまるで違う、ピリピリと張り詰めた雰囲気。彼女の目から
放たれた威圧感が辺りの空気に満ち満ちているのを、セイユも
肌で感じていた。

一度生唾をゴクリと飲み込むと、彼は彼女の質問に答えた。

「うん、自分で決めた事だから」

そう頷くと、セイユは再び椅子から立ち上がり、今度は人形ではなく
ナイフの方を手に取って、勢い良くそれを鞘から抜き放った。その
額には汗が、そしてその顔には笑みが、それぞれうっすらと見て
取れる。

「どうしても出来なければ、私が代わりに……」
563ラルとセイユ ◆9ydUXgSCGI :2008/09/18(木) 23:46:17 ID:W9DKDmv5
(3/6)

そこまで言って、ラルポルトは続きの言葉を飲み込んだ。飲み
込まざるを得なかった。それ以上言葉を続ける事を、目の前の
光景が許さなかったのだ。彼女の目の前で、セイユの持っていた
ナイフが深々と彼の左胸に突き刺さり、白い衣服に赤い大きな
模様を描き出していた。彼は依然として笑みを浮かべている。

生地の含有許容量を超えた血液が、ナイフの柄を握ったままの
彼の右手を伝う。右肘から滴るその赤い雫が床に新たな模様を
描き始めると、彼の身体はふらつき、そのまま仰向けに床へと
倒れこんだ。

「……全く、本当に人の話を聞かんヤツだ」

もはや何を言っても独り言にしかならない部屋の中で悪態をつくと、
ラルポルトは風呂敷の上に寝転がっている人形に片方の前足を
かざし、何やら呪文めいた言葉をブツブツと発し始めた。何かの
儀式のようである。瞳を閉じ、かなり集中している。

(ここのマナ濃度なら、今の私でも大丈夫なはずだ)

暫くの間、彼女はその姿勢のまま人形に対して呪文の言葉を
投げかけ続けた。そして口調が徐々に激しくなり、目を見開くと
同時に荒々しく最後の言葉を言い放つと、彼女はその場にぐったり
と塞ぎ込んでしまった。肩と腹部の激しい上下運動が、その
儀式に必要な体力と集中力の膨大さを雄弁に物語っている。
564ラルとセイユ ◆9ydUXgSCGI :2008/09/18(木) 23:47:07 ID:W9DKDmv5
(4/6)

「ハァハァ……セイユ、聞こえているなら返事をしろ。すぐに
出発するぞ」

疲労で気が動転しているのだろうか。ラルポルトは、先程彼女の
目の前で自ら命を絶ったセイユに対して突然呼びかけた。眼は
閉じたままだ。呼びかけたところで、彼からの返答があるはず
も無い。しかし彼女は、再び彼に呼びかけた。

「おいセイユ、返事をしろ!」

血の海に横たわるセイユは、彼女の二度の呼びかけに対して
全く微動だにしなかった。彼が死人である以上、それが当然の
結果である。

「ラル聞こえてるよ。ちょっと声の出し方が分からなかった
だけだから」

しかしこの呼びかけに対して、あるはずの無い返答が返ってきた。
セイユの声だ。しかしその声は倒れているセイユの身体ではなく、
床に広げられた風呂敷の方から聞こえて来ているようだった。
眼を開けたラルポルトも、セイユではなくまっすぐそちらの方向を
見つめている。突然、風呂敷の上に寝転んでいた人形が
起き上がり、彼女の方を振り返った。

「まだ慣れないけど、ちょっと楽しいねコレ」
565ラルとセイユ ◆9ydUXgSCGI :2008/09/18(木) 23:47:52 ID:W9DKDmv5
(5/6)

しゃべっていたのはあの人形だった。手足をフラフラさせながら
踊っている人形に向かって、呼吸を整え終わったラルポルトから
鋭い一声が飛ぶ。

「我々には時間が無いと、さっきも言ったはずだぞセイユ。
すぐに出発するぞ、もたもたしてないで早く乗れ!」

彼女はその踊っている人形の事を、セイユと呼んだ。そして人形の
ほうもその呼称に対して自然に反応し、言われるがままに床に臥し
ている彼女の背にまたがった。

人形が乗った事を確認すると、ラルポルトは入ってきた時と同じ
ように、軽やかに窓枠へと飛び乗り、その勢いのまま窓の上の
屋根までジャンプした。彼らが窓から飛び出すのと殆ど同時に、
部屋の中からドアを蹴破る音と複数の足音が聞こえてきたが、
彼らは振り向く事もせず風のようにその建物から遠ざかっていった。

「しかし、再び貴様を殺す事になろうとはな……」

屋根から屋根へとしなやかに飛び移りながら、ラルポルトが
独り言のように呟いた。

「ねえラル、今何か言った?」

「いや、何でもない」
566ラルとセイユ ◆9ydUXgSCGI :2008/09/18(木) 23:48:50 ID:W9DKDmv5
(6/6)

背中に乗った人形がラルポルトに話しかけたが、彼女はそれを
適当にはぐらかすと走る速度を更に速めていった。

先程の建物からかなり離れたところまで来ると、彼らは屋根の上
から路地へと降り、多くの人が行き交う大通りに合流した。彼らが
雑踏に紛れると、町は日常という名のベールで彼らを覆い隠した。

柔らかく降り注ぐ光が彼らを照らし出そうとしたが、それは日常の
ベールに光と影の迷彩模様を描き出し、”漆黒のラルポルト”を
更に雑踏へと溶け込ませてしまうだけだった。
567 ◆9ydUXgSCGI :2008/09/18(木) 23:51:39 ID:W9DKDmv5
連投すみませんでした。
今後はラルとセイユを色んな地域に行かせたいです。
ゴールドバーグに行ったりとか、アカデミーや帝都も楽しそう。
そしてジョン・スミスとは是非からみたいです。

今後ともよろしくお願いします。
568第37番鉄道警備隊 9 ◆sbrD/79/kI :2008/09/19(金) 01:55:07 ID:Oluxz0/o
 小隊車両に戻ると、すでにピョートルが運転席から飛び出していた。
 車室後方の壁が開かれている横でピョートルが、車両全体に響くような鉄のこすれる音を立てながら、全身でハンドルを回している。
 ハンドルごと大きくしゃがみこむ度に、車室の屋根が開いて壁側に折り畳まれるように動き、また側面の壁も車輪の横に降りて行っている。
 後方に未だ豆粒のような飛空挺は、ゆるやかながらも次第に距離を詰めてきている。
 敵にとっては、先回りしてある程度の距離を取ってから、線路を破壊するのが最も安全なやり方である。
 逆に鉄道には、飛空挺への対抗手段がほぼない。
 一定以上の高空を飛ばれれば、届く火器はなくなる。そこから線路をやられれば、打つ手はない。
 横断車両も飛空挺の意図を察したのか、速度を上げ始めた。
 敵がまともなら、横断列車より小隊車両の線路を先に爆破して、分断を図るはずである。よって小隊は横断列車のさらに前に出る必要がある。
 チェイニーが爆弾銃を手に取るが、目一杯近づけて届くかどうかである。
 ガラティーンはまだ戻ってきていない。とはいえ黒翼族も飛行可能な高度はかなり低い。
 仮に飛空挺に乗り移れたとしても、一人ではどうしようもないだろう。
 この車両速度も考えれば、小隊車両に戻ってくるのも十分に危険である。横断列車で待機している方がいい。
「ピョートル、代われ」
「あ、はいっ!」
 飛び下がった長耳族に代わって、イルがハンドルに手をかける。ピョートルにとっては全身運動だった操作も、イルにかかれば肩から先の仕事に過ぎない。
 見る間に展開速度の上がった壁の内側で、固定式の大型砲が出番を待っていた。
 車載砲「バロールの目」。
 本来は、地方の小隊に配備されるようなものではない。
 老朽化して廃棄が決定された本隊の備品を、イルが、荷台に牽いて運搬するという、文字通りの力ずくで獲得してきた装備である。
 朽ちゆくばかりのはずの眼は、ピョートルの献身的な介護を受け、再び眼力を取り戻していた。
 砲身の形状こそ銃と大差ないが、砲身外部に巻きつく形で数本、射角を絞るかのような円環状の収束呪紋と、
 砲身内部に刻まれた砲口へ流れ出すかのような螺旋状の必中呪紋の効果で、そこらの「よそ見」などとは比べ物にならない命中率を誇る。
 発掘された時点で刻まれていた紋様に、本隊の呪紋学者が手を加えた改良品だ。
 眼光の一刺しは、地を這うものが、空を飛ぶものに対抗しうる唯一の手段である。
569第37番鉄道警備隊 10 ◆sbrD/79/kI :2008/09/19(金) 01:56:07 ID:Oluxz0/o


 車両を外から襲撃する者に対しての備えは十分なされているが、車内での暴動に対処する役割はほとんどを乗務員に任されている。
 乗客として乗り込み、一斉に本性を現すやり方は、乗務員の防衛力の低さを突いたものである。
 奪うだけ奪った後、操縦室を制圧して最大速度で砂漠に出た後、飛空挺で回収して逃げる。
 おおかたそんな作戦だったのだろう。電撃作戦は勝利の近道である。
 小隊到着前に事が終わらなかった辺りは、鉄道乗務員の職務にかける情熱、そして空挺師団の手際の勝利と言ってよい。
 強盗団の作戦自体は悪くないが、電撃作戦のアドバンテージは、速さにある。
 空挺師団は、その速さを完璧に殺し切った。あとは現地の警備隊が決着させる範囲である。
「隊長!」
 並走する横断列車の中で、ガラティーンが一番近い窓まで走ってくるのが見える。
「待機!」
 命令を吠えたが、ガラティーンは止まる様子を見せない。窓枠によじ登り、身を乗り出す。
 既に車両はともに最高速に達しようとしている。
「わっバカ、来たってやることないでしょ!」
 チェイニーが慌てて叫ぶが、聞いた様子も見せずに足を踏みきった。
 少し後方に流れたのが見えた。
 イルは、反射的に車両後方へ飛びだして手を伸ばした。
 案の定狙いを逸れて線路へ落ちようとしていたガラティーンの手を掴み、地に足がつく前に車両へ引き上げた。
 床へ立たせる。
「隊ちょ」
 受け止めてくれることを期待していたらしい面持ちのガラティーンを有無を言わせず殴り倒し、その後一顧だにせずに砲の元に戻る。
「ピョートル」
「やります!」
 操縦室から、小柄な人影が転がり出てきた。
 すでに蒸気機関は加速の操作が終わっているらしい。蒸気罐の様子見だけをチェイニーに任せ、ピョートルは砲の台座に取りついた。
 飛空挺は、補助線路の上に位置取っている。走行中の物体に投下爆弾を当てるのは技量を要するため、前方の線路を爆破する方を取るだろう。
 既にその全容が、威圧感を伴ってのしかかってくる距離である。あとは車載砲を、敵がどう思うか。
 鈍く輝く輪郭を見て、飛空挺は高度を上げていく。上方向に、届かないと見たか。
「どうだ」
「やれます!」
 砲手からは、返事が一言だけ。
「全員、耐衝撃準備」
 操縦席のチェイニーから、耳栓の入った袋が滑らされてくる。
 身近な手すりにしがみ付き、来るべき衝撃に備えた。
「準備よし!」
「準備よろし」
「準備完了。ピョートル、砲撃準備」
「了解!」
 ぎりぎりと音を立てて、車載砲が天を仰ぐ。
 視線の先には、後方の線路に影を落とす飛空挺。
 これほどの時間が経っていても、列車の仲間を見捨てずに来たのは、はたしてどういう心境だったのか。
 砲座にベルトで体を固定したピョートルが、じっと発射装置に手をかけている。
 撃った。
570第37番鉄道警備隊 11 ◆sbrD/79/kI :2008/09/19(金) 01:57:08 ID:Oluxz0/o




 起床後の点呼と朝礼を終えれば、その後は事実上の自由時間である。
 炊事、洗濯、掃除の当番はこなさねばならないが、後は隊員の裁量に任されていた。
 警備隊の訓練スケジュールは存在しているが、有名無実となっている。
 環境に恵まれた部署で組まれたスケジュールは、どこの駐在小隊でも従う余裕はない。
 よって訓練も整備も、隊員の裁量に任されている。
 怠った者は皆、砂漠の風に消えた。

「あれだけやったのに、ボーナスの一つも連絡なしって、ひどいと思わない?」
 今日の食事当番はピョートルである。
 さっさと準備を終えさせたいチェイニーが、積極的に手伝っている。
「でも、お給金を増やしてもらっても困りますよね」
「そうだねー……」
 砂漠の真ん中で金銀など持っていても、使う場所がない。嗜好品などとは無縁の場所である。
「そこはほら、最新鋭の武器とかさ」
「くれるんだったら、もうくれてると思いますよ」
 鍋を出しながらもピョートルはそっけない。
 駐在小隊に配給される食糧は、大体が保存が利くように加工されたものばかりであり、味は期待できない。
 しかし凝り性のピョートルは、そういう食品でもそれなりに食べられるよう、色々と工夫をしているのである。
「そういやカナクイの群れの時も、おっさんが来て『ご苦労だった』で終わりだったっけ」
 砂漠地帯に住む、金属を食う甲虫が、線路にとりついてしまった時の話である。
 砂漠横断鉄道存続の危機ということで、近隣の駐在小隊をすべて出撃させたにもかかわらず、特別報酬はなかった。
 本部長を名乗る男が、このときのために諸君に給金を支払っているのだ、と取りつく島もなく宣言していた。
 しかしああして体を張ったからには、なにがしかの褒美が欲しいのも人情だろう。
「木の苗でも申請してみましょうか」
「植えるの?」
「ええ。オアシスから少しずつ。もしかしたら、お給金が使えるような環境にまで育つかも」
「私は退役した時のために取っとくかなあ」
 水を入れた鍋を火にかけ、乾燥芋を放りこむ。


 小隊長には雑事当番が回ってこない代わりに、書類をすべて担当する役割がある。
 必要な情報を小隊に告げ、不必要な情報を自分のところで留めて、小隊の動向を決定する、判断力を要する重要な役である。
 イルは、背筋を伸ばして、間もなく来るはずの朝一番の便を待っている。
 本隊からの通達や、日用品や生活必需品を含む補給物資が、貨車に満載されて毎日補助線路を走ってくるのである。
 今日は線路から伝わってくる震動が、少し重い気がした。
 そんなこと胸中を気づきもせず、ガラティーンは不動の姿勢のイルの毛並みに櫛を通す。
「隊長、美しい毛並みです」
 灰色の毛皮は、砂漠の塵に薄汚れている。
 気を抜けばすぐに抱き締めようとしてくるこの隊員が、ただ単に人淋しいだけであるということを、イルはとうの昔に見抜いている。
 チェイニーたちに必要以上に嘲笑的なのも、そうすれば確実に反応が得られるからだ。
 一歩誤れば深手を負うような場面へ平然と斬り込むのも、豪胆によるものではなく、戦闘の定石を知らないからでもない。
 不憫と思わないこともないが、イルは隊規以外の対処の仕方を知らない。
 足元に感じていた貨物列車の地鳴りが、耳でも感じ取れるようになってきた。
 車庫の中に、四両立ての貨物列車が入ってくる。
 普段と様子が違った。貨物車が一両と客車が一両、増えている。先日の一件もある。久々に装備の補給も期待できるのかもしれない。
 それと、側面に鉄道警備隊本隊のレリーフがはめ込まれた客車。窓には重いカーテンが下がっている。間違いなく、重役クラスが来ている。
「ガラティーン、整列」
 ガラティーンは無言。すでに列車は、車庫内に停車している。
「ガラティーン」
「まだ胸側が終わっていません」
 よって客車の賓客は、行儀よく櫛で梳かされている小隊長と、その隊員が尾撃で跳ね飛ばされる一連の流れを目の当たりにすることになった。
571第37番鉄道警備隊 12 ◆sbrD/79/kI :2008/09/19(金) 01:57:59 ID:Oluxz0/o
「小隊内での信頼関係が成立しているのだな」
 降り立ったのは、カイゼル髭を生やした、小太りの中年男である。
 重職に就けるのは、余程卓越した能力や実績がない限り、人間族に限られている。
「失礼いたしました、本部長」
「上官を迎えた時ぐらい、起立したらどうだね小隊長」
 両前足を揃えて背筋を伸ばしたイルに、本部長が鋭い笑みを投げかける。
「はい、本部長。我々にとっては、二本足での起立は戦闘態勢を意味します」
「郷に入っては郷に従うものだがね、賢狼君」
 鼻血を垂らしながらのろのろと立ち上がるガラティーンに視線を移す。
「お互い、部下の躾には苦労しているようだな」
「恐縮です」
「先日の客車防衛は見事だった。特に飛空挺の撃墜は傑作だった。お株を奪われた空挺師団の奴らが、どんな顔をしているか楽しみだ」
 あまりにあからさまな政治的話題である。イルは、一切のコメントを飲み下すことに決めている。
「と、長官殿がね」
 笑みに軽侮を滲ませて、本部長は砂漠の向こうにいるであろう鉄道警備部の長官の方へ顔を向ける。
 ガラティーンが、イルの隣に直立不動した。
「それで、君たちに称賛の言葉と心ばかりの補給物資を届けに、わざわざこの私が来たというわけだ」
 やはり、物資の追加だ。駐在小隊にとっては、百の勲章よりも欲しいものである。
「そう、補給物資、ね」
 本部長は、自分の言葉に皮肉な笑いを漏らしている。
 普段小隊に配備されるのは、本隊で使われていた、老朽化なり型落ちなりで廃棄が決定した装備品であることは、鉄道警備隊の常識である。
 あの顔からすると、あれだけの立ち回りをして、補給物資はいつもの通りということなのだろう。
「あの長耳君は優秀だね。潰れたと思ったバロールの目も、まだ使えているそうじゃないか。また彼に任せるといい。
今回の補給は兵員用の武装だ。人間の小隊員がいたはずだな? 彼女が喜ぶんじゃないかな。この間出土した、駆動機付きの鋸なんてものを積んであるからな」
 応じるべき言葉はない。許可が得られるまで発言をしないのが規則である。
 だが、ついに兵器のテストの役割まで負わされたか、という思いは残る。
「君たちのような優秀な下っ端が踏みつけにされているあたり、この国も長くないと思うよ」
 言い残して、質問を受け付けもせず本部長は背を向けた。手で貨物車に合図をし、物資の積み下ろしを始めさせる。
「どう崩れるかはともかくとして、ね」
 そのまま客車に消えていった。
「ガラティーン」
「はい」
 直立不動を崩していない。止めなかった鼻血で胸元が赤く染まっている。
 後に続けるべき言葉を、見いだせなかった。
「……解散」
「はい」


 いつの時代にも、人の営みを脅かす者は存在する。
 砂漠に住む金属を食う甲虫や、流れ者の強盗団などから、遺失文明にいたという天を舞う機械や、ひとりでに動く人形まで、多彩な脅威がいた。
 種族や手段は変わっても、そうした者がいなくなることはない。

 決して少なくない被害は受け入れねばならなくとも、襲撃者が思うまま暴れることを防ぐ目的で設置されたのが、主線に併設された予備線路であり、
 その途上に点在する、2,3両程度の車両を止めた小さな停留駅。
 砂と陽に焼かれ、古びているが、帝都の叡智を結集して設置された、チェス盤上の妙手であった。
 壁面に嵌め込まれたレリーフに、土竜に添うように浮き彫りにされた37の数字。ゴールドバーグ西方地区管轄鉄道警備隊、第37番小隊。
 たとえ伝説の邪龍が相手でも、彼らの給金は増えることはない。
572 ◆sbrD/79/kI :2008/09/19(金) 02:00:14 ID:Oluxz0/o
これにて第37番鉄道警備隊は結びとなります。
お付き合いいただきまして、ありがとうございました。


荒事をやりたくて書き始めたのですが、帝国の治世が安定していると、荒事の余地がなくて困りますね。
573 ◆/gCQkyz7b6 :2008/09/19(金) 03:11:44 ID:yehYwyoS
(1/2)

ノミ屋を襲う。入り口を制服二人とシドがかためる。
魔女窯通りの長屋にしけた店構え。二ヶ月前まで、ここは流行らない売春宿をやってたはずだ。
シドに手で合図して、裏へ回った。
野良犬がごみ缶を漁っていて、吼えられるかと思い一瞬身をすくめたが
犬は自分の獲物に夢中でこちらに気がつかなかった。
魔女窯通りに長く居ついた動物は大抵が、界隈に漂う、
メッキのやら何やら分からない怪しい煙や廃液を吸いすぎてボケてしまっている。
そのごみ缶漁りの犬、品種不明の中型犬は、耳が左右ともに腐って落ちかけていた。



ノミ屋の裏口。
ノブだけ残して塗り固められたドアを調べる。鍵穴を覗いてみたが、塞がれている。
ベニヤ一枚の安普請の壁に耳を当てると、相変わらず二、三人の男の話し声が聞こえた。
会話の内容――最近、アレックスの殺し屋が魔女窯通りを頻繁に出入りしている。
地回りのやくざに怯える余所者ども、たぶん空賊くずれ。
表通りを封鎖し始めてから、もう三分ばかり経つ。連中に気取られる前に事を起こさねばならない。
ショットガンを抱き、狭い路地で出来るかぎりの助走をつけて、ドアを蹴破った。
「帝都警察だ!」
売春宿時代の家具や仕切りをどかしたのだろう、
椅子が数脚とテーブルがひとつだけのがらんとした部屋の真ん中に、三人が居た。
立ち上がろうとしたところを撃つと、二人が鹿弾をもろにくらって倒れた。
一人は壁際に走って、おれが銃を振り向けようとしたところで目が合った。

相手は蒸気機関内蔵の自動鎧を着込んでいた。首から下全部を厚い鋼板に覆われた、汗だくの男。
排気が蛇のようにしゅーっと鳴くと、
やつの鎧は石炭ストーブに似た不恰好に似合わない機敏さで、おれ目がけて突進してきた。
慌てて銃の先台を引き次弾を装填したが、撃つ間もなく弾き飛ばされてしまう。
おれはベニヤ板を破って裏路地に転がり込む。男がごみ缶を蹴散らして逃げる。
入り口から突入をかけたシドが、おれを見つけて抱き起こす。
「ジェイン」
「用心棒が逃げるぞ」
制服連中が鎧の男を追って走っていく。おれも拳銃を抜いて走ったが、
燃料入りの自動鎧はやたら足が速くて絶対に追いつけそうもないので、
おれとシドは早々に諦めて、走るペースをゆるめた。

男は封鎖された区画を抜けて、通りから更に外れの貧民窟へ向かっている。
貧民窟に入ってしまえば、そこはほとんど帝都警察の管轄外みたいなものだ。
自暴自棄の失業者はみなブルジョアと公務員を憎悪してるから、
潜入した警官が彼らの目にとまれば、八つ裂きにされかねない。
武装警官の一部隊でもなければ近寄る事すら危ない場所だった。
自動鎧の男も格好がひどく目立つから、すぐに身包み剥がれてしまうだろう。
死体の転がるノミ屋で一服していると、やがて制服たちが戻ってきた。
やはり男は貧民窟に潜ったらしいとの事。

「あいつ、燃料が切れるまでに脱出できるかな」
シドが笑う。背広姿にサーベルを佩く変わり者、針金のように細い体をした優男のシド。
彼の相棒、馬鹿でかい拳銃をぶら下げた強面の刑事ジェイン。つまり、おれ。
汚職刑事の鑑のようなおれたちはコンビを組んでもう二年、
帝都警察とギャングスター・アレックスの治世に給料と賄賂の額だけ貢献してきた。
574 ◆/gCQkyz7b6 :2008/09/19(金) 03:12:55 ID:yehYwyoS
(2/2)

帝国暦百五十年はめでたい年だった。
空賊の季節――陸に下りた空賊どもに帝都の犯罪利権が脅かされつつあると、
アレックスはじめギャングの頭目たちが過敏になっていた。
過敏症は帝警や治安判事ら法の執行官にも伝播して、
今では本格的な空賊狩りの計画が持ち上がっているらしい。
軍は北で蒸気乱雲に釘づけだから、帝警は鬼の居ぬ間に帝都を洗濯しておく腹のようだ。
おれとシドはお偉方の期待通り、流れ者の商売に睨みを利かせて、
年始から今回のノミ屋潰しまでで五人ばかり殺していた。
八百長試合の罪をかぶった哀れなノミ屋――次は工房を一軒たたみに行く。
「シド、行こうぜ」
現場を制服に任せて、おれとシドは魔女窯通りを上っていった。

工場街にあるアレックスの闘技場じゃ、自動人形の殴り合いの興行が流行ってる。
季節毎に空から降ってくる化け物と比べれば玩具の人形だが、
ああいった機械が馬鹿みたいに壊し合いしてるのを見てよだれを垂らすやつらも居る。
ファイターはほぼ全て、魔女窯通りに店を構える蒸気工房がもっているが
おれたちが訪ねる工房は、賞金の事でずっとアレックスと揉めてたらしい。
その工房が一昨日の試合でつまらない負け方をして、ちょうど流れのノミ屋も煩くなってきた頃だから
でっちあげの八百長疑惑でまとめてたたんでしまいたい、との由。
撃ち合いのあったノミ屋を見物しに流れる人込みを、真っ向からさかのぼり
蒸気工房『鉄槌』へたどり着く。

店は真昼間からシャッターが降りていて、シドがノックするも返事はない。
「夜逃げかな」
おれたちは顔を見合わせた。
「昨日は一日見張りがついてたから、ファイターを担いで逃げられはしないだろう」
身長2メルー以上はある機械人形を、見張りの警官から隠れて運ぶのは不可能だ。人形は残ってる。
『鉄槌』のファイターは人気株だから、
工房自体より人形の入手のほうがアレックスの本当の目的だった。ひとまず中を確認する。
シドがシャッターを押し上げる――鍵はかかっていない。
おれは銃を抜いて、引き戸に手をかけた。
おれの反対側にシドがつき、彼も銃を構えた。
戸を引く。立てつけが悪くてやたら重いが、やはり鍵は開いている。
シドが店に入る。おれもすぐに続く。ひどい臭気――魔女窯通りのいつもの臭い以上にえぐい。
油と錆と汚物の臭い。シドがため息を吐く。
工房の奥の薄暗がりに、半分がた解体されたファイターと店主が並んで横たわっている。
はらわたを抜かれた死体と、はらわたの詰まった人形。
血しぶきが壁と床一面に広がって、ところどころに血の手形と靴あと。
「これ、アレックスに持って帰るか?」
相棒はかぶりを振った。帝国暦百五十年、こいつがけちのつき始め。
575 ◆/gCQkyz7b6 :2008/09/19(金) 03:29:34 ID:yehYwyoS
探偵や特務機関がいるなら警察も、と思い
◆HE69LCK/Q6さんから魔女窯通りの設定を拝借して書いてみました。
行き当たりばったりで書いてしまったので、設定の読み違い等の粗があったらすみません。
576名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 05:38:34 ID:MkD79ORK
元◆HE69LCK/Q6ですが、最高! これぞ帝都のアンダーグラウンド。
やっぱり裏通りってのは日に三度はホームレスの死体が上がるぐらいじゃないとね(えー
空賊の流入による治安の悪化とか、自動人形の殴り合いの興行とか、もうそれだけでwktkが止まらん。
シェアードワールドスレである以上、設定使用や解釈にも特に断りはいらないかと。
自分としても妄想が刺激されるので、今後もドンドンやっちゃって下さい。
577名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 11:38:26 ID:oENQquUy
>>572
遅まきながら乙!
鉄道警備隊シリーズはひそかに楽しみにしてただけに、完結は寂しい……隊長かっこいいよ隊長
また新作で参加してくれるのを楽しみにしてます、お疲れ様でした!

>>573
やっぱり裏世界の話っていいなw
表面上は平和を取り繕ってるけど実は……って設定はなんかぐっと来るものがある
しかし「帝都警察」って響きがいいなあ
578 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/19(金) 12:18:38 ID:8S5wKD5P
投下します。
579 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/19(金) 12:21:01 ID:8S5wKD5P
 そこはゴールドバーグからやや離れた山にある鉱山跡。
 もう掘り尽くしてしまったために打ち捨てられた鉱山だが、長く採掘されて
いたために入り口部分が広く休憩所らしい小屋まで建っている。
 その小屋の中に、一人の少女が閉じ込められていた。
 幸いなことにまだ犯されたりなどはしていない。二、三回ほど頬を張られた
だけで済んでいるのは、少女をさらった連中が追っ手を必要以上に気にしてい
るからに過ぎない。
 今も全員で小屋の周囲を油断無く見張っている。何しろその追っ手というの
は神出鬼没にして大胆不敵、そして裏社会においては知らぬ者なき強者の一人
だからだ。
 少女をさらってきた者達、影踏み旅団はその追っ手を押し止めて時間稼ぎを
するために傭兵を雇って追ってを襲撃させているのだが、一体どれだけの時間
持ちこたえてくれるのかも分からない。
 旅団としてはさっさと依頼主に少女を引き渡してトンズラしたいのだが、約
束の時間まではまだ時間がある。急ぎすぎたために早く着きすぎてしまったの
だ。
「くそ、こんなに緊張する受け渡しは初めてだ」
「落ち着け。奴はそういう動揺を突くのも上手い。生き残りたければ、出来る
限り早く発見して先に殺すんだ」
 不安そうにあちらこちらで話す声が目立ち始める。彼らは以前に追っての男
を雇ったことがあるため、その恐ろしさを十二分に知っているのだ。
 警戒したまま十分、二十分と経ち、そしてついに約束の時間が来る。
 身なりの良い太った男が数人の男を連れて、馬車に乗ってやってきた。ここ
は数年前に打ち捨てられたとはいえ、元が鉱山のために道がしっかりと整備さ
れているので馬車でも簡単に通れるのだ。
 旅団の面々はその男を見て、ほっと息をつく。これで仕事は終わりだと、安
堵したのだ。
 馬車が、旅団の陣取る小屋へと近付く。
 そして、身なりの良い太った男が友好的に笑いながら、挨拶代わりに手を上
げたときのことである。
 それに気付いた者は果たして何人いたのだろうか。
 コロコロと黒い球状の物が静かに彼らの周囲に転がってくる。
 一つ二つではない。十、二十と転がってきて、それはやがて誰かの足に当た
る。
 足に当たった何かを確認するために誰かは足元を見て、そして目を見開いて
声を張り上げた。
「みんな、逃げ――――」
 声を掻き消す爆発が周囲を覆う。
 爆弾。魔法薬でも使っているのか、握り拳よりも二回りほど小さいにも関わ
らず、一つで人間一人を吹っ飛ばすほどの威力だ。
 そんなものが一度に二十も爆発したのだからたまらない。
 ごく近くで直撃し、やけどと衝撃で死亡したのは僅かに三人。だが、引き起
こされた混乱は致命的といえる。
 爆発に驚いた馬が馬車を引きずって走り始め、車輪を大きめの石に乗り上げ
させてしまい横転した。当然、馬車に乗っていた身なりの良い太った男は巻き
込まれて地面に投げ出され、全身をしたたかに打ちつけた上に地面をゴロゴロ
転がされてなにやらわめいている。
 幾人かは襲撃であることを看破し、周囲を警戒している。が、他は呆然とし
ていたり、怪我をした人物の手当てをしようとおろおろして何もできずにいた。
 こうなってしまっては、もう連携など期待できないだろう。
 剣を抜き、無精ひげを生やした壮年の男、旅団長は歯噛みする。
 この状況では同士討ちの危険が高すぎて銃など使えない。そして、剣を満足
に使える人物も限られている。完全に敵の狙いにはまってしまった。
580 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/19(金) 12:22:07 ID:8S5wKD5P
「風よ、切り裂け」
 冷たい声が響き、不可視の風の刃が数人の首を飛ばす。旅団長以外の全ての
冷静な対応をしようとしていた者達が、首から上を失い崩れ落ちる。
 もう、どうしようもない。大量に噴出している血に興奮したり、吐き気を催
してうずくまっているものも多い。統制を取り戻すのは不可能だろう。
 旅団長は嘆息交じりに声のしたほうを見る。
 どれだけ自信があるというのか。その男は自らの姿を隠すこともせず、馬車
が通ってきた道のど真ん中をゆっくりと歩いていた。
 大きな外套に身を包んだ男。
 身長は結構高い。大体、百八十チサン程度だろうか。その身長に見合った筋
肉で身を鎧っているのが、外套の上からでも見て取れる。
 恐ろしく鋭い目で全てを睨みながら、ジョン・スミスは悠然と進む。
 ジョン・スミスは普段は気の良い男だが、必要とあればどれだけでも冷徹に
なれることを旅団長は知っていた。
 そして、同時にその強さと、ジョン・スミスが好む戦法も良く知っている。
 苦しませること無く、一撃を以って即死させる。それを旨としているジョン
・スミスが狙うのは基本的には急所が多い。
 つまり、急所さえ守っていれば、反撃のチャンスくらいは生まれる可能性が
あるということだ。
「地よ、貫け」
 ジョン・スミスは外套の中から剣を取り出しながら、呟く。
 その言葉に反応するかのように、まるで槍が突き出されるように隆起した大
地がうずくまっていたり倒れたりしている者の心臓を穿ちぬく。
 悪夢のような光景が広がっているが、旅団長とジョン・スミスは全く動じた
様子もない。この程度、裏の深い場所では当たり前の光景だからだ。
「ふん、高い金をはたいて買ったんだがな」
 大きく溜め息をつき、旅団長は剣の腹に指を滑らせる。
 すると、指が通った場所に幾つもの文字や刻印が浮かび上がり、輝き始めた
。魔法具だ。それも、戦闘用に特化されたものだろう。
 淡々と近くにいる者の首をを剣で刎ねていくジョン・スミスへと、旅団長は
その輝く剣を向ける。
「さぁ、行くぞ。“バーンブレイド”」
 言葉と共に魔力の炎が剣を覆う。
 魔力を感知したジョン・スミスは、燃え上がる剣と旅団長を見てにやりと笑
う。大物を発見した狩猟者の笑みにも似ているか。
「随分と良い魔法具を見つけたもんだ。訓練も積んでるみたいだな」
「もちろんだ。可愛い団員を守るためだったが、流石にお前が相手ではこうな
る外ない」
「まぁ、もう少し手練れを準備しておくべきだったな。それか、俺が追ってい
ると気付いた時点であの子を引き渡せばこうはならなかったものを」
「高額の依頼だったのだ。これを果たせば、しばらくはあいつらに楽をさせて
やれるくらいには」
「だが、もう意味はない。死んでもらうぞ。影踏み旅団団長、カール」
「やってみるが良い、何でも屋。お前を討てば、それで釣りがくるくらいの栄
光と金が手に入るのだ」
 言い合い、お互いに笑う。
 元よりお互い死ぬことも殺すことも承知している。いつ殺されても良いよう
に常に覚悟を決めている。
 そうでなければ、これまで二人とも生きてはいられなかっただろう。
 ならば、認めた者に殺されることこそ本望。
 駆ける。剣を構え、相手を斬り伏せるために。
「炎の蜥蜴! 焼き尽くせ、“サラマンダー”!」
「ほう、名前を付けることで複雑な制御を簡略化したのか」
 旅団長カールは剣を降り、炎のトカゲを生み出す。それは大地をも溶かしな
がら這い、ジョン・スミスへと襲い掛かる。
 意志を持っているかのように飛び掛ってくる炎のトカゲを見て、ジョン・ス
ミスは笑う。
 楽しそうに。それはもう、本当に楽しそうに。
581 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/19(金) 12:23:48 ID:8S5wKD5P
「風よ、吹き散らせ」
 僅か一瞬だけ吹いた凄まじい突風。それを直撃させられた炎のトカゲは跡形
も無く蹴散らされてしまう。
 だが、それを見越していたのか、カールはそのままジョン・スミスに切りか
かった。
 むしろ、本命はこっちか。
 本職の騎士並に鋭い剣戟。魔法を使ってすぐのため、流石のジョン・スミス
も受けるので精一杯である。
 攻勢に回ったら手がつけられないジョン・スミスを守勢に回すことに成功し
たカールは、そのアドバンテージを失わないように攻め続ける。
 強い攻撃で距離を取らせるような真似はしない。
 繰り出しやすい袈裟斬りと逆袈裟斬りを繰り返すことで防御させ続け、なん
とか押し切ろうという魂胆だろう。
 もちろん、ジョン・スミスもそんなことはお見通しである。だが、何も出来
ない。
 相手が普通の野盗や少々強いだけの傭兵なら、ジョン・スミスは簡単に逆転
できる。だが、このカールが相手ではそう簡単にはいかない。
 もともとカールはどこぞの国の騎士団長を務めていたほどの人物だ。部下の
起こした不始末の責任を取るために騎士団から去ったが、しかしそれで鍛え上
げられた腕のよさが消えるわけではない。
 距離さえ取れればなんとかなるのだが、それを許すほどカールは甘くない。
 ここしばらく戦力的に近い相手と戦うことの少なかったジョン・スミスとし
ては、なかなかに新鮮な気分だ。
「く、ふ、ははははははははっ!!」
 笑うジョン・スミスを訝しみながらも、カールは袈裟斬りを放つ。
 今までで一番の攻撃。速度もキレも文句なし。だが、ジョン・スミスも今ま
でとは違う行動に出る。
 振り下ろされた一撃に対し、全力で打ち返す。
 火花が散り、甲高い金属音が響き渡った。
 無理矢理鍔迫り合いに持ち込まれたカールは、距離を取ることも、またさっ
きまでのように押し続けることも出来ず唇を噛み締める。
 技術面ではカールの方が上だが、身体能力面ではジョン・スミスの方が上。
 押し合いの鍔迫り合いではジョン・スミスに軍配が上がる。
 カールは巧みに体重をずらし鍔迫り合いから逃れようとするが、しかしジョ
ン・スミスはそれを見抜いて逆に押さえ込む。
 ぎりぎりと押し込まれていくカール。だが、黙ってやられるわけもない。
 真っ向から押してくるジョン・スミスに対抗しながら、なんとか剣の炎を制
御し始める。
「クッ……ほ、炎よ!」
「ちぃっ」
 舌打ちし、カールを弾いてジョン・スミスは距離を取る。
 至近距離で炎を使われた場合、防ぎようがないからだ。
 軽く炎を剣から噴き出させ、なんとか距離を取ることに成功したカールは苦
い顔をしてジョン・スミスを睨みつける。
 強引に勝機を奪われたのだ。カールとしてはなんとかまた優勢に回りたいと
ころだが、流石にもう先ほどの手はジョン・スミスには通じないだろう。
 そして、ジョン・スミスは正攻法で攻略できるような真っ当な相手ではない
のだ。
 ならば、取る方法は一つ。
 真正面からの大火力で押し切る。当然、団員や依頼者は全滅するだろうが、
ここで生き残るためには仕方がないだろう。
「炎の波よ! “ファイアウェーブ”!」
 この一回で魔法具そのものを使い潰す勢いでカールは周囲のマナを剣に取り
込み、その全てを炎へと変える。
 放たれた莫大な量の炎。ジョン・スミスから見ると、まさに炎の壁が迫って
くるようなものだ。
 これを避けるのは容易い。ジョン・スミスならば風の魔法でいとも簡単に避
けることができる。
 だが。
582 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/19(金) 12:24:23 ID:8S5wKD5P
「避けては、男ではないな」
 迫る炎を見ながら、ジョン・スミスは笑う。
 自らの敵を、称えるかのように。
「遍く降り注ぐ光に、我は命ずる。輝ける栄光の元に全てを打ち砕け、と。
いざや、その真なる力を持ちて、我が敵を打ち倒せ」
 恐るべき早口で唱えられた呪文と共にジョン・スミスから差し伸べられた手
の先から、強烈な光がほとばしる。
 強力な魔力による、半ば物質化した光。それは炎を押し止め、吹き散らして
カールへと伸びていく。
 諦めた顔をして目を伏せたカール。そんな彼と、そして彼の手にあった剣を
光は飲み込み、完全に消滅させた。
 跡形もない。強力な光の魔法により、細胞一つ残さず焼き尽くされてしまっ
たのだ。
 奇跡的に無傷な小屋と、ごく普通に全員を殺戮したジョン・スミス以外に無
事な者はない。
 その惨状を見て、ジョン・スミスは溜め息をつく。
「まずはここを処理して、その後であの子を小屋から出さないとな。流石にこ
のままではまずい」
 もう一度大きな溜め息をつき、血の匂いが充満する空間を見回した。
 魔法を使うにしろ、どこかへ持っていくにしろ結構な大仕事になりそうだっ
た。






「で、今更になって皆殺しにしたことを後悔してると」
「ああ。カールは良い飲み友達だった。それに、俺達ほど長くこの世界で生き
てる奴らはそういないからな」
「違いない」
 そこは帝都オーラムにある、一つの酒場。裏社会に生きる者達が集う、一種
の中立地帯だ。珍しくそこのカウンターに座り、ジョン・スミスはカイゼル髭
を生やしたマスターにブチブチと愚痴る。
 普段ならジョン・スミスはほとんどここによることはない。ここは表の酒場
とは違い、死の空気があまりにも濃密だからだ。
 今日生き残ることが出来た、だから浴びるように酒を飲む。明日生きていら
れる保証などないため、悔いを残さないために騒ぐ。
 一見楽しそうに見えても、その実これは死出の旅へと向かうための宴だ。
 ここでは誰も彼もが生き急いで死に向かう。ゆえにここは帝都で一番死に近
い場所。墓場でさえも、ここの死の匂いにはかなわない。
 ジョン・スミスが帝都で一番嫌いな場所、それがこの酒場だ。
 それなのになぜ足を運んだのか。それはここのマスターと話すためだろう。
「一時は隆盛を誇った影踏み旅団もこれで無くなった。今では新たな風が吹き
始めている。それでも、お前は変わらないな。ジョン」
「今更だな、マスター。俺は変わらないさ。長命種のように達観することも出
来んが、それでも変わらない」
「そうかい。新たな風が澱を乱さないように願ってるよ」
「そうだな。風は自由に空を駆けていれば良い。俺達のようなフリークスを刺
激するような馬鹿共がいないことを俺も願おう」
 カラン、とグラスの中の氷を揺らし、ジョン・スミスは後ろを横目で見た。
 新たな風、若き希望と絶望を持つ者達が、飽きを知ること無く騒ぎ続けてい
る。
 マスターと二人、帝国の闇の底で生きる者達は笑う。
 今日の夜は、まだしばらく続くようだった。
583 ◆zsXM3RzXC6 :2008/09/19(金) 12:25:14 ID:8S5wKD5P
投下終了です。
584 ◆xyCklmNuH. :2008/09/19(金) 21:06:36 ID:4Yjxlf0l
投下します。容量的にそろそろ次スレかな?
585祭りはまだ終わらない。 ◆xyCklmNuH. :2008/09/19(金) 21:08:03 ID:4Yjxlf0l
人が行き交い、喧々囂々とした熱気を持つ街があった。
ある者はただの通過点として、ある者はこの街で何かをなすため、ある者は情報を得るため。
様々な人や人以外、また物や情報が常に来訪し、去っていく。
鉄道網を血管に、蒸気機関車を血液に、そしてステーションを心臓として動き続ける街、
その街の名はマルエッソといった。


「とうちゃーく! ここがマルエッソの街だよ!」
隣で前にもまして明るく言うのはアリス。
旅が始まってからという物、いつでも機嫌がいいらしい。
騒がしい、というより少々うざったい。

「オルカ君、どうしたの? なんか難しい顔しちゃって」
満面の笑顔で問いかけるアリスに対し、左手で手を振りなんでもないことをアピールする。
明るいことはいいことだ。あえて水を差すことはないだろう。

そう思っているうちにも目の前のアリスはきょろきょろと頭を動かし、「あー」「おー」と言っている。
こうしてみると外見相応の子供に見えるから不思議だ。
しばらくして、アリスはこちらへと振り返る。

「あ、そうだ。オルカ君はお腹減らない?」
唐突にアリスが聞いてくる。だがその意見には俺も賛成だった。

「そうだな。だいぶ空いてきた」
「ふっふっふ。そう言うだろうと思いました。これからおいしいお店に行こうと思います!」
「あまり値の張る所はだめだぞ」
「大丈夫大丈夫。 安くておいしいビーンズスープ。一杯300ダガーなり」
まるで商人のあおり文句のように応え、あいかわらず高いテンションのままアリスは歩き出す。
慌ててついていきながら、街の熱気に俺もついついお上りさんよろしくきょろきょろしてしまう。
ここまで多くの人々が行き交う街など来た事がなかったのだから仕方がない、と心の中で言い訳する。

ベールで顔を隠した女性が露天を広げライオンの様な異人種が商品を見ている。
あちらこちらに横断幕のようにカラフルな布が張り巡らされ、レンガで舗装された道を荷車が通りぬける。
色々な屋台が建てられ、あちらこちらに煙が見える。
あらゆる場所が、人の熱気に包まれている。そんな錯覚を起こすほどの活気があった。

「オルカ君、すっかり田舎者丸だしねー」
アリスは振り返り、からかうような口調で話す。ここで認めなければきっとさらにからかってくるだろう。
ならば素直に認めるべきか。

「当たり前だ。俺は田舎者だからな。って、おい、前を見ろ」
「あ、ごめんなさい。 ……あ、そうだ。活気のある街はやっぱり犯罪も多くてね。スリとかに注意するんだよ」
「ああ、分かってるさ。例えばこういうのとかだろう?」
言いながら、ひょいとアリスから財布を盗った少女の腕をつかむと軽くひねる。
さきほどぶつかったときにスリ盗っていたようだ。

「いたた! なにすんだ! テメェ!」
年は多分16才位だろう。栗色の髪を肩口で切りそろえ、釣り目がち黒色の眼がこちらを睨む。
白いシャツとひざ下まであるスカートを着ている。割と綺麗な服なのは人ごみでも目立たないようにするためか。
肌の色は日に焼けたような褐色で、ある意味健康的なコントラストを映していた。
ぱっとみでこの少女がスリを行うような種類の人間にはみえない。
だが、その手に持ってるアリスの財布がすべてを物語っている。
その少女が悪態をついてくるが、無視することにする。

「それは、アリスこそ注意した方がいいんじゃないか?」
一見するとお互いジャレテいるような位置関係、その実完全にスリ少女の動きを止め、アリスに問いかける。
するとアリスは意地の悪そうな笑みを浮かべ、俺に視線を向け、言う。
586祭りはまだ終わらない。 ◆xyCklmNuH. :2008/09/19(金) 21:09:39 ID:4Yjxlf0l
「大丈夫、その財布はダミーだから。開けると音もなく爆発して両腕を吹っ飛ばす仕掛けなの」
「……おい。よかったな、おまえ。両腕が無事で」
どうやら俺はスリ少女の腕と未来を救ったらしい。
溜息を吐きながら言うとスリ少女から財布を取り上げ、アリスに返す。ついでにその少女から手を離す。

「いや、今の会話おかしくないか? その子供にどんだけ物騒なものを持たせてるんだ。……てか嘘だろ?」
そのスリ少女は手を放したにも関わらず、逃げもせずに突っ込みを入れてくる。まったく肝が据わっているな。
ま、その少女のいうことももっともだ。アリスは外見だけは14才ぐらいの少女にしか見えないのだから。

そんなことを考えていると、アリスは取り返したはずの財布をスリ少女に投げ渡す。
疑問符を浮かべるスリ少女に対し、たった一言を告げる。

「試してみる?」
そのときのアリスの表情を、俺はあえて見なかった。多分あまり人には見せたくない表情をしているはずだから。
そのスリ少女も何かを感じたのだろう。財布を素直にアリスに返す。
わずかに視線を下げ、不審と疑問を表情に浮かべている。

気持はわかる。この外見であの表情を見せることができる者はそういないだろうから。
スリ少女は数秒のためらいの後、あえて態度だけでなく言葉でも答えた。

「止めとく。まだ死にたくないからな」
「それがいいわね。後もしこれからもスリを続けるなら盗っても死ぬことのない金持ちに限ることね」
「いつもそうしてる。ついでに言うとあんた達がそう見えたんだよ」
「うーん。そうは見えないようにしてたんだけどな」
小首を傾げるアリスに対し、今度はスリ少女が苦笑する。

「あんた達には一種の余裕があるんだよ。ま、それがどこから来るか見破れなかったのは、あたしはミスだ」
「そうね。もうちょっと人を見る目を身につけておきなさいね」
「ああ、そうする。……それじゃあな」
立ち去ろうとする少女にアリスは声をかけ直す。

「あ、そうだ。お名前は? 私はティリアス。こっちはオルカ」
「……アリサ。じゃな」
そう一言言って、今度こそスリ少女は人ごみに消えていった。
それを見届けながら俺はアリスに向きなおり、一応聞いておく。

「逃がしてよかったのか?」
「この街にはああいう子も多いのよ。わざわざ捕まえようとは思わない。
あんな少女が牢獄にはいったら、どんな目に合うか分かったものじゃないし。
それともこの街にいるアリサのような子全員を更生させる余裕、私たちにある?」
「いや、ないな」
もちろん俺も同意見だ。しかし頷きながらも、納得できない部分もある。理性ではなく感情で、だ。
アリスはふと微笑む。その意味が理解できず、俺は疑問の表情を浮かべてしまった。

「うんうん。分かっていても納得できないか。オルカ君のそういう所、私は好きよ」
「……は?」
「さてさて、今度こそビーンズスープを食べに行きましょう!」
問い返しには答えず、アリスは今度こそ歩きだしてしまった。
あれはどういう意味なのだろうか。……いや、アリスの事だ。きっと言葉通りの意味だろうな。
俺は深く考えることを止め、アリスの後をついていった。
587祭りはまだ終わらない。 ◆xyCklmNuH. :2008/09/19(金) 21:14:50 ID:4Yjxlf0l
アリスの後を付いていくと、駅の近くにある屋台に出た。
アリスはさっさと並ぶと、ビーンズスープを注文する。

「はイよー。600ダガーになります」
恰幅の良い男が、手際よくビーンズスープを紙コップに注ぎはじめた。

アリスがさっきの財布から600ダガーを取り出すと、商人に渡す。
「はイ、毎度ありー」

俺たちは近くの出っ張りに座り、食べながら、行き交う人々を眺める。
あの店はなかなか繁盛しているらしい。今は13歳ぐらいだろう少年が2人分のビーンズスープを買っていた。

「あの少年はどこに行くと思う?」
俺は少年を何となく目で追いながらアリスに問いかける。

「ん? そうね。多分さっきの蒸気機関車に乗ってた子だろうから、ゴールドバーグ辺りじゃないかしらね」
「ゴールドバーグ? 元帝都だったところか?」
「そう。多分あの少年は、アカデミーで勉強するために蒸気機関車に乗ったのね」
「ほー。勉強熱心なのだな」
「学者っぽいタイプには見えないけどね。
あの子、真面目にやればそれなりにいい男になるんじゃないかしらね。
あ、そういえばオルカ君はあの年の頃から剣一本だったよねー」
「ほう、その言い方だとまるで俺が馬鹿だと言ってるみたいだが?」
「うん。そう言ってるから」
「おい」
「もちろん冗談だからね。って、ああ、ごめんごめん。オルカ君、怒らないでってばー」
俺は怒ったような表情をあえてしながら、周りを見る。
後ろで何やら謝ってるアリスがいるが、しばらくは無視しようと思う。

「ごめんってばー。とと、言い忘れてた。オルカ君、とりあえず7日間はここで過ごすから」
「……ん、どうしてだ?」
唐突な話題転換。あまりにもワザとらしい。それでも一応聞き返すことにする。
……俺のしばらくなんてこんなもんさ。

「この街は明日から3日間、花祭りがあるから。目一杯遊ぶためにはちゃんと宿屋とっておかないとね」
「……ま、遊ぶのは置いておくとして、花祭りとはなんだ?」
俺の疑問に対し、アリスは指を一本立て、くるくると廻しながら答える。

「昔はただの収穫祭だったんだけど、交易都市に変わってから別の意味になったの。
色とりどりの花を降らし、人々は昼夜問わず、街の中心やいたるところでお酒を飲んだり、
踊り明かしたりする。花は人を意味し、それを降らすことで様々な人々の交流を祝う行事になったの。
交易都市らしい行事よね」
すらすらと説明を終える。その説明を聞きながら俺は頷きを返す。

「なるほど、それは面白そうだな」
「そうでしょう。それじゃ、今から宿屋を取りにいくわよ。野宿はいやだからね」
「そうだな。久しぶりにまともな寝床につけるな」
俺たちは歩き出し、この街の華やかな喧噪の中に包まれていく。
そう、祭りはこれからだ。







投下終了。物語としては続きます。

今回はスリ少女が主人公です。マルエッソが面白そうなのでシェアってみた。解釈が合っているか不安だけど。
なんとなくアリスとオルカが出張ってますが、今回主人公ではありません。
588ついでに次スレ案:2008/09/19(金) 21:18:10 ID:4Yjxlf0l
このスレは惑星「ネラース」を中心にシェアード・ワールドを作ってみようというスレです。
シェアード・ワールドとは、共通した世界観で創作する亊です。
いよいよ2スレ目に突入し、さらに世界が広がっていきます。


前スレ
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220224897/

まとめサイト
ttp://sites.google.com/site/nelearthproject/

用語辞典
ttp://sw.dojin.com/cgi/html/



----------------------
容量的にそろそろ次スレかな?
次スレの1はこんな感じでいい?
たたき台として使って下さい。
589名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 22:11:00 ID:oSTwmcH/
>>561-567
 投下乙です。こういう展開になるとは。
 いやー面白いですね。他の設定との絡みに期待です。
 シェアードワールドの醍醐味を地で行ってますね。

>>568-572
 連載終了乙です。お疲れ様でした。次回作にも期待しています。
 本部長は以外にいい人っぽいですね。
 鉄道警備隊シリーズ第二弾をやってくれると私は幸せなのですが。

>>573-574
 こういうアンダーグラウンドな感じはいいですね。主人公達もかなりのワルのようです。
 そしてギャングスターという響きがいい。
 マイナーなんで知らないと思いますが「L.A. コンフィデンシャル」みたいな話を勝手に期待してます。

>>579-583
 ジョン・スミス来ました。彼が登場するのはもう何作目でしょうか。スターですね。
 魔法の戦いは始めてですね。魔道具設定が生かされています。
 思ったんですがカイゼル髭ってこの頃よく出ますね。

>>584-587
 マルエッソが本格登場。面白そうな舞台になりそうです。
 アリスは年の功で知識は豊富そうです。いい説明役を果たしてくれそう。
 祭りでスリ少女と再開しそうな予感。

>>588
 テンプレ乙です。

平日なのに凄い勢いですね。1000にはまだ遠いにもかかわらず、そろそろ次スレというのは、投下率の高さを物語っています。
590 ◆p1FpJ5dSKk :2008/09/19(金) 23:23:52 ID:oSTwmcH/
投下します。
思い切って大胆な事を書きました。
ちょっと問題があるかもしれませんが、よろしくお願いします。
591改革の日 ◆p1FpJ5dSKk :2008/09/19(金) 23:24:21 ID:oSTwmcH/
 その日ライサンダーが夜更けまで庁舎に詰めて事務をしていると、火の玉が
帝都へ近づくのが見える。驚いて尚よく見ると、それは巨大な機械蜘蛛が火を
噴きながら向かっているのである。あわや西端に達しようという所で動きが止
まった。帝都はあたかも眠る人が冷水を浴びせられたような騒ぎである。徹夜
の事務に追われながらライサンダーは嫌な予感がした。
「防衛部隊は何をしていたのか、保安局は何をしていたのか。己(お)れなん
ぞは見ていただけだ。なぜ防げなかった。これはおかしい」

 帝都の西部に一際大きな建物がある。堅牢な石材で五階建てに建てられたこ
の庁舎は帝国保安局である。通信傍受による情報収集と分析が主な任務で、帝
国の各情報部と連携し、軍務省のもとで国家情報活動の統合を行う機関である。

 市街地の向こうに広く景色を見渡すことの出来る自室で、ロビン・ライサン
ダー大佐は机に足を乗せてくつろいでいた。昼休みである。最近帝都で流行し
ている娯楽小説を読む。子供なら二人に一人が読んでいると言われる程の人気
で、大人にも愛読者は多いそうである。
 ライサンダーは今年二十五になるが、端正な顔立ちがより若く見せる。もし
かすると学生と見紛う程である。貧しい家庭で育ったが、両親が苦しい生活を
切り詰めて学校へだけは行けた。推薦で入った陸軍大学校で学業を成して、今
では上流階級の仲間入りをしている。田舎の両親へは毎月多額の仕送りをして
いるのである。
 狐のように細い目が賢しげに小説を眺めている。ごく普通の集中力で、話の
要点や作者の意図を掴んで記憶することが出来た。随所に帝国の政治を批判す
る思想が見えるが、巧みに作品と調和していて少しも棘がない。
 目で笑っていたライサンダーの表情が窓の外を見て曇った。先日の事件を思
い出したからである。 そこへ扉を叩くものがある。ライサンダーは机から足
を下ろして中へ招いた。課長である。
「ライサンダーさん、お休みの所すみませんが何分あなたに頼むのが一番いい
と思いまして」
「わたくしに頼み事ですって」
「クワシュニンさんのことです。尾篭な話で恐縮ですが、便所に行ってみると
吐瀉(としゃ)に血が混じっているのです。お休みになってくださいと言って
も一向お聞き入れになりません、あなたから一つ言って下さい」
「それならこう申し上げればいいのです。情報局の副長がそんな反吐を吐いて
いたら、それが他に伝染しては困るから、反吐が出なくなるまで引っ込んでい
て下さいと申し上げればいいのです」
 ヴィクトル・クワシュニン中将とは、陸軍大学への推薦と学費まで出資して
もらったのが縁で以来親交を深くしている。二人の友情の厚いことは局内では
有名な話である。
 ライサンダーは懐中時計を取り出して、「わたくしはこれから出ますので、
失礼致しますね」と言う。
「今日も例の探偵のところですか」
「先の事件の第一功労者ですからね。今日こそは会えるといいのですが」
「無礼な助手がまだ頑張っているのですか。子供に門前払いとあってはまた陰
口が増えますよ、手厳しくおやりになったらどうです」
「子供のすることです、わたくしは辺境育ちですからあれくらいの時分には
もっと乱暴なことをしましたよ。それに子供ながらに迫力があってどうも無理
強いは出来ません。陰口を叩く奴には好きなだけ叩かせておけばいい。あなた
のお気遣いはうれしいのですが、わたくしは存外平気なのです」
「そんなもんでしょうか。助手の方も案外侮れませんね、根性がある。少なく
とも長官殿よりはあります。あの事件以来始終おびえていますよ、今度失態を
見せれば首が飛びかねませんからね。あなたに嫌味を言う元気も無くして、俗
物でもああなると哀れなものです」
「そう言うものじゃありません。彼とて職務を全うしていますよ」
「そんなもんでしょうか。私としてはクワシュニンさんが長官になった方が余
程円滑に職務が全うされると思います。無実の探偵を指名手配したのだって長
官の仕業と言うじゃありませんか、何を考えていたのやら」
 ライサンダーは顔色が変わった。
「そのことはあまり言いふらさない方がいいでしょう」
「そんなもんでしょうか」
592 ◆p1FpJ5dSKk :2008/09/19(金) 23:24:50 ID:oSTwmcH/
 ライサンダーは古びた事務所の戸を叩いた。慌しい音と共に少女が顔を出す。
助手である。
「何だ、またあんた」
「先生はまだお体が優れませんか」
「今日から営業再開だよ。ほらそこに」と言って少女は入り口に立ててある板
きれを指した。かすれた字で「クリストファー探偵事務所 営業中」と書いて
ある。「だけど残念だったね、旦那は猫探しで留守だよ。また出直しだな大佐
さん」
「いいえ、今日はお帰りになるまで待ちます。お嬢さん、僕はどうしても先生
とお話がしたいのです」
 少女はライサンダーの顔を注視してすぐに目をそらした。
「上流階級の人はお世辞が上手いね、お嬢さんだなんて。待つんなら中へ入り
なよ、勘違いしないでね、外に突っ立ってられると商売の邪魔なんだから」
「お言葉に甘えまして」
 ライサンダーは軍帽を取って辞儀をして中へ入った。そして古びたソファー
に座ってからは一言も話さない。少女が時折沈黙に耐えかねて話しかけるが二
三言葉を交わしただけで会話が途切れるので、とうとう諦めて流行の娯楽小説
を読み始めた。読みながら、あんたはこんなものとは無縁だろうななどと思っ
ている。
 二十分ほどでクリストファー探偵は帰ってきた。ライサイダーの姿を認める
や否や、剣呑な態度をあらわにする。
「軍人が何のようだ、罪は濡れ衣だとわかったはずだが」
 助手が外套と帽子を受け取りつつ耳打ちする。
「三日前から毎日来てるの。旦那とどうしても話したいって」
「聞いてないぞ」
「旦那は寝てたからね、聞かれなかったし」
「何もされなかったか。どうもあの一件以来、軍人とか憲兵とかいうものはま
すます信用できなくなった。つまりは政府に対する不信だな。おまえは奥に下
がっていろ」
「了解」
 助手は奥の部屋へ出て行く。クリストファーは向いのソファーに座った。
「はじめまして、わたくしはロビン・ライサンダーと申します。この度の不手
際は面目しだいもありません。今日は謝罪に参りました」
 ライサンダーは懐から茶封筒を差し出した。
「お納めください」
「その代わりこの前のことは内密に、か。俺は済んだ事にはこだわらない主義
だ、誰にでも手違いはあるしな。それにあんまりうるさく言うと命が危ない。
おとなしく受け取っておくよ。しかしあんたは若いの大変だね」
「職務ですから」
「ここへ来たのはまさか謝罪の為だけじゃないんだろう。あんたらだって上層
部に相当裏切り者がいることは分かってるはずだ。そうじゃなきゃ、あれほど
の兵器が作られるのに気づかないはずはないからな。
 俺が知っているのは政府の高官が手引きしていた事、カイゼル髭の男が実行
の指揮を取っていた事だけだ。あんたらもそのくらいは掴んでいるだろう。話
は終わりだな」
 思っていたより怜悧な男である。
「あなたはなぜあそこにいたのですか」
「なぜか、それは俺が聞きたいくらいだ。なぜあんたら軍人じゃなく俺がいた
のか。……ジョン・スミスという男に聞いた。カイゼル髭と政府高官が何か企
んでるとな。もう死んでいるかもしれん。
 それで覚えのない罪で帝都を追われながらも、陰謀を防ぐために奮闘し見事
機械蜘蛛をとめてやったと言うわけさ」
「面目ありません」
 ライサンダーは嫌味気なしに折れて出た。ジョン・スミスという名には聞き
覚えがある。何でも屋をしていて、時折政府の仕事も受けている。魔法の神手
であるらしい。
「ありがとうございました。今日はこの辺で失礼します。もう、あなたが狙わ
れることはないと思いますが一応身辺には注意して下さい」
593改革の日 ◆p1FpJ5dSKk :2008/09/19(金) 23:25:46 ID:oSTwmcH/
 ライサンダーは古びた事務所の戸を叩いた。慌しい音と共に少女が顔を出す。
助手である。
「何だ、またあんた」
「先生はまだお体が優れませんか」
「今日から営業再開だよ。ほらそこに」と言って少女は入り口に立ててある板
きれを指した。かすれた字で「クリストファー探偵事務所 営業中」と書いて
ある。「だけど残念だったね、旦那は猫探しで留守だよ。また出直しだな大佐
さん」
「いいえ、今日はお帰りになるまで待ちます。お嬢さん、僕はどうしても先生
とお話がしたいのです」
 少女はライサンダーの顔を注視してすぐに目をそらした。
「上流階級の人はお世辞が上手いね、お嬢さんだなんて。待つんなら中へ入り
なよ、勘違いしないでね、外に突っ立ってられると商売の邪魔なんだから」
「お言葉に甘えまして」
 ライサンダーは軍帽を取って辞儀をして中へ入った。そして古びたソファー
に座ってからは一言も話さない。少女が時折沈黙に耐えかねて話しかけるが二
三言葉を交わしただけで会話が途切れるので、とうとう諦めて流行の娯楽小説
を読み始めた。読みながら、あんたはこんなものとは無縁だろうななどと思っ
ている。
 二十分ほどでクリストファー探偵は帰ってきた。ライサイダーの姿を認める
や否や、剣呑な態度をあらわにする。
「軍人が何のようだ、罪は濡れ衣だとわかったはずだが」
 助手が外套と帽子を受け取りつつ耳打ちする。
「三日前から毎日来てるの。旦那とどうしても話したいって」
「聞いてないぞ」
「旦那は寝てたからね、聞かれなかったし」
「何もされなかったか。どうもあの一件以来、軍人とか憲兵とかいうものはま
すます信用できなくなった。つまりは政府に対する不信だな。おまえは奥に下
がっていろ」
「了解」
 助手は奥の部屋へ出て行く。クリストファーは向いのソファーに座った。
「はじめまして、わたくしはロビン・ライサンダーと申します。この度の不手
際は面目しだいもありません。今日は謝罪に参りました」
 ライサンダーは懐から茶封筒を差し出した。
「お納めください」
「その代わりこの前のことは内密に、か。俺は済んだ事にはこだわらない主義
だ、誰にでも手違いはあるしな。それにあんまりうるさく言うと命が危ない。
おとなしく受け取っておくよ。しかしあんたは若いの大変だね」
「職務ですから」
「ここへ来たのはまさか謝罪の為だけじゃないんだろう。あんたらだって上層
部に相当裏切り者がいることは分かってるはずだ。そうじゃなきゃ、あれほど
の兵器が作られるのに気づかないはずはないからな。
 俺が知っているのは政府の高官が手引きしていた事、カイゼル髭の男が実行
の指揮を取っていた事だけだ。あんたらもそのくらいは掴んでいるだろう。話
は終わりだな」
 思っていたより怜悧な男である。
「あなたはなぜあそこにいたのですか」
「なぜか、それは俺が聞きたいくらいだ。なぜあんたら軍人じゃなく俺がいた
のか。……ジョン・スミスという男に聞いた。カイゼル髭と政府高官が何か企
んでるとな。もう死んでいるかもしれん。
 それで覚えのない罪で帝都を追われながらも、陰謀を防ぐために奮闘し見事
機械蜘蛛をとめてやったと言うわけさ」
「面目ありません」
 ライサンダーは嫌味気なしに折れて出た。ジョン・スミスという名には聞き
覚えがある。何でも屋をしていて、時折政府の仕事も受けている。魔法の神手
であるらしい。
「ありがとうございました。今日はこの辺で失礼します。もう、あなたが狙わ
れることはないと思いますが一応身辺には注意して下さい」
594改革の日 ◆p1FpJ5dSKk :2008/09/19(金) 23:26:28 ID:oSTwmcH/
「むしろあんたの方が注意しないといけないんじゃないか」
 ライサンダーは目で笑った。「肝に銘じておきますよ」
「あんたはまともそうだ、捜査も大事だが命も大事にしろよ。名前をよく聞い
てなかったな、何といったっけ」
 話は急に親密さを増す。先輩が後輩を気遣うような物言いをする。
「ロビン・ライサンダーです」
「俺はウィリアム・クリストファー。今の仕事をやめたくなったら俺のとこに
来なよ、助手は足りてるがいい仕事を紹介してやる。俺はこの辺りじゃ顔が利
くんだぜ」
 仲のいい友だちに話すような口調である。それが少しも不快ではない。この
男には人と友情を結ぶ天才的な才覚があるらしい。ライサンダーは覚えず微笑
した。
「それはどうも」
 二人は自然と握手を交わしていた。
 ライサンダーが事務所を辞そうとすると、血相を変えて飛び込んでくる男が
ある。憲兵である。
「ライサンダー大佐、やはりこちらでしたか。緊急事態です、外に車を待たせ
ております、ともかくおいで下さい」

 その三十分ほど前、軍務長官メドグリーゼンはひどく緊張しながら皇帝との
謁見に望んでいた。 当初のクーデター計画が失敗し、彼は追い込まれていた。
まだ証拠こそ見つかっていないものの、憲兵隊と保安局が総力を挙げて反逆者
のあぶり出しにかかっている。防衛部隊に動かぬよう指示をだしていた事が知
れたら死罪である。
 メドグリーゼンはこれから皇帝を暗殺するつもりである。例え成功しても自
分は忽(たちま)ち殺される。メドグリーゼンは覚悟している。後の事は他の
ものが上手くやってくれるだろう。帝国を影から操る「上」の指示だった。
「上」が言うには帝国に新しい風を吹き込むのだということである。クーデター
に加わるものには重要な地位が与えられる。首謀者であるメドグリーゼンには
皇帝の位が用意されていた。しかしメドグリーゼンが皇帝を弑(しい)するの
は権力欲の為ではない。愛国心のためである。クーデターが成功しなければ「上」
は帝国を滅ぼすと言う。例え逆臣の汚名をきようともそうさせるわけにはいか
なかった。苦渋の決断であった。
「陛下、内密の話がございます。人払いを」
 衛兵が下がる。メドグリーゼンは忠義と愛国心の葛藤を振り払い、目を見開
いた。
「申し訳ありませぬ」
 メドグリーゼンは一声叫んで、懐から取り出した小刀を突き出しつつ玉座へ
進んだ。そして皇帝の胸元へ振り下ろした。
 振り下ろす右手を皇帝が恐るべき速度と精密さで掴んだ。メドグリーゼンは
仰天した。どんなに力を入れても微動だにしない。皇帝が肩に手をかける。そ
れだけで全身が動かない。メドグリーゼンはうめき声を漏らした。
 短剣が腹に刺さる。右手を掴む皇帝の腕に従って、短剣が腹部を切り裂いて
いく。致命傷である。皇帝が手を離すとメドグリーゼンは玉座の前に倒れた。
「メドグリーゼン、お前は失うに惜しい人材だ。それ故にクーデターの指揮を
任せられるのもお前しかいなかった。お前の功労を称えて、最後に教えてやろ
う。私は機械だ、上を統括するマザーコンピュータの端末に過ぎん」
 皇帝の言葉にメドグリーゼンはひどく打ちのめされた。目には涙がにじみ、
絶望のうちに息を引き取った。
「ありがとう、メドグリーゼン。百五十年のうちにたまった膿を出し、新しい
風を吹き入れることが出来る。真に実力あるものがその正当な地位につき、帝
国は更なる発展の時代を迎えるだろう。私の支配の下でな」
 皇帝グラーニンは古代文明の魔法・科学技術の粋を集めて作られている。大
気中のマナと原子力による永久機関で動き、体はオリハルコンを主体とした合
金である。マザーコンピュータはこのロボットを使って、帝国を実質的に支配
しているのである。

 ライサンダーは宮殿の会議室へ通された。中には軍務副長官、憲兵司令官を
はじめ軍部の高官が並んでいる。随分人が足りないと思いながら、「何事です
か」とライサンダーは物怖じもせずに訊ねた。マキャヴェッリ軍務副長官が答
595改革の日 ◆p1FpJ5dSKk :2008/09/19(金) 23:27:56 ID:oSTwmcH/
える。
「メドグリーゼン軍務長官がクーデター計画を皇帝陛下に申し上げて自害した。
保安局長官も容疑者だ。クワシュニン副長官は病状が悪く指揮は任せられんの
で、君が臨時の局長に任じられた。直ちに保安局を掌握したまえ」
 ライサンダーは飛んだ事になったと思った。
「承りました。状況はどうなっていますか」
「主だった反逆者はメドグリーゼンの口から知れている。今憲兵隊が拘束に向
かっている所だ」
 マキャヴェッリは机においてある資料を手渡して、
「メドグリーゼンが持っていた。徹底的に調べ上げて計画の全貌を明らかにし
ろ」
 長居は無用だと思った。心の内に大役を遂行する使命感が湧いて来る。ライ
サンダーは敬礼をして保安局へ急行した。


 国家反逆罪の容疑で逮捕されたのは、行政府・軍部の高官を合わせて三七人
に上る。これらは全て皇帝グラーニンによって不要と判断された人間である。
コネクションなどで成り上がった、実力に乏しい人間が多数を占めた。政府内
に根付いていた旧派閥はこの日瓦解したのである。
 辺境出身の、有能でありながら派閥に敵視されて日の目を見なかった人材が
登用され、要職に抜擢されるものもある。実力の高いものは昇進して上層部の
穴を埋めた。
 ロビン・ライサンダーは保安局を的確に指揮した功績は大として、少将に昇
進し副長官に任ぜられた。ヴィクトル・クワシュニンは中将から大将へ進み、
保安局長官となったが、国家の大事に動けなかったのを恥辱として頭を丸めた。
パリス・マキャヴェッリは元帥になり軍務省長官を務めることとなった。

     追記、帝国保安局より発せられたる緊急伝令。
 皇帝ヲ弑逆セントスル国賊ヲ捕縛セリ。其ノ名簿ハ下記ノ通リデアル。
 一、軍務長官 ドミトル・メドグリ−ゼン元帥 自害ス
 二、財務長官 フェルディナント・ヴィッターハウゼン
 三、保安局長官 アレクサンドル・キュフナー大将
 四、陸軍長官 ヴォルフガング・レーマン上級大将
 五、財務次官 ハルトムート・サムソノフ
 (以下略)

-----
作者解説
解説がある時点でアレなんですが、一応。

保安局:特務情報局がCIAなら保安局はNSAって感じです。特務の人たちは体使って
現場に出向いて情報収集するわけですが、保安局は通信傍受だけのデスクワーク
派です。情報のまとめ役で、局長がいろいろな機関の集めた情報を整理して毎日
皇帝に報告することになっています。

通信:通信をありにするかは迷ったんですが、情報伝達に便利かなと思って出し
ました。「天空の城ラピュタ」に出てくるような、モールス信号みたいなもので
の電信を考えています。
596名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 23:42:33 ID:8S5wKD5P
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1221835112/

新スレができました。
こちらの方が早かったので、こちらが本スレかな?
597名無しさん@お腹いっぱい。
祭り話、テンプレ作成、改革話、それぞれ投下乙です。
保安局って話を見る限り、NSAよりはFBI寄りって感じがしたのは気のせい?
国内の治安維持に関わって、実際に動いてたっぽいし。
それに通信設備が脆弱な世界だと、NSA系の組織はあんまり動く機会なさそうなイメージが。