「ふふふ…楽しみだなぁ」
そこは深い深い闇の中。
「そう」
光も届かぬその場所で、静寂を乱す存在が二つ。
「君はそう思わないかい?」
一つの言葉は喜びの色を。
「ユニーク」
一つの言葉は無機質な色を。
「それは良かった。共同作業である以上お互いが楽しめるものにしたいしね」
二つの色は溶けるように混ざり合い。
「……」
空間を塗り潰し。
「役者は揃った。それじゃあ始めよう……愉快な催し物を」
やがて世界を塗り潰す。
支援ー
ksk
ksk
地獄のksk
ksk
ksk
ksk
ksk
◆
ざわ…ざわ…ざわ…
突然、と言っても良いのだろうか。まぁとりあえず突然だ。せめてもの休みを満喫しようと、柔らかな布団の上で惰眠を貪っていた俺の周りで
微かなざわめきが起こっている。どうせまたハルヒ絡みなのだろう。慣れてきたとは言え、いい加減にしてほしいもんだ。
正直に言えば起きたくはない。だが……このまま起きなければ、ほぼ100%罰ゲームだの何だのと面倒くさい事になり、確実に被害を被ってしまう。
休みすら貰えない運命を嘆きつつ、まだ寝惚けている脳内をシェイクして強制起動しながら起き上がる。
さて、ハルヒの奴はどこに居やがる?今日ばっかりは文句を言ってやろうと辺りをグルリと見渡す。
……は? いやいやいやいや俺はまだ夢の中にいるのか? そう思いギュッと頬を抓る。だが、断続的に襲い繰る痛みは、目の前
の光景が現実だと如実に伝えてくる。
頭の中は疑問符のバーゲンセール状態だ。何故? どうして? おかしくない? ここはどこ?
――おっと、あまりの衝撃に思考がオーバーヒートしちまってたみたいだ。
ありのままに起こった事を話そう。『またいつもの馬鹿騒ぎだろうと思って周りを見たら、そこには怪獣のオンパレードだった』何を言ってるか分からないと思うが
俺も何がどうなったのか分からない。幻とか催眠術だとかそんな物じゃあないもっと恐ろしい物の片鱗を感じたんだ。
不気味な外見の一つ目モンスター、なんか餅みたいな奴、カンガルー、仮面を着けたレスラー、巨大な怪物、そして……蛙人間?
ともかく、明らかに一般人でない奴らが周りにいたんだ。
成る程、どうやら俺はファンタジーの世界に紛れ込んじまったらしい。いや、有り得ないって。
どうやら周りの怪物達も同じ事を考えていたらしい。
――ゲロー!!? いったいここはどこなのでありますか?冬樹殿ー!!
――ちょっと!一体どこなのよここ!?
――ドゥオ、ドゥオ、ヴォローーーーー!!!
口々に叫びをあげ、怒りや混乱を露にしている。ちょっと待て、最後のはおかしいだろ。
そんなざわめきに答えるものは無く、辺りの雰囲気は次第にざわめきから不安へ、不安から喧騒へとシフトチェンジしようとしている。
そして喧騒がさらにシフトチェンジしようとした瞬間――
「やぁ。待たせてしまってすまないね」
「……」
空間の奥。そこから一人の男と一人の女が姿を現し、その部分から光が溢れ出す。
声を発したのは男の方。場の空気など全く読めていないのだろう。極々あっさりとした謝罪の言葉を漏らす。謝る部分が違うと
思うのだが、突っ込んでいるどころじゃない。
眼鏡をかけた中肉中背の男。こいつが俺達をここまで連れて来たのだろうか? 一体どうやって?
何の変哲もない普通の男の言葉に、がやがやと場が乱れる。同時にこんな場所へ連れて来られた怒りが場から噴き出していくようだ。
だが俺は、全く言葉を発することが出来なかった。
男と一緒に姿を現した女。見間違う筈もない。その女は我らがSOS団の団員、長門有希だった。
おいおい、何やってんだ長門。何でお前がそこに立ってるんだ? 確かにお前なら皆をここに連れてくるのも可能だろうが、ちょっとやりすぎだろ。
何なんだよあの怪獣達は。またハルヒ絡みの何かなのか?それなら俺がハルヒを説得してやるから、とりあえず家に帰してくれ。
あらん限りの思いを込めた言葉は、発せられる事は無かった。
「これから、あなた達には殺し合いをしてもらう」
ksk
ksk
ksk
私怨
ksk
ksk
「そう言う事。これから詳しいルールを説明するから、ちゃんと聞いておくんだよ?」
無機質な言葉を引き継ぐのは先程と同じ。極々あっさりした言葉に俺も、一同も言葉を失う。
それを了承の意と受け取ったのか、二人は言葉を続ける。
「ゲームマスターは僕、草壁タツオと、隣にいる長門有希だ」
「そう」
「ゲームのルールは単純。君達全員が殺し合って、最後に生き残った人が優勝。どうだい? 単純だろ?」
最悪だ。こいつらは何を言ってるんだ? 長門も、そこは同意してないでそのおっさんを止めるんだ。大体殺し合いって……有り得ないだろ! 冗談にしても笑えなさすぎる。
「それは、どういう事かな?」
かつんと、群衆の中から靴音を鳴らしながら一人の銀髪の少年が言葉を発する。まぁそりゃ聞き返したくもなるよな。いきなり連れて来られて、おっさんと
少女に殺し合え言われる。今時の若者ならキレて殴りかかるかもしれんぞ。長門なら大丈夫だろうが……あ、いや、長門とやりあったら間違いなくやられるだろ。
筋骨隆々ってわけでもない、且つ長門みたいに異能の力があるわけではなさそうだし……っていうかあってたまるか!
「確か君は……渚カヲル君だね? どういう事も何も、言葉どうりの意味だよ。これから君達には殺し合いをしてもらう。何か不満かい?」
当たり前だろ!! 誰もがそうつっこみたくなったに違いない。このおっさん、頭がおかしいのか? さっきから言ってることがむちゃくちゃすぎるぞ。
「生と死は等価値なんだ、僕にとってはね。だから死ぬのは怖くな――
ポンッ、という軽い音が少年の言葉を遮る。
「……有希君か、ありがとう。立場を理解させるには良いパフォーマンスだ」
「いい」
こいつらの言葉が耳をすり抜ける。今、何が起こった?
銀髪の少年の、首が、爆発した?
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
まるで鞠のように、さっきまで喋っていた少年の首が飛び跳ねていた。
ぐちゅぐちゅになり焦げて黒くなった断面が近くに居た少年の目に映る、衝撃で吹き飛んだ眼球が少女の体にぴたりとくっつく、濃厚な血の匂いと
人肉の焦げる匂いが辺りに充満する。有るべきものを失い、一際濃厚な死臭を放つ窪んだ眼窩がこれは夢ではないと、現実なんだと告げる。
空間を阿鼻叫喚が木霊する。怒号が、悲鳴が、叫び声が、コーラスの如く辺りに響いている。
一体、何なんだよ。さっきの少年は明らかに生きていた。作り物の人形とかそんなものではなく、生きていた、本物の人だった。それを、こうもあっさり、あの長門が? 自分が
傷つきながらも朝倉から俺を救い、何かある度に俺を助けてくれた長門が? 何で? 一体どうしてっ!
その問いに答えは無く、二人は淡々と口を開く。
Ksk
kカヲル君が
s支援
kかもしれない
ksk
kskゲロー
kカヲル君が
s死んじゃうのは
k決まっていたことなのです
「今のでわかっただろうけど、君たちの首輪には爆弾つきの首輪が嵌められている。これは僕らの任意で爆発させる事が出来るから気をつけてね? くれぐれもさっき
の子のように説明の邪魔をしない事」
「首輪の爆発条件は三つ。一つは私達への反逆。二つは私達が指定する禁止エリアへの侵入。三つは無理に外そうとする。これをしなければ、爆発はしない」
「あ、君達には一人一つデイバッグが支給される。その中には殺し合いを円滑に進めるための支給品や、細かいルールブック、地図や食料等が入っているから
チェックしておいたほうが良いよ」
「私達は、放送を使って死者の名前と禁止エリアを発表する」
「デイバッグの中には紙と鉛筆が入っているからメモすると良い」
「そう」
「さてと、こんなものかな? あぁ……これだけじゃやる気が出ないだろうから、僕からもう一つ、優勝者にはご褒美をあげよう。死者の蘇生だろうと何だろうと、叶えてあげる」
先程の少年の二の舞になるのは嫌なのだろう、誰も口を開こうとしない。当然だ。あんな光景を見せられて喋れるわけが無い。
『ご褒美』の件では反応を示した奴も居たが、口を開こうとはしない。静寂の中、辺りには二人の声だけが響いている。
そう言えば、あの長門が良くここまで喋ってるものだ。あぁ……長門、一体何でこんな事を始めちまったんだよ? ハルヒと、俺と、お前と、小泉と、朝比奈さんと、鶴屋さんや
谷口とか、皆で過ごしたあの日常を、お前は忘れちまったのか?
長門。お前は――
「さぁ、始めよう!精一杯頑張ってくれ」
言葉と同時、その場に居た参加者の姿がかき消える。
kskアニメキャラバトルロワイアル 開幕
【渚カヲル@新世紀エヴァンゲリオン 死亡確認】
ksk
k カヲル君がまた
s 死んじゃったよ
k カワイソス
kカヲルくんが
sさっそく
k殺されたようです
kカヲル君の
s存在は
kこのロワじゃ・・・そういうことなのさ・・・
◆
「ふふふ……これは面白い面白いネタになりそうだ」
誰も居なくなったはずの空間に男の声が木霊する。
「そう」
女の声は相変わらず無機質な色で。
「でも……良いのかい?」
何かを秘めた男の声は喜びと不安の色を映す。
「いい」
女の声に秘めた思いは映らず。
「それなら、良いんだけどね……あ、こんなのどうかな? カヲル君の首ボール! 中々お洒落じゃない?」
男は無邪気に笑い。
「……ユニーク」
女はただ頷く。
「だろう? あぁ、年甲斐も無くわくわくしてきたなぁ」
ふと男が消え。
「そう」
女も消え。
「彼らはどんなものを見せてくれるかな?」
後には、闇だけが残される。