多分、十代後半くらいだと思う。全体にほっそりとした造り。とても肌の色が白くて、
日本人離れした感じ。黒くて長い髪を後ろでまとめていて、きれいに整ったその顔立ちが
とても印象的な人だった。
きっとあたしは、穴が開くほどその人のことを見つめていたんだと思う。それに
気づいたのか、彼女は読んでいた本から顔を上げ、こちらに視線を投げかけてきた。
まさかそんなことになるとは思いもしなかったあたしは、すっかり動転してしまい、
その場に立ち竦んでしまった。
距離はもう五メートルとない。
「ごめんなさい」
とっさにあたしの口から飛び出したのは謝罪の言葉。
「なんで謝るの」
「だって、ずっと見てたから」
彼女がくすり、と笑う。
「ね、本は好きかな」
「まあ好きですけど」
「じゃあ、この本貸してあげる。おもしろいから」
「え?」
何を考えているのかわからなかった。ほとんど初対面も同然の相手に、今まで自分が
読んでいた本を差し出すなんて。
「毎日リハビリしてるんでしょ。今度通りかかった時にでも返してくれればいいから」
「でも、悪いですよ」
「だいじょうぶ、私はもう何十回も読んだから。そうだな、もしよかったら、感想でも
聞かせてくれると嬉しいかも」
「その、感想は──苦手かな」
「ふふっ、そんなに構えないでよ。別に学校の宿題とかじゃないし」
なんて柔らかい笑顔なんだろうと思った。まるで殺風景なHCUが、春の花園に
変わったような気がする。
「どんな感じだったかとか、印象に残った台詞とか、登場人物に共感できたかとか、
まあそんなところ」
そう言ってから、不意に不安そうな表情を浮かべる。
「ダメ、かな」
卑怯だ、それ。そんな顔されたら断れるわけない。
「努力はしてみます」
「ありがとう、優しいのね。お名前は?」
「咲夜です、柊 咲夜」
「へえ、咲夜ちゃんか。可愛らしい名前ね。あなたにぴったりだと思う」
なぜか胸が高鳴るのを感じた。
「じゃあこれ」
なんともいえない甘い香りが、あたしの鼻をくすぐったことだけは覚えている。