120 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/04(月) 00:53:46 ID:pLVqYXYn
水滴の音って確かに精神にくるな
水滴をしたたらせる拷問みたいなのがあるって思い出したわ
123 :
「命の皿」〜序章〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/04/17(土) 05:23:21 ID:/nbmWFzC
「おかあさん……たっくんが動かないの」
「おかあさん、テレビが付かないよ」
「おかあさん、たっくんが動かないよ」
「おかあさん……私ね。食べたの」
「動かないから。たっくんが」
「おかあさん、お腹すいたよ」
「おかあさん、またすこしたっくんをたべたよ。でもたっくんは何にも言わないの」
「おかあさん、たっくんが変だよ。変な臭いがするの」
「おかあさん、大変だよ。たっくんに変な白いのがいっぱい付いてるよ」
「おかあさん、誰か玄関で何か言ってるよ。でも私動けないの」
「おかあさん、知らない人が家の中に入って来たよ。でも私何も喋れないの。怖いよ」
「おかあさん、たっくんが無くなっちゃったよ。白いのが食べちゃったみたい」
「おかあさん………どこに行ったの?」
「おかあさん。わたし今知らない人のうちでゴハンたべてるの。今日からここがおうちだっていってたよ。じゃあきっとおかあさんもたっくんも来るんだよね?」
「おかあさん。あのね。わたし食べたの。だってお腹すいてたんだもん」
*
「お母さん。私は今日十歳の誕生日です。早く迎えに来て下さい」
「お母さん、今日、みんなで飼ってるウサギがさとる君にいじめられていました。注意しても言うことききません。みんなよりお兄さんなのに。」
「だからウサギ小屋にあった石で叩きました。さとる君は動かなくなりました。たっくんみたいです」
「たっくんみたいに白いのが出てくる前にさとる君を食べました。台所にある包丁で切りました。食べ切れないから勿体ないけど残しました」
「なんか見た事ないおじさんがおうちに来ています。変な人を見なかったかって聞いてきました。私は見てないから見てないっていいました。みんな泣いています。
あと危ないからってしばらく外に出られません。学校もみんなで一緒に先生達と通ってます」
「お母さん。さとる君がいじめたウサギに赤ちゃんが生まれました。とってもかわいいです」
124 :
「命の皿」〜獣の跡@〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/04/17(土) 20:06:23 ID:/nbmWFzC
季節外れの雪が降っていた。
本来、雪が降る事自体が珍しい地域だが、押し寄せる寒気は冷たい風を呼び、結果、場違いな雪まで運んできた。
「こりゃ酷いな。ズタズタじゃねぇか」
篠田文夫は開口一番にそう言った。
田んぼの真ん中にある深い側溝の奥に転がる遺体は、凄惨な状態でそこに在った。
「第一発見者は?」
篠田の問いに横にいた若い制服姿の警官が答える。
「所轄の警官です。近隣の住民から枯れ草の清掃中に異臭がすると通報があり、あたりを調べたら遺体を発見しました」
「ふ〜ん……。遺留品は?身元が割れるようなヤツ、免許証とか」
「財布の中に原付きの免許が。名前は村上友美。十八歳。失踪届けが出ています」
「まだガキじゃねぇか……」
篠田は顔を歪ませる。第一課に配属されいくつも死体を見てきたが、子供の死だけは未だに馴れない。
それも、第三者による殺人となれば尚更だった。
「腐敗はそれほどでも無いな。最近ずっと寒かったからか。ヘタすりゃもっと発見が遅れたかもな」
「辺り一面長い雑草ばかりですから。しかもこんな深い側溝の中では……」
「もっと遺体をよく見たい」
篠田は半透明のラテックスで出来た手袋をはめ、側溝に降りて行った。
深さは百二十から百三十センチといったところだろうか。枯れ草が幾重にも折り重なり、実際はもっと深く見える。
篠田は思わずよいしょという声を出す。
四十五になる篠田は自分では若いつもりだったが、いつの間にか立派な中年になっていた。 実際に若い制服の警官も、篠田に続いて側溝に降りて来た。
「近くで見るともっと酷いですね。ここまでする必要があるのか?」
「必要だからやったのさ」
篠田はマスクを装着し、遺体を隈なく確認する。あまり弄ると鑑識に文句を言われるので、あくまでも見ているだけだったが。
「こりゃただ事じゃないな」
125 :
「命の皿」〜獣の跡@〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/04/17(土) 20:09:00 ID:/nbmWFzC
「どういう事です?」
「遺体の損壊状況がだよ。ここまでする奴の気が知れん。見てみろ」
促されるまま遺体を観察すると、腹部にはぱっくりと切れ目が入れられ、内臓が飛び出していた。内部は空っぽになり、人間にはこれほどの空洞があるのかと思わせる程だった。
大腿の一部は切り取られ、大きくえぐれている。骨までが露出するほどに。
その他にも、胸や眼球等が無くなっていた。
「確かに酷いですね……。あまりに猟奇的だ」
「猟奇『的』じゃない。これは猟奇殺人だ。それもかなりぶっ飛んだ奴の」
「どういう意味ですか?こんな事件を起こす奴なんてたいがいおかしい奴でしょう」
「遺体の損壊の仕方だよ。これはただ殺した訳じゃねぇ。かといって拷問死させた訳でもない。もっと明確な目的がある」
「目的?」
「遺体の損壊の仕方だよ。これは殺してから遺体を捌いたんだ。それが目的だよ」
篠田はかつてもこれを見た事がある。
数年前に起きた、少年の殺人事件。その時も遺体の一部が切り取られ、持ち去られていた。
「あとは鑑識に任せる」
「篠田警部補、どちらへ?」
「ちょっと調べ物だよ。オッサンに寒空はつらすぎるからな」
「了解しました。害者の資料は集まり次第、一課に届けます」
「よろしく頼む」
篠田は側溝から這い出し、スーツに着いた土を手で掃った。
車へ乗り込みエンジンを回す。エアコンから流れる暖かい空気と缶コーヒーで暖をとり、決して若くはない身体を休めた。
しかし、その心は冷え切っていた。
「あんまし思い出したくねぇんだけどなぁ」
126 :
「命の皿」〜獣の跡@〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/04/17(土) 20:09:40 ID:/nbmWFzC
投下終了
こええ・・・普通、たっくんのエピソードだけで済ませる所を、
さらに重ねられて怖さが倍増だ・・・。
サイコ系書く人って少ないね。
にしても筆が進まぬわ。
129 :
「命の皿」〜獣の跡A〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/04/19(月) 10:23:01 ID:d4lWCI+6
「ねぇ彩」
倉本美咲が唐突に話しかけて来た。
「何よ美咲」
横に居た長谷部彩は面倒そうにそれに答える。
「昨日さぁ、テレビ見てたらさぁ――」
「そんな事言ってる暇ないでしょ?急がないと遅刻だよ!」
「わかったよぅ。怒るなよぅ」
彩と美咲は自転車のペダルを漕ぐ足に力を込める。
高校二年になって最初の日に遅刻など幸先が悪い。それもこれも、朝から関係を求めてきた美咲が悪いのだが、それに乗った自分にも多少の非があると彩は思っていた。
学校の駐輪場へ自転車を置いたら教室までは走らなければならないだろう。恐らくクラスメートはもちろん学校中から見られてしまうのは避けられない。
新学期早々に人気者になる事への覚悟が必要だった。
「間に合う?」
「あと四分はあるから間に合うと思うよ。急いで美咲!」
彼女らは汗を滲ませながら教室に駆け込む。失笑混じりの朝の挨拶に対して苦笑しながらそれに応え、彩は椅子座り机に突っ伏した。
離れた席の美咲も同様に、疲れた様子で持参したウェットテッシュで首筋の汗を拭っている。
チャイムはまだだ。どうやら遅刻は免れたらしい。
「朝っぱらから大変だったね。」
横の席の倉田正彦が言う。
「教室から走ってるとこ丸見えだったぜ。ありゃ職員室からも見られてるな」
「だから何よ。遅刻はしてないもん」
「ギリギリでだけどな」
正彦は馴れ馴れしく話かけてくる。
以前からしつこく言い寄られてはいたがその度に彩はそっぽを向いていた。それでも諦めない姿勢はある意味肝が座っていると言うべきか。
彩は男としてのこの正彦はまるで興味は無いが、ただのクラスメートとしてはそうでも無かった。
決してクラスの中心では無かったが、常に明るく誰とでも親しくなる性格には素直に好感を抱いている。
美咲は気に入らないようだったが。
130 :
「命の皿」〜獣の跡A〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/04/19(月) 10:24:01 ID:d4lWCI+6
「なんでそんなにつれない訳?」
「別に普通じゃん」
「じゃあたまには一緒に遊びに行こうぜ」
「それは嫌」
「なんでだよ?」
「……何となく」
「やっぱり冷たいじゃん」
「というかアンタしつこいのよ。だいたいね――」
彩が何か言おうとした時、チャイムによってそれが遮られる。
同時に担任の教師が教室に現れ、彩と美咲を見るなり笑顔で話し始めた。
「お?遅刻せずに済んだか。まぁあれだけ必死に走ってりゃ間に合うわな。次は余裕を持って家を出なさい」
教室に小さな笑いが起きる。思わず赤面する彩だったが、美咲はクラスメートと一緒に笑っていた。
美咲がマイペースで図太い神経だと彩はつくづく感じた。
131 :
「命の皿」〜獣の跡B〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/04/19(月) 10:26:50 ID:d4lWCI+6
篠田は警察署の資料室で書類と格闘していた。
過去に起きた数件の殺人、それも猟奇的事件を隈なく捜し、今回の事件との類似点を洗い出す。
ここ十年で起きた殺人事件の中で、特に猟奇的といえる事件となればやはり数える程度しかない。
やはり、行き着く先はあの少年の事件だった。
少年は児童養護施設の裏手にあるウサギ小屋の前で殺害された。
辺りは遮蔽物となる木々と塀があり、施設の裏手というのもあって人目には付かない。
少年は後頭部を石で何度も叩かれていた。恐らく一撃では絶命しなかっただろうと思われる。凶器となった石はウサギ小屋の脇にある池に捨てられていた。指紋の採取は出来ず終いだった。
一方の今回の被害者は絞殺されている。殺害方法は前者のほうが圧倒的に残虐であるが、問題なのは殺害方法では無かった。
少年を殺害した犯人は施設から持ち出した包丁を使い、少年の腕の一部と内臓の一部を切り取っている。どこへ持ち去ったかは今だ定かでは無い。
「やっぱり……似てるな」
少年と今回の少女の損壊状況こそ、篠田が注目した事だった。
少年の殺人事件は当時、こぞってマスコミが報道した。その残酷な手口は暇な大衆に十分受けるセンセーショナルな事件であり、警察の捜査も難航したため大きな事件として扱われた。
同時に、いつまでも犯人を特定出来ない警察の対応にも非難が集中した。
篠田もその中の一人だった。
それほどまでに大々的な報道をされていれば、模倣犯が現れてもおかしくは無い。実際にこの手の事件のあとはそれに続く者が多い。
しかし、それだけでは説明が付かない事がある。
あまりに似ているのだ。遺体の損壊状況が。
当時、マスコミはこれでもかと少年の殺害状況を報道したが、遺体の具体的な状態までは報道していない。
少年の内臓が抜かれて持ち去られたなどテレビで言える訳も無いが、それ以前に警察側からもそこまでの情報掲示はしていない。
それは今も同じだ。
132 :
「命の皿」〜獣の跡B〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/04/19(月) 10:29:22 ID:d4lWCI+6
模倣犯では有り得ない。
これは間違いなく、同一犯による物だと篠田は確信している。
そこへ、突然若い刑事が現れる。
「篠田さん。ここに居たんですか」
「どうした?なんか解ったか?」
「害者の資料が集まりました。今会議室で――」
「ああ、いい。今解ってる事だけ教えてくれ」
「そうですか?でも皆さん集まってますよ」
「いいんだよ。俺みたいなはみ出し者はさ。それより早く教えてくれ」
「はぁ……。害者の村上友美はフリーターで、バイト先のネットカフェでの評判は中々で、決して恨みを買うような人物で無いと言っています。
交遊関係も洗いましたが、特に危ない連中と面識がある訳でもなく、家族との関係も良好です」
「狙われたりする要素は無しか。変質者に付き纏われたとか、そういう事は?」
「いえ、全くありません」
「そうか……」
篠田はため息をついた。
「よし解った。ご苦労さん」
篠田は勢いよく立ち上がり、資料をそそくさと片付け始める。
いくつかの書類を手に、資料室を後にしようとした。
「篠田さん、どちらへ?」
「ちょっとそこまでな。昔の事件と繋がりがあるかもしれん。そこを調べてくる」
「またお一人でですか?」
「そうだよ。お前達は引き続き目撃証言と害者の交遊関係、洗っといてくれ」
篠田の足は自然とあの場所へと向かっていた。
あの凄惨な事件が起きた、児童養護施設へ。
133 :
「命の皿」〜獣の跡B〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/04/19(月) 10:30:32 ID:d4lWCI+6
終了
わくわく・・・どきどき・・・
135 :
命の皿〜獣の跡C〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/04/21(水) 02:34:09 ID:slSVxA3N
チャイムが鳴り響く。
まだ新入生の居ない始業式は一時間ほどで終了した。
普段は狭苦しい体育館も、生徒の三分の一が欠けただけで異様に広く感じるものだ。教師の声は天井や壁で反響し、それが体育館の広さを感覚的に更に広くし、寒気すら覚える体育館の空気の温度は、彩の身体をことごとく疲れさせる。
教室に戻った時は、既に帰りたいと思わせていた。
担任の教師が一言二言注意事項を述べ、プリントを配布する。
入学式までの日程、保護者への通達、学校内での連絡事項、あとは保険便りのような物。
最近の保険便りでは遠回しにではあるが、性行為についての注意書きすらある。コンドームの使用の重要性に至っては堂々と明記されている始末だ。
しかし、彩には何の興味も無い。自分はそれを使用する状況は無いと思っていたから。朝の事を思い出す。
柔らかな感触がいまだ唇に残っている。時間すら忘れる程の幸福感を味わい、結果、遅刻寸前まで追い込まれた。
彩は一人、あの時の感触を思い出す。美咲の感触を。
「美咲……」
彩は朝の続きを妄想で続ける。
自然と鼓動は速くなり、頬はうっすらと紅潮する。
僅かに吐息が乱れる。しかし、周りに悟られてはいけない。そんな事態になれば周囲からは体のいいイジメの対象に成り兼ねない。
それを跳ね退けるバイタリティがあればいいが、彩にはそれが備わっていない。
妄想はエスカレートする。吐息は更に乱れ、鼓動はより激しく胸を打つ。
限界に近い。もはや理性は本能に飲まれようとしている。右手が疼く。
出来る事なら今、ここで――
「では、今日は終了です。気をつけて帰るように」
教師の一言で彩は我に返る。そうだった、今は帰りのホームルームの最中だったんだと――。
彩の顔を見た教師は不思議そうに尋ねた。
「どうした長谷部?具合でも悪いのか?」
「……いえ、大丈夫です」
「そうか?それならまぁいいんだが」
136 :
命の皿〜獣の跡C〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/04/21(水) 02:34:54 ID:slSVxA3N
「じゃあ気をつけて帰るように。寄り道したりするんじゃねぇぞ」
担任の教師は改めてそう言うと、さっさと教室を出て行った。
彩は美咲の元へ駆け寄る。
学校はもう終わりだ。妄想に耽る必要は無い。実際に朝の続きをすればいい。そう思った。
「美咲」
「どうしたの彩?風邪でも引いた?顔赤いよ。熱あるんじゃない?」
「大丈夫だよ。それよりさ、早く帰ろう」
「そりゃもちろんだけど。今日これからバイトだし」
「ええぇ。バイトなの?」
「どうしたどうした。何か用か」
「だってさ、帰って朝の続き……ね?」
「ああ、それか。ゴメンね。今日バイトあったから朝したの。逆に欲求不満か」
「なら朝言ってよ。バイトだってさ」
「ゴメンゴメン!でもどうせ明日からまた何日か学校休みじゃん。その時ね」
「つまんないの」
「だからゴメンって」
目論みは見事に失敗だ。今日一日は暇になるだろう。
美咲は時間が無いといい急いで帰って行った。
彩は一人で下校するハメになる。
「もう……」
137 :
命の皿〜獣の跡D〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/04/21(水) 02:35:48 ID:slSVxA3N
カチ と音がする。点した炎でタバコの先に点火し、彩はゆっくりと煙を吐き出す。
中学生で覚えたタバコを吸う姿は、今ではすっかり堂に入った物になっている。
決して不良という訳ではない。むしろ学校では優等生として通っている。問題も起こした事は無い。
それでも、自身の悩みを吐き出す道具として、彩はタバコを口にしたのだ。
吐き出した煙を纏い、彩は路地裏を自転車を引いて歩いている。
猫が塀の上で丸まっている。横を通る彩の動向を目を丸くして警戒し、煙の臭いを嗅ぎ付けて塀から飛び降りる。
陰にある自販機ではいつも特定のコーヒーが売り切れたままだ。商品の入れ替えはどうなっているのだろうか?
彩はタバコを投げ棄て、足でそれを踏み火をけした。そしてまた路地裏を自転車を引いて歩きだす。一人の時のお決まりのルートだった。
そう、いつもここを通っていたのだ。
「おーい、彩ちゃん」
突然の声。それは前方から聞こえてくる。
「……正彦?」
「やっぱりここ通ってたね。表通り通れば簡単に周り込めるわ」
「なんでアンタが居るのよ」
「おいおい、せっかく待ってたのに随分酷いな。デートに誘おうと思ってたのにさ」
「しつこいなぁ。行かないってば」
「相変わらずつまんねー女だなぁ。おい」
「悪かったわね」
「そうそう。悪いと思ってるならさ、ちょっとだけ俺達と付き合ってくれよ」
「俺達?」
正彦の後ろには一台のワゴン車が止まっていた。そこから、二人の男が降りてきて正彦と列ぶ。
「正彦?」
「ちょっとだけだよ。俺達と遊んでくれりゃ、それでいい」
「嫌よ。何度も言ってるじゃん」
「いーや。来てもらうぜ」
正彦と列ぶ男達は突如彩に詰め寄る。そして髪の毛を掴み強引に引き寄せる。
「嫌…何するのよ!」
「ガタガタうるせぇんだよ」
髪を掴む男の拳が彩の腹部を打つ。今まで経験した事の無い痛みが走り、息が詰まる。声すら出ない。
その様子を見ていた正彦は笑いながら言い放つ。
138 :
命の皿〜獣の跡D〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/04/21(水) 02:37:46 ID:slSVxA3N
「おいおい、殴んじゃねぇよ。俺のお気に入りだぜ?」
「散々シカト食らってよく言うぜ。このくらいじゃケガにもなんねぇよ」
男は再び彩を殴る。
正彦ともう一人はそれを笑いながら眺めている。
「正…彦…?」
「あー?何だよ?」
「なんで……?」
「当然だろ?散々人の事バカにしやがってよ。どんだけ誘ってもうんともすんとも言わねぇからよ。
頭きたからコイツらと廻してやるよ。」
正彦はいつもの笑顔だった。
いつもと変わらない、あのしつこいだけの正彦。
「おい、見られた面倒だぜ。さっさと行こう」「そうだな。じゃー夜まで待って適当な駐車場で止めるか」
彩は引きずられながら車へ連れ込まれる。呼吸はまだ思うように出来ない。腹部の痛みは激しいまま。
「じゃあ行こうか彩ちゃん」
彩は羽交い締めされたまま後ろの席に居る。正彦はそれを見ながらタバコをふかし、彩の頬を平手で打つ。
「このクソアマがよぉ。素直に遊んでくれりゃ別に腹もたたねぇけどよ。ここまで頑なだとこっちだって考える物があるわな」
そう言いながら今度は腹を殴る。先ほどの痛みと重なり、彩は身体をよじる。
「おーおー。声もでねぇか?いい様だなぁ。彩ちゃんよ?」
「おい、こいつタバコ持ってるぜ」
後ろで彩を抑える男がそれを見つけ、正彦はそれを奪い取った。
「あらら、いっちょ前にタバコ吸ってるんだ。意外だったわ。清楚な娘だと思ってたのにさ。俺ショック」
「よく言うぜ。お前」
こいつらは獣だ。彩は率直にそう思った。そして彼らの次の行動も、簡単に予測出来る。
その恐怖だけでも相当な物だった。
正彦は彩のタバコを一本取り出し、火を付ける。そして――
「い…嫌。お願い止めて……。止めて!!」
「顔にはやんねぇよ。綺麗な顔に傷がついたら嫌だもんねぇ?」
「嫌ぁぁああああ!」
彩のタバコは鎖骨の辺りに押し付けられる。 ニコチンが焦げる臭いが漂い。彩はただ苦痛に苛まれるだけ。
139 :
命の皿〜獣の跡D〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/04/21(水) 02:38:34 ID:slSVxA3N
想像しただけでも途方もない絶望だった。
これがどれだけ続くのか。しかも夜になれば、さらなる苦痛が待っている。
「嫌……。助けて……」
「往生際悪いな。もう諦めな。」
「お願い……。許して……」
「しつこいなぁオメェはよ」
再びタバコが押し付けられる。叫び声をあげるが、大音量の音楽に掻き消される。
何より、走行中の車の中では元より意味は無かった。
140 :
命の皿〜獣の跡D〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/04/21(水) 02:39:26 ID:slSVxA3N
投下終了。
これを投下して良かったのだろうか……?
危ぶむなかれ。危ぶめばビビンバ無し。
迷わず行けよ、行けばワカメさ!
ありがとー!
まあ、きわどいとは思うが、こっからどう話が繋がってくのか、
というのは大いに気になる所だ。
色々と予想したりしながら読んでるから、
続きをかまなべいべー。
きわどいか。
じゃ次は完全アウトになる悪寒w
最後まで出来てるからちゃんとやりてぇんだよなぁ。だからこそのハード路線だし。
エロと暴力とホラーは切っても切れないじゃん。
まあ、でも、直接的描写はNGやから、
そこら辺はぼかすか、あるいはエロい板のスレを
そこだけ利用するかしておくれなw
何にしろ、この話の続きはめっちゃ気になってるんで、
続き頑張ってくれ。
エロを目的としたエロじゃないが難しい所だ。
濡れ場はわんさか出る予定だがw
まあ、アウトだったらアウトって言うからw
濡れ場にはモザイクよろしくな!w
濡れ場わんさかはさすがにアウトだべ
ふむ、ではそういう事してんじゃね?的にぼかすw
148 :
命の皿〜獣の跡E〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/04/22(木) 19:41:10 ID:QsQrjuRG
感情は沸かなかった。
正彦達のお遊びは二時間程で終わり、彩はあっさり解放された。
駐車場の街灯がぼんやりと、淋しげにアスファルトの地面を照らしている。
自分が今居る場所すら彩には解らない。電車は既に終電を過ぎて居るだろう。仮に電車があったとしても、財布の中身は抜かれている。どうする事も出来なかった。
着ていたブラウスは無惨に破れ、穿いていたスカートは連中の汚物で汚れている。無造作に投げ捨てられたブレザーだけが無事な姿でそこにある。
涙は既に枯れていたのか。彩は表情を殺したまま地面に座り込む。タバコを押し付けられた痕がジワジワと痛む。
どれだけそうして居たか解らない。
やがて吐き気を覚えた彩は、ふらふらと立ち上がり近くにある公衆トイレへ入る。
便器に覆いかぶさり吐こうとするが、胃の内容物は特に無い。いくら待っても吐き気がますばかりだ。
彩は手洗い場の水でハンカチを濡らし、顔を拭う。打たれた頬が痛む。鎖骨には無惨な火傷。
赤く晴れ上がった自分の顔を見て、彩は少しずつ感情を取り戻す。
ようやく、涙が溢れてきた。
149 :
命の皿〜獣の跡E〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/04/22(木) 19:42:57 ID:QsQrjuRG
終了だよテクセウ。
もうすっ飛ばせるだけすっ飛ばした。
その内エロパロ板に空白の衝撃シーン投下してやる!(゚д゚)ケッ!
それが出来てようやく完全版。
エロパロ行ってきた。
そしてエロ描写が苦手と知る。
乙乙。
色々苦労したようだな。でも、逆に描写されていないからこそ(以下省略
鬼畜でごめんなさいごめんなさい
エロは勢いですよぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!(炎上
鬼畜めw
でもこれで 正 彦 死 ん で も お k になった訳だ。
しかしまぁウボァー
153 :
命の皿〜遺伝〜@ ◆wHsYL8cZCc :2010/04/26(月) 16:13:01 ID:BHOTh2E2
住宅街から少し外れた林の陰、今はただの土の地面に過ぎない枯れた田園のすぐ側にそれはあった。
比較的広い敷地の中に建つ、一見普通の民家に見える建物、道路に面した塀の奥に見える小屋の赤い屋根。そのすぐ近くには林が迫っている。
篠田は敷地の中の砂利の駐車場に車を停める。
建物の大きな標札には「命の家」と書かれている。かつて、少年の凄惨な事件が起きた場所へ、篠田は七年ぶりに訪れた。
現場となったウサギ小屋は現在閉鎖されているのだろうか。そこへ続く通り道は木の塀が設けられ侵入者を拒む。
隙間から見える限りでは枯れた雑草ばかりで、何年も人の出入りが無い様子が見て取れた。
施設の入口から見える場所には新たなうさぎ小屋が建っている。まだうさぎ達は健在のようだ。あの後に産まれたという子うさぎの子孫だろうか。
篠田は玄関へ向かって歩を進める。木製のドアは幾分煤けた色に変わっていた。
篠田はインターホンを押し、相手の反応を待つ。
『はい。どちら様でしょうか?』
「先程お電話した篠田です」
『ああ、今出て行きます』
篠田を出迎えたのは三十代とおぼしき男性だった。昔居た職員では無い。
「お忙しい中、突然お尋ねして申し訳ない」
「いえいえ、お気になさらず」
彼は篠田を応接室へと通し、コーヒーを差し出す。それを一口啜り、篠田は切り出した。
「……昔居た方々は?」
「ああ。よくは知りませんが、人の入れ替えが多くて。私が来たのも二年前ですんで」
「そうですか」
「噂じゃ子供の幽霊が出るとか。私は見た事無いですがね」
「あながち間違いじゃないかも知れませんね」。
「ちょっと、刑事さん。冗談は……」
「七年前にここで少年が殺されてますから」
「え?」
「ご存知無かったようですね。引き継ぎはされていると思っていたのですが」
「聞いてないですね……」
「それが入れ替えが激しい理由でしょうね」
154 :
命の皿〜遺伝〜@ ◆wHsYL8cZCc :2010/04/26(月) 16:14:36 ID:BHOTh2E2
「誰だって殺人現場で寝泊まりしたいとは思いませんから」
「それで黙ってたんですか……」
「ええ。それで当時の方々にまたお話を伺いたかったのですが」
「そうなんですか……。七年前……でしたね。申し訳ないんですが、その当時の方々の連絡先までは知らないんですよ。記録にもあるかどうか……。あ、一人だけ居ますね」
「一人?」
「ええ。カウンセリングの先生ですよ。ここに来る子供達は問題を抱えている事が多いので。ケアの為にお世話になってます」
「連絡先は?」
「ええ。知ってます。こちらからも電話しておきますよ。」
「助かります」
「ところで……。七年前の事件の事って、なんでまた聞くんです?」
「犯人はまだ捕まってませんから」
「捕まってないんですか!?」
「ええ。まだ捜査中です」
155 :
命の皿〜遺伝〜@ ◆wHsYL8cZCc :2010/04/26(月) 16:16:53 ID:BHOTh2E2
終了
156 :
創る名無しに見る名無し:2010/04/26(月) 17:13:22 ID:iqvED3Sf
捜査パート、何かドキドキすんな。
157 :
命の皿〜遺伝A〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/04/26(月) 22:14:37 ID:BHOTh2E2
今日は珍しく晴れていた。ここ数日は毎日のように雨が降り、あまつさえ雪までふったのだが。街中は人が溢れていたがまだ気温は上がらない。皆まだ冬着のままだった。
気分がいまいち悪いのはこの晴天と気分とのギャップのせいだろうか。
篠田の車はとあるペンシルベルの脇に停められている。
五階建てのビルの三階まで階段で登り、小さな表札に福田クリニックと書かれたるドアの前に立つ。
インターホンを押すと、ドアの奥から大きな声が響く。予想外にもそれは女性の声だった。
「開いてますよー。勝手に入って結構です」
篠田はドアを開け、中に侵入する。
簡単な造りの無人の受付があり、その奥では白衣を来た女性が机に向かって資料を読みあさっている。
長い髪が窓から差し込む光に当てられ輝いている。整った顔立ちは知性を感じさせる。
篠田は素直に美人だと思った。妻には申し訳ないが。
「あの……」
「篠田刑事ね。よく来てくれました。私がここの責任者の福田可奈子です」
「突然の訪問お許しください。可奈子先生」
「いいえ。それより七年前の事を聞きたいとか」
「ええ。今のところ連絡が付いた当事者は先生だけでしたので」
「当事者……という訳ではありませんよ。私が関わったのは事件があった後ですから。その頃には警察の方もほとんど寄り付かなかったですし」
「先生はあの後の子供達の精神的ケアをなさっていたとか」
「ええ。子供達ばかりではないけれども」
「というと?」
「職員さんですよ。当時の子供達の保護者は割と高齢のご夫婦でしたから。ショックは相当だったでしょうね。犯人の行動分析までさせられたし」
「行動分析?そんな事まで!?」
「ええ。ご存知無かったかしら。警察の要望でやらされたのですが。最初は断ったんですけどね。専門とは掛け離れてますから」
「私は聞いてないですね」
「あらそう?てっきり捜査に反映される物かと。まぁ警察側でもあまりアテにはしてなかったんでしょうね」
「申し訳ない」
「刑事さんが気にする事ではないわ。でも、てっきりその事聞きにきたのかと思っていたけれど違うみたいね」
158 :
命の皿〜遺伝A〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/04/26(月) 22:16:26 ID:BHOTh2E2
「はい。むしろ先生がケアを行った中でおかしな人間が居ないか、それを聞きたかった」
「犯人は身内にいたと?」
「解りません。が、可能性はあります」
「それは無いわ。あの施設にいたのは保護者の老夫婦だけだったし、二人ともとてもショックを受けていた。殺害に関与してる人間の精神状態では無かった」
「子供達は?」
「子供達?」
「ええ。あの当時施設に住んでいた子供達。そのケアも行ったのでしょう」
「当時いたのは殺害された少年が最年長よ。その子ですら十二歳だったわ」
「子供が殺人を犯す事例は過去にも多数ある。年齢はあまり問題ではない」
「……たしかに、子供達の中にはいくつか心に問題を抱える子はいました。ですが、あの施設にくる子達は元々問題を抱えていたからこそ来た。それにとくに異常性のある子は見当たらなかったわ。一人一人の精神鑑定をした訳でも無いですし」
「では、先生が行った犯人の行動分析とは?」
「私は精神科医であって心理学者ではないから詳しくは言えないんですけど」
「構いません」
「犯人は……やりたいからやった」
「それだけですか?」
「ええ。その犯人が何を思って行動したかは解らない。でも理由は簡単だった。ただ殺したかった」
「異常な人間ですか?」
「私達から見ればそうですね。でも、犯人にとってはそうでも無い。当たり前の行動だった」
「怪物ですね」
「そうですね。ですが警察側でもそれは解っていた事では?」
「なぜです?」
「刑事さんが聞きたかったのは当時の事ではないわ。単なる確認作業に過ぎない。犯人の目星は付いている」
「ばれましたか」
「ええ。心理学は専門外だけど七年前のおかげで勉強する機会ができましたから。刑事さんが最初から事件の本筋が見えているように思えた」
「……数日前に起きた殺人事件はご存知で?」
「ええ。ニュースで見てます」
「犯人は恐らく同一犯です。そして犯人は多分、当時施設にいた子供達の誰か」
159 :
命の皿〜遺伝A〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/04/26(月) 22:17:48 ID:BHOTh2E2
「なぜそう思うんですか?」
「それ以外考えられない。犯人は痕跡も残さずに少年を殺害し、施設の台所から包丁を奪って少年を『解体』した。それを行った理由までは解らないが」
「ですが子供達にそれほどの異常を持つ子供達は……」
「先生は精神鑑定までは行ってないとおっしゃってましたよね?」
「当時いた子供達の書いた絵や作文を借りて来ました」
「はい?」
「これから何か解る事は無いですか?」
「私は精神科医よ。心理学なら専門家に……」
「当時、直接子供達に関わったのは先生しか居ない。先生、この犯人は必ずまたやります。それも理由なく、証拠も残さず。シンプル過ぎるんです。我々の思考の外側に居る」
「私に何をさせたいんですか?」
「心理学の専門家でない事は解りました。が、先生のお知り合いに誰かいませんか?」
「直接頼めばいいのでは?」
「七年前の繋がりをいちいち調べてるのは今のところ私だけです。
警察側としてはおおっぴらに七年前の事件を掘り起こす気が無い。捜査協力を依頼すれば上層部に知れる事になる。となれば昔の事は出来る限り触れたくない上の連中が邪魔になる。
ですが、先生が昔の事件を元に医師として研究したいとなれば別です」
「つまり……私が資料を頼んだ事にしろと?」
「勝手なのは承知しています。ですが、この犯人はまたやる。絶対に。なりふり構っていられない」
「はぁ……。確かに、七年前に助言を求めた方は居ますけど」
篠田の申し出は常軌を逸していた。一匹狼だとは解ったが。
「解りましたよ。『私が頼んだ』資料はお預かりします」
「ご理解感謝します」
「篠田さんは本当に子供が犯人だと?」
「はい」
「……正直な所、問題を抱える子供達には犯罪走る傾向があるのも事実です。私が見る限り、あの時の子供達には見受けられなかったけれど……。特に親の虐待を受けた子供は大人になると繰り返す事もあるわ」
「ほう?」
「悪意は遺伝する……。あまり考えたくはないけれど」
160 :
命の皿〜遺伝A〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/04/26(月) 22:20:19 ID:BHOTh2E2
終了
どう繋がっていくんだ・・・
色々想像できるが・・・何か、想像は外れてるような気しかしない。
162 :
命の皿〜遺伝B〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/05/03(月) 19:39:29 ID:mHGXMBaM
緑色の光が暗闇の中で朧げに点滅している。
規則正しく、振動を伴いながら。
ずっと。
「う〜……ん。ん?」
彼女はそれに気付いた。振動を伴う光は彼女の側で点滅している。
淋しげに。助けを求めるように。
「誰だぁ……?こんな時間にぃ〜」
彼女の携帯はずっと光っている。一体いつから着信していたのか。
正直眠気が勝っていた。出る気は無かったが、せめて相手だけは見ておこう。そして明日の朝一番に、思い切り文句でも言ってやる。
そう思って彼女は携帯を開いた。
だが、その電話の相手を見て彼女は飛び起きた。携帯の画面には「長谷部彩」と表示されていたから。
彼女はすぐに応答のキーを押し、携帯を耳に当てた。
「彩?どうしたの?ずっと電話してたんだよ!?」
《……三咲?》
「どうしたの彩?どこ行ってたのさ?」
《三咲……。ごめんね》
「何言ってんの?何で謝る訳?」
《……ごめんなさい。三咲……》
「だからどうしたのさ?」
《……》
「彩?」
僅かな沈黙だった。しかし、携帯の向こうから聞こえる小さな音だけは聞こえてくる。
「……彩?泣いてる?」
《三咲……。ごめん》
「ちょっと、ホントどうしたの?何があったのよ?!」
《三咲……》
「……今、家に居る?」
《え……?うん……》
「判った!じゃ今から行くから!待ってて!」
《今から……?》
「そうよ!だって何があったか電話じゃ言いづらいんでしょ?直で聞きに行くさ!」
《三咲……》
「なに?」
《ありがとう》
「よせやい」
三咲は飛び起きて着替え始める。髪は寝癖が付いていたが直す時間が勿体ない。適当に纏めあげ、ゴムで止める。
携帯と財布だけを持ち、玄関へ向かう。その様子は家族にもすぐにバレてしまった。
「どこ行くんだ三咲?」
「げ」
「『げ』じゃない。こんな時間にどこ行くって聞いてんだ」
163 :
命の皿〜遺伝B〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/05/03(月) 19:40:13 ID:mHGXMBaM
「なんでバレた?」
「こんな夜中にでかい声で電話してりゃすぐ気づく。しかもあれだけドタバタしてればなおさらな」
「いいじゃんお父さん。見逃して?」
「馬鹿者。夜中に娘が出歩いて喜ぶ親父が居るか。せめてどこ行くか言いなさい」
「……彩の家」
「彩?ああ、あのよくうちに遊びに来てた娘か。しかしいくら仲がいいからってこんな夜中に行ったらあちらさんも迷惑だろう?」
「でも……」
「でも、何だ?」
「今行かなきゃ駄目なの!だってこんな夜中に電話してきて泣いてたんだよ!?心配じゃん!」
「しかしだな。いくらなんでも……」
「いいの!私行くから!!」
父の制止も聞かずに三咲は玄関へ向かう。早く行かなければ。それしか考えて居なかった。
「おい三咲!」
「じゃ行ってくるから!」
「おい!……。ったく」
三咲は外の自転車に乗って道路に出る。風が冷たかった。薄着だったせいか肌寒い。しかし、今は構っていられない。
彩が待っている。
164 :
命の皿〜遺伝C〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/05/03(月) 19:42:47 ID:mHGXMBaM
「彩〜?居る?」
真っ暗な空間に声が響いた。家には誰も居ない。玄関の鍵も開いたままだった。
「彩〜?」
「三咲……。そのまま二階来て」
彩の声だ。どうやら家族は出払っているようだ。今はこの家には彩一人なのだろう。だからこそ三咲に電話したのかもしれない。
三咲の性格ならば、突然訪ねてくる事も容易に予想出来たから。
三咲は靴を脱ぎ玄関から見える階段を急ぎ足で登る。どたどたと大きな音を立てるが今は彩以外誰も居ない。気にする必要は無かった。
彩の部屋は分かっている。
そのまま部屋へと直行し、ドアを開ける。中はまたしても暗闇だった。
「彩?どうしたのさ明かりも点けないで」
「付けたくなかったから」
「……明かり、点けてもいい?」
「うん」
三咲はドアのすぐ脇にあるスイッチを手探りで捜し当て、それを押した。
蛍光灯が二、三度点滅し、そして光りだす。
暗闇に居たせいか目が慣れるまで数秒必要だった。ぼんやり見えたのはパジャマ姿で膝を抱え、うずくまった彩の姿。
目がようやく明かりに慣れた頃、その異変が目に飛び込んで来た。
「ちょっと……!どうしたのその顔!誰にやられたの!?」
「……」
「彩、何があったのよ!?」
「三咲……」
「なに?」
「ごめんね。電話でなくて」
「いいよ……。それよりさ、何あったの?」
「……」
「何か言ってよ……。お願い」
「私ね……。レイプされちゃった」
彩は事の顛末をこくこくと涙ながらに語る。それだけでも相当な精神的苦痛だろう。三咲以外には、おそらく話せない。
「信じられない……。正彦が!?」
「うん。アイツ、仲間連れてた」
「そんな奴らと連るんでたなんて……」
「ごめんね三咲」
「なんで謝るのよ!?悪いのアイツじゃん!」
「だからってさ、どうにも出来ないじゃん。警察行くのだってイヤだよ。あんな連中ほっとけばいい。もう関わりたくない」
165 :
命の皿〜遺伝C〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/05/03(月) 19:44:46 ID:mHGXMBaM
「それでいいの彩!?」
「よくないよ。けどさ……」
「けど……何さ。言ってよ」
感情は殺そうと思っていた。出来ればもう忘れて無かった事にしたい。だが、傷が痛む度に思い出す。何より、三咲の声が聞こえる度、心が痛む。
心を許せるだけ、感情が引きずり出されてしまう。
「三咲……」
「なに?」
「悔しいよ……」
「彩……」
「絶対許せないよ。でも何にも出来ない。悔しいよ……!」
涙が溢れてくる。忘れようとしていた涙が。
伝う涙が腫れた頬にしみる。痛い。それでも涙は止まらない。
「……泣くなよ。可愛い顔台なしだぞ」
「三咲……」
「そんな連中、いつか天罰落ちるさ。大丈夫。絶対にね」
「うん。ありがとう」
「よし、後は思う存分泣け!」
「言ってる事メチャクチャだよ」
「いいの。ほら」
三咲は彩を抱き寄せて頭をぽんぽんと叩く。着ていたジャージが彩の涙でぐしゃぐしゃに濡れていたが、三咲は気にしていない。
「ごめんね三咲」
「謝るなってば。今日は朝まで付き合ってあげるからさ。お姉さんの胸で心置きなく泣きなさい」
166 :
命の皿〜遺伝D〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/05/03(月) 19:45:35 ID:mHGXMBaM
「警部補殿」
いきなり呼ばれた。
ソファーで横になっていた篠田は寝ぼけ眼で声の主を見るがぼやけてよく見えない。
俺も歳か と思っていたら向こうからさらに声が発せられた。
「起きて下さい篠田警部補殿。お話があります」
「ん〜?これはこれは……。警視殿」
篠田をたたき起こしたのは藤村辰治警視。七年前の事件の時の篠田の上司であり、そしてもっともバッシングを受けた男だった。
「わざわざご苦労様ですな警視殿」
「皮肉のつもりですか? 貴方のせいでここまで来たんだ」
「もうバレたんですか」
お互い明らかに不満気に挨拶を交わした。
久々の再開とは言え、あの『先生の依頼』が知れた以上は現在の関係は敵同士だ。
「ずいぶんと……。面倒な事をしていますね」
「ええ。性分ですから」
「何をしているか解っているんですか? 確実に貴方の今後に影響しますよ。それも悪い方に」
「警視殿のように器用じゃないですからね。元々昇進なんて気にしてません」
「また皮肉を……」
「わざわざご忠告に?」
「ええ。元々勝手にやる人だ。けどこの件に関しては今まで通り自由にはやれない。いずれバレるぞ」
「構いませんよ。どうせまた表ざたになる事件だ」
「どういう事ですか?」
「……またやりますよ。この犯人は。バレると言ったが、それはマスコミ相手だって同じだ」
「嗅ぎ付けられると?」
「ええ。現に今回の事件だけでもかなり騒いでる。関連性を見つける奴だってきっといます。そういう連中だ」
「捕まえる自信は?」
「あります」
藤村は下を向く。苦悩した表情は彼の微妙な立場を表しているのだろう。現場の篠田には理解出来ない悩みだ。
「……いつまでもダラダラやってたら確実に邪魔が入ります。急いで下さい」
「出来ればそうしたいですね」
「こっちは何とか押さえます。うまくやって下さい」
「いいんですか」
「……私も悔しいんでね。ケリをつけたい。もう一度聞きます。逮捕する自信は?」
「はい。あります」
167 :
命の皿〜遺伝D〜 ◆wHsYL8cZCc :2010/05/03(月) 19:47:16 ID:mHGXMBaM
投下終わり
なんか、警察パートが渋カッコよくていいなぁ。
次辺りで話が大きく動くのかな? わくわくどきどきリサイクルあそび。