日本人が温和なのは、穀物中心に取り込むが故であり。
欧米人が粗暴なのは、獣肉を身に取り込むが故である。
「人間の精神は遺伝する」などと言う似非科学があるが、
そもそも我々の肉体を形作るものは、外部から取り込んだ魂魄その物なのだ。
口から摂取する物質が魄であれば、繋ぎとなる魂は酸素となる。
人間の寿命は生まれながらに決まっている。
一般人に比べ、スポーツ選手の寿命が短いのは周知の事実であるし、
肉体に大きな負荷がかかる雪国よりも、温和な気候の南国の住人は長寿である。
さりとて心臓の鼓動の回数が少ないほど長寿と言うわけではない、
過度のストレスを与えられたマウスは短命、
ストレスのない環境で育った個体は長命であることから。
人間は呼吸が少ないほど長命であると結論付けられる。
人間が口から食物を取り込み、分解し、その身に蓄え、
肉体と精神を作り上げるための繋ぎが酸素なのだ。
獣肉を大量に摂取する人間は体内にタンパク質を取り込むことで筋肉を増強し
血行量が増進されアドレナリンを分泌され、凶暴化する。
また血行が良化し酸素を大量に取り込み代謝機能を活性化することは
細胞の死滅限界を促進させる行動に他ならない。
「無駄な呼吸をすればするほど、早死にするらしいぜ」
「……」
眼前に縛り上げられ、投げ出された男の眉間に向かい、ぴたりと銃口を止める。
「なぜ人間は平和を願うのか? それは本能が察知しているからだ
心穏やかに生きていれば呼吸が乱れることもなく、ライフサイクルは回り続ける」
全ての闘争を否定する事が、長命と成る。
「なのに、何故お前のようなアホがいるのか理解に苦しむ……」
にも拘らず、人間は争うことを止めようとはしないのだ。
上だ下だと無意味な雛壇を飾り、無意味な呼吸をし、無意味に死ぬ。
「ちなみにこの銃弾の原価は10円にも満たないそうだが、知ってたかい?」
引き金を引くと同時にグリップに伝わる衝撃、閃光、そして視界が開けて漂う硝煙の匂い。
「お前の命の値段だ」
少しばかり贅沢に深呼吸する。
酸素の中に融解された魂が鼻腔を通して伝わってくるのが分かる。
二百年生きて再確認する、生きることの喜び。
「あぁ、素晴らしき人生哉」