異世界召還・トリップスレ

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294創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 00:05:47 ID:7fiILEOe
ちょっと質問なんだけど
寝ると異世界で目を覚ます→異世界で寝ると現実で目を覚ます
ってのはトリップの部類にはいるんだろうか…
異世界ではあるんだけど…
295創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 01:01:52 ID:XmStXZCn
夢幻三剣士か
296創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 16:11:58 ID:J0Xyn6tm
夢幻伝説 タカマガハラを思い出した
トリップ扱いでいいんでない
297創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 17:52:16 ID:Q87azQbC
>>293
ちょwゲストはそこまで言ってないw
戦争ばっかしてる野蛮人だから(と言うのは表向きで派閥争いの為に)地球征服・・・だw
298創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 18:02:30 ID:3GAD6oq2
記憶が残っていたら現実に戻ってくると空しくなるだろうな。
そしてひたすら寝続けて異世界に。
299289:2009/05/25(月) 10:28:34 ID:WHEz73PM
宇宙人が人間を滅ぼす理由?色々有るけど高尚な理由なら某有名SF作品の言葉を借りるけど、
「地球人はしょっちゅうお互いに憎み合い、戦争したり、他人の物を騙し取ったり、殺し合ったりしている。
私達宇宙人としてはこんな連中が科学の進歩によって宇宙に出て来てもらっては困るのだ。
平和な宇宙に戦争や憎しみを持ち込まれては堪らない。だから今の内に地球を滅ぼしてしまおうか。」
ってところかな?
自分の場合は「平和な種の自分達(宇宙人)が自星の環境について行けなくなった為に他星への移動がてらに地球人の姿をモデルにしたのに、
数千年経って化けの皮剥がして見たらとんでもなく原始的で野蛮だった。自分達の矜持が過去の事実を抹消してしまえと示したからだ。」
ってのも含まれているけどね。ところでこの間のやつを本腰入れて書いたなら、この板なら何処に投下すれば良いかな?
トリップや旅、SFが混じっているから迷ってしまって。
300創る名無しに見る名無し:2009/05/25(月) 12:39:36 ID:x2u1LOcy
この野蛮な宇宙人に立ち向かう地球人類の話が読みたい。

というかこの宇宙人は頭の中が19世紀以前だろ。正直なんでこんな連中が宇宙にいけるのかサッパリ分からん。
301創る名無しに見る名無し:2009/05/25(月) 14:49:44 ID:CJFhvrQa
スパロボでもやっとけ


ゲストよりフリーザ様のがまだ地球侵略の理由として妥当性があるよな。
302創る名無しに見る名無し:2009/05/28(木) 17:05:08 ID:VXoWyhWn
むしろ主人公達が宇宙人に取り入って粛清実行部隊にでも入る展開を。

恋人をレ〇プされた揚げ句殺されたけど、犯人の親がお偉いさんや警察関係の人間だから揉み消された
→世界に絶望
とか。
303創る名無しに見る名無し:2009/05/28(木) 19:06:54 ID:WIxdB2PF
適当に流し読みしてきたけど
ゼロの使い魔や今日から魔王的と考えればOK?

おkなら書こうかと思うけど
304285:2009/05/30(土) 16:55:28 ID:RGA1ta3Z
質問が来てたので続きをば
305285:2009/05/30(土) 16:57:18 ID:RGA1ta3Z
質問を受けた彼女はやんわりと微笑むと、コーヒーを啜って唇を湿らせた
「満州国の白系ロシア人が我が国の建国グループ主流でね、日本語は第二母国語になっている」
天然資源や北極海パトロール、対ソ緩衝地域としての役割で立ち回り、枢軸陣営での経済力では日伊に続き、第三位にあたる
「日本は覇権国家だな、グレイトネイバルウォー、つまりは太平洋戦争に勝って以来ずっとな」
私の専門になるが、と、前置きして彼女は続けた
「国際上は英仏、そして日伊でしのつきあっている。海軍力では四分六、いや、三七ぐらいでこちらが優位といえるが、欧州とこちらでは距離がな」
インド洋に我々が進出するのが先か、イタリアが英仏の攻勢を持ちこたえられなくなるかが、やり合った場合の初期情勢を決めるだろう。と、彼女は断言した
「それから、こんな事が以前にもあったのかと聞いたな。結論から言えばあった。日本が国ごととかな。だから個人での転移は珍しいが、価値としては結構微妙だな」
あー・・・それでも君が持って来た細菌なんかの遺伝子が、僅かでもこっちと違ってたら、製薬などの面でおいしい存在にはなれるから、落胆はしなくていい。と、取って付けたようにフォローされる
306285:2009/05/30(土) 17:02:07 ID:RGA1ta3Z
「注意すべき点、といわれても特にはないな。不穏な言動や思想を実際に行おうとしない。なんてのは言う必要もないだろう?」
彼女は肩を竦める
「文化は、といっても様々だが、あれかな?時の一般観艦式の際に某十二姉妹全てをそれぞれ飛行甲板に描いて痛空母にしたとか、そのあたりか?」
それでも四隻余ってるのが、なんともな、と。呆れるように笑う
「それからオススメの本、といえば少し前に映画でリメイクされた日本沈没三部作だな、一部で災害救助と原因究明、二部で政治交渉と武力進攻、第三部で停戦、復興の開始の流れになっている」
あ、と彼女は付け加えた
「サン・テグジュペリの月のお姫様とか、文学的なそっちの方が良かったかな?」
星の王子様の続編を、かいつまんで彼女は説明した
「ま、気を楽にしててくれ。悪いようには・・・」



艦長より乗員に達する。総員、出航準備をなせ。繰り返す、出航準備をなせ。本艦はフォックスロット訓練海域にて日本海軍第三艦隊と合流、その指揮下に入る。他に遅れて恥をかかせるな。以上だ



「まいったな・・・」
唐突に流れた放送に、彼女は肩を竦めた
「すまない、しばらくこの部屋に軟禁させてもらうことになりそうだよ」
307285:2009/05/30(土) 17:05:36 ID:RGA1ta3Z
安心させるようにだろう、明るい声で彼女は言った
「続報もないようだし、半殺しの三艦隊で済むぐらいなら、戦闘も無い可能性も高い」
第三艦隊は各国合同の緊急派遣艦隊としてのの役割が強く、低烈度紛争では良く出張り、対象国家が死なない程度にさら地にしては去っていくので半殺しと言うらしい
「必要なものがあればいってくれ、割とこういう時は取り寄せにも無理が効く。必要物資的にな。目立たない程度に、だが」



ここはとりあえず艦内らしい。待遇は悪くはないが、緊急事態だからといって、どこかで降ろしてくれるつもりもないようだ。



選択肢が発生しますた


ニア「微妙な立場って言う割には扱いが慎重ですね」
 「それより何か、自分に出来る事とかありますか?」
 「あれこれ持って来てもらえますか(中身募集)」
 「ミリィって呼んでもいいっすか?」
 「(こんなに良くしてくれるなんて、この人は俺の事が好きに違いない、そうに決まった!ルパンダイヴをせざるをえない!)ミィィィリアアアアアッ!!!」
308285:2009/05/30(土) 17:13:08 ID:RGA1ta3Z
沈黙の六艦隊、荒鷲の五艦隊、境界の四艦隊、半殺しの三艦隊、圧殺の二艦隊、無の一艦隊。等と俗に言われておりまする
十二姉妹は勿論コヨーテ・ラグタイムs




という訳で投下終了です。続、く?
309創る名無しに見る名無し:2009/06/09(火) 02:07:25 ID:7O63dtHA
>>244の続きです。PCがすぐにフリーズするために使えなくなりいよいよ携帯から失礼します。
それではCHANGE THE WORLD第12話 ザ・マーシナリーズをお楽しみ下さい。

第12話 ザ・マーシナリーズ〜その3

食事も終わり竜崎は革命軍5000人の表の指揮官である7人の前で作戦の内容を事細かに説明していた。
その内容はこうだ。全5大隊を正五角形を描くように配置し街を包囲し夜明けを待つ。
すでに竜崎の指示のもと、その配置についている。もちろん敵側に発見されない位置で。そして夜明けと同時に一斉に突入、元来夜行性である獣人は
その能力を発揮出来ずに5000の軍勢に奇襲に有効な対処すら出来ずに敗北するだろう。更にこちらにはパイロキネシスの使い手、ガンウィズウィング、
伝説のソルジャー、妙に剣に長けた少年とただならぬ殺気を発する謎の美女という超人的戦闘能力の持ち主がいるのだ。万に一つも負ける要素は見当たらない。
竜崎の完璧な作戦だった。後はこちらが100%の力を発揮出来るよう部隊の皆に休養を取らせるだけでいいのだ。


「どうですか皆さん理解いただけたでしょうか理解出来ないようであれば理解出来るまで何度でも説明します
理解できてない人がいた為に作戦が破綻などという事態は避けたいですから特にあなた方のように頂点に立つ人達は」
竜崎が「おやつ」のクレープを食べながら指導者7人に淡々と告げる。それに対して7人は無言で頷く。
元々獣人は頭がいい。獣と人の血が混じり合い進化していったのが獣人だ。そしてその進化のプロセスの中で獣人は獣と人間の短所をそれぞれの
長所にて補完していったのだ。その結果、獣人は人間を越える霊長類としてこの11の街に君臨することとなり、人間を支配するようになったのだ。
但し獣人はこの点に関しては致命的と言っていいくらいに欠落していた。「多種族を慈しむ心」と「自分達を絶対的存在だと思い上がり神の如くに振る舞っていた」という点だ。
そして獣人達がそれに気付く時、その時は同時に自分達が今まで築き上げて来た物全てが無へと帰した時に他ならない。

「いいでしょうそれでは皆さんもそろそろ休んで下さい明日は忙しくなりますから」
竜崎が皆を休ませるよう促す。しかしここで広樹少年の指摘が飛ぶ。
「竜崎さんが先に寝なよ。いろいろ考え過ぎて頭も疲れてるだろうし」
「ご心配なくその分甘い物を食べて頭を常に回転させられるようにしていますので」
310創る名無しに見る名無し:2009/06/12(金) 01:00:05 ID:eBVfdOmR
>>309の続き
「ふ〜ん…でも竜崎さんそんなに甘い物ばかり食べてたら虫歯になるよ?歯は大事にしようよ」
「ご心配ありがとうございます広樹さんさて皆さんおやすみなさいまた明日目覚める時それはこの国の夜明けでもあります」
「夜明けねぇ…まあいいや!考えてても仕方ねぇ!今日は早く寝ようぜ」
7人のリーダー、ガーランドの一言にてその夜は皆眠りに就くことになったのだった。
やはりここまでの行軍で疲かれていたのだろう。皆、5分も絶たぬうちに眠りの淵に誘われたのだった。
「頼みましたよ皆さん明日は皆さんの態度次第でこの戦いの趨勢が決まるのですから今は休めるうちに休んでいて下さい」
夜食の板チョコをかじりながら竜崎が一人つぶやく。そしてそのまま一睡もせずに夜は更けて行き…そして、夜は明けた。

「いよいよです皆さんこれは聞くまでもないことですが念のために聞きます覚悟はよろしいですか?」
無言で頷く7人。もはや、言葉はいらなかった。そして竜崎は携帯電話を手に取り、言った。
「竜崎です。これよりトルベルアの街攻略作戦『五稜郭の呪縛』を発動します。準備はいいですか?全軍…突撃」
言い終えると同時に5000の軍勢が城壁に囲まれた街へと突入した。閉ざされた門はいとも簡単に破られ、武器を手にした解放軍が
街の中へと流れ込む。
戦闘部隊、解放軍のエース、第一大隊が500m程走っただろうか。ここで遂に世界救済委員会軍事部と衝突するのだった。その数ざっと500人。
第一大隊総隊長、青木淳子がストップをかける。そして敵部隊を挑発するかの如く言うのだった。冷徹な笑みを浮かべて。
「あら、随分早いお出ましね。獣だから朝にはめっきり弱いものだと思ってたけど。私達が何しに来たか、分かるわよね?」
そんな淳子に対して敵部隊のリーダーらしき男が答える。完全に見下した口調で。そしてそれが命取りになるとも知らずに。

「ふん、我ら崇高な存在たる獣人に抗うために下等な人間が寄り集まったところで何も変わらんわ!貴様ら虫けらごとき、踏みつぶしてやるよ!」
「それが、あなたの遺言と言う訳ね…確かに聞き届けたわ。実行は地獄でどうぞ?崇高な存在なら訳ないだろうから」
その瞬間、業火に包まれ、炭と化すリーダー。敵兵士の目が点になる。そしてそれは味方も同じだった。
さすがのセフィロスやカノンも驚きを隠せない様子だった。淳子は炭の塊と化したリーダーの元へと歩いて行った。
311ラーズグリーズ ◆/e63EAY4sY :2009/06/14(日) 00:33:13 ID:Jh1zouvX
>310の続き
そして淳子が歩む度に後退りする獣人達。強力な獣人達が人間、それも女性一人に恐れをなしているのは今までは考えられない光景だった。
そして炭の塊へとたどり着いた。何を思ったか炭の塊を自らの頭上へと持ち上げたではないか。
そして一言呟く。「生命って儚いわね…」そしてそのままアスファルトの地面へと叩き付けるのだった。
炭であるために非常に脆くなっていていとも簡単に5体が砕け散った。そして頭であった部分が淳子の足下へと転がって来きた。
それを「グシャリ!」と踏みつぶしそして煙草の火を消すかの如く踏みにじるのだった。

その凄惨な光景にその場にいた人間、獣人全てが息を飲んだ。獣人達からは「おい…なんだよあのバケモノ…」などと言う弱音が聞こえて来た。
そして再び第一大隊の元へと戻り、敵部隊に対して形だけ最後の警鐘を鳴らすのだった。もちろん聞き入れるなどと淳子は毛頭思っていない。
「さて、私の宣戦布告のパフォーマンスはいかがったかしら?ここで文字通りあなた達の腰に生えてる尻尾を巻いて逃げるなら見逃してあげてもいいわよ?」
淳子のその言葉に顔を見合わせる獣人達。しかしやはり自分達が人間などに尻尾を巻いて逃げるなどとプライドが許さなかったのだろう。

「怯むな!たかが人間などいつでも八つ裂きにしてやれると言うことを奴等に思い知らせてやるのだ!」
副隊長らしき女性が声を荒げて叫ぶ。それと同時に一斉に突撃する獣人部隊500人。
そしてそれを迎え撃つ解放軍第一大隊1000人が激突する。ここにこれからの歴史において長く語られることになる「人間解放戦争」の幕開けの瞬間だった。
人間に極力被害を及ぼさぬよう、最前線にて戦うセフィロス、カノン、淳子の三人。
「一気に攻め込め!あの3人さえ殺れば敵は総崩れだ!集中攻撃だ!殺れ!殺れ!!」
敵リーダーの女性の指示が飛ぶと同時に敵部隊の攻撃が一気に3人に集中する。
そしてこれこそが3人の狙いだった。いかに攻撃を集中させても実力差は火を見るより明らかだった。
セフィロスの斬撃。カノンの銃撃。淳子の業火。当初500人いた敵部隊はこの3人によって300人以下にまで減っていた。
そして遂に淳子の指示が飛ぶ。「各部隊500人ずつ分散完了したようね。全員突撃!一気にけりをつけて!」
それと同時に一気に攻め込む第一大隊1000人。実は竜崎から敵の攻撃が自分達に集中するような場合、
部隊を半分に分散させて敵部隊を挟むように左右に配置し、タイミングを見計らって挟撃を行うよう指示を受けていたのだ。

冷静さを欠いていた獣人達はこの攻撃によって完全に浮き足立ち、総崩れを起こすのだった。
戦闘開始から30分が経った頃、辺り一面に獣人たちの死体が転がっていた。対してこちら側の死者は0人。
諸戦は解放軍の完全勝利に終わった。そして3人の前に敵部隊のリーダーの女性が連行された。
312ラーズグリーズ ◆uSkP.rIFd2 :2009/06/17(水) 20:34:12 ID:w1XBe70F
「隊長、敵指揮官を捕らえました。処遇はいかが致しましょうか?これは私見ですがやはり見せしめのために…」
淳子はその男をギロリと睨み付けて言った。
「見せしめならさっき私がやったわ。見てなかった?それに私たちの目的は獣人の虐殺じゃなくて人間の解放。違うかしら?」
「いえ、おっしゃる通りです…」淳子の眼光に怯んだ男が答える。淳子はそんな男の気持ちを察したのか今度は優しい声で話しかける。
「そんな怯えなくてもいいわよ。私は間違なくそしてどんな時でも味方なんだから。取りあえずあなたは周辺住人の騒ぎを収めてきてくれないかしら?」

淳子の言うように獣人と戦ったことでこの町の住人がちょっとした騒ぎになっている。まだ朝早いというのに。
男は一言「了解しました」と返事をするとそのまま騒いでいる住人たちの元に走って行った。すでに他の解放軍メンバーによって
おおかたのあらすじは説明されていて、事態を収集するのは訳もなく、騒ぎは収まった。
ここでセフィロスが捕らえられた敵指揮官の女性に話しかける。見たところまだ20歳に満たないあどけなさも残るもけだかく美しい獣人だった。
それが心と一致する場合など殆どなく、むしろその真逆を取るケースが殆どだということを淳子は自分の人生経験から
よく理解していた。外面だけの美しさに捕らわれ心も美しくすることを忘れ他の人間を見下す。そんな連中だということだ。
ましてやこの女性は獣人。間違なくそうに決まっている。本当ならば先程の男に言われるまでもなく自らの手で炭くずにしてやるところだ。
しかし竜崎に「決して戦闘以外で敵を殺さないで下さい」と釘を刺されている以上そうする訳にはいかなかった。
「女…名は何と言う?」

「…………ブライト。セフィリア・ブライト…今し方貴様らの手にかかり全滅した世界救済委員会軍事部
トルベルア方面軍第一大隊の副隊長だ…殺すなら………早く殺せ………」
命乞いなど一切せず最期まで自らのプライドを貫こうとするその獣人、セフィリアに3人は正直感心した。
そこで今度は3人の中で一番温和なカノンがセフィリアに話しかける。
「セフィリアさん。僕たちはあなたを殺すつもりはありません。それにあなたを痛め付けて情報を聞き出す気もありません。
僕たちはただあなた達獣人に支配されているこの国の人間の解放。それだけが目的です」
「貴様…私に生恥をかかせるのか!殺せ!さもなくば自ら舌を噛んでやる!」
「何故あなたはそんなに死にたがるんですか?死ねばあなたがこれまで築きあげて来たもの、全てが無に帰ってしまうと言うのに…
そうだ。セフィロスさん、淳子さん。しばらくこの人と二人で話がしたいので外していただけますか?」
313ラーズグリーズ ◆uSkP.rIFd2 :2009/06/18(木) 21:05:37 ID:g5BhsF8g
「ああ、解った…」「私もセフィロスさんに同意。けど気をつけてね?」
「ご心配なく。彼女は僕を襲っては来ませんから」何の根拠があってそんなことが言えるのかが淳子には解らず首を傾げるが
セフィロスは鼻で笑い、立ち去るのだった。そしてそれを小走りで追いかける淳子。これでこの場にいるのはカノンとセフィリアだけとなった。
そしてセフィリアを縛っていた縄をほどく。必要以上にきつく縛られていて、彼女の肌には縄の後がくっきりと付いていた。
人間がいかに獣人を憎んでいるかがこの跡から垣間見える。憎しみからは何も生まれはしないのに…と、カノンは心の中で呟く。
「貴様…捕虜を自由にするなどどういうつもりだ?今すぐ貴様の首をへし折ってやってもいいのだぞ?!」
カノンはそんなセフィリアの脅しに眉一つ動かすことなく、逆にセフィリアを試すような口調で返すのだった。
「では何故あなたはそれを実行に移さないのでしょう?僕があなたを一瞬で殺せる武器とそれを使いこなす腕を持っているからですか?
ならこれでどうでしょうか?」
カノンは懐から自分の愛銃を取り出し、セフィリアの足下へと滑らせた。もちろん安全装置は外した状態で。

「これで僕は丸腰になりました。あなたが僕を恐れる理由はなくなった訳です。さあ、どこからでもどうぞ?それともまだそれが出来ない理由がありますか?」
セフィリアは俯いたまま答えない。二人の間にしばしの沈黙が流れる。が、やがてセフィリアが重い口を開くのだった。
「…私に…人間を傷つけるなど…出来るはずないだろう…私には…初めから無理だったんだ…」
カノンは首を傾げる。彼女は獣人だ。獣人にとって人間は言ってみれば下等な存在。それを傷つけることなど日常茶飯時で
獣人たちはそのことに関して毛の先ほども罪の意識など抱いてはいない、という話をガーランドから聞いていたからだ。
まして彼女は軍事部の獣人なのだ。間違なく人間を虫けら呼ばわりでもして迫害して喜んでいる非道な存在。
少なくともカノン・ヒルベルトはそう認識していた。しかし目の前の獣人の女性は自分に人間を傷つけるなど最初から無理だと言った。
どういう事だろう。不思議に思ったカノンは今自分が考えていた事をそのままセフィリアに尋ねた。
するとセフィリアは「フッ…」と笑いしゃがみ込んで話し始める。

「そうだろうな。私達はそう思われて当然だろう…たとえ人間に恨みがあるとはいえ、何の罪もないこの国の人間を
30年の長きに渡って苦しめ続けて来たのだからな。さて、何故私が人間を傷つけられないか…その理由を教えてやろう。
一つは今話したようにこの国の人間に対する罪悪感だ。私はそれから生み出される感情から人間達を傷つけることは出来ない…
もう一つは…………言うまでもないか…」
セフィリアはそう言って横を見る。カノンもそれに習う。見ると10人の幼い子供たちがこっちに向かって走ってくるではないか。
314ラーズグリーズ ◆WH113haXK5ba :2009/06/19(金) 23:33:34 ID:CQqF6Pne
見るとまだ12、3歳くらいの少年少女だった。そしてセフィリアを守るように取り囲み、カノンの前に立ちはだかり口々にこう言うのだった。
「お姉さんをいじめるな!」なるほど、この子供たちにはカノンがセフィリアを虐げているように見えたのだろう。
そして一斉にカノンに襲いかかる。しかし、カノンの超人的反応速度、身体能力の前には彼らの拳もむなしく空をを切るだけだった。
もちろんカノンは反撃など一切せずに回避行動に専念している。しかも笑っている。この状況を楽しんでいるようだ。
「やめないかお前たち!その人は私をいじめてなどいない!」セフィリアが口を開く。その途端大人しくなる子供たち。
「済まなかったな人間。私がこの子たちに一番に説明しなかったために迷惑をかけてしまったな」
「いえ、結構楽しかったですよ。それよりもう一つの理由と言うのは…この子たちですか」
「ああ、この子たちは獣人の迫害で親を殺されたんだ。ぼろ雑巾のような姿でゴミ捨て場に投げ捨てられた両親の亡骸の前で
立ちすくしていたんだ。酷い話だろう。当時私は既に軍事部に入局していてふと街を巡回していた時のことだ。
身寄りのないこの子たちもいずれ親と同じ運命を辿るだろう。そう思った私はこの子たちを保護することにしたんだ。
もちろんそんなことが本部に知れようものなら私は裏切り者として処刑され、この子たちも間違なく殺されるだろう。
私は何としてでもそれを隠し通す必要があった。だから私は必死に努力し、あらゆる手段を駆使してようやく今の地位を手に入れたんだ。
そして私は軍の中でも徹底的に人間を排除するように振る舞った。もちろん演技で実際は一人も手に掛けてはいないが。
そうすることでこの子たちを不自由させる事なく育てることも出来るし、またこの子たちを隠すことにもなると考えたからだ」

つまり、自らの手で人間を傷つけてしまえばもう自分にはこの子たちを育てる資格はないということだ。
軍部では人間排除の急先鋒として活動しつつ、その裏では孤児達の保護。その相反する二つの面に置かれたら普通の人間では
恐らく精神やあるいは人格が崩壊してしまうだろう。それをセフィリアは驚異的な意志の強さと精神力で耐えて来たのだ。
だが、それも今日で終わりだ。隊長を死なせた上に500人もの隊員が戦死したとなれば副隊長であるセフィリアは間違なく
その責任を問われるだろう。つまり、失脚だ。いや、最悪軍を追放されてもおかしくない。それならばいっそ―
「セフィリアさん、僕たちの仲間になりませんか?僕たちと一緒にいればあなたの立場は捕虜。その子供たちは
この街の解放戦において新たに解放軍に加わったことにすればいい。もちろん戦わせません。非戦闘部隊に所属させて
怪我人の手当てを手伝ってもらいましょう。それに、行軍中にこの子たちに勉強を教えられる人もいますし」
セフィリアは少し考えたがやがて笑い、カノンに答える。
「その提案、飲もう。これから私の命はお前達と共にある。好きに使ってくれ。ところで人間、名前は何という?」
「カノン・ヒルベルトと言います。これからよろしくお願いします。さて、セフィリアさんのことを皆さんに説明しなくてはいけませんね」
カノンは携帯電話にて淳子とセフィロスを呼び出し、今までのことを話すのだった。2人とも納得した様子で
「ええ、もちろんいいわよ。頼もしい味方が増えるのに異を唱える訳ないじゃない。ねえ、セフィロスさん」「ああ、その通りだ」
315ラーズグリーズ ◆WH113haXK5ba :2009/06/22(月) 20:32:14 ID:n5iVGzuk
こうしてセフィリアと十人の少年少女を新たに仲間に率いれた解放軍だったが、
その前途は多難だった。竜崎の目論見では都市を一つずつ攻略して行くごとに
解放軍メンバーを増やしていく算段だった。しかしこのトルベルア市では好戦波の
ブタ師が統治していて、救済軍がことあるごとに人間住人を迫害するので人間は
彼らに怯えきってしまっており、とても味方になってくれそうにないという話を
いましがたセフィリアから聞いたところだった。市民の不甲斐なさに表情が暗くなる一同。

さて、この時点で青木淳子率いる第一大隊は市全体の2割ほどを制圧していたが、
他の部隊が気になる。淳子は携帯電話を手に取り各部隊に連絡を取る。状況を聞き
その表情は明るくなったり暗くなったりする。やがて連絡も終わり、淳子は
各部隊の戦況を第一大隊のメンバー1000人に伝える。当初はザワザワと
騒がしかったが淳子が話始めた途端、ぴたりと静かになる。

「みんなの奮闘のおかげでこの緒戦、完全勝利を収めることが出来たわ。
まずは礼を言わせて。さて本題だけど、他の部隊がどうなっているか
みんなも気になってると思うから伝えておくわね」

そして淳子の口から各部隊の戦況が語られる。ウィルとエーリス属する第2大隊。
市中心部まで侵攻することに成功。ブタをあしらった
黄金のモチーフが所々に点在する、はっきり言って悪趣味極まりない宮殿、
つまりブタ師の住まいの前までたどり着いたところで宮殿の防衛部隊800人と
交戦状態になるもこれを壊滅させた。ただ味方にも150人程の死傷者が出て、
第5大隊に治療と死者の葬儀を要請したとのことだ。現在は宮殿前広場にて
待機中であり、各部隊との合流後、一気に宮殿内部に侵攻し、ブタ師の身柄を
確保、それが出来なければ殺害も厭わない、という作戦だった。

殺生を忌み嫌う竜崎が殺害も厭わないといったのには理由があった。
一つは獣貴12師の一人であるブタ師が沈んだとなれば軍の志気は恐らく低下する。
少なくとも、これまで虐げて来た人間達にやられた、という事実でこれまでの
彼らの考え方に綻びを生じさせることは確実だ。竜崎のねらいはこれからの自分達の
行動によって獣人たちの人間に対する考え方を変えさせることにあった。
この戦いがあるべき終結を迎えたあと、人間と獣人が互いを許しあい
そして共存して行く。それこそが竜崎の目的だった。
316ラーズグリーズ ◆WH113haXK5ba :2009/06/24(水) 20:29:37 ID:wUJpiI4g
つまり、ブタ師の陥落はその為の礎であり、この戦いにおける竜崎の目的完遂の
ために絶対必要な事項なのだ。そしてもう一つの理由は、人間が自分達の手で
獣人のヒエラルキーの頂点に君臨する獣貴12師の一人を打倒した、という事実を
作ることによって解放軍の志気を高め今後の作戦展開を有利に進める、という狙いだった。

そして、この解放軍のブレインたる竜崎属する第3大隊は現在も敵と交戦中、
しかしながらこちら側にも獣人が存在することで裏切り者が出始めたと誤解した
敵部隊にかなりの動揺を誘うことが出来、戦況は圧倒的有利に進んでいるとのことだった。
恐らく、勝利は時間の問題であろう。しかし、ここで淳子は口をつぐんでしまう。

「あの、青木さん。第4大隊と第5大隊はどうなったんでしょうか?」
急に黙り込んでしまった淳子を不思議に思ったカノンが声を掛ける。すると淳子は
首を横に振ってその問いに答えるのだった。まるでこの世の終末を宣告するような
そんな悲しげな声だった。

「実は…両方とも連絡が取れないの…」
そして淳子は自分の考えを一同に話す。圏外とも考えたが、この市は高低差が殆どない
平野の中心部に位置していて、圏外になる箇所があるとは思えない。更にいうなら
携帯電話の電波を遮断出来るような妨害電波を発生させるような装置も見当たらない。

そんな技術力は淳子の世界で言えば十五世紀頃のヨーロッパの町並みをそのまま
再現したようなこの市にあるはずもなく、何より通信手段は手紙位のものだから
妨害電波発生装置など作る必要すらないのであった。
となると連絡がつかない理由として考えられるのは…最悪の考えが頭をよぎる。

その刹那、淳子は何かにつき動かされたかの如く第2大隊に連絡を取る。第2大隊は
死傷者の救護を第5大隊に要請したと言った。すなわちその時にはまだ健在だった。
救護を要請したのがどれくらい前なのか。それが一刻も早く知りたかった。
まだ間に合うかも知れない。美伽や上条先生の安否が不安でならなかった。

「はい、こちら第2大隊のウィルフレド。青木さん、何か用ですか?」
淳子は今自分が考えていたことをそっくりそのままウィルに話した。
そして、しばらく話した後に電話を切るのだった。―15分前。ここで淳子は
自分達と第4、第5大隊の位置関係を考えた。
317レス代行:2009/06/24(水) 21:54:56 ID:u0vHEU7j
乙です。なにかずいぶん見やすくなりました。次回以降もこの調子でお願いします。
318ラーズグリーズ ◆WH113haXK5ba :2009/06/25(木) 23:05:16 ID:qEcWBxz8
全5部隊にて星を描くように市を蹂躙する様から『五稜郭作戦』と名付けられた
今回の作戦。市中心部から見て北西の方角に第1大隊、その真向かい、つまり北東に
第2大隊、南西には第3大隊、そして北に第4大隊、最後に南東に第5大隊という構図だ。
各部隊が一斉に攻め込んだのであればある程度は市内に侵入したと考えるのが普通だ。

5部隊に一気に侵攻を受け、朝方で判断力が鈍っている獣人は妥当な
決断を下すのに時間がかかる。そのスキを突いて一気に攻勢を仕掛け、この市を
陥落させるのがこの作戦の主目標だ。しかし2部隊も壊滅したとなれば間違なく
今後の作戦行動に支障を来す。それだけじゃない。美伽や上条先生が戦死などと
いうことになれば淳子たちの最大の目的である『世界を変える』ことも不可能となる。
そうなれば淳子たちは永遠にこの世界に取り残されたままだ。淳子の焦りは頂点に達する。

心臓が激しく鼓動し、息が荒くなる。いても立ってもいられずに淳子は電話を掛ける。
相手は第2大隊のウィルと第3大隊の竜崎だ。用件を確実に伝える為に息を整える。

「もしもし、今から言うことをよく聞いて」
そして淳子は現在も健在である残りの3部隊にて第4、第5大隊の捜索、援護を
依頼する。2人とも「了解」と返事をして電話をきった。自分達も動かなくては。
現在位置は北西の門からちょうど100m程だ。恐らく、南東の方角に歩いて行けば…

ここで淳子は首を振った。歩く?バカな。全速力で走って行くに決まっている。
淳子はメンバーにことの次第を説明し、そして捜索は開始された。
―2人とも無事でいて、それだけを考えながら淳子はただ走り続けるのだった。

第十二話 ザ・マーシナリーズ 完
319ラーズグリーズ ◆WH113haXK5ba :2009/06/26(金) 21:28:47 ID:4fAeCqE2
第13話 The angel of the massacre〜殺戮の天使〜

淳子たちが第4、第5大隊の捜索を開始する40分ほど前、その2部隊は市中心部から
500メートルほど離れた位置にて合流していた。このトルベルア市は半径
1km弱の城塞都市だ。市中心部に位置するブタ宮殿を中心として段々と大きな円を
描くように市民の住居や道具屋などの店が立ち並び、そしてその円の大きさと
反比例するように住人の階級は下がって行く。市の一番外れに住んでいるのは

もちろん人間で、その中でも最も貧しい人々が暮らしている箇所だ。
俗に言う貧困街、スラムである。そしてこの2つの部隊はもうまもなく平民街から
そのスラムに入るかどうか、という地点にて合流した。その数2000人。人々は
再び生きて巡り合うことが出来た互いの幸運を称えあった。小百合、上条先生も
その一人で、孤児院の教え子である秋山美伽と談話しながら時間は過ぎていった。

そして、現在から20分前、つまり第2大隊から死傷者の救護を要請された直後に
それは唐突にやって来た。獣人の大軍勢による奇襲攻撃を受けたのだ。その数、
4000人。せめてもっと周囲に警戒していれば結果は違ったかも知れない。
しかし、人々は油断しきってしまっていた。2000人もいる。獣人とてそう簡単に
手出しは出来まい。そうたかをくくってしまっていた。

結果、次々に襲いかかって来る獣人に殆ど何も出来ぬまま人々は倒れていった。
元々戦う術など持っていなかった小百合はただ逃げ惑うしかなかった。途中で
美伽とはぐれてしまった。大丈夫、彼女は運動神経は抜群だ。きっと逃げられる。
そんなことを考えながら小百合はただただ全力で走った。逃げた。逃げるしかなかった。
そしてどれ程走っただろうか。辺りはすっかり静まり返っている。

後ろを振り返っても獣人たちが追って来る気配はない。ホッと胸をなで下ろす。
しかし、またすぐに新たな不安に襲われた。美伽はどうしただろうか。上手く
逃げ切れただろうか。彼女の安否が気になって心配で仕方がなかった。不安で
胸が張り裂けそうだった。小百合はもと来た道を再び走り出す。逃げる時は
全く感じなかった苦しさが、今その時の分もまとめるような形で一気に
襲いかかって来たような、そんな苦しさだった。

まるで得体の知れない何者かが、自分が美伽のもとまで行くことを阻んでいる、
そんな風にさえ感じられた。しかし、小百合はそれでも走り続けた。心臓の鼓動が
悲鳴にさえ感じられる。ただ、ここで自らの心臓を庇い美伽が命を落した、などと
いうことになれば小百合は一生涯それを後悔することに
なるだろう。どんな大事な局面でも決して後悔だけはしたくない。それが小百合の
信念だった。そして小百合は今ようやく先ほどの場所にたどり着いたのだった。

全身が酸素を求め、息は一秒足りとも止めていられなかった。小百合はその場に
しゃがみ込みただひたすらに息を整えることだけに専念した。こうしている間にも、
美伽が命の危険に晒されている。小百合の焦りはただ募っていくばかりだった。
やがて呼吸も落ち着き、小百合は辺りを見渡す。目を覆いたくなるような光景が
広がっていて、実際に目を覆った。それだけ凄惨な光景だった。
320ラーズグリーズ ◆WH113haXK5ba :2009/06/28(日) 01:00:21 ID:t04cd+cV
本来は灰色であるはずの石畳が今では人々の鮮血で真っ赤に染め上げられ、その上には
無数の人々の亡骸がただただ横たわっている。小百合は吐き気を懸命に堪えながら
その死体たちを一人ずつ見ていった。美伽がこの死体の山の中の一人でないか確かめる為だ。
ある死体は顔面が完全に破壊され、生前この人がどんな顔をしていたかはもはや見る者の
想像に任せるしかない有様だった。またある死体は両手両足がその根元から切断されていた。

さらに背中には非常に鋭利な刃物で斬られた跡が4本平行に連なっていた。そしてその顔は
苦痛に歪んでいる。この背中の傷は医者ではない小百合の見立てでもそう深くはなかった。
つまり、この傷は致命傷ではなく、この人は生きたまま四肢を切断されたということになる。
そして、この世のものとは思えない苦痛の中で死んでいった………余りにも惨すぎる。

次の死体は…女性だった。そしてその遺体を見た瞬間、小百合はその場で嘔吐した。
それだけ酷い有様だった。眼球は抉り取られ耳はもぎ取られ、頭部は何度も重い鈍器で
殴られたのだろう。完全に陥没していた。ここまででも十分鬼畜の所業なのだが、
小百合が嘔吐したその理由は、腹部にあった。無残に引き裂かれ腸や内蔵が露わとなり、
さらに酷いのは…………この女性は妊娠していたのだ。その胎内には新たな生命が
宿っていて、この世に生まれ出てくるのを心待ちにしていたに違いない。

その新しい命は…どんなパズルの天才であろうと決して組み立てることは出来ないだろう。
そう小百合に思わせるほどに粉々にされていた。何故こんな酷いことが出来るのか。
昔、獣人達が人間達にどんな目に合わされたのかは小百合には知る由もない。
獣人たちが人間そのものを憎み、そして自分達を蹂躙した人間たちに復讐してやる、
そう考えるのはいわば自然の流れであろう。それは小百合も理解していた。

ただ、その報復がこの殺戮、いや虐殺だというのならばもはやそれは報復の域を超越している。
獣人たちはただ人間を虐殺したかっただけで常にその機会を伺っていて、人間の方から
その機会を持って来てくれたと狂喜乱舞した。その結果がこの大虐殺劇である。
もはや小百合は一秒とてその場にいられなかった。一目散にそこから逃げ出した。

どれくらい走ったか解らない。さっきから走ってばかりではないか。自分はいつから
マラソンランナーになったのか。そんなくだらない思考が頭をもたげるようになる。
そして立ち止まり膝をつく。先ほど自分の見た光景がフラッシュバックし、再び吐き気に
襲われるが今度は堪えることが出来た。第4、第5大隊が事実上全滅した、という事実は
今のところ自分しか知らないはずだ。美伽が生きていれば話は別だが。

何とかして残りの3部隊3000人に連絡を取れないものだろうか。そうすれば幾分
勝ちの目は出て来る筈だと小百合は考えた。青木さん、セフィロスさん、カノン君、
ウィルフレドさんやエーリスさんもいる。彼らならば必ず勝利をつかみ取ることが
出来る。そう、彼らは何も出来ずにただ逃げ惑うばかりの自分とは違うのだ。
人間を獣人の支配から解放する為に武器を取り、戦う彼らと自分は仲間…なのだろうか?
321創る名無しに見る名無し:2009/06/29(月) 02:06:58 ID:3Gj4dE8F
えっと…ディケイドみたいなことかな?
322ラーズグリーズ ◆WH113haXK5ba :2009/06/29(月) 09:19:10 ID:cmpDOVVG
>>321
すいません。そもそも「ディケイド」が何なのかがよく分からないものですから。
よろしければ解説していただけないでしょうか?
323ラーズグリーズ ◆WH113haXK5ba :2009/06/29(月) 20:39:34 ID:cmpDOVVG
>>320の続きです

…解らない。彼らは私のことを仲間だと思ってくれているかもしれないが、私には彼らと
共に歩む資格があるのだろうか?いっそのこと全てを投げ出して楽になってしまおうか、
そんな思考が脳を駆け巡るがそれをすぐに払拭する。あの少女の姿をした神様だって言って
いたじゃないか。―あなた達10人が全て揃った時にこそ、この世界を変えることが出来るのだと。

そうだ。私達はその為に誰一人として欠けてはならないのだ。それは他のみんなに対する
最大の裏切り行為に他ならない。逃げ出すなどと一瞬でも考えた自分がすごく恥ずかしかった。
そう、自分は剣を取り戦うことは出来ないだろう。しかし、みんなの為に必ず
出来ることがあるはず。まずはそれを探すことから始めよう。まずは………美伽の捜索だ。
ここはやはり先程の場所に戻り、彼女の生存を信じてその名を呼び続けるしかないだろう。

小百合は小走りで先程の場所に戻り、それを実行に移した。美伽の名を一つ呼ぶごとに
反応がないか確認するために周囲をよく見渡す。たちこめる死臭を懸命に堪えながら
小百合は少しずつ移動しつつそれを何度も何度も繰り返した。しかし、横たわる亡骸達が
呼び掛けに応じる気配は全くなかった。小百合は絶望にうちひしがれた。美伽がいなかった、
という事実もその一因だが何より、生存者が遂に一人も見つからなかったのである。

ここに横たわる2000人は1人残らず虐殺されたのだ。ただ獣人たちの快楽の為だけに。
この光景を他の仲間達が見たらどう思うだろう。青木さんは怒りに我を忘れて獣人を
一人残らず焼き殺してしまうだろう。セフィロスさんはどうだか解らない。実際、私は
彼がどういうタイプの人間かがよく分かっていなかった。ただ第一印象として
落ち着いた人だとは思っていたけれど。

そしてカノン君が怒りや憎しみに我を忘れて暴走するところなど想像も出来ない。
竜崎さんに至っては…そもそもこういう話題に彼を登場させること自体が間違いだ。
ウィルフレドさんとエーリスさんはまだ出会ったばかりでそう軽々しく考えられない。
かく言う私は…ただひたすらに獣人が憎かった。ただ快楽の為にこんなに多くの人々を
鬼畜の所業の上になぶり殺しにした獣人を最後の一人まで狩り尽くしてやりたかった。
獣人という種族そのものと、戦う術を持たぬ自らを小百合は呪った。

そしてその場に跪き、呪詛の言葉を呟く。
「獣人よ…私はお前たちを未来永劫許さない…お前たちをこの世から一人残らず
抹殺出来るのなら私はたとえ悪魔にでもこの魂を捧げよう…」

そして立ち上がり、曇天の空に覆い隠された太陽を見上げる。何故かひどく眩しかった。
まるで神が悪魔に魂を捧げると口にした自分を睨み付けているようにさえ感じられた。

その刹那、足音が聞こえた。振り向くと、獣人の大軍勢にすっかり包囲されていた。
何故気付かなかったのだろう。獣は獲物を確実に仕留める為に気配を消して近寄り、
そして一気に襲いかかり、一瞬のうちに獲物を仕留め食事にありつくと言うが、これだけの大人数だ。
…なるほど、獣人として知恵を身につけた結果がこれだという訳だ。小百合は苦笑した。
獣人を呪い、半ば自暴自棄になった小百合は獣人の軍勢に対して言い放った。

「アハハハハ…虐殺はさぞかし楽しかったでしょうねぇ…それで何の用?私を殺しに来たの?
これだけやっておきながらまだ足りないだなんて贅沢にも程があると思うけど?」
324ラーズグリーズ ◆WH113haXK5ba :2009/06/29(月) 20:49:09 ID:cmpDOVVG
すいません、読んでる人がいたら挙手をお願いします。
325創る名無しに見る名無し:2009/06/29(月) 21:08:11 ID:BjBaleKv

このスレは毎日チェックしてるよ
326創る名無しに見る名無し:2009/06/29(月) 23:20:19 ID:cmpDOVVG
>>325さんありがとうございます。
327創る名無しに見る名無し:2009/06/30(火) 09:09:49 ID:7OMBRck9
>>322
横槍すいませんでした

私の幼稚な理解力では追いつくのが難しかったので…
「ディケイド」は、仮面ライダーでした^^;

あとここは暇さえあれば確認しとります
328ラーズグリーズ ◆WH113haXK5ba :2009/06/30(火) 09:28:56 ID:aXCwVZUi
>>327
ありがとうございます。仮面ライダーだったんですね。僕もクウガとアギトは見てました。
基本的に火曜と日曜以外は毎日更新するのでたまには感想も落としていただけると励みになります。
329ラーズグリーズ ◆WH113haXK5ba :2009/06/30(火) 20:52:59 ID:aXCwVZUi
>>323の続き

すると獣人たちは一斉に笑いの渦に包まれる。売れない芸人が見たら羨ましがる程に。
小百合には何故彼らが笑ったのかが皆目理解出来なかった。私は冗談など言っていない。
真剣そのものだ。やがて笑いも収まり、獣人舞台の隊長らしき見るからに傲慢そうな
男が口を開く。小百合の予想通り、ひどく傲慢な口調で。
「女ァ…さっきから何かを鳴きながら探しているようだがその探し物はコレのことか?」

そしてその獣人の男は自らの後ろに手を伸ばし、それを小百合に見せつけた。
その瞬間、小百合は凍り付いた。男が見せたのはボロボロに痛め付けられた美伽の姿だった。
彼女の綺麗に纏めたポニーテールを男は鷲掴みにして持ち上げていた。しかも、
服までズタズタにされ、ほぼ全裸に近い状態だった。
「秋山さん!?…獣人、彼女を放しなさい!今すぐ!」
しかし小百合のこの言葉も獣人たちの失笑を買うだけだった。そして再び男が口を開く。

「女ァ…人間ごときが誰に口を聞いているか理解出来ていないようだな。まあいい。その無礼は
あとでたっぷり払わせてやるとして、冥土の土産に一ついいことを教えてやろう。
この小娘の末路についてだが…」
そして男は耳を疑うようなことを口にする。ブタ師のディナーとしてその食卓に
乗せられるのだ。ブタ師は美伽のような少女の肉を最も好むのだという。

「さて話はここまでだ。さて、覚悟は出来たか?まあ出来ていなくともやってやるのだが。クククッ…」
そして男が言い終わると同時に小百合は四方から獣人の鋭利な爪によって串刺しにされていた。

「…ッア…!」
声にならない叫びをあげて小百合は鮮血を吐く。そして、爪が引き抜かれると同時に
血が吹き出し、小百合はその場に仰向けに倒れる。朦朧とする意識の中、小百合は呟いた。
「ご、めんね…秋山、さん…あなた、を…守れ、なかっ、た…」
そして、世界が暗くなる。完全な闇に包まれた。

―女。……私を呼ぶ声が何処からともなく聞こえる。その声はどんどん大きくなって来る。
そしてその声は恐ろしくおぞましかった。そしてまた一言、その声の主が話しかける。
―獣人を滅ぼしたいか?この声の主は何者なのだろう。そう考えつつも小百合は
はい、と返事をする。すると今度は美しい男の声が聞こえる。
―その為には悪魔にでも魂を捧げようってさっき言っていたけど、その気持ちは今も変わらないかい?

まるで少年のような明るくも美しい声だった。思わず聞き惚れてしまったが小百合は
「今も変わらない」と返事をする。するとその声は満足したような声で返す。
―なら、キミの魂はボクが受け取るよ。その代わりボクの力をキミに貸してあげよう。
…力?力って何?小百合はその声の主に聞き返す。

「あの、貴方は何者なんですか?」
そして、その声の主はフフフ…と笑い、話し始めるのだった。
「ボクの名はルシフェル。キミをこの世界に召還した神様の知り合いさ。と、言っても
仲はあんまりよくないんだけどね」
そしてルシフェルは長々と語り出す。ルシフェルによれば、自分たちを召還し世界を変えよう
と試みている神に興味を持ち、その達成の為に必要不可欠な小百合が死ぬのは
神にとっても自分にとっても不都合であり、だからこそ小百合を助けたのだという。

「あの…ありがとうございます…」
小百合はルシフェルに礼を言う。そんな小百合にルシフェルは苦笑しながら返事をする。
「お礼なんていらないさ。キミの魂もさっき受け取ったし。おっと、忘れてたよ。これがボクの力さ…」
330ラーズグリーズ ◆WH113haXK5ba :2009/07/01(水) 21:59:08 ID:HgANSYAP
その刹那、小百合の胸の中に温かい何かが生まれた。恐らくはこれが力の源なのだろう。
そしてルシフェルは再び語り出す。その力を使いたい時はただ使いたいと思うだけでいい。
まどろっこしい呪文の詠唱も何も一切必要ない。最後にルシフェルは一言付け加える。
「さあ、後はキミ次第だよ。頑張っておいで。ボクはいつでもキミの味方だから。フフフ…」
そして再び意識が遠くなる。気がつくとついさっきまで小百合が倒れていた場所だった。

不思議なことに、致命傷を負わされたはずの腹部に痛みは全くなかった。擦って見ると、
…傷がなかった。まるで最初からそんな傷などなかったと言われているようだった。
目を開いて、空を見る。相変わらずの曇天模様だ。横を見ると、先程自分を殺した獣人が
歩いて行くのが見えた。先程の時間から15秒程しか経っていないようだった。
そして、目を再び開いた小百合に気付いていないのだろう。これは小百合にとってチャンスだった。
力を使う前に奇襲を受けては堪らないからだ。これなら確実に力を使うことが出来る―!

四肢に力がみなぎる。そして小百合は起き上がる。獣人たちはひどく驚いている。無理もない。
あの状態で生きていられるはずがない。それに何故傷がふさがっているのだ。あり得ない。
そんな思考が、獣人たちの頭の中を駆け巡った。そして再びあの男が叫ぶ。今度は
傲慢さなど微塵も感じられずただひどく動揺している様子が見て取れた。

「おい!何してる!生きてんじゃねぇか!もう一度殺れ!今すぐだ!」
その声と同時に先程小百合を殺した獣人が舞い戻る。再び小百合の息の根を止めるために。
―だが、獣人のずば抜けたその走るスピードも小百合の力の発動を阻止するためには余りに遅かった。
「待っててね秋山さん。今度こそあなたを助け出して見せるから…!」

そして小百合は目を閉じて、瞑想する。その刹那、彼女の体は黒い光に包まれる。
金色の髪は漆黒に染まり更に後ろ髪は地面につく程に長くなる。元のショートヘアーは見る影もない。
手の10本の指はさながら脇刺のように長く細くなる。そして小百合の白い上着と
同じく白い長ズボンは完全に漆黒に染まっていた。だがしかし、今の彼女の姿で
一番目を引くのは、背中から大きな翼が6枚ずつ左右対象に伸びていることだった。
その翼はまさしく天使の翼だった。…漆黒に染められてさえいなければ。

その美しい姿に獣人たちはただただ息を飲むしかなかった。そして彼らの獣としての
勘が自らを警告する。死にたくなければ逃げろと。しかし、獣人が人間ごときに
背中を向け、尻尾を巻いて逃げたとなれば間違なく末代までの恥だ。そんなくだらないプライドの
為に彼らは逃走という選択肢を思考の中から払拭した。そしてその瞬間、彼らの運命は決まったのだった。

「怯えるな!少しくらい姿が変わったところでどうと言うことはない!我ら獣人の力を奴に見せつけてやるのだっ…!?」
男が言い終わるのと、小百合がその首を切り落としたのはほぼ同時だった。
12の翼で、瞬時に男の元まで移動しその長い指を刃に変えることで首を一瞬で切り落としたのだった。
そして、切断された体の断面から大量の血液が吹き出し、小百合はそれを浴びた。

「汚らわしい…」
冷酷非情な声でただ一言そう呟き、小百合はその男の首の無くなった体に掌を当てる。
その刹那、男の肉体は粉々に砕け散り、消滅した。支えを失い、倒れて来た美伽の身体を小百合は
優しく受け止め、まだ息があることを確認すると、ぎゅっと抱き締めた。
331ラーズグリーズ ◆WH113haXK5ba :2009/07/02(木) 19:21:32 ID:rKDDrL+f
そして彼女を抱いたまま、空高く飛び上がる。上空から美伽を安全な場所に避難させることが
出来る箇所を探す。それはすぐに見つかった。小百合が入って来た南東の門のすぐそばには、
時計塔があり、その時計盤の隣には制御室らしき部屋へと続く扉があった。
そこに美伽を寝かせておけばいい。先程抱き締めた時に小百合は自分の気を少し
美伽に送り込んだので死ぬ心配はない。小百合は戦闘機も真っ青のスピードで空を飛び、
ものの2秒で時計塔の前へとたどり着いた。そして制御室へと続く扉のノブに手を掛ける。

案の定鍵がかかっていたが、小百合は少しも動じる事なく扉そのものに掌を当てる。
あの獣人の男と同じように扉も粉々に砕け散った。そしてやはりその中は時計の制御室で、
無数の歯車が時計を動かすために駆動していた。小百合はその歯車から出来るだけ
離れた位置に美伽を寝かせ、髪を撫でた。そして再び翼を広げて、奴らのもとに舞い戻る。

わざと獣人たちに包囲される形になる場所に降り立ち、冷酷非情に宣告する。
「お前たちはここで滅びる。これは神の与えた定めだ。甘受するがいい。せめて苦しまぬように導いてやろう…」
そして、両手を真横に広げ、大きな光の塊を生み出す。更に上空へと舞い上がり、それを
組み合わせて一気に地面に叩き付けた。地面に衝突すると同時にその四方200mほどが閃光に包まれる。

やがて光も消え去り、辺りが見渡せるようになった時、獣人たちは一人残らず…消滅していた。
無表情でそれを見つめる小百合。彼女がこの時何を思っていたかは知る由もない。
ただ確かなのは、これで虐殺された人々も、たとえほんの少しであろうと浮かばれた、ということだ。
そして再び時計塔へ向かい、美伽を抱きかかえて地上へと舞い戻り、元の姿に戻る。

―淳子の第1大隊が現場に到着したのはその5分後だった。到着するなり、第1大隊のメンバーは
目を疑った。虐殺された第4、第5大隊のメンバーの亡骸を目にし、ただ呆然と立ちつくすしかなかった。
そして、これだけの虐殺劇を演じたであろう敵、恐らく獣人の姿も何処かへ消えていた。
2000人もの人間を虐殺したのだ。かなりの大部隊に違いない。故にそうそう隠れることなど
出来るはずがない。下手をすればそいつらに奇襲を受ける危険もある。淳子はそう考えていた。
その時、淳子は亡骸の山の向こうに立ちつくす人影を見つけた。あの人なら何か知っているはず。
淳子、セフィロス、カノン、そしてセフィリアは亡骸を踏まぬよう僅かな隙間を縫って
その人影に近付いた。見るとそれは…上条先生だった。しかもその足下には傷だらけの美伽が倒れていた。

「上条先生!」
淳子が呼び掛ける。すると彼女はこちらを振り向き、手を振り返す。淳子たち4人は
亡骸の山を通り越し、駆け足で彼女の元へ向かった。そして、そこにたどり着く。
倒れている美伽の息を確認し、安堵の息をつく淳子。そして泣きそうな声で小百合に話しかける。
「よかった…二人とも生きていて…それで美伽さんは大丈夫なの?」
小百合は少し疲れた声で答える。
「ええ…応急処置を施しましたから…ところで…見ない方がいるようですが…」
はっとした顔で淳子は返事をする。
「あ、ごめんなさい。この人はセフィリアさん。人間を大切に思う貴重な獣人よ」

人間を大切にする?そんな獣人は確かに貴重だろう。だが、小百合から見れば彼女もまた
ただの獣人でしかないのだ。そして獣人は最後の一人まで…排除。自分の内に宿す
力の源がコイツを殺せと命令する。小百合はそれを必死に押さえ付けた。脂汗が額に滲む。
332ラーズグリーズ ◆WH113haXK5ba :2009/07/02(木) 23:26:09 ID:rKDDrL+f
そんな小百合の様子を不審に思ったセフィロスが声を掛ける。
「小百合、具合でも悪いのか?汗がひどいようだが…」
小百合は冷静さを保とうと息を落ち着かせて返事をする。が、どうしても途切れ途切れになってしまう。
「え、ええ…大丈夫…です…こんなに…たくさんの…人の…死を…目の当たりに…したものですから…」
その瞬間4人は全く同じことを思った。彼女は自分とは違う普通の人間だ。

きっと今まで人の死に殆ど関わって来なかったのだろう。そこへこの亡骸の山だ。
彼女がこんな状態になるのは言ってみれば人間として当然の事なのかも知れないと。
そして小百合はセフィリアに問い掛ける。その解答次第によっては彼女の首も切り落とすつもりだ。
「セフィリアさん…あなたは…この人達を虐殺した…獣人とは違う…そう受け取っていいですか…?」
「もちろんだ。私は決して人間を殺したりはしない。それがこの30年に対する私なりの償いだ」

その言葉を聞き、小百合は心の底から安堵する。これでようやく内なる力を押さえられる。
そして、再び息を整え、セフィリアに自己紹介する。今度は途切れることはなかった。
「初めまして、セフィリアさん。私は上条小百合と申します。孤児院で子供たちに
勉強を教える教師を勤めています。これからよろしくお願いしますね」
そして、右手を差し出し、握手をセフィリアに求める。それに応じるセフィリア。

二人の右手が、しっかりと結ばれる。小百合はもう一つ信念を持っていた。
それは、握手を交わした相手を未来永劫信頼し続ける、と言うものだった。そして小百合が
この信念に基づいて握手をしたのはセフィリアの他には秋山美伽だけだった。
先程の呪詛とは相反するが、小百合にとってセフィリアはもはや獣人ではなかった。
ルシフェルに対する言い訳かも知れないが、そう思うことによって小百合は
内なる力を押さえ付けることが出来た。

「あの、それで青木さん。ウィルさんや竜崎さんたちはどうされました?」
思い出したように小百合が切り出す。それを聞き、淳子はハトが豆鉄砲を食らったように
電話を掛ける。それを見て、同じく小百合も豆鉄砲を食らったような顔になる。
携帯電話!なんであれを使って美伽に連絡を取らなかったのだろう。…いや、あの奇襲では
正常な思考など出来るはずもない。ただ逃げ惑うしかなかった。まあいい。過ぎたことだ。

小百合は懐から携帯電話を取り出し、使えるかどうかを確認する。…問題ない。
などと小百合が考えているうちに、淳子は連絡を終わらせていた。
「ウィルさんと竜崎さんに現在位置を伝えておいたわ。5分程でつけるそうよ。
上条先生にはみんなが到着したら色々とお話を聞かせてもらうわ」
今聞かないのは、同じことを二度も話す事のないようにするための淳子の配慮だった。

小百合にも彼女のその細やかな優しさはしっかりと伝わり、思わず笑みがこぼれる。
そして5分後、第2、第3大隊が現場に到着する。そして皆一様にその目を疑う。
中には泣き崩れる者もあった。恐らく、家族や友人がいたのだろう。
「…なんなんだよこれ…軍の連中、前々から非道な奴らだとは思ってたけどいくらなんでも
やり過ぎだろ!やって言い事と悪い事の区別もついてねぇのかよ!チクショウ!」

反乱軍のリーダーで獣人でもあるガーランドはその場で我を忘れて怒り狂う。
怒りのあまり辺り構わず暴れ回るので、残りの4人が必死に取り押さえた。
そしてその亡骸の山を無表情で見つめる男が一人。竜崎だ。
333ラーズグリーズ ◆WH113haXK5ba :2009/07/04(土) 20:15:05 ID:S2Ka1Ph/
突然ですがここでオーディエンスの皆さんに意見を聞きたいと思います。
このまま3000人で解放まで突っ走るのか
虐殺に怯えた人間たちに失望して主人公達だけで行くのかどちらの展開を希望しますか?
334創る名無しに見る名無し:2009/07/06(月) 01:13:18 ID:NtuNPaJ1
中間の「怯えなかった人間たちだけ付いてこさせる」で
335ラーズグリーズ ◆WH113haXK5ba :2009/07/06(月) 09:03:10 ID:3JzdJnKj
>>334
その考えはいいですね。ではそれで行きます。貴重な御意見ありがとうございます。
336ラーズグリーズ ◆WH113haXK5ba :2009/07/16(木) 20:14:57 ID:lPrdCZAg
彼がこの2000人の亡骸を目の当たりにして何を思ったのか知る由もない。ただ、少し考えれば分かることかも知れないが。
そして竜崎が何かを語ろうと口を開きかけたその時、皆に話し始める女性がいた。青木淳子だ。
「この周りの建物、随分汚れてるけど住んでいるのは人間でしょう?
こんなに非道い殺され方だもの。悲鳴はこの世のものとも思えなかったでしょうね。
みんな、私の言いたいことは、解るわよね…?」
淳子が言いたいのは、虐殺される人間たちをただ見殺しにしたこのスラムの人間も
獣人とそんなに変わらない、ということだ。ただ、死の恐怖に怯え行動を起こせない気持ちは
淳子にはよく解る。淳子がこれまで手にかけて来た悪人たちも殺される直前、卑屈なまでに
彼女に命乞いをして来たからだ。もちろん淳子は聞く耳も持たずその全てを葬り去って来たのだが。

7人の間に重い空気が流れ、しばらくの沈黙が訪れる。淳子は目を泳がせて過去を振り返り、
セフィロス、竜崎は無表情のまま立ち尽くす。カノンは小百合と共に美伽の容態を気にかける。
ウィルとエーリスは何処か悟ったような表情をしていた。そして、その重苦しい沈黙を破る男が一人。竜崎だった。

「みなさん、ここで私達が考えるべきはこの解放軍の今後についてです。非常に残念ですが
この惨状によってメンバーの士気は激減したでしょうよって…ここでメンバー全員にあることを問う必要があります」
そのあることとは…これからも死を恐れずに自らを支配から解放するために戦う意思があるかどうかだ。
竜崎はガーランドにそれを耳打ちし、3000人に伝えてもらうよう頼んだ。

彼はまだ怒りが収まらないのか震えていたが、たとえ傀儡であろうともリーダーの役目を忘れてはいなかった。
3000人を集合させ、怒りに震える声を落ち着かせて皆の前で話し始める。

「あー、みんな…これを見て思うところは多々あるだろうな…実際俺もマジギレしちまったし…
だから…ここでみんなに問いたいんだ」
そしてガーランドは問う。これからも死を恐れずに人間を支配から解放するために
戦う意思があるかどうかを。戦う意思があるならついて来てくれればいい。ないならば
そのままヴァンゲリオ市に帰ってもいい。言うまでもないがこれは完全に個人の自由意思
であり、たとえ引き下がろうとも何人たりともそれを咎めることは出来ないということだ。そしてガーランドはその決断を一人一人に下してもらうために10分の時間を与えた。
そして、何も言わず、話さず、語らず、口にせず考え込むメンバーたち。彼らの頭の中では
様々な思いが交錯していた。自分達のかけがえのない家族、友人の命をこれ以上ないほど
残虐なやり方で奪われたのだ。当然復讐してやりたい気持ちはある。そして、怒り、憎しみは
人を何倍にも強くする。悲しいことだが。しかし一方で、心の中で死にたくないと弱音を吐く
自分がいるということもまた事実だった。命あっての物種という言葉があるように。

彼らの間にも重い空気が流れる。たった10分で決められる問題ではないのかもしれない。
しかし、今決めなければならないことだ。彼らは人間の解放と自分の命を天秤にかけ、
今まさに振れているその針が止まるのを待ち、その目盛を読んでいるところだ。

さて、解放軍メンバーが苦渋の決断に苛まれている時、7人は周囲を偵察していた。
竜崎は獣人たちはもうこの世に存在しないと推測したが、それは証明されて初めて真実となる。
その証明のために彼らは今、探索しているのだ。生き残った彼らを志半ばで倒れた英雄たちと
同じ道
337ラーズグリーズ ◆WH113haXK5ba :2009/07/16(木) 20:16:11 ID:lPrdCZAg
を歩ませる訳にはいかない。
さて、偵察のグループ分けだが美伽が負傷中のために現在は7人で、2人組で行動すると
一人端数が出る。そのため一組は3人組とならざるを得なかった。

効率よりも安全を重視した竜崎の判断だ。ちなみにその概要は、
セフィロス・小百合、淳子・ウィルフレド、カノン・エーリス・竜崎、という内容だった。
小百合は戦えないためにいざという時最も戦闘に長けているセフィロスがいれば心強い。
これも竜崎の判断だ。実際は全く逆なのだが。そして、3組はそれぞれ別の場所へと向かって行く。

小百合は男性恐怖症の節があるのか何処かぎこちなく歩いていた。そんな様子を
セフィロスは不審に思い、そのついでに小百合に対する疑問を打ち明けた。
「…小百合、先程から様子がおかしいようだが…果たして何があった?」
セフィロスは、いくら小百合が必死に逃げたといっても相手は身体能力では通常の人間より
遥かに上回る獣人であり、そうそう逃げおおせるものでもなく、仮にそうだとしても
獣人たちが消滅したのに小百合だけが健在なのは竜崎の推測である、超自然的な力が働いたとするならば不自然であると指摘した。

そして、真直ぐに小百合を見つめるセフィロス。小百合はそんな彼と目を合わすことが
出来ずにただ目を泳がせている。しかし、この状況でセフィロスの問いから逃れられる
合理的な解答を小百合は持ち合わせてはいなかった。しかも、ここでもし曖昧な返事を返したら
恐らくセフィロスは落胆するだろう。そうすればもう彼とは…いや、皆と仲間でいられなくなる。

そんな気がしてならなかった。小百合は唇を噛み、何かを考えていたがやがて深い溜め息をつき
セフィロスに打ち明け話を始めるのだった。自分が一度殺され、精神世界でルシフェルと
名乗る少年から力を授かり、その力を使い殺戮の天使と化して獣人を裁きの光で浄化した、と。
全てを暴露し、吹っ切れたのかそれとも自暴自棄になったのか、小百合は笑いながら言った。

「アハハ…これがその殺戮の天使の姿よ…」
そして、黒い光に包まれ、殺戮の天使へと姿を変える小百合。
その姿を見て、セフィロスはしばらくの間黙っていたが、やがてその口を開く。
「…小百合。その姿のまま聞いてくれ。お前はその力をどう使うつもりなのだ?」
殺戮の天使は答える。冷酷な声で。獣人たちに対してもそうだったように。

「決まっている。私の大切な仲間たちを守るためだ」
どうやらこの姿になると性格まで変わるらしい。泳がせていた目は今やセフィロスを
キッと睨み付けていた。しかし彼はその冷たい眼光に眉一つ動かさず、天使に言い返すのだった。
「それを聞いて安心した。もしお前が全てを破壊するためなどと言ったら、私はお前を斬り捨てていたからな」
そしてセフィロスは語る。力とはその使い方により意味を大きく変えるものだと。小百合が誰かを守りたいと思い続ける限り、決してその力に取り込まれたりすることはないと。
そしてセフィロスは、最後に一つ付け加える。
「決して私のようになるな。お前なら、憎しみに打ち勝てるはずだ…」
天使には彼の最後のその言葉がよく理解出来なかったが、睨み付けたその鋭い眼光は
穏やかなものとなり、いつもの小百合のものである。そしてため息をつき、セフィロスに言った。

「ありがとう…」
天使のその言葉にただ無言で頷くセフィロス。そして天使は彼の胸元へ飛び込み、抱きついた。
普段の彼ならば突き放している所だが、今は天使の自由にさせた。二人の間に穏やかな時が流れる。
やがて天使は元の姿へと戻り、顔を赤らめた小百合はセフィロスに一つお願いをするのだった。
「あの、セフィロスさん…私の力の件については他のみんなには…」
その願いに無言で頷くセフィロス。安心したのか溜め息をつく小百合。

そろそろガーランドの設けた10分が経とうとしていた。結局獣人はいなかった。
小百合が、いや、殺戮の天使が全てを無に帰してしまった。これを救済委員会はどう受け止めるのだろうか。
しかし、今はそんなことを気にして
338ラーズグリーズ ◆WH113haXK5ba :2009/07/16(木) 20:17:16 ID:lPrdCZAg
いても仕方がない。2人は集合場所へ向けて歩き出そうとした…
まさにその時、背後に何者かの気配を察知したセフィロスは正宗を手に取り、構えた。

そこにいたのは、黒ずくめの服に身を包み、金色の長髪をたなびかせ、ハットを手に携えた男と
漆黒の兜鎧に身を包み巨大な剣を携えた男だった。
セフィロスはその2人組から小百合を守るようにして立ちはだかる。セフィロスの見立てでは
この2人組はかなりの手慣れであり、小百合を守りながら戦うのであればかなり分が悪かった。
そんな時、金髪の男が第一声を発する。その声には少なくとも敵意はこもってはいなかった。

「俺達はお前と剣を交える気はない。取りあえず刀を収めてくれないか。話はそこからだ」
セフィロスはあったばかり、しかも不審人物の言うことなど信用するものではないと考えたが、
謎の男の言うとおりにしなければ話が進みそうにない。それに無視して立ち去ろうとして背後から
切り付けられる可能性も十二分にある。セフィロスは素直に刀を収めた。
それを確認し、金髪の男は再び話し始める。

「さすが、伝説の英雄。話が早い。さて、自己紹介しなくてはいけないな。
俺はユーバー。んで、こっちが…」
ユーバーと名乗る男に親指で指された兜鎧の男はただ一言、
「ペシュメルガだ…」
と名乗った。ユーバーはそんなペシュメルガの素っ気なさを鼻で笑い、語り始める。
自分たちはセフィロスたちをこの世界に召還した神の従者であり、これからの旅に戦力として
同行するように指示されたと言う。ここでセフィロスは考えた。

今、解放軍メンバーは部隊を離れるかどうかを考えている最中だが、恐らく半数の1500人は
離脱してしまうだろう。それは今後の戦いが更に苦しくなることを意味していた。
それならば戦力は少しでも多い方がいい。考えた末に、セフィロスは2人を迎え入れることにした。
「そうこないとな。さて、もうすぐ時間だろう?集合場所に急がなくていいのか?」
ユーバーのその言葉にセフィロスはただ一言返事を返し、踵を返して小百合と共に集合場所へと向かうのだった。

そして、それを追従するユーバーとペシュメルガ。ところが、歩いている最中、セフィロスは妙なことに気付く。
後ろの二人の気配は確かにし、振り向くとユーバーは不思議そうに首を傾げおどけて見せるのだが
足音が全くしないのだ。もちろん、足音を立てぬよう歩く訓練をすればそれは可能だが、
ペシュメルガが身に着けているのは重い兜鎧であり、いかに訓練しようとも
足音を立てずに歩くなど不可能なはずなのだ。少なくとも、人間ではない。いや、神の従者だという時点でそれは解りきったことなのだが。
それに、何故今になって従者など使わすのだろう。神の話では神自らが召還した10人が揃って
初めて世界を変えられる、それは即ち、これから先の困難を自分達の力で乗り切ることにこそ
意味があるということだ。そこへ従者など送り込んだのではその意味がなくなってしまうのではないか。
神は一体何を考えているのか。そうセフィロスがそう思考を巡らせていると、
死者の死臭が鼻をつく。いつの間にか集合場所にたどり着いていた。

どうやら自分達が一番最後だったらしく、偵察に出た他のメンバーはすでに揃っていた。
そして、解放軍メンバーも一人一人残るのか帰るのか決まったようだったが、
生きたメンバーを残すのか帰すのか議論する前にまずはこの死者たちを弔うのが
先決ではないのか?これでは彼等が余りに気の毒だ。これから先の旅路で化けて出て来ても
全くおかしくない。セフィロスは竜崎にその旨を伝える。すると竜崎は少し驚いた様子で答えた。
「失礼なことを言いますがあなたの口からそんな言葉が聞けるとは思いませんでした」

セフィロスはその
339ラーズグリーズ ◆WH113haXK5ba :2009/07/16(木) 20:18:21 ID:lPrdCZAg
竜崎の言葉に別に怒りを顕にするでもなく、ただ鼻で笑って受け流した。
「私のことなどどうでもいい。今私が話したことに関してお前がどう考えたのかを聞かせてもらおう」

「私もあなたの言うとおりだと思います。ちょうど皆さんの考えもまとまったようですし」
といって竜崎はガーランドの元へ歩き、彼に何かを耳打ちする。
そしてその竜崎の言葉に頷き、一同に語り出す。

「考えがまとまったようだけど、ここで忘れちゃいけないことが一つある。彼らの弔いだ」
ガーランドは未だ道に横たわる亡骸たちの方を向く。一同もそれに同調する。
さて、問題なのはその方法だ。竜崎は埋葬が一番だろうと考えたが2000もの亡骸だ。
3000人で墓穴を掘るといっても結構な時間がかかる。そもそも、どこに墓穴を掘るのか。
この市周辺の平原に墓地を作るという手もあるが間違なく獣人たちに蹂躙されるだろう。
もっとも、たとえ蔑んでいる人間であろうと死者であり、墓地を蹂躙するなど死者への冒涜
以外の何物でもなく、神をも恐れぬ者の所業なのだが、傲慢な獣人たちならやりかねない。

かと言って、彼らの故郷ヴァンゲリオ市まで彼らの亡骸を運ぶとなると途方もない時間がかかり、
そしてその時間のうちに新たな軍がトルベルア市に配備されてしまうだろう。
そうなれば彼らは完全に犬死にだ。竜崎の天才的頭脳をもってしてもこの問題は
解決出来そうになかった。そもそも、普通に暮らしていれば考える必要すらないのだから。
竜崎は親指の爪を噛む。彼は考えに行き詰った時に爪を噛む癖があるのだ。

そんな時、小百合が彼に声を掛けた。何故か妙に先生らしい口調だった。
「竜崎さん。あなた一人でなんでも考え込まないで」彼女は語り続ける。確かに私達は竜崎のその
知恵を頼りにしている。でも、三人よれば文殊の知恵という言葉があるように、
ここにいるみんな、青木淳子、カノン・ヒルベルト、セフィロス、ウィルフレド、エーリス、竜崎、そして自分、
今は傷を負い倒れているが、美伽がいる。一人が困難に直面した時は全員でそれを乗り越える。

「それが、『チーム』というものだと思いますよ、竜崎さん」
小百合は最後にそう締めくくった。それに対し竜崎は言った。右手を差し出して。
「では、今更ですが改めてお願いします。皆さんの力を私に貸してくださいそして私の力が必要な時はいつでもこの手を差し延べましょう」その竜崎の言葉にまず一番最初に彼の右手に自らの右手を重ねたのは、小百合だった。
続いて淳子、カノン、ウィルフレド、セフィロス、エーリスの順にその右手を重ねて行く。
そして、竜崎が呟くように6人に語る。
「ここで散った多くの英雄たちの死を無駄にしないよう私達は最後まで戦いましょう。正義は必ず勝ちます」
竜崎のその言葉に、ただ無言で頷く一同。そして、先程とは逆の順番でその右手をよけて行く。

本題だが、この2000人の亡骸はどうすれば永遠の安息につくことが出来るのか、ということだが、
先程から自分たちをほっといて盛り上がっている7人にかなりの苛立ちを覚えている
男が一人いた。ユーバーだ。苛立ちから凄まじい殺気を放ち、その殺気を感知したセフィロスが
小百合に耳打ちする。あの2人のことを皆に話せと。小百合はそれに対して別に反発するでもなく、
ユーバーとペシュメルガが加わった経緯と彼らの紹介を一同に済ませた。

5人はその話を疑うこともなく、2人を迎え入れた。ただ一人、エーリスだけが
何故か微笑みを浮かべ、ユーバーとペシュメルガも彼女を見て何か感じ取ったようだった。
そしてユーバーはエーリス
340ラーズグリーズ ◆WH113haXK5ba :2009/07/16(木) 20:19:44 ID:lPrdCZAg
の元に歩み寄り、耳元で囁いた。神の従者とは思えぬおぞましい声で。
「こんなところで冥界の番犬に出会えるとは思わなかったよ。その姿じゃ不便も多いだろうがな」

エーリスはその言葉に笑みを消し、凶悪な目付きでユーバーを睨み付ける。そして彼に言い返す。
「余計なお世話です。地上で過ごすにはこの姿のほうが都合がいいものですから」
「だろうな。まあ、精々頑張ることだ。冥界の女王のペットさんよ」
エーリスは何も言い換えせずにただ唇を噛むしかなかった。呼吸も荒くなり、握った拳に爪が食い込む。
ユーバーに罵倒されたのがよほど悔しかったようだ。
そして、そのエーリスの異変を察知したウィルフレドが彼女の元へと駆け寄る。

「大丈夫かエーリス?今あの金髪に何か言われてたみたいだけど、気にするなんてお前らしくもない」
「ええ、大丈夫です…ご心配をおかけしました…ウィルフレド様…」
そういって立ち上がるエーリス。まだ少し息が荒い。しかし、罵倒されただけでそんなに息を荒くするものだろうか。
エーリスがこんな状態になったのにはもっと別のところに原因があるのではないかとウィルは勘ぐった。

だが、それについて考えていても始まらない。ウィルはその細やかな疑念を頭の片隅に
しまい込んだ。出来れば、その記憶の引き出しが再び開かれることのないよう祈ろう。
彼はひたすらそう思った。そんな時、かの金髪が再び口を開く。今度は澄んだ綺麗な声だった。
「それでこの亡骸をどうするのか考えはまとまったのか?そうじゃないなら俺に考えがあるんだが」

そのユーバーの自信満々の言葉に一同は訝しげな視線を彼に送るが結局のところ
考えが何らまとまっていないのは事実であり、ひとまずは彼の話を聞くことにした。
荒唐無稽な内容であれば軽く受け流せばいい。一同はそう考えていた。そして竜崎が
その考えとやらを話すようにユーバーに促した。それを受けて語り出すユーバー。
自分達は神の従者であると同時に魂の導き手でもあり、戦争後に野晒しになった多くの人間達の魂を
神の代行者として天国、或いは地獄に導く役割を担っていると言うのだ。

そしてその際、亡骸は跡形もなく消滅する。俄かには信じがたい話だが、賭けてみる価値はあった。
竜崎は彼に死者たちを天国へ導くよう依頼した。それに対してユーバーは何故か一瞬ニヤリと笑い、頷いた。
彼は懐から筆のようなものを取り出すと、それで亡骸の山を囲むように石畳の上に
見えない線を描いて行く。そして亡骸たちは彼の描いた見えない囲いに覆われた。
彼らを昇天させる準備が出来たようだ。彼は最後に一言付け加えた。邪な笑みを浮かべて。
「じゃあ始めるが…目を閉じていることだ。あいつらと同じように天国に行きたくなければな」
彼の話ではどうやら彼の行う儀式を目にしてしまうと魂を吸い取られると言うのだ。

その儀式をみることのメリットがほとんど存在しないということを考えると彼に従ったほうが
無難だと判断し、皆はその瞼を閉じる。ただ、ペシュメルガとエーリスは目を開けたままで
ユーバーもそれをとがめるでもなくただ淡々と儀式を始めるのだった。
竜崎たちは目を閉じているものの耳は生きていて、彼が何か呪文のようなものを
唱えているのは解った。そしてこういう時、人間はその好奇心からつい目を開いてしまうものだ。

青木淳子の元の世界の日本には、「鶴の恩返し」という昔話がある。その話の中でおじいさんがちょっとした
好奇心で戸の隙間から中を覗くと、助けた鶴が自らの羽で織物を織っていて
秘密を知られて
341ラーズグリーズ ◆WH113haXK5ba :2009/07/16(木) 20:20:43 ID:lPrdCZAg
しまった鶴は大空に飛びさってしまった、という話だが、この場合だと飛び去るのは自分達の命であり、
まだ世界を変える方法すら掴んでいないというのにこんな所で小さな好奇心程度のために命を落とすなどシャレにもならない。

6人は固くて瞼を閉じて儀式が終わるのを待った。その刹那、閃光が走る。目を閉じていなければ
確実に眩んでいる強さだった。そして、ユーバーが言った。
「ご苦労だったな。無事に送り届けた。もう目を開けても大丈夫だ」
彼の言葉を受け、目を開く一同。すると、そこには信じられない光景が広がっていた。
つい先程まで、つまるところ竜崎たちが目を閉じる直前、2分程前までは確かにあった
2000人の亡骸が綺麗になくなっているのだ。

しかも、血塗られていたはずの石畳やスラムの壁は何ごともなかったかの如くに
本来の姿のまま自分達の眼前に存在している。まるでここで虐殺劇があったことすら否定するような
状態に竜崎たちはただ息を飲むしかなかった。しかも、竜崎たちがその目を閉じていたのは
わずか2分弱だ。そんな短時間で2000人の亡骸を跡形もなく消滅させることなど出来るはずもない。

神に通じる力を持っていない限りは。彼らは改めてこの2人が神の代行者ということを実感した。
ただ、エーリスは物凄い形相でユーバーを睨み付け、ユーバーはそれに対してニヤリと邪な笑みを返した。
さて、ユーバーの手により彼らが抱えていた問題は解消された。
いよいよ本題だ。3000人一人一人に己の意思で導き出した答えを問う時がやって来た。

「みんな、待たせたな。弔いも無事…かどうかはわかんねえけど終わったみたいだし、いよいよみんなに
答えを聞きたいと思うんだ」
そして右手をあげるガーランド、残るならば右。右手を降ろし続いて左手をあげる。
去るならば左。二つに一つだ。ガーランドは最後にこう締めくくる。
「さあ、みんなの答えを聞かせてくれ」
そして、自ら出した回答を彼に示す解放軍メンバーたち。その結果は…
右、つまり残留が1000人。左、帰還が2000人。この結果を見て憎まれ口を叩く男が一人。ウィルフレドだった。

「臆病者に用はない。ここは残った1000人の勇気を称えよう」
彼のその言葉に、エーリスを除く5人全員が彼を睨み付けた。その態度にウィルは舌打ちし、そっぽをむく。
342創る名無しに見る名無し:2009/10/29(木) 10:48:36 ID:1QZ6iiOA



岡田外務大臣キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
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早く記念カキコしないと埋まっちゃうwww
343創る名無しに見る名無し
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