【今こそ】オリジナルヒーロー小説【変身】

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73 ◆MZ/3G8QnIE
しかし、怪物は煤で汚れた程度で、外殻には皹一つ入っていない。
「そんな馬鹿な!」
「移し世の武具などで、聖霊の守護を撃ち破れるものか!
貴様はネフェシェを叩き潰した後、ゆっくりと相手してやるからそこで見ていろ!」
巨人は身を翻すと、雑魚人形の最後に残った三体を同時に相手している仮面の戦士に向けて、手に持った直径四メートルほどの巨大な鉄球を投げ付けた。
戦士が振り返るが、どう見ても回避は間に合わない。
仮面の人影は、残りの人形と共に三階のテラス諸共ひしゃげて鉄球の下に押し潰された。
「あの人は……」
黒い乱入者の目的は判らないが、敵の敵ならば味方に違いない。
そう単純に考えている一輝は純粋にその身を案じる。
一方巨人の方は、最も脅威となり得る存在の敗北を確信し、高笑いを上げていた。
「ワハハハハ! 教祖様に仇成す邪悪の化身を滅ぼして遣ったぞ!
これで私も更なるカルマを積み、また一歩完全な存在への階段を――――」
巨人の言葉が途切れる。
コンクリートの柱に半分以上めり込んでいる巨大な鉄球に、皹が入っていた。
ピシピシと音を立てながら皹が放射状に広がり、そのまま30トンの鉄球が粉々に砕け散る。
飛び散る鉄片の奥で、仮面の戦士が巨大な乗馬槍を前方に向けて突き出していた。
その姿は先程と異なり、黒一色のボディの所々が銀色のアーマーで覆われていて、紫色のラインが四肢を走っている。
真紅に燃える光学センサーが、きと巨人を見据えた。
その姿を見た巨人の声音に動揺が走る。
「その姿、剛力態! ネフェシェは新たなるステージへと進化したというのか!」
仮面の戦士は、膝を折り限界まで足に力を込めると、頭上の天蓋に向けて跳び上がった。
その衝撃で、既に鉄球により半壊していた主柱が完全に瓦解し、支えられていた外壁の一部が崩落する。
「まずい、みんな逃げろ!」
巨人が呆然としている内にと、一輝は人質達を裏口へと誘導する。
今度こそ人々は無事に開放されていく。
一方、仮面の戦士の姿は、遥か上空へと急速に遠ざかっている。
「逃げた? ……いや!」
豆粒の様に小さくなった人影が、遠ざかっていたのを上回る速度で再び迫っていた。
手にした巨大な乗馬槍を地に向けて、凄まじい勢いで独楽の様に回転している。
落下速度も回転速度もまだまだ加速。
銀と紫の戦士は一つの弾丸と化し、その軌道で正確に巨人を捉えていた。
とっさに身を翻そうとする巨人だが、その体重が仇となり床に埋もれている足を引き抜くのに気を取られ、回避が遅れる。
その隙は、戦士が巨人の頭頂部に達するのに十分であった。
地に垂直に突き立つ直線。
円錐の弾丸が巨人の脳天から股間までを串刺しにする。
頭をへこませた巨人は、ぼろぼろと石片を体中から零れさせながら、ゆっくりと膝を折った。
「教祖様ッ! 宇宙にッ! 救済を――――ッ!!」
天に祈るように両手を掲げた司教は、天蓋をも貫く火柱を上げながら、爆散した。
やがて炎が止み、後に残ったのは瓦礫の山の上に佇む仮面の戦士。
破られた天蓋から光が差し、戦士の姿を照らし出した。
避難誘導を終え戻ってきた一輝は、それを只呆然と見上げる。
「誰なんだあんた一体……。味方なんだよな?」
仮面の戦士は一輝を一瞥しただけで無言。
その仮面に包まれた相貌を伺う事は出来ない。
やがて戦士はふいと目を逸らすと、近くに何故か無事な姿で停車されていた漆黒のバイクに跨る。
「待ってくれ!」
戦士は制止の声を無視しアクセルを開くと外に向けて加速、待ち構えていた警官隊の包囲を突っ切り、街の雑踏へと消えていった。