【今こそ】オリジナルヒーロー小説【変身】

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72 ◆MZ/3G8QnIE
「お前は、一体……」
一輝の問いを黙殺し、黒き仮面の騎士は、襲い掛かってきた雑魚人形に裏拳を叩き込む。
人形は吹っ飛ばされ壁にめり込むと、バラバラに崩れて動かなくなった。
背後から襲い掛かってきた人形の頭部に、後ろ回し蹴りが決まる。
骸骨の頭部が華麗に吹っ飛び、残された胴体は膝から崩れ落ちた。
「お前は……ネフェシェ!」
無表情を貫いていた司教の男の顔に初めて動揺が走る。
傍らに控えていた人形達が一斉に前に出た。
ネフェシェと呼ばれた仮面は襲い来る人形達を、素手の一撃で次々と沈めていく。
「凄い……!」
人形と格闘戦を繰り広げながら、一輝は仮面の戦士の圧倒的な強さに只圧倒されていた。
自分も負けじと、人形とくんずほぐれつ転がりながら、手放した拳銃の所までたどり着くと、何とかそれを回収して人形の頭部にゼロ距離から一撃を見舞う。
崩れ落ちる人形を尻目に、立ち上がった一輝は座り込んでいる人質達の元へ急いだ。
「今のうちに逃げてください! 早く!」
他の骸骨人形達は全て仮面の相手に出払っている。
一輝に誘導されつつ、一般人たちは我先にと出口へ殺到して行く。
「逃しませんよ」
いつの間にか回り込んでいた司教の男が悠然と待ち構えていた。
その手には仮面の男に投与した物と同じ、真紅の注射器が握られている。
男は何の躊躇いもなくそれを己が喉元に突き立てる。
ジュウジュウ音を立てながら溶解していく男の肉体。
「まさか私までこれを用いる事になろうとは……。だが、仕方がありません。
こうなってしまった以上、ネフェシェを葬った後、私も貴方方も安寧なるカオスの地平へと――――」
ローブの男もまた、人間の肉体を失い、金属と珪素の怪物へと変貌していく。
「糞っ!」
一輝は人質達を下がらせ、変身中の男に向けて発砲するが、変貌は止まらない。
拳銃の遊底がスライドして止まる。弾切れ。
ベルトに吊り下げてある予備弾倉を交換している一輝に、身の丈ほどもある巨大な拳が襲い掛かる。
一輝は錐揉みしながら空中に吹っ飛ばされた。
土煙の向こうから、巨大な人影が姿を現す。
二階の天井をゆうに突き破る体躯、白い外殻に機械的な関節、手に吊り下げた鎖の先には玉転がしの玉より二回りほど巨大な鉄球。
司教の男は、全長十メートルはあろうかと言う巨大な怪物に変貌していた。
軽い脳震盪でふら付きながらも何とか立ち上がった一輝は、その異貌を目にして唖然とする。
「何なんだあれは!」
巨人の口から凄まじい音量の哄笑が響き渡る。
「見よ! 教祖様より直々に御頂戴したこの器を!
もはや一人一人ソーマを投与するなど生温い!
このまま市街に討って出、この身朽ちるまで不義のものどもを残らず塵に還してくれようぞ!」
「させるか!」
一輝の手の中の拳銃が分解され、どこからともなく単発式の対戦車ミサイル発射筒が転送される。
間髪いれず発射されたミサイルは怪物の頭部に直撃した。
爆炎が上がり、周囲の窓ガラスが砕け散る。