「司教、ここは、私が」
男の後方から、鳥を模した面を被った小柄な男が歩み出る。
ローブ男が頷いて見せると、仮面の男は自らの首筋に真っ赤な液体が入った注射器を突き立てる。
「ああ……ッ! 見える! 私にもッ!
終焉と救済が……ッ!」
仮面の男の肉が、先程の青年の時と同じ様に、腐り落ちていく。
時折その表面に火花が走り、更に攻撃的なフォルムが形作られる。
男の体が無機系へと置き換えられていく。
程なく、仮面の男は骸骨人形の姿に成り果てた。
只、他の多くの個体とは異なり、その顔には嘴の様な突起が伸びており、ボディの至る所に黒い紋様が刻まれている。
その鳥の様な骸骨人形が中に手をかざすと、どこからともなくその身長ほどもある黒い薙刀状の武器が出現した。
「ハァッ!」
鳥人形は背中に漆黒の膜を形成して空中に飛び上がると、滑空して未だ人形達と戦っている一輝に襲い掛かった。
「何っ!」
一輝はすんでの所で身を翻すが、その胸から火花が走り、胸部装甲がざっくりと裂けた。
すぐさま反撃に出、宙を舞う敵に向け銃弾を発射するが、俊敏にジグザグ飛行をする鳥人形には一発も当てる事が出来ない。
一輝が強敵の出現に気を取られている隙に、雑魚の骸骨人形達が肉薄する。
鉤爪が何度もコンバットコートに叩き込まれ、一輝はもんどりうって倒れた。
その手から拳銃が離れ離れた場所へと転がった。
たちまち一輝の体は人形達に取り押さえられる。
「糞っ! 離せ!」
それを高みから見下ろして、嘲笑うかのように喉を震わせていた鳥人形は、葺きぬけの天井まで上昇する。
薙刀を両手で構えると、身動きが取れない一輝目掛けて急降下し始めた。
上空を見上げる一輝の顔が歪む。
「こんな所で死んで堪るかっ!」
だが、多勢に無勢、三体掛りで取り押さえられている現状ではどうすることも出来ない。
鳥人形はスピードを増してこちらに迫っている。
もう、どう仕様もないのか。
一輝が絶望しかけたその時、突然四階の窓ガラスが破れ、漆黒の大型バイクが飛び込んで来た。
それに跨る人影は、空中で身を翻し、バイクの正面に足をかける。
鳥人形の注意が一瞬そちらに向く。
次の瞬間、乱入者の足がバイクを蹴り飛ばし、真っ直ぐに鳥人形に向けて加速する。
加速しながら空中で半回転。
人影は右足を前に突き出し、流星の様に鳥人形に突進した。
残像を引くほどのスピード。
鳥人形は防御する暇もなく、その背を撃ち抜かれた。
乱入者と鳥人形は一緒になって地面に激突する。
乱入者の方は華麗に手と足を揃えて着地したのに対し、人形は地にクレーターを穿ちながら頭から墜落。
床に上半身をめり込ませた状態で、鳥人形の足が力を失いガラガラと崩れると、一瞬間をおいて火柱を上げながら爆発する。
爆炎に照らされる乱入者の姿。
無機質な黒いボディー。
同じく黒い仮面に覆われた頭部。
吊り上がった赤い光学センサー。