【今こそ】オリジナルヒーロー小説【変身】

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70 ◆MZ/3G8QnIE
「おオッ! 生まれかわる……ッ! 清廉なる魂の器へとッ!」
ローブの男は感極まった様子だ。
青年がゆっくり立ち上がる。
「あ・あ・あ。おれ、どう、な、あ」
体中を掻き毟る。
青年の頬から、肩から、腕から、胸から、腹から、尻から、足から、肉が剥がれ落ちていく。
剥がれた肉は地面に落ちるとジュウジュウと音を立てて、嫌な匂いを発しながら灰になって行く。
眼球が、内臓が、筋肉が腐って落ちると、それを埋め合わせるように、無機質な機械的な部品が組み立てられて体にはまり込んでいく。
青年の体から有機物が排出され尽くし、無機構造へと変化する。
青年の体は、ローブ男の周りの骸骨人形と等しくなっていた。
男は高らかに歓喜の声を上げた。
「素晴らしい! すばらしいッ!! 彼は更なる高みへと進化したのだ。
さあ、改めて祝福を授けよう。こちらへ」
最早泣き叫ぶことはない体となった青年は、ぎこちない動きで男の下へと歩き出す。
差し出された男の掌に鉤爪を添えた瞬間、かつて青年だった骸骨人形は崩れ落ちた。
四肢は力を失い、間接がばらばらに離れ、丸い頭部は首から外れてころころと転がる。
男は残念そうに呟いた。
「失敗したようだ」
だがすぐに気を取り直して、別の注射器を取り出すと群集に向き直った。
「進化には犠牲が付き物だ。あの青年は残念だったが、きっとこの中の誰かは適合してくれるものと私は信じている。
さあ、次の……」
「そこまでだ!」
警官と警備員の死体が転がっているエントランス。
そのガラス戸を突き破って外を警備していた骸骨人形の残骸が転がり込んできた。
一騎の単車がその残骸を踏み潰してローブ男達と相対する。
一輝はバイクから降りて周りを見回した。
買い物客や店員を守ろうとしたのだろう、拳銃や警棒を手にしたままバラバラに切り裂かれている、警官たちの死体がそこらじゅうに散乱している。
バイザーの奥で、一輝は歯軋りをした。
「なんて残酷なことを……!」
一輝はバイクのシートを開いて大型自動拳銃を取り出し、男の方へ構えた。
「殺人、障害、騒擾、器物破損、公務執行妨害その他の現行犯でその身を拘束する! 抵抗を止めて投降しなさい!」
「やれ」
男に促され、人形達が一斉に一輝に襲い掛かる。
一輝は冷静に取り囲まれないよう走り回りながら、人形達から距離をとりつつ、拳銃を発射した。
ライフル弾以上の貫通力を有する特殊徹甲弾頭が人形達の外殻を砕いて行く。
一発だけではその動きは止まらないが、脚部を数発撃ち抜かれたものは擱座し、頭部に何発も撃ち込まれたものは倒れ伏して動かなくなった。
その内一体が銃撃をかいくぐり、鉤爪を振りかざし一輝の下へと襲い掛かる。
「はあッ」
人口筋肉によって強化されたヤクザ蹴りが人形の腹に決まり、吹き飛ばされる。
一輝はその頭部にとどめの銃弾を何発か撃ち込むと、再び走り出した。
まだ数体の人形が見張っているために、被害者達は未だ身動きを取れないが、次第にその顔に希望の色が浮かんでくる。
ローブの男は一輝の銃弾から身を隠しながら、戦いの様子を無表情に眺めていた。