【今こそ】オリジナルヒーロー小説【変身】

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522ネメシス ◆z87r6N2.xY
「ちょっと様子見て来よっか」
 武政が、珍しくやる気のある表情を見せた。

 その防空壕整理工事現場で、一人の男が悲痛な叫びをあげていた。
「辞めさせてくれえ!」
 仮設テントに設置された事務所で男が現場監督に土下座している。二人きりの状態。困るんだがね、と現場監督は顔を渋らせる。
「だって…俺は聞いたんだ!あんたらは俺達を化け物に作り替えるつもりで集めたんだろ!」
「知られていたか…やむを得んな」
 現場監督は椅子より立ち上がり、その肉体を鱗に覆われた毒蛇に似た姿へ変貌させる。右腕を蛇のように長く伸ばし、テントより逃げようとした男を締め上げる。窒息寸前の男の首に、鋭い毒牙を突き立てる。
 男は断末魔をあげる事もなく即死し、注入された毒素がその遺骸さえも分解してしまう。
「敗戦国の分際でプライドだけは高い…」
 コブラ男は、遺骸の分解を見届けた上で現場監督の姿へ再変身し、他の労働者を取り仕切ると共に新たな働き手、即ち改造兵士の素体を待った。
 大王子町。戦前は比較的繁華街だった筈だが、既に焼け野原。見渡せるだけ南洋よりはマシか、と呟き、武政は現場監督らしき人物に声をかける。何故か壊れたバイクを引きずりながら。

 六十数年後、京也は朝一番で携帯の着信音に叩き起こされた。相手は山下山男…蜘蛛妖魔が現れた際に知り合った刑事だ。結局、巨大コブラに噛まれた患者は助からなかった。落ち込む気分をメイラックスで誤魔化し、外出の準備。
 待ち合わせたうどん屋。山下山男は朝からカレーうどんを食していた。
「悪いね、朝早く呼び出して。例のモンスターに関して話せるのが君だけだから」
 モンスター=妖魔はマスコミによる情報統制がなされており、報道される事はない。
 ただ、と山下山男は朝刊を引っ張り出す。急に呼び出されたから京也は未読だった。
 そこには、蜘蛛が死んだ後に出現したコウモリ男の正体が詳細に報じられていた。
 コウモリ男は「ザラキ天宗」が作り出した改造兵士。ザラキ天宗は終戦直後から日本の支配を企てていた非人道的テロ組織。
 記事は必要以上に口を極めて組織を罵っている。
「しかし、だ卜部さん。例の蜘蛛モンスターや、噂になっている巨大サソリもザラキ天宗の仲間だとすれば、そいつらも報道される筈なんだ」
「奴らとザラキ天宗は別の存在…そして、蜘蛛やサソリはその実在がオープンになれば政府が困る存在」
 京也は多少の直感も交えてそう言う。