【今こそ】オリジナルヒーロー小説【変身】

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442ネメシス ◆z87r6N2.xY
 とりあえず斎は念珠や妖魔の知識を見につけているが、どこで見につけたかは不明。だから京也は、今必要な情報のみ聞く。
「あの妖魔、羽蠍を倒したい。どうすれば奴と戦える?」
「此方の世界では妖魔は夜…丑三つ時が最も活発です。その時に地面に描いた五芒星に卜部さんが血を垂らせば、多分何処からでも来ます」
 ただ、と斎は付け加える。
「羽蠍は協調性のある妖魔です。一匹で無理なら二匹、それでも駄目なら三匹で来ます」
 二度目の戦いで、確かに羽蠍は人喰いサラセニアを連れていた。次は更にもう一匹が羽蠍を守るという事か。ならば、今度こそ三匹まとめて倒さねば。京也は未使用の多数の念珠を見る。
 そういえば、斎は祖父の名を知っていた。これもまた、由来の分からない知識だ。
「祖父がどんな人間でどういう経緯で念珠を手に入れたのか…そういう知識は無いんだな?」
「そうですね。私、両親の記憶も無いですから」
 しまった、と京也は思った。斎曰く、バイトと奨学金で何とかやってはいるらしい。
「親が何処かにいるなら、一度甘えてみたい…卜部さんは?」
「俺は…父に殺されかけた」
 今度は斎がしまったと思った。京也の、医者らしからぬ額の傷。突然包丁を振り回した父親にやられたのだという。
「結局それも、俺の血筋に伝わる異常性さ。祖父はそういう事が全くなかったらしいが…とりあえず、俺は誰かに甘えるのが怖かったな」
 それはそうだろう。最愛の家族に殺されそうになったのだ。他人を拒むのも道理だ。
「怖かったですか?」
「ああ、怖かった」
 斎は責任を感じていた。自分の覚えの無い記憶に従わせ、京也を変身させ、戦いに巻き込んだ。つまり、理不尽な恐怖をまたも京也へ与える事となった。
「…私は家族も彼氏もいないから、大切な人って少ない。だから、その人達を怖がらせたくない」
 京也もそうだった。父親は大切だった。しかし裏切られた。だがだからといって、斎もそうなるとは思わない。
「俺は父親に殺されそうになって、怖かった。そして今、妖魔に殺されそうになって俺と同様の恐怖を味わっている人達がいる…」
 その人達を医者として放っておけるだろうか?
「斎ちゃん、君は大切な人が多くないと言った。なら、その数少ない大切な人は何がなんでも手離すな」
 手離させない。京也は懐の念珠を握りしめる。メットを抱え、コーヒーを飲み干して椅子から立つ。