【今こそ】オリジナルヒーロー小説【変身】

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408ネメシス◇ ◆xQREh3zr9.
 超音波の発生を止めた人間蝙蝠の代わりに、大蠍がパトカーを薙ぎ倒す。その下に動くものが存在しない事を確認した後、大蠍は人間蝙蝠の描いた法陣に鎮座する。
「さあ邪魔者は消えた。羽蠍、魔界よりお前の仲間を呼べ!!」  羽蠍、と呼ばれた蠍は現世と魔界を繋いでいる法陣の中心にハサミを突き刺し、その亀裂から自分の同族を招こうとする。
 だがその動きが止まった。飛び出す目は東の方を凝視する。法陣からハサミを引き抜く。亀裂は消え、仲間を呼べなくなった。
 驚く蝙蝠。蠍は尾の一振りで蝙蝠を撥ね飛ばし、一直線に東へ飛翔する。
「あいつら…仲間じゃないのか?」
 様子を伺っていた京也も愛車を飛ばし、陰から蠍を追う。この方角に何がある?

 バイトを終え、斎は家路を急いでいた。別に急いで帰っても誰かが待っているわけではないが。
 自分のあの知識は何だろう。妖魔、念珠、そして卜部武政の名。何処で学んだわけでもあるまいに。自分は何者か。そんな疑問はベタな哲学でなく、真に斎を悩ませた。
 だがその苦悩は直ぐに危機感に掻き消される。斎の上空より迫り来る、シャコのような胴体に飛び出した目、顎の下から伸びる二本のハサミ。
「ハネサソリ!」  その化物の名を呼び、襲いくるハサミを辛うじて回避する。回避した後で自分がその化物の名を知っている事に気付いた。
 反射的に壁を背にしてしまったため、斎には逃げ場が無くなった。動けない斎。迫る鋏。その鋏をバイクのホイールが止めた。
 小さな砂塵を巻き上げ、急停車するオフロード型のマシン。
「無事か!」
 京也だ!懐に手をやる彼の目が赤く輝く。例の姿に変身するつもりだ。だが、と思った。
 鼓動が高まり、身が震え、心に鬼の声が響く。
壊せ、引き裂け、殺せ。
 自分自身が危険だ。取り出した念珠を懐に戻し、腹に力を込めてその衝動を抑え込む。蠍の突撃をかわし、斎に予備のメットを投げ渡す。
「…逃げるぞ!」
 またも背後に斎を乗せ、愛車を飛ばす。蠍の入り込めない狭い路地を疾走し、何とか振り切る。

「変身すれば倒せたのかも知れんが…」
 蠍から完全に逃げきり、二人は真夜中の公園で息を整えていた。
「すみません…卜部さんを巻き込んじゃったみたいで」
「妖魔が現れて俺は念珠を持っている…どの道巻き込まれていたんだ。気にしないでくれ」
 斎から渡されたカップうどんを啜り、一つ息を吐く。