日も落ちた頃、京也は自爆テロの、そして巨大蜘蛛出現の現場を再訪していた。
そこは既に警察ではない何らかの政府機関によって厳重に封鎖されており、京也は遠巻きに見る他無かったが、もう一人、自分同様現場を遠巻きに見る者がいた。
確か、蜘蛛が現れる直前まで現場を検証していた刑事。
「青銅…ですか?」
話し掛けてみる。どうやら図星。山下山男刑事もまた、現場から飛散した青銅に着目していた。
「そう…ここに遺跡の類いがあったという記述は何処にもない。だが青銅が飛散し、モンスターも…君は見たのか?あのモンスターを」
監視の目があるため二人は場所をうどん屋に移す。肉汁うどんがメニューに無く機嫌が悪い京也の前で、山下山男はカレーうどん大盛を平らげている。これを食わないと眠れないのだという。
「本来は警察の仕事なんだろうが、あのモンスターを追う事は上が許可しない。理由が分からないんだよな…」
例の蜘蛛は自分が葬った。それを公言するのが憚られたので、京也は山下山男に患者の体から摘出した青銅片の写真を数枚渡し、店のアンケート用紙に「肉汁うどん希望」と明記して帰路についた。
病院に向かう僅かな間に京也は色々考えていた。妖魔は他にもいるのではないか。自爆テロは何者かが妖魔の封印を解くための手段で、その封印に青銅が使われていたのではないか。
そして、自分を鬼に変えた『念珠』とは何なのか。なぜ祖父はこれを自分に託したのか。
病院の待合室は、TVの前に人だかりが出来ていた。東京上空に、未確認の生物が出現したというニュースだ。現場中継からは、蝙蝠と人間の合の子のような生物が先程とは別の自爆テロ現場へ向かって飛んでゆくのが映された。
警視庁は機動隊を総動員、航空自衛隊にも出動要請を出したらしい。
どういう事だ、と京也は思った。昨日の巨大蜘蛛は一切報道されないというのにこの蝙蝠モンスターは大々的に報じられている。
「妖魔…なのか?」
疑念を抱きながらも京也は脱いだばかりのメットを被り直した。
現地。人間蝙蝠は体から発生する超音波で機動隊の接近を防ぎ、その間に地面へ法陣を描く。人間にそれなりに似ている口から奇怪な呪文がつむがれ、暫しの後、地を割り人間蝙蝠以上の異形が現れた。
蠍(サソリ)に似ていた。短い脚が左右に十本、シャコに似る胴体、長細いハサミ、鰭が形成された尾。水中を泳ぐように空を往く。