【今こそ】オリジナルヒーロー小説【変身】

このエントリーをはてなブックマークに追加
406ネメシス◇ ◆xQREh3zr9.
 幾つかの炎が揺らぐ暗闇。香の匂いがきつい。その中で、只でさえ甲高い男の声が更に甲高くなって響いた。
「何!地蜘蛛が死んだと?」
 声の主が歯軋りしているのが聞こえる。強敵の復活を恐れているのだ。別にうどんを食べられず空腹なわけではない。
「まさか…卜部武政の遺産…」

 二杯目「うどん三号!その名は鴨南蛮!」

 何故です、と警視庁庁舎で山下山男刑事が怒る。自爆テロの現場から蜘蛛モンスターは確かに出現し、野次馬と鑑識班の数名が奴の犠牲となった。
 にも関わらず、上層部はその報告書を無視した。テレビにも新聞にも自爆テロの件ばかりが報道され、モンスター自体に関する報道は皆無。明らかな情報統制だ。

 山下山男が抱く憤りと同種のものを卜部京也も感じていた。あれほど巨大な蜘蛛が数人を引き裂き、うどん工場に穴を空けたのに。
 巨大蜘蛛を倒した後、京也は自分に変身を示唆した少女・梳灘 斎に色々と聞いてみた。聞いてみたが。
「祖父の名をどこで知った?」
「分かりません」
「あの『念珠』とは何だ?」
「分かりません」
 あらゆる質問にこれである。こうなると彼女の知識は記憶ではなく、体に染み付いた本能のようなものだと考える他無いらしい。しかし、どういう経緯でそんな本能が染み付く事になったのか。
 京也は一つ息を吐き、注文していた肉汁うどんを啜る。基本的に食い物へのこだわりが無い京也だが、肉汁うどんに関しては例外だ。しかし斎の箸が進んでいない。
「いや…すまないな。君自身訳の分からない状況で尋問のようなマネを…」
 斎は首を横に振る。
「…鴨南蛮が良いです」
 意外にワガママだった。

 とりあえず斎から聞き出せたのは、あの巨大蜘蛛が「妖魔」の類いで、自分が「念珠」を使って「変身」できる事だけ。「妖魔」が何なのかも、なぜ武政の名を知っているのかも斎は分かっていないらしい。

 暗闇。男達は焦っていた。自分たちの信念を現実とするため魔界の扉を開き妖魔を召喚したというのに、その妖魔が死んでは意味が無い。「仮面ライダー」の復活を恐れる声が暗闇のあちこちから聞こえる。
「もしも本当に仮面ライダーだとすれば、妖魔を狩りに現れる…」
 暗闇から姿を現した、人と蝙蝠の合の子のような異形。奴は大きく割れた口を歪め、鋭い牙を輝かせる。
「私が仮面ライダーを誘き寄せ、妖魔に殺させましょう」