【今こそ】オリジナルヒーロー小説【変身】

このエントリーをはてなブックマークに追加
395仮面ライダーネメシス一杯目A
 涼ちゃんに服を引かれながら、斎は妙に落ち着いた自分を自覚していた。
「開かれる」
 そう口走ったが、なぜそう口走ったのかは分からず、ただ斎は凉ちゃんと共に駅から距離をおいた。
 自爆テロによる負傷者が次々と運び込まれ、京也は対応に追われる。体に突き刺さったガラス片を傷が残らぬよう祈りながら取り除く。自分の様に傷を負う者を増やしたくない。そう考えて医者になったのだから。
 傷を拡げぬよう丹念にガラス片を除く。その中に幾つか奇妙な破片を見つけた。ガラスやコンクリートではない。青銅だ。

 結局、この日東京の七ヶ所で同時に自爆テロが発生。犯人も含め、死傷者はかなりの数にのぼった。しかし犯人グループも犯行声明も発表されず、都民は不安な一夜を過ごす事と相成った。
 漸く仮眠を許された京也だがそれに甘える事なく、テロの被害地点に関する資料を片端から集めていた。
 なぜつまらぬ線路や駅の土地から青銅が出土した。あの土地に遺跡でもあったろうか?
 京也にはもう一つ気になる事があった。祖父より託された勾玉の内の二つ。
「これだけはいつも持っておけ」
 と言われ、以来肌身離さず持っている「召鬼」「昂鬼」という記述が見える勾玉。それらが摘出した青銅片に反応するように輝いたのだ。
「目の錯覚なら良いんだがな…」
 京也はそう呟き、オペの合間を縫って爆発現場へバイクを飛ばした。
 到着した頃には、既に黒山の人だかり。野次馬根性に嫌気が差し、そんな自分の野次馬根性にも嫌気が差した。
「山下山男警部補!」
「フルネームで呼ぶな」
 ご機嫌斜めの若い刑事が陣頭指揮を取っている。あの山下山男という男もまた、青銅に着目しているようだ。
 この状態では実りある発見など望めないだろう。京也は再び愛車に跨がる。病院に帰ろう。そう思った矢先、野次馬の一人と目があった。
 蒼白い肌、ボブの髪は染めているのか天然なのか知らないが明るい赤。年の頃は十代後半だろうか。
 その少女に京也は見覚えがあった。祖父の文机に大切に保管されていた一枚の写真。終戦直後に撮ったものだというから、既に六十五年は前の代物。
 その写真に祖父と共に一人の女性が写っていた。祖母ではないらしいし、祖父は生前、その女性の素性を一切語らなかった。
 眼前の少女は、その女性と酷似している。京也と目が合った少女の唇が動いた。声は聞こえなかったが、京也はその唇の動きを読み取った。