クロス小説創作スレ

このエントリーをはてなブックマークに追加
358ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:01:15 ID:HrfUPTdY
「うん。人に聞こうにも大通りにも人が少ない。聞けたとしてもいつもとたいして変わらない、目撃者が0、殺人事件があったことさえ知らない人がいる。
手がかりはまったくなし」
 モデルXはエールの答えに沈黙する。今回の事件を彼なりに推理しているのだ。
 それにしてもおかしな話である。目撃者が0というのはどういうことなのか。
 治安のための監視カメラにすら姿が映らないらしい。まったく持って不条理な話だ。
 エールが堪えているのは、肉体的な疲労ではなくなんの手がかりもないという不安なのだ。
 思考を続けるも、考えがまとまらない。
 はぁ、とため息をついたエールにふわっ、といい香りがする。
 思わず振り向いたエールの視界に、青いバラが広がった。
「エールさん、お久し振りです。運び屋の仕事ですか?」
「その声……花屋のジルさん?」
 エールが柔和な声に顔をあげて名前をつぶやくと、見知った顔があった。
 セルパンカンパニーが滅び、運び屋仕事に復帰したときの第一号のお客さんである。
 エールと一、二歳年上の、どこか頼りないが優しい雰囲気に白い清潔感あふれるシャツ。
 耳のあたりにまで揃った綺麗な金髪、黒縁の眼鏡と典型的な優男であった。
「最近仕事を依頼しようと思っていたのですが、連絡取れなくて……」
「あ、すいません。最近は休業していまして……」
「それまた急ですね」
「まあ、近いうちに再開しますよ。気楽に待っていてください」
 どん、とエールは自分の胸を叩く。
 支払いもマナーもいいため、ゴルクル夫妻に次いで好感の持てる客であった。
 そういえば、とエールはジルに確認をとってみる。
「エリファスさんも元気ですか?」
「母さん? 元気元気。いつか依頼して持ってきてもらった薬で、足の調子もいいみたい。
半自動運転にもすっかり慣れているし、エアカーを使ってどこにでもいくよ」
 ジルは笑って答える。彼ら母子は近所でも評判の仲の良さだ。
 足が悪く車椅子を使っている母親をジルは助け、母親もまたできた人物である。
 エールも数度あっているが、夕食を御馳走してもらったことは一度や二度ではない。
 足が悪いのによく調理が出来るものだ、と感心したものである。
 ちなみにエールの料理は……お察しくださいの出来だ。
「それじゃ、お客さんにこれを渡しにいかないといけないから、僕はもう行くね?」
「はい。けど、それだけの量を剥き出しで?」
「いや、店でラッピングしてから渡しにいくよ。今は店に戻る途中。それじゃエールさん、また会いましょう。母さんも会いたがっていましたし」
「ええ、それじゃ」
 笑顔で離れていくジルの後ろ姿を見届けると、モデルZが出てくる。
 いきなり出てきたモデルZを不思議に思っていると、モデルZはエールを見つめた。
『それにしても、ちゃんと客には敬語を使うようになったな』
「ちょっと! それは二度と言わない約束だって……」
『気にするな。もう少し休むか?』
 エールの問い掛けにモデルZがはぐらかした。
 しかし、モデルZの問い掛けに、エールは楽になったのを自覚して立ち上がる。
 エールは不機嫌な答え方をしながら、実はそんなに怒っていない。
 運び屋として人と人のつながりを実感する。それがエールにとってのこの仕事のやりがいだ。
 早く自分も日常に戻り運び屋の仕事を再開したいと考えながら、エールは歩みを進めた。
 

「白いスーツに、白い帽子の男……?」
「ああ、少なくともこの街にそういう男はいなかった。なにしろ狭い街だからねぇ。
そんなに目立つ男なら名前くらい広まってそうだけど……」
 天道は見かけた男性に声をかけて、口をついて出た男に思案する。
359ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:03:08 ID:HrfUPTdY
 最初は天道を見て警戒していたのだが、ガーディアンであるという身分証明を見せたらあっさりと納得した。
 男いわく、「ようやく上も事件を解決する気になったか」だそうだ。
 その男から聞いた怪しい人物の姿。天道にとって忘れたくても忘れられない男に似ている。
「協力を感謝する。そろそろ仲間との合流時間だからな」
「おお、そうかい。頼むよ、このままじゃ商売あがったりなんだ」
 男が天道に期待するように笑顔を浮かべて送り出す。
 天道は踵を返すが、脳裏にはあの男がちらついてならない。
(俺がいるということは、他の奴が来てもおかしくないということか?)
 だとすれば厄介である。あの男とは対等の条件で戦う機会がなかったものの、手練であることには変りない。
 天道が相手にした人物では、ライダーワーム両方あわせても最強の部類に入る。
 自分はともかく、エールには荷が重いだろう。
(なにしろ成長期だからな)
 伸び代があるのはいいことだ。彼女はきっと強くなる。
 その芽を摘まれないように動くのも天道の役目だ。
「おばあちゃんが言っていた。自分はすべての兄になるべき男であると」
 ひとりごちて、笑顔を浮かべる。
 手強い相手だろうと、遥かな因縁があろうと、天道のすることは変わらない。
 おばあちゃんの言っていたことは偉大である。



 夜が近づく時間、天道は顔をしかめてエールを見下ろす。
 天道の得た情報では手がかりには遠く、次の手を考えているとエールが提案してきたのだ。
 モデルZも絡んでいるらしく、エールの説明を補佐していた。
 彼女の提案とは簡単である。
「おとり捜査か」
「うん。このままじゃ埒があかないから、犯人をアタシたちで誘き出そうと思うの」
『エールに足りない経験は俺が補佐する』
「……おとり捜査は難しいぞ。俺は経験あるが、モデルZやエールは大丈夫なのか?」
『その点は問題ない。こういう場合も想定して、エールには教えていた』
 天道はモデルZの言葉を聞き、エールに視線を移した。
 彼女はやる気なのだが、おとり捜査に慣れているとは思えない。
 必要なのは知識でなく、経験であったのだ。
 天道はその手の荒事は経験豊富だ。相手がワームなのだ。仕方ない。
 しかし、エールはどちらかというとからめ手は苦手そうに見える。
 戦闘となれば別だが、年齢からして経験不足は否めない。
「モデルX、お前はどう思う?」
『危険過ぎるから、僕は賛成出来ない。天道さんも二人にやめるよういってもらえないかな?』
 モデルXの言うとおりだ。エールは強いが、より弱い戦力で倒せる方法はいくつもある。
 それに、敵は強い連中を温存しているのだ。
 不安になるのもしょうがない。
「けどこのままじゃ犠牲者が増えるだけだよ、モデルX、天道」
 天道に勝ち気の黒い瞳を向けているエールの様子を探る。
 天道は数秒沈黙した後、しぶしぶといった感じで口を開いた。
「いいだろう。好きにしろ」
「さっすが天道! 話が早い」
「ただし、連絡は密にとるんだ。危険は大きいからな。特にワーム相手だと」
「うん。じゃあさっそく……」
「いや、少し待て。エール」
 エールは天道を振り向いて、まだなにかあるのだろうか? という表情を浮かべている。
360ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:04:10 ID:HrfUPTdY
 天道はモデルXに視線を送って、すぐにエールへと止めた理由を告げた。
「弁当を今作ってくる。十分でできるから、おとなしく待っていろ。行動を開始するのは、それからでも遅くはない」
「え……あ、ありがとう」
 エールの礼に、天道は笑顔を返してこの街におけるガーディアンの拠点へと入る。
 内部の厨房に入って、天道は調理を開始した。
 

 空に浮かぶ月の下、月光を浴びた刃が冷たく光る。
 どこかメカメカしい剣を手に、凶相の男は笑顔を浮かべた。
「今宵もサソードヤイバーは美しい」
 などと抜かし、スラッと立ち上がった。
 ゆったりとした服装に、切りそろえた黒の頭髪の目元は涼しい。
 血に飢えた獣の相貌でもあり、高みを目指す戦士の顔でもあった。
「さて、切り札は隠さねばならない。ならば、今また爪の露となるものはどこか……」
 男はそう告げて、崖からフッと姿を消す。
 後に残ったのは寂しく風が吹く荒野だけだった。
 

「天道、あっさりと同意したね」
『事前にプレリーたちに許可を取っていたのも大きかっただろう』
「まあそうなんだけど」
 エールは笑って街灯の下進むべき道を見つめる。
 暗闇に染まった道路が不気味に続いていた。
 幽霊など非科学的なものを信じてはいないが、つい想像してブルっと震えた。
「今日は満月か」
『そういえば、例の殺人は満月の夜に行われたものだね』
「なら好都合ね」
 エールが笑みを浮かべて、モデルXに返す。
 もっとも、モデルXはあくまでも心配そうにしていた。
 モデルXは心配性だ、とエールが思っていると、風が吹いてエールの頬をなでる。 
 いや、この風は違う。エールはとっさに後方に飛び退いた。
 すると、衝撃で地面のコンクリートが瓦礫を産んで舞う。
 二回目の攻撃がくる前に、エールの手はモデルXとドレイクゼクターを握っていた。

「クロスロックオン!」

 エールの凛々しい声と共に、『Change ROCKMAN』の電子音が夜の道路に鳴り響く。
 人が住んでいない無人の廃ビルを背に、エールは空色のロックマンDXへと変身を終えていた。
「クロックアップ」
 もはやつぶやき慣れた宣言を終え、エールは加速世界へと突入する。
 宙を舞っていた瓦礫の動きが凍り、月下の中エールは敵の正体を見つけた。
「やっぱりワーム!」
 スズムシを擬人化したような怪物が、加速世界の中エールを睨んでいた。
 ワームが羽を震わせると、スズムシの音と似たような音が響く。
 エールはその音を無視して、姿を視界に捉えドレイクゼクターを持ち上げる。
 茶色い虫の姿に、エールは怒りを持ってドレイクゼクターの引き金を引く。
 ワームはその銃撃を捌き、エールへと宙を舞いながら突進してきた。
「くっ!」
 エールはワームに跳ね飛ばされ、地面に叩きつけられる。
 衝撃に目を白黒させながら、エールは天道に連絡する隙を得るのは難しいと判断した。
361ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:05:34 ID:HrfUPTdY
『エール、ここは一旦ひいて天道さんと合流しよう』
「冗談! あいつを逃がしたら、また被害が増えるでしょう!」
『いや、俺たちは不利だ。あのワームはできる。体勢を立て直すことが先決だ』
 さすがのモデルZも撤退を提案するが、エールも頑固である。
 ドレイクゼクターの銃弾をワームへと撃ち込み、前へ進む。
 モデルXが『エール!』と窘めるが、脳裏に浮かぶ仲の良い母子にエールのトラウマが刺激される。
(もう二度と、あんな想いを誰にもさせない!)
 ぐっ、とエールは唇を噛んでボルトに当たるヒッチスロットルを引く。
 エネルギーを充填しながら、銃口を流れるようにワームへと向けた。
 引き金を絞ると同時に、ワームが動いた。避けるには遅い、と思考するエールの期待を裏切られる。
 獣の咆哮が響いた。
 ワームは叫び声をあげたまま、地面を殴りつける。盛り上がった瓦礫にライダーシューティングがぶつかり、爆破する。
 エールは驚き、二発目を用意しようとするが腕が動かない。
「な……に……? こ……」
 エールがしゃべろうとするが上手くいかない。ガクッ、と膝をついて始めて筋肉が硬直しているのに気づいた。
 なぜだ? と疑問に思うエールの視界に、羽をこすって音波を発生させるワームの姿がある。
 エールに知る由もなかったのだが、ベルクリケタスワームは羽をこすり特殊な催眠音波を発声させることができる。
 それによって相手の筋肉に作用し、ある程度コントロール可能なのだ。
 催眠音波に四肢を麻痺されて、地面に伏せるエールにワームは右手を向けた。
 途端、周囲の景色が通常に戻り、動きを凍らせていた瓦礫が落ちる。
 周囲に降り注ぐ瓦礫の雨の中、エールの耳に聞き覚えのある声が届いた。
「ジル! どこなの? ジ〜ル!」
 花屋の主人であり、今はジルと二人で暮らす女性の声。
 僅かに軋む車椅子の車輪の音がやけに大きく聞こえた。
 まずい。このままでは彼女が危ない。
 エールは麻痺した身体にムチを打って、勢いよく上体を上げた。
「エリファスさん! 今はこっちきちゃダメェェェ!!」
 エールはエネルギーをためた銃口をワームへと向けながら、大きく叫ぶ。
 大型のエネルギー弾が開放されるのと、エールの鳩尾に重い衝撃が届いたのは同時だった。
 

 はずれか、と天道は自分のルートを確かめて思考する。
 条件はそれなりに揃っているが、餌をわかりやすくしたか? と反省点を脳内で作りあげていった。
 今失敗したからといって悲観することもない。
 天の道を往く天道だが、失敗したことも数多くあった。
 人間に必要なのは肝心なときにミスをしないこと。これはおばあちゃんも言っていた。
 夜風が身体に当たり、天道が空を見上げた瞬間爆発音が響く。
 天道が振り向くと、エールが向かった先だ。
 あそこに引っかかったのか。エールの連絡がないことに、天道は表情を殺す。
「変身」
 静かに一言。それで天道の腹に収まったカブトゼクターは六角形の金属片を身体にまとわせた。
 銀色の戦士となり、キャストオフと宣言してカブトは駆ける。
 カブトの視線は爆発現場にしか向いていなかった。
 
 そして、現場には戦闘跡があったものの、エールの姿はなかった。



 ジルの朝は早い。
 花の世話をして、ラッピングし、見栄えよく整える。
362ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:07:11 ID:HrfUPTdY
 繁盛して忙しい日々を過ごしているが、ジルは花の世話に手を抜いたことがない。
 霧を吹きかけて、時計を見ると六時を示していた。
 まだ店を開けるまで三時間もある。ジルは店の二階にある住まいへと階段をのぼった。
 鼻に卵が焼けるいい匂いがする。焼かれたパンが並ぶ中、やはり母親は起きていたかと思った。
「母さん、おはよう」
「あ、ジル。お店の方はいいの?」
「準備は済ませたよ。後は店を開くだけさ」
 それで、とジルは一室に視線を動かす。彼は心配そうにその部屋を見つめていた。
 それもそうだ。なぜなら…………と思考したところで件の部屋から大きな音が聞こえてきた。
 ジルは母親と顔を合わせ、部屋に駆け寄る。
「エールさん、どうしましたか? なにかあったんですか?」
 ドンドン、と叩く。ジルは返ってくる返事を待った。
 

 時間は少し遡る。
 日が昇りカーテンの隙間から陽光がエールを照らした。
 かわいらしい顔をしかめ、黒い瞳が周囲を見回す。
 エールの知らない場所だ。ボーッとした頭では考えがまとまらない。
『起きたか』
「あ、モデルZ。おはよう……」
 エールは寝ぼけ眼のまま、上半身を起こして、ズキッと腹部に鈍い痛みが走った。
 エールは思わず「うっ!」と呻き、バランスを崩して派手に転ける。
 ゴン、と大きい音を立てて額を地面に打った。
「いったぁぁぁ〜〜」
 涙目になりながらも、エールは周囲を見回した。
 自分がどこにいるのか把握しなければならないからだ。
 すると、ドアからコンコン、とノックする音が聞こえてくる。
『エールさん、どうしましたか? なにかあったんですか?』
「ジル……さん?」
 エールが声の主に驚いていると、ドアノブが回り焦った様子の少年が姿を見せた。
 エールが地面に座り込み、赤くなっている額を抑えている姿を見届け、ジルが勢いよく駆け寄ってきた。
「どうかしましたか? なにか不都合でも……」
「あ、いえ。そういうんじゃないです……」
 エールはジルに対応しながらも、昨日の出来事を少しづつ思い出してきた。
 腹部に手当がされている。そこまで思考して、エールはジルに掴みかかった。
「って、ジルさん! エリファスさんは無事ですか?」
「母さん……? 母さんならピンピンしているよ。昨日は倒れているエールさんを母さんが見つけて大変でした。なにがあったんですか?」
 エールはエリファスが無事である事実にホッと安堵する。だが今度は別の問題が起きてしまった。
 ジルが心配そうに黒縁メガネの下の青い目をうるませて、エールを見つめている。
 心底心配であったとわかる分だけ、エールは答えに詰まったのだ。
 正直に言うわけにはいかない。そして、エールは嘘をつくのが苦手であった。
「こら、ジル。エールちゃんが困っているでしょう?」
 優しい声に助けられ、エールは車椅子が部屋に入るのを目撃する。
 最近の車椅子は高性能だが、身体を機械に置き換える現代では珍しい代物であった。
 最初見たときは驚いたのだが、今では慣れたものである。
 エールは笑顔を浮かべて、守ろうとした女性に視線を向けた。
 ジルと同じく柔らかい金髪のショートカット。優しげな面差しに、凹凸の激しい女性なら羨ましがる身体。とてもジルを産んだとは思えない。
 料理を作っていたのか、エプロンをかけている。車椅子を動かし、エリファスはエールへと微笑んでいる。
「お久しぶりです、エリファスさん」
「そんなにかしこまらなくてもいいわよ。今朝ごはん作っているからベッドで休んでいなさい。ジル、行くわよ」
363ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:08:05 ID:HrfUPTdY
「ちょっと、母さん……。まあ、エールさんも立ち上がるのが辛ければいってください。手助けにきますので」
 ジルはそうエールに告げて、部屋を出て行く母親を追っていった。
 パタン、とドアが閉まったときエールに疲れが押し寄せてくる。
『やっといったみたいだね』
 そして、エールは恐る恐るモデルXの言葉に振り向いた。
 明らかに背後に怒りのオーラが見える。普段はおとなしいモデルXが珍しく怒っていたのだ。
 エールはゴクリと生唾を飲み込んだ。
 

『モデルX、今回の件は俺にも責任がある。だから……』
『モデルZは黙っていて。エール、確かにみんなを守りたい気持ちはわかるけど、今回は失敗だったよね?』
「う……ごめんなさい」
 エールは頭を垂れて素直に謝る。激怒したモデルXは本人が頑固なのも相まって、タチが悪い。
 嵐が過ぎるのを待つように身を縮めて耐えるしかなかった。
 もっとも、今回は確かに反省点も多い。敵の能力を侮ったのと、これ以上犠牲者を出させないためとはいえ焦ったことだ。
 死んだジルウェにも叱られるだろう。
 モデルXがエールの短絡的な性格を責める中、ふと疑問を口に出す。
「……そういえば、アタシが負けた後はどうなったの?」
『話を逸らそうとしていない? まあ、いいけど。……それが妙なことにあのワームは攻撃を中止したんだ』
「攻撃を中止……?」
 さすがにモデルXも説教を中止し、昨夜の違和感をエールへと報告してきた。
 モデルXはまた本人を前にするしか確かめる手段はない、と結論をつける。
 エールもその意見に同意だ。
「それじゃ、攻撃を中止してどうしたの?」
『どうもこうもない。ワームは姿を消して、エリファスが近づきエールの応急手当をした。変身は俺たちの判断で勝手に解いたから、バレてはいない。
すぐにジルも姿を見せ、エールをここに運んだ。近くに病院がなかったし妥当な判断だ』
「うわー、アタシって間抜けだ」
 モデルZに改めて説明してもらうと、死にたくなってきた。
 自分の作戦を推したプレリーや、しぶしぶながらも了解してくれた天道に申し訳がない。
『焚きつけたのは俺だ。責任は俺がとる』
 モデルZが頼もしいことをいってくれるが、それならモデルXの今の怒りも受けて欲しいと思った。
 しかし、そう都合よくはいかない。なぜなら、下手をすればジルもエリファスも死んでいた。
 エールが自覚した瞬間、悪寒が背筋を昇る。エールの脳裏に懐かしい光景が浮かんだ。

 ―― メットールをマスコットにした遊園地が炎によって赤い色に染め上がる。
 ―― ヒトビトの悲鳴が上がり、人ごみの中、小さなエールは母親の手を握っていた。
 ―― イレギュラーの群れの銃弾で建物が破壊される。
 ―― エールを安心させようと振り向いた母親の後ろに、イレギュラーが現れて……。

『エール?』
「モデルX……ごめん。ちょっとボーッとしていた」
『……調子も悪そうだし、今はここで切り上げよう。細かい打ち合わせは天道さんと合流してからだ』
「うん。まずはあの二人に挨拶して、プレリーたちに無事を知らせる」
364ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:09:28 ID:HrfUPTdY
『そうだね、それが一番だ』
 モデルXの同意を得て、エールは立ち上がった。
 もっともモデルXの怒りは解けていない。
 いつもなら恐ろしい事態なのだが、今のエールには気になることがあった。
 あの日の悪夢、すべての始まり。
 セルパンを倒し、ジルウェに想いを託されて乗り越えたと思っていた。
 もしかしたら自分で思っていたほど、自分は強くないのだろうか?
 エールは頭を振って不安を吹き払い、ドアノブに手をかけた。



「よかったぁ……エールが無事で」
 プレリーはエールからの連絡があった通信機を切って安堵する。
 彼女の身を心配したプレリーだが、深夜にガーディアンの部隊を総動員するわけにはいかなかった。
 ゆえにその日は捜索を天道だけに任せるしかなかったのだ。
「さっそく天道さんやみんなにも教えないと」
 プレリーはさっそく通信機を手に、今も捜索活動を続ける数人の仲間へと連絡をとる。
 エールの心配をして志願してくれたのだ。まずは彼らを安心させることから先だ。
 プレリーは捜索隊のリーダーを、調査員と兼任する天道へコールを鳴らした。
 

 こんがりと焼けた食パンとベーコンに目玉焼きが乗った皿が食卓に並ぶ。
 手元にはバターが置かれており、新鮮なレタスに乗っかる半切りのトマトと、サラダもある。
 エールが席についたのをエリファスは嬉しそうに微笑んで、話しかけてきた。
「さあ、どうぞ。召し上がれ」
「はい。いただきま〜す」
 ぐ〜、とエールのお腹も主張しているため、遠慮なくいただくことにする。
 傷はまだ痛むが、無視できるレベルだ。本能には抗えない、と無駄に哲学なことを考えてパンに手を付ける。
 はむ、とバターを塗ったパンを噛みしめて、エールは生きている実感を味わった。
 一口パンを噛みちぎると、余裕が出たのかエールは一つの事実に気づく。
 お客さんで恩人ということもあり、かしこまった口調でエールは尋ねることにした。
「そういえばエリファスさん、ジルさんはどうしたんですか?」
「ジルなら店を開けているの。私はこんな足だし、ほとんどあの子に任せているわ。それよりエールちゃん?」
「はい?」
「今は仕事中じゃないし、楽にしていいのよ。その方が私もありがたいし」
 エールはエリファスの言葉に数瞬だけ悩んだ。
 もっとも、楽なほうを提案してくれるのはありがたい。
 客仕事のため敬語は使えるのだが、エール本来の性格には合わなかった。
「……うん、ありがとう。それでアタシがなんであそこに倒れていたかは……」
「聞かない方がいいかしら? ならそうする」
「え? いいの?」
 エリファスはエールに困ったような笑みを浮かべて、エプロンで手をふいた。
 エールのために用意した牛乳を置きながら答える。
「そりゃあ、女の子があんなところで傷を負って倒れているもの。事情をきかせて欲しいわ」
「えーっと、ごめんなさい! さっきから謝ってばかりだけど、こればかりは話せないの!」
「そう、ならいいわ。ところで、連絡はついた?」
「ええ。ここに迎えに来るって」
「きっと心配していただろうから、謝らないとダメよ?」
「……はーい」
 エールは天道が取り乱している姿を思い浮かべようとしたが、あの超然とした男が取り乱す姿が想像できなかった。
365創る名無しに見る名無し:2009/12/14(月) 21:09:35 ID:66g7do2U
  
366ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:11:22 ID:HrfUPTdY
 とはいえ、天道が探索チームの指揮をとったのだとプレリーはいう。
 ものすごく迷惑をかけた自覚があるため、身を悶えさせたかった。てか、一人なら絶対悶えている。
 エールが天道にあわせる顔がないと、パンを勢いよく齧った。
 

(よかった。エールさんは元気みたいだ)
 ジルは安堵して花束をラッピングする。母親から彼女が起きて、朝ごはんを食べたと聞いたのだ。
 今はきっと二人でお茶をしているに違いない。エールを迎えに来るという人物がくるまで、彼女は母の相手をされるのだろう。
 ジルは大口の注文があったため、運搬業者が来るのを待つ。
 準備はすでに出来ていた。カラン、と音がして自動ドアの方へ視線をやる。
 入ってきた整った顔立ちの男にジルは見ない人だ、と思って声をかける。
「いらっしゃいませ!」
「すまないが、客ではない。エールがここに居ると聞いて迎えに来た」
「ああ、そうですか。少しお待ちください。今呼んできますので」
「ぜひ頼む」
 偉そうな態度にもジルは「おかしな人だ」程度にしか印象を抱かなかった。
 ジルが上にいる母に、迎えが来たと内線電話で告げる。
 すぐにでも降りてくる、と伝えると男は別の方向へ視線をやっていた。
「花が好きなんですか?」
「まあ、そこそこにな。ところで、あの大量の青いバラは?」
「大量に欲しいと注文がありましたので、用意したんです」
 そうか、とだけつぶやいて男が沈黙した。
 ジルが笑顔を向けて、眼鏡のフレームの位置を直しながら話しかけようとしたとき、二階より人が降りてくる気配を感じる。
 エールが恐る恐るといった様子で姿を見せ、天道の姿を見たと同時に頭を垂れる。
「ごめんなさい! 天道、つい先走って……」
「そうだな、おかげで皆に心配をかけた。だが…………」
 天道と呼ばれた男の表情が柔らかくなったのを、ジルは見過ごさなかった。
 ほんの刹那の間だけ覗かせた表情だったため、頭を下げているエールには見えなかっただろう。
 彼が見せた親愛の情にジルは頬が緩んだ。だからこそ、次の言葉はジルにとっては意外でなかった。

「無事でよかった。心配したぞ」

 エールがキョトン、と天道を見つめている。
 それに対し、まるで兄のように天道はエールを迎えた。



 天道に連れられて、エールを探索に来たガーディアンの仲間たちのもとへ向かっていく。
 川が流れ、橋を通るときにエールは天道に声をかけた。
「ねぇ、天道」
「どうした?」
「……天道はどうして、アタシを助けてくれるの?」
「簡単だ。おばあちゃんが言っていた。模倣となるべき人間は、すべての兄であるべきだと。
俺は生まれたときからそういう宿命を背負っている。そういうことだ」
「いや、どういうことよ」
 エールが相変わらずの天道に呆れる。もっとも、彼の行動には感謝してもしたりないが。
 天道が言う言葉、特におばあちゃん絡みものは本気であることに気づいている。
 だからこそ、不思議でしょうがない。彼はなぜエールに対し、肉親のような感情を抱いてくれるのか。
 そうエールが思ったとき、発砲音が響いて天道に抱えられた。
 身体浮いた、と思ったときには天道は向きを変え、敵と対峙している。
 エールも降りて、相手を睨みつけた。
367ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:12:11 ID:HrfUPTdY
「さすがに反応がいい……それに、ようやくこいつを使える相手に出会えたか」
 役者のように整った顔立ちの男が、紫色の剣の刃に舌を這わせていた。
 左手に握るのはサソリ型のデバイス。おそらく新しいゼクターであろう。
「ワームか」
「その通り! 仮面ライダー同士の戦いを始めましょう。天道総司!」
 男はそう言って剣とサソリ型デバイスを合体させる。
 『Hen-shin』の電子音と共に、男を六角形の金属片が包んで見覚えのある姿へと変えた。
 赤紫の胴体部。各種にチューブが埋め込まれて、中を液体が通るのが見えた。
 蠍の尾を模した頭頂部に、横一文字のバイザー。ドレイクやカブトとはまたデザインだが、仮面ライダーであることに間違いはなかった。
 天道がいうには、すべてのゼクターはワームの手中にある。ならばこのワームが昨晩エールを襲ったのか。
 エールは仮面ライダーに対抗するため、モデルXとドレイクゼクターを構えるが天道が抑える。
「エール、今は力を温存しておけ」
「…………わかった」
「やけに素直だな? いつもなら食ってかかるはずだが?」
「昨日のことを反省しているの! 人が下手に出たのにもう……」
「わかっている。変身」
 エールが愚痴るのも構わず、天道がカブトへと変身した。
 銀色の仮面ライダーと、赤紫の仮面ライダーが正面から睨み合う。
 風が吹き、橋から小石が落ちる。水面が揺れると同時に二人は地面を蹴った。
 

『Cast off』
 同時に奏でられた電子音と共に、二人の仮面ライダーの鎧がはじけた。
 宙でぶつかり合うパーツの中、カブトは目の前のサソリを模した仮面ライダーを見つめる。
 マスクドフォームのときとは違い、全身濃い紫の装甲。緑の二つの複眼。銀のベルト。
 かつてサソリのマスクド・ライダーシステム、サソードの名を伝え聞いたことがある。
 おそらくこのワームの前の使い手だが、剣の腕前は一流だったとのことだ。
 目の前のワームの腕を見定めようとしたとき、サソリを模した頭部に光が宿り日本刀とほぼ同等のリーチの剣を振るわれる。
 カブトは冷静にクナイガンの刃で受け止めて、後方へ跳躍した。
「逃がさん!」
 サソードが逃げるカブトを追いかけて距離を離さない。
 接近戦に長けるサソードが距離を保つのは当然の選択だ。
「舞え!」
 流れるようにサソードの斬撃がカブトを襲う。
 右から弧を描く刃の軌跡を上半身を倒して躱す。
 サソードがすぐに剣を斬り返し、すくい上げるように左から逆袈裟に襲いかかってきた。
 クナイガンで剣を弾き、刃が宙に浮いたのを確認する。
「甘い!」
 サソードが狂ったように笑い、一旦刃をひいて突きを繰り出した。
 速度が速すぎて避けきれない。カブトの頬に刃が走る。
 ザッ、とようやくサソードから距離をとることに成功するが、削れた装甲より血が流れた。
 どうやら斬られたらしい。
「天道!」
 エールの心配する声が聞こえる。カブトはサソードに視線をやった。
 

「天道に攻撃が当たった? モデルX……」
『いや、まだその必要はないようだな』
「モデルZ。でも、始めて天道に……」
『皮一枚。それに、あの程度の剣技では天道に届かない』
 モデルZにいわれて、エールは再び戦いを見る。サソードが地面を蹴って、大ぶりに剣を振るう。
368ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:14:08 ID:HrfUPTdY
 カブトに刃が届きそうになった瞬間、カブトは一瞬でサソードの懐に潜り込んだ。
「なに!?」
 サソードが叫ぶが、カブトは冷静にサソードの右手首に掌打を打ち込んだ。
 サソードのバランスが崩れ、カブトは容赦なく脇腹に拳をめり込ませる。
 骨が折れる鈍い音が響く。エールは痛さを想像して顔をしかめた。
「がはっ!」
「どうした? 俺が伝え聞いたサソードの足元にも及ばないぞ」
「ふざけ……ッ!」
 サソードが怒るが、エールはそれは命取りだと判断する。
 事実、サソードの突きは躱されて、カブトによって腕をつかまれ地面に背中を叩きつけられた。
「クソ……ライダースラッ……」
 サソードはゼクターの尾を押し込もうとして、顔面を殴られて強制的に中断された。
 エールは少しでもカブトが危ないと考えたことを恥じる。いつも以上に相手にならない。
(けど、どういうこと? あいつは昨日アタシを……)
『エール、他のゼクターだ。気をつけて!』
 エールが疑問に持つが、答えを得る前にモデルXの言葉が思考を中断する。
 モデルXとドレイクゼクターを用意して、すぐさまロックマンDXへと姿を変えた。
 ドレイクゼクターの弾丸を吐き出し、乱入してきたゼクターを撃つが選けられる。
 やがて影はカブトへ襲いかかり、カブトは大きく跳んで躱した。
 サソードとカブトの距離が開いたとき、間に白い大きな影が現れる。
 二メートル近くある鍛え抜かれた巨漢。白いスーツをまとい、白い帽子の下の鋭い瞳がカブトとエールに向けられる。
 その瞬間わかった。目の前の男はただ者ではないと言うことを。
「お久し振りですね、天道総司」
「黄金のライダー……まさかここでも会うとはな」
 白いスーツの男が青いバラを向けた。
 大事そうにつまむ青いバラの花びらが、風に舞う。

「黒崎一誠、仮面ライダーコーカサスです。この世界の英雄、ロックマンZXの少女。以後お見知りおきを」

 外見に似合わぬ丁寧な言葉が、エールには逆に恐ろしかった。
 

 黒崎は後ろで無様に倒れているサソードに視線をやり、カブトと対峙する。
 サソードにかける言葉は当然冷たいものとなった。
「いつまでそこに倒れているのですか? 天道総司は押さえてあげますから、さっさと逃げたらどうです?
あの少女からは自力で逃げてください。そこまで面倒をみきれないので」
「くっ……」
 サソードの悔し気な声に、エールが反応する。カブトに視線を送られて頷いた。
 黒崎の脅威を計算に入れて、エールに任せるしかないのだ。ここでサソードを逃がすわけにはいかない。
 サソードとエールがベルトのスイッチをスライドする。
「「クロックアップ」」
 同じ響きが橋の上で唱えられた。風のように二人が姿をかき消す。
 クロックアップの時間でハンデがあるが、あの程度の能力のサソードなら相手にもならない。
 問題はやはり、目の前の男だ。
「ここにゼクトはない。それでもお前は戦うのか?」
「いったはずです。バラが見つめてくれるのはもっとも美しく、もっとも強いもの。
人間だろうがレプリロイドだろうがワームであろうが……ロックマンであろうが、支配者にふさわしければそれでいい」
「そうか、ならば戦うしかないな」
「もとよりそのつもり……」
 黒崎が空手の型のような演舞を繰り出した。金色のカブトムシ型ゼクター、コーカサスゼクターが周囲を舞い踊る。
369ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:15:35 ID:HrfUPTdY
 右手の銀のライダーブレスレットに、コーカサスゼクターが突き刺さった。
「変身!」
 黒崎の巨体を六角形の金属片が包みこむ。
 現れた金色のライダーを睨み、カブトは本気の構えをとった。



「いい加減しつこい!」
 サソードが剣を振りながら言い捨てた。エールは冷静に見極め、上半身を沈ませる。
 頭部のヘルメットを剣がかすめて、無防備の腹部に銃弾を撃ち込んだ。
「ガハッ!」
 サソードが地面を転がり、痛みに身悶えている。
 モデルZのいったとおり、たいした相手ではない。
 だとするとおかしい。昨日のワームはかなりの手練だった。
 このサソードが、あのワームではありえない。
 そう考えていると、クロックアップの時間が終わる。
 サソードのクロックアップは、エールの与えたダメージでとっくに切れていた。
「一つ聞かせなさい。ここにアナタ以外のワームがいるの?」
「知らん……死ねぇ!」
 懲りない奴だ、とエールは呆れて頭部に回し蹴りを叩き込む。
 紫電一閃、サソードがビルの壁に背中を打ち付けた。
 エールはもうこいつを倒そうと考え、ドレイクゼクターのヒッチスロットルを引く。
「これでおしま……」
「エールさん……?」
 ドレイクゼクターの銃口を向けようとしたエールに、聞き覚えのある声が届いた。
 後ろを振り向くとジルが青いバラの花束を抱えて立っている。
 同時に『Clock up』の電子音が響いた。まずい。
「命が惜しければ動くな! キサマたちは近寄るんじゃない!」
 サソードがジルの背後に回り、動きを拘束する。
 ジルが現れたことに動揺して一瞬隙を作ったことを後悔した。
『なんともお約束な台詞だな』
「うるさい……くそっ! くそっ! どいつもこいつもバカにして……」
 サソードががなりたてて、刃にエネルギーを充填し、斬撃を飛ばしてきた。
 エネルギーの刃をエールが避けると、ヒステリックにサソードが叫ぶ。
「避けるな! こいつがどうなってもいいのか?」
「そんな……」
 エールは悔しさに歯噛みする。ジルを助けなければならないが、このままではエールともども死んでしまう。
 迷うエールに、サソードが追い討ちをかけた。
「変身を解け、ロックマン」
『駄目だ、エール。従ったところで、奴が約束を守る保証もない!』
 モデルZが忠告するが、サソードヤイバーの刃がジルの喉にめり込む。
 血が一筋を流れたのを見て、エールの脳裏に自分を安心させようとした母の姿が浮かんだ。
 一度だけ唇を噛み締め、エールは変身を解いた。
「そうだ、それでいい。天道総司に受けた屈辱、その身体で支払ってもらうぞ!」
 サソードが嗜虐心をむき出しにして、刃を振るう。
 エールの右腕が浅く切られ、血が流れた。嬲る気であろう。
「いい子だ、微動だにしないとはな」
 サソードは笑い、今度はエールの右肩から血が噴出す。
 エールは反射的に右目をつぶり、痛みを堪えた。
370ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:17:07 ID:HrfUPTdY
 どうにかして人質を放さないと、手出しができない。
 ドレイクゼクターが姿を消しているのだ。反撃の機会を伺う。エールの目は死んでいなかった。
「さあて……次はどこを切ろうか。かわいい顔だけは最後にして…………」
 だが、サソードの言葉は最後まで紡がれない。
 サソードがよろめき、後ろに下がる。エールは眼前の光景に困惑の表情を浮かべた。
「やれやれ。逃げるだけなら、大人しく人質になってあげようと思っていたのに」
 その声はエールや母親へかけていた優しさの感情が微塵も含まれていない。
 まるでゴミを見るかのように、ジルはサソードを見下している。
 ジルの右手が昨夜襲ってきたワームのそれに変わり、サソードの腹部を貫いていた。
「サソードヤイバーは返してもらう。君たちに一度返したものだが、君に使われたくない」
 ジルは吐き捨てて、彼の全身が水面の如く波打った。
 同時に姿が変わり、スズムシを模したベルクリケタスワームへとなる。
 エールをくだした強敵の姿だ。
「う……そ…………?」
 ペルクリケタスワームが腕を引き抜き、サソードの変身が解ける。
 同時に緑の爆発が上がり、名も知らぬワームを背にエールと対峙した。
『エール、変身しろ!』
 モデルZが叫ぶが、エールは動かない。
 まるで悪夢の中にいるような錯覚を受けて、エールは声が出せなかった。
 右腕の傷の痛みに流れる血。そして硝煙の匂いが、ただ現実であるとエールに主張を続けた。
 

To be continued……
 
371ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:18:22 ID:HrfUPTdY
六話投下終了します。
次回七話とあわせて一エピソードです。
次の七話は明日投下ます。

最後に支援を感謝しまう。
失礼。
372創る名無しに見る名無し:2009/12/14(月) 21:27:23 ID:66g7do2U
規制かからないように書き込むはずが、読み耽ってて一度しかレスできなかったorz

しかし面白い!
サソード好きなんだよなぁ
しかしロックマンZXとカブト……うーん、予想外な組み合わせだったけど、はまるもんだ
クロスって凄いね
373ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 20:53:11 ID:n656iJB9
それでは第七話投下します。

注意
※オリジナルあり(モブ、敵のみ)
※クロス設定あり
※仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVEの没設定を利用しています(樹花の存在など)
374ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 20:53:53 ID:n656iJB9
七話 AFFECTION [本物の愛情]

 人通りの少ない道で、砂埃が風に舞い上がる。
 エールの艶やかな黒いショートカットの髪が揺れた。
 地面の爆発が起きたところは黒く焦げて、エールの鼻に硝煙の匂いを届ける。
 スズムシを模した茶色のワームを前に、エールは致命的な隙を晒していた。
『エール、変身しろ!』
 モデルZの叫びが昼下がりの道路で響いた。
 エールもその行為が正しい、と頭で理解しているのだが動けずにいる。
 やがて茶色のワーム、ベルクリケタスワームが僅かに身動ぎをした。
 エールが反応してどうにかライブメタルを掴むが、ワームの体表が水面のように飛沫を上げて見知った青年の姿に変わる。
 柔らかい金の髪に、黒ぶちメガネ。タレ目気味の目に筋が通った鼻。
 柔和な顔立ちは今はしかめ面を作っていた。
 彼の右腕が動き、エールが反応する間もなく眼前にサソードヤイバーが差し出される。
「どういうつもり……? ジルさん」
「違う」
 ジルはエールの言葉を否定する。いったいなにを否定しているのだろうか。
 ジルはサソードヤイバーを前に差し出したまま、搾り出すようにして告げた。
「エールさん、僕はジルじゃない。ジルを殺し、そのすべてを簒奪した……ただのワームだ」
 苦しそうな声が、エールの耳に届く。彼はなぜこんなにも辛そうなのか。
 エールには理解出来なかった。



 コーカサスとカブトの拳がぶつかり、衝撃波に川の水面が波打つ。
 反動で二人が同時に離れ、橋の上で踏ん張って互いに睨みつけた。
 コーカサスの瞳に光が宿る。カブトは仕掛けてくるとわかり、警戒をして構えた。
 だが、その構えも無意味。黄金の影がカブトの拳をすり抜け、腹部に重い一撃を与える。
 後方に数メートル吹き飛ばされ、カブトは片膝をついた。
 加賀美と二人がかりでも圧倒されたのだ。一人で勝てる道理はない。コーカサスの瞳がそういっている。
 愚かなことだ、とカブトの仮面の下で微笑んだ。コーカサスの肩部から、パキッという硬い音が鳴る。
「ムッ……」
 コーカサスの動きが止まる。右のアーマーの先端部が欠けた。
 コーカサスは落ちる欠片を見届け、カブトへとゆっくり視線を移動する。
「なるほど。アナタも強くなった、ということですか」
「おばあちゃんが言っていた。俺の進化は光より速いとな」
 カブトは立ち上がって天を指し、コーカサスに余裕たっぷりと告げる。
 もっとも、カブトには珍しくこれは虚勢だ。コーカサスは強い。
 ハイパーゼクターがないとはいえ、単純な戦闘力ならカブトの上をいく。
 とはいえ、ハイパークロックアップのない今こそ倒せる数少ない機会なのだが。
「ところで、一つ聞きたいことがある」
「答える必要がありますか?」
「この街には二匹のワームがいるだろう?」
 カブトはコーカサスの拒絶を無視して、疑問をぶつける。
 コーカサスは無言のままだが、なにより雄弁な答えである。充分だ。
 コーカサスの構えに力が入る。本気でくるのか。カブトはカウンターの体勢を整えた。
 二人の間につむじ風が舞う。近くの街路樹の葉がこすれあい、風がやんで二人が動く。
『Rider kick』
『Rider beat』
 カブトの足が、コーカサスの拳が、タキオン粒子の電流をまとってぶつかり合う。
375ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 20:55:11 ID:n656iJB9
 二十トン近くの衝撃のぶつかり合いに橋がひび割れて、水面が波立つ。
 力が拮抗すること数秒。衝撃は収まり、中心の二人は拳と蹴りをぶつけたまま制止した。
 やがてゆっくりとそれぞれの足や腕をおろし、先にコーカサスゼクターが離れた。
「なんのつもりだ?」
 カブトの姿から戻り、天道が尋ねる。それに対し黒崎は踵を返した。
 橋を超えたあたりでピタリと止まり、振り向かず先程の問いに答える。
「なに、ここで決着をつける気をなくしただけです。また近いうちに会いましょう」
 そう言って去っていく黒崎の後ろ姿を、天道はただ見ているだけであった。
 コーカサスとの戦闘でダメージが大きい。黒崎の姿が見えなくなったと同時に天道は膝をついた。
 大きく喘ぎ、キッと前を睨みつける。必ず倒す。天道の瞳はそう言っていた。
 

『エール、遠慮することはない。こいつは人を殺しているはずだ。倒すんだ』
 モデルZの冷静な声にハッとなって、エールは距離をとる。
 サソードヤイバーはジルの手にあった。ライブメタルを取り出し、

 ―― エールちゃん。

 ジルの母親であるエリファスの顔を思い出して、動きが止まる。
『どうした? エール!』
 モデルZが急かすが、敵が目の前にいるのだ。当然であろう。
 ただ、理屈ではわかっているのだが、エールの心が彼を討つことを拒否している。
 なぜだろうか。理由がわからない。困惑するエールの前で、ジルが先に動いた。
 ジルは見事にエールの前で土下座する。突然の行動にエールの混乱は深まるばかりだ。
『なんのつもりだ?』
「…………僕はワームだ。殺されてもしかたないし、エールさんになら殺されてもいい。だけど……」
 エールの代わりに尋ねたモデルZへジルは答え、柔和な顔に決意を乗せてあげた。
 必死にすがる人間のように真剣な表情が、そこにはある。
 エールはゴクリ、と生唾を飲んだ。いつの間にか、手には汗が握られている。
「三日だけ、三日だけ待って欲しい! その間に死ぬ準備を整える。だから……」
『その間にヒトを殺さないとも限らないだろう?』
 モデルZにバッサリと切り捨てられて、ジルは言葉を詰まらせる。
 なにしろ昨夜襲ったのは彼自身だったのだ。警戒し、言葉を疑うのが普通だ。
「信じてもらえないのはわかっている。けど……」
「いいよ」
 必死に懇願するジルに、エールは思わず答えてしまった。
 望んだ展開のはずなのに、ジルが目を見開いてエールを見ている。
 モデルZの咎める視線を無視して、エールはもう一度告げた。
「わかったからいってよ! 絶対……絶対三日後には許さないから……」
 我慢出来ずジルへ理不尽な怒りをぶつける。
 傷を負わされたから正当な怒りのはずなのだが、エールの感情はそこからきたものではない。
 もっとも許せないこと。それはエリファスがどうあっても悲しんでしまうことだ。
「エールさん……」
 ジルはただ一言、感謝するようにつぶやいてエールに礼をいい、走って視界から消えた。
 いつの間にか、地面にはサソードヤイバーが放置されている。
『エール、大丈夫?』
 モデルXが心配そうに声をかけるが、エールは頷き返すので精一杯だ。
 頭がごちゃごちゃして考えがまとまらない。
「モデルX、モデルZ。このことは誰にも話さないで……」
『エール……』
376ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 20:56:14 ID:n656iJB9
「お願い。アタシも……三日だけ整理する時間が欲しい」
 エールの悲痛な願いは、モデルZの言葉を失わせる。
 地面に置かれたサソードヤイバーを回収し、エールは人気のない大通りから離れた。



 ガーディアンの拠点へと戻ったエールは、心配してくれた仲間に謝罪して回った。
 探索チームのみんなはエールが無事であることに喜び、あっさりと許す。
 気持ちのいい彼らの態度が、今のエールには痛かった。一匹ワームを逃がしたのだ。
 独断専行の上、自分の都合で危険な可能性を放置した。冷静になればどう考えてもエールに非がある。
 それでもどうしても、エールにはジルを殺せなかった。
「サソードは使えそうか?」
「天道……」
 エールは姿を見せた青年の名前をつぶやく。いつもの余裕を見せた態度で尋ねてきた。
 サソードヤイバーを奪ったことを天道に報告したときに、彼自身からもう一匹ワームが存在していることを伝えられた。
 伝えられた当初エールは動揺したのだが、天道はワームがもう一匹いる事実に驚いている、と解釈してくれたようだ。
 騙しているみたいで、エールの罪悪感が増している。
「うん、サソードゼクターは自分の意思を取り戻した。モデルXと一緒に使えば、ドレイクゼクターのように戦えると思う」
「そうか」
 天道が頷いて微笑む。妙な反応だ、とエールは思ったがなにも言えない。
 ふと、脳裏にジルの姿が浮かぶ。ワームについては天道はプロフェッショナルといってもいい。
 一つ尋ねてみることにした。
「天道、一つ聞いてもいい?」
「なんだ? いってみろ」
「もしも……もしもだよ? ワームが擬態して記憶やその人のすべてをコピーして……心までコピーしたとしたらどうする?」
 エールは天道の顔を見上げて、真剣な眼差しを向けた。
 天道の表情は相変わらず。冷静なまま彼は口を開いた。
「倒す」
 天道は短く断言する。そこに迷いも淀みもなく、ハッキリと。
 エールは少しだけ納得がいかなかった。理屈ではない。感情がだ。
「その人に大切な人がいて、前と変わらない生活をしていても?」
「当然だ。擬態された人間も、その周りの大切な人たちも……なによりワームにとってもそれ以外救う手段はない」
「どうして?」
 エールの問いに、天道はどこか遠くを見つめた。
 なにか後悔するような、なにか失ったようなそんな表情だ。

「エール、死んだ人間は生き返らない。決してな」

 それ以上、天道がなにか喋ることはなかった。
 エールにはまだ理解出来ない。天道が伝えたかったことも、彼が味わった過去も、なにもかも。
 なにより、このときの天道はエールにはなにも知らないままでいて欲しい、と願っていた。
 

 ワームがまだ残っている、ということで調査は続行された。
 殺人事件は起きていないものの、いまだ事件は未解決扱いだ。
 エールも街に繰り出し、ガーディアンとして調査を続ける。
 商店街の通りを歩いて、事件について訪ねようとしたとき背中から声をかけられた。
「エールちゃん、やっほー!」
「エリファスさん」
 白い服に柔らかい金髪のショートカット。車椅子で生活する女性。間違えようもない。エリファスだ。
377ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 20:57:32 ID:n656iJB9
 エールは今はもっとも会いたくない相手に会ってしまった。
 事情はどうあれ、エールは彼女の大切な息子を殺すことには変りない。
 殺す、と思考した瞬間胸がチクリと痛んだ。エリファスの車椅子がエールの傍に寄り、顔を覗きこむ。
「エールちゃん、もしかして具合が悪い?」
「え? そんなことはないよ」
「そう? 顔色悪いわよ。どこか痛いなら無理せずいって」
 エリファスの気づかいに返事をする。エリファスは心配そうに体調を尋ねるが、真実を教えるわけにはいかない。
 もしも、『あなたの息子は怪物に姿も記憶も真似されて、とっくの昔に死んでいる』などと言っても信じてもらえるはずがない。
 それだけでなく、万が一真実を知った彼女がどれほど傷つくか。エールはとても怖かった。
 嘘ですませることができるのなら、それがいいときもある。
 そう割り切るにはまだエールは若かった。
「あの、エリファスさん……」
「はい、エールちゃん。どうしたの?」
 エールがゴクリとつばを飲み込む。舌を湿らせて、どうにか言葉をひねり出した。
 胸の鼓動がうるさい。それでも聞かねばならなかった。
「もしも……もしも、メカニロイドが死んだ大切なヒトのデータをすべてコピーして現れたら、そのメカニロイドは大切なヒトだと思う?」
 奇妙な質問だとは自覚している。これ以外例え方を知らない。
 エリファスは黙り込んでいる。エールの質問を理解しかねているのだろうか。
 それもしょうがない。
「ごめん、唐突すぎた。これは忘れて」
「……そんなことはないわよ。エールちゃんが真剣だから、ちょっと考え込んだだけ。
そうねぇ、私はやっぱりそのメカニロイドと大切なヒトは違うと思うわ。死んだヒトは生き返らないもの」
 エリファスは柔らかく微笑みながら、エールに答えた。
 天道と似た結論にエールは意外に思う。
「……心をコピーしても?」
「ええ。だってかわいそうじゃない」
「かわい……そう?」
 エリファスはエールに頷く。
 エールにはジルと彼女の関係が重なるため、かわいそうという一言が不意打ちであった。
「『コピーしちゃったメカニロイド』は決して死んだヒトにはなれない。だから、それを大切なヒトの生き返りだって思ったら、ずっとそのメカニロイドは自分になれないのよ。かわいそうだわ」
 エリファスの答えにエールは目を見開く。優しい彼女らしい答えだった。だからこそ辛い。
 彼女ならきっと、ジルでなく怪物だと彼が告白しても受け入れそうだからだ。
 エールはその可能性を摘みとる。今、なにが正しいのかエールにはわからなかった。



 結局、三日の時間はエールに答えを与えなかった。
 ポツポツと小雨が振り、空は厚い雲で覆われている。
 昼なのに薄暗く、不吉な予感しかない空だった。
『エール……』
「大丈夫、モデルX。…………覚悟はできている」
 エールはつぶやいて、店の自動ドアをくぐって中へ入っていった。
 ここにジルがいるはずだった。できればエリファスは留守であって欲しいと願う。
 暗い店内へと足を踏み入れ、エールは軽く眉をひそめる。
 人の気配がしない。
『やられたか』
「そんなはずはない! だって、あのときの目は……」
『あいつの目を見れたのか?』
 モデルZが鋭く尋ねる。エールは言葉を失って目を伏せた。
 知りあいがワームだった。その事実に混乱し、言葉の真偽を確かめるのを怠ったのではないか。
378ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 20:58:24 ID:n656iJB9
 エール自身もそう思っていた。
『そう結論をつけるのは早いと思う。とりあえず店内を捜索しよう』
 モデルXが間を取り持ち、エールもモデルZも黙る。
 別にモデルZは怒っているわけではない。単に冷静なだけだ。
 多少動揺しているエールが店内を回ろうとした瞬間、通信機が鳴った。
「プレリー?」
『エール、まずいことになったわ。郊外にイレギュラーの反応を多数確認したの』
「まさか……ッ!」
 エールは歯を食いしばる。もしかして、ジルの姿を奪ったワームがイレギュラーを指揮しているのではないか。
 エールに自分を責める自虐の感情が芽生える。

 ―― メットールをマスコットにした遊園地が炎によって赤い色に染め上がる。
 ―― ヒトビトの悲鳴が上がり、人ごみの中、小さなエールは母親の手を握っていた。
 ―― イレギュラーの群れの銃弾で建物が破壊される。
 ―― エールを安心させようと振り向いた母親の後ろに、イレギュラーが現れて……。

 あのとき同じことが起きるかもしれない。そう思うと、エールは居ても立ってもいられなかった。
 エールは店をとびでて、モデルXとモデルZの力で赤い装甲のロックマンZXへと変身していた。
 

 人の名前を刻んだ墓石をいくつも通り過ぎて、天道は目的の人物へと接触する。
 天道が独自に調査を続けていると、ある事実が発覚したのだ。
 だから、彼女が重要人物となり、問いただすことを決めた。
「突然すまない。あなたに尋ねたいことがある」
「あなたはエールちゃんを迎えに来た……」
「天道総司だ」
 天道は簡潔に告げると、喪服を着たままのエリファスへ身体を向けた。
 車椅子の彼女は花を墓へと添えている。この墓はあの殺人事件で身元がわからなかった者を収めているはずだ。
「……誰か知り合いが?」
「ええ。私の息子が」
 エリファスの答えに天道は僅かに眉を動かす。
 小雨が降ってきて、風が街路樹の葉を揺らした。
 


 様々な種類のガレオンやメカニロイドが集まったのを見届け、プロメテはイライラした様子で歩きまわる。
 合流する予定のワームがいまだにこないのだ。
 先に到着したはずのマスクド・ライダーに選ばれし男。黒崎一誠も姿を見せない。
 岩が露出し、小雨で濡れていくのを見届けてプロメテは苛立たしげに岩を砕く。
「まだか! まったく……」
 プロメテはモデルVに絶望や恐怖の感情を与えるための今回の作戦に興味がない。
 持ってきた戦力をワームに任せて、さっさと引継ぎを終わらせたいのだ。
 エールと戦えるのは少し魅力的だが、まだ彼女に死んでは困る。
 楽しすぎてくびり殺さないようにするのは難しい。
 危ない思考を続けるプロメテは人の気配を感じて頭を上げる。
 現れた存在からは普通でない雰囲気が漂っていた。
「キサマがここに派遣されたワームか?」
「……ええ」
 プロメテはフン、と鼻を鳴らす。柔和な顔に黒ぶちメガネ。金髪の優男を擬態先に選ぶとは、よくわからないワームだ。
 強者だとは聞いていたが、本当か怪しいものである。
「まあいい。さっさと……」
379ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 20:59:40 ID:n656iJB9
 プロメテがイレギュラーの群れを押しつけようとした瞬間、嫌な予感がして地面を蹴る。
 プロメテが消えた場所へ巨大な岩をスズムシを模したワーム、ベルクリケタスワームが投げ飛ばしていた。
 岩はプロメテに掠りもしなかったが、ガレオンを十数体まとめて潰す。
「どういうつもりだ?」
「……見ての通りだ。ここから先は一歩も通さない!」
「虫けらがヒトの真似事か?」
 プロメテが苛立たしげに大鎌を振るう。同時にイレギュラーたちもあのワームを敵と認めたようだった。
 一斉砲撃がワームを狙う。クロックアップはクロックダウンチップを装備したプロメテの前では無意味。
 されど、イレギュラーの砲撃はすべてワームに当たることはなかった。
 ワームは冷静にすべての弾道を見極めて、針の隙間を通すように僅かな合間へと身体を押し込み、前へ前へと進んでいく。
「ほう」
 プロメテは目の前のワームの戦闘力の高さに感心する。
 今まではスペックを笠に着て、戦闘そのものは素人同然の連中が多かった。
 イレギュラーの損傷が二割を超えたとき、プロメテの口角が釣り上がる。
「少しは楽しめそうだなぁ!」
 プロメテの不機嫌はどこへいったのか。楽しげに笑いながら、大鎌をワームへと振るう。
 風が唸り、鎌の刃を迫らせてプロメテは大きく笑った。
 

 それは二日前のことだった。
 ジルは白い店内に存在する花たちに手入れをして、綺麗に見えるように整えていく。
 すべての作業を丁寧に行い、業者に渡す商品を準備した。
 淡々と仕事をしていると、店の自動ドアが開いて客が入ってきたことを知らせる。
 ジルは無理やり笑顔を浮かべて、客の訪問を歓迎した。
「いらっしゃいませ!」
「どうも」
「黒崎さん……」
 白いスーツに白い帽子を被った、筋骨隆々の大男が現れる。
 彼は店内の青いバラを手にとり、満足そうに頷いていた。
「我々のもとに戻る決心はつきましたか?」
「…………すみません」
「そうですか。残念です」
 ジルは戻らない、と言外に告げる。黒崎は言葉通り残念そうに青いバラを愛でていた。
「強く、綺麗なバラを育てる。そんなアナタには生きていて欲しかったのですが」
「サソードすら彼女たちに渡した。僕は裏切り者だ。生かす必要はない、ということですよね?」
 ジルが黒崎に向けて構える。顔には緊張が走っていた。
 だが、意外にも黒崎は行動を起こさない。
「我々のこの街での目的は知っていますね?」
「ええ。それを聞いて……」
 まだ死ねないとエールに告げた。その言葉を飲み込んで、ジルは黒崎と目をあわせる。
 黒崎は不思議そうにジルを見つめていた。
「ならば覚悟は出来ていることでしょう。私はアナタを殺す気がありません」
「見逃してくれるのですか?」
「アナタしだいです。それでは」
 黒崎はそう言って、店から離れていった。ジルの育てた青いバラは彼のお気に入りである。
 逆に言えば、彼が今までジルを見逃してきたのもそれだけだ。
 いつ殺されても不思議ではない。ジルはただ、唇をかみしめた。
 

 調査を続けているうちに、天道は毎夜ある男の目撃証言があったことに気づいた。
380ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 21:01:07 ID:n656iJB9
 周囲が気にもとめなかったのは、彼が殺人を犯すには不可能の距離で目撃されていたからだ。
 クロックアップを使えば、アリバイなど意味をなさない。
 ゆえに天道は殺人の夜、毎回外出していたジルへとあたりをつけたのだった。
「いつから知った?」
「最初からですよ」
 エリファスはそう言って、花束を整える。
 墓はとても綺麗で、彼女が何度もここへ来たことがわかった。
「…………同じ姿をしていても、同じ記憶を持っていても、わかってしまったのです。あの子はもう……生きてはいないのだと。親って難儀ですね」
「……復讐か?」
「最初はそうでした」
 天道の問いに、エリファスは淡々と答えていく。
 エールへと向けた笑顔は、今は力を失っているように見えた。
「ジルは……この子はすべてを奪われてここに眠ってしまっている。ジルの成長は私にとって生きがいでした。
だから、いつかあの子を……もう一人のジルを殺すために私は騙された振りを続けたのです」
「……結局、殺せなかったんだな」
「ええ。憎くて憎くてしょうがなかった。ジルじゃないのに、ジルの振りを続けるあの子に私は怒りをいだいていた。いえ、抱こうとしたの。
そうでないとこの子が悲しむと思って」
 天道は無言だった。ワームの擬態は様々な事態を起こす。
 彼女の身に起こったことは一番救いがなく、一番多く起こっていた出来事であった。
「けどね、楽しかったの」
「……それはあなたの息子じゃない」
「わかっている。わかっているけど……あの子は私を愛してくれた。ジルが残した店を一生懸命切り盛りして、ジル以上に私のこの身体に気を遣った。
……なんででしょうね。あの子が本気で私を母親として慕ってくれていることに気づいてしまったの。
ジル以上にジルらしく振舞おうとした。決して私にジルの喪失を気づかせないように努力していた。
そのすべてが……とても愛しかった……」
「だが、奴は同じことを繰り返した」
「ええ。あの子はジルにしたように、ヒトをまた殺してしまった。私は……あの子を信じた自分が馬鹿なのか考えたわ。
だけど私にあの子を殺すことは出来ない。だって……部屋を覗いたら、見てしまったの…………」
 彼女は一旦言葉を区切り、思い出すように目を細めた。
 天道はだいたい想像ついたが黙っている。
 その行為は“心を持ったワーム”ならば全員がとるものであったからだ。

「あの子は自殺しようとして、それが叶わないで泣いていた」

 天道は「そうか」とだけ答えて彼女を見つめた。気丈な女性だ。
 すべてを許すというのだろう。天道自身は…………。
「あなた、ジルを殺しにきたのでしょう?」
「殺す以外に彼に救いはない」
「わかっていた。いつか終りがくるって……」
 エリファスは花を整えて、天道に微笑む。
 天道は無表情のまま、彼女に問うことにした。
「一つ聞かせて欲しい。あなたにとって、あのワームは息子なのか?」
「ええ。かけがえのない、ジルと同じく私の息子よ。たとえ罪を贖わないといけないのだとしても……」
 エリファスの微笑みが天道には眩しい。彼女は本気で、ワームとしての彼を愛したのだ。
 それでもワームは殺さねばならない。たとえ彼女を不幸にしても。
 天の道は辛く険しい。だからこそ天道総司が往くのであった。
381ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 21:03:12 ID:n656iJB9



 エールが郊外のエリアに踏み込み、周囲を見渡した。
 今のエールは赤いアーマーを見にまとい、緑のクリスタルが額に存在している。
 普段は黒いエールの髪が金に染まり、マフラーのように風になびいていた。
 ロックマンZXとなったエールは敵の攻撃を想定して構えていたもの、視界に入ったものに驚く。
「イレギュラーの残骸……?」
『戦闘の跡だと? 天道が来たのか』
「わからない。先を進んで確かめる!」
 疑問を口にするモデルZへ答え、エールは地面を蹴った。
 エールは風を切って進むも、イレギュラーに襲われる気配は皆無だ。
 目に映るのは残骸ばかり。エールの疑問が深まるが、足をとめる。
 白い三角状のヘルメット。紫色のアーマー。死神のような大鎌。
 振り向き凶悪な笑みを浮かべるそいつを、エールはよく知っていた。
「プロメテ……!」
「遅かったな。モデルZXのロックマン」
 プロメテはそう言って、右手に握っていた虫の羽らしきパーツをエールに投げつける。
 エールの四肢を麻痺させた、催眠音波を発していた部分である。
 エールが視線を移動させると、プロメテの足元には全身に切り傷を負ったベルクリケタスワームがいた。
「エール……さん……?」
「まさかワームを手懐けるとは思わなかったぞ。毎回俺を楽しませてくれる。こいつのせいであの街を襲う計画がパーだ」
 ワームの羽がエールの胸にぶつかり、はらはらと地面に落ちた。
 それはどこか、花びらが落ちるのに似ている。ジロリとエールはプロメテを睨みつけた。
「…………ジルさんを離して」
「虫けらを庇うのか? 滑稽な話だ。こいつらはどの道、ヒトを殺さないと生きていけない種族というのに」
 プロメテの言葉にベルクリケタスワームがうなだれた。
 それでもエールは一歩踏み出す。たしかにエールは彼を殺そうとした。
 だからといって、プロメテに踏み潰されたままの彼を放っておくわけにはいかない。
 理屈じゃないのだ。あくまで感情でエールは動く。
 ZXセイバーの柄が変形して銃となる。エネルギーをチャージ終えた銃口が、人一人分の大きさの光弾を吐き出す。
 ジルを開放し宙に浮かんだプロメテを睨んで、エールは宣言した。
「聞こえなかった? アタシは離して、っていったのよ」
「クックック……いいぜ。ちょうどストレスが溜まっていたところだ。相手してもらうぞ!」
 プロメテがハイになり、大鎌を振り上げた。
 エールはZXセイバーを構えて迎え討つ。
 二人が同時に距離を縮めたとき、エールの耳に『One,two,three』と聞き慣れた電子音が響いた。
「ライダー……キック」
 稲妻の如く、カブトが落下して地面にクレーターができる。
 プロメテは飛び退いて舌打ちをしていた。エールはカブトの背を視界に入れて、彼の乱入に驚く。
「天道……」
「無事か?」
 カブトの問いにエールは頷いて無事を示す。プロメテが襲ってくると身構えるが、彼は宙に浮いているだけだ。
 不機嫌そうに鼻を鳴らし、離れていく。
「逃げるの!?」
「見逃してやるだけだ。それに三対一は趣味じゃない。モデルVの生贄に都合がいい場所はまだまだ多いしな」
「なら一つだけ聞かせて! モデルV……もう一つあったの?」
 エールの疑問はもっともだ。セルパンカンパニーに保存されたモデルVは破壊したはずだ。
 あの象のフォルスロイド、ビッグドンの『モデルVへの生贄を作る』という任務から不思議に思っていたのだ。
 そのエールにプロメテは馬鹿にしたように嘲笑した。
382ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 21:04:08 ID:n656iJB9
「もしかしてお前、あのモデルVですべてが終りだと思っていたのか?」
「どういう……こと!」
「あれで終わるわけがないだろう。あれはただの始まりだ。お前はしょせん、この腐れたロックマン同士の争いの駒なんだよ!」
 プロメテは狂ったように笑い、カブトの銃撃を避け続ける。
 エールを見下ろすプロメテは本当に愉快そうだった。
「さあ、ここまではいあがってこい。お前には選択肢はないのだからな……」
 そう言って、プロメテの姿が消える。簡易転送装置だろう。
 反応の探索はプレリーに任せるしかない。エールは歯を食いしばる。
 ビッグドンの言葉から薄々は気づいていた。覚悟もしていたはずなのに、プロメテが肯定するだけでモデルVへの恐怖が蘇りそうだった。
 エールは頭を振り、決意に満ちた瞳をプロメテが消えた先へと向ける。
「絶対にまた、アタシが止める」
 エールのつぶやきは黒い雲に吸い込まれて消える。
 モデルVとの因縁はエールが強い。こればかりはカブトに任せるわけにはいかなかった。
 守るためのロックマン。それこそが彼女を支えるものであったのだから。
 

 周囲にイレギュラーの反応はない。本当にジルがすべてを破壊したようだった。
 エールが視線をおろすと、傷付いた身体で立ち上がろうとするベルクリケタスワームの姿がある。
 エールは少しだけ思考して、迷いを振り切るように駆け寄った。
「大丈夫? ジルさん」
「エールさん。なにを……」
「いいから掴まって。そのケガじゃまともに動けないでしょう? 手当てしないと死んじゃうよ」
 困惑するワームに構わず、エールは彼を助け起こした。まだエール自身の感情も整理がついてはいない。
 だが、ベルクリケタスワームは街を守ったのだ。 
 確かにエールを襲ったのが、プロメテの言う通り『ヒトを殺さないと生きていけない種族』としての本能なのかもしれない。
 それでも街を守った分は報われるべきだ。少なくともエールはそう思った。

 ―― だからだろう。彼女は天道総司も、賛成してくれるのだと勘違いをしたのは。

 エールはワームに肩を貸して、ふとカブトへ視線を向ける。
 彼はただ佇んでいた。エールは怒ったように彼に言う。
「天道、つったっていないで手伝ってよ」
「…………エール。なんのつもりだ?」
「ジルさんを手当するんだってば。結構重いんだか……」
 エールの言葉を中断させるように、風の如くカブトは一瞬で通り過ぎる。
 カブトのふりあげた拳がワームへ直撃し、砲丸のようにワームは吹き飛んでいく。
 エールは軽くなった肩と、拳を振り下ろした体勢のカブトと、地面にたたきつけられるワームの姿を目撃した。
 思わず声を荒らげてカブトへ詰め寄る。
「天道! いきなりなにをするの!?」
「それはこちらの台詞だ、エール」
 カブトはエールを見もせず、クナイガンを片手に数歩進んだ。
 エールの背筋がゾクッとする。カブトはこんなにも、怖く見える存在だっただろうか。

「すべてのワームは俺が殺す。たとえそれが……人の心を持っていたとしても」

 まったく感情のこもらない、殺人機械のような声。
 エールが始めて見る冷徹なカブトの姿。
 すべてがトゲトゲしく、エールすらも否定してワームへと距離を縮めていった。
 
383ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 21:06:04 ID:n656iJB9
「天道、待って!」
 エールは思わず、天道とワームの間に身体を割り込ませた。
 正面から向けられる、カブトからの絶対零度の視線にエールは耐える。
『エール、これは天道が正しい』
「わかっている!」
 エールはモデルZの言葉に叫んで答えた。そうでもしなければ、自分の行為を肯定しきれる自信がなかったのだ。
「わかっているならそこを退け、エール」
「……だって、ジルさんは街を守ったんだよ! あんなにボロボロになって……」
「そいつが擬態したジルの心がそうしただけだ。ワームである以上、その守った街を破壊する運命にある。
ならばその前に殺してやることこそ、そいつに擬態されたジルを救うことになる」
「そんなのおかしいよ! 殺すのがジルさんを救うことになるって……ここにジルさんの心があるのに……」
「それは違うよ、エールさん……」
 エールの叫びの否定は、後ろのワームから持ち出された。エールは首だけを回して後ろを見る。
「これはジルの心じゃない。あくまでワームである僕の想いなんだ。……彼に殺されたいと思うのも含めてね」
「だったらなおさらおかしいよ! 自分の意志で誰かを守った結果が死ぬことなんて……」
 エールの想いの吐露に、ワームへジルの姿が重なった。最初に会ったときと変わらない、柔らかい笑みのジルがそこにいる。
「ありがとう、エールさん。僕はその言葉だけで救われる。だからもう、いいんだ。君が僕を庇う必要はない」
「…………覚悟は出来ているな?」
 カブトの確認の言葉にワームが頷く。こんどこそエールの制止を無視して、カブトの拳がワームを吹き飛ばした。
 それでも倒れることはないワームに、カブトは胸へ次々とつるべ打ちをする。
 エールの前でカブトの猛攻は容赦がなかった。
 カブトのクナイガンがワームの左手を跳ね飛ばしたとき、エールの身体が反応する。
 そのエールをモデルZの鋭い声が止めた。
『エール、止めるな』
「でも……でも……」
『でも、なんだ?』
「……これでいいの? アタシは……アタシは……」
『…………エール、もう一度いってやる。“そのまま”で天道を止めようとするな』
 含みのある言い方に、エールはモデルZと目を合わせる。
 モデルZは冷静に、淡々と悟すように言葉を続けた。
『今あいつを助けるのは、ジルが持った覚悟も、天道が汚れ役を引き受けたことも否定することだ。
それを否定するなら、まずはお前の中の納得いかない感情を理解しろ。そして理解してあいつらが受けた汚れをお前が行うと覚悟するなら止めろ』
「モデルZ……」
 エールは目をつぶり、なぜ自分がここまで二人の争いに拒否反応を示すか思考をする。
 自分の感情の出所を探っていると、微笑む女性の姿があった。
 彼女のことはジルは納得して逝くのだろう。なぜかエールにはそれが腹立たしい。
 そうだ、ジルは彼女にまだなにもいっていない。なにも確かめていない。
 逃げるような行為にエールは腹がたってくる。
(そうか……)
 エールの脳裏に十一年前のイレギュラーの襲撃事件を思い出す。
 幼いエールは母親になにも伝えられない。なにも想いを確かめられない。
 だからこそ、エールにできないことがまだできるジルに、その可能性を摘み取る天道に納得がいかなかった。
「力を貸して、モデルX、モデルZ!」
『……決まったか』
『わかっていたよ。いこう、エール』
 エールは大きく頷いてロックマン特有の高速移動方法、ダッシュを繰り出した。
 

 雨が強くなり、水滴がカブトやワームの体表に跳ねていく。
 ビチャビチャと水たまりを踏み進むカブトの蒼い瞳が、ワームを捉えた。
384ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 21:07:33 ID:n656iJB9
 右手がカブトゼクターのボタンを押し、カウントダウンを告げる。
「終りだ、最後に言い残すことはあるか?」
「……いえ」
 ワームの答えにカブトは無反応。ゼクターホーンを操作して、タキオン粒子のエネルギーを足へ送る。
「ライダーキッ……!?」
 左足を軸にハイキックを決めようとしたカブトに、割って入った赤い影が剣を振るった。
 ライダーキックの衝撃と、チャージセイバーの衝撃波がぶつかる。
「エール!? くっ!」
 カブトは足の軌道を微修正し、チャージセイバーの衝撃だけを中和した。
 威力を削るためにライダーキックの力は失われる。もう一度チャージをしなければならない。
 もっとも、重大なのはそういうことじゃない。
 カブトはエールを睨みつけた。
「もう一度いうぞ。なんのつもりだ?」
「エールさん。僕はもう……」
 カブトからエールへ、始めて殺気が向けられる。肌がピリピリ粟立って震える一歩手前だ。
 ジルからはエールへ、懇願するような言葉を向けられる。
 それらすべてに、エールは歯を食いしばって叫んだ。

「うるさい!!」

 エールの怒声がジルとカブトを貫いた。呆気に取られている二人を前にして、エールはジルの胸ぐらをつかむ。
「まだ、ジルさんにはやることが残っている。エリファスさんに……あなたのお母さんになにも告げていないじゃない!」
「けど……僕は……」
「ワームだから? 息子を奪ってしまったから? そんな理由でエリファスさんを一人にして、そのことも謝罪しないで一人で死ぬなんてただの逃げよ!
アタシは認めない。エリファスさんにすべてを話して、それでも死にたいっていうならアタシが殺してあげる。だから、エリファスさんに会うまでは生きて!」
 ポカン、とするジルを前にエールは一気にまくし立てた。メチャクチャな理屈をいっているのはわかる。母親と慕った相手を絶望させたくないというジルの優しさもわかる。
 だけど、エールの脳裏に浮かぶ光景は変わらないのだ。

 ―― メットールをマスコットにした遊園地が炎によって赤い色に染め上がる。
 ―― ヒトビトの悲鳴が上がり、人ごみの中、小さなエールは母親の手を握っていた。
 ―― イレギュラーの群れの銃弾で建物が破壊される。
 ―― エールを安心させようと振り向いた母親の後ろに、イレギュラーが現れて……。

 エールは決着をつけられない辛さを知っている。ジルをこのまま死なせては、エリファスは一生息子の死と向き合う機会がなくなってしまう。
 だからこそ、大切な人間に消える理由も、いなくならねばならない理由も告げず一人にする彼が許せなかった。
「天道、あなたは確かに正しい。だけど、アタシも決めているの。皆を……心も含めて守る。そのためにロックマンになった!
アタシはジルさんに、エリファスさんの心を救わせるまで……彼を死なせない!」
「そうか、ならば俺も言わせてもらおう。エール、お前は優しい。だが、俺は決めた。天の道を往き総てを司るとな。
ゆえにその男が大切なヒトを己の手で殺す前に……俺が殺す」
 カブトがクナイガンを構えて腰を落とす。エールもまた、ZXセイバーを起動して構えた。
 パラパラとふる小雨が、ZXセイバーのエネルギーの刃に触れて蒸発する。
 地面を踏み込み、水が跳ね上がる。エールは剣を横薙ぎに振るいながら接近を開始した。
 

 キィン、と甲高い金属音が轟いた。エールは衝撃に身を任せ、後方に跳躍するがカブトを振り切れない。
 右や左、上や下、斜めに刺突と自由自在に変化する斬撃を、ZXセイバーで迎撃する。
 二、三撃防ぎきれず、エールの左腕から血が吹き出した。ガーディアンベースで治療したのが無駄になったようだ。
(強い……)
 カブトの攻撃は無駄がなく、息をつく暇もない。
 さらに斬撃だけでなく、拳や蹴り、投げにも注意しないとエールは一瞬で意識を奪われるだろう。
385ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 21:08:42 ID:n656iJB9
 そうなればカブトはジルを殺す。エールはギリッ、と奥歯を食いしばり踏ん張った。
 防戦一方ではいずれ倒される。エールはカブトのクナイガンの軌道だけに集中する。
(一撃……一撃だけ迎撃すれば、あとはチャージショットを叩き込める!)
 すでにバスターのチャージは終えていた。隙を生み出すためにどうしても一撃だけ逸らす必要がある。
 だが、カブトの斬撃は速いだけではなく重い。一撃一撃が腕をもぎかねない威力だった。
 バスターはともかく、セイバーまでチャージする暇などない。下手に仕掛ければ、カブトから手痛いカウンターを受けるだろう。
 ふと、他の形態ならどうだろうかと考えて、エールは切り捨てる。
 ドレイクを使った形態では攻撃を受けとめきれない。サソードを使った形態にエールはまだ不慣れだ。
 唯一対抗できる可能性があるのは、ロックマンZXの形態だけ。クロックアップを使わないことを祈る他にない。
 そう思考を進めていたエールの前で、カブトが力を溜める。今が攻めどきかどうか、エールには判断がつかない。
『突っ込め、エール!』
 モデルZのアドバイスに反応して、エールは直進してセイバーを振るう。
 胸を強打されてカブトが体勢を崩した。いまだ。
「当たれぇ!!」
 人ほどの大きさの青いエネルギー弾がカブトを襲う。選けきれないはずだ。
『Clock up』
 しかし、光弾はカブトを撃たない。切り札を使われてしまった。
 エールはすぐさまクロックアップ対策にドレイクゼクターを取り出したが、掴んでいた右手に衝撃が走った。
「つっ!?」
 ドレイクゼクターを取りこぼし、さらにエールの右脇腹が強打されて短くうめく。
 続いて胸元へ蹴りの感触が走り後ろへと一直線に飛ぶ。
 一瞬の間もおかず、今度は背中を思いっきり殴打され宙へ浮かんだ。
『Clock over』
 ようやく地獄は終りだ、と思ったエールの視界にカブトがゼクターホーンに手をかけている姿が映る。
 ライダーキックを受ければエールは一溜まりもない。
 カブトのことだから手加減はするだろうが、少なくともこの場は気絶する。
 エールがZXセイバーを構えるが焼け石に水だ。ジルがエールの名を呼んで立ち上がったが、傷の痛みに耐えられなかったのかすぐ倒れる。
「お前が力を貸すとはな、モデルZ」
『エールの判断は正しいとは思っていない。だが、正しいことよりも重要なことがある』
「確かにな。だが、これで終りだ。ライダー……キック」
 カブトのつぶやきにエールは覚悟する。せめて意識だけは手放さないよう全身に力を込めた。
 その場全員が決着をついたと思ったとき、電子音は雨が降る音をかき消して届いた。
『Rider beat』
 黄金の人影がエールとカブトの間に割って入り、空中で飛び蹴りの体勢をとるカブトへと拳を振るう。
 ライダーキックと、その拳が拮抗して衝撃波がエールを吹き飛ばした。
 衝撃波の影響を受けながらも空中でどうにか体勢を整えて、エールは着地する。
「う…………そ……!?」
「どういうつもりだ?」
 エールの驚愕の声と、カブトのあくまで冷静な声の前に立つ男。
 金色の仮面ライダー、コーカサスは青いバラを掲げて登場した。
「ロックマンの少女、ジルを連れるなら今のうちに行いなさい」
「どうし……って、今はそんなことを聞いている場合じゃない。じゃあ、お願い……」
「頭のいい娘ですね。嫌いではありませんよ」
 コーカサスがそう好意を示すが、エールは無視した。
 背中を襲われないか警戒しながらもジルへ近づく。
 なぜコーカサスが手助けをするのかわからなかったが、ジルを連れ出すのは今この瞬間をおいて他にない。
 エールがジルの肩を担いだとき、周囲を衝撃音がほとばしる。
 エールはとにかく、ジルを連れてその場を離れた。
 
386ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 21:10:03 ID:n656iJB9
 カブトはコーカサスの謎の行為に眉をしかめて組み付く。
 ギリギリと力でコーカサスは無理やりカブトを締め上げた。
「なぜあのワームを救った」
「なに。アナタがあの少女に肩入れするように、美しく強いバラを育てる彼に肩入れをしただけですよ。
死に場所を選ばせてあげるくらいはいいでしょう」
 そう言って二人は蹴りをぶつけ合い、距離をとる。
 カブトのクナイガンを前にコーカサスは構えた。
「それにしてもアナタも甘い。ワームと戦うのならいずれ出会う障害です。なのに、彼女に恨まれてでも汚れ役を引き受けるとは」
「……エールは優しい。ワームと戦う上で避けられないというのなら、俺が背負えばいい。ただそれだけだ」
 カブトの脳裏に自分が始めて心のあるワームを殺した光景を思い出した。
 自分の名を呼び、殺してと懇願する大切な存在。
 織田が天道の瞳に闇を見つけた理由は……。
「過保護ですね」
「おばあちゃんが言っていた。俺はすべての兄になるべき存在だと」
「ならば、あの妹を守ってみることです。天道総司」
 コーカサスは静かに告げて、筋肉をふくらませた。
 知らず二人は殺気だけを乗せて、降りしきる雨の中ぶつかり合う。
 甲高い金属音だけが、荒野になんども轟いた。



 息も荒く、互いの息づかいが聞こえる中二人は雨で濡れる道をただ進んでいった。
 やがて、無言だったジルが口を開く。エールが傷に障ると忠告するが聞く様子がない。
「エールさん……僕を殺してくださ……」
「もう一度いったら殴るよ!」
 ジルは困ったように笑い、エールは必死で足を動かす。
 ドレイクを使おうか迷ったが、ジルのケガが怖い。
「……僕は人間を見下していた。ワームはもっとも優れて、他の生物を下すべき存在だって」
「今は違うんでしょう?」
「……よくわからない。ジルを殺してなり変わったのはただの気まぐれだったよ。ヒトがたまに口にする愛。それはいったいなんなのか興味を持った。
だって、記憶の中のジルは母さんと共にいて、とても……とても幸せそうだった」
 ジルの顔をエールは覗き込むと、彼の視線には羨望と優しさが混ざっていた。
 ワームだとしても、心を持てばこんな表情ができる。いったいワームとはなんなのか、エールは疑問を持った。
「僕はジルが羨ましかった。最初は自分の感情に気づかなかったけど……今ならわかる。僕は羨ましかったんだ。
だから最初は母さんに対してジルの真似をして、喜ぶことに優越感を感じていた。最低だろう?」
「だから殺して欲しいの?」
「…………そうだね。僕は怖いんだ。だから殺して欲しい。母さんに僕の正体を知られることも、母さんを騙していたことも、母さんに恨まれることも、母さんにジルを殺したことを責められるのも、とても向き合える気がしない。
自業自得さ。あの日ジルを殺しさえしなければって、なんども思った。もう取り返せない過去なんだ。
だからお願いだ。エールさん、母さんに僕の醜いところをみられる前に、いっそ……」
「ジルさん、それはあなたのワガママだって理解しているでしょう?」
「ああ、そうだ。僕のエゴさ」
「だったら――アタシだってアタシのワガママでジルさんに打ち明けてもらう。苦しんでもらう。
……それに怖いのはそれだけじゃないでしょう? ジルさん、そんなにエリファスさんを殺すかもしれないことが怖い?」
 ジルは目線をエールへ向けた。やがてフッとワームの顔のまま息を吐き出し、続きを紡ぐ。
「……どういう意味でいっているのかな?」
「今まで殺人を二度続け、アタシを襲った。けどその後すぐアタシを殺さず、むしろ助けようとした。
プロメテが言っていたことも聞いている。ワームは……ヒトを殺し続けないといけないの?」
「……日常生活を送るのには支障はなかった。だけど、闘争心が高まると我を忘れてしまうんだ。
そうさ、僕は母さんを殺してしまうことが一番怖い。母さんを手にかけてしまえば――自分の手で自分を殺す手段のない僕は生きて地獄味わう。
そんなのは耐えられない! 耐えたくない!」
387ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 21:11:22 ID:n656iJB9
 ジルの感情の吐露がエールに届く。エールはただ、表情を曇らせるだけだった。
 もはや結論は出ている。ジルはエリファスを本当の母親に対するのと遜色ない愛情を抱いていた。
 大切なヒトだからこそ、醜いところをみられたくない。殺したくない。そんな感情は当たり前だ。
 お節介なことをしているとは自覚している。自分のすることが正しいのか迷う。
 それでも、天道を否定してしまったのだ。辛いこともエリファスの恨みも自分が引き受けると決めた。
 いまさら引き返す気などない。エールが足にさらに力を入れた後。
「エールちゃん……?」
 エアカーから降りたエリファスの姿が見えた。
 

 雨音が酷くなり、服が水を吸って重くなる。車椅子が機械式だとしても、移動には一苦労のはずだ。
 エールの肩からジルが逃げ出そうとする。エールは押さえてたが、ワームの姿である彼をエリファスが気づくはずがない。
「……ジル……なの?」
 エリファスの言葉にエールは驚いた。ジルもまた呆然と立ち尽くす。
 車から降りて彼女はジルへと近づいてきた。
「そう、それが……あなたのもう一つの姿ね」
「母……さん」
 ジルのつぶやきに混沌とした感情が混ざっている。エールは驚くだけですんだが、彼はそうはいかない。
 今まで母親はなにも知らないと思っていたのだ。その考えを目の前の女性は打ち砕く。
 車椅子に座るせいでエリファスは見上げる形になるのだが、彼女の瞳には確信が宿っていた。
「なん……!?」
「ごめんなさい、ジル。もっと早く言うべきだった。私はあなたがジルを殺してなり代わったことも、ヒトではない存在であることも、殺人事件があなたの手によるものだということもずいぶん前から知っていたわ」
 エリファスは一度目を伏せて震えた。噛み締める唇は青く、雨が彼女の体温を奪っていることを知る。
 それでもエールは一歩も動けなかった。エールの出る幕はない。
「わかっていたのに、私はなにも出来なかった。怖かったから……あなたに私の、醜い内面を知られるのが怖かったから」
「母さん……?」
「私は最初、あなたに復讐をしようと思っていたの。あなただけは私の手で殺したいから、ジルの振りをさせ続けて、他の人の死を見逃した」
「嘘だ……嘘だ……」
「ジル! 私は愚かだったのよ。だからこそ、あなたの擬態に気づかない振りをした。だからこそ、あなたを愛している振りを続けていた」
 ジルはよろよろとタタラを踏む。無機質なワームの顔だが、ショックを受けているのは一目同然だ。
「……けど、あなたは不器用すぎたのよ」
「不器用……?」
「ジルの真似をしようとするくせに辛そうで、私を騙そうとしているのに、本音でぶつかってきたじゃない!
どうして私に優しくするのよ……どうしてこの街を半年の間守っていたのよ……」
 言葉を失うジルに、彼女は車椅子を進めた。茶色い、スズムシを擬人化させたような姿。
 そのジルの手をエリファスは両手を包みこむ。
「……今まで逃げていてごめんなさい。ジル……いいえ、もう一人のジル。私はあなたを憎んだ。
けどそれは、時間が解決してくれた。そして私はあなたを失うことを恐れて、あなたの罪を犯すのを止められなかった。
そんな私でも……あなたのお母さんでいいの……?」
 エリファスの言葉を最後に、周囲には雨の音以外はシャットダウンされる。
 まるで世界がジルとエリファスの二人だけになったようにエールは感じた。
 どれくらい沈黙の時間が流れただろうか。ジルが金髪に黒縁メガネの青年の姿へと戻る。
「……母さん」
 そして、その一言が彼女へ対する答えだった。彼は泣きそうな顔をしていた。
 いや、ジルだけではない。エリファスもまた、笑顔に涙を浮かべていた。
 雨が降っているため、よく観察しなければわからない。エールはホッとため息をついた。
 ジルが泣き崩れそうになったとき、ピクリと身体を硬直させた。
 エリファスが心配そうに覗きこむが、ジルは自分の右手を包むエリファスを突き飛ばした。
「ジル……?」
388ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 21:13:32 ID:n656iJB9
「触っちゃダメだ、母さん!!」
 ジルは叫んで後方に跳躍する。エールが止める暇もない。
 エリファスと距離をとったジルは両膝をついて、獣のように吠えた。
「ジルさん!」
「がああぁぁぁぁ……駄目だ……母さん。僕は……僕を抑えられない……うあああぁぁぁぁぁぁ!!」
 発作のようにワームとジルの姿を行き来してのた打ち回る。
 ついにきてしまったかとZXセイバーを構えるが、動けない。
「エールさん……早く!! 僕が僕であるうちに……僕は……ワームとして死にたく……あああぁぁぁぁああぁぁぁッ!!」
 それは突然、あっさりと訪れた。ジルは身をベルクリケタスワームへと変えてエリファスへ接近する。
 エリファスはすべてを受け入れたような顔をしてただベルクリケタスワームを見つめていた。
 エールの脳裏に彼の言葉が蘇る。

 ―― そうさ、僕は母さんを殺してしまうことが一番怖い。

 エールは無理やり二人の間に割り込み、残った右手で貫手を繰り出すベルクリケタスワームの一撃を受け止めた。
 ZXセイバーに火花が散り、獣の咆哮が先程まで優しかった青年の口からほとばしった。
「やめて……正気に戻ってよ! ジルさん!!」
「ガアアアァァァ……めだ。エールちゃ……僕を……ころ……」
 ベルクリケタスワームの瞳に理性が戻ったのは一瞬だけだった。
 羽がもげて、左手を失い、全身傷だらけの怪物はエールへとでたらめに殴りつける。
 エールのZXセイバーをくぐり抜け、ベルクリケタスワームの拳が腹部に直撃した。
 エールは空気をすべて吐き出し、地面を転がってエリファスの傍に倒れる。
「エールちゃん!」
「エリファスさん……お願い。いまは逃げて……。絶対アタシが……アタシが元のジルさんに戻すから!」
 そんなことは無理だとわかっている。ただ感情が納得しないだけ。
 出気もしない口約束をして、エールは立ち上がる。
 だがエリファスは一歩も動かず首を振った。
「エリファスさん?」
「エールちゃん、それだけは出来ない。あれはジルだけの罪じゃない。私の罪でもある。
私は……ジルと過ごすために罪を見逃してきた。それでジルが苦しむのに……死んだジルも望んでいなかったはずなのに……」
 エリファスはエールに懇願するように頭を下げる。
 彼女のどこまでも真剣な態度は、真剣な表情はエールを戸惑わせた。
「だからお願い。ここで……見届させて……」
 エールはなにも言えない。言葉を失っていたのだ。
 彼女はもう、ジルの死を覚悟している。覚悟ができていないのはエールだけだ。
 ベルクリケタスワームの右拳をZXセイバーで払い、サソードヤイバーをエールは取り出した。
「モデルX……お願い」
 モデルXは答えず、自らの額を輝かせた。光に誘われてサソードゼクターが現れる。
 ベルクリケタスワームが突進してくるが、エールはサソードヤイバーで胸部を斬り裂いた。
 ワームの絶叫を耳にしてエールは顔を歪めたまま叫ぶ。

「クロスロックオン!!」
『Change ROCKMAN』
 
 
 電脳世界のような空間に、エールの意識は隔離される。
 モデルXがサソードヤイバーから生産される六角形の金属片を光に変換し、エールの全身を包んだ。
 光が拡散しきり、装甲を形成する。両腕に黒い装甲が形つくり、実体化した。
 尖ったようなショルダーアーマーが生まれ、チューブが伸びて両手の篭手へと接続する。
 液体が流動する透明のチューブが、肩と腕につながれた。
389ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 21:14:30 ID:n656iJB9
 ふくらはぎと脚が濃い紫色の装甲とブーツに保護される。
 腰にドレイクと同じく、中央にZCTと刻まれた銀色のベルトが巻かれた。
 青いエールのジャケットが硬質化し、紫色に染まる。
 サソリを模したヘルメットがエールの頭部を包み、瞳の上の二つのクリスタルが幾何学的な模様を浮かび上がらせる。
 カッ、と目を見開いたエールは、ロックマンSX(サソードエックス)となってワームを睨みつけた。
「クロックアップ……」
 ためらうような言葉でエールは加速空間へと突入する。ワームはとっくに起動していた。
 降っていた雨が中空で止まり、無数の水玉が浮かんでいる。
 エールは水玉を破壊しながら進み、ワームの爪を受け止めて押す。
「ジルさん、聞こえる!? ジルさん!!」
 エールは必死で呼びかけるが、ワームからは獣の声しかしない。
 サソードヤイバーを構えるエールの言葉は届かない。
 わかっていたはずだ。覚悟していたはずだ。
 なのに、エールにはこの刃を首にかけることが出来なかった。
『ためらうな、エール! こうなったら他に手はない』
『エール、辛いのはわかるよ。だけど、こうでもしないと彼は救われない……』
「わかっている、わかっているけど……」
 ここには彼の母親がいる。エールはこの親子に、イレギュラーに襲われた自分を重ねてしまったのだ。
 あの日エールの目の前で母親は死んだ。彼の母親は、目の前で息子の死を見なければならない。
 たとえそれがエリファスの覚悟の上であったとしても、エールの刃を鈍らせるには充分であった。
 エールがワームの突進に跳ね飛ばされる。地面に叩きつけられて、雨で柔らかくなったことに感謝をした。
 泥が跳ねてエールの頬につく。滲む視界の中、ワームはクロックアップで動けないエリファスへと迫っている。

「ダメェェェェェェェェ!!」

 エールが叫んで、地面を駆ける。ワームの右手はエリファスへと刻一刻と迫っていた。
 迷う暇などない。サソードゼクターの尾を押し込み、エネルギーを刃にためる。
 もはやエールの頭の中は真っ白だ。降りしきる雨の中、『Rider slash』の電子音だけが響く。
 エリファスの手前でワームの腕が止まるのをエールは目撃し、エネルギーを纏う刃でワームの胴を薙ぎ斬った。
 

 ―― メットールをマスコットにした遊園地が炎によって赤い色に染め上がる。
 ―― ヒトビトの悲鳴が上がり、人ごみの中、小さなエールは母親の手を握っていた。
 ―― イレギュラーの群れの銃弾で建物が破壊される。
 ―― エールを安心させようと振り向いた母親の後ろに、イレギュラーが現れて……。

 ―― そのイレギュラーの姿は、今のエール自身だった。
 

 ザアザアと激しい雨音が外界の音を拒絶する中、上半身だけのワームを抱く女性がいた。
 エールはただ、その姿を見ることしか出来なかった。
 割って入ることの出来ない、親子だけの世界。
 物言わない息子の死体を抱えたまま、エールはエリファスの言葉を待った。
「エールちゃん」
 エールはビクリと身体を震わせる。罵られるのも、恨まれるのも覚悟した。
 彼女にはその資格がある。

「ありがとう……この子の望みを叶えてくれて」

 だが現実は甘くはない。エールは彼女に恨み言をいわれることも、嫌われることもない。
 ただただエリファスは、息子の望みを叶えたことに感謝の気持ちを示すだけだ。
390ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 21:15:45 ID:n656iJB9
 それも当然。エリファスはジルの母親で、彼の望みを理解したのだから。
 それこそが、許しこそがもっともエールを責める行為だと本人も含めて、誰も気づかなかった。
「アタシは……アタシ……は……」
 エールは雨の中、愕然と膝をついてうわ言のように繰り返す。エリファスに聞こえないようにするのが、精一杯の気づかいだった。
 エリファスがいっそう強くジルを抱いたのを確認して目を見開いて喘ぐ。
 エールは彼女とジルの世界を邪魔しないように、誰にも聞こえない心の痛みを吐き出さず抱え込んだ。
 エールの悲鳴は耳には届かない。
 ただ、彼女と共に戦場を駆けたライブメタルたちの心に届いた。
 しかし、彼らにもどうすることもなく、エールは雨の中顔をあげる。
 泣いていた彼女は、叫ぶことも許されずにただ雨にうたれているだけだ。
 

 これが、エールが始めて心のあるワームと出会い、殺したミッションであった。
 

To be continued……
 
391ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 21:17:37 ID:n656iJB9
投下終了します。
次の投下予定は特に決めていませんが、なるべく早く投下するようにします。
それでは失礼。
392創る名無しに見る名無し:2009/12/15(火) 21:34:17 ID:0swKVCfQ
投下乙。
6・7話ともども見させてもらいました
ジルウェ死んでるって…ウゾダドンドコドーン!

映画の織田・黒崎にディケイドの弟切ソウ。
カブトキャラがたくさん出て面白い展開になってきましたな。
全てのお兄ちゃん天道の兄ぷりは果てしない。
お前は妹ハーレムでも作るのかw

天道とエールの違いがはっきりした回ですね。
天道の優しさ、エールの優しさ。
ローチさんが感激で飛んできそうです
393創る名無しに見る名無し:2009/12/18(金) 20:06:57 ID:SUDlQAxc
板をざーっと見て回ってたら、メッチャクチャ面白いのを見つけてしまった……!
こういうのが隠れてるから困る!w

天道はやっぱり素敵だぜ
カブトライダーやワームも色々とでてきて面白い
ロックマンZXを知らないのが悔やまれる……XとZEROは知ってるけど別もんみたいだしw
今度探してみようw

良作発見あげ
394創る名無しに見る名無し:2009/12/19(土) 18:16:52 ID:4ZPZla+2
面白いすごく面白い!
両方大好きだからこのクロスはたまらん
Xの能力でゼクターと協力なんて心が震えたわ
天道がまさしく天道でエールとの絡みが素晴らしい
なんでこんな良作に今まで気付かなかったんだ
395創る名無しに見る名無し:2009/12/21(月) 11:41:05 ID:pFglpyLW
意思があって適合者を選ぶゼクターとライブメタルの設定が似通ってるからこう違和感なくクロスできるんだな。
なるほど考えたなぁ。これは面白い。

しかしエールはアニメ絵で天道は実写だから脳内映像がカオスw
396ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/23(水) 23:12:32 ID:foLYFxN9
いつの間にか感想が増えていたw
これからも精進したいと思います。

それでは、第八話を投下します。

注意
※オリジナルあり(モブ、敵のみ)
※クロス設定あり
※仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVEの没設定を利用しています(樹花の存在など)
※二次創作ようの設定あり(劇場版におけるサソードの末路など)
397ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/23(水) 23:13:38 ID:foLYFxN9


 すべてを洗い流すかのように雨が降りしきる中、赤と金の影が交差して重い音が周囲に轟く。
 稲妻が走り、一瞬だけ二人の仮面ライダーの姿を照らした。
 赤いカブトムシの装甲を纏う仮面ライダーカブト。
 金のコーカサスオオカブトの装甲を纏う仮面ライダーコーカサス。
 二人は世界を超えての因縁を前に、互いの拳を交わせていた。
「くっ……はあ、はあ、はあ……」
「どうしましたか? 息があがっていますよ」
 コーカサスの言葉通り、カブトは肩と胸の装甲にヒビが入り膝をついていた。
 天才と名高いカブトですら、コーカサスの格闘術を捌ききれずにいたのだ。
 対し、コーカサスはほぼ無傷。呼吸もまだまだ余裕がある。
「……まだだ」
 カブトは一旦呼気を整え、地面を蹴ってコーカサスに接近を試みた。
 右拳を固めて、音速に迫る速度で一直線に突く。
 コーカサスは危なげもなく皮一枚で避けて拳をやり過ごす。
 カブトは予測していたためすぐに拳をひき、左足でがら空きの脇腹を狙った。
 肉と肉がぶつかる重い音が雨音でかき消される。カブトのミドルキックはコーカサスの膝に阻止された。
 カブトは仮面の下で眉を僅かにひそめるだけで耐え、当て身に切り替えて地面を踏み抜く。
 右肩に衝撃を感じ、コーカサスを吹き飛ばすが手応えが軽い。
 後方に跳んで衝撃を逃がしたのだと判断し、体勢を整えた。その間一秒にも満たない。
 なのに、コーカサスはカブトの懐に潜り込んでいた。
 くっ、と喉を鳴らしてカブトは襲いかかる拳を両腕で受け止めた。
 それでも拳を受け流すことも、防ぐことも許されず強引にコーカサスが振り抜く。
 ガードごと粉砕され、カブトは背中をしたたかに打ちつけた。
「ガハッ!」
 カブトは呻き、それでも痛みを無視して立ち上がる。
 コーカサスの力は異常だ。以前戦ったときと遜色ない力がカブトの前に立ちふさがる。
 圧倒的な実力の開き。それでもカブトは諦めず構えをとった。
「……決着が着いたようですね」
 コーカサスのつぶやきに、カブトは思わずエールが消えた方向へ視線を移す。
 雨音の中、僅かに聞こえたのはライダースラッシュの電子音だ。
 なぜここまで届いたのか、カブトは疑問に思ったが敵は眼前にいる。
 カブトが再びコーカサスへ視線を戻すと、コーカサスからは殺気が消えていた。
 コーカサスが大きく跳躍して、木の枝に跳び乗る。
「天道総司。いずれ決着を着けましょう。正直、このままでは面白くありませんからね」
「そのことをお前は一生後悔する」
「その身体でそこまで強がれるなら、期待してもいいでしょう。楽しみにしていますよ」
 コーカサスはそう告げて姿を消した。残されたカブトはもはやコーカサスを見ていない。
 弾かれるように走り、エールの向かった方向へ進む。
 カブトの青い瞳が前へ向けられていた。
 

 そして、カブトは自分が間に合わなかったのだと、エールの声にならない叫びを受けて思い知る。
 カブトの握る拳から血が滴り落ちて、コーカサスへ完敗したことを噛み締めた。
 

      八話 SIN [罪の意識]
 

「以上が今回起きた事件の結末だ」
398ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/23(水) 23:15:05 ID:foLYFxN9
 プレリーは提出されたミッションレポートに目を通しながら、天道の報告を受け止めた。
 事件が終り、天道がエールを連れてきたときはなにがあったか焦ったものだ。
 天道が抱えて連れてきたエールにいつもの活発さはなかった。あれから一日過ぎた今も、自分の部屋に閉じこもっている。
 エールを仲間に迎えてから、初めての出来事だ。
 プレリーは今、専用の研究室で天道の報告を受けていたのだ。
 ワームにはいろいろと厄介な能力が多い。隊員にいらぬ不安を与えないため、ワーム絡みの事件は限られた人物にしか伝えていない。
 それにしても、と自分用の椅子に背をあずけてプレリーはため息をついた。
「心のあるワーム……。ジルウェさんのときでもすぐに立ち直ったエールを追い詰めるか……」
「だからこそ奴らは生かしておけない。奴らの悲劇は誰かに成り代わることでしか心を持てないことだ」
 プレリーは天道の意見に賛成だ。頷いて、エールのことを思う。
 エールがジルウェのときに立ち直ったのは、自分たちやインナーのヒトビトがいたからだ。
 守るべきものがあるため、傷ついてもセルパンに言葉で追い詰められても、立ち直って戦ってきた。
 だが、今回エールが殺した相手は、同時に守るべき相手であったはずだ。
 ワームだから違う、などいっても無駄だろう。エールはジルとして生きるワームを守るべきヒトビトと認識してしまった。
 エールはセルパンたちの野望で他人に犠牲を強いる行為を否定し続けたからこそ、守ると決めた人を自分の手で殺したのが重圧となってのしかかったのだ。
 プレリーはとたんにエールに申し訳ない気持ちでいっぱいとなる。
 彼女に無理をしいていた、という思いがいまだプレリーにあったからだ。
「天道さん、今エールに私たちができることはありませんか?」
「正直言ってなにもない。こればかりはエールが乗り越えないとどうしようもないからな。だが……」
 天道の最後の言葉には、優しさが込められていた。
 穏やかな天道の声にプレリーは思わず目を見開く。
「セードルやトンもプレリーと同じことを言っていた。エールを大切に思う仲間がいる。それこそが、あいつの一番の救いだ」
 どこか感謝するかのような天道の物言いに、プレリーは思わずほほ笑む。
 彼もまた、自分たちと同じくエールを心配していたのだ。



 地層が連なり、歴史を感じさせる。掘り進むのをメカニロイドに任せ、黒い高級スーツに身を包んだ弟切ソウは黙々と進み続ける。
 隻眼であるのに足取りになんら迷いがない。黒い眼帯が右眼を隠すが、男の顔立ちにむしろ泊がついていた。
 弟切は地面より半分顔を出しているモデルVを無視して、責任者がいるエリアへと足を踏み入れる。
 さっそく壁に十トントラックがぶつかったような轟音が耳に入った。
 弟切の目の前には、透明な部屋で壁を破壊しようと飛び回るガタックゼクターを観察しているフォルスロイドがいた。
「おや。珍しいですね、弟切さん」
「ダブルホーン・ザ・スタッグビートロイド……ガタックゼクターを観察して楽しいか?」
「堅苦しい呼び方ですねぇ。ダブルホーンで構いませんよ」
 そう言って、ダブルホーンは赤い宝石のような瞳をガタックゼクターに向ける。
 なにやら観測された数値を手前のディスクのコンピューターに打ち込んでいるが、弟切は興味がない。
 目の前のダブルホーン……クワガタムシを模したフォルスロイドに弟切は不思議に思う。
 クワガタをモチーフにした割に、ダブルホーンは細身で鋭利なデザインで作られていた。
 ギリギリまで重量を削り、攻撃手段はナイフとなる頭部の二本の角しか持たない。
 しかし、ダブルホーンはモデルVの出力すべてを速度に費やし、その速度はクロックアップに迫る。
 その特異なフォルスロイドは戦闘力もピーキーながら一流であった。
 さらに彼は研究者としてゼクターの研究を行っている。数の少ないワームとしては貴重な協力者だ。
 元はモデルVを研究しており、“あの男”の補佐をしていたそうだが、今はゼクターの方に興味があるらしい。
「ところでなにか用ですか? ガタックゼクターを研究しても余裕があるくらい、私はノルマをこなしているはずですが」
「最近ここでのモデルVの発掘と、通るヒトビトの処理が派手すぎる。もう少し抑えろ、ということだ」
「ああ、それですか」
 ダブルホーンはなんでもないように弟切に返す。弟切の注意にまったく興味を持っていない。
 自分が興味あること以外はどうでもいい、という典型的な研究者気質であったなと弟切は思い出す。
「わざとですよ」
399ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/23(水) 23:16:08 ID:foLYFxN9
「そうか、わざとか。それなら仕方ないな。…………なに?」
 ことは弟切の予想を超えていたようだ。ダブルホーンが妙なことを告げる。
 不意をつかれた弟切は解せないと表情を変えるのだが、ダブルホーンは弟切を見ずに答えた。
「モデルVは八割方発掘を終えましたしね。ガタックゼクターも理解しつつある。ゆえにロックマンか仮面ライダーの戦闘データが欲しいのです。
ならば両方所持しているガーディアンを動かすにはわかりやすいエサが必要でしょう?」
「わからないな。モデルVはキサマらの……そして我らワームの目的のために必要だ。なのにわざわざ危険を冒すのか」
「ふふふ……弟切さん。ライブメタルも、ゼクターも神秘の塊です。その神秘の効果をこの目で確かめたいと思うのは自然ではありませんか。
フォルスロイドでは、ライブメタルの神秘を引き出したというには少々邪道ですし」
 クックック、とダブルホーンは笑って弟切に話した。弟切としては……いや、彼らワームとしてはモデルVの力を持って稼働しているハイパーゼクターを大人しくさせ、次元の狭間にあるワームの卵を宿した隕石をこの世界に召喚したいのだ。
 この世界へワームがたどり着く途中、ハイパーゼクターが隕石を食い止め続けている。
 動きを止めようにも、破壊しようにもハイパーゼクターに手を出せないでいるのだ。
 それはまるで、ハイパーゼクターがこの世界を守っているようにも錯覚させた。
 隕石がこの世界へ現れれば、元の世界の地球のように荒廃する可能性があったのだが、ワームとしては気にする要素などない。
 ゆえにモデルVが破壊される事態はなるべく避けたいのに、ダブルホーンは己の知的欲求のために余計な行為をしている。
 弟切は頭を抱えたくなった。
「おや、また侵入者が現れたようですね」
 ダブルホーンの言葉に弟切は振り返る。確かに彼が担当するエリアに、ヒトが入り込んだようだった。
 モニターに現れる赤い点が点滅している。
「さて、あなた方のお仲間が増えますよ。ふふふふ……」
 ダブルホーンが酔ったように告げる。どよめきが弟切とダブルホーンしかいないと思われていた室内であがった。
 弟切はダブルホーンが声をかけている対象が誰であるか知っている。視線の先には、大小様々な電子オリが“中身つき”で存在していた。
 電磁オリの内部にいるヒトビトがダブルホーンに対して恐怖の表情を浮かべる。
 彼らはダブルホーンによって人体実験用に連れてこられたのだ。
 ある種、ダブルホーンは彼らを愛していた。ダブルホーンが彼らにかける言葉は優しげですらあったのだから。
「それでは行かせてもらいますよ、弟切さん。これは私の趣味でしてね」
「わかった、どうせいっても止める気はないのだろう? だから一つ条件がある」
 弟切の提案に、ダブルホーンは「ほう」とだけつぶやいた。
 弟切はモデルVを発掘するエリアに視線を向けながら告げる。
「俺もモデルVの護衛につかせろ。それでいいなら、お前の行為に目をつむる」
「ふふふ……あなたのそういうところ、私は大好きです」
 そう言ってダブルホーンは弟切の右頬を撫でて、姿を消す。
 弟切は自分の負担が増えたことを憂おい、思わずため息をついた。



 ジルを殺して一週間が経った。エールは仲間の前に出てきている。
 そしてなんでもないように振舞っていたが、周りにはエールが普通でないことが丸わかりであった。
「エールさん、なにかあったのですか?」
『……プレリーや天道からなにも聞かされていないのか?』
 この日もまた、整備されている途中フルーブが聞いてくる。
 中にはローズやセードルもおリ、彼女たちも興味津々にモデルZの言葉を待っていた。
 モデルZはため息をついて、頷き返すフルーブを見つめる。
 視線を移動すると、看護士の格好をしたナナと、ガーディアンの制服に武器を肩に担いだセードルが近寄ってきた。
「天道もプレリーも、エールになにがあったのか黙っているんだよ」
「…………いつもお世話になっているエールさんが元気ないと、私は心配で……」
 セードルがどこか調子の狂ったような感じで、ローズは心底心配そうにモデルZへと尋ねてくる。
 気質は正反対の二人だが、エールとも親しかったゆえ心配なのだろう。
 さて、どうしたものかとモデルZは思考する。
 なにがあったか答えるのは簡単だが、プレリーと天道が黙っているということは言いふらすなということか。
 それに、こういっては悪いのだがフルーブや彼女たちに今のエールにできることはない。
400ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/23(水) 23:17:23 ID:foLYFxN9
 エールがたどり着いた壁はモデルZにも覚えがある。正確には彼の相棒であったモデルXがたどり着いた壁なのだが。
 だからこそ余計に、エールが一人で乗り越えるほかはないと考えていた。
『すまないが、しばらくエールを見守っていてくれ。俺から言えることはそれだけだ』
「……そうですか」
 フルーブが小さい身体をしょんぼりとさせた。白い髭を揺らし、ため息をついている。
 しかし、セードルは納得が行かないようにモデルZへ身体を乗り出した。
「そうかい、なにもいうつもりはないってことかい」
『そう喧嘩腰になるな。こればかりはエールが一人で乗り越えるべきことだ』
「確かに、天道さんもモデルZさんと同じことを言っていましたけど……」
 セードルもローズも不満げにモデルZへ詰め寄る。
 モデルZは彼女たちの様子から、エールは確かに重症だと思い返した。
 

 シュミレーション室に、金髪に鋭い瞳のアランが入ってくる。
 先客がいることを確認すると、エールだったため珍しいと彼は感想を抱いた。
 モニターで訓練内容を見てみることにした。
 物陰より現れたメカニロイドに、エールは照準を合わせた。
 青いロックマン、モデルXへと変身した彼女はバスターを放ってメカニロイドを消す。
 立体映像であったメカニロイドは消えて、新しい敵が次々と現れていった。
 エールは一心不乱に次々敵を撃ち抜いていく。鬼気迫る雰囲気にアランは思わず見入っていた。
「はあ――はあ――次……」
 エールはつぶやいて次の敵を召喚する。アランが移動して難易度を確認してギョッとした。
 難易度と危険度がMAXの状態でエールは訓練をしている。
 いや、それは自分の身体をいじめ抜いているだけ、といった方が正しい。
『エール、少しは休まないと……』
「いいの! モデルX、今は動いていないと……」
 アランは痛々しいエールに見ていられず、スイッチをオフにした。
 エールが不思議そうな表情を浮かべる中、アランは訓練室へと入っていく。
「エール、そこまでにしておけ」
「アラン。大丈夫、まだこんなに元気だよ!」
「フラフラでいう台詞か?」
 アランの指摘に、エールはハッとなって鏡を見つめる。全身汗まみれになり、疲労しきった身体が細かく震えていた。
 エールはアランに笑顔を向ける。まるで無理やり作ったかのような笑顔にアランは眉をしかめた。
「ごめんごめん。つい熱中したみたい。そうだね、アランも使いたいだろうし、アタシは休むよ。
ごめんね、モデルX。アタシに無理やり付き合わせちゃって」
 そう笑ってエールは変身を解いた。シャワー室にいってくるとエールは告げて、訓練室から離れていった。
 アランはエールが部屋を出るまで背中を見届ける。
「わざと明るく振舞やがって……なにから元気をだしているんだよ。らしくない……」
 普段クールに振舞っているアランだが、エールの尋常でない様子に思わず心配そうにつぶやいた。
 

 熱い湯が頭上から降り注ぎ、エールにまとわりついていた汗を流し落とす。
 日にさらされながらも白いままの肌に水が跳ねて排水口へと流れていった。
 鍛えられながらも、女性特有の柔らかさを保った肢体が、一糸まとわず存在している。
 エールはシャワー室の壁を殴りつけた。濡れた黒髪が目を隠すが、悔しげに食いしばった口だけは見えている。
 ギリッ、と歯を鳴らしながらエールが思うのは、ジルを斬ったあの瞬間だ。
 いまだあの感触が残っている。ジルの身体を刃がめり込み、振り切った肉と骨の感触がエールを責めたてる。
401ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/23(水) 23:25:07 ID:foLYFxN9
新スレ誘導。

クロスオーバー小説創作スレ2
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1261578197/

立ててくれた方に感謝
402ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/23(水) 23:25:49 ID:foLYFxN9
(アタシは……アタシが――)
 とてもじゃないが、動いていないとどうかしそうだった。
 怖くて天道にあの後エリファスがどうしたのか聞けないでいる。
 その自分がとても許せなく、動いて自分の感情を誤魔化そうとしているのだ。
 今までエールが倒してきた連中は、他者を殺すことや奪うことを当然だと考えている連中ばかりだった。
 ジルウェも操られていたため戦ったとはいえ、トドメはパンドラが刺している。
 だから、どうしても『守るために戦ったジル』を殺してしまったことが、エールの心を苛んでいた。
 ジルを殺し、エリファスから大事なヒトを奪ったのは自分だ。
 もっとやり方があったのではないか?
 ジルを殺したのはエールの弱さではないか?
 正しくない思考がエールの脳裏をぐるぐると回る。
 極度のストレスに吐き気を催すが、エールは耐えてシャワー室の壁をもう一度叩いた。
 皮を破り拳から血が流れる。シャワーのお湯がそれを流しながらも、エールは痛みに耐えるように身体を丸めていた。
 

「ヒトビトが行方不明になる事件か……」
 プレリーは蒼い瞳をモニターに向けて、艦長席に深々と座る。
 それだけではなく、五日ほど前からモデルVの反応が堂々と出てきたのだ。
 もちろん、プレリーは警戒をした。今まで巧妙に隠されていたモデルVが、この期に及んで反応を示している。
 なんらかの罠ではないか警戒するのも当然である。
「放っておくわけにはいかないな」
「天道さん……ですが……」
「これがモデルVの反応だけなら放っておくのも一つの手だが、ヒトが消えているとなると話は別だ。
ワームが消したヒトと入れ替わる可能性がある。それを放置してはおけない」
「…………危険ですよ」
 その言葉にはエールがいないことも含まれていた。
 たとえそうでも、止まる人間ではないとわかっているのだが。
「承知のうえだ。ただし、エールには言うな」
「わかっています」
 エールに言えば、無理して出撃するだろう。今の彼女は戦える状態ではない。
 本来ガーディアンのメンバーではない天道を頼りにするのは心苦しいが、それしか手段はなかった。
「天道さん、申し訳ないのですがこのミッション、引き受けてくれませんか?」
「安心しろ、プレリー。俺は天の道を往き、総てを司る。今回も俺が解決する」
 天道は自信満々に宣言し、踵を返す。
 プレリーはただ天道の背を見送り、後を託すしかなった。
 

 エールは影で天道が一人向かうことを聞いていた。
 エールは悔しさで唇を噛み締める。天道やプレリーに心配をかけ、負担を増やしたため自分に腹を立てた。
(天道を一人に負担をかけさせられない。プレリー、ごめん)
 エールは一瞬だけ艦長室に目線を送り、今回の事件を思い返す。
 ヒトビトがモデルVの発掘現場の近くで行方不明になっている。
 エールの頭が怒りで煮えたぎり、拳を強く握りしめた。
 エールはフルーブにモデルZを返してもらうため、プレリーと天道に見つからないようにその場を離れた。



 岩肌が露出する採掘エリアへとたどり着いた天道は周囲を見渡す。
 天道の右手方向の岩に三機、左上の崖に一機ガレオン・ハンターが隠れているのを確認した。
 隠れているつもりだろうが、見え見えだ。天道はカブトゼクターを呼び出し、右手に握る。
403ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/23(水) 23:26:56 ID:foLYFxN9
 腰に巻かれた銀色のベルトへと、カブトムシ型デバイス・カブトゼクターを装着させた。
「変身」
 次々生み出される六角形の金属片をまとい、天道は屈伸して宙を跳んだ。
 変身完了をまたずしての行動はガレオンを戸惑わせる。
 宙に舞ったまま、仮面ライダーカブト・マスクドフォームへと変身を終えた天道がカブトクナイガンの引き金を引いた。
 右の一機と、左上のガレオンの頭部が砕けた。そのまま二機だけ残ったガレオンの中心へと着地する。
 マスクドフォーム特有の青い単眼が輝き、カブトはクナイガンをアックスモードへと変形させて横一文字に振るった。
 ザン、という鈍い音を引き連れてガレオンの首が舞う。
 この間一秒。相手にもならない。
(――む?)
 カブトの強化された聴覚にカメラの起動音が聞こえた。
 首だけ動かして視線を向けると、撮影用のメカニロイドが存在している。
(クナイガンでは届かないか)
 カブトは冷静に見切りをつけて、目的のモデルVの反応があった場所へと向かった。
 自分の情報を得たいなら得ればいい。いまさら痛くも痒くもない。
 カブトはただ、目の前に映る悪魔を倒すだけだ。
 

『エール、今は天道たちの判断が正しい。戻れ』
「モデルZ、そうはいかない。モデルVが関わっているなら、アタシが動かないと」
 エールは半ば意固地になって、フルーブに返してもらったモデルZへ告げる。
 赤のロックマンZXへと変身をしたエールが周囲を警戒しながら進んでいた。
 少なくとも、こうして身体を動かしている間はジルを殺したことを置いておける。
 それが弱さだと自覚しても、始めての経験にエールはこうするしかなかったのだ。
『エールの今の体調は悪いんだ。モデルZの言うとおり、戻った方がいい』
「そんなことはない! アタシだって充分休みをもらった。だからもう大丈夫!」
 エールは半ば自分に言い聞かせるように叫んで、モデルXを沈黙させた。
 痛いほど視線がエールを心配しているのがわかる。
 それを無視するのは心苦しいが、エールは必死に足を動かした。
 今頃はプレリーが転送装置のログを追って、大目玉を食らっているかもしれない。
 自分を強制的に戻すよう天道に頼まれる前に、目的をすませる。
 エールが決意したと同時に、閉じられたはずの扉が開いた。
 荒野の中でただ一つ存在する大きな建物の扉だ。エールたちが警戒するのも無理はない。
「誘っている?」
『罠だな』
 モデルZの言うとおり、罠なのだろう。それでもエールは止まる気にはなれず、そのまま進む。
 もはやモデルZもモデルXもなにも言わない。
 警戒しながらも、エールはいつもと違って気持ちが逸っていた。
 そのことに気づかないほど、エールは追い詰められていた。
 モデルZとモデルXが、自分たちがフォローせねばと決意する横でエールが最後の一歩を踏み入る。
 薄暗い実験室のような室内が、外の採掘場と百八十度違う印象をあたえる。
 ガン! と大きな衝突音にエールは身構えるが、視界に入ったのは敵ではない。
「ゼクター……?」
 エールの目の前には、透明の箱につめられていたガタックゼクターがある。
 酷いものだ、と解放に向かうと照明が点いた。
「どこ!?」
「フフフ。逃げも隠れもしませんよ」
 エールの勇ましい声に答え、青いクワガタムシを模した鋭利なデザインのフォルスロイドが現れた。
 フォルスロイドは丁寧にお辞儀をして、エールの正面に立つ。
「始めまして。私はダブルホーン」
「あなたもモデルVを搭載したフォルスロイド……?」
404ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/23(水) 23:27:46 ID:foLYFxN9
「ええ。残念ですが、ここにはモデルVはもうありませんよ。一足早く基地へ運んだのでね」
 慇懃無礼ながらも、ダブルホーンの声は弾んでいた。
 周囲に撮影用のカメラを呼び出し、ダブルホーンがゆっくりとエールに近づく。
「ゼクターは使わないのですか?」
「……必要なら使うわよ。けどその前にそこのゼクターや行方不明になった人も返してもらうから!」
「いいですね、その気合。データを豊富に取れそうだ」
 ダブルホーンの機嫌のいい態度に、エールは嫌悪感が湧き上がる。
 静かにZXセイバーを構えるが、相手は余裕だ。
(馬鹿にして!)
 エールは怒りに任せてZXセイバーを振るった。



 カブトが赤い稲妻となって三体のガレオンの首を飛ばす。
 それでエリア一つの敵を全員倒したと認識したとき、『Clock over』の電子音が高らかに鳴り響いた。
 計算通りだがどこか解せない。敵の抵抗が妙なのだ。
 まるでカブトの力を試すような動きであった。
 そのままの勢いで地下へ続く通路を駆けていく。照明がポツポツと点いている薄暗い通路を抜けると、広い空洞へとたどり着いた。
「ひと足遅かったな」
 地下で響く男の声にカブトは視線を動かす。ゴゴゴ、と低い地鳴りと共に、掘り出されたモデルVが上昇していった。
 十五メートルほどの大きさのライブメタルが回収されるさまを見つめ、カブトは地面を蹴る。
 そこへ声の主が邪魔し、カブトは足を止めた。
「どけ」
「そうはいかない。天道総司、キサマに対する借りもあるしな」
 眼帯の男が憎しみを込めてカブトへ言い渡す。カブトが記憶を探るあいだ、男が一瞬だけワームへ変化した。
 その姿を見てカブトは「ああ」とだけつぶやく。
「右眼を潰すだけでは足りなかったか?」
「――ッ! キサマ……」
 弟切はカブトの挑発に乗り、ゼクターを呼び出した。
 以前カブトが相手したときは、資格者へ擬態していなかったのだが、まあいい。
 弟切の右手にハチ型デバイス、ザビーゼクターをつかんで左腕の金のブレスレットへとはめ込む。
『Hen-shin』
 弟切の身体を六角形の金属片が包みこむ。銀に黄色のラインの重装甲が上半身に覆いかぶさっていく。
 蜂の巣のような目を輝かせ、仮面ライダーザビー・マスクドフォームが顕在した。
「今度はお前の右眼を俺がえぐってやる」
「無駄だな。俺の動きを追いたければ、天の道を知るがいい」
 もっともキサマでは無理だろうが、と言外に告げてカブトは地面を蹴る。
 ザビーとカブトがぶつかる重音が洞窟で響いた。
 

「はあ、はあ……」
 エールはうつむきながら、ZXセイバーの柄をギュッと握りしめた。
 白い柄に僅かに血がついており、エールの右手から細い血液の道が出来ている。
 周囲には空気を切り裂く音しかせず、エールは強化された聴覚を活用しなければならなかった。
 もっとも、一番の問題はそれではない。
「音がやんだ……そこ!」
 エールが敵の位置を予測して、地面を力いっぱい蹴った。一度の跳躍で五メートルの距離を0にして、ダブルホーンの青い鋭角な姿へと跳ぶ。
 エールはそのままZXセイバーの刃をダブルホーンの首に向けて、斬り裂く前に制止した。
「ぐっ……」
『エール、早く振りぬけ!』
405ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/23(水) 23:28:56 ID:foLYFxN9
 モデルZが急かすが、エールの腕が動かない。こいつは敵だ。
 倒し、モデルVの発掘をやめさせなければ多くの悲劇が生まれる。
 そうわかっているのに、エールの脳裏にジルの顔と、彼を抱きしめるエリファスの姿が浮かんで腕を動かせずにいた。
「ふむ、妙ですねぇ」
 ダブルホーンはただそれだけつぶやいて、両手に握ったナイフを左右に振った。
 刃がエールの肌を斬り裂き、二の腕から血が吹き出る。大した威力じゃないが、今のエールには脅威だ。
 エールは呻きつつ後退し、ダブルホーンを睨みつけた。だが、睨みつけるだけ。
 震えるZXセイバーをエールは認識して、奥歯を噛み締める。震えよ止まれと何度も念じるが、身体が言うことをきかない。
「瞬発力、聴力、判断力とロックマンにふさわしい能力でしたが……なぜ攻撃のときだけ失敗するのか」
「う、うるさい!」
 エールは叫び、ZXセイバーを銃へと変形してダブルホーンへ向ける。
 避ける様子すら見せない。今ならダブルホーンを撃つ最大の機会だ。
 なのにエールの人差し指が震え、極度のストレスで吐き気を催す。
『エール、ここは退け。今のお前では無理だ』
「う……うわあああああ!!」
 エールがようやく引き金を引き、人の大きさほどの青い光弾がダブルホーンへ向かった。
 ダブルホーンは無抵抗に攻撃を受け入れ、吹き飛ばされる。
 ようやく一撃与えられた。なのに、エールは膝を屈し脂汗を全身に浮かばせる。
「あ――ぐ……うぷっ」
 胃液混じりの胃の中身が食道を逆流し、エールの口にたまる。
 全身が縮小したような錯覚を受け、湧き上がる嫌悪感にたまらずエールは吐瀉物を地面にぶつけた。
 ビチャビチャと胃液混じりの内包物が飛び散り、エールの瞳に涙がたまる。
 頭は熱に浮かされたようにボーっとし、フラフラながらもどうにか立ち上がった。
「ずいぶんいい攻撃を持っているのに、もったいない。他者を傷つけることに多大なストレスを感じるようですねぇ」
『エール、もういいから。今は……』
「おっと、撤退されても困ります。しかし、今のまま攻撃ができないのなら、データを取りにくい。ですので、こういうのはどうでしょう」
 パチン、とダブルホーンの指が鳴ると同時に、コロシアム状の室内でモニターがおりてくる。
 電源が入ったと同時に、エールの視界には信じられない物があった。
「行方不明になっていた……ヒトたち……?」
「ええ。彼らはいい実験材料となりますので、手元に置いていたのですよ。“あのお方”に渡すと雑な扱われ方しますしねぇ。
それはさておき、提案があるのですよ。あなたに本気を出してもらう……ね」
 もう一度ダブルホーンの指が鳴る。それと同時にモニターの一つに映るオリに電撃が走って絶叫がエールの鼓膜を震わせた。
 呆然と見入っていたエールはカッとなり、地面を蹴る。
「この――!」
 エールは間合いに入り、ZXセイバーを横にふる。込みあげる吐き気を飲み干しながら、ダブルホーンを見据えた。
 甲高い金属音が鳴り響き、ダブルホーンのナイフとZXセイバーの刃が交差する。
 と、同時に電撃を走らせたモニターのヒトが黒焦げになって崩れ落ちた。
「あ……あ……」
「さて、ロックマンの力を存分に見せてください。フフフ、でないとあそこのヒトビトは私が殺しますよ」
 エールは目を見開いてダブルホーンを見る。身体中に熱がこもったように熱い。
 ダブルホーンの姿が幾重にも重なり、エールは呼気を荒くしていった。
「はあぁぁぁぁぁっ!」
 だからこそ、気合を込めて叫ぶ。襲いかかる自分へのストレスを無視して、エールはZXセイバーを振るった。
 身体が震える事実がエールを苛もうとも。
 

 赤い影と黄の影が交差して、それぞれ地面に着地する。
 ハチを模した仮面に、黄色の装甲の仮面ライダーザビー・ライダーフォームを前にカブトはクナイガンを構え直す。
 予想外に強い。最初にカブトがワームの状態の相手と戦闘をしたときはさほど強くなかったのだが。
406ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/23(水) 23:29:42 ID:foLYFxN9
もう一度誘導。
以降は新スレで投下します。

クロスオーバー小説創作スレ2
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1261578197/
407AAで埋め
                          ィ l丶、
                           '、l、ヘ
                           ! 'lゝ \
                           / ノく ゙ <ゝ   ィ-
                           ゙<  ゝ丶 '<l‐ r'  │
                         _......  ̄'、 、 ゙リ /彡丿
                   _-‐'" ̄""' -< :勹ゝ  ./ ィ ../
                  ..-ゝ- 、   ..‐ _〔┴‐─'´ /    ┌┐    おばあちゃんが言っていた…
                 〈‐ー-..、 `‐-/  ヘ   /     .|__|     料理もスレも後始末が肝心、と。
                  l 、 ..,, ゙''-│   │ ィ´       .|__|
                  | l | | | | ヘ、   ノ / |       _ | |r 、
                  ヽ」 ヘ│l 〉/ゝ、_/ イ┘      | ニ_ ゛'''‐‐、
        __        _,,く........、....../ゝ「│Y´        | | l ‐=ニコ
        │ ` ー‐-- __/        `''-、 j_|コ      ___ ` |‐⊂⊃-|
     _−――――‐‐、/ ̄ ̄/ヘ- / ̄ ̄`ー‐--====∠  |/ ̄ ̄ ̄ヘ
 ̄ ̄/ /  ̄ ̄ ̄ ̄ l `l\ // i ´   −‐------_____ ヘ ̄ー‐---______|
  / /         i  ゙ | / _  i  /          丶 ヘ        ` ̄
  / /         / |\  / | i (             丶 ヘ
  \\        /l \ | | / i   ヽ、           ヽ ヘ
   丶\      / 」 |\   /| \/ ヘ、          / /
    /`‐‐‐‐‐‐‐  | \|  |/  /    \___    /  /
  /          l |\   /| /        ̄ ̄7''ー/
../ /         / ヘ\|   |/ /           /  \
  /        / ヘ ゝ二二二/           /    \
 ./         /  丶―――/           /      \