1 :
名無しさん@お腹いっぱい。:
ともかく何かと何かをクロスさせてみるスレ。
せっかくの創作版ですから、冒険的クロスでも堅実なクロスでもお好みで自由にどうぞ。
クロスってクロスオーバー?
スレタイでは略さずにきちんとクロスオーバーって書いてくれ
4 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/29(金) 07:21:35 ID:0Gw3o0O6
じゃあここも二次創作スレと同じくクロスオーバーに関する雑談でもしてればいいのか
クロスオーバーは組み合わせごとにいちいちスレ立てるのもあれだからここに投下していいんじゃないか
クロスオーバーってたとえばどんなの?
違う世界と違う世界をくっつけてみましたとかそういう系?
それとも●●って漫画と××ってアニメのキャラが一緒に〜とかそういう系?
両方込みでいいんじゃね
2ch内で盛り上がってる二次創作SSスレってクロスオーバー多いよな
某同人作品と某ゲーム作品のクロスオーバーのスレがあるんだけど
このスレだけで4スレ行ってるから、そういうのまでまとめるとキリがないと思う
それともこっちに移動すべき?
このスレもクロスオーバー系スレの総合案内所件雑談所みたいになりそう
>>9 別にいきなり移動してこなくてもいいと思うけど
板設定とか住民がどうのとかでどっちが得かで決めたらいいんじゃないの?
この板にスレ立てるんじゃなくて
このスレに移動する気なのか?
このスレは使うならスレを立てるほどでもないけど
ネタが沸いちゃったみたいなのの投下とかだと思うんだよ
ある程度人が集まってたり発展できるのはどんどんスレを立てるべきじゃね
>>10-11 把握
次からここのスレタイは「クロスオーバー小説創作総合スレ」にした方がいいな
いったいいつになったら次スレになるんだかわからんけどなw
クロスしやすいネタはたいてい既にスレになってるからな
なにかあるか?
クロスしやすい設定でまだスレが立ってないものてこと?
まずクロスオーバースレ自体をそんなにたくさん把握してないや
アニキャラ総合板で「クロス」と検索すると色々出てくるよ
やっぱりルイズとなのはが2大スレなのかな
万人に進められるようなネタじゃないけど
パロロワもクロス系の大きいところだな
幼女と俺をクロスさせてくれ
>>18 OKジャイ子を呼んでくるからちょっとそこで待ってろ
>16
マ「クロス」も出てきたがあれは違うな
マグネットパワープラスとマイナス
【もしも】種・種死の世界に○○が来たら【統合】
とかもクロスネタだな
23 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/30(土) 23:31:20 ID:UMdPYups
マイナーな作品同士のクロスでもおkって事?
ここは「創作発表板」内の「クロス小説創作スレ」なんだぜ!
ドマイナーだろうがやってしまえ!
たたし元ネタはしっかりと明記した方がいいと思うが
「■■■■■■■■■■■■」
声が聞こえて俺の頭は睡眠状態から覚醒する。
恐らく俺を起こそうとしていたのだろう、体をゆさゆさとゆさぶらるのも感じた。
勘弁してくれよ、今日は土曜日だぜ?お袋もチョットは空気を読んでくれたっていいんじゃないかねぇ……
いまいち機能しない自分の脳味噌から浮かぶ考えは一つ。
全てを無かったことにして二度寝することだ。
昨晩は深夜まで億泰とゲームやってたから睡眠時間は無いに等しい。
一応言っておくが俺たちは不良だが酒は飲んでねぇぞ!ただ夜更かししすぎて眠いだけだからな!!
……俺は誰に弁解してるんだ?やっぱり寝不足は恐ろしい。
寝起きに襲ってくるスタンド使いがいなかったのは本当にラッキーだったな。
この東方仗助、悪運だけは杜王町でもピカイチだz――――――
「いい加減に起きやがれ!!!」
「ゲボォ!」
は……腹がヤベェ………
無常にも俺の腹に突き刺さった蹴りは驚くほど正確に鳩尾に入った。
込み上げてくる吐き気と必死に戦う俺には進むべき二つの道がある。
1、吐く
2、我慢する
恐らく1を選んだらある程度は楽なはず。しかしそれを選ぶわけにはいかない。
起きないだけで蹴りを入れてくるほどお袋の機嫌はナナメなのだ。その上、布団にゲロッた日にゃ命の保障すら出来ない。
ならば2しかないのか?
この苦しみに延々と耐え、その後腹に残る違和感と暫らくの間戦うのか?
俺はそんな事やりたくねぇ!!
いや、待てよ……一つだけいい方法があるじゃねぇか!
布団にゲロッちまったらその後にクレイジー・ダイヤモンドで元に戻す。
ゲロは吐けるし、布団も汚れねぇ。
この世に完璧って言葉があるんなら今の計画の事を言うんじゃねぇか?
流石に寝巻きに付くのはいただけねぇな。それに今ので完全に目が覚めちまった。
んじゃあ起き上がって、起床一番にスッキリゲロ吐きと行きますか。
ガバァッッ
―――――――――?
俺は自室で寝てたよな?
それに俺の家族はお袋だけだよな?
大体、寝たときはパジャマを着てたよな?
混乱する頭を何とか冷静に持ってゆこうとする。
よくよく考えたらクレイジーDで直したらゲロが口から胃に戻るじゃねぇか。
いや、まずゲロは多分直せねぇ。
しかも目の前にお袋がいるんだからスタンドはヤべーよなスタンドは。
考えれば考えるほど先ほどの考えにツッコミが湧いてくる。
ホントに寝起きって奴はヤベェ……
自己嫌悪に陥りそうな思考を必死に振り払って、今最もやるべき事を必死に模索。
そして俺は自分の正面にいたボーイッシュな女の子に声をかけた。
「寝ゲロってホントにあるんすかね?」
★ ☆ ★
その後、唐突に発せられた奇言に笑い転げる少女、坂本龍馬から必死に話を聞きだした仗助。
曰く、ここはJAPANという国の死国という所らしい。
しかし、彼の知っている四国はこんなに殺伐とした場所ではないはずだ。
詳しい話を聞こうと必死な仗助の様子に辟易しながらも丁寧に説明を続ける龍馬。
彼女の話が終わったとき、彼はその場にしゃがみ込んで頭を抱えだした。
本来彼は頭を使うタイプではない。
戦闘になれば話は別だが、普段の彼は能天気そのものだ。
しかし、彼女の話を聞いた後は必死に考察をせざるおえなかった。
『鬼や侍がひしめき合ってる世界』
彼女にその話を聞いたときは心臓が口から飛び出るかと思うほど驚いた。
吸血鬼の話は承太郎から聞いていたが、鬼の存在は全く聞いた事がない。
それに侍も彼にとっては時代劇の中だけの話だ。
突拍子の無い話をする龍馬を最初は疑っていた仗助。
だが、彼女の目は本気であった。
狂人の物ではなく、真の意味で本気の彼女の瞳。
殺人鬼、吉良吉影を追う過程で様々な人物と出会ってきた仗助には分かる。
彼女はまっすぐな人物であると。
だから仗助は龍馬を信じてみることにした。
そして彼は結論を出す。
『ここはパラレルワールドである』と。
初めはスタンド攻撃も視野に入れていた仗助だったが、その可能性は即座に否決された。
空間を作り出すような強大なスタンド使いが居る可能性は無に近い事と、
能力で仗助を移転させたとしても未だに攻撃の影すら見えない事。
短時間で考えた非常に穴だらけの推論であるが、ある程度的を得ているように思えた。
(でもよー、その場合俺を転移させたのはどいつになるんだ……
まさか神様が呼んだなんて事はありえねぇよな?)
次から次へと沸き起こる疑問。
しかし答えが出る事はない。
(まぁ、来れるなら帰れるって事だよな?
しばらくは龍馬と一緒に行動して情報を集めるしかねっか……
アイツには異世界から来た事は伏せたほうがいいよな?流石に説明しにくいぜ
頭がパーな奴とは思われたくないしな)
結局、持ち前のポジティブさで絶対に帰れると断言した仗助であった。
★ ☆ ★
「でよ、譲ってのがスゲー馬鹿なんだ馬鹿。ウルトラ級の馬鹿」
「へ〜お前にも“ジョウ”って仲間が居るんだな。
俺の知り合いにも一人承がいるぜ?その人はヤバイくらい頭が切れるがな」
「っていうかお前も仗じゃね?」
「あっ、そういえばそうだったな」
「おいおい、お前も実はかなり馬鹿なんじゃねぇのか〜?」
龍馬達の住むキャラバンへと移動を続ける途中の他愛の無い会話。
先ほど仲良くなったとは思えないほどの意気投合っぷりだ。
「そういえば仗助……会ったときから気になってたんだがいいか?」
「ん?言ってみろよ」
「お前のその髪型ってさぁ――」
刹那、空気が凍りついた。
東方仗助におけるタブー中のタブー。
親友であろうと貶した者は全てぶちのめされる彼の聖域。
大げさに思われるだろうが、それが彼のリーゼントだ。
だが、そんな事を知る由もない龍馬は口を更に動かす。
「超クールだよな!俺も男だったらそんな髪型にしてみたかったぜ!
どうやってセットしてんだよ?毎日大変じゃねぇのか!?」
矢継ぎ早にリーゼントを褒めちぎる龍馬。
一方の仗助であったが完全に放心状態であった。
今までの人生で髪型を貶された事は星の数ほどあれど、ほめられた事は一度も無い。
故に彼は龍馬の行った言葉を全く理解できなかったのだ。
「この……髪型がカッコイイ…?」
呆然とした様子で声を絞り出す。
「何度も言わせんなよ。超クールだって言ってんだろ」
龍馬が先ほどと同じ言葉を繰り返す。
しかし返事が返って来ない。
仗助は下を向いて肩を震わせているだけだ。
「おい?どうした仗助?」
ひょいと龍馬が下から覗き込むと彼は泣いていた。
キリマンジャロの雪解け水を飲んだときと言っても過言ではない。
「おでぼがみがだぼぼべべぐれだのヴァあんだがはしめべば」
「いや、落ち着いて話せよ……」
軽くどころかドン引きだ。
180センチもある体格のいい男が泣きじゃくる姿を見て不快にならないほうがオカシイ。
しばらく歩いて仗助が泣き止んだ頃に質問してみた。
「なんでさっきはあんなに泣いてたんだよ?」
「いや、俺の魂を認めてくれたのが初めてだったからついな……」
「魂?その髪型がか?」
「あぁ、少し長い昔話になっちまうが聞くか?」
龍馬が興味津々な様子で頷くのを確認した後、真っ赤な目を擦りながら彼女に語りかける仗助。
死にそうな熱を出した事。
病院へいこうと急ぐも、途中雪で完全に車が止まった事。
焦る母親の元へ一人の少年が現れた事。
その少年は自分のポリシーである学ランを犠牲にして自分たちを救ってくれた事。
彼の髪型がリーゼントだった事。
そして、自分はその人を尊敬してリーゼントになった事。
全てを話し終えたとき、目が真っ赤になっているのが一人から二人に増えた。
鼻を啜りながらいい話ジャンと繰り返す龍馬。
一々大げさに首を振ってそれを肯定する仗助。
泣きべそをかいた二人は仲良くキャラバンへの道を進んでいった。
★ ☆ ★
どっちが先に気付いたかは分からない。
しかし、お互いに顔を見合わせたのは同時であった。
「これは……」
「血の匂いだな……間違いない!鬼共が襲撃してきやがったんだ!!」
焦燥を隠し切れない龍馬。
キャラバンにはゴンや譲、美禰といった猛者は揃っている。
だがそれでも全てのメンバーを守り切れるわけじゃない。
「クソッ!」
ゆっくりお喋りしながら帰っていた自分の不甲斐なさに思いっきり毒づく。
「仗助!お前は戦えるのか!?」
並んで走りながら、隣にいる仗助に叫んだ。
ガタイはいいから一般人よりは強いのでは?と期待をかける龍馬。
その期待は間違いではない。
短期間で数々の戦闘をこなした彼はちょっとした百戦錬磨である。
だから仗助は自信を持って答えた。
「バリバリいけるぜ!」
まだ見ぬ仲間を救うために全力でキャラバンへと走る仗助。
その目に宿るは黄金の意思。
学ランの襟から除くは誇り高き血統の紋章。
彼と龍馬は一陣の風となって乱戦状態となっているキャラバンへと突っこんでゆく。
鬼という異形を前にしても恐怖心は微塵も感じない。
己の半身であるスタンドを発現させて鬼をぶん殴るだけだ。
龍馬は初めて見るスタンドに驚いた様子を見せたがそれを気にしている場合ではない。
「闘いが終わったらそれが何か教えろよ!」
「おうよ!!」
言い終わった後に、二人は別々の方向へと切り込んでゆく。
「ドララララララララアアアッツ!!」
こうして、東方仗助の短い平穏の時は終わりを告げた。
to be continued…
>>23じゃないが即興で書いてみた
起承転結の起すら書けてないから微妙な感じだが一旦落としたぜ
元ネタはジョジョと戦国ランス
長編にする気だけど時間と筆力が無いからかなり遅々としそう……
まさかこの異色のコラボ……
GJ頑張ってくれ
光脈とは生命の源であり、また帰るべき処でもある。
元来そういう不思議なものであるから、その路の途中で怪異に出会う
ことも少なくは無い。
噎返るほどの森の香気は、精液のように生気に充ち満ちていた。
「ここら辺かね……」
洋裁を纏った隻眼の蟲師は、分け行った森の中に少し開けた場所を見
つけた。
清廉な、透き通った池がある。池の真ん中には小さな小島。そして、
主らしき動物……カモシカだろうか……が静かに四肢を折り畳んで座っ
ていた。
蟲師は洋裁の小間物入れから紙煙草を取りだし、マッチで火をつけて
深く一服吸い込んだ。
「よぉ……あんたが主かい?」
蟲師の質問に、主はパタリと耳を揺すって答えた。
次の瞬間──
背後の森から躍り出た少女に、蟲師は抵抗する間もなく羽飼締めにさ
れた。
喉にヒヤリと鉄の感触。鉈のような野太い短剣を突き付けられていた。
「誰だ貴様!お前も獅子神様の首を狙って来たのか!」
「ま、待て!俺は主に何かしようなんて思っちゃいない」
「証拠はあるのか!」
「や、証拠ったって……」
当てられた刃が、グッと、皮一枚分喉に食い込む。
「いてて!や、止めてくれ!ほら、主が逃げて無いだろ?俺に敵意が無い証拠……」
主はニヤリと笑って、一足飛びに森へ逃げて行く。蟲師は思わずポタ
リと煙草を取り落とした。
「あ、くそ!あいつわかってて逃げやがった!」
「……」
無言で、刃に力が加えられる。
蟲師が天命尽きたかと諦めかけた刹那、
──チリン
涼やかな鈴の音が響いた。
「おやおや、御二方、喧嘩に刃物はいけません。危ないですから……ネ」
「!」
何時のにやら少女の間合いに入っていた奇怪な男……鼻筋と目淵に朱
の隈取り、原色の奇妙な服を着ている……は、ごく自然な振る舞いのま
ま、少女の短刀を取り上げた。
「なんなら、鎮静剤でも御譲りしましょうか」
「……俺も薬屋だ。間に合ってるよ」
「……」
三者三様異彩を放つ、妙な顔触れが集まった。
世界観が似てるのに雰囲気が違う作品同士のコラボ…これは期待するしかない
34 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 21:44:09 ID:llCsS49r
期待期待
この町には魔物や吸血鬼や勇者の卵が集う。
そして、そんな彼らが常連である小さな魔女のお店には、
時々奇妙なお客さまが訪れる。
そう、ちょうどこんな風な霧の深い夜には……
カランコロンとベルが鳴り扉が開いた。
桃色の髪をした小さな魔女が店内に入ってきた人物を笑顔で迎える。
笑顔が商売の基本、とは商店会の会長の言だ
「ここは……何処だ?」
彼女より赤に近い髪を斑模様に染めた男性が
辺りを不安そうに見渡す。
ああ、『迷い人』か、と彼女は思った。
飼い猫が不安そうに彼に近付けば、男はビクリと震える。
「俺の側に来るな、近寄るな!」
失礼な奴、と猫は鼻を鳴らした。
彼女は眉をしかめ困った顔をする。
さてどうしたものか……と思う内に。
ミシリ、と嫌な音がした。
あ、そういえばあそこの棚のネジ緩んでたっけ、と
魔女が思い出した時には遅かった。
棚は崩れ、その上に置いてあった商品が、彼の上に落下した。
魔女は慌てて、荷物の下敷になった男を引っ張り出した。
「は……死んでない!」
男は頭にコブをこさえたまま立ち上がると叫んだ。
手元の薬草をその口に突っ込んで黙らせながら、
さて今夜の客はいつもより奇妙だ、と魔女は心中で呟いた。
奇妙な『迷い人』は、それからもこの町にいる。
今ではすっかり魔女の店の常連の一人だ。
彼はいずれ、この町にあるダンジョンを制覇すると意気ごんでいる。
地下深くに住む魔王の持つ、あらゆる願いを叶える宝玉。
それを手にして絶頂を取り戻すのだ、と。
彼女もたまに彼の冒険を手伝うことにしている。
そろそろ新しい刺激が欲しかったからである。
既に、幾度となく魔王を屠っては
なかったことにしているのだから。
冒険LV99の魔女は、今日もギャングの元ボスを引きずりながら
ダンジョンの最奥を目指して進む。
というわけでジョジョとだんじょん商店会のクロスでした。
魔法少女リリカルなのはストライカーズ×戦場のヴァルキュリアでやりたいんだけど書いていい?
どーぞどーぞ
保守代わりの1レス小ネタ
「わーっ、何なのあれ!」
友人達と買い物を楽しんでいた少女が悲鳴をあげる
地元からわざわざ都会まで出てきたのに妙な怪物に遭遇したのだ
「まさか、また新しい敵なの〜?」
「何言ってるの!」
うんざりした声をあげた少女を腰まで伸びた黒髪をした友人が咎める
「戦うにしてもこんなに人が多いんじゃ……」
茶髪をポニーテールに結い上げた少女が辺りを見回す
「待って、その必要はなさそうだわ!」
メンバーの中で一番利発そうなショートヘアの少女が指さした先では
「あの子たち凄い……」
六人の少女が、巨大な怪物に立ち向かっている
見れば、人だかりは彼女たちを応援している
「……それにしても、最近の美少女戦士は
衣装が可愛いわねえ」
彼女らの中では最古の美少女戦士が不満げに自身の金髪をいじる
「行けーっ、がんばれー!」
最初に声を上げた少女は、六人を応援している
「何やってるのよ」
「だって、戦ってる時応援されたらがんばれるもん!がんばれー!」
無邪気に応援する彼女を見て、友人達は微笑んだ
美少女戦士の気持ちは美少女戦士にしか分からない
こんなgdgdなプリキュア×セーラームーン小ネタで保守
40 :
ムスペルヘイム ◆LEivbieokw :2008/09/16(火) 01:19:06 ID:kvZ8gY4y
「みんな無事か?!」
そう叫んだのはガリア軍第7小隊長、ウェルキン・ギュンター少尉だ。
―ガリア公国。北欧に位置する自然豊かな小さな国だ。市民の力で独立を勝ち取った背景からこの国では国民皆兵制度、即ち全ての国民が有事の際には兵士として招集されるということである。
それを可能にするために各教育機関では軍事科目が必修科目となっており、大学に関しては士官学校も兼ねている。
そこで大学に通うウェルキンは少尉として第7小隊の指揮を任され、幾多の戦いを経て遂に帝国軍を退け、その戦いから凱旋して来た所で…事件は起こった。
いきなりけたたましいサイレンの音が鳴り響き意識が遠くなり気がついたら全く知らない場所にいた。
「ああ、ウェルキン。無事だったみたいね」
「アリシア!よかった、無事だったんだね」
彼女はアリシア・メルキオット。ウェルキンの補佐役で階級は軍曹、偵察部隊長を勤めている。
「おかげさまでね。ところで他の皆は?」
「それが…まだ見つからないんだ…それにさっきまで朝だった筈なのに気がついたら夜になってるし、どうなってるんだろう?」
「私にも解らないわ。とにかく、皆を探しましょう」
「そうだね。そうしよう。幸いエーデルワイス号も無事なようだし」
そして僕たちははぐれた仲間たちを探すことになった。
どっちも1レスだけ?
美少女戦士ものは確かにクロスさせると面白いかもw
42 :
ムスペルヘイム ◆LEivbieokw :2008/09/16(火) 19:20:23 ID:kvZ8gY4y
>>41 続き書こうと思ったんだけど、隊員の名前把握出来てなかった。
43 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/17(水) 20:29:11 ID:LpLXC2Zh
おい、そこはもうちょっと頑張ってくれよ
そうだそうだー
45 :
ムスペルヘイム ◆LEivbieokw :2008/09/18(木) 14:52:43 ID:CsUtkWbb
アリシア,ラルゴ,ロージー
+テッド・ユスチノフ, レミィ・リントン, フロージア・ヨーク, アイカ・トンプソン,サリナス・ミルトン, ミッコリ・ホーキング, ヴァイス・イングルバード, ウェンディ・チェスロック, イーディ・ネルソン,
リィン, ヤン・ウォーカー, セオルド・ボーア, エリシス・ムーア, ヘルバート・ニールセン, ネーディレス, マリーナ・ウルフスタン, ツェザーリ・ルガード
というメンバーで行きたいんだけど
そんな大量にキャラ書き分けれるのか。
メイン数名に絞った方がいいだろ。
キャラが多いと書くの難しいぞ
48 :
ムスペルヘイム ◆LEivbieokw :2008/09/18(木) 18:43:01 ID:CsUtkWbb
もちろんメイン以外はパッと出でいく。要するにたまにメインの命令受けて出て来る程度
49 :
ムスペルヘイム ◆LEivbieokw :2008/09/18(木) 20:19:15 ID:CsUtkWbb
けど方向性が決まってない。
第7小隊となのはたち機動六課で全面戦争するのか、あるいは協力してナンバーズと戦うのか。
どっちがいいかな?
>>30 おお、ランスの、しかもタクガからスタートですか!龍馬気に入ってるのに二次SSはおろか
ニコ動でもあんま関連したものがなくって淋しかったので嬉しさを隠し切れません(笑)
しかしまあ、モロ18禁な龍馬の『体質』とかを知った際の仗助の反応が、個人的にはすっごく
気になるよーな……。
>>50 感想ありがとう!
俺もタクガ勢は大好きです
で、夏休み明けの修羅場がようやく終演を向かえたので続きを書きたいのですがどの勢力を書くべきか分かりません
だから
>>52!過疎の中で安価するのは自殺行為だが君に任せよう
ちなみに今川家、伊賀家、天子教、原家はネタがないから勘弁www
うん、多人数は無謀だって分かってるけどあえて頑張りたいんだ
出来れば生暖かい目で見つめていてくれ
52 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 17:18:34 ID:9XUpv1KM
>>49 自分が書きたいと思ったものを書けばいいのさ
(便乗してるようであれですが)大事なのは『書くべきか』じゃない、『書きたいか』ですよ。
54 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 19:36:53 ID:ZnBOQyyt
自分の書きたいものじゃないと結局続かないしね
55 :
ムスペルヘイム ◆LEivbieokw :2008/09/20(土) 20:42:02 ID:p0j/1vYN
僕はエーデルワイス号を降りてアリシアと共に皆を探した。だけど今は夜、それも深夜な上に鬱蒼とした森の中なので探すのは一苦労だ。
けどアリシアがここにいた以上他の皆もこの周辺にいるのは間違ないはずだ。その時、近くの草かげから足音が聞こえた。
どうやら一人のようだ。もしかしたら帝国軍の兵士かも知れない。僕とアリシアは銃を構えた。
だけど出て来たのは帝国兵じゃなかった。
「…マリーナ!無事だったんだね?」
「ああ、おかげさまで…隊長たちも無事で何よりだよ…」
彼女はマリーナ・ウルフスタン。小隊一のスナイパーだ。って言っても彼女の他にはツェザーリしかいないけど。
「他の皆を見なかった?私達で探してるんだけど…」
「ああ、他の隊員なら全員向こうで気絶してたな…起こそうかとも思ったが一人でいられるいい機会だったんでな…
それをやめてしばらくうろついていたら隊長たちと出くわしたという訳だ…
案内するよ、ついて来てくれ」
「ああ、助かるよ」
そして僕たちはマリーナについていき、3分ほどで皆の所へたどり着いた。
「ほら、ここだよ…けど起こすなら隊長たちでやってくれ…みすみす孤独を手放す真似はしたくないからな…」
「アハハ…マリーナは本当に孤独が好きだね…けどさ、僕たち小隊はみんな家族なんだ。もちろんマリーナもその一員さ。
だからマリーナにもみんなを起こすのを手伝って欲しい。無理にとは言わないけどね」
「家族…か。解ったよ…私も手伝おう…」
「ありがとうマリーナ」
そして僕たち3人は隊員たちを起こしてまわった。すんなり目覚めた人もいればなかなか起きない人もいた。これも個性かな?
「よし、全員起きたね。じゃあ点呼をとるよ?」
僕は隊員一人一人の名前と顔を確認した。よし、全員いる。
とりあえず自分が前に書いた作品を続きも書きたいので投下します。
もちろん最初から投下するのでよろしければ感想ください
クロスはフェイト×スクイズその他諸々です
タイトル Fate/ School Collaboration
自室に佇むのは制服の男子が一人。そしてもう一人は長身の目隠しをされた女性だった。
「あなたが私のマスターなのですか?」
「えっ!?」
「あなたが私のマスターなのでしょうか?お答えください」
「あっ………ああ。俺が召喚……………したんだと……思う」
少年は戸惑いながらも女に対し答える。
「そうですか。あなたが………お名前は」
「伊藤…………誠」
「マコトですか?私はライダーと申します。真名も教えましょうか?」
「あっ、ああ、ライダー………ね。別に真名はいいよ。じゃあちょっと俺は外に出るよ。風当たりたいし」
「えっ?あの?」
長身のライダーの言い知れぬプレッシャーに耐え切れず、誠は外へと走り出した。
「お待ちください!お一人では危険ですよっ!マスター!?」
ライダーは思わず追いかける。
しかしそれに構わず誠は全力で走る。
どれだけ走っただろうか。
とにかく街の入り組んだ造りを利用して逃げたので何とか撒いたはずだが逆に自分も知らない学校へと迷い込んでしまった。
しかも既に夜が遅い。辺りはすっかり暗くなり、完全に迷子になってしまった。
「どうしよう?それにこの手は一体?」
誠は思わず右手の甲を見る。
刻まれた令呪。
それが確かに右手の甲にあった。
しかし、今の誠にはそれが令呪である事すら理解出来ない。
いや、魔術などまともに知らずに偶然マスターとなってしまった誠にはあのライダーという女が既に正体不明の危険人物に過ぎない。
だが、今後の事を考えるより先に、一人の女が誠の前に現れたのだ。
「へえ、見ない顔だけどマスターね。しかもサーヴァントも連れずに令呪も隠さないでなんのつもり?だけどまあいいわ。素直にその
令呪を破棄するなら見逃してあげるからさっさと手を出しなさい」
「えっ?」
誠の前に現れたのはツインテールの一人の少女だった。
しかし、その注文の意図が誠には理解できなかった。
「令呪?令呪って何だよ?」
「はあっ!?令呪を知らないって嘘でしょ?」
「サーヴァントとか令呪とかふざけるなよ。俺は何も知らないって?」
少女のあきれたような口調に誠も思わず反論をする。
でも、その反論は特に意に返さずに少女は続けた。
「いいわ。なんかむかついたし、アーチャー。とりあえず彼の口を黙らせなさい」
「ふふ。相変わらずマスターは手加減を知らない」
「うっさい、やりなさい」
「承知した」
と少女が突然背後の虚空に呼びかけると、そこから一人の赤い外套に身を包んだ騎士のような風貌の男、アーチャーが現れた。
「では、なるべく苦痛を与えずに意識を奪うか」
その一言と同時にアーチャーは疾走する。
そしてアーチャーの双剣は――――――
――――――――新たなる乱入者によって止められた。
「人のマスターをいきなり襲うとは………許せません」
先ほどの女性ライダーだった。
その様子を見て思わず誠は思った。
俺は一体どうしてこんな目に遭ってるんだ?
その答えを得るために、時間を今日の昼まで巻き戻す。
1話 危険な日々が始まる
十月上旬。
伊藤誠、西園寺世界、桂言葉の三人は仲良く屋上で昼食を取っていた。
しかし途中で委員会の呼び出しが掛り、桂言葉は途中で退出を余儀なくされる。
そして桂言葉が去って後、自分のパンを食べ終えてコーヒー牛乳を飲んでいる伊藤誠があることに気付いた。
「あれ?これって?」
「桂さんの生徒手帳じゃない。誠届けてきたら」
「そっか……じゃあ届けてくるよ。また教室でな」
「うん」
誠は拾って来た生徒手帳を届けに委員会に向かう。
すると室内はなにやら混雑模様で入れる雰囲気ではなかった。
これは……放課後にでも渡すか。
そう判断し、教室の方へと戻っていく。
教室に戻ると、世界が待っていた。
「どうだった?」
「何だか入りにくい雰囲気でさ。いろいろ会議が長引いてるみたいだ」
「そうなんだ。………じゃあさ。放課後に家にでも届けに行けば」
「家って……いきなり家に行ったら失礼だろ!」
「大丈夫だよ。『忘れ物を見つけたから渡そうと思ったんだけど、学校で渡すタイミングが無くて』とか言えば問題無いって」
「でも………」
「大丈夫だって。ひょっとしたらこれが桂さんとの仲を近づける最高の機会になるかもしれないんだよ」
「うう……………分かったよ。行ってみる」
「うん、よろしい」
「はあ」
伊藤誠がため息をついたのと、授業開始のチャイムが鳴ったのはほぼ同時だった。
言葉の家に行くのか。だけど………いきなり家ってやっぱ不味いよな。けど世界には行くっていったから、嘘付いたら明日
色々言われそうだし。頑張るしかないのか。
放課後になる。
伊藤誠は生徒手帳に記してあった住所を頼りに桂言葉の家へと辿り着いた。
「ここ……か。凄い家だな。言葉って……お嬢様だったんだな、凄い凄い」
思わず感心しながら、呼び鈴を押す。
すると、小さな女の子の声が聞こえてきた。
「どなたですか?」
「伊藤誠って言います。言葉さんの学校の友達ですが、言葉さんが生徒手帳を落としたので届けに来ました」
「ええっ、お姉ちゃんの友達っ!?………わっ、分かりました。すぐ開けます」
?言葉の妹かな?何だか凄い驚いてたけど。
そんな事を考えていると、すぐに門が開いて、小さな少女が出迎えてくれた。
「始めまして。桂心です。上がってください」
「はっ、はい」
少し緊張しながらも、伊藤誠は家に上がる。
案内された応接間のソファに座ると、深呼吸をして心拍数を安定させるように努める。
すると、心ちゃんはすぐに二人分の紅茶をトレイに乗せて応接間へと戻ってきた。
「えへへ。待った?」
「いや、大丈夫だけど。言葉は?」
「お姉ちゃんなら今はちょっと離れの方に居るの。これから大事な事があるから部屋には入らないでほしいみたい」
「そうなんだ」
「ところでさ……誠くんってお姉ちゃんの彼氏?」
「えっ………ええええェェェ!!!???」
思わず大きな声で驚いてしまう。
すると、心ちゃんはすぐに笑ってきた。
「ははは、誠くんそんなに驚いておかしいんだ。でもお姉ちゃんにも彼氏が出来たんだ。ちょっと意外」
「彼氏じゃないって。それに……意外って何が?」
「だってお姉ちゃんって彼氏とか出来そうな雰囲気じゃないんだもん」
「そうかな?可愛いし、俺は付き合ってて嫌な気はしないけど」
「ああっ、やっぱり付き合ってるって言った。誠くん嘘つきだ」
「って、友達として付き合ってるって意味」
思わず全力で否定してしまう。
しかし、それすらも心ちゃんにはあっさりと流されてしまう。
「うん。それでもいいよ。どうせすぐに好きになっちゃうと思うし」
「好きにって……」
「それより……今日は帰った方がいいかも。結構大事な事をやってるから、今日はあまり話せないかも」
「そう。じゃあこれを言葉に」
「はい。ちゃんと渡しておくね」
「ああ、じゃあさようなら」
「うん、またね」
こうして誠は桂家を出て行った。
このまままっすぐ帰ればきっと、問題なく平穏な日常が帰ってくるはずだった。
しかし、それは適わなかった。
んっ?何だろ?向うから変な空気が
玄関を出ると、離れの方からおかしな空気が漂っているような錯覚を覚えた。
人の家の庭内を勝手に歩く事は気が引けたが、好奇心に負けて近づいてしまう。
何だろ。空気が違う?一体何が?
締め切られた窓、閉じられたカーテン。
でもカーテンには、わずかばかりの隙間があった。
その隙間から中をのぞき見る。
すると、中からは想像していなかった光景があった。
なっ!?何だよあれ………魔法陣……………なのか?だけど……光ってる?
中の光景。
それは桂言葉が魔法陣の前で何か呪文を唱えているものだった。
魔方陣は輝き、それと同時に誠の周囲の空気も流れを変えている。
嫌な感じがする。逃げるか。
嫌な予感を覚え、誠はその場を後にする。
足早に門を出て、帰路へとつくのだった。
はあ。だけど………一体何だったんだろ。
帰ってからも、あの光景が何度も脳裏をよぎる。
魔法陣に不思議な呪文。
よく理解出来ないけど、不思議な力があの場所には会った気がした。
俺も……やってみようかな。言葉の事………知っておきたいし。
そう考えると、見よう見まねで部屋に魔法陣を描き、適当にそれっぽい呪文を唱える。
まあ、光る分けないんだけど………ってええっ!?
誠は声にならない驚きを覚えた。
そう。魔法陣が輝きだしたからだ。
「えっ……ええっ!?」
いくらなんでも、まさか………だけど、一体……?
そんな考えしか頭には浮かばない。
説明出来ない超常現象に頭が混乱してしまっている。
しかし、これはある意味必然な事であった。
伊藤誠の血は特殊な血である。
それは一種の魔法じみた物だ。
つまり、従来とは全く違った形で魔力を保有しているのと同義だ。
そんな魔力保有者が先ほどの言葉の魔術行使の場面を見てスイッチが入ってしまったら……
サーヴァントを呼び出せるのは至極当然ともいえた。
そして、その誠の召喚に応じ、一人のサーヴァントが誠の眼前へと現れたのだ。
これが伊藤誠とライダーの初めての出会い、そして聖杯戦争の始まりとなった。
二話 そして魔術師がもう一人
校庭は戦場だった。
伊藤誠のサーヴァントであるライダー。
ツインテールの少女のサーヴァントであるアーチャー。
両者の死闘は一歩も譲らず既に十分は超えていた。
「なかなかやるな、ライダーのサーヴァント」
「それはそちらも同じでは」
交差する武器は、アーチャーの双剣である干将莫邪、そしてライダーの鎖のついた刺されば抜けることの無いダガー。
それはどちらも優れた業物であるが、決して宝具とは違う。
それでいてこのハイレベルの死闘に、伊藤誠もツインテールの少女も目を奪われていた。
しかし、それはどちらもマスター。
やはり死闘を見届けながらも互いに会話を交わす余裕はあった。
「へえ、あんたのサーヴァント意外をやるじゃない」
「あっ、ああ。だけど……伊藤誠があんたとか呼ぶな」
「へえ、伊藤誠……平凡な名前ね」
「そういうお前はどうなんだ?」
「私、遠坂凛よ」
「凛……ね。書きにくそうな名前だな」
「なっ!?」
マスターの舌戦も負けず劣らずの好勝負である。
そして凛と誠を尻目に、二人のサーヴァントの死闘は片側に寄りつつあった。
「はあっ!」
「っ!」
鎖とダガーによる変幻自在の攻撃をアーチャーは全て捌ききる。
そしてその後一瞬の隙をを見せたライダーに対しアーチャーの一撃が左肩へと深い裂傷を与える。
地力に勝るアーチャーにとって、この転機は半ば自然な物だ。
「終わりだ」
「くっ」
アーチャーが剣を振り上げ、トドメの一撃を加えんとする。
「ラッ、ライダアアアアアァァァァァッッッッッーーーーー!!!!」
誠が叫ぶ。
しかし、それは届かずに正に絶体絶命。
だが、それは―――――――――
「なっ!?」
―――――――――とても長い一本の長刀によって防がれた。
「私はアサシンのサーヴァント佐々木小次郎。戦いの邪魔をするなど本意ではないが、マスターの頼みゆえライダーに
助力させてもらう。アーチャーのサーヴァント。私が相手をしよう」
佐々木小次郎と名乗る男は、名刀物干し竿を構え、アーチャーに向き合う。
「アサシンと名乗りながら、真っ向から剣で勝負か。変わった奴だ」
「笑止。双剣を携える弓兵も同じことだろう」
「そうだな」
両者は不適に笑いあいながら、剣を交えた。
「はあっ!」
アーチャーの双剣とアサシンの刀が交差する。
勝負は、間合いとの戦い。
剣の間合いに置いて圧倒的なリーチを誇るアサシンに対し、アーチャーは飛び込めない。
鋭く早い太刀筋。
それに対応しきれず、アーチャーは小さな刀傷を受け続ける。
しかし、どれも極軽い物。
勝負を決するに至るものではない。
「なっ、何をやってるのアーチャー!アサシンなんてさっさと倒してしまいなさいっ!」
苦戦するアーチャーに凛は激を飛ばす。
しかし、アサシンの正確無比な攻撃にアーチャーは迎撃するだけで精一杯だった。
無茶な特攻は死以外の結果を生みはしない。
それを知るアーチャーはアサシンに踏み込めないでいた。
「ああもう!いいわ、それなら私が援護を」
凛はガンドを撃とうと構える。
だが撃つ寸前。
首筋につめたい感触が走る。
「っ!?」
「始めまして、アサシンのマスターと桂言葉と申します」
背後からしたのは女性の声。
首筋には刀を突きつけられている。
それで凛は自身の危機を察した。
「………どういうつもり?」
「あなたを殺すつもりはありませんよ。ただここを立ち去ってくれたら構いません」
「へえ、せっかくマスターを一人殺せるチャンスなのに見逃すんだ」
「はい。今回は私のとても大切な誠君を助けに来ただけです。アサシンも私も不意討ちは好みません」
「……そう。分かったわ」
凛はそれだけを確認すると、ガンドの構えを解く。
それと同時に言葉も刀を鞘に納める。
「へえ、意外と可愛いのね」
「そうですか。ありがとうございます」
凛と言葉は互いに向き合い。
それは決して和気藹々と言う物ではない。
「では、アーチャーを連れて立ち去ってください」
「そう………ね。じゃあそうするわ」
凛は言葉と距離をとりつつ、アーチャーの方へ向かおうとする。
そして言葉の刀を間合いから完全に離脱したのを確認し、即時に構えを取る。
「残念ね!私のガンドは一瞬で撃てるのよっ!」
凛は言い終えるより早くガンドを言葉に向けて放つ。
「はあっ!」
しかし言葉はそれを刀で切り裂く。
言葉の刀はアサシンを呼び出す媒体にしようした名刀古青江。
古くからの歴史は妖怪を切り裂くのにも使用したといわれ、その刀に秘められた魔力はガンド程度を跳ね返すのは容易い物だった。
「一発なら駄目か。それならっ!」
凛は一気に連射する。
でも、それを言葉は全てを居合い一閃で全てを一掃する。
そのまま一気に走り、凛との距離を詰める。
「そんなっ!」
「はっ!」
言葉はそのまま凛の首筋に刀を峰で打ち付ける。
それは威力自体は弱めたのか、肉体的な決定打には至らない。
しかし、精神的には充分過ぎる決定打となり凛を襲った。
「その程度ですか?」
「あっ、あっ」
凛は先の一瞬で死ぬと思った。
死を恐怖した。
腰を抜かし、地面へと尻餅をつく。
「そうですか。それではトドメにします。思ったよりもつまらないので」
「ひいっ!」
言葉は凛の頭上へ打ち下ろそうと刀を大きく振り上げた。
それと同時、凛はあまりの恐怖に下半身に生暖かい感触を覚えながら、意識をフェードアウトさせてしまう。
「………………」
その凛の様子に言葉は刀を鞘に納める。
スカートの中から溢れる体液で水たまりを作ったまま気を失う魔術師を哀れに思ったのか、それとも刀を血で汚すのを嫌ったのか。
その両方か。
様々な感情を思わせる表情を作ったまま、未だ戦闘中にアサシンに声を掛けた。
「アサシン!用事は済みました。帰りましょう!」
「承知した」
その言葉に、アサシンはアーチャーとの距離を大きくとった。
アーチャーも視線を凛の方に戻し、ようやく異変に気が付いた。
「マッ………マスター…………」
「安心してください。気を失っただけですから」
言葉はそれだけ言うと、アサシンの元へと歩き出す。
それと入れ違いにアーチャーは凛の方へ走る。
「なあ、言葉。これは一体?」
「大丈夫ですよ。誠君。まずは教会に行きましょう。そこで教えますから」
「あっ、ああ」
「それと一応ライダーは誠君の家に戻して回復に専念させた方がいいですよ。重傷ですし」
「そうか………ライダー。そういう事だから家に戻ってくれ」
「ですが」
「大丈夫だ。言葉は信用できる。それにライダーだって助けられただろ。だから」
「………分かりました。ですが、マスター。気をつけてください」
「ああ。それに事情教えてもらったらすぐに戻る」
「はい。それでは」
それだけ話すとライダーは霊体へと戻り姿を消した。
言葉の方もアサシンは既に霊体へと戻したようで、誰も居なかった。
また、先ほどの襲撃者遠坂凛も、アーチャーが背負っていったのか姿はなくなっていた。
「じゃあ……行きましょうか」
「ああ、色々教えてくれよ」
「はい、教会に行けば必ず教えます」
こうして伊藤誠と桂言葉も教会へと歩き出す。
つい先ほどまで戦場だった学校の校庭は、何事も無かったかのように静けさを取り戻していた。
三話 狂戦士の登場 /幕間 失意少女
伊藤誠と桂言葉は言峰教会に向かい歩き続けていた。
その道中、伊藤誠はあることを問いかけた。
「ところでさ、言葉」
「なんですか?」
「この厄介ごとの全容は教会についてからでいいんだけどさ。これだけは教えてくれ。どうして俺のピンチがわかったんだ?
俺は言葉が召喚したのに驚いて逃げたんだけど。」
「ふふ、私は誠君の事なら直感で分かるんですよ。だから心の赴くままに走ったらすぐに着いちゃいました」
「そうなんだ」
「はい。でも相手のマスターがそれほど強くなくて助かりました。もし実戦派だったら私の方が負けちゃってたかも」
「いや、言葉は強いよ。多分俺よりも強い」
「いえ、そんな事は」
と笑いながら歩いていると教会へとたどり着く。
そこで言葉は表情を引き締めなおした。
「ここからは少しまじめな話になるので……誠君も真剣に構えてください」
「ああ。大丈夫だ」
「はい。では」
言葉が扉を開くと、二人を待ちかねていたように一人の男が立っていた。
「こんな遅くにお客さんか」
「はい、サーヴァントを召喚したので一応の挨拶に来ました。それと彼は私の友達で同じくマスターの……」
「伊藤誠です」
「そうか。君達がマスターか。ところで桂の娘。アサシンを召喚したのは確認したが、面白い者を召喚したな」
「ええ、普通にアサシンを召喚しても良かったんですけど………『魔法少女』ですので。『魔術少女』とは違う所を見せました」
「そうか。名に負けぬ面白い事をしてくれる」
「はい。それで誠君は聖杯戦争についてまだ良く知らないらしいので、出来ればルールを教えてあげてください」
「いいだろう。では伊藤誠。一度しか言わぬから、よく聞くがいい」
「あっ、ああ」
こうして言峰は伊藤誠に対し、聖杯戦争のルールを説明していく。
(中略)
「それで……俺はライダーを使って他のサーヴァントかマスターを倒せばいいのか」
「その通りだ………では問おう。お前はライダーのマスターとして、この聖杯戦争を戦い抜くと誓うのか」
「当たり前だ。言葉だって参加してるのに逃げられるわけ無いだろ。願い事とかはまだ分からないけど、それは戦ってる途中で
見つかると思う。今は前だけを向いて戦う。それが俺の答えだ」
「ふむ。いい答えだ。なら行くがいい。自身の信じた道を、ただまっすぐにな」
「ああ」
誠は言峰との会話を終えて、教会を後にしようとする。
言葉もそれについていくが、途中で足を止めて、言峰へと声を掛ける。
「一つだけ聞いても良いでしょうか?」
「なんだ」
「現在サーヴァントは私たち以外に何体召喚されましたか」
「そんな事か。結論から言えば既に七体全てが召喚された、最初にかなり早い時期にバーサーカーが召喚されたが他は昨日と今日に
集中している。昨日にキャスターとアーチャーが召喚され、その翌日にアサシンとライダーが召喚された。その後すぐにランサーが
召喚され、つい先ほどセイバーの召喚を確認した。つまり現在全てのサーヴァントがこの冬木の地に集結していると考えれば良い」
「そうですか。ありがとうございます。それでは」
「ああ、ではな」
確認を終えると言葉は誠を追って教会を出ていく。
そして二人で家へと歩き続ける。
「今日は誠君を家まで送ってあげますね」
「いや、いいよ。言葉だって家の人が心配するだろ」
「聖杯戦争の間だけは門限が解禁されてるから大丈夫です」
「でも……」
言葉の提案に断りを入れようとした時だ。
不意に一人の少女の声が二人の耳に届いた。
「ふーん、シロウを待ってたら別のマスターが来ちゃった」
「えっ?」
思わず間の抜けた声で誠が聞き返すが、少女は意に返していなかった。
「私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。隣が私のサーヴァントのバーサーカーよ」
イリヤと名乗る少女の横に立っていたのは真紅のコートに身を包む、眼鏡を掛けた長身の男だった。
その男は一歩前へ進み出ると、静かに話し出した。
「始めまして。私はアーカード。君たちの相手をするものだバーサーカーという名では呼ばないでほしい。
マスターにもそういったはずだが」
「うふ、ごめんなさいアーカード」
「なに、別に構わないさ。それよりも……マスター。オーダーを、オーダーを唱えろ」
「そうね。せっかくだし、あのマスター二人をやっつけちゃいなさい」
「承諾だ!」
アーカードは一歩前へと踏み出し、二挺の拳銃を構える。
アーカードの宝具である、454カスールカスタムオートとジャッカルだ。
それを抜くと照準を二人に合わせる。
「準備はいいかな。さあ、狩りを始めよう!」
「アサシン!戦闘準備!誠君は私かアサシンの後ろに!」
「あっああ」
「ほう、吸血鬼とは面白い者と戦えるようだ」
伊藤誠はすぐさまに桂言葉の背後に姿を消し、アサシンと桂言葉で迎撃体勢を整える。
BANG! BANG! BANG!
銃声と共に強大な威力を秘めた銃弾が二人を襲う。
「ふっ、その程度か」
しかしアサシンはその銃弾を全て払い落とし、一気にダッシュで間をつめる。
そしてそのまま――――――――――――
「遅いな」
――――――――――――瞬時でアーカードの首を切り落とした。
「呆気ないですね。アサシン、そのマスターから令呪を奪ってください。少女ですので手荒な真似はしないでください」
「承知した」
アサシンはイリヤの方へ一歩近づいていく。
しかし、背後から一つの声が響いた。
「くくく、ハハハハハハハハハ!!私の首を飛ばしたぐらいで勝敗を決したつもりか。甘い!甘すぎるぞ!!それでも侍か!!」
「なっ、がっ!!」
アサシンは振り返ると、そこには先ほどと変わらない元通りの姿のアーカードがいた。
そのまま腕を一息に振りぬき、アサシンの側頭部を横殴りに殴り飛ばす。
「くっ、なるほど、さすが異国の化け物。首を撥ねたぐらいでは死なぬか」
「化け物?フフフ面白い事を言う。ならお前は狗だな。チェックメイトだ!」
アーカードはトドメとばかりにアサシンに向けて銃口を向ける。
しかしそこで、意外な攻撃が入った。
「私が居るんですよっ!!」
桂言葉だった。
言葉の不意討ちの居あい抜きでアーカードの腕を切断し、アサシンを窮地から救い出す。
「どうですか。ただの人間と思って油断しない方が……うっ!」
言葉が刀を鞘に戻そうとした一瞬の隙。
そこをついてアーカードの残った左手での裏拳。それが言葉の腹部に決まり、思わず言葉もその場に倒れこむ。
「弱い!弱すぎる!!あまりに弱いではないか。私を失望させるなよヒューマン!これでは私がサーヴァントとなった意味が無い」
「ふっ、ふざけるなよ。アーカードオオオオオォォォォォォォォォォッッッッッッッ」
伊藤誠は激昂した。
桂言葉に手を挙げた男に、伊藤誠は激昂し、全力で走り出す。
「仇だああああぁぁぁぁぁっっっ!」
誠は全身全霊を止めた右のこぶしをアーカードの顔面にたたきつけた。
しかし、それはアーカードの眼鏡を割るが本体へのダメージには至らない。
「奢るなよ小僧!!!」
アーカードは伊藤誠の顔面を殴り飛ばす。
そのまま壁にぶつかり、壁を破壊したまま倒れこむ。
「終わりだ」
アーカードは右腕を再生させ、再びジャッカルを構えると、最初に向かってきたアサシンに対し、トドメの銃口を向ける。
「これで終わりだ。本当にな」
「………無念だ」
勝負は決したかのように見えた。
しかし、まだだ。
先ほどのアーカードの眼鏡を割った際に急速に強化した拳。そして数刻前のライダーの召喚。
この二つの要因による急激な魔力の開放。それが伊藤誠に想像以上の変化を与えていた。
伊藤誠の本来の力。
それが左の目を覚醒させる。
本来の魔力属性。伊藤誠の不器用なまでいびつな魔術回路。それは唯の一つにのみ特化した唯一無二の魔術だった。
これが……俺の魔術。やるしか………無いな。
誠は意を決し立ち上がる。
「ちょっと待てよっ!」
「ほう、あれで立ち上がるか。素晴らしい狗だ」
「ふざけるなよ………アーカード!お前は……立ち去れ!」
伊藤誠は赤く光った左目でアーカードをにらみつけ、命令を下す。
するとアーカードの目は薄く赤く光り、ゆっくりと背を向ける。
「分かった。立ち去ろう」
アーカードは嘘のように背を向けてその場を離れていく。
「………へえ、それがお兄ちゃんの魔術ね。凄いわ。だけど……次は負けないんだから」
「ああ、次は俺も負けない」
「ふん。じゃあね」
イリヤは何かに気付いたのか、誠に声を掛けてから立ち去っていく。
そして伊藤誠と桂言葉とアサシンのみがその場には残る。
「誠君。さっきのは?」
「ああ、それは俺の……うっ」
言いかけて止まる。
誠は先ほどの打撃のショックと、急な魔術行使による精神疲労が重なり、急激な眩暈に襲われる。
「ぐっ、あっ………」
そのまま地面へと倒れこむ。
伊藤誠はそのまま頭痛に苦しみながら意識が沈んでいった。
幕間
アーチャーはソファーに座りながら考え込んでいた。
目の前には先ほどアーチャーが敷いたバスタオルの上で横たわるマスター遠坂凛の姿があった。
アーチャーは当初、恐怖のあまりに水たまりを作り出す凛に少々の呆れを持ったが、すぐに考えを吹き飛ばし、屋敷へと担ぎ、
床を汚さぬようにバスタオルを敷き、その上へと凛を横に寝かせた。
そして今は、その凛を前にアーチャーは考えを巡らせていた。
本来考えるべきことは、今日対峙したアサシンとそのマスターの方が大事なのだが、現状の凛への対応。
これが非常にアーチャーを悩ませている。
どうするべきだろうか。衣服を脱がすわけにもいかんが、かといって目覚めた凛の着ている服が染みの付いたスカートと
ショーツではあまりにも惨めだ。しかし………それは私が着替えさせても同じ事か。第一に凛の着替えの所在など把握しきれて
居ない現状ではどうにもしようがない。やはりここは凛が早期に目覚めるのを期待するしかないか。
何とかアーチャーは自身で凛への対応を決めた。
すると、すぐに凛は意識を覚醒させていった。
「んっ、ここは……?」
「君の家だ。凛。君はアサシンのマスターに敗北し気を失った所を私が運んできた」
「そ、そう。…………えっ!?私…………アーチャー。ちょっと地下の方に行っててくれない」
「承知した」
凛の様子を察したのか、アーチャーは言葉少なく、地下のほうへと消えていった。
アーチャーの気配が無くなったのを確認してから、凛はスカートをめくり中を確認する。
当然嫌な臭いが漂って、凛を鼻腔をくすぐった。
「ううっ、私……怖かったからってそんな…………」
スカートの中の下着は既に黄ばんでいた。
当然スカートの後ろの部分も黄色の染みが残っている。
まだ半乾きで地味に嫌な感触までする。
「シャワー浴びないと」
凛はシャワーを浴びに浴室へと向かう。
汚した服は洗濯機に入れ、染み抜き用の特殊洗剤を入れてスイッチを押す。
そして美しい肢体を露わにしたまま、汚れた体を清めていく。
「桂言葉……アサシンのマスター。だけど………アサシンなのにあれは一体………どうして佐々木小次郎がアサシン?
どういうこと?………………まあいいわ。次は、次こそは……覚悟しなさい。絶対に勝ってやるんだから」
遠坂凛は強気を崩さずに、復讐を誓う。
その瞳は明らかに狂気をまとっているように見えた。
四話 覚醒する魔術 / 幕間 悲壮な朝 /幕間 イリヤの考察
「うっ、ここは?」
「誠君!?大丈夫ですか}
寝苦しそうにしながらも目覚める誠に言葉の優しい声が聞こえる。
その声に目覚めると、言葉が優しそうに微笑む。
「あのさ。ここは一体?」
「誠君の家ですよ。あれから誠君は気を失っちゃって。それで私が家まで運んであげました」
「そうか。ありがと、いてっ!」
体を起こそうとするが、頭痛が襲い起き上がれない。
「大丈夫ですか?今は安静にしてください」
「ああ」
言葉に従い誠は再びベッドで横になる。
すると、アサシンが誠へと声を掛けた。
「一つ聞きたいのだが、昨日見せた魔術。あれは何だ」
「魔術?アサシン?私のマスターが何かしたのですか?」
「ああ、面白い物だったぞ。突然目が赤く光ったかと思えば命令一つでバーサーカーを撤退させた、面白い術だ」
「マスター?それは一体」
アサシンに続きライダーも誠に確認を取る。
言葉もそれは気になっていたのか、二人を止めずに思わず聞き入ってしまっている。
すると誠は静かに真相を口にする。
「実は………あれはギアスだよ。俺の唯一の魔術で、親父に教えてもらった。親父の血縁者は皆何かしらのギアスの素質は
持ってるらしいんだけど、俺のは特殊でさ。俺が目を見て命令すると逆らえないんだ。令呪の命令より優先される絶対遵守の
ギアス。これが俺の魔術だ。それで昨日は退けたんだ。まあ封印してから五年ぐらい使ってなかったけど。」
「ギアス………だから私を呼び出せたのですね。同じ魔眼の持ち主なら道理だ」
「えっ!?」
「いえ、忘れてください」
「ああ」
急にライダーが独り言を言ったので聞き返したが、あっさりと跳ね返す。
誠も無理な追及は好まないので、無理には突っ込まず、話を続ける。
「だけど………一人には一回しか使えないし、使えば凄く魔力を消費する。昨日は体力不良もあって気を失ったけど、健康な状態でも
一日に三度発動させたら気を失うと思う。乱用は出来ない」
「誠君。そのギアスですけど、相手の目を見なければ発動しないんですか?」
次は言葉が誠に質問をする。
すると誠は一呼吸を置いてから答える。
「無理だよ、昔は色々と町の人で練習したし、教えても貰ったから間違いは無い」
「そうですか。ありがとうございます」
誠の返答に言葉は満足したようだった。
そして次は誠から言葉に提案した。
「なあ。提案なんだけどさ。しばらく一緒に手を組まないか」
「えっ!?」
「いやさ。俺は戦い抜くつもりだけどさ。出来れば言葉とは戦いたくは無いから。それに俺一人じゃやっぱり不安だから……」
「もっ、もちろん構いません。アサシンもいいわね!」
「構わない。マスターに従うさ」
「アサシンもいいって言いました。誠君は私が守りますっ!」
「いや、守るって……俺は『共に戦う』つもりだ。ライダーもいいよな」
「構いません」
「ほら。だから守るとかじゃなくてさ。一緒に戦おうぜ。なっ」
「………分かりました。では一緒に」
「ああ」
言葉と誠は共に手を取り合う。
そしてそこでふと誠は時間に気付く。
「そういえば言葉。時間は?」
「えっ?まだ8時前ですが」
「8時前っ!急がないと遅刻するぞ」
「あっ」
「急ぐぞ!」
「はっ、はい。あっ、私は制服………誠君先に行ってください。私は走って家に帰って制服とって来ます」
「ああ、急げよっ!」
「はい!」
誠の一言で学校を思い出すと、急いで言葉は制服を取りに家へと戻る。
そして誠は制服に着替え、学校へと行く準備をする。
「マスター。私はどうしたら?」
「ああ、霊体になって付いてきてくれたらいい。実体化は学校では止めろよ。目立つから」
「はい」
こうして誠は駆け足で家を出ると、学校へと走り出した。
幕間
凛は怯えていた。
相手はあの日本刀を持ったマスター。
強く早く、自分の魔術を切り裂き襲ってくる。
怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、
その感情が凛を支配する。
凛は必死で抵抗を試みるが、言葉は一切の容赦なく凛を倒す。
ひっ!
声にならない悲鳴をあげて倒れこむ。
そんな凛へと言葉は刀を振り上げる。
切り裂かんとばかりに。
いっ、いや、いや、いや
しかし言葉は躊躇無く刀を振り下ろす。
「いやあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
ガバッと悲鳴を上げながら上体を起こす。
あたりを見回すと、そこは自分の部屋で現在の自分の居場所は自室のベッドの上だと分かる。
「夢?はあ、助かったぁ」
先ほどの恐怖が現実でない事を知り安堵する。
しかし、凛は起き上がろうとして嫌な感覚に気付く。
んっ!何これ?お尻が…………冷たい!?」
「まさかっ!」
焦ってシーツをめくるが、凛のネグリジェとベッドはぐっしょりと濡れていた。
先ほどの夢の恐怖で寝たまま漏らしてしまったのだ。
「そんな。私……おねしょ?嘘でしょ。うっ、うう」
思わずすすり泣いてしまう。
昨日の言葉に刻まれた恐怖は一度ならず二度までも下着を濡らしてしまったのだ。
「私……戦えるの………………………って何してるの私。まだ誰も知らないんだから、シーツは裏庭に干せば良いんだし、まずは
シャワーを浴びなきゃ。綺麗にして後始末して学校よっ!」
無理にでも空元気を出して、凛は濡れた服を脱ぎだした。
脱いだ下着に染みが出来ていたのは泣きたいが、必死でこらえて凛は気を取り直す。
「頑張れ私!」
その元気はどこか物悲しさがあった。
幕間
イリヤスフィールとアーカードは自室で作戦を考えていた。
対策。あの伊藤誠の使った魔術についてだ。
「じゃあアーカードは昨日の事は覚えてないの?」
「その通り。私は気が付いたら城に戻っていた。あのアサシンにトドメを刺そうとした瞬間までの記憶しか私には無い」
「そう。じゃああれは……………まさかギアス」
「ギアス。面白い魔術だ」
「いえ、あれは魔術より魔法に近いわ」
「魔法?それでマスターは知っているのか?」
「ええ。せっかくだから全てを教えてあげるわ。最初にこの地に着いたのは主に、間桐、遠坂、アインツベルンの三家だけど、
実はその時は沢渡止という男も一緒に魔術をやっていたの。だけどこいつは魔術の一極集中を極める為にあらゆる女性に妊娠させて、
その娘や孫にも妊娠させて血を濃くする事で魔術強化に努めたクレイジーよ。当然他の三家とは早々に離縁してしまったわ。だけどね。
その時にやっていた魔術が………ギアスなのよ」
「ほう。それでそのギアスとは一体どういうものだ?」
「私も正確には知らないわ。ただ………沢渡止の血を引く物は全てギアスの素質があって、そのギアスの特性はその一部分のみに
置いてはあらゆる魔術を凌駕する魔法に昇華されていると聞いてる。だからきっと昨日のも………そうね。恐らく催眠術の類のはずね。
もしくは擬似令呪の強引に執行する呪いの術。どっちにしてもサーヴァントを一瞬で操るんだからかなり厄介ね」
「魔法を操る者。面白いな。次こそは仕留めてやろう」
イリヤから情報を貰うとアーカードは早速とばかりに歩き出す。
しかしそれをイリヤは押し止める。
「待って。まだ早いわ」
「ではどうする」
「まずは………やっぱりシロウにも挨拶をしたいわ。サーヴァントも召喚したはずだから、そのサーヴァントにも人目会いたいわ」
「なるほど。では今宵に衛宮宅に押し入るのか」
「いいえ。周囲で待機したら充分よ。どうせ夜の見回りか何かに行くだろうし」
「そうか。ではそうするとしよう」
その言葉を最後にアーカードは霊体へと戻る。
「ふふふ。楽しみ。…………お兄ちゃん」
イリヤは無邪気な笑みを浮かべていた。
まだ見ぬ士郎を思うその表情は夢見る少女のようであった。
何とか一話から四話まで投下終えました。
続きは後日に投下します。
投下乙
見た限りではフェイト、スクイズ、ヘルシングのクロスでいいかな
ざっと見たけどなかなか面白いんじゃないかな。あとでゆっくり見るか
すごく長いな
投下乙!今からじっくり読むわ
79 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 18:13:38 ID:/aWkhai7
乙! すげぇな……尊敬するわ
80 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 18:15:32 ID:ozVok/up
2ちゃん検索で 創作 クロスと検索したら出てきた。
途中で止まるか批判されなければ失禁癪癌のオナニー小説を見れるのか。
すまん間違えて誤爆したわ。これ別の所に書く内容で
SSとは全く関係ない内容じゃないかすまん。気にしないでくれ。
また突撃認定への工作活動か……
いい加減しつこいぜ
もしや灼眼氏ではないでしょうか?
でしたら、アニキャラ総合板にある専用スレに戻って来て欲しいのですか、
84 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 20:34:52 ID:4Oxecoie
これ、盗作か無断転載じゃない?
あんだけボコられて醜態さらして「もうかかねーよ!」と泣きながら逃亡
していながら再度載せるなんて面の皮何cmよ?
常識的に考えて愉快犯による無断転載と考えるのが自然ではないかと。
とりあえず読んだ限りでは前となんも変わってないな。
>>85 更にその後専用スレ立てるは
他の板に誤爆とか言いながら載せるは
やりたい放題したから
無転はイクナイ!
…で、本当に無転なの?前に書いてた時のトリとか知ってる人いないの?
>>78 長い?
この程度で? 馬鹿なの? 死ぬの?
知ってる掲示板で一人が一日に100(レスじゃなくてk)投下してるの見たからこの程度じゃ長いなんて恥ずかしくて死んでも言えんわ俺
長ければいいってもんでもないしな。スレは一人のもんじゃない以上迷惑とも言う
90 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 00:29:52 ID:F98wwSmr
>>57 とりあえず、Fateをちゃんとやって設定見直した方が良いと思います
見直すべきなのは全部の原作だと思うが、どうか
無責任だなぁこのカス野郎
もう少し常識を身につけてくださいよ。なにをどうすればルールを守れるかくらいはわかるでしょう失禁マニア
作品すら見てなくてよく手を出そうと思えますよねー、精神構造が理解できません
よくわからないけど
別の場所の揉め事ならよそでやってね
よし、分かりやすく言い直そうか。
揉め事荒れ事が確実に付いて回る作品だから、作者は自分で立てた専用スレに投下しましょうね(^_-)-☆
自分で専用スレ立てたんならちゃんと使いきるべきだろ
まあこっちに投下する分にはいいけど、まずは全部の原作を見直すことをお勧めしておく
ほぼ全員が改悪されているし、ぶっちゃけキャラちげぇ奴しかいない
揉め事荒れ事が確実に付いて回るってあんたらが煽ってるだけなんじゃ
このSS投下した人二次創作総合スレでどこのスレがいいか聞いてたりして
普通に印象よかったけどな
あの問題は作品もそうだけど、作者が煽りに煽った結果だからなぁ……
つーか、昔は昔だな
今はちゃんとやってんなら昔の事引き合いに出して煽る方が明らかに悪い
気に入らんなら無視すりゃいいじゃんよ
昔大問題起こした作品引っ張り出して来て「昔は昔」ってのはちょっと通らんよ。
やり直す気あるなら別の作品投下するだろ普通。
そういうこと言われてもこの板には関係ないし
まったく意味がわからないことで荒れて、新しい投下がしにくくなってるこのスレの立場は?
別にいいんじゃねーの?
あちこちのスレや投稿所を追い出されたのが集まる掃き溜めになるのが目に見えてるし。
これで投下されてもどうせ
>>93のスレみたいに荒らすんだろ?
気に入らないSSだからってそんな行動とる方が間違ってるよ
だから専用スレでやれっつって誘導張ったんだよ(´・ω・`)
>>104 よそのスレに出張してきてそういうこという男の人って…
また荒らしたいから自分達が荒らしたスレに戻れとは…これが月厨か
かなり暴れたが反省してるなら許されることではあった
しかし、ツッコミの多い改悪は変わらず、明らかに間違えたものも直していない
感想の指摘に意地になってキャラに失禁を繰り返させたりのアンチだからこそ、最低限は文章を直して投下すべき
この流れを変えるために投下しようと思ったけど
設定の擦り合わせが上手くいかなかったから
ネタだけさらして帰る
承太郎「ありのまま(ry
放課後に娘の後をつけてたら娘が巨大ロボと
キャッキャウフフしていた」
徐倫「親父誰に話してんの?」
アレクサ「お隣さんで同じ小学校に通う徐倫ちゃん(11)の
お父さん落ち着いてください」
コンボイ「私の名はコンボイ。フリーのカメラm、ゲフンゲフン、
もとい、宇宙の彼方から来たサイバトロン軍総司令官だ」
JF「そして今帰ってきた俺が天空の騎士ジェットファイアーです。
キラッ☆ おみやげに妙な隕石拾ってきたぜ!」
カーズ「JOJOォォォオッ!」
承太郎「……やれやれだぜ」
コンボイ「くらえ! コンボイパンチ!」
カーズ「ギャアー」
徐倫「所詮は、地球上だけでの究極生命体。
宇宙人には勝てなかったわね」
JF「もっぺん宇宙に捨ててきまーす」
っていう話を書きたかったんだが無理でした
>>109 ……ヘルシングファンだけどこの話に苛立ちしか覚えない俺の立場は?
ちなみにタイプムーンは名前聞いたことあるくらい
スクイズとサマイズファンの俺からしてみれば不快感しか感じない話だ
>>112-113 自分から月厨と同じ扱いして欲しいとは何が狙いなんだ?
この作品(笑)がどれだけ酷い出来だろうが人間的にはこの煽り連中の方が下だろ
意地だけで暴れて書いたアンチモノをこういう場に出しても荒れるだけっていうのわからなかったかな
アルカディア>専用スレ立て>誤爆まできて自サイトを作らず投下
しかも訂正なし
厄介な事になるのは明白なんだよな
噂には聞いていたけど、月厨アンチは本当に痛いな
そこらへん分かってて釣ってんじゃないかと思うがね。
まぁ作者がどーのこーのってのはもういいよ。訂正無しで投下してる時点で言うだけ無駄だろって思うし。
ただ、身から出た錆を辺りに撒き散らすよーな真似は止めて欲しい。個人的な感想としてね。
うわ、新しい投下来て流れ変わったかと思ったらまだ続いてるのか
だからこのスレにそんなわけわからんこと持ち込まれても困るんだって
関係ないスレで暴れて楽しいの?
ホントに荒れるのが嫌なら一々反応せずNGにでもしてスルーしとけよ。
121 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/26(金) 16:43:12 ID:LOBmfrdc
粘着して荒らす月厨もそれに一々反応するアンチも大して変わんない。
昔アンチも含めて月厨と聞いたが型月は本当にやっかいだな。
なぁこいつらっていったいどこから突撃して来てんの?
たぶんArcadia
Arcadiaで検索したが、DJ・クラブ板のスレしかでないぞ
……板?
Arcadiaは上の作者や作者と喧嘩してた連中が騒いでた小説投稿サイトだぜ
管理人は悪い所じゃないけどな>アルカディア
規模がデカイから同じサイト中でも投稿板ごとに空気違ったり、プロローグ落ちがあったり
そこでいきなり最初に100も感想がついて、事が大きくなっちゃった
とりあえず新作カモーン
うたわれるもの×北斗の拳というカオスなものを書いてはいるが、
需要はあるか?
129 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/29(月) 15:24:24 ID:KiOZreo9
この国には自由がある。平和もあり、豊かさも便利さもある。
だが、ほんの少しの若者達は、ある日突然国家によって切り捨てられる。
―国家繁栄維持法。通称、国繁。全ての国民は小学校入学時に予防接種を受けることが義務付られている。
その注射器には1000本に1本の割合で特殊なナノカプセルが混入されている。
そのカプセルは体内をさまよい心臓に到達し、18歳から24歳までの予め決められた時間に破裂。その人間は確実に死亡する。
この法律の趣旨は国民に「自分が死ぬのでは?」という危機感を植え付けることにより生命の尊さを再認識させ、国力を増強することにある。
なお、国繁死亡予定者には死亡時刻の24時間前に死亡予告証、通称「イキガミ」が届けられる。
このイキガミには、残された24時間を有意義に過ごすため、交通、宿泊、飲食代が無料になるという効力があり、また残された遺族が国繁年金を受け取るための証明書にもなる。
但し、イキガミを受け取った者が犯罪行為を行った場合、遺族は年金の受給資格を剥奪され代わりに犯した犯罪に見合う賠償責任を背負うことになり、
更に「退廃思想者の遺族」として近隣住民から異常なまでに冷たい視線を向けられその地域に住めなくなり夜逃げも同然の転居をしなくてはならなくなる。
っていうのが「イキガミ」のルールなんだけど、これといろんな作品をクロスさせて見たいんだけど書いていいかな?
なぜ誰かに許可を取る必要があるのか分からない
書きたければ書けばいい
需要のあるなしとかじゃないだろ。
132 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/29(月) 19:39:06 ID:KiOZreo9
許可とんないと不安になるんだよ何故か。
>>132 許可してやる
お前がどんなに叩かれることになろうと
責任とらないし擁護もしないけど許可してやる
134 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/29(月) 19:46:16 ID:KiOZreo9
それは解るw
と言うわけで書いて良いと思うよ
むしろ書いてくれ
俺が読むから
両方読むよ。
138 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/30(火) 01:33:59 ID:afsW5LkV
「イキガミ」という作品の都合上、クロスする作品の登場人物の年齢を変えることがあることをご了承下さい。
もっとも、設定やキャラは原作に忠実に行きますから。
エピソード1 「OTACライフにかけた想い」
キーンコーンカーンコーン。授業終了のチャイムが鳴り響く。その授業は国語だった。教師が教材を片付け、言った。
「はい、今日の授業はここまでです。来週の一学期末テストに備えてみんなしっかり勉強しておいてくださいね。それではまた次の授業でお会いしましょう。シーユーネクストレッスン」
教師は出て行った。どうでもいいが国語教師が英語で別れを告げるのは不自然だと思うのだが。
そしてさしたる問題もなくホームルームも終わり、生徒たちは帰り支度を始めていた。
その中の一人、青色の長い髪をした少女が友人たちに言った。
「ふあ〜あ、やっと終わったねえ、じゃあ私昨日録画した深夜アニメ見たいから先に帰るねぇ」
友人たちが返事をする。
「全くあんたはいつもそうなんだから…まあいいわ。また明日」
「また明日ね〜」
「ではまた明日学校でお会いしましょう」
「うん、また明日ね〜」
そして青色の髪の少女は家路に着き、無事に家にたどり着いた。
「ただいま〜」
と言っても家には誰もいないのだけれど。少女はセーラー服を着替え、私服を身につける。ファッションセンスは悪くない。
「さて、アニメ見ようっと」
そういって、DVDレコーダーの電源を入れた時、玄関のチャイムがなる。
「誰だろう。せっかくいいところなのに」
そうぼやきながらも渋々玄関に出る。見知らぬ青年正装をしてが立っていた。なんかのセールスかにかだろうか。それだったら二つ返事でお引き取り願おう。
「はい、どちら様ですかぁ?」
「○○区役所から参りました藤本と申します。泉こなたさんですね?」
「はい、そうですけど…何か御用ですかぁ?」
「あなたにこれをお届けに参りました」
そういって藤本は鞄からクリップで留められた紙の束を取り出す。
「泉こなたさん。こちらがあなたの死亡予告証になります。通称、イキガミと呼ばれるものです」
その瞬間、こなたはその手に握っていたリモコンを落とした。
投下終了?
イキガミというと星新一のパクリで有名な漫画だっけ
今度映画化もされるんだよな
140 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/30(火) 08:29:23 ID:afsW5LkV
まだ続くよ。眠くなったから寝ちまった
これは期待
らき☆すたのクロスか
wktk
「〜〜〜〜」
そびえ立つ校門の前で、奇妙な生き物がひとつおおきな欠伸をした。
それは猫であるようで猫のようでない、強いて言うなら「ねこ」という表現が似つかわしい四足の生物。
自分たちの道場では見慣れたその生物を、そこへやって来た部員達の中で一番背の小さな女の子が指差す。
「あ…ねこ…」
「へえ、この学校にも居るんだねえ〜」
それに、金髪を頭の上で束ねた少女が相槌をうつと。
「どうもあちこちに居るみたいだな…このねこ」
さらに先頭を歩いていた彼女たちの引率者が追従する。
その向こうで。
「だから、正門から行けばバレても大丈夫だって!」
「だったら何でそもそも今日補習なんかくんだよ!アタシまで誘って!……なにアレっ、かわいいー」
ボサボサ髪に、パンク風の着崩し。
一昔前のヤンキースタイルとも言うべき風貌の彼女がその奇妙な生物にふと目を輝かせると。
「んー、この学校の生徒さんっすかねえ」
「かも知れんが…なんで私服なんだ?サボりか?」
同時に他校の一団もまた、その二人組に注目する。
共に気付いたお互いの間に、気まずい空気が流れようとしたその時。
―――――バチン。
目が合うと同時に、二人組の片割れの――おそらくはサボリを唆したと思われる――少女は。
その名が示すとおり、獲物を狙う虎の様に俊敏かつ正確な動きで後ろで束ねた長い髪を振り乱すと、
他校の彼女たちの引率者の前へとステップを刻み、そして―――
「うげフっ!!」
水月に叩き込まれたその正拳は、不意打ちの効果とも相俟り―――
それなりに鍛えた剣道家である彼のヒザを折らせるに十分な破壊力を示した。
「行くぞ、ウシオ!」
「ま…待てって!おいこら!……ひっ!」
そのまま走り去ろうとする二人組の前を、しかし眼光鋭く捕らえる視線が、一人。
「あんたら…うちの顧問に何してんの…?」
蛇に睨まれたカエル―――もとい、丑と虎。
そのまま小さく震え上がる二人を現実に引き戻したのは、顧問を介抱する金髪の少女の一言。
「コジロー先生、大丈夫?」
「あっ、イテテテ…」
「せっ…」
「「先生!?」」
―――――また、やってしまった。
そんな思いと共に額を抑える、もう一人の金髪の少女に、眼鏡の少女がフォローを入れ、
「あの…この学校の生徒さん、ですよね?」
「アタシ達、この学校の剣道部と練習試合に来たんだけど…」
赤毛の少女がそれに付け加えると。
「はァ…」
鈍い相槌を返しつつ、相方に返事を促す――ウシオ、と呼ばれた方の少女。
それに応じ、剣道部ねぇ、と少し思案を重ねた後に――――
「まぁ、いいや!ゴメンね!……お詫びに案内したげるよ!私、えっと…」
そのまま、同じく金髪の少女を指差すと。
「上下山虎子!…あんたは?」
「え?ええっと……千葉紀梨乃、だよ?」
創立56年。
初等部、中等部、高等部、併せて在校生徒数、三千名以上。
”分野を問わず、あらゆる方面の才能と人材を育てて行く”がモットー。
―――――私立・上園学園。
そしてここが……彼女たち、室江高剣道部を迎える、本日の練習試合の相手校の名前である。
と言うわけで需要のかけらもなさそうなヒャッコvsBAMBOO BLADE…
アニメ化で嬉しくってつい。続き書けるといいな。
どっちも見たことないなー
名前はなんどか聞いたことあるけど面白い?
“コーホー コーホー”
静寂に包まれたコクピットに規則的な呼吸音だけが響く
うっとうしいので警報機のスイッチはオフにしてある
岩塊やデブリが高密度で漂う小惑星帯をトップスピードの93%で飛行しているにも関わらず
パイロットはレーダーやセンサーに目を向けようともしない
“考えるな、感じるんだ”
全てはフォースが教えてくれる
TIEファイターx1の操縦桿を握るベイダー卿の機械的に強化された視覚が
旧式のアベノン級輸送船を捕えると
ベイダー卿はコンソールに取り付けられた火器管制装置のスイッチに手を伸ばした
ベイダー卿の追撃に気付いた輸送船は小惑星帯を抜けると同時にハイパースペースドライブに
入ろうとする
アベノン級のエンジンが発する熱量が急激に増大したことで相手の意図を見抜いたベイダー卿は
射程距離ぎりぎりでレーザーキャノンを放つ
ベイダー卿の射撃は外装式のハイパードライブユニットを破損させ
暴走した輸送船のエンジンは無秩序にワープフィールドを拡大させていく
ベイダー卿が危険を察知したときにはTIEファイターはランダムワープに伴う重力波異常に
捉えられていた
ビッグバンに匹敵する光の爆発が収まったとき
そこにはアベノン級の姿もTIEファイターの機影もなく
宇宙はまったき静寂に満たされていた
遠い昔、遥か銀河の彼方で…
【恋姫†WARS 第一席:ベイダー卿、恋姫世界に跳ばされるのこと】
「貴方達、一体何をするつもりなんですか!」
「安心しろ、ナニをするだけで何もしやしねえ」
松本零士の大人向け漫画に登場する強姦魔のような台詞を吐くのは
それなりに整っているといえなくもない顔にいやらしい笑みを浮かべた二十代半ばの男
その両サイドには三白眼の小男とウドの大木という形容がピタリと嵌る肥満体
三人がフワフワした紫色の髪の美少女を取り囲み
卑猥な笑い声をあげている情景を見ればこのあとの展開は容易に想像がつく
リーダー格の男の手が少女の華奢な肩を掴もうとしたそのとき
閃光とともに空が裂け
轟音が大気を震わせる
驚愕した四人の目の前で
ワープアウトしたTIEファイターが地面にめり込んだ
「ナニコレ…」
「さあ…」
唖然とする少女と男達が見守るなかTIEファイターのハッチが内側から吹っ飛び
黒い手袋に覆われた腕が突き出される
“コーホー コーホー”
威圧的な呼吸音が聞こえてくる
棺桶から立ち上がる吸血鬼のように陽光にその身を晒す不吉な漆黒の巨体
ジョン・ウイリアムスの作曲したインペリアルマーチをBGMに
シスの暗黒卿が大地に降り立った
「この惑星の名は?どこの星系だ?」
【続く】
>>14-15 十二国記とかどうだろう。
あの作品のキャラは実は胎果で王や麒麟だったんだよ、
って設定にすれば自然にクロスさせられる。
普通に海客や山客として十二国世界に紛れ込ませてもいいし。
DIGITAL DEVIL SAGA アバタール・チューナー×仮面ライダー555。
片方が特撮ものだけど、クロスした世界の関係性からこちら向きかなと。
需要とかそういうのは気にしてないけど、DDSはマイナーだと自認している……。
とりあえずプロローグ+第一章の一節で世界観固め。
プロット組んでみたら長くなると分かったので、気長に書いていきます。
プロローグ:(The) end justifises the mean
白い闇の中で、蒼い炎がゆらめく。
燃えているのは倒れ伏した男の体と、彼の腹に巻かれているベルトだ。
ふたつの生命の終焉をあらわすかのように、どこか現実感のない焔は静かに息づいている。
木場。炎の中で朽ちゆく男の名を呟いたのは、彼よりもいくらか若い青年だった。木場のそれとデザインの系統を同じくする
ベルトを身につける彼は、世界に君臨した巨大複合企業・スマートブレインが敵と定めた者のひとりである。
だが、死の淵から蘇り、ヒトの姿をとりながらも様々な動植物の力を得たものに変化できる、ヒトの進化形。
オルフェノクへの進化の因子が体内になければ、ベルトの“適格者”になれないという前提があるとはいえ――
彼らのほとんどを生み出し、保護していると言ってよいスマートブレインに反逆する彼らの姿勢は皮肉なものだった。
もっとも、それ以前にこちらと同じオルフェノクでありながらこの組織より離反した男の例もある。
スマートブレインの前社長であり、三本のベルトを世に送り出した花形こそは、この現状をつくった要因であるといえよう。
同族であるオルフェノクに未来はないとうそぶいた彼は“オルフェノクの王”を守護するためにあったファイズとカイザの変身
デバイスを人の手に渡し、その適格者に加えていずれは王となるやも知れぬ孤児を集めていたものだ。
彼の行動が効を奏したのかどうか、適格者たちには残りひとつのベルト・デルタの力さえ奪われたこともある。
それどころか、灰と化した木場のもとから立ち上がった青年。乾巧には、ことに辛酸を舐めさせられた。
こちらが手駒にした木場をも倒したファイズが顕現させた刃でこの首をはねた瞬間は忘れられるものではない。
しかし、二度目に訪れた死の可能性から救い出された自分は、世界に住まう者のほとんどをオルフェノクに変えることがかなった。
そればかりか、流星塾の青年から奪ったデルタのベルトより天と地を司る力を手にし、一度はファイズを放逐したというのに。
レオ。天のベルトの力を操り、あのカイザを殺すほどの適格者までも見出すことがかなったというのに。
木場勇治。地のベルトへの適性に加え、少数ながら抵抗を続ける人間の要となる者と親しいがゆえに彼らの結束を内側から突き
崩せる人材さえ、この手の内にはあったというのに。
ヒトの体にあまるほど強力な進化を促すために、けして長くは無い時の中で灰と変わるオルフェノク。
彼らの儚い命を延ばす手段すら、今の自分には集まりかけていたというのに――。
熱と苦味に満ちた記憶と情報の奔流が痛みと変わって脳を刺し、主の神経を一気に満たした。
「莫迦な。帝王のベルトが、二本とも」
圧倒的な感覚の奔流に飽和した頭脳は、“天のベルトと地のベルトが破壊された”という事実を記述する程度にしか働かない。
代わりにといってはなんだが、思考の体すらなさない疑問だけが脳裏で渦を巻いている。
あの花形といい、ファイズやカイザ、木場といい。何故こうまで“人”は、死に急ぐのか。
愛。人を愛するがゆえに彼らをオルフェノクに変え、その命を保たんとする自分には到底理解できなかった。
何故だ。そして何故、私は。彼らに数え切れない敗北を喫することとなるのだ。
「ざーんねんでした」
混乱するオルフェノクの頭部が入っている生命維持装置を運ぶ女性の声が、彼の思考に割り込んだ。
スマートレディ。スマートブレインのプロパガンダとしての顔を持つ彼女は、この状況下でも如才ない微笑を浮かべている。
「ごめんなさい社長さん。こういう場合あなたを処刑するように、上のほうから言われているんです」
社長。重工業から食料品までを一手に扱う企業、スマートブレインを統括する表の顔役、村上峡児。
男の肩書きになんら敬意を払わずに言い切った女性は、彼を載せた台座を闘技場の奥へと押しやりはじめた。
エラスモテリウム――サイの一種、ユニコーンの正体であるとも言われた生物の力を得たオルフェノクが巨大な体を灰と変じ、
ヒトでない観客たちも闘技場を破壊したファイズの存在に戦慄している今、彼女の行動をとがめる者は皆無である。
むろん、四肢どころか首から下のすべてを失っている村上に関しては言うまでもなかった。
言葉と変身能力とで人々をもてあそび、人間との共存を目指したオルフェノクである木場の内にあった理想をも折り取ってのけた
スマートレディを、言葉としての形を持たない制止の叫びで止められるはずもない。
わざとらしく両目を隠した彼女の前にある処刑道具は間をおかず落下し、村上の息づく水槽をあやまたず粉砕した。
*
「というわけで。例の件の報告は、以上でーす」
伸ばした語尾を切ったスマートレディは、自身の周囲を回る三人の立体映像に向かって一礼した。動作とともに青い衣装の色を
引き締める黒のスカートがエナメル特有の光沢を放ち、直後、スマートブレイン社の一室は静寂を取り戻す。
「ファイズは“人間とオルフェノクの共存を目指す”か。しかし、彼もまたオルフェノクである以上、長くはもたんな」
彼女の直立から少しの間を空け、村上と同じく頭部のみを映している彼らのひとりが口を開いた。
スマートブレインの裏に君臨する男たちへ、スマートレディはちいさく笑ってみせる。
「それで、世界環境保護機構、でしたっけ。次はあっちに力を貸すんですか?」
「むろんだ。あの組織も近々名を変えるらしいが……世界環境保護機構とは、既に協力体勢にある」
それは君も知っていただろう、と告げられた女性は芝居がかった動作で口許を押さえた。
「あらら」とくぐもった声で付け足す様子に、頭部しかない者どもはなんらの反応を返すこともない。
どこ吹く風といわんばかりの態度で、男のひとりが壁一面に張られたスクリーンに映像を映し出した。
「あの組織の核にあるマルゴ・キュヴィエ女史の記した、体細胞の結晶化とそれに伴うさまざまな合併症に関する論文。
カルトじみた内容ゆえに注目されることこそ無かったが、“キュヴィエ症候群”の明らかな症例は此処にある」
スマートレディの正面やや左の壁に映ったのは、直立したセンチピードオルフェノク。ムカデの力を持つ生物の全身図だった。
もともとオルフェノクは色の無い灰が凝り固まったような体色をしているが、同じ系統の色であれどその質感は全く異なる。
ヒトにもオルフェノクにも共通する、生物特有のやわらかみや弾性といったものが、この体からは微塵も見受けられないのだ。
「琢磨逸郎。よもやラッキークローバーの構成員が真っ先に石に成り果てるとは、誰が想像出来るものか」
「それも、原因が太陽の光。すべての生物が触れる陽光に混じる何らかのノイズとの説をぶちあげられて、誰が信じるというのだ」
スクリーンを操作した者とは別の声たちが、よく通る響きに苦りきったものを混じらせた。
彼の様子とは真逆に、女性の双眸はちらりと輝く。
キュヴィエ症候群の原因や発病の経過はともかく、自分にとって肌の合わない面々であった上の上であるオルフェノクたち。
今や亡き村上“前”社長いわく「四人でひとつ」であったラッキークローバーの一柱がさらす無様は、見ていて気分がよい。
「だから、アメリカとかには青い薔薇を撒かなかったんですよねー。
世界環境保護機構さんっていうか、あっちの軍の研究機関には、培養液や青い薔薇のサンプルまで渡しましたし。
残りの人間はたったの2433人でーす、なんて、このあいだも言いましたけど。それが世界全部じゃなくて、日本に限ったこと
じゃないか、なぁんて考えのまわるような状況にしなかったのは」
「それが村上君、あるいは花形君の功罪だ。ファイズ、カイザ、デルタ。みっつのギアによってわが国のオルフェノクに
明らかな敵を作り、近い未来にある脅威を隠匿せしめた」
「むろん、その代償は小さくなどなかったが……おかげで、我らの可能性は広がった」
再び、部屋の様子に変化が起きた。
今回はスクリーンではなく壁の一部が動き、そこに隠されていたスペースから様々なものが顔をのぞかせる。
強化ガラスによって仕切られたそこでは、最初に実用化された変身デバイスであり、天地のベルトの原型となったデルタギアを
中央に、透き通った容器に詰まる色の無いものたちがベルトの両脇を固めていた。
「あら? 勇治くん?」
直方体の器を目にしたスマートレディが呼んだのは、オーガのベルトを使って変身した青年。
つい先日、自らの変身能力を使って“ヒトとの共存”との理想をおとしめた、木場の名前だった。
灰の塊を包み込む硝子の器。その容積は人体に比して明らかに小さなものでありながら、彼女の声は弾んでいる。
そして、自身の背後に現れたみっつの品々をひとしきり眺め、女性は首を傾げた。黒い手袋に覆われた人差し指でもって頬を
なぞっていたが、三人の男に向けて「はーい」と右手を文字どおりに挙げる。
「おねえさん、質問してもいいですか? この“勇治くんだったもの”とかって、いったい何に使えるんでしょう?」
子供向けの番組のナレーターのように、ためらいと縁遠い問いに対し、男のひとりはやれやれとかぶりを振る。
「未来にカルマ協会となる組織。世界環境保護機構の主導する、チューナー計画とでも言おうか。
表向きには優れた兵士のAIを生み出す為の実験を行うため舞台の構築が、予定より早く進みつつある。
その裏にあるのは、むろん、キュヴィエ症候群への対策だ」
といって、口を開いた彼の語調からは苦いものが見えなかった。
彼女という道化じみた存在を許容する構えは、いかにも大物の見せるものだといえるだろう。
『でも、渋いけど美形じゃないのよねぇ。もっと若いひとだったら、おねえさん、好みなんだけどなぁ』
もっとも、こちら側も大物と形容すべきか。
子どもに対するかのようなつぶやきは、スマートレディの表面にかけらも現れない。
男のひとりに示されたコンソールを操作した結果、画面に表示された映像を、彼女は幼い動作でためつすがめつする。
いわく、EGG施設の培養液に死体の意識(キュヴィエ女史に言わせれば“情報”か)を溶かし込み、彼らを仮想現実下に顕現させる。
太陽と交信が可能だという巫女の意識下で原型が発見されたという世界は、大きく六つのエリアに区分されているらしかった。
「ふうん……チームを組んで戦って、他のチームぜんぶに勝ったら、楽園……天国に行ける?」
世界の中心で生をうけた“人間”の一生をシミュレートした映像を見た女性の唇が、皮肉げにゆがむ。
生まれた瞬間から戦うことが約束されているというわけだが、勝っても負けても天国自体に行けるのではないのかと思えば――
どうやらそうでもないらしい。ループを続ける映像を見ていると、なかなかに趣向を凝らしたものであるようだ。
「ヒトやオルフェノクの結晶化を、生命の意図的な淘汰。人工的に作り出した進化で遮断する算段らしいな」
「へえー、進化ですかぁ。単なるヒトが、オルフェノクっていう段階を飛ばして?」
ちいさく哄笑するスマートレディの瞳にも、唇にも、ふと肩に止まった青い蝶にも。好奇はあれど敵意は無い。
ただ、その皮肉が向けられた先だけはどこまでも不鮮明だ。
「ヒトはともかく、強い進化に耐えられぬ種が灰と化すという時点で、我らが不完全であることははっきりしている。
そこで役立つのが、王を守護するための人材。現世のそれに加えて強化された戦闘力と統御された思考をもつ、チューナーだ」
前半を自らに言い聞かせるような声で言い切った男は、ふたつの直方体にある種の敵意を交えた視線を投げた。
「木場勇治に加えて、草加雅人。スマートブレインの前々社長・花形が生んだ流星塾で改造された、カイザギアの最たる適格者。
我らの手による使徒再生を受けるまでもなく覚醒したオリジナルのオルフェノクと、その因子を保有するだけのヒト。
チューナー計画の舞台で殺し合うには、なんとも相応しいことではないか」
「彼らを調整する卵の中には、ヒトの自我など存在しようもないという。だが、自己に刻まれた立場の違いは消えようがあるまい。
戦闘員では役者不足かつ、レオが灰と散った以上、ある意味ではこの男達こそが適任とも言えよう」
オルフェノクはすべて敵であるとみなし、過去を奪ったスマートブレインに対する復讐者。
人間解放軍の用心棒として散々に抗われた敵。ひとりの女性のために孤独を選んで闘った青年の末路を眺めた男。
それぞれの道程は違えど末路を等しくした青年を眺めた男たちは篭った笑いを浮かべあう。
人間解放軍の主戦力であったカイザを圧倒し、強制的にオルフェノクへの進化を促す使徒再生に耐えられなかった適格者の
青年、草加雅人を蒼い炎に投げ込んだ者。天のベルトを装着した仮面ライダーの伴った戦闘員が回収してきた青年の遺灰に視線を
やったスマートレディも、他の三人にならって笑みの質を変化させた。
「なぁるほど。つまり、ヒトは争わなきゃ進化できないから、仲の悪いみなさんを卵の中に放り込みましょうってことなんですね。
おねえさん、また賢くなっちゃった♪」
高みの見物を決め込む者に付随するに相応しく控えめな響きが、一転して明るい声音をつむぎだす。
意図的であるが媚態には程遠い彼女の態度が、もとより無機的な密室を現実から乖離させつつあるようだった。
「そういうことだ。
デモンズイデアを生み出す闘争本能活性化装置。デルタのデモンズスレートは、協会にとっても役立つ。チューナー候補の
“人体”が脳への干渉に耐えうる公算は低い。彼らを“情報”の塊として見るのなら、人体よりも楽な話だろう」
男のひとりが刻んだ会心の笑みに、残りふたりも満足げにうなずいて言葉を続ける。
いわく、協会側と自分達の戦闘力の差は歴然としているという公算。
そこに付随するのは、『現状は技術力のほとんどをスマートブレイン側が握っている』という裏付け。
そしてファイズ。ウルフオルフェノクに変化した乾巧もあの世界に送って損は無い人材だろうと。
乾を殺すか灰に変えるには、人間解放軍が建て直しをはかる前である今こそが好機ではないかとの観測。
彼らがそれぞれにつむいだ意図は、現状では単なる皮算用でしかない。
だが、糸が編まれて網となるように、三人の頭脳は彼らに都合のよい材料をもとにあるべき未来を構成し、想像してゆく。
それでも、三人揃えば文殊の知恵か。ある程度の客観性を保った思考が網となり、話が詰まるにつれて網目も密度を増した。
実際に獲物を捕らえんとする様子はさぞ面白いだろうと、女性は楽しげに耳を傾ける。
「しかし……村上君の失敗だけをみれば、これはまさに“Catch 22”だったが」
精神異常者は自ら申告すれば、軍から離脱できる。
だが、自らを精神異常と理解出来るのであれば彼は正常な精神を保有するとみなされ、除隊は不可能となる。
解決策が見つからない、ジレンマに陥った状況を表す慣用句を持ち出した男の一人は角ばった鼻からひとつ息を吐いた。
「結果は手段を正当化する。長期的にものをみれば、どこにでも糸口はあるものだ。
いつの日か目覚めるオルフェノクの王を、彼に捧げる贄どもから守護するためならば、我らは自らにある業さえ喰らおう。
ヒトの先にある存在は太陽の下で生き、王とともに繁栄の時を迎えようではないか」
「きゃあ、かっこいーい」
スマートレディの白々しい拍手を受け流した男たちは、デルタギアと遺灰の処遇を改めて彼女に伝えた。
彼女は話に挙がった品々を先日まで前社長が乗っていた台座に載せ、スマートブレインの幹部のもとへ運ぶべく扉を開ける。
人通りの無い廊下に填め殺されている窓から、陽の残照が穏やかに差し込んできた。
――遠くない未来。
人類のほぼすべてがオルフェノクと化した、スマートブレインの支配するひとつの世界。
照りつけていた日光に勢いが失せ、穏やかに暮れゆく世界が滅びの黄にぎらつく瞬間。
次に起こる太陽の変化、136の日食からは近くはないが遠くもない。
きたるべき時を待ちながら、硝子の棺たちはただ揺られていた。
支援
Chapter:1 使徒再生〜What's Your Name〜
光届かぬ闇にて、君の亡骸を抱える。
君の頬は土、気(土とはどんな感触だったか)色に変じ、こわばっても柔らかな曲線を描いていた。
傷から流れていた赤(あ、か。Red? 朱、緋……赤色の)く、冷えるにつれ粘性を増した液体(血)。目覚めぬ君が生きていた証
(ヒトを生かす)。あれにまみれた左手は今も濡れ、失われゆく温もりを訴え続けている(血液だ)。
頬の丸みをかたちづくった肉の上にある瞼は伏せられ、深い影を落とす睫毛は今までに見たことの無い色、をしていた。
そして、あのとき確かに抱えていた身体の重みをなぞるほどに、致命的な寒気が背筋をかすめた。
光届かぬ闇の中で抱えた、華奢な亡骸の重み。その記憶がふいに焦点を失う。
暗がりに抱いた面影。死んだら代わりはいない君と、俺の、記憶の断片をなぞるほどに焦りが胸を衝いてくる。
光届かぬ闇にて、俺が、亡骸を抱えていた君。
きみはいったい、だれなんだ?
息をつくと同時に、青年は瞼を開き覚醒した。
うめきの交じった喉のふるえは、間を置かずくぐもった咳に変わる。
空気の重さと冷たさに加えて、途切れることなく降り続く雨が、彼から体温を奪っていたのだ。
胸に何かつかえている感触もあるのだが、雨垂れを直接身に受けなかったのが不幸中の幸いといえるだろうか。
建築様式が古く、廃墟に近い町並みが眼下に望める場所では、荒野に張り出した建造物の一部が屋根のような役割を果たして
いたのだ。石造りの角ばった塔は、知識の無い者から見ても造りがしっかりしていると理解できる。
ゆえに、青年は平然としたそぶりで周囲に目を向けた。
この状況において警戒すべきは、遮蔽物が皆無である周辺の状況だと知っているからだ。
自分がいずこかのエリアを監視する見張り塔のような建物の下層にいると分かったが、そこからどれほどの人員が顔を出すことか。
「トライブに所属し、他の者を倒してニルヴァーナを目指せ……」
トライブ。ニルヴァーナを目指すために組織される集団の総称。
ブルーティッシュ、ハウンズ、ソリッド、メリーベル、エンブリオン、アサインメンツの六強が現存。
ニルヴァーナ。すべてのトライブの長を倒した者が向かうこととなる、カルマ教会より約束された楽園。
カルマ教会。ジャンクヤードの中心、サハスララ・エリアに存在する建物。
ジャンクヤード。サハスララを初めとした七つのエリアに大別。各トライブの者達が戦うためにある――
「この世界だ」
鮮やかに記憶された情報が嵐のごとく浮かぶ。その波を切って捨てるべく、青年は言い切った。いまだどのトライブの色にも
染められていないスーツのジャケットを開き、湿気にもたついた裾をひとつ払って行動を開始する。
輝かない灰色、水溜りに映る自らの瞳のように、まったき色の無い“Newbie”。ニュービー。
ジャンクヤードの新参者である自分に与えられている時間はさして多くは無いと分かっていたが、腰の両側に取り付けてある
ウェストバッグを探る左手が、いやに熱かった。擦過傷すらないそこには異常など欠片もみられないが、シンプルな機構の
ハンドガンを携えた右手に添える動作に合わせて、表皮の下にある肉は焼け付くような疼きを訴える。
疑問を覚えて手のひらを眺めるものの、やはり毛細血管にさえ断裂はなく、目に見える打撲等も皆無だ。
仮に内出血を起こすのならこの次の段階であると理解していても、建造物の下層から移動を開始した青年はしきりに左手を
確認していた。屋根から抜け出した裸の手へ、ほのかに白い雨糸がつたう。その細い冷たさが、また熱を際立たせる。
それでも、青年は移動を続けていた。必ずしも様式が歴史どおりであるわけでもない建物のジャンクを抜けるべく、高所に
続く道を探すと同時に身を隠す。非常に矛盾している行動であったが、地上層に出ねばカルマ教会の位置からこのエリアにある
トライブの位置を推測することもかなわない。雨雲を貫いて最上階が見えることのない教会ではなく、地上から別のエリアへ
繋がる橋や周辺の地形を見なければ、記憶を“掘り起こす”ことも不可能だ。
色。少なくとも赤はメリーベルのトライブカラーであるはずだが、自分は一体、それをどこで見たのだろう。
石か、あるいは鉄を軸にした様式か。はたまた土か木か。周囲にある建造物は精髄を失ったかのように、ことごとく色が無い。
静謐な表情で座している男の像を横切った瞬間、青年の足が止まった。
「ニュービーに警告する。武装を解除せよ。解除せねば宣戦布告とみなす」
見られていたのだ。
こちらのバッグにも短眼式のスコープは内蔵されていたが、声の主が装備しているそれは両目を完璧に覆う、遮光器に近い
タイプであると視認できる。視界を阻害する機構からして、赤外線で看破されたという解釈で間違いない。
姿を見せたのは、男女各一名ずつ。今までの移動から人通りが極端に少ないと分かった場所の哨戒としては十分だった。
雨の中にはしる雷鳴のように、色の無いトライブスーツの各所には明るい……黄色がはしっている。
「質問する。そちらの所属について、解答を願いたい。回答がなければ宣戦布告とみなす」
先ほどの記憶が正しければ、トライブの戦力差は名前を挙げた順だ。
これがエンブリオンやアサインメンツならば弱小と言ってよいが、最大の勢力とされるブルーティッシュや、彼らに対抗する
ハウンズのように組織としての形が固まっていれば逃亡もかなうまい。逃亡したところで、後もないだろう。
加えて、掟に従い、ニュービー同士で新たなトライブを築くことが現状で有効だとは、彼には考えられなかった。
ニルヴァーナに向かうことの出来る条件はトライブを築くことでも滅することでもなく、“各トライブの長を倒すこと”。
そうであるなら、アサインメンツのような勢力に限った話でなく、直接頭を取った方がどう考えても効率は良いのだ。
『ブルーティッシュに対抗するハウンズは互角。過日ムラダーラ・エリアを手にしたエンブリオンは、隣接するスワディスターナ
を牛耳るアサインメンツとの戦いに明け暮れている。むろん、我がソリッドも、メリーベルの尖兵を相手にしている』
ソリッド。ソリッドの誰から聞いたか分からない知識が、彼にこのような思考を呼んでいた。
どのエリアも膠着状態にあるという現状においてなお掟に固執することへの疑問が、糸のような雨に交じってふと胸に響く。
「我らの所属はソリッドだ。理解したか、ニュービー」
そして思索に沈みかけた青年にとり、女の回答は半端なものであった。
ソリッド。三番目に規模の大きなトライブの詳細は記憶にないが、この地形を見る限り、相手には地の利がある。
ならば打って出るよりも、襲撃に来た相手を迎撃するために守備を固める戦略をとっているとみて間違いない。
篭城のために仕掛けられた罠は敵も味方も区別しないとなれば、その中枢にいるだろうボスの首を単身狙うのは至難であろう。
理解したかとの問いには是を返さざるを得ないが、次につながる選択肢は多くない。
つまり、このままソリッドに従うか。決裂を察知した相手と戦って、死ぬか。
やりづらい状況に陥っていることを自覚した青年は、どうも及び腰になっている男女の姿を改めて見据えた。
女がライフルを構えているなら、男の方は連射も掃射も利くサブマシンガンを所持している。運良く狙撃を避けたとしても
逃げ場は無い。男の方を初手で無力化すれば切り抜けられる目も出るだろうが、ハンドガンのみで戦うには分が悪すぎた。
『だが、ここで戦って何の利がある』
左手の感覚に対する生理的な嫌悪から、青年は眉根を寄せつつ銃を手放した。タグリング。カルマ教会に個人の戦績とコードを
証明する指輪を首に下げていたことを思い出したが、対策を立てようにも今となっては遅すぎる。
遅、すぎる。遅すぎる、遅すぎる、遅すぎる。何が遅いのだ。何をするには遅いというのだ。理解できない。
何に対してか判別出来ない心拍数の上昇が、その手のひらで感じられた。
「……了解した」
判別不能と分かりきった事象を隅に追いやり、青年は口を開く。額を出してかきあげ、側頭部に流していた髪が雨に濡れて
べっとりと張り付く、その感触が、やはり“記憶”には無い何かとよく似ていた。
脳裏でざわつくノイズに相対した喉もとがむかついてならない。
「ソリッドに告げる。俺は」
ただ、生きねばならないことは明白だった。
自身の現時点における生存がかなわなければ、トライブを制覇するなど夢のまた夢だ。
ニルヴァーナにせよ左手の違和感にせよ自分は何も知らないが、知らないまま死ぬよりは知ってから死ぬ方がよほど良い。
雨に濡れた左手を強く握ると、妙にぬるついていた。一条の光すら届かぬ場所、行った事も見た事も……ある記憶が胸を衝く。
闇の中で彼女が、かけがえのない者がすでに死んでしまったというのなら。
そうだ。あの赤い色。メリーベルの色だという生命の海のなかで、自分はすでに――
「俺は……俺達に、帰る場所は無い……」
だからこそ、平板な声を綾なしていた青年は思い出していた。
左手の平を“指向性のある緩やかな光の糸”から胴をかばおうと突き出し、もろともに貫かれてしまった瞬間を。
X。円形のうちに複雑な意匠が各所に現れている建築からはかけ離れた文化に存在したと覚えている、22番目の文字。
カイと読むそれが円を貫き、底部に大口を開けている。それが左手にあった事実が、初めて青年の意識に浮かび上がった。
一体それは、いつからか。灰が凝り固まったようなトライブスーツよりも明度・彩度がともに低く、今までに見たことの無い
色が青年の鼓動を激しいものとしていく。ソリッドの構成員どもがなにごとか口にする様子さえ、ひどく遠い。
――Om Mani Padome Hm――
ああ、蓮華の中なる宝珠よ、永遠なれ。
覚えのある文字列が明確なヴィジョンをなし、青年の脳へと強制的に挿入される。
その痛みが少し前と同じように、胸に飢えて渇いた衝動を呼び起こし、彼から恐怖心を奪った。
かたちをなさないうめき声を噛み締める青年の足が一歩、ふたりへ近づく。近づけば、ふたりは明らかに退く。
押せば退く。押すから退く。押さずとも退く。それを確認するまでに、幾度続けたことか。
稚拙もきわまった追撃でさえない移動の中で、血色を取り戻した青年の口角が引き締まった。
歯がゆさに奥歯を噛み締めたのだと、今なら理解できる。
こちらより人数の面でも武装の面でも有利を保っていながら、たったひとりのニュービーへ立ち向かおうとしない相手に。
戦う手段を。力を持っていながら、ただ逃げ惑うだけの者達に。
自分は、苛立っているのだと。
「帰る場所を探したければ、戦う以外に道は無い!」
それに気付き、目を見開いて叫んだのか。
あるいは叫んだ瞬間にこそ、気付きがあったのか。
ただ、色の無い瞳に灰色がかった紫がともった瞬間に、青年はおのが叫びへ明らかな抑揚を加えていた。
よくとおるにも関わらず、どこか陰に篭った響きには迷いなど欠片も無い反面、すさまじいほどの怒りがある。
『戦え……そして勝ち続ければ、きっとその答えが分かる』
主の分からない呼びかけに応えるように、彼の体に紫の線条がはしった。幾筋にも重なり合ったそれは体の各所で節をつくり、
六角形の面と変わって、彼の体を彼でありながら彼ではないものに置き換えていく。
凝り固まった面によって胸に肉付けがなされ、両肩が張って騎士のような胸当てが構成される。体にぴったりと張り付いた
スーツの腹には、ウェストバッグの代わりにベルトが巻かれた。バッグのあった部分には十字をなした銃と、方形のナックルが
それぞれ提げられている。頭部に構成されたヘルメットの視線は紫色をした円形のバイザーで隠され、相手にそれを見抜かせない。
最後に。バイザーはソリッドのトライブカラーと同系の黄色で縁取られ、同じ色をしたXの紋章に大きく断ち切られた。
「やはり、この男」
女が不自然に声を途切れさせたのは、耳をつんざくような雄叫びが相手から発されたためである。
少し前に彼女たちの仲間が四散するさまを作り出した青年の、仮面の下で放たれた咆哮はあまりに歪んで、彼からかけ離れている
のか彼そのものを顕しているのか判然としない。判然とさせる意識すら、その瞬間の彼は持ち得なかった。
むろん、先刻の彼と同じ灰色の瞳をしているソリッドの面々に、ノイズを類推できる能力などない。
――em all eat them all eat them all eat them all eat them all eat them all eat them all eat them all eat th――
喰らい尽くせ、Kaixa。
直接脳に響いてくる声だけが、彼の耳朶を打つ。
繰り返される情報を肯定した青年――カイザは右腰に携える銃を抜き放った。自らの手と一体化したかのような得物を握る手を
無造作に伸ばし、その射線上にある女へ引き金を引く。一発、二発、三発目を数えるまでもなく、彼女はくずおれた。
流れ出る血は赤い。カイザの記憶どおりに、赤かった。
「これ、は……やめろ、やめてくれ、ディアナぁああああア!!」
女の名前か、なにかか。あっけらかんとさえしていた呟きから一転した絶叫と同時に、マシンガンを構えていた男の瞳にも髪の
色と同じ赤がともった。カイザのそれと質を同じくした紫の線条が彼の体を包み込み、局所的なセルの表出が全身に及ぶ。
男に起こった変化を、カイザはベルトの後部に現出した双眼鏡、最後に構成された道具でもって確認していた。
倍率を変更するとともに、変化しつつある対象の詳細な情報が青年に伝達される。
ヨモツイクサ。妻を黄泉路より連れ出さんとした男に従った参謀であるところの、槍持てる屍。ヒトとしての姿を無くした相手の
有する強みと弱点が無機質な情報としてカイザの脳裡に並び、その情報どおりに、彼は槍をひとつ回して横に構えた。
なんらかの意志が相手のもとに収束したのと時を同じくして、双眼鏡をしまった青年の立つ地面が変質する。足許からこぶし大
ほどもある石のつぶてが持ち上がり、膝丈のブーツに覆われた彼の脛を、腿を腹を打ち据えるべく飛びかかってきたのだ。
その原理に思いを馳せている暇を捨てても避けきることがかなわず、攻撃に移さんとしていた青年の体勢が崩れるが――
軸足でその場に踏みとどまりつつ、ベルトの要にある通信機器から抜き取ったカードを銃の底部に差し込む。
――Ready――
原理が分からないままに手を伸ばしたが、手にする前から結果は体が覚えていた。
銃底から伸びた光輝の刃が、雨を弾いて大気を乾いたものに変えていく。これはブレイガン。カイザの、灼熱を生み出す銃。
無意識下に存在する情報に従って、青年は手首を返す。切り込む勢いを利用してヨモツイクサの槍を下から上へ薙ぎ、間合いを
離すが早いか銃の機構を操作し、闇を掃い対象を拘束する光の銃弾を、正確に相手の懐へと打ち込んだ。
あの光の糸よりも手荒に動作を奪われたヨモツイクサは、男であった頃には欠片も無かった獣性をあらわに叫ぶ。
――EXCEED CHARGE――
トライブを構成する人員である彼に、突如として生まれた生への撞着。
それを無慈悲に切って捨てたのは、カイザのベルトが発する電子音だった。
「お前達の仲間は、言ったはずだ。ボスの代わりはいないが、兵隊だったら捨てるほどいるんだろ?
良くないなあ……前言を、撤回するのは」
叫びによって激情を振り払ったのか、マスクに隠されてなお鮮明な青年の声は、そんな男の意志をあざける。怯えて首を振ろう
にも、それすら出来ない相手を前に、カイザブレイガンを構えた彼はその身を光の矢と変え、ヨモツイクサの懐深くへ切り込んだ。
そして、接敵の瞬間。男たちの輪郭に、明らかな乱れが生じた。
ヨモツイクサを構成する微細な六角形が霧消したかと思えば、その背後にカイザの姿が現れる。ひとつ呼吸をする間、静けさが
場を支配し――円錐状の帽子に隠れた男の口から苦鳴が漏れるが早いか、彼の体は根本から消えうせた。斬撃によって空間へと
刻まれたカイの文字も、男の体が崩壊するとともに輝きを失って、世界の輪郭をぼかすかのような雨に解けていく。
収束した戦いをよそに、きびすを返した青年は灰色の地面を踏みしめ、女の死体へ足を伸ばした。
相対的な気温の低さに湯気を立てるモノにある、赤い、生命の流体にも似た力が、しっかりと開いた左手から吸い取られる。
飢えが充たされる感覚に虚無と紙一重の昂揚を覚えながら、カイザは覚えたことに違和感を感じる。違和感を感じたこと自体に
違和感を覚え、雪だるま状にふくらむ思いに覚えたズレは、その思考をひとつひとつ鮮明なものと組み変えていく。
そして、彼は左手を眺め、ヒトとしての姿に戻るべく意識を集中した。
白く小さなセルの嵐がその身を包み込み、左手のひらに刻まれた真に色の無いあざが、確かに視界へと入る。
その左手が誰を抱えていたのかも、ニルヴァーナが何なのかも分からないままだが、はっきりした理由と、事実は見つけた。
「俺は、戦う。生きて……戦う」
理性の光さえ宿って涼しげであった双眸に、明らかな闘志が宿る。
この自分には、知らなければならないことがある。自分には相手を倒す、力がある。
だからこそ上を。地上を目指して、青年は移動を再開した。戦った先に真実があるというのなら、すでに失われたぬくもりの
ルーツが理解できるのなら、時間を無駄に使ってなどいられない。痛む下肢の治療はソリッドの縄張りを抜けてからだ。
目指すは、ブルーティッシュ。あるいはハウンズ。組織として強大かつ安定しているからこそ、奴等には新入りを受け入れる
だけの余裕もあるだろう。いずれかに味方するような立ち位置が築ければ、第一印象はけして悪いものになどならない。
こちらに悪い印象を抱いた相手は邪魔なだけだ。そのときはこの女と同じに喰らい、自らの糧にしてやればいい。
口許をほころばせることもなく、ただ喉をふるわせるだけの笑みが、青年の顔に刻まれた。
しかし、それは控えめな微笑で留まることなく、深く眉間に刻まれた皺は彼の顔をヒトでない何者かのように歪めていく。
頭部を除けば、唯一スーツに包まれていない彼の手。あざのない右手には、男の所持していたサブマシンガンが握られていた。
以上、投下終了。
いきなり30KB程度使ってしまって申し訳ない。
こんな世界も面白いなーとか思って頂ければ幸いです。
知らない作品同士のクロスだとさすがにわけわからんなw
だけど面白かったよ
あのゲームはラスト近くがひどかったな……
ゲームバランスは悪くないしキャラも立っててかっこよかったんだが。
おお……なんだか、ほっとした。
両方知らないのに読んでくださる方もいるとは、ありがたい。
アバチュはすごく好きなゲームです。ジャンクヤードの色彩は見ていて落ち着くし、美しい。
それだけに色々駆け足なのが残念だったけど、自分なりに掘り下げたいと考えてます。
そして、
>>151の一部が日本語になってねえw
スマートレディが賢くなるちょっと前か。翻訳した結果をおいときます。
オルフェノクはすべて敵であるとみなし、過去を奪ったスマートブレインに対する復讐者。
オルフェノクでありながら人間との共存を望み、揺れながらもスマートブレインに抗った理想主義者。
人間解放軍の用心棒として散々に抗ったヒトと、共存を願った者にこそ敵対され、憎悪に身を落としたオルフェノク。
道程は違えどひとりの女性のために孤独を選んで闘い、末路を同じくした青年を眺めた男たちは篭った笑いを浮かべあう。
162 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/20(月) 02:17:18 ID:O7h+e/z9
質量兵器、つまり魔力に頼らない兵器の一切の製造、所有、販売が禁止された近未来。そこでは時空管理局という組織が質量兵器に代わり、魔法により世界の平和を維持していた。
だがその世界にある女性とその仲間達が現れる。
その女性名前はココ・へクマティアル。質量兵器そのものの存在が違法とされる世界においてその質量兵器を専門に取り扱う武器商人だ。
質量兵器は厳しい取り締まりを受けているとはいえ、陰でそれを作るものは少なからず存在していた。
彼女はそれを仕入れ、それを求める者に売り飛ばすのが仕事である。
しかしそんな仕事をしていたら当然時空管理局から目をつけられる。
彼女は時空管理局から国際指名手配されていた。
しかし彼女は指名手配されているにも関わらず一度も追われたことがない。
彼女の私兵9人が追手を事前に始末するからだ。それにより多くの時空管理局員が殉職していった。
この事態を重く見た時空管理局本部はある部隊へと指令を下す。
遺失物管理部・機動六課。新設の部隊でありながら、時空管理局のエースがそろった精鋭部隊だ。
そしてここにココ・へクマティアルの一味と機動六課との戦いが幕を開けるのだった。
163 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 19:27:35 ID:bgrXo/2/
この板でアバチュネタを見るとはw
確かにジャンクヤードは、クロスやロワにはもってこいだな。
164 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 23:30:58 ID:ax2YbTlp
良スレになる予感
DIGITAL DEVIL SAGA×仮面ライダー555の続き。
現状はスレの占有になっているのが申し訳ありませんが、とりあえずゆっくり投下します。
Chapter:1 使徒再生〜What's Your Name〜(2)
――虚ろなるものから、真実へ。
闇の中から、光のもとへ。
滅びゆくものから、不滅のものへ……。
“安らぎへと私を、導いてください”。
耳慣れない、声ともつかない何者かの意志が、視覚的な情報とともに無意識下へとこだまする。
Shan-ti。どこか遠い響きをした言葉には、哀しげなものが込められていた。
諦めと絶望をその身に宿した上で、それでも残ってしまった“彼女”の思いが、青年には痛いほど解る。
この哀しみの正体は、すでに喪われてしまったものに対する執着なのだと。
悲哀のあわいでは執着と紙一重の無差別な憎悪が混淆しているとみえて、なお理解が深まった。
しかしながら……ふと胸を満たす思い。自分が覚えるかなしみは悲哀でなく、嵐のような悲嘆だ。
自分達に人間らしさを与えてくれた、愛すべき者たち。元は自らと同一の存在であった、ヒト。
人間解放軍の象徴だった少女の何気ないひと言を聞いたとき、この自分は確かに悲嘆を覚えていたはずだ。
聞こえよがしでない証に、鋭さを増していた耳がふと拾った程度の呟きは、どのような叫びより鮮やかに鼓膜を打ったものである。
もしかしたら、私。嘘つきかもしれない。
それは人間と自分達の違いなど関係無いと謳った理想の象徴が、ひとりの少女に戻った瞬間なのだろう。
『……が……かもしれないって聞いた時、嫌な気持ちになったから。だから、』
だが、続いた台詞を耳にした瞬間の自分は、目覚めかけた破壊の衝動を黙して抑えた。
抑えなければ、掲げた理想もヒトとしての自分も根底から崩れてしまうと分かっていたからだ。
ヒトにも、ヒト以外のものにもなりきれぬ存在に待つのが破滅だとすれば、これが、そうなのだろうか?
“彼女”の謳う安らぎとはほど遠い、褪せた黄色にゆらめく空と、黒い……太陽。
初めて見た色も、見たことの無い物質も、砂に水が沁みるように理解がかなう。この、端的に荒廃を示している空。根本から
色彩を喪った世界の様相は、まさに青年の心根にあった影であり――
おそらくは顔を見たことも声を聞いたこともない、“彼女”の胸中でもあるに違いないのだと。
そして覚醒とともに、おぼろげな想念は現実を前に霧消する。
荒廃も極まった現実を知らされた青年は、黒いあざの刻まれた喉を震わせ、夢の中と同じに吼えていた。
あの黒髪の少女が“何から”人間を解放しようとしていたのか、まったくと思い出せぬままに。
*
「では、こちらからトライブ名を提案する。――ヴォルヴァだ」
“vorva”のすぐ下に、ちいさく“volvere”。
臨時に作戦室とした部屋のボードへ単語と原典を簡潔に綴ってみせた男は、いきおい作戦室の窓から外界を見やった。
雨の白さにけぶる外の景色は、幾日経とうと変わることがない。
「どういう意味だ」
それゆえか。瞳に色が無い青年は風景に目もくれず、部下の言葉へと水を向けた。
「語源は回転。太陽のもとに星が六つあると仮説を立てた者が記した単語らしい」
バラックの隅から発見したという書物を示して、青年をリーダーに仕立て上げた男はそれを彼らに投げてやる。
「星か。夜空に輝く天体だな」
重厚なつくりの書物を受け取った女の合いの手に対して、残りの二人も首肯を返す。
星。雨雲の分厚いここで見たことこそないが、その響きは鼓膜に心地よい振動を与えてくれる。
男の提案の意図を確かめるように、ジャンクヤードに位置するトライブの数を確かめたリーダーは息を吸った。
「いずれは俺達が、六つの星のひとつになるということか」
同時に、十名に満たぬニュービーが寄せ集まった、組織以前の集団には不相応な名だと理解する。
だが、自ら参謀役を買って出た男は両の瞼を閉じて続けた。
「それだけでは留まらない。太陽……の、周囲にある星が六つ。星が六つならば、我等はどの位置につく」
理解したか、ボス。
その言葉で締めくくった男こそが何かを確認するかのように目をしばたかせた。
「太陽とは、空に輝く……どういったものだ」
その呟きを聞き取る間もなく、斥候に出ていた者が作戦室に入ってくる。
「アサインメンツの構成員が、エンブリオンとの交戦領域に向かいつつある」
ハーリーQの姿も見えたとの補足に、彼とともに作戦室へ集まった面々がざわついた。
「アサインメンツのボスが、姿を見せたか」
慎重を旨とするのか、臆病なだけか。戦場に出ることさえ稀である男の動向を聞いた参謀が、声に張りを滲ませた。
斥候によれば数で押すばかりの弱小トライブの長が自ら、直接叩ける場に出てきたとなれば無理もない。
青年の見立ても彼と根を同じくしていたが、もうひとつ気になる点があった。
「エンブリオンの状況は」
確かに、アサインメンツに関しては今が叩きどきだろう。
だが、小規模ながら精鋭を擁するトライブの状況も知らねば、最悪の場合は部下ともども蹴散らされる。
実戦を交えた練兵は必須だが、それを行うには現状はあまりに厳しかった。既存の六トライブの状況や陣容がまとまり過ぎている
ために、自分達ニュービーの割り込む隙など見当たらないのだ。
「あちらは平時と変わらない。ボスのサーフを筆頭に、ヒート、アルジラ、ゲイル、シエロが出ている」
なかば予測していた答えに、青年の頭脳は忙しく働いた。
サーフ、ヒートの勇猛さは言うまでもなく、優秀な狙撃手であるアルジラ。作戦立案能力に長けたゲイル。身が軽く、状況に
応じて柔軟に役割を変えるシエロ。たかが五人と言うのはたやすいが、彼らの布陣にはこれといった穴は見えない。
明らかな弱点である数の少なさも、こちらが言えたことではなかった。
ゆえに、自分達にとってのエンブリオンは明白な脅威である。
それでも、ハーリーQはこの上ない魅力を有する玉(ぎょく)だ。
ふたつの要素を天秤にかけた青年はいずれを選ぶべきか思考し、トライブの長として決断をくだす。
「出撃だ。エンブリオンは必ずアサインメンツを押し、ハーリーに撤退をうながすだろう。その横合いから、奴の首を取る。
エンブリオンとの交戦は極力避けろ。それが終われば改めて旗揚げだ」
vorvaと書かれたボードを指すと、作戦室に集った全員がうなずく。
カルマ教会の提供する武器を手にしたヴォルヴァの面々は、アジトとは名ばかりの廃虚から地獄のような戦場へと抜け出した。
暗く狭い空間から開けた地形に、闇の中から光のもとへ、抜け出すことがかなったというのに。
――Asatho Maa Sad Gamaya
Thamaso Maa Jyothir Gamaya
Mruthyor Maa Amurutham Gamaya――
光とは形容しがたい、灰にくすんだ空の下に、青年は立ち尽くしていた。
黒い太陽も、黄色くぎらつく空も、すでにない。あるはずもない。
「なん……なんだ……」
戦慄を隠せないまま震わせる喉はひどく錆び付き、割れている。
参謀をはじめとする仲間も、アサインメンツやエンブリオンの面々も、既にない。伏撃のために移動していたスワディスターナの
アジト付近の荒野にあるのは、ただ自分の体にこびりついた肉片と、血。鏡面をなすほどに深く溜まった、脂混じりの血液だ。
止まない雨によって薄められたそこに目を向けた青年は、慎重に唾液を呑み込んだ。
アンダーシャツに包まれていない首の中央に生まれた、漆黒のあざが本物かどうかを確かめるように。
黒。いずこかで確かに見たはずの、本当の意味で色の無いノイズが、嚥下の動作に従ってわずかに歪んだ。それが、まるで脈動
を表すかのように感じられる。黒いあざ。柄の要が馬の蹄を思わせる剣の形をなす、その刀身には口がひとつ開いていた。単純な
形にデフォルメされた牙をむき出しにしているその口からは、非常に粗野だが否定出来ない衝動を嫌でも確認させられる。
水を打ったように静まりかえっている周囲の状況が逃げ場の無さに拍車をかけている事実をぴりぴりとする背筋で感じ取った
青年は、空咳をひとつ交えて駆け出した。臆病者どもの隠れ家――アサインメンツのアジトにも、スワディスターナ・エリアそのもの
にも構成員がいない状況に疑問を覚えながら、せめて誰かを探そうと、アジトの中を疾駆する。
一歩踏み出すたびに揺れる髪も等しく乾きかけの血液にまみれ、束をなして額へと力なく叩きつけられた。トライブスーツを
染めている赤は、すでに鮮やかさを失いつつある。アジトの石畳を蹴れば硬い音が響いたが、誰も、誰も、誰も反応しない。
参謀たちがいないことは疑問であったが、人が百人規模で居住可能な広さとは裏腹の静寂に、青年の緊張が緩んだ。
『奇襲が、成功したのか?』
階段を駆けのぼりながら、希望的な観測を吟味する。
ハーリーを自分が倒したとしたなら、彼らがアジトを押さえに回っても不思議ではない。アジトに侵入されたと仮定するのならば、
奴等はどこに身をおき、迎撃するのかと思考しながら、誰にとっても有利を得られる階段を駆け登る。
だからこそ、彼は決定的な台詞を耳にした。
「だってお前ら、喰ったじゃねえか!」
眼下の部屋にいるのはエンブリオンの、サーフ。ヒート。アルジラ。彼らを相手に叫んだのは、両脇に部下を据えたハーリーだ。
光だ。光が飛んできて、化け物みたいに。俺の兵隊がみんな。敵も味方も分からない乱戦。負けた奴等は素手で引き裂いて――
ハーリーが何を言っているのか分からなかった。マシンガンを構えたアルジラの掃射が、なおのこと青年の認識をばらばらにする。
「違う、私、私は喰らってなんか、いない……私じゃ、ない!」
喰らう。彼と彼女の言葉から抽出された単語に、彼の足が止まる。止まって、はじめて何をしたかったのかさえ分かっていない
事実に気付き、喉にひどい痛みを覚えた。眼下ではエンブリオンの中核をなす三人が、それぞれ水色の、赤の、桃色の輝きにあざを
打ち据えられて、ハーリーが言うところの化け物に変貌していく。
そうして、マシンガンの掃射から同じく変化することによって立ち上がった敵を引き裂き、屠り、……喰らう。
プリミティブな戦いの先にサーフだった何者かが見せた血まみれの口を背後から想像した青年は思わずして咳き込んでいた。
「う……ぐッ、うう――」
その咳が、喉のつかえを取ったと同時に、涙か唾液か、水気を交えたうめきへと変わる。
痛みの原因として吐き出されたのは、誰かの、おそらくは仲間の、タグリング。
喰らってなんかいない。私は喰らうことなんて出来ない。ハーリーを追ったアルジラの声がこだまする。
だが、光に貫かれた自分のやったことの結果は青年自身の中に文字通り、あった。参謀か。参謀の片腕だった女か、斥候か。誰の
ものとも知れないからこそ、ハーリーの残した言葉の断片がじわりと彼の身にしみていく。
「俺は……俺は……あああああッ!」
そうして、彼は階下へ飛び降りた。あざが灰色の光をはらみ、落下の衝撃を変化した鎧の一部である長靴がしっかりと受け止める。
魔剣を携えた青年は、アサインメンツの構成員の残骸を踏みにじってアジトの奥へと続いた扉を開く。
灰色の、石像じみた外貌を持つ彼は、顔と同じく下半身を馬のそれに変えて、目的も分からない突撃を開始した。
参謀も仲間もいないと分かった状況下で何をしたいのか、見えてこない自らの精神を哂う気力すら、青年にはすでにない。
『嘘つきかもしれない』
ただ、……嘘であるどころか。喪われた仲間を明らかに裏切った自身がけじめをつけるには、せめてハーリーを倒し、喰らう
他には無いと信じていた。信じでもしていなければ、彼にはこうして駆けることさえかなわなかった。
体がだるい。タグリングを吐き出しても、喉にはいまだ何かが詰まっているような感触がある。
疲労のためではないだるさは、人間から猜疑心をあらわにされた時に感じた抑圧感によく似ていた。この身を変じてもなお、
変じているからこそ、怒りや憤りや悲嘆は澱のように青年の胸中によどみながら沈んでいく。
最後の扉を開ける頃には、口をあけることさえかなわなかった。
「喰われる前に、喰っちまえばいいんだよなぁ!!」
「なんだ、お前は」
両腕を持たない馬、ハヤグリーヴァに姿を変えたハーリーを前にしたヒートの声さえ、対象の耳には入らない。
魔剣がハーリーの肩を刺し貫いたと感じた瞬間、小さな六角形の嵐が青年の体を包み込み――
先ほど姿を変えたアサインメンツの連中のように、ヒトに戻っていながら影のように全身を黒く染めた体が崩れ落ちた。
「そっちは敵じゃないわ! ヒート!」
漆黒の馬の放つ炎を前に、アルジラの叱咤をうけた赤い髪の男がふたつ口を持つ炎の神に変化して火炎を打ち払う障壁を張る。
期せずしてトライブの覇権をかけた戦闘の幕が切って落とされた作戦室に倒れた青年の表面で、紫色の線条が不規則に脈動していた。
*
不規則に揺られて、青年は薄く眼を開ける。
サーフ。お前も随分人が良いな。こいつはアルジラより重いじゃねえか。
サーフ……エンブリオンのボスを務める銀髪の男が桃色の髪をしたアルジラを抱え、自分は、ヒートと呼ばれた赤い髪の男に
引き摺られているようだった。ふと目に入った男の右腕には、やはりというべきか、火球を思わせるあざが刻まれていた。
必死に開いていた瞼が、純粋な疲労を訴えて重くなる。昇降機か何かを使ったのか、縦方向への揺れがわずかに胃を揺らした。
下層に降り立ってしばらくは揺れがつづき、ふいに、ヒートが右腕で抱え込んでいた彼の腕を振り払う。
「飢えてんのか、ゲイル。俺を喰いたいか」
断続的な銃声が途切れたかと思うと、苛立ちを抑えかねるような太い声が青年の耳を打った。
ヒートが銃の持ち主を守りに立ちはだかったのか、あるいは銃の持ち主がゲイルか。考えをめぐらせようにも、まとまらない。
細い言葉のまとまりが硬い地面に身を任せた青年の耳朶を打ったのは、そのときだった。
光は天と地と大気に満ち
光より栄光、光輝、恩寵流れいづ
光である内在の英知を 神よ われらに目覚めさせたまえ――
少女のものだろうやわらかな声に付随する単語と単語の抑揚は、会話のそれとはまったく違っていた。
ふと高くなることもあれば、低く、こちらの胸の底を撫でる瞬間さえあり。その揺らぎこそが、青年の堰を切った。
安らぎを、安らぎを。Shan-ti。聞き覚えのある響きが過去を、取り戻せない記憶のもつ重みから彼の心を解放せしめる。
それゆえにか。しごく素直な思いで警戒を解いた青年は、再び意識を手放す。
白い雨糸ですら、その瞬間の彼には慈雨のごとくに思えた。
*
「ニュービー。俺やアルジラのように変わっていたということは、お前も例の光に巻き込まれたな」
一歩間違えれば詰問にも聴こえるだろう、冷静極まりない問いかけに対して、青年はゆっくりとうなずいた。
寝台から身を起こしてすぐであるにしても、エンブリオンの参謀と対面しても思ったほど驚いていない自らにこそ驚く。
「ああ。おそらくは」
「俺達にあった悪魔の因子を起爆させた“ウィルス”はジャンクヤード中に広がったらしいが、最初に触れた者ほど覚醒が早い。
お前もヒートのお墨付きだ。ハーリーに一撃を喰わせられる新参者など、そうはいない。奴は奴なりに評価していた」
グラウンド・ゼロ。“ツボミ”と呼称される物体が現れ、方々に光をばらまいたという地点を指したゲイルの指は、間違いなく
エンブリオンとアサインメンツの交戦領域にあった。
「……そうか」
男のもつ灰色の瞳に見据えられて、先刻までまどろんでいた青年は瞑目した。
エンブリオンの作戦室には、雑多なメモや武器が据えられている。机上の中心に位置するカルマ教会の聴聞機は、先ごろの
示達から何を告げるということもないらしい。
ただ、ニルヴァーナの門を開く条件に“黒髪の娘をカルマ教会に連れて来る”ことが追加されたとの言に、青年は顔をしかめた。
セラと名乗った娘とはまったく面識が無かったのだが、飢えを遠ざける“歌”が脳裏をよぎったのだ。
無意識の記憶が生み出す心の重荷を解かすような旋律は、同時にまどろみから醒めた彼へ冷静さを――過去を思い返すだけの余裕を
与えてくれた。覚醒した瞬間に襲った記憶の嵐を聴いたゲイルは平然と受け流したものだが、それでも彼だけは、事実を忘れられない。
あの瞬間は何も、何も見えなかった。
閉じた瞼をも突き刺した、ゆるやかな光の奔流は、闇とさしたる変わりはない。
それに込められた意図や意思に思考を向ける前に、過多な情報の嵐は青年達の脳を侵していた。
“Eat them all”。何度も、何度も何度も頭に直接打ち込まれたの文字列を前に、彼らは真から理性を喪っていたのだ。
喰らい尽くせ。その声のとおりに動いたのは、誰より判断能力に秀でていたはずの参謀だった。紫の線条が各所に縄をなして、
セルに包み込まれた彼の体を収縮せしめ――青い帽子をかぶった、小さな人型の妖精に変貌した彼は、青年へ迷い無く拳を向けた。
止めようとした女も単眼式のスコープを落として、セルの嵐がやむとともに背中から生えた蝙蝠の羽でもって宙に浮かぶ。
ジャックフロスト。彼女が叫んだ参謀の成れの果ては、青年が拳をさばくが早いか戦い方を変えた。降り続ける白い雨の、ほんの
一部。セルの欠片が挙げられた彼の右手に凝縮したと確認すると同時に、こちらの胴体を現れた氷塊がみしりと包み込んだ。
自分の背骨を折らんとばかりに収束し、その果てに砕け消えていく氷には明らかな殺意と、欲望がある。
……冷気も過ぎれば熱感しか生み出さない。内臓まで刺し貫くかのような痛みよりも、楽しげに笑う“参謀だったもの”。
彼の。いや。今や彼と同じように魔法への集中を始めた女たちの変貌にこそ、青年は抵抗を放棄したいと考えた。
喰らい尽くせ、Orfenok。
オルフェノク。
いやに背筋のざわつく単語を、受け入れてしまいたいと感じたその瞬間に喉が焼きついていた。
紫の輝きが喉の中心を打ち据え、同色の線条が体に幾筋もはしり、電気系統のようなセルの嵐がその体に肉を付けていく。
鼻と、張り出した顎はやがて馬のように変わり、首から下は騎士のような鎧に覆われた。
銃を握り締めていたはずの右手には、蹄鉄を要にした剣が現出している。
魔の力の溢れたそれでもって、自分は彼らの心臓を突き刺し、生命の源を飢えに任せて喰らっていた。
あの、血だまりの意味が理解できてしまうに至って――
自分の中にある“悪魔”の存在が、青年にはひどく恐ろしいものに思われた。
ゲイルの脚に刻まれた黒いあざ、ヒトの本性を表すアートマが魔剣の形を戯画化したものであることには、いっそ哂いたくなる。
これからどうする、と暗に生死を問われた彼は、首に現れた自分の本性を隠すようにうつむき、かぶりを振った。
「俺は……まだ、死にたくは無いよ。君たちには借りがあるし、何より、俺自身が自分の事を分かってないから」
「そうか」
視線が一定しないなか、自分の事が分かっていないとのくだりに、ゲイルが不規則なまばたきを行う光景がのぞいた。
“理解不能だ”と誰に聞かせるでもなくつぶやいた刹那、そこに緑の輝きを見たのは気のせいだったろうか。
「ならば、ニュービー。お前もエンブリオンの一員だ」
参謀は短く宣言し、今や地図からアサインメンツの単語が無くなったボードを操作し始めた。
----------
以上、今回の投下は終了です。
>165
ご苦労様です
>>139 星の「生活維持省」が「生と死の支配者」のパクリなんだよ。
Fateのクロスオーバー物で
召喚されたのがセイバーたちではなく他の版権キャラクターだったら
というのを思いついた
しかし誰を呼べばいいのか分からん
>172
バーサーカーにベムラーとか、ライダーに一条薫とか。
バーサーカーにガッツ、ライダーに剣崎。
ここって小説のみなんだよね?
台本形式のは駄目なの?
うーむ、投下来ないな。
するって言う人がいるから待ってるんだけどな。
気付いたら
自スレじゃなくても
即支援
それがGGGクオリティ
180 :
ライ×C万歳:2008/12/11(木) 18:15:58 ID:Km19oWOi
こんにちは…私、コードギアス反逆のルルーシュ LOST COLORS SSスレでSS書いてるライ×C万歳と言います。
今回、ちょっとした挑戦心で書いたコードギアス反逆のルルーシュ LOST COLORSとガンダムOOのクロスをこのクロススレに投下死に来ました。
OOとのクロスといっても、「ロスカラとOOがスパロボで競演というシチュエーション」で書いたので、これ以外の作品のキャラも名前と少しの台詞だけで出てきます。
クロスは慣れないうえに、そんなに文章は上手くないのであまり面白くない上に構成も微妙かもしれません…
でも私的に一生懸命書いたつもりなので、読んでいただければありがたいです。
それとパソコンが今おかしいので途中で問うか止まるかも…
まぁ、喋るのはここまでにして、投下よろしいでしょうか?
長いかもしれないので、支援していただければ幸いです。
おk 必要なら支援する
182 :
ライ×C万歳:2008/12/11(木) 18:27:48 ID:Km19oWOi
ではいきます…。タイトルは「また会うことを誓い」です
また会うことを誓い
「なにやってるんだろうな…俺は…」
ソレスタルビーイングのガンダムマイスター、そしてロンドベルのパイロットの一人であるロックオン・ストラトスは、傷付いた体に鞭を打ち、破壊されたGNアーマーのGNキャノンの上で、
愛機・ガンダムデュナメスのコクピットから取り外したスコープユニットを構え、肉親の仇、アリー・アル・サーシェスの乗るガンダムスローネツヴァイを狙っていた。
距離はまだ遠く、こちらの有効射には入っていない。
今のロックオンは負傷で利き目が使えず、遠距離射撃が出来ないためにここからでは射撃は当たらない。
当たったとしても止めは刺せないだろう。
「けど…こいつをやらなきゃ…仇を討たなきゃ…俺は前に進めねぇ…」
しかし、有効射に入ったとしても、撃ったと同時にツヴァイがGNキャノンを攻撃し、ロックオンはその攻撃か破壊されたGNキャノンの爆風を受けて死ぬ。
だがロックオンはそれでも構わなかった。
どんな形であれサーシェスを撃たなければ、自分は過去の家族を失い、泣くことしかできなかった自分と決別できない。
過去に囚われたままの自分では未来に進めない、そして…
「世界とも…向き合えねぇ…」
様々な軍が決起し、異星人が襲来し、争いが耐えない歪んだ世界とも渡り合えない。
過去に囚われたままの自分では世界の歪みを正すことなどできはしない。
「だからさ…」
「世界の歪みを正すため、俺は過去と決別する!」
そう思った瞬間、ツヴァイがこちらに向かってきた。
ロックオンを捉え、悪鬼のようにメインカメラを紅く輝かせながらGNハンドガンをGNキャノンに向けている。
だがツヴァイの銃口からビームが放たれる瞬間、スコープユニットのカーソルがツヴァイを捉えた。
「狙い撃つぜぇ!!」
183 :
ライ×C万歳:2008/12/11(木) 18:29:26 ID:Km19oWOi
ロックオンはトリガーを引き、キャノンの砲塔から巨大なビームの光が発射される。
そのビームはツヴァイの下半身に直撃し、ツヴァイは最後の力を振り絞るようにGNハンドガンからビーム弾を一発撃ち、爆発した。
そしてその紅いビームはGNキャノンを直撃し、ロックオンは着弾した衝撃でキャノンの上から振り落とされた。
「ゴフ!」
振り落とされた瞬間ロックオンは吐血し、ひび割れたバイザーの口元が血に染まる。
内臓をやられた…もう助からない。
ロックオンは静かに自らの死を悟った。
もはや死を待つばかりとなったロックオンの元には、破壊されたGNキャノンに残留していたGN粒子の光が舞い降りてくる…
ロックオンにはその宇宙空間を漂う粒子の残滓が雪のように見えた。
「父さん…母さん…エイミー…」
ふと、雪の降る日に家族で開いたパーティーを思い出す。
それが何のパーティーだったかは覚えていないが、その時間が暖かく、安らぎと幸福に満ちていたことは覚えている。
「分かってるさ…こんなことをしても…変えられないかもしれないって…元には戻らないって…それでも…これからは…明日は…ライルの…生きる未来を…」
生き残った最後の家族…ロックオン・ストラトス、本名ニール・ディランディの双子の弟ライル・ディランディ…
「会えないのが心残りだが、あいつは俺の送った金で行っていたカレッジを卒業し、AEUの商社に就職して、平和に暮らしているはずだ。あいつには、これからロンド・ベルがもたらすであろう平和な世界を生きて欲しい…」
生き残った弟にそんな思いを馳せていると、ロックオンの左目にオリジナル太陽炉の光と、青いナイトメアフレームの姿が見えた。
「刹那…ライ…」
二人ともロンド・ベルの大切な仲間だ。
反逆者となり、連邦軍に狙われていたロンド・ベルは部隊を地上に残っている地底勢力やブリタニア軍を撃退する部隊と、宇宙で異星人を撃退し、連邦軍に対抗する部隊の二つに分かれていた。
そのなかでライは仲間の黒の騎士団と共に地上部隊に配備され、刹那は新型MS・ジンクス部隊によるソレスタルビーイング別働隊・チームトリニティへの攻撃を紛争とみなし、排除のために地球に下りていた。(末妹のネーナ以外は結局戦死したが)
刹那はそのまま共に地球に下りた強襲用コンテナのパイロット、ラッセ・アイオンと共に地上部隊と合流し、黒の騎士団戦闘隊長・ライと共に先にこの宙域に向かっていた。
刹那の乗るガンダムエクシアとライの乗る月下は急ぐようにスピードを上げ、ロックオンの元に向かってくる。
しかし、ロックオンにはそれが間に合わない事がわかっていた。
既にビームを受けたGNキャノンは火花をあげ、爆発寸前の状態だ。
このままではキャノンは爆発し自分は爆発に飲み込まれて消える…
しかし、恐怖は感じなかった。
むしろこれは、世界に牙を向いた自分への罰だとも思えた。
184 :
ライ×C万歳:2008/12/11(木) 18:30:39 ID:Km19oWOi
「刹那…答えは…出たのかよ…?」
刹那…自分の弟分のような少年…彼は過去に囚われていた自分と違い、未来に向かって生きている。
自分を変えられなかった自分と違い、未来を見つめている刹那ならいつか世界を正しい方向に変えてくれる。
ロックオンはそう信じた。
「ライ…お前は…俺のように…なるんじゃねぇぞ。」
ライ…記憶喪失の少年…彼はロンドベルで出会った友人の一人だ。
彼は記憶を取り戻したとき、何を思うのだろうか?
もし凄惨な記憶を持ち、過去に囚われてしまったら、自分のように未来に進めなくなってしまうかもしれない。
だが彼はまだ若い。
思いもよらない過去に立ちすくんだとしても、ライは仲間達に助けられながら、再び前に向かって歩くとロックオンは信じたかった。
だから、ライに届かないことは分かっていても、「俺のようになるな」という言葉を送った。
そして最後に、ロックオンは母なる星、地球に目を移した。
遠く離れている地球は小さく、三本の軌道エレベーターが出た様は三本の針が刺さったボールのように見える。
地球はとても美しく、青く輝いていた。
だが、青く美しい地球に住む人々は異星人や地底帝国が襲撃しているにもかかわらず、未だに人同士の戦いを続けている。
人は人類共通の敵が現れた今になっても、争うことを止めようとしないのだ。
意思の疎通が出来るのに互いを受け入れず、互いの利潤や怨恨で戦いを続ける…外宇宙からの脅威が迫っている今、そんなことをしている場合じゃないのに…
「よぉ…お前ら、満足か?こんな世界で…」
ロックオンは地球に住むすべての人々に言っているかのように呟いた。
そして左手を銃のような形に変え、人差し指を地球に向けた。
まるで愚かな人間達の住む地球の狙い撃つかのように。
「俺は…嫌だね…!」
彼が静かにそうつぶやいた瞬間、GNキャノンが爆発し、ロックオンは爆炎に飲み込まれた。
ロックオン・ストラトス…ニール・ディランディという人間がこの世界から消えた…
支援
186 :
ライ×C万歳:2008/12/11(木) 18:32:12 ID:Km19oWOi
*
僕は刹那のガンダムエクシアと共に、ロンドベルの別働隊と合流するため、連邦とロンドベルが戦闘を行っている宙域に向かっていた。
僕と刹那だけが先行したのには理由がある。
真ゲッターやマジンカイザーのような超スピードが出せる機体は先の百鬼帝国の首領・ブライ大帝、邪魔大王国の竜魔帝王、ミケーネの暗黒大将軍、地獄大元帥、闇の帝王という強敵たちとの決戦で傷付いて修理中であり、他の機体も損傷率が高く、出撃できなかったからだ。
だからダメージが少なかった僕の月下と刹那のエクシアが先行部隊になったのだ。
しかし、着いた頃には既に戦闘は終了しており、代わりに僕らの目に飛び込んできたのは信じられない光景だった。
今にも爆発しそうなGNキャノンの残骸と、そのすぐ近くを漂っているロックオンの姿であった。
「ロックオン!クソ…!」
ロックオンは利き目を負傷し戦えないと刹那から聞いていたが、そんな事は今はどうでも良かった。
僕は月下の速度を上げ、ロックオンの所に向かった。
(間に合え…間に合え…間に合え…間に合え…)
僕は心で何度もつぶやいた。
地上での行動中、僕は記憶を取り戻した。
孤島でのブリタニア軍との戦闘中、スザクのランスロットの攻撃を受けてゼロとカレンが海に落ち、行方を暗ました時、C.C.に二人は神根島に居ると教えられ、僕が一人で二人を助けに行った際、そこにあった遺跡に触れたときに記憶が蘇ったのだ。
それは忌まわしい記憶だった。
それは自分が遥か昔、小国の王であったという記憶。
それは僕が命より大事な妹と母を助けるため、多くの人間を犠牲にした記憶。
それは自分の自業自得で大切な母と妹、そして国民を殺してしまった記憶。
全てを思い出した僕は自分の過ちに押しつぶされそうになった。
だから宇宙に戻ったらロックオンに相談しようと思った。
きっと、敵だった僕にも優しくしてくれたロックオンなら僕を助けてくれると思ったから…
きっと進むべき道を教えてくれると思ったから…
でも、そのロックオンの生命の灯火が今まさに消えようとしている。
「嫌だ…これ以上大切な人を失いたくない…こんな思いはもう嫌だ…だから間に合ってくれ!」
その一心で僕は月下を飛ばした。
だが、時間の神は味方してくれなかった…
GNキャノンは大爆発を起こし、ロックオンはその爆炎に飲み込まれた。
「ロックオォォォォォォォン!!」
僕は喉が枯れるほど大きな声で、炎に焼かれていく彼の名前を読んだ…
187 :
ライ×C万歳:2008/12/11(木) 18:35:09 ID:Km19oWOi
………
…僕はアルビオンにある自室で明かりも付けず、ベッドに座りながらふさぎ込んでいた。
ロックオンの死は、ロンドベルの皆を悲しませた。
「ロックオンのGNアーマーとすれ違ったときに俺が止めていればこんなことにはならなかった」と泣き咽ぶシンと、そんなシンを抱きしめ、慰めるルナマリア。
「ムサシ…ロックオンが天国に着いたら、仲良くしてやってくれ」と呟いていたリョウさんとハヤトさん。
「アキ…俺、また大事な仲間を助けられなかったよ…」と言いながら拳を握り締めていた勝平。
自分が始めて心から信頼できた仲間を失い、絶望するティエリア。
そして、マイスターの中でロックオンを慕っていた刹那とロックオンに淡い恋心を抱いていたプトレマイオスのオペレター、フェルトの涙…
誰もがロックオンの死に涙を流した。
人間は死んだ時に涙を流してくれる人の数だけ価値があると聞いたことがあるが、皆の涙を見れば、ロックオンがどれだけ皆に愛されていた人間かが分かる。
僕は、ロックオンが居なくなって空いた心の穴をまだ埋めることが出来ない。
「悲しむ時間があるなら俺は戦う。ロックオンの死を無駄にするつもりはない。」と言って戦う意思を失わないヒイロ。
「戦闘はまだ続いている。いつまでも悲しんでいると死ぬ。俺は戦う。」と割り切っているスウェン。
「ロックオンの為にも、今は涙を呑んで戦うべきだ。」という鉄也さんのように僕は強くない。
堪えようと思っても、忌まわしい記憶とロックオンの死にズタズタにされた今の僕には出来そうにない。
ロックオンの宇宙葬が終わった後、刹那と共にロックオンの最後の戦闘映像をハロを通して見たが、それは凄まじいものだった。
ロックオンは家族をテロで殺された怒りで、実力も熟練度も自分を上回るアリー・アル・サーシェスのガンダムスローネツヴァイと互角の勝負を繰り広げたのだ。
僕もかつてカレンと共にアリー・アル・サーシェスと戦ったことがあるが、こちらは紅蓮に月下という強力な機体が相手にも関わらず、サーシェスの駆る青いAEUイナクトに手も足も出なかった。
そんな怪物染みた腕を持っている男が乗ったガンダムだ。
相当手強い相手だっただろう
そんな化け物と互角に戦ったロックオンの力に感心すると共に、人間の怒りがもたらす力の大きさを知った。
だが、ロックオンが駆るガンダムデュナメスがビームサーベルでツヴァイの右手を切断し、あと一歩でサーシェスを倒せるという時に邪魔が入った。
一機のジンクスがデュナメスに向けて特攻し、デュナメスの右腕を破壊したのだ。
その特攻で右目の死角を気付かれ、デュナメスは死角から、ツヴァイ最強の兵装であるGNファングを受けて破壊された。
しかしロックオンは機体から降り、近くを漂っていたGNアーマーのGNキャノンの残骸を利用して、サーシェスのツヴァイを倒したのだった。
ツヴァイが完全に爆発したかは映像では分からなかったため、本当にサーシェスを倒せたかどうかは疑問が残ったが、今はそんな事はどうでもよかった。
ただ、心の奥から込みあがる哀しみが、そして取り戻した忌まわしい記憶が僕を苦しめていた。
「ロックオン…」
ふと、ロックオンと始めて会話をした日の記憶が脳裏に蘇って来た。
支援
189 :
ライ×C万歳:2008/12/11(木) 18:38:30 ID:Km19oWOi
………
ロンドベルとソレスタルビーイングが利害の一致のために同盟を結んでから数日後、偶然プトレマイオスに来ていた僕はC.C.と共に食堂で昼食を摂っていた。
「む〜…」
C.C.は不満そうな顔でトレイに乗った食事を食べていた。
「どうしたの?」
「ここにもピザが無い…」
ここしばらくC.C.はピザを食べていない。
ラーカイラムにもアークエンジェルにもミネルバにもエターナルにもアルビオンにも大空魔竜にもキングビアルにも食堂にピザが無いからだ。
もっとも、パイロット達のために戦闘食や軽食が中心である軍艦に、カロリーが高く、お腹が膨れるピザなどあるはずが無い。
そして今は宇宙に居るため、ピザの宅配も頼むことも出来ない。
ウラキ少尉の台詞を借りて表すのならC.C.にとってこの宇宙の海は地獄であろう。
「我慢しなよ。地球に戻れば食べられるんだからさ。」
「いつ戻れる?何時何分何十秒、地球が何回回ったときに戻れる?」
「そこまでは僕も知らないよ…」
「もう嫌だ…ピザが無いなら私は死ぬ…」
「君は死なないだろう」という突っ込みはいざこざを避けるために止めておこう。
「ああ〜…ピザ食べたいピザ食べたいピザ食べたいピザ食べたい…」
C.C.はテーブルに顔を埋めてボソボソと呟き続ける。
キャラが変わってるよC.C.…
ピザを食べられないのがそんなに地獄なのかい?
あまりにも可哀相だから今度地球に行ったらピザを奢ってあげよう。
そう思っていたときだった。
「仲睦まじいじゃないか。」
『ん?』
緑のシャツと赤いジャケット、ジーンズを身に着けた男が手にトレイを持ち、僕とC.C.が座っている席の前にやってきた。
「お前が、あの三叉腕の青いナイトメアフレームのパイロットだよな?」
三叉腕…僕の月下の甲壱型腕の事を言っているのだろう。
確かこの男はソレスタルビーイングのガンダムマイスター…
「あなたは…緑色のガンダムのパイロットの…」
「ロックオン・ストラトス、成層圏の果てまで狙い撃つ男だ。」
男は僕の前の席に座り、自分の名を名乗った。
「俺が自己紹介したんだ。お前らも自己紹介してくれよ。」
「あ…ライです。名字は…分からない。」
「…C.C.だ。」
「へぇ…名字が分からない男と名前がイニシャルだけの女か…変な組み合わせのカップルだな。」
僕は「カップル」じゃないと否定しようとしたが、C.C.に足を踏まれ、「違う」と言えなかった。
酷いじゃないかC.C.。
「全く、あの赤いナイトメアとお前の青いナイトメアには苦戦したぜ、ライ。」
「僕も貴方のガンダムの遠距離射撃には手こずりましたよ、ロックオンさん。」
「ロックオンでいいよ。俺の名前にさん付けじゃ変だ。」
190 :
ライ×C万歳:2008/12/11(木) 18:40:10 ID:Km19oWOi
彼は…ロックオンは親しげに僕に話しかけてくる。
僕やカレンはナリタやフトウでソレスタルビーイングと交戦し、彼とも何度か戦ったことがあるが、通信機から聞こえてくる彼の声はいつもテロリストに対する憎悪に満ちていて、何度も僕達は彼に倒されかけた。
しかし、今の彼からは憎悪も殺気も感じない。
優しさを含めた柔らかい笑顔で僕の話に応じてくれる。
敵であった頃とは大違いだ。
僕はなぜ彼が僕らと戦ったときに憎悪をむき出しにして戦いを挑んできたかが気になり、彼にそれを聞いてみることにした。
「ねぇ、ロックオン。」
「ん?何だよライ?」
「何で君は、ナリタやフトウでの戦闘で僕ら黒の騎士団に憎しみをむき出しにしながら挑んできたんだ?
今は仲間とは言え、君には殺されかけたこともあるから、出来るなら理由を聞いてみたい。」
「…」
ロックオンはフォークを加えたまま椅子の背もたれに寄りかかり、少しの間考えるように唇でフォークを動かしていると、元の姿勢に戻り咥えていたフォークを右手で取ってトレイの上に置いた。
「もともとマイスターには守秘義務があるんだが、まぁ、殺しかけた男の頼みじゃしょうがねぇよなぁ…教えてやるよ。」
ロックオンは表情を悲しげな物に変えると、自分の過去を語り始めた。
ロックオン・ストラトスというのは彼のコードネームであり、本名はニール・ディランディというアイルランド人であること。
七年前の一年戦争時、戦争とは無縁な祖国、北アイルランドで自爆テロに会い、両親と妹を失ったこと。
それ以来、テロを強く憎むようになったこと。
スポーツ射撃の成績を評価されてソレスタルビーイングにスカウトされ、ガンダムマイスターとなったこと。
全てのことを包み隠さず話してくれた。
「じゃあ、ロックオンが僕らを執拗に狙ってきたのは…」
「ああ。俺のテロへの復讐心からさ。」
「素晴らしい位の矛盾だな。」
ライの隣でC.C.がロックオンに冷たく言った。
「お…おいC.C.…」
僕はC.C.の冷ややかな発言を注意しようとしたが、彼女に睨まれ、言葉を止めた。
僕を黙らせたC.C.はそのまま喋り続ける。
「お前達ソレスタルビーイングも、紛争根絶を掲げ、世界各国に武力介入しているテロリストじゃないか。日本解放を掲げて、好き勝手やっていた私達黒の騎士団となんら変わることは無い。
私達はお前に非難される筋合いは無いな。
それとも、自分達のテロは綺麗で、私達のテロは汚いから駄目だとでも言いたいのか?」
「そう言われても仕方ねぇ。だけどな…」
ロックオンは目つきを鋭く尖らせ、僕とC.C.に視線を合わせながら話を続けた。
「もうこんな世界は終わらせなきゃ駄目なんだ。異星人や化物が攻めてきても、未だに連邦だのネオジオンだのブリタニアだので戦い続けてる世界なんざ、もう変えなきゃ駄目なんだ。
俺のような孤児を、これ以上増やさないためにも、無益な血を流さないためにも、戦争根絶をなさなきゃ駄目なんだ。
そのために俺は、マイスターになった。」
「その過程で自分達が多くの命を奪ってもか?」
「咎は受けるさ。全てが終わった後でな。」
ロックオンはC.C.の問に惑うことなく、まっすぐな目でそう答えた。
191 :
ライ×C万歳:2008/12/11(木) 18:42:50 ID:Km19oWOi
………
僕はC.C.の言葉に真っ向から答えたロックオンの「もうこんな世界は終わらせなければいけない」という台詞を忘れることが出来ない。
僕は彼らに会うまで、ソレスタルビーイングの戦争根絶という目的を夢物語としか感じていなかった。
だが今は違う。
彼らがどんなに必死な思いで戦い、武力介入を行っていたかが分かった。
きっと刹那にも、アレルヤにも、ひょっとしたらティエリアにも、ロックオンのように拭えない辛い過去があり、それぞれのマイスターはそんな悲しい体験を他の人々に体験させないために、
平和な世界を創るためにソレスタルビーイングに入り、戦争根絶を実現させようとしていたんだと思った。
僕はロックオンと話しをしてから、彼らマイスターに興味が沸き、少し積極的に話しかけてみることにした。
最初はギクシャクしていたが、刹那、アレルヤとは無事和解し、友人になることが出来た。
ティエリアとだけは未だ和解出来ないままだが…
それから僕は、刹那と一緒にトレーニングをしたり、アレルヤと一緒に買出しに出かけたりと、様々な交流をしてきたが、やはり一番仲良くなれたのはロックオンだった。
ロックオンはいつも僕をリードし、悲しい時は励ましてくれたり、迷ったときは相談に乗ってくれたりしてくれた。
今思えば、遥か昔に良い兄と呼ぶべき兄弟を持っていなかった僕は、彼の暖かさと器の広さに、兄の優しさのような感情を感じていたのかもしれない。
けど、もうロックオン居ない。
僕の頼りにしていたロックオンは、もう居ない。
もう、僕を導いてくれた彼は、もう、この世に居ないのだ…
現実を見つめようとするたび、僕は更なる失望感と絶望感に襲われた。
「おい、明かりくらいつけろ。」
そんな時自室の自動ドアが開き、C.C.が部屋に入ってきた。
そしてそのままベッドに座っている僕の元まで歩いてくる。
「やはりまだ落ち込んでいたのか。」
「当然さ。」
僕は壁に寄りかかり、瞳を閉じた。
「僕には…ヒイロやスウェンみたいに割り切れない。」
「…ふん。まぁいい、食堂に来て何か食べろ。持たないぞ。」
「食欲無い。」
「…良いから来い。」
C.C.は僕の手を掴み、強く引っ張った。
「行かない!」
僕は彼女の手を思い切り振りほどく。
しかし…
「来い!」
C.C.はまた僕の手を掴んだ。
「行かないって…」
そしてまた僕が再び手を振りほどいたあと、「パンッ!」という乾いた音が部屋に響いた。
「え…?」
気付くと、僕の右頬が赤く腫れ、目の前に居たC.C.は左手を平手に開き、胸元に構えていた。
「C.C.…?」
「甘ったれるな…!」
C.C.は目を鋭く尖らせ、僕を見つめた。
192 :
ライ×C万歳:2008/12/11(木) 18:46:17 ID:Km19oWOi
「記憶が戻り、辛いのも分かる。最も信頼していた仲間が死んで、悲しいのも分かる。だが、いちいちそれを慰めて貰わなければならないほど、お前は弱かったか?」
「…」
「悲しみを全部、今ここで吐き出せとは言わん。だが死んだロックオンのためにも、お前が今出来ることを考えろ。」
僕は瞳を閉じ、さっきまでの自分の有様を振り返ってみた。
彼女の言うとおりだ。
僕は過去の記憶を取り戻し、犯した罪の重さに押しつぶされそうになった。
だから信頼していたロックオンに相談し、どうすれば良いかを聞こうとしていた。
だがそれは、ただ辛いのを慰めて欲しかっただけなのかもしれない。
もちろんロックオンの死も悲しかったが、もしかしたら一番悲しかったのは、ロックオンという慰めてくれる相手が居なくなってしまったことかもしれない。
それをごまかすため、ロックオンの死を理由にし、さっきまで苦しんでいたのだ。
もしそんな理由で悲しんでいたのなら最低だが、友をただ慰めの相手として利用しようとしていただけならもっと最低だ。
それは戦友に対する最大の冒涜だ。
僕は心の中でロックオンに「ごめん」と謝ると、ベッドから立ち上がった。
「ありがとうC.C.…色々助かったよ」
「全く、世話のかかる奴だ。」
C.C.は僕を見ると、安心したような目で笑った。
思えばC.C.は、僕が記憶探しをしているときも、僕を色々と助けてくれた。
彼女には迷惑をかけっぱなしだ。
僕はいつか彼女にお礼をしなければならないと思った。
「あはは…ほんと、ごめん。じゃ、食堂行こうか。」
「ああ。相変わらずピザが無いがな。」
「我侭言うなよ。」
僕とC.C.はまたいつもどおりの会話をしながら食堂に向かった。
………
数時間後、連邦軍の大部隊がロンドベルの艦隊に向けて進軍してきた。
敵戦力はジンクス数十機の他に六機のデストロイガンダム、そして黄金の擬似太陽炉搭載型モビルアーマー一機だ。
おそらくこの金色のモビルアーマーの早期撃墜が勝利の鍵となるだろう。
出撃メンバーに選ばれた僕は月下に乗り込み、機体を起動させる。
そしてカタパルトに向かいながら、ロックオンのことを思い、そして誓った。
「ロックオン、いつになるか分からないけど、また会おう。
それまで僕は弱音を絶対に吐かない。もう、二度と君に甘えたりしない。
だからもう一度会うその日まで、今よりももっと強くなる。」
と…
「ライ、月下、行きます!」
カタパルトに着くと、僕は月下を発進させ、味方のスーパーロボット・リアルロボット軍団と共に敵軍へと向かっていった…
今はまだ遠い未来かもしれないけれど、いつかロックオンが望んだ世界を実現させるために…
これにて投下終了です。
クロスって難しいですね…
機会があるなら次はブリタニア軍ルートでグラハムとライ、スザクとの交流を書きたいと思っています。
ギアスは知っていてもロスカラ知らない方はすみません…
193 :
創る名無しに見る名無し:2008/12/13(土) 00:33:10 ID:aXSMMGV0
保守
冒頭や設定だけなら思い付くんだよなあクロスって
夏休みを利用して母さんとアタシは父さんの実家へ来た。
グランマはとても優しい人だけど、ちょっと……うっおとしい。
寂しがりな母さんには、ちょうどいいみたいだけど
正直アタシは三日も朝から晩まで一緒に過ごしたらお腹いっぱいだ。
だからまあ、自転車買ってもらって、隣町まで来てみた。
日本の道はアメリカの道と違って狭いしややこしくて頭にくる。
気が付けば辺りは住宅街。
少し先から同年代くらいの子どもの声が聞こえる。
……それから、男でも女でも大人でも子どもでもないような奇妙な声も。
面白そうだから、私はその声がする方に近付いた。
土管が三つ積まれた空き地に彼らはいた。
ゴリラみたいなのとキツネみたいなのとメガネザルみたいな男の子。
それから……わけのわからないもの。
「青い……狸?」
「ボクは狸じゃなあい!」
呟いた言葉に青狸はクレイジーな声をあげる。
チッ、とんだ地獄耳だわ。
「じゃああんた誰よ」
「人に名乗る時は自分から名乗るもんだろ?」
「アタシはジョリーン・クージョー。
日本だから、空条徐倫って言うんだっけ?」
ドラえもん のび太と ジョジョの奇妙な冒険
チビ徐倫か。かわええな。ちっちゃいってことはスタンド発現前?
>>195 うんまだ小学生くらい
みんなと仲良くなって冒険する中で
敵に出会って原作より早くスタンド発現……まで考えたけど
敵とかピンチが定まらないから困る
その前に6部はジャンプで読んだだけって方が問題か……
三つくらい考えたのは
・どこでもドアでイタリアに→パッショーネと遭遇
・タイムマシンであの日のカイロに→父さん救うためスタンド発現
・なんかオリジナルスタンド使いの敵が町に!
みんなで立ち向かおう!
承太郎がドラえもんをスタンドだと勘違いするとか
「もし過去に戻れたら何したい?」って聞かれて言葉失うとか
色々考えるのは楽しいんだよなあ
隣町が杜王町だったりw
楽しそうでいいね。わくわくする。
子どもたちだと深刻な事態にならずに冒険活劇してくれそうなのがまた良さげ
帰ってきたウルトラマンをベースにして、何かをクロスさせたSSを書きたいのだけど
クロスさせる相手が見付からない。
リリカルなのはのヴォルテールが星人に拉致されて地球でMATと対決とか
そういうのも考えたけど、なのは関連とのクロスの場合なのはクロススレが
あるからそっちに書き込むべきだろうし…
ローゼンメイデンのドールズがドール怪獣化してウルトラ兄弟と戦うSSは
もう他スレでやっちまったから今更ここに持ち込むワケにはいかないし…。
>198
「信濃のコロンボ」シリーズとか。
この銀河を統括する情報統合思念体が地球に送り込んだヒューマノイドインターフェース、長門有希。
彼女は平時こそごく平凡な女子高生を装い、また涼宮ハルヒを中心としたSOS団の団員として
活動しているが…人々は知らない。彼女が人知れず様々な怪事件に立ち向かっていた事を…。
今回はその長門が人知れず解決したとある怪事件のエピソード………。
あくる日、街では暴力事件が多発していた。まあこの様なご時世だから、暴力事件が
起こっても不思議な事では無いのだが…少し解せ無い部分もあった。
何故ならば、どの事件に関しても暴力を起こすのは何の前触れも無い突然の事で、動機が分からないのだ。
そして容疑者は口々に言う。
「突然暴力衝動に駆られた。」
と…。
これに関して、SOS団の超団長涼宮ハルヒは不思議な事件の匂いを感じ、
独自に捜査に踏み込もうとしたが、速攻で同じくSOS団団員のキョンに止められた。
「こういうのは警察に任せた方が良い。」
と…。
結局、この事件に関してSOS団は特に何もする事は無かったが……その後でそれは起こった。
SOS団の活動を終え、長門有希は一人帰宅していた。そして長門が道を歩いていると
一人の男が自動販売機でタバコを買い、それを吸おうとしているのが見えた。
普通ならばただ男がタバコを吸っているだけの事だったのだが…
「うっうおおおおおおおおお!!」
「?」
男は突然豹変を始め、長門へ襲い掛かって来たでは無いか。だがあいにく長門はただの
女子高生では無い。逆に男が死なない程度に蹴り返し気絶させてしまった。しかし…解せない。
つい先程まで男は長門へ襲いかかる素振り所か殺気の類さえ発してはいなかった。
一つ分かるのは豹変する直前にタバコを吸っていた事。
「まさか…このタバコは…。」
男の吸っていたタバコを不審に思った長門はタバコを拾い上げ、真ん中部分を折って中身を
調べた。すると、タバコの材料とは思えない以前に…地球上に存在し得ない物質を確認したのだ。
「この赤い結晶…宇宙ケシの一種…。地球上には存在しないはずなのに…何故?」
タバコに含まれていた赤い結晶体。それは宇宙ケシの一種で、人がそれを摂取すると
他人が敵に見えて来ると言う効果があった。一連の不可解な暴力事件はこれが関係していると
悟った長門は独自にこの赤い結晶体の出所に付いて調べてみる事にした。
長門同様に人間に成りすまして地球上に駐屯している他のヒューマノイドインターフェースとの
ネットワーク等も使ったりして赤い結晶体の出所を調査した結果、それは街外れにある
小さな古ぼけたアパートにある事が分かった。
「ここだけ何故か昭和の匂い…何故…。」
現在は既に21世紀。周囲も新しい住宅等が立ち並んでいるのにも関わらず、指定されたポイントたる
アパートは何故か昭和の匂いを感じさせる古ぼけた代物だった。だが、今はとやかく考えている暇は無い。
長門はとりあえずアパートの中へ乗り込んだ。
窓から差し込む僅かな夕日が唯一の光源と言って良い程薄暗い廊下を進む長門。
木製かつ古い床は長門が一歩踏みしめただけでミシミシと音を立てる。
「この部屋から地球外反応を探知…。」
長門はアパート内の一室の前に立っていた。そこから地球外反応を探知していたからだ。
しかし、情報統合思念体関係とは違う。長門達とはまた別の地球外生命体が来ていると見て間違い無い。
そしてドアに手をかけようとした直後、突如としてドアが勝手に開いた。
「ようこそ長門有希。我々は君が来るのを待っていたのだ。歓迎するぞ。何ならSOS団の
皆も呼んだらどうだ。」
ドアの向こう側、畳みの敷かれた和室に現れたのは、明らかに人間では無かった。顔から腹に
かけてが赤く、手足の先は青、背中は黄色で背筋に沿って白い円形の器官が並んでいる宇宙人。
「幻覚宇宙人メトロン星人」だ。
メトロン星人は和室の真ん中に置かれたちゃぶ台を前にして胡坐をかいて座っており、
長門もそれに合わせ、同じくちゃぶ台を前にして正座した。
「貴方達の計画は全て暴露された。大人しく降伏した方が良い。」
「ハッハッハッハッ! 我々の実験は十分成功したのさ。赤い結晶体が人類の頭脳を狂わせるのに
十分効力がある事が分かった。教えてやろう。我々は人類が互いにルールを守り、信頼し合って
生きている事に目を付けたのだ。地球を壊滅させるのに暴力を振るう必要は無い。人間同士の
信頼感を無くせば良いのだ。人間達は互いに敵視し、傷付け合い、やがて自滅して行く。
どうだ? 良い考えだろう。」
「しかし…この星にもある程度の防衛力と言う物がある…。」
「この星の防衛力? 怖いのは長門有希、君だけだ。だから君には宇宙に帰ってもらう、邪魔だからな。」
メトロン星人は立ち上がり、右掌を長門へ向けた。メトロン星人は掌からエネルギー弾の類を発射する事が出来る。
長門はとっさにそれを回避しつつ情報操作によって周囲を異空間化させ、バトルフィールドを作り上げた。
「なるほど。先手を取って周囲を異空間化させたか。それはそれでこちらとしても好都合なのだがね。
まだ地球人に私の存在を知られては不味いからね。それは君としても同義だろう?」
「………………。」
長門有希対メトロン星人。こうして地球の存亡を懸けた戦いが人知れず幕を開いた。
夕日を浴びながら睨み合う長門とメトロン星人。そして双方が同時に駆け寄り急接近し、
すれ違い様の殺陣を演じると共に互いに距離を取る。
今度はメトロン星人が両掌からエネルギー弾を連続で発射し、それに対し長門は
両腕を消えたかのごとく錯覚させる程のスピードで振り回し、弾き返す。
先に長門を怖いと明言していた事もあるとは言え、これはやや相手が悪い。
そう悟ったのか、メトロン星人は逃走を開始した。メトロン星人は自身の超能力で
空間に裂け目を作り、通常空間に出ようとするが…
「逃がさない…。」
長門は刃物の様に鋭く集中させたエネルギーを発射。次の瞬間メトロン星人は見事真っ二つになった。
「メトロン星人…貴方は間違っている。この星の人間は…貴方が考えている程…互いを信頼し合ってはいない…。」
この日を境にして、不可解な暴力事件は起こらなくなった。だが、この一連の事件を
解決させたのは長門有希と言う一人の少女だと言う事を知る者は…いない。
「終」
何か長門はハルヒ本編で描かれてはいない所で色々やってるらしいって設定があるっぽいので
ウルトラセブン第8話の「狙われた街」とクロスさせつつ…
勝手に「不可解な事件を人知れず解決して回ってる」ってのをやって見ました。
メトロン星人がなんかあっさりやられてしまうけど、セブン本編のメトロン星人自体
かなりあっさりと負けてるんで…
知的なタイプの宇宙人なんだな。
ウルトラマンの敵ってみんな言葉の通じない系なのかと思ってた。
>ウルトラマンの敵ってみんな言葉の通じない系なのかと思ってた。
ウルトラではむしろそれは稀なパターンだったりする。
ウルトラマンレオに登場した「通り魔系宇宙人」くらい
(逆にレオでは人間に変身出来たり、人間とコミュニケーション取れたり
策を弄してきたりと知的な怪獣が出て来たりするけど)
セブンなんか、2話(ノンマルト及びユートムの回)を除いて後全部宇宙人の話だし。
登場する宇宙人とセブンなり地球人との間に、何らかの対話が為されなかった話なんてある?
それはそれとして、亀山薫対一条薫と言うのを思いついた。
いや、ウルトラマン元々見たことないから。
投下乙でした。
長門対メトロンか。その発想はなかったw
ビジュアルを想像しながら読むとえらいシュールよのう。
でも、案外と変な感じはしない。
むしろ、素直に受け入れられる。
ハルヒ自体が何でもアリの世界観だからかな。
ウルトラ警備隊の代わりにSOS団が怪事件を調査して
宇宙人と対決するシリーズものなんてのも案外いけるかもね。
『暴れん坊将軍vs炎の名奉行』というのはどうだろう?
松平健と北大路欣也が夢の競演。
【ギャラ的には悪夢】
将軍の方が完璧に偉いのに何を対決するんだw
>>210 暴れん坊将軍は普通の侍に身をやつして街に出たりするから
その状態でやるとか?
クロスオーバーで「vs」って言えば単に競演のことだったりもする。
何年か前に正月特番でやってた「ズッコケ三人組vs双子探偵」は面白かった。
「vs」ネタで言うなら、
『月影兵庫vs花山大吉』
『椿三十郎vs桑畑四十郎vs春夏秋冬 三代素浪人大決戦』
『ゴジラvsプルガサリ』
『地獄大使vs暗闇大使』
【無い袖は振れぬ】
対決クロスオーバーなら「ルパン対ホームズ」だな
ホームズ別人だけど。
VSでやるならやっぱり敵陣営が燃える。
エイリアンVSプレデターとか
ジェイソンVSフレディとか
ゴジラVSモスラとか
戦隊物はコンスタントにやってるな。
あと、トリビアの泉でもやっていた「仮面ライダーvsウルトラマン」
216 :
創る名無しに見る名無し:2009/01/28(水) 02:10:07 ID:wTo/4Ce2
age
217 :
創る名無しに見る名無し:2009/02/10(火) 03:16:46 ID:PMoFeS30
上げ
小さい犬の獣人が闊歩していました。
「さんさんさん、爽やかサンスーシ♪」
サン先生は鼻歌交じりに歩いていました。痛い感じの替え歌です。
「ちょっとそこの方、お話をお聞かせ願えますか?」
陽気に歩くサン先生に、パイプを咥えた紳士が話しかけました。
その風貌はまるで探偵然としていて、見るからに推理小説の犯人当てがうまそうでした。
「ええ、良いですよ。なんかあったんですか?」
サン先生は、面白い格好の人だな、程度に思いながら応対しました。
「実は人を探していまして。紫色っぽい毛並みで、片眼鏡をはめたナマズ髭の男……モリアーティと言うんですがね」
「おいホームズ!市民の人に聞いたって奴等の居場所が分かるはずないだろう!」
探偵然とした男にツッコミを入れたのは、
これまたなんだか探偵ものによくある探偵のオマケ的な人でした。
「ふむ、しかし聞き込みは捜査の基本だよワトソン君」
探偵然とした男は、ワトソン君に連れられて歩き去ってしまいました。
話しかけといて放置ってなくね?とか思いながら、サン先生はまた歩きだします。
駅に着いたサン先生は電車を待ちながらシャドーボクシングに勤しみます。シュッシュッ。
シュッシュッ。
──シュッシュッポッポッーーーーー!!!!
サン先生のシャドーの息遣いをかき消す大音声で、機関車が駅に停車します。
なぜに電停に機関車?!
サン先生は訝りつつも機関車を観察します。
中には猫の獣人が座っています。
窓をコンコンとノックして開けさせ、サン先生は話しかけました。
「やぁ、機関車だなんて珍しいね。この列車は何処へ行くんだい?」
まだ子猫らしい幼さの猫人が、車内からしゃべります。
「さあ、僕にもさっぱりわからないんです。星の海をごうごうと走ったり、友達が乗ったり、降りたり」
「ふーん。もしかして迷子かい?行き先を車掌さんに確認した方がいいよ」
「ええ、そうしようと思います。僕の名はカムパネルラ。貴方は?」
「サン。ケモ学のトリックスター・サンスーシさ」
二人が窓枠越しに自己紹介を終えた頃、機関車はゆっくりと動きだしました。
「お話し出来てよかったです。また会いましょう、サンさん」
「ああ、また何処かでね。さよならだ、カムパネルラ」
二人はにこやかに別れます。
旅に出会いは付き物です。出会いに別れは付き物です。
別れをしめやかな営みにしてしまうのは勿体ないと、サン先生はおもうのです。
ローゼンメイデンとTHEビッグオーのクロス思い付いた。
相変わらず不登校が続くジュンを復学させようと
学校側がロジャー=スミスに依頼して
ロジャーがジュンにネゴシエーションする。
そこから何か色々あって真紅が巨大化してロジャーを追い返そうとするけど
それに対してロジャーはビッグオーショーターイムとかやって…
ごめんやっぱ無理ありすぎだわorz
>>218 同じ場所にいても見た目的に違和感ないクロスだなw
>218
なんかほのぼのした。文体のせいかな
面白かったよー
バク丸「ええっと・・パティっていったっけ?何で俺をお茶に誘ったんだ?」
パティ「あら、知らない人とお話しするのっていけないこと?」
バク丸「いや、別に悪くはないんだけど…」
バク丸(こうしてる間に妖鬼の奴らに襲われたら…)
パティ「ねえ、私のことばかりじゃなくてバク丸の事も話してよ」
バク丸「え?そうだな…何から話そうか…」
クリーム「何よ!バク丸ったら鼻の下を伸ばしちゃって!」
モンク「でもあのパティって子、結構可愛いよな」
ガオウ「そうだよな、クリームとは違って優しそうだしな」
クリーム「…何か言った?」
ガオウ・モンク「いえ、何でもありません」
エトレンジャーをベースに色んな作品に介入したいけど
どうすれば小説になるんだろう?
台詞だけは思いつくのに…
>>223 また、懐かしいものを。
小説の書き方についてはこの板に良さそうなスレもあるし、
そこで聞いてみたらいかがでしょう?
225 :
創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 23:59:02 ID:lBnSW9KI
まったく需要のない自分だけ楽しいクロス逝きます。
一応時の列車つながりで。
226 :
創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 23:59:38 ID:lBnSW9KI
「ウエスタンリバー鉄道の、コロラド号?そんなの聞いたことねェぞ」
「こっちだって聞いたことないよ、デンライナーなんてさ」
憮然とコーヒーを飲むドナルドをよそに、列車の外で何かの咆哮が響いた。
リュウタロスがはしゃいだ様子で窓に走り、ご機嫌で窓の外を眺めだした。
不幸にも重なった事故のため、キャストはメンテナンスに東奔西走。クローズさせたウエスタンリバー鉄道を
ひとまずゲストなしで走らせてみるかとの相談をグリーティング帰りのドナルドとグーフィーが聞きつけた。
『せっかくだから乗せてよ、久し振りだし』
『誰かは乗ってないと、わかんないでしょ?』
そんな感じで口説き落とし、いそいそとコロラド号の真っ赤な客車に乗り込んだ。機関長にも挨拶をして、
(渋い顔をされたけどそれぞれおやつも持ち込んで)後はのんびりと汽車に揺られていればいい……はずだった。
いつものようにウエスタンランドを通り抜け、インディアンの少女に手を振り返し、マークトゥエイン号に乗っていた
一部のゲストの度肝を抜いて太古の時代を覗いて帰る。それがいつものウエスタンリバー鉄道だ。
だが、タイムスリップの直後、ごりごりとリンゴをかじりながらのんびりと風景を眺めていたグーフィーが歓声を上げた。
「わぁお、ドナルド!あんな恐竜初めて見るね」
何のことだと近づいて、グーフィーの指差す先を見てドナルドはスクウィーザーのオレンジジュースを古代の大地に吹き出しそうになった。
明らかに近未来的なシルエットを持った赤い電車が、高いフォーンの音と共に恐竜達の横を走り抜けていた。
渋る機関長を拝み倒して停止させるまでもなかった。向こうの方がこちらに興味を示したからだ。
赤い列車の前に次々と生成される線路が、明らかに進路をこちらに切り替えた。見知らぬ列車に併走されれば
さしもの機関長もブレーキをかける以外なく、コロラド号はゆっくりと停車し、白い蒸気を吐き上げた。
ドナルドは慎重に、グーフィーはのんびりと客車を降りた。問題の列車は、優美とも言える姿で二人の目の前に止まっていた。
で、どこから入るんだろう。そんな疑問が口から出てくる前に、列車の側面がぷしゅりとスライドした。
そこがドアかと思う間も無く、少女と女性の中間のような年頃の、可愛らしい女性が顔を覗かせた。
「わぁ、可愛い!アヒルさんと、犬さん!?パスは……えーと、持ってない、ですよね……?」
聞かれれば頷くしかない。乗務員らしき彼女は一旦奥に引っ込んだ。オーナー、どうしましょう?そんな問いかけが聞こえてきた。
オーナーの声らしきものは良く聞こえなかったが、すぐに同じ笑顔が現れる。
「電車、ありますもんね!ちょっと乗るだけならいいみたいですよ〜」
何やら乗る流れになってしまっている。
もちろんあわよくば乗り込むつもりで降りたのだ。ドナルドは帽子を直してきりりと頷いた。かたやグーフィーは、
機関長の傍へと駆けていって待っていてくれるように頼んでいた。そうでなくても待っているのに、と
ドナルドはイライラしながらグーフィーを待ち、揃ってステップを踏んで乗り込んだ。
227 :
創る名無しに見る名無し:2009/02/19(木) 00:00:28 ID:lBnSW9KI
列車の中に一歩足を踏み入れると、物凄い出迎えが待っていた。
「うわあああああああ!面白いトリ!イヌ!!かわいー服着てる!何これ何これ!何で?恐竜?」
「ぐわわわわわっ!?何だ、何だよっ!?」
「あっひょ、元気いいねえ〜」
紫色の……何だろう。とにかく人っぽい、しかし確実に人ではなさそうな何かに盛大に抱きしめられる。
ドナルドは暴れて逃れたが、グーフィーはされるがまま……どころか、ものの数秒でこの謎の生き物
――言動がどうにも幼いので子どもだろうか?――に馴染み、逆に高い高いをしてやっている始末だ。
「うおおっ何だこりゃ!?新手のイマジンか?」
「それにしちゃ随分可愛らしいねえ、きっと契約者はセンスのいい女の子だよ」
「こんなとこにイマジンがうろついてるわけあらへんがな、アレや、古代の生き物っちゅーヤツや」
「どれも違う!そっちこそ何なんだよっ!」
わいわいと好き勝手に言い出したのは赤、青、黄色の……これまた何だ。紫色のと似たようなものだろうか。
とにかく自分で乗り込んでおいて逆に聞き返すのがドナルドなのだ。腕組みをした偉そうな態度にカチンと来たのか、
赤いのが荒々しく立ち上がった。
「勝手に来といてそっちが何だこの手羽先野郎!」
「センパイ、王子様とかぶってるよ」
「うるせぇ!てめぇにゃ聞きてぇことが山ほどあるんだ!大体何だあの列車!何でこんなところうろうろしてんだ!」
赤鬼のような生き物にもドナルドは怯みもしない。というか、怯むタイミングを飛び越えて持ち前の短気が顔を出しているだけだ。
顔を突きつける赤鬼に負けじと、ドナルドもぐんと一歩を踏み出して額を突き出す。
ぎりぎりと顔と顔のつばぜり合いらしきものが始まる。
「テバサキって何だよっ!ボクらはたまたま来ただけ!そっちこそ恐竜の時代に何やってんだよ!」
「たまたまって何だたまたまって!ちゃんと説明しねぇと丸焼きにしちまうぞ!」
「ぐわわわわわ!言ったなー!!!!」
ついにドナルドが距離をとってセーラー服の袖を捲り上げる。両手を前に出してファイティングポーズを取る
ドナルドの背を摘んだのは、グーフィーだった。
「まあまあ、ドナルド。落ち着きなよ。ナオミちゃんがコーヒー入れてくれたよ」
凄まじいスピードでこの空気に慣れたグーフィーは、右手に極彩色のコーヒー、左手にドナルドを持って
適当な椅子にのんびりと腰掛けたのだった。
唐突だけどローゼンメイデンと超時空要塞マクロスのクロスを思い付いた。
めぐ「からたちの花がさいたようわあああああああ!!」
輝「かっ柿崎ぃぃぃぃぃぃ!!」
銀「あんた誰よ!?」
めぐ「病院食なんてゲロみたいなものとても食べる気がうわああああああ!!」
輝「かっ柿崎ぃぃぃぃぃぃ!!」
銀「だからあんた誰よ!?」
めぐ「何時か死んだら背中に綺麗な羽が生えて、この窓から飛び立つのうわあああああ!!」
輝「かっ柿崎ぃぃぃぃぃぃ!!」
銀「いや、だからあんた誰よ!?」
めぐ「死んで焼かれるなんて嫌、埋められて土の下で腐るのも嫌、だから飛んでく事にしたよのうわああ!!」
輝「かっ柿崎ぃぃぃぃぃぃ!!」
銀「もう! だからあんた誰よ!?」
めぐ「私の命なんて水銀燈にはやく使い切って欲しいのうわああああああ!!」
輝「かっ柿崎ぃぃぃぃぃぃ!!」
銀「ねぇ…あんた誰よ!?」
めぐ「水銀燈はお人形なんだからもっと手入れさせて欲しうわあああああ!!」
輝「かっ柿崎ぃぃぃぃぃぃ!!」
銀「だからあんた誰なのよ!?」
ダメだ…分からない奴には全然分からないネタな上にキリが無くなって来た…
マクロスわからんけど銀様の困りっぷりがテラシュール
柿崎いいいいいスレでやれwwww
柿崎の愛されっぷりは異常
柿崎と言えばひまわり
233 :
創る名無しに見る名無し:2009/02/27(金) 07:39:24 ID:YO5vzsV5
柿崎といえば「白球を叩け!」
>226
面白かったー
イマジン出て来てバトルになってもアニメ補正で対抗できそうだ
メカ沢新一×鈴木ロボ子とか考えたけど、前者はともかく後者は凄いマイナーな上に
このテーマでSSを書けと言われても自分は出来そうな自信が無いorz
流浪王子「はて、此処は……文法魔法(グラマー)が発動しない……?」
ポキール「それは仕方の無いことさ。君は何も間違えていないし、ましてこの世界も間違
えてはいない。ただ場所が悪いだけ」
大田「ふむ、兎の様な風体をした君はなんとも知性に溢れているようだが、どうも妖(あや
かし)とは違うような印象を受けるね。そして鳥の様な風体をした君はなんだか僕と通じる
ものを感じる。君はもしかすると世界を傍観することを楽しんでいたりしないかい?その
あたりのことを深く知りたいと思うあまり僕は君を山盛りのナッツとドリンクを用意して
もてなしてみたいとさえ感じてしまっている。どうだろう?僕の部屋で良ければ歓待しよう」
ポキール「喜んで。時間はたっぷり余っているからね」
流浪王子「私は遠慮させていただきましょう。理の者を見届けるには一刻足りとも無駄に
はできかねますから」
さざんこんふぉおとの王様「もしかして貴方は“さざんこんふぉおと”へ行きたいのですか?」
流浪王子「さざん?もしそれがあの星──月を差しているのならば、多分そうなのでしょう」
さざんこんふぉおとの王様「それは良かった!ささ、我が国への片道切符(ロケット)がも
うすぐ出発します!さぁ、乗って乗って!」
流浪王子「渡りに船ですな」
瑠璃「仲間の、ジュミの気配がする」
JING「塔の上のダブルマーメイドならもう居ねーぜ?」
シスターキルシュ「なんか……」
僧兵ダナエ「キャラが……」
神官の息子アドニス「かぶってるな……」
トト「俺らも丸被りだな」
ラブラック=ベル「はは、ルンディングを持つ私のほうが強いさ」
トト「ほほう、鍛えまくって攻撃力2000超えの大剣にかなうとな?」
ラブラック=ベル「試してみるか?」
キール「嫌だねぇ血の気が多くて。剣でしか語り合えないのは雄同士の場合だろうに」
ギルバート「鳥くん、君とは気が合いそうだ。女性の前で男はみな詩人たるべきなんだよ」
優さん「みんな仲良さそうだねぇ。君達、鬼同士よろしくね」
オーガボックス「…………」
リンパ鬼「…………」
草人「きみ、ぼくらと友達?」
バーディネ先生「…………」
空木「…………」
パブロフ「ツうじょうの三倍でス」
ベルモット「何が?」
マナの女神「私は愛です」
双頭の王「私は秩序」
237 :
緑の日:2009/03/19(木) 18:31:18 ID:Ba4+3WaP
お初デス!よろしくお願いします!
238 :
緑の日:2009/03/20(金) 01:00:21 ID:E89adXMI
このスレ、長文になっても大丈夫ですかね?
駄目だったら何処かに『ケロロ』のクロスオーバースレありませんか? よかったら教えていただきたいのですが(汗)。
回答が無ければ勝手に良いと思わせて頂きます(^^;。
どうぞどーぞ
240 :
緑の日:2009/03/20(金) 15:19:26 ID:E89adXMI
>>239さん。ありがとうございます!
早速、と言いたい所なんですが、整理してみると・・・・、どっちかっつーと『コラボ』とか『パロディ』に近いもんだった。(ケロロ以外のネタも全部)
・・・・・・・・・・・く、苦しいですよね・・・・・。
「取り敢えず話聞くだけなら」と言って頂けるなら、あらすじ だけでも(そして赦して頂けるならあわよくば)と、考えてるんですが・・・・(^^;
無理なら、出直して来ますけど。ご返答します。
>>239 クロスならここでいいでしょうけど、パロディだったら二次創作総合スレの方が宜しいかと思います。
あと今更ですが、E‐mail欄(メ欄)にsageといれましょう。
大抵のスレでは、そうするのがマナーとされています。
極端な話、下げない(メ欄にsageと入れていない)だけで荒らしと判断されたり、
折角書いたものを読む価値なしとしてスルーされたりということもありますので。
242 :
緑の日:2009/03/20(金) 21:46:49 ID:E89adXMI
>>241さん。ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました。m(_ _)m
機会があればまたよろしくお願いします!(^-^)/バーイ(春日風に)
243 :
創る名無しに見る名無し:2009/04/03(金) 21:22:25 ID:O/MWZBOD
age
ほしゆ
世界観融合型のクロスってなかなかないよな
>>228 映画版の演出
ジーナス「美しい」
ミリア 「う、ツクシ?」
ファンが求めた演出
ジーナス「美しい」
ミリア 「デカルチャ」
今、ロックマンゼロシリーズと他作品のクロスオーバーを思いついたので、いくつかあげます。
ロックマンゼロ×サモンナイトシリーズ、ロックマンゼロ×ゼロの使い魔、ロックマンゼロ×恋姫無双、
サモンについては3、2へと続き、最初は4のEDから3の時代に召喚。3の最初の生徒たちが襲われる場面で3主人公と遭遇。
2へは、3のラスボス戦で2主人公たちから護衛獣として呼び出される。
2終了後は、オリジナル編としてゼロ同様召喚されたバイルとの戦いを考えましたがそこまでが限界でした。
恋姫無双とのクロスは、恋姫主人公に変わり、ゼロが召喚されます。
敵には、オリジナル勢力がオメガとバイル八審官を呼び出します。
ラスボスはゼロ3で出たあの方です。
ゼロ魔は、才人と一緒にゼロが召喚されます。
ラスボスはジョゼフに召喚されたバイルとバイル八審官です。
こんなところです。長くなってすみませんでした。
内容は投下しないの?
妄想してたけど結局まとまりそうにない妄想晒してみる
【TIPS:魔女と悪魔と神様と少年】
鄙びた村にある神社。その一角に立つ倉庫のような建物。
本来なら、『二人』が暮らしているはずの場所に、
今は『三人』が暮らしている。
少女の一人は、布団を被って夢の中だ。
「ううん……この新作トラップが完成すれば……むにゃ……」
夢の中で、少女はいつものように友人達と遊んでいるのだろう。
その口元には、微笑みが浮かんでいる。
少し視線を反らし、縁側。そこで二人が寄り添うようにして眠っている。
側にあるのはワインの瓶。酔っ払って眠ってしまったのだろう。
二人の内一人は少女。藍色に近い黒髪は月光を反射して美しい。
目を覚ませば、彼女には幸福と苦難の日々が待っているなど到底信じられない。
残る一人は男。年は三十代半ば、といったところであろう。
赤茶けた長髪。染めていたのが落ちたのか、斑色の模様がうっすらとついている。
彼がこんなに安らかに眠れるなど、彼を知るものが見れば驚くだろう。
「……二人とも、ぐっすりなのです」
二人を優しく見守るのは、巫女の衣装を纏った一人の女性。
見守る眼差しは、母のようでさえあった。
「その分……可哀想なのです」
そっと撫でようとするその手は、擦り抜けるだけ。
「何度、繰り返せばいいのでしょう。何度繰り返せば、幸福になれるのでしょう」
一人は、悪意の連鎖に捕らわれて、一人は、正義の意志に敗北して、
同じように、死の真実へ辿り着けない。
死を、繰り返す。何度も、何度も、惨たらしく。
「あなたも、可哀想です」
そう呟いて、彼女は傍らの存在を見やる。
触れられないと知っていて、彼に寄りかかるフリをしている。
そうして、一緒になって眠ったフリをしている。
「僕は、いいんですけどね」
目を閉じたまま、赤みがかった髪の少年は、答える。
そばかすの浮いたその顔に、悲しい笑みを浮かべながら。
「……でも、この運命の中でも、やっぱり、ボスは死ぬでしょう?
それは……嫌なんです。電話が、声が、届かないのは、寂しいし、嫌だけど。
でも、ボスが死んでしまうのは、もっと嫌なんです」
季節に似合わない紫のセーターを着た小柄な少年が呟く。
「今度こそ、ここから抜け出せるといいですね、ハニュウ」
「ええ……」
ああ、哀れだ、と思う。そこで眠っている男は知らないのだ。
彼の魂が、今もなおその傍らに在るのだということを。
見えなくてもいい、声を交わせなくてもいいから、側に居たい、と。
そう願って、ずっと側に居ることを、知らないのだ。
「ディアボロ……」
男の名を呟く。異国の悪魔の名を持つ男。
運命の袋小路に迷い込んでしまった男。
そうして、彼女と……梨花と同じ輪廻に捕らわれてしまった男。
梨花が死に、ループするたび彼もまた、戻って来る。
彼の死に方は、梨花とは違う。毎度毎度、それは惨たらしく死んでいく。
それはそれは呆気なく、死んでいく。
いつの間にか、二人の間には奇妙な連帯感が生まれていた。
繰り返される死の苦しみを知っている相手。
それが、彼に、彼女に、救いとなった。
「ドッピオ。ボクはもう、逃げないのです」
だからこそ、もう誰も死なせたくないと思う。
「ボクも、舞台に立ちます。ボクも、立ち向かいます。
この運命を、乗り越えてみせるのです」
「……過去とは、乗り越えるべきもの。乗り越えた先にこそ、
手に入れたいものがある。……ボスは前、そんなことを言ってました。
僕もお手伝いします。ボスに、これ以上、死んで欲しくない。
少しでも、救える可能性があるというなら運命に抗います」
魂を切り離されて、置いていかれて、それでも、彼はなお
彼のことをボスと、仕えるべき相手として、慕っていた。
ああ、それがなおのこと哀れなのだ、という思いを、
羽入――あるいは、オヤシロ様――はそっと胸の内に秘めた。
ダヴィンチコード見てたら、聖☆お兄さんとのクロスを思い付いたw
福引で海外旅行を当てたイエスとブッダがヨーロッパに旅行に行った際に
キリストの聖杯にまつわる事件に巻き込まれるみたいな感じで。
(キリストの妻のマグダラのマリアがどーだかの話で他の皆が盛り上がってるところで)
ブッダ「で、実際どうなの?」
イエス「どうなのって言われても……。って言うか皆が何故そんな事で騒ぐのかわかんないよ。
君にだって妻子がいただろう? なら私にいたとしてもそんな大した事は無いと思うんだ…。」
聖☆お兄さんとのクロスww
すごく面白そうだけど知識量が要求されそうだな
いつもの調子で特に意味もなく奇跡を乱発して
宗教関係にゆるい日本とは違う周囲の反応に驚きそうだw
253 :
創る名無しに見る名無し:2009/05/27(水) 00:29:40 ID:5HfQ82rp
このスレは化ける!
クォヴレーが恋姫世界へっての書こうとはしてるんだがなかなか難しい……
と言うか最近やっと真恋姫やったせいかクロスネタは浮かぶ癖に内容があまり浮かばんから困る
気が狂うかと思うほどの暑さと湿気、音も無く忍び寄る死と疫病を運ぶ虫ども。
緑に塗り込められてはいるが、ここは地獄に違いない。
だが易京を脱出して三ヶ月、追跡者の手から死に物狂いで逃れていた私にとって、内乱の
続くこの汝陽はまさに天国だった。
「お前、目ェ開けたまま寝言いう癖でもあるのか?」
いきなり隣りの男にそう言われた。
心の声のつもりが声に出していたらしい。
乳酸菌が不足しているせいだ。
我々傭兵志願の男たちを乗せた河川舟艇は、黄色く濁った水を湛えた川を、牛の歩みに等
しい速度で水関に向って遡行していた。
泥水と密林がどこまでも続く単調な船旅に、誰もがウンザリし始めていた。
「全くイライラするぜ、官軍にはこんなボロ船しかねえのかよ」
「輸送機は全部出払ってるんだと」
「チッ!シケた戦争しやがる」
舌打ちをして立ち上がった男が、次の瞬間蜂の巣になって吹っ飛んだ。
「黄巾賊だ!」
川沿いの密林から、特徴的な自動小銃の発射音を響かせて、曳光弾が飛来する。
船上の男たちも、手に手に武器を持って撃ち返す。
私は船首に置かれた積荷を覆った防水キャンバスを剥ぎ取ると、火炎放射器を取り出した。
タンクの底のバルブを捻り、両手で放射器を構えると、加圧ガスに押し出されたゲル化油
が燃料ホースを通り、放射器に充填される感触が伝わってくる。
トリガーを引くと、オレンジ色に輝く炎のリボンが勢いよく飛び出した。
炎の流れで風向きを確認すると、風上から風下に向ってゆっくりと放射器を振る。
火炎放射器が吐き出すのはただの炎ではない。
それは爆発的な勢いで燃焼する高粘度のナパーム剤で、対象が何であろうとそれが燃やせ
るものである限り、徹底的に喰らい尽くす。
景気よく燃える川沿いの木々の向こうで、人間の口から出たとは思えないような絶叫があ
がる。
誰かが調子外れな声で唄いはじめた。
「こげこげこげよ ボートこげよ たのしいたのしい川くだり♪」
確かに刺激的な船旅になった。
・涼宮ハルヒシリーズと帰ってきたウルトラマン第33話「怪獣使いと少年」のクロス
・長門がメイン
・ハルヒは序盤こそ目立つけど…
・クロス先がクロス先なんで少々鬱い
・ハルヒを題材にしてはいるけどキョンの一人称形式では無い
・少々キャラ崩壊注意(特に長門)
何時もの様に学校の授業を終え、SOS団の部室にいたキョン・長門・みくる・古泉の四人だったが
そんな時に突然勢い良くドアを開けてハルヒが入って来た。
「今日は川原へ行くわよー!!」
「なっ何だいきなり! 川原で何があるってんだよ!」
いきなり川原に行くと言われて戸惑うキョンだったが、ハルヒの勢いは止まらない。
「何でも近くの川原に宇宙人がいるらしいのよ。今からそれを調べに行くわよ!!」
「はぁ? 宇宙人?」
一体何処から仕入れて来たのかは知らないが、ハルヒのその情報にキョンはやや呆れた。
別に宇宙人の存在自体は身近にそれっぽいのがいるから否定はしない。しかし近く川原にいて、
ハルヒでもその情報を仕入れる事が出来る位にオープンな宇宙人等いるのだろうか…?
「何? キョン、私の言う事が信じられないって言うの!? とにかく行くわよ! 出発!」
「わっこら! 引張るな! 分かったよ! 分かったからそんな強く引張るな!」
と言う事で宇宙人がいるとの噂の川原へ向かったSOS団であったが特にそれらしい物は見当たらない。
至って普通の川原であったし、まあある物を言えばオンボロな掘っ立て小屋程度。
「で、この川原の何処に宇宙人がいるってんだ?」
「だからそれをこれから探して確かめるんじゃない!」
「は〜………。」
やはり川原に宇宙人なんてデマなんだろうとキョンは呆れていたし、ハルヒも少々焦り気味だったのだが、
そんな時に川原で中学生と思しき三人の少年が一人の子供の首から下を穴に埋めているのが見えた。
「あっ! 何やってんだ!? 幾らなんでも酷く無いか!?」
三人の少年は、一人の子供の首から下を穴に埋めるのみならず、泥水をぶっかけたりとやりたい放題。
これは流石に見て見ぬ振りは出来ないとキョンが思った時には既にハルヒが飛び出していた。
「ちょっとあんた達何やってんのよ!!」
「何って…コイツが宇宙人だからに決まってるだろ!? だからやっつけてるんだ!」
どうやら今穴に埋められている一人の少年が噂の川原の宇宙人だと言うのだが…
とてもその様には見えない。至って普通の少年だ。
「馬鹿じゃないの!? ただの子供じゃない!」
「そこれがこれから怖い宇宙人に変身すんだよ! コイツを放っとくと今に俺達がやられてしまうんだぞ!」
「だから馬鹿って言ってるの分からないの!? ただも子供を相手に宇宙人なんて…馬鹿馬鹿しい!!」
せっかく川原で宇宙人に会えると楽しみにしていたらただの子供だった。ハルヒのショックは相当だったらしく、
その憂さを晴らすかの様に三人の少年達にぶつけ、あっという間に追い払ってしまった。
「うわーんあの姉ちゃん怖いよー!」
「ちっくしょー! 宇宙人を庇うなんて今に見てろよー!!」
「まったく…こんなただの子供を宇宙人なんて…あんた大丈夫? こらキョン! 何ボサッとしてるの!?
さっさとこの子を掘り出しなさい!!」
結局子供を穴から掘り出すのはキョンがやらされたわけだが、子供は軽く礼を言いつつ
川原にポツンと建つ掘っ立て小屋へ走っていた。
「ありがとう! 僕は宇宙人何かじゃない! 僕が生まれた所は北海道、僕は日本人さ!」
「まったく…あんなただの子供を宇宙人なんて…本当馬鹿馬鹿しい…。とんだデマ情報ね! さっさと帰るわよ!!」
川原へ行くのも強引だったが、そこから帰るのもまた強引だった。恐らく今日の事でまたハルヒは
閉鎖空間を作って古泉達は大騒ぎなんて事もありそうな気もしない事も無かったが………
「……………………。」
「長門、どうしたんだ?」
ただ一人、長門だけは何故か掘っ立て小屋の方をじっと見つめていた。
それから数日、未だ無くならない川原の宇宙人の噂に関して、ハルヒはすっかり興味を無くしてしまっていたが、
長門は何故か気になる所があった様で、再び川原へやって来ていた。その川原には子供が掘ったと思しき
大きな穴がポッカリと開いている事くらいしか変な所は無い。
「あ、いましたいました。ここにいたんですね?」
そこへやって来たのが古泉。そして彼はポケットの中からメモ帳を取り出していた。
「実は機関の方で調べてもらったのですが、彼は間違いなくただの人間です。名前は佐久間良。
母は死亡、父は出稼ぎに行ったまま蒸発。そして彼もまた行方不明と言う事になってますが…。
恐らく父親を追ってここまで来たのでしょうね。」
「そう………。」
「その良君がこの川原の掘っ立て小屋に住んでいると言う事は、その掘っ立て小屋の中で
父親に代わる存在を見付けたのでしょうね。もし仮に彼が宇宙人呼ばわりされる原因に
その父親代わりの何者かが関係しているとしたら……後は長門さんに任せます。」
「………………。」
と、古泉は結局情報を伝えるだけ伝えて帰って行ったが、長門は構わずに川原の掘っ立て小屋へ歩み寄った。
長門が掘っ立て小屋の中へ入り、奥へ進むとそこには良少年の姿があった。
「あっ! どうして勝手に上がったんだ! 出て行け! 出て行け!」
「やめなさい…彼女は良いんだ…。」
長門を突き飛ばそうとする良少年だが、そんな時に一人の老人が現れた。
「貴方は…メイツ星人…。」
「え? おじさんまさか…。」
「そう…私とは違うが…この人も…。」
良少年は古泉が調べて来た通りにただの人間であるが、一緒に共同生活を送っていたこの老人が…
メイツ星と言う所から来て、地球で金山と名乗って暮らしていた宇宙人だった。そしてメイツ星人金山の
言葉から長門も同じく地球の者では無いと悟った良少年は大人しくなる。
「でも一つ分からない事がある…。表の穴は何? 何故穴を掘っている?」
良少年と共に暮らすメイツ星人=金山の存在が分かった以上、次に問題にするのはそこだった。
掘っ立て小屋の外を見れば分かる通り、良少年は川原でひたすら穴を掘り続けていた。
彼を宇宙人と疑惑を持っていた三人の少年に埋められた時もその穴が使われた位。
だが…一体何故…あんな穴を…?
「それは私が話そう…。」
「おじさん止めた方が良い! 他人に知られたら宇宙に帰れなくなるよ!」
長門をまだ完全に信用しきっていなかった良少年は言うが、金山は首を横に振った。
「どうせ…長くは無い命だ…。」
「おじさん…。」
「それは…一年前の雨の強い日だった…。私は地球の風土気候を調べる為に表の川原に着陸した…。」
そう。金山は地球に来た際、地震の超能力を使って宇宙船を川原の地下深くへ埋めていたのである。
「その地球人の少年は…。恐怖と…寒さと…餓えの為に…殆ど死に掛けていた。それ以来…
良とはまるで親子の様に暮らして来た…。私はこのまま地球に住み着いても良いとすら思いました…。
しかし…秋が来て…枯葉が散る様に…私の肉体も…汚れた空気に蝕まれて…朽ち果てて行く……
あの車も…あの煙突も…シロアリの様に…私の肉体を………。」
「早くしないと…おじさんは…死んでしまうんだ…。」
「理解した…。宇宙船をあの一帯に隠したと言うのなら…探すのを手伝いたい…。」
これで謎は解けた。良少年がひたすら川原で穴を掘っていたのは金山の宇宙船を掘り当てる事。
本来ならば最初地球に来た時に金山自身が超能力で宇宙船を川原の地下深くに隠した様に
同じく超能力で地下から出す事も可能だったのだが…地球の環境によって大きく衰弱した今の金山には
それが出来ない。そしてこのまま地球にい続けていては命にも関わる。だからこそ宇宙船を掘り当てて
メイツ星に帰るしか助かる道は無いと言う事なのだろう。
そして、川原で良少年と共にスコップを握って穴を掘る長門の姿があった。
「父親は見付かった?」
「父ちゃんなんかいらないよ! 僕、おじさんと行くんだ! メイツ星へ…。」
「この星を捨てるつもり?」
「地球は今に人間が住めなくなるんだ。その前にさよならをするのさ!」
良少年の言葉…そして金山の身体を蝕んだ元凶、川原の近くに見える工業地帯や高速道路から
発せられる多量の排ガスを見つめ、長門は無表情の中に微妙な面持ちを感じていた…。
目的こそ違えど彼女もまた宇宙の彼方から地球へ派遣された存在。だからこそ…今の金山と
その金山と共に地球を去りたい良少年の考えは他人事とは思えなかった…。
「あの高速道路の向こうに、怪獣が閉じ込められているんだよ。」
「怪獣?」
「おじさんが念動力でやったんだ。凄いだろう!」
まるで自分の事のように自慢をしながら、なおも穴を掘り続けていた良少年であったが…そんな時だった。
多数の人々のざわめきが響き渡ると共に沢山の人々がこちらへ殺到してきていたのである。
「呆れたもんだ! 誰だか知らないが宇宙人と仲良くしてる奴がいるなんてな!」
「お前の為に街が大騒ぎになったんだぞ!!」
それは近所の街に住まう市民。良少年を宇宙人と信じる彼等はその宇宙人を退治する為に
徒党を組んで川原に殺到して来ていたのだ。
「大勢で一体何を…。」
「その子が宇宙人である事が分かった! だから俺達が退治するんだ!」
暴徒と化した市民は長門を押し退け良少年へ寄って集り、一斉に手に持っていた棒で叩き始めた。
「何をするんだ! 僕が何をしたって言うんだ!」
呆れる事に暴徒の中には現職の警官が数人含まれていた。そして必死に抵抗する良少年を拘束し、
何処へ連行しようとしていたのである。長門も何とか良少年を救おうとするが、数人がかりで
押さえ込まれてどうにもならない。流石に一般人の目の前で情報操作を行うわけにも行かないし…
「おじさーん! 助けてくれー!」
「待ってくれー……ま…待ってくれー………。」
「おじさーん!」
そこへ良少年の危機に我慢出来なくなったのか…自身の弱った体に鞭打って金山さんが
掘っ立て小屋の中から現れ、ヨロヨロと近付いて来たのである。
「おじさーん! 助けてー! おじさーん!」
「宇宙人は私だー!」
「あっ! おじさん!」
一度倒れ込む金山だが、手に持っていた杖で必死に身体を支え起き上がり必死に叫んだ。
「良君はただ私を守ってくれていただけだ! 宇宙人じゃない!」
「おじさーん! おじさーん! 助けてー!」
「さぁ…良君を自由にしてやってくれ!」
金山の姿に驚いた暴徒の手が緩み、脱出に成功した良少年が金山に走り寄り抱き付いた。
「どうして出て来ちゃったんだよ〜!」
「もう良いんだよ…。」
「みんな! コイツを生かしておくと何を仕出かすか分からないぞ! 何しろ宇宙人だ!!」
暴徒と化した市民は情け容赦無く良少年と金山に石を投げ、罵声を浴びせ、一斉に飛びかかる。
長門も何とか庇おうとするが、暴徒の数は半端では無く守りきれない。
「やめて。この人はただ宇宙に帰りたがっているだけ。」
「おじさんに酷い事をすると大変な事になっちゃうよー!」
多数の暴徒に一斉に揉みくちゃにされる金山と良少年だったが…次の瞬間…一人の警官の
放った銃弾が…金山へ撃ち込まれた。
「うあぁ!!」
「!!」
金山が撃たれ、良少年の口が大きく開いた…。しかし金山は真っ赤な血を吹きながら歩み寄る。
「殺すなら…私を殺せ!」
次の瞬間…二射目の銃弾が撃ち込まれ…金山は倒れた。それに伴い暴徒達は下がって行くが…
金山を守りきれなかったショックなのか…長門はその場で膝を付いていた……。
「おじさーん! おじさーん…。おじさーん…。うああああああああああん!」
良少年の呼びかけも空しく金山は息絶え、真っ赤だった血が忽ち緑色へ変色して行く…。
次の瞬間だった! 金山の死によって、高速道路に封じ込められていた怪獣…巨大魚怪獣ムルチが蘇ったのだ!
「うああああああ!! 助けてぇぇぇぇ!!」
大雨が降り注ぐ中、高速道路を破壊し、本能に身を任せて当たり次第暴れ始めたムルチに暴徒と
化した市民は散り散りになって逃げて行く。
「うあああ!! 助けてくれぇぇぇ!!」
「勝手な事は言わない方が良い…。あの巨大特殊生命体を蘇らせたのは貴方達…。まるで金山の怒りが
乗り移っている様…。」
暴れ続けるムルチと逃げ惑う市民。しかし長門は一人ただ呆然と見送るのみだった。
そしてムルチが川原を越え、街へ向かおうとも…長門は何もする事は無かった。
そんな時である。雨が降りしきる中その場に立ち尽くす長門の所へ一人のお坊さんが歩み寄っていたのである。
「長門…街が大変な事になっているんだぞ。」
それはキョンだった。何故彼がお坊さんの姿をしているのかは不明だが…間違いなくキョン。
そして街ではムルチの暴れによって炎の海と化して行く…。
「長門! 分からないのか!?」
「!」
キョンに諭され、長門は走り始めた。ムルチは金山が封じ込めた怪獣だ。いかに暴徒に非があろうとも
ムルチをこのままにしているのは金山の想いを裏切る事になる。代わりに何とかしなければ………
その長門の姿を見送ったキョンは一種にニヤリと微笑むが…
「で、古泉よ、何故態々俺がこうして坊さんの格好をせにゃならんかったのだ?」
「その方がムードが出るじゃありませんか。」
ムルチの侵攻をこれ以上阻止するべく走った長門は自身の情報操作能力を駆使し、ムルチの周囲を
異空間化させた。こうすれば周囲の破壊を気にする事無くムルチと戦える。大雨が降り注ぎ、
何故かワンダバダワンダバダなBGMが流れる中長門とムルチの戦いが始まったのである。
情報操作によって自身の周囲の物理法則を書き換えながら戦う長門であるが、彼女が巨大特殊生命体と
呼んだ通り、ムルチはただ巨大なだけな生物では無く苦戦を強いられる。
それでも何とかムルチを押さえ込み、吹き上がる炎の中へ投げ落とすと共に自身の情報操作によって
産み出した高エネルギー光線を撃ち当て……ムルチを倒した………。
雨が止んだ後…川原で再び穴を掘り始める良少年の姿があった…。
「おじさんは死んだんじゃないんだ…。メイツ星に帰ったんだよ…。おじさん…僕が付いたら
迎えてくれよ…。きっとだよ…。」
目から涙を流しながらひたすらに穴を掘り続ける良少年の姿は…痛々しかった……。
「一体何時まで掘り続けるつもりなんだろうな…。」
「宇宙船を見付けるまでは止めないと思う。彼はこの星にサヨナラが言いたいらしい…。」
遠くからキョンと長門の二人が見つめる中、良少年は金山の遺した宇宙船を掘り当てる為…延々と穴を掘り続けていた…。
END
まあ色々突っ込みどころあると思うけど…スマソ
その予防線を張らなければ好感は持てた
266 :
創る名無しに見る名無し:2009/06/24(水) 22:45:43 ID:rX/sPQ5b
いや充分に楽しめた
期待する
キョンが長門と一緒に道を歩いていた時、ふと足を滑らせ池に落ちてしまった。
「うわー助けてくれー!」
「今引き上げる…。」
池で溺れそうになるキョンを長門は表情一つ変えず冷静に引き上げようと手を伸ばすが、
それも空しくキョンは池の底へと沈んで行った。
「ブクブクブクブク…。」
「……………………!」
これはもはや引き上げる所では無い。長門は表情一つ変えないながらも、大事を悟って
池の中へ飛び込もうとしていたのだが、そんな時に突如として池の中から女神様が現れたでは無いかw
「貴女が落としたのはこの金のキョン君ですか? それとも銀のキョン君ですか?」
と、池の中から現れた女神はぞれぞれ金と銀で出来たキョンを長門へ見せる。
しかし、長門はやはり表情一つ変えずに答えた。
「私が落としたのでは無い。彼が勝手に足を滑らせて落ちただけの事。それに彼は金でも銀でも無い。
あくまでも蛋白質の塊…生身の有機生命体………。」
すると、女神はニッコリと長門へ微笑んだ。
「おお何と正直な方でしょう。さあこの金と銀のキョン君の両方を差し上げましょう。」
と、女神は金と銀のキョン君の両方を差し出し、池の中へ帰って行こうとしていたのだが…
次の瞬間、長門の右手が女神の頭を掴み止めていた。
「何をするのですか!?」
「待って。本物の彼をどこへやった?」
「さっきも言った通り、金と銀のキョン君を差し上げると言ったじゃありませんか。」
やはりそう言って女神は再び池の中へ帰っていこうとしていたのだが…その態度に長門は
表情一つ変えずに切れた。今度は女神の顔面目掛け…アイアンクローをし掛けた!
「なっ…何を…………!?」
「……………返して……………………。」
まるで女神の顔面よ砕けろと言わんばかりに物凄い力のアイアンクローで締め上げる長門。
それはその昔、鉄の爪、アイアンクローの代名詞と恐れられたフリッツ・フォン・エリックも
多分驚くかもしれない程のレベルであった!
「あ…あ…あ…あああああ…………。」
「…………………返して…………………本物の彼を………………返して……………。」
女神の顔面をアイアンクローで締め上げながら池から強引に引き上げる長門の姿。
その表情は何時もと変わらない抑揚の無い物であったが…その目は真剣そのもの。
だからこそ、恐ろしい………………
「貴女は一体何をするんですか!? 私は女神ですよ!? 何たる無礼な!」
「そんな事は関係無い。貴女は彼を奪った。金と銀の彼なんか要らない。必要なのは本物の彼。
だから返して………本物の彼を………。」
陸へ引き上げられた直後、長門の直突きが女神の顔面に撃ち込まれた。
血反吐を吐いて倒れる女神の上にさらにマウントポジションを取り、長門はさらにマウントパンチを放つ。
「ぐへっ! あべっ! げふっ! くぁ!」
「返して……返して……返して………返して………返して……返して………返して……返して…。」
こうして…女神が本物のキョンを返してくれるまで長門は延々女神を殴り続け、
本物のキョンを返してくれた頃にはもはや原型を留めてはいなかった。
それから、池の中から助け出されて全身ずぶ濡れのキョンを長門が情報操作で乾かしていた。
「は〜…何か良くわからんが散々な目にあった。けど長門ありがとうな。」
「貴方がいなくなったら涼宮ハルヒが困る。だから当然の事。礼を言う必要は無い。」
ちょっぴり素直じゃない長門有希ちゃんでした。
おしまい
涼宮ハルヒの憂鬱シリーズと、金の斧銀の斧とのクロス。
童話ネタをクロスと言って良いのか分からんけど。
涼宮ハルヒ率いるSOS団は学校の屋上で空飛ぶ円盤が飛んでいないか星空を眺めていたのだが…
そんな時にハルヒが突然こんな事を言い出した。
「円盤ってさ、宇宙人の乗り物ってイメージあるけど…私は必ずしもそうじゃないと思うのよね。」
「は? いきなり何を言うんだ? お前らしくない。」
ハルヒの言葉に眉を細めるキョンだが、彼女は構わず続ける。
「例えば、宇宙空間に生物が生存出来ないってのは常識だけど、もしかしたら宇宙空間で生存可能で
かつ自力で宇宙を移動する事の出来る生物がいるかもしれないじゃない。そう、円盤の様な生物…
円盤生物よ! そんな物がいたら素敵だと思わない?」
「思わん! って言うか不気味なだけだ…。」
「まったく…キョンって本当夢が無いんだから…。」
などと…ハルヒとキョンの何時の様なやりとりが行われていたのだが……まさか…あんな事になろうとは………
それから数日後、その日は何故かみくるの誕生日だったと言うので、SOS団の部室で
みくるの誕生パーティーが行われていた。
「みくるちゃんの誕生日おめでとうー!」
「皆さんありがとうございます。」
と、皆でジュースを飲み、お菓子を食べながらみくるの誕生日を祝っていたのだが、
そこでジュースを切らしていた事に気付いた。
「もうジュース無くなったの? ちょっとキョン、今直ぐ買って来なさい!」
「仕方ないな…。今日は朝比奈さんの誕生日だ。それじゃ行って来るか…。」
ハルヒに言われて立ち上がろうとするキョンだったが、それより先に長門が立ち上がっていた。
「私が行く…。」
「長門? 俺が行くから別にお前が行く必要は無いぞ。」
「そうそう有希は別に行かなくて良いよ。こういうのはキョンに行かせれば良いのよ!」
どういう風の吹き回しなのか、ジュースを買いに行く役目を志願する長門に
キョンとハルヒはそれぞれ不思議に思っていたが、彼女の目は本気であり、何時もの様な
無表情ながらも強い目でキョンとハルヒをそれぞれキッと見つめていた。
「私が飲料水を買いに行く…。」
「わ…分かった…分かったから…。」
「そ…そうね…有希が行きたいって言うんなら仕方ないわね。キョン、ちゃんと有希に礼を言っときなさい!」
「ああ、ありがとうな長門。」
そうして長門はSOS団の部室から出て、ジュースのペットボトルを買いに出かけていたのだが…
そんな時にそれは起こった。
「…?」
ジュースの自販機目指して歩いていた長門がふと上空に嫌な気配を感じた。
するとどうだろう。突如として上空からクラゲ状の形状をした半透明の物体が飛来していたのである。
「あ…あれはまさか…円盤生物シルバーブルーメ…。でも何故あれが…。」
まだ長門が地球に派遣される以前、情報統合思念体の所にいた時に聞いた事があった。
宇宙の彼方に存在するブラックスターと呼ばれる星で誕生した円盤状の生命体…円盤生物。
その中でも奇襲を得意とし、対象全てを飲み込んでしまうと言う恐るべき円盤生物シルバーブルーメ。
そしてそのシルバーブルーメが向かう先には学校が…SOS団の部室があった。SOS団の皆が危ない!
ジュース購入を中断し、長門は円盤生物シルバーブルーメの侵攻を阻止するべく走った。
だが…シルバーブルーメのスピードは長門を持ってしても容易に追い付ける物では無く、
しかも学校のSOS団の部室の部分のみを器用に飲み込むなり…迅速に何処へと飛び去っていた。
「あ…………………。」
こうして…突如襲来した円盤生物シルバーブルーメによって、SOS団は全滅した。長門一人を除いて…
その日の夜、長門は一人自室の床の上に座っていた。その表情は何時もと何ら変わらぬ
感情の感じられない無表情であったが…その目からは一筋の涙が流れ出ていた。
「観測対象の死亡………私の……責任………。」
円盤生物シルバーブルーメに飲み込まれた時点で、もう皆は助からないだろう。長門はあの時
自分でジュースを買いに行くと言う選択を取った事を心から後悔していた。もしあそこで自分が
部室に残っていれば、シルバーブルーメの襲来によってSOS団の皆が部室ごと飲み込まれる事を
阻止する事が出来たかもしれないし、最悪ジュースを買いに行ったキョンだけでも救う事は出来た。
しかし結果はこの通り。ジュースを買いに行った隙にSOS団がシルバーブルーメの襲来を受け、
部室ごと飲み込まれ…長門は何もする事が出来なかった…。
「全ては…私の責任…涼宮ハルヒを……そして彼を……皆を…守る事が出来なかった…。」
長門の表情は変わらない…が…その目からは涙が延々と流れ出ていた。その時である。
「そう。全ては長門さん貴女の責任。キョン君だけならいざ知らず、涼宮ハルヒまで
円盤生物に飲み込まれるなんて…情報統合思念体はお怒りですよ。」
「……………。」
長門の前に現れたのは消滅したはずの朝倉涼子だった。恐らく今回の事に関する
情報統合思念体本隊の意思を伝えるメッセンジャーとして再び物質化して現れたのであろう。
「今度は私が消える番………。」
「いえ、情報統合思念体も流石にそこまでは言っていませんでしたよ。」
「何故…。」
普通ならこれ程の失態を犯してしまった長門は情報統合思念体から罰として粛清されて
当然のはず。だが朝倉いわく、そんな事は言わなかったと言う。ならば何故…
「涼宮ハルヒとキョン君とその他2名ならまだ生きていますよ。」
「それは何故? 普通ならばあの円盤生物に飲み込まれて直ぐに消化されて無くなるはず…。」
「部室ごと飲み込まれた事が幸いしたのでしょうね。しかもあの部室そのものが異空間化している事も
幸いしてまだ完全に消化されずに残っていますよ。ですが…それも何時まで持つんでしょうかね。」
「……………………。」
SOS団の皆はまだ生きている。だがそれも何時まで持つか分からない。ならば助けに行く。
こうしてはいられないとばかりに立ち上がり、玄関へ駆けて行く長門に向かって朝倉はさらにこう呼びかけた。
「言っておきますが、今は猶予期間も同然と思っていて下さい。もし本当に涼宮ハルヒを死なせる事が
あった場合…情報統合思念体は本気で貴女を消すと仰っていましたよ!」
「分かった……………。」
そして長門はマンションから飛び立った。目標は無論、SOS団の皆を飲み込んだ円盤生物シルバーブルーメ!
雨雲が太陽を遮り、雨が降り始めた頃、シルバーブルーメは再び雨雲を突き抜けて姿を現した。
その半透明状の身体の奥にはうっすらと先に飲み込んだSOS団部室の姿が見える。
シルバーブルーメがまた何かを飲み込もうと地上へ降下しようとした時、地上の方から何かが
高速で上昇している事に気付いた。長門である。
「見付けた…今度は逃がさない…。」
情報操作によって高速飛行を行う今の長門ならばシルバーブルーメにも対抗出来る。
「涼宮ハルヒを……そして彼を………返してもらう。」
長門はシルバーブルーメ目掛け上昇しながら情報操作によって生み出したエネルギー光球を
投げ付け、シルバーブルーメの周囲で小規模な爆発が次々に発生する。
シルバーブルーメは触手を伸ばし、長門の身体へ巻き付け雁字搦めにしようとするが
長門はそれを引き千切り、シルバーブルーメの口目掛け突っ込んだ! 一見するとただの自殺行為に
過ぎないが…長門とて何も考えずにシルバーブルーメの口の中へ突っ込んだわけでは無かった。
「これが…円盤生物の体内…。」
長門は自身の身体の周囲に情報操作を利用したバリアーを張り巡らし、消化を防ぎながらシルバーブルーメの
体内を突き進む。その内部は、外見から見える体積からは想像も出来ない程にまで広々としていた。
恐らくこれもまた異空間化しているのだろう。そして長門はそこで消化されずに残っていたSOS団部室を
発見するのである。
「良かった…部室は…無事…。」
「おーい長門ー! これは一体どうなってるんだー!?」
シルバーブルーメ体内に漂っていた部室の窓の向こうにキョンの姿があり、必死に長門へコンタクトを
取ろうとしていた様だ。なお、部室の奥を見てみるとハルヒが倒れているのが見える。
恐らく余りにもあり得なさ過ぎる事態に気絶してしまったのだろう。だがこれは長門ととしても好都合。
「大丈夫…今助ける…。」
長門は部室の周囲にも情報操作を利用したバリアーを張り巡らせると共に、シルバーブルーメのコアと思しき
器官目掛け、同じく情報操作によって作り出したエネルギーの塊を発射した!
さしものシルバーブルーメも内側からの攻撃には一溜まりも無く、全身から眩い光と火花を散らしながら
大爆発を起こし、その爆発の中から長門とSOS団の部室が現れていた。
その後、長門の情報操作によってSOS団部室は元通りの位置に収まり、さらに一般の人々の記憶に
関してもシルバーブルーメの部分を消した。つまりこの事件は一般的には無かった事になったのである。
「まったく…酷い夢を見たわ。突然クラゲみたいな変なのに飲み込まれて…。」
なお、この件に関してハルヒ本人はシルバーブルーメに飲み込まれた事を『悪夢』と認識していた。
余りにもあり得なさ過ぎる事態にハルヒが現実と認識する事を拒んだのである。
流石は超常現象を求めていながらも、その根底には常識的な物が存在しているだけはある。
「全く酷い目に遭っちまったな。まさかあんなのが出て来るなんてな。また起こったりしないだろうな?」
「それは分からない。円盤生物はシルバーブルーメ以外にもノーバやブラックエンド…ロベルガー等
様々な種類が存在する。それらのいずれかが襲来する可能性も捨て切れない。」
「そんなにいるのか? 勘弁して欲しいもんだな。」
「でも今度は…私がさせない。絶対に涼宮ハルヒと貴方を…守ってみせる…。」
キョンと共に帰宅する長門の表情こそ今まで通りの無表情であったが、その瞳の奥底には
強い決意の様な物が感じられた…。
END
涼宮ハルヒの憂鬱とウルトラマンレオの恐怖の円盤生物シリーズ第一弾の
MAC全滅! 円盤は生物だったのクロス
ただ、ガチで全滅したMACと違い、こっちは全滅とか言っておきながら結局全滅しなかったけど。
色々な作品のキャラクターがそれぞれ色んな理由でとある田舎町に行き、そこで怪異に巻き込まれる
という何処かで聞いたような話を書いてみようと思う。
276 :
『序章』 ◆f2cg6/u08U :2009/07/17(金) 19:41:13 ID:To3+hVYs
時は西暦2009年の7月。真っ赤な太陽が地球を睨み付け、その暑苦しいまなざしにより
地球の上半分はやたらと暑くなる。下半分はと言うと抜け目なくその視線からは逃げられたものの、
冬将軍率いる冬軍団の襲撃を受け、現在厳しい寒さと戦っているところだ。そして、地球自身はというと
人間という生物が撒き散らかすシーオーツーに代表される温室効果ガスのせいで
常に温かい状況になってしまっている。
そんな地球のために人間はこれから何をすべきなのだろう。それを考え、実践して
行くのがこれからの人間の使命だろう。特に先進国という技術が進んだ国に住う人間は。
さて、地球の上半分、地球最大の大陸であるユーラシア大陸の東端から更に海を渡ったところに
日本という小さな島国がある。世界で2番目の国民総生産を誇る経済大国であり
まごうことなき先進国であるが、それが実感できるのはえてして都会であり、
山中の田舎町ともなれば都会に住む人間からすれば同じ国だとは思えないのではなかろうか。
この物語は、その日本のとある田舎町を様々な理由で訪れ、異変に巻き込まれた人間たちの群像劇である。
日本には、47の都道府県がある。小学生の頃社会の授業で習うのだが、白紙の日本地図を見ると
何処が何県なのか47全てを正確に答えられる人間は日本の人口一億二千万のうちに
果たして何人いるのだろうか。
さて、その日本地図を見てみると、首都、東京から左に少し行ったところに長野という県がある。
1998年には冬期五輪が開催された場所でもあり、たくさんのドラマが生まれた場所だ。
その長野県の県庁所在地である長野市からローカル線で一時間半程行った後、終点の駅で降り更に2時間に
一本出るかどうかのバスに乗り込み、一時間程一応はアスファルトで舗装されている山中道路を
走り、ようやくたどり着くことができる村がある。
名を羽見沢(はねみさわ)村という。人口およそ2000人程の、村というよりは集落と
言ったほうが適当かとも思えるような小さな村だ。この辺りは日本屈指の豪雪地帯であり、
冬ともなると年寄りばかりで雪下ろしがきついのだろうと訪れる人間は思うのだが
2000人の中で老人の人口は2割程度であり、後の8割はこの村の主産業である農業に従事する
農家のおじさんやらおばさんが全体の5割程で、残りの4割が若者や、まだ幼い子供である。
雪下ろしはこの村では若者の仕事であり、お年寄りは苦労していないのだ。もっとも、今は7月であり、
今はそんな話はあまり関係がないのだが。さて、この村では毎年この直になると
村の神社、名を『古手(ふるで)神社』というのだが、その村で行われる祭りが
あるのだが、これが幻想的で美しいと訪れた人達から口コミで人へと伝わり、
それなりの観光客が訪れるのである。
ただ、余所者がこの村にみだりに出入するのをお年寄たちは何故かあまり快く思っておらず
特にこの村を代々治めて来た『園崎(そのざき)家』の現当主である
園崎お魎はその筆頭とも言える存在であり、
この村の農業を取りまとめる太田家、古手神社の神主を代々務めて来た古手家、
この村に隠されるとある禁忌を守る神代(かじろ)家と並び、
その当主達と長きに渡ってこの村を守って来たという歴史がある。
園崎お魎は親族から鬼婆として恐れられ、この羽見沢村の頂点として君臨しているが、
他の当主たちは彼女を前にした、通称『御前会議』においても臆することなく意見する。
ちなみに、現当主はそれぞれ、太田家の太田常雄、古手家の古手梨花、神代家の神代淳、である。
277 :
『序章』 ◆f2cg6/u08U :2009/07/17(金) 20:42:08 ID:To3+hVYs
この4家によりこの村の全てが治められているのでこの村には村長という役職がなく、
この『御前会議』で決定したことにより村は動くのだ。
さて、その4家の体制だが、園崎お魎の独裁体制、というわけではなく、各々が各々の分野にて
持ち寄った議題をこの会議にて議論し、そして多数決により決めるというものだった。
多数決の場合、4人だと決着がつかないということもあるので、各家は親族から1人を同席させるのだ。
園崎お魎は次期当主で孫娘である園崎魅音、まだ高校生くらいの少女である。
太田常雄は娘の太田ともえ、もう26歳になり、そろそろ婿をもらってもいい年齢である。
古手梨花だが、彼女にはとある理由により親族がいないので古手家は彼女一人で出席することとなる。
神代淳は許婚の神代亜矢子、はっきりいって世間知らずのお嬢様で、太田ともえとは
常に反発している。会議はこの7人で行う。
さて、今回の議題はというと、間近に控えた古手神社での祭り『綿流し祭』についてである。
古手神社の巫女、古手梨花が巫女装束を身に纏い、神具である鎌で布団を切り裂き、
中の綿をこの村を流れる『四鳴(しめい)川』に流すことでこの村の汚れを浄化し、
その年の住人たちの健康と農家の豊作を祈願するという催しだった。
この祭りを一目見ようと遠方からも人がやって来て賑やかになり、村の活性化にも繋がる。
しかし、余所者がこの村にみだりに出入りする事をよしとしないお魎が待ったをかけた。
今年は『綿流し祭り』を中止にしようと言い出したのだ。今年に限って。これに対し、古手梨花は当然反発した。
いつもならばお魎はここで物凄い剣幕で怒鳴り、彼女を黙らせてしまうのだが、
この祭りは豊作も祈願している。村の農業の一切を取り仕切る太田常雄がこの事態を見過ごすはずがない。
すかさず梨花を擁護したのだった。無論、ともえも。この時点で多数決を取れば結果は3対2。
綿流し祭は実行されることになる。しかし、もしか神代家の2人がお魎に肩入れ
するようなことがあれば綿流し祭は中止となる。つまり、この会議の鍵は神代家が握ったことになる。
他の出席者もそれは重々承知している。お魎は物凄い眼光で淳を睨み付ける。圧力をかけているのだ。
しかし淳はその眼光に臆することなく、フッと鼻で笑ってお魎に言い返す。
「お魎さん。お年寄のわがままに僕らを巻き込まないでもらえませんか?
それに、余所者なんてこの時期にしか来ないんですから少しくらい我慢してくださいよ」
この淳の言葉により、会議の結果は決まった。多数決の結果は5対2。無事に綿流し祭は
執り行われることになった。それが、この村を破滅へと導くことを、この時知っていたのはお魎だけだった…
『序章』 完
神代……SIRENか?
SIREN1、2とひぐらしか。いいねえ
涼宮ハルヒを中心としたSOS団は何故かとある田舎にやって来ていた。
「で、ハルヒよ。こんな何もない所で一体何をやるって言うんだ?」
いつもの様にハルヒの奇行に文句を言うキョンであったが、ハルヒはそこである方向を指差した。
「あれを見なさい。」
「あれって…お地蔵様がどうしたんだよ?」
ハルヒの指差した方向にあるのは一つのお地蔵様。そしてハルヒはそのお地蔵様へ歩み寄って頭に手を当てる。
「何でも話によると、このお地蔵様は悪い妖怪を封じ込めてるって噂。でもそれが本当なら面白いと思わない?」
「おい…お前がやろうとしてる事が分かったぞ。お前そのお地蔵様に何かしようってんだな!?」
「そう! その通りよ! キョン、今直ぐこの地蔵を倒してみなさい!」
「そんな罰当たりな事出来るか!」
「何言ってんのよバカキョン! 妖怪見たくないの!?」
その地蔵が妖怪を封じ込めていると言う噂が本当か否かはともかくとして、地蔵を倒させようとするハルヒに対し、
キョンは恐れ多いと頑なに否定する為、ハルヒは腹を立ててしまった。
「キョンがやらないなら私がやるわよ! てやぁぁぁぁ!!」
「あっ! バカ! ハルヒやめろ!!」
キョンの制止を振り切ったハルヒの飛び蹴りが地蔵の頭部に炸裂し、もろにぶっ倒れてしまった。
しかし、それだけ。それだけである。ただ地蔵が倒れただけで、特に何か起こる気配は無い。
「何だ。何も起こらないじゃない。馬鹿馬鹿しい。私帰る。」
「おいこらハルヒ! 帰るならせめて地蔵を元に戻してから帰れよ! 地元の人に怒られるぞー!」
が、呼び止めるキョンを無視し、ハルヒはそのままそそくさと帰ってしまい、その場には
キョン・長門・みくる・古泉の四人だけが残されてしまった。
「キョンく〜ん…このお地蔵様どうしましょう〜?」
「と…とりあえず…元に戻しましょう…。」
帰ってしまったハルヒに代わって仕方なく地蔵を元に戻そうとする四人だったが、
そこで突然地蔵の後の山から何かが現れた。
「な…何だ!?」
山肌を吹飛ばして現れたそれは、まるで仏教世界において死者を裁くと言う
閻魔大王を思わせる形相の何者かだった。
「え…閻魔大王!? って事は…この地蔵は……本当に……。」
状況から見るに、ハルヒが倒した地蔵は本当に何かを封じ込めていたのだろう。
それも、妖怪では無く閻魔大王を。しかもその閻魔大王は右手に持った巨大な刀を
振り回して見境の無い大暴れを始めたでは無いか。
「うああああ! 地獄から閻魔大王が蘇ったーって言うかどうするんだよこれー!」
「違う…これはえんま怪獣エンマーゴ…。」
「えんま怪獣…エンマーゴ?」
長門が言うにはこれは正確には閻魔大王では無く、えんま怪獣エンマーゴと言う
似て非なる物らしい。長門が何故それを知っていたのかはキョンには分からなかったが、
長門はキョン達を守る為にエンマーゴの前に立ちはだかった。
「私が相手に立つ。」
「長門!」
以前長門はキョンを守ると言ったし、実際朝倉に襲われたキョンを助けてくれた。
今回もまたキョンを守る為にエンマーゴに立ち向かって行ったが、情報統合思念体が
作ったインターフェースと言う地球外の存在が、妖怪変化の一種っぽいエンマーゴに
戦いを挑むと言うのは冷静に考えると凄いシチュエーションだよな。
口から黒いガス状の霧を噴出し、刀を振り回して暴れるエンマーゴを取り押さえようとする長門だが
どうやら力に関してはエンマーゴの方に分がある様だった。
「長門ー! お前の情報操作とやらで何とかならないのかー!?」
「先程から試しているが…あれにはこちらの情報操作を無効化する何かを持っているらしい…。」
「何!?」
大抵の相手なら、長門は戦うまでも無く情報結合の解除によって相手を消滅させる事が出来る。
しかし、エンマーゴにはそれが通じないと言うのである。何故長門の情報操作を受け付けないのかは
分からないが、やっかいな相手である事には変わりない。やはりエンマーゴは閻魔大王なのか?
エンマーゴ自身に情報操作が通じないならば、外部の情報を操作する事による正攻法で攻撃し
倒す以外には無い。長門は自身の情報操作によって作り出したエネルギーをエンマーゴへぶつけようとするが
エンマーゴが左手に構える巨大な盾によって弾き返されてしまった。なんと言う頑丈な盾であろうか?
長門の攻撃を防ぎつつ、刀を振り回して迫るエンマーゴ。長門は何とかエンマーゴの刀を回避しながら
下がる事しか出来ない。
「いかん長門がパワー負けしている! 一体どうすれば…はっ! そうだ! お地蔵様だ!」
エンマーゴはお地蔵様によって封印されていた。それをハルヒが倒してしまったから蘇ったと言うのなら
お地蔵様を元に戻せば何とかなるかもしれない。
「古泉! 俺とお前でこの地蔵を元に戻すんだ!」
「わ…私も手伝います〜。」
キョン・古泉・みくるの三人で倒れた地蔵を何とか持ち上げて元に戻そうとするが、これが中々重く
持ち上がらない。しかし、このままでは長門はエンマーゴにやられてしまう。
「くんぬぅぅぅ!」
「お…重いです〜…。」
それでも何とかゆっくりではあるが地蔵を元の位置に戻す事に成功したが、一方長門は
エンマーゴの口から噴出された黒い霧によって視界を封じられ……
「なっ長門ー!」
黒い霧で長門の視界が封じられた隙を突き、エンマーゴの刀が横一文字に長門の首をすっ飛ばしていた。
しかしその時だ。元の位置に戻された地蔵の目が光を発し、何処からともなく響き渡る念仏を唱える謎の声。
恐ろしいエンマーゴの刀攻撃に、長門は死んでしまったのかと思えた。が、地蔵から発せられた念力が
エンマーゴの動きを封じ、そしてエンマーゴに切り落された長門の首を元通りにしていたのである。
地蔵の念力でエンマーゴの力が封じられた今ならば情報操作が通じる。蘇生した長門はとっさに
情報操作を行い逆にエンマーゴの首を切り飛ばし、首を失った胴体に情報操作によるエネルギーを
ぶつけ、木っ端微塵にしていたのだった。
「全く災難な事になっちまったな。やっぱりこういうのにイタズラをしてはいかんと言う事だな。
ハルヒに関しては俺の方からきつく言っておきますんで…。」
エンマーゴが倒された後、キョン達は地蔵の前に手を合わせ拝んだ。
おわり
ハルヒとウルトラマンタロウ14話「タロウの首がすっ飛んだ」のクロス
閻魔大王と戦って長門の首がすっ飛ぶのをやりたかっただけと言うお話
284 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/05(月) 19:09:57 ID:YBw2blFC
後楽園ホールは重い沈黙に包まれていた。
先程ブロッケンマンが胴体を真っ二つに引き裂かれた光景が、観客全ての脳裏に焼き付いて離れ
ない。
いまだ強烈な血の臭いが漂う中、ラーメンマンがかつてブロッケンマンだったラーメンをすする
音だけが響いていた。
「おい、お前! そこは一般人は立ち入り禁止だ!」
放心状態だった観客達は、警備員の声で現実に引き戻された。見れば、サラリーマンと思われる
オールバックの貧相な男がリング上に駆け上がっている。ラーメンに舌鼓を打つばかりで乱入者の
存在など意に介さない様子のラーメンマンに、男は冷ややかな視線を向けている。
マイクが偶然、音を拾ったのであろうか。次の瞬間、男の相手を見下すような声が会場に響き渡
った。
「やれやれ。そんなラーメンをうまいと言っているようじゃあ、本当に残虐超人か怪しいもんだな」
「なんじゃと! こいつは対戦相手を残虐なやり方で殺して……」
キン肉マンが抗議の声をあげるが、男はまるで気にしない。
「食材の超人強度は高ければいいってもんじゃない。料理との相性が大切なんだ」
「でもブロッケンマンはドイツ代表にふさわしい一流の超人ですよ?」
男はミート君を軽蔑しきったような顔で一瞥すると、吐き捨てるように宣言した。
「このブロッケンマンは出来損ないだ。食べられないよ」
会場がざわめきに包まれる。
「彼は毒ガス攻撃を得意としていた。そんな奴を使った料理が健康にいいか?」
「ミー達はそんな物を食わされていたのか!」
いつの間にかこちらの会場に駆けつけていたテリーマンが叫びをあげる。ラーメンマンからご相
伴に預かり、今まさに食べようとしていたブロッケンラーメンは床に叩きつけられた。
「明日もう一度後楽園ホールに来て下さい。そこの弁髪が作ったのより、ずっとうまいラーメンを
ご覧に入れますよ」
ラーメンマンは何も言わなかった。しかし、その目には静かな闘志が宿っていた。
本場で鍛えられた超人ラーメンと究極のラーメン。
今、会場には先程とは違った緊張が広がっている。
続かない
激しくワロタw
何でそうなるww
287 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/22(木) 20:23:16 ID:DRGN2+gt
とある日曜日の昼下がり。
フレプリ4人娘は例のごとく謎の男カオルのドーナッツ屋でまったりと過ごしていた。
ラブの視界を横切る少年が一人。
「あれ?フィリップ君だ」
「フィリップってラブが落とした財布をあっという間に見つけてくれた人?」
「なんだか随分慌てているわね」
「あ、ベンチに躓いて前方回転受身でゴミ箱に嵌った!」
「何かに集中していて足元がお留守になってるみたいだけど…」
「あたしちょっと行ってくる!」
「あ、ラブ待って!」
「私達も行きましょう!」
「ええ!」
誰か続きヨロ
ロックマンZX×カブト投下します。
注意
※オリジナルあり(モブ、敵のみ)
※クロス設定あり
プロローグ
「おばあちゃんがいっていた。ちゃぶ台をひっくり返していいのは、飯がマズかったときだけだとな。
ちょっと七年前までひっくり返してくる」
男はそういい、カブト虫を模した強化装甲をまとって時を遡った。
人々を滅ぼす悪魔の隕石と共に、過去へとたどり着いた男は歴史を変えたのだ。
妹と、心を許した仲間に平穏な世界を与えるために。それはいかなる理由をもっても行うべき行為ではないと知りながら。
世界は歴史の変更を嫌う。
男が行った行為は世界の理を破り、時空の復元力をもってしても修復が間に合わなかった。
ゆえに男は世界に否定される。肉体も、存在も、魂も。
されど男は覚悟をしていた。彼の所業は永遠に呪われてしかるべきのものである。
だからこそまだ消えてはならない。もう少しだけ、世界に抗わなければならない。
男はすべての始まりの場所へとたどり着き、自らのベルトを少年へと向ける。
「ベルトをつかえ」
その少年が妹を守る姿を見届け、男は満足気に微笑んだ。
これで思い残すことはない。
たとえいかなる罰を受けようと、たとえいかなる苦しみを与えられようと、この流れを作るために男は命を投げ出した。
彼は自分を世界の中心だという。
だからこそ、自分が中心であるベキの世界を守るのは当然の選択であった。
男は黄金のタキオン粒子となり、瓦礫に埋もれた少年と少女から姿を消す。
後は、妹はこの世界の自分に託せばいい。
<br>
<br>
歴史を変え、世界に嫌われた愚か者。
天の道を往き、総てを司る男。
天道総司。
彼は死よりも辛い、時間に溶ける間際まで微笑んでいた。
□
「はいはい! 依頼とあらばどんなものでも どこにでも!
こちら「運び屋」ジルウェ・エクスプレスでございます! 」
黒い髪を肩まで伸ばした、活発そうな少女が通信機に向かって警戒に応えていた。
青い服装に白いパンツルック、全身に黒いタイツをつけているのか、腕や足を黒い布が覆っていた。
青いジャケットを羽織り、青いバイクに寄り添っている。
彼女の名はエール。この国の英雄であり、人間の少女であった。
「はい、はい……それでは向かわせてもらいまーす」
彼女はそういって通信を切る。彼女が行っている運び屋には、彼女だけでなくジルウェという青年がいたのだ。
冷静で優しく、しかし厳しいところは厳しい青年であったのだが、一年前ある事件で彼女を庇って亡くなってしまったのだ。
『エール、順調だね。けどまた危険な仕事を受けたの?』
この岡には彼女一人しかいない。なのに、声がかかってくる。
エールは慌てず、声の主を“取り出した”。
「大丈夫よ。今回は安全な常連客よ。それに、なにかあったら力を貸してくれるでしょう?」
『だからといって、この前みたいにイレギュラー相手に油断されては困る』
また別の声があがり、エールはうっ、と気まずそうにする。
光り輝く手のひら大の青と赤の金属デバイスが現れて彼女へと話しかけていたのだ。
彼らはライブメタルモデルXとモデルZという英雄の力を宿した生きたデバイスであった。
『モデルZ、彼女はそのことに対して反省をしているよ。エール、今度の依頼主は人間かい?』
「いいえ、レプリロイドよ。どこかでアタシの噂を聞きつけたみたい」
エールはそういってモデルXへと微笑み、青いバイクに跨った。
ライブメタルモデルXとモデルZは、向こう見ずの少女に微笑み、あるいはため息をついて彼女の元へと戻った。
レプリロイド……それは人間と共に道を歩む機械生命体である。
数百年前、人間とレプリロイドは相違の思想の違いにより対立して、戦争が発生した。
長年にわたって戦争は続いたが、首謀者は倒されて人間とレプリロイドは共に道を歩むことを決意をする。
人間とレプリロイドは真の平和を求めて、人間に『機械の体というレプリロイドと同じ力』を、レプリロイドに『寿命という人間と同じ命の重さ』を与えられたのだった。
戦争の傷跡も癒え、人とレプリロイドが共に手を取り合って生きていた。
しかし、一年前『セルパンカンパニー』によって人々が争いの渦へと巻き込まれた。
長年人々の英雄と語り継がれていた『セルパンカンパニー』は狂ったレプリロイド・イレギュラーを裏から操って自作自演の茶番を行っていたのだ。
それはすべて、ライブメタルモデルVを覚醒するため。
支配するロックマンへと変身したセルパンをとめるものはいないかと思われた。
それをかぎつけたガーディアン、及びモデルXの適合者エールによってセルパンの野望は阻止されたのだった。
それから一年たった今、少女は日常を取り戻し、運び屋として日々を過ごしていたのだ。
「うーん、いい風……」
エールは気持ちよさそうに呟き、空を見る。彼女が守った青空だ。
十一年前のイレギュラー襲撃によって母を失った彼女の、初めて守れた世界。
だからこそ彼女は英雄の賞賛足りえた。
「それじゃ、いこうか。モデルX、モデルZ」
いまや仕事の相棒となったライブメタルに語りかけ、彼女はアクセルを回した。
エールは青いバイクを走らせ、運び屋として依頼を果たそうとする。
それが彼女を守ってくれた、ジルウェとの絆だったからだ。
「アレがお前の標的……でいいのか?」
『ククク、そうだ。あの気配……忘れてやらない……』
「俺にはただの小娘にしか見えないがな」
そういって男は双眼鏡を降ろした。彼以外には人影を発見することはない。
確かに男以外の声が、人影のないビルの上で響く。まるで丘のエールとライブメタルたちのように。
「まあ、俺は暴れられればそれでいい……」
『話が早い。いくぞ……』
男は取り出した金属デバイス……ライブメタルを手に口元を歪める。
笑っているようにも見える狂気の表情のまま、彼は呟いた。
「ロックオン……」
風が吹き雲が太陽を覆う。
彼女が守った青空を、乱すものが現れたことを示すように。
プロローグを投下終了します。
続けて、一話を投下いたします。
一話 START [始まり]
風が吹いてエールの黒髪が揺れる。右手で髪を抑えて空を見ると雲が出てきた。
さっきまで雲一つなかった青空だったことを考えると、風が強くなったのだろう。
エールはそれ以上気にとめず、依頼主へと歩みを進めた。
「こちらがご依頼の品です」
「まあ、ありがとう。エールちゃんも大変だったでしょう?」
「いえいえ、そんなことはありませんよ。それよりも、運び屋『ジルウェ・エクスプレス』をまたご利用ください」
エールはそういって品物を柔和な中年型女性レプリロイドに渡した。
レプリロイドといっても、外見はさまざまだ。わざわざ年上に設定するものもいる。
目の前の常連客もその口であった。もっとも、その理由は想像がつくが。
「おや、エールさん。今日も仕事かね?」
「はい、オジサン。いつも贔屓にしてもらって助かります」
現れた恰幅のいい男性は人間であり、依頼主の夫であった。
婚姻はレプリロイドと人間は平等である、という事例の一つだ。
エールは男性とにこやかに挨拶すると、彼のそばにトラックがあることを目ざとく見つける。
「どこか出かけるんですか?」
「ああ、少しDエリアのハイウェイを通った先の家にこの荷物を運びにね」
「……!? でもあそこは……」
エールがいいよどむと、いいたいことを察したのだろう。
男性は笑みを浮かべて、安心させるように告げる。
「エールちゃん、大丈夫だ。イレギュラーはここ数ヶ月、Dエリアのハイウェイで姿を現していないという話だ。
それに、うちに飾るにはどうしてもあそこを通らないといけないからね」
「だからって、なにも準備せず向かうのは危険じゃないですか? せめて護衛を雇うくらい……」
「なに、そう遠くはない。すぐ済むから大丈夫さ」
そして男性は妻の依頼を叶えたことに礼をいってトラックへと乗り込んでいった。
エールは少しだけ不安を感じ、彼らが離れていくのを見届けた。
『エール、さっきの人たちが心配かい?』
モデルXに話しかけられ、エールはバイクを止める。それはそうだ。
あそこに発生したイレギュラーと激闘を繰り広げていたのは、エールたちであったのだから。
『あそこのイレギュラーはモデルVとセルパンカンパニーの爆発と同時に姿を消した。
今更現れることを心配するほうがおかしい』
「モデルZ、理屈はわかっているんだけどね」
エールの母は十一年前のイレギュラー襲撃で亡くなっている。
イレギュラーと戦うNGOの辺境警備隊のガーディアンとしてイレギュラーと戦ってきたのも、そのときのトラウマが原因だ。
イレギュラーに関わる可能性がある、というだけでエールが心が乱れる。それを誰も責められまい。
「ま、心配してもしょうがないし、次の依頼でも待ちましょう。それにしても、モデルHたちは元気かな?」
エールは表情を一転、明るい笑顔を浮かべて話題を変える。
つい最近、ライブメタルの研究のためにガーディアンへ預けたモデルがあるのだ。
電撃を纏い、空を翔けるモデルH。
炎を噴出し、固い岩盤すら砕くモデルF。
氷の竜を召還し、水中を自在に泳ぐモデルL。
闇を纏い、敵をすり抜けることすらできるモデルP。
いずれもモデルVを使ったセルパンカンパニーの野望を砕くときに力を貸してくれた。
『ガーディアンの研究所に預けているから、大丈夫だと思う。けど、エールは変わったね』
「そう? アタシは自覚ないんだけど」
『前は依頼主に対しての言葉使いがなっていなかった』
「ちょと、モデルZ! そんな昔の話はよしてよ!」
まあまあ、とモデルXがエールとモデルZをとりなす。
変わった、と告げた張本人という自意識がモデルXにはあるのだろう。
モデルXは柔和な雰囲気だが、モデルZはたまにとげとげしい部分を見せる。本当にたまにだが。
実は内面以外にもエールが変えようと考えている部分がある。
ジルウェは髪の長い青年だった。あの長い髪は、異性ながら憧れを抱いてしまう。
密かに髪を伸ばそうと決心しているが、彼らには告げず黙っていた。妙に気恥ずかしいのだ。
さて、と一声あげてバイクのハンドルを掴む。
エールがそのまま次の仕事を請けようとして、通信機が鳴った。ガーディアン専用通信回線だったため、驚きながら通信機を取った。
「はい、プレリー? どうしたの?」
プレリーとは、ガーディアンの指揮官の名前である。
見た目はエールとそう年の離れていない少女だが、イレギュラー戦争時代から生きている歴戦の戦士だ。
レプリロイドに寿命を設定する法から逃れているのは、職業上の特例なのだろう。
エールは密かにプレリーの美しい金の長髪と、女性らしいスタイルに憧れている。
絶対口にはしないが。
『エール、聞こえている? 急にイレギュラーが活発化したの!』
「イレギュラーが……現場はどこ? ミッションは受けるわ」
『……Dエリアのハイウェイ。お願い、エール。また戦いに巻き込むけど……』
「いいっこなし。……って、エリアDィ!?」
エールの表情が変わる。エリアDには先ほどの夫婦が向かっている。急がねば彼らのみが危険だ。
モデルXとモデルZも押し黙る。
「ごめんね、プレリー! あそこには人がいるの。エリアDに向かうから、支援をお願い!」
『わかったわ。エール、気をつけて』
通信機を切り、エールはUターンしてエリアDへと向かう。
やはり先ほどの夫婦をいかせたのは間違いだった。
エールは後悔を噛み締めながら、バイクを走らせた。
時間は少し遡り、エールに依頼をした夫婦……夫をゴルクル、妻をミラという。
共に寄り添って二十年近くになる。この時代、人間とレプリロイドの夫婦は特別珍しいものではなかった。
穏やかに日常を過ごし、今日のこの日も荷物を市街の家に運んで飾り、夫婦水入らずで過ごす予定であった。
この日、日常と違う事態が起こる。その一つを発見したのは、ミラのほうだった。
「あなた。止まって!」
妻の言葉にゴルクルは疑問を抱いたが、素直に従う。彼女の言うことは、ゴルクルにとって間違ったことがないからだ。
車を止めると、ミラは車を降りて道路の脇を進む。ゴルクルも降りると、妻が車を止めた理由がわかった。
道端に人が倒れている。ゴルクルは妻と青年へと駆け寄った。
「行き倒れなのか? ここはイレギュラーが発生しているため、ほぼ無人だったはずだが……」
「ですが、彼が倒れているのは事実です。あなた、この人を放ってはおけません」
「そうだな。見たところ外傷はないが、市街の病院に見てもらったほうがいい。運ぼう」
ミラの言葉に頷いたゴルクルは、青年を抱えて横たえる場所を確保した荷台へと乗せる。
癖の強い黒髪に、整った知性的な顔立ち。細く見えて、鍛え抜かれた肢体を白い衣装で上下を整えていた。
この不思議な青年を拾った。それが人のいい夫婦の、ちょっとした非日常であった。
□
天道総司は妹を守ってやれなかった。
宇宙より降り注いだ隕石により、地球は海を失って人類の数は大きく減少し、災害に妹と巻き込まれたのだ。
目の前で救いを求める手を握ってやれなかった。
あんなにも苦しんでいたのに。兄とは妹を守るためにあるはずなのに。
天道はそれからさらに大切なものを喪うことになる。
七年、天道は喪失という名の闇を抱え続けていた。
祖母の言葉を胸に、涙を見せず強がり、カブトゼクターを手に戦い続けた。
異星より現れた謎の生命体、ワームとの死闘を運命付けられても、天道は変わらない。
世界の中心であり続けるため、大切な人たちのために更なる力(ハイパーゼクター)を求めた。
そして手に入れた力で、世界に喧嘩を売ったのだった。
「うっ……」
天道は自分のうめき声を耳にして、意識を覚醒させた。
瞼が開くと同時に、太陽の光が天道を照らす。目を覚ますと、荷台で柔らかい寝袋に包まれていた。
「おや、目が覚めたようだね。よかった。私はゴルクル。自分の名前を言えるかね?」
柔和そうな男性の声に天道は視線を向ける。
自分の身体を静かに調べて、彼が自分を助けてくれたのだと悟った。
「すまない、助かった。俺は……」
そういって静かに天道は右手の人差し指を天に刺して、厳かに告げる。
尊大な態度でふてぶてしい。この性格は死んでも直ることはないだろう。
「天の道を往き、総てを司る男。天道総司だ」
「そ、そうなのか。天道君……でいいのかな? 礼は妻にいってくれ。ワシは手伝ったに過ぎんよ」
そう言われ、ミラに礼を告げて天道は座りなおす。ここはどこだろうかと現状を把握することに努めた。
天道の最後の記憶は、世界を変えて過去の自分にベルトを託すところまでだ。
なぜ消えたはずの自分が存在し、彼らと同行しているのかがわからない。
ふと、首を回すと天道の上半身くらいのコンテナが目に入る。
トラックの荷台に固定されたそれは、妙に天道の目を引いた。
「ああ、それは遺跡から発掘された古代の遺産だよ」
「遺産? 骨董品でも集めているのか?」
「そういう趣味でね。ライブメタルという遺跡には高い懸賞金がかけられているが、そういったものではない。ごく安全な、アンティークさ」
ハハ、とゴルクルは笑って説明をする。そういうものか、と天道が納得して外を見ていると、眉をしかめて勢いよく振り向いた。
天道にしては珍しく、語気を粗く忠告する。
「撃たれた! ハンドルを切れ!」
天道の忠告と同時に、トラックが揺れる。現状を把握していないにもかかわらず、ゴルクルは車の速度を上げた。
とっさにしてはいい判断だ。人型のロボットだろうか? 腕に取り付けた銃がゼクトトルーパーのマシンガンブレードを思い出す。
天道は知らないのだが、野生化したイレギュラーの典型例、ガレオン・ウィングであった。
「そんな! ここ数ヶ月、イレギュラーの発生は報告されていなかったのに!」
「不確定要素(イレギュラー)? それより、車を運転することに集中しろ。このままだと死ぬぞ」
「あなた……」
天道の忠告どおりゴルクルが必死でトラックを制御する。
天道はどうすべきか、思案をした。戦おうにもベルトは七年前の自分へと譲った。
歴史が変わった以上、もはや彼は自分になりえないのだが、便宜的にそう呼ぶことにする。
彼ら夫婦を見捨てれば天道一人生き延びることができるだろう。しかし天道はその選択を取らない。
彼らを救い、天道が生き延びる程度、天の道を往く男には可能でなければならない。
この程度の逆境など、ハイパーゼクターを求める戦いで何度も味わった。潜り抜けるなど容易だ。
「そこの建物へ突っ込め!」
「天道君、どういう……」
「いいから言うとおりにしろ」
出会ってすぐの人間を信用しろ、というのは無理があるのは天道自身自覚がある。
だが、ここは脅してでも実行してもらわねばならない。
幸いにも人がいいゴルクルは天道の言葉を実行した。
大きくタイヤを軋ませ、不愉快な音をたてて使われていないだろう建物へと突っ込んだ。
中を突き進みながら、ゴルクルが天道に視線をやる。
「ゴルクル、奥さん。二人ともいったんここで降りて隠れていろ」
「どういうことですか?」
「まさか……囮になる気か? 天道君!」
ミラの疑問を、ゴルクルが告げる。ミラがハッとした視線を天道に向けるが、天道は余裕を崩さず笑みを浮かべた。
「なに、このトラックは必ず返す。念のため荷物を今渡したいところだが、そこは時間がない。すまないな」
「駄目だ、君はさっきまで意識を失っていたのだぞ? そんな危険な真似を……」
「いいから従え。奥さんも死なせたくないだろう。大切な人を失うのは辛いぞ」
ゴルクルは迷い、ミラも心配そうに天道を見る。天道は素早く運転席にたどり着き、降りるよう促した。
ゴルクルは顔を伏せ、数秒黙考した後にミラの手をとり、トラックから降りた。
「すまない……天道君……」
「天道さん、いざとなったら荷物をトラックごと捨てて逃げてください。私たちのことは構いませんから……」
「大丈夫だ、奥さん。おばあちゃんが言っていた。二兎追うものは、二兎とも取れってな」
呆気にとられた夫婦に振り返らず、天道はアクセルを踏み込んだ。
夫婦が身を隠すのをバックミラーで確認して、建物を突き抜ける。
案の定謎のロボット集団が襲ってきた。
正直対抗する手段はない。ベルトもなければ、今の天道に武器もない。
しかし、そんなことは問題じゃない。
「こい、キサマたちの相手はこの俺だ」
天道は不敵に笑う。天の道を往き、総てを司る男にはこの程度の相手は敵でないのだ。
天道はアクセルを踏み込んで、思いっきりハンドルを切った。
「これは……」
エールがたどり着いたDエリアは破壊の限りが尽くされていた。
ガードレールは吹き飛び、道路は穴だらけ。イレギュラーとなったメカニロイドが徘徊し、真っ二つになった車から炎が吹き出た。
建物は燃えて、人々の悲鳴がエールの耳に届く。ガーディアンの仲間たちが救出活動を続けているが、火のまわりは速い。
ギリッ、とエールは奥歯を噛み締めて、二つのライブメタルを取り出した。
「モデルX、モデルZ、準備はいい?」
『いこう、エール』
『いつでもいける』
モデルXたちも怒りを押し殺しているのだろう。冷静でありながら、声色に怒りがあった。
エールはすべてを守るロックマンとなったのだ。その決意をあざ笑うかのようなイレギュラーたちの行動が許せない。
巻き込まれた人々を守る。エールの勇気に呼応して、ライブメタルのモデルXとモデルZが輝いた。
「ロックオン!!」
エールの決意の宣言と共に、二つのライブメタルから力が放出される。
エールの両腕に腕輪を分解、赤い篭手が形成された。
黒いタイツを覆うように、赤い装甲がブーツにジャケットと無から生み出されてエールを守るように覆った。
エールが正面を向くと同時に、赤いヘルメットが被さって額に緑のクリスタルが生まれた。
幾何学的な模様がクリスタルに浮かんで、金の髪がヘルメットよりあふれ出た。
エネルギーの刃を形成する剣の柄を握り、エールはロックマンZXへと変身を果たした。
モデルXの力で、本来モデルZの適合者ではないエールでもZの力を引き出すことが可能となっている。
その状態のエールは、ロックマンZXと呼ばれ、野望に満ちた相手をイレギュラーと共に切り伏せてきたのだ。
ロックマンZXに気づいた一体のガレオン・ウィングが襲いかかって来る。
エールは冷静にガレオン・ウィングの動きを見切ってZXセイバーにエネルギーの刃を形成して振るった。
「えいっ!」
一刀で真っ二つにして、その場をロックマン独特の高速移動、ダッシュで離れた。
前方に大きく移動したエールに、三体のガレオン・ハンターがバスターを向ける。
何百と相手にしたガレオン程度ではロックマンZXを止められるわけがない。
エールはZXセイバーの柄を銃へと変形させ、エールほどの大きさの光弾でまとめてガレオンの群れを吹き飛ばした。
圧倒的。
イレギュラーとの数の差などものともしない。ロックマンの力が、人を救うために振るわれた。
『相変わらずぬるいことをしやがる』
「そうか? 俺にはどうでもいいが」
高層ビルの屋上でボサボサの金髪をかきながら、紫色の毒々しいジャケットを着込む男が一人で会話していた。
いや、一人で会話しているように見えていた。明らかにもう一つの声は、男のものではない。
ギラギラと狂気を宿した瞳を、眼下で奮闘するエールに向けている。
野性的であり、かつ人間にしか持ちえない畏怖を他人に刻み込みかねない男はゆったりと右手を開いた。
『まさかあいつらの言うとおり、このまま様子を見るだけというわけじゃないよな?』
「くだらない。わざわざパンドラとかいう奴に従う必要はない。俺は……」
男は渇いた喉をかきむしるように左手を喉にあて、唇を歪める。
笑顔というには歪みすぎた表情のまま、右手をゆっくりと前方にかざす。
握られているものは、ライブメタルそのものだった。
ただ、モデルXたちに比べて禍々しい。
「この渇きがおさまればそれでいい。ロックオン!」
蛇のように腕をしならせ額にあわせたライブメタルから、禍々しいエネルギーが噴出して男を包んだ。
エネルギーはオーラと変換し、男の身体を装甲で包む。
濃い紫色の装甲が全身を包み、Y字の黒いバイザーに赤い単眼が光る鉄仮面のようなヘルメットが頭を覆う。
右肩の砲台が妖しく光り、左肩と一体化しているミサイルランチャーが細身に重厚な雰囲気を与えていた。
男はロックマンの一人。そしてライブメタルの名は……。
「いこうぜ、モデルVA。早く行かないとイレギュラーどもが全滅して終りだ」
『ククク……いいぜ、ペンテ。大暴れしてやろう。誰が最強か、またその身に刻んでやるぜ! モデルX!』
ペンテと呼ばれたロックマンは、迷わず高層ビルから飛び降りた。
その瞳にエールを映しながら。
「だいたいこんなものか」
天道はアクセルを全開にしながら、急ブレーキをかけてハンドルを切り、車を横向きにして減速した。
壁にぶつかるか否かの絶妙なタイミングでトラックが完全停止する。
するとトラックを追いかけるためなのだろう、ガレオン・ウィングも停止ができず、トラックがぶつからなかった壁へと激突した。
天道の思惑通りである。まとめて全員潰したのを確認し、天道はトラックを降りて残骸を拾う。
「やはり完全な機械か……ここはいったい?」
天道が疑問を持つが、応えてくれるものはない。
とりあえずトラックを無傷で済ませれたことに安堵して、あの夫婦に返そうと思考したとき、勢いよく振り返る。
援軍だろうか。次々とガレオン・ウィングが現れた。
戦闘手段のない天道は、新たな敵に焦りを……。
「ほう、そうくるか。いいだろう、相手をしてやる」
焦りを見せず、あくまで余裕な態度のまま手を天にかざす。
天道には確信があった。過去の自分に与えたベルトが、今この場で自分が望む限りまた現れるのだと。
根拠などないに等しい。一度失ったものが都合よく現れるなど、奇跡でも起きないと無理だ。
だが、天道という男は。
「こい、カブトゼクター!」
奇跡といえることを平然と顕在させる、天を手にしたような存在なのである。
天道の呼び寄せる声に応えるように、空の空間が割れて、赤いカブトムシ型デバイスが姿を見せた。
トラックの荷台をコンテナごと貫きながら、カブトゼクターが天道の手におさまる。
召還時には存在しなかったベルトが、カブトゼクターの角に引っかかっていた。
天道はトラックのコンテナに遺跡として掘り出されたのか、と予想をつける。
偶然だとは思わない。天道がカブトであることは、世界が決めた運命であるのだから。
「わけのわからないこの場所でこの運命……やはり俺は天の道をいくしかないようだな」
天道が正面を見据えて、不敵に笑う。
三体のガレオンが編成しながら迫る中を、恐怖を一欠けらも見せずにベルトを巻いた。
「変身」
まるで厳かに、儀式の始まりを告げるかのように天道は呟く。
カブトゼクターの『Hen-shin』という電子音を背景に、天道もまたロックマンとは違う装甲を纏った。
To be continued……
以上で投下を終了します。
書き溜めは現在二話分あるため、二話はまた明日にでも投下します。
それでは失礼しました。
投下乙!なんか天道がゼクス世界になじんでるなw
面白かったぜ
ロックマンZXなんてのが出てたのかー
Xとかダッシュはやったけど、これはプレイしたことないな
でもカブトは好きなので楽しみ
続いて欲しいぜ
第二話投下します。
注意
※オリジナルあり(モブ、敵のみ)
※クロス設定あり
二話 CROSSING [交わり]
「当れ!!」
エールの気合と共に、チャージバスターの強大な光弾がガレオンやカプセルシューターを破壊していく。
ガレオンが爆発したと同時に、あたりは静かになった。
いまだ炎が燃え上がる高速道路でエールは可愛らしい顔を顰める。
『エール、油断しないで。キングフライヤーを倒したとはいえ、イレギュラーがどこに潜んでいるかわからないから』
「わかっている」
エールはモデルXに応えて、周囲を見回す。キングフライヤーとは、ハエ型の巨大メカニロイドだ。
ヘリくらいの大きさで、空に浮かびながら爆弾を内蔵している小型のハエメカや、ビームを撃ちこんでくる厄介な相手だ。
もっとも、何度も相手したエールにとっては巨大な的に他ならない。彼女の関心は別にある。
エールは周囲の破壊された跡が濃い景色にため息をつく。
「……なんど見ても、こういうのはやりきれない」
『戦えば犠牲がでるのは必定だ。あまり気に病むな』
モデルZが慰めてくれたのにエールはキョトンとして、少し微笑みながら礼を言う。
この地帯のイレギュラーは一掃した。次に進まねば。
そう判断したとき、動く影を見つける。エールはとっさに銃口を影へと向けた。
「誰!?」
「ま、待ってくれ……私はどうなっても構わない! だから妻だけは……」
「ゴルクルおじさん……?」
見知った顔にエールが思わず呟いて、銃を収める。
すると、彼もエールの声に気づいたのだろう。顔をまじまじと見つめ、大きく安堵のため息をついた。
「エールちゃんか。よかった……それにしてもその格好は?」
「あ、アタシはガーディアンの一員なんです。ここは危険ですので、アタシの仲間に従って避難してください」
「エールちゃん、大丈夫かしら? ここに一人残って……」
「大丈夫です、おばさん。あたしはこう見えて、歴戦の戦士ですから」
ドン、とエールは胸を叩き、二人を安堵させるように大見得を切った。
決して誇張表現というわけでもないのだが、見た目は普通の少女なのだ。
二人の表情が晴れることはない。いや、それだけの理由ではないとエールは勘付く。
「どうしたんですか? まさか怪我を!?」
「いいえ、私たちは大丈夫よ。けど、私たちを逃がすために、天道さんが囮になって……」
「そうだ、あの勇敢な若者を死なせるわけにはいかない。エールちゃん、ガーディアンの仲間に連絡を取って助けにいかせてやれないか?」
ゴルクルとミラの説明にエールの表情が硬くなった。イレギュラーを相手に囮を勤めるなど、自殺行為だ。
仲間の助けを待っている暇はない。すぐにでも助けに向かわねば。
「アタシがその天道さんを助けに向かいます。ですから、お二人はここで隠れていてください」
「女の子を一人で向かわせるのは危険だ。君の仲間を待つべきだ」
エールはゴルクルの言い分にキョトンとし、思わず彼の顔を見つめた。
ミラも同意見らしく、訴えるような眼差しを向けている。
エールはその言葉に不快を示さず、むしろ他人の身を案じてくれる彼らに胸が温かくなった。
「ゴルクルおじさん、アタシは……」
思わず、二人が客ということを忘れてエールは敬語を忘れて声をかける。
穏やかな表情は、ジルウェや仲間たちに向けるそれと同じだった。
「守るためのロックマンになるって、決めたから。だからいってくるよ」
エールは自分が戦う理由を思い出す。ジルウェに誓い、セルパンを倒し、プレリーたちと共に戦い続ける理由。
十年前、母を失った悲しみを他人に味わわせない。それだけの力を、そのために使うと決めた。
ゴルクルは顔を伏せ、エールへとすまなそうな表情を向けている。
「せめて、私に力があったのなら……」
「これくらい今まであったから、大丈夫。ゴルクルおじさんは下がって…………」
『エール、敵だ!』
モデルZの声に反応して、エールは振り返る。拳大のエネルギー弾を叩き切り、二人を庇うように前へと出た。
同時に、ぞくりと悪寒が走る。この禍々しい力は初めてだ。
モデルVを使うセルパンですら、ここまで悪意を持っていなかった。
「エールちゃん!」
「隠れて、二人とも。さすがのアタシも……アレからは守りきれない」
エールがごくり、と生唾を飲み込み、二人の安全を確保する。
幸い、現れた敵は夫婦に気づいていない。
「アンタ、なにもの?」
エールが敵に問いかける。答えは期待していなかった。
だが、まるで答えのように悪意がエールを襲った。
□
「さて、どうしたものか」
変身を解いた天道が道路上でトラックを前にして一人ごちる。
周りにはガレオン・ウィングの残骸が転がっているが、まったく意に介しない。
準備運動にもならなかったからだ。とっくの昔に変身は解除してある。
(トラックはガソリン切れ。……そもそもこの車はガソリンで動いているのか?)
天道が未知のテクノロジーを前にして考察を進める。
どうやら自分はおのれが持つ常識が通用しない場所に来たらしい。
もっとも、普段常識が通用せず周りを振り回すのは天道の方なのだが。
(ハイパーゼクターによる歴史改変の影響でそうとう未来に跳ばされた、ってことか?)
我ながら影響の大きいことをしでかしたと思っている。
そこまでして生きているのが不思議なくらいだ。
死すら生ぬるい末路を覚悟していただけに、拍子抜けする。
(この場にトラックをおいといて、二人に回収するように伝えるしかないか)
ベルトのことも正直に話さねば。自分で弁償できる分はなんとかしないと。
天道という男は、妙なところで律儀であった。
天道は踵を返し、カブトエクステンダーがあればと珍しくないものねだりをする。
悠々とイレギュラーが潜んでいるはずの危険地帯を、天道は無人の荒野を行くが如く余裕で歩いていった。
「今のを防ぐか。愉しめそうだ」
『モデルXがついているんだ。それくらいやれる。なあ、モデルX?』
エールは目の前の紫色の人影にハッと息を飲む。
全身にアーマーをまとい、鉄仮面のようなヘルメットを被っている。
見慣れない状態ではあるが、あの力には覚えがあった。
『君は……まさか……!?』
『久しぶりだな。地獄の底から……鬼として這い上がってきたぜ』
エールの眼前にモデルXが浮かび上がって、呼応するように男から紫色のライブメタルが姿を見せた。
モデルXを知っている様子。そして先ほどの一撃。どう考えても、目の前のライブメタルは本物だ。
「あなたも……ロックマンなの?」
『ROCKMAN……くは、くははははははは、あははははははははは!』
目の前のライブメタルが愉快そうにけたたましく笑う。
憎悪に満ち、禍々しさを噴出しながら笑う姿はとてもライブメタルとは思えない。
エールは不快を視線にこめて、禍々しいライブメタルを睨みつけた。
『俺はこいつを知っている……だが、キサマは英雄とは程遠いはずだ。イレギュラー!』
『ククク……データだけとはいっても、俺のことは覚えているのか。相変わらずモデルXに肩入れしているようだなぁ、モデルZ』
「イレギュラー? なんでそんな奴が……」
『さあな。モデルXに対する憎悪にモデルVが反応し、データを元に実験したとかあのパンドラという小娘は言っていたが、興味はない。
俺が望むことはただ一つ。モデルX、モデルZ……キサマらを殺すことだけだ! クハハハハハハハハ!』
そういって禍々しいライブメタルは紫のロックマンの手のひらにおさまった。
紫のロックマンの右肩よりチャージショットの極太レーザーを撃ってくる。
エールが避けると同時に、狂笑がこだまする。
『あのときは伝説のROCKMANを殺そうとしていたが、なんの因果か今は俺もロックマンだ!
モデルX、モデルZ! モデルVAとなった俺が殺してやる!』
チャージショットが二つ、エールと紫のロックマンの中間で爆ぜる。
爆風に身体を持っていかれないように調整しながら、エールはキッと紫のロックマンを睨みつけた。
「モデルVAを使うロックマン! あなたも……パンドラたちの言うモデルVを手に入れて、すべてを支配しようというの!?」
「支配か。興味ないな」
初めて聞く男の声に、エールは思わずえっと呟いた。
そのエールをモデルZが厳しく叱咤する。
『エール、気をとられるな! しゃがめ!』
モデルZに従い、身を低くするとチャージショットが頭部を掠める。
肝を冷やしながら、エールは目の前のロックマンに問いかけた。
「興味ないなら、なぜ戦うの!?」
「キサマが英雄だからだ」
「どういうこと?」
すると紫のロックマンはいったん攻撃の手を休め、悠然とした態度でエールを見下す。
エールは続きを待っていると、紫のロックマンが地獄の底から響かせるように言葉を発した。
「セルパンカンパニーを潰すくらいだ。強いんだろう? 必死で抵抗しろ! 俺に傷をつけてみろ! 俺が殺す連中を守って見せろ!
モデルVなどどうでもいい。俺は鬼(イレギュラー)のロックマン、ロックマンVAVA。
英雄ロックマンZX、キサマの力を俺にぶつけろ! 俺の渇きを潤せ!!」
そういってロックマンVAVAはショルダーキャノンを乱射する。
エールはこのロックマンの存在を認めるわけにはいかなかった。
ロックマンとなった人物も、ライブメタルも狂っている。
存在していれば、悲劇しか生み出さない。
「モデルX、モデルZ」
『ああ、気合を入れろ。アレの存在を許すわけにはいかない』
『エール、あくまでも冷静に。アレは僕たちにとって脅威だった存在だ。油断すると殺される』
「ええ、わかったわ。はあぁぁぁぁ……」
エールが気合を込めると同時に、エネルギーがZXセイバーにまとわりつく。
細かいダッシュを繰り返し、ロックマンVAVAのミサイルやショルダーキャノンの光弾を躱す。
接近に成功したエールは、チャージを終えたバスターから巨大な光弾を放った。
「当って!」
「甘い」
エールのチャージショットは、ロックマンVAVAのチャージショットによって相殺された。
光弾と光線が激しくぶつかり、エールとロックマンVAVAの中間で爆ぜて視界が光に染まる。
『どうした、モデルX。ずいぶんと大人しいじゃないか。小娘の身体だと全力を発揮できないか?』
モデルVAの言葉にエールはカチンと来る。
小娘扱いもそうだが、まるでモデルXが自分の同類と言いたげなモデルVAに反発を覚えたのだ。
「小娘小娘って……」
チャージショットを終えたのに、エールの身体から光が消えない。
エールはモデルXとモデルZの特性を持つため、バスターとセイバーの“両方”をチャージでき、使い分けれる。
「アタシを舐めすぎなのよっ!」
エールの気合一閃、チャージセイバーの衝撃がロックマンVAVAへと直撃した。
ロックマンVAVAが吹き飛び、ハイウェイを構成する柱に叩きつけられる。
エールはその隙を逃さず、セイバーを構えて接近しようと急いで前方へ駆けた。
『……ッ!? エール、駄目だ! 退くんだ!!』
「えっ……」
モデルXの急な忠告にエールは疑問を抱いたが、すぐに後ろに飛び退くのを実行する。
しかし、モデルXの忠告は一瞬だけ遅かった。
ロックマンVAVAの膝より爆弾が飛び出て、エールの眼前で爆発する。
爆風に巻き込まれ、今度はエールが地面に叩きつけられることになった。
「ぐぅ!」
「クック……いいぜぇ。この痛み、もっと楽しもうじゃないか! ロックマンZX!!」
ロックマンVAVAが大口を開けて笑い、光弾とミサイルを数十発吐き出す。
エールは爆発を受けた胸を左手で押さえ、チャージしながらどうにか弾の雨を避けていく。
乱射系のフォルスロイドとは何度も渡り合ってきた。ロックマンVAVAの攻撃は激しいが、辛うじて対応できない攻撃ではない。
だが今は民間人が近場にいるのだ。流れ弾が当るのは避けねばならない。
夫婦が隠れている場所に当らないように、イレイスのチップを搭載したセイバーで一方面の弾だけは斬る。
このままでは埒があかない。攻撃が幾分か大人しくなった隙をエールは見逃さず、ダッシュで接近する。
チャージセイバーをもう一度当てて決着を着けようとしたのだ。
『エール!?』
「大丈夫。あんなふざけた奴の弾なんて当ってやらない!」
エールの勝気な性格が表に出て、夫婦を守るためにモデルXの意見を押し切った。
剣の間合いに詰めより、エールは振る。ロックマンVAVAは見たところ射撃タイプだ。
ならば、懐にさえ入れば攻撃の分はエールにあると思考をする。
「こい……」
エールがチャージセイバーを振るおうとしたとき、逆光の中のロックマンVAVAが単眼が不気味に光らせる。
ヤバイ、と判断したときにはすでに遅い。
エールは自分が焦っていたことに、今更ながら気づいた。
「バーニングドライブ」
鬼の呟きと共に、青白い炎をロックマンVAVAの全身から噴出した。
地獄の炎がエールを襲い、衝撃と共に身体が浮く。
「きゃあぁぁぁぁっ!」
エールの悲鳴が響き、再び地面に叩きつけられる。衝撃で息が詰まるが、そのままの体勢でいるわけにはいかない。
エールは即座に立ち上がり、追撃の光弾を避けた。
「いい反応だ」
「アンタに……褒められて……も、嬉しくないわよ!」
エールが立ち上がってロックマンVAVを睨みつけるが、傷は深刻だ。
額が割れて血が流れ、ポタリと地面に一滴落ちる。
ロックマンVAVAは強い。勝気な性格が災いして、余計な攻撃を受けてしまった。
そのエールへと悠然と歩み寄るロックマンVAVAが足を止める。
「なるほど、足枷があったか。通りで判断が甘いわけだ」
「エールちゃんから離れろ!」
「ゴルクルおじさん!?」
エールが驚き、声の方向へと振り向くとゴルクルがイレギュラーの銃を持ち、震えながらロックマンVAVAへと銃口を向けている。
たいした勇気だが、ここでは足手まといだ。ロックマンVAVAの視線は、彼に向いていた。まずい。
『エール、攻撃が……』
モデルXが叫び、エールは再び踵を返した。黄色い光弾がエールを捉えている。
避けてしまえばゴルクルに流れるかもしれない。エールは仕方なく、その光弾を受けた。
「うわあああああああっ!」
電撃がエールの全身に流れ、身体を拘束した。エネルギーの捕縛弾のようだ。
『モデルX、相変わらずぬるい真似をする』
「だが、あの邪魔者を殺せばそいつも本気になるだろう。ロックマンZX、呪うなら無力な自分を呪うがいい」
ロックマンVAVAの言葉に、エールは目を見開く。
彼はごく自然に、ゴルクルを殺すといったのだ。冗談ではない。
「アンタ、なにふざけたことを……」
「ふざけているのはキサマだ。本気を出せ、モデルVを殺した力を見せろ! 憎しみが足りないというなら、俺が満たしてやる!」
ロックマンVAVAの冷酷な声を受けて、エールはなりふり構わず全身に力を込めた。
抵抗する行動に呼応して、捕縛エネルギーから電撃が流れる。
「ぐ……ああああああぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
エールの変身が解けて、電撃で肉が焼けた匂いが周囲に漂う。
それでもエールはゴルクルを助けようと必死にもがくのをやめない。
ゴルクルがエールを助けるため、銃を撃ってくるがそれはまずい。
ロックマンの力は尋常ではない。アリが象に挑むようなものだ。
「待っていてくれ……エールちゃん。今助けるから!」
「駄目……おじさ……あああああっ! 殺さ……れる……。逃げ……て……うああああああああ!!」
エールが逃げるよう忠告するが、ゴルクルは腰が引けながらも銃を撃つのをやめない。
ロックマンVAVAはまったく意に介さず、冷静に右手のバルカンをゴルクルの銃だけに当てた。
丸腰となったゴルクルは呻き、右手を押さえる。
「あなたっ!」
ミラがゴルクルを庇うように駆け寄るが、ゴルクルはあくまで妻を背中にロックマンVAVAへと視線を向ける。
常人なら気絶しかねないプレッシャーなのに。
それほどエールを気にかけてくれたのだろう。
「く……ああああ! その人たちに……手を出すなあああ……!」
『くそっ! うううう……』
『イレギュラーめ……モデルX! 力を振り絞れ!』
エールが必死で叫び、モデルXたちが力を入れるが拘束エネルギーはまったく緩まない。
ロックマンVAVAの銃口が無慈悲に夫婦に向けられる。
「安心しろ、二人仲良くあの世に送ってやるよ。その後は本気のロックマンZXだ」
夫婦は銃口を見つめて、互いに身を寄せる。覚悟ができたのだろうか、二人の表情が穏やかだ。
彼らは死んでいい人たちではない。電撃がエールの身を焼くが、必死でもがく。
(また……なの?)
エールは幾度も繰り返された光景が再び起こるのを予感していた。
十年前の母親、一年前のジルウェと力及ばず失ってきた。
喪失による憎しみをモデルVに吸収されてほどもある。
それでも、幾多の悲しみを超えてロックマンとしてヒトビトを守る決心をしたのだ。
(でも……届かない……)
ロックマンの力を破壊に使う奴が目の前で命を奪う。
守るためのロックマンとしてのエールの信念すら踏みにじり、立ちふさがる。
力が足りない。ジルウェが死んだとき望んだ力すら、届いていない。
エールを、モデルXたちを、ガーディアンの仲間たちを、ジルウェを否定するかのようなロックマンVAVA。
エールは全身に電流が流れる痛みに耐えながらも、怒りに満ちた視線を向ける。
「あばよ」
『つまらん。とっととキサマの鬼を見せろ。モデルX……』
ロックマンVAVAの銃口が輝きを増し、力を解放しようとした。
エールはその光景に涙を流して叫ぶ。
「やめてぇぇぇぇぇぇっ!!」
エールの叫びと共に、周囲が輝いて視界に光が満ちる。
願いは虚しく、ショルダーキャノンのエネルギーが解放された。
ロックマンVAVAの周囲が熱で道路から蒸気が立ちのぼる。
キャノンにミサイル、ボムの熱で蜃気楼が起きている中心で、ロックマンVAVAが尻餅をついていた。
エールはなにが起きたか理解できなかったが、ゴルクルたちが無事で安堵する。
同時に、拘束エネルギーが横切った赤いなにかでフッと消え去る。
怪我を負っているも、エールは辛うじて受身をとった。
『キサマ……なにもんだ?』
モデルVAの言葉に、エールが肩越しに視線を向ける。背中の方向には、上下を白い衣装に固めた青年がゆったりと近寄ってきた。
「天道君!?」
「天道……ゴルクルおじさんのいっていた。あなた、ここは危険よ! ゴルクルおじさんたちを連れて逃げて!」
そういってエールはモデルXとモデルZを手に取る。
なぜ助かったかわからないが、民間人に戦わせるわけにはいかない。
そのエールを無視して、天道と呼ばれた青年はただ前に進む。
「おばあちゃんがいっていた」
エールはその言葉に信じられない怒気が含まれていたことに気づいた。
すれ違いざまに天道はエールの涙を拭い、前面に立つ。
「ちょっと、あなた……」
キザな真似を余計だと思いながら、抗議するが天道は取り合わない。
エールを庇うように前に立ち、ロックマンVAVAと対峙する。
「男がやってはいけないことが二つある。女の子を泣かせることと、食べ物を粗末にすることだ」
「ほう、ならキサマが楽しませてくれるのか?」
『甘ちゃん坊やが。消え去れ』
ロックマンVAVAが右手を向けるが、赤い影が舞って手を弾く。
ショルダーキャノンの銃口も、この赤い影が弾いてロックマンVAVAに尻餅をつかせたのだ。
舌打ちするロックマンVAVAの周辺を舞い、天道の右手に収まる。
「ライブメタル……?」
『違う、アレはライブメタルじゃない。けど……なんだろう。この感覚?』
『俺たちに似ているが、あきらかに違う……?』
モデルXたちが疑問を呟くのを背に、天道が右肘を曲げながら手のひらのカブトゼクターを左肩の高さまで持ち上げる。
いつの間にかベルトが天道の腰に収まり、天道は宣言した。
「変身」
ベルトの中央にカブトゼクターが収まって、『Hen-shin』という電子音と共に天道の周辺に六角形の金属片が広がり、鎧を形成した。
青い単眼に額のV字アンテナを輝かせた銀色の戦士が悠然と佇んで一歩前に出る。
「銀のロックマン……?」
「いいや、違う」
天道と呼ばれていた戦士が答え、天に指を指した。
そのまま天道は厳かに宣言する。
「俺は天の道を往き、総てを司る男。天道総司だ、覚えておけ」
言い切ると同時に、ロックマンVAVAが光弾を放つ。
厚い腕の装甲で弾きながら、天道が前進する様子をエールは見届けた。
「次から次へと、飽きないな」
『さっさとケリをつけて、モデルXたちを殺せ、ペンテ』
「そういうな、モデルVA。愉しめそうだ、ロックマンZXの代役を務めてみろ!」
ロックマンVAVAは愉快そうにショルダーキャノンから光弾を発射してカブトへと迫らせる。
カブトは冷静に軌道を見極めて、クナイガンで切り払いロックマンVAVAとの距離を詰めた。
クナイガンの刃がロックマンVAVAの装甲を削るが、浅い。
あっさりと逃れたロックマンVAVAをクナイガンを銃へと変形させて牽制する。
「チッ」
『ペンテ、面倒だ。あの民間人を撃て』
モデルVAの言葉に、ロックマンVAVAが低く笑う。
嫌な笑い声だ、とカブトは感想を抱いた。
「なるほどな」
モデルVAに従い、ロックマンVAVAが右手をゴルクルたちに向けた。
その様子を見て、カブトはカブトゼクターの角に手をかける。
「アンタっ! モデルX、モデルZ! いくわよ!」
するとカブトの視界の端で、エールがライブメタルを構えて突進していった。
ダメージが残っているというのに、とんだイノシシ娘である。
「ロックオン!!」
「キャストオフ」
エールがロックマンZXへと変えると同時に、カブトは静かに呟いた。
鎧を脱ぐことを告げる電子音を耳に、カブトは地面を駆けた。
「うわあああああ!」
エールがチャージセイバーをロックマンVAVAへと振るうが、後方に跳んだロックマンVAVAには届いていない。
無情にもゴルクルたちに、バルカンの弾が迫った。
『Clock up』
電子音が響く中、エールがゴルクルたちがいたところへと視線を向ける。
彼らを心配しているのだろう。優しい娘のようだ。
だからこそ、カブトが動く必要があった。
「ゴルクルおじさん、おばさん!」
「大丈夫だ、ゴルクルたちは俺が助けた」
エールが素早く声の方向に振り向き、カブトのそばにいる二人に安堵して大きく息を吐いた。
「そう……よかったぁ……」
『姿が変わった……?』
カブトの姿に、モデルXが疑問を示す。
モデルXの言うとおり、青い二つの複眼が存在し、カブト虫のような角が額に生えている。
全身も銀ではなく、炎のように赤い色に染まっていた。
最初の重厚な銀色の形態がマスクドフォーム、今の軽快な赤い形態がライダーフォームと呼ばれていた。
『チッ! 奴と同じ力か……』
「クロックアップ……マスクド・ライダーシステムといったか」
意外にも二人はカブトのシステムに詳しいらしい。
カブトは都合がいいとロックマンVAVAに忠告する。
「この力を知っているなら話は早い。大人しくしていれば、痛みは一瞬で済ませてやる」
『フン……二対一か』
「なかなか愉しめそうだな」
ロックマンVAVAの禍々しさが増す。常人ならとても動けなくなるようなプレッシャーを前にカブトは悠然と足を進めた。
いや、カブトだけではない。エールもまた怒りを視線に込めて前進している。
『ペンテ、退くぞ』
「…………ちょうどいいところだ。邪魔するならお前でも容赦はしないぞ? モデルVA」
『楽しみは後に取っておけ。モデルX、モデルZ。そして天道とやら、今日のは貸しにしとくぜ』
「チッ」
「逃がすもの……」
エールが最後の言葉を告げる前に、ロックマンVAVAは舌打ちを一つ打ちながら、地面にボムを放って穴へと落ちていく。
エールが穴を覗き込むが、もうロックマンVAVAの姿はない。
「く……」
『モデルVA……エール。ここは退かせただけでもよしとしよう』
モデルXがエールをフォローするのを見つめながら、カブトは静かに変身を解いた。
□
火災が鎮火していき、被害にあった人たちが救出されていく。
その様子を見届けながら、天道はエールの手当てを終えた。
「これでよし。ゴルクル、そっちは怪我はないか?」
「ああ、天道君のおかげで助かったよ。ありがとう。それにしてもそれはアンティークではなかったのか」
「もともとこいつは俺のだったからな。すまないが、こいつを譲ってもらえないか?」
天道はベルトを手に、懇願をする。ゴルクルは穏やかな表情でミラと頷きあった。
天道の顔を見つめて結論を告げる。
「私に武器は扱えない。それに、それはもともと君のだ。断る必要はない」
「むしろこちらにお礼を言わせてください。天道さんのおかげで、私たちだけでなくエールちゃんも助かりました。ありがとうございます」
「気にするな。当然のことをしたまでだ」
そういって若い夫婦にトラックのおき場所を教える。
後で回収する旨を伝えられ、天道が立ち上がると今度はエールのほうから声がかけられる。
『こちらも礼をいわせてもらいます。あなたがいなければ危ないところでした』
「なに。男なら当然だろう」
「あなたも……ロックマンなの……? さっきは否定していたけど」
「違うな。こいつはマスクド・ライダーシステム」
「マスクド……ライダーシステム……」
エールが確認するように呟いた。
青空にその声が溶けるような錯覚を起こし、天道は少女を見つめる。
これがこの二人の出会いであった。
仮面ライダーカブト、天道総司。
ロックマンZX、エール。
今ここに、二人の運命が交差した。
To be continued……
投下終了します。
三話は一週間以内に投下予定となります。
それでは失礼しました。
投下乙
ついに2人が出会ったか。これからが楽しみ
第三話投下します。
注意
※オリジナルあり(モブ、敵のみ)
※クロス設定あり
三話 SCENES [暗躍]
「くそっ!」
ボサボサの金髪頭の青年が、苛立った様子で薄暗い部屋の壁を叩く。
凄まじい力でパイプが曲がり、吹き出た水が彼を濡らした。
『クックック……ペンテ、いい様だな』
「うるさい、モデルVA! あのとき力を抜きやがって……鉄屑に変えるぞ!」
『ほう……やってみるか?』
とても適合者とは思えないほどの態度で、モデルVAにペンテは喧嘩を売る。
モデルVAもまた、相手が適合者であろうと構わず挑発に乗っていた。
エールのようなライブメタルと心通わせるロックマンでも、セルパンのように力だけを抽出するロックマンでもない。
互いに互いの欲求を満たすために組んだだけであった。
「ケッ、キサマらには待機を命じていたはずだがな」
「命令違反……」
ペンテとモデルVAが振り返ると、苦々しい表情の二人が現れた。
二人の男女のうち、男のほうは骸骨の上半分を尖らせたようなヘルメットに、紫色のアーマー、死神の鎌のようなものを持っている。
女のほうは横に大きく広がる帽子のようなヘルメット、白に青いラインのアーマー、魔女が持つような杖を手にしていた。
二人の名はよく知っている。男はプロメテ、女はパンドラと名乗り、ペンテにモデルVAを渡したのである。
プロメテが苦々しげにペンテとモデルVAを睨み、大鎌を向けた。
「余計な真似をしやがって。お前から潰してやろうか?」
「モデルVA……これ以上勝手な真似は許さない」
「いいぜ、お前が相手でも。今の俺は乾いているんだ」
『プロメテ、パンドラ、俺に命令するな。俺は“あの男”に従う気はない』
ペンテとモデルVAの向こう見ずな態度に、もともと気が短いほうであるプロメテは三白眼を大きく見開いて鎌を構えた。
ペンテとモデルVAは互いに怒りを抱きながら変身準備を整える。
撤退を命じたのはモデルVAだが、不完全燃焼を抱いているのはこの狂ったライブメタルも一緒であった。
ロックマンになりたてのペンテではモデルXたちの“鬼”を引き出せないと見て退いたのだ。
ペンテは自分の思い通りにならないモデルVAという力に。
モデルVAは自分が思う存分力を振るえないペンテという身体に。
それぞれ不満を抱いていた。
「ただのゲームの駒風情が粋がりやがって。こいつはお仕置きが必要だなぁ!」
「知るか。ロックオン……」
『今度はしくじるなよ、ペンテ』
モデルVAの紫色の闇がペンテを包み、即座にロックマンVAVAへと姿を変えさせた。
プロメテが腰を落としたと同時に、ロックマンVAVAもだらりと下げた両腕をいつでも動かせるように腰の辺りを漂わせる。
一瞬即発。
二人の睨みあいにパンドラがプロメテを止めようと肩を掴んだ。
「プロメテ……私たちは忠告に来ただけ。戦うのは……駄目」
「こういう馬鹿は痛めつけないとわからないんだよ。お前はさがっていろ」
ロックマンVAVAもプロメテと同意見であることを示すため、一歩前に出て敵意をぶつける。
二人が地面を踏み込んだとき、間を赤い影が割って入った。
「そこまでにしてください」
いつの間にそこにいたのか、仲裁する影が喋った。
「虫けらか……」
プロメテが吐き捨てるように言うと、右手に大きなカギ爪をもつ、赤い怪物が僅かに動いた。
ダニを擬人化したような生命体が、プロメテたちを馬鹿にしたように低く笑う。
「協力者に対して、その態度はないでしょう? “あの男”の奴隷さん」
「アキャリナワーム……その薄汚い口を今すぐ閉じろ。バラバラにしてやる」
「おお〜、怖い怖い。ペンテにモデルVA、あなた方も我々に免じて矛を収めてください」
「どうでもいい……そいつが戦わないなら、お前が相手でもいいぜ?」
「ふふふ、我々の目的がハイパーゼクターの発掘。プロメテさんたちがモデルVの発掘。あなたはただ戦いたいだけ、と利害が一致しただけの関係だ。
齟齬がでるのは仕方ありませんが、あなた方に力を与えたあの男の指示ですよ?
従ってもらえないのなら、損するのはあなた方だと思うのですがね」
そういってアキャリナワームは姿を人のそれへと変えた。
メガネをかけたサラリーマン風の青年。それが人々の生活圏で人知れず活動を続けるアキャリナワームの仮の姿だった。
『おい、ヴィクトル。マスクド・ライダーシステムを使う奴がいたぞ』
「ほう。この世界に散らばったゼクターはすべて回収し、意思を奪ったはず。どのライダーなのですか?」
「さあな。天道とか名乗っていた。……あいつ、手ごたえがあったのに」
『そう思うなら強くなれ。せめて俺が満足する程度にはな』
またもペンテとモデルVAの空気が悪くなる。
ヴィクトルを仮の名前ともつワームは、天道の存在に笑みを浮かべた。
もっとも、目は少しも笑っていなかったが。
「そうですか……奴もいるのですか」
目が血走り、紳士の顔をかなぐり捨てた。そっちの顔が本性なのだろう、と彼と組む連中すべてが思っている。
「それで、キサマはなにをしにきた」
「ああ、失礼しました。我々の協力者である“あのお方”から試作型フォルスロイドを四体送ったと連絡がありました。
彼らへのの指揮をあなた方に任せた、と伝えるよう申しつけられましてね」
「ケッ」
「それではお伝えしました。……少し用事ができましたので、ここは失礼させてもらいます」
プロメテが吐き捨てるのを見届け、ヴィクトルは踵を返して歩き出す。
残り四人の同胞と、どういうわけか力を貸す男へと天道が現れたことを伝えねば。
この世界の同胞(ワーム)は少ない。慎重に動くようように忠告しよう。
(だが、雪辱の機会でもありますね。天道総司、元の世界の貸しをその身で払ってもらいましょう)
そう思考するヴィクトルの手に、ドレイクグリップが鈍く輝いた。
ペンテはヴィクトルが消えた先を興味なさそうに視線を外し、踵を返した。
背中からのプロメテの声に、鬱陶しげに表情を変えて足を止めない。
「お前、またどこに行くつもりだ?」
「答える必要はない。俺は俺で、好きにやらせてもらう」
「…………一つだけ忠告。私たちの邪魔をするなら……容赦はしない」
『クックック……だとよ。ペンテ』
「そうか……」
モデルVAの楽しそうに笑い声が響く中、ペンテの口元も緩んでいた。
ペンテとモデルVA、互いに思考の違い多少はあれど、
『「そいつぁ楽しみだ」』
同じ言葉に同じ悪意。
二人が悪趣味なのは同じだった。
□
「あいつ、どこにいったの!」
避難所でガーディアンの仲間たちが手当て、案内をしている中エールは思わず叫んでしまった。
ゴルクルたち夫婦を仲間に預けた後、天道のことを報告するために一緒にガーディアンベースへと向かっていたのである。
途中、トランスサーバー―― 物質転送装置。人と小型の荷物なら、受信側のトランスサーバーへと転送できる機械 ――へとミッションレポートを提出していた。
それが一時間前。現在エールの傍に天道はなく、エールは怒りを隠さない。
「逃〜げ〜た〜なぁ〜!」
『けど、少し前まで逃げそうには見えなかったのに……』
『よほど知られたくないことがあったのだろう。そういうこともある』
お人好しでのほほんとしているモデルXへ、モデルZがツッコミを入れた。
見た目はともかく、性格に能力とエールにとっては天道は怪しい奴だ。
ロックマンでもないのに、ロックマンと似た力を使いはぐらかすような尊大な台詞を使う。
特に芝居かかった物言いはセルパンを思い出してどうにも好きになれない。
まあ、キザったらしい仕草で涙を拭われたことに腹を立てているというのもあった。
「プレリーに連れてきて、って言われているのに……」
『正直に言うしかないね』
『まあ、あいつの力も素性も気になるが、他にも考えるべきことがある。……あのライブメタル、いったい誰が作ったんだ?』
モデルZの言葉に、エールはロックマンVAVAと名乗った存在を思い出して身震いした。
フィストレオという戦闘狂のフォルスロイドと似た行動原理を持ち、かつモデルXに対する執着心の凄まじさ、武装の豊富さと敵としては間違いなく最強に近い。
それでも、エールは笑顔でモデルZに返す。
「大丈夫。次は倒す」
エールの力強い言葉に安堵したのか、モデルZは『ああ』と短く答えた。
彼の信頼を示す言葉であることは、付き合いの長いエールにはわかっていた。
『それで、エールはどうする?』
「とりあえず、あの天道ってのを見ていないか尋ねてまわる。ガーディアンのみんなにも見かけたら連絡を取るように…………」
エールがモデルXへの返答を途中で止めて振り返る。
避難していた人たちが一列に並んでいるが、食料の配給だと思い当たった。
エールの思考を中断したのは行列でなく、漂ってくる食事のいい匂いである。
ぐ〜、と思わずお腹が鳴り、赤面して抑えるとモデルXが少し笑っていた。
「わ、笑わないでよ!」
『ごめんごめん、そういえば今日は動き回ったからお腹すくよね。エールもなにかもらってきた方がいいんじゃないかな?』
モデルXが告げるも、エールは「これでも女の子なのに」と内心呟いて匂いの方面へとフラフラ歩いていく。
三大欲求の食欲には、人間が持ちえる抵抗力は虚しい。まあ、抵抗する理由などないのだが。
漂うシチューの匂いにフラフラと向かうと、見覚えがある人影を発見して思わずエールは声をあげた。
「て、天道!?」
エールの視線の先には、ガーディアンの隊員に混じってシチューを作っている天道の姿があった。
天道がシチューを小皿にとって味を見てみる。
一時間ほど前、ガーディアンのメンバーが配膳しているのを見て、味を確かめてみたのだが隠し味が足りないと手伝いを申し出たのだ。
ガーディアンのメンバーは戸惑っていたのだが、天道はお構い無しに調理場へと入っていったのだ。
天道への対処を戸惑っているガーディアンの面子だったが、治療に追われるガーディアンのミュゲが許可をした。
彼女いわく、『猫の手も借りたい状況なんだから、ありがたく手伝ってもらいな。しかし、若いのにいい心がけだね』とのことだ。
丸く太った身体を揺らし、大笑いする中年の女性に対して天道は礼を告げた。
なにげに目上への礼は尽くす男である。
「人にとってもっとも尊い行為は食事だ。ゆえに料理人は手を抜くことを許されない」
などといって、調理を担当しているガーディアンのメンバーの目を白黒させている。
寒空の下、温まるように配慮されたのかメニューはクリームシチューだ。
天道もメニューに文句はない。不満があるとするなら味か。
悪くはないのだが、大雑把でせっかくの具の味を殺している。これはいただけない。
どうせ食べるなら、配給食といえど美味いものがいい。天道はそう思考して手をつけたのだ。
「具を切るならほぼ均等に切ることだ。避難している人たちの中には子供もいる。ちゃんと食べやすい大きさに切らねばならない」
そういって天道がクリームシチューの具となる野菜と鶏肉を捌いていく。
手際のよさに調理担当のメンバーが感嘆の声をあげるが、天道は手を休めない。
先ほども言ったように、子供もいるのだ。この寒空の下、空腹のまま待たせるわけにもいかないだろう。
量も量のため、どうしても時間がかかるが天道は素早く、丁寧に調理を進めていく。
料理をする人間としての意地が天道を突き動かしていた。
「あなた、なにをしているのよ!」
「エールか、ちょうどよかった。お前もお腹がすく頃だろう。食べていけ」
「うわっ、おいしそー」
そういって天道は皿にシチューを入れてスプーンと共に手渡した。
先ほどお腹を鳴らしたエールにはちょうどいい。
「いただきまー……って、そうじゃなくてー!」
「なんだ? たくさん食べないと成長できないぞ」
天道の言葉に、エールは頭を金槌で叩かれたような衝撃を受ける。
自分の胸を見てしばらく沈黙した後、天道をキッと睨みつける。
「うるさいわね! 大きなお世話よ! ま、まだ成長期だもん!」
「なんの話だ? 成長期なのはわかっているから、はやく食べろ」
「くぅ〜、ぬぅぅぅぅ……」
『あの、なぜあなたがここで料理を?』
ヒートアップしたエールをそのままにしては話が進まない、とモデルXが割って入った。
モデルXの問いかけに対して天道はフッと微笑むと、天を指差して自信満々に胸を張った。
「おばあちゃんがいっていた。食事の時間には天使が降りてくる、そういう神聖な時間だ。
つまり、その食事をよりよくするのも俺に与えられた使命ってわけだ」
『そういう……ものなのか?』
「そういうものだ。料理は……戦場だ」
ドカーンと効果音でもつけたそうな台詞をモデルZへ返して、天道は満足気に頷いた。
もっとも、モデルZに理解できるわけがない。
現在の機会生命体(レプリロイド)は食事も可能だし、味も楽しめるがライブメタルにその習性はない。
エールと天道が噛みあっているようで、噛みあっていない会話を続けていると、ガーディアンのメンバーが姿を見せる。
「あ、エールさん。今回もありがとうございます」
「気にしないで。それより、彼を借りていくわよ」
「はい、わかりました。天道さん、後は我々が引き受けます」
「そうか。ならシチューが冷めないよう気をつけろ。それと、なるべく子供たちから先に配るようにしてくれ」
了解です、という一般隊員の声を背に天道がエールに近寄る。
ガーディアンのメンバーでもないのに、ずいぶんと偉そうだ。
エールが天道に突っかかる理由の一つである。
そう考えているエールの腹が空腹を訴えた。匂いに釣られてシチューをスプーンですくい、一口味わってみる。
「…………美味しい」
思わずエールの頬が緩み、たちまちシチューを完食していった。
その様子を天道が微笑ましげに見守っていたのに気づかずに。
□
非政府公認組織・ガーディアン。
それはヒト ―― 人間とレプリロイドの総称 ―― をイレギュラーから守り、イレギュラーの発生原因を調査する組織である。
十一年前にエールを庇護したジルウェもまた、ガーディアンの一員であった。
空に浮かぶ赤い船・ガーディアンベースを拠点にして活動を続ける彼らは、一年前の激闘から再び争いに身をおこうとしていた。
「プレリー様、エールさん、そして報告にあった天道総司という方の転送を確認しました」
「そう。司令室に彼を案内するようにエールに伝えて」
「了解しました」
プレリーと呼ばれた少女はオペレーターに指示を出して、エールの提出したミッションレポートに目を通す。
ガーディアンの二代目司令官である彼女は、何度も見返したミッションレポートに難しい表情を向けていた。
トランジスターグラマーの肢体を、司令官専用の制服で包み、金のブロンドをなびかせ思案する彼女は可憐であった。
同じく女性であるオペレーターの少女が思わず嫉妬するほどである。
「エールには短い平和になっちゃったわね……」
「仕方ありませんよ。モデルVの反応が複数、この地で見つかったのですから」
「そうね、フルーブ」
プレリーは小柄の老人へと礼を告げる。
ガーディアンにおける頭脳担当にして副司令官である彼の意見を仰ぐために司令室に来てもらっていたのだ。
「……お姉ちゃんもまだ見つからないのに」
「プレリーさん、大丈夫ですよ、あの人なら」
お姉ちゃんとは、先代司令官にしてプレリーが慕う女性である。
ガーディアンを発足したのは彼女であり、ライブメタルを作り上げたあとは足取りがつかめない。
「そうね、私も信じている。お姉ちゃんは生きているって」
「ええ、ええ。そうです」
プレリーはフルーブに微笑み、再びミッションレポートを取り出した。
エールに送られてから、何度も何度も見直している、気になっていた部分をフルーブへと相談をする。
「それにしても……新たなロックマンにマスクド・ライダーシステム……」
「どちらも謎が多い存在ですねぇ」
「けど、このマスクド・ライダーシステムの持ち主の方はこちらに向かっているみたい」
「話してみるしかない、ということでしょうか?」
「協力してくれるといいんだけど……」
プレリーが不安で顔を曇らせる。プレリーは十代の外見に反して百を超える年月を生きてきた。
レプリロイドに寿命を設定する法律に、仕事柄免除されているのだ。
その彼女が見たことのないシステムに不安を募らせるのはしょうがない。
不安を隠せないまま、司令室のドアが開いた。
「プレリー、ただいま」
「お帰り、エール」
明るい雰囲気で挨拶をするエールに返して、プレリーは席から立ち上がる。
エールとの積もる話は後にして、後ろに待機する青年へと自己紹介を始めた。
「始めまして。私がガーディアンの司令官、プレリーです」
「ほう。俺は天の道を往き、総てを…………」
「司る男だー、でしょ? そっちも含めて報告しているわ」
「エール、人の自己紹介を中断させるのは行儀がよくないぞ」
「一日に何度言っているのよ、その台詞! 隣で何度も聞かされる身にもなってよね」
ハハ、とプレリーが乾いた笑いを浮かべた。
ガーディアンベースについて声をかけられるたびに、天道は独特の名乗りをしていたらしい。
エールのうんざりとした顔がその事実を物語っている。
それにしても、ガーディアンの司令官だと知っても疑いも敬いもしない。
プレリーが司令官だと知って軽んじるものもいたが、天道からはそういう雰囲気が感じられなかった。
常に自然体。エールもプレリーに対して対等の口をきいているが、それは彼女と親友だからだ。
もっとも天道は天道でエールには気安い態度であることを考えると、エールの人懐っこさは一種の才能だとプレリーは思った。
「まあ、そういうことだ。よろしく頼む」
「はい、こちらこそ。それで、あなたにお尋ねしたいことがあるのですが」
「そうだな。俺も知りたいことがある。俺が把握している範囲なら、答えてやらないこともない。だが、一つ条件がある」
天道の最後の言葉に、プレリーに緊張が走る。
エールは彼がそう切り出すのが意外だったのか、腑に落ちない表情をしていた。
いったい彼の望みはなんなのか? 天道自身の人間性も垣間見えるため、一言一句聞き逃さないよう気合を知れた。
「俺にここの食堂を仕切らせて欲しい。そうすれば、エールだけでなくお前たちにも協力をする」
「あなたは結局それ!?」
エールのツッコミと同時に、プレリーから力が抜ける。
天道の表情があくまで真剣だったのが、余計にたちが悪いと思った。
フルーブが代表して、この場にいる全員の疑問をぶつける。
「ガーディアンベースの食事は全自動機械で作っていますので、問題ないと思いますが……なんでまた?」
『食事をよりよくするのが、こいつの使命らしい』
「全自動に機械か。そういうものを否定するつもりはないが、俺ならもっと美味しいものを用意できる」
「は、はぁ……」
モデルZの説明を天道はさらに引っ掻き回し、フルーブを戸惑わせる。
プレリーはこのままでははぐらかされそうな気がして、強引に話題を変えることにした。
「それで、本題に入らせてもらいます。あなたの力……マスクド・ライダーシステムとはなにか教えてください」
プレリーの視線が鋭くなり、周囲の空気が引き締まる。
エールも沈黙を守り、天道がどう答えるのか待っていた。
皆が注目する中、天道が薄く微笑む。
「天の道を歩むために与えられた力だ」
「いや、もういいから。それは」
エールがツッコムのだが、プレリーはめげずに別の質問を告げた。
もとより、最初から素直に教えてもらえるとは思っていない。
「それなら、なぜあなたがその力を得たのですか?」
「決まっている。俺が選ばれし者からだ」
やはりはぐらかされたか、とプレリーは帽子のツバを思わずつまむ。天道が真面目にそう答えているとは露知らず。
真面目すぎるプレリーの性格の質問から、これまたベクトルの違った真面目さを天道に返されているのだ。噛みあうはずがない。
「だ〜か〜ら〜!」
「エール、なにを怒っているんだ?」
「はぐらかしているからでしょう! もっと真面目に答えてよ!」
「俺は真面目だ。特に料理の話はな」
「そっち!?」
エールのツッコミを耳にしながら、天道は小揺るぎもせずにプレリーへと正面から視線をぶつける。
意志の強い瞳でありながら、奥に闇を隠しているような雰囲気にプレリーは眉をひそめた。
一筋縄ではいかない相手だ。だが、天道はそのプレリーにも自然体で対応する。
「話はそれだけか?」
「もっと知りたいことがあるのですが、今のところは話す気はないでしょうね。
しばらく私たちの隊員が監視について窮屈な思いをするかもしれませんが、素性の知れない人を無条件で迎え入れるわけにはいかないのです。申し訳ありません」
「なに、構わない。それに、今は意味を理解できなくても、いずれ理解するときが来る。
天の道がなんなのか、俺がなぜ選ばれたのか、そのすべてをな」
「いずれわかる……?」
「もったいぶらないでちゃんと説明しなさいよ……」
「百聞は一見にしかず、だ。口で説明しても理解できるとは限らない」
天道はそう答えて踵を返した。怒らせただろうか? とプレリーが思っていると、天道は肩越しに振り向く。
表情は穏やかのまま、プレリーに優しい口調で告げた。
「安心しろ。俺は敵になるつもりはない。エール、食堂に案内してくれ」
「なんでアタシが……」
エールが愚痴るが、天道にとってそれは決定事項のようである。テコでも動かないぞ、と雰囲気が滲み出ていた。
エールはため息をついて、プレリーに「またね」とだけ言い残して出口へと向かった。
プレリーも了承し、天道の案内を頼もうとしたときに敵の接近を告げるアラームが鳴る。
「どうやら、食堂に行く前にやることがあるようだな」
けたたましい警報の中、いつの間にかカブトゼクターを掴んだ天道が言った。
オペレーターがレーダを見て叫ぶ。
「謎の戦闘機が高速で接近してきます!」
「ここまで近づくまで察知できなかったなんて……迎撃して!」
「駄目です、間に合いません!! 突撃してくる!?」
オペレーターの悲鳴と共に、船体が大きく揺れた。
皆バランスを失い、倒れるかなにかに掴むかの状態なのに、天道はただ揺らがず立っていた。
モニターで戦闘機が突き刺さった箇所を映しだす。すると、戦闘機から人影がガーディアンベースへと乗り込んできた。
プレリーは大きく手を振り、指示を飛ばした。
「船内にいる隊員に命令を伝達! 戦闘要員は迎撃、非戦闘要員は部屋から出ないように伝えて。
エール、またこういうことに巻き込んじゃうけど……」
「大丈夫よ。プレリー、アタシがなんとかする!」
親友が笑顔で快諾し、ライブメタルを取り出して一人の青年へと振り向いた。
すでに出口で待機している天道に対し、エールは挑戦するかのような視線を射る。
「天道、あなたはどうするの?」
「言ったはずだ。俺は味方だとな」
天道の答えに、プレリーを含む司令室の人間は目を丸くした。
素性の知れない怪しい青年。質問に対しては碌な答えが返ってこない。
彼にいい感情を抱いている隊員は少ないだろう。
ゆえにその言葉は意外だったのだ。ただ一人、エールを除いて。
「上等!」
エールが告げて、ライブメタルが輝く。
天道もまた、カブトゼクターを持ち上げてドアの向こうを睨みつけた。
「ロックオン!」
「変身」
ロックマンと仮面ライダーが同時に姿を見せ、迫り来る脅威に立ち向かうため肩を並べる。
そして、まるでこの世界でも宿敵と相対することを知っているかのように、天の道を往く男は迷わず先を進んだ。
To be continued……
投下を終了します。
四話も近いうちに投下したいと思います。
それでは失礼しました。
投下乙
敵組織はワーム×DANなのかな
天道が相変わらずだw
他のカブトキャラも出てきそうだ
第四話投下します。
注意
※オリジナルあり(モブ、敵のみ)
※クロス設定あり
※仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVEの没設定を利用しています(樹花の存在など)
四話 ENEMY [敵]
普段は場所を特定されることが少ない、動く拠点の赤い飛行船の通路で火薬の匂いが充満する。
貨物室より次々現れるイレギュラーに、ガーディアンの大柄な隊員・トンは銃を撃ち続け舌打ちをした。
彼の後ろで、仲間の隊員が弱音を吐く。
「くそ! 援軍はまだか!?」
「逃げ出した人の通路を確保するので精一杯だ!」
「こんなところを襲われたらひとたまりもないぞ、トン」
茶髪のクールな雰囲気の青年がトンに進言するが、唸るしかない。
イレギュラーであるガレオンの新型に、隊員や非戦闘員が倒れていっているのだ。
接近戦用の刃に、高機動用の羽とまるでロックマンZXを相手にしている気分である。
もっとも、性能はかなり劣化しているのだが、一般隊員にとって脅威なのは変わりない。
ずいぶんと戦線を下げてしまった。死者はまだでていないが、艦内にイレギュラーが散ってしまったのは痛い。
「なるほど、ガーディアン相手にここまで優勢とは。“あの男”の技術も馬鹿にしたものではないということですか」
突如現れた男に、トンと仲間たちは銃口を向ける。
男はまったく動じず、悠々と歩み寄って周囲を見和した。
「兄ちゃん、お前さんはイレギュラーじゃないのか!?」
「それとも、そいつらの親玉ってわけか?」
トンとアレンが警戒をして尋ねる。それに対し、メガネをかけたサラリーマン風の青年は哀れみに満ちた視線を向けた。
クックック、と低く笑った男が、銃のグリップらしきものを取り出す。
「なにがおかしい!?」
「そんなものでワシらに勝てると思っているのか? おとなしく投降をしろ!」
「投降ですか。どこまでも愚かなものですね。私の名前はヴィクトル。ご存知、このイレギュラー部隊の指揮をしています。そして…………」
ヴィクトルと名乗った男は、左手に持ったトンボ型デバイスをグリップへと装着する。
男が嫌な笑みを浮かべたまま、トンボ型デバイスから『Hen-shin』という電子音が発せられた。
「仮面ライダードレイク。あなた方が束になっても敵わない存在です。下等な生物らしく這いつくばりなさい!」
変身と同時に装甲が散らばってトンの胸に激突する。
息苦しく喘ぐ中、トンボを模した装甲をつけるヴィクトルの姿があった。
アレンが発砲するが、銃弾は虚しく装甲を弾いているだけ。
アレはロックマンと同じだ。手を出してはいけない存在である。
トンが必死にアレンを守ろうと手を伸ばすが、届かない。
アレンはクールに見えて、情の厚い男である。トンの仇を取ろうと必死で銃を撃っている。
このままでは殺されてしまう。トンがそう思考すると、巨大な光弾がドレイクへと迫った。
「エール!」
アレンの声に、トンは安堵する。あの勇敢な少女が間に合ったのだ。
トンは地面に倒れたと同時に、意識を手放した。
「トンさん!?」
「大丈夫だ、エール! 息はある!」
アレンの言葉にロックマンZXとなったエールは安堵して、キッとドレイクを睨みつける。
天道の変身した姿、カブトと似た装甲を持つそいつは明らかな敵だ。
エールに反応してガレオン・アサルトが刃を構えた瞬間、ガレオンの首が宙を舞う。
『Clock over』
高らかに鳴り響く電子音と共に、赤いカブト虫の装甲をまとう仮面ライダーカブトが姿を見せる。
アレンがドレイクと似た姿に警戒して銃を構えるが、エールが制した。
「大丈夫、アレは味方よ」
「でも、あいつ……」
アレンが戸惑うが、ドレイクは構わず両腕を横に広げた。
行為だけ見るなら抱きしめようとしている風にも見えるが、雰囲気が刺々しい。
「…………天道総司! お久しぶりですね」
「キサマなど知らない。俺の知っているドレイクは、風のように自由だった」
「まあ、そうでしょうね。ですが、これならどうですか?」
そういってドレイクは変身を解除、ヴィクトルの姿が怪物へと変化する。
赤いダニを模した宇宙生物。右手のカギ爪をカブトに向けながら、狂ったような咆哮をあげた。
「ば、化け物……」
「天道、あれ……」
初めて遭遇するワームに、エールたちは真実を知るだろう男の背中に視線を動かす。
カブトは静かに、一歩前に踏み出した。どことなく、エールはその背中に怒りを感じた。
「俺の敵だ。だが、どういうことだ? ゼクターは今のお前たちに扱える代物じゃない」
そしてカブトは言外に、資格者をすべて失っていることを示す。
資格者を擬態したのならともかく、その線は薄い。
なぜゼクターの力を引き出したのか。その答えは意外な方向から知った。
『エール、天道さん。あれはカブトゼクターと違って意思を感じない。なんらかの手で意思を封じられていると思う』
『モデルHたちがフォルスロイドに組み込まれたときと同じだな』
「酷い……」
モデルXとモデルZの説明に、エールは敵を睨みつけた。
事情はどうあれ、カブトと同種の力を持つ。カブトが見せた高速移動は厄介だ。
ZXセイバーの柄を握る手に力が入る。そのエールの手を、カブトが抑えた。
「あいつの相手は俺がする。エールは皆の安全を頼む」
「天道!? アタシだって戦え……」
「そういう問題じゃない。あいつのクロックアップに対抗できるのは、同じくクロックアップができるカブトだけだ。
だからこそ、イレギュラーとやらの相手は任せたい。できるな?」
カブトはそう静かに助言して前進し、アキャリナワームと対峙する。
アキャリナワームがドレイク・マスクドフォームになるのと、カブトがカブトクナイガンで斬り込むのは同時だった。
金属と金属のぶつかり合う音が響き、ヤゴをモチーフとした仮面ライダードレイク・マスクドフォームが揺れる。
青いアーマーを纏った身体が泳いだ隙を逃さず、カブトがクナイガンをガンモードにして弾を叩き込んだ。
「チィッ! キャストオフ!!」
ドレイクが告げて、青いパーツが破裂する。ドレイクはカブトの接近を阻むために、銃となったドレイクゼクターの引き金を引いていた。
すると、不思議なことにカブトがドレイクへの攻撃を中断、破裂したドレイクのアーマーと銃弾をカブトクナイガンで弾いていた。
ドレイクゼクターの発する『Change Dragonfly』と共にライダーフォームへと変わったドレイクは、カブトの行動に疑問を持ったがすぐ解消した。
「ガーディアンの隊員を守ろうとするとは殊勝な心がけですね。とても世界を一つ滅ぼしたとは思えない」
「世界を……滅ぼした?」
エールがドレイクの言葉に、カブトの顔を覗き込む。
カブトは動じず、静かにドレイクの世界を拒否した。
なぜなら、天の道を往く者にとって、それだけは認めるわけにはいかないからである。
「キサマたちワームの好きにされる未来など与えはしない。何度でも相手をしてやる」
「ハッ! ならこいつはどうです? クロックアップ……」
ドレイクが宣言と共に、ベルトのスイッチをスライドして青い風となった。
カブトはその狙いを察してクロックアップへとついてくる。ドレイクの狙い通りだろうが、他に手をとりようもないし、とる気もない。
周囲は人も瓦礫もイレギュラーも、ビデオのスロー再生をかけたかのように動きが遅くなる。
高速移動(クロックアップ)とは、タキオン粒子によって周囲の時間の流れを何倍も遅くする技術なのだ。
ドレイクは通路を駆けて、見つけたガーディアンの隊員の頭部へと蹴りを繰り出した。
素早くカブトが間に入り、蹴りを食い止める。ドレイクが思惑通り、と小さく呟いたのをカブトは聞き逃さなかった。
『Clock over』
二人のゼクターが宣言すると同時に、ドレイクは手ごたえを感じたのだろう。カブトと距離をとった。ぞんがい、冷静な奴である。
一方、ガーディアンの女性隊員―― 確か名前はウイエといった ――はいきなり現れた二人に戸惑っていた。
「な、なに!?」
「天道総司、これでわかったでしょう。あなたがどれほど不利なのか」
ニタァ、とドレイクが仮面の下で笑った気がした。
ウイエの戸惑いに気持ちをよくしたのだろうか。ドレイクは、芝居かかった動作でドレイクゼクターを誇示している。
「フフフ……私は天道総司でなく、それ以外の方を狙いましょう。彼らはクロックアップから逃れられない。
クロックアップを持つ私にとって、この艦内すべてのヒトが人質だ。天道総司、あなた一人で……どこまで守りきれるかなぁ!」
ドレイクがけたたましく笑い、カブトを嘲笑った。本来のドレイクゼクターの持ち主が見れば、下品だと罵っただろう。
ウイエも嫌悪をこめて吐き捨てる。
「最低……」
「お褒めに預かり光栄です。さあ、天道総司。私たちの世界を奪ったツケ、今払ってもらいます!」
ドレイクが宣言するが、カブトは微動だにしない。
ウイエを助け起こし、背中に庇うようにカブトが一歩前に出た。
「安心しろ。誰一人……奴の手にかからせはしない」
カブトが背中の女性だけでなく、この戦いを見届けている司令室のプレリーにも語りかけていた。
そしてここにいるワームだけではなく、どこかに存在するワームの連中にも宣言するように、カブトは声に力を込める。
「世界はこの俺、天道総司が守り抜く。もう二度と奴らに奪わせはしない」
カブトは宣言と共に、地面を踏み抜いてドレイクに右ストレートを放った。
ドレイクは右手で受け止めたが、遅い。カブトはドレイクの反撃を手のひらで捌き、ドレイクの胸を蹴りで強打する。
壁に叩きつけられたドレイクを前に、カブトは悠然と仁王立ちをする。
まるで、キサマなど相手にならない、と宣言するように。
「ぐふっ。さすが……一筋縄ではいきませんね……。しかし、世界を守るとは大きく出たものだ」
「大きく? 違うな。世界程度、背負えず天の道は往けない」
カブトのあくまで余裕の態度に、ドレイクの怒気が膨れ上がった。
ゆらり、と幽鬼の如く立ち上がったドレイクに、先ほどまでの余裕などない。
「ならば教えて差し上げましょう。あなたでは世界どころか……ガーディアンの隊員すら守れないとね! クロックアップ!」
「クロック……アップ」
カブトとドレイクが、再び風となりて姿を消す。
残されたウイエは、ゴクリと生唾を飲み込んでいつまでも二人が消えた場所を見つめていた。
□
プレリーは司令室で、戦闘現場をモニタリングしていた。
イレギュラーは数が少ないこともあって、全滅するのも時間の問題だ。
やはり、一番の障害は怪物の正体を持つ、ドレイク。
「世界程度、背負える……か」
プレリーは先ほどの天道の言葉を呟いた。
常に自信に溢れて、言動に出しているのはただ一つ。
彼が有言実行を貫いているからだと、プレリーは気がついた。
天道はガーディアンの隊員たちを狙うドレイクから、守り続けている。
あまりの速度に、ドレイクや天道が次はどの地点に現れるのか大まかにしか予測ができない。
ただ一ついえることは、人影を見つけたドレイクの攻撃を、天道が今のところ完璧に受け続けているということだけ。
このままガーディアンの隊員を危険に晒しておくわけにはいかない。なにか変化が必要だ。
「エール、聞こえる?」
プレリーは焦りを見せず、自分が行える手をとることにした。
彼女には危険な役割を押し付けてしまうことが、プレリーには心苦しかった。
世界を守るのは天道だけではない。プレリーやエールもまた、この世界を守るために戦い続けた戦士であった。
「当れ!!」
エールのチャージショットがガレオンを砕く。ロックマンZXのチャージショットは、モデルX単体と比べて威力は低い。
それでもZXセイバーと組み合わせることによって、幅広い対応ができるのだ。
これで、イレギュラーは掃討した。ガーディアンの非戦闘員の避難も済む頃だろう。
「さて、天道を援護に……」
『エール、その前に通信が入っている』
モデルXの言葉に、エールはなにか問題が起きたのだろうか、と通信機を取り出した。
聞こえてくるプレリーの言葉は冷静であった。さすがは幾多の戦いを乗り越えたガーディアンの司令官だ。
『エール、聞こえている?』
「うん、大丈夫。プレリー、どうしたの?」
『敵が卑劣な手を使ってきたの。彼を援護するために今伝える敵の能力を把握して』
「そう。プレリー、アタシはどこに向かえばいい?」
プレリーの指示をエールは快諾して通路を進む。
やることは決まった。エールに迷いはない。
『ごめんなさい、いつもあなたに危険な真似をさせて……』
「プレリー、アタシが決めたんだよ。みんなを守るために、戦うって!」
エールの足が速まった。敵のとった手は許せるわけがない。
プレリーの指示を頭に、エールはチャージを開始した。
□
ドレイクへと変身したアキャリナワームは、目の前の仇敵を相手にして異常に興奮していた。
彼らの世界は地球に落ちた隕石により、海が干上がって文明レベルが一気に落ちた。
人口は激減し、生物の多くが死滅した中で人類に滅びの道を示したのだ。
それだけではなく、隕石の中には異星生物のワームのタマゴが存在していた。
人類は隕石により、海を奪われ人類の天敵を与えられてしまったのだ。
ワームの能力は主に二つある。知的生命体のコピー能力、擬態。
そしてサナギと呼ばれる形態から成長した成虫状態から付与される能力だが、周囲の時間の流れを遅くする時間操作能力(クロックアップ)。
それに対抗する手段を人類が持ち出したが、ワームが地球を支配するのは時間の問題だった。
「がぁぁぁ!」
ドレイクの銃弾が、ガーディアンの制服に身を包む青年に迫る。
普通なら間に合いはしない。ガーディアンの青年は虚しく地に沈むはずであった。
なのに、ドレイクの銃弾はカブトクナイガンの刃に阻まれる。
「その程度か? ワーム」
「くっ!」
そう、ワームが地球を手に入れるのは時間の問題だった。その瞬間は永遠に訪れることはない。
ワームが支配すべき未来を、目の前の男がひっくり返したのだ。
戦いはガーディアンのメンバーから見れば、異常といってもいい状況であった。
姿が消えては、数ブロック離れた区画に姿を現す仮面ライダー二人に隊員が反応しようがない。
加えてドレイクは射撃タイプの戦士であった。
ゆえにドレイクが他人を狙い、カブトが守るという戦い方ではジリ貧だと予測したのだ。
そう予測したのに、カブトはドレイクに狙われた隊員を全員守りきっていた。
しかもギリギリといった余裕のない状況ではない。
常に先回りしたかのような、余裕諾々とした動きでカブトは守り続けている。
回数を増すたびに、ドレイクが焦っているのがモニター越しでもわかった。
プレリーたちが生唾を飲んで見守る中、カブトがスッと右人差し指を天に向けた。
「どうした? もうお終いか?」
カブトがそうドレイクに確認するが、ドレイクは歯軋りするだけだ。
カブトは悠然と佇み、高みからドレイクを見下ろした。
ワームにとってはたまらないだろう、とカブトはあたりをつける。
彼らにとっては人間など、見下すべき下等生物に過ぎないのだ。
だからこそ、カブトはただ高みにおのれを置く。何一つ、ワームの好きなようにはさせない。
「くっ!」
ドレイクが言葉に詰まらせ、カブトへの攻撃を中断している。
奴の行く先は決まったも同然だ。カブトがクナイガンを構え、ドレイクに仕掛けようとした瞬間、通路にエールが現れた。
「天道!」
「ふふっ! 運命は私に味方した!」
ドレイクがそう宣言して、クロックアップを仕掛けた。同時に、エールがカブトの瞳を見つめる。
「天道、お願い!」
エールはそう告げて、即座に壁に張り付く。
輝くZXセイバーを手に持ち、構えから狙いを察したカブトが宣言する。
「クロックアップ」
電子音と共に赤い風となりて、カブトの周囲の時間の流れが遅くなる。
ドレイクが踏み台にし、瓦礫が飛び散る壁も地面も、静止したかと勘違いするほどゆったりとした動きになる。
「ははっ! あなたが私の攻撃を防ぐより、私があの小娘を殺すほうが……」
ドレイクの勝ち誇った声を耳に、カブトはゼクターのボタンを冷静に押す。
『One・Two・Three』
静かに、死刑執行を告げるかのようなゼクターの電子音が高速空間で響いた。
「なぜ守る必要がある?」
「はっ?」
ゼクターの角、ゼクターホーンを引き倒し、電撃に似たエネルギーが頭部から足へと纏わりつく。
ドレイクゼクターの弾丸をエールへと吐き出すドレイクの背後に立って、カブトは今までと違ってエールを守るそぶりすら見せず呟いた。
「ライダー……キック」
『Rider Kick』
ゼクターの電子音と共に、エネルギーを纏った回し蹴りがドレイクの頭部を捉えた。
首をもぎかねない衝撃を、ドレイクの頭部に集中させて宙を回転させる。
ドレイクが壁に叩き蹴られ、瓦礫が牛歩の速度で飛び散る中、世界が正常に戻った。
『Clock over』
瓦礫が急速に落下し、変身の解けたワームをカブトは見下ろす。
「エールがキサマの攻撃を防ぐなどわけがない。もう一度聞くぞ。なぜ守る必要がある?」
カブトの言葉通り、エールは無傷。カブトは戦士としての信頼も、彼女へ向けていた。
「天道!」
エールが落ちたドレイクグリップを回収し、カブトの傍へ寄る。
彼女の無傷の姿に、ワームの男が顔を歪ませた。
「あんた、狙いがわかりやすいのよ。いくら速くても、壁に背を張りつけてタイミングと狙う方向が限定されれば対処はできるってね」
『あの銃弾程度なら、チャージセイバーで焼き消せる。クロックアップとやらを過信したな』
エールの説明に、モデルZがトドメを刺した。なんてことはない。
元の世界でも、ワームという頑強な肉体とクロックアップに胡坐をかいた連中がほとんどだ。
カブトはワームたちの油断を何度も見届け、隙を突いて幾多も倒してきた。
「エールは戦士だ。クロックアップがなくてもキサマ程度、相手にならない」
「くぅぅ……天道ぉぉぉ!」
ワームの男が歯軋りをし、怨嗟の声をあげて憎悪をカブトに叩きつける。
カブトはあくまで涼しげに憎悪を受け流し、クナイガンの刃を閃かせた。
ワームの男は距離をとり、姿を変えた。
「まだだ……まだ私は負けるわけにはいかない」
ダニを模したアキャリナワームへと姿を変え、クロックアップで離れていく。
カブトが追おうとクロックアップのスイッチに手を向けた瞬間、その腕を引かれた。
「天道、アタシも連れて行って」
静かな怒りを込めたエールに、カブトは沈黙を返した。
カブトはエールに告げていた。ワームのクロックアップに正攻法で対処できるのは、同じくクロックアップのできる自分だけだと。
それを踏まえているのか、カブトは静かに見定める。エールはそのカブトの視線を真正面から受け止めていた。
それから何秒経っただろうか? カブトは大きく息を吐いて、エールの腕を引き寄せる。
「……って、あんたなにを!?」
「これが一番効率よく運べる。エール、喋ると舌を噛むぞ」
そういってカブトは、背と足を抱き上げた、いわゆる『お姫様抱っこ』のまま腰のスイッチを起動させた。
『Clock up』とカブトゼクターの電子音が響くと同時に、エールとカブトが姿を消す。
一陣の風が、決着場へと吹いた。
□
「ハア、ハア、ハア……」
アキャリナワームは船の甲板へと訪れ、大きく呼吸をした。
周りから見れば意味不明の言語を呟いているようにしか見えないが、アキャリナワームにとっては真剣である。
ワームである彼は、人間である天道総司に負ける要素がないはずであった。
マスクド・ライダーシステムを使い、互角以上の戦いが可能だったはず。
なのに、戦闘は終始カブトに圧倒されて終わった。
ありえない。ワームとして、人間より優れた生物としての誇りが傷つけられて顔が歪む。
「クックックック……」
アキャリナワームが静かに笑う。その声色には、破滅の匂いに満ちていた。
「ここか」
たどり着いた赤いカブト虫の戦士、仮面ライダーカブトへとゆっくり振り向く。
ロックマンとなった少女を抱き、現れた男へと怒りが募った。
クロックアップの使えない少女がいる程度、自分相手ではハンデにすらないないということだ。忌々しい。
「て、天道。早く降ろしてよ!」
「……ワーム。キサマはどの程度ここにいるのか、他に仲間がいるのか吐いてもらうぞ」
少女の懇願はカブトに無視される。もっとも、すぐにカブトはエールを降ろして、アキャリナワームを追い詰めるように一歩迫った。
アキャリナワームは、超然としたカブトへと歪んだ視線を送る。
こいつさえいなければ、元の世界は自分たちのものだったのに、と。
「このままではねぇ、帰れないんですよ……」
カブトは構わず、近寄ってくる。アキャリナワームの顔が歪んだ。思惑通りだ。
アキャリナワームを追って、ここまできたことこそが間違いなのだ。
「ですから……私の命と引き換えにあなた方を殺して差し上げましょう……」
「あなたに取れる手段はないわ。大人しく倒れなさい」
エールが勇ましく最後通牒を渡すが、アキャリナワームの心は余計捻じ曲がるのみ。
人間風情が口を出すな。人間風情が自分たちに命令するな。
歪んだ誇りは、歪な感情となって表に現れる。
「ここに突き刺さっている、戦闘輸送機の爆発を持ってしてねぇ!!」
アキャリナワームの宣言と共に、爆破スイッチを押す。
カブトが駆けるが遅い。左手が千切れるが、アキャリナワームは勝ち誇った視線をカブトに向けた。
「クハハハハッ! もう無駄だ。時限式ですが、残り一分で爆破します。
ここは空の上だ。解体も避難も間に合わない! そしてぇ!」
カブトゼクターの『Clock up』という電子音にあわせて、アキャリナワームも自身を加速させた。
道を戻ろうとするカブトに右手のカギ爪を振るう。カブトは捌いて、カウンターで頬に拳を叩き込んだがアキャリナワームは止まらない。
身体ごとカブトにぶつかり、通せんぼするようにしがみつく。カブトは揉みあいながら、苦労してクナイガンを取り出して銃口を腹へと密着させた。
カブトクナイガンの銃弾を直撃しながらも、アキャリナワームはカブトを出口から引き離す。
加速の時が終りを告げて、ワームもタキオン粒子を操る時間に限界が来る。
時の流れが正常になったとき、アキャリナワームはカブトを睨んで愉悦に浸った。
「クロックアップを使って爆弾を処理させはしない。私の勝ちだぁ! 天道総司ぃぃぃぃ!」
アキャリナワームが狂ったように笑い声をあげる。
彼の仲間はアキャリナワームの失態を許すはずがない。
ここで死ぬのも、仲間に殺されるのももはや変えられない運命だ。
ならば、せめて天道総司とヒトビトは始末しなければ気がすまない。
アキャリナワームは最後の最後で意地汚く足掻いた。
「くっ!」
『待って! エール!!』
モデルXが忠告するが、エールは構わず地面を駆けた。
格納庫に戻って爆弾だけを切り飛ばすには時間がない。
ならば、クロックアップを使われる前にあのワームとか名乗る生物を両断して、爆弾の処理をクロックアップの使えるカブトに任せるしかない。
赤い装甲が日の光を照らし、モデルZのもたらす金髪を風が波立たせる。
エールは右手に持つ白い刃の柄を、金色に輝かせて莫大なエネルギーを衝撃波として放つ。
「はあぁぁぁっ!」
チャージセイバーと呼ばれる必殺の斬撃を、身体をコマのように回転させてアキャリナワームへと振るった。
だが、そのエネルギーは『Clock up』というカブトゼクターの音声と共に空を切った。
「くっ!」
アキャリナワームの姿が消えて、エールは周囲を見回す。
刹那、周囲に衝撃が起きて、余波がエールの体表を撫でた。
エールにはわかっている。クロックアップを使ったアキャリナワームを、同じ世界に飛び込んだカブトが迎撃してエールを守っているのだ。
エールが悔しげに唇を噛むと同時に、アキャリナワームとカブトが加速世界から戻ってくる。
「さあ、どうしました? あと五十秒を切りましたよ!」
「ならばキサマを五秒で倒し、残り四十五秒で爆発を止めるまでだ」
「ハハハハハ! 天道総司、無理なことは宣言しないほうがいい!」
「不可能などない。俺は天の道を往き、すべてを司る男だ。エール、安心しろ。俺がすべての片をつける」
再びクロックアップの宣言が甲板で木霊し、二人の姿が消える。
クロックアップの世界でなければ、ワームには対抗できない。
カブトとして今戦う、天道の言葉がエールの脳裏に蘇る。
「なにか……手は……」
エールが思わず呟く。それもそうだ。
エールは守るためにロックマンを続けていた。守るために力を得た。
それが無駄だと、別の領域へと行く二人の生物が告げる。
お前は無力だ。お前の力では介入できない。
そう現実が示しているようで、エールを追い詰める。
「ふざけないで!!」
エールが叫び、カブトとアキャリナワームが消えた先を見つめる。
モデルXがエールを落ち着かせるために懐から出てきた。
『エール、落ち着いて。悔しいけどここは……』
「駄目だよ、モデルX! このままじゃ、あのときの二の舞になっちゃう!」
エールの脳裏に浮かぶのは、イレギュラーに襲われて死にいく母親と、無力な被害者。
そして、炎の中で消えいく金髪の青年、ジルウェ。
母親が死ぬのを目の前で見届けることしかできなかった。
自分の兄のような青年がただ死にいくのを、止めることができなかった。
それは力不足が原因だ。あのとき、そしてセルパンと戦うためにエールは望んだはずだ。
二度とあの光景は再現させないと。
守るためのロックマンだと決意したのも、目に映るすべてを守るため。
その役目を、頼りになるとはいえ天道一人に押し付けるわけにはいかないのだ。
このまま、天道一人にすべてを委ねれば、自分は彼の傍に戦士として立てない。
彼が自分を戦士だと認めてくれても、エールがエール自身を認められない。
「アタシは……この戦いを黙ってみているわけにはいかない!」
天道の言うとおり、クロックアップが使えないのではあいつを捉えることすらできないのかもしれない。
それでも戦う意思だけは手放すわけにはいかなかった。
「だからモデルX、モデルZ! 次にあいつの動きが止まったら、アタシに……」
エールの言葉を続けるが、それは途中で途切れてしまう。
モデルZがエールの元を離れて、ロックマンZXの姿が解けてしまったからだ。
モデルXのみを使用した青のロックマンの姿のまま、エールは驚愕の視線をモデルZに向けた。
『手がないわけじゃない』
モデルZはエールを見つめながら、ただ静かにそう告げた。
「本当!?」
エールが疑問をぶつけるが、それも当然だ。
あのクロックアップの世界に割り込むには、それこそ時間操作の能力を手に入れるしかない。
『少なくとも、エールがとろうとしている手段よりはずっといい』
ぐ、とエールが言葉に詰まる。エールの考えた作戦はモデルZに見抜かれたらしい。
エールが提案しようとしていたことは、モデルXとモデルZに広範囲を見てもらい、動きが止まったアキャリナワームへと突撃することだ。
突撃可能な距離でアキャリナワームが止まる可能性は低い。博打のような手段である。
「それで、どうするの?」
『ゼクター……そのドレイクゼクターとやらに手を貸してもらう』
「ドレイクゼクターに手を……?」
『モデルZ……もしかして!?』
モデルXが問いかけるが、モデルZはさもあらんと冷静だ。
浮いていたモデルZは、エールがもつドレイクゼクターとドレイクグリップが一体化しているデバイスへと近寄る。
『モデルHたちと似たような処理で意思を一時的に封じられている。こいつを解放して、俺たちに力を貸してもらう』
『けど、ライブメタルでない彼らの力を……』
『借りられないのなら、ここの仲間が死ぬだけだ』
モデルZの言葉に、モデルXが詰まる。
モデルZは畳み掛けるかのように、説得を再開した。
『元々、俺の適合者はジルウェであり、エールではない。モデルXの特殊能力……他者の力を上乗せする能力を使って力を引き出しているに過ぎない。
だから、ドレイクゼクターにも俺と同じことをしてもらう』
『僕たちと彼らは似てはいるけど、根本が違う。ダブルロックオンの要領で能力は引き出せるかもしれないけど、モデルZたちのように完全に引き出せるとは限らない。
なにより、ライブメタル以外のものとロックオンすることによって、エールにどれだけ負担がかかるかわからない。危険すぎる!』
『だが、エールはやる気だ』
モデルZの言葉に、モデルXははたと気づいた。
モデルXを手に取るエールの瞳が、やると雄弁に告げていることを。
『エール……』
「モデルX、アタシはやる。残り時間も少ないから、話し合っている場合じゃない!」
残り時間は三十秒もない。エールは変身を解いて、ピクリとも動かないドレイクゼクターと、モデルXを掲げる。
あの日、ジルウェの死んだ後ロックマンZXと変身したときのように。
『まずはドレイクゼクターの意識から取り戻す』
そういってモデルZが光り、ドレイクグリップからトンボ型のデバイスが飛び出した。
元気にエールの周囲を回っている姿は、どこかホッとするものだ。
『エール、準備はいい?』
「あ、うん。大丈夫、モデルX」
エールはモデルXに答えて、ドレイクグリップを天にかざした。
対して、ドレイクゼクターは戸惑うようにモデルXの周囲を周る。
「お願い……このままだと、みんな死んでしまうの……」
エールの脳裏に、ガーディアンの隊員たちが思い浮かぶ。
セルパンカンパニーと、イレギュラーと戦い続けた仲間たち。
お調子者もいて、真面目一辺倒な人もいて、優しい人もいれば厳しい人もいる。
だからこそ彼らは、エールと共に戦い、エールと苦楽を共にしてきた。
その彼らを失うために、ロックマンになったのではない。
彼らを助け、共にあり続けるためにロックマンになったのだ。
大切な仲間を、今ワームという理不尽なイレギュラーに奪われようとしている。
それは認められない。認めるわけにはいかない。
「だから、アタシに力を貸して! ドレイクゼクター!!」
エールの叫びがドレイクゼクターを貫く。
込めた決意の固さは、万の言葉で足りるものではない。
誰かを救いたい、その勇気が今燃え上がる。
ドレイクゼクターは開放され、自由に風へと飛び乗った。
ワームに捕獲され、いいように扱われている間の記憶はある。
自分の資格者は、風間のように自由で、風間のように愛を持っていなければならない。
両方を持たないワームなど、本来は願い下げであった。
だから開放してくれたモデルZへ、感謝を示す。
また新たな、風間大介のような資格者を求めて空に消えようとしたとき、自分の名を叫ぶ少女がいた。
ドレイクゼクターの身体が反応を示す。もっとも、少女の呼びかけにではない。モデルXのライブメタルへとだ。
ドレイクゼクターはなるほど、と理解をする。あのモデルXは、ドレイクゼクターたちを力をとする黄金の剣・パーフェクトゼクターと似た能力を持つのだと。
おそらくドレイクゼクターは彼女の力となるだろう。モデルXが、パーフェクトゼクターと同じ力を持つのなら抗う術はない。
それを、ドレイクゼクターは楽しそうにしていた。
「ドレイクゼクター!」
エールの叫び声に呼応するかのように、トンボ型デバイスは鳴き声を上げてドレイクグリップの上空に待機する。
ドレイクゼクターが答えてくれたことに、エールは思わず笑顔を浮かべた。
『エール、いくよ』
エールがモデルXに頷いた。ドレイクゼクターを呼び、誘導した光が変身のコマンドを送り込む。
ドレイクゼクターの瞳が輝いて、宙をきりもみしながらドレイクグリップと合体をした。
同時にモデルXが力を解放する。光がエールの全身を包んだ。
ドレイクゼクターと、ライブメタルモデルXを手にエールはドレイクゼクターの電子音に合わせて叫ぶ。
「クロスロックオン!!」
『Change ROCKMAN』
電子空間のようなものに、エールの意識は剥離される。
彼女は自分の身体の変化を、加速した感覚で見届けた。
モデルXより放たれた光がエールの体内へ収まり、エネルギーの帯となって両手に螺旋状に纏わりついた。
エネルギーがエールの腕を包み、銀色の篭手が実体化される。
右肩にはドレイク・マスクドフォームのヤゴの仮面と似た装甲が張り付いた。
ふくらはぎに青い装甲、太ももに白い装甲が顕在する。エールの青いジャケットが装甲と変質、薄い空色へと染まった。
腰に銀色のベルトが現れ、中央のバックルには“ZECT”の文字が刻まれている。
胸から右肩までを、トンボの羽を模した装甲が守る。
青いロックマンのヘルメットへ、ドレイクのライダーフォームの羽のような複眼が張り付いた。
ちょうど、エールの瞳の上にである。ドレイクの瞳と似た、青いクリスタルが幾何学的な模様を浮かび上がらせる。
仮面ライダードレイクと、モデルXのロックマンの力を合わせた融合態。
ロックマンモデルDX(ドレイクエックス)へとエールは進化を遂げた。
「あいつが変身した姿と違う……?」
『それは当然だよ。僕はあくまで、ロックマンとしてドレイクゼクターの力を借りたに過ぎない。
だからこそ、マスクドフォームとライダーフォームの特性が混ざる中途半端な状態だし、クロックアップもドレイク単体の半分の時間しか使えない』
「それで充分! クロックアップ!」
後の懸念材料はエールへの負担だが、構わずエールはスイッチをスライドする。
正面を睨む彼女の決意に満ちた目が、ドレイクゼクターの『Clock up』の電子音と共にカブトとワームの姿を捉えた。
「なにっ!?」
「ほう」
アキャリナワームが驚愕の声を出し、カブトが感心したかのように呟いた。
ロックマンモデルDXと化したエールは構わず、ドレイクゼクターの引き金を引いてアキャリナワームを胸元を爆ぜさせる。
吹き飛んだアキャリナワームを見届け、エールはカブトの傍に跳躍して降り立った。
「天道、どう?」
「正直驚いた。ふむ、やはり人の成長は侮れないな」
『そんな悠長にしている暇はない』
モデルZの言葉に、エールは表情を硬くしてアキャリナワームと対峙する。
突然の乱入にアキャリナワームは混乱するだけだ。
「天道、爆弾をお願い。あいつはアタシが倒す」
「…………すぐ戻る。無理はするな」
「大丈夫よ。天道の分もちゃんとアタシが殴っておくから」
「そうか」
エールはカブトの、その一言が暖かいことに目を見張る。
ポン、とカブトはエールの肩を叩いて、爆弾の存在する格納庫へと駆けていった。
「さて、覚悟はいい?」
「ぐぅ……キサマァ!」
アキャリナワームに、ドレイクゼクターの銃口を向けてエールは冷たく告げる。
内心はらわた煮えくり返っているエールの、猛射がワームの体表に跳ねた。
□
カブトは通路を駆け抜け、いつか軌道エレベーターを上るときも似たような感じだった、と思い返した。
道をいく中、カブトの脳内にエールの言葉が思い浮かぶ。
―― 大丈夫よ。天道の分もちゃんとアタシが殴っておくから。
彼女を自分とワームの戦いの場へと連れてきたのは、クロックアップの脅威を伝えて介入させないためだ。
なのに、エールはドレイクゼクターの力を借りて、カブトと同じ舞台へと上がった。
カブトが思いもつかなかった手段だ。それが無性に嬉しかった。
仮面ライダーカブトこと、天道総司はエールに亡くなった妹を重ねている。
別に性格や見た目が似ている、というわけではない。
樹花という天道の妹と、ちょうど同年代というだけだ。
しかし、エールの人をひきつける明るい性格は、常に天道を励ましていた妹を思い出してしまう。
だからだろう。始めてあったとき、彼女が流した涙が忘れられない。
カブトは願うのだろう。
エールには、樹花の分も笑って欲しいと。
もう天道は見ることはない。別の自分へと託したのだから。
だからこそ、天道はあのとき泣いていた少女の心を救うため、天の道を往き、総てを司るのだろう。
この世界もまた、天道が守るべき世界だと定めたのはあの涙だったのだから。
「くそ、どうにかあいつを解体できないのか?」
「時間がなさ過ぎる! 間に合わん」
ガーディアンの制服に身を包む、ドラードが悔しさに震える。
白い技術者用制服の老人、シリュールがドラードを引っ張って離れていった。
予測される爆発の規模では無駄であろう。それでも、本能が爆弾へと離れることを命じた。
「エールはまだ戦っているというのに……!」
「……敵が一枚上手だったというとだ」
「だけどっ!」
ドラードが叫ぶが、現実が変わるわけではない。
無情な現実が突きつけられる中、残り二十秒を切った爆弾の前に立つ影が現れた。
いつの間に、とドラードとシリュールが目を見張るが、カブトの姿はどこか超然としたものを感じる。
「問題ない。後は俺に任せろ」
カブトの言葉に、二人は圧倒される。カブトクナイガンを手に爆弾へと、歩み寄った。
コンバウンドアイで爆弾が設置されている箇所を見極め、刃をきらめかせた。
神速の斬り筋が爆発物を組み込まれた部分を切り出して、宙に浮く。
「クロックアップ」
カブトの呟きと共に、時間の流れが遅くなる。
ドラードとシリュールの動きが緩慢になった。高速世界へと突入した証だ。
ゆっくりしている暇はない。残り時間は十秒を切っている。
カブトは気合一閃、爆発物が通る真四角の穴を格納庫内に作り上げた。
後は爆弾をクロックアップの限界時間までに遠くへ飛ばすだけ。
『One・Two・Three』とカブトゼクターの宣言を耳にして、ゼクターホーンを引いてたたむ。
「ライダーキック」
カブトの呟きに遅れてカブトゼクターの電子音が鳴る。
爆発物は頑強で、ちょっとやそっとの衝撃で爆発することはない。
とはいえ、カブトは威力を調整しつつ宙へ放り投げた爆発物を蹴った。
タキオン粒子を纏った爆発物は、神速の速度でガーディアンベースから離れていく。
『Clock over』
世界の流れが通常に戻るとき、すでに赤い船は爆風の範囲外へと逃れていた。
爆発と共に、雲が散って青空が広がる。爆発の衝撃が僅かにガーディアンベースを揺らす。
格納庫に開いた穴が強風を呼び込む中、カブトは甲板のある方向を睨みつける。
「後は奴だけか」
支援
カブトはそう呟いて、格納庫を出る。ドラードに格納庫を閉めるよう指示して、再びクロックアップが使えるまで地面を駆けた。
クロックアップとクロックアップの間にはインターバルがある。
普段はなんでもないようなその間が、今回は妙に気になった。
□
アキャリナワームのカギ爪状の右手が大きく振るわれる。
エールは青い装甲を僅かに削るほどの紙一重で躱し、ドレイクゼクターの銃弾をアキャリナワームへ叩き込んだ。
ひるむアキャリナワームへと突進し、エールの右足が鳩尾にめり込む。
「ぐっ!」
アキャリナワームが苦悶の呻き声をあげるが、エールは冷静に顎を蹴り上げて後方へ跳躍する。
距離をとって尻餅をつくアキャリナワームを尻目に、エールはドレイクゼクターの羽根をたたむ。
羽根がスコープへと変形する機構に感心しながら、通常の銃のボルトに当る部品、ヒッチスロットルを引いた。
『Rider shooting』という電子音と共に、タキオン粒子のエネルギーがドレイクゼクターの銃口へと集まる。
「馬鹿な……」
「くらえっ!」
呆然と呟くアキャリナワームに、エールは怒りの一撃を容赦なく放つ。
どうにか反応したアキャリナワームが横跳びに逃げようとするが、巨大な光弾が到達する方が速い。
アキャリナワームの左腕から左脇腹が消滅する。
「ぐがあああぁっ! くそ、くそ! 人間ごときに……!」
「……その人間ごときを侮ったあんたの落ち度よ。大人しく倒れなさい、イレギュラー!」
「イレギュラー……? イレギュラーはキサマらのほうだ!」
アキャリナワームが獣の如く吼えて、接近する。エールは冷静に四肢を打ち抜き、動きが止まったところで再びヒッチスロットルを引いた。
タキオン粒子が再びドレイクゼクターの銃口にたまる。この一撃で終りだ。
エールとアキャリナワームが互いに確信したとき、無情にも響く。
『Clock over』
最初、エールはなにが起こったのかわからなかった。
ほぼ動きを止めていた雲の流れが正常になり、風が強くなってエールの装甲を撫でる。
瞬間、アキャリナワームが姿を消した。エールは逃がしてたまるか、と銃口を構えるが首に衝撃を受けて壁に叩きつけられる。
「カハッ」
「ハハ! どうやら形勢逆転のようですね」
ねっとりとした口調にエールは嫌悪を抱きながらも、モデルXの言葉を思い出す。
―― クロックアップもドレイク単体の半分の時間しか使えない。
アキャリナワームのクロックアップが解かれる前に、エールのほうが限界きたのだ。
ここまできて、とエールは歯軋りをする。
アキャリナワームの右手のカギ爪が喉に埋まり、力が増していく。
「なかなか細い首ですねぇ。折りがいがありそうだ」
「ア……」
エールは呼吸すらままならない状況で、徐々に死が迫る。
モデルXとモデルZがワームに向かってなにかを喋っているが、もはや聞こえはしない。
天道に任せろ、といったのに情けない結末だと後悔をする。
(アタシ……は……)
エールの目の前が真っ暗になっていく。もはや打つ手はないのか。
それでも勝算を探るエールの脳内に、ある言葉が届く。
(え?)
エールが疑問を持つが、その声はある行為を催促する。
いったい誰の言葉だろうか。
エールはわからないまま、その言葉を呟いた。
「キャスト……オフ……」
エールの呟きに応える存在があった。自身を発光させ、エールに続いて宣言した。
『Cast off』
ドレイクゼクターの電子音に、モデルXが驚くのがエールの視界の端に映る。
刹那の後、ロックマンDXを守る装甲が浮き上がって弾けた。
「ガァッ!」
アキャリナワームが叫び、高速で飛んでいく装甲と共に離れていく。
エールは開放された喉を押さえて、空気を求めて喘いだ。
「ガハッ、ごほっ、ごほっ!」
『よくこんな手を思いついたね……』
モデルXが感心しているように呟いた。アーマーをパージしたエールは青のロックマン・モデルXへと変わっている。
どうやらゼクターを利用した変身は、キャストオフによって外部装甲を排除し青のロックマン・モデルXへと戻ることが可能のようだ。
エールは自分の脳裏に浮かんだ言葉を思い出す。
―― キャストオフを使いなさい。
今ならわかる。この言葉を告げたのはドレイクゼクターであると。
エールは内心、ドレイクゼクターに礼を告げているとモデルZの怒号が貫いた。
『エール、まだ戦いは終わっていない!』
「……そうね。イレギュラー、あんたはもうお終いよ」
エールは宣言して、タキオン粒子を溜めるドレイクゼクターと右手のバスターを構える。
それを見たアキャリナワームがクロックアップを使おうとするが遅い。
「ライダーシューティング!」
バスターから放たれた青い二発の光弾と、ライダーシューティングの光弾がワームへと迫る。
クロックアップが間に合わない状況では、逃げる術などない。
「くそ、くそ、くそぉぉぉぉぉぉ! 人間がああぁぁぁぁ!!」
三つのエネルギー弾がアキャリナワームの全身へ殺到する。
言い残した言葉は、あくまでワームという種を過信したものであった。
その過信こそ、彼の死因というのに。
青い三発の光弾が爆発し、アキャリナワームだった破片は燃えながら散っていく。
ガーディアンを脅かした敵の、あっけない最期であった。
「はぁ〜」
エールは大きくため息をついて、ドサッと甲板に倒れた。
心配するモデルXに一日に二度戦って疲れただけだ、と告げて変身を解く。
風がエールの羽織る青いジャケットをはためかせ、黒い髪を揉みくちゃにした。
その風の中、ドレイクゼクターがエールの周囲を飛ぶ。
「ありがとう、ドレイクゼクター」
エールが礼をいうと、上空で8の字を描いてドレイクゼクターがどこかへ消えた。
きっとまた、望めば力を貸してくれる。エールにはその確信があった。
「よくやったな、エール」
「天道……爆弾のほう、ありがとう」
いつの間にか傍にいた天道に、エールは礼を告げた。
いけ好かない男ではあるが、味方であるという宣言に偽りはない。
笑顔の天道が手を差し出し、エールは掴む。上半身を起こすと、太陽の光が目に入った。
「うわぁ……」
思わずあがる、エールの感嘆のため息。
雲の切れ目から覗く、夕日が空と海を赤く染め上げていた。
地平線に消えようとする夕日が綺麗で、エールは自然と笑顔を浮かべる。
夕日が沈もうとする一瞬、世界が夕方の赤と、夜の紫の二つの色へと分かれていた。
夕方と夜の境目が幻想的で、見るものすべての心を洗いあげる。
命がけの戦闘の報酬としては、悪くない光景であった。
□
天道の知らない事実が、現在一つ残っていた。
ドレイクゼクターは、天道が本来存在した世界のものか怪しいということだ。
天道の世界では、パーフェクトゼクターは完成していなかった。
ゆえに、モデルXの呼び込む波長がパーフェクトゼクターと似ていると、天道の世界のドレイクゼクターに判断させるのは不可能だった。
だが、このドレイクゼクターはパーフェクトゼクターを知っている。
それがいったいなにを意味するのか、まだ天道は知らなかった。
To be continued……
投下終了します。
当初から予定していたネタを使ってしまいました。
次の投下も、一週間以内にしたいと思います。
失礼しました。
339 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/01(火) 08:29:21 ID:IJWb0Pkw
結構おもしろいな。
きたいあげ
投下乙
おのれ、ディケイド!
貴様のおかげでこの世界にもロックマンライダーが誕生してしまった!
341 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/05(土) 17:07:12 ID:n+knFDfp
第五話投下します。
注意
※オリジナルあり(モブ、敵のみ)
※クロス設定あり
※仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVEの没設定を利用しています(樹花の存在など)
342 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/05(土) 17:08:05 ID:n+knFDfp
五話 FAN [応援者]
つつ……とエールの頬に汗が一筋流れる。
ぐつぐつ煮える溶岩に、赤く染まる岩の壁。不整備のでこぼこの地面の上を、ロックマンZXへ変身したエールは立っていた。
水を飲みたい衝動をグッと堪えて、エールは目の前のシャッターを見る。
休火山の観測所を基地にするなど、大胆もいいところだ。
一般的には対高熱処理をされたメカニロイドぐらいしか存在はできない場所なのだ。
周囲に煮えたぎるマグマのおかげで暑くてしょうがない。
ロックマンに変身しなければ、とうに煮え湯だって死んでいるだろう。
「ここが例の高エネルギー発見場所、と言うわけか」
「そうみたい。けど、ここを守るなにかがいるかもしれない」
「途中で出てきた巨大なスライムのような奴か、それともまったく別の奴か。なるほど、面白い」
ふぅ、と大きく息を吐いてエールは傍にいる男へと振り返る。
仮面ライダーカブト・ライダーフォームへと変身した男の言葉はどこまでも冷静で、息一つ乱れはしない。
戦場を共に駆ける相手としては、学ぶところが多かった。
『それにしても、不思議なものだ』
「そうね、不思議ね」
モデルZの言葉に頷いて、エールはカブトへと振り返る。
カブトは何事もなかったように佇んでいるが、実際はそうではない。
「なんでイレギュラーは“天道ばかり狙ってきた”のかな?」
エールの言葉は真実だった。道を阻むイレギュラーはエールを狙わず、みなこぞってカブトを攻撃してきたのだ。
疑問に答えるものもおらず、カブトも気にしていないため先に進む。
エールはカブトの背中を見て、ここに来る前のプレリーたちとのやり取りを思い出した。
□
ガーディアンベースの襲撃から一週間過ぎた。赤い船は修理工場にて羽根を休めている。
ベースでの勤務をしている隊員の半分は予定外の休暇となった。
周囲が骨を休めざる得ない状況で、エールはプレリーに呼ばれて作戦会議室へと姿を見せた。
「休火山観測基地に、高エネルギー反応?」
「ええ。まるで先日のガーディアンベース襲撃に合わせるかのようにね」
ガーディアンの司令官である証の制服を着込んだ親友はエールにそう告げる。
エールもまた、いつものロックマン姿ではなく、青いジャケットに白い短パンの普段着であった。
プレリーは金のロングヘアをかきわけ、紅茶をすすった。
「それに、ライブメタルの反応と……モデルVの反応が一瞬だけあったわ」
「モデルV!」
エールの勝気な黒い瞳に警戒が現れる。エールとモデルVの因縁は深い。
プレリーはエールの瞳の怒りを目ざとく見つけ、今にも飛び出しかねない雰囲気を悟る。
「それで、アタシにミッション?」
「ええ。けど、今回もあのワームという生命体やロックマンVAVAが絡んでいる可能性が高い。
だから、天道さんにもお願いしようかと考えているわ。二人で調査を頼めないかしら?」
「天道と?」
エールは疑問を示す。今までのミッションはエール一人でやってきた。
確かに天道の能力は高い。エールと互角以上の戦闘力を持つ。
しかし、天道には謎が多い。味方であることに疑いはないが、いまいちなにを考えているか不明なのである。
それに…………。
「うまい!」
二メートルはある巨体のトンが口にかきこんだ親子丼に感動の叫びをあげた。
343 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/05(土) 17:09:28 ID:n+knFDfp
感動しながら親子丼を食べて振り返り、カウンターの奥で調理する天道を見る。
「本当にお前さん、プロ並みに料理が上手いの! ワシは感激したぞ!!」
「当然だ。それに、俺はプロ並みじゃない」
ほう、と目を見開くトンへと、天道は天に指をさしながら告げる。
彼を遮るものはない。
「俺はプロ以上だ」
「ハハハハ!! そういう自信満々な奴は、ワシは好きだ!」
トンの反応に天道は満足げに頷き、食堂に来ている人間、レプリロイド問わず隊員の注文分を作りあげていった。
ちなみに食堂はまだできて間もないため、全員あわせて二十人いくかいかないか。
ついでに予定外の休日となった隊員も多いため、数が多いとは言えない。
とはいえ、天道は料理に手を抜く男ではなかった。
持てる技術を駆使して、材料の山を様々な料理へと作りあげていく。
トンの右隣の机では、ウイエがケーキを口にして恍惚の表情を浮かべている。
さらに向かいの席ではサルディーノがお子様ランチに目を輝かせていた。
「ずいぶんといろんな種類の料理が作れるのー。いつもいっとるおばあちゃんに習ったのか?」
「確かにおばあちゃんに教えてもらったのもある。それと……」
天道が胸元を探り、取り出しにくいのか何度も内ポケットからギッギッギ、と鳴らしながらなにかを取り出した。
トンが興味深げに見てみると、それは古びた本だ。
「ある一流の料理人が書いた料理本だ。俺の原点でもある」
「いまどき紙の本とは珍しい。これ一つで相当の骨董品として値打ちもある」
「当たり前だ。食べるという人類で一番尊い行為を彩る書物だ。とても金では支払い足りない」
「違いない! ワッハッハッハ!!」
トンの言葉に同意して天道は頷く。ちなみに会話の間も仕込みを忘れていない。
今日も天道食堂は盛況であった。
「……って感じよ。トンさんと一番気が合ったのが意外かな」
「トンさんらしい」
プレリーが思わず微笑んで、紅茶を再び飲んだ。
トンは天道に命を助けられたことを理解し、細かいことを気にしない豪快な性格のため素性を気にせず、天道と一番会話しているのである。
周囲が天道と距離を置いているのと対象的だ。
「そういえば、天道はあのワームについてなにか言っていた?」
「うん。すごく脅威よ、あのワームという生物は」
「へぇ、今度ははぐらかさなかったのね」
「……って、いうよりあれは天然ね」
プレリーが苦笑する。ワームに関しては天道はわかりやすく、丁寧に説明していたのである。
そして秘密にするつもりと思っていた、ゼクターもワームの説明途中に必要なら解説していた。
わかりやすい説明の間も、天道は相変わらずのため、あれが素であると理解したのだ。
プレリーが天道の説明を思い出していると、エールの懐から出たモデルZが質問をしてくる。
『それで、そのワームとやらはどれほど脅威なのか教えて欲しい』
『そうだね。僕たちにとって、ワームは不明なことだらけだ。どう見てもレプリロイドでも、自然発生した生物でもないわけだし』
エールもまた、ワームについてはなにも知らされていないらしく、プレリーを覗きこんだ。
実はプレリーはワームに関しての情報は規制している。天道にもプレリーとその場にいたフルーブ以外には漏らさないようお願いしてあった。
それほど脅威が大きいのだ。ただ、エールと目の前のライブメタルたちには知ってもらう必要がある。
プレリーは頷き、三人に対して説明を始める。
「そうね。天道さんがいうにはワームは二つの驚異的な能力がある。
その一つの説明の前に、確認して欲しいことがあるわ。ガーディアンベースを襲ったワームの彼、ヴィクトルという人はデータベースにこの国の市民として登録されていたの」
『ならばそのデータを追えば、他のワームへと接触が可能ということか?』
「モデルZ、それは無理よ。なぜなら、ワームの能力の一つは他人の姿と記憶を寸分違わずコピーして、社会に紛れ込む“擬態能力”なの。
一ヶ月前から彼は行方不明だったんだけど、ガーディアンベースの襲撃の際に姿を見せた。
天道さんの推測が正しければ、一ヶ月の間にワームに殺されて、姿と記憶を擬態された可能性が高いの」
344 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/05(土) 17:10:23 ID:n+knFDfp
「ちょっと待って、プレリー! それは……」
『すでに相当数のワームが、世界に紛れ込んでいる可能性が高いってことか』
『しかも対処は難しい……それで、僕たちが取れる手段はないか、天道さんはいっていなかった?』
「そうね。でもワームの数は少ない可能性が高いみたって言っていたわね」
「なんで?」
「天道さんが一度倒して、数が大きく激減したみたいなの。ワームにはサナギ態が大量に存在するはずなのに、今回はイレギュラーしか連れてこなかった。
ワームの数に余裕がない証拠ってことね」
「天道の言葉を信用すれば、確かに数は少なそうね」
『エールは天道さんを信用していないの?』
「信用していないっていうか……」
モデルXの疑問に、エールは頬をかきながら思案する。
別に天道が疑わしいわけでも、心底嫌いなわけでもない。
ただ、疑問があるのだ。ワームとの戦闘など、エールは聞いたことがない。
しかもエールだけならともかく、イレギュラーの反応を追ってきたガーディアンのデータベースにも皆無なのだ。
先日戦ったワームの言うように、ワームの集団組織を潰しているならここに情報が入らないはずがない。
さらに、エールにはあのワームがいった言葉が気になってしょうがなかった。
―― とても世界を一つ滅ぼしたとは思えない。
あのときのワームの言葉を、エールはハッタリだと捉えた。
おそらくは彼ら組織を世界に例えているのだろう、と。
その割には、妙にエールの耳へと言葉が残っていたのだ。
さらに、誰にも知られない戦いをなぜ一人で行うのか。
天の道を往く理由はなにか、エールには天道への疑問が数多くあったのだ。
「私は天道さんを信頼すると決めたわ。エールは違うの?」
「ううん、アタシもあいつは信頼できると思う。それで、ワームのもう一つの能力ってなに?」
エールは胸の引っ掛かりを言語化できず、とりあえず置いて質問をする。
今は答えが出ない。ならばこれから天道を見極めればいいと考えたのだ。
「こっちの方はアナタたちも馴染みが深いと思うわ。クロックアップよ」
「ああ、あれね。ドレイクゼクターをフルーブに見せたけど、なにかわかった?」
「お手上げ。クロックアップの機構はブラックボックスに包まれて解析が不可能よ」
『解析できないのはしょうがない。それで、ワームという連中は全員クロックアップが出来るのか?』
「クロックアップができるのは、さっきいったサナギ態から成長した成虫のワームだけみたい。
それでも脅威だから、隊員にはワームには手を出さないように通達した方がいいでしょうね」
「うん、あれは危険すぎる。アタシか天道じゃないと、勝負にもならない」
エールがため息をついて、深く椅子に座り直すとドアが開いた。
一応機密の会話のはずなのに、と構えるが入ってきたのは天道だ。
エールはホッとして再び緊張から解かれる。
「入るぞ。休憩くらいしたらどうだ?」
『入ってからいうな』
天道にモデルZがツッコミを入れるが、天道は無視してテーブルへケーキを降ろす。
予想外の行動に、エールもプレリーも目を丸くした。
「差し入れだ。俺が作ったものだから、味は一級品だ」
「うわー、美味しそう!」
エールが差し出されたショートケーキに目を輝かせる。
ロックマンだ、戦士だといっても根は女の子なのだ。
ケーキに喜ぶのも当然であった。
「ちょうど良かった。天道さんに依頼があって来てもらおうと思っていたんです」
「ほう、高エネルギー反応のことか?」
345 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/05(土) 17:11:18 ID:n+knFDfp
「天道、ここの会話聞いていた?」
エールがジト目で見つめるが、天道は動じない。
フッとすました笑顔を浮かべて、プレリーとエールに振り返る。
「食堂でフルーブが不安を感じていたからな。ガーディアンベースの修復が終わっていないのも懸念材料らしい」
「そうですか。なら話が早いと思います。エールと高エネルギー反応のあった場所へと調査に向かって欲しいのですが、お願いできますか?」
「いいだろう。それにワームの連中が潜んでいるかもしれないところに、エールを一人でいかせるわけにもならないしな」
相変わらず偉そうだ、とエールはショートケーキを口に運ぶ。
別に天道はエールを信用していないわけではない。単に自分に対して保護者意識を持っている気がする。
ジルウェもそういうところがあったな、と思ったのだ。ならば実力で見返すだけ。
故にエールはなにも言わない。もっとも、これは自分に対する言い訳だった。
真相は甘さが口内を広がって、あまりの美味さに声を失ったということだ。
このとき食べたショートケーキは、また食べたいと感想を抱く。
ミッションの打ち合わせはせめてこのケーキを味わってから、とつい欲望を優先させたのだった。
□
通路を通り、最後の扉を前にエールは生唾を飲み込む。
ロックマンとなって何度も目にした扉だが、緊張がなくなることはない。
ここをくぐれば戦闘となることは明白だ。カブトが先行して、扉を開ける。
同時に火薬が爆ぜる音が響いた。エールがZXセイバーを構えて警戒する。
「いらっしゃい! エールさん、大歓迎です!」
しかし、かかってきたのは紙吹雪であった。クラッカーを構えたゾウ型レプリロイドを前に、エールは言葉を失う。
いや、炎を吹き出す長い鼻。風を巻き起こす大きな耳。赤と銀の装甲。
三メートルはある巨体。太い四肢などの明らかな戦闘用の姿は、彼がフォルスロイドであることを示していた。
「アナタもフォルスロイド……?」
「ええ、私はモデルVの破片の搭載型試作フォルスロイド…………」
ゾウ型フォルスロイドはクルッと一ターンして、エールの正面に立つ。
見た目と違って軽快な動きを披露したゾウ型フォルスロイドは、意気揚々と自分の自己紹介を始めた。
「ビッグドン! 高熱環境での戦闘を想定された、象をモチーフにしたフォルスロイドです。以後、お見知りおきを!」
「それで……ここでなにをしているわけ?」
「ああ、ああ〜! いいよ、エールさん。その凛々しい瞳が最高だ!」
ビッグドンの言葉に、エールはゾゾっと怖気が走って引いた。
エールの様子に構わず、ビッグドンは喋りたてる。
ずいぶんと空気の読めないフォルスロイドだ。
「エールさん、私はアナタの大ファンなのです! 一名余計なのが混じっていますが、エールさんが私に会いに来てくれたので帳消しです! 素晴らしい!」
「まさか、アタシに会うためにここに高エネルギー反応を起こしたの?」
「その通り! と、言いたいところですが、違います。申し訳ありません、エールさん」
「いや、アタシはどうでもいいんだけど……」
「まあ、エールさんの手前嘘はつきたくありませんしね。私はここの火山を活性化して噴火を誘発し、インナーのヒトビトの恐怖をモデルVの生贄にするという面白くもない仕事です」
「な……!」
エールは愕然としてビッグドンを見つめる。
インナーとは、ヒトビトの生活圏を指す。ビッグドンの言葉が真実なら、多くのヒトビトが犠牲になるのだ。
エールは視線を鋭くして、ZXセイバーを取り出した。
すると、それまで黙っていたカブトが口を開いた。
「ほう、ならば活性化装置を破壊に行かせてもらうぞ。クロックアップ」
カブトが腰のスイッチを叩いて、加速しようとする。
エールもそれに倣ってドレイクゼクターを呼び出し、モデルXと共に輝かせる。
光がエールを包み、ドレイクの装甲を身にまとってエールはロックマンモデルDX(ドレイクエックス)へと変身した。
346 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/05(土) 17:12:23 ID:n+knFDfp
エールもクロックアップを起動させようとしたとき、カブトが疑問をつぶやく。
「クロックアップができない……?」
「クックック。私たちはワームと協力体制なのです。クロックアップに対して対策を講じるのは当然でしょう?」
「なにをしたのよ!?」
「おお〜、エールさん。ドレイクゼクターとのダブルロックオン姿も美しい……。
簡単なことですよ。我々はクロックダウンチップを開発しました。高出力を要するので、大きい施設か我々フォルスロイド、もしくはロックマンでないと扱えませんがね。
射程もこの部屋一つくらいでしょうか。広範囲に伸ばすことも不可能ですので、大きな発電所一つで一部屋クロックアップができない場所がある程度に考えてください」
カブトに対応したときと違って、猫なで声でエールに話しかけるビッグドンにウンザリする。
そこへ、モデルZがビッグドンに疑問をぶつけた。
『そんなにペラペラ喋っていいのか?』
「まあ、マズいでしょうね。ですが、私はエールさんのファン! ならば先程も申しましたようにエールさんに嘘をつかず、また答えないなどという選択肢はありえない!
これは使命なのですよ、モデルZ。エールさんへの愛へ応え、任務も果たさねばならない。なんともやりがいのある仕事だ……。
そうでもないと面白くもなんともない仕事ですけどね」
はぁ、と恍惚のため息をつくビッグドンに対して、エールの怖気が走る。
早くこいつは倒さねば、とエールがドレイクゼクターを構えた。生理的に我慢できない相手である。
それをカブトは遮り、ビッグドンに対し質問をぶつけた。
「ならば、そこを通れば火山活性化装置があるということか?」
「アナタの疑問に答える必要はありませんね」
そこでカブトが視線をエールに送る。意図を理解したエールが、嫌々ながらビッグドンに尋ねた。
「…………あるの?」
「ええ! エールさん、火山活性化装置は奥にありますし、破壊すれば噴火することもありません。
まあ、巨大メカニロイドに守りを任せていますし、いかにロックマンでも苦戦する相手ですのでお勧めしませんが。
なにしろアイツだけは私の指示に従わず、エールさんを襲うほどの侵入者排除特化ですからねぇ」
露骨な態度にエールは頭痛がして額を抑えた。イレギュラーがエールを襲わず、カブトばかり襲っていたのもこいつの指示か。
ビッグドンは呆れるエールに構わず、アピールを続ける。自分勝手の男ってことであろう。
「まあ、エールさんはここでノンとビリヒトビトが逃げ惑う姿を見ていましょう。特等席ですよ」
「お断り! あんたはここで倒れなさい!」
「ああ! ああ〜! なんてご褒美なんだ! 最高だ!! もっといってくれ!!」
おまけに変態だった。嫌悪感を丸出しにするエールの前に、カブトが出た。
明らかにビッグドンが不機嫌な表情を浮かべるが、カブトは構わず続ける。
「エール、こいつの相手は俺がする。お前は活性化装置を破壊しろ」
カブトの申し出は正直ありがたい。エールは素直に頷き、カブトの突進を見届けた。
「な、なんとぉ!? エールさん、いっちゃダメだぁ〜!!」
「そう簡単に通しはしない」
ビッグドンが鼻を伸ばすが、カブトがクナイガンの刃で斬り飛ばす。
ビッグドンが構わず突進し、鋼鉄の床が揺らしながら拳を振るうがカブトは冷静だ。
カブトは拳を受け止め、ビッグドンを足止めする。
「天道!」
「問題ない。さっさと行け」
「そうはさせません! このまま押しつぶしてあげましょう!」
ビッグドンがエールを逃がさないと力を込めるが、カブトは冷静にゼクターホーンを引き上げ『プットオン』とつぶやく。
電子音と共に銀の装甲が赤いカブトにまとわりついて、仮面ライダーカブト・マスクドフォームへと変身した。
途端、ビッグドンの三メートルはある巨体が持ち上がる。
マスクドフォームは頑強さだけでなく、腕力も上げるのだ。
「げぇっ!? 私が持ち上がったぁ?」
「……天道、後はお願い」
「エールこそ気をつけろ。場所が場所だ」
銀色のカブトが持ち上げる傍をエールは駆けて、互いに一言交わす。
347 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/05(土) 17:13:22 ID:n+knFDfp
エールが扉を通り抜けたのを確認して、カブトはエールの扉と反対方向にビッグドンを投げ飛ばした。
すると、ビッグドンは最初に見せた身軽さを発揮し、着地する。
怒りで染まった視線をカブトに注ぐが、そよ風のごとく受け流した。
「よくも……よくも私とエールさんの大切な一時を! 人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んでしまえ!」
「本来の主義じゃないが、今回の恋は諦めてもらう。お前の存在はエールの教育に悪い」
モデルZやエールがいたのなら、保護者のつもりか! とツッコンだだろうがこの場にはいない。
代わりにカブトに返ってくるのは、嫉妬と憎悪に満ちた視線のみだ。
「許さない……許さない!」
「恋は盲目か。やれやれ」
カブトはただ一言つぶやき、かかるプレッシャーを無視してビッグドンと対峙した。
その声に呆れた感情が含まれていることは……多分気のせいであろう。
□
『天道さん一人に任せてよかったのかな?』
「大丈夫よ、天道だもの。それに、あれに触れるのは嫌」
『好き嫌いで戦われても困るが……まあ今はいい。エール、急げ』
もちろん、とエールは二人のライブメタルに答えて、先を急ぐ。
ドレイクゼクターを構え直し、スイッチをスライドして再び告げる。
「クロックアップ!」
エールの凛とした声が響き、マグマの泡が弾けず固まる。
岩から散っていた埃が動きを止めて、エールはかき分け直進した。
岩肌の地面を駆けていき、地面にパイプを伸ばしたエネルギー精製タンクを背負う機械を見つける。
目的地にたどり着いた、とエールが判断した瞬間、『Clock over』の電子音でクロックアップが終わる。
泡が弾け、埃が落ちる中エールは舌打ちをした。
「ちぇ、もうちょっとだったのに……」
『仕方ないさ。エール、あれを壊しにいこう』
残念がるエールを宥め、モデルXが目的を示す。
エールはドレイクゼクターにエネルギーをチャージしようとしたとき、地響きを感じて跳躍した。
地面が盛り上がり、岩の欠片が飛び散る。エールは大きな岩を飛び移り、現れた存在を確認した。
十メートル近くある全長の巨大なタンク。
削岩用のドリルを前部に取り付け、キャタピラを動かしてエールを正面に捉えていた。
普通の作業用タンクで言えば、コックピットに当たる部分でメインカメラが人の瞳のようにギョロギョロ動く。
『気をつけろ、エール。背面部にミサイルラインチャーがある。おそらく、誘導弾だろう』
「わかった、モデルZ。早く倒して、あの活性化装置を止める!」
エールはドレイクゼクターから銃弾を吐き出し、タンク型メカニロイドにぶつける。
岩を砕きながら、重量級の車体をキャタピラで進軍するメカニロイドがドリルを起動させた。
カブトとビッグドンが交差して、互いの腕力を競った。
カブトクナイガン・アックスモードで分厚い装甲に傷を付ける。
たたらを踏んだビッグドンだが、怯まず鼻から火炎弾を掃射してきた。
カブトは避けつつ、さすがはフォルスロイドだと感心する。
「なかなか冷静だな」
「アナタと話す舌はありません! 早くエールさんに追いついて、癒してもらわねば……」
ビッグドンの態度に、カブトはフッと微笑んでクナイガンを銃へと変形させて弾丸を吐き出す。
もっとも、ビッグドンの厚い装甲では弾かれてしまうが想定内だ。
ビッグドンはガンモードの弾丸が、自身にまともにダメージが与えられないと見て攻撃の手を緩めない。
耐熱仕様の装甲は伊達ではないということか。
「クロックアップが使えないのでは、仮面ライダーもワームもたいしたことがありませんね!」
348 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/05(土) 17:14:27 ID:n+knFDfp
「話す舌はなかったんじゃないのか?」
「その余裕ぶった態度が大嫌いなんですよ。特にエールさんの近くにいる男性など、吐き気をもよおす!」
ビッグドンが岩肌に腕を突きこんで、岩盤をカブトへと投擲する。
散弾のように散りながらカブトを襲ってくるが、冷静に見極めてダメージになりそうなもののみを避ける。
「かかりましたね!」
ビッグドンが嬉しそうに叫んで、鼻を伸ばしていく。
岩盤の欠片の合間を縫うようにジグザグにカブトを襲いかかった。
ビッグドンがニヤリと笑みを浮かべる。岩盤を飛ばすのは移動ルートを限定させるためだろう。
逃げ場をなくした後に、炎をまとった象の鼻型触手で敵を殴打する気だ。
なるほど、理にかなった攻撃方法ではあろう。
この仮面ライダーカブト以外になら、という条件がつくのだが。
神速の速度で迫る触手の軌道を見極め、タイミングよく斧を繰り出した。
逆袈裟に振り上げられた斧は、強引に触手を上向かせ炎をまとわない部分をカブトはつかむ。
マスクドフォームの剛腕で思いっきり引き寄せ、ビッグドンの身体が浮いた。
「ぬぅおっ!?」
ビッグドンが事態を理解できない、という表情を浮かべている。
当然だろう。三メートルもあるビッグドンの巨体が引っ張られて宙を浮く姿は、奇妙以外の感想を抱くのは難しい。
カブトはあいた胸元へと、青い単眼を光らせて思いっきり斧を振った。
唸りを上げ、横薙ぎに飛ぶ斧の刃が甲高い音をたてて、ビッグドンの腹部の装甲を切り裂いた。
地面を転がるビッグドンの表情が驚愕に彩られる。
「そ、そんな馬鹿な……」
バチバチと火花が散る傷を押さえて、呆然とつぶやいているがカブトは容赦する気はない。
話す舌を持たない、といったのは彼自身だ。ならば慈悲を与えないことこそが、彼に対する礼儀である。
再び斧を構えてカブトは地面を蹴った。
「当たれ!」
『Rider shooting』
エールの気合と共に、ドレイクゼクターから光弾が発射されてタンク型メカニロイドへと直撃する。
いや、ライダーシューティングはタンク型メカニロイドのドリルに弾かれて無傷だ。
エールはこの手のデカブツは弱点をつけば脆いと思いだし、すぐさま地面を駆ける。
背部のミサイルランチャーから誘導弾が放たれ、空色のロックマンの周辺が爆発すした。
『爆風も攻撃力を持っているな』
『エール、油断しないで!』
エールは無言で頷いて、壁を蹴って跳躍する。こういうタイプはメインカメラが脆いのだ。
そのままドレイクゼクターの銃弾を、メインカメラへと撃ちこむ。
しかし、銃弾は虚しく装甲に弾かれた。
「あそこじゃないの?」
エールは唇を噛み締め、地面に降り立つ。流石にそこまで単純ではないらしい。
タンク型メカニロイドがドリルを繰り出し、エールは跳躍しながら躱した。
銃弾が弾かれながらも、エールは冷静に自分が狙うべき箇所を定めている。
今はドリルが邪魔だ。そう考えていると、二本のドリルアームがエールの上部から襲いかかる。
エールはドレイクの装甲に似た肩部をかすめるドリルをかいくぐった。
光る三門の銃口がエールを狙っている。ビームを発射するつもりだろうが、甘い。
「クロックアップ!」
エールの叫び声と共に、世界が遅くなる。加速空間では発射される誘導弾の速度も、エネルギーのチャージ時間も、キャタピラで直進する速度も、ドリルアームの動きも亀のごとく遅くなる。
過去にギリギリの高速攻撃を受けて、生き延びてきたエールには避けるのも容易い。
そのまま直進して光る三門の銃口へ、ドレイクゼクターのエネルギーを向けた。
「ライダーシューティング!」
エールの宣言と共に、ドレイクゼクターから放たれた光弾が銃口へと直結している動力部へ直撃する。
349 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/05(土) 17:15:59 ID:n+knFDfp
装甲が崩壊し、貫いたエネルギーが爆発を促したことを確認してエールは大きく跳んだ。
タンク型メカニロイドを飛び越えて、エールは振り返らず活性化装置へと走る。
『Clock over』
ドレイクゼクターの宣言と同時に、タンク型メカニロイドが爆発して爆風がエールの黒髪を揺らした。
加速世界はもう終わりだ。正常に戻った時の中、エールは地面を駆け続ける。
飛びかよう瓦礫を避けて、エールは目的を果たすためにドレイクゼクターの銃口を活性化装置に向けた。
『Cast off』
飛び散る銀色の装甲がビッグドンを跳ね飛ばした。
重厚な装甲をもってしても、堪えられない衝撃がある。
ビッグドンはエール以外にダメージを与えられた事実に恥じる。
「なぜ……」
赤い戦士が姿を見せて、『Change beetle』の音声と共に角が立ち上がった。
カブトムシのような姿を忌々しげに睨み、ビッグドンは咆哮と共に火炎弾を五発放った。
クロックアップを封じたはずの仮面ライダーカブト・ライダーフォームは、紙一重で火炎弾をすべて躱しビッグドンの懐へと潜り込む。
ビッグドンの腹の傷にカブトの拳が突き刺さって、痛みに呻いた。
「なぜ…………」
『One』という音声と共に、カブトクナイガンの刃がビッグドンの胸の装甲を削る。
締め上げようと鼻を伸ばすが、カブトクナイガンに逆に斬り裂かれた。
バラバラになった長い鼻のパーツの中、カブトの青い二つの複眼が光る。
『Two』という電子音すら耳に入らず、ビッグドンはおののいて下がった。
ビッグドンは前面部のブースターをふかして全力で後方に跳ぶのだが、赤い影がついてくる。振り切れない。
ビッグドンは丸太のように太い腕を、内臓のスプリングを駆使して連打した。
自分ですら予測の付かない軌道の拳が、『Three』と鳴り響く中カブトに掠りもしない。
カブトへの恐怖を増大させながら、思わずビッグドンは叫んだ。
「なぜですか! クロックアップがなければ、仮面ライダーもワームも我々選ばれたフォルスロイドの敵ではないはずなのに!」
「そうか、なら答えは簡単だ」
一発の拳がカブトを掠め、ようやく攻撃が当たるとビッグドンが口の端を持ち上げる。
しかし、それが間違いであることに数秒後気付かされた。
「ライダーキック」
カブトのつぶやきを後追いするように電子音が鳴った。
そう思った瞬間電撃を纏う足がビッグドンの頭部に決まる。
カウンター気味に受けた衝撃が、数十トンはあるビッグドンのボディを回転させながら吹き飛ばした。
ビッグドンが地面に頭部から激突すると同時に、カブトの超然とした声が耳に入る。
「仮面ライダーやワームに勝てたとしても、それだけではこの俺、天道総司に勝つことができなかった。ただそれだけだ」
あまりにも不遜で、自信に満ちた台詞。
それこそが天道総司が天道総司である証拠であった。
「クソ……エールさんに再会するまでは私は死ぬわけにはいかない……!」
「エールへと会いに行く前に自身を顧みて欲しいのだが、まあ無意味か」
カブトは呆れるものの、ふらふらながら立ち上がったビッグドンに感心をした。
ビッグドンが壊れた瞳のレンズをカブトに向けて、歯をくいしばっている。
「この日を私は待っていたのです。私を倒しに来たエールさんに身体が刻まれ、刻むのを!
それだけを待ち続けて、今更、今更、有象無象のあなたに倒されるなんて……」
カブトは答えず、一歩前に踏み出した。
もはや立っているだけで精一杯だろう。
勝負は決したのだ。カブトがトドメのライダーキックの起動ボタンに手をやり、刹那の後中止して後方に大きく跳ぶ。
ビッグドンが不思議な表情をしているのを尻目に、カブトが存在していた場所が破裂した。
350 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/05(土) 17:16:58 ID:n+knFDfp
カブトが上空に目をやると、急降下する紫の影があった。
フルフェイスの鉄仮面。腕のように太い右肩のショルダーキャノンと左肩のミサイルランチャー。
赤いモノアイが光るその影の名前をカブトはつぶやく。
「ロックマンVAVAか」
「ほう、俺の名を覚えていたか。天道総司」
「そっちこそ」
二対一かとカブトは内心ひとりごちて、二人を見据えた。
ビッグドンが生気を取り戻したようにロックマンVAVAへと近寄る。
「ペンテ! 援護に来てくれたのですか?」
ビッグドンの言葉にカブトは身構える。いつ襲われても対応できるようにしたのだ。
しかし、ロックマンVAVAは無言だ。
カブトが疑問を浮かべていると、ロックマンVAVAがビッグドンへと振り向いた。
閃光が部屋を満たして一瞬で収まる。
「なぜ……私が……?」
ビッグドンの疑問が漏れる。ロックマンVAVAのショルダーキャノンがビッグドンの胸部を貫いていた。
カブトはロックマンVAVAと距離をとる。様子がおかしい。以前に比べ、ロックマンVAVAの雰囲気が剣呑だ。
モデルVAがロックマンVAVAの懐から現れる。相変わらず禍々しい雰囲気に、カブトは眉をしかめた。
『天道総司、今日はお前に用はない』
「ビッグドン、用があるのはお前だ」
ビッグドンの腹の傷に、ロックマンVAVAは腕を押し込んで傷口を広げた。
ビッグドンのこの世とは思えない叫び声が響くが、ロックマンVAVAは全く気にしない。
なにかを探るように右腕を動かすロックマンVAVAが、目的のものを見つけて動き止める。
「こいつはもらっていくぞ」
「クロックダウンチップ……? な……ぜ……ギャアアアアアアアア!!」
ブチ、とビッグドンの腹部に埋まっていたチップをもぎ取り、ロックマンVAVAはカブトへと振り向いた。
痛みに悶え叫ぶビッグドンへの興味はすでに失っているようだった。
ロックマンVAVAは親指を立て、首をかっきるように横切らせる。
「天道総司、ロックマンZX。キサマらは俺の獲物だ……覚えておけ」
『ペンテ、行くぞ。もうここには用はない』
ロックマンVAVAのバーニアが火を噴き、宙を飛ぶ。
カブトが追いかけようとするが、立ち上がったビッグドンに遮られた。
「ペ〜ン〜テェェェェェ! アナタ、裏切りましたねぇぇぇ!!」
ビッグドンが叫ぶが、ロックマンVAVAの足から電撃バーナーがほとばしってビッグドンを貫く。
高圧の電撃を食らった黒焦げのビッグドンが、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。
その頭部を踏み砕き、ロックマンVAVAは視線を向けず告げる。
「俺たちは俺たちのやり方で動く。キサマらが指図するな」
満足したのか、消し炭のビッグドンからロックマンVAVAが離れていった。
瞳だけでカブトに『またな』といっている気がした。
カブトはその視線に挑戦的な構えをとって挑発する。
カブトが天に指を指し、ロックマンVAVAを迎え撃つ理由はただ一つ。
天の道が逃げるわけにはいかなかったからだ。
『クックック……クロックダウンチップは案外簡単に手に入ったな』
「ふん……」
351 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/05(土) 17:18:34 ID:n+knFDfp
ロックマンVAVAは答えず、ひたすら火口を昇っていった。
別に不機嫌ではない。プロメテとやりあった無傷ではない身体で、天道と戦うのは得策ではなかった。
全力で楽しめる状況が欲しい。ただそれだけである。
クロックダウンチップもまた、その欲求のために手にいれたものだ。
反乱者となったペンテたちには、これ以外に手に入れる手段がなかった。
せっかく相手になるときに、逃げられてはたまったものではない。
『世界を変えるのはあの男でも、ワームでも天道総司でもガーディアンでもない……』
モデルVAが珍しく饒舌になる。飼われているような状況に満足してなかったのは知っていた。
だからこそ、ペンテに都合がいい。こうして全てを敵に回せば、自分が満足できる戦いを何度も味わえる可能性が高くなる。
ゆえに、機嫌がいいモデルVAに口をはさむような無粋な真似はしなかった。
『俺たちだ! クッハッハッハッハ! ハアーハッハッハッハ!!』
モデルVAの笑い声を背に、ペンテは口元を歪める。
プロメテとの戦いは楽しかった。おまけに決着も付いていない。だから嬉しいのだ。
世の中は争いごとに恵まれている。ペンテの居場所はそこら中に広がっていた。
To be continued……
352 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/05(土) 17:20:01 ID:n+knFDfp
以上、投下終了します。
六話のほうは少し時間がかかりそうです。
それでは、また近いうちににでも。
投下乙。おばあちゃんが言ってた恋は互いが意識しあって初めてそう呼ぶ、と
クロックダウンチップはディケイドのクロックダウンシステムの派生なのかな?
354 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/05(土) 20:27:44 ID:n+knFDfp
>>353 サイズをコンパクトにしたもの、と思ってください。
ディケイドでのワームや設定もある程度使おうかと思っています。
355 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 20:58:12 ID:HrfUPTdY
第六話投下します。
注意
※オリジナルあり(モブ、敵のみ)
※クロス設定あり
※仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVEの没設定を利用しています(樹花の存在など)
356 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 20:58:59 ID:HrfUPTdY
六話 IMITATION [偽りの日々]
死神のような大釜を持つ男が、苛立たしげに壁を殴った。
コンクリートの壁が崩れるが、男の苛立は消えていない。
濃い紫色のアーマーに白い骸骨のようなヘルメット。死神のような大構を持つロックマンの名を、プロメテといった。
「くそっ! ペンテ、モデルVA、あいつら……ッ!」
プロメテは苛立ちを隠さず再び物にあたる。たまったものではないと、フォルスロイドやメカニロイドは避難していたのだ。
怒り心頭のプロメテの前を黄金のハチ型ゼクターが横切った。
プロメテは殺気を乗せた視線をゼクターが飛ぶ先へと向ける。
ゼクターをつかんだ影が、プロメテへと話しかけてきた。
「ずいぶんと荒れているな、プロメテ」
「虫けらが……なんのようだ?」
「いい加減、弟切ソウかフィロキセラワームのどちらかで呼んで欲しいのだがな」
そういった男が、電灯のもとへ歩み寄る。黒い高級スーツに身を包み、右眼を眼帯で隠した胡散臭い男。
それがプロメテの感想であった。
「くだらん。とっとと失せろ」
「そういうな。ビッグドン・ザ・エレファロイドを失い、ロックマンVAVAに裏切られたんだろう?
ならば協定を結んでいる我々ワームが手を貸すべきだと思うのだが? ちょうど新しいワームも生まれたしな」
ケッ、とプロメテは吐き捨てて弟切を睨みつけた。
彼は構わず会話を進める。一言一言、癇に障る男だ。
「くだらない。キサマらこそ、例の場所が停滞しているって話だが?」
「そちらには問題ない。我らが同志が向かったからな」
「ふん。ならばメカニロイドを貸せろ、とでもいいたいのか?」
弟切は薄笑いを浮かべた。わかっているではないか、とでも言いたげである。
プロメテの不機嫌さが増していくが、あの男ならば様子を見ろとでもいうだろう。
忌々しいが、今は承知するしか選択肢がなかった。
「いいだろう。例の場所へ送りつける」
「構わない。我々ワームは君たちの同志だ」
白々しい、とプロメテは考えながら踵を返した。
ワームは、特にこの男はプロメテは気にらなかったのだ。
プロメテはその場を離れ、少しはストレス解消をしたいものだと考えた。
□
モデルVを搭載したというフォルスロイドの存在に、プレリーは愛らしい顔をしかめさせていた。
セルパンカンパニーが滅び、モデルV絡みの事件は起きないと考えていたわけではない。
ただ、いまだに全貌を見せない敵に、後手に回ざる得ない。
エールや前線のガーディアンたちの負担がまた増えると考えると、頭を抱えざるえなかった。
プレリーがため息をついていると、部屋に来客が訪れることを知らせる電子音が鳴る。
扉の前のカメラをONにすると、天道が紅茶とケーキを手に佇んでいた。
「少しは休憩したらどうだ?」
「お気づかいありがとうございます」
入ってきてプレリーの身を心配する天道に、プレリーは笑顔を返してケーキと紅茶を受け取る。
密かに天道が作るケーキは最近の楽しみなのだ。
「そういえば天道さんに意見を伺いたい件がありますが、今はお時間大丈夫ですか?」
「問題ない。どういった件だ?」
相変わらずの天道の傲岸不遜な態度に、プレリーは慣れたのか普通に頷いた。
紅茶を一口すすり、喉を潤して目を合わせる。
「はい。イレギュラーが襲わないインナー認定されている地区の一つに連続殺人事件が起きています。
二回ほど起きたのですが、その調査に向かったガーディアンの隊員が行方不明になってしまいました。
一ヶ月前から謎だったのですが、最近ワームの存在を知ったためその可能性が高いのではと思っていたのです」
357 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 20:59:56 ID:HrfUPTdY
「なるほど。それでワームについて詳しい俺に調査を依頼したいということか」
「ええ。万が一に備えて、エールも向かわせようと思っています。
この前の報告にあったロックマンVAVAが襲いかかる可能性もありますし」
「まあ、懸命だな」
天道はプレリーの提案を妥当と判断し、同意を示した。
プレリーが椅子に深く座り、安堵の溜息をつく。
「その任務は俺とエールが担当する。プレリー、少し休んだらどうだ?」
「大丈夫です。この報告書を読んだら、私も休憩させてもらいます」
プレリーの答えに、天道は「そうか」とだけつぶやいて出ていった。
結局、プレリーが身体を休めたのはこれから十四時間後のことである。
□
「しかし、プレリーは働きすぎだ。エールもそう思わないか?」
天道にいきなり話をふられて、エールは驚いた。
整備された道路を進み、陽光がビルやヒトビトの住まいを照らしている。
人の少ない大通りで、情報を集めていたエールは天道にそう相談された。
「前からそういっているけど、プレリーは聞かないから……」
「なるほど、周りも頭を痛めているわけか」
天道が納得したように頷いている。黒い革ジャケットを羽織り、ジーンズにスニーカーと言うラフな姿は一般人に見える。
もっとも、見えるだけで傲岸不遜な態度は変わらない。
その彼がプレリーの心配をしているのが意外だったが、エール自身も彼に心配されたため案外そういう性格なのかもしれない。
エールが風に揺れる黒髪をおさえ、天道を振り返って立ち止まる。
「プレリーは行方不明のお姉さんに負けないよう、って気を張っているから……もうちょっと肩の力を抜いて、オシャレでもすればいいのに」
「ならば近いうちに誘えばいい。なに、あとのことは俺が処理しよう」
「……そういうことをするのは、普通にフルーブになると思うけど」
エールが呆れながら返し、視線を移動する。ここは殺人現場だ。
最初の被害者がここで死に、死体が放置されていた。
悲惨な現場に顔をしかめ、二度目からはヒトビトを恐怖に陥れる。
昼間なのに人気がない理由は、この連続殺人事件に対して警戒しているからだ。
「ここで最初の犠牲者が出たのね」
「調査隊が消息をたった場所ではないが、いずれも最初にここに訪れたらしい」
『なら、どこかで犯人が監視している可能性があるな』
エールはモデルZの言葉に頷いて、周囲を見回す。今のところは反応はない。
天道も同意見らしく、携帯端末を取り出して画面にマップを映した。
「とりあえず、三回調査隊を送り込んで、三箇所で連絡が途絶えた。俺がこの二箇所の付近を探してみるから、エールは一番遠いここを頼む」
「了解。これなら情報収集のしかたとか、ちゃんと訓練しとけばよかった」
『今更いっても後の祭りだ。それでは天道、合流場所に変更はないな?』
「特にない。そちらは任せた」
天道と短いながら確認し合い、エールはその場を離れる。
なんだかんだいって、共に戦う相手としては両者信頼してきている、とエールは思っていた。
そして、一度だけ殺害現場を振り返る。
普通に生活しているだけのヒトビトが殺された。それはどれだけ、理不尽なことだっただろう。
エールは連続殺人を犯す敵に対し、怒りを出して一歩踏み出した。
噴水から水が飛び出て、池を作る。普段はカップルや親子連れが多い公園は人が少なく、休むのに最適であった。
青いジャケットを羽織り、活動的な雰囲気の美少女であるエールはベンチに腰掛けてため息をついていた。
とても数時間前に決意をもって調査を開始したとは思えない。
『なんにも手がかりが見つからないね』
358 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:01:15 ID:HrfUPTdY
「うん。人に聞こうにも大通りにも人が少ない。聞けたとしてもいつもとたいして変わらない、目撃者が0、殺人事件があったことさえ知らない人がいる。
手がかりはまったくなし」
モデルXはエールの答えに沈黙する。今回の事件を彼なりに推理しているのだ。
それにしてもおかしな話である。目撃者が0というのはどういうことなのか。
治安のための監視カメラにすら姿が映らないらしい。まったく持って不条理な話だ。
エールが堪えているのは、肉体的な疲労ではなくなんの手がかりもないという不安なのだ。
思考を続けるも、考えがまとまらない。
はぁ、とため息をついたエールにふわっ、といい香りがする。
思わず振り向いたエールの視界に、青いバラが広がった。
「エールさん、お久し振りです。運び屋の仕事ですか?」
「その声……花屋のジルさん?」
エールが柔和な声に顔をあげて名前をつぶやくと、見知った顔があった。
セルパンカンパニーが滅び、運び屋仕事に復帰したときの第一号のお客さんである。
エールと一、二歳年上の、どこか頼りないが優しい雰囲気に白い清潔感あふれるシャツ。
耳のあたりにまで揃った綺麗な金髪、黒縁の眼鏡と典型的な優男であった。
「最近仕事を依頼しようと思っていたのですが、連絡取れなくて……」
「あ、すいません。最近は休業していまして……」
「それまた急ですね」
「まあ、近いうちに再開しますよ。気楽に待っていてください」
どん、とエールは自分の胸を叩く。
支払いもマナーもいいため、ゴルクル夫妻に次いで好感の持てる客であった。
そういえば、とエールはジルに確認をとってみる。
「エリファスさんも元気ですか?」
「母さん? 元気元気。いつか依頼して持ってきてもらった薬で、足の調子もいいみたい。
半自動運転にもすっかり慣れているし、エアカーを使ってどこにでもいくよ」
ジルは笑って答える。彼ら母子は近所でも評判の仲の良さだ。
足が悪く車椅子を使っている母親をジルは助け、母親もまたできた人物である。
エールも数度あっているが、夕食を御馳走してもらったことは一度や二度ではない。
足が悪いのによく調理が出来るものだ、と感心したものである。
ちなみにエールの料理は……お察しくださいの出来だ。
「それじゃ、お客さんにこれを渡しにいかないといけないから、僕はもう行くね?」
「はい。けど、それだけの量を剥き出しで?」
「いや、店でラッピングしてから渡しにいくよ。今は店に戻る途中。それじゃエールさん、また会いましょう。母さんも会いたがっていましたし」
「ええ、それじゃ」
笑顔で離れていくジルの後ろ姿を見届けると、モデルZが出てくる。
いきなり出てきたモデルZを不思議に思っていると、モデルZはエールを見つめた。
『それにしても、ちゃんと客には敬語を使うようになったな』
「ちょっと! それは二度と言わない約束だって……」
『気にするな。もう少し休むか?』
エールの問い掛けにモデルZがはぐらかした。
しかし、モデルZの問い掛けに、エールは楽になったのを自覚して立ち上がる。
エールは不機嫌な答え方をしながら、実はそんなに怒っていない。
運び屋として人と人のつながりを実感する。それがエールにとってのこの仕事のやりがいだ。
早く自分も日常に戻り運び屋の仕事を再開したいと考えながら、エールは歩みを進めた。
「白いスーツに、白い帽子の男……?」
「ああ、少なくともこの街にそういう男はいなかった。なにしろ狭い街だからねぇ。
そんなに目立つ男なら名前くらい広まってそうだけど……」
天道は見かけた男性に声をかけて、口をついて出た男に思案する。
359 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:03:08 ID:HrfUPTdY
最初は天道を見て警戒していたのだが、ガーディアンであるという身分証明を見せたらあっさりと納得した。
男いわく、「ようやく上も事件を解決する気になったか」だそうだ。
その男から聞いた怪しい人物の姿。天道にとって忘れたくても忘れられない男に似ている。
「協力を感謝する。そろそろ仲間との合流時間だからな」
「おお、そうかい。頼むよ、このままじゃ商売あがったりなんだ」
男が天道に期待するように笑顔を浮かべて送り出す。
天道は踵を返すが、脳裏にはあの男がちらついてならない。
(俺がいるということは、他の奴が来てもおかしくないということか?)
だとすれば厄介である。あの男とは対等の条件で戦う機会がなかったものの、手練であることには変りない。
天道が相手にした人物では、ライダーワーム両方あわせても最強の部類に入る。
自分はともかく、エールには荷が重いだろう。
(なにしろ成長期だからな)
伸び代があるのはいいことだ。彼女はきっと強くなる。
その芽を摘まれないように動くのも天道の役目だ。
「おばあちゃんが言っていた。自分はすべての兄になるべき男であると」
ひとりごちて、笑顔を浮かべる。
手強い相手だろうと、遥かな因縁があろうと、天道のすることは変わらない。
おばあちゃんの言っていたことは偉大である。
□
夜が近づく時間、天道は顔をしかめてエールを見下ろす。
天道の得た情報では手がかりには遠く、次の手を考えているとエールが提案してきたのだ。
モデルZも絡んでいるらしく、エールの説明を補佐していた。
彼女の提案とは簡単である。
「おとり捜査か」
「うん。このままじゃ埒があかないから、犯人をアタシたちで誘き出そうと思うの」
『エールに足りない経験は俺が補佐する』
「……おとり捜査は難しいぞ。俺は経験あるが、モデルZやエールは大丈夫なのか?」
『その点は問題ない。こういう場合も想定して、エールには教えていた』
天道はモデルZの言葉を聞き、エールに視線を移した。
彼女はやる気なのだが、おとり捜査に慣れているとは思えない。
必要なのは知識でなく、経験であったのだ。
天道はその手の荒事は経験豊富だ。相手がワームなのだ。仕方ない。
しかし、エールはどちらかというとからめ手は苦手そうに見える。
戦闘となれば別だが、年齢からして経験不足は否めない。
「モデルX、お前はどう思う?」
『危険過ぎるから、僕は賛成出来ない。天道さんも二人にやめるよういってもらえないかな?』
モデルXの言うとおりだ。エールは強いが、より弱い戦力で倒せる方法はいくつもある。
それに、敵は強い連中を温存しているのだ。
不安になるのもしょうがない。
「けどこのままじゃ犠牲者が増えるだけだよ、モデルX、天道」
天道に勝ち気の黒い瞳を向けているエールの様子を探る。
天道は数秒沈黙した後、しぶしぶといった感じで口を開いた。
「いいだろう。好きにしろ」
「さっすが天道! 話が早い」
「ただし、連絡は密にとるんだ。危険は大きいからな。特にワーム相手だと」
「うん。じゃあさっそく……」
「いや、少し待て。エール」
エールは天道を振り向いて、まだなにかあるのだろうか? という表情を浮かべている。
360 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:04:10 ID:HrfUPTdY
天道はモデルXに視線を送って、すぐにエールへと止めた理由を告げた。
「弁当を今作ってくる。十分でできるから、おとなしく待っていろ。行動を開始するのは、それからでも遅くはない」
「え……あ、ありがとう」
エールの礼に、天道は笑顔を返してこの街におけるガーディアンの拠点へと入る。
内部の厨房に入って、天道は調理を開始した。
空に浮かぶ月の下、月光を浴びた刃が冷たく光る。
どこかメカメカしい剣を手に、凶相の男は笑顔を浮かべた。
「今宵もサソードヤイバーは美しい」
などと抜かし、スラッと立ち上がった。
ゆったりとした服装に、切りそろえた黒の頭髪の目元は涼しい。
血に飢えた獣の相貌でもあり、高みを目指す戦士の顔でもあった。
「さて、切り札は隠さねばならない。ならば、今また爪の露となるものはどこか……」
男はそう告げて、崖からフッと姿を消す。
後に残ったのは寂しく風が吹く荒野だけだった。
「天道、あっさりと同意したね」
『事前にプレリーたちに許可を取っていたのも大きかっただろう』
「まあそうなんだけど」
エールは笑って街灯の下進むべき道を見つめる。
暗闇に染まった道路が不気味に続いていた。
幽霊など非科学的なものを信じてはいないが、つい想像してブルっと震えた。
「今日は満月か」
『そういえば、例の殺人は満月の夜に行われたものだね』
「なら好都合ね」
エールが笑みを浮かべて、モデルXに返す。
もっとも、モデルXはあくまでも心配そうにしていた。
モデルXは心配性だ、とエールが思っていると、風が吹いてエールの頬をなでる。
いや、この風は違う。エールはとっさに後方に飛び退いた。
すると、衝撃で地面のコンクリートが瓦礫を産んで舞う。
二回目の攻撃がくる前に、エールの手はモデルXとドレイクゼクターを握っていた。
「クロスロックオン!」
エールの凛々しい声と共に、『Change ROCKMAN』の電子音が夜の道路に鳴り響く。
人が住んでいない無人の廃ビルを背に、エールは空色のロックマンDXへと変身を終えていた。
「クロックアップ」
もはやつぶやき慣れた宣言を終え、エールは加速世界へと突入する。
宙を舞っていた瓦礫の動きが凍り、月下の中エールは敵の正体を見つけた。
「やっぱりワーム!」
スズムシを擬人化したような怪物が、加速世界の中エールを睨んでいた。
ワームが羽を震わせると、スズムシの音と似たような音が響く。
エールはその音を無視して、姿を視界に捉えドレイクゼクターを持ち上げる。
茶色い虫の姿に、エールは怒りを持ってドレイクゼクターの引き金を引く。
ワームはその銃撃を捌き、エールへと宙を舞いながら突進してきた。
「くっ!」
エールはワームに跳ね飛ばされ、地面に叩きつけられる。
衝撃に目を白黒させながら、エールは天道に連絡する隙を得るのは難しいと判断した。
361 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:05:34 ID:HrfUPTdY
『エール、ここは一旦ひいて天道さんと合流しよう』
「冗談! あいつを逃がしたら、また被害が増えるでしょう!」
『いや、俺たちは不利だ。あのワームはできる。体勢を立て直すことが先決だ』
さすがのモデルZも撤退を提案するが、エールも頑固である。
ドレイクゼクターの銃弾をワームへと撃ち込み、前へ進む。
モデルXが『エール!』と窘めるが、脳裏に浮かぶ仲の良い母子にエールのトラウマが刺激される。
(もう二度と、あんな想いを誰にもさせない!)
ぐっ、とエールは唇を噛んでボルトに当たるヒッチスロットルを引く。
エネルギーを充填しながら、銃口を流れるようにワームへと向けた。
引き金を絞ると同時に、ワームが動いた。避けるには遅い、と思考するエールの期待を裏切られる。
獣の咆哮が響いた。
ワームは叫び声をあげたまま、地面を殴りつける。盛り上がった瓦礫にライダーシューティングがぶつかり、爆破する。
エールは驚き、二発目を用意しようとするが腕が動かない。
「な……に……? こ……」
エールがしゃべろうとするが上手くいかない。ガクッ、と膝をついて始めて筋肉が硬直しているのに気づいた。
なぜだ? と疑問に思うエールの視界に、羽をこすって音波を発生させるワームの姿がある。
エールに知る由もなかったのだが、ベルクリケタスワームは羽をこすり特殊な催眠音波を発声させることができる。
それによって相手の筋肉に作用し、ある程度コントロール可能なのだ。
催眠音波に四肢を麻痺されて、地面に伏せるエールにワームは右手を向けた。
途端、周囲の景色が通常に戻り、動きを凍らせていた瓦礫が落ちる。
周囲に降り注ぐ瓦礫の雨の中、エールの耳に聞き覚えのある声が届いた。
「ジル! どこなの? ジ〜ル!」
花屋の主人であり、今はジルと二人で暮らす女性の声。
僅かに軋む車椅子の車輪の音がやけに大きく聞こえた。
まずい。このままでは彼女が危ない。
エールは麻痺した身体にムチを打って、勢いよく上体を上げた。
「エリファスさん! 今はこっちきちゃダメェェェ!!」
エールはエネルギーをためた銃口をワームへと向けながら、大きく叫ぶ。
大型のエネルギー弾が開放されるのと、エールの鳩尾に重い衝撃が届いたのは同時だった。
はずれか、と天道は自分のルートを確かめて思考する。
条件はそれなりに揃っているが、餌をわかりやすくしたか? と反省点を脳内で作りあげていった。
今失敗したからといって悲観することもない。
天の道を往く天道だが、失敗したことも数多くあった。
人間に必要なのは肝心なときにミスをしないこと。これはおばあちゃんも言っていた。
夜風が身体に当たり、天道が空を見上げた瞬間爆発音が響く。
天道が振り向くと、エールが向かった先だ。
あそこに引っかかったのか。エールの連絡がないことに、天道は表情を殺す。
「変身」
静かに一言。それで天道の腹に収まったカブトゼクターは六角形の金属片を身体にまとわせた。
銀色の戦士となり、キャストオフと宣言してカブトは駆ける。
カブトの視線は爆発現場にしか向いていなかった。
そして、現場には戦闘跡があったものの、エールの姿はなかった。
□
ジルの朝は早い。
花の世話をして、ラッピングし、見栄えよく整える。
362 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:07:11 ID:HrfUPTdY
繁盛して忙しい日々を過ごしているが、ジルは花の世話に手を抜いたことがない。
霧を吹きかけて、時計を見ると六時を示していた。
まだ店を開けるまで三時間もある。ジルは店の二階にある住まいへと階段をのぼった。
鼻に卵が焼けるいい匂いがする。焼かれたパンが並ぶ中、やはり母親は起きていたかと思った。
「母さん、おはよう」
「あ、ジル。お店の方はいいの?」
「準備は済ませたよ。後は店を開くだけさ」
それで、とジルは一室に視線を動かす。彼は心配そうにその部屋を見つめていた。
それもそうだ。なぜなら…………と思考したところで件の部屋から大きな音が聞こえてきた。
ジルは母親と顔を合わせ、部屋に駆け寄る。
「エールさん、どうしましたか? なにかあったんですか?」
ドンドン、と叩く。ジルは返ってくる返事を待った。
時間は少し遡る。
日が昇りカーテンの隙間から陽光がエールを照らした。
かわいらしい顔をしかめ、黒い瞳が周囲を見回す。
エールの知らない場所だ。ボーッとした頭では考えがまとまらない。
『起きたか』
「あ、モデルZ。おはよう……」
エールは寝ぼけ眼のまま、上半身を起こして、ズキッと腹部に鈍い痛みが走った。
エールは思わず「うっ!」と呻き、バランスを崩して派手に転ける。
ゴン、と大きい音を立てて額を地面に打った。
「いったぁぁぁ〜〜」
涙目になりながらも、エールは周囲を見回した。
自分がどこにいるのか把握しなければならないからだ。
すると、ドアからコンコン、とノックする音が聞こえてくる。
『エールさん、どうしましたか? なにかあったんですか?』
「ジル……さん?」
エールが声の主に驚いていると、ドアノブが回り焦った様子の少年が姿を見せた。
エールが地面に座り込み、赤くなっている額を抑えている姿を見届け、ジルが勢いよく駆け寄ってきた。
「どうかしましたか? なにか不都合でも……」
「あ、いえ。そういうんじゃないです……」
エールはジルに対応しながらも、昨日の出来事を少しづつ思い出してきた。
腹部に手当がされている。そこまで思考して、エールはジルに掴みかかった。
「って、ジルさん! エリファスさんは無事ですか?」
「母さん……? 母さんならピンピンしているよ。昨日は倒れているエールさんを母さんが見つけて大変でした。なにがあったんですか?」
エールはエリファスが無事である事実にホッと安堵する。だが今度は別の問題が起きてしまった。
ジルが心配そうに黒縁メガネの下の青い目をうるませて、エールを見つめている。
心底心配であったとわかる分だけ、エールは答えに詰まったのだ。
正直に言うわけにはいかない。そして、エールは嘘をつくのが苦手であった。
「こら、ジル。エールちゃんが困っているでしょう?」
優しい声に助けられ、エールは車椅子が部屋に入るのを目撃する。
最近の車椅子は高性能だが、身体を機械に置き換える現代では珍しい代物であった。
最初見たときは驚いたのだが、今では慣れたものである。
エールは笑顔を浮かべて、守ろうとした女性に視線を向けた。
ジルと同じく柔らかい金髪のショートカット。優しげな面差しに、凹凸の激しい女性なら羨ましがる身体。とてもジルを産んだとは思えない。
料理を作っていたのか、エプロンをかけている。車椅子を動かし、エリファスはエールへと微笑んでいる。
「お久しぶりです、エリファスさん」
「そんなにかしこまらなくてもいいわよ。今朝ごはん作っているからベッドで休んでいなさい。ジル、行くわよ」
363 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:08:05 ID:HrfUPTdY
「ちょっと、母さん……。まあ、エールさんも立ち上がるのが辛ければいってください。手助けにきますので」
ジルはそうエールに告げて、部屋を出て行く母親を追っていった。
パタン、とドアが閉まったときエールに疲れが押し寄せてくる。
『やっといったみたいだね』
そして、エールは恐る恐るモデルXの言葉に振り向いた。
明らかに背後に怒りのオーラが見える。普段はおとなしいモデルXが珍しく怒っていたのだ。
エールはゴクリと生唾を飲み込んだ。
『モデルX、今回の件は俺にも責任がある。だから……』
『モデルZは黙っていて。エール、確かにみんなを守りたい気持ちはわかるけど、今回は失敗だったよね?』
「う……ごめんなさい」
エールは頭を垂れて素直に謝る。激怒したモデルXは本人が頑固なのも相まって、タチが悪い。
嵐が過ぎるのを待つように身を縮めて耐えるしかなかった。
もっとも、今回は確かに反省点も多い。敵の能力を侮ったのと、これ以上犠牲者を出させないためとはいえ焦ったことだ。
死んだジルウェにも叱られるだろう。
モデルXがエールの短絡的な性格を責める中、ふと疑問を口に出す。
「……そういえば、アタシが負けた後はどうなったの?」
『話を逸らそうとしていない? まあ、いいけど。……それが妙なことにあのワームは攻撃を中止したんだ』
「攻撃を中止……?」
さすがにモデルXも説教を中止し、昨夜の違和感をエールへと報告してきた。
モデルXはまた本人を前にするしか確かめる手段はない、と結論をつける。
エールもその意見に同意だ。
「それじゃ、攻撃を中止してどうしたの?」
『どうもこうもない。ワームは姿を消して、エリファスが近づきエールの応急手当をした。変身は俺たちの判断で勝手に解いたから、バレてはいない。
すぐにジルも姿を見せ、エールをここに運んだ。近くに病院がなかったし妥当な判断だ』
「うわー、アタシって間抜けだ」
モデルZに改めて説明してもらうと、死にたくなってきた。
自分の作戦を推したプレリーや、しぶしぶながらも了解してくれた天道に申し訳がない。
『焚きつけたのは俺だ。責任は俺がとる』
モデルZが頼もしいことをいってくれるが、それならモデルXの今の怒りも受けて欲しいと思った。
しかし、そう都合よくはいかない。なぜなら、下手をすればジルもエリファスも死んでいた。
エールが自覚した瞬間、悪寒が背筋を昇る。エールの脳裏に懐かしい光景が浮かんだ。
―― メットールをマスコットにした遊園地が炎によって赤い色に染め上がる。
―― ヒトビトの悲鳴が上がり、人ごみの中、小さなエールは母親の手を握っていた。
―― イレギュラーの群れの銃弾で建物が破壊される。
―― エールを安心させようと振り向いた母親の後ろに、イレギュラーが現れて……。
『エール?』
「モデルX……ごめん。ちょっとボーッとしていた」
『……調子も悪そうだし、今はここで切り上げよう。細かい打ち合わせは天道さんと合流してからだ』
「うん。まずはあの二人に挨拶して、プレリーたちに無事を知らせる」
364 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:09:28 ID:HrfUPTdY
『そうだね、それが一番だ』
モデルXの同意を得て、エールは立ち上がった。
もっともモデルXの怒りは解けていない。
いつもなら恐ろしい事態なのだが、今のエールには気になることがあった。
あの日の悪夢、すべての始まり。
セルパンを倒し、ジルウェに想いを託されて乗り越えたと思っていた。
もしかしたら自分で思っていたほど、自分は強くないのだろうか?
エールは頭を振って不安を吹き払い、ドアノブに手をかけた。
□
「よかったぁ……エールが無事で」
プレリーはエールからの連絡があった通信機を切って安堵する。
彼女の身を心配したプレリーだが、深夜にガーディアンの部隊を総動員するわけにはいかなかった。
ゆえにその日は捜索を天道だけに任せるしかなかったのだ。
「さっそく天道さんやみんなにも教えないと」
プレリーはさっそく通信機を手に、今も捜索活動を続ける数人の仲間へと連絡をとる。
エールの心配をして志願してくれたのだ。まずは彼らを安心させることから先だ。
プレリーは捜索隊のリーダーを、調査員と兼任する天道へコールを鳴らした。
こんがりと焼けた食パンとベーコンに目玉焼きが乗った皿が食卓に並ぶ。
手元にはバターが置かれており、新鮮なレタスに乗っかる半切りのトマトと、サラダもある。
エールが席についたのをエリファスは嬉しそうに微笑んで、話しかけてきた。
「さあ、どうぞ。召し上がれ」
「はい。いただきま〜す」
ぐ〜、とエールのお腹も主張しているため、遠慮なくいただくことにする。
傷はまだ痛むが、無視できるレベルだ。本能には抗えない、と無駄に哲学なことを考えてパンに手を付ける。
はむ、とバターを塗ったパンを噛みしめて、エールは生きている実感を味わった。
一口パンを噛みちぎると、余裕が出たのかエールは一つの事実に気づく。
お客さんで恩人ということもあり、かしこまった口調でエールは尋ねることにした。
「そういえばエリファスさん、ジルさんはどうしたんですか?」
「ジルなら店を開けているの。私はこんな足だし、ほとんどあの子に任せているわ。それよりエールちゃん?」
「はい?」
「今は仕事中じゃないし、楽にしていいのよ。その方が私もありがたいし」
エールはエリファスの言葉に数瞬だけ悩んだ。
もっとも、楽なほうを提案してくれるのはありがたい。
客仕事のため敬語は使えるのだが、エール本来の性格には合わなかった。
「……うん、ありがとう。それでアタシがなんであそこに倒れていたかは……」
「聞かない方がいいかしら? ならそうする」
「え? いいの?」
エリファスはエールに困ったような笑みを浮かべて、エプロンで手をふいた。
エールのために用意した牛乳を置きながら答える。
「そりゃあ、女の子があんなところで傷を負って倒れているもの。事情をきかせて欲しいわ」
「えーっと、ごめんなさい! さっきから謝ってばかりだけど、こればかりは話せないの!」
「そう、ならいいわ。ところで、連絡はついた?」
「ええ。ここに迎えに来るって」
「きっと心配していただろうから、謝らないとダメよ?」
「……はーい」
エールは天道が取り乱している姿を思い浮かべようとしたが、あの超然とした男が取り乱す姿が想像できなかった。
366 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:11:22 ID:HrfUPTdY
とはいえ、天道が探索チームの指揮をとったのだとプレリーはいう。
ものすごく迷惑をかけた自覚があるため、身を悶えさせたかった。てか、一人なら絶対悶えている。
エールが天道にあわせる顔がないと、パンを勢いよく齧った。
(よかった。エールさんは元気みたいだ)
ジルは安堵して花束をラッピングする。母親から彼女が起きて、朝ごはんを食べたと聞いたのだ。
今はきっと二人でお茶をしているに違いない。エールを迎えに来るという人物がくるまで、彼女は母の相手をされるのだろう。
ジルは大口の注文があったため、運搬業者が来るのを待つ。
準備はすでに出来ていた。カラン、と音がして自動ドアの方へ視線をやる。
入ってきた整った顔立ちの男にジルは見ない人だ、と思って声をかける。
「いらっしゃいませ!」
「すまないが、客ではない。エールがここに居ると聞いて迎えに来た」
「ああ、そうですか。少しお待ちください。今呼んできますので」
「ぜひ頼む」
偉そうな態度にもジルは「おかしな人だ」程度にしか印象を抱かなかった。
ジルが上にいる母に、迎えが来たと内線電話で告げる。
すぐにでも降りてくる、と伝えると男は別の方向へ視線をやっていた。
「花が好きなんですか?」
「まあ、そこそこにな。ところで、あの大量の青いバラは?」
「大量に欲しいと注文がありましたので、用意したんです」
そうか、とだけつぶやいて男が沈黙した。
ジルが笑顔を向けて、眼鏡のフレームの位置を直しながら話しかけようとしたとき、二階より人が降りてくる気配を感じる。
エールが恐る恐るといった様子で姿を見せ、天道の姿を見たと同時に頭を垂れる。
「ごめんなさい! 天道、つい先走って……」
「そうだな、おかげで皆に心配をかけた。だが…………」
天道と呼ばれた男の表情が柔らかくなったのを、ジルは見過ごさなかった。
ほんの刹那の間だけ覗かせた表情だったため、頭を下げているエールには見えなかっただろう。
彼が見せた親愛の情にジルは頬が緩んだ。だからこそ、次の言葉はジルにとっては意外でなかった。
「無事でよかった。心配したぞ」
エールがキョトン、と天道を見つめている。
それに対し、まるで兄のように天道はエールを迎えた。
□
天道に連れられて、エールを探索に来たガーディアンの仲間たちのもとへ向かっていく。
川が流れ、橋を通るときにエールは天道に声をかけた。
「ねぇ、天道」
「どうした?」
「……天道はどうして、アタシを助けてくれるの?」
「簡単だ。おばあちゃんが言っていた。模倣となるべき人間は、すべての兄であるべきだと。
俺は生まれたときからそういう宿命を背負っている。そういうことだ」
「いや、どういうことよ」
エールが相変わらずの天道に呆れる。もっとも、彼の行動には感謝してもしたりないが。
天道が言う言葉、特におばあちゃん絡みものは本気であることに気づいている。
だからこそ、不思議でしょうがない。彼はなぜエールに対し、肉親のような感情を抱いてくれるのか。
そうエールが思ったとき、発砲音が響いて天道に抱えられた。
身体浮いた、と思ったときには天道は向きを変え、敵と対峙している。
エールも降りて、相手を睨みつけた。
367 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:12:11 ID:HrfUPTdY
「さすがに反応がいい……それに、ようやくこいつを使える相手に出会えたか」
役者のように整った顔立ちの男が、紫色の剣の刃に舌を這わせていた。
左手に握るのはサソリ型のデバイス。おそらく新しいゼクターであろう。
「ワームか」
「その通り! 仮面ライダー同士の戦いを始めましょう。天道総司!」
男はそう言って剣とサソリ型デバイスを合体させる。
『Hen-shin』の電子音と共に、男を六角形の金属片が包んで見覚えのある姿へと変えた。
赤紫の胴体部。各種にチューブが埋め込まれて、中を液体が通るのが見えた。
蠍の尾を模した頭頂部に、横一文字のバイザー。ドレイクやカブトとはまたデザインだが、仮面ライダーであることに間違いはなかった。
天道がいうには、すべてのゼクターはワームの手中にある。ならばこのワームが昨晩エールを襲ったのか。
エールは仮面ライダーに対抗するため、モデルXとドレイクゼクターを構えるが天道が抑える。
「エール、今は力を温存しておけ」
「…………わかった」
「やけに素直だな? いつもなら食ってかかるはずだが?」
「昨日のことを反省しているの! 人が下手に出たのにもう……」
「わかっている。変身」
エールが愚痴るのも構わず、天道がカブトへと変身した。
銀色の仮面ライダーと、赤紫の仮面ライダーが正面から睨み合う。
風が吹き、橋から小石が落ちる。水面が揺れると同時に二人は地面を蹴った。
『Cast off』
同時に奏でられた電子音と共に、二人の仮面ライダーの鎧がはじけた。
宙でぶつかり合うパーツの中、カブトは目の前のサソリを模した仮面ライダーを見つめる。
マスクドフォームのときとは違い、全身濃い紫の装甲。緑の二つの複眼。銀のベルト。
かつてサソリのマスクド・ライダーシステム、サソードの名を伝え聞いたことがある。
おそらくこのワームの前の使い手だが、剣の腕前は一流だったとのことだ。
目の前のワームの腕を見定めようとしたとき、サソリを模した頭部に光が宿り日本刀とほぼ同等のリーチの剣を振るわれる。
カブトは冷静にクナイガンの刃で受け止めて、後方へ跳躍した。
「逃がさん!」
サソードが逃げるカブトを追いかけて距離を離さない。
接近戦に長けるサソードが距離を保つのは当然の選択だ。
「舞え!」
流れるようにサソードの斬撃がカブトを襲う。
右から弧を描く刃の軌跡を上半身を倒して躱す。
サソードがすぐに剣を斬り返し、すくい上げるように左から逆袈裟に襲いかかってきた。
クナイガンで剣を弾き、刃が宙に浮いたのを確認する。
「甘い!」
サソードが狂ったように笑い、一旦刃をひいて突きを繰り出した。
速度が速すぎて避けきれない。カブトの頬に刃が走る。
ザッ、とようやくサソードから距離をとることに成功するが、削れた装甲より血が流れた。
どうやら斬られたらしい。
「天道!」
エールの心配する声が聞こえる。カブトはサソードに視線をやった。
「天道に攻撃が当たった? モデルX……」
『いや、まだその必要はないようだな』
「モデルZ。でも、始めて天道に……」
『皮一枚。それに、あの程度の剣技では天道に届かない』
モデルZにいわれて、エールは再び戦いを見る。サソードが地面を蹴って、大ぶりに剣を振るう。
368 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:14:08 ID:HrfUPTdY
カブトに刃が届きそうになった瞬間、カブトは一瞬でサソードの懐に潜り込んだ。
「なに!?」
サソードが叫ぶが、カブトは冷静にサソードの右手首に掌打を打ち込んだ。
サソードのバランスが崩れ、カブトは容赦なく脇腹に拳をめり込ませる。
骨が折れる鈍い音が響く。エールは痛さを想像して顔をしかめた。
「がはっ!」
「どうした? 俺が伝え聞いたサソードの足元にも及ばないぞ」
「ふざけ……ッ!」
サソードが怒るが、エールはそれは命取りだと判断する。
事実、サソードの突きは躱されて、カブトによって腕をつかまれ地面に背中を叩きつけられた。
「クソ……ライダースラッ……」
サソードはゼクターの尾を押し込もうとして、顔面を殴られて強制的に中断された。
エールは少しでもカブトが危ないと考えたことを恥じる。いつも以上に相手にならない。
(けど、どういうこと? あいつは昨日アタシを……)
『エール、他のゼクターだ。気をつけて!』
エールが疑問に持つが、答えを得る前にモデルXの言葉が思考を中断する。
モデルXとドレイクゼクターを用意して、すぐさまロックマンDXへと姿を変えた。
ドレイクゼクターの弾丸を吐き出し、乱入してきたゼクターを撃つが選けられる。
やがて影はカブトへ襲いかかり、カブトは大きく跳んで躱した。
サソードとカブトの距離が開いたとき、間に白い大きな影が現れる。
二メートル近くある鍛え抜かれた巨漢。白いスーツをまとい、白い帽子の下の鋭い瞳がカブトとエールに向けられる。
その瞬間わかった。目の前の男はただ者ではないと言うことを。
「お久し振りですね、天道総司」
「黄金のライダー……まさかここでも会うとはな」
白いスーツの男が青いバラを向けた。
大事そうにつまむ青いバラの花びらが、風に舞う。
「黒崎一誠、仮面ライダーコーカサスです。この世界の英雄、ロックマンZXの少女。以後お見知りおきを」
外見に似合わぬ丁寧な言葉が、エールには逆に恐ろしかった。
黒崎は後ろで無様に倒れているサソードに視線をやり、カブトと対峙する。
サソードにかける言葉は当然冷たいものとなった。
「いつまでそこに倒れているのですか? 天道総司は押さえてあげますから、さっさと逃げたらどうです?
あの少女からは自力で逃げてください。そこまで面倒をみきれないので」
「くっ……」
サソードの悔し気な声に、エールが反応する。カブトに視線を送られて頷いた。
黒崎の脅威を計算に入れて、エールに任せるしかないのだ。ここでサソードを逃がすわけにはいかない。
サソードとエールがベルトのスイッチをスライドする。
「「クロックアップ」」
同じ響きが橋の上で唱えられた。風のように二人が姿をかき消す。
クロックアップの時間でハンデがあるが、あの程度の能力のサソードなら相手にもならない。
問題はやはり、目の前の男だ。
「ここにゼクトはない。それでもお前は戦うのか?」
「いったはずです。バラが見つめてくれるのはもっとも美しく、もっとも強いもの。
人間だろうがレプリロイドだろうがワームであろうが……ロックマンであろうが、支配者にふさわしければそれでいい」
「そうか、ならば戦うしかないな」
「もとよりそのつもり……」
黒崎が空手の型のような演舞を繰り出した。金色のカブトムシ型ゼクター、コーカサスゼクターが周囲を舞い踊る。
369 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:15:35 ID:HrfUPTdY
右手の銀のライダーブレスレットに、コーカサスゼクターが突き刺さった。
「変身!」
黒崎の巨体を六角形の金属片が包みこむ。
現れた金色のライダーを睨み、カブトは本気の構えをとった。
□
「いい加減しつこい!」
サソードが剣を振りながら言い捨てた。エールは冷静に見極め、上半身を沈ませる。
頭部のヘルメットを剣がかすめて、無防備の腹部に銃弾を撃ち込んだ。
「ガハッ!」
サソードが地面を転がり、痛みに身悶えている。
モデルZのいったとおり、たいした相手ではない。
だとするとおかしい。昨日のワームはかなりの手練だった。
このサソードが、あのワームではありえない。
そう考えていると、クロックアップの時間が終わる。
サソードのクロックアップは、エールの与えたダメージでとっくに切れていた。
「一つ聞かせなさい。ここにアナタ以外のワームがいるの?」
「知らん……死ねぇ!」
懲りない奴だ、とエールは呆れて頭部に回し蹴りを叩き込む。
紫電一閃、サソードがビルの壁に背中を打ち付けた。
エールはもうこいつを倒そうと考え、ドレイクゼクターのヒッチスロットルを引く。
「これでおしま……」
「エールさん……?」
ドレイクゼクターの銃口を向けようとしたエールに、聞き覚えのある声が届いた。
後ろを振り向くとジルが青いバラの花束を抱えて立っている。
同時に『Clock up』の電子音が響いた。まずい。
「命が惜しければ動くな! キサマたちは近寄るんじゃない!」
サソードがジルの背後に回り、動きを拘束する。
ジルが現れたことに動揺して一瞬隙を作ったことを後悔した。
『なんともお約束な台詞だな』
「うるさい……くそっ! くそっ! どいつもこいつもバカにして……」
サソードががなりたてて、刃にエネルギーを充填し、斬撃を飛ばしてきた。
エネルギーの刃をエールが避けると、ヒステリックにサソードが叫ぶ。
「避けるな! こいつがどうなってもいいのか?」
「そんな……」
エールは悔しさに歯噛みする。ジルを助けなければならないが、このままではエールともども死んでしまう。
迷うエールに、サソードが追い討ちをかけた。
「変身を解け、ロックマン」
『駄目だ、エール。従ったところで、奴が約束を守る保証もない!』
モデルZが忠告するが、サソードヤイバーの刃がジルの喉にめり込む。
血が一筋を流れたのを見て、エールの脳裏に自分を安心させようとした母の姿が浮かんだ。
一度だけ唇を噛み締め、エールは変身を解いた。
「そうだ、それでいい。天道総司に受けた屈辱、その身体で支払ってもらうぞ!」
サソードが嗜虐心をむき出しにして、刃を振るう。
エールの右腕が浅く切られ、血が流れた。嬲る気であろう。
「いい子だ、微動だにしないとはな」
サソードは笑い、今度はエールの右肩から血が噴出す。
エールは反射的に右目をつぶり、痛みを堪えた。
370 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:17:07 ID:HrfUPTdY
どうにかして人質を放さないと、手出しができない。
ドレイクゼクターが姿を消しているのだ。反撃の機会を伺う。エールの目は死んでいなかった。
「さあて……次はどこを切ろうか。かわいい顔だけは最後にして…………」
だが、サソードの言葉は最後まで紡がれない。
サソードがよろめき、後ろに下がる。エールは眼前の光景に困惑の表情を浮かべた。
「やれやれ。逃げるだけなら、大人しく人質になってあげようと思っていたのに」
その声はエールや母親へかけていた優しさの感情が微塵も含まれていない。
まるでゴミを見るかのように、ジルはサソードを見下している。
ジルの右手が昨夜襲ってきたワームのそれに変わり、サソードの腹部を貫いていた。
「サソードヤイバーは返してもらう。君たちに一度返したものだが、君に使われたくない」
ジルは吐き捨てて、彼の全身が水面の如く波打った。
同時に姿が変わり、スズムシを模したベルクリケタスワームへとなる。
エールをくだした強敵の姿だ。
「う……そ…………?」
ペルクリケタスワームが腕を引き抜き、サソードの変身が解ける。
同時に緑の爆発が上がり、名も知らぬワームを背にエールと対峙した。
『エール、変身しろ!』
モデルZが叫ぶが、エールは動かない。
まるで悪夢の中にいるような錯覚を受けて、エールは声が出せなかった。
右腕の傷の痛みに流れる血。そして硝煙の匂いが、ただ現実であるとエールに主張を続けた。
To be continued……
371 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/14(月) 21:18:22 ID:HrfUPTdY
六話投下終了します。
次回七話とあわせて一エピソードです。
次の七話は明日投下ます。
最後に支援を感謝しまう。
失礼。
規制かからないように書き込むはずが、読み耽ってて一度しかレスできなかったorz
しかし面白い!
サソード好きなんだよなぁ
しかしロックマンZXとカブト……うーん、予想外な組み合わせだったけど、はまるもんだ
クロスって凄いね
373 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 20:53:11 ID:n656iJB9
それでは第七話投下します。
注意
※オリジナルあり(モブ、敵のみ)
※クロス設定あり
※仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVEの没設定を利用しています(樹花の存在など)
374 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 20:53:53 ID:n656iJB9
七話 AFFECTION [本物の愛情]
人通りの少ない道で、砂埃が風に舞い上がる。
エールの艶やかな黒いショートカットの髪が揺れた。
地面の爆発が起きたところは黒く焦げて、エールの鼻に硝煙の匂いを届ける。
スズムシを模した茶色のワームを前に、エールは致命的な隙を晒していた。
『エール、変身しろ!』
モデルZの叫びが昼下がりの道路で響いた。
エールもその行為が正しい、と頭で理解しているのだが動けずにいる。
やがて茶色のワーム、ベルクリケタスワームが僅かに身動ぎをした。
エールが反応してどうにかライブメタルを掴むが、ワームの体表が水面のように飛沫を上げて見知った青年の姿に変わる。
柔らかい金の髪に、黒ぶちメガネ。タレ目気味の目に筋が通った鼻。
柔和な顔立ちは今はしかめ面を作っていた。
彼の右腕が動き、エールが反応する間もなく眼前にサソードヤイバーが差し出される。
「どういうつもり……? ジルさん」
「違う」
ジルはエールの言葉を否定する。いったいなにを否定しているのだろうか。
ジルはサソードヤイバーを前に差し出したまま、搾り出すようにして告げた。
「エールさん、僕はジルじゃない。ジルを殺し、そのすべてを簒奪した……ただのワームだ」
苦しそうな声が、エールの耳に届く。彼はなぜこんなにも辛そうなのか。
エールには理解出来なかった。
□
コーカサスとカブトの拳がぶつかり、衝撃波に川の水面が波打つ。
反動で二人が同時に離れ、橋の上で踏ん張って互いに睨みつけた。
コーカサスの瞳に光が宿る。カブトは仕掛けてくるとわかり、警戒をして構えた。
だが、その構えも無意味。黄金の影がカブトの拳をすり抜け、腹部に重い一撃を与える。
後方に数メートル吹き飛ばされ、カブトは片膝をついた。
加賀美と二人がかりでも圧倒されたのだ。一人で勝てる道理はない。コーカサスの瞳がそういっている。
愚かなことだ、とカブトの仮面の下で微笑んだ。コーカサスの肩部から、パキッという硬い音が鳴る。
「ムッ……」
コーカサスの動きが止まる。右のアーマーの先端部が欠けた。
コーカサスは落ちる欠片を見届け、カブトへとゆっくり視線を移動する。
「なるほど。アナタも強くなった、ということですか」
「おばあちゃんが言っていた。俺の進化は光より速いとな」
カブトは立ち上がって天を指し、コーカサスに余裕たっぷりと告げる。
もっとも、カブトには珍しくこれは虚勢だ。コーカサスは強い。
ハイパーゼクターがないとはいえ、単純な戦闘力ならカブトの上をいく。
とはいえ、ハイパークロックアップのない今こそ倒せる数少ない機会なのだが。
「ところで、一つ聞きたいことがある」
「答える必要がありますか?」
「この街には二匹のワームがいるだろう?」
カブトはコーカサスの拒絶を無視して、疑問をぶつける。
コーカサスは無言のままだが、なにより雄弁な答えである。充分だ。
コーカサスの構えに力が入る。本気でくるのか。カブトはカウンターの体勢を整えた。
二人の間につむじ風が舞う。近くの街路樹の葉がこすれあい、風がやんで二人が動く。
『Rider kick』
『Rider beat』
カブトの足が、コーカサスの拳が、タキオン粒子の電流をまとってぶつかり合う。
375 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 20:55:11 ID:n656iJB9
二十トン近くの衝撃のぶつかり合いに橋がひび割れて、水面が波立つ。
力が拮抗すること数秒。衝撃は収まり、中心の二人は拳と蹴りをぶつけたまま制止した。
やがてゆっくりとそれぞれの足や腕をおろし、先にコーカサスゼクターが離れた。
「なんのつもりだ?」
カブトの姿から戻り、天道が尋ねる。それに対し黒崎は踵を返した。
橋を超えたあたりでピタリと止まり、振り向かず先程の問いに答える。
「なに、ここで決着をつける気をなくしただけです。また近いうちに会いましょう」
そう言って去っていく黒崎の後ろ姿を、天道はただ見ているだけであった。
コーカサスとの戦闘でダメージが大きい。黒崎の姿が見えなくなったと同時に天道は膝をついた。
大きく喘ぎ、キッと前を睨みつける。必ず倒す。天道の瞳はそう言っていた。
『エール、遠慮することはない。こいつは人を殺しているはずだ。倒すんだ』
モデルZの冷静な声にハッとなって、エールは距離をとる。
サソードヤイバーはジルの手にあった。ライブメタルを取り出し、
―― エールちゃん。
ジルの母親であるエリファスの顔を思い出して、動きが止まる。
『どうした? エール!』
モデルZが急かすが、敵が目の前にいるのだ。当然であろう。
ただ、理屈ではわかっているのだが、エールの心が彼を討つことを拒否している。
なぜだろうか。理由がわからない。困惑するエールの前で、ジルが先に動いた。
ジルは見事にエールの前で土下座する。突然の行動にエールの混乱は深まるばかりだ。
『なんのつもりだ?』
「…………僕はワームだ。殺されてもしかたないし、エールさんになら殺されてもいい。だけど……」
エールの代わりに尋ねたモデルZへジルは答え、柔和な顔に決意を乗せてあげた。
必死にすがる人間のように真剣な表情が、そこにはある。
エールはゴクリ、と生唾を飲んだ。いつの間にか、手には汗が握られている。
「三日だけ、三日だけ待って欲しい! その間に死ぬ準備を整える。だから……」
『その間にヒトを殺さないとも限らないだろう?』
モデルZにバッサリと切り捨てられて、ジルは言葉を詰まらせる。
なにしろ昨夜襲ったのは彼自身だったのだ。警戒し、言葉を疑うのが普通だ。
「信じてもらえないのはわかっている。けど……」
「いいよ」
必死に懇願するジルに、エールは思わず答えてしまった。
望んだ展開のはずなのに、ジルが目を見開いてエールを見ている。
モデルZの咎める視線を無視して、エールはもう一度告げた。
「わかったからいってよ! 絶対……絶対三日後には許さないから……」
我慢出来ずジルへ理不尽な怒りをぶつける。
傷を負わされたから正当な怒りのはずなのだが、エールの感情はそこからきたものではない。
もっとも許せないこと。それはエリファスがどうあっても悲しんでしまうことだ。
「エールさん……」
ジルはただ一言、感謝するようにつぶやいてエールに礼をいい、走って視界から消えた。
いつの間にか、地面にはサソードヤイバーが放置されている。
『エール、大丈夫?』
モデルXが心配そうに声をかけるが、エールは頷き返すので精一杯だ。
頭がごちゃごちゃして考えがまとまらない。
「モデルX、モデルZ。このことは誰にも話さないで……」
『エール……』
376 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 20:56:14 ID:n656iJB9
「お願い。アタシも……三日だけ整理する時間が欲しい」
エールの悲痛な願いは、モデルZの言葉を失わせる。
地面に置かれたサソードヤイバーを回収し、エールは人気のない大通りから離れた。
□
ガーディアンの拠点へと戻ったエールは、心配してくれた仲間に謝罪して回った。
探索チームのみんなはエールが無事であることに喜び、あっさりと許す。
気持ちのいい彼らの態度が、今のエールには痛かった。一匹ワームを逃がしたのだ。
独断専行の上、自分の都合で危険な可能性を放置した。冷静になればどう考えてもエールに非がある。
それでもどうしても、エールにはジルを殺せなかった。
「サソードは使えそうか?」
「天道……」
エールは姿を見せた青年の名前をつぶやく。いつもの余裕を見せた態度で尋ねてきた。
サソードヤイバーを奪ったことを天道に報告したときに、彼自身からもう一匹ワームが存在していることを伝えられた。
伝えられた当初エールは動揺したのだが、天道はワームがもう一匹いる事実に驚いている、と解釈してくれたようだ。
騙しているみたいで、エールの罪悪感が増している。
「うん、サソードゼクターは自分の意思を取り戻した。モデルXと一緒に使えば、ドレイクゼクターのように戦えると思う」
「そうか」
天道が頷いて微笑む。妙な反応だ、とエールは思ったがなにも言えない。
ふと、脳裏にジルの姿が浮かぶ。ワームについては天道はプロフェッショナルといってもいい。
一つ尋ねてみることにした。
「天道、一つ聞いてもいい?」
「なんだ? いってみろ」
「もしも……もしもだよ? ワームが擬態して記憶やその人のすべてをコピーして……心までコピーしたとしたらどうする?」
エールは天道の顔を見上げて、真剣な眼差しを向けた。
天道の表情は相変わらず。冷静なまま彼は口を開いた。
「倒す」
天道は短く断言する。そこに迷いも淀みもなく、ハッキリと。
エールは少しだけ納得がいかなかった。理屈ではない。感情がだ。
「その人に大切な人がいて、前と変わらない生活をしていても?」
「当然だ。擬態された人間も、その周りの大切な人たちも……なによりワームにとってもそれ以外救う手段はない」
「どうして?」
エールの問いに、天道はどこか遠くを見つめた。
なにか後悔するような、なにか失ったようなそんな表情だ。
「エール、死んだ人間は生き返らない。決してな」
それ以上、天道がなにか喋ることはなかった。
エールにはまだ理解出来ない。天道が伝えたかったことも、彼が味わった過去も、なにもかも。
なにより、このときの天道はエールにはなにも知らないままでいて欲しい、と願っていた。
ワームがまだ残っている、ということで調査は続行された。
殺人事件は起きていないものの、いまだ事件は未解決扱いだ。
エールも街に繰り出し、ガーディアンとして調査を続ける。
商店街の通りを歩いて、事件について訪ねようとしたとき背中から声をかけられた。
「エールちゃん、やっほー!」
「エリファスさん」
白い服に柔らかい金髪のショートカット。車椅子で生活する女性。間違えようもない。エリファスだ。
377 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 20:57:32 ID:n656iJB9
エールは今はもっとも会いたくない相手に会ってしまった。
事情はどうあれ、エールは彼女の大切な息子を殺すことには変りない。
殺す、と思考した瞬間胸がチクリと痛んだ。エリファスの車椅子がエールの傍に寄り、顔を覗きこむ。
「エールちゃん、もしかして具合が悪い?」
「え? そんなことはないよ」
「そう? 顔色悪いわよ。どこか痛いなら無理せずいって」
エリファスの気づかいに返事をする。エリファスは心配そうに体調を尋ねるが、真実を教えるわけにはいかない。
もしも、『あなたの息子は怪物に姿も記憶も真似されて、とっくの昔に死んでいる』などと言っても信じてもらえるはずがない。
それだけでなく、万が一真実を知った彼女がどれほど傷つくか。エールはとても怖かった。
嘘ですませることができるのなら、それがいいときもある。
そう割り切るにはまだエールは若かった。
「あの、エリファスさん……」
「はい、エールちゃん。どうしたの?」
エールがゴクリとつばを飲み込む。舌を湿らせて、どうにか言葉をひねり出した。
胸の鼓動がうるさい。それでも聞かねばならなかった。
「もしも……もしも、メカニロイドが死んだ大切なヒトのデータをすべてコピーして現れたら、そのメカニロイドは大切なヒトだと思う?」
奇妙な質問だとは自覚している。これ以外例え方を知らない。
エリファスは黙り込んでいる。エールの質問を理解しかねているのだろうか。
それもしょうがない。
「ごめん、唐突すぎた。これは忘れて」
「……そんなことはないわよ。エールちゃんが真剣だから、ちょっと考え込んだだけ。
そうねぇ、私はやっぱりそのメカニロイドと大切なヒトは違うと思うわ。死んだヒトは生き返らないもの」
エリファスは柔らかく微笑みながら、エールに答えた。
天道と似た結論にエールは意外に思う。
「……心をコピーしても?」
「ええ。だってかわいそうじゃない」
「かわい……そう?」
エリファスはエールに頷く。
エールにはジルと彼女の関係が重なるため、かわいそうという一言が不意打ちであった。
「『コピーしちゃったメカニロイド』は決して死んだヒトにはなれない。だから、それを大切なヒトの生き返りだって思ったら、ずっとそのメカニロイドは自分になれないのよ。かわいそうだわ」
エリファスの答えにエールは目を見開く。優しい彼女らしい答えだった。だからこそ辛い。
彼女ならきっと、ジルでなく怪物だと彼が告白しても受け入れそうだからだ。
エールはその可能性を摘みとる。今、なにが正しいのかエールにはわからなかった。
□
結局、三日の時間はエールに答えを与えなかった。
ポツポツと小雨が振り、空は厚い雲で覆われている。
昼なのに薄暗く、不吉な予感しかない空だった。
『エール……』
「大丈夫、モデルX。…………覚悟はできている」
エールはつぶやいて、店の自動ドアをくぐって中へ入っていった。
ここにジルがいるはずだった。できればエリファスは留守であって欲しいと願う。
暗い店内へと足を踏み入れ、エールは軽く眉をひそめる。
人の気配がしない。
『やられたか』
「そんなはずはない! だって、あのときの目は……」
『あいつの目を見れたのか?』
モデルZが鋭く尋ねる。エールは言葉を失って目を伏せた。
知りあいがワームだった。その事実に混乱し、言葉の真偽を確かめるのを怠ったのではないか。
378 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 20:58:24 ID:n656iJB9
エール自身もそう思っていた。
『そう結論をつけるのは早いと思う。とりあえず店内を捜索しよう』
モデルXが間を取り持ち、エールもモデルZも黙る。
別にモデルZは怒っているわけではない。単に冷静なだけだ。
多少動揺しているエールが店内を回ろうとした瞬間、通信機が鳴った。
「プレリー?」
『エール、まずいことになったわ。郊外にイレギュラーの反応を多数確認したの』
「まさか……ッ!」
エールは歯を食いしばる。もしかして、ジルの姿を奪ったワームがイレギュラーを指揮しているのではないか。
エールに自分を責める自虐の感情が芽生える。
―― メットールをマスコットにした遊園地が炎によって赤い色に染め上がる。
―― ヒトビトの悲鳴が上がり、人ごみの中、小さなエールは母親の手を握っていた。
―― イレギュラーの群れの銃弾で建物が破壊される。
―― エールを安心させようと振り向いた母親の後ろに、イレギュラーが現れて……。
あのとき同じことが起きるかもしれない。そう思うと、エールは居ても立ってもいられなかった。
エールは店をとびでて、モデルXとモデルZの力で赤い装甲のロックマンZXへと変身していた。
人の名前を刻んだ墓石をいくつも通り過ぎて、天道は目的の人物へと接触する。
天道が独自に調査を続けていると、ある事実が発覚したのだ。
だから、彼女が重要人物となり、問いただすことを決めた。
「突然すまない。あなたに尋ねたいことがある」
「あなたはエールちゃんを迎えに来た……」
「天道総司だ」
天道は簡潔に告げると、喪服を着たままのエリファスへ身体を向けた。
車椅子の彼女は花を墓へと添えている。この墓はあの殺人事件で身元がわからなかった者を収めているはずだ。
「……誰か知り合いが?」
「ええ。私の息子が」
エリファスの答えに天道は僅かに眉を動かす。
小雨が降ってきて、風が街路樹の葉を揺らした。
□
様々な種類のガレオンやメカニロイドが集まったのを見届け、プロメテはイライラした様子で歩きまわる。
合流する予定のワームがいまだにこないのだ。
先に到着したはずのマスクド・ライダーに選ばれし男。黒崎一誠も姿を見せない。
岩が露出し、小雨で濡れていくのを見届けてプロメテは苛立たしげに岩を砕く。
「まだか! まったく……」
プロメテはモデルVに絶望や恐怖の感情を与えるための今回の作戦に興味がない。
持ってきた戦力をワームに任せて、さっさと引継ぎを終わらせたいのだ。
エールと戦えるのは少し魅力的だが、まだ彼女に死んでは困る。
楽しすぎてくびり殺さないようにするのは難しい。
危ない思考を続けるプロメテは人の気配を感じて頭を上げる。
現れた存在からは普通でない雰囲気が漂っていた。
「キサマがここに派遣されたワームか?」
「……ええ」
プロメテはフン、と鼻を鳴らす。柔和な顔に黒ぶちメガネ。金髪の優男を擬態先に選ぶとは、よくわからないワームだ。
強者だとは聞いていたが、本当か怪しいものである。
「まあいい。さっさと……」
379 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 20:59:40 ID:n656iJB9
プロメテがイレギュラーの群れを押しつけようとした瞬間、嫌な予感がして地面を蹴る。
プロメテが消えた場所へ巨大な岩をスズムシを模したワーム、ベルクリケタスワームが投げ飛ばしていた。
岩はプロメテに掠りもしなかったが、ガレオンを十数体まとめて潰す。
「どういうつもりだ?」
「……見ての通りだ。ここから先は一歩も通さない!」
「虫けらがヒトの真似事か?」
プロメテが苛立たしげに大鎌を振るう。同時にイレギュラーたちもあのワームを敵と認めたようだった。
一斉砲撃がワームを狙う。クロックアップはクロックダウンチップを装備したプロメテの前では無意味。
されど、イレギュラーの砲撃はすべてワームに当たることはなかった。
ワームは冷静にすべての弾道を見極めて、針の隙間を通すように僅かな合間へと身体を押し込み、前へ前へと進んでいく。
「ほう」
プロメテは目の前のワームの戦闘力の高さに感心する。
今まではスペックを笠に着て、戦闘そのものは素人同然の連中が多かった。
イレギュラーの損傷が二割を超えたとき、プロメテの口角が釣り上がる。
「少しは楽しめそうだなぁ!」
プロメテの不機嫌はどこへいったのか。楽しげに笑いながら、大鎌をワームへと振るう。
風が唸り、鎌の刃を迫らせてプロメテは大きく笑った。
それは二日前のことだった。
ジルは白い店内に存在する花たちに手入れをして、綺麗に見えるように整えていく。
すべての作業を丁寧に行い、業者に渡す商品を準備した。
淡々と仕事をしていると、店の自動ドアが開いて客が入ってきたことを知らせる。
ジルは無理やり笑顔を浮かべて、客の訪問を歓迎した。
「いらっしゃいませ!」
「どうも」
「黒崎さん……」
白いスーツに白い帽子を被った、筋骨隆々の大男が現れる。
彼は店内の青いバラを手にとり、満足そうに頷いていた。
「我々のもとに戻る決心はつきましたか?」
「…………すみません」
「そうですか。残念です」
ジルは戻らない、と言外に告げる。黒崎は言葉通り残念そうに青いバラを愛でていた。
「強く、綺麗なバラを育てる。そんなアナタには生きていて欲しかったのですが」
「サソードすら彼女たちに渡した。僕は裏切り者だ。生かす必要はない、ということですよね?」
ジルが黒崎に向けて構える。顔には緊張が走っていた。
だが、意外にも黒崎は行動を起こさない。
「我々のこの街での目的は知っていますね?」
「ええ。それを聞いて……」
まだ死ねないとエールに告げた。その言葉を飲み込んで、ジルは黒崎と目をあわせる。
黒崎は不思議そうにジルを見つめていた。
「ならば覚悟は出来ていることでしょう。私はアナタを殺す気がありません」
「見逃してくれるのですか?」
「アナタしだいです。それでは」
黒崎はそう言って、店から離れていった。ジルの育てた青いバラは彼のお気に入りである。
逆に言えば、彼が今までジルを見逃してきたのもそれだけだ。
いつ殺されても不思議ではない。ジルはただ、唇をかみしめた。
調査を続けているうちに、天道は毎夜ある男の目撃証言があったことに気づいた。
380 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 21:01:07 ID:n656iJB9
周囲が気にもとめなかったのは、彼が殺人を犯すには不可能の距離で目撃されていたからだ。
クロックアップを使えば、アリバイなど意味をなさない。
ゆえに天道は殺人の夜、毎回外出していたジルへとあたりをつけたのだった。
「いつから知った?」
「最初からですよ」
エリファスはそう言って、花束を整える。
墓はとても綺麗で、彼女が何度もここへ来たことがわかった。
「…………同じ姿をしていても、同じ記憶を持っていても、わかってしまったのです。あの子はもう……生きてはいないのだと。親って難儀ですね」
「……復讐か?」
「最初はそうでした」
天道の問いに、エリファスは淡々と答えていく。
エールへと向けた笑顔は、今は力を失っているように見えた。
「ジルは……この子はすべてを奪われてここに眠ってしまっている。ジルの成長は私にとって生きがいでした。
だから、いつかあの子を……もう一人のジルを殺すために私は騙された振りを続けたのです」
「……結局、殺せなかったんだな」
「ええ。憎くて憎くてしょうがなかった。ジルじゃないのに、ジルの振りを続けるあの子に私は怒りをいだいていた。いえ、抱こうとしたの。
そうでないとこの子が悲しむと思って」
天道は無言だった。ワームの擬態は様々な事態を起こす。
彼女の身に起こったことは一番救いがなく、一番多く起こっていた出来事であった。
「けどね、楽しかったの」
「……それはあなたの息子じゃない」
「わかっている。わかっているけど……あの子は私を愛してくれた。ジルが残した店を一生懸命切り盛りして、ジル以上に私のこの身体に気を遣った。
……なんででしょうね。あの子が本気で私を母親として慕ってくれていることに気づいてしまったの。
ジル以上にジルらしく振舞おうとした。決して私にジルの喪失を気づかせないように努力していた。
そのすべてが……とても愛しかった……」
「だが、奴は同じことを繰り返した」
「ええ。あの子はジルにしたように、ヒトをまた殺してしまった。私は……あの子を信じた自分が馬鹿なのか考えたわ。
だけど私にあの子を殺すことは出来ない。だって……部屋を覗いたら、見てしまったの…………」
彼女は一旦言葉を区切り、思い出すように目を細めた。
天道はだいたい想像ついたが黙っている。
その行為は“心を持ったワーム”ならば全員がとるものであったからだ。
「あの子は自殺しようとして、それが叶わないで泣いていた」
天道は「そうか」とだけ答えて彼女を見つめた。気丈な女性だ。
すべてを許すというのだろう。天道自身は…………。
「あなた、ジルを殺しにきたのでしょう?」
「殺す以外に彼に救いはない」
「わかっていた。いつか終りがくるって……」
エリファスは花を整えて、天道に微笑む。
天道は無表情のまま、彼女に問うことにした。
「一つ聞かせて欲しい。あなたにとって、あのワームは息子なのか?」
「ええ。かけがえのない、ジルと同じく私の息子よ。たとえ罪を贖わないといけないのだとしても……」
エリファスの微笑みが天道には眩しい。彼女は本気で、ワームとしての彼を愛したのだ。
それでもワームは殺さねばならない。たとえ彼女を不幸にしても。
天の道は辛く険しい。だからこそ天道総司が往くのであった。
381 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 21:03:12 ID:n656iJB9
□
エールが郊外のエリアに踏み込み、周囲を見渡した。
今のエールは赤いアーマーを見にまとい、緑のクリスタルが額に存在している。
普段は黒いエールの髪が金に染まり、マフラーのように風になびいていた。
ロックマンZXとなったエールは敵の攻撃を想定して構えていたもの、視界に入ったものに驚く。
「イレギュラーの残骸……?」
『戦闘の跡だと? 天道が来たのか』
「わからない。先を進んで確かめる!」
疑問を口にするモデルZへ答え、エールは地面を蹴った。
エールは風を切って進むも、イレギュラーに襲われる気配は皆無だ。
目に映るのは残骸ばかり。エールの疑問が深まるが、足をとめる。
白い三角状のヘルメット。紫色のアーマー。死神のような大鎌。
振り向き凶悪な笑みを浮かべるそいつを、エールはよく知っていた。
「プロメテ……!」
「遅かったな。モデルZXのロックマン」
プロメテはそう言って、右手に握っていた虫の羽らしきパーツをエールに投げつける。
エールの四肢を麻痺させた、催眠音波を発していた部分である。
エールが視線を移動させると、プロメテの足元には全身に切り傷を負ったベルクリケタスワームがいた。
「エール……さん……?」
「まさかワームを手懐けるとは思わなかったぞ。毎回俺を楽しませてくれる。こいつのせいであの街を襲う計画がパーだ」
ワームの羽がエールの胸にぶつかり、はらはらと地面に落ちた。
それはどこか、花びらが落ちるのに似ている。ジロリとエールはプロメテを睨みつけた。
「…………ジルさんを離して」
「虫けらを庇うのか? 滑稽な話だ。こいつらはどの道、ヒトを殺さないと生きていけない種族というのに」
プロメテの言葉にベルクリケタスワームがうなだれた。
それでもエールは一歩踏み出す。たしかにエールは彼を殺そうとした。
だからといって、プロメテに踏み潰されたままの彼を放っておくわけにはいかない。
理屈じゃないのだ。あくまで感情でエールは動く。
ZXセイバーの柄が変形して銃となる。エネルギーをチャージ終えた銃口が、人一人分の大きさの光弾を吐き出す。
ジルを開放し宙に浮かんだプロメテを睨んで、エールは宣言した。
「聞こえなかった? アタシは離して、っていったのよ」
「クックック……いいぜ。ちょうどストレスが溜まっていたところだ。相手してもらうぞ!」
プロメテがハイになり、大鎌を振り上げた。
エールはZXセイバーを構えて迎え討つ。
二人が同時に距離を縮めたとき、エールの耳に『One,two,three』と聞き慣れた電子音が響いた。
「ライダー……キック」
稲妻の如く、カブトが落下して地面にクレーターができる。
プロメテは飛び退いて舌打ちをしていた。エールはカブトの背を視界に入れて、彼の乱入に驚く。
「天道……」
「無事か?」
カブトの問いにエールは頷いて無事を示す。プロメテが襲ってくると身構えるが、彼は宙に浮いているだけだ。
不機嫌そうに鼻を鳴らし、離れていく。
「逃げるの!?」
「見逃してやるだけだ。それに三対一は趣味じゃない。モデルVの生贄に都合がいい場所はまだまだ多いしな」
「なら一つだけ聞かせて! モデルV……もう一つあったの?」
エールの疑問はもっともだ。セルパンカンパニーに保存されたモデルVは破壊したはずだ。
あの象のフォルスロイド、ビッグドンの『モデルVへの生贄を作る』という任務から不思議に思っていたのだ。
そのエールにプロメテは馬鹿にしたように嘲笑した。
382 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 21:04:08 ID:n656iJB9
「もしかしてお前、あのモデルVですべてが終りだと思っていたのか?」
「どういう……こと!」
「あれで終わるわけがないだろう。あれはただの始まりだ。お前はしょせん、この腐れたロックマン同士の争いの駒なんだよ!」
プロメテは狂ったように笑い、カブトの銃撃を避け続ける。
エールを見下ろすプロメテは本当に愉快そうだった。
「さあ、ここまではいあがってこい。お前には選択肢はないのだからな……」
そう言って、プロメテの姿が消える。簡易転送装置だろう。
反応の探索はプレリーに任せるしかない。エールは歯を食いしばる。
ビッグドンの言葉から薄々は気づいていた。覚悟もしていたはずなのに、プロメテが肯定するだけでモデルVへの恐怖が蘇りそうだった。
エールは頭を振り、決意に満ちた瞳をプロメテが消えた先へと向ける。
「絶対にまた、アタシが止める」
エールのつぶやきは黒い雲に吸い込まれて消える。
モデルVとの因縁はエールが強い。こればかりはカブトに任せるわけにはいかなかった。
守るためのロックマン。それこそが彼女を支えるものであったのだから。
周囲にイレギュラーの反応はない。本当にジルがすべてを破壊したようだった。
エールが視線をおろすと、傷付いた身体で立ち上がろうとするベルクリケタスワームの姿がある。
エールは少しだけ思考して、迷いを振り切るように駆け寄った。
「大丈夫? ジルさん」
「エールさん。なにを……」
「いいから掴まって。そのケガじゃまともに動けないでしょう? 手当てしないと死んじゃうよ」
困惑するワームに構わず、エールは彼を助け起こした。まだエール自身の感情も整理がついてはいない。
だが、ベルクリケタスワームは街を守ったのだ。
確かにエールを襲ったのが、プロメテの言う通り『ヒトを殺さないと生きていけない種族』としての本能なのかもしれない。
それでも街を守った分は報われるべきだ。少なくともエールはそう思った。
―― だからだろう。彼女は天道総司も、賛成してくれるのだと勘違いをしたのは。
エールはワームに肩を貸して、ふとカブトへ視線を向ける。
彼はただ佇んでいた。エールは怒ったように彼に言う。
「天道、つったっていないで手伝ってよ」
「…………エール。なんのつもりだ?」
「ジルさんを手当するんだってば。結構重いんだか……」
エールの言葉を中断させるように、風の如くカブトは一瞬で通り過ぎる。
カブトのふりあげた拳がワームへ直撃し、砲丸のようにワームは吹き飛んでいく。
エールは軽くなった肩と、拳を振り下ろした体勢のカブトと、地面にたたきつけられるワームの姿を目撃した。
思わず声を荒らげてカブトへ詰め寄る。
「天道! いきなりなにをするの!?」
「それはこちらの台詞だ、エール」
カブトはエールを見もせず、クナイガンを片手に数歩進んだ。
エールの背筋がゾクッとする。カブトはこんなにも、怖く見える存在だっただろうか。
「すべてのワームは俺が殺す。たとえそれが……人の心を持っていたとしても」
まったく感情のこもらない、殺人機械のような声。
エールが始めて見る冷徹なカブトの姿。
すべてがトゲトゲしく、エールすらも否定してワームへと距離を縮めていった。
383 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 21:06:04 ID:n656iJB9
「天道、待って!」
エールは思わず、天道とワームの間に身体を割り込ませた。
正面から向けられる、カブトからの絶対零度の視線にエールは耐える。
『エール、これは天道が正しい』
「わかっている!」
エールはモデルZの言葉に叫んで答えた。そうでもしなければ、自分の行為を肯定しきれる自信がなかったのだ。
「わかっているならそこを退け、エール」
「……だって、ジルさんは街を守ったんだよ! あんなにボロボロになって……」
「そいつが擬態したジルの心がそうしただけだ。ワームである以上、その守った街を破壊する運命にある。
ならばその前に殺してやることこそ、そいつに擬態されたジルを救うことになる」
「そんなのおかしいよ! 殺すのがジルさんを救うことになるって……ここにジルさんの心があるのに……」
「それは違うよ、エールさん……」
エールの叫びの否定は、後ろのワームから持ち出された。エールは首だけを回して後ろを見る。
「これはジルの心じゃない。あくまでワームである僕の想いなんだ。……彼に殺されたいと思うのも含めてね」
「だったらなおさらおかしいよ! 自分の意志で誰かを守った結果が死ぬことなんて……」
エールの想いの吐露に、ワームへジルの姿が重なった。最初に会ったときと変わらない、柔らかい笑みのジルがそこにいる。
「ありがとう、エールさん。僕はその言葉だけで救われる。だからもう、いいんだ。君が僕を庇う必要はない」
「…………覚悟は出来ているな?」
カブトの確認の言葉にワームが頷く。こんどこそエールの制止を無視して、カブトの拳がワームを吹き飛ばした。
それでも倒れることはないワームに、カブトは胸へ次々とつるべ打ちをする。
エールの前でカブトの猛攻は容赦がなかった。
カブトのクナイガンがワームの左手を跳ね飛ばしたとき、エールの身体が反応する。
そのエールをモデルZの鋭い声が止めた。
『エール、止めるな』
「でも……でも……」
『でも、なんだ?』
「……これでいいの? アタシは……アタシは……」
『…………エール、もう一度いってやる。“そのまま”で天道を止めようとするな』
含みのある言い方に、エールはモデルZと目を合わせる。
モデルZは冷静に、淡々と悟すように言葉を続けた。
『今あいつを助けるのは、ジルが持った覚悟も、天道が汚れ役を引き受けたことも否定することだ。
それを否定するなら、まずはお前の中の納得いかない感情を理解しろ。そして理解してあいつらが受けた汚れをお前が行うと覚悟するなら止めろ』
「モデルZ……」
エールは目をつぶり、なぜ自分がここまで二人の争いに拒否反応を示すか思考をする。
自分の感情の出所を探っていると、微笑む女性の姿があった。
彼女のことはジルは納得して逝くのだろう。なぜかエールにはそれが腹立たしい。
そうだ、ジルは彼女にまだなにもいっていない。なにも確かめていない。
逃げるような行為にエールは腹がたってくる。
(そうか……)
エールの脳裏に十一年前のイレギュラーの襲撃事件を思い出す。
幼いエールは母親になにも伝えられない。なにも想いを確かめられない。
だからこそ、エールにできないことがまだできるジルに、その可能性を摘み取る天道に納得がいかなかった。
「力を貸して、モデルX、モデルZ!」
『……決まったか』
『わかっていたよ。いこう、エール』
エールは大きく頷いてロックマン特有の高速移動方法、ダッシュを繰り出した。
雨が強くなり、水滴がカブトやワームの体表に跳ねていく。
ビチャビチャと水たまりを踏み進むカブトの蒼い瞳が、ワームを捉えた。
384 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 21:07:33 ID:n656iJB9
右手がカブトゼクターのボタンを押し、カウントダウンを告げる。
「終りだ、最後に言い残すことはあるか?」
「……いえ」
ワームの答えにカブトは無反応。ゼクターホーンを操作して、タキオン粒子のエネルギーを足へ送る。
「ライダーキッ……!?」
左足を軸にハイキックを決めようとしたカブトに、割って入った赤い影が剣を振るった。
ライダーキックの衝撃と、チャージセイバーの衝撃波がぶつかる。
「エール!? くっ!」
カブトは足の軌道を微修正し、チャージセイバーの衝撃だけを中和した。
威力を削るためにライダーキックの力は失われる。もう一度チャージをしなければならない。
もっとも、重大なのはそういうことじゃない。
カブトはエールを睨みつけた。
「もう一度いうぞ。なんのつもりだ?」
「エールさん。僕はもう……」
カブトからエールへ、始めて殺気が向けられる。肌がピリピリ粟立って震える一歩手前だ。
ジルからはエールへ、懇願するような言葉を向けられる。
それらすべてに、エールは歯を食いしばって叫んだ。
「うるさい!!」
エールの怒声がジルとカブトを貫いた。呆気に取られている二人を前にして、エールはジルの胸ぐらをつかむ。
「まだ、ジルさんにはやることが残っている。エリファスさんに……あなたのお母さんになにも告げていないじゃない!」
「けど……僕は……」
「ワームだから? 息子を奪ってしまったから? そんな理由でエリファスさんを一人にして、そのことも謝罪しないで一人で死ぬなんてただの逃げよ!
アタシは認めない。エリファスさんにすべてを話して、それでも死にたいっていうならアタシが殺してあげる。だから、エリファスさんに会うまでは生きて!」
ポカン、とするジルを前にエールは一気にまくし立てた。メチャクチャな理屈をいっているのはわかる。母親と慕った相手を絶望させたくないというジルの優しさもわかる。
だけど、エールの脳裏に浮かぶ光景は変わらないのだ。
―― メットールをマスコットにした遊園地が炎によって赤い色に染め上がる。
―― ヒトビトの悲鳴が上がり、人ごみの中、小さなエールは母親の手を握っていた。
―― イレギュラーの群れの銃弾で建物が破壊される。
―― エールを安心させようと振り向いた母親の後ろに、イレギュラーが現れて……。
エールは決着をつけられない辛さを知っている。ジルをこのまま死なせては、エリファスは一生息子の死と向き合う機会がなくなってしまう。
だからこそ、大切な人間に消える理由も、いなくならねばならない理由も告げず一人にする彼が許せなかった。
「天道、あなたは確かに正しい。だけど、アタシも決めているの。皆を……心も含めて守る。そのためにロックマンになった!
アタシはジルさんに、エリファスさんの心を救わせるまで……彼を死なせない!」
「そうか、ならば俺も言わせてもらおう。エール、お前は優しい。だが、俺は決めた。天の道を往き総てを司るとな。
ゆえにその男が大切なヒトを己の手で殺す前に……俺が殺す」
カブトがクナイガンを構えて腰を落とす。エールもまた、ZXセイバーを起動して構えた。
パラパラとふる小雨が、ZXセイバーのエネルギーの刃に触れて蒸発する。
地面を踏み込み、水が跳ね上がる。エールは剣を横薙ぎに振るいながら接近を開始した。
キィン、と甲高い金属音が轟いた。エールは衝撃に身を任せ、後方に跳躍するがカブトを振り切れない。
右や左、上や下、斜めに刺突と自由自在に変化する斬撃を、ZXセイバーで迎撃する。
二、三撃防ぎきれず、エールの左腕から血が吹き出した。ガーディアンベースで治療したのが無駄になったようだ。
(強い……)
カブトの攻撃は無駄がなく、息をつく暇もない。
さらに斬撃だけでなく、拳や蹴り、投げにも注意しないとエールは一瞬で意識を奪われるだろう。
385 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 21:08:42 ID:n656iJB9
そうなればカブトはジルを殺す。エールはギリッ、と奥歯を食いしばり踏ん張った。
防戦一方ではいずれ倒される。エールはカブトのクナイガンの軌道だけに集中する。
(一撃……一撃だけ迎撃すれば、あとはチャージショットを叩き込める!)
すでにバスターのチャージは終えていた。隙を生み出すためにどうしても一撃だけ逸らす必要がある。
だが、カブトの斬撃は速いだけではなく重い。一撃一撃が腕をもぎかねない威力だった。
バスターはともかく、セイバーまでチャージする暇などない。下手に仕掛ければ、カブトから手痛いカウンターを受けるだろう。
ふと、他の形態ならどうだろうかと考えて、エールは切り捨てる。
ドレイクを使った形態では攻撃を受けとめきれない。サソードを使った形態にエールはまだ不慣れだ。
唯一対抗できる可能性があるのは、ロックマンZXの形態だけ。クロックアップを使わないことを祈る他にない。
そう思考を進めていたエールの前で、カブトが力を溜める。今が攻めどきかどうか、エールには判断がつかない。
『突っ込め、エール!』
モデルZのアドバイスに反応して、エールは直進してセイバーを振るう。
胸を強打されてカブトが体勢を崩した。いまだ。
「当たれぇ!!」
人ほどの大きさの青いエネルギー弾がカブトを襲う。選けきれないはずだ。
『Clock up』
しかし、光弾はカブトを撃たない。切り札を使われてしまった。
エールはすぐさまクロックアップ対策にドレイクゼクターを取り出したが、掴んでいた右手に衝撃が走った。
「つっ!?」
ドレイクゼクターを取りこぼし、さらにエールの右脇腹が強打されて短くうめく。
続いて胸元へ蹴りの感触が走り後ろへと一直線に飛ぶ。
一瞬の間もおかず、今度は背中を思いっきり殴打され宙へ浮かんだ。
『Clock over』
ようやく地獄は終りだ、と思ったエールの視界にカブトがゼクターホーンに手をかけている姿が映る。
ライダーキックを受ければエールは一溜まりもない。
カブトのことだから手加減はするだろうが、少なくともこの場は気絶する。
エールがZXセイバーを構えるが焼け石に水だ。ジルがエールの名を呼んで立ち上がったが、傷の痛みに耐えられなかったのかすぐ倒れる。
「お前が力を貸すとはな、モデルZ」
『エールの判断は正しいとは思っていない。だが、正しいことよりも重要なことがある』
「確かにな。だが、これで終りだ。ライダー……キック」
カブトのつぶやきにエールは覚悟する。せめて意識だけは手放さないよう全身に力を込めた。
その場全員が決着をついたと思ったとき、電子音は雨が降る音をかき消して届いた。
『Rider beat』
黄金の人影がエールとカブトの間に割って入り、空中で飛び蹴りの体勢をとるカブトへと拳を振るう。
ライダーキックと、その拳が拮抗して衝撃波がエールを吹き飛ばした。
衝撃波の影響を受けながらも空中でどうにか体勢を整えて、エールは着地する。
「う…………そ……!?」
「どういうつもりだ?」
エールの驚愕の声と、カブトのあくまで冷静な声の前に立つ男。
金色の仮面ライダー、コーカサスは青いバラを掲げて登場した。
「ロックマンの少女、ジルを連れるなら今のうちに行いなさい」
「どうし……って、今はそんなことを聞いている場合じゃない。じゃあ、お願い……」
「頭のいい娘ですね。嫌いではありませんよ」
コーカサスがそう好意を示すが、エールは無視した。
背中を襲われないか警戒しながらもジルへ近づく。
なぜコーカサスが手助けをするのかわからなかったが、ジルを連れ出すのは今この瞬間をおいて他にない。
エールがジルの肩を担いだとき、周囲を衝撃音がほとばしる。
エールはとにかく、ジルを連れてその場を離れた。
386 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 21:10:03 ID:n656iJB9
カブトはコーカサスの謎の行為に眉をしかめて組み付く。
ギリギリと力でコーカサスは無理やりカブトを締め上げた。
「なぜあのワームを救った」
「なに。アナタがあの少女に肩入れするように、美しく強いバラを育てる彼に肩入れをしただけですよ。
死に場所を選ばせてあげるくらいはいいでしょう」
そう言って二人は蹴りをぶつけ合い、距離をとる。
カブトのクナイガンを前にコーカサスは構えた。
「それにしてもアナタも甘い。ワームと戦うのならいずれ出会う障害です。なのに、彼女に恨まれてでも汚れ役を引き受けるとは」
「……エールは優しい。ワームと戦う上で避けられないというのなら、俺が背負えばいい。ただそれだけだ」
カブトの脳裏に自分が始めて心のあるワームを殺した光景を思い出した。
自分の名を呼び、殺してと懇願する大切な存在。
織田が天道の瞳に闇を見つけた理由は……。
「過保護ですね」
「おばあちゃんが言っていた。俺はすべての兄になるべき存在だと」
「ならば、あの妹を守ってみることです。天道総司」
コーカサスは静かに告げて、筋肉をふくらませた。
知らず二人は殺気だけを乗せて、降りしきる雨の中ぶつかり合う。
甲高い金属音だけが、荒野になんども轟いた。
□
息も荒く、互いの息づかいが聞こえる中二人は雨で濡れる道をただ進んでいった。
やがて、無言だったジルが口を開く。エールが傷に障ると忠告するが聞く様子がない。
「エールさん……僕を殺してくださ……」
「もう一度いったら殴るよ!」
ジルは困ったように笑い、エールは必死で足を動かす。
ドレイクを使おうか迷ったが、ジルのケガが怖い。
「……僕は人間を見下していた。ワームはもっとも優れて、他の生物を下すべき存在だって」
「今は違うんでしょう?」
「……よくわからない。ジルを殺してなり変わったのはただの気まぐれだったよ。ヒトがたまに口にする愛。それはいったいなんなのか興味を持った。
だって、記憶の中のジルは母さんと共にいて、とても……とても幸せそうだった」
ジルの顔をエールは覗き込むと、彼の視線には羨望と優しさが混ざっていた。
ワームだとしても、心を持てばこんな表情ができる。いったいワームとはなんなのか、エールは疑問を持った。
「僕はジルが羨ましかった。最初は自分の感情に気づかなかったけど……今ならわかる。僕は羨ましかったんだ。
だから最初は母さんに対してジルの真似をして、喜ぶことに優越感を感じていた。最低だろう?」
「だから殺して欲しいの?」
「…………そうだね。僕は怖いんだ。だから殺して欲しい。母さんに僕の正体を知られることも、母さんを騙していたことも、母さんに恨まれることも、母さんにジルを殺したことを責められるのも、とても向き合える気がしない。
自業自得さ。あの日ジルを殺しさえしなければって、なんども思った。もう取り返せない過去なんだ。
だからお願いだ。エールさん、母さんに僕の醜いところをみられる前に、いっそ……」
「ジルさん、それはあなたのワガママだって理解しているでしょう?」
「ああ、そうだ。僕のエゴさ」
「だったら――アタシだってアタシのワガママでジルさんに打ち明けてもらう。苦しんでもらう。
……それに怖いのはそれだけじゃないでしょう? ジルさん、そんなにエリファスさんを殺すかもしれないことが怖い?」
ジルは目線をエールへ向けた。やがてフッとワームの顔のまま息を吐き出し、続きを紡ぐ。
「……どういう意味でいっているのかな?」
「今まで殺人を二度続け、アタシを襲った。けどその後すぐアタシを殺さず、むしろ助けようとした。
プロメテが言っていたことも聞いている。ワームは……ヒトを殺し続けないといけないの?」
「……日常生活を送るのには支障はなかった。だけど、闘争心が高まると我を忘れてしまうんだ。
そうさ、僕は母さんを殺してしまうことが一番怖い。母さんを手にかけてしまえば――自分の手で自分を殺す手段のない僕は生きて地獄味わう。
そんなのは耐えられない! 耐えたくない!」
387 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 21:11:22 ID:n656iJB9
ジルの感情の吐露がエールに届く。エールはただ、表情を曇らせるだけだった。
もはや結論は出ている。ジルはエリファスを本当の母親に対するのと遜色ない愛情を抱いていた。
大切なヒトだからこそ、醜いところをみられたくない。殺したくない。そんな感情は当たり前だ。
お節介なことをしているとは自覚している。自分のすることが正しいのか迷う。
それでも、天道を否定してしまったのだ。辛いこともエリファスの恨みも自分が引き受けると決めた。
いまさら引き返す気などない。エールが足にさらに力を入れた後。
「エールちゃん……?」
エアカーから降りたエリファスの姿が見えた。
雨音が酷くなり、服が水を吸って重くなる。車椅子が機械式だとしても、移動には一苦労のはずだ。
エールの肩からジルが逃げ出そうとする。エールは押さえてたが、ワームの姿である彼をエリファスが気づくはずがない。
「……ジル……なの?」
エリファスの言葉にエールは驚いた。ジルもまた呆然と立ち尽くす。
車から降りて彼女はジルへと近づいてきた。
「そう、それが……あなたのもう一つの姿ね」
「母……さん」
ジルのつぶやきに混沌とした感情が混ざっている。エールは驚くだけですんだが、彼はそうはいかない。
今まで母親はなにも知らないと思っていたのだ。その考えを目の前の女性は打ち砕く。
車椅子に座るせいでエリファスは見上げる形になるのだが、彼女の瞳には確信が宿っていた。
「なん……!?」
「ごめんなさい、ジル。もっと早く言うべきだった。私はあなたがジルを殺してなり代わったことも、ヒトではない存在であることも、殺人事件があなたの手によるものだということもずいぶん前から知っていたわ」
エリファスは一度目を伏せて震えた。噛み締める唇は青く、雨が彼女の体温を奪っていることを知る。
それでもエールは一歩も動けなかった。エールの出る幕はない。
「わかっていたのに、私はなにも出来なかった。怖かったから……あなたに私の、醜い内面を知られるのが怖かったから」
「母さん……?」
「私は最初、あなたに復讐をしようと思っていたの。あなただけは私の手で殺したいから、ジルの振りをさせ続けて、他の人の死を見逃した」
「嘘だ……嘘だ……」
「ジル! 私は愚かだったのよ。だからこそ、あなたの擬態に気づかない振りをした。だからこそ、あなたを愛している振りを続けていた」
ジルはよろよろとタタラを踏む。無機質なワームの顔だが、ショックを受けているのは一目同然だ。
「……けど、あなたは不器用すぎたのよ」
「不器用……?」
「ジルの真似をしようとするくせに辛そうで、私を騙そうとしているのに、本音でぶつかってきたじゃない!
どうして私に優しくするのよ……どうしてこの街を半年の間守っていたのよ……」
言葉を失うジルに、彼女は車椅子を進めた。茶色い、スズムシを擬人化させたような姿。
そのジルの手をエリファスは両手を包みこむ。
「……今まで逃げていてごめんなさい。ジル……いいえ、もう一人のジル。私はあなたを憎んだ。
けどそれは、時間が解決してくれた。そして私はあなたを失うことを恐れて、あなたの罪を犯すのを止められなかった。
そんな私でも……あなたのお母さんでいいの……?」
エリファスの言葉を最後に、周囲には雨の音以外はシャットダウンされる。
まるで世界がジルとエリファスの二人だけになったようにエールは感じた。
どれくらい沈黙の時間が流れただろうか。ジルが金髪に黒縁メガネの青年の姿へと戻る。
「……母さん」
そして、その一言が彼女へ対する答えだった。彼は泣きそうな顔をしていた。
いや、ジルだけではない。エリファスもまた、笑顔に涙を浮かべていた。
雨が降っているため、よく観察しなければわからない。エールはホッとため息をついた。
ジルが泣き崩れそうになったとき、ピクリと身体を硬直させた。
エリファスが心配そうに覗きこむが、ジルは自分の右手を包むエリファスを突き飛ばした。
「ジル……?」
388 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 21:13:32 ID:n656iJB9
「触っちゃダメだ、母さん!!」
ジルは叫んで後方に跳躍する。エールが止める暇もない。
エリファスと距離をとったジルは両膝をついて、獣のように吠えた。
「ジルさん!」
「がああぁぁぁぁ……駄目だ……母さん。僕は……僕を抑えられない……うあああぁぁぁぁぁぁ!!」
発作のようにワームとジルの姿を行き来してのた打ち回る。
ついにきてしまったかとZXセイバーを構えるが、動けない。
「エールさん……早く!! 僕が僕であるうちに……僕は……ワームとして死にたく……あああぁぁぁぁああぁぁぁッ!!」
それは突然、あっさりと訪れた。ジルは身をベルクリケタスワームへと変えてエリファスへ接近する。
エリファスはすべてを受け入れたような顔をしてただベルクリケタスワームを見つめていた。
エールの脳裏に彼の言葉が蘇る。
―― そうさ、僕は母さんを殺してしまうことが一番怖い。
エールは無理やり二人の間に割り込み、残った右手で貫手を繰り出すベルクリケタスワームの一撃を受け止めた。
ZXセイバーに火花が散り、獣の咆哮が先程まで優しかった青年の口からほとばしった。
「やめて……正気に戻ってよ! ジルさん!!」
「ガアアアァァァ……めだ。エールちゃ……僕を……ころ……」
ベルクリケタスワームの瞳に理性が戻ったのは一瞬だけだった。
羽がもげて、左手を失い、全身傷だらけの怪物はエールへとでたらめに殴りつける。
エールのZXセイバーをくぐり抜け、ベルクリケタスワームの拳が腹部に直撃した。
エールは空気をすべて吐き出し、地面を転がってエリファスの傍に倒れる。
「エールちゃん!」
「エリファスさん……お願い。いまは逃げて……。絶対アタシが……アタシが元のジルさんに戻すから!」
そんなことは無理だとわかっている。ただ感情が納得しないだけ。
出気もしない口約束をして、エールは立ち上がる。
だがエリファスは一歩も動かず首を振った。
「エリファスさん?」
「エールちゃん、それだけは出来ない。あれはジルだけの罪じゃない。私の罪でもある。
私は……ジルと過ごすために罪を見逃してきた。それでジルが苦しむのに……死んだジルも望んでいなかったはずなのに……」
エリファスはエールに懇願するように頭を下げる。
彼女のどこまでも真剣な態度は、真剣な表情はエールを戸惑わせた。
「だからお願い。ここで……見届させて……」
エールはなにも言えない。言葉を失っていたのだ。
彼女はもう、ジルの死を覚悟している。覚悟ができていないのはエールだけだ。
ベルクリケタスワームの右拳をZXセイバーで払い、サソードヤイバーをエールは取り出した。
「モデルX……お願い」
モデルXは答えず、自らの額を輝かせた。光に誘われてサソードゼクターが現れる。
ベルクリケタスワームが突進してくるが、エールはサソードヤイバーで胸部を斬り裂いた。
ワームの絶叫を耳にしてエールは顔を歪めたまま叫ぶ。
「クロスロックオン!!」
『Change ROCKMAN』
電脳世界のような空間に、エールの意識は隔離される。
モデルXがサソードヤイバーから生産される六角形の金属片を光に変換し、エールの全身を包んだ。
光が拡散しきり、装甲を形成する。両腕に黒い装甲が形つくり、実体化した。
尖ったようなショルダーアーマーが生まれ、チューブが伸びて両手の篭手へと接続する。
液体が流動する透明のチューブが、肩と腕につながれた。
389 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 21:14:30 ID:n656iJB9
ふくらはぎと脚が濃い紫色の装甲とブーツに保護される。
腰にドレイクと同じく、中央にZCTと刻まれた銀色のベルトが巻かれた。
青いエールのジャケットが硬質化し、紫色に染まる。
サソリを模したヘルメットがエールの頭部を包み、瞳の上の二つのクリスタルが幾何学的な模様を浮かび上がらせる。
カッ、と目を見開いたエールは、ロックマンSX(サソードエックス)となってワームを睨みつけた。
「クロックアップ……」
ためらうような言葉でエールは加速空間へと突入する。ワームはとっくに起動していた。
降っていた雨が中空で止まり、無数の水玉が浮かんでいる。
エールは水玉を破壊しながら進み、ワームの爪を受け止めて押す。
「ジルさん、聞こえる!? ジルさん!!」
エールは必死で呼びかけるが、ワームからは獣の声しかしない。
サソードヤイバーを構えるエールの言葉は届かない。
わかっていたはずだ。覚悟していたはずだ。
なのに、エールにはこの刃を首にかけることが出来なかった。
『ためらうな、エール! こうなったら他に手はない』
『エール、辛いのはわかるよ。だけど、こうでもしないと彼は救われない……』
「わかっている、わかっているけど……」
ここには彼の母親がいる。エールはこの親子に、イレギュラーに襲われた自分を重ねてしまったのだ。
あの日エールの目の前で母親は死んだ。彼の母親は、目の前で息子の死を見なければならない。
たとえそれがエリファスの覚悟の上であったとしても、エールの刃を鈍らせるには充分であった。
エールがワームの突進に跳ね飛ばされる。地面に叩きつけられて、雨で柔らかくなったことに感謝をした。
泥が跳ねてエールの頬につく。滲む視界の中、ワームはクロックアップで動けないエリファスへと迫っている。
「ダメェェェェェェェェ!!」
エールが叫んで、地面を駆ける。ワームの右手はエリファスへと刻一刻と迫っていた。
迷う暇などない。サソードゼクターの尾を押し込み、エネルギーを刃にためる。
もはやエールの頭の中は真っ白だ。降りしきる雨の中、『Rider slash』の電子音だけが響く。
エリファスの手前でワームの腕が止まるのをエールは目撃し、エネルギーを纏う刃でワームの胴を薙ぎ斬った。
―― メットールをマスコットにした遊園地が炎によって赤い色に染め上がる。
―― ヒトビトの悲鳴が上がり、人ごみの中、小さなエールは母親の手を握っていた。
―― イレギュラーの群れの銃弾で建物が破壊される。
―― エールを安心させようと振り向いた母親の後ろに、イレギュラーが現れて……。
―― そのイレギュラーの姿は、今のエール自身だった。
ザアザアと激しい雨音が外界の音を拒絶する中、上半身だけのワームを抱く女性がいた。
エールはただ、その姿を見ることしか出来なかった。
割って入ることの出来ない、親子だけの世界。
物言わない息子の死体を抱えたまま、エールはエリファスの言葉を待った。
「エールちゃん」
エールはビクリと身体を震わせる。罵られるのも、恨まれるのも覚悟した。
彼女にはその資格がある。
「ありがとう……この子の望みを叶えてくれて」
だが現実は甘くはない。エールは彼女に恨み言をいわれることも、嫌われることもない。
ただただエリファスは、息子の望みを叶えたことに感謝の気持ちを示すだけだ。
390 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 21:15:45 ID:n656iJB9
それも当然。エリファスはジルの母親で、彼の望みを理解したのだから。
それこそが、許しこそがもっともエールを責める行為だと本人も含めて、誰も気づかなかった。
「アタシは……アタシ……は……」
エールは雨の中、愕然と膝をついてうわ言のように繰り返す。エリファスに聞こえないようにするのが、精一杯の気づかいだった。
エリファスがいっそう強くジルを抱いたのを確認して目を見開いて喘ぐ。
エールは彼女とジルの世界を邪魔しないように、誰にも聞こえない心の痛みを吐き出さず抱え込んだ。
エールの悲鳴は耳には届かない。
ただ、彼女と共に戦場を駆けたライブメタルたちの心に届いた。
しかし、彼らにもどうすることもなく、エールは雨の中顔をあげる。
泣いていた彼女は、叫ぶことも許されずにただ雨にうたれているだけだ。
これが、エールが始めて心のあるワームと出会い、殺したミッションであった。
To be continued……
391 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/15(火) 21:17:37 ID:n656iJB9
投下終了します。
次の投下予定は特に決めていませんが、なるべく早く投下するようにします。
それでは失礼。
投下乙。
6・7話ともども見させてもらいました
ジルウェ死んでるって…ウゾダドンドコドーン!
映画の織田・黒崎にディケイドの弟切ソウ。
カブトキャラがたくさん出て面白い展開になってきましたな。
全てのお兄ちゃん天道の兄ぷりは果てしない。
お前は妹ハーレムでも作るのかw
天道とエールの違いがはっきりした回ですね。
天道の優しさ、エールの優しさ。
ローチさんが感激で飛んできそうです
393 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/18(金) 20:06:57 ID:SUDlQAxc
板をざーっと見て回ってたら、メッチャクチャ面白いのを見つけてしまった……!
こういうのが隠れてるから困る!w
天道はやっぱり素敵だぜ
カブトライダーやワームも色々とでてきて面白い
ロックマンZXを知らないのが悔やまれる……XとZEROは知ってるけど別もんみたいだしw
今度探してみようw
良作発見あげ
394 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/19(土) 18:16:52 ID:4ZPZla+2
面白いすごく面白い!
両方大好きだからこのクロスはたまらん
Xの能力でゼクターと協力なんて心が震えたわ
天道がまさしく天道でエールとの絡みが素晴らしい
なんでこんな良作に今まで気付かなかったんだ
395 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/21(月) 11:41:05 ID:pFglpyLW
意思があって適合者を選ぶゼクターとライブメタルの設定が似通ってるからこう違和感なくクロスできるんだな。
なるほど考えたなぁ。これは面白い。
しかしエールはアニメ絵で天道は実写だから脳内映像がカオスw
396 :
ロックマンZX × カブト ◆SaBUroZvKo :2009/12/23(水) 23:12:32 ID:foLYFxN9
いつの間にか感想が増えていたw
これからも精進したいと思います。
それでは、第八話を投下します。
注意
※オリジナルあり(モブ、敵のみ)
※クロス設定あり
※仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVEの没設定を利用しています(樹花の存在など)
※二次創作ようの設定あり(劇場版におけるサソードの末路など)
すべてを洗い流すかのように雨が降りしきる中、赤と金の影が交差して重い音が周囲に轟く。
稲妻が走り、一瞬だけ二人の仮面ライダーの姿を照らした。
赤いカブトムシの装甲を纏う仮面ライダーカブト。
金のコーカサスオオカブトの装甲を纏う仮面ライダーコーカサス。
二人は世界を超えての因縁を前に、互いの拳を交わせていた。
「くっ……はあ、はあ、はあ……」
「どうしましたか? 息があがっていますよ」
コーカサスの言葉通り、カブトは肩と胸の装甲にヒビが入り膝をついていた。
天才と名高いカブトですら、コーカサスの格闘術を捌ききれずにいたのだ。
対し、コーカサスはほぼ無傷。呼吸もまだまだ余裕がある。
「……まだだ」
カブトは一旦呼気を整え、地面を蹴ってコーカサスに接近を試みた。
右拳を固めて、音速に迫る速度で一直線に突く。
コーカサスは危なげもなく皮一枚で避けて拳をやり過ごす。
カブトは予測していたためすぐに拳をひき、左足でがら空きの脇腹を狙った。
肉と肉がぶつかる重い音が雨音でかき消される。カブトのミドルキックはコーカサスの膝に阻止された。
カブトは仮面の下で眉を僅かにひそめるだけで耐え、当て身に切り替えて地面を踏み抜く。
右肩に衝撃を感じ、コーカサスを吹き飛ばすが手応えが軽い。
後方に跳んで衝撃を逃がしたのだと判断し、体勢を整えた。その間一秒にも満たない。
なのに、コーカサスはカブトの懐に潜り込んでいた。
くっ、と喉を鳴らしてカブトは襲いかかる拳を両腕で受け止めた。
それでも拳を受け流すことも、防ぐことも許されず強引にコーカサスが振り抜く。
ガードごと粉砕され、カブトは背中をしたたかに打ちつけた。
「ガハッ!」
カブトは呻き、それでも痛みを無視して立ち上がる。
コーカサスの力は異常だ。以前戦ったときと遜色ない力がカブトの前に立ちふさがる。
圧倒的な実力の開き。それでもカブトは諦めず構えをとった。
「……決着が着いたようですね」
コーカサスのつぶやきに、カブトは思わずエールが消えた方向へ視線を移す。
雨音の中、僅かに聞こえたのはライダースラッシュの電子音だ。
なぜここまで届いたのか、カブトは疑問に思ったが敵は眼前にいる。
カブトが再びコーカサスへ視線を戻すと、コーカサスからは殺気が消えていた。
コーカサスが大きく跳躍して、木の枝に跳び乗る。
「天道総司。いずれ決着を着けましょう。正直、このままでは面白くありませんからね」
「そのことをお前は一生後悔する」
「その身体でそこまで強がれるなら、期待してもいいでしょう。楽しみにしていますよ」
コーカサスはそう告げて姿を消した。残されたカブトはもはやコーカサスを見ていない。
弾かれるように走り、エールの向かった方向へ進む。
カブトの青い瞳が前へ向けられていた。
そして、カブトは自分が間に合わなかったのだと、エールの声にならない叫びを受けて思い知る。
カブトの握る拳から血が滴り落ちて、コーカサスへ完敗したことを噛み締めた。
八話 SIN [罪の意識]
「以上が今回起きた事件の結末だ」
プレリーは提出されたミッションレポートに目を通しながら、天道の報告を受け止めた。
事件が終り、天道がエールを連れてきたときはなにがあったか焦ったものだ。
天道が抱えて連れてきたエールにいつもの活発さはなかった。あれから一日過ぎた今も、自分の部屋に閉じこもっている。
エールを仲間に迎えてから、初めての出来事だ。
プレリーは今、専用の研究室で天道の報告を受けていたのだ。
ワームにはいろいろと厄介な能力が多い。隊員にいらぬ不安を与えないため、ワーム絡みの事件は限られた人物にしか伝えていない。
それにしても、と自分用の椅子に背をあずけてプレリーはため息をついた。
「心のあるワーム……。ジルウェさんのときでもすぐに立ち直ったエールを追い詰めるか……」
「だからこそ奴らは生かしておけない。奴らの悲劇は誰かに成り代わることでしか心を持てないことだ」
プレリーは天道の意見に賛成だ。頷いて、エールのことを思う。
エールがジルウェのときに立ち直ったのは、自分たちやインナーのヒトビトがいたからだ。
守るべきものがあるため、傷ついてもセルパンに言葉で追い詰められても、立ち直って戦ってきた。
だが、今回エールが殺した相手は、同時に守るべき相手であったはずだ。
ワームだから違う、などいっても無駄だろう。エールはジルとして生きるワームを守るべきヒトビトと認識してしまった。
エールはセルパンたちの野望で他人に犠牲を強いる行為を否定し続けたからこそ、守ると決めた人を自分の手で殺したのが重圧となってのしかかったのだ。
プレリーはとたんにエールに申し訳ない気持ちでいっぱいとなる。
彼女に無理をしいていた、という思いがいまだプレリーにあったからだ。
「天道さん、今エールに私たちができることはありませんか?」
「正直言ってなにもない。こればかりはエールが乗り越えないとどうしようもないからな。だが……」
天道の最後の言葉には、優しさが込められていた。
穏やかな天道の声にプレリーは思わず目を見開く。
「セードルやトンもプレリーと同じことを言っていた。エールを大切に思う仲間がいる。それこそが、あいつの一番の救いだ」
どこか感謝するかのような天道の物言いに、プレリーは思わずほほ笑む。
彼もまた、自分たちと同じくエールを心配していたのだ。
□
地層が連なり、歴史を感じさせる。掘り進むのをメカニロイドに任せ、黒い高級スーツに身を包んだ弟切ソウは黙々と進み続ける。
隻眼であるのに足取りになんら迷いがない。黒い眼帯が右眼を隠すが、男の顔立ちにむしろ泊がついていた。
弟切は地面より半分顔を出しているモデルVを無視して、責任者がいるエリアへと足を踏み入れる。
さっそく壁に十トントラックがぶつかったような轟音が耳に入った。
弟切の目の前には、透明な部屋で壁を破壊しようと飛び回るガタックゼクターを観察しているフォルスロイドがいた。
「おや。珍しいですね、弟切さん」
「ダブルホーン・ザ・スタッグビートロイド……ガタックゼクターを観察して楽しいか?」
「堅苦しい呼び方ですねぇ。ダブルホーンで構いませんよ」
そう言って、ダブルホーンは赤い宝石のような瞳をガタックゼクターに向ける。
なにやら観測された数値を手前のディスクのコンピューターに打ち込んでいるが、弟切は興味がない。
目の前のダブルホーン……クワガタムシを模したフォルスロイドに弟切は不思議に思う。
クワガタをモチーフにした割に、ダブルホーンは細身で鋭利なデザインで作られていた。
ギリギリまで重量を削り、攻撃手段はナイフとなる頭部の二本の角しか持たない。
しかし、ダブルホーンはモデルVの出力すべてを速度に費やし、その速度はクロックアップに迫る。
その特異なフォルスロイドは戦闘力もピーキーながら一流であった。
さらに彼は研究者としてゼクターの研究を行っている。数の少ないワームとしては貴重な協力者だ。
元はモデルVを研究しており、“あの男”の補佐をしていたそうだが、今はゼクターの方に興味があるらしい。
「ところでなにか用ですか? ガタックゼクターを研究しても余裕があるくらい、私はノルマをこなしているはずですが」
「最近ここでのモデルVの発掘と、通るヒトビトの処理が派手すぎる。もう少し抑えろ、ということだ」
「ああ、それですか」
ダブルホーンはなんでもないように弟切に返す。弟切の注意にまったく興味を持っていない。
自分が興味あること以外はどうでもいい、という典型的な研究者気質であったなと弟切は思い出す。
「わざとですよ」
「そうか、わざとか。それなら仕方ないな。…………なに?」
ことは弟切の予想を超えていたようだ。ダブルホーンが妙なことを告げる。
不意をつかれた弟切は解せないと表情を変えるのだが、ダブルホーンは弟切を見ずに答えた。
「モデルVは八割方発掘を終えましたしね。ガタックゼクターも理解しつつある。ゆえにロックマンか仮面ライダーの戦闘データが欲しいのです。
ならば両方所持しているガーディアンを動かすにはわかりやすいエサが必要でしょう?」
「わからないな。モデルVはキサマらの……そして我らワームの目的のために必要だ。なのにわざわざ危険を冒すのか」
「ふふふ……弟切さん。ライブメタルも、ゼクターも神秘の塊です。その神秘の効果をこの目で確かめたいと思うのは自然ではありませんか。
フォルスロイドでは、ライブメタルの神秘を引き出したというには少々邪道ですし」
クックック、とダブルホーンは笑って弟切に話した。弟切としては……いや、彼らワームとしてはモデルVの力を持って稼働しているハイパーゼクターを大人しくさせ、次元の狭間にあるワームの卵を宿した隕石をこの世界に召喚したいのだ。
この世界へワームがたどり着く途中、ハイパーゼクターが隕石を食い止め続けている。
動きを止めようにも、破壊しようにもハイパーゼクターに手を出せないでいるのだ。
それはまるで、ハイパーゼクターがこの世界を守っているようにも錯覚させた。
隕石がこの世界へ現れれば、元の世界の地球のように荒廃する可能性があったのだが、ワームとしては気にする要素などない。
ゆえにモデルVが破壊される事態はなるべく避けたいのに、ダブルホーンは己の知的欲求のために余計な行為をしている。
弟切は頭を抱えたくなった。
「おや、また侵入者が現れたようですね」
ダブルホーンの言葉に弟切は振り返る。確かに彼が担当するエリアに、ヒトが入り込んだようだった。
モニターに現れる赤い点が点滅している。
「さて、あなた方のお仲間が増えますよ。ふふふふ……」
ダブルホーンが酔ったように告げる。どよめきが弟切とダブルホーンしかいないと思われていた室内であがった。
弟切はダブルホーンが声をかけている対象が誰であるか知っている。視線の先には、大小様々な電子オリが“中身つき”で存在していた。
電磁オリの内部にいるヒトビトがダブルホーンに対して恐怖の表情を浮かべる。
彼らはダブルホーンによって人体実験用に連れてこられたのだ。
ある種、ダブルホーンは彼らを愛していた。ダブルホーンが彼らにかける言葉は優しげですらあったのだから。
「それでは行かせてもらいますよ、弟切さん。これは私の趣味でしてね」
「わかった、どうせいっても止める気はないのだろう? だから一つ条件がある」
弟切の提案に、ダブルホーンは「ほう」とだけつぶやいた。
弟切はモデルVを発掘するエリアに視線を向けながら告げる。
「俺もモデルVの護衛につかせろ。それでいいなら、お前の行為に目をつむる」
「ふふふ……あなたのそういうところ、私は大好きです」
そう言ってダブルホーンは弟切の右頬を撫でて、姿を消す。
弟切は自分の負担が増えたことを憂おい、思わずため息をついた。
□
ジルを殺して一週間が経った。エールは仲間の前に出てきている。
そしてなんでもないように振舞っていたが、周りにはエールが普通でないことが丸わかりであった。
「エールさん、なにかあったのですか?」
『……プレリーや天道からなにも聞かされていないのか?』
この日もまた、整備されている途中フルーブが聞いてくる。
中にはローズやセードルもおリ、彼女たちも興味津々にモデルZの言葉を待っていた。
モデルZはため息をついて、頷き返すフルーブを見つめる。
視線を移動すると、看護士の格好をしたナナと、ガーディアンの制服に武器を肩に担いだセードルが近寄ってきた。
「天道もプレリーも、エールになにがあったのか黙っているんだよ」
「…………いつもお世話になっているエールさんが元気ないと、私は心配で……」
セードルがどこか調子の狂ったような感じで、ローズは心底心配そうにモデルZへと尋ねてくる。
気質は正反対の二人だが、エールとも親しかったゆえ心配なのだろう。
さて、どうしたものかとモデルZは思考する。
なにがあったか答えるのは簡単だが、プレリーと天道が黙っているということは言いふらすなということか。
それに、こういっては悪いのだがフルーブや彼女たちに今のエールにできることはない。
エールがたどり着いた壁はモデルZにも覚えがある。正確には彼の相棒であったモデルXがたどり着いた壁なのだが。
だからこそ余計に、エールが一人で乗り越えるほかはないと考えていた。
『すまないが、しばらくエールを見守っていてくれ。俺から言えることはそれだけだ』
「……そうですか」
フルーブが小さい身体をしょんぼりとさせた。白い髭を揺らし、ため息をついている。
しかし、セードルは納得が行かないようにモデルZへ身体を乗り出した。
「そうかい、なにもいうつもりはないってことかい」
『そう喧嘩腰になるな。こればかりはエールが一人で乗り越えるべきことだ』
「確かに、天道さんもモデルZさんと同じことを言っていましたけど……」
セードルもローズも不満げにモデルZへ詰め寄る。
モデルZは彼女たちの様子から、エールは確かに重症だと思い返した。
シュミレーション室に、金髪に鋭い瞳のアランが入ってくる。
先客がいることを確認すると、エールだったため珍しいと彼は感想を抱いた。
モニターで訓練内容を見てみることにした。
物陰より現れたメカニロイドに、エールは照準を合わせた。
青いロックマン、モデルXへと変身した彼女はバスターを放ってメカニロイドを消す。
立体映像であったメカニロイドは消えて、新しい敵が次々と現れていった。
エールは一心不乱に次々敵を撃ち抜いていく。鬼気迫る雰囲気にアランは思わず見入っていた。
「はあ――はあ――次……」
エールはつぶやいて次の敵を召喚する。アランが移動して難易度を確認してギョッとした。
難易度と危険度がMAXの状態でエールは訓練をしている。
いや、それは自分の身体をいじめ抜いているだけ、といった方が正しい。
『エール、少しは休まないと……』
「いいの! モデルX、今は動いていないと……」
アランは痛々しいエールに見ていられず、スイッチをオフにした。
エールが不思議そうな表情を浮かべる中、アランは訓練室へと入っていく。
「エール、そこまでにしておけ」
「アラン。大丈夫、まだこんなに元気だよ!」
「フラフラでいう台詞か?」
アランの指摘に、エールはハッとなって鏡を見つめる。全身汗まみれになり、疲労しきった身体が細かく震えていた。
エールはアランに笑顔を向ける。まるで無理やり作ったかのような笑顔にアランは眉をしかめた。
「ごめんごめん。つい熱中したみたい。そうだね、アランも使いたいだろうし、アタシは休むよ。
ごめんね、モデルX。アタシに無理やり付き合わせちゃって」
そう笑ってエールは変身を解いた。シャワー室にいってくるとエールは告げて、訓練室から離れていった。
アランはエールが部屋を出るまで背中を見届ける。
「わざと明るく振舞やがって……なにから元気をだしているんだよ。らしくない……」
普段クールに振舞っているアランだが、エールの尋常でない様子に思わず心配そうにつぶやいた。
熱い湯が頭上から降り注ぎ、エールにまとわりついていた汗を流し落とす。
日にさらされながらも白いままの肌に水が跳ねて排水口へと流れていった。
鍛えられながらも、女性特有の柔らかさを保った肢体が、一糸まとわず存在している。
エールはシャワー室の壁を殴りつけた。濡れた黒髪が目を隠すが、悔しげに食いしばった口だけは見えている。
ギリッ、と歯を鳴らしながらエールが思うのは、ジルを斬ったあの瞬間だ。
いまだあの感触が残っている。ジルの身体を刃がめり込み、振り切った肉と骨の感触がエールを責めたてる。
(アタシは……アタシが――)
とてもじゃないが、動いていないとどうかしそうだった。
怖くて天道にあの後エリファスがどうしたのか聞けないでいる。
その自分がとても許せなく、動いて自分の感情を誤魔化そうとしているのだ。
今までエールが倒してきた連中は、他者を殺すことや奪うことを当然だと考えている連中ばかりだった。
ジルウェも操られていたため戦ったとはいえ、トドメはパンドラが刺している。
だから、どうしても『守るために戦ったジル』を殺してしまったことが、エールの心を苛んでいた。
ジルを殺し、エリファスから大事なヒトを奪ったのは自分だ。
もっとやり方があったのではないか?
ジルを殺したのはエールの弱さではないか?
正しくない思考がエールの脳裏をぐるぐると回る。
極度のストレスに吐き気を催すが、エールは耐えてシャワー室の壁をもう一度叩いた。
皮を破り拳から血が流れる。シャワーのお湯がそれを流しながらも、エールは痛みに耐えるように身体を丸めていた。
「ヒトビトが行方不明になる事件か……」
プレリーは蒼い瞳をモニターに向けて、艦長席に深々と座る。
それだけではなく、五日ほど前からモデルVの反応が堂々と出てきたのだ。
もちろん、プレリーは警戒をした。今まで巧妙に隠されていたモデルVが、この期に及んで反応を示している。
なんらかの罠ではないか警戒するのも当然である。
「放っておくわけにはいかないな」
「天道さん……ですが……」
「これがモデルVの反応だけなら放っておくのも一つの手だが、ヒトが消えているとなると話は別だ。
ワームが消したヒトと入れ替わる可能性がある。それを放置してはおけない」
「…………危険ですよ」
その言葉にはエールがいないことも含まれていた。
たとえそうでも、止まる人間ではないとわかっているのだが。
「承知のうえだ。ただし、エールには言うな」
「わかっています」
エールに言えば、無理して出撃するだろう。今の彼女は戦える状態ではない。
本来ガーディアンのメンバーではない天道を頼りにするのは心苦しいが、それしか手段はなかった。
「天道さん、申し訳ないのですがこのミッション、引き受けてくれませんか?」
「安心しろ、プレリー。俺は天の道を往き、総てを司る。今回も俺が解決する」
天道は自信満々に宣言し、踵を返す。
プレリーはただ天道の背を見送り、後を託すしかなった。
エールは影で天道が一人向かうことを聞いていた。
エールは悔しさで唇を噛み締める。天道やプレリーに心配をかけ、負担を増やしたため自分に腹を立てた。
(天道を一人に負担をかけさせられない。プレリー、ごめん)
エールは一瞬だけ艦長室に目線を送り、今回の事件を思い返す。
ヒトビトがモデルVの発掘現場の近くで行方不明になっている。
エールの頭が怒りで煮えたぎり、拳を強く握りしめた。
エールはフルーブにモデルZを返してもらうため、プレリーと天道に見つからないようにその場を離れた。
□
岩肌が露出する採掘エリアへとたどり着いた天道は周囲を見渡す。
天道の右手方向の岩に三機、左上の崖に一機ガレオン・ハンターが隠れているのを確認した。
隠れているつもりだろうが、見え見えだ。天道はカブトゼクターを呼び出し、右手に握る。
腰に巻かれた銀色のベルトへと、カブトムシ型デバイス・カブトゼクターを装着させた。
「変身」
次々生み出される六角形の金属片をまとい、天道は屈伸して宙を跳んだ。
変身完了をまたずしての行動はガレオンを戸惑わせる。
宙に舞ったまま、仮面ライダーカブト・マスクドフォームへと変身を終えた天道がカブトクナイガンの引き金を引いた。
右の一機と、左上のガレオンの頭部が砕けた。そのまま二機だけ残ったガレオンの中心へと着地する。
マスクドフォーム特有の青い単眼が輝き、カブトはクナイガンをアックスモードへと変形させて横一文字に振るった。
ザン、という鈍い音を引き連れてガレオンの首が舞う。
この間一秒。相手にもならない。
(――む?)
カブトの強化された聴覚にカメラの起動音が聞こえた。
首だけ動かして視線を向けると、撮影用のメカニロイドが存在している。
(クナイガンでは届かないか)
カブトは冷静に見切りをつけて、目的のモデルVの反応があった場所へと向かった。
自分の情報を得たいなら得ればいい。いまさら痛くも痒くもない。
カブトはただ、目の前に映る悪魔を倒すだけだ。
『エール、今は天道たちの判断が正しい。戻れ』
「モデルZ、そうはいかない。モデルVが関わっているなら、アタシが動かないと」
エールは半ば意固地になって、フルーブに返してもらったモデルZへ告げる。
赤のロックマンZXへと変身をしたエールが周囲を警戒しながら進んでいた。
少なくとも、こうして身体を動かしている間はジルを殺したことを置いておける。
それが弱さだと自覚しても、始めての経験にエールはこうするしかなかったのだ。
『エールの今の体調は悪いんだ。モデルZの言うとおり、戻った方がいい』
「そんなことはない! アタシだって充分休みをもらった。だからもう大丈夫!」
エールは半ば自分に言い聞かせるように叫んで、モデルXを沈黙させた。
痛いほど視線がエールを心配しているのがわかる。
それを無視するのは心苦しいが、エールは必死に足を動かした。
今頃はプレリーが転送装置のログを追って、大目玉を食らっているかもしれない。
自分を強制的に戻すよう天道に頼まれる前に、目的をすませる。
エールが決意したと同時に、閉じられたはずの扉が開いた。
荒野の中でただ一つ存在する大きな建物の扉だ。エールたちが警戒するのも無理はない。
「誘っている?」
『罠だな』
モデルZの言うとおり、罠なのだろう。それでもエールは止まる気にはなれず、そのまま進む。
もはやモデルZもモデルXもなにも言わない。
警戒しながらも、エールはいつもと違って気持ちが逸っていた。
そのことに気づかないほど、エールは追い詰められていた。
モデルZとモデルXが、自分たちがフォローせねばと決意する横でエールが最後の一歩を踏み入る。
薄暗い実験室のような室内が、外の採掘場と百八十度違う印象をあたえる。
ガン! と大きな衝突音にエールは身構えるが、視界に入ったのは敵ではない。
「ゼクター……?」
エールの目の前には、透明の箱につめられていたガタックゼクターがある。
酷いものだ、と解放に向かうと照明が点いた。
「どこ!?」
「フフフ。逃げも隠れもしませんよ」
エールの勇ましい声に答え、青いクワガタムシを模した鋭利なデザインのフォルスロイドが現れた。
フォルスロイドは丁寧にお辞儀をして、エールの正面に立つ。
「始めまして。私はダブルホーン」
「あなたもモデルVを搭載したフォルスロイド……?」
「ええ。残念ですが、ここにはモデルVはもうありませんよ。一足早く基地へ運んだのでね」
慇懃無礼ながらも、ダブルホーンの声は弾んでいた。
周囲に撮影用のカメラを呼び出し、ダブルホーンがゆっくりとエールに近づく。
「ゼクターは使わないのですか?」
「……必要なら使うわよ。けどその前にそこのゼクターや行方不明になった人も返してもらうから!」
「いいですね、その気合。データを豊富に取れそうだ」
ダブルホーンの機嫌のいい態度に、エールは嫌悪感が湧き上がる。
静かにZXセイバーを構えるが、相手は余裕だ。
(馬鹿にして!)
エールは怒りに任せてZXセイバーを振るった。
□
カブトが赤い稲妻となって三体のガレオンの首を飛ばす。
それでエリア一つの敵を全員倒したと認識したとき、『Clock over』の電子音が高らかに鳴り響いた。
計算通りだがどこか解せない。敵の抵抗が妙なのだ。
まるでカブトの力を試すような動きであった。
そのままの勢いで地下へ続く通路を駆けていく。照明がポツポツと点いている薄暗い通路を抜けると、広い空洞へとたどり着いた。
「ひと足遅かったな」
地下で響く男の声にカブトは視線を動かす。ゴゴゴ、と低い地鳴りと共に、掘り出されたモデルVが上昇していった。
十五メートルほどの大きさのライブメタルが回収されるさまを見つめ、カブトは地面を蹴る。
そこへ声の主が邪魔し、カブトは足を止めた。
「どけ」
「そうはいかない。天道総司、キサマに対する借りもあるしな」
眼帯の男が憎しみを込めてカブトへ言い渡す。カブトが記憶を探るあいだ、男が一瞬だけワームへ変化した。
その姿を見てカブトは「ああ」とだけつぶやく。
「右眼を潰すだけでは足りなかったか?」
「――ッ! キサマ……」
弟切はカブトの挑発に乗り、ゼクターを呼び出した。
以前カブトが相手したときは、資格者へ擬態していなかったのだが、まあいい。
弟切の右手にハチ型デバイス、ザビーゼクターをつかんで左腕の金のブレスレットへとはめ込む。
『Hen-shin』
弟切の身体を六角形の金属片が包みこむ。銀に黄色のラインの重装甲が上半身に覆いかぶさっていく。
蜂の巣のような目を輝かせ、仮面ライダーザビー・マスクドフォームが顕在した。
「今度はお前の右眼を俺がえぐってやる」
「無駄だな。俺の動きを追いたければ、天の道を知るがいい」
もっともキサマでは無理だろうが、と言外に告げてカブトは地面を蹴る。
ザビーとカブトがぶつかる重音が洞窟で響いた。
「はあ、はあ……」
エールはうつむきながら、ZXセイバーの柄をギュッと握りしめた。
白い柄に僅かに血がついており、エールの右手から細い血液の道が出来ている。
周囲には空気を切り裂く音しかせず、エールは強化された聴覚を活用しなければならなかった。
もっとも、一番の問題はそれではない。
「音がやんだ……そこ!」
エールが敵の位置を予測して、地面を力いっぱい蹴った。一度の跳躍で五メートルの距離を0にして、ダブルホーンの青い鋭角な姿へと跳ぶ。
エールはそのままZXセイバーの刃をダブルホーンの首に向けて、斬り裂く前に制止した。
「ぐっ……」
『エール、早く振りぬけ!』
モデルZが急かすが、エールの腕が動かない。こいつは敵だ。
倒し、モデルVの発掘をやめさせなければ多くの悲劇が生まれる。
そうわかっているのに、エールの脳裏にジルの顔と、彼を抱きしめるエリファスの姿が浮かんで腕を動かせずにいた。
「ふむ、妙ですねぇ」
ダブルホーンはただそれだけつぶやいて、両手に握ったナイフを左右に振った。
刃がエールの肌を斬り裂き、二の腕から血が吹き出る。大した威力じゃないが、今のエールには脅威だ。
エールは呻きつつ後退し、ダブルホーンを睨みつけた。だが、睨みつけるだけ。
震えるZXセイバーをエールは認識して、奥歯を噛み締める。震えよ止まれと何度も念じるが、身体が言うことをきかない。
「瞬発力、聴力、判断力とロックマンにふさわしい能力でしたが……なぜ攻撃のときだけ失敗するのか」
「う、うるさい!」
エールは叫び、ZXセイバーを銃へと変形してダブルホーンへ向ける。
避ける様子すら見せない。今ならダブルホーンを撃つ最大の機会だ。
なのにエールの人差し指が震え、極度のストレスで吐き気を催す。
『エール、ここは退け。今のお前では無理だ』
「う……うわあああああ!!」
エールがようやく引き金を引き、人の大きさほどの青い光弾がダブルホーンへ向かった。
ダブルホーンは無抵抗に攻撃を受け入れ、吹き飛ばされる。
ようやく一撃与えられた。なのに、エールは膝を屈し脂汗を全身に浮かばせる。
「あ――ぐ……うぷっ」
胃液混じりの胃の中身が食道を逆流し、エールの口にたまる。
全身が縮小したような錯覚を受け、湧き上がる嫌悪感にたまらずエールは吐瀉物を地面にぶつけた。
ビチャビチャと胃液混じりの内包物が飛び散り、エールの瞳に涙がたまる。
頭は熱に浮かされたようにボーっとし、フラフラながらもどうにか立ち上がった。
「ずいぶんいい攻撃を持っているのに、もったいない。他者を傷つけることに多大なストレスを感じるようですねぇ」
『エール、もういいから。今は……』
「おっと、撤退されても困ります。しかし、今のまま攻撃ができないのなら、データを取りにくい。ですので、こういうのはどうでしょう」
パチン、とダブルホーンの指が鳴ると同時に、コロシアム状の室内でモニターがおりてくる。
電源が入ったと同時に、エールの視界には信じられない物があった。
「行方不明になっていた……ヒトたち……?」
「ええ。彼らはいい実験材料となりますので、手元に置いていたのですよ。“あのお方”に渡すと雑な扱われ方しますしねぇ。
それはさておき、提案があるのですよ。あなたに本気を出してもらう……ね」
もう一度ダブルホーンの指が鳴る。それと同時にモニターの一つに映るオリに電撃が走って絶叫がエールの鼓膜を震わせた。
呆然と見入っていたエールはカッとなり、地面を蹴る。
「この――!」
エールは間合いに入り、ZXセイバーを横にふる。込みあげる吐き気を飲み干しながら、ダブルホーンを見据えた。
甲高い金属音が鳴り響き、ダブルホーンのナイフとZXセイバーの刃が交差する。
と、同時に電撃を走らせたモニターのヒトが黒焦げになって崩れ落ちた。
「あ……あ……」
「さて、ロックマンの力を存分に見せてください。フフフ、でないとあそこのヒトビトは私が殺しますよ」
エールは目を見開いてダブルホーンを見る。身体中に熱がこもったように熱い。
ダブルホーンの姿が幾重にも重なり、エールは呼気を荒くしていった。
「はあぁぁぁぁぁっ!」
だからこそ、気合を込めて叫ぶ。襲いかかる自分へのストレスを無視して、エールはZXセイバーを振るった。
身体が震える事実がエールを苛もうとも。
赤い影と黄の影が交差して、それぞれ地面に着地する。
ハチを模した仮面に、黄色の装甲の仮面ライダーザビー・ライダーフォームを前にカブトはクナイガンを構え直す。
予想外に強い。最初にカブトがワームの状態の相手と戦闘をしたときはさほど強くなかったのだが。
407 :
AAで埋め:
ィ l丶、
'、l、ヘ
! 'lゝ \
/ ノく ゙ <ゝ ィ-
゙< ゝ丶 '<l‐ r' │
_......  ̄'、 、 ゙リ /彡丿
_-‐'" ̄""' -< :勹ゝ ./ ィ ../
..-ゝ- 、 ..‐ _〔┴‐─'´ / ┌┐ おばあちゃんが言っていた…
〈‐ー-..、 `‐-/ ヘ / .|__| 料理もスレも後始末が肝心、と。
l 、 ..,, ゙''-│ │ ィ´ .|__|
| l | | | | ヘ、 ノ / | _ | |r 、
ヽ」 ヘ│l 〉/ゝ、_/ イ┘ | ニ_ ゛'''‐‐、
__ _,,く........、....../ゝ「│Y´ | | l ‐=ニコ
│ ` ー‐-- __/ `''-、 j_|コ ___ ` |‐⊂⊃-|
_−――――‐‐、/ ̄ ̄/ヘ- / ̄ ̄`ー‐--====∠ |/ ̄ ̄ ̄ヘ
 ̄ ̄/ /  ̄ ̄ ̄ ̄ l `l\ // i ´ −‐------_____ ヘ ̄ー‐---______|
/ / i ゙ | / _ i / 丶 ヘ ` ̄
/ / / |\ / | i ( 丶 ヘ
\\ /l \ | | / i ヽ、 ヽ ヘ
丶\ / 」 |\ /| \/ ヘ、 / /
/`‐‐‐‐‐‐‐ | \| |/ / \___ / /
/ l |\ /| /  ̄ ̄7''ー/
../ / / ヘ\| |/ / / \
/ / ヘ ゝ二二二/ / \
./ / 丶―――/ / \