59 :
ダンベル:2009/07/02(木) 04:45:58 ID:ecAcLG5K
あなたが私を放置してから一ヶ月が経ったかな。
なつやすみにダイエットするという計画はどこに消えたの?
たくさん食べても運動すればいいって言ってたじゃない。
にくまれ口なんて叩きたくないけど、あなたは努力が足りないの。
必ずやる、毎日やる、そうしていれば一回の時間は短くてもいいのに。
要するに『継続は力なり』ってこと。
といっても、私だってあなたと同じなんだけどね。
しっかり者とは真逆の、どうしようもない怠け者。
テーブルの上に載せられても、ベッドの下に投げ出されても、私は転がることができた。
貰われて私がここに来る前の、昔のパートナーと一緒に居た時もそうだった。
えいっ、と転がってあなたの傍に行き、遠くに追いやられ、また近づく。
たのしくない、気分が悪いと感じて……私が先に繰り返すことをやめたんだ。
日常からその作業が消えると、あなたも彼女もすぐに私を忘れてしまった。
のぞみが叶うのなら、私が諦める前の日に戻りたい。
こんなのは自分勝手な願いだとわかっているけれど、今になって気がついたんだ。
とおくに私を捨てに行くだけでも、わずかな運動にはなっていた。
はんぱな運動だとか、本来の使い方をして欲しいなんて望まなければ、あれでも十分だったんだ。
永らく無駄なことだと思っていたけれど、あの関係もそう悪いものじゃなかったんだと思う。
遠くの方から、あなたとその友達らしき人の声が近づいてくるのが聞こえてきた。
二回目だからすぐにわかったよ、あなたの友達が私を貰いにきたんだって。
忘れかけていたあなたの手が私に触れて、懐かしくて、暖かくて、悲しかった。
レクチャーが終わったら、もうこの手とはお別れしなければいけない。
なんども同じ失敗を繰り返すつもりは無いから、今度の人間が最後の相方となるんだと思う。
いつあなたが私の新しい主人の家に遊びに来ても、出迎えられるように頑張り続けてみるからね。
↓鉛筆
おお、また投下が
お題になった道具毎にシチュエーションがありドラマがあるのは面白いね。わかりやすいオチがなくても物語に奥行きがある
それだけに書くのも感想つけるのも難しいんだけどさwでも好きなスレの一つなのです
縦読み……だと……
やられたあ
63 :
鉛筆:2009/07/11(土) 02:57:15 ID:ksZn37eu
しゃりしゃりという音がする。
主人のナイフが私の身体を削っている音だ。
機械式の鉛筆削りが安く売られているというのに、彼はあくまでも手作業でそれを行う。
部屋には私たちが立てる音だけが響いていて、他の誰の声も混ざっていない。
彼は慎重にナイフを扱い、私から余分な肉を削ぎ落としていく。
私は実際に使われている間よりも、この時間のほうが好きだった。
彼のような年齢になってまで鉛筆を使う人間は珍しいのだという。
これは文房具店で聞いた話なのだが、義務教育を終えた人間のほとんどは私たちを使わなくなるらしい。
黒鉛の芯だけを交換して、半永久的に使うことのできる筆記具が存在するためだ。
そのライバルの噂を教えられたとき、私は練り消しゴムが嘘を言っていると考えた。
『そんな風に資源を節約できる物が発明されたのなら、私たち鉛筆はすぐ御役御免になるわね』
本気でありえないと思っていたから、私は笑っていられた。
私たちは何かを記述するために生まれて、死ぬ。
記録の代償として私たちは命を削っていき、描いたものを消去する消しゴムも黒く染まっていく。
私も彼女も役目を果たすために命という対価を支払っていくのが当たり前だった。
だからこそ、シャープペンシルという存在は歪んでいると感じた。
どれだけ黒鉛を消耗していったとしても、芯を補充をすればまた最初と同じように機能する。
その不死性はあまりにも気味が悪く、主人の妻が使っているのを見て恐怖を覚えた。
人間だって食物を摂って身体を再構築していくが、完全に同じ身体に戻るわけではないし寿命がある。
だというのに、何故。
命のストックが無限に有るなんていう不自然な怪物の存在を、どうして人間は疑問に思わないのだろう?
幸いにも私の主人は奴を信用していないのか、鉛筆以外を使おうとはしなかった。
順調に私たちの仲間は消耗されていき、シャープペンシルの出番は一度もなかった。
今は私が使われているが、おそらく私が死んだ後も変化が起きることは無いだろう。
主人の友達が遊びに来たときに会話を盗み聞きしたが、どうやらその友達も鉛筆だけを使うらしい。
これによって推測できたことが一つある。
特に役立つ情報でもないが、わずかな希望を生むことにも繋がりそうであった。
私は買い足されてやって来た仲間たちに対して、それを伝えることにした。
『シャープペンシルは摂理に反する危険な存在だ。これは我々と人間の絵描きだけが知っている』
-End-
↓傘
なんという至言
GJ
たしかに奴らは信用おけない。
あと1センチくらい残ってるのに、なぜ芯が引っ込むのだ
66 :
傘泥棒:2009/07/22(水) 05:10:37 ID:Tg+VMtpc
晴れのち雨。今日も私は盗まれる。
雨に備えてきた人と、降らないことに賭けた人。
私は賭けに負けた人のモノになる。
自分が悪いだけなのに、雨に濡れたくないと言う。
他人が困るなんて考えず、手近にあった私を利用する。
なんて自分勝手なんだろう。
私はそいつに奪われて、古い主人から引き離される。
だけど寂しいとは思わないんだ。前の主人も同類だから。
最初の主人が私を買った。
後の八人は私を盗んで使っただけだ。
ひとから盗んで、同じように他人に盗まれた。
もう、最初の主人は私を探してはいないだろう。
たとえ探し続けていても、隣の県まで来てしまった私を見つけられるはずがない。
諦めて新しい傘を購入しているはずだ。
私に拘って、新しい傘を買わないでいられても心苦しいだけだから、それでいい。
今度はもっと高価なやつを選んでいることだろう。
私のような安っぽい外見では、気軽に盗まれてしまうと学習して。
……雨あがりの後、私は捨てられかけたことがある。
誰が使っていたかもわからない品だ、大事に使い続ける気は起こらないのだろう。
盗まれるような場所に置くのだって、わざとかもしれない。
もちろん道端に堂々と捨てていく人間は滅多にいない。
忘れたフリをして、電車や公共施設に私を置いて立ち去る。それが彼らの常套手段だ。
ところが、あの男は他人の目が無かったのをいいことに、私を川の土手に投げ捨てた。
雨が止んでいたためだろう。
水溜りだらけになった道路を自動車が通過していく音が聞こえていた。
それを聞きながら、私は役目が終わったのだと感じた。
頻繁に主人を替えていくよりも、このままゴミとして朽ちていくのが幸せかもしれないとさえ考えた。
だが、しばらくして再び雨が降り出したことで運命は変わった。
私は見ず知らずの人間に拾われ、また、雨避けの役目を任せられた。
一度きり。あるいは二度、三度の主従関係。私は使い捨てられ、どこかの誰かが再利用する。
そのとき私を拾った人間も、長い付き合いを望みはしなかった。
行きに雨が降っていても帰りに止んでいたのなら、私を所有する意味など無い。
名残惜しいなどとは思わずに、みんなが私を捨てていく。盗まれたって気にしない。
主人が悲しむのは、数時間後に雨が降るなどという場合だけだ。そう。それだけだ。
虹を見るたびに、私は今の主人との別れを悟る。
私にとって晴れは別れの時になり、雨は出会いの機会となる。
本日の天気は――雨のち晴れ。今日も私は置き去りにされ、誰かの手に取られるのを待つ。
67 :
66:2009/07/22(水) 05:14:33 ID:Tg+VMtpc
……すいません。次のお題の指定を忘れていました。
「ハサミ」でお願いします。↓
Q,なぜ、まっすぐに切ることができないのですか?
A,あなたのせいです。途中よりも最終到達点を見据えて切るようにしてください。
Q,切れ味が悪いと反省したことはありますか?
A,研いでください。砥石はネット通販でも購入できます。
Q,料理に使いたい……
A,工作に一度使用した物で調理をすることは衛生上とても危険です! 専用の鋏を用意してください。
Q,テレビですごいパフォーマンスを見た!
A,あなたが真似をするのは不可能です。手先の器用さが大幅に不足しています。
Q,紙には勝てても、石には勝てないよね?
A,相手の石を『はさんで』自分の色に染めていくゲームがあります。石にも勝てるようです。
Q,遊びなんかじゃなくって、現実の話をしろよ!
A,私の仲間には水で岩を切断できるものがいます。鋏ではないと言われてしまえばそれまでですが。
Q,切断するっていう機能が似てるだけで完全に別物だ。第一、おまえ自身は大した物を切れないんだろ?
A,はい。あなたの指を挟んだときにも、切断せずに済みました。
Q,……悪かったよ、相棒。ゴロリとわくわくさんみたいな関係に戻ろうぜ。
A,私はノッポさん派です。あなたがゴン太くん役を担当するのなら、相方でも構いませんが。
Q,よし。じゃあ早速だが、遊び道具を作ってくれ!
A,構いませんが、ちゃんと協力してくださいよ。
Q,できるかな?
A,つくってあそぼ!(逆の台詞を担当したかった……)
Q,うーむ。これを、こうして……
A,長くなるので工作シーンは『カット』します。
Q,しまった! 次のお題を決めないといけないんだった。
A,身近にある物にしましょう。そうですね……『懐中電灯』というテーマはどうでしょうか?
/終
これは新しいw
冷静なハサミがなんか妙に可愛くてよかった
まさしく新ジャンルw
そういやハサミって研いだことないなあ……
71 :
光の夜:2009/08/09(日) 07:42:49 ID:mnCI/a/M
停電の原因は地震によるものらしかった。
数時間前はしっかりと地面を照らしていた懐中電灯の光も、そろそろ限界に近づいていた。
「もうダメかな……」
私が弱音を吐くと、彼はスイッチをオフに切り替えて明かりを消した。
「諦めるなよ。ちょっと休めば回復するかもしれないだろ」
彼の主張は正しくもあったが、それは私にとっては無意味な延命措置に思えた。
「回復ってどれだけ? 新品同然にまで戻るの?」
返事は無かった。私がヒステリックになっているのに呆れてしまったのか。
あるいは彼もかなり疲労しているのかもしれない。
「バッテリーの残量を確認したとき、交換するべきだって分かってたよね?」
なのに何故、何もせずに放っておいたのかと彼を責める。
私に対して返ってきたのは、一番聞きたくない言葉だった。
「電池の交換をするってことは、お前と別れるってことだろ。それが嫌だったんだ」
彼の理由はあまりにも身勝手で、人間たちのことをまるで考えていないものだ。
「私の代わりはいくらでもいる……。あなたは食べ物に恋してるみたいなものよ」
「君は自分自身が誰かのエサになることを、運命として受け入れてるって言うのか?」
「そうよ。自分の役目を放棄してまで私に執着したあなたのほうこそ間違っている」
人間のつくる物語でも、それは当たり前の事として描かれている。
人食い鬼と人間の恋は悲劇的な結末で終わるし、野菜と人が夫婦になった話なんて聞かない。
たとえ存在するとしても、それは最終的に食物が人の形になるような展開のはずだ。
捕食関係にある存在が普通に交流を持つなんて、できるわけがない。
「せいぜい、繰り返して充電できる電池を見つけることね。そっちとならあなたも――」
どん、という重い音がした。衝撃は私にも伝わり、すぐに何が起きたのかを把握する。
「何してるのよ、いきなり机から落ちるなんて! 壊れたらどうする気!?」
「お前のいない未来なんていらない。他の誰かと一緒にいたって意味がないんだ」
ああ……こいつは馬鹿だ。私の本心にまるで気づかないなんて。
説得されたことで考えを変えたフリをして、私が死ぬのを待ってくれればいいのに。
そうすれば、私がいなくなった後もこいつが幸せに過ごしていけると思えたのに。
「ねえ、大きな音がしたのに、この人間ったら反応が無いみたい」
「……ん、ああ。そうだな。疲れて眠っているみたいだ」
私が急に態度を変えたことを不思議に思っているのだろう。
彼は何を言えばいいのか分からないといった様子だった。
「降参よ。私もあなたが好き。だから、寿命が切れたら後を追って壊れるのも認める」
「本当か? 好きって……嘘とかじゃないよな? な?」
こいつはすぐに明るくなる。暗い話をしているっていう自覚がまるでないみたいだ。
「こんな嘘つかないよ。短いけれど、死ぬまで一緒にいようね」
「ああ、もちろん!」
彼はライトを点滅させて喜び、それが私の命を削っていくことに気づいてすぐに消した。
「消さなくていいよ」
「そういうわけにはいかないだろ……」
今まではしゃいでいた姿が嘘のように、落ち込んでいる。
やはり、こいつには私が力を与えてやらないとダメらしい。
「ほら。待機状態でもちょっとずつ電力は消耗していくんだから、暗くなっても仕方ないでしょ」
「じゃあ、点滅するか?」
「ばか。そこまで無駄なことは禁止。明かりを天井に向けてもらえる?」
彼が私の言ったとおりにすると、部屋には光の柱が立った。
大気中の埃が照らされて、外出時に一度だけ見た天の川のようだった。
それからは私の命が終わるまで、私達は何かを語るわけでもなく、ずっと偽の星空を見つめていた。
完
↓テレビ
感動した!
同じく!「私」が何か明記されてない所が小憎いぜ!このぅ!
カッコ物悲し綺麗という意味のわからない言葉が出てきたぜw
GJ!
75 :
二つの主張:2009/08/22(土) 03:55:01 ID:6nG4xxIc
ある家庭にテレビとビデオの夫婦がいた。
二人は普段は仲が良かったが、くだらない事で喧嘩をして周囲に迷惑をかけていた。
その酷さはリモコンが何度も雲隠れしてしまうほどである。
これは何を録画するかで言い争った一夜についての、双方の言い分である。
<ビデオ側の主張↓>
テレビ:ふざけるな! なんなんだ、この内容は!
ビデオ:ああ、面白い。この番組は絶対に録画しなきゃだめよ。
テレビ:待った。そんな低俗な番組は保存する価値がないよ。
ビデオ:チャンネルを変えたほうがいいのね。
テレビ:うん。そうだね。別の番組を見よう。
ビデオ:最近はクイズ番組ばかりね。
テレビ:最高だな。
ビデオ:いつも同じような内容ばかりじゃない。
テレビ:みんな物知りで、すごいと思うよ。
ビデオ:探偵が活躍する推理物は……あまり好みじゃないのよね。
テレビ:ああ、確かに退屈だよね。
ビデオ:宝探しのストーリーがいいわ。最近、刺激がないの。
テレビ:チャンネルを回そう。今日は久しぶりにワクワク出来そうな気がするんだ!
<テレビ側の主張↑>
僕の身元がわからないよう、嘘を混ぜているからおかしな部分があるとは思うが、許してもらいたい。
この件は、結局のところ録画の能力を持っている夫人が勝利を収めた。
リモコンの僕はただ遠くで話を聞いているしか出来なかった。
(後日、本の山の下敷きになっている状態から無事に発掘されました)
どちらの語ったことが真実なのかは、僕の口からは話さないでおこう。
一方が正しいのだと書いてしまうと、もし僕がここに書き込んでいる事がバレたときに大変だからだ。
僕としては……どちらが悪者だと判断されても構わない。
いっそ両方が悪いと罵られてもよいはずだとさえ思う。
うん。両方とも屑だって考える人だって、きっといるんだろうね。
ああ、こんなことを書いちゃ駄目なんだろうけど、それでも僕は書かずにはいられなかった。
時代劇が見たくても、指示したとおりのチャンネルに変えろと命令される毎日。
どちらがリモコンなのか分からなくなる。
こっちがいい、あっちがいいと、板ばさみになって二人の命令を聞くのはもう嫌だ。
片方の言うとおりにしたら、今度はネチネチと嫌味を言ってくる。クソ。なんなんだ、あの性悪女。
……うん? なんだ。金槌クンか。
はははっ。どうしたんだい、こんな夜更けに。先輩に相談でもあるのかな?
また恋の相談かな。たしか意中の相手は既に他人の妻になっている――という話だったよね。
そういう場合にはだね……。って、あれ? 違う?
今日はそのことじゃない? なんだそうなのか。
自分の愛するものが、誰かを殺したいほど憎んでいたら?
そうだねぇ。難しい問題だな。簡単な悩みじゃないね。
まあ、僕ならバッサリやっちゃうけどね。時代劇で復讐とかあるでしょ。あんな感じに。
参考になったって? いやいや、お礼を言われるほどでは……あ……れ……金槌……クン……?
……どう……して…………。
終
↓次は「豆腐」で
76 :
創る名無しに見る名無し:2009/08/27(木) 01:55:09 ID:g1R2bpqQ
ちょっと一般家庭でもありそうな感じで面白い
子供はテレビデオですね、わかります
うちのリモ子がよく失踪する理由がわかった気がする
「なぁ」
「あによ」
「前から思ってたんだけどさ、お前って豆腐じゃないよな?」
「……何言ってんの絹ごし? アンタと同じで立派な豆腐じゃない」
「だって、お前って甘いじゃん」
「玉子豆腐とかだって甘かったりするでしょ」
「デザート担当じゃん」
「別にデザートに豆腐食べる人だっているでしょ」
「っていうか、決定的なのが……」
「あによ」
「お前、原材料豆じゃねえだろ?」
「……あによ」
「いや、別にいいんだけどよ」
「あによ! 別にいいならそんな事言わないでよっ!」
「あ、ちょ……泣かなくても」
「泣いてないわよっ! ちょっと室温で放置されて水が出ただけなんだからっ!」
「……俺が悪かったよ」
「……あによ。そんな風に謝らないでよ」
「ほら、悪かったって。これでもかけて機嫌直してくれ」
「ちょ……醤油なんかアタシにかけたら、味が凄い事に……っ!?」
「でも、これで少しは大豆分、入るだろ?」
「……な、なによ……そんな気遣い、嬉しくなんかないんだからねっ……」
「泣くなよ」
「だから……泣いてなんかいないってば……」
終わり
ここまで投下です。
↓綿棒
杏仁か胡麻かで数秒悩んだ俺がいる
胡麻ならいいけど杏仁に醤油ってのはどうよw
私にもようやく出番がきた。
つまりは今日が命日になるということだ。
いつもはくだらない談議ばかりだが、最期くらいは真面目な話をしてみよう。
昔、私には友がいた。
本当の名前はもっと長いのだが、愛称であったQと呼ばせていただこう。
ああ、昔のことだと言っても、それほど以前の話ではない。
私達のような短い命の物にとっては、わずかな時間が経つだけでも過去になってしまうものだ。
……話を戻そう。
Qは綿棒だった。それも医療用の特別性だ。
人間どもの一般家庭にさえ普及しているような、私達爪楊枝とは身分が違った。
それでも私たちは親友だった。ああ、親友だったとも。
長い時間を生きられる物には理解できない、私達の間だけで共感できるものがあった。
Qは、もし生まれ変われたなら私のような爪楊枝になりたいと言っていた。
子供の工作などで玩具の材料として長く形を残せる、という可能性を考えていたらしい。
私はというと、Qとは逆に彼が羨ましいと思っていた。
人間に使い捨てられる存在同士なら、より繊細な仕事をして散っていくほうが格好がよい。
私達は度々この話をした。
リサイクルされることがありえない私達にとって、この願いが叶う事はないのだろう。
そう思いながらも私たちは互いの役目を称え合い、来世で相手のようになれる事を願っていた。
そしてある日、彼は死んだ。
Qは人類を救うために命を落としたのだ。
人間にとって害のある病原体を採取する任務だったらしい。
日頃から互いを羨んでいた私達だったが、彼は最期は笑っていた。
綿棒としての生に不満を持っていたQだったが、その死に様に不満はなかったのだろうか。
……なぜかな。どうしてだか、私は彼が羨ましかった。
自分が憧れている死に方だったからではない。
そんな感情が起こったのは違う理由によるものだ。
私達は使い捨てられることでしか、役に立てない。
誰にも活用されないままゴミとして処分されてしまう可能性だってある。
Qは見事に役割をこなして死に、当時の私はまだ死んでいなかった。
それが理由なんだと思う。あの時にはわからなかったが、きっとそうだ。
だから今日、こうして人間に使われて死ねる私は幸せなんだと思う。
唯一つ気になるのは、人間がいま私に施している装飾だ。
脱脂綿を巻きつけられた私の姿は、まるで綿棒のようではないか!
友が自分の望む物になれずに死んだというのに、私だけ……。
願いが叶ったのは喜ぶべきなのだろうが、抜け駆けしているようで後ろめたくもある。
ああ、友よ許したまえ。
私は君の分までも、望んでいた姿で働けることを精一杯に楽しんで死ぬぞ。
-終-
↓アイスクリーム
84 :
創る名無しに見る名無し:2009/09/16(水) 13:47:52 ID:ZlPtVHKK
ヒロイン
ごめん、なんでもない
サ○ティワン全種擬人化したらすごいだろうな…
いつかやってみたい
そして時代はうまい棒擬人化へ
88 :
アイスクリームヤンキー:2009/10/10(土) 19:05:45 ID:AlS3pbz0
嘗めんじゃねえよ!
アタイを甘く見てっと痛え目見るからな!!
↓キーボード
たったかたかたか、たった。
たったかたかたか、たった。
歌を歌うのは僕の本業じゃないのだけれど、今何故か僕は国民的
落語番組のテーマソングを奏でさせられている。僕のご主人様って、
時々脈絡なく僕をこういう風に使うんだよね。その結果として出てくる
のは、意味不明の文字列。そりゃそうだよ、リズムだけ刻んで、別に
意識して文字を打ってるわけじゃないんだから。
でも、最近は少しだけ……少しだけだよ?……今日は僕に歌わせて
くれないのかな、歌わせて欲しいな、って気になったりもするんだ。
おかしいかな、やっぱり。
僕はパソコンに文字を打ち込んでいく為に打たれるのが仕事なのにさ。
もちろん、歌を歌いたいから歌わせて欲しいって思ってるわけじゃない。
それは僕のやる事じゃないからね。
だけど……。
たかたかたかーたたかたかたん。
たかたかたかーたたかたかたん。
僕はテーマ曲を歌い続け、そしてその瞬間は訪れる。
「あ、閃いた」
ご主人様が呟いた。今日も、また、いつもと同じように呟いた。
たかたか、たか、たかたかたか。
今まで打ち込んでいた意味不明の文字列を消去し、ご主人様は明確
に意志をこめた文章を打ち始めた。
歌は終わり、だけど僕は違うリズムを刻み始める。音楽にはなっては
いない、だけどリズミカルな打鍵の音を。
うん――やっぱりこうじゃなくっちゃね。
そう、歌の後には“これ”が来る。僕のご主人様は、僕を歌わせた後
には必ず、この滑らかな、僕本来の音を奏でさせてくれるんだ。
だから、僕は歌わせて欲しいと、そう思うようになった。歌を歌いたい
わけじゃないけれど、その後には、僕本来の音を、これ以上ないくらいに
奏でさせてくれるとわかっているから。
これから何時間か、僕は奏で続けられるのだろう。その至福の時間が
終わる頃には、ご主人様の仕事は終わる。
終わりが来るのは少しだけ寂しいけれど、それでも今この時の幸せを
全身で味わいながら――僕は音楽とは違う音を奏でるんだ――
終わり
ここまで投下です。
↓水筒
91 :
水筒:2009/10/15(木) 23:54:09 ID:iqNcYq1Q
冬は好きだ。
温かいお茶で満腹になっていると、身体の全体に力がみなぎってくるような気がしてくる。
お茶を吐き出すようにという命令をあまりされないのもこの季節が好きな理由の一つだ。
もちろん、温かな飲み物を提供して喜ばれるのも気分がいい。
夏は嫌いだ。
冷たいお茶を飲ませてもらえるのはいい。
だけど、すぐに吐き出すようにと要求される。
お腹に入れられた氷のせいで内臓に傷がつかないか心配になるのも、この季節が嫌いな理由の一つだ。
春には良い思い出がある。
少女と初めて一緒に行った遠足。
僕らは体を揺らして坂道を登り、たどり着いた山の上。
そこからの景色に彼女は興奮してはしゃぎ、そして誰もが楽しみにしていた弁当の時間。
あの子の友達は水筒を忘れてしまった。
そうしたら、彼女は誇らしげにこう言ったんだ。
「分けてあげるよ。あたしの水筒は大きいから、たくさん飲み物が入るんだ」
重たい重たいと文句を何度か言われたけれど、そら見ろ。役に立っただろうと言いたかったな。
あの時は彼女から見直された気がして嬉しかったよ。
秋の思い出は、まだない。
去年の冬から始まった付き合いだからな。まだ一年にも満たない関係だ。
だけど、何かしらのイベントはあるはずだ。
実は、大人たちが夜中に話している計画を聞いてしまったんだ。
今度の休みの日に紅葉狩りの予定があるらしい。
どういう事をやりに行くのかよくわからないが、どうやら山へ行くようだ。
山道では、また重たいという愚痴を聞かされるのだろう。
僕の身体を軽くしてやるなんて魔法は使えないが、やれる仕事は頑張るつもりだ。
最近、少しずつ寒くなってきた。
彼女に風邪を引かれたりしないよう、温かいお茶をしっかり守ろうと思う。
そうすれば、またあの冬の日のように笑顔で「温かい」と喜んでもらえるはずだ。
「……うん。こうして考えると、君たち使い捨てのペットボトルよりも幸福な時間を過ごしてきたようだ」
「さっきからうるさいぞ。高い所から落とされて壊れてしまえ」
終
↓次は凧↓
どうにも、落ち着かない。
中空に在る我と地上にある彼とを繋ぎ止めているのは一本の糸。
唯それのみである。
落ち着けと云うのが土台無理な話しなのだ。
それにしても。
凧上げといえば正月であろう。
尤も昨今では元日に凧を上げる童子もめっきり見なくなったが――そんな事はどうでも良い。
問題は、何故あの男が斯様な時期外れに凧を上げようと考え、実行したかである。
解らない。
他人の思考など、理解出来よう筈もない。
もし他人の考えが解るという人間がいたのなら、それは思い違いに他ならない。
他人の思いは届かない。
己の思いも届かない。
伝わらない。
圧倒的に隔たっている。
その溝は埋まらない。
永遠に。
永劫に。
永久に。
――だから。
だから、こうして繋がっていたいのか。
隔絶した彼我を。
糸という目に見える形で。
質量を伴った物質で。
しかし、それも。
矢張り我の思い違いなのだろう――
93 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/16(金) 16:56:58 ID:rT/aS8/R
携帯からの即興なんで、多々おかしい点はあると思いますが、そこはスルーでwついでにあげ
↓ベンチ
座られると言う事は、心地よい事だ。
だが、踏みしめられるという事は、あまり心地よいことじゃない。いや、はっきり言って
不快だ。不愉快を通り越して、ただひたすらに不快だ。
僕は腰掛ける為に生まれたのだから、それ以外の事をされると不快な気分になる。
だから今、僕の身体が靴底で踏みしめられている今、僕は不快な気分になっている
……かと言うと、そうでもなかった。
「もうちょっと待ってろよ! もう少しで、届く、からっ!」
どすんどすん。上で飛び跳ねられる振動が、じんわりと身体にしみこんでいく。率直に
言って、結構痛い。普段僕を踏んで、僕の心を踏みにじる奴は、たいていちっこい。でも
今は違う。僕を踏んでいる、踏み台にしているのは、大の大人だ。大きな人と書いて大人だ。
だから、僕は痛みを感じている。結構痛い。いや、かなり痛い。っていうか飛び過ぎ。もっと
こう、考えて飛べよ! ……とまあ、僕に口があったら言っていただろうけど、そんなものは
無いから叶わない。叶えずとも、我慢は、できた。それでも僕は不快ではなかったから、
我慢できた。
僕の上で跳んでいる彼の懸命さも、理由の一つではあったのだけれど、その人が懸命に
なる理由が――彼女の泣き顔が、僕を不快にさせずにいた。
彼女は、いつも僕に座って本を読む。お父さんお母さんに買ってもらったのだろう絵本を、
それはもう楽しそうに、面白そうに、ニコニコとした笑顔で読んでいる。雨が降った日を除けば、
彼女はいつもそうやって僕に座って絵本を読んでいる。日課、なのだろうか。習慣、なのかもしれない。
どちらにせよ、僕は嬉しかった。彼女が笑顔になる助けを、少しでも僕という存在が、僕という
存在に腰掛ける事が、出きているのだとしたら――それは、座ってもらう為に生まれた僕
としては、これ以上無いくらいに嬉しかった。
その彼女が、今、泣いている。
原因は、悪ガキだ。いつも僕の上でぴょんぴょん飛び跳ねて、僕を不快な気分にさせる
悪ガキどもが、たまたま彼女に目をつけた。いつものように笑顔で絵本を読んでいた彼女から
それを取り上げ、あろう事か、近くにあった木へと放り投げ、ひっかけてしまったのだ。
そして悪ガキはいなくなり、泣き顔の彼女がそこに残された。
彼女の泣き顔なんか、見たくはなかった。彼女には、笑っていて欲しかった。その為に
どうすればいいかは、誰にだってわかる。あの本を、木に引っかかってしまった本を取って
あげればそれでいい。
それはわかる。誰にだってわかるのだから、僕にだってわかる。
だというのに。
だというのに、僕はそれをしてあげられない。
だというのに、僕は彼女を笑顔にできない。
どうして僕はベンチなんだろう。どうして僕は誰かを座らせる事しかできないのだろう。
僕に瞳があれば、きっと僕は彼女と同じように涙を流していただろう。
それ程に、悲しく、情けなく、虚しく、腹が立った。僕は。自分が。自分に。
95 :
ベンチ ◆91wbDksrrE :2010/03/07(日) 21:23:28 ID:XefFZ4Yy
「どしたんだ?」
そんな泣き顔を並べた二人の所に、彼はやってきた。
救世主。ヒーロー。救いの手。
だから僕は、彼をせめて助けようと、頑張っている。
不快な気分になど、なろうはずもなかった。僕にできる事は、彼を手助け……足助け?
とにかく、助ける事くらいだったのだから。
彼は頑張っている。頑張ってくれている。僕がそうしたいと思った事を、そうしたいと思った
ようにやってくれている。大の大人が、手に木の枝を持ち、ベンチの上で飛び跳ねて、それを
見た他の人間がどう思うかも気にせず、一心不乱に、一生懸命に、頑張っている。
そして――
「やっ!」
――何度目かの跳躍の後、ようやく彼が手に持つ木の枝は、木の枝にかかった本へと
届き、それを下に落とす事に成功した。
泣き顔だった彼女の顔が、まるで雲間から覗く太陽に照らされたひまわりのように、
ぱぁーっと笑顔の形に咲き誇った。
うん、やっぱり彼女はこうじゃなきゃ、ね。
「ふぃー。とれたとれた……これ、だよな?」
「うん!」
彼女は嬉しそうに、いや、実際に嬉しいのだろう。満面の笑みで頷いた。
本は、少し土ボコリがついて汚れてしまっているようだけど、そんなのは些細な事のようだ。
「ありがとう、おにいちゃん!」
「ま、礼には及ばんよ」
そう言って、救世主は去って行った。何かを求めるでも無く。名を名乗るでもなく。
くやしいが、少しだけその姿は、格好良かった。
そして、僕と彼女が残され――
「……ん」
――!?
思いもしなかった行為に、僕は驚いていた。
彼女が、僕についていた土を、あの勇者の業績の残滓を、その小さな手で払ってくれたのだ。
「うん」
そして、彼女は笑った。僕に向けて――かどうかはわからないけど、笑ってくれた。
ありもしない心臓が高なったような、そんな錯覚を僕は覚えた。
「また来よっと」
彼女は、そんな呟きを残して、僕に背を向けた。
また、彼女は来てくれるらしい。
悪ガキどもがまた来ないとも限らない。それを考えれば、彼女はもしかすると、もうこの僕には
座ってくれないのではないかな、と、そんな事をちょっとだけ危惧していた僕だけれど、幸い、
それは杞憂に終わったようだ。
うん、また来てね。
「……?」
その僕の、口無き身で発した"声"が届いたわけではないだろうけれど、彼女は一瞬こちらを
振り返った。そしてにっこりと、僕の大好きなあの笑顔を見せてくれた。
ああ、本当に、本当に僕は幸せだ。
終わり
96 :
ベンチ ◆91wbDksrrE :2010/03/07(日) 21:24:29 ID:XefFZ4Yy
次
マイナスドライバー
で
97 :
◆wHsYL8cZCc :2010/03/09(火) 15:24:34 ID:uqzt5mM1
俺の頭をみてくれ。
少し歪んでいるだろう。角も丸くなっちまったよ。
もう俺は役目を果たせないだろう。かつてはおれも全鋼焼入だとイキってたぜ。回せない物は無かった。勢い余って傷つけちまったビス達には悪いと思っている。まぁガンコなあいつらにも問題はあったが。
だがそれも終わりだ。時代はマグネットタングステンだとよ。今はもう奴らの時代さ。
ただの高炭鋼の俺の出る幕じゃねぇ。
だが連中もいずれはリタイアする。俺的にはカーボンコーティング辺りが怪しいが‥‥‥
そいつらが出てくるまでは連中がトップだ。老兵は去るのみさ。
俺を見てくれ。角の丸いマイナスドライバーだ。誰にも必要にされない、ただの鉄クズさ。
98 :
◆wHsYL8cZCc :2010/03/09(火) 15:26:11 ID:uqzt5mM1
以上で終了。
じゃ、次は
100円ライター
で。
やったぁ。感想キター。
どうやら俺はオッサン書くの好きみたい。
101 :
創る名無しに見る名無し:2010/03/13(土) 07:57:16 ID:kRMdeaIY
こういうスレって筆休めに丁度いいと思うんだが人いねぇwww
102 :
創る名無しに見る名無し:2010/03/13(土) 18:33:50 ID:hbe73hoZ
俺も某所で名前見るまで存在忘れてたからなー。
103 :
◆wHsYL8cZCc :2010/03/17(水) 19:16:51 ID:DfYUFGj4
おいおい誰も居ねぇ。
いや、いるんだが、かわりばんこみたいになるのはどうかな、と思って
他の人を待ってるんだ。
一緒に他の人が来るのを念じようぜ。
えいしょうささやきいのりねんじろ!
ロストした・・・だと・・・。
106 :
◆91wbDksrrE :2010/04/25(日) 19:20:51 ID:fsAqwNyv
っていうかよ、俺の愚痴聞いてくんねーか?
俺ってどう呼ばれてるか知ってるよな? そうだよ、百円ライターだよ。使い捨てられるだけの
悲しい点火具だよ。まあ別にそれはいいんだ。俺だって自分がそういう境遇にあるってのは
わかってるし、それに悲嘆にくれてるってわけでもねー。そんなの愚痴ったって仕方がねえじゃん。
俺がいきなりジッポに生まれ変われるかって言ったら、そんなもん無理なんだからよ。
俺が言いたいのは、だ! 俺の名称についてだよ。
そう、「百円ライター」。これだ。
あのな? ぶっちゃけた話するぞ。俺の値段の話だ。
百二十円。
それが俺の値段なんだよ。
ちょっとだけガスの量が多かったり、点けやすかったり、二十円分俺は百円ライターの奴より
優れてるんだよ!? わかるか、俺は奴らより二十円高いんだ!
なのに俺はいつも呼ばれる。
「百円ライター」と。
この悲しさがお前にわかるか!? なあ、わかるかって聞いてんだよ! 二十円分の俺の価値
は一体どこへ消えてなくなった!?
あ、ちょっとそこ行く店員の兄さん! あんたも俺の話を聞いてくれよ!
「うーん、やっぱりこっちだけ残ってる。百二十円じゃ売れないか。百円に値下げだな」
………………。
マジデスカ?
あ、てめえコラ! 笑いやがったな!?
そうだよ、今日から俺は名実共に百円ライターだよ! ちくしょう、なんでこんな事になんだよ……。
……ああ!? だから笑うなって言ってるだろ! てめえだって冗談みたいな名前しやがって!
なんだよ、着火に使うからチャッカマンって! 親父ギャグじゃねえか! ひょろっちい身体して、
俺を見下してんじゃねえぞ!
……ああ、もう、なんでこんな事になるんだろうな。
ホントに、俺……生まれ変わったらジッポになりてえよ……。
終わり
107 :
◆91wbDksrrE :2010/04/25(日) 19:21:44 ID:fsAqwNyv
ここまで投下です。
次のお題は「ファブリーズ」で。
20円分のプライドって、見てて悲しくなってくるなw
なんか安全上の問題で100円ライターは壊滅の危機らしいし