暗くてじめじめとした墓地で僕は独り言を放つ。
「……いないか」
そういい数時間の捜索の果てにすっかり疲れきった足を家へと向ける。
見つかるはずが無いと思ってはいたが、
それでも残念だった。
きっと彼女にとても怒られるだろう。
それがとても悲しい。
去年の冬のこと。
木枯らしに吹かれながら、それでも元気に野球をしている少年達と窓を隔て、
必要以上に暖房の効いた、相変わらず地球に優しくない部屋でのことだった。
「ねぇ…幽霊って信じる?」
「はい?いるわけないだろ。目撃証言なんて全部インチキに決まってる」
突然のその質問を僕は何気なく真向から否定した。
きっとその返答がお気に召さなかったのだろう、
彼女はちょっと怒ったようにこう口を開く。
「そんな事言っちゃ可哀想でしょ。向こうはきっと人間に会いたがってるわよ」
「だから幽霊なんて居ないんだって。故に誰も可哀想なんかじゃない。キューイーディー」
柄にもなく、ついつい僕は調子に乗ってみる。
これは今考えても失敗だったと思う。
「ふーん、そういうこと言うんだ。
そう、ね。じゃあ来年の夏は幽霊を探してきなさい。
そしてあわよくばお話を、もし良ければ一緒に住まわせてみましょう」
それが半年後の自分をさんざん苦労させる、
トンデモ命令発令の元凶だったのだろうから。
「……はいはい、わかったわかった。
そりゃお前がそう言うならおれはそうするしかないだろうさ。
だがせめて一緒に探すくらいの事はしてくれよ」
せめてものお願いだと、そう条件を付ける僕に彼女は満面の笑みでもって答える。
「私は無理よ。来年の夏は忙しいの。
どこの世界も新入りには優しくないだろうから頑張ってあちこち駆け回らなきゃ」
これでもか、とばかりに自慢の笑顔でそう言われれば仕方がない。
もともと反論する権利は持ってないんだし。
心の中で密やかに悲しみ、
己の発言に何ら感じていないような彼女を見て僕は若干の呆れを感じたのだった。
徒労の元となったシーンを回想しながら僕は家路へと付いた。
家に帰り、風呂に入り、遅くなった夕食を食べ終えると自室でそのまま寝込む。
彼女への報告はどうしようか、少し迷ったが日を改めることにした。
僕が忘れっぽいのを知ってるはずなのに、
約束の日に何の連絡も来ないほど忙しいのだろうから。
万年床と化している布団の中で、僕は彼女へと一つの恨み節を投げかける。
「……幽霊は会いたがってくれてるんじゃないのかよ。
何で会いに来ないんだよ……」
明日になっても、明後日になっても彼女は会いに来なかった。