グノーシス

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234グノーシス神話1

 すべての存在に先駆け、至高の存在(原父=プロパトー
ル=ビュトス)があった。彼は永遠であり、不滅の存在
である。命の光、霊的な泉のなかにある彼は、あるとき、
泉に映る自分の姿を認識した。認識は思考へとつながり、
彼の思考が姿形を得て彼の前にあらわれた。そこから完
全な光の似姿である最初のアイオーン(モノゲネース、
アレーテイア、ロゴス、ゾーエー)が流出した。

 男女の対になっているアイオーンたちは、両性具有性を
実現していた。アイオーンは、自分たちが見ることのな
い「知られざる先在の父」の榮光のため流出されたこと
を、あるとき自覚した。そして自分たち自身もまた、流
出を行い、「先在の父」の榮光を讃えようと意図した。
ロゴスとゾーエーは、「アントローポス」と「エクレー
シア」を流出し、上位プレーローマ界をオグドアス形成した。
http://www.joy.hi-ho.ne.jp/sophia7/t2-triak.html
235グノーシス神話2:02/11/19 06:21
 またロゴスとゾーエーは、「ビュティオス」と「ミクシ
ス」の対に始まる、五組、十体のアイオーンを流出し、
これが「デカス(十組系)」を構成した。

 一方、アントローポスとエクレーシアもまた、「パラク
レートス」と「ピスティス」の対に始まる、六組、十二
体のアイオーンを流出し、これが「ドーデカス(十二組
系)」を構成してゆく。また、この存在流出の最後にあ
って、ピスティス(信)は、不死の存在たちの中に、自
分の姿に似せてソピアー(知恵)を生み出した。

 最初の事件は第三十アイオーンである、「ソピアーSophia」
が、彼女の伴侶アイオーン・テレートスの合意なしに、
「知られざる父=ビュトス」の本質を認識しようとする
知識欲に駆られた結果起こってしまった。ソピアーは自
己の「至高純粋性」を喪失し、プレーローマから落下し
た。これにより、「中間世界」が生成することとなった。
236グノーシス神話3:02/11/19 06:21
 ソピアーは、向こうとこちらの世界とを隔てるベールの
ような働きをする、原初の光となった。この光の領域の
外側にあるものは力、すなわち、原初の海を含んだ暗い
深淵を支配する影、果てしないカオスがあった。

 この支配者(闇=カオス)は、自分より力の勝る何者かが
存在することに当惑した。そして光と闇の交わった部分
から、まるで霊の宿らない、流産した子供のような別の
力、嫉妬が生み出された。

 ソピアーは子が大変に醜い、ライオンのような外見であ
ったので、その子を光の世界の外に投げ捨てた。彼女は
光の雲でその子を覆い、ヤルダバオトと名付けて、他の
者の目に触れぬようにした。これが第1のアルコーンの
生誕である。

 ピスティスはこの成りゆきに当惑するが、この霊の宿ら
ない子を制するには、実質を与えなければならないと考
えた。ピスティスは自分自身に似せて実質を作り、原初
の支配者とし、すべてを統治させることにした。
237グノーシス神話4:02/11/19 06:22
 しかしやがて支配者は、ピスティス/ソピアーを自分の
全能を映し出すただの影だと思い込んだ。自分以外に
存在する者は何もないと考え、無知で傲慢になってし
まった。ピスティス/ソピアーはヤルダバオトのひど
い思いあがりに、彼をサマエル(盲目の神)と呼んで
非難した。

 サマエルは姿なき者たちの声に憤怒し、その声を追いか
け原初の海の深淵に至った。そこで物質の世界が生まれ、
精霊ピスティス/ソピアーは、〈カオス〉の七つの天(サ
マエルの息子たち)をはらんだ。

 やがて、七人(または十二人)のアルコーンが生まれ、
さらに365人の暗黒のアルコーンが、盲目の神によっ
て作りだされた。彼は自ら作り出したと思しき世界を支
配し、自分を最高の神と考えるようになった。彼は言っ
た。「私は妬む神である。私のほかに神はいない」
238グノーシス神話5:02/11/19 06:22
 サマエルは、土をかたどり、人間を創造しようと考えた。
支配者は男に息を吹きこんで魂を与えるが、それに命を
与えるだけの力はなかった。この様子を眺めていたピス
ティス/ソピアーは、支配者らの無力を知ると、地上に
降り、男に自分の精霊をしみこませ、アダマーと名づけ
た。支配者らは、この男に地上に存在するすべての動物
たちを任せて名前をつけさせ、楽園に置いてそこを耕し
守らせた。

 しかし最初に神はこの男に言った。「木になる実はどれ
を取って食べても良いが、善悪を知る木からはいけない。
もしもそれを食べたなら、お前は死んでしまうだろう。」

 またサマエルとアルコーン達は、男の伴侶たる人間も作
り出そうと考え、原初の海の中で見た母の姿に似せた型
を作った。アダマーをぐっすりと眠らせ脇腹をあけ、ピ
スティス/ソピアーの精霊を取り出し、これを女の中に
入れ、名をイーバと付けた。
239グノーシス神話6:02/11/19 06:23
 しかし、支配者らはその由来を知らず、精霊を授けられ
た女が自分たちの母と同じであることにひどく狼狽した。
彼らは女の力を消してしまおうと、自らの精液で女をは
らませようとした。が、ピスティス/ソピアーの精霊はヘ
ビとなってイーバの体から抜け出し〈善悪を知る木〉と
逃れた。一方、支配者らは精霊の抜けたイーバに恋いこ
がれ、彼女と一夜を共にした。が、それはまったく霊の
抜けた、ただの虚像だった。

 アダマーとイーバは、「生き物の中で最も賢きもの」で
ある師によって〈善悪を知る木〉から実を取って食べる
気にさせられた。こうして最初の人間アダマーとイーバ
は、この知恵から、”光と闇”の違いを知るようになっ
た。サマエルは女と蛇を呪い、男と女を楽園から追放し
て、命のある限り地を耕し病に苦しみ続けるよう言いわ
たした。

 イーバはカインとアベルを生み、次にセツを生み、娘の
ノレアを生む。支配者らはノレアをなんとか犯そうとし
たが、できなかった。ノレアの子供たちから、人間はど
んどん増えて賢くなっていった。
240グノーシス神話7:02/11/19 06:23
 邪悪なアルコーン達にはこれが気に入らなかった。「彼ら
を洪水によって滅ぼそう」とアルコーン達は協議した。ヤ
ルダバオトの子の一人サバオトはこれに気付き、セツに箱
船を作って逃げるように言った。アルコーン達が、セツの
妹で妻でもあるノーレアに求婚に来たが、偉大なる天使エ
レレトのおかげで難を逃れ、彼らは洪水も乗り切った。

 そこでイーバは天使に、支配者らはどこからやってきた
のかとたずねた。エレレトは答えた。

 不朽なる者ピスティス/ソピアーは、光のベールが目に
見えるものと見えないものとを隔てる無限の世界に住ん
でいる。かつて彼女は闇との境界に一つの力を生み出す
が、それは光の中の影のような姿となった。その力は両
性具有であり、独力で万物を創造した。しかし力は、自
分がこれまでに存在した最初で唯一のものだと信じてい
たから、とても傲慢になっていった。ここでピスティス/
ソピアーは姿を現し、力をカオスの中へと追いやった。
そこで力は七人の両性具有の分身を創造し、再び自分こ
そが唯一の神だと主張した。これを聞いたピスティス/
ソピアーは、娘のゾエー(生命)に、力をヤルダバオト
と名指し、愚か者と罵らせた。ゾエーが吐き出した炎の
天使はヤルダバオトを縛り、タルタロスの中に投げこんだ。
241グノーシス神話8:02/11/19 06:23
 ヤルダバオトの子の一人サバオトは、天使の力を見て悔
いあらため、ピスティス/ソピアーに思誠を誓うことに
した。お返しに彼女はそれに応えて、サバオトに七番目
の天を任せ、ゾエーを、彼の右手に座り八番目の天につ
いて教えるために与えた。

 自分の息子が取りたてられているのを知って怒り狂った
ヤルダバオトは、〈妬み〉を生み、続いて〈死〉を生ん
だ。〈死〉は子を増やし、とうとうカオスの天はその子
供たちでいっぱいになった。

 書き手の説明によると、カオスの占める領域が正確に定
められるように、すべてが父の手によってこのように定
められたという。
242グノーシス主義:02/11/19 06:24
 人間は、 「霊(プネウマ Pneuma)」「心魂(プシュケ
ーPsykhee)」「肉(サルク ス Sarks)」より構成され
「心魂」と「肉」は、サマエルやアルコーンたちの創造
になる もので、この不完全な宇宙と同じ性質を持ってお
り、即ち、不完全で、悪で あり、また永遠的でなく、可
壊で、地上に腐敗し滅び消滅する定めにあるとされます。
プレーローマ或い は天上世界に対応するのが「霊」であ
り、これこそ、 「人間の本来的本質」であり、不滅であ
り永遠世界に属し、「悪よりの解放」 の原理を裡に含む
ものであるとされます。

 グノーシス主義では、人間は最初から三種類に分かれて
おり、それ ぞれ生まれた時より「運命」が定まっている
とされます。即ち、「質料的・物質的人間」と「霊的人
間」、そして「心魂的人間」です。「質料的人間」には
「救済」はなく、「霊的人間」は、最初から「救済」に
与れることが予定され ており、「心魂的人間」は、その
行いや、「認識・覚醒」に応じて、救済され るか否かが、
決定されるとします。

「グノーシス(Gnoosis) =叡智・認識・知識」を人(の
魂)がどれだけ熟知しているか、真の神(アイオーン)と
偽の神(アルコーン)の対立になる、この全世界の構造を
どれだけ覚知し 認識しているかと云うことが、救済の与
件となります。
http://www.joy.hi-ho.ne.jp/sophia7/sop-gnos.html