248 :
大納言 ◆DYNA.53IRM :
─トーキングおっさん─
先日スーパーをウロついていると。
突然けたたましい放送が入った。
アクセサリーの特売が始まるらしい。
五千円から一万円相当のモノが三千円。
しかし只今から一時間に限り千円で特売すると。
帰り際にそこを通りかかったのだが。
すでにおばちゃんたちが群れをなしていた。
ある者はネックレスを首に宛がい。
ある者はイヤリングを耳にぶら下げ。
懸命に鏡を覗き込んでいるのだ。
しかしここで着目するのはおばちゃんではない。
販売員のおっさんだ。
249 :
大納言 ◆DYNA.53IRM :04/10/01 21:39:07 ID:K/4lBC3E
五十がらみのおっさんがマイク片手に熱弁を振るっている。
このおっさんの役目は。
集まったおばちゃんどもの購買意欲を高めることだ。
だから個別の対応は別の者が行っている。
このおっさんはおばちゃん個人に話しかけているのではなく。
おばちゃん集団に向かってセールストークを繰り出しているのだ。
そのトークが大変面白い。
─はいこちらのリングはですね。いいですか。
─あの大宮慎司プロデュースによる連続ドラマの傑作。
─「ポプラ並木をもう一度」の主演女優真野麗子。
─真野麗子がドラマの中で着けておりましたリング。
─これと同型の大人気商品さあこれは見逃せません。
─この真野麗子のリングが今回お値打ち価格の千円。
─千円での御奉仕。さあそれからこちら。
─これは日本中で大ヒットの「冬のソナタ」
─冬のソナタの中で女優…
とまあこんな調子で延々と続くのであるが。
250 :
大納言 ◆DYNA.53IRM :04/10/01 21:39:38 ID:K/4lBC3E
要するに千円のオモチャである。
だからこそ付加価値をツケなければならない。
有形の価値を付加するのはカネがかかる。
そこで編み出されたのが。
このおっさんの「ドラマに結びつけトーク」なのだ。
このおっさんは千円のオモチャに。
無形でしかも無料の価値を付加しているのだ。
シャベくっていることは出鱈目だろう。
それでいいのだ。
誰も細かいデザインなど覚えてはいない。
買う方にしたって。
真に受けて信じているワケでもないだろう。
が。機会があればきっとこう言うのだ。
「ほんとかどうか知らないけど
一応真野麗子が着けてたヤツみたい」
251 :
大納言 ◆DYNA.53IRM :04/10/01 21:40:01 ID:K/4lBC3E
このおっさんは兎に角。
あること無いことべらべらシャベくらなくてはならない。
数本のドラマを知っているというだけでは。
とても間が持たないだろう。
このおっさんにとっては。
「ドラマ視聴」も重要な仕事のひとつに違いない。
帰宅すると録画しておいたビデオを視るのだ。
─おっと。真野麗子のネックレスが目立ってるな。
─よし今度はこれでいこう。
─だいたい似たようなのがまだ残っていたはずだ。
─さて次のドラマは。ええと。
おっさんの頭の中には膨大なドラマデータが格納されている。
そこから効果的なフレーズが次々に繰り出されてくるのだ。
252 :
大納言 ◆DYNA.53IRM :04/10/01 21:40:22 ID:K/4lBC3E
「イメージ誘発言語」
正におっさんのトークはこれに満ちていた。
文脈などどうでもいいのだ。
いやむしろ文章としてちゃんと聞かれると困る。
兎に角「イメージ誘発言語」を散りばめるのだ。
「大宮慎司プロデュース」
「ポプラ並木をもう一度」
「真野麗子が着けていたリング」
しかし散りばめているだけではない。
徐々にすり替えを行っていくのがキモだ。
253 :
大納言 ◆DYNA.53IRM :04/10/01 21:41:04 ID:K/4lBC3E
初めは「真野麗子が着けていたのと同型のリング」だったのが。
次には「真野麗子が着けていたリング」に変化し。
ついには「真野麗子のリング」になっているのだ。
このオモチャのどこが「真野麗子のリング」なのだ。
嘘こくのもいい加減にしろ。
なんてことにはならなくて。
いや。そうならないように。
話題はさっさと次の「冬のソナタ」へナダレ込んでいくのだ。
ははは。どうだマイったか。うはははは。
おっさんは明日も全国を渡り歩く。
千円のオモチャに無形の付加価値を捏造しながら。
しかしおっさんのアプローチは間違ってはいない。
我々はそういった無形の付加価値を求めている存在であるからだ。