15万人のイラク人(その圧倒的大多数は非武装の民間人)が
死亡したと推定されている1991年の湾岸戦争について、
著者は、「だれが勝者だったか?」ということを考察しています。
まず挙げられるのが石油会社。投機と価格操作でガソリン価格を
つり上げ
莫大な利益を得た上に中東の石油供給を以前より強く掌握できるようになりました。
それから銀行家たち。約9兆ドルの中東石油の売買による収益が
アメリカやヨーロッパ、日本の銀行を潤しています。
それに建設請負業者。クウェート再建のための1000億ドルにのぼる
受注契約のほとんどは、ベクテル、ハリバートン、AT&T、モトローラ、
キャタピラーなどのアメリカの巨大企業が独占しました。
それから直接の軍需産業、すなわち、ゼネラル・ダイナミックス、
ゼネラル・エレクトリックス(GE)、ボーイングその他の経営者たち。
まあ、言ってしまえば「死の商人」たちですね。かれらにとっては、
ミサイルや弾薬がイラクにふりそそぐこと、つまり兵器の消費は、
すなわち自分たちの儲けがどんどん増えることを意味しているわけです。
さらに、外国でのアメリカの武器の売上高は、1989年の80億ドルから
91年には400億ドルにはね上がりました。
マイケル・ムーアの『アホでマヌケなアメリカ白人』にも書かれていましたが、
アメリカでは今、教育関係の予算の不足から、学校にトイレットペーパーを
備えるためにPTAがバザーをしなければならないような状況で、
数百万人が薬物中毒やアルコール中毒に冒され、ホームレスは増え、
地域社会が荒廃しています。その一方で、空母の維持費としては1隻あたり
年間10億ドルもが国家予算からつぎこまれているわけです。
この10億ドルという予算があれば、1万7000軒の家が建てられます。
また160万人の妊婦を無料で定期検診して数千人の赤ちゃんを救うことが
できます。薬物中毒などの集中治療を30万人以上の人に施すこともできるし、
栄養失調の児童50万人に1年間毎日3食の食事を与えることもできるのです。
しかし、実際に政府が金をつぎ込むのは、多くの人の福祉などのためではなく、
ごく一部の人の利益のためなのです。
その他、テレビなどのマスコミが大企業に所有されていて、いかに都合のいい
報道がされているかといったことも指摘されており、「戦争で儲かるのは
だれなのか」ということを多くの人が考えないようになっているのも
無理のないこと(しかし、そのままでは困ること)とうなずけます。
本の終わり近く、著者は、読者に対して問いかけています。
「この戦争中毒が、アメリカ国民、そして全世界の人びとをいったい、
どんな目にあわせているのか?」
「いったい、それはいくらかかるのか?」(1分間に100万ドル)
「もうけるのはだれだ?」
「支払うのはだれだ?」
「そして、死んでいくのはだれだ?」
「そのことを考えてみよう。そして、あなたも何かできることをしよう。」
と著者は言います。
最後のコマで「戦争中毒患者を追っ払っちゃえ!」というセリフに対し、
登場人物の子どもが「でも、どうやって?」と問いかけ、母親が
「それはこれからいっしょに考えていきましょ!」と言って、この本は終わっています。
確かに、「戦争が何者の利益のために行われているのか」を理解することは
できても、どうやってその者たちを「追っ払う」かは簡単なことではありません。
それでも、このような本を読み、そこに書かれていることを理解する人が
一人でも増えることが、戦争で自分や身近な人の命を失ったり
家や大切な財産を奪われたりする人のより少ない世界を実現していくことに
つながるはずだと私は考えます。