嗚咽 その4

このエントリーをはてなブックマークに追加
546大人の名無しさん
>>511-512
良い話だが混乱しているので私なりに書き直してみた。

俺の幼馴染みで親友の剛ってやつがいるんだが、
そいつは幼い頃に親父さんが亡くなっていて、そいつの爺さんが
父親みたいなもんだったんだ。
で、その爺さんて人は花火職人で地元では有名な頑固じじい。
俺達はいっつもその爺さんに怒られてた。
でも、その爺さんは剛に後を継いでもらいたいと思ってたから
ことさらに剛には厳しかった思い出がある。
そんな思いを知ってか知らずか、高校生にもなると爺さんへの
反抗心からか「花火職人なんてダサくってやってらんねぇよ」
などと言いチャラチャラと遊び呆けていたんだ。

そして剛が22才の時、「できちゃった婚」したんだけど、この時
爺さんはキレまくってしまい、おまえなぞ勘当だ!って言って剛のことを
家から追い出しちまった。
行く所がないって言うんで、俺ん家の離れを貸してやってたんだ。
冬が終わり、春も過ぎ、夏になり地元の花火大会の前日、剛の母親から
「明日の花火大会、爺ちゃんからあんたたちにプレゼントがあるから
絶対に見に来なさいよ」
って電話があったんだけど剛は意地になって「ぜってーいかねぇ!」とか
いってた、だけど奥さんに説得されて、俺達は花火大会へ行くことにした。
547大人の名無しさん:03/08/01 15:25 ID:KgiTG406
ぬるい缶ビールを飲みながら、色とりどりの花火を見上げ、剛が
「なんだよ、爺い、今の失敗じゃねぇかよ!」なんて毒づいていたら
アナウンスが入った。

「次は、本日の花火を打ち上げていらっしゃいます、鍵屋甚右衛門様より
お孫さんへのプレゼントです、テーマは祝いです。どうぞ御覧下さい」

ヒュ〜〜っと風を切って空へと舞い上がる音が途絶え、一瞬の静寂の後、
ドンッという空気を揺るがす大音響と共に夜空に大きな星が3っつ広がっていた
青い星は剛、赤い星は奥さん、そして一回り小さいピンクの星は去年生まれた赤ちゃんの分。

「ばかやろう!カッコつけてんじゃねぇよ!くそ爺い!」

また、毒づいてビールを飲み干す剛は必死に涙をこらえ、テキ屋のおっちゃんに
良く冷えたビール頂戴!なんていって照れていた。
そして、次の週に剛は実家へと帰り正式に爺さんの弟子になり、
俺は仕事の都合で地元を離れた。
548大人の名無しさん:03/08/01 15:25 ID:KgiTG406
そして去年、今年は俺が花火大会仕切るから、お前絶対に見にこいよ。と
剛から久しぶりに電話があった。
同窓生達と花火大会に行き、花火を見上げていると、花火が開く度に聞こえる歓声、
そして笑顔。
俺の友達はこんなにも人を感動させらるんだなと思うと、羨ましかった。

花火大会も終盤に差し掛かった時、なんだか打ち上げ場所の辺が騒がしくなった。
事故でも起ったのかと、友達の消防団員と近くまで行ってみると、
どうやら爺さんが倒れたと言う。
でも、爺さんは心配して手を貸そうとする職人達に
「孫の初舞台だ!おめぇらガタガタ騒ぐんじゃねぇ!」
と怒鳴りつけ、駆け寄ろうとする剛にも
「職人なら花火を止めるな!観客にいらん気ぃもたすな!」
と激を飛ばした。
剛は一瞬ためらったけど、発射装置に向き直り職人達に指示を飛ばし、花火を上げ続けていた。

観客に気付かれることなく爺さんは救急車で運ばれていった。
花火大会が終わり急いで病院に駆け付けたけど、爺さんはすでに息を引き取っていた。
救急隊員の話によると「いい花火だ、きれいだぞ剛。」と最期まで剛の花火を誉めていたそうだ。
剛の嗚咽が病院内に響いていた。いつしか俺達も声を上げて泣いていた。

葬儀が済み、爺さんの部屋を片付けていたら、剛の写真と新品のハッピがしまってあったそうだ。
今年の花火をきっちり仕切る事が出来たら正式に後を継がせ、その時に渡そうとしていたハッピらしい。
剛はその時も涙が止まらなかったって言ってた。


爺さん、今年、剛はそのハッピを着て最高の花火を上げています。
いつかのお返しにとお爺さんの為に作った4号玉、天国から見えましたか?