【破滅 - 梅川昭美と三菱銀行人質事件の真実】

このエントリーをはてなブックマークに追加
952 ◆UmeSex/ZUc :03/07/03 03:42 ID:xnG3b7De

 金ださんかったんはお前の責任や。流れ弾があたるから、後のもんはどけ!
953ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 03:42 ID:xnG3b7De

 男はそう叫ぶなり、三メートルたらずの至近距離から森岡支店長の右肩を銃撃した。

 この散弾は、直径七ミリ余り、重さ二・七六三八グラム、パチンコの玉を多少小さくしたくらいの大きさで通称シシ弾と呼ばれるものだった。
正式名はSSSG弾。イノシシや鹿などの大型獣の猟銃で使用される。散弾銃なのに威力が強力なため、一発に九粒しか詰められていない。
男はどういうわけか森岡支店長にだけ、この”シシ弾”を使用した。森岡支店長の右鎖骨下の動脈と静脈は、肉片とともに飛び散った。
信じられないくらいの破壊力だった。

 惨劇は三十八名の人質の目の前で、これ以上ないリアルさで起こった。心臓が破裂するほどの恐怖を全員に与えた。
 
 恐怖の極限に耐えかね失禁する者もいた。

 三菱銀行北畠支店の一階の密室では、狂気がみなぎり始めていた。そしてその狂気は、日本の犯罪史上に例を見ないものであった.....。
954ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 03:43 ID:xnG3b7De

 <<1979年1月26日 14時39分>>


 東京・丸の内二丁目の三菱銀行本社に、「不測自体」発生の第一報が入ったのは、午後二時三十九分だった。

「日銀の記者クラブの共同通信の記者さんから『おたくのどこかの支店が襲われたというが、どうか』という問い合わせが、
事件の第一報でした。一日に一回くらいは爆弾予告のようなものがあるし、こういう情報はよくありますのでね。
またどこかの店がからかわれたのか、と思いました。でも、とりあえず私の判断で、なにかあったのならテレビに映るだろうと
いうことでテレビをつけたが、なにもやっていない。すぐテレビを消しましたよ」

 そう語るのは本社総務部の増子武勝庶務課長だ。三菱銀行内部では警備屋ともいわれており、庶務課長というポストが「事件担当」である。

 東京も正月以来の暖冬が続いており、前日の一月十五日は最高気温十三度まで上がった。この日も暖かかった。暖房のよくきいたオフィスにいると、
この時間、眠くなるくらいだった。増子庶務課長はテレビのスイッチを切り、デスクに戻って煙草に火をつけた。電話が鳴ったのは煙を深く吸い込んだ時だ。
大阪事務所の総務課からだ。

「受話器を取るといきなり『北畠支店に銃を持った男が侵入、人質を取って占拠中です』という。大阪事務所の総務課には、管轄内の支店情報がすぐ入るように
なっているので、これは本物だとわかりました。」
955ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 03:43 ID:xnG3b7De

 煙草をもみ消した増子庶務課長は上司の諏訪頼定総務部長(取締役)に連絡し、総務部長は高雄靖副頭取(代表取締役)に情報を上げた。
確認の取れない爆弾予告、脅迫電話などは、庶務課長レベルで処理し、総務部長まで上げることはない。
 五階総務部の電話が一斉に悲鳴をあげ始めた。マスコミからの問い合わせと、大阪からの情報通報だ。三菱銀行にはマスコミを応対する専門の窓口、
広報を担当する部門がない。文書課、庶務課が兼務している。外部からの情報は庶務課に入るが、外部の問い合わせに答えるのは主に文書課で、
そのため総務部のフロアは戦場のように混乱した。

 事件現場の北畠支店では、犯人がさらに警察官をひとり射殺して、一階に閉じこもった時刻である。既に事件が長期化は避けられそうにない兆候が
見えはじめてきた。事件の凶悪化も明確になりつつあった。なにしろ既に三人の犠牲者が出ているのだ。
 六階三菱銀行本社の頭取室に、四名の最高首脳が集結、情報の分析と対応策とともに事件への対応が話し合われた。集まったのは中村俊男会長、
山田春頭取、高雄副頭取、そして諏訪総務部長の四名であった。
956ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 03:51 ID:xnG3b7De

 この首脳会議で決められたのは、

(1)関係官庁への事件報告と挨拶

(2)大阪への役員派遣

 以上二点であった。警察庁と監督官庁の大蔵省には早速、山田春が出向いた。大阪には同日中に前大阪事務所長・佐藤清一郎常務(人事担当)
の派遣が決められた。そして二十六日中に事件が解決しない場合は、高雄副頭取を二十七日早朝、日光第一便で大阪へ派遣することが合わせて
決定された。

 「事件発生の直後、三菱銀行の頭取がうちの上の方、局長などに挨拶にこられたようです。私は事件発生当時、このデスクで執務しておりましたが、
うちの三菱担当の係員から連絡を受けまして、以後逐一『いまこういうふうになっています』と三菱から連絡を受けていました。ええ、夜半まで。深夜に
渡る部分については、翌朝、報告に接しております」(大蔵省銀行局・平沢貞昭銀行課長)

 前本社総務部庶務課長の加藤陽登戸支店長は、二時五十分、本社から緊急呼び出しを受け、三時三十分に本社に到着した。これは応援要員である。
もう一人助っ人が総務部に呼ばれたが、それは翌二十七日朝のことだった。

「私と加藤君は庶務課長を長くやっていたこともあって、助っ人に行った訳です。事件が起きた日の翌朝、総務の副部長が大阪から自宅へ電話してきて、
そうなったんです。本社で何をしていたかといっても、ま、電話番みたいなものですよ。あとはNHKのテレビをつけたままにしておき、それを見ながら
どうなるか気をもんでいたというのが実情です。報道関係からの電話もありましたが、実際にはこちらではなにもわからず、むしろこっちがなにか情報を
聞きたいくらいでした」(三菱銀行・牛尾鋭之助経営相談室長)
957ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 03:51 ID:xnG3b7De

 事件現場である大阪へ向かって、いちばん先に大阪を発ったのは増子庶務課長だった。午後四時過ぎ、五階の総務部を出た彼は、東京駅丸の内南口へ
走った。十六時二十四分発の『ひかり一四一号』に乗車するつもりで急いだ。だがこの列車は一月十八日〜二月二十日までと二月二十二日〜二十八日は
運休であった。時刻表の運転期日欄に目を配ることを失念していて、東京駅へ着いてそれを知らされた。やむなく新幹線十八番ホームから十六時三十六分
発『ひかり一一七号』に乗り、大阪へ向かった。

 短い冬の日が傾いた。三菱銀行本社が入っている巨大な東京ビルディングも、下半分が翳り始める。一階の本店はすでにシャッターを降ろして営業を
続けていた。通称”三菱村”といわれる丸の内二丁目一帯には、異常を感じさせるものはなにもないかのようであった。

 だが大阪の北畠支店で起きた猟銃人質事件は、丸の内のひ弱なエリート集団では対応できないような状況に向かって、既に急展開しつつあった。
北畠支店の一階フロアでは、犯罪史上に類を見ない現場が作り出されていたのだ。

 事件が起きたとき、三菱銀行の北畠支店の二階では、中田幸雄支店長以下、約十五名の行員が執務中であった。銀行の支店は、一階がテラーと呼ばれる
金銭出納係、二階には得意先係の営業係員たちがいる。二階はいわば”攻撃部隊”の基地で、一階の現場に優越感を持っていることが多い。
 午後二時三十分、一階からズドーンと「下から突き上げるような」銃声がした。
 続いて「キャーッ」という悲鳴。また銃声。悲鳴。ガラスの飛び散る音。二階の行員たちは総立ちになった。
958ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 03:57 ID:xnG3b7De

「銀行強盗だ!」
 
 全員仕事を放り出し、奥にある支店長室に逃げ込んだ。内側からドアにロックして、みな息を潜めていた。銃声がたて続けに響いてくる。中田支店次長は、
支店長専用電話で、北区中之島二丁目の三菱銀行大阪事務所へ事件発生とあらましの状況を報告、銃声が止むのを待って支店長室を出た。午後三時を回っていた。
営業時間が過ぎた。すぐ一階にあるコンピューターの端末機の電源が切られた。北畠支店の二階には電話交換機、コンピューター・ステーションといった支店の
中枢機能が集められていて、預金の記帳、照合などが行われている。書類は一階とのエア・シューター(気送官)で往復される仕掛けだ。事件発生からそれまでの
三十分間に、他行や他支店から振り込まれた金は、男の凶行に関係なく平常通りコンピューターが記録していた。ただ、当然のことながら支払い業務はストップした。
 この日一月二十六日は多くの企業や商店などの給料日の翌日で、住宅ローンや電気、ガスなど公共の振り込みも多い。おまけに週末をひかえた金曜日重なったため、
銀行業務は混乱した。

 「現在はオンライン化されているので、全国どこの支店でもお金は引き出せるのですが、『給料がおろせないじゃないか』とか、『日曜日に出かけるのだが、どこで
お金をおろせばいいのか』という電話がずいぶんあり、大変でしたよ。二十五日のあとですからね。そういうお客さんのアクションに応えるため、北畠支店の二階から
端末機を一台、北畠からいちばん近い阿倍野支店に移し、処理しました。窓口の後ろに置いてある端末機は、どこにでも簡単に移せて転用することができるんですよ」
(三菱銀行総務部・嶋田正稔文書課長)
959ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 03:58 ID:xnG3b7De

 北畠支店に預金していた顧客のなかには、翌土曜日の午前中、阿倍野橋支店まで走った人たちもかなりいた。北畠支店からバスで二十分から三十分はかかる距離だ。
 東京の三菱銀行業務部は午後三時、大阪手形交換所へ北畠支店の人質強盗事件を報告し、手形のモラトリアム(決済猶予)を依頼した。伊勢湾台風、新潟地震、
宮城県沖地震などの前例もあり、こうした緊急事態の下では、電話一本で必要な処置が自動的にとられることになっている。大阪手形交換所はただちに、
「三菱銀行北畠支店の二十六、二十七日交換分の返還期限を十四日間延長する。二十九、三十日決済分は一日延長する」
 という処置をとった。この処置によって、不渡り手形による信用問題の突発、倒産という金銭トラブルは防止された。
960ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 03:58 ID:xnG3b7De

 たとえば、三菱銀行北畠支店に口座があって、事件当日の二十六日に決済しなければならない約手、または小切手を振り出していた顧客がいたとする。
事件が発生した午後二時三十分までに、口座に十分な残高があって決済されていれば問題はないが、三時までに入金するつもりでいた場合、
事件発生で入金できず預金不足で不渡りとなってしまう。その結果、顧客の金融面における信用は失墜し、取り引き上重大な障害となって、
場合によっては、倒産という事態になりかねない。それは見事に回避され、悲劇は一件も起きなかった。

 こと銀行業務に関する限り、三菱銀行の組織は東京も大阪も『不測事態』発生に際して、スキのないスピーディな対応を見せたといえる。

 ”巨艦”三菱銀行は、円滑に機能した。当然といえば当然だろうが......。

 しかし、この常識をはるかにかけ離れた「事件」そのものへの対応となると、そうは行かなかった。”巨艦”はノロノロと動き、
しかも進路不明の印象さえ与え続けた。行員だけでなく顧客が人質として犯人に監禁されているにもかかわらず、三菱銀行は最高責任者の山田春頭取を現地へ送ろうともせず、
しかも、事件対策本部さえ設置した形跡がなかった。信じられないことだがそうであった。どの都市銀行も事件発生後いち早くアクションを起こし、
事件の性格、動向を必死に追ったが、関係幹部たちは例外なく、三菱銀行の対応ぶりに驚いた。
961ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 04:00 ID:xnG3b7De

 ある大手都市銀行の担当幹部が率直に語る。

 「三菱さんは対策本部を設置しませんでした。お客さんを巻き込んだとなれば、顧客の信用を第一とする銀行にとっては、これ以上ない最大級の危機発生です。航空機
事故やハイジャック事件のときの日本航空にように、最高責任者が本部長となって対策本部を設けるべきですよ。そして、全権を持った本部長、銀行の場合ですと頭取と
いうことになりますが、ともかく本部長が現地へ飛ぶ。未確認とはいえ、すでに四人の犠牲者が出ているのに、まず庶務係長、続いて常務、様子を見て翌日に副頭取を派遣
という三菱さんの決定は、どう考えても不可解の一語です。当行ですと、当然、頭取が現地へ駆けつけていますね」
 組織にとって重大な『不測事態(コンテンジェンシー)』が発生し、その危機に対処する場合、最高責任者を現地にはりつけるのが『危機管理(クライシス・マネジメント)』
の原則とされている。それは企業に限らず国家、軍隊、警察などでも同じである。スリーマイルアイランド原発事故の際も、アメリカのカーター大統領は夫人同伴で現地へ飛び、
放射能防護靴をはいて事故現場をじかに視察、危機回避と縮小のため陣頭指揮をした。『陣頭指揮』こそ、危機に直面して最高責任者に要求される第一の任務であり、義務である。
そういってよい。
 
 三菱銀行首脳には『陣頭指揮』の思想が欠落していた。のちに触れるがその結果、現地の混乱は想像以上のモノがあり、三菱銀行の企業イメージを痛く傷つけることになる。
もう一つ、三菱銀行に欠けていたのは『不測事態』、わけても「事件」そのものに対する組織的対応である。その象徴が対策本部の未設置であった。

 航空機事故、ハイジャック事件など『不測事態』に見舞われることの多い日本航空では、アメリカの航空会社の資料を参考に『航空事故処理規定』が定められている。
ハイジャック事件の時は、その中の「強取等発生の場合の処理」というマニュアルによって、全社的な規模で対応していく。
962ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 04:00 ID:xnG3b7De

 まず「ハイジャック発生」の情報だが、スケジュール統制室から現場サイドへは一斉電話(一つの情報をいくつもの受話器で同時に聞ける)で連絡される。
情報を受けた現場は、各部ごとに全員の連絡表が常備されているから、休暇中の社員を呼び出すことも可能である。動因体制が整う頃には、社長を本部長とした
「事件対策本部」が設置される。これまでの例では、羽田の日航オペレーション・センター三階の大会議室があてられた。

 「この対策本部には、社長の直接指揮下におかれた総務、広報、渉外、運航、整備といった各部が組織されます。
といって平常時の組織と全くかけ離れたことをする訳ではなく、広報の人間は対策本部の広報活動をします。
運送班は家族への連絡、家族の方の宿泊の手配は総務が担当と決まっています。さらに、事件あるいは事故の規模、
内容によって、動員すべき人数なども変わってくるため、フェイズ1、2、3というようにいろんな対応策が決められています。
長時間にわたりそうなときは、もちろん三交代でシフトを組みます。(日本航空広報室)」

 事故慣れしているといえばいえようが、そうでない都市銀行の場合でも、これぐらいの『不測事態対応計画』は用意しているところが多い。
ただ、銀行強盗やバンク・ジャックは犯人がすぐ逮捕されるが、逃走しているケースが大部分のため、実際に発動されたことはほとんどない。
そのため、机上のプランの域を出ていないのは仕方ないが、参考までに、ある大手都市銀行のマニュアルを紹介しておく。
963ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 04:01 ID:xnG3b7De

 対策本部は、現地対策本部の二つが設置される。現地対策本部の本部長は、当該支店長がなるのが原則だが、それが不可能な事態では、
近隣支店長か、本社から派遣された総務部長クラスがなり、その支店か近隣支店に設ける。本社対策本部は、総務担当の代表取締役が本部長となる。
しかし、事件が大きくなったり長期化しそうな場合は、頭取が本部長に座り、総務部長が指揮官となって機能する。

 「三菱銀行北畠支店の事件ぐらいになると、当然、本社対策本部には頭取がなります。そして、役員会から全権を委譲された頭取が現地対策本部に入って、
直接指揮を執ることになるでしょうね。対策本部の機能については、都銀の場合はほぼ共通しておりまして、現地対策本部は全て本社対策本部の指示を仰いで、
ことを運ぶ形になっています。人命にかかわるような事件となれば、あらゆる決断は役員会でなされます。本当はアメリカのように、頭取一人でパッと決断できるに
越したことはないのですが、日本の銀行は、そのような職務権限になっていないのです。といって、実際問題として、いちいち役員会を開いて決めていたのでは
時間がかかり過ぎますので、事件発生直後の役員会で頭取、総務担当役員、労務担当役員、支店管理担当役員の四名に全権を委ね、それ以降は四者会談で決断、
決定していくように定められています。」

 と、この都市銀行の担当責任者はいう。本社対策本部の構成スタッフは、最大規模で二十四、五名、それぞれの仕事がこまかく決められている。
(本社対策本部の組織構成と任務内容についてはここでは言及しない)
964ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 04:01 ID:xnG3b7De

 三菱銀行本社も事件発生の情報が確認された二十六日午後三時ごろから、会長、頭取、副頭取、総務部長による”四者会談”を開いた。
だが、対策本部を設置したという発表もなかったし、設置された形跡も見あたらなかった。増子武勝庶務課長に続いて、佐藤清一郎常務が丸の内の本社を出たのは、
二十六日の午後七時頃だった。横山欽一総務部副部長が同道した。二人はエレベーターで地下駐車場まで降り、車で本社を出た。

十九時二十五分、羽田発の日航最終便に乗るためだ。しかし、高速道路の混雑のため、『JAL一二五便』には搭乗できなかった。横山総務部長は、羽田から本社文書課に、
「乗り遅れたので東京駅に向かう」と電話を入れた。二人が慌てて東京駅へ引き返し、『ひかり一七九号』のグリーン車に坐ったのは午後八時二十分だった。
965ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 04:18 ID:xnG3b7De

 新大阪行きの最終電車は四分後、十七番線のホームを離れた。

 無論佐藤常務の耳には、「北畠支店一階の狂気」を知らせる情報は、まだ入っていない。

 ネオンの洪水を抜けた『ひかり号』は、闇の中へ入って行き、乗客たちのスピード感覚を鈍らせた。
966ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:04 ID:xnG3b7De

 北畠支店一階で事件に展開されつつある事態は、まだ警察も銀行側も全くつかんでいない。
銀行の支店は一階出入り口のシャッターをおろすだけで簡単に”密室”となり、外から内部を伺う事すら容易でないのだ。
それはどの銀行の支店でも似ていた。
967ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:04 ID:xnG3b7De

 守りを固くすればするほど、犯人にいったん内部に篭城されると攻め難くなるという、皮肉な構造になっているのだ。
968ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:04 ID:xnG3b7De

大阪府警捜査一課の機動捜査隊、それにハイジャック事件や人質事件などを担当する特殊捜査班の主力は、事件発生後、
わずか十〜十五分のうちに現場へ到着していた。
969ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:05 ID:xnG3b7De

 だが、有効な対処法がなかった。犯人が猟銃を持っているためではない。銀行店舗の配置見取り図さえ手にないからだ。
970ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:05 ID:xnG3b7De

 銀行をはじめとする金融機関は、防犯対策上から警察との協力、信頼関係を昔から重視している。
971ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:06 ID:xnG3b7De

 都市銀行を例に取ると、新任の支店長は着任すると真っ先に所轄の警察署、管轄の派出所へ挨拶に行くのが慣例だし、
警察が開催する防犯関係上の会議、説明会にすすんで支店の会議室を提供したりする。
972ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:06 ID:xnG3b7De

 しかし、銀行は支店の見取り図などは、絶対といっていいほど警察には出さない。
973ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:06 ID:xnG3b7De

表面上のなごやかな交際とは裏腹に、警察を本心から信用してないからだ。
974ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:07 ID:xnG3b7De

大手都市銀行の首脳が、あからさまに語る。
975ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:07 ID:xnG3b7De

「最近、警察側から支店の配置図や防犯ベル、防犯カメラの設置場所などの見取り図、さらには行員名簿まで提出してくれという要求が
強いのは事実だ。否定はしない。
976ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:07 ID:xnG3b7De

 しかし、女子大生殺しの松山巡査事件の例をひくまでもなく、警察官といえども、全面的に信頼できるものではないというのが、私どもの
感覚なんですね。
977ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:18 ID:xnG3b7De

本署のしかるべき人間、例えば所長本人が責任を持って管理保管するというのなら別だが、そうでない以上は、とても出せない。
派出所などは論外ですよ」
978ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:19 ID:xnG3b7De

 裏返していえば、日本の金融機関は"平和"に慣れすぎてきたということだろう。
979ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:19 ID:xnG3b7De

 "例外"としてたまに起こる強盗事件による被害は、企業コストとして折り込めばよかった。
980ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:20 ID:xnG3b7De

 だから、大衆の預金を預かっていながら、どこも防犯体制らしいものはしいていないのが実情であった。
981ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:20 ID:xnG3b7De

 社会情勢は異なるが、同じ三菱銀行でも『ブラジル三菱』の場合は、行内に鋼鉄製のトーチカが設けられていて、ガードマンが銃眼から
ライフルで監視している。
982ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:21 ID:xnG3b7De

 いわば「要塞のなかの要塞」で、これでは人質をタテに一階に犯人が立てこもっても、長期戦には耐えられない。
983ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:21 ID:xnG3b7De

 ブラジルでは銀行強盗に被害は、企業が負担できる域を越えているということだろう。
984ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:21 ID:xnG3b7De

 ともかく、三菱銀行北畠支店では、銀行と警察の相互不信を内包しつつ、犯人への対処が始まっていた。
985ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:21 ID:xnG3b7De

 警察側は支店の構造図もないまま、午後三時十分、五名の捜査員を西側駐車場の非常階段伝いに二階へ進出させた。
986ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:43 ID:xnG3b7De

二階では約十五名の行員がちぢこまっている。
987ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:43 ID:xnG3b7De

 捜査員は中田幸雄支店次長から、一階の構造、配置を聞いた。
988ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:43 ID:xnG3b7De

階段の下には一階のロビーが、わずかながら見える。
989ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:45 ID:xnG3b7De

さらに様子を探ろうとして捜査員が一段、二段降りかかると女子行員の絶叫が下から響いてきた。
990ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:45 ID:xnG3b7De

 すかさず、バーンという物凄い銃声。
991ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:45 ID:xnG3b7De

 続いてギャーッという泣き声に似た悲鳴が聞こえる。
992ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:45 ID:xnG3b7De

 その途端、バーンと銃声が外まで聞こえてくる。
993ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:46 ID:xnG3b7De

 散弾が壁、バリケードのロッカー、机、椅子にあたって、はじける音も混じっていた。
994ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:47 ID:xnG3b7De

捜査員は階段からの観察を諦めた。
995ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:55 ID:xnG3b7De

外からの警察の広報車で、住吉警察署の斉藤寛署長が犯人に呼びかける。
996斉藤寛署長 ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:55 ID:xnG3b7De

 こちらは大阪府警、すぐ人質を解放しなさい!
997ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 05:56 ID:xnG3b7De

銃声だけで、人質犯に特有の”要求”がなにもない。犯人の正体もわからない。
998ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 06:04 ID:xnG3b7De
 
 人質の人数も、置かれている状況も、死者の数もわからない。支店の見取り図もない。
999ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 06:04 ID:xnG3b7De

 警察側は、まさに「ないないづくし」だったのだ。
1000ルポライター ◆soDOmS.V/s :03/07/03 06:04 ID:xnG3b7De

 おまけに、事件の最高指揮官である大阪府警の吉田六郎本部長は、まだ京都から大阪へ向かう車中にあり、前線指揮官の坂本房敏捜査一課長も、
いまだ名古屋にあった。不運な偶然の重なりという他なかったが、事件初期の情勢は、あきらかに警察側に不利に推移しつつあるといえた。


 次スレは以下になります。

【危機管理 ― 三菱銀行と猟銃人質事件の真実】
http://jbbs.shitaraba.com/music/bbs/read.cgi?BBS=1143&KEY=1055133838
10011001
このスレッドは1000を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。