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970名無しさん@魚好き
『血の収穫』ダシール・ハメット
308ページまで

この本を読了。
ハードボイルドという分野を確立したとされるこの小説は、
探偵が考え込んでしまったりすることもほとんどなく、行動し、
物語が展開していって、テンポよく読んでいけます。

で、問題なのは、『神聖喜劇』の東堂太郎がこの本を読んでいたことの
意味ですが、とりあえず、『血の収穫』の中に火葬場についての
記述があるとかそういうわけではないことは確認できました。

『神聖喜劇』でそのことが書かれていた部分を引用します。
第一巻 第二部 混沌の章 第三 現身(げんしん)の虐殺者 の中にあります。

> その翌翌年盛夏、一日の晴れた午前、私は、母方の叔父を荼毘(だび)
>に附するため、福岡市南郊の火葬場へ出発した。私は、病臥中の母の代理
>であった。戦火は華北の一地点からまさに拡大しつつあって、巷(ちまた)
>に召集兵の往来が目立ち始めた。追い立てられるような焦燥感と不透明な
>虚無感とが、その日ごろ、私の内側に同居し、次第に蔓延(はびこ)って
>いた。それでもやはり私は、田舎道をそこに近づく霊柩車の中で、前田夕
>暮(まえだゆうぐれ)の「馬の脊をひしと撻(むちう)つ紐鞭(ひもむち)
>の音いたいたしこの焼場みち」を思い出したり、ここで芥川龍之介(あく
>たがわりゅうのすけ)晩年の作中人物がヴィルヘルム・リープクネヒトの
>『追憶録』を読むのである、と考えたり、しながら、初訪問の火葬場につ
>つましい興味をつないだ。前年の春、西条靫負(ゆぎえ)と近しくなった
>私は、彼の影響もあって、たとえばリープクネヒト著『土地問題論』を一
>読していた。しかし火葬場行きの私がたずさえていたのは、ダシル・ハメ
>ット作“Red Harvest”〔『血の収穫』〕であった。
(引用部分の括弧内の読みは、原文ではルビ。)
971名無しさん@魚好き:03/03/06 19:18 ID:j9gtk8Zc
光文社文庫版『神聖喜劇』第五巻の巻末の解説の最後に評論家
(という肩書)の坪内祐三氏は、こう書いているわけです。

> 『神聖喜劇』はまた読書小説の傑作でもある。本、本屋、そし
>て読書体験に関する具体性に満ちた描写は本好きにはこたえられ
>ない。
> 私は、第一巻の終わり、十九歳の夏に東堂が、母方の叔父を荼
>毘(だび)に附する火葬場でダシル・ハメットの『血の収穫』を
>読んでいたシーンが、つまり、「しかし火葬場行きの私がたずさ
>えていたのは、ダシル・ハメット作“Red Harvest”〔『血の収
>穫』〕であった」というたった一行が、脳裏に強く焼きついて離
>れない。これからも、繰り返し、時どき、そのシーンのことを思
>い出すことになるだろう。

ここで、『神聖喜劇』からの引用中の
西条靫負は、東堂の高等学校での親友でマルクス主義者。
「戦火」は、1937年7月に始まった日中戦争。
ヴィルヘルム・リープクネヒトはドイツ社会民主党の創立者の一人。
また、ハメットは、戦後、反資本主義的な見解を表明して赤狩りの
マッカーシーの槍玉にあげられたが、『血の収穫』にそのような思想傾向が
反映しているわけではない(創元推理文庫の解説による)とされています。
昨日も書きましたが、人の命が軽く扱われてしまう戦時ということと
結び付けて『血の収穫』が選ばれたのだろうかとも思えますが、
それだけでは、坪内氏の解説のような強烈な印象を説明するには
とても十分とは言えません。
972名無しさん@魚好き:03/03/06 19:19 ID:j9gtk8Zc
そこで、さらに、「芥川龍之介晩年の作」とはなんのことだろうと思い、
探してみたら、意外と簡単に見つけることができました。
内容で思い当たる作品がないので、ネット上の青空文庫で晩年の
芥川作品のうち読んだことのないものを開いて「追憶録」という言葉で
検索してみたところ、運良く最初に開いた作品が目的のものでした。
『玄鶴山房』(げんかくさんぼう)というのがその作品です。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/36.html
青空文庫で読むこともできますが、私の手持ちの本にも入っていた
ように思うので探してみたら、旺文社文庫の『O・ヘンリー短編集』が
出てきた段ボール箱の中にちゃんと入っていました。
『河童・或る阿呆の一生』という芥川晩年の作品を収録した旺文社文庫です。
で、旺文社文庫は、作品についての解説が比較的充実しているので、
まず解説の方をざっと読んでみました。
すると・・・・・そうだったのか!
目的のことと無関係ではないだろうと思われることがちゃんと書いてあります。
それはどういうことかというと・・・・・時間がないので、
というか、『玄鶴山房』を読んでみてから、改めて明日書きます。
ごめんなさい。
これを読んで興味を持たれた方は、青空文庫の『玄鶴山房』を
読んでみておいてください。