野球部とおぼしき少年達が、どかどかと夕方の電車に乗り込んできた。
空いていた席に、自らの体と巨大な荷物をどっかりと下ろし、大声で話し始めた。
「オマエむかつくんだよこの孕ませ男。」
「うるせんだよ〜童貞が!ガハハハハ〜。」
周りを気にせぬ下品な話が延々と続く中、
大人達は顔をしかめ、
『どういう教育してんだろうねぇ』
と彼らをあからさまに疎んでいた。
次第に険悪ムードが広がる中、
杖をつきつき一人の老婆が、よろよろと奥の車両から歩いてきた。
『あぁ、危ないなぁ…』
と誰もが心配の目を向ける中、案の定、老婆はよろりとよろめいた。
咄嗟に見て見ぬフリをする大人達。
そんな中、10数人いた先ほどの少年達が一斉に老婆に駆け寄ったのだ。
「ばぁちゃん、次の駅まだ遠いって!」
「あぶないよ、ここすわりなよ。」
「怪我しなかった?だいじょうぶ?」
彼らは自分達の荷物を床に蹴り捨てると、
老婆を大切な物の様に、座席の真中にちょこんと置いた。
『誤解してゴメンねぇ』
『悪い子じゃないんだねぇ』
大人達は皆、気恥ずかしげな表情で。
車内は微笑ましいムードに包まれた。