落合博満 俺流伝説 第4打席

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466神様仏様名無し様
<あなたへ心からのありがとうを贈る>

 あなたは、誰からも愛されるスーパースターではなかった。
 あなたは、入団時、「こんな打ち方では使いものにはならない」と言われた。しか
し、あなたは自分のやり方を変えなかった。
 そして、あなたは答えを出した。それまで、誰一人なし得なかったことを、やり遂
げた。
 あなたは三拍子そろった選手ではなかった。守備や走塁で魅せる選手ではなかっ
た。
 それは逆に言えば、打つだけで頂点に上り詰めたと言えた。
 あなたは自らが信じたことは、絶対に譲らなかった。自分に正直に歩き続けた。
 それが時に誤解を生んだ。それが時にあつれきを生んだ。そして時に、あなたをた
たいた。
 徒党を組むのが大好きで、迎合することしか知らぬ現代ニッポンの”集団主義”
が、あなたを認めなかった。
 だが、それでもあなたは己を貫いた。周囲の雑音にも馬耳東風だった。中傷や誹謗
は反骨へのエネルギーに変えた。
 あなたは技と力を兼ね備えていた。外角に逃げるスライダーを、鮮やかに右中間へ
運んだ。2年間合わせて三ケタの本塁打を放った。真の四番打者の姿を示してみせ
た。
 あなたは好投手ほど、よく打った。それも相手が得意とする決め球を待ち、それを
攻略した。平成の名将をして「球界史上最高の右打者」といわしめた。
 あなたは責任を転嫁することはしなかった。初めての日本シリーズで仕事ができな
かったあなたは、こう言った。
 「四番の差で負けた」
 あなたにもあこがれの人がいた。
 あなたにとってのスーパースターであり、誰からも愛されるスーパースターだっ
た。
 だからあなたはその人の笑顔が見たかった。
 少年時代の恩返しをしたかった。
 そしてあなたは決意し、実行し、こたえてみせた。
 痛む体を抱えつつ、力を振り絞ってみせた。
 最晩年、あなたは一人の若手に対し、挑発ともいえる態度をとった。伸び悩む姿に
奮起を促したかった。
 結果、開花した才能は若きスラッガーへの階段を上り始めた。だがあなたは、誓っ
た約束を果たすことはできなかった。そしてついに限界が訪れた。
 そして、あなたは静かにバットを置いた。胴上げも、セレモニーもなかった。
 それ以前に、引退試合そのものがなかった。だが、しかしそれがまた、あなたらし
いと言えた。
 あなたは誰からも愛されるスーパースターではなかった。だから、最後に伝えた
い。
 落合博満。あなたこそ、僕にとっての最高のスーパースターでした。
 ありがとう。心から、ありがとう。

(神奈川県・櫛毛 聡)
(「週刊ベースボール」98年11月9日号・95ページ「READERS DIR
ECT」コーナー掲載)