>>285>>288 10月2日の対ヤクルト24回戦、東京ドーム。
先に試合を終えていた中日にとうとう追いつかれ、首位陥落がかかった試合。
先発の斎藤が三回でKOされる最悪の展開も珍しく打線が奮起し七回の裏に4−4の同点。
そして8回の裏一死一塁、マウンドには速球投手山田。
打席にはデッドボールの影響で背中が腫れ上がり
かろうじてヒット狙いのセコいスイングしか出来なくなった落合。
変化球を頭の悪い大振りバッターの様な、およそ落合らしくない力の入った
フルスイングで引っかけて三塁線にファールした。
このとき記者ブースが静かにざわめいた。
『あの』落合が、素人でもわかるくらいに本塁打を狙いにいっているぞ!?と。
当時の記者連中は番記者でなくともみんな知っていた。
今の落合はフルスイングできる状態ではないことを。それを四番に据える長嶋さんは『やっぱり馬鹿だ』、と。
案の定スイング後の落合は、傍目にもわかるほどに顔を歪め歯を食いしばっていた。
そこにいた大多数の記者が思っていたと思う。(それみたことかw)(ざまーみろ)(さっさと負けちまえ)
記事には出来ない、一野球ファンとしての、どうしても偽れない本音だ。
キャッチャーの古田は全てを見通していたのか、直球ばかりを要求。直球、直球、また直球。
そしてほとんどの記者が『四番失格』の烙印を押した、落合の、フルスイング、フルスイング、フルスイング。
そこにいた記者の期待が交錯した。「三振だよw」「打つんじゃないのか?」「振り遅れてるって」
「打っちまえ」「おさえろ」「当たったら飛ぶぞ」「当てられないって」
「……打ったら面白れえだろうな」
インハイの149キロの直球。レフトの頭上に高々と舞い上がった白球。
「当たったぁ!」「打ち取った!」「とどけ!」「打ち上げやがった!」「入っちまえ!!!」
詰まって打ち上げてしまったのかとも思えた打球は悲鳴と歓声が渦巻くドームにいびつな弧を描いて、
レフトスタンド中段の少し手前に落ち、ヤクルトファンの目の前で高く静かにバウンドした。