ポーカーフェイス-pokerface-

このエントリーをはてなブックマークに追加
865-7.74Dさん
フォーナインズというメガネブランドには、大きなひとつのジレンマがある。

メガネは半完成品。顧客のひとりひとりの顔にフィッティングしてはじめて完成品となる。

これは間違いない事実。たいていの人間は左右の耳の高さが違う。
生まれつき右利きの人間はたいてい右の顔のほうが前に出ている。生まれつき左利きなら逆になる。

しかし、全国展開するならその「半完成品」のコンセプトでは、マーケットの原理にはまらないので商売がうまくいかない。

充分なフィッティング技術を自力で身につけられる眼鏡士は少ない。それは伝統芸能で家元になるのと同じくらい難しいことなのだ。

フォーナインズというブランドの成功の本質は、
「フィッティングしなくても、そこそこ掛け心地の良いメガネを作り得た」
というところにある。そのことをイメージ的に認知させたから成功したのだ。
たしかにフィッティングしなくても、9999のメガネはそこそこ掛け心地はよい。(あくまでそこそこだが)

だからフォーナインズは「うちのメガネはフィッティングしなくてもいいんです」
と言ってもそれほど困ることはない。本物のフィッティングを知る人間は少ないからだ。

しかしながら…… 技術の高い眼鏡士が少ない反面、メガネにくわしいメガネフリークの間ではすでに、
「きちんと調整のなされたメガネは素晴らしい嗜好品だ」と知れ渡っている。
『本物のフィッティング』は知らないが、『本物のフィッティングをした眼鏡は至高』とは知っている。
こういうメガネフリークは富裕層の洒落者なので、フォーナインズはとりこまねばならない。

そこでフォーナインズは、ダブルスタンダード(二重の基準)を取る戦略に出た。
ユーザーには「9999は半完成品です。販売店の技術に頼ってください」とのべたて、
販売店には「9999は完成品として作ったので、フィッティングしなくてもOK」と吹聴する。
これによって、顧客、販売店の双方に安心感を持たせ、9999のブランドイメージは盤石となった。

それは「本物のフィッティング」を知らない者たちにのみ通用する「都合の良い甘い嘘」だ。
いわば砂上の楼閣。どの業界であれ、そんな業態業種であれ、全国展開で成功するにはその「嘘」が必要なのだ。