迷走3空港:/上 腹案の伊丹国際線再就航
「関西に5本の滑走路は必要ない!」。大阪府の橋下徹知事は14日の関西3空港懇談会で強く持論を展開した。
懇談会は関西国際、大阪(伊丹)、神戸の3空港を一元管理する方向性でまとまり、「2035年の関空リニア開通・伊丹廃港」という“橋下試案”をかわした。自治体の利害も絡み、国を動かす具体策を出すには難航が予想されている。
◇
こうした綱引きを旅行業界は冷ややかに見ている。「エイチ・アイ・エス」関西営業本部(大阪市北区)の高橋洋さんは「私たちは分からないことは、すぐお客さんに聞く」と語り、利用者の声を空港施策に反映させる必要を指摘する。
大阪市中心部から遠い、使いにくい、だから便が減る−−。空港論議は、関空へのアクセスに関するものが多い。高橋さんは「関空発の中国への旅行客は年々増えてきた。
関空にはリムジンバスも多く、世界の空港と比べてもそん色ない」と語る。旅行に出る人たちの間ではけっして不評でなく、関空発のアジア旅行は売れ筋の商品という。
むしろ旅行業者が共通して指摘する空港活性化の課題は「人を集める地域の魅力」だ。アジア方面に強い中堅会社の担当者は「空港を使う理由があるかが重要。海外から訪れる観光やビジネスの需要を高めるのが先」と言い切る。
「関空利用者を増やしたい」という高橋さんだが、こうも話す。「東京では羽田から国際線が飛んだことで成田から客が移った。伊丹に国際線が復活すれば、関空からお客さんが流れるだろう」。伊丹の利便性はそれほど高いとみる。
◇
「そもそも、知事の発言には『通訳』が必要なんです」。大阪府池田市の倉田薫市長はこう言って笑みを見せた。知事が伊丹廃港と同時に掲げる関空リニア。
ベテランの倉田市長はその実現性を「市内の300メートルの道路整備に10年かかった。関空までリニアを通すのに何年かかるのか」と言う。「リニアが実現しなければ廃港もない。
橋下試案に乗るのも手だ」。知事案を後押しすることで、伊丹空港への国際線再就航が実現し、伊丹空港は活性化、結果として生き残る−−。「伊丹」の魅力に自信を持つ倉田市長の考えは伊丹周辺の「周辺都市対策協議会(11市協)」の共通認識となりつつある。
◇
14日の懇談会は今後半年の議論のスタートに過ぎない。関西は、自ら持続可能な「空」の姿を描けるのか。迷走する関西3空港問題について、あるべき姿を探る。2009年12月15日 夕刊
http://mainichi.jp/kansai/news/20091215ddf001020005000c.html
迷走3空港:/中 揺らぐ関空ハブ神話
「人気のソウル金浦(キンポ)線でこの価格!」「往復とも金浦空港利用!」。大手旅行会社の韓国旅行パンフレットには、ソウル都心部に近い空港・金浦発着をPRする文字が躍る。
金浦は国際ハブとして注目の仁川(インチョン)空港ができるまでは国際空港で、関西国際空港と大阪(伊丹)空港の関係と似ている。日本航空と全日空は今年、相次いで関空−金浦便を就航させた。
さらに日航は9月に「金浦線の増便で利便性向上を図る」と関空−仁川便の運休を発表した。ハブ化で利便性が向上するという前提が揺らぎ始めている。
◇
「(他の空港への乗り換え地となる)ハブ空港という概念は、現在では航空業界の潮流から外れ出している」。関西大の高橋望教授(航空政策論)は、行政主導のハブ論議に疑問を投げかけた。
前原誠司国土交通相の「羽田先行ハブ化」に対し、大阪府の橋下徹知事は「二つのハブを持つのが国益」として関空ハブ化を掲げて対抗。
しかし実際は、世界の空港会社で急成長しているのは格安航空会社(LCC)だけで、需要があれば地方空港へも直行するのが特徴だ。
高橋教授は「安い航空運賃の魅力は高まり、多少不便な空港でも客は利用する。24時間運用の関空はもっとLCCを集めないといけない」と話す。
日航OBの佐竹真一・大阪観光大教授(観光開発論)も「中国をはじめ、急成長する航空需要にいかに絡むか。関西3空港という狭い視野ではだめだ。国内空港すべてが国際化してもいい」と提言する。
大胆な提言は他にも。関西学院大の野村宗訓教授(公益企業論)は「欧州では、航空会社が空港会社に投資、複数の空港を一体運営する例がある」。
経営体力を強化した空港会社が「工場誘致や、子会社の旅行会社を作り客の取り込みを始めている」という。
神戸大の黒田勝彦名誉教授(運輸・交通計画学)は「米国では空港、港湾、鉄道を公団が一体経営し、収益を上げている」と指摘。
関西で同じ枠組みが実現すれば、3空港と大阪・神戸港、阪神高速道路などが一体化する。関空は貨物便は好調で「一体運用できれば(航空貨物の高速料金割引など)相乗効果は計り知れない」と抜本的な検討の必要を指摘する。
◇
14日に国交省で開かれた成長戦略会議では、3空港の一元管理化案は不評。委員から「経営を一つにすれば旅客が増え、別経営なら増えないという理由は何か」との質問が飛んだ。
半年後に国を納得させるには、さらに思い切った案が求められる。2009年12月16日 夕刊
http://mainichi.jp/kansai/news/20091216ddf001020014000c.html
迷走3空港:/下 カギ握る需要予測
「ハブ空港を作るには、国の強制力で航空便を集めるしかない。オープンスカイ(航空自由化)の流れの中で可能でしょうか」
修学旅行生や中国団体客でにぎわう関西国際空港ロビー。日本航空のある社員は、国や大阪府の橋下徹知事が目指す関空への航路集積について話す時、表情を曇らせた。
関空、大阪(伊丹)、神戸の関西3空港論議で蚊帳の外に置かれた感がある航空業界。前原誠司国土交通相は関空への格安航空会社(LCC)の誘致構想を語っている。
日航は経営危機にあえぐ。「LCCが安く航空機を飛ばせるのは整備コストやサービスを省くから。安全重視の日本の顧客にマッチするでしょうか」とも語った。
◇
スーパーハブ、3空港の一元管理化、伊丹廃港−−。3空港論議は威勢のいい言葉が踊るが、議論の核が見えずに時間が過ぎた。
その迷走が、政府の「事業仕分け」による関空補給金の凍結という事態を招いた感もある。14日の関西3空港懇談会でも橋下知事と兵庫県の井戸敏三知事が派手に論争した。
しかし傍聴した府の担当職員が注目したのは井戸知事が「利用者(の動向)はどうか」と旅客需要を把握する重要性に触れ、橋下知事が強く同調した場面だった。
◇
伊丹の発着数は中央リニア(東京−大阪)と九州新幹線の開通で35%減少、関空の国際線はアジアの経済成長で75%増加する−−。
府が国交省に提出した「2035年の需要予測」だ。橋下知事が「データで議論したい」と求め、担当者が統計や時刻表を参考にはじき出した。
橋下知事はこれを基に14日、国交省航空局長に「府より正確なデータが国にあるはず」と開示を迫った。知事は懇談会終了後、国の需要予測次第では持論の伊丹廃港論を撤回する可能性があると発言した。
◇
力強い空港を作るには、旅行客ら空港利用者のニーズを反映した路線の設定が必要だ。
関西大の高橋望教授(航空政策論)は「国や自治体は、空港ができれば航空会社が勝手にやってくると思いこんできた」と語る。その結果のほころびは、関空、伊丹だけでなく、神戸空港など地方空港にも広がっている。
国交省が成長戦略会議で3空港のあり方を決めるまであと半年。利用者や航空会社の「需要」をキーワードに本質的な議論が始まる可能性がようやく出てきた。(この連載は福田隆、稲垣淳、酒井雅浩が担当しました)2009年12月17日 夕刊
http://mainichi.jp/kansai/news/20091217ddf001020006000c.html