上田清司埼玉県知事スレッド

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 私はこの八月から埼玉県知事となり、国政から離れたが、それまでは民主党の
国会議員として、いくつかの超党派の運動に関わっていた。そのなかで今回、
自民党の幹事長となられた安倍晋三氏と接する機会が多くあった。そこから
感じた安倍さんの人間像を述べてみたいと思う。
 いまから三年ほど前、安倍さんに励まされた印象深い出来事があった。当時、
民主党から「外国人地方参政権」の法案を提出する話が出た。私は断固反対の
立場を取り、民主党内に「慎重にかんがえる会」をつくり、積極的に活動して
いた。それを新聞記事で読まれたのか、ある日、偶然議員会館のエレベーター
に乗りあわせたときに「外国人地方参政権で立派な動きをなさってますね」と
突然声をかけられたのである。結局この動きをとめることが出来たのだが、
党派を超えた励ましの言葉に大変勇気付けられた。
 さらに私は埼玉県知事になるまでメンバーだった「拉致議連」の活動を通して、
安倍さんと深く接した。「拉致議連」の代表は今回、経済産業大臣になられた
中川昭一さんで、中心的な役割を平沢勝栄さんと西村真悟さんが担われていた。
そこに、「民主党の保守派」に影響力をもつ人間だと思われたのか、民主党議員
のまとめ役的存在として活動に加わり、副会長を務めていた。この活動を通して
この1年ほど、平沢氏、西村氏とともに拉致問題の政府担当である安倍さんと
頻繁にお会いし、党や立場を超えて本音をぶつけあった。
 また安倍さんとは、偏向した教科書をチェックし異議を申し立てる「歴史教科書
問題を考える超党派の会」でもお付き合いがあり、党は違っても「保守は」として
同じベクトルでものを考え、行動する同志として、お互いに親近感を抱いてきた
間柄だと思う。
 そのような「同志的」な関係を考慮していただいたのか、今回の埼玉県知事選
に際して、安倍さんから大変決め細かい配慮をうけ、印象に残った。選挙戦中、
私と対立する自民党の候補者の応援に行かれる前に、わざわざ「いろいろな事情
があるので申し訳ありません」と連絡をいただいた。
 さらには知事選終了後すぐに、お祝いの電話を頂戴し、激励を受けた。この
ような、安倍さんの人柄からにじみ出る丁寧で決めの細かい、義理堅さが多くの
人を惹きつけるのだろう。
 その一方で北朝鮮問題に象徴されるように、安倍さんは自分の信念に関わる部分
については、ときには「けんか腰」ではっきりと発言する。そのバランスがいい。
温厚な雰囲気がありながら、言動が激しいほうが「目立つ」し、そこで気配りが
しっかりしていれば、「出る杭を打つ」人も減り、極端に憎まれることもない。
今後自民党の幹事長としてもこのような姿勢は貫かれるだろうから、うまく党内
運営を図って、信頼されるリーダーになるに違いない。
 そうはいっても、今回の自民党三役の人事を見ると順風満帆とはいえないのも
確かだ。そこには安倍さんが直接選んだ人達が配置されていない。本来なら幹事長
を決めたら、新幹事長と内閣の要の官房長官で人事を決めていく。今回はそれを
やらず、ほとんど小泉総理が独自にきめた。その結果、安倍さんより年齢が上の
「旧世代」の幹部たちが勢ぞろいした。その点では、やりづらいと思う。
 しかし政権与党である自民党の事実上のナンバーワンとして、日々、難しい決断、
判断を行っていれば、代議士を三期分ほど務めたのと同じくらいの経験をする
ことになる。それぐらいのチャンスを与えられたと思って頑張っていただきたい。
 私がいうまでもなく、本人も将来に向けて期するものがはっきりとあるはずだから、
三年も幹事長を務めれば、同世代の政治家は、あっという間に引き離されてしまう
だろう「役が人をつくる」のである。そのころにはいよいよ「安倍さんの出番」と
いうことになっているかもしれない。
 最後に、今後私は埼玉県知事として、治安向上に向けた警察官増員問題や、しつけ
や基礎教育が崩壊している教育の建て直しなどに力を注いでいこうと考えている。
そして安倍さんも治安や教育問題に関心が高く、明確な主張をもっておられる。
政権与党のナンバーワンと埼玉県知事が力を合わせて「日本の難題」を克服する事が
できれば、これほど望ましいことはない。お互い立場は変わったが、これからも
どんどん議論を交わしていければと思うのである。(了)
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