1.26 立方行列式
行列式の理論および応用のだいたいは以上ですんだ。最後に立方
行列式(cubic determinant, kubische Determinante)のことにつ
き一言を加える。
行列式の概念を得られた人が誰でもただちに思い浮かべることは、
n^2 個の a_ik の代りに n^3 個の a_ijk (i,j,k=1,2,・・・・,n) を立方体に
配列して、行列式の概念を拡張できないか という疑問である。
この考はヴァンデルモンドにまで遡ることができるが、特に 1861
年にド・ガスパリ (De Gasparis) が論じて以来、多くの学者の研究
があり、さらに n^p 個の元素を考えてp次元の行列式まで拡張された。
しかしその理論は複雑で、とうてい普通の行列式のような簡潔
さを得られないばかりでなく、今までにそれらの概念を応用すべき
なんらの実際問題にも出会わないのである。故にここにはその記述
をやめ、ただこのような拡張がすでに考えられているということだ
けを報告して、この第1章を結ぶことにする。
(出典)
藤原松三郎 著 「行列及び行列式」改訂版、岩波全書40, p.85 (1961)