305 :
132人目の素数さん:
数学の世界では、取り上げたテーマについて様々な角度から研究を行い、一段落つ
いたと判断した時点で、得られた結果のうち発表に値すると思われる部分を抽出して、
欧文でレフェリー付きの雑誌に発表する。そのため、数学者は他の分野に比べ長い論文
を数少なく書く。数学の論文の平均的なページ数は10 ページから20 ページ程度と思わ
れるが、50 ページを越えるものもまれではなく、上記のワイルスの論文は109 ページあ
り、廣中平祐(1931–) がフィールズ賞を受賞した代数多様体の特異点解消の論文などは
217 ページに達する。廣中と同様にフィールズ賞を受賞した小平邦彦(1915–97) は、一
流の数学者の中で論文の数や長さが平均的であるが、その全集は70 の論文で1621 ペー
ジになる。
このように、数学者の論文の数は業績の大きさをうまく反映しているとは言い難い。
しいて挙げるとするならば、総ページ数のほうが業績との相関が高いと思われる。しか
し、これはあくまでも「一般論として」という意味であって、多くの例外があることは
指摘しておかなくてはならない。
306 :
132人目の素数さん:2007/04/18(水) 19:36:01
例えば、永田雅宜(1927–)1がヒルベルトの第14 問題の反例を構成した論文が7 ペー
ジにすぎないように、短くても非常に価値の高い論文もある。また、個々の論文だけで
なく一生の仕事として見た場合でも、多変数関数論において時代を画する一連の業績を
残した岡潔(1901–78) の欧文論文は、9 編からなる234 ページの全集2にほぼ収まってしまうのである。
このように総ページ数も完全な指標というには程遠いものではあるが、それでも数
学と他の分野を比較する上では、単純な論文数よりははるかに良い指標である。
本来、数学者の業績を評価する最善の方法は、機械的な数値指標によるものではな
く、米国のNational Science Foundation が研究費を配分する際実際に行っているよう
に、その分野の国内外の専門家2、3名に評価を依頼し、その結果を検討するといった
方式である。このような、専門家により研究業績を評価する方法(ピアレビュー) は、
少なくとも数学については最も正確な評価方法となるものと思われる。
数学の個人あたりの論文数が少ない理由の1 つには、共著者の問題もある。
数学の論文は、単著のものが多く、共著の場合も2、3 人が普通である。例えば、上
記の岡の場合はすべて単著であり、小平の場合は、2 人による共著が17 編、3 人の共著
が1 編で、残り52 編は単著である。廣中の場合にも40 編余りの論文のうち、2 人の共
著が4 編、3 人の共著が1 編で、残りは単著であり、ワイルスの場合には最近までに約
20 編の論文を書いているが、そのうち10 編が2 人の共著で、他は単著となっている。
共著者をどう並べるか、どの範囲まで広げるか、といった面でも数学には特殊性が
ある。