サミュエル・コールマン著『検証 なぜ日本の科学者は報われないのか』
http://home.hiroshima-u.ac.jp/~nkaoru/Coleman.html > 「クレジット」とは研究業績とそれによって得られる名声・信用である。
> 科学者はそれを元手にさらなる研究業績(クレジット)を積み上げて
> キャリア・アップを目指す。このサイクルに乗って、巨額の研究費を獲得し、
> 大規模な研究施設で多数の優秀なスタッフを率いてビッグサイエンスの
> リーダーとなる科学者もいるだろう。一方、努力したにもかかわらず、
> ある段階でサイクルから落ちこぼれてしまう科学者もいるだろう。自由な
> 資本市場では、チャンスをいかす才覚と資本が成功の鍵であるのに似て、
> 科学の世界では科学者としての能力と研究業績が成功の鍵である、という
> わけである。そして、クレジットサイクルが健全に機能するには、能力と
> 研究業績以外の要因 - 例えば、慣習、政治(力)、ジェンダー、人種など
> - が関与してはならない。自由な競争という前提条件が損なわれてしまう
> からである。
>
> 日本の科学界では、クレジットサイクルは機能しているだろうか。
> 優秀で勤勉な科学者が多数存在し、アメリカには及ばないにせよ、毎年
> 多額の研究資金が投ぜられている日本の科学が、世界のトップとは言えないと
> 自他ともに認めざるを得ないのは、クレジットサイクルを阻害するさまざまな
> 要因が存在するからだ、というのが著者の分析結果=診断である。
>
> どのような要因がクレジットサイクルの働きを阻害しているのか。科学界を
> 含めて我が国全体の雇用慣行となっている終身雇用と年功序列が、科学者の
> 移動を抑制するとともに組織の硬直化を促しており、また、文部科学省を
> 頂点とする官僚統制と大学の講座制に代表される職階制が、大胆で柔軟な
> 研究の展開を妨げている、と著者は論ずる。これらのいくつかの要因が
> クレジットサイクルを阻害しているために「日本の科学者は報われない」
> ことになってしまうのである。