(対角線論法の適用 有限の範囲)
最初に数列Aで小数点以下 3桁までの有限の範囲で小数リストを
つくり,これに対角線論法を適用してみる。
なお,この適用のため,小数点以下3桁までで桁が空位の場合は
その桁は0 で埋めておくものとする(0.1 なら,0.100)。
この小数リストの n 番目の小数の小数点以下 k 桁目の数字を
f_n(k) とし,対角線論法で新たな小数 X をつくるにつき,その
k桁目の数字 g(k)を
g(k) ≠ f_k(k)
となるように X をつくる。もっとも,この小数リストは数列Aでで
きており,実際にやってみればわかるが,常に f_k(k) = 0 となる
ので,X の k桁目の数字g(k)は,0以外の 1から 9までの数字のいず
れかを選んでおけばいいことになる。
そして対角線論法はXがリストにない小数であると主張するのだが,
これを検討すると,少なくとも小数点以下 3桁までのこの有限小数リ
ストに適用するについては,新たな小数など作れていないことがわ
かる。 続く
続き
この小数リストは3桁までしかないから,リストの最初の3つの
小数(0.000, 0.100, 0.200)と比較対象して作成される Xは,対角線
論法の手法によっては,この3つの小数と違う小数であることしか
保証されない。このリストの総数は10^3 = 1000 個だから,Xと直接
的な比較がされなかった小数の数は,1000 - 3 = 997 個にも上る。
もっとも実際には,リストにある小数のほとんどは,明らかに X
とは異なる小数となる。というのは,数列Aは順列の原理に従うの
で,3 桁の小数であるXと同じ小数は,総数1000個のリストの中で,
1個しか存在しないからである。
しかしこれは,逆をいえば,1000個あるリストのうち,必ず 1個
だけ,Xと同じ小数が存在することとなる。
ようするに,順列の原理に従った小数リストに対して対角線論法
を適用しても,新たな小数を作ることはできず,必ず,リストの中
の 1つの小数と一致してしまう。
つまり,対角線論法とは,リストの中から小数を 1つ選び出すため
の特殊な手法にすぎないのである。
以上のような関係は,この小数リストの小数点以下の桁を,3桁から
どれだけ下げて拡張しても同じである。
すなわち,数列Aでできた小数点以下 n 桁までのリストに対し,
対角線論法で小数 X を作っても,リストにある 10^n 個の小数の
うち,必ず1個だけ,Xと同じ小数が存在する。 続く
続き
さらに,次の点は対角線論法を考察する上で重要である。
つまり,対角線論法では,チョックするのが n 桁目までとすると,
n 個の小数とは違う小数を 1つ作ることができるわけだが,n桁目
のまでの小数の総数は 10^n 個であるから,常に
n < 10^n
である。この関係は少なくとも nが有限の範囲では維持される。
したがって有限の範囲のリストに対し,リストの小数を全てチェ
ックし尽くすことは,対角線論法では原理的に不可能である。
では,nが無限に至った場合,
n < 10^n
の関係は維持されるであろうか。