京都大学数理解析研究所について

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京都新聞2003年5月9日付け

この人

ウォルフ賞を受賞する京都大名誉教授 佐藤幹夫さん

イマジネーションに富む
「超関数」しておれば満足

 空間と空間の「距離」という奇抜な概念を編み出した高名な数学者ミハイル・グロモフ
さんに日本の数学者の印象を聞いたとき、即座にこの人の名前が挙がった。「非常にイマジ
ネーションに富んだ数学なんだよ」
 現実の世界で異常に振る舞う関数を、その外側の世界にまで広がった自然な存在として
とらえ直す「超関数」など、新しい数学を次々と築いた世界的学者。五月十一日、イスラ
エル版ノーベル賞と呼ばれるウォルフ賞を数学部門で受ける。
 「晴れがましいことは得意でないので」と本当に困った表情をみせる。
 「優秀な生徒ではなく、大学にも残してもらえなかった。ただ数学が天職みたいなもの
で、それをしていれば満足だった」。学者としてのデビューは二十九歳。「貧しい夜学の教
師だったんですよ。親を早くに亡くし、大学に通いながら弟たちの面倒をみなければいけ
ない。研究との両立がつらくなり、大学で採用してもらえるかと思って考えたのが超関数
です」
 恩師の弥永昌吉東京大名誉教授の紹介で同大助手になり、大阪大などを経て京都大数理
解析研究所へ。優秀な若手が集まり「佐藤スクール」を形成。変化に関する数学である解
析学に代数学の方法を持ち込む代数解析の研究が爆発的に進んだ。
 「私は超関数の後はサボって、好きなことしかやらないでいた。若い人が押しかけ女房
のようにして来てくれたので、研究が中途半端にならずにすんだ。ありがたいことだと思
っています」。東京都出身。七十五歳。