水銀と銀…名は似ていても実体は違う

このエントリーをはてなブックマークに追加
1名も無きマテリアルさん:02/09/16 18:54
 みなさんもご存知のとおり、「水銀」なる元素名の原義は「水のような銀」、すなわち「液体の銀」である。また、この水銀をラテン語では「hydrargyrum」と呼び、これを直訳するとやはり「水銀」となる。
さらに、英語ではこの水銀は「quicksilver」と呼ばれており、この原義は「動きやすい銀」であり、これは「液体の銀」なる意味に解釈することができる。
 しかし、「銀」は「金」や「銅」と同族元素であり、一方先述のとおり水銀は亜鉛と同族元素であり、したがって決して水銀と銀は同族元素ではないのである。
しかも、周期表において水銀の横に並んでいる元素は金であり、したがって周期表で水銀は銀の斜下に並んでいるのである。
 以上のことから、周期表において水銀は銀とは縦のつながりも横のつながりもないことがわかる。
それにもかかわらず、大昔から東洋でも西洋でも誤って水銀は銀の仲間であると考えられてきた理由は、
言うまでもなく銀と水銀はその色、密度(銀の密度は10.50g/cm^3、水銀の密度は13.59g/cm^3)、イオン化傾向(水銀は銀よりもイオン化傾向がわずかに大きいだけである)などが互いによく似ているためである。
 これよりもっと大きい理由は、言うまでもなく銀は金、鉛や錫と並んで古くから知られていたためである。
したがって、それよりも新しく発見された金属である水銀や亜鉛はそれに似ていると考えられていた既知の金属の名称をもとに命名するしか方法がないのである。
このときもちろん当時の人々には新しく発見された金属に似ていると考えられていた既知の金属が互いにそれらの同族元素であるかどうかは知る由がなかったのである。
つまり、知られている元素が互いに同族元素であるかどうかは化学が進歩してはじめて明らかになることである。
 なお、もちろん「水銀」なる金属が発見されたときにはすでに銀を火であぶると液体になることは知られていた。
したがって、水銀はそれが発見されたときから銀とは別の物質であることがわかっていたのである。
それにもかかわらずこの新物質を「水銀(hydrargyrum、quicksilver)」と命名したことには唖然とさせられる。
この原因は、言うまでもなくわれわれ人類のものの考え方が必ずしも合理的ではないためである。