朝日新聞 8月21日 12版N 10面
ポリティカにっぽん ノーマさんが語る日本の8月
早野 透 (本社コラムニスト)
[email protected] 13日午後、小泉純一郎首相が急に靖国神社を参拝するという報を聞いて、おっとり刀で
駆けつけてみた。空を何機もの取材用のヘリコプターが舞っていた。
境内にはもう多くの人が集まって、拝殿前は押すな押すなの騒ぎだった。「押さないで
下さい」と警備の人が何度も必死に叫んでいた。
「初めてここに来たんよ」という声で振り返ると、茶髪でジーンズの若い女性たちの
会話である。中高年の人々に交じって、どこで聞きつけたのか、部活帰りの制服の女子高生が
あちこちに。「純ちゃーん」とカメラをかざす。どこかで見た風景だなと思い巡らすと、
そうだ、参院選での首相の街頭演説がこれと同じだった。
しかし、人々から小泉さんが見えるのは、車の乗り降りのわずかなときだけだ。日の丸の
小旗が振られ万歳の声があがった。大部分の人に小泉さんは見えなかった。小泉さんが去ると、
係員が「日の丸を返してくださーい」とせっせと回収していた。
「われわれは15日の参拝を求めている。中国の圧力に国を売るな」などと大スピーカーで
小泉批判をする一段もある。けげんな顔で通り過ぎた若者はケータイを出し「かき氷食べに
行こうよ」などとだれかと話していた。「熟慮」の13日参拝の現場は、ひどくちぐはぐだった。