やっちゃた!今日の朝日のドキュン記事 その3

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618文責:名無しさん
テロ報復か「文明間の対話」か

 ニューヨークの世界貿易センタービルに2機のハイジャック機が突っ込んだ
テレビの映像は、特撮に似て現実とは思えないものだった。
 惨劇を実感したのは倒壊したビルのがれきの山に入りこんで映した映像が届
いてからだった。曲がった鉄骨、砕けたコンクリート。この下に埋もれて50
00人近くが行方不明のままとは……。
 1945年5月、戦火がやんだベルリンもすさまじいがれきの山だった。
敗れた男たちは戦場から帰らず、女たちが素手でがれきを片づけた。彼女た
ちには「がれき女」のあだ名がついた。「万里の長城を築ける」というほ
どの大量のがれきだった。
 アメリカ中枢をねらった同時多発テロをブッシュ大統領が「これは戦争だ」
と表現したのもわかる。かくも多くの人々の命が失われ、積み上げた生活はが
れきになる。残された家族の悲しみ。「戦争」に比すべきテロの犯人追及と
処罰は、アメリカのみならず国際社会の威信をかけたものになるだろう。
 だが、「戦争だ」との認識から「報復攻撃だ」ということになると、や
はりそこには幾つもの問題が生ずることになる。アメリカ政府が認めるよ
うに、イスラム系のテロ集団5000人と言っても、山中の穴ぐらにこもり、
ひき逃げ犯人のように街の中に隠れて居場所がわからない。相手は国家で
はなく、複数の国家を「港」にして潜んでいる「潜水艦」なのである。
 「巡航ミサイルを命中させて煙があがるといった戦争ではない。アフガ
ニスタンは一人あたりGDPが800ドルでワシントン−ロスの航空運賃に
すぎない。そこに巡航ミサイルの標的はない」とラムズフェルド国防長官が
述べるのを聞けば、テロリズム根絶をめざす「非対称」な戦争は何年もの持
久戦になることを覚悟せざるをえまい。
 しかし、仮にその戦争に勝てたとして、そもそもテロリズムの根底にある
アメリカへの憎悪は消えるのか。日々、テロのちまたにあるパレスチナでの
アラブ人とユダヤ人の対立はなくなるのか。イスラム過激派のテロは、むろ
んアメリカのイスラエル擁護への抵抗も要因である。
 さかのぼれば20世紀初頭、パレスチナではアラブ人とユダヤ人は共存し
て暮らしていた。だが、ヒトラーのユダヤ人迫害などで欧州から続々と父祖
の地パレスチナにユダヤ人が帰ってきて第2次大戦後にイスラエルを建国、
アラブ人は砂漠の流浪の民となる。中東にせよバルカンにせよ、地上に安穏
を見いだせない難民の貧困と絶望から国際テロリズムは生まれた。
 「信仰厚き者は、死とともにあの世の素晴らしい生活に旅立つ」というイ
スラムの殉教の思想がテロリズムのもうひとつの精神的背景になってもいる。
イラン・イラク戦争のあとテヘランを訪ねて、戦死の少年兵が殉教者とたた
えられた墓地で、自分の息子の墓標の前で泣いていた母親の姿を見たことが
ある。いったい戦争によって、テロと報復のスパイラルを最終解決できるの
かどうか。
 私も政治記者だから、力によって邪悪を圧伏するほかない場合があることを
否定しない。だがもうひとつ、この地球に生きる人々の和解のためには、イラ
ンのハタミ大統領の唱える「文明間の対話」に希望を託したい。
 00年9月5日、ニューヨークの国連本部でユネスコの松浦晃一郎事務局長
の司会のもと、「文明間の対話」準備の首脳会議が開かれた。そこでハタミ氏
は「対話は容易なことではないけれど」と言いながらこう演説した。
 「経済指標や破壊的な武器が支配する世界ではなく、道徳、謙虚さ、そして
愛が支配する世界で生存していくという希望を実現したい」
 アメリカはユネスコから15年前に脱退、イランとの国交も途絶えているけれ
ど、アナン国連事務総長の仲介によって、当時のオルブライト国務長官もこの会
議に参加した。「出席できてうれしい。(ハタミ氏のいる)奥の方に入ってはい
けないようなので入り口の近くにいます」とオルブライト氏は松浦氏に笑顔で語
りかけ、ハタミ氏の演説にじっと耳を傾けた。