産経抄 11月7日
「シェア」という言葉を、小紙のデータベースで検索してみると、過去1カ
月だけで20件近くも見つかった。「今後はシェア争いが激しくなる」とい
う具合に、ほとんどが商品の市場占有率の意味で使われている。
▼もっともシェアの本義は、「分かち合い」あるいは「共有」だ。消費社会
研究家の三浦展(あつし)さんは、その本来の意味で、今は「シェア」の
時代になったという(『これからの日本のために「シェア」の話をしよう』N
HK出版)。
▼1980年代までは、所有を拡大することで人々は喜びを見いだし、90
年代では、自分らしさが追求された。それに対し、みんなで何をするか、
何に共感するかが重視される。確かに若い人を中心に自動車や住居
をシェアする動きが、少しずつ広がっている。
▼東日本大震災発生後、「絆」という言葉が盛んに使われた。「シェア」
の言い換えといっていい。避難所で人々は、食料品や寝具を分け合っ
てしのいだ。全国から多くのボランティアが、自分の時間を持ち寄って、
復旧の手助けをした。現地に出かけられない人も節電には協力した。
▼残念ながら、そんな機運がしぼみつつある。4月の段階では、宮城、
岩手両県のがれきの受け入れを、572市町村が表明していたというの
に、現在はすでに処理を始めている東京都を含めて、6カ所にとどまっ
ている。
▼放射線量が検出されていないにもかかわらず、プロ市民の「何でも
反対」を含めて、苦情の声が根強いのが最大の理由だ。一度挙げた
手を下ろした首長たちは、なぜ石原慎太郎都知事のように、「黙れ」と
一喝できないのか。「分かち合い」の精神より、反対意見の「占有率」の
方が気になるらしい。