ジンタ(市中を練り歩く明治時代の吹奏楽)やチンドンといった日本の音
楽を、世界の民衆音楽と融合させる独特の活動で知られるクラリネット奏
者・大熊ワタルらを中心にしたバンド、ジンタらムータのライブを観た
(九日、東京・杉並の高田寺中央公園)。大熊とチンドン太鼓のこぐれみ
わぞうを中心に、渋さ知らズや元ソウル・フラワー・ユニオンのメンバー
らからなるバンド。サックス、テューバ、ドラムにギター、ベース、パー
カッションと10人余りの大所帯だ。ライブと言っても、公園の片隅で20分
ほどの演奏。この日、公園から出発する反原発大規模デモの、幕開けライ
ブなのだ。使われている発電機の燃料も、食用油の廃油だという。始まり
は、1970年代にチリ軍事政権に虐殺された反体制シンガー・ソングラ
イター、ビクトル・ハラの「平和に生きる権利」。チンドンの雑然とした
リズムが、哀愁のある旋律とぶつかりあう。混沌としたサウンドに、「平
和に暮らし生きる願いを/フクシマの空から/東京の街から/取り戻すま
で歌うよ」という歌詞が乗り、公園に響き渡る。政治団体とも労働組合と
も無縁に、思い思いのプラカードやコスチュームで集まった若者たちとサ
ウンドが、あっという間に手を結んでいく。静かに始まり、やがてチンド
ンにのみ込まれるシューマンの「流浪の民」、大熊のクラリネットが歌
う=uウィ・シャル・オーバーカム」と、これから練り歩く大群衆に路上
の音を伝授。デモ隊は最終的に1万5千人に膨れあがった(主催者発表)。
住宅街を揺らした風変わりな「ライブ」は、若者らを不慣れなデモに誘っ
た、悲しみや不安や怒りといった不穏な感情に熱を送り、空に放った。