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文責・名無しさん:
2010/05/27(木)の朝日新聞夕刊東京版12面より
『窓』 論説委員室から 「パルチザンの青春」
金東日(キムドンイル)さん(78)は、東京・江戸川で弁当屋を営む小さな朝鮮人のおばあさんだ。
ほおにシワ一つなかった娘時代、動乱が続いた故郷の山中でパルチザン闘争に明け暮れたこと
など、評判のキムチを買いに来る人は、知らない。
今の韓国・済州島生まれ。解放後の1948年、南北分断固定化に反対する人々が同島で蜂起した
「4・3事件」に巻きこまれ、漢拏山(ハルラサン)にこもった武装部隊の側に加わった。レポ役として
秘密の通信文を髪留めに挟み、ススキ野原を走り抜けた。多くの仲間が殺された。
逮捕され本土で投獄された後、今度は50年に朝鮮戦争が勃発。北による統一を目指す南朝鮮労
働党の活動に、再び身を投じた。半島南部の智異山(チリサン)を拠点に、山里に降りては食料を
接収し、討伐軍が迫れば村に火を放って逃げた。
やがて戦線は38度線で膠着。パルチザンは平壌からも見放され、孤立し、敗走した。今年60周年
を迎える朝鮮戦争は、そんな無残な闘いでもあったのだ。
反共主義の韓国で彼女の経歴は生きづらく、密航船で日本へ。商売の失敗を繰り返した夫は、
15年前に先立った。
同族が憎しみあうのは悲しい。記憶は冷蔵庫にしまい込んできた。でも、あの青春をダイヤモンドと
思わんかったら、人生の苦労、耐えられませんでした――。
朝鮮半島は再びきな臭い。済州島の歴史家金昌厚(キムチャンフ)さんが彼女の歳月を聞き記した本
「漢拏山へひまわりを」が、新幹社から刊行された。<石橋英昭>